(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-07
(45)【発行日】2024-05-15
(54)【発明の名称】揮発性が向上した高粘度指数の鉱油系潤滑基油及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C10M 101/02 20060101AFI20240508BHJP
C10G 45/58 20060101ALI20240508BHJP
C10N 20/00 20060101ALN20240508BHJP
C10N 40/25 20060101ALN20240508BHJP
【FI】
C10M101/02
C10G45/58
C10N20:00 A
C10N20:00 Z
C10N40:25
(21)【出願番号】P 2020016780
(22)【出願日】2020-02-04
【審査請求日】2022-09-02
(31)【優先権主張番号】10-2019-0029268
(32)【優先日】2019-03-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】507268341
【氏名又は名称】エスケー イノベーション カンパニー リミテッド
(73)【特許権者】
【識別番号】509349451
【氏名又は名称】エスケー エンムーブ カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】弁理士法人アルガ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】キム・ハック ムック
(72)【発明者】
【氏名】ジョン・カン ミン
(72)【発明者】
【氏名】ノ・キュウン ショック
(72)【発明者】
【氏名】チョ・ヨン レ
【審査官】林 建二
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-274237(JP,A)
【文献】特開2008-013681(JP,A)
【文献】特開2007-246659(JP,A)
【文献】特開2008-274236(JP,A)
【文献】特開2010-280824(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10M 101/00-177/00
C10N
C10G 1/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉱油系潤滑基油を製造する方法であって、
未転換油を提供するステップと、
前記未転換油を減圧蒸留して410~430℃のD5重量%及び450~470℃のD95重量%を有する蒸留留分を分離する減圧蒸留ステップと、
ここで前記減圧蒸留によって分離された蒸留留分が145~160の粘度指数、50ppm以下の硫黄、及び30ppm以下の窒素を有し、
前記減圧蒸留によって分離された蒸留留分を触媒脱蝋して、85~92重量%のパラフィン系炭化水素、及び8~15重量%のナフテン系炭化水素を含
み、10~12重量%のNoack揮発性、及び132~142の粘度指数を有する、鉱油系潤滑基油を得る触媒脱蝋ステップとを含み、
前記鉱油系潤滑基油中の炭素数が25~32である炭化水素の含有量は、鉱油系潤滑基油全体に対して85重量%以上であることを特徴とする、鉱油系潤滑基油を製造する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、揮発性が向上した高粘度指数の鉱油系潤滑基油及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
潤滑基油とは、潤滑油製品の原料となるものであって、一般的に、優れた潤滑基油は、高粘度指数を有し、安定性(酸化、熱、UVなどに対して)に優れるうえ、揮発性が少ないという特性を有する。米国石油協会API(American Petroleum Institute)は、潤滑基油を品質によって下記表1のとおりに分類している。
【0003】
【0004】
一般に、鉱油系潤滑基油のうち、溶剤抽出法によって製造された潤滑基油は主にGroup Iに該当し、水添改質法で製造された潤滑基油は主にGroup IIに該当し、高度の水素化分解反応によって製造された粘度指数の高い潤滑基油は主にGroup IIIに該当する。潤滑油(lubricant)は、潤滑基油(base oil)と添加剤から構成される。全世界的に燃費規制に対応するために、高性能(例えば、燃費向上及び長寿命)の潤滑油に対する需要が増加している。高性能潤滑油の製造のために、一定水準以上の性状及び性能を有する潤滑基油を確保することが不可欠である。揮発性及び低温粘度に優れたポリアルファオレフィン(PAO)基油が高性能潤滑油の製造に主に用いられている。
【0005】
ポリアルファオレフィンは、典型的に、1-オクテン乃至1-ドデセンの範囲であるアルファオレフィンを重合して製造され、1-デセンが好ましい物質である。PAOは、AlCl3、BF3、またはBF3錯体などの触媒の存在下でオレフィン供給物の重合によって製造できる。PAOの製造過程は、例えば、特許文献1、特許文献文献2及び特許文献3に開示されている。
PAOは、性能に優れるものの、価格が高くて潤滑油の生産コストを上昇させる。PAOを代替することができる、揮発性及び粘度指数が改善された鉱油系潤滑基油を、経済的に生産することが求められる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】米国特許第3,382,291号明細書
【文献】米国特許第4,172,855号明細書
【文献】米国特許第3,742,082号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで、本開示の第1観点は、揮発性及び粘度指数が改善された鉱油系潤滑基油を提供することにある。
本開示の第2観点は、第1観点の潤滑基油を含む潤滑油製品を提供することにある。
本開示の第3観点は、第1観点の潤滑基油を製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示の第1観点を達成するための鉱油系潤滑基油は、85~92重量%のパラフィン系炭化水素及び8~15重量%のナフテン系炭化水素を含み、10~12重量%のNoack揮発性及び132~142の粘度指数を有する。
本開示の一実施形態によれば、前記鉱油系潤滑基油は、410~430℃のD5重量%(5重量%まで留出)及び450~470℃のD95重量%(95重量%まで留出)を含む沸点範囲を有する未転換油の蒸留留分に由来する。
本開示の一実施形態によれば、前記鉱油系潤滑基油は、0.815乃至0.835(60/60°F)の比重を有する。
本開示の一実施形態によれば、前記鉱油系潤滑基油は、3.9cSt乃至4.4cStの100℃での動粘度を有する。
本開示の一実施形態によれば、前記鉱油系潤滑基油中の炭素数が25~32である炭化水素の含有量は、鉱油系潤滑基油全体に対して85重量%以上である。
本開示の第2観点を達成するための潤滑油製品は、本開示の第1観点の潤滑基油を10~85重量%含む。
本開示の一実施形態によれば、前記潤滑油製品は、5~25重量%のDIパッケージ(Detergent Inhibitor package)、1~15重量%の粘度調整剤、及び0.1~5重量%の流動点降下剤をさらに含む。
本開示の一実施形態によれば、前記潤滑油製品は、合成基油を含まない。
本開示の一実施形態によれば、前記潤滑油製品は、ポリアルファオレフィン(PAO)またはエステル系基油を含まない。
本開示の第3観点を達成するための潤滑基油を製造する方法は、未転換油を提供するステップと、前記未転換油を減圧蒸留して410~430℃のD5重量%(5重量%まで留出する蒸留点)及び450~470℃のD95重量%(95重量%まで留出する蒸留点)を含む沸点範囲を有する蒸留留分を分離する減圧蒸留ステップと、
前記減圧蒸留によって分離された蒸留留分を触媒脱蝋して85~92重量%のパラフィン系炭化水素、及び8~15重量%のナフテン系炭化水素を含む潤滑基油を得る触媒脱蝋ステップとを含む。
本開示の一実施形態によれば、前記触媒脱蝋ステップは、250~410℃の反応温度、30~200kg/cm2gの反応圧力、0.1~3.0hr-1の空間速度(LHSV)及び150~1000Nm3/m3の供給原料に対する水素の体積比条件の下で行われる。
本開示の一実施形態によれば、前記減圧蒸留によって分離された蒸留留分は、145~160の粘度指数、50ppm以下の硫黄及び30ppm以下の窒素を有する。
【発明の効果】
【0009】
本開示による鉱油系潤滑基油は、PAOを代替することができるほど、向上した揮発性及び高い粘度指数を有する。また、本開示の方法によれば、PAOを代替することができる、向上した揮発性及び高い粘度指数を有する鉱油系潤滑基油を経済的に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本開示の一実施形態による潤滑基油を製造する工程の概略図である。
【
図2】本開示の一実施形態による未転換油を製造する工程の概略図である。
【
図3】減圧蒸留工程から蒸留留分が分離されることを示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
図1は本開示の一つの実施形態に係る潤滑基油の製造工程を示す概略図である。
図1に示すように、本開示の一実施形態による潤滑基油を製造する方法は、未転換油を提供するステップと、前記未転換油を減圧蒸留して、410~430℃のD5重量%(5重量%まで留出)及び450~470℃のD95重量%(95重量%まで留出)を含む沸点範囲を有する蒸留留分を分離する減圧蒸留ステップと、前記減圧蒸留によって分離された蒸留留分を触媒脱蝋して85~92重量%のパラフィン系炭化水素及び8~15重量%のナフテン系炭化水素を含み、10~12重量%のNoack揮発性、132~142の粘度指数、0.815~0.835の比重(60/60°F)、及び3.9cSt~4.4cStの100℃での動粘度を有する潤滑基油を得る触媒脱蝋ステップとを含むことができる。
【0012】
(a)未転換油の提供
本開示で使用されるように、用語「未転換油(UCO)」は、燃料油の製造のための水素化分解工程に供給されたが、軽質燃料留分に転換されていない留分を意味する。
本開示の一実施形態において、145~160、好ましくは147~155、より好ましくは145~153の粘度指数(VI)、0~50ppmw、好ましくは0.1~30ppmw、より好ましくは0.1~10ppmwの硫黄、0~30ppmw、好ましくは0.1~7ppmw、より好ましくは0.1~5ppmwの窒素を有する未転換油が使用できる。
未転換油の粘度指数が145よりも小さい場合には、130以上の高粘度指数を有する潤滑基油の製造が不可能であり、硫黄の含有量が50ppmwより大きく、及び/または窒素の含有量が30ppmwよりも大きい場合には、後続の工程で使用される触媒の寿命を低下させて反応効率の減少を引き起こすおそれがある。
【0013】
図2は本開示の一実施形態による未転換油を製造する工程の概略図である。
一般に、燃料油水素化分解工程(fuel hydrocracker)は、常圧残渣油(AR)を、より具体的には重質炭化水素混合物を減圧蒸留する工程(V1)を介して得られた減圧ガス油(VGO)を水添分解する工程である。燃料油水素化分解工程は、主反応工程である水素化分解反応工程(R2)の触媒を保護するために、まず、減圧ガス油(VGO)に含まれている不純物である硫黄、窒素、酸素などが含有されたヘテロ化合物及び金属成分を除去する前処理工程である水素化処理反応工程(R1)を含む。その次、減圧ガス油は、主反応工程である水素化分解反応工程(R2)を経るが、減圧ガス油中の芳香族化合物やオレフィン化合物などの不飽和炭化水素は、水素が添加されて飽和炭化水素であるナフテン化合物またはパラフィン化合物に転換され、環状飽和炭化水素であるナフテン化合物の一部は、開環して直鎖状炭化水素であるパラフィン化合物に転換されることもある。また、これらの化合物は、より小さい化合物に分解されることもあるが、このような一連の過程を水添分解反応(hydrocracking)と呼び、水添分解反応を介して軽質炭化水素混合物、すなわち軽質燃料留分に転換される。
【0014】
前記2ステップの反応工程を経たオイル及び水素は、分離器を経て水素を除去して再循環させ、第1分別蒸留工程(Fs1)を介して、転換された各種軽質燃料留分及びガスを分離して製品化する。このとき、重質留分である減圧ガスオイルが軽質燃料留分に転換される転換率は、一般に、パスあたりの反応コンバーション率(reactor per pass)であって、50~90%程度に設計される。パスあたりの転換率を100%として運転することは現実的に不可能なので、最後の分別蒸留ステップでは、常に未転換油(unconverted oil、UCO)が生成される。未転換油は、そのままタンクへ移送する一方向モード(oncethrough mode)、または水素化分解反応工程に再循環させて総括コンバーション率を高めるためのリサイクルモード(recycle mode)によって処理される。このとき、水素化処理及び水素化分解反応は、典型的に高い温度及び水素分圧の下で、触媒が充填された固定床反応器内で行われる。よって、供給原料である減圧ガス油に含有されたほとんどの芳香族化合物と硫黄、窒素、酸素元素を含むヘテロ環化合物が水素によって飽和され、結果的に芳香族及び硫黄、窒素、酸素化合物の含有量が非常に少なくなる。水添分解反応過程で軽質燃料留分に転換されていない未転換油は、潤滑基油に好ましくない成分である芳香族及びヘテロ化合物が少ないのはもとより、潤滑基油として適した粘度を有する留分であるため、このような未転換油に適した流動性及び安定性を与えると、品質に優れた潤滑基油を製造することができる。このような未転換油の代表的な性状は、下記表2に示す。
【0015】
【0016】
未転換油を製造する工程は、韓国公開特許第1994-0026185号及び韓国特許第0877004号に開示されており、これらの全体内容は、参照として本明細書に含まれる。
【0017】
(b)減圧蒸留
未転換油は、意図する揮発性及び粘度特性を有する潤滑基油製造用蒸留留分(distillate)を得るために、減圧蒸留分離器(VDU)を経る。未転換油は、減圧蒸留分離器で一つ以上の蒸留留分に分離される。
【0018】
本開示の一実施形態によれば、減圧蒸留ステップは、290~350℃の塔底温度、60~100mmHgの塔底圧力、60~90℃の塔頂温度、及び50~90mmHgの塔頂圧力で行われる。
【0019】
前記減圧蒸留ステップを経て分離された未転換油のうち、D5重量%が410~430℃であり且つD95重量%が450~470℃である、好ましくは、D5重量%が415~430℃であり且つD95重量%が450~465℃である、より好ましくは、D5重量%が415~425℃であり且つD95重量%が455~465℃である狭い沸点範囲を有する蒸留留分は、触媒脱蝋工程に供給される。この狭い範囲から外れた蒸留性状を有する蒸留留分は、水素化分解装置または他のアップグレードユニットへ移送して活用することができる。D5重量%は5重量%の蒸留点に対応し、D95重量%は95重量%の蒸留点に対応し、前記沸点範囲はASTM D1160に準拠して決定できる。
D5重量%が410℃よりも低ければ、基油製品の揮発性が悪化するおそれがあり、D5重量%が430℃よりも高ければ、基油製品の収率が減少するという問題点が発生するおそれがある。そして、D95重量%が450℃よりも低ければ、基油製品の収率が減少し、D95重量%が470℃よりも高ければ、目標とする動粘度を満たすために軽質留分の添加が不可避であって、同様に基油製品の揮発性が悪化するおそれがある。
【0020】
図3は減圧蒸留工程から蒸留留分が分離されることを示す概略図である。減圧蒸留を経て算出された蒸留留分のうち、前記狭い沸点範囲の性状を有する蒸留留分が後続の脱蝋工程に導入され、本開示の目的性状に符合しない留分は、他のアップグレード工程に導入され得る。減圧蒸留からの留分は、連続的に後続の工程に導入できるか、或いは別途のタンクに貯蔵してから使用することもできる。
【0021】
(c)触媒脱蝋
触媒脱蝋反応は、水素化分解残渣油の蝋成分を選択的に異性化させてn-パラフィンをイソパラフィンに転換して低温性状を良くする(低い流動点を確保)。
【0022】
本開示の一実施形態において、触媒脱蝋ステップは、250~410℃の反応温度、30~200kg/cm2gの反応圧力、0.1~3.0hr-1の空間速度(LHSV)及び150~1000Nm3/m3の供給原料に対する水素の体積比条件の下で行われ得る。
ここで使用される触媒は、主に二元機能(Bi-functional)触媒である。二元機能触媒は、水素化/脱水素化反応のための金属活性成分(Metal Site)とカルベニウムイオン(carbenium ion)を用いた骨格異性化反応(skeletal isomerization)のための酸点を有する担体(Acid Site)の二つの活性成分から構成されるが、ゼオライト構造の触媒として、アルミノシリケート担体と、第8族金属及び第6族金属の中から1つ以上選択される金属とから構成されるのが一般的である。
【0023】
本開示で使用可能な脱蝋反応触媒は、分子ふるい(Molecular Sieve)、アルミナ及びシリカ-アルミナから選択される酸点を有する担体と、周期律表の第2族、第6族、第9族及び第10族元素から選択される1つ以上の水素化機能を有する金属とを含み、特に第9族及び第10族(すなわち、VIII族)金属の中ではCo、Ni、Pt、Pdが好ましく、第6族(すなわち、VIB族)金属の中ではMo、Wが好ましい。
【0024】
前記酸点を有する担体の種類としては、分子ふるい(Molecular Sieve)、アルミナ、シリカ-アルミナなどを含み、これらのうちの分子ふるいは、結晶性アルミノシリケート(ゼオライト)、SAPO、ALPOなどをいうものであって、10員酸素環(10-membered Oxygen Ring)を有する中細孔(Medium Pore)分子ふるいとして、SAPO-11、SAPO-41、ZSM-11、ZSM-22、ZSM-23、ZSM-35、ZSM-48などと、12員酸素環を有する大細孔(Large Pore)分子ふるいが使用できる。
【0025】
本開示の一実施形態に係る潤滑基油は、85重量%~92重量%、86重量%~91重量%、87重量%~90重量%、またはこれらの間の全範囲及び下位範囲のパラフィン系炭化水素を含むことができる。また、本開示の一実施形態に係る潤滑基油は、8重量%~15重量%、9重量%~14重量%、10重量%~13重量%、またはこれらの間の全範囲及び下位範囲のナフテン系炭化水素を含むことができる。
【0026】
PAO基油及びGTL基油において、約99重量%がパラフィン系炭化水素であるのに対し、本開示による潤滑基油は、原油に由来した鉱油系潤滑基油であって、85重量%~92重量%のパラフィン系炭化水素を含む。パラフィン系炭化水素の含有量が85重量%よりも小さい場合には、潤滑基油の酸化安定性が相対的に低下するおそれがあり、92重量%よりも大きい場合には、潤滑油製品の製造時に一部の添加剤に対する相溶性が低下するおそれがある。
【0027】
本開示の潤滑基油において、潤滑基油中の炭化水素の種類別含有量は、潤滑基油の性状に有意な影響を与える。より具体的には、パラフィン系炭化水素の場合には、潤滑基油中の含有量が増加するほど潤滑性能が増加し、酸化安定性及び熱安定性が向上し、温度変化による粘度維持能力が向上するが、低温での流れ性は減少する。また、芳香族炭化水素の場合には、潤滑基油中の含有量が増加するほど添加剤との相応性が向上するが、酸化安定性及び熱安定性が低下し、有害性が増加する。また、ナフテン系炭化水素の場合には、潤滑基油中の含有量が増加するほど添加剤との相応性が向上し、低温での流動性が向上するが、酸化安定性及び熱安定性が低下する。一方、本開示において、前記潤滑基油中の炭化水素の種類別含有量は、ASTM D2140に規定された組成分析方法によって測定される。
【0028】
Noack揮発性(Noack volatility)は、高温(例えば、250℃)の条件でオイルの蒸発減量を決定する。Noack揮発性は、ASTM D5800に準拠して決定できる。揮発性が増加すると、オイル消耗が増加することを意味する。従来の鉱油系潤滑基油(例えば、YUBASE 4 plus)は、約13.2重量%のNoack揮発性を有する。潤滑基油のNoack揮発性が12重量%よりも大きい場合には、潤滑基油から製造された潤滑油の蒸発減量が劣って潤滑油の交換周期が短くなる。これに比べ、本開示の一実施形態による潤滑基油は、10~12重量%のNoack揮発性を有することができる。本開示の低いNoack揮発性は、狭い沸点範囲で、炭化水素が分布している蒸留留分から潤滑基油が製造されたことに起因する。
【0029】
粘度指数とは、温度に応じて粘度が変化する程度を示す尺度である。温度変化による粘度変化が少ない場合を、粘度指数が高いと定義する。低温で始動性が良く、高温で油膜が維持されなければならないので、潤滑基油は、粘度指数が高い方が良い。粘度指数は、ASTM D2270に準拠して決定できる。従来の鉱油系潤滑基油(例えば、YUBASE 4 plus)は、約131の粘度指数を有する。これに比べ、本開示の一実施形態による潤滑基油は、132~142、好ましくは134~140、より好ましくは135~139の粘度指数を有することができる。
【0030】
本開示による潤滑基油は、115~120℃、より好ましくは117~119℃のアニリン点を有することができる。アニリン点は、炭化水素が同じ体積のアニリンに完全に溶解する最低温度をいい、炭化水素の溶解性を示す数値である。アニリン点は、韓国工業規格KSM5000試験方法の分類6031に準拠して測定できる。
【0031】
本開示の一実施形態による潤滑基油は、0.815~0.835、好ましくは0.822~0.829、より好ましくは0.824~0.828の比重(60/60°F)を有することができる。比重(60/60°F)は、60°Fでのオイルと60°Fでの同じ体積を有する純水との重量比を意味する。比重は、潤滑基油の性能に直接影響を及ぼすのではないが、同じ分子量基準でパラフィン、ナフテン、芳香族の組成を類推することができる(同じ分子量を基準に、パラフィン<ナフテン<芳香族の順に比重が高い)。
前記比重が0.835よりも大きい場合には、パラフィンの含有量が低いため、熱/酸化安定性が相対的に劣り、前記比重が0.815よりも小さい場合には、パラフィンの含有量が高いため、添加物との相溶性が相対的に劣るおそれがある。前記比重は、ASTM D1298に準拠して決定できる。
【0032】
本開示の一実施形態による潤滑基油は、3.9~4.4cSt、好ましくは3.9~4.3cSt、より好ましくは4.0~4.3cStの100℃での動粘度を有することができる。動粘度は、流体の粘度を前記流体の密度で割った値を意味する。一般に、潤滑基油での粘度は動粘度を指し、測定温度は国際標準化機構(ISO)粘度分類によって40℃、100℃と定めている。前記動粘度は、ASTM D445に準拠して決定できる。
【0033】
本開示の潤滑基油は、3.9cSt~4.4cStの100℃での動粘度を有することができる。よって、本開示による潤滑基油は、エンジンオイル製品に適用されるとき、低粘度のエンジンオイルを製造することができる。
【0034】
本開示の一実施形態によれば、前記潤滑基油中の炭素数が25~32である炭化水素の含有量は、鉱油系潤滑基油全体に対して、85重量%以上100重量%以下、好ましくは86重量%以上99重量%以下、より好ましくは87重量%以上98重量%以下であり得る。前記潤滑基油中の炭素数が25~32である炭化水素分子の含有量が潤滑基油全体に対して85重量%未満である場合、炭素数分布が広くなって揮発性能が悪化したり低温性能が悪化したりすることができる。
【0035】
(d)水素化仕上げ工程
本開示の一実施形態において、前記脱蝋された留分は、選択的に水素化仕上げ工程に導入できる。
水素化仕上げ(Hydrofinishing)工程は、水素化仕上げ触媒の存在下に製品別の要求規格に応じて脱蝋処理された留分のオレフィン及び多環芳香族を除去して安定性を確保し、特に芳香族の含有量及びガス吸湿性などを最終調整するステップである。一般に、150~300℃の温度、30~200kg/cm2の圧力、0.1~3h-1の空間速度(LHSV)、及び流入した留分に対する水素の体積比が300~1500Nm3/m3である条件で行われる。
【0036】
水素化仕上げ工程で使用される触媒は、金属を担体に担持して使用し、前記金属には、水素化機能を有する第6族、第8族、第9族、第10族、第11族元素から選択された一つ以上の金属を含み、好ましくは、Ni-Mo、Co-Mo、Ni-Wの金属硫化物系またはPt、Pdの貴金属を使用する。
【0037】
また、水素化仕上げ工程に使用される触媒の担体としては、表面積が広いシリカ、アルミナ、シリカ-アルミナ、チタニア、ジルコニアまたはゼオライトを使用することができ、好ましくは、アルミナまたはシリカ-アルミナを使用する。担体は、前記金属の分散度を高めて水素化性能を向上させる役割を果たし、生成物のクラッキング(cracking)及びコーキング(coking)を防止するために酸点を制御することが非常に重要である。
【0038】
(e)潤滑油製品
本開示の一実施形態において、前述した潤滑基油を10~85重量%、30~80重量%、50~75重量%、及びこれらの間の全範囲及び下位範囲を含む潤滑油製品が作られる。本開示による潤滑基油の含有量は、潤滑油製品の用途及び目的に応じて多様に調節可能であり、本開示による潤滑基油は、所望の製品仕様に合わせて他の鉱油系潤滑基油製品と適切に配合して使用できる。
【0039】
本開示による一実施形態において、前記潤滑油製品は、合成基油を含有しなくてもよい。例えば、前記潤滑油製品は、PAOまたはエステル系基油を含まない。高価のPAO又はエステル系潤滑基油を用いなくても、本開示による潤滑基油を含有することにより、製品規格を満たす潤滑油製品の製造が可能である。
【0040】
本開示による一実施形態において、前記潤滑油製品は添加剤をさらに含むことができる。前記添加剤は、例えばDIパッケージ、酸化防止剤、防錆剤、清浄分散剤、消泡剤、粘度調整剤、粘度指数向上剤、極圧剤、流動点降下剤、腐食防止剤、または乳化剤などであり得る。ただし、潤滑油製品に一般に添加される添加剤であれば、これに限定されない。
前記潤滑油製品は、例えば、5~25重量%、10~20重量%または15~18重量%のDIパッケージ、1~15重量%、3~13重量%または5~10重量%の粘度調整剤、及び0.1~5重量%、1~4重量%または2~3重量%の流動点降下剤をさらに含むことができる。
前記潤滑油製品は、低揮発性能が要求される分野または環境で使用が可能であり、従来のPAOまたはエステル系潤滑基油で製造された潤滑油製品を代替することが可能である。前記潤滑油製品は、例えば自動車用エンジン油であり得るが、これに限定されない。
【実施例】
【0041】
以下、実施例を挙げて本開示をさらに具体的に説明するが、これらの実施例に本開示の範疇が限定されるものではない。
【0042】
実施例1
148~151の粘度指数(VI)、20ppmw以下の硫黄、約5ppmw以下の窒素を有する未転換油を減圧蒸留して、約4.2cStの動粘度(100℃)、約155の粘度指数、約420℃のD5重量%、及び約450℃のD95重量%を有する蒸留留分を得た。この蒸留留分を触媒脱蝋して本開示による新規の潤滑基油を製造した。触媒脱蝋ステップでは、異性化触媒としてpt/ゼオライトを使用した。反応圧力は、150~160kg/cm2gであり、LHSVの範囲は1.0~2.0hr-1であり、水素とオイルの比率は400~600Nm3/m3の範囲で反応を行った。反応温度は約340~360℃であった。運転時の反応温度は、触媒脱蝋反応留出物の流動点が-15~21℃の範囲に含まれるように調節した。
【0043】
比較例1
従来の鉱油系潤滑基油(YUBASE 4 plus)は、触媒脱蝋の際に蒸留留分として、約390℃のD5重量%及び約470℃のD95重量%を有する蒸留留分を使用した以外は、前記実施例1と同様にして製造される。
新規の潤滑基油及びYUBASE 4 plusを始めとする従来の潤滑基油の性状を表3に示す。
【0044】
【0045】
-Noack揮発性の改善
新規の潤滑基油のNoack揮発性は、類似した粘度等級の潤滑基油の中で最も優れた。特に、新規の潤滑基油は、本発明で限定した沸点範囲よりも広い沸点範囲を有する従来の鉱油系潤滑基油(YUBASE 4 plus)と比較して、ヨーロッパ乗用車用エンジンオイル(0W-16等級)の揮発性規格を満たすことができた(下記実施例4の表6を参照)。
新規の潤滑基油のNoack揮発性値が減少するにつれて、潤滑油消耗量が減少するものと予想され、実際の使用時に揮発した潤滑油により発生する炭化物堆積量が減少するという効果がある。
【0046】
-優れた粘度指数
新規の潤滑基油の粘度指数は130以上であり、類似した粘度等級の潤滑基油の中で最も優れた。潤滑基油の粘度指数が高くなるにつれて、潤滑油への製造時に燃費が向上するという効果がある。
【0047】
-価格競争力の確保
新規の潤滑基油は、鉱油系潤滑基油であって、合成によって製造するPAOと比較して製造コストが低い。
【0048】
-組成の違い
PAO及びGTLは、99重量%以上のパラフィンを含むのに対し、新規の潤滑基油は、鉱油系潤滑基油であって、約87重量%のパラフィン及び約13重量%のナフテンを含む。これにより、本発明に係る新規の潤滑基油のアニリン点は、PAO及びGTLよりも低い118℃を示す。一方、YUBASE 4 plusなどの従来のグループIII+の鉱油系潤滑基油は、本発明の潤滑基油よりも少ない約84重量%のパラフィンを含む。
【0049】
実施例2
実施例1で製造された新規の潤滑基油及びPAOに添加剤をそれぞれ添加して、ヨーロッパ乗用車用エンジンオイル(0W-30等級)を製造し、これらの性状を表4に示す。
【0050】
【0051】
PAOを使用せず、新規の潤滑基油を用いて、当該規格を満たすエンジンオイルの配合式(formulation)の設計が可能であった。
【0052】
実施例3
実施例1で製造された新規の潤滑基油及びPAOに添加剤をそれぞれ添加して、ヨーロッパ乗用ディーゼル車用エンジンオイル(0W-20等級)を製造し、これらの性状を表5に示した。
【0053】
【0054】
PAOを使用せず、新規の潤滑基油を用いて、当該規格を満たすエンジンオイルの配合式(formulation)の設計が可能であった。
【0055】
実施例4
実施例1で製造された新規の潤滑基油及びYubase 4 plus潤滑基油に添加剤をそれぞれ添加してヨーロッパ乗用車用エンジンオイル(0W-16等級)を製造し、これらの性状を表6に示す。
【0056】
【0057】
新規の潤滑基油の適用時に従来の鉱油系潤滑油を適用するのと対比して、Noack揮発性の値が減少することを確認することができた。
【0058】
以上、本開示を具体的な実施形態によって詳細に説明したが、これは本開示を具体的に説明するためのものであり、本開示は、これに限定されず、本開示の技術的思想内で当該分野における通常の知識を有する者によって変形または改良できることが明らかである。
本開示の単純な変形または変更はいずれも、本開示の領域に属するものであり、本開示の具体的な保護範囲は、特許請求の範囲によって明確になるだろう。