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特許7483406ヒドロゲルポリマーのマイクロスフェア、それを含んだ組成物、および、ポリマーのマイクロスフェア
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-07
(45)【発行日】2024-05-15
(54)【発明の名称】ヒドロゲルポリマーのマイクロスフェア、それを含んだ組成物、および、ポリマーのマイクロスフェア
(51)【国際特許分類】
   A61K 47/32 20060101AFI20240508BHJP
   A61K 49/04 20060101ALI20240508BHJP
   C08F 8/18 20060101ALI20240508BHJP
   C08F 8/28 20060101ALI20240508BHJP
   A61K 9/06 20060101ALN20240508BHJP
   A61K 31/282 20060101ALN20240508BHJP
   A61K 31/403 20060101ALN20240508BHJP
   A61K 31/44 20060101ALN20240508BHJP
   A61K 31/4745 20060101ALN20240508BHJP
   A61K 31/506 20060101ALN20240508BHJP
   A61K 31/704 20060101ALN20240508BHJP
   A61L 31/04 20060101ALN20240508BHJP
   A61L 31/14 20060101ALN20240508BHJP
   A61L 31/18 20060101ALN20240508BHJP
   A61P 35/00 20060101ALN20240508BHJP
【FI】
A61K47/32
A61K49/04 210
C08F8/18
C08F8/28
A61K9/06
A61K31/282
A61K31/403
A61K31/44
A61K31/4745
A61K31/506
A61K31/704
A61L31/04 110
A61L31/14 300
A61L31/18
A61P35/00
【請求項の数】 23
(21)【出願番号】P 2020031653
(22)【出願日】2020-02-27
(62)【分割の表示】P 2016539623の分割
【原出願日】2014-09-05
(65)【公開番号】P2020109095
(43)【公開日】2020-07-16
【審査請求日】2020-03-27
【審判番号】
【審判請求日】2022-09-15
(31)【優先権主張番号】1315936.3
(32)【優先日】2013-09-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(73)【特許権者】
【識別番号】522368684
【氏名又は名称】ボストン サイエンティフィック メディカル デバイス リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(74)【代理人】
【識別番号】100142907
【弁理士】
【氏名又は名称】本田 淳
(72)【発明者】
【氏名】ホーン,ステファン
(72)【発明者】
【氏名】ルイス,アンドリュー,レナード
(72)【発明者】
【氏名】ウィリス,シーン,レオ
(72)【発明者】
【氏名】ドレハー,マシュー,アール.
(72)【発明者】
【氏名】アーラフィ,コーロッシュ
(72)【発明者】
【氏名】タン,イーチン
【合議体】
【審判長】藤原 浩子
【審判官】岩下 直人
【審判官】渕野 留香
(56)【参考文献】
【文献】特表2003-527402(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K9/00-9/72
A61K47/00-47/69
A61K31/00-33/44
A61L15/00-33/18
A61K49/00-49/22
C08F8/00-8/50
A61P35/00
CAplus/MEDLINE/REGISTRY/EMBASE/BIOSIS/WPIDS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒドロゲルポリマーのマイクロスフェアであって、
ヒドロゲルポリマーは、ポリビニルアルコール(PVA)の主鎖を備え、その主鎖は、架橋可能なエチレン性不飽和官能基を有する少なくとも2つのペンダント鎖を含み、架橋可能なエチレン性不飽和官能基は、ビニルコモノマーによって架橋され、
前記PVAは環状アセタール基を介してヒドロゲルポリマーに結合される放射線不透過性の化学種を備え、放射線不透過性の化学種は1つまたはそれ以上の共有結合性のヨウ素を備え、その共有結合性のヨウ素は、充填体積として生理食塩水中で完全水和したマイクロスフェア1mL当たり15mgを上回る量のヨウ素を前記マイクロスフェアに提供するヒドロゲルポリマーのマイクロスフェア。
【請求項2】
架橋可能なエチレン性不飽和官能基を備える前記ペンダント鎖は、環状アセタール結合を介してPVA主鎖の1、3-ジオールに結合される請求項1に記載のヒドロゲルポリマーのマイクロスフェア。
【請求項3】
記ビニルコモノマーは2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸である請求項1に記載のヒドロゲルポリマーのマイクロスフェア。
【請求項4】
前記エチレン性不飽和官能基はアクリラート基である請求項1に記載のヒドロゲルポリマーのマイクロスフェア。
【請求項5】
前記放射線不透過性の化学種はヨード化フェニル基である請求項1に記載のヒドロゲルポリマーのマイクロスフェア。
【請求項6】
ヒドロゲルポリマーのマイクロスフェアであって、
ヒドロゲルポリマーは、ポリビニルアルコール(PVA)の主鎖を備え、その主鎖は、架橋可能なエチレン性不飽和官能基を有する少なくとも2つのペンダント鎖を含み、架橋可能なエチレン性不飽和官能基は、ビニルコモノマーによって架橋され、
前記PVAは環状アセタール基を介してヒドロゲルポリマーに結合される放射線不透過性の化学種を備え、
そのヒドロゲルポリマーは式Iに従った構造を備え、
【化10】

式I中、Xは式IIIの基であり、
【化11】

式III中、Zは環状アセタールに結合された連結基であるか、あるいは、フェニル基が環状アセタールと結合するように存在せず、
Zが存在する場合に、ZはC1-6アルキレンまたはC1-6アルコキシアルキレンであり、
Halは1つ、2つ、3つ、または4つの共有結合したヨウ素であるヒドロゲルポリマーのマイクロスフェア。
【請求項7】
Zは、(i)メチレンまたはエチレン基であるか、(ii)基-(CH-O-(CH-であり、式中、qは0、1または2であり、pは1または2であり、あるいは、(iii)存在しない、請求項6に記載のヒドロゲルポリマーのマイクロスフェア。
【請求項8】
Zは-CHO-,-(CHO-,-CHOCH-,-(CHO(CH-、であるか、存在しない、請求項6に記載のヒドロゲルポリマーのマイクロスフェア。
【請求項9】
Halは3つまたは4つのヨウ素である請求項6に記載のヒドロゲルポリマーのマイクロスフェア。
【請求項10】
Halは2,3,5もしくは2,4,6-トリヨードまたは2,3,4,6-テトラヨードである請求項6に記載のヒドロゲルポリマーのマイクロスフェア。
【請求項11】
ヒドロゲルポリマーのマイクロスフェアであって、
ヒドロゲルポリマーは、ポリビニルアルコール(PVA)の主鎖を備え、その主鎖は、架橋可能なエチレン性不飽和官能基を有する少なくとも2つのペンダント鎖を含み、架橋可能なエチレン性不飽和官能基は、ビニルコモノマーによって架橋され、
前記PVAは環状アセタール基を介してヒドロゲルポリマーに結合される放射線不透過性の化学種を備え、
そのヒドロゲルポリマーは一般式IaからIe
【化12】

のいずれかに従う構造を備えるヒドロゲルポリマーのマイクロスフェア。
【請求項12】
前記ヒドロゲルポリマーはpH7.4で正味の電荷を有する請求項1に記載のヒドロゲルポリマーのマイクロスフェア。
【請求項13】
前記ヒドロゲルポリマーはpH7.4で正味の負電荷を有する請求項1に記載のヒドロゲルポリマーのマイクロスフェア。
【請求項14】
前記ヒドロゲルポリマーは10~2000μmの平均径の大きさの範囲を有する請求項1に記載のヒドロゲルポリマーのマイクロスフェア。
【請求項15】
請求項1に記載のヒドロゲルポリマーのマイクロスフェアと、治療剤とからなる組成物であって、前記治療剤はヒドロゲル内に静電的に保持される組成物。
【請求項16】
前記治療剤は、カンプトテシン、アントラサイクリン、抗血管新生剤、微小管会合阻害剤、アロマターゼ阻害剤、白金系薬物、および、ヌクレオシド類似体からなるグループから選択される請求項15に記載の組成物。
【請求項17】
前記治療剤は、イリノテカン、トポテカン、ドキソルビシン、ダウノルビシン、イダルビシン、エピルビシン、アキシチニブ、ボルテゾミブ、ボスチニブ、カネルチニブ、ドビチニブ、ダサチニブ、エルロチニブ、ゲフィチニブ、イマチニブ、ラパチニブ、レスタウルチニブ、マスチニブ(masutinib)、ムビチニブ(mubitinib)、パゾパニブ、セマキサニブ、ソラフェニブ、タンデュチニブ、バンデタニブ、バタラニブ、ビスモデギブ、ビンブラスチン、ビノレルビン、ビンクリスチン、アナストラゾール、シスプラチン、オキサリプラチン、カルボプラチン、ミリプラチン、5-FU、シタラビン、フルダラビン、ゲムシタビン、パクリタキセル、ドセタキセル、マイトマイシン、ミトキサントロン、ブレオマイシン、ピンヤンマイシン、アビラテロン、アミホスチン、ブセレリン、デガレリクス、ホリン酸、ゴセレリン、ランレオチド、レナリドマイド、レトロゾール、リュープロレリン、オクトレオチド、タモキシフェン、トリプトレリン、ベンダムスチン、クロラムブシル、ダカルバジン、メルファラン、プロカルバジン、テモゾロミド、ラパマイシン、ゾタロリムス、エベロリムス、ウミロリムス、シロリムス、メトトレキサート、ペメトレキセドおよびラルチトレキセドからなるグループから選択される請求項15に記載の組成物。
【請求項18】
ポリマーのマイクロスフェアであって、
2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸によって架橋された架橋可能なエチレン性不飽和官能基を有する少なくとも2つのペンダント鎖を含み、以下の一般式に従う構造を有するPVAポリマーの主鎖と、
【化13】

イリノテカン、トポテカン、ドキソルビシン、エピルビシン、ソラフェニブ、スニチニブ、バンデタニブ、および、ミリプラチンから選択された治療剤とを含んだポリマーのマイクロスフェア。
【請求項19】
前記ポリマーはヒドロゲルである請求項18に記載のポリマーのマイクロスフェア。
【請求項20】
前記ポリマーはアクリルアミドポリビニルアルコール-コ-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホナートヒドロゲルである請求項18に記載のポリマーのマイクロスフェア。
【請求項21】
前記治療剤はヒドロゲル内に静電的に保持される請求項19に記載のポリマーのマイクロスフェア。
【請求項22】
前記共有結合性のヨウ素は、充填体積として生理食塩水中で完全水和したマイクロスフェア1mL当たり50mgを上回る量のヨウ素を前記マイクロスフェアに提供する請求項1に記載のヒドロゲルポリマーのマイクロスフェア。
【請求項23】
前記共有結合性のヨウ素は、充填体積として生理食塩水中で完全水和したマイクロスフェア1mL当たり100mgを上回る量のヨウ素を前記マイクロスフェアに提供する請求項1に記載のヒドロゲルポリマーのマイクロスフェア。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射線不透過性ポリマーおよびこれを作製する方法に関する。本発明は塞栓処置時に撮像可能な放射線不透過性ヒドロゲル、特に放射線不透過性ヒドロゲルマイクロスフェアを提供する。このマイクロスフェアに薬物をはじめとする治療剤を装填して、撮像可能な薬物送達システムにすることができる。
【背景技術】
【0002】
放射線不透過性は、電磁放射線、特にX線の透過を妨害または減弱する特性を指す。したがって、放射線不透過性物質は、x線像において、またはX線撮像時および蛍光透視下で視認できる。このため、放射線不透過性物質には、放射線学ならびにコンピュータ断層撮影法(CT)および蛍光透視法などの医療撮像技術に多数の用途がある。
【0003】
血管塞栓術(血流を遮断すること)は、血管内に塞栓または閉塞を導入して血流を減少させ腫瘍および奇形を萎縮させる医学的処置であり、腫瘍、類線維腫および血管奇形の治療に重要な処置である。塞栓形成部位への経カテーテル送達を必要とする臨床用途における様々な塞栓物質がある。マイクロスフェア(本明細書では「ビーズ」とも呼ぶ)は、その形状および大きさを制御でき、これまでの粒子状物質よりも使用時に予測しやすいことから、最近、注入用塞栓物質としてのマイクロスフェアの使用が一般的になっている。
【0004】
塞栓処置を撮像することは、臨床医が塞栓物質の正確な位置を監視し、確実に塞栓物質を血管系の的確な位置に投与し留まらせることができるため、処置の転帰が改善され、処置のリスクが抑えられることから、重要である。現時点で撮像が可能なのは、本来放射線不透過性の塞栓物質を使用するか、非放射線不透過性塞栓粒子を放射線不透過性物質と混合する場合に限られる。
【0005】
ヨード化ポリビニルアルコール(I-PVA)は、in vivoで遭遇する水性条件で沈殿する粘稠液形態の放射線不透過性塞栓物質である。しかし、塞栓が形成される正確な位置は一貫性を欠く場合があり、標的外の位置に沈殿が起こるリスクが生じる。
【0006】
しかし、Ethiodol(登録商標)およびIsovue(登録商標)などの造影剤は、注入用組成物を放射線不透過性にするために、塞栓粒子と日常的に混合される。そのような組成物は有用ではあるが、塞栓粒子の水性懸濁液と造影剤とでは物理的特性が異なるため、in vivoでの局在に差が生じる。投与後、視認できるのは塞栓粒子よりも造影剤であり、造影剤と塞栓粒子は組織内で同じ位置に滞留していないかもしれない。
【0007】
したがって、塞栓マイクロスフェアの予測可能性および再現性での有益性と、造影剤の放射線不透過性とを組み合わせることが必要である。
【0008】
欧州特許第1810698号には、安定な放射線不透過性塞栓ビーズ(本明細書ではROビーズまたはROマイクロスフェアとも呼ぶ)を形成する工程が記載されており、この工程では、PVAヒドロゲル塞栓ビーズをヨード化油で装填して放射線不透過性にする。油がビーズ内に保持される機序は明らかにされていない。さらに、この油はヨード化脂肪酸エチルエステルの混合物であるため、最終生成物は厳密に定義されておらず、この方法では、ビーズからの造影剤の溶出を制御することができず、造影剤が薬物の充填および溶出に及ぼす影響も考慮されていない。
【0009】
国際公開第2011/110589号には、エステル結合を介してヨードベンゾイルクロリドをポリ(ビニルアルコール)にグラフトすることによるヨード化ポリ(ビニルアルコール)の合成が記載されている。このポリマーは放射線不透過性であることが示されているが、この工程では不水溶性ポリマーが生じ、のちにこれを、望ましい塞栓特性を有するヒドロゲルマイクロスフェアの作製に通常用いられる油中水型重合工程を用いてマイクロスフェアにすることはできない。同公開特許ではマイクロスフェアに言及しているが、これを得る方法に関する開示は含まれていない。
【0010】
Mawadら(Biomacromolecules 2008,9,263-268)は、共有結合したヨウ素をポリマー主鎖に導入してポリマーを放射線不透過性にする、PVA系分解性ヒドロゲルの化学修飾について記載している。PVA上のペンデントアルコール基の0.5%を4-ヨードベンゾイルクロリドと反応させることによってヨウ素を導入する。得られたポリマーは生分解性であり、沈殿により塞栓を形成し、マイクロスフェアには形成されない。
【0011】
したがって、塞栓ビーズの塞栓形成効率および再現性をヨード化ケシ油エチルエステルなどの造影剤の放射線不透過性と組み合わせた、単一製品の放射線不透過性塞栓物質が必要とされているのは明らかである。理想的な塞栓粒子とは、臨床医が、視認できるコントラストが塞栓粒子によるものであるという一層の確信を持って塞栓処置を実施および撮像できるよう、本質的に放射線不透過性であり、大きさおよび物理的特性に安定性および再現性がある塞栓粒子である。このようなビーズの血管部位への注入および沈着は監視され得るであろうが、塞栓術の効果を監視し塞栓物質が所望の位置に留まっていることを確認するための、かつさらなる処置のリスクがある領域を特定するための臨床追跡時の監視も可能になると思われる。追跡撮像が得られる時間枠は、既存の方法よりも大幅に増大する。
【0012】
放射線不透過性(X線を減弱する能力)はハウンズフィールド尺度に従って定量化できる。ハウンズフィールド単位は1体積(ボクセル)当たりの放射線不透過性の測定単位である。コンピュータ断層撮影法(CT)の典型的なボクセルは約1mmであるため、直径が100μm程度の個々のマイクロスフェアは、それまたはそれらの集まりが血管内(例えば)で上記ボクセルの放射線不透過性を増大させて可視化されるように、放射線不透過性が高くなければならない。放射線不透過性は100HU超、好ましくは500HU超が適切であると思われる。
【0013】
理想的な塞栓ビーズは、放射線不透過性に優れていることに加えて、確信を持って化学塞栓処置を監視できるように、効率的な薬物装填および溶出を可能にする特性を備えている。
【発明の概要】
【0014】
本発明者らは、比較的単純な化学反応を用いることによって、ポリマーを修飾して放射線不透過性にすることが可能であることを確認した。1つまたは複数の共有結合した放射線不透過性ハロゲン(臭素またはヨウ素など)を含む低分子量アルデヒドを、ポリマーの1,3ジオール基と反応させることによって、そのポリマーに結合させる。1,2グリコールとの反応も可能である。これにより、ハロゲン化基が共有結合した環状アセタール(1,3,ジオールと反応させる場合はジオキサン環)が形成される。このハロゲン化基は分子量が1000ダルトン未満、通常、750ダルトン未満である。最小値は156ダルトンである。
【0015】
ハロゲン化基は通常、6~18個、好ましくは6個~10個の炭素;および任意選択で、1個の酸素原子を有し;1または2個の共有結合した放射線不透過性ハロゲンを含む、芳香環を含む。芳香環は、好ましくはフェニル基である。
【0016】
この化学反応により、予測可能で制御可能な方法で、ポリマーに共有結合した定められた放射線不透過性基を有するポリマーが得られる。この反応は任意のジオール含有ポリマーで実施してよく、ヒドロゲルポリマーおよび予め形成されたマイクロスフェアに特に適しているため、マイクロスフェアの物理的特性(すなわち、大きさ、球状、高含水量、膨潤性および圧縮性)に悪影響を及ぼさずに非放射線不透過性のマイクロスフェアを本質的かつ恒久的に放射線不透過性にできる。放射線不透過性マイクロスフェアは、それらが形成される元の非放射線不透過性ビーズに比べて、薬物装填容量および/または溶出特性が同等である、および/またはより良い。このマイクロスフェアの放射線不透過性は恒久的であるか、臨床追跡期間中に監視が可能な程度に長寿命である。
【0017】
予め形成されたビーズの後処理が可能であることにより、放射線不透過性ビーズと非放射線不透過性ビーズに同じ製造工程を用いることができ、特定の大きさまたは大きさの範囲のビーズのみが放射線不透過性になるよう後処理前に、あるいは必要に応じて、後処理後に、放射線不透過性を付与する工程に起因するビーズ径のばらつきを考慮して大きさを決めるよう、大きさの選別またはふるい分けを実施できるという点で、製造に関してある程度の柔軟性がもたらされる。
【0018】
したがって、第一の態様では、本発明は、放射線不透過性化学種でアセタール化した1,2-ジオール基または1,3-ジオール基を含むポリマーを提供する。放射線不透過性化学種でアセタール化することにより、放射線不透過性化学種が環状アセタール基(1,3ジオールポリマーの場合はジオキサン)を介してポリマーに結合する。したがって、ポリマーの放射線不透過性は、環状アセタール結合を介して共有結合によりポリマーに組み込まれた放射線不透過性物質を有することに由来する。
【0019】
本明細書で使用される「放射線不透過性化学種」および「放射線不透過性物質」は、X線像で視認可能であり、コンピュータ断層撮影法などの日常的な技術を用いて放射線不透過性物質または化学種を取り巻く溶媒から解像できる化学物質、またはそのような化学物質によって修飾された物質を指す。
【0020】
マイクロスフェアまたはビーズという用語は、ミクロンサイズの球状またはほぼ球状の塞栓物質を指す。粒子または微粒子という用語は、不規則な形状をもち、一般に例えば、大きな1つの塊が粉砕されて生じる塞栓粒子を指す。
【0021】
文中で「ハロゲン」または「ハロゲン化」に言及する場合、特に明記されない限り、ヨウ素が好ましい。
【0022】
HUで放射線不透過性のレベルに言及する場合、それはX線マイクロコンピュータ断層撮影法によって実施した測定の結果を指し、好ましくは本明細書(実施例12)に記載される機器および条件を用いて、好ましくは本明細書(実施例12)に記載されるようにアガロースファントムで、好ましくは0.5mmのアルミニウムフィルターおよび65kVの電源電圧を用いて測定したときの測定結果を指す。グレースケール単位で放射線不透過性に言及する場合も、それは上記の条件下でX線マイクロコンピュータ断層撮影法によって実施した測定の結果を指す。
【0023】
「湿潤ビーズ」または「完全水和ビーズ」に言及する場合、それは充填体積として(例えば、メスシリンダー中で定量される)通常の生理食塩水(0.9%NaClの1mMリン酸緩衝液(pH7.2~7.4))中で完全に水和したビーズを意味する。
【0024】
この態様およびその他の態様では、ポリマーは、1,2-ジオール基もしくは1,3ジオール基またはその混合物を含む任意のポリマーであってよい。好ましくは、ポリマーは、ポリヒドロキシポリマーのように、ポリマー主鎖全体にわたってジオール基を高い割合で含む。ポリマーは適切に、ヒドロゲルまたは他の架橋ポリマー網目構造である。特に適切なポリマーは、ポリビニルアルコール(PVA)またはPVAのコポリマーを含むポリマーである。PVA系ヒドロゲルは、当該技術分野で周知であり塞栓処置に広く用いられるため、特に好ましい。
【0025】
特定の実施形態では、ポリマーは、架橋されてヒドロゲルを形成する架橋可能な基を有するペンダント鎖を有する、PVA主鎖を含む。PVA主鎖は、架橋され得るアセタートおよびアクリラートなどの基を含むペンダント鎖を少なくとも2つ有する。架橋剤は、望ましくは主鎖1グラム当たり約0.01~10ミリ当量(meq/g)、より望ましくは約0.05~1.5meq/gの量で存在する。PVAポリマーは、2種類以上の架橋可能な基を含み得る。ペンダント鎖は、環状アセタール結合を介して結合したポリマー骨格のヒドロキシル基を介して、PVAの1,3ジオールヒドロキシル基に結合しているのが好都合である。
【0026】
修飾PVAの架橋は、物理的架橋または化学的架橋などの多数の手段のいずれを介してもよい。物理的架橋としては、特に限定されないが、錯体形成、水素結合、脱溶媒和、ファンデルワールス相互作用、およびイオン結合が挙げられる。化学的架橋は、特に限定されないが、連鎖反応(付加)重合、逐次反応(縮合)重合をはじめとするポリマー化学者には日常的な方法を含む多数の手段によって実施できる。
【0027】
PVAポリマー主鎖上で架橋される基は、アルデヒド架橋剤の添加を必要とせずにフリーラジカルによって開始する重合を介して架橋できる、アセタートなどのエチレン性不飽和官能基であるのが適切である。好ましくは、PVAポリマーは、N-アクリロイル-アミノアセトアルデヒドジメチルアセタール(NAADA)によるPVAのアセタール化から形成されたペンダント鎖を含む。このようなPVAの修飾は米国特許第5,583,163号に記載されている。この種の修飾PVAの例のひとつはNelfilcon Aである。
【0028】
架橋可能なPVAは、追加のビニルコモノマー、適切にはヒドロキシ置換低級アクリル酸アルキルおよびメタクリル酸アルキル、アクリルアミドならびにメタクリルアミドなどの親水性ビニルコモノマーによって架橋されのが適切である。特定の実施形態では、上記の修飾PVAを2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸(Lubrizol社製のAMPS(登録商標)モノマー)と架橋して、アクリルアミドポリビニルアルコール-コ-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホナートヒドロゲルを得る。好ましい実施形態では、架橋反応を逆相乳化重合反応として実施してマイクロスフェア形態のアクリルアミドポリビニルアルコール-コ-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホナートヒドロゲルを得る。
【0029】
本発明のポリマーまたはヒドロゲルは、環状アセタールの形態でポリマー全体にわたって共有結合した放射線不透過性物質のため放射線不透過性である。環状アセタールを形成するための反応は有機化学の分野で周知であり、したがって、環状アセタールを形成できる任意の放射線不透過性化学種は本発明の範囲内にあると見なされる。放射線不透過性であることが知られている物質は、ヨウ素、ビスマス、タンタル、ガドリニウム、金、バリウムおよび鉄など多数ある。ハロゲンなどの電子密度の高い元素が特に有用である。臭素、塩素、フッ素およびヨウ素は、環状アセタール結合を形成できる有機分子に容易に組み込むことが可能であり、高い放射線不透過性をもたらす。したがって、特定の実施形態では、放射線不透過性ポリマーは、共有結合したハロゲン、好ましくはヨウ素を含む。放射線不透過性ハロゲンは芳香基と共有結合して、環状アセタールを介してポリマーと結合した放射線不透過性化学種を形成する。芳香族基は、共有結合した臭素またはヨウ素などの放射線不透過性ハロゲンを1つ、2つ、3つまたは4つ含み得る。この基は、好ましくは、このような放射線不透過性ハロゲンが1つ、2つ、3つまたは4つ共有結合したフェニル基を含む。したがって、ポリマーは、環状アセタールを介してポリマーに結合する、共有結合したヨウ素などの放射線不透過性ハロゲンを含む、ハロゲン化基(下式のX)を好都合に含む。
【0030】
放射線不透過性化学種でアセタール化することにより、以下に示すように、放射線不透過性化学種が環状アセタール基を介してポリマーに結合する。放射線不透過性ポリマーは、一般式I(PVAではJが-CH-である)またはII(1,2ジオールまたは1,3ジオールを有するその他のポリマーを示している)に記載される構造を有する、または含む。ポリマー中のアセタール化したこのような基の数(n)を制御することにより、存在するヨウ素の量、ひいては放射線不透過性が制御される。物質1mg当たりのジオールの数についてはのちに考察する。
【0031】
【化1】

式中、
Xは、1つまたは複数のハロゲン、好ましくは1つまたは複数の臭素またはヨウ素部分によって置換された基であり、
nは少なくとも1であり、
Jは基-CH-または結合である。
【0032】
Xは、好ましくは式III
【化2】

の基であり、
式中、Zは、環状アセタールと結合した連結基であるか、フェニル基が環状アセタールと結合するよう存在せず;
Zが存在する場合、ZはC1~6アルキレン、C1~6アルコキシレンまたはC1~6アルコキシアルキレンであり;
Halは1つ、2つ、3つまたは4つの共有結合した放射線不透過性ハロゲンである。
【0033】
好ましくは、Zが存在する場合、Zは、メチレンまたはエチレン基であるか、基-(CH-O-(CH-であり、式中、qは0、1または2であり、pは1または2であり;より好ましくは、-CHO-、-CHOCH-および-(CHO-から選択される基であり、
特に、Zは-CHOCH-または-CHO-であるか、存在せず、
Halは、特に3つまたは4つの臭素またはヨウ素、好ましくはヨウ素、例えば2,3,5もしくは2,4,6トリヨードまたは2,3,4,6テトラヨードであり、
Jは、好ましくは-CH-である。
【0034】
したがって、好ましくは、放射線不透過性のヨウ素がヨード化フェニル基の形態でポリマー内に組み込まれている。上記の通り、ヨード化フェニル基は、環状アセタール結合を介してポリマー内に組み込まれている。
【0035】
上記のような基、特にハロゲン化(例えば、ヨード化)フェニル基は、放射線不透過性ポリマー内に組み込むヨウ素などのハロゲンの量を制御し、ひいては放射線不透過性のレベルを制御するために、一置換、二置換、三置換または場合によっては四置換できるため有用である。
【0036】
可能なハロゲン化レベルはまた、ポリマー出発物質中の1,3ジオール基または1,2ジオール基のレベルによる影響を受ける。このレベルは、ポリマーの構造および例えば架橋剤または他のペンデント基による-OH基の任意の置換の存在などに基づいて推定できる。少なくとも0.1mmol/g乾燥ポリマーの-OH基のレベルを有するポリマーが好ましい。少なくとも1mmol/gのレベルを有するポリマーがさらに好ましい。5mmol/g(2.5mmol/gジオール)を上回る-OH基を有するポリマーで優れた放射線不透過性レベルが得られている。
【0037】
当業者は、ポリマー中のヨウ素、または他の放射線不透過性のハロゲンの量が、ポリマーのアセタール化の程度を制御することによっても制御され得ることを理解するであろう。本発明では、ポリマーは、アセタール化ジオール基を最大50%含む。好ましくは、ポリマー中のジオール基の少なくとも10%がアセタール化されており、より好ましくは、ジオール基の少なくとも20%がアセタール化されている。ポリマー中のハロゲン(例えば、ヨウ素)の量を、例えばフェニル環での置換を増加させることによって制御するのか、ポリマーのアセタール化の程度を制御することによって制御するのかに関係なく、得られるポリマーは、乾燥重量で少なくとも10%のハロゲン(ハロゲン重量/総重量)を含有する。好ましくは、ポリマーは、乾燥重量で少なくとも20%のハロゲン、好ましくは30%、40%、50%または60%を上回るハロゲンを含有する。乾燥重量で30~50%のハロゲンを有するポリマーで有用なコントラストが得られる。
【0038】
ハロゲン含有量はまた、ビーズ1mL当たりのハロゲン量(mg)で表され得る。これは、充填体積として(例えば、メスシリンダーで定量される)生理食塩水中で完全水和したビーズ1mL当たりのハロゲンの量を指す。本発明は、ハロゲン(特にヨウ素)のレベルが、例えば湿潤ビーズ1mL当たり15mgを上回るビーズを提供する。ビーズ1mL当たり25mgまたは50mgを上回る、好ましくは100mgを上回るハロゲン(特にヨウ素)含有量が良好な結果をもたらしている。
【0039】
本発明は、具体的にはヒドロゲル、特に微粒子またはマイクロスフェア形態のヒドロゲルに適している。マイクロスフェアは、例えばふるい分けによって大きさを制御できるため、および球状であるため塞栓物質の不必要な凝集を回避できることから、塞栓術に特に有用である。マイクロスフェアは、単相および2相エマルション、懸濁重合、溶媒蒸発、噴霧乾燥、ならびに溶媒抽出などの当業者に公知の多数の技術によって作製できる。
【0040】
例えば、Thanooら,Journal of Applied BiomaterialsVol.2,67-72(1991);国際公開第0168720号、同第03084582号;同第06119968号および同第04071495号(上記文献は参照により本明細書に組み込まれる)には、ポリビニルアルコールまたはビニルアルコールコポリマーを含むマイクロスフェアが記載されている。特定の実施形態では、上記のように(および米国特許第5,583,163号に開示されているように)N-アクリロイル-アミノアセトアルデヒドジメチルアセタール(NAADA)で修飾し、上記のように2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸で架橋したPVAからヒドロゲルマイクロスフェアを調製する。この種のヒドロゲルマイクロスフェアは米国特許第6,676,971号および同第7,070,809号に記載されている。
【0041】
マイクロスフェアは、約10μm(ミクロン)~2000μmの範囲の大きさで作製できる。より小さいと、毛細血管系を通過し、ほかの場所に引っかかることがある。ほとんどの適用では、凝集を抑え塞栓を予測可能にするため、小さな寸法範囲のマイクロスフェアが好ましい。マイクロスフェアの作製に用いる工程を制御して、特定の所望の大きさの範囲のマイクロスフェアを得ることができる。ふるい分けなどの他の方法を用いて、マイクロスフェアの大きさの範囲をより一層厳密に制御できる。
【0042】
特定の実施形態では、本発明によるヒドロゲルまたは非ヒドロゲルマイクロスフェアは、平均径の大きさの範囲が10~2000μm、より好ましくは20~1500μm、さらにより好ましくは40~900μmである。マイクロスフェアの調製では通常、計画される治療に適した大きさの範囲、例えば、100~300ミクロン、300~500ミクロン、500~700ミクロンまたは700~900ミクロンの粒子が得られる。小さい粒子ほど血管床の深部まで侵入する傾向が強くなるため、特定の処置には、40~75ミクロン、40~90ミクロンおよび70~150ミクロンの範囲の粒子が特に有用である。
【0043】
特定の実施形態では、ポリマーは、生理的pH(7.4)で正味の負電荷を有するヒドロゲルマイクロスフェアである。
【0044】
放射線不透過性はハウンズフィールド尺度に従って定量化でき、この尺度では、蒸留水はの0ハウンズフィールド単位(HU)の値を有し、空気は-1000HUの値を有する。好適には塞栓マイクロスフェアは100HUを上回る放射線不透過性を有し、さらにより好ましくは500HUを上回る放射線不透過性を有する。本明細書に記載される方法を用いて、放射線不透過性が10000HUを上回る放射線不透過性マイクロスフェアを調製できた。好ましいマイクロスフェアは、2000HU、3000HU、4000HUまたは5000HUを上回る放射線不透過性を有する。これらのレベルの放射線不透過性は、マイクロスフェアを、例えば、血液(30~45HU)、肝臓(40~60HU)、脳(20~45HU)および軟部組織(100~300HU)から識別可能にする。
【0045】
放射線不透過性はまた、米国材料試験協会(ASTM)F-640に準じて、バックグラウンドを差し引いた後の0~255グレースケール単位で表すことができる。
【0046】
したがって、本発明のさらなる態様は、本明細書の第一の態様に記載されるような、少なくとも500HUの放射線不透過性を有する、放射線不透過性マイクロスフェアを提供する。
【0047】
この実施形態のヒドロゲルマイクロスフェアは、注射用水などの適切な賦形剤または希釈剤を含む組成物に使用され、血管の塞栓術に直接用い得る。したがって、本発明のさらなる態様は、本明細書に記載されるヒドロゲルマイクロスフェアと、薬学的に許容される担体または希釈剤とを含む、医薬組成物を提供する。
【0048】
したがって、本明細書に記載されるように放射線不透過性化学種でアセタール化された1,2-ジオール基または1,3-ジオール基を含むポリマーから形成される放射線不透過性ヒドロゲルマイクロスフェアを含む、医薬組成物が、本発明のさらなる態様を形成する。ポリマーは、上記のように環状アセタール結合を介してポリマーに共有結合している、ヨード化された芳香族基を含むのが好ましい。
【0049】
放射線不透過性マイクロスフェアを含む医薬組成物はまた、追加の放射線不透過性物質、例えば造影剤(ヨード化ケシ油エチルエステル(Lipiodol(登録商標))などの油性造影剤を含む、イオン性または非イオン性いずれかの造影剤)などを含み得る。適切な非イオン性造影剤としては、イオパミドール、イオジキサノール、イオヘキソール、イオプロミド、イオブチリドール(iobtiridol)、イオメプロール、イオペントール、イオパミロン、イオキシラン、イオトロラン、イオトロールおよびイオベルソールが挙げられる。
【0050】
イオン性造影剤もまた用いてもよいが、高イオン濃度はマトリックスからのイオン性薬物の解離に有利に働くため、薬物を装填したイオン交換マイクロスフェアと組み合わせるのは好ましくない。イオン性造影剤としては、ジアトリゾアート、メトリゾアートおよびイオキサグラートが挙げられる。
【0051】
マイクロスフェアは、当該技術分野で認められている任意の工程により乾燥させ得るが、マイクロスフェアを減圧下で乾燥した状態で保管し得ることから、凍結乾燥などにより真空下で乾燥させるのが有利である。この方法を用いると、国際公開第07147902号(参照により本明細書に組み込まれる)で考察されている通り再水和が改善される。通常、乾燥マイクロスフェアを保管する圧力は1mBar(ゲージ圧)未満である。
【0052】
代替的にまたは追加的に、有効量の1つまたは複数の生物学的に活性な薬剤が塞栓組成物に含まれてもよい。形成された放射線不透過性ヒドロゲルまたはマイクロスフェアから活性薬剤を送達するのが望ましい場合がある。送達するのが望ましい場合がある生物学的に活性な薬剤としては、有機および無機分子ならびに細胞を含む予防剤、治療剤および診断剤(本明細書ではまとめて「活性薬剤」、「治療剤」または「薬物」と呼ぶ)が挙げられる。多種多様な活性薬剤を放射線不透過性ヒドロゲルおよびマイクロスフェア内に組み込むことができる。組み込んだ活性薬剤のヒドロゲルからの放出は、体液などの水性媒体と接触したときに起こるヒドロゲルからの薬剤の拡散、ヒドロゲルの分解、および/または薬剤をポリマーと結合している化学結合の分解によって達成される。この文脈において、「有効量」は、所望の効果を得るのに必要な活性薬剤の量を指す。
【0053】
したがって、さらなる態様では、本発明は、上記のような放射線不透過性ヒドロゲルマイクロスフェアと治療剤とを含み、治療剤がヒドロゲルマトリックスに吸収されている、医薬組成物を提供する。本発明のさらなる態様は、本明細書に記載される1つまたは複数の放射線不透過性ヒドロゲルマイクロスフェアを含み、マイクロスフェアが1つまたは複数の医薬活性薬剤などの治療剤をさらに含む、組成物を提供する。組み込むことができる活性薬剤または医薬活性薬剤の例としては、特に限定されないが、マイクロスフェアを特に化学塞栓処置に有用にする抗血管新生剤、細胞毒性剤および化学療法剤が挙げられる。
【0054】
特に有利な実施形態では、本発明の放射線不透過性ヒドロゲルマイクロスフェアは、帯電した薬物が、例えばイオン交換機序によって、マイクロスフェア内に装填されるように正味電荷を有する。その結果、治療剤はヒドロゲル内に静電的に保持され、生理的食塩水またはin vivoなどの電解質媒体中で、例えば血液または組織中でヒドロゲルから溶出し、薬物を数時間、数日またはさらに数週間にわたって徐放する。この実施形態では、本発明の放射線不透過性ヒドロゲルマイクロスフェアは、正に帯電した薬物がマイクロスフェア内に制御可能かつ再現可能なように装填され、続くin vivoでのヒドロゲルからの持続的溶出のために、そこに静電的に保持されるように、生理的条件(7.4)を含む様々なpHにわたって正味の負電荷を有すれば特に有用である。そのような電荷は、ポリマーマトリックスに結合したカルボキシル基またはスルホン酸基などのイオン交換基に由来し得る。生理的pHで電荷を持たない薬物であってもなお、本発明のマイクロスフェア内に装填でき、これは、例えば、塞栓術直後に、または塞栓術を必要としないか必須ではない場合もしくはイオン性相互作用ではなく生理的条件下で薬物の低溶解度が放出プロファイルを左右する場合、単に薬物を迅速に組織に送達するために、迅速な溶出または「バースト効果」が望まれる場合に特に有利であり得ることが理解されよう。
【0055】
この方法で装填され得る薬物の特に好ましい例としては、特に限定されないが、カンプトテシン(イリノテカンおよびトポテカンなど)およびアントラサイクリン(ドキソルビシン、ダウノルビシン、イダルビシンおよびエピルビシンなど)、抗血管新生剤(血管内皮増殖因子受容体(VEGFR)阻害剤など、例えばアキシチニブ、ボルテゾミブ、ボスチニブ、カネルチニブ、ドビチニブ、ダサチニブ、エルロチニブ、ゲフィチニブ、イマチニブ、ラパチニブ、レスタウルチニブ、マスチニブ(masutinib)、ムビチニブ(mubitinib)、パゾパニブ、パゾパニブセマキサニブ、ソラフェニブ、タンデュチニブ、バンデタニブ、バタラニブおよびビスモデギブなど)、微小管会合阻害剤(ビンブラスチン、ビノレルビンおよびビンクリスチンなど)、アロマターゼ阻害剤(アナストラゾールなど)、白金系薬物(シスプラチン、オキサリプラチン、カルボプラチンおよびミリプラチンなど)、ヌクレオシド類似体(5-FU、シタラビン、フルダラビンおよびゲムシタビンなど)が挙げられる。その他の好ましい薬物としては、パクリタキセル、ドセタキセル、マイトマイシン、ミトキサントロン、ブレオマイシン、ピンヤンマイシン、アビラテロン、アミホスチン、ブセレリン、デガレリクス、ホリン酸、ゴセレリン、ランレオチド、レナリドマイド、レトロゾール、リュープロレリン、オクトレオチド、タモキシフェン、トリプトレリン、ベンダムスチン、クロラムブシル、ダカルバジン、メルファラン、プロカルバジン、テモゾロミド、ラパマイシン(およびゾタロリムス、エベロリムス、ウミロリムスおよびシロリムスなどの類似体)メトトレキサート、ペメトレキセドおよびラルチトレキセドが挙げられる。
【0056】
放射線不透過性ヒドロゲルマイクロスフェアは、水膨潤性であるが不水溶性であるのが好ましい。
【0057】
一実施形態では、ビーズは、水膨潤性であるが、若干水への溶解度がある。この実施形態では、膨潤の程度は塩水溶液または適切な溶媒の使用によって制御でき、日常的な実験によって決定され得るものである。これは特に、非共有結合によって架橋されたPVAポリマーに適用され得る。
【0058】
別の実施形態では、ビーズは水および溶媒に膨潤性を示すが、同時に生分解性でもある。この実施形態では、ビーズは、4週間~24か月の範囲の期間にわたってin vivoで生分解する。PVAを含む生分解性ポリマーは、例えば、国際公開第2004/071495号、同第2012/101455号およびFrauke-Pistelら,J.Control Release 2001 May 18;73(1):7-20に開示されている。
【0059】
上で述べたように、本発明の放射線不透過性ポリマーは、予め形成されたマイクロスフェアを直接修飾してそれらを本質的に放射線不透過性にするための単純な化学反応を用いて、作製され得る。したがって、さらなる態様では、本発明は、放射線不透過性ポリマーを作製する方法であって、好ましくは酸性条件下で、1,2-ジオール基または1,3-ジオール基を含むポリマーを、上記1,2-ジオールまたは1,3-ジオールと環状アセタールを形成できる放射線不透過性化学種と反応させることを含む方法を提供する。
【0060】
具体的には、環状アセタールを形成できる放射線不透過性化学種は、本明細書に記載されるように、ヨウ素などの共有結合する放射線不透過性のハロゲンを含む。具体的には、ハロゲンはフェニル基などの芳香族基に共有結合している。
【0061】
この化学反応は、1,2-ジオールまたは1,3-ジオール構造を持つ単位の主鎖を有するポリマー、例えばポリヒドロキシポリマーなどに特に適している。例えば、1,3-ジオール骨格を含むポリビニルアルコール(PVA)またはビニルアルコールのコポリマー。主鎖はまた、1,2-ジヒドロキシエチレンなどの1,2-グリコール形態のヒドロキシル基も含み得る。これらは例えば、酢酸ビニル-炭酸ビニレンコポリマーのアルカリ加水分解によって得ることができる。
【0062】
糖類などのその他のポリマージオールを用いてもよい。特定の実施形態では、ポリマーは架橋されており、例えば架橋されたPVAまたはPVAのコポリマーなどである。
【0063】
本明細書に記載されるように誘導体化され得るポリビニルアルコールは、少なくとも約2,000の分子量を好ましくは有する。上限として、PVAは最大1,000,000の分子量を有し得る。好ましくは、PVAは最大300,000の分子量を有し、特に最大約130,000、特に好ましくは最大約60,000の分子量を有する。
【0064】
好ましい実施形態では、PVAは架橋PVAヒドロゲルであり、上記のように、N-アクリロイル-アミノアセトアルデヒドジメチルアセタール(NAADA)で修飾されたPVAが2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸と架橋されており、好ましくは米国特許第6,676,971号および同第7,070,809号に記載されているようなマイクロスフェアの形態である。
【0065】
放射線不透過性化学種をアセタール化し、ジオール基を介してポリマーに共有結合させる。好ましい放射線不透過性化学種は、電子密度の高い化学的部分であり、例えば、+1HUを上回る放射線不透過性をもたらす単純な有機分子または有機金属錯体などであり、ポリマー上でジオール基との環状アセタールの形成を可能にする反応部分を含む。具体的な反応部分としては、アルデヒド、アセタール、ヘミアセタール、チオアセタールおよびジチオアセタールが挙げられる。
【0066】
特定の実施形態では、放射線不透過性化学種は臭素またはヨウ素を含む。このことは、臭素またはヨウ素が置換されている有機小分子は市販されているか、当該技術分野で周知の化学反応を用いて調製し得るため、好都合である。例えば、ヨード化または臭素化アルデヒドは放射線不透過性であり、本発明の方法を用いてジオール含有ポリマー内に組み込むのが容易である。特に有用な放射線不透過性化学種としては、ヨード化または臭素化ベンジルアルデヒド、ヨード化フェニルアルデヒドおよびヨード化フェノキシアルデヒドが挙げられる。
【0067】
例えば予めマイクロスフェアに形成されているヒドロゲルポリマー(ただし、コーティングなどのその他の予め形成されたヒドロゲル構造が考慮される)を用いて、ジオール含有ポリマーとの放射線不透過性アルデヒドの反応が驚くほど良好に進む。したがって、別の態様では、本発明は、放射線不透過性ヒドロゲルマイクロスフェアを作製する方法であって、以下に挙げる段階を含む方法を提供する:
(a)1,2-ジオール基または1,3-ジオール基を有するポリマーを含む、予め形成されたヒドロゲルマイクロスフェアを、上記マイクロスフェアを膨潤させることができる溶媒中で膨潤させる段階;(b)膨潤させたマイクロスフェアを、酸性条件下で上記1,2ジオールまたは1,3ジオールと環状アセタールを形成することができる放射線不透過性化学種の溶液と混合するか接触させる段階;および(c)マイクロスフェアを抽出または単離する段階。
【0068】
次いで、抽出または単離したマイクロスフェアを直接使用しても、上記のように医薬組成物へと製剤化しても、あるいは長期保管用に乾燥させてもよい。
【0069】
好ましい実施形態では、アクリルアミドポリビニルアルコール-コ-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホナートヒドロゲルマイクロスフェア上で反応を実施する。このようなマイクロスフェアの例は、米国特許第6,676,971号および同第7,070,809号に記載されている。
【0070】
反応は、極性有機溶媒中で、より具体的には、テトラヒドロフラン(THF)、酢酸エチル、アセトン、ジメチルホルムアミド(DMF)、アセトニトリル(MeCN)およびジメチルスルホキシド(DMSO)などの極性非プロトン性溶媒中で実施するのが好都合であるが、適切な溶媒は、当業者が日常的な実験を通じて、かつ/または沸点、密度などの溶媒の特性を考慮て決定される。
【0071】
反応は迅速であり、室温で実施してもよく、あるいは収率を向上させ反応時間を短くするために高温で実施してもよい。好ましい実施形態では、反応は25℃を上回る温度で実施し、適切には40℃を上回るが、135℃を下回る温度、好ましくは80℃を下回る温度で実施する。50~75℃の反応温度が特に有用である。高温では、放射線不透過性ヒドロゲルビーズへのヒドロゲルビーズの変換をわずか2~3時間で遂行できる。
【0072】
上記のように、放射線不透過性化学種は、アルデヒド、アセタール、ヘミアセタール、チオアセタールおよびジチオアセタールからなる群より選択される官能基を含み、ヨウ素または他の放射線不透過性ハロゲンを含む。この文脈において、アセタールおよびチオアセタールなどの基は、保護されたアルデヒドであると考えることができる。ヨード化ベンジルアルデヒド、ヨード化フェニルアルデヒドまたはヨード化フェノキシアルデヒドなどのヨード化アルデヒドが特に有用であり、これらは広く入手可能であり、高い反応収率が得られる。
【0073】
したがって、好ましくは、放射線不透過性化学種は式IV:
【化3】

の化合物であり、式中、
Aは、1,2ジオールまたは1,3ジオールと環状アセタールを形成できる基である。
【0074】
好ましくは、Aは、アルデヒド、アセタール、ヘミアセタール、チオアセタールまたはジチオアセタール基であり;
好ましくは、Aは、-CHO、-CHOROR -CHOROH、-CHSROHまたは-CHSRSRであり、式中、RおよびRは、C1~4アルキル、好ましくはメチルまたはエチルから独立して選択される。
【0075】
放射線不透過性PVAヒドロゲルマイクロスフェアを生成することが明らかにされている放射線不透過性化学種の具体例としては、2,3,5-トリヨードベンズアルデヒド、2,3,4,6-テトラヨードベンジアルデヒドおよび2-(2,4,6-トリヨードフェノキシ)アセトアルデヒドが挙げられる。
【0076】
さらなる態様では、本発明は、1,2-ジオール基または1,3-ジオール基を含むポリマーの、ハロゲン化アルデヒド、ハロゲン化アセタール、ハロゲン化ヘミアセタール、ハロゲン化チオアセタールまたはハロゲン化ジチオアセタールとの反応によって得られた、または得ることが可能な放射線不透過性ヒドロゲルマイクロスフェアを提供する。
【0077】
この態様の好ましい実施形態では、アクリルアミドポリビニルアルコール-コ-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホナートヒドロゲルマイクロスフェアの反応によって放射線不透過性ヒドロゲルマイクロスフェアを得る。このようなマイクロスフェアは、米国特許第6,676,971号、米国特許第7,070,809号および国際公開第2004/071495号にそれらの例が開示されており、ヨード化アルデヒド、ヨード化アセタールおよびヨード化チオアセタールと迅速に反応してヨウ素含有量の高い放射線不透過性マイクロスフェアを生じ、in vivoで良好なコントラストを与えることがわかっている。物理的特性(大きさ、形状、電荷、薬物装填容量など)はヨード化によって悪影響を受けることはなく、場合によっては改善される。取扱いも、ほとんど影響を受けないと思われる。機械的堅牢性は保持され、ビーズは凝集せず造影剤および他の送達媒体に良好に懸濁するため、カテーテルによる送達を比較的容易に達成し得る。送達は円滑であり、さらにカテーテルの閉塞がないことが観察されている。さらに、ビーズは蒸気滅菌法および加圧滅菌法に安定である。
【0078】
特に適切なヨード化アルデヒドとしては、特に限定されないが、2,3,5-トリヨードベンズアルデヒド、2,3,4,6-テトラヨードベンジアルデヒドおよび2-(2,4,6-トリヨードフェノキシ)アセトアルデヒドが挙げられる。
【0079】
上記の放射線不透過性マイクロスフェアおよび組成物は、本明細書に記載されるマイクロスフェアまたはこれを含む組成物を患者の血管内に投与して上記血管を閉塞する治療方法に使用され得る。血管は、固形腫瘍、例えば肝細胞癌(HCC)を含む富血管性肝腫瘍ならびに転移性結腸直腸癌(mCRC)および神経内分泌腫瘍(NET)を含むいくつかの他の肝転移などに関連する適切な血管であってよい。この治療方法は撮像可能であり、臨床医にリアルタイムまたはほぼリアルタイムで処置に関する十分な視覚的フィードバックをもたらす。このような方法は、医薬活性薬剤をマイクロスフェア内に装填し、治療により治療有効量の薬剤がそれを必要とする患者に送達される場合に特に有用である。
【0080】
放射線不透過性マイクロスフェアはまた、マイクロスフェアが注入により作用部位に送達される処置においても使用され得る。これを実施するための方法の1つが、医薬活性薬剤を含むマイクロスフェアを注入により腫瘍に直接送達することである。
【0081】
本発明はまた、上記の治療法に使用するための本発明の組成物およびマイクロスフェアも提供する。
【0082】
本明細書に記載されるマイクロスフェアは、薬物の装填および溶出において驚くほど効率的である。このマイクロスフェアは、正荷電薬物、とりわけドキソルビシン、エピルビシン、ダウノルビシン、イダルビシンおよびイリノテカンなどを容易に装填する。実験的研究から、マイクロスフェアが薬物を装填および溶出する能力は、本発明の化学反応を用いてビーズを放射線不透過性にする前と反応後とで同じであることが明らかにされている。いくつかの場合では、薬物の装填効率または容量が驚くべきことに50%超改善される。いくつかの場合では、薬物装填の100%増大が測定された。多くの場合、薬物溶出の程度は、非放射線不透過性型のビーズと比べて影響を受けず、いくつかの場合では、長時間かけて実質的に全量の薬物がビーズから溶出する。多くの場合、薬物溶出プロファイルは、薬物が放射線不透過性マイクロスフェアから溶出するのにかかる時間が同等の非放射線不透過性マイクロスフェアに比して増大するという点で改善される。このように、本発明のマイクロスフェアは驚くべきことに、非放射線不透過性の同等物よりも増大した薬物装填効率および改善された、すなわち延長された薬物溶出をもたらす。
【0083】
上記の本発明の態様および実施形態のいずれかのポリマーまたはマイクロスフェアは、塞栓処置の撮像方法が提供される本発明の別の態様で使用され得る。さらなる態様では、処置完了後に塞栓術を監視する方法が提供される。本発明の放射線不透過性ポリマーの耐久性および生分解速度に応じて、塞栓術を監視し得る処置後の時間枠は、数日、数週間またはさらに数か月の範囲であり得る。
【0084】
これより、図面を参照しながら以下の非限定的な例によって本発明をさらに説明する。これらは単に説明を目的として提供されるものであり、これらを踏まえれば、当業者には特許請求の範囲内に収まる例がほかにも思いつくであろう。本明細書で引用される参考文献はいずれも、参照により組み込まれる。
【図面の簡単な説明】
【0085】
図1】実施例に従って調製した放射線不透過性ヒドロゲルビーズの顕微鏡像である。示されるビーズは、ヨード化後にふるい分け、異なる照明条件下で撮影した75~300μmのビーズである。
図2】本発明に従って調製した放射線不透過性ビーズのマイクロCT画像である。図2Aは放射線不透過性ビーズの三次元X線像である。図2Bは二次元マイクロCT画像を示している。線輪郭(図2C)において、x軸(μm)はX線像の断面図に描かれている線(赤色で示されている)の長さであり、y軸は0(黒)~255(白)の範囲のグレースケール値を用いて強度のレベルを示している。
図3】本発明に従って調製した滅菌放射線不透過性ビーズの、ドキソルビシンを装填する前と後での光学顕微鏡像を示す図である。図3Aは装填前の放射線不透過性ビーズを示し、図3Bは薬物装填ビーズを示している。
図4】ドキサルビシン(doxarubicin)を装填したROビーズおよび非ROビーズの溶出プロファイルを示す図である。ビーズは直径が70~150μmであった。ROビーズは158mg I/ml湿潤ビーズであった。ビーズには2種類とも、ドキサルビシン(doxarubicin)を湿潤ビーズ1mL当たり50mg装填した。
図5】スニチニブを装填したROビーズの溶出プロファイルを示す図である。
図6】ソラフィニブ(sorafinib)を装填したROビーズおよび非ROビーズの溶出プロファイルを示す図である。ROビーズは大きさが70~150μmであり、ヨウ素含有量134mg I/ml湿潤ビーズを有した。
図7】バンデタニブを装填したROビーズおよび非ROビーズの溶出プロファイルを示す図である。ビーズは直径が70~150μmであった。ROビーズは158mg I/ml湿潤ビーズであった。
図8】ミリプラチンを装填したROビーズおよび非ROビーズの溶出プロファイルを示す図である。ビーズは大きさが70~150μmであり、ROビーズはヨウ素含有量134mg I/ml湿潤ビーズを有した。
図9】トポテカンを装填したROビーズおよび非ROビーズの溶出プロファイルを示す図である。ROビーズおよび非ROビーズは大きさが70~150μmであり、ROビーズは146mg I/ml湿潤ビーズのヨウ素レベルを有した。
図10】本発明に従って調製したROビーズ10個の試料の断面のマイクロCT画像を水および空気のブランクとともに示す図である。
図11】本発明のROビーズを用いて塞栓術を実施した後にブタ1頭から得たCTスキャンを示す図である。(a)塞栓術前;(b)塞栓術後1時間;(c)塞栓術後7日;(d)塞栓術後14日。矢印は血管内のROビーズを示す。
【発明を実施するための形態】
【0086】
これらの実施例全体を通じて、1,2-ジオール基または1,3-ジオール基を含むポリマーの構造は、以下の構造によって表される:
【化4】
【実施例
【0087】
実施例1:2,3,5-トリヨードベンジルアルコールからの2,3,5-トリヨードベンズアルデヒドの調製
【化5】

温度計、窒素バブラーおよび気密シールを装着した50ml三つ口丸底フラスコ内で、窒素ブランケットおよび攪拌条件下、無水DMSO 100mlにアルコール10.2gを溶かした。次いで、1.0モル当量のプロパンスルホン酸無水物(T3P)(酢酸エチル中の50%溶液)を22℃~25℃で5分間にわたって滴加した。反応溶液を室温で攪拌し、高速液体クロマトグラフィー(カラム:Phenominex Lunar 3um C18:移動相勾配:A相、水/0.05%TFA;B相、ACN/0.05%TFA;10分間にわたるAからBへの直線勾配:カラム温度40℃:流速1ml/分:240nmでUV検出)により監視した。240分後に変換が完了した。黄色の溶液を、攪拌しつつ脱イオン水100ml中に注加し、生じた白色沈殿をろ過し、母液および50mlの脱イオン水で洗浄した。ろ塊を酢酸エチル50ml中でスラリー化し、ろ過し、水50mlで再び洗浄し、真空下、40℃で20時間乾燥させ、白色固体7.7gを得た。NMR分析および高速液体クロマトグラフィーにより構造および純度を確認した。
【0088】
実施例2:2-(2,3,5-トリヨードフェノキシ)アセトアルデヒドの調製
【化6】

(a)2,4,6-トリヨードフェノールからの2-(2,4,6-トリヨードフェノキシ)エタノールの合成
温度計、窒素バブラーおよびオーバーヘッドスターラーを装着した500ml三つ口平底フラスコ内で、窒素ブランケットおよび激しい攪拌条件下、室温でエタノール100mlにフェノール10gを溶かした。1.25モル当量の水酸化ナトリウムペレットを加え、窒素ブランケット下、ペレットが完全に溶解するまでスラリーを30分間攪拌した。次いで、温度を25℃に維持しながら1.1モル当量の2-ヨードエタノールを加え、15分間攪拌した。溶液をエタノールで加熱還流した。HPLC(実施例1の条件)によりフェノールの消費および2-(2,4,6-トリヨードフェノキシ)エタノールの形成を監視した。25時間後、0.27モル当量の2-ヨードエタノールを追加し、溶液を還流しながらさらに2時間攪拌した。溶液を室温に冷却した後、激しい攪拌条件下で脱イオン水150mlを急速に加えた。得られたスラリーを真空下でろ過し、母液、次いで脱イオン水30mlで3回、最後にエタノール5mlで洗浄した。得られた桃色のろ塊を酢酸エチル100ml中に溶かし、有機層を大量の水酸化ナトリウム溶液(pH14)で抽出し、硫酸マグネシウム酸で乾燥させ、ロータリーエバポレーターで濃縮して、オフピンクの固体5.9gを得て、これをSigma-Aldrich社から市販されている分析標準品との比較分析によって2-(2,4,6-トリヨードフェノキシ)エタノールと同定した。
【0089】
(b)2-(2,4,6-トリヨードフェノキシ)エタノールの2-(2,3,5-トリヨードフェノキシ)アセトアルデヒドへの酸化:
温度計、窒素バブラーおよびオーバーヘッド攪拌機を装着した500ml三つ口平底フラスコ内で、窒素ブランケット下、無水DMSO 150mlにアルコール5.9gを溶かした。この溶液を攪拌して40℃に加熱し、温度を40℃~41℃に維持しながら1.6モル当量のT3P(EtOAcに溶かした50%w/w溶液)を徐々に加えた。高速液体クロマトグラフィーによりアルコールの消費およびアルデヒドの生成を経時的に監視した(実施例1の条件)。24時間後、シリンジポンプを用いて反応混合物に水150mlを2時間にわたって徐々に加えた。溶液からオフピンクの固体が沈殿し、真空下でろ過して桃色のろ塊が得られ、これを水で洗浄した。得られた不純物を含む凝集塊を酢酸エチル/ヘキサンに溶かした後、真空下、40℃で乾燥させて油を得て、1HNMR分析により2-(2,3,5-トリヨードフェノキシ)アセトアルデヒドと同定した。
【0090】
実施例3:2,3,5-トリヨードベンジルアルコールおよび2-ブロモ-1,1-ジメトキシ-エタンからの1-(2,2-ジメトキシエトキシメチル)-2,3,5-トリヨード-ベンゼンの調製(放射線不透過性アセタール/保護アルデヒドの例)
【化7】
【0091】
オーバーヘッド攪拌機、温度計、窒素バブラーおよび気密セプタムを装着した50ml三つ口平底フラスコ内で、窒素ブランケットおよび攪拌条件下、無水2-メチルテトラヒドロフラン55mlにアルコール5.07gを溶かした。次いで、アセタール2.11g、次いで水素化ナトリウム0.540g(鉱油中の60%分散液)を加えた。スラリーを窒素ブランケット下で1010分間加熱還流し、高速液体クロマトグラフィーにより監視した(実施例1の条件)。反応混合物をジクロロメタン50mlに溶かし、水25mlで4回洗浄した。有機層を真空下で濃縮して褐色油を得て、これを1HNMRにより1-(2,2-ジメトキシエトキシメチル)-2,3,5-トリヨード-ベンゼンと同定した。
【0092】
実施例4:架橋ヒドロゲルマイクロスフェアの調製。
国際公開第2004/071495号の実施例1に従って、架橋ヒドロゲルマイクロスフェアを調製した。この工程は、生成物を真空乾燥させて残留溶媒を除去する段階の後で終了させた。高AMPS形態および低AMPS形態の両方のポリマーを調製し、しかるべき大きさの範囲になるようビーズをふるい分けた。ビーズは乾燥状態または生理的食塩水中のいずれかで保管し、加圧滅菌した。高AMPS形態および低AMPS形態のいずれのポリマーを用いても良好な放射線不透過性の結果が得られる。
【0093】
実施例5:2,3,5-トリヨードベンズアルデヒドおよび予め形成された架橋PVAヒドロゲルマイクロスフェアからの放射線不透過性マイクロスフェアの一般的な調製
【化8】

オーバーヘッド攪拌機、温度計および窒素バブラーを装着した50ml三つ口丸底フラスコ内で、窒素ブランケットおよび攪拌条件下、乾燥PVA系ビーズ(実施例4を参照されたい-高AMPS型)1.0gをしかるべき溶媒(例えば、DMSO)中で膨潤させた。次いで、スラリーに0.20~1.5モル当量のアルデヒド(実施例1に従って調製したもの)を加えた後、直ちに1.0~10モル当量の酸(例えば、硫酸、塩酸、メタンスルホン酸またはトリフルオロ酢酸-通常、メタンスルホン酸を用いる)を加えた。使用するPVAの特性および架橋の程度に基づいて、利用可能な-OH基の理論的レベルを推定した(高AMPSビーズについての典型的な値は0.0125mol/gm乾燥ビーズ)。反応スラリーを50℃~130℃で12時間~48時間攪拌し、その間、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)によりアルデヒドの消費を監視した。必要に応じて、硫酸マグネシウム酸または硫酸ナトリウムなどの乾燥剤を加えて、反応をさらに促進させた。このようにして、様々なレベルでヨウ素が組み込まれた放射線不透過性マイクロスフェアのバッチを得ることができた。PVA系ヒドロゲルの1,3-ジオール上で十分なアルデヒドが反応してそれが十分に放射線不透過性になったとき(以下を参照されたい)、反応スラリーを室温に冷却し、ろ過した。高速液体クロマトグラフィーによる測定で未反応のアルデヒドが全くみられなくなるまで、ビーズのろ塊を大量のDMSOおよび水で洗浄した。
【0094】
実施例6:2,3,5-トリヨードベンズアルデヒドおよび架橋PVAヒドロゲルマイクロスフェアアからの放射線不透過性マイクロスフェアの調製
窒素をパージした500ml容器に乾燥PVA系ビーズ(実施例4を参照されたい-高AMPS型105~150μm)5.0gおよび0.26当量のアルデヒド(7.27g)(実施例1に従って調製したもの)を入れた。窒素ブランケット下で無水DMSO 175mlを加え、攪拌してビーズを懸濁状態に保った。懸濁液を50℃に温め、メタンスルホン酸11mlを徐々に加えた。反応スラリーを50℃で27時間攪拌し、その間、HPLCによりアルデヒドの消費を監視した。次いで、反応スラリーを大量のDMSO/1%NaCl、次いで生理食塩水で洗浄した。得られたビーズは、ヨウ素濃度が141mg I/ml湿潤ビーズであり、放射線不透過性が4908HUであった。
【0095】
実施例7:2-(2,4,6-トリヨードフェノキシ)アセトアルデヒドを用いた放射線不透過性PVAヒドロゲルビーズの調製。
2-(2,4,6-トリヨードフェノキシ)アセトアルデヒドを実施例2に従って調製し、反応温度を20℃~50℃に維持したこと以外は実施例5と同じ方法に従って、PVA系ヒドロゲルビーズ(実施例4の高AMPS型を参照されたい)と反応させた。反応時間も1時間未満に短縮した。ヨウ素含有量は18mg I/ml湿潤ビーズと測定された。
【0096】
実施例8:1-(2,2-ジメトキシエトキシメチル)-2,3,5-トリヨード-ベンゼンを用いた放射線不透過性PVAヒドロゲルマイクロスフェアの調製
【化9】

オーバーヘッド攪拌機、温度計および窒素バブラーを装着した50ml三つ口平底フラスコ内で、窒素ブランケットおよび攪拌条件下、乾燥PVA系ビーズ(実施例4の高AMPS型を参照されたい)1.0gをしかるべき溶媒(例えば、DMSO)中で膨潤させた。次いで、スラリーに0.5モル当量のアルデヒド(実施例3に従って調製した1-(2,2-ジメトキシエトキシメチル)-2,3,5-トリヨード-ベンゼン)を加えた後、直ちにメタンスルホン酸163μlを加えた。反応スラリーを40℃で80分間攪拌した後、200分間、80℃に加熱し、この間、高速液体クロマトグラフィーによりアルデヒドの消費を監視した。この後、PVA系ヒドロゲルの1,3-ジオール上で十分なアルデヒドが反応してそれが十分に放射線不透過性になったとき、反応スラリーを室温に冷却し、ろ過した。高速液体クロマトグラフィーによる測定で未反応のアセタールおよびアルデヒドが全くみられなくなるまで、ビーズのろ塊を大量のDMSOおよび水で洗浄した。ビーズのヨウ素含有量は31mg/ml湿潤ビーズと測定された。
【0097】
実施例9:2,3,4,6テトラヨードベンズアルデヒドからの放射線不透過性PVAヒドロゲルマイクロスフェアの調製
実施例1に記載されている通りにT3PおよびDMSOを用いて、2,3,4,6-テトラヨードベンジルアルコール(ACES Pharma社;米国)を2,3,4,6テトラヨードベンズアルデヒドに変換した。次いで、窒素ブランケット下でDMSOと共にPVAヒドロゲルマイクロスフェア(実施例4を参照されたい-大きさ150~250μmの高AMPS型)2.05gに0.6モル当量の2,3,4,6テトラヨードベンズアルデヒド(8.8g)を加えた。反応混合物を50℃に加熱し、数時間攪拌した。HPLCで反応を監視し、反応が完了したとき、ビーズをろ過し、DMSO、水、次いで0.9%生理食塩水で洗浄した。次いで、放射線不透過性ビーズを分析用に0.9%生理食塩水溶液中で保管した。ヨウ素含有量は30mg/ml湿潤ビーズと測定された。
【0098】
実施例10:放射線不透過性ビーズの特徴付け
実施例(5および6)で作製されたビーズのうち典型的なものの光学顕微鏡像を図1に示す。充填生理食塩水を除去し、残った生理食塩水をティッシュペーパーで吸い出すことにより、ビーズの乾燥重量を測定した。次いで、ビーズを50℃で一晩、真空乾燥させて水分を除去し、これよりポリマーの乾燥ビーズ重量および固体含有量(w/w%)を得た。
【0099】
シェーニガーフラスコ法に従って、乾燥ビーズのヨウ素含有量(w/w%)を元素分析により測定した。湿潤ビーズのヨウ素含有量の計算は以下の通りである:
ビーズの固体含有量(%)×乾燥ビーズのヨウ素含有量(%)。
【0100】
用いた化学反応および反応条件に応じて、実施例5に従って調製した0.9%生理食塩水中の放射線不透過性ヒドロゲルビーズの固体含有量は5%~16%w/wと測定され、重量/重量乾燥ヨウ素含有量は5%~56%と測定された。
【0101】
ヨウ素含有量を表す別の方法はmg I/mL湿潤ビーズ(湿潤充填ビーズ体積)であり、これは造影剤に用いる単位と同じである。実施例5によるプロトコルを用いて、26mg I/mlビーズ~214mg I/mlビーズの範囲のヨウ素含有量が達成された。
【0102】
低AMPSポリマーに基づくマイクロスフェア(実施例4)を用いる以外は同様のプロトコルを用いて、より高いヨウ素含有量(最大250mg I/mlビーズ)を達成できた。
【0103】
実施例11-放射線不透過性ビーズのマイクロCT解析
マイクロCTを用いて、上の実施例5に従って調製した放射線不透過性塞栓ビーズの試料の放射線不透過性を評価した。
【0104】
試料はNuncクライオチューブバイアル(Sigma-Aldrich社製品コードV7634、48mm×12.5mm)中で調製した。ビーズを0.5%アガロースゲル(Sigma-Aldrich社製品コードA9539を用いて調製したもの)に懸濁させた。得られた懸濁物は一般に、「ビーズファントム」と呼ばれる。これらのビーズファントムを調製するため、最初にアガロースの溶液(1%)を約50℃の温度まで上昇させる。次いで、既知の濃度のビーズを加え、溶液が凝固またはゲル化し始めるまで、この2つを穏やかに混合する。溶液は冷えるとゲル化し、ビーズはアガロースゲル内に均一に分散し懸濁した状態で維持される。
【0105】
RSSL Laboratories社(レディング、バークシャー州、英国)にて、タングステン陽極を装着したBruker Skyscan 1172μCTスキャナを使用したマイクロコンピュータ断層撮影法(μCT)を用いて、ビーズファントムの放射線不透過性を試験した。タングステン陽極を電圧64kv、電流155μAで稼働させる同じ機器設定を用いて、各ファントムを解析した。アルミニウムフィルター(500μm)を用いた。
【0106】
取得パラメータ:ソフトウェア:SkyScan1172バージョン1.5(ビルド14)NReconバージョン1.6.9.6CT Analyserバージョン1.13.1.1光源の種類:10Mp Hamamatsu 100/250カメラ解像度(ピクセル):4000×2096カメラビニング:1×1電源電圧kV:65電源電流μA:153画像ピクセルサイズ(μm):3.96フィルター:Al 0.5mm回転ステップ(度):0.280出力フォーマット:8ビットBMPダイナミックレンジ:0.000~0.140平滑化:0線質硬化:0ポストアライメント:補正リングアーチファクト:16
【0107】
各試料チューブ内に少量の精製MilliQ水を慎重に傾瀉した。次いで各試料を、水対照およびビーズを含むように単一スキャンを用いるX線マイクロコンピュータ断層撮影法により解析した。次いで、NReconを用いて試料を再構成し、目的とする体積(VOI)の精製水対照に対して校正した。校正後、目的とする領域(ROI)の空気および水を解析してハウンズフィールド校正を検証した。
【0108】
放射線不透過性を、ビーズを横断するラインスキャン投影からのグレースケール単位およびハウンズフィールド単位の両方で報告した。NReconで全試料のダイナミックレンジに用いた値(閾値化):-0.005、0.13(減衰係数の最小値および最大値)。典型的な画像およびラインスキャンを図2に示す。
【0109】
表1は、実施例4に従って様々な時間およびアルデヒドの当量の条件下で調製したマイクロスフェアの放射線不透過性を、グレースケール単位およびハウンズフィールド単位の両方で示したものである。放射線不透過性のデータは、約150ミクロンのビーズのラインスキャン10回の平均値である。
【0110】
【表1】
【0111】
図10は、153μmの平均寸法、および4908HUの平均放射線不透過性を有するビーズ10個の断面画像の試料を示している。
【0112】
実施例12.放射線不透過性ビーズの薬物装填:実施例12(a)ドキソルビシン
実施例5に従って調製したROビーズスラリー(大きさ100~300μm、ヨウ素47mg I/ml湿潤ビーズ)1mLをメスシリンダーを用いて量り取り、液体を除去した。周囲温度で継続的に浸透しながら、ドキソルビシン溶液(25mg/mL)4mLを放射線不透過性ビーズと混合した。20時間装填した後、消耗された溶液を除去し、薬物が装填されたビーズを脱イオン水(10mL)で4~5回洗浄した。消耗された装填溶液と洗浄溶液とを合わせたドキソルビシン濃度をUV分光光度計で483nmにおいて測定することにより、装填されたドキソルビシンが80mg/mLビーズであると算出された。放射線不透過性ビーズのドキソルビシン塩酸塩薬物装填容量は、ビーズ中のヨウ素含有量の非線形関数であると決定された。
【0113】
別の実験では、ドキソルビシン溶液(25mg/ml)3mlを用いて上記のように、ヨウ素含有量が158mg/ml湿潤ビーズである70~150μmのROビーズ1.5mlを装填した。対照である同じ大きさの非ROビーズも同じ方法で装填した。ROビーズには50mg/mlのドキソルビシンが装填され、対照ビーズには37.5mg/mlが装填された。
【0114】
別の実験では、ROビーズ(大きさ70~150μm;ヨウ素含有量150mg I/ml)の装填は3時間後に実質的に完了した。
【0115】
上の実施例5に従って調製した放射線不透過性ビーズを上の方法に従って37.5mg/mlのドキソルビシン溶液で装填した。図3Aは装填前の放射線不透過性ビーズを示し、図3Bは薬物が装填されたビーズを示している。薬物装填前、ビーズは薄茶色~暗褐色を帯びた球状のマイクロスフェアとして観察された。ビーズ中にドキソルビシンが装填されると、ビーズは濃い赤色になった。この実施例では、ビーズを加圧滅菌して滅菌時のビーズの安定性を示した。加圧滅菌中に、ビーズの完全性は保たれ、加圧滅菌時の平均ビーズ径は177μmから130μmに減少した。ビーズがドキソルビシンで装填されると、ビーズのサイズ分布においてさらなるシフトが観察され、これは非放射線不透過性ビーズで観察された薬物装填と一致する。さらなる例では、51mg/mlで薬物を装填した際、平均ビーズ径が130μmから102μmに減少した。得られたビーズは、修飾、滅菌、および薬物装填の後でさえも臨床的に有用な範囲内に収まっている。
【0116】
実施例12(b)エピルビシン
ドキソルビシンの場合と同じ方法で、ROビーズ(実施例5に従って作製したもの)および非ROビーズ(実施例4に従って作製した大きさ70~150μmの高AMPS)中にエピルビシンを装填した。ビーズ1mlを、装填溶液(25mg/mlエピルビシン)1.5mlを用いて装填した。90分後の放射線不透過性ビーズ中の最終的な装填量は37.49mg(装填効率99.97%)であり、非ROビーズでは36.43(装填効率97.43%)であった。
【0117】
実施例12(c)スニチニブ
10mLメスフラスコ内で無水DMSOにスニチニブ粉末400mgを溶かすことにより、スニチニブDMSO溶液を調製した。ROビーズスラリー(70~150μm、134.4mg I/ml湿潤ビーズ、実施例5に従って調製したもの)1mlをDMSO 10mlで3回予備洗浄して残留水を除去した。スニチニブ-DMSO溶液(40mg/mL)2.5mLをROビーズスラリーと混合し、1~2時間混合させた。次いで、装填溶液を除去した後、ビーズスラリーに生理食塩水10mLを加えて、ビーズ内部にスニチニブを沈殿させた。洗浄溶液および薬物粒子をセルストレーナーでろ過し、洗浄を3~4回繰り返した。非ROビーズ(100~300μm、実施例4に従って調製したもの)を同じ方法で処理した。
【0118】
実施例12(d)ソラフィニブ(sorafinib)
RO PVAマイクロスフェア(大きさ70~150μm、ヨウ素含有量134mgヨウ素/mlビーズ、実施例5に従って調製したもの)または非RO PVAマイクロスフェア(DC Bead(商標)100-300、Biocompatibles社;英国)1mlをDMSO 10mlで3回予備洗浄して残留水を除去した。ソラフェニブ/DMSO溶液(無水DMSO中39.8mg/mL)をビーズスラリー1mLと1時間混合した(放射線不透過性ビーズには2.5mL、非放射線不透過ビーズには2mL)。装填溶液を除去した後、ビーズスラリーに生理食塩水20mLを加えた。ビーズ懸濁液をセルストレーナーでろ過し、洗浄を3~4回繰り返した。最終装填レベルを、ごく一部の水和ビーズのDMSO抽出およびHPLC(カラム:Kinetex 2.6u XB-C18 100A 75×4.60mm;移動相、水:アセトニトリル:メタノール:トリフルオロ酢酸=290:340:370:2(v/v);検出254nm;カラム温度40℃;流速:1mL/分)による薬物濃度の決定により決定した。
【0119】
49.9mgのソラフィニブ(sorafinib)がROビーズ1ml中に装填され、34.7mgが非RO(DC Bead(商標))ビーズ1ml中に装填された。
【0120】
実施例12(e)バンデチニブ(vandetinib)。
25mlの琥珀色メスフラスコ内で超音波処理を用いて、0.1M HCl 14mlにバンデタニブ500mgを溶かし、脱イオンを加えて25mlにすることによって、20mg/mlのバンデタニブ溶液を調製した。次いで、バンデタニブを以下のプロトコルに従ってRO PVAヒドロゲルマイクロスフェア(実施例5に従って調製したもの:大きさ70~150μm;ヨウ素含有量147mg/mlビーズ)および非ROマイクロスフェア(DC Bead 100-300;Biocompatibles UK社)の両方に装填した:
【0121】
充填溶液を含むマイクロスフェア1mlをメスシリンダーで分取し、10mLバイアルに移した。次いで、ピペットを用いて充填溶液を除去した。次いで、非ROビーズに20mg/mlの薬液3mlを加えるか、ROビーズに同薬液1.5mLを加えた。放射線不透過性ビーズ装填実験では、溶液のpHを4.6~4.8とし、DCビーズ装填実験では、pHを約4.2とした。装填から2時間後、残留溶液を除去し、ビーズを脱イオン水5mLで3回洗浄した。消耗された装填溶液と洗浄溶液を合わせ、254nmで検出するC18逆相HPLCにより分析して、装填収量を決定した。滅菌については、必要に応じて、装填済みのビーズを脱イオン水1mlに入れ、121℃で30分間加圧滅菌するか、24時間凍結乾燥させた後、25kGyでガンマ線滅菌した。
【0122】
放射線不透過性ビーズにはバンデタニブが29.98mg/ml湿潤ビーズのレベルまで装填された。
【0123】
非放射線不透過性ビーズにはバンデタニブが26.4mg/mlのレベルまで装填された。
【0124】
実施例12(f)ミリプラチン
各バイアル1mLの水和ROマイクロスフェア(大きさ70~150μm、ヨウ素含有量134mgヨウ素/mlビーズ、実施例5に従って調製したもの)および非RO PVAマイクロスフェア(DC Bead 100-300、Biocompatibles社;英国)を1-メチル-2-ピロリジノン5mLで4回洗浄した。次いで、溶媒を除去した。ミリプラチン0.147gを1-メチル-2-ピロリジノン25mLと混合し、懸濁液を水浴中、75℃に加熱して、ミリプラチンを溶解させた。洗浄したビーズ中に薬液2mLを加え、混合物を75℃の水浴中に1時間置いた。ビーズ懸濁液をセルストレーナーでろ過して装填溶液を除去した後、生理食塩水約100mLで洗浄した。
【0125】
既知の体積のビーズを脱イオン水で洗浄し、凍結乾燥させた。ICP-OES(誘導結合プラズマ発光分光分析)を用いた元素分析により総白金量を決定し、ミリプラチンレベルに変換した。
【0126】
この実験を凍結乾燥ビーズの装填に同じ方法で繰り返した。表2は、湿潤ROビーズおよび凍結乾燥ROビーズ中にミリプラチンを装填した結果を示したものである。
【0127】
【表2】
【0128】
実施例12(g)イリノテカン
非ROビーズ(100-300μm-実施例4の高AMPS型に従って作製したもの)およびROビーズ(100~300μm、163mg I/mL、実施例5に従って作製したもの)の各ビーズ試料2mLをイリノテカン水溶液(10mg/mL)10mlと混合した。消耗された装填溶液中のイリノテカンレベルを384nmでのUV分光測定により決定することによって、装填量を測定した。非ROおよびROビーズにはともに、90分以内に薬物のほぼ100%が装填された。
【0129】
実施例12(h)トポテカン
非ROビーズ(70~150μm-実施例4の高AMPS型に従って作製したもの)およびROビーズ(70~150μm、146mg I/mL、実施例5に従って作製したもの)の各ビーズ試料1mLをトポテカン水溶液(15.08mg/mL)と混合して、攪拌下で40mg(2.5ml)または80mg(5ml)の用量を装填した。約1.5時間後、消耗された装填溶液中のトポテカンレベルを384nmでのUV分光測定により上記のように決定することによって、トポテカンの装填量を測定した。表3は、ROビーズ試料にトポテカンが最大80mg装填されたことを示している。非ROビーズおよびROビーズはともに、40mgトポテカンの98%超が装填された。
【0130】
【表3】
【0131】
実施例13.放射線不透過性ビーズからの薬物溶出
実施例13(a)ドキソルビシン。
褐色瓶に入れたPBS 1000mlに実施例12(a)に従って調製したドキソルビシン装填ビーズ(70~150μm、158mg I/ml、50mg/mlドキソルビシン)を室温で加えた。ビーズ懸濁液をマグネチックスターラーにより低速で攪拌した。試料採取時点で、溶出媒体1mLを5μmのフィルター針で取り出し、483nmで標準物質に対するUVによって分析した。溶出プロファイルを図4に示した。
【0132】
実施例13(b)スニチニブ
褐色瓶に入れたPBS 400ml、0.5g/L Tween 80に、実施例12(c)に従って調製したスニチニブ装填ビーズを水浴中、37℃で加えた。ビーズ懸濁液をマグネチックスターラーにより低速で攪拌した。1時間、2時間、3時間および4時間の試料採取時点で、HPLC分析(実施例13(c)の条件)用に溶出媒体10mLを5μmのフィルター針で取り出し、新鮮なPBS溶液10mLを加えて体積を補った。5時間、25時間、48時間および73時間の試料採取時点で、溶出媒体100mLを等体積の新鮮なPBS溶液と交換した。試料をHPLCにより分析した。溶出プロファイルを図6に示す。
【0133】
実施例13(c)ソラフィニブ(sorafinib)
褐色瓶に入れた0.5g/L Tween 80を含むPBS 400mLに、実施例12(d)に従って調製したソラフェニブ装填ビーズを水浴中、37℃で加えた。ビーズ懸濁液をマグネチックスターラーにより低速で攪拌した。1時間、2時間、4時間および6時間の試料採取時点で、HPLC分析用に溶出媒体10mLを5μmのフィルター針で取り出し、新鮮なPBS溶液10mLを加えて体積を400mLにした。8時間、24.5時間および31時間の試料採取時点で、溶出媒体100mLを等体積の新鮮なPBS溶液と交換した。各種類のビーズについて2回の反復試験を実施した。ROビーズおよび非ROビーズからのソラフェニブの溶出プロファイルを図6に示す。
【0134】
実施例13(d)バンデチニブ(vandetinib)
実施例12(e)に従って調製したバンデチニブ(vandetinib)装填ROビーズおよび非ROビーズ(バンデチニブ(vandetinib)/mlビーズのビーズ2ml、70~150μmのビーズおよび141mg I/ml湿潤ビーズのROビーズ)を、PBS 500mLを含みマグネチックフリー(magnetic flea)を入れた琥珀色の瓶に周囲温度で入れた。各試料採取時点で、蠕動ポンプによってすべてのPBS溶出媒体を瓶からカニューレフィルターを通して取り出し、同じ体積の新鮮なPBSと交換した。溶出媒体5μlを、254nmで検出するC18逆相HPLCにより分析した。溶出プロファイルを図7に示す。
【0135】
実施例13(e)ミリプラチン
実施例12(f)に従って作製したミリプラチン装填ビーズを、100mL Duran(登録商標)瓶に入れた1%のTween 80を含むPBS 50mLに加えた。瓶を37℃の水浴中に浮かせ75rpmで回転させて、ビーズを攪拌した。1日、5日、11日、15日および22日の試料採取時点で、ICP分析用に溶出媒体20mLを取り出し、新鮮なPBS/Tween溶液20mLを加えて50mLの体積にした。ROビーズおよび非ROビーズからのミリプラチンの溶出プロファイルを図8に示す。
【0136】
実施例13(f)イリノテカン
褐色瓶に入れたPBS 500mlに実施例12(g)で調製した試料163m I/mlを37℃で加え、マグネチックスターラーにより低速で攪拌した。試料採取時点で、溶出媒体1mlを5μmのフィルター針で取り出し、369nmで標準物質に対するUVによって分析した。溶出プロファイルを図9に示した。
【0137】
実施例14.薬物装填放射線不透過性ビーズの放射線不透過性
実施例13(a)に従って調製したドキソルビシン装填ビーズの一部を、実施例11に記載されている通りにマイクロCT解析に供した。薬物装填ビーズは放射線不透過性であることがわかった。平均のビーズ放射線不透過性(グレースケール)は139(n=3)と決定された。
【0138】
実施例15.凍結乾燥プロトコル。
本発明のマイクロスフェアは、薬物装填の有無を問わず、国際公開第07/147902号(15ページ)に記載されているプロトコルに従い、Lyo Screen Control(LSC)パネルとPfeiffer DUO 10 Rotary Vane Vacuumポンプとを備えLyolog LL-1文書化ソフトウェアによって制御されるEpsilon 1-6D凍結乾燥機(Martin Christ Gefriertrocknungsanlagen社、オスターオーデ・アム・ハルツ、ドイツ)を用いて、以下に簡潔に記載する通りに凍結乾燥させ得る。
【0139】
マイクロスフェアを真空を用いずに約-30℃で少なくとも1時間、凍結乾燥させた後、圧力が0.35~0.40mbarの範囲になるまで約30分かけて徐々に減圧しながら、温度を約-20℃まで上昇させる。この温度および圧力の条件を一晩維持した後、同じ圧力で温度を約1~2時間かけて室温まで上昇させ、次いで、サイクル時間が計24時間になるまでの一定時間、室温で約0.05mbarまで減圧する。
【0140】
調製物を減圧下で維持する必要がある場合、サイクル終了時に空気が実質的に入らないようにし、棚の位置を下げて下の棚にあるバイアルを封栓するバイアル封栓機構を作動させることによって、真空下でバイアルを封栓する。次いで、大気圧になるまでチャンバに空気を入れる。次いで、棚を元の位置に戻し、チャンバを開ける。試料を減圧下で維持しない場合、封栓する前に圧力を徐々に大気圧に戻す。
【0141】
実施例16:in vivoの塞栓術試験
この試験には雄ヨークシャー交雑種家畜ブタ(約14週齢)を用いた。
【0142】
麻酔導入後、大腿動脈にシースを留置し、透視下でイントロデューサにガイドワイヤを通して大動脈まで進めた。次いで、ガイドカテーテルをガイドワイヤを通して腹腔動脈の入口に留置した。ガイドワイヤを抜去し、造影剤を用いて腹腔動脈の分枝を可視化した。
【0143】
マイクロワイヤとマイクロカテーテルとを組み合わせたものをガイドカテーテルに通して総肝動脈の選択に使用し、肝体積の25~50%を分離した。マイクロカテーテルをガイドワイヤを通して肝葉内に挿入し、ガイドワイヤを抜去し、造影剤を用いて肝葉の血管造影像を捉えた。デジタルサブトラクション血管造影を実施して、カテーテルの位置を確認した。
【0144】
実施例5に従って調製したROビーズ(大きさ75~150μm、ヨウ素含有量141mg I/ml)2mlを20~30mLのシリンジに移し、充填溶液を捨てた。非イオン性造影剤(Visipaque(登録商標)320)5mLの入ったより小さなシリンジを、三方活栓を介して大きい方のシリンジに接続し、活栓を通過させることによってビーズを造影剤と混合した。造影剤を加えることによって総体積を20mLに調整した。この懸濁液を、ほぼ停滞状態が達成されるまで透視下で徐々に投与した。停滞状態を達成するために送達した懸濁液の体積は2~6mlであった。
【0145】
腹部CT画像を投与前、投与後1時間および24時間ならびに第7日および第14日に撮影した。第14日に、ベースラインCT画像を撮影し造影物質75ccを注入した。造影物質注入後、2回目のCT画像撮影を実施した。肝臓内のビーズの可視度について画像を分析した。
【0146】
ROビーズは処置中のX線でもCTでも視認できた。このことは、静脈内造影剤を使用せずに得られた第7日および第14日のCTスキャンで最もよく示された(図11を参照されたい)。ビーズは肝動脈の多数の分枝で容易に視認できた。ビーズは静脈内造影剤よりも減弱が大きく、静脈内造影剤と区別することが可能である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11(a)】
図11(b)】
図11(c)】
図11(d)】