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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-07
(45)【発行日】2024-05-15
(54)【発明の名称】樹脂組成物及び樹脂成形体
(51)【国際特許分類】
   C08L 59/00 20060101AFI20240508BHJP
   C08K 3/04 20060101ALI20240508BHJP
   G03G 15/00 20060101ALI20240508BHJP
   G03G 15/08 20060101ALI20240508BHJP
   G03G 21/16 20060101ALI20240508BHJP
   G03G 21/18 20060101ALI20240508BHJP
【FI】
C08L59/00
C08K3/04
G03G15/00 650
G03G15/08 390Z
G03G21/16 147
G03G21/18 157
G03G21/18 167
【請求項の数】 19
(21)【出願番号】P 2020019772
(22)【出願日】2020-02-07
(65)【公開番号】P2021123681
(43)【公開日】2021-08-30
【審査請求日】2023-02-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110870
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 芳広
(74)【代理人】
【識別番号】100096828
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 敬介
(72)【発明者】
【氏名】小嶋 貴博
(72)【発明者】
【氏名】屋根 晃
【審査官】中川 裕文
(56)【参考文献】
【文献】特開昭60-051747(JP,A)
【文献】特開2013-241505(JP,A)
【文献】特開2004-263016(JP,A)
【文献】特開2006-111679(JP,A)
【文献】特開2016-023248(JP,A)
【文献】特開2010-025992(JP,A)
【文献】特開2002-188621(JP,A)
【文献】特開2016-094577(JP,A)
【文献】特開2009-269996(JP,A)
【文献】特開2021-070769(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08K 3/00- 13/08
C08L 1/00-101/14
G03G 13/00
13/045
13/08
13/095
15/00
15/045
15/08
15/095
21/00
21/06- 21/08
21/16- 21/18
H01B 1/00- 1/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリアセタールと、導電性カーボンブラックと、黒鉛と、を含有する樹脂組成物であって、
前記導電性カーボンブラックのフタル酸ジブチル吸油量が150ml/100g以上320ml/100g以下であり、
前記樹脂組成物中の前記ポリアセタールの含有量が、50質量%以上であり、
前記樹脂組成物中の前記導電性カーボンブラックの含有量が、11質量%以上18質量%以下であり、
前記導電性カーボンブラックのJIS K 5101-12-2に規定の固め嵩密度が0.14g/mL以上0.25g/mL以下であることを特徴とする樹脂組成物。
【請求項2】
前記導電性カーボンブラックの含有量が、11質量%以上14質量%以下であることを特徴とする請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項3】
前記導電性カーボンブラックの前記固め嵩密度が0.14g/mL以上0.19g/mL以下であることを特徴とする請求項1または2に記載の樹脂組成物。
【請求項4】
前記黒鉛の含有量が、2質量%以上8質量%以下であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項5】
前記導電性カーボンブラックの凝集体としてのアグリゲート径が0.05μm以上1μm以下であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項6】
前記黒鉛の平均粒径は0.5μm以上100μm以下であることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項7】
前記樹脂組成物が、エポキシ化合物、ポリアミド樹脂、アクリルアミドの重合体、アミド化合物、アミノ置換トリアジン化合物およびその誘導体、尿素およびその誘導体、ヒドラジン誘導体、イミダゾール化合物、およびイミド化合物のうち少なくとも1つをさらに有することを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項8】
ポリアセタールと、導電性カーボンブラックと、黒鉛と、を含有する樹脂成形体であって、
前記導電性カーボンブラックのフタル酸ジブチル吸油量が150ml/100g以上320ml/100g以下であり、
前記樹脂成形体中の前記ポリアセタールの含有量が、50質量%以上であり、
前記樹脂成形体中の前記導電性カーボンブラックの含有量が、11質量%以上18質量%以下であり、
前記導電性カーボンブラックのJIS K 5101-12-2に規定の固め嵩密度が0.14g/mL以上0.25g/mL以下であることを特徴とする樹脂成形体。
【請求項9】
前記導電性カーボンブラックの含有量が、11質量%以上14質量%以下であることを特徴とする請求項8に記載の樹脂成形体。
【請求項10】
前記導電性カーボンブラックの前記固め嵩密度が0.14g/mL以上0.19g/mL以下であることを特徴とする請求項8または9に記載の樹脂成形体。
【請求項11】
前記黒鉛の含有量が、2質量%以上8質量%以下であることを特徴とする請求項8乃至10のいずれか1項に記載の樹脂成形体。
【請求項12】
前記導電性カーボンブラックの凝集体としてのアグリゲート径が0.05μm以上1μm以下であることを特徴とする請求項8乃至11のいずれか1項に記載の樹脂成形体。
【請求項13】
前記黒鉛の平均粒径は0.5μm以上100μm以下であることを特徴とする請求項8乃至12のいずれか1項に記載の樹脂成形体。
【請求項14】
前記樹脂成形体が、エポキシ化合物、ポリアミド樹脂、アクリルアミドの重合体、アミド化合物、アミノ置換トリアジン化合物およびその誘導体、尿素およびその誘導体、ヒドラジン誘導体、イミダゾール化合物、およびイミド化合物のうち少なくとも1つをさらに有することを特徴とする請求項8乃至13のいずれか1項に記載の樹脂成形体。
【請求項15】
請求項8乃至14のいずれか1項に記載の樹脂成形体からなることを特徴とする電気接点部材。
【請求項16】
請求項8乃至14のいずれか1項に記載の樹脂成形体からなることを特徴とする感光体ドラムフランジ。
【請求項17】
請求項8乃至14のいずれか1項に記載の樹脂成形体からなることを特徴とするプロセスカートリッジ部品。
【請求項18】
請求項8乃至14のいずれか1項に記載の樹脂成形体からなることを特徴とする軸受け部材。
【請求項19】
請求項8乃至14のいずれか1項記載の樹脂成形体からなることを特徴とする複写機本体およびトナーカードリッジの機構部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリアセタール樹脂を含有する導電性の樹脂組成物および樹脂成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリアセタール(POM)樹脂はバランスの取れた機械的性質と優れた摺動性を持つ樹脂であり、特に摺動性が優れていることから、歯車をはじめとする各種の精密機構部品や複写機などのOA機器などに広く使用されている。特に近年では様々な用途において部材一体化が要求されており、摺動性以外の特性として導電性を付与するため導電性フィラーを添加して、摺動の際に発生する静電気の除去性能や導電配線としての機能を持った部材へ適用されている。
これらの用途に対応するため、導電性POM樹脂組成物は、安定した導電性能とともに、摺動摩耗安定性に優れることが要求されてきている。
特許文献1にはPOM樹脂にフタル酸ジブチル吸油量が350ml/100g以上の導電性カーボンブラック、黒鉛、低密度ポリエチレン樹脂、脂肪酸と脂肪族アルコールからなるエステル、そしてエポキシ化合物を配合し、熱安定性が向上され高い導電性を持つPOM樹脂が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第5062843号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
導電性カーボンブラックのフタル酸ジブチル吸油量はカーボンの粒子の繋がり(ストラクチャー)に影響を受け、一般には吸油量の大きいカーボンほど少量の配合で高い導電性を持つ樹脂組成物が得られる傾向がある。
特許文献1では、フタル酸ジブチル吸油量が350ml/100g以上の導電性カーボンブラックを用いて少ない導電剤配合量で極めて高い導電レベルを実現している。しかしながら、吸油量の大きいカーボンブラックは一般に嵩密度も低く、混錬による練り込みが困難である。嵩密度の低いカーボンブラックは添加濃度にムラが生じやすく、混錬後に得られるペレット間の導電性にばらつきを生じるため、複写機機構部品などの細い導通部位に用いると、導通規格外となる不良品が発生してしまうことがある。また均一分散も困難になるため、成形体の表面外観が悪化しやすい傾向にある。
そこで本発明は、高い導電性を有しており、ペレット間での導電性ばらつきが少なく、射出成形時の表面外観に優れた樹脂組成物、および樹脂成形体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の樹脂組成物は、
ポリアセタールと、導電性カーボンブラックと、黒鉛と、を含有する樹脂組成物であって、
前記導電性カーボンブラックのフタル酸ジブチル吸油量が150ml/100g以上320ml/100g以下であり、
前記樹脂組成物中の前記ポリアセタールの含有量が、50質量%以上であり、
前記樹脂組成物中の前記導電性カーボンブラックの含有量が、11質量%以上18質量%以下であり、
前記導電性カーボンブラックのJIS K 5101-12-2に規定の固め嵩密度が0.14g/mL以上0.25g/mL以下であることを特徴とする。
また、本発明の樹脂成形体は、
ポリアセタールと、導電性カーボンブラックと、黒鉛と、を含有する樹脂成形体であって、
前記導電性カーボンブラックのフタル酸ジブチル吸油量が150ml/100g以上320ml/100g以下であり、
前記樹脂成形体中の前記ポリアセタールの含有量が、50質量%以上であり、
前記樹脂成形体中の前記導電性カーボンブラックの含有量が、11質量%以上18質量%以下であり、
前記導電性カーボンブラックのJIS K 5101-12-2に規定の固め嵩密度が0.14g/mL以上0.25g/mL以下であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、高い導電性を有しておりペレット間の導電性ばらつきが少なく、射出成形時の表面外観に優れた導電性ポリアセタール樹脂組成物、および樹脂成形体を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、本発明を実施するための形態を詳細に説明する。
【0008】
≪導電性樹脂組成物≫
本発明の樹脂組成物は、ポリアセタールを主成分とする樹脂組成物であり、導電性カーボンブラックと黒鉛を含有する。導電性カーボンブラックと黒鉛を組み合わせることで、高い導電性を有しており、かつ摺動性の高い材料が得られる。以下に、本発明の樹脂組成物の構成成分について述べる。
【0009】
<ポリアセタール>
ポリアセタールとしては、ホルムアルデヒド単量体又はその多量体(トリオキサン等)を単独重合して得られる、実質上オキシメチレン単位のみから成るポリアセタールホモポリマーや、ホルムアルデヒド単量体又はその多量体(トリオキサン等)とエチレンオキシド、プロピレンオキシド、エピクロルヒドリン、1,3-ジオキソラン等のグリコールや環状エーテル類、環状ホルマール類を共重合させて得られたポリアセタールコポリマーを代表例として挙げることができる。好ましくは化学的な安定性からポリアセタールコポリマーを用いることができる。また、コポリマーの種類に応じて、架橋構造やブロック構造を有するポリアセタールコポリマーを用いることが可能であり、ポリアセタールコポリマーの構造的特徴に特に制限はない。
【0010】
ポリマーの末端構造も特に制限はないものの、末端部にオキシメチレン単位の水酸基やアルデヒドが存在している場合、この末端部が熱分解の起点となる可能性がある。オキシメチレン単位の末端に対する化学的な封止処理が施すか、アミン類やアンモニウム化合物等で不安定末端部の分解処理を施し、オキシメチレン単位以外のコポリマー成分が末端となったポリアセタール樹脂を使用することが好ましい。
【0011】
ポリアセタールのメルトフローレート(MFR,JIS-K7210条件で測定)は、190℃において、好ましくは0.5g/10minから100g/10min、より好ましくは1g/10minから50g/10minである。
【0012】
ポリアセタールは、市販のポリアセタールを用いてもよい。具体的には、ポリプラスチック(株)製のジュラコン(登録商標)シリーズ、旭化成(株)製のテナック(商標)シリーズ・テナック(登録商標)-Cシリーズ、三菱エンジニアリングプラスチック(株)のユピタール(登録商標)シリーズなどがある。また、これらのポリアセタール樹脂を混合してもよい。
【0013】
樹脂組成物中のポリアセタールの含有量は、ポリアセタール本来の摺動性、強度を確保する観点から、50質量%以上であり、好ましくは70質量%以上である。尚、本明細書において、樹脂組成物中の含有量とは、樹脂組成物全体を100質量%とした場合の含有量である。
【0014】
<導電性カーボンブラック>
導電性カーボンブラックは、鎖状構造の発達したカーボンブラックである。好ましくは、凝集体としての平均1次粒径(アグリゲート径)が0.05μm以上1μm以下の範囲にあるものが用いられる。
【0015】
導電性カーボンブラックは、フタル酸ジブチル(DBP)吸油量(ASTM D2415-65T)が320ml/100g以下、好ましくは300ml/100g以下であり、より好ましくは250ml/100g以下である。また、導電性を高めるという観点においては150ml/100g以上であることが好ましい。また、JIS K 5101-12-2に規定の固め嵩密度が0.14g/mL以上0.25g/mL以下、好ましくは0.14g/mL以上0.19g/mL以下である。一方で、DBP吸油量が320ml/100g以下かつ固め嵩密度が0.25g/mL以下のカーボンブラックは一次粒径が十分に大きく凝集もゆるいため分散性に優れている。樹脂組成物の成形後の外観から、固め嵩密度は0.19g/mL以下であることがより好ましい。また、固め嵩密度が0.14g/mL以上であると溶融混錬の練り込み時のカーボン粉の飛散が起こりにくく、これらの条件を満たす導電性カーボンブラックを使用した樹脂組成物は、混錬後に得られるペレット間の導電性ばらつきを少なくすることができる。
【0016】
導電性カーボンブラックの樹脂組成物中の含有量は、11質量%以上18質量%以下であり、好ましくは11質量%以上14質量%以下である。導電性カーボンブラックの含有量が11質量%未満であると十分な導電性を満たせず、18質量%を超えると成形加工時の発熱が大きくなるため熱分解も起こりやすくなる。
【0017】
具体的な導電性カーボンブラックとしては、電気化学工業(株)製のデンカブラック(登録商標)(粒状品のDBP吸油量:160ml/100g)、東海カーボン(株)製のシースト(製品名)シリーズ(DBP吸油量:40ml/100gから160ml/100g)、トーカブラック(製品名)シリーズ(DBP吸油量:50ml/100gから170ml/100g)、三菱ケミカル(株)製の三菱カーボンブラック(製品名)シリーズ(DBP吸油量:40ml/100gから180ml/100g)、DBP吸油量が250ml/100gを超えるものとしてはライオン・スペシャリティ・ケミカルズ(株)のライオナイト(製品名)ECシリーズ(DBP吸油量:250ml/100gから300ml/100g)、キャボット・コーポレーションのVulcan(製品名)シリーズなどがある。また、2種以上のカーボンブラックを併用してもよい。
【0018】
<黒鉛>
黒鉛は、人造品ないしは天然品から目的に応じて適宜選択することができる。黒鉛の形状は特に制限されず、例えば鱗片状、塊状、球状、土状等いずれでもかまわないが、より良好な導電性発現の観点から、鱗片状黒鉛であることが好ましい。
【0019】
黒鉛の平均粒径は0.5μm以上100μm以下の範囲が好ましく、より好ましくは20μm以上80μm以下の範囲である。高い導電性と温度変化時の寸法安定性の観点から0.5μm以上が好ましく、取り扱い性と成形体表面性の観点から100μm以下であることが好ましい。
【0020】
黒鉛として具体的には、例えば、日本黒鉛(株)製CP(製品名)シリーズ、F♯(製品名)シリーズ、伊藤黒鉛工業(株)製CNP(製品名)シリーズ、Z(製品名)シリーズ等の鱗片状黒鉛などがある。また、2種類以上の黒鉛を併用してもよい。
【0021】
黒鉛の樹脂組成物中の含有量は、2質量%以上8質量%以下であることが好ましい。黒鉛の含有量が2質量%以上であると、この樹脂組成物を成形体とし摺動させた際に、その摺動前後の導電性の変化を少なくすることができる。また、8質量%以下であると、成形体の摩耗耐久性を十分なものにすることができる。
【0022】
<分解抑制剤>
本発明の樹脂組成物には、必要に応じてポリアセタールの分解を抑制する分解抑制剤を含有してもよい。分解抑制剤を含有する場合、その樹脂組成物中の含有量は0.5質量%以上2.5質量%以下であることが好ましい。
【0023】
分解抑制剤としては、例えば、エポキシ化合物、ポリアミド樹脂、アクリルアミドの重合体、アミド化合物、アミノ置換トリアジン化合物およびその誘導体、尿素およびその誘導体、ヒドラジン誘導体、イミダゾール化合物、イミド化合物等が挙げられる。このうち、エポキシ化合物、特にフェノールノボラック型エポキシ樹脂化合物をより好適に用いることができる。フェノールノボラック型エポキシ樹脂が効果的に作用する機構は明確ではないものの、次のように考えられる。即ち、フェノールの芳香環とsp2混成軌道の導電性炭素原子を有する導電性カーボンブラックや黒鉛の電子的相互作用によって、導電性カーボンブラックや黒鉛にフェノールノボラック型エポキシ樹脂が吸着されている可能性が考えられる。導電性カーボンブラックや黒鉛の表面に存在する活性プロトンを有する有機官能基は、ポリアセタールの分解反応点となりうるが、フェノールノボラック型エポキシ樹脂はこの分解反応点と反応することで、効果的に分解反応を抑制することが期待される。フェノールノボラック型エポキシ樹脂は具体的には、フェノールノボラックやクレゾールノボラックとエピクロルヒドリンとの縮合物であり、エポキシ当量が150以上250以下の範囲にあることが好ましい。
【0024】
また、エポキシ化合物を含有する場合、エポキシ基の開環反応を促進させることと未反応のエポキシ残基を反応させるため、硬化剤、硬化促進剤を含有することが好ましい。これらの硬化剤、硬化促進剤としては、イミダゾール類や2級アミン、3級アミン、モルホリン化合物、ジシアンジアミド、メラミン、尿素およびその誘導体、トリフェニルホスフィン等のリン化合物があるが、特に限定をうけるものではない。また、これらの化合物を単独で添加してもよいし、複数を組み合わせてもよい。
【0025】
<摺動性向上剤>
本発明の樹脂組成物には、必要に応じて摺動性向上剤を含有してもよい。摺動性向上剤を含有する場合、その樹脂組成物中の含有量は、摺動性、熱変形温度、混練時のトルク低減量のバランスと低熱膨張性を確保する目的から、10質量%%以下であることが好ましい。
【0026】
摺動性向上剤としては、例えば、脂肪酸エステル、ポリオレフィン、ポリシロキサン等が挙げられる。これらのうちでも、脂肪酸エステル類は摺動性の改良と樹脂組成物の製造時の混錬トルクの軽減に有効であり、好適に用いることができる。また、ポリエチレン等のポリオレフィンも摺動時の摩耗低減等に効果があり、好適に用いることができる。脂肪酸エステル類として具体的には1価脂肪酸と1価脂肪族アルコールのエステルが好ましい。天然由来で容易に入手可能な1価脂肪酸としてミリスチン酸、ステアリン酸、モンタン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸などがあり、これらと脂肪族アルコールから得られるエステルは好適に用いることができる。特に、ミリスチン酸セチル、ステアリン酸ステアリルは、摺動性、熱変形温度、混練時のトルク低減量といった特性のバランスから、より好ましい。
【0027】
<その他の成分>
本発明の樹脂組成物には、本発明の効果を損なわない範囲で、必要に応じて、その他の成分を含有してもよい。機能性を向上する各種添加剤として、ワックス、各種脂肪酸、脂肪酸アミド、脂肪酸エステル、脂肪酸の金属塩等の滑剤・離型剤、各種帯電防止剤、メラミンやアルカリ金属の水酸化物や炭酸塩などの蟻酸捕捉剤、ポリウレタンエラストマー・ポリエステルエラストマー・ポリスチレンエラストマー等の耐衝撃向上剤、有機リン系化合物等の難燃剤が挙げられる。また、長期安定性を向上する各種添加剤として、ベンゾトリアゾール系化合物やベンゾフェノン系化合物、サリチル酸フェニル化合物等の紫外線吸収剤やヒンダートアミン系光安定剤、ヒンダートフェノール系の酸化防止剤等も挙げられる。これらの成分は合計して樹脂組成物に対し10質量%以下の含有量であることが好ましく、3質量%以下であることがより好ましい。10質量%以下の含有量とすることで、ポリアセタールが有する耐熱性および摺動性を損なわない樹脂組成物を得ることができる。
【0028】
また、本発明の導電性能を損なわない範囲で、低熱膨張率性や剛性等の機能向上を目的として、金属酸化物、金属水酸化物、炭酸塩、硫酸塩、ケイ酸塩化合物、ガラス系充填剤、ケイ酸化合物、金属粉末や金属繊維、炭素繊維、カーボンナノチューブなどの無機成分が含まれていてもよい。金属酸化物としては、アルミナ、酸化亜鉛、酸化チタン、酸化セリウム、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、酸化鉄、酸化錫、酸化アンチモン等が挙げられる。金属水酸化物としては、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム等が挙げられる。炭酸塩としては、塩基性炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸亜鉛、炭酸バリウム、ドーソナイト、ハイドロタルサイト等が挙げられる。硫酸塩としては、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、硫酸マグネシウム、石膏繊維等が挙げられる。ケイ酸塩化合物としては珪酸カルシウム(ウォラストナイト、ゾノトライト等)、タルク、クレー、マイカ、モンモリロナイト、ベントナイト、活性白土、セピオライト、イモゴライト、セリサイト、カオリン、バーミキュライト、スメクタイト等が挙げられる。ガラス系充填剤としては、ガラス繊維、ミルドガラス繊維、ガラスビーズ、ガラスフレーク、ガラスバルーン等が挙げられる。ケイ酸化合物としては、シリカ(ホワイトカーボンなど)、ケイ砂等が挙げられる。金属粉末や金属繊維を構成する主元素としては、鉄、アルミニウム、チタン、銅等が挙げられ、これらの元素と他の元素を複合化したものでもよい。これらの無機成分は、その表面がシランカップリング剤やチタンカップリング剤、有機脂肪酸、アルコール、アミン等の各種表面処理剤、ワックスやシリコーン樹脂等で処理されているものであってもよい。
【0029】
<構成成分の特定>
本発明の樹脂組成物の構成成分については、公知の分離技術および分析技術を組み合わせて知ることができる。その方法や手順は特に制限されないが、一例として、樹脂組成物から有機成分を抽出した溶液を各種クロマトグラフ法等で成分を分離したのちに成分分析を進めることができる。
【0030】
樹脂組成物から有機成分を抽出するには、可溶な溶媒に樹脂組成物を溶解させればよい。予め樹脂組成物を細かく破砕したり溶媒を加熱撹拌したりすることで、抽出に必要とする時間を短縮することができる。使用する溶媒は樹脂組成物を構成する有機成分の性状に応じて任意に選択できるが、ヘキサフルオロプロパノール等の溶媒が好適に用いられる。
【0031】
ここで有機成分を分離した後に残る残渣を乾燥して秤量することで、樹脂組成物中に含まれる無機成分の含有量を知ることができる。樹脂組成物の無機成分の含有量を知る方法としては、他に熱重量分析(TGA)等で樹脂の分解温度以上まで温度を上げて灰分を定量する方法もある。
【0032】
樹脂組成物から有機成分を抽出した溶液は、各種クロマトグラフ等の方法により成分を分離できる。低分子量の添加物の類はガスクロマトグラフ(GC)や高速液相カラムクロマトグラフ(HPLC)法、高分子量の重合体はゲル浸透クロマトグラフ法(GPC)等で分離を行える。特に分子量の大きな架橋重合物やゲルが含まれる場合、液中にミセルが形成されている場合は、遠心分離や半透膜による分離を選択することもできる。分離された有機成分は、核磁気共鳴(NMR)スペクトル測定や赤外吸収(IR)スペクトル測定、ラマンスペクトル測定、マススペクトル測定、元素分析などの公知の分析手法により分析できる。
【0033】
特に導電性カーボンブラック、黒鉛とこれらの表面官能基と化学的に結合した成分については、その他の有機成分を可溶な溶媒に溶解して抽出したのち、遠心分離して得られる残渣から回収することができる。この残渣については適切な化学処理、例えば強酸等による処理で各成分のフラグメントへと分離することが可能で、遠心分離により可溶な成分を分取したのち、中和後に溶媒を除去、洗浄したうえで、公知の分析手法によりその構造を確認することができる。公知の分析手法としては、ガスクロマトグラフ(GC)や高速液相カラムクロマトグラフ(HPLC)法、核磁気共鳴(NMR)スペクトル測定や赤外吸収(IR)スペクトル測定、ラマンスペクトル測定、マススペクトル測定、元素分析などが挙げられる。
【0034】
<樹脂組成物の製造方法>
樹脂組成物の製造方法は特定の方法に限定されるものではなく、熱可塑性樹脂について一般に採用されている混合方法を用いることができる。例えば、タンブラー、V型ブレンダー、バンバリーミキサー、混練ロール、ニーダー、単軸押出機、二軸以上の多軸押出機等の混合機により混合、混練して製造することができる。特に二軸押出機による溶融混錬が生産性に優れている。
【0035】
ポリアセタール、導電性カーボンブラック、黒鉛、および必要に応じて用いられるその他の成分のうち複数の成分を予め予備混合または予備混練してもよいし、同時に混合または混錬してもよい。特に押出機による製造においては、成分ごとに個別のフィーダーを設け押出過程において逐次添加を行った混練を行うこともできる。その他の成分をポリアセタール、導電性カーボンブラック、黒鉛のうちのいずれか1つまたは複数と予備混合する場合、乾式法又は湿式法で処理すればよい。乾式法では、ヘンシェルミキサー、ボールミル等の攪拌機を用いて攪拌する。湿式法では、溶剤に熱可塑性樹脂を加えて攪拌し、混合後に溶剤を乾燥除去する。
【0036】
溶融混練による製造において、混練温度、混練時間及び送出速度は、混練装置の種類や性能、各成分の性状に応じて任意に設定できる。混練温度については通常150℃以上250℃以下、好ましくは160℃以上230℃以下、より好ましくは170℃以上210℃以下である。混練温度が低すぎると導電性カーボンブラックおよび黒鉛の分散が阻害され、温度が高すぎるとポリアセタールの熱分解が問題となり、ホルムアルデヒドの発生や諸物性の低下が発生する可能性がある。
【0037】
≪樹脂成形体≫
本発明の樹脂成形体は、ポリアセタールと、導電性カーボンブラックと、黒鉛と、を含有する樹脂成形体であって、導電性カーボンブラックのフタル酸ジブチル吸油量が320ml/100g以下である。樹脂成形体中のポリアセタールの含有量は、50質量%以上である。樹脂成形体中の導電性カーボンブラックの含有量は、11質量%以上18質量%以下であり、好ましくは11質量%以上14質量%以下である。導電性カーボンブラックのJIS K 5101-12-2に規定の固め嵩密度は0.14g/mL以上0.25g/mL以下であり、好ましくは0.14g/mL以上0.19g/mL以下である。
【0038】
本発明の樹脂成形体は、本発明の樹脂組成物を成形して得ることができる。本発明の樹脂組成物は、押出成形、射出成形、圧縮成形等の一般に用いられている成形方法で容易に成形が可能であり、ブロー成形、真空成形、二色成形、インサート成形等にも適用可能である。樹脂成形体は、OA機器その他の電気電子機器の部品、又は電気電子機器の導電性機能部品として適用される。また、樹脂成形体は、自動車や航空機等の構造部材、建築部材、食品容器等にも適用可能である。即ち、型を用いて樹脂組成物を成形して樹脂成形体を製造する種々の製造方法に適用可能であり、特に高い導電性と摺動性が要求される複写機本体およびトナーカードリッジ用容器の機構部品に好適に用いることができる。特に、細い導通部位を有する部材に用いると、導通規格外となる不良品が発生しにくく、好適である。また、本発明の樹脂成形体および樹脂部材は、導電性と寸法安定性に優れ、電気・電子機器内における電気接点部材、画像形成装置内の感光体ドラムフランジ、プロセスカートリッジ部品、軸受け部材等に好適に用いられる。
【実施例
【0039】
本実施例(比較例も含む)において共通で用いた原材料は以下のとおりである。導電性カーボンブラックの固め嵩密度は、表1に示す通りである。固め嵩密度は、JIS K 5101-12-2に規定の、見掛け密度又は見掛け比容-タンプ法に基づき嵩密度を測定し、固め嵩密度とした。
【0040】
(A)ポリアセタール
ポリプラスチック(株)製「ジュラコン(登録商標)M270CA」(製品名)
【0041】
(B)導電性カーボンブラック
<B-1>ライオン・スペシャリティ・ケミカルズ(株)製「ライオナイトEC200L」(製品名)、(DBP吸油量:260ml/100g)
<B-2>キャボット・コーポレーション製「Vulcan XCmax22」(製品名)、(DBP吸油量:320ml/100g)
<B-3>電気化学工業(株)製「デンカブラック」(登録商標)(粒状品のDBP吸油量:160ml/100g)
<B-4>オリオン・エンジニアド・カーボン社製「PRINTEX XE-2B」(製品名)(DBP吸油量:420ml/100g)
<B-5>ライオン・スペシャリティ・ケミカルズ(株)製「カーボンECP200L」(製品名)に1wt%純水を噴霧塗布し、アズワン(株)製、乾燥パン型造粒機「DPZ-01R」を用い20rpmで1時間造粒したのち、100℃6時間乾燥した粉体(DBP吸油量:260ml/100g)
【0042】
(C)黒鉛
伊藤黒鉛工業(株)製鱗片状黒鉛「Z-25」(製品名)、平均粒径:25μm
【0043】
(D)分解抑制剤
<D-1>DIC(株)製クレゾールノボラック型エポキシ樹脂「EPICLON-695」(製品名)
<D-2>キシダ化学(株)製トリフェニルホスフィン(エポキシ硬化促進剤として使用)
<D-3>キシダ化学(株)製ジシアンジアミド(エポキシ硬化剤として使用)
【0044】
(E)摺動性向上剤
<E-1>日油(株)製「スパームアセチ」(製品名)(主成分:ミリスチン酸セチル)
<E-2>宇部丸善ポリエチレン(株)製「UBEポリエチレンL719」(製品名)
【0045】
≪実施例1乃至6、比較例1乃至3≫
(A)ポリアセタールを予め90℃の温度で3時間乾燥したうえで、組成物中の各成分の質量%が表1の各実施例及び各比較例に示す配合量となるよう(B)成分乃至(E)成分を加え、原材料のブレンド物を作製した。このブレンド物を池貝社製二軸押出機「PCM30」(製品名)、シリンダ温度200℃の条件で溶融混練してストランドを作成し、ペレタイザーにより切断加工することで樹脂組成物のペレットを得た。なお、実施例5,6、比較例1については得られる樹脂組成物の導電性が実施例1と同程度となるよう、(B)導電性カーボンブラックの含有量を調整した。
【0046】
各実施例、比較例について、以下の方法で評価した。結果を表1に示す。
<樹脂組成物の体積抵抗率評価>
ペレット化の切断加工直前のストランドの状態で取り分け、径をノギスで計測した。5cmの長さの範囲をカイセ(株)製ハンディーミリオームテスター「SK-3800」(製品名)で抵抗値を計測し、樹脂組成物の体積抵抗率を算出した。測定は異なるストランドに対して4回行い、体積抵抗率の平均値と標準偏差(σ)を求めた。
【0047】
<流動性の評価、および成形体の表面外観の評価>
得られたペレットを住友重機械工業社製射出成形機「SE-180D」(製品名)によりシリンダ温度200℃、金型温度60℃で射出成形した。流動性の評価にはアルキメデス型スパイラルフロー型(巾幅5mm、厚み2mm)を用いて、樹脂の充填長を比較した。
また、JIS K7152-1で規定される短冊形試験片タイプB1(長さ80mm×幅10mm×厚さ4mm)を作製した。この試験片について表面外観を確認し、カーボンブラックの分散不良ないしは樹脂の熱分解によるミクロボイドが成形表面に観察されるものを「B」、観察されないものを「A」とした。
【0048】
【表1】
【0049】
表1の実施例1と比較例1および2の対比から、本発明の樹脂組成物は抵抗率の偏差が小さくペレット間の導電性ばらつきが抑えられていることがわかる。同時に、高い導電性を有しており良好な成形流動性をもち、カーボンブラックが十分に分散されて表面外観の優れた成形体が得られていることがわかる。比較例3に示す様に、(B)導電性カーボンブラック含有量が10質量%以下の場合、(B)導電性カーボンブラック含有量の減少に対し内部抵抗率の上昇が指数的に大きくなる領域となり、濃度ばらつきの影響が導電性のばらつきに大きく表れるようになった。また、比較例4に示す様に、導電性カーボンブラックの含有量が18wt%を超えた場合、樹脂の熱分解が進行し表面外観が悪化した。
【0050】
なお、本発明は、以上説明した実施形態及び実施例に限定されるものではなく、本発明の技術的思想内で多くの変形が可能である。また、本発明の実施形態及び実施例に記載された効果は、本発明から生じる最も好適な効果を列挙したに過ぎず、本発明による効果は、実施形態及び実施例に記載されたものに限定されない。