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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-07
(45)【発行日】2024-05-15
(54)【発明の名称】定着装置及び画像形成装置
(51)【国際特許分類】
   G03G 15/20 20060101AFI20240508BHJP
   G03G 15/00 20060101ALI20240508BHJP
   H05B 3/00 20060101ALI20240508BHJP
【FI】
G03G15/20 510
G03G15/00 303
H05B3/00 310C
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020026805
(22)【出願日】2020-02-20
(65)【公開番号】P2021131469
(43)【公開日】2021-09-09
【審査請求日】2023-02-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003133
【氏名又は名称】弁理士法人近島国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】衣川 達也
(72)【発明者】
【氏名】田口 祥
(72)【発明者】
【氏名】池上 祥一郎
(72)【発明者】
【氏名】安川 航司
【審査官】飯野 修司
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-049259(JP,A)
【文献】特開2018-097273(JP,A)
【文献】特開2016-024435(JP,A)
【文献】特開2016-158380(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03G 15/20
G03G 15/00
H05B 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒状のフィルムと、ヒータを有し前記フィルムの内面と摺接するニップ部形成ユニットと、前記フィルムを挟んで前記ニップ部形成ユニットと対向し前記フィルムとの間にニップ部を形成する加圧部材と、を有し、前記ニップ部で記録材を挟持して搬送しながら記録材上のトナー像を加熱し記録材に定着させる定着装置において、
前記ヒータは、金属製の基板と、前記基板上に形成された絶縁層と、前記絶縁層上に配置され、交流電源に接続されて通電されることで発熱する発熱体と、を有し、
前記交流電源から供給される交流電圧がピーク値となるときに当該ピーク値とは逆極性の電圧値となる波形の交流電圧を前記基板に印加する電圧印加手段をさらに有する、
ことを特徴とする定着装置。
【請求項2】
前記電圧印加手段が前記基板に印加する交流電圧は、前記交流電源から供給される交流電圧と同周波数であって、前記交流電源から供給される交流電圧とは逆位相である、
ことを特徴とする請求項1に記載の定着装置。
【請求項3】
前記電圧印加手段は、オペアンプを備えた反転増幅器を含み、前記交流電源から供給される交流電圧から前記反転増幅器によって生成した電圧を前記基板に印加する、
ことを特徴とする請求項2に記載の定着装置。
【請求項4】
前記電圧印加手段が前記基板に印加する交流電圧は、前記交流電源から供給される交流電圧とは異なる周波数であって、前記交流電源から供給される交流電圧の周波数の奇数倍の周波数である、
ことを特徴とする請求項1に記載の定着装置。
【請求項5】
前記電圧印加手段は、前記交流電源から供給される交流電圧のゼロクロス信号を基準として前記基板に印加する交流電圧の同期を取る、
ことを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の定着装置。
【請求項6】
筒状のフィルムと、ヒータを有し前記フィルムの内面と摺接するニップ部形成ユニットと、前記フィルムを挟んで前記ニップ部形成ユニットと対向し前記フィルムとの間にニップ部を形成する加圧部材と、を有し、前記ニップ部で記録材を挟持して搬送しながら記録材上のトナー像を加熱し記録材に定着させる定着装置において、
前記ヒータは、金属製の基板と、前記基板上に形成された絶縁層と、前記絶縁層上に配置され、交流電源に接続されて通電されることで発熱する発熱体と、を有し、
前記交流電源の接地側電位に対して一定の直流電圧又は前記接地側電位と等しい電圧を前記基板に印加する電圧印加手段をさらに有し、
前記電圧印加手段は、前記交流電源が前記発熱体に電力を供給する給電回路と前記基板とを接続する部分回路であり、前記基板の電位を前記接地側電位に保持し、
前記給電回路上に設けられ、前記給電回路を開状態と閉状態とに切り替えて前記発熱体の通電を制御するスイッチング素子と、
前記給電回路上において、前記発熱体が前記スイッチング素子に対して前記交流電源の接地側に接続されている状態では前記部分回路を遮断状態とし、前記発熱体が前記スイッチング素子に対して前記交流電源の非接地側に接続されている状態では前記部分回路を導通状態とする遮断手段と、をさらに有する、
ことを特徴とする定着装置。
【請求項7】
回転する像担持体と、
転写電圧を印加されることで、前記像担持体の表面に担持されたトナー像を記録材に転写する転写手段と、
前記転写手段によって記録材に転写されたトナー像を記録材に定着させる請求項1乃至のいずれか1項に記載の定着装置と、
を備えることを特徴とする画像形成装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、記録材に画像を定着させる定着装置及び記録材に画像を形成する画像形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電子写真方式のプリンタや複写機に搭載される熱定着方式の定着装置として、セラミックス製等の基板上に発熱抵抗体を有するヒータと、ヒータに接触しつつ移動する定着フィルムと、定着フィルムを介してヒータに対向する加圧ローラを有するものがある。未定着トナー像を担持する記録材は、定着フィルムと加圧ローラの間のニップ部(定着ニップ部)で挟持搬送されつつ加熱され、これにより記録材上のトナー像は記録材に加熱定着される。
【0003】
ところで、上述した熱定着方式の定着装置においては、高温高湿環境に長時間放置されることで吸湿し電気抵抗が低下した記録材を用いた場合に、以下のような画像不良が発生するおそれがある。トナー像の転写が行われている状態で記録材が定着ニップ部に挟持されると、ヒータを発熱させるために印加される交流電圧が記録材を介して転写ニップ部に伝わり、転写部材に印加されている転写電圧に重畳してしまう。これにより、転写部材から像担持体に向かって流れる転写電流が交流電圧の波形成分によって振れてしまい、転写性にムラが生じ、結果として画像の副走査方向に濃淡ムラの画像不良(以下、ACバンディングと称する)が現れるおそれがある。
【0004】
特許文献1では、転写部材に流れる電流を検知する検知回路を設け、記録材にトナー像を転写している間に検知回路で検知した電流の振れが所定値よりも大きい場合に、ACバンディングが発生したと判断し、転写部材に印加する転写電圧を制御している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2011-215538号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記文献に記載の方法では、定着装置由来の交流電圧以外の要因で転写電流が振れた場合にも転写電圧が変更される可能性があり、転写電圧の制御が画像不良の低減につながらないおそれがあった。
【0007】
そこで、本発明は、転写電圧の制御によらずにACバンディングの発生を抑制可能な定着装置及び画像形成装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様は、筒状のフィルムと、ヒータを有し前記フィルムの内面と摺接するニップ部形成ユニットと、前記フィルムを挟んで前記ニップ部形成ユニットと対向し前記フィルムとの間にニップ部を形成する加圧部材と、を有し、前記ニップ部で記録材を挟持して搬送しながら記録材上のトナー像を加熱し記録材に定着させる定着装置において、前記ヒータは、金属製の基板と、前記基板上に形成された絶縁層と、前記絶縁層上に配置され、交流電源に接続されて通電されることで発熱する発熱体と、を有し、前記交流電源から供給される交流電圧がピーク値となるときに当該ピーク値とは逆極性の電圧値となる波形の交流電圧を前記基板に印加する電圧印加手段をさらに有することを特徴とする定着装置である。
【0009】
本発明の他の一態様は、筒状のフィルムと、ヒータを有し前記フィルムの内面と摺接するニップ部形成ユニットと、前記フィルムを挟んで前記ニップ部形成ユニットと対向し前記フィルムとの間にニップ部を形成する加圧部材と、を有し、前記ニップ部で記録材を挟持して搬送しながら記録材上のトナー像を加熱し記録材に定着させる定着装置において、前記ヒータは、金属製の基板と、前記基板上に形成された絶縁層と、前記絶縁層上に配置され、交流電源に接続されて通電されることで発熱する発熱体と、を有し、前記交流電源の接地側電位に対して一定の直流電圧又は前記接地側電位と等しい電圧を前記基板に印加する電圧印加手段をさらに有し、前記電圧印加手段は、前記交流電源が前記発熱体に電力を供給する給電回路と前記基板とを接続する部分回路であり、前記基板の電位を前記接地側電位に保持し、前記給電回路上に設けられ、前記給電回路を開状態と閉状態とに切り替えて前記発熱体の通電を制御するスイッチング素子と、前記給電回路上において、前記発熱体が前記スイッチング素子に対して前記交流電源の接地側に接続されている状態では前記部分回路を遮断状態とし、前記発熱体が前記スイッチング素子に対して前記交流電源の非接地側に接続されている状態では前記部分回路を導通状態とする遮断手段と、をさらに有する、ことを特徴とする定着装置である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、転写電圧の制御によらずにACバンディングの発生を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施例1に係る画像形成装置の概略構成図。
図2】実施例1に係る定着装置を示す断面図。
図3】実施例1に係る定着装置に用いられるフィルムアセンブリの分解図。
図4】実施例1に係る定着装置の一部を示す正面図。
図5】実施例1に係るヒータの断面図。
図6】実施例1に係るヒータの取り付け構成を表す模式図。
図7】定着装置由来の交流電圧が転写電圧に重畳するメカニズムを説明する模式図。
図8】転写電流におけるAC波形成分を説明するための模式的なグラフ(a)及びその一部を拡大したグラフ(b)。
図9】ACバンディングの発生を説明するための模式的なグラフ。
図10】ACバンディングが発生した際の画像を表す模式図。
図11】商用電源の電源プラグの挿入方向と、トライアックオフ時のヒータ電位との関係を説明するための模式図(a、b)。
図12】実施例1に係るヒータの駆動回路の構成を表す図(a)及び転写ニップ部で記録材に印加される電圧を表すグラフ(b)。
図13】実施例2に係るヒータの駆動回路の構成を表す図。
図14】実施例2に係るヒータの基板に印加される交流電圧の生成過程を表すグラフ(a~e)。
図15】実施例2において転写電圧に重畳される交流電圧の波形を説明するための模式図(a~c)。
図16】実施例3に係るヒータの駆動回路の構成を表す図。
図17】実施例3に係るヒータの駆動回路の構成を表す他の図。
図18】実施例3に係るヒータの基板に印加される交流電圧の波形及びその生成過程を表す模式図(a~i)。
図19】実施例3において、商用電源への回路の接続が図18と反転した場合にヒータの基板に印加される交流電圧の波形及びその生成過程を表す模式図(a~f)。
図20】実施例1~3に係るACバンディングが生じない転写電流の許容範囲(転写画像マージン)のイメージ図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を実施するための例示的な形態について、図面を参照しながら説明する。
【実施例1】
【0013】
(1)画像形成装置
図1は実施例1に係る画像形成装置としての、電子写真技術を用いたレーザビームプリンタ(以下、単にプリンタ100とする)の断面図である。以下、プリンタ100の構成及び動作を簡単に説明する。
【0014】
プリンタ100は、プリント指示を受けると、スキャナユニット3が画像情報に応じたレーザ光Lを、像担持体としての感光体1に出射する。帯電ローラ2によって所定の極性に帯電された感光体1はレーザ光Lによって走査され、これにより感光体1の表面には画像情報に応じた静電潜像が形成される。その後、現像器4が感光体1にトナーを供給し、感光体1に画像情報に応じたトナー像を形成する。感光体1の矢印R1方向への回転により感光体1と、転写手段としての転写ローラ5との間に形成される転写部(転写ニップ部)に到達したトナー像は、カセット6からピックアップローラ7によって給送されてくる記録材Pに転写される。転写ニップ部を通過した感光体1の表面はクリーナ8でクリーニングされる。トナー像t(図2)が転写された記録材Pは、熱定着方式の定着装置9で熱及び圧力を掛けられ定着処理される。
【0015】
その後、記録材Pは排出ローラ10によってトレイ11に排出される。なお、記録材Pとして、普通紙及び厚紙等の紙、プラスチックフィルム、布、コート紙のような表面処理が施されたシート材、封筒やインデックス紙等の特殊形状のシート材等、サイズ及び材質の異なる多様なシートを使用可能である。また、ここでは感光体1から記録材Pにトナー像を直接転写する方式を挙げたが、感光体に形成したトナー像を中間転写ベルト等の中間転写体を介して記録材に転写する方式の画像形成装置に対して以下で説明する技術を適用してもよい。
【0016】
(2)定着装置
定着装置9について説明する。定着装置9はテンションレスタイプのフィルム加熱方式である。即ち、定着装置9は、耐熱性フィルムとして可撓性を有する無端ベルト状(もしくは円筒状)の定着フィルムを用い、定着フィルムの周長の少なくとも一部は常にテンションが掛からない状態とし、定着フィルムが加圧部材の回転駆動力で回転する構成である。
【0017】
以後、本実施例に係るフィルム加熱方式の定着装置9について詳細を説明する。図2は定着装置9の断面図である。図3は定着装置9に用いられるフィルムアセンブリ20の分解斜視図である。図4は定着装置9の一部を示す正面図である。なお、図2及び図4において、矢印Xは定着装置9の長手方向を表し、矢印Zは鉛直方向上方を表し、矢印Yは長手方向及び鉛直方向に垂直な方向を表す。
【0018】
本実施例の定着装置9は、図2図4に示すように筒状の定着フィルム23と、定着フィルム23の内面に接触する加熱体であるヒータ22と、定着フィルム23を介してヒータ22に向けて押圧される加圧部材としての加圧ローラ30とを有する。ヒータ22が定着フィルム23に接触している領域と重なる部分に、定着フィルム23と加圧ローラ30との間のニップ部として定着ニップ部Nfが形成される。ヒータ22は耐熱樹脂の保持部材であるヒータホルダ21に保持されている。ヒータ22及びヒータホルダ21は、定着ニップ部Nfを形成するための本実施例のニップ部形成ユニットとして機能する。ヒータホルダ21は定着フィルム23の回転を案内するガイドの機能も有している。加圧ローラ30はモータから動力を受けて矢印b方向に回転する。加圧ローラ30が回転することによって定着フィルム23が従動して矢印a方向に回転する。
【0019】
ヒータホルダ21は、例えば、PPS(ポリフェニレンサルファイト)や液晶ポリマー等の耐熱性樹脂の成形品である。ヒータ22は、少なくとも金属又は合金を主材とした細長い板状の基板(金属基板)と、通電により発熱する抵抗発熱体(発熱体)と、抵抗発熱体と基板を絶縁する絶縁層と、発熱体を保護するガラスコート層を有している。ヒータ22の詳細については後述する。
【0020】
ヒータ22の定着フィルム23に対する当接面と反対側(図中上側)には、温度検知素子であるサーミスタ25が当接している。サーミスタ25の検知温度に応じて発熱体への通電が制御されることで、定着ニップ部Nfの温度が画像の定着に適した設定温度に維持される。
【0021】
定着フィルム23の厚みは、良好な熱伝導性を確保するため20μm以上100μm以下程度が好ましい。定着フィルム23としては、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)・PFA(テトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル)・PPS等の材質の単層フィルムが好適である。また、定着フィルム23としては、PI(ポリイミド)・PAI(ポリアミドイミド)・PEEK(ポリエーテルエーテルケトン)・PES(ポリエーテルスルホン)等の材質からなる基層の表面に、PTFE・PFA・FEP(テトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル)等を離型層(表層)としてコーティングした複合層フィルムも好適である。さらに、高熱伝導性を有するSUS、Al、Ni、Cu、Zn等の純金属、合金等を基層に用い、離型層に前述のコーティング処理、フッ素樹脂チューブの被覆を行ったものも好適である。
【0022】
本実施例では、定着フィルム23の基層を厚さ60μmのPIとし、離型層には通紙による離型層の摩耗と熱伝導性の両立を考慮して厚み12μmのPFAをコーティングしたものを用いた。
【0023】
加圧部材(加圧回転体)としての加圧ローラ30は、鉄やアルミニウム等の材質の芯金30aと、シリコーンゴム等の材質の弾性層30bと、PFA等の材質の離型層30cと、を有する(図2)。弾性層30bは芯金30aの外周に形成され、離型層30cは弾性層30bの外周に形成されて加圧ローラ30の最表層を構成している。加圧ローラ30の芯金30aの軸方向片側の端部には、駆動ギア33(図3)が取り付けられており、不図示の駆動手段から駆動ギア33を介して回転駆動力を受けることで加圧ローラ30が回転する。
【0024】
図2の断面図を参照して、定着装置の構成について説明する。補強部材24は鉄等の金属からなり、ヒータホルダ21を加圧ローラ30側に押圧する圧力でも大きく変形しないように強度を維持する部材である。ヒータ22は後述の押圧手段によって、ヒータホルダ21と補強部材24を介して加圧ローラ30側に押圧されている。この押圧力により加圧ローラ30と定着フィルム23が密着している領域(圧接領域)が、本実施例における定着ニップ部Nfである。そして、加圧ローラ30の加圧位置(加圧ローラ30に対するヒータ22の押圧力の作用点の位置)と、記録材の搬送方向におけるヒータ22の中央部の位置は略同一としている。
【0025】
次に、図3の斜視図を参照して説明する。ヒータホルダ21は、横断面で略樋型(U字型)形状を有しており、桶型の内側に補強部材24が嵌合する。ヒータホルダ21の加圧ローラ30と対向する側にはヒータ受け溝が設けられており、ヒータ22がヒータ受け溝に嵌ることで所望の位置に位置決めされる。定着フィルム23は上述の部品が組みつけられたヒータホルダ21の外側に周長に余裕を持って外嵌している。定着フィルム23の円筒形状の軸方向(図中で定着フィルム23が挿入される矢印方向)を、定着装置9の「長手方向」と称する。本実施例において、加圧ローラ30、ヒータ22及びヒータホルダ21は、いずれも長手方向に延びる細長い部材である。
【0026】
補強部材24の長手方向両端部は、定着フィルム23の両端から突き出た張り出し部となっており、それぞれフランジ部材26,26が嵌着されている。定着フィルム23、ヒータ22、ヒータホルダ21、補強部材24及びフランジ部材26,26は、全体でフィルムアセンブリ20として組み立てられる。
【0027】
ヒータ22の給電端子も定着フィルム23に対して長手方向一方側に突出しており、該給電端子に給電コネクタ27が嵌合されている。給電コネクタ27がヒータ22の電極部と当接圧をもって接触し、商用電源から供給される電力をヒータ22に供給する給電経路を構成している。
【0028】
ヒータ22の長手方向他方側(給電端子とは反対側)には、ヒータクリップ28が取り付けられている。ヒータクリップ28は、コの字型(U字型)に曲げられた金属板であり、そのバネ性によってヒータ22の端部をヒータホルダ21に対して保持している。
【0029】
次に図4の正面図を参照して説明する。各フランジ部材26は回転走行する定着フィルム23の長手方向への移動を規制し、定着装置稼働中の定着フィルム23の位置を規制するものである。長手方向両側のフランジ部材26,26のつば(定着フィルム端部と摺接する部分)の間の距離は、定着フィルム23の長手方向の長さより長く設定されている。これは、通常使用時に定着フィルム端部にダメージを与えないためである。
【0030】
また、加圧ローラ30の長手方向の長さが定着フィルム23よりも約10mm程度短く構成されている。これは定着フィルム23の端部からはみ出したグリスが加圧ローラ30に付着して、加圧ローラ30が記録材に対するグリップ力を失いスリップが発生することを防止するためである。
【0031】
フィルムアセンブリ20は加圧ローラ30に対向して設けられ、長手方向(図内の左右方向)への移動は規制され、かつ、上下方向に移動可能な状態で、定着装置9の天板側筐体41に支持されている。天板側筐体41には加圧バネ45が圧縮した状態で取り付けられている。加圧バネ45の押圧力は補強部材24の張り出し部が受けており、加圧ローラ30側に補強部材24が押圧されることで、フィルムアセンブリ20全体が加圧ローラ30に押し付けられている。
【0032】
加圧ローラ30の芯金を軸支するように軸受部材31が設けられている(図3も参照)。軸受部材31はフィルムアセンブリ20からの押圧力を、加圧ローラ30を介して受け止めている。比較的高温になる加圧ローラ30の芯金を回転自在に支持するために、軸受の材質は耐熱性があって、かつ摺動性に優れる材質が用いられる。軸受部材31は定着装置の底側筐体43に取り付けられている。
【0033】
底側筐体43及び天板側筐体41は、フィルムアセンブリ20に対して長手方向両側に設けられて上下に延びるフレーム側板42,42と共に、定着装置9の筐体(枠体)を構成している。
【0034】
(3)ヒータ
次に、本実施例のヒータ22を構成する材料、製造方法等について図5から図7を用いて説明する。
【0035】
図5はヒータ22の断面図である。ヒータ22は、金属製の基板22aと、通電により発熱する発熱抵抗層としての発熱体22cと、発熱体22cと基板22aを絶縁する絶縁層22bと、発熱体を保護するガラスコート層等の保護層22dとを有する。基板22aは、金属又は合金を主材とした細長い板状である。また、製造時の基板22aの反りを低減するために、基板22aの厚さ方向で発熱体22cが設けられた面(第1面)とは反対側の面(第2面)にも絶縁層22e(絶縁層22bを第1の絶縁層としたときの第2の絶縁層)を有している。
【0036】
基板22aに用いられる材料としては、ステンレス、ニッケル、銅、アルミのいずれか、又はそれらを主材とする合金が好適に用いられる。これらのうち、ステンレスが強度、耐熱性、腐食の観点で最も好ましい。ステンレスの種類としては特に限定されず、必要な機械的強度、次項で述べる絶縁層及び発熱体の形成に合わせた線膨張係数、市場における板材の入手のし易さ等を考慮して適宜選べば良い。
【0037】
一例を挙げると、クロム系ステンレス(400系)のマルテンサイト系及びフェライト系がステンレスの中でも線膨張係数が比較的低く、絶縁層及び発熱体の形成がし易く好適に用いられる。
【0038】
基板22aの厚みは、強度や熱容量、放熱性能を考慮して決めれば良い。薄い基板22aは、熱容量が小さいためクイックスタート性(ヒータ22の通電開始から目標温度到達までの時間の短さ)には有利だが、薄すぎると発熱抵抗体の加熱成型時に歪み等の問題が生じ易くなる。逆に厚い基板22aは、発熱抵抗体の加熱成型時の歪みの面では有利であるが、厚すぎると熱容量が大きいためクイックスタートには不利となる。基板22aの好ましい厚みは、量産性やコスト、性能のバランスを考慮した場合0.3mm~2.0mmである。
【0039】
絶縁層22b,22eの材質は特に限定はされないが、実使用上の温度を鑑みて耐熱性のある材料を選択する必要がある。絶縁層22b,22eの材質としてはガラスやPI(ポリイミド)が耐熱性の観点で好ましく、ガラスの場合の具体的粉末材料の選定は、実施形態の特性を損なわない範囲で適宜選択されれば良い。必要に応じて絶縁性を有する熱伝導フィラーなどを混合させても良い。絶縁層22b,22eは同じ材質を用いても、異なる材質を用いても何ら問題はない。厚みに関しても同様に絶縁層22b,22eで同じにしても良いし、必要に応じて変更しても問題ない。
【0040】
一般的に画像形成装置に用いるヒータ22としては絶縁耐圧を1.5KV程度有しておくことが好ましい。そのため発熱体22cと基板22a間で絶縁耐圧性能1.5KVを得るべく、絶縁層22bの膜厚を材料に応じて確保すれば良い。
【0041】
絶縁層22b,22eの成型方法としては特に限定されないが、一例としてはスクリーン印刷法等で平滑に成形することができる。基板22a上にガラスやPI(ポリイミド)の絶縁層を形成する際には、材料間の線膨張係数差により絶縁層にクラックや剥がれが生じないように、基板と絶縁層材料の線膨張係数を適宜調整する必要がある。
【0042】
発熱体22cは、(A)導電成分、(B)ガラス成分、(C)有機結着成分を混合した発熱抵抗体ペーストを絶縁層22b上に印刷した後、焼成したものである。発熱抵抗体ペーストを焼成すると(C)の有機結着成分が焼失し(A)、(B)成分が残るため、導電成分とガラス成分とを含有する発熱体22cが形成される。
【0043】
ここで、(A)の導電成分としては、銀・パラジウム(Ag・Pd)、酸化ルテニウム(RuO)、等の単独もしくは複合で用いられ、0.1[Ω/□]~100[KΩ/□]のシート抵抗値とするのが好適である。また、上記(A)~(C)以外においても実施形態の特性を損なわない程度の微量であれば他の材料を含有していてもよい。
【0044】
図6に示す給電用電極22f及び導電パターン22gは、銀(Ag)、白金(Pt)、金(Au)や銀・白金(Ag・Pt)合金、銀・パラジウム(Ag・Pd)合金を例とする導電成分を主体とする。給電用電極22f及び導電パターン22gは、発熱抵抗体ペーストと同様に(A)導電成分、(B)ガラス成分、(C)有機結着成分を混合したペーストを絶縁層22b上に印刷した後、焼成したものである。給電用電極22fと導電パターン22gは発熱体22cに給電する目的で設けられた導電部であり、抵抗は発熱体22cに対して十分低くしている。
【0045】
ここで、前述の発熱抵抗体ペースト及び給電用電極及び導電パターンペーストは、基板22aの融点より低い温度で軟化溶融する材質を選択し、実使用上の温度を鑑みて耐熱性のある材料を選択する必要がある。
【0046】
図5に示すように、ヒータ22の絶縁層22bの上(絶縁層上)には発熱体22c及び導電パターン22gを覆う保護層22dが設けられている。発熱体22cを基板22aの定着フィルム23と接触する側(図2における下側)に配置した場合は、保護層22dは発熱体22cと定着フィルム23との電気的な絶縁性を確保し、発熱体22cと定着フィルム23との摺動性を確保する保護機能を有する。材質としてはガラスやPI(ポリイミド)が耐熱性の観点で好ましく、必要に応じて絶縁性を有する熱伝導フィラーなどを混合しても良い。
【0047】
本実施例では基板22aとして幅10mm・長さ300mm・厚さ0.5mmのフェライト系ステンレス基板(SUS430:18Crステンレス)を準備した。
【0048】
次に前述のステンレス基板に絶縁層ガラスペーストをスクリーン印刷にて塗工後、180℃の乾燥及び850℃の焼成を経て絶縁層22b,22eを形成した。焼成後の絶縁層22b,22eの厚みはステンレス基板の両面でそれぞれ60μmとした。
【0049】
その後、銀・パラジウム(Ag・Pd)を導電成分とし、その他ガラス成分、有機結着成分を混合した発熱抵抗体ペーストと、銀を導電成分とし、その他ガラス成分、有機結着成分を混合した給電用電極及び導電パターン用のペーストを用意した。各ペーストをステンレス基板にスクリーン印刷にて塗工後、180℃の乾燥及び850℃の焼成を経て、発熱体22c、給電用電極22f及び導電パターン22gを形成した。焼成後の発熱体22cの厚みは15μm、長さは220mm、幅は1.1mmとした。
【0050】
次に、保護層ガラスペーストを準備し、発熱体22c及び導電パターン22g上に保護層ガラスペーストをスクリーン印刷にて塗工後、180℃の乾燥及び850℃の焼成を経て、保護層22dを形成した。焼成後の保護層22dの厚みは60μmとした。
【0051】
(4)ACバンディングが発生するメカニズム
次に、吸湿した電気抵抗の低い記録材Pに対して画像形成を行う際に、記録材Pを介して商用電源65の交流電圧が転写ニップ部における転写電圧Vtに重畳することで発生する画像不良(ACバンディング)について、図7図10を用いて説明する。なお、以下の説明における記録材Pは、ACバンディングが生じる典型的なケースを想定し、高温高湿環境において長時間放置されて吸湿したA4サイズの紙とする。A4サイズの紙の場合、記録材Pの搬送方向に関する長さは、本実施例における転写ニップ部から定着ニップ部までの距離である40mmよりも長い。
【0052】
図7に商用電源65の交流電圧が転写ニップ部Ntにおける転写電圧Vtに重畳すること画像不良が発生するメカニズムを説明する模式図を示す。定着ニップ部Nfに対向するヒータ22には交流電源としての商用電源65から交流電圧が印加される。また、転写ローラ5には転写電源61から転写電圧が印加され、転写ニップ部Ntにおいて転写ローラ5から感光体1に流れる電流を検知回路62によって検知可能である。
【0053】
ACバンディングが発生するタイミングは、吸湿した記録材Pが転写ニップ部Ntにて感光体1からトナー像を転写されている状態で記録材Pが定着ニップ部Nfに挟持されているときである。このとき、商用電源65からヒータ22には交流電圧が印加され、トライアック68によって交流電圧の波形制御が行われる。定着ニップ部Nfに挟持された記録材Pは、定着フィルム23と接触しており、定着ニップ部Nfにおいて定着フィルム23はヒータ22と接触している。
【0054】
図8(a、b)に示すように、記録材Pの電気抵抗が低い場合、ヒータ22に印加された交流電圧は、定着フィルム23と記録材Pを介して転写ニップ部Ntにおける転写電圧Vtを変動させる。これにより、転写ローラ5から感光体1に向かって流れる電流が、商用電源65の交流電圧の波形成分(以下、AC波形成分と称する)によって振れてしまう。なお、図8(a)は、商用電源65の交流電圧が転写ニップ部Ntにおける転写電圧Vtに重畳された際に検知回路62によって検知された電流を説明する模式的なグラフである。図8(b)は、図8(a)におけるAC波形成分によって振れた電流の波形を拡大した模式的なグラフである。
【0055】
図8(a)の時刻T1は、記録材Pが転写ニップ部Ntに突入する時刻であり、時刻T2は記録材Pが定着ニップ部Nfに突入する時間である。時刻T2よりも前の状態においては、記録材Pが転写ニップ部Ntと定着ニップ部Nfの両方によって挟持されていない状態であるため、商用電源65の交流電圧は記録材Pを介して転写電圧に重畳しない。一方で、記録材Pが転写ニップ部Ntと定着ニップ部Nfの両方によって挟持される時刻T2以降に関しては、商用電源65の交流電圧が記録材Pを介して転写電圧に重畳し、AC波形成分によって転写ニップ部Ntにおける電流値が振れる。これにより、図8(b)に示すように、転写ローラ5に流れる電流は商用電源65の電源周波数周期で振れてしまう。
【0056】
図9は、ACバンディングが顕在化する場合について説明するための模式的なグラフである。図10は、ACバンディングの画像の模式図である。
【0057】
図9に示すように、転写電圧Vtを転写電源61から転写ローラ5に印加した際に、商用電源65の交流電圧が転写電圧Vtに重畳すると、転写ローラ5から感光体1に流れる電流はAC波形成分によって振れてしまう。このとき、転写ローラ5から感光体1に流れる電流が商用電源65の電源周波数周期で振れることにより、図9における波形の谷部が、吸湿紙にトナー像を転写する際の電流の適正範囲を下回ってしまう。その結果、商用電源65の電源周波数周期で電流が不足し、図10に示すように、記録材Pが定着ニップ部Nfに突入した以降に感光体1から記録材Pに転写された画像が、商用電源65の電源周波数周期で濃度ムラが発生したACバンディングの画像となる。
【0058】
ところで、ACバンディングの発生しやすさは、商用電源65の電源プラグの挿入方向によって影響を受けることを図11(a、b)を用いて説明する。「電源プラグの挿入方向」とは、プリンタ側の2つの端子と、商用電源側の端子(接地側端子と非接地側端子)との接続関係が反転する2つの向きを指す。
【0059】
図11(a、b)は、商用電源65の電源プラグの挿入方向を変えた場合における、トライアック68をオフにした時のヒータ22と接地電位(GND)との関係を示す。図11(a)の向きで電源プラグを挿入した場合、トライアック68をオフにした場合でもヒータ22と接地電位(GND)の間には商用電源65の電圧Vacが重畳されることになる。そのため、トライアック68のオンオフによらず常にヒータ22には商用電源65の電圧Vac成分が重畳されることになり、発熱体22c全域を通過する電流累積値が大きくなるためACバンディングが顕在化しやすい。
【0060】
一方で図11(b)の向きで電源プラグを挿入した場合、トライアック68をオフにした場合はヒータ22の電位は接地電位(GND)と等電位となる。そのため、発熱体22c全域を通過する電流累積値は図11(a)と比較して小さくなるため、ACバンディングは顕在化しにくくなる。
【0061】
このように、発熱体22cへの給電回路を開状態と閉状態とに切り替えるトライアック68等のスイッチング素子を有する場合、給電回路上の発熱体22cの位置と商用電源65との接続関係によってACバンディングの生じやすさに差がある。回路開状態で発熱体22cが非接地側電位となる図11(a)の構成では、回路開状態で発熱体22cが接地側電位となる図11(b)の構成に比べてACバンディングが生じやすくなる。
【0062】
(5)ヒータの駆動回路
本実施例では、上で説明したACバンディングを低減する方法として、ヒータ22の金属製の基板22aに交流電圧を印加する構成を採用している。即ち、図6に示すように、本実施例ではヒータ22をヒータホルダ21に固定する固定部材としてのヒータクリップ28は、基板22aに電圧を印加する電圧印加部材(電位付与部材)を兼ねている。固定部材であるヒータクリップ28が電圧印加手段を兼ねることにより、比較的簡易な構成で基板22aへの電圧印加(電位付与)を行うことを可能としている。ヒータクリップ28からは束線29が延びており、束線29は後述の電圧印加回路に接続されている。
【0063】
本実施例に係るヒータ22の駆動回路について、図12(a)を用いて説明する。まず商用電源65の電圧を抵抗101及び抵抗102で商用電源65の電圧Vacを絶対値が+Vcc、-Vee以下の電圧V’にして両電源オペアンプ106に入力する。その際、+Vccは不図示のダイオードブリッジなどを用いて生成し、-Veeは不図示の電源出力のDCコンバータなどを用いて生成する。また、抵抗103と抵抗104の値を揃えることにより、V’の位相を反転した電圧を出力するゲイン-1の反転増幅器105を形成している。
【0064】
つまり、オペアンプを有する反転増幅器105は、発熱体22cに入力される交流電圧(Vac)と同周波数で位相が反転した交流電圧(Vb)を生成してヒータ22の基板22aに印加する電圧印加回路を構成している。即ち、発熱体22cに印加される商用電源65の交流電圧(Vac)がピーク値となる時点で、基板22aに印加される交流電圧(Vb)はVacとは反対極性の電圧値となっている。反転増幅器105は、束線29及びヒータクリップ28を介して交流電圧(Vb)をヒータ22の基板22aに印加する本実施例の電圧印加手段として機能する。
【0065】
図12(b)に示すように、反転増幅器105により生成した商用電源65と逆位相の電圧Vbを基板22aに印加することにより、記録材Pを介して転写電圧Vtに重畳されるAC波形成分Vfを小さくすることが可能となる。定着ニップ部Nfにおいて、記録材Pは発熱体22cに印加される電圧Vacだけでなく基板22aに印加される電圧Vbの影響も受けるため、記録材Pを介して転写電圧Vtに重畳されるAC波形成分Vfは、Vbの大きさに応じて小さくなる。
【0066】
本実施例の回路構成によれば、電源プラグが図11(a)の向きで挿入される場合であっても、定着装置由来で転写電圧Vtに重畳されるAC波形成分Vfが小さくなる。即ち、リレー67によりトライアック68をオフにした場合にヒータ22の電位が商用電源65の非接地側の電位(Vac)となる向きで電源プラグが挿入されたとしても、ACバンディングの発生を抑制できる。
【0067】
なお、本実施例では商用電源65と逆位相の電圧を基板22aに印加する手段として、オペアンプを用いた反転増幅器105を用いたが、既知の他の回路で商用電源65と逆位相の交流電圧を生成してもよい。
【0068】
また、本実施例ではヒータ22の駆動回路が商用電源65に直接接続される構成を説明したが、駆動回路が他の交流電源に接続される場合にも本技術は適用可能である。
【実施例2】
【0069】
実施例2に係る定着装置について、図13図15を用いて説明する。図13は実施例2におけるヒータ22の駆動回路構成を表す。図14(a~e)は実施例2におけるヒータ22に印加される交流電圧の生成過程を説明するためのグラフである。ヒータ22の駆動回路の構成を除き、実施例2におけるプリンタ100及び定着装置9は実施例1と同様の構成を採用するため、実施例1と共通の参照符号を付して説明を省略する。
【0070】
実施例1からの主たる相違点は、基板22aに印加する電圧の周波数を商用電源65と異なる周波数としている点である。
【0071】
図13を用いて、図14(a~e)のグラフを参照しつつ本実施例の基板22aに電圧を印加(電位を付与)する電圧印加回路の説明をする。商用電源65に接続されるゼロクロス検知回路205は、商用電源65の電圧V1(図14(a))のゼロクロス点を検知し、矩形波のゼロクロス信号V23(図14(c))をマイコン204に入力する。一方、プリンタの電源スイッチ201がオンされると、フォトカプラ203を経由して電源オン信号V22(図14(b))がマイコン204に入力される。
【0072】
マイコン204は、電源オン信号V22が立ち上がってから次のゼロクロス信号V23の立ち上がりまでの時間t1及び一定の時間t2経過後に三角波起動信号V24(図14(d))を立ち上げる。三角波起動信号V24は、三角波起動回路221に入力されて電源電圧+Vcc3が三角波生成部220に入力され、三角波V25(図14(e))を生成する。
【0073】
以上のように、商用電源の電圧V1の立ち上がりから時間t2経過後に三角波V25が基板22aに印加開始される。マイコン204の同期信号(V22)に基づいて三角波を生成してヒータ22の基板22aに印加する三角波生成部220は、本実施例の電圧印加手段として機能する。
【0074】
図15(a)は商用電源65の電圧V1を表し、図15(b)は基板22aに印加される三角波V25を表し、図15(c)は記録材Pを介して転写電圧Vtに重畳されるAC波形成分Vfを表している。本実施例では時間t2を商用電源65がゼロクロス点から最初にピーク電圧に至るまでの時間とし、かつ三角波V25を商用電源65の3倍の周波数となるように三角波生成部220で設定した。このため、基板22aに印加される三角波V25の波形は、商用電源65から発熱体22cに印加される電圧V1の波形に対して時間t2だけずれたものとなる。
【0075】
このように重畳する波(ここでは三角波)を基準となる周波数(商用電源)の奇数倍の周波数に設定し、かつ時間t2を調整することで、合成波であるAC波形成分Vfの最大振幅(ピークトゥピーク値)を抑制する。言い換えると、商用電源65から供給される交流電圧(V1)がピーク値となる各時点で、基板22aに印加される交流電圧(V25)はV1とは反対極性の電圧値となるように、V25の周波数及び位相が設定されている。これにより、ACバンディングを顕在化しにくくすることができる。
【0076】
なお、本実施例では交流電圧として比較的簡易に生成できる三角波を採用し、また三角歯の周波数を商用電源の周波数の3倍に設定したが、他の波形や周波数を採用してもよい。また、ヒータ22の基板22aに重畳する交流電圧の波形を、例えばコンバータ回路及びインバータ回路によって商用電源から直接生成してもよい。
【実施例3】
【0077】
実施例3に係る定着装置について、図16図17を用いて説明する。図16図17は実施例3におけるヒータ22の駆動回路構成を表す。図18(a~i)及び図19(a~g)は実施例3におけるヒータ22に印加される交流電圧の生成過程を説明するためのグラフである。ヒータ22の駆動回路の構成を除き、実施例3におけるプリンタ100及び定着装置9は実施例1と同様の構成を採用するため、実施例1と共通の参照符号を付して説明を省略する。
【0078】
実施例1からの主たる相違点は、基板22aに印加する電圧を商用電源65の一端の電圧V2としている点である。
【0079】
電圧V2が基板22aに印加されるまでの流れを図16及び図17を用いて説明する。まず、図16に実線で示すように電圧V1が正弦波(非接地側の電位)であり電圧V2が0V(接地側の電位)である場合について、図18の各グラフを参照しながら説明する。
【0080】
電圧V1(図18(f))は、抵抗302、303によって分圧されて電圧V3となり、比較回路308に入力される。比較回路308は、直流電源の電圧304と電圧V3を比較(図18(g))して、電圧V3の方が大きい時にHighとなり、電圧304より電圧V3の方が小さい時にLowとなる電圧V4(図18(h))を出力する。電圧V4はラッチ回路309に入力され、電圧V4が1回Highになるとラッチ回路309はHighを出力し続けて電圧V5(図18(i))を出力する。比較回路308は、既知のコンパレータ等で構成され、ラッチ回路309は既知のトランジスタ等で構成可能である。
【0081】
電圧V5がHighになると、抵抗305を介してトランジスタ306をオンしてリレー307に電流が流れ、商用電源65の接地側と基板22aとが導通する。以上から、電圧V1に正弦波が検知された場合、基板22aに0Vが入力され続ける。言い換えると、基板22aが接地側回路に接続されている状態で一たびヒータ22への電力投入が開始されると、基板22aには商用電源65の接地側電位と等しい電位が定常的に付与される。
【0082】
基板22aと、商用電源65が発熱体22cに通電する給電回路とを接続する部分回路(束線29や図6のヒータクリップ28で構成される、図16で接点29aから基板22aまでの経路)は、本実施例の電圧印加手段(電位付与手段)として機能する。
【0083】
ここで、トライアック68が商用電源65の電圧V1の周期に等しい周期でオンオフされた場合を例に、図18(a~e)のグラフを参照しながら定着ニップ部Nfにおいて記録材Pに印加される電圧を説明する。
【0084】
ここでは電圧V1が非接地側で電圧V2が接地側である場合を考えるため、V1,V2,V7及びヒータ電流Iのグラフは図18(a、b、e)のようになる。また、トライアック68は、図18(e)に示すようにV1の2全波ずつオフオンが繰り返されるものとする。このとき、実施例3の構成の下では、図17に示す長手方向の各位置において記録材Pに印加される電値は図18(c)のP1,P2,P3のようになる。これに対し、実施例3の構成を用いない場合(基板22aに電圧V2を印加しない場合)には、記録材Pに印加される電圧は図18(d)のP11,P21,P31のようになる。ただし、電圧P11,P21,P31の測定位置は、それぞれ電圧P1,P2,P3の測定位置と対応する。
【0085】
図18(c、d)の電圧P1,P2,P3とP11,P21,P31を比較すると、基板22aに0Vを印加することで記録材Pに伝わる電圧を抑制できることが分かる。これは、基板22aの電位が0Vに保持されることから、発熱体22cに印加される電圧V1とは逆極性の電荷が束線29(図16)を介して基板22aに移動することによる。例えば、発熱体22cに正電圧が印加されている時には、束線29を介して基板22aに負の電荷が流れ込む。図17に示すように、ヒータ22から記録材Pへの電圧の印加は、誘電体である保護層22d(及び定着フィルム23)を介して行われており、基板22aに電圧V1とは逆極性の電荷が流れ込むことで記録材Pへの印加電圧を弱める作用が生じる。
【0086】
一方、図16に破線で示すようにヒータ22の駆動回路が商用電源65に対して逆に接続された場合(つまり、比較回路308等が商用電源65の接地側に接続される場合)の挙動を図19に示す。つまり、電圧V1が0V(接地側の電位)となり、電圧V2が正弦波(非接地側の電位)となる場合である。この場合、図19(f)に示すように電圧V1が0Vであることから、比較回路308及びラッチ回路309が働かず、トランジスタ306及びリレー307もオフ状態となる(図19(f)においてV3=V4=V5=0)。
【0087】
トライアック68が商用電源65の電圧V1の周期に等しい周期でオンオフされた場合、V1,V2,V7及びヒータ電流Iのグラフは図19(a、b、c、e)のようになる。この場合、リレー307が常にオフ状態であるから基板22aはフロート状態であり、図19(d)に示すように記録材Pへの電圧印加を相殺する作用は生まれない。しかし、図11(b)を用いて説明したように、トライアック68に対して発熱体22cが商用電源65の接地側と接続されているときはACバンディングが比較的顕在化しにくい。そのため、本実施例の構成でもACバンディングを抑制することができる。
【0088】
つまり、比較回路308からリレー307に至る遮断回路は、発熱体22cがトライアック68に対して商用電源65の接地側に接続されている状態ではリレー307によって基板22aと接点29aを遮断状態(フロート)とする遮断手段として機能する。一方、上述したように発熱体22cがトライアック68に対して商用電源65の非接地側に接続されている状態では、リレー307が常にオン状態(導通状態)となり、基板22aが接地側電位に保持される。
【0089】
なお、基板22aに印加する電圧は商用電源65の接地側電位でなくてもよく、接地側電位そのもの又は接地側電位に対して直流の電位(直流電圧)であればよい。また、電圧を印加する構成は本実施例の回路構成に限定されない。
【0090】
(比較例との比較結果)
実施例1~3の作用について比較例と対比させて説明する。比較例の構成として基板22aに電圧を印加しない構成を挙げる。実施例1~3の作用を検証するために、高温高湿環境で放置した記録材Pを用いてACバンディングの発生有無を確認した。ACバンディングを評価するための印字率パターンはトナーを有効画像領域の全面に塗布するべた黒パターンであり、記録材Pは開封後1週間程度放置した放置紙を用いた。環境は温度32.5℃、湿度80%の高温高湿環境で行ったため、記録材Pの含水率は約8%程度であった。また、記録材PとしてはXerox Vitality(75g/m,LTR)を使用した。また、商用電源65としては240V50Hzを用いて評価を行った。また、転写電圧Vtとしては760Vを用いた。
【0091】
【表1】
【0092】
表1に示すように比較例では放置紙の場合、記録材Pが定着ニップ部Nfに入った位置(紙先端から40mmの位置)から画像後端にかけて電源周波数50Hz周期のACバンディング画像が発生した。これは、ヒータ22を駆動する商用電源65の電圧Vacである240Vがヒータ22、定着フィルム23、記録材Pを介すことで約60Vにまで減衰しながら転写ニップ部Ntの電圧に重畳されるためである。その結果、転写性と相関のある転写ローラからドラムに流れる電流が図20に示すように振動する。比較例の場合、転写ニップ部電圧Vntは商用電源65の影響により、転写電圧(転写電源の設定電圧)Vt=760Vに振幅(ピークトゥピーク電圧)Vpp=約60Vの振幅をもった電圧を重畳させている状態と同じになる。この場合、商用電源65の電圧周期で、転写ニップ部電圧Vntが放置紙で転写不良となる転写電圧720Vを下回るため、電源電圧周期でACバンディングが発生した。
【0093】
実施例1の構成においては、商用電源65の電圧Vacの位相を反転させた電圧を基板22aに印加することで、記録材Pを介して転写電圧Vtに重畳される定着装置9に起因するAC波形成分Vfを60Vから30Vに低減できている。そのため、転写電圧Vt=760VにVpp=約30Vの振幅をもった電圧を重畳させている状態となり、転写ニップ部電圧Vntが転写不良となる転写電圧720Vを下回らないため、ACバンディングが発生しなかった。
【0094】
実施例2の構成においては、比較的簡易に生成できる三角波で商用電源65の周波数の3倍の周波数の交流波形を使用することで、記録材Pを介して転写電圧Vtに重畳される定着装置9に起因するAC波形成分Vfを60Vから30Vに低減できている。そのため、転写電圧Vt=760VにVpp=約30Vの振幅をもった電圧を重畳させている状態となり、転写ニップ部電圧Vntが転写不良となる転写電圧720Vを下回らないため、ACバンディングが発生しなかった。
【0095】
実施例3の構成においては、基板22aに0Vを印加することで記録材Pに伝わる電圧を抑えることが可能となり、記録材Pを介して転写電圧Vtに重畳される定着装置9に起因するAC波形成分Vfを60Vから30Vに低減できている。そのため、転写電圧Vt=760VにVpp=約30Vの振幅をもった電圧を重畳させている状態となり、転写ニップ部電圧Vntが転写不良となる転写電圧720Vを下回らないため、ACバンディングが発生しなかった。
【0096】
以上説明したように本実施例1~3によれば、基板22aに発熱体22cに印加される商用電源65の電圧Vacとは異なる波形の電圧を印加することで、定着ニップ部において記録材Pに印加される電圧のAC波形成分Vfを低減できる。即ち、記録材Pを介して転写電圧Vtに重畳される定着装置9に起因するAC波形成分Vfを低減できるため、ACバンディングの発生を抑制することが可能となる。
【0097】
また、上述した各実施例の定着装置は、ヒータ22がフィルム内面に直接接触しているが、ヒータとフィルム内面との間に、熱伝導性が高いシート状の部材(例えば材質が合金鉄やアルミのシート状の部材)を配置してもよい。つまり、ヒータがシート状の部材を介してフィルムを加熱する構成のニップ部形成ユニットを用いてもよい。
【符号の説明】
【0098】
9…定着装置/21,22…ニップ部形成ユニット(ヒータホルダ、ヒータ)/22a…基板/22b…絶縁層/22c…発熱体/23…フィルム(定着フィルム)/28,29…電圧印加手段(ヒータクリップ、束線)/30…加圧部材(加圧ローラ)/65…交流電源(商用電源)/100…画像形成装置(プリンタ)/105…電圧印加手段(反転増幅器)/220…電圧印加手段(三角波生成部)/302~309…遮断手段(遮断回路)/Nf…ニップ部(定着ニップ部)
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