(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-07
(45)【発行日】2024-05-15
(54)【発明の名称】オレフィン系樹脂、オレフィン系樹脂組成物、成形体およびオレフィン系樹脂の製造方法
(51)【国際特許分類】
C08F 255/00 20060101AFI20240508BHJP
C08F 4/42 20060101ALI20240508BHJP
C08L 23/02 20060101ALI20240508BHJP
【FI】
C08F255/00
C08F4/42
C08L23/02
(21)【出願番号】P 2020035639
(22)【出願日】2020-03-03
【審査請求日】2023-02-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000005887
【氏名又は名称】三井化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001070
【氏名又は名称】弁理士法人エスエス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】三村 真紀
(72)【発明者】
【氏名】菊地 誠也
(72)【発明者】
【氏名】柳本 泰
【審査官】赤澤 高之
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-235285(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 255/00
C08F 4/42
C08L 23/02
C08J 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1種の炭素原子数2~20のα-オレフィンと少なくとも1種の環状オレフィンとの共重合体から構成される主鎖、及び、
少なくとも1種の環状オレフィンの重合体、または、少なくとも1種の炭素原子数2~20のα-オレフィンと少なくとも1種の環状オレフィンとの共重合体から構成される側鎖
を有
し、かつ、
前記主鎖におけるα-オレフィンに由来する構造単位の含有率が、前記側鎖におけるα-オレフィンに由来する構造単位の含有率よりも5モル%以上大きく(但し、該主鎖におけるα-オレフィンに由来する構造単位の含有率は、側鎖となる(共)重合体を用いないで得られた共重合体におけるα-オレフィンに由来する構造単位の含有率である)、
前記主鎖の含有量は10~60質量%であり、前記側鎖の含有量は40~90質量%であり、
下記要件(I)を満たす、グラフト型オレフィン系重合体[R1
]。
(I)示差走査熱量分析(DSC)により測定したガラス転移点が50℃以下の領域と125℃以上の領域との両方にある。
【請求項2】
前記側鎖は、α-オレフィンに由来する構造単位の含有率が0~80モル%、環状オレフィンに由来する構造単位の含有率が20~100モル%であり、
前記主鎖は、α-オレフィンに由来する構造単位の含有率が40~99モル%、環状オレフィンに由来する構造単位の含有率が1~60モル%であ
る、
請求項1に記載の
グラフト型オレフィン系重合体[R1]。
【請求項3】
前記側鎖を構成する、少なくとも1種の環状オレフィンの重合体、または、少なくとも1種の炭素原子数2~20のα-オレフィンと少なくとも1種の環状オレフィンとの共重合体、の重量平均分子量が50000~100000である、請求項1または2に記載のグラフト型オレフィン系重合体[R1]。
【請求項4】
環状オレフィン系樹脂(α)と請求項1
~3のいずれか1項に記載の
グラフト型オレフィン系重合体[R1]とを含有する
環状オレフィン系樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1
~3のいずれか1項に記載の
グラフト型オレフィン系重合体[R1]の成形体。
【請求項6】
請求項
4に記載の環状オレフィン系樹脂組成物の成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オレフィン系樹脂、該オレフィン系樹脂を含むオレフィン系樹脂組成物、前記オレフィン系樹脂およびオレフィン系樹脂組成物から得られる成形体、ならびに前記オレフィン系樹脂の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
環状オレフィン系樹脂組成物は、その樹脂の剛直な構造に由来する物性として、耐衝撃性等が低く、成形用途で種々の耐衝撃性向上の検討がなされている(特許文献1、2等)。
一方、環状オレフィン系ブロック重合体を含む組成物については、特許文献3に開示がある。また、特許文献4には、異なる環状オレフィン含有量を有する2種以上のα-オレフィン・環状オレフィン共重合体ユニットからなるブロック共重合体の開示がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平5-320268号公報
【文献】特開2009-51922号公報
【文献】特開平5-339327号公報
【文献】特開2004-359798号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明者らの検討によると、耐熱性および耐衝撃性が特に高いレベルで求められる分野、例えば、バイアル、アンプルやシリンジ等の医療用容器の分野で環状オレフィン系樹脂組成物を適用しようとする場合、なお改善の余地がある。
特許文献3に開示されたブロック重合体を含む組成物では、耐衝撃性と耐熱性において改善が必要であった。また、特許文献3に開示されたブロック重合体の製造方法はリビング重合であるので、触媒量当たりの重合体の収量が低く、製造コストが高いという問題があった。
【0005】
特許文献4には、複数のガラス転移点を有する共重合体が報告されている。しかし、高温側のガラス転移点が十分に高いとは言い難く、より高い耐熱性および耐湿熱性が求められる上記分野等においては耐熱性および耐湿熱性がいまだ十分なものではなく、改善が必要と考えられた。
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものである。本発明は、環状オレフィン系樹脂において、製造コストを低く抑え、耐衝撃性および耐熱性を高いレベルで達成することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記目的を達成する本発明は、例えば以下の[1]~[7]に関する。
[1] 少なくとも1種の炭素原子数2~20のα-オレフィンと少なくとも1種の環状オレフィンとの共重合体から構成される主鎖、及び、
少なくとも1種の環状オレフィンの重合体、または、少なくとも1種の炭素原子数2~20のα-オレフィンと少なくとも1種の環状オレフィンとの共重合体から構成される側鎖
を有するグラフト型オレフィン系重合体[R1]を含み、下記要件(I)を満たす、オレフィン系樹脂(β)。
(I)示差走査熱量分析(DSC)により測定したガラス転移点が50℃以下の領域と125℃以上の領域との両方にある。
【0007】
[2] 前記側鎖は、α-オレフィンに由来する構造単位の含有率が0~80モル%、環状オレフィンに由来する構造単位の含有率が20~100モル%であり、
前記主鎖は、α-オレフィンに由来する構造単位の含有率が40~99モル%、環状オレフィンに由来する構造単位の含有率が1~60モル%であり、
かつ、前記主鎖におけるα-オレフィンに由来する構造単位の含有率が、前記側鎖におけるα-オレフィンに由来する構造単位の含有率よりも大きい、
[1]に記載のオレフィン系樹脂(β)。
【0008】
[3] 下記工程(A)及び工程(B)を含む、[1]または[2]に記載のオレフィン系樹脂(β)の製造方法。
工程(A):下記一般式(1)で表される周期表第4族の遷移金属化合物(A)を含むオレフィン重合用触媒存在下で、少なくとも1種の環状オレフィンを重合、または、少なくとも1種の炭素原子数2~20のα-オレフィンと少なくとも1種の環状オレフィンとを重合し、末端不飽和環状オレフィン系共重合体を製造する工程。
工程(B):下記一般式(2)で表される化合物(B)を含むオレフィン重合用触媒の存在下で、前記工程(A)で得られた末端不飽和環状オレフィン系共重合体と、少なくとも1種の炭素原子数2~20のα-オレフィンおよび少なくとも1種の環状オレフィンとを共重合する工程。
【0009】
【化1】
(式(1)中、Mは周期表第4族の遷移金属を示し、mは1~4の整数を示し、R
1およびR
6は、炭素原子数1~30の炭化水素基であり、R
2~R
5は、互いに同一でも異なっていてもよく、水素原子、ハロゲン原子、炭化水素基、環状不飽和炭化水素基、ヘテロ環式化合物残基、酸素含有基、窒素含有基、ホウ素含有基、イオウ含有基、リン含有基、ケイ素含有基、ゲルマニウム含有基、またはスズ含有基を示し、これらのうちの2個以上が互いに連結して環を形成していてもよく、また、mが2以上の場合にはR
2~R
6で示される基のうち2個の基が連結されていてもよく、nは、Mの価数を満たす数であり、Xは、水素原子、ハロゲン原子、炭化水素基、酸素含有基、イオウ含有基、窒素含有基、ホウ素含有基、アルミニウム含有基、リン含有基、ハロゲン含有基、ヘテロ環式化合物残基、ケイ素含有基、ゲルマニウム含有基、またはスズ含有基を示し、nが2以上の場合には、互いに同一であっても、異なっていてもよく、またXで示される複数の基は互いに結合して環を形成してもよい。)
【0010】
【化2】
(式(2)中、Mは、元素の周期表の3~6族から選ばれる金属原子であり、
nは0~5の整数であり、nが0の場合にはXは存在せず、
Xは、独立に中性、モノアニオン性、ジアニオン性、トリアニオン性もしくはテトラアニオン性の一座配位リガンドであるか、または2つのXにより形成される、中性、モノアニオン性もしくはジアニオン性の二座配位リガンドであり、Xとnは、化合物(B)が全体で中性となるように選択され、
Zは、独立にO、S、N(C
1-C
40)ヒドロカルビルまたはP(C
1-C
40)ヒドロカルビルであり、
Lは、(C
1-C
40)ヒドロカルビレンまたは(C
1-C
40)ヘテロヒドロカルビレンであり、前記(C
1-C
40)ヒドロカルビレンは、前記Zを連結する1炭素原子~18炭素原子リンカー主鎖を含む部分を有し、前記(C
1-C
40)ヘテロヒドロカルビレンは、前記Zを連結する1原子~18原子リンカー主鎖を含む部分を有し、前記(C
1-C
40)ヘテロヒドロカルビレンの1原子~18原子リンカー主鎖における1~18原子は、それぞれ独立に炭素原子またはヘテロ原子であり、前記ヘテロ原子は、独立にO、S、S(O)、S(O)
2、Si(
RC)
2、P(
RP)またはN(
RN)であり、前記
RCは、独立に置換もしくは未置換の(C
1-C
18)ヒドロカルビルまたは(C
1-C
18)ヘテロヒドロカルビルであり、前記
RPは、独立に置換もしくは未置換の(C
1-C
18)ヒドロカルビルまたは(C
1-C
18)ヘテロヒドロカルビルであり、前記
RNは、独立に置換もしくは未置換の(C
1-C
18)ヒドロカルビルまたは(C
1-C
18)ヘテロヒドロカルビルであるか、あるいは存在せず、 R
3a、R
4a、R
3bおよびR
4bは、それぞれ独立に水素原子、(C
1-C
40)ヒドロカルビル、(C
1-C
40)ヘテロヒドロカルビル、Si(
RC)
3、O(
RC)、S(
RC)、N(
RN)
2、P(
RP)
2またはハロゲン原子であり、
R
6c、R
7cおよびR
8cの少なくとも1つ、ならびに、R
6d、R
7dおよびR
8dの少なくとも1つは、独立に(C
2-C
40)ヒドロカルビルまたはSi(
RC)
3であり、それ以外のR
6c、R
7c、R
8c、R
6d、R
7dおよびR
8dは、独立に水素原子、(C
1-C
40)ヒドロカルビル、(C
1-C
40)ヘテロヒドロカルビル、Si(
RC)
3、O(
RC)、S(
RC)、N(
RN)
2、P(
RP)
2またはハロゲン原子であり、
R
3a、R
4a、R
3b、R
4b、R
6c、R
7c、R
8c、R
6d、R
7dおよびR
8dから任意に選択される2つ以上のR基が結合して1つまたは複数の環構造を形成してもよく、この環構造は、環中に水素原子を除く3~50原子を有し、
R
5cおよびR
5fの少なくとも1つは、独立に(C
1-C
40)ヒドロカルビル、(C
1-C
40)ヘテロヒドロカルビル、Si(
RC)
3、O(
RC)、S(
RC)、(
RN)
2、P(
RP)
2またはハロゲン原子であり、それ以外のR
5cおよびR
5fは、独立に水素原子、(C
1-C
40)ヒドロカルビル、(C
1-C
40)ヘテロヒドロカルビル、Si(
RC)
3、O(
RC)、S(
RC)、N(
RN)
2、P(
RP)
2またはハロゲン原子であり、
R
5ccおよびR
5ffの少なくとも1つは、独立に(C
1-C
40)ヒドロカルビル、(C
1-C
40)ヘテロヒドロカルビル、Si(
RC)
3、O(
RC)、S(
RC)、N(
RN)
2、P(
RP)
2またはハロゲン原子であり、それ以外のR
5ccおよびR
5ffは、独立に水素原子、(C
1-C
40)ヒドロカルビル、((C
1-C
40)ヘテロヒドロカルビル、Si(
RC)
3、O(
RC)、S(
RC)、N(
RN)
2、P(
RP)
2またはハロゲン原子であり、
R
9a、R
10a、R
11a、R
9b、R
10b、R
11b、R
9aa、R
10aa、R
11aa、R
9bb、R
10bbおよびR
11bbは、それぞれ独立に水素原子、(C
1-C
40)ヒドロカルビル、(C
1-C
40)ヘテロヒドロカルビル、Si(
RC)3、O(
RC)、S(
RC)、N(
RN)
2、P(
RP)
2またはハロゲン原子であり、
カルバゾール基上の置換基から任意に選択される2つ以上のR基(が結合して1つまたは複数の環構造を形成してもよく、この環構造は、環中に水素原子を除く3~50原子を有し、
上述のヒドロカルビル、ヘテロヒドロカルビル、ヒドロカルビレンおよびヘテロヒドロカルビレン基は、それぞれ独立に、未置換であるか、または少なくとも1つの置換基R
sで置換(R
sによる過置換まで)され、
R
5c+R
5f+R
7cの炭素原子の合計またはR
5cc+R
5ff+R
7dの炭素原子の合計が5炭素原子を超え、
R
sは、独立にハロゲン原子、ポリフルオロ置換、パーフルオロ置換、未置換(C
1-C
18)アルキル、F
3C-、FCH
2O-、F
2HCO-、F
3CO-、R
3Si-、RO-、RS-、RS(O)-、RS(O)
2-、R
2P-、R
2N-、R
2C=N-、NC-、RC(O)O-、ROC(O)-、RC(O)N(R)-またはR
2NC(O)-であるか、あるいは、前記R
sの2つが結合して未置換(C
1-C
18)アルキレンを形成し、前記Rは独立に未置換(C
1-C
18)アルキルである。)
【0011】
[4] 環状オレフィン系樹脂(α)と[1]または[2]に記載のオレフィン系樹脂(β)とを含有するオレフィン系樹脂組成物。
[5] 前記環状オレフィン系樹脂(α)1~99質量部およびオレフィン系樹脂(β)1~99質量部(環状オレフィン系樹脂(α)とオレフィン系樹脂(β)の合計は100質量部である) を含有する[4]に記載の環状オレフィン系樹脂組成物。
【0012】
[6] [1]または[2]に記載のオレフィン系樹脂(β)の成形体。
[7] [4]または[5]に記載の環状オレフィン系樹脂組成物の成形体。
【発明の効果】
【0013】
本発明のオレフィン系樹脂は、耐衝撃性および耐熱性を高いレベルで達成することができる。また、本発明のオレフィン系樹脂は、製造コストを低く抑えて製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明に係るオレフィン系樹脂[β]、当該樹脂[β]の製造方法、オレフィン系樹脂組成物および成形体について詳説する。
【0015】
<オレフィン系樹脂(β)>
本発明のオレフィン系樹脂(β)(以下、「樹脂(β)」ともいう。)は、前記グラフト型オレフィン系重合体[R1]を必須の構成成分として含む。該グラフト型オレフィン系重合体[R1]は、少なくとも1種の炭素原子数2~20のα-オレフィンと少なくとも1種の環状オレフィンとの共重合体から構成される主鎖、及び、少なくとも1種の環状オレフィンの重合体、または、少なくとも1種の炭素原子数2~20のα-オレフィンと少なくとも1種の環状オレフィンとの共重合体から構成される側鎖を有するグラフト共重合体である。
なお、本発明において「グラフト(共)重合体」あるいは「グラフト型重合体」という語は、主鎖に対し側鎖が1本以上結合したポリマーを意味する。
【0016】
オレフィン系樹脂(β)は、下記要件(I)を満たす。
(I)示差走査熱量分析(DSC)により測定したガラス転移点(Tg)が50℃以下の領域と125℃以上の領域との両方にある。
より好ましくは、オレフィン系樹脂(β)は、示差走査熱量測定により測定したガラス転移点が30℃以下の領域と125℃以上の領域の両方にある。
この2つのガラス転移点のうち、低温側のガラス転移点の温度をTg1、高温側のガラス転移点の温度をTg2としたとき、Tg1の好ましい範囲は-50~50℃、より好ましい範囲は0℃~30℃である。また、Tg2の好ましい範囲は125~180℃、より好ましい範囲は125~160℃である。
本明細書において、ガラス転移点は、例えば、JIS K 7121で定められている中間点ガラス転移温度として定義することができる。すなわち、示差走査熱量分析(DSC:Differential Scanning Calorimetry)により得られるDSC曲線において、各ベースラインの延長した直線から縦軸方向に等距離にある直線と、ガラス転移の階段状変化部分の曲線とが交わる点の温度を、ガラス転移温度とすることができる。
低温側のガラス転移点の温度をTg1が上記範囲にあることは、衝撃強度を高める点において好ましい。また、高温側のガラス転移点の温度をTg2が上記範囲にあることは、耐熱性を高める点において好ましい。
ガラス転移温度を上記範囲に調整する方法については、オレフィン系樹脂(β)の製造方法の項で詳述する。
なお、Tg1およびTg2は、オレフィン系樹脂(β)を単独で測定することにより求められるものである。
【0017】
上述のオレフィン系樹脂(β)は、耐熱性および耐衝撃性に優れる。オレフィン系樹脂(β)にそのような特性が得られる理由は、必ずしも明らかではないが、以下のように考えることができる。
環状オレフィンは、その剛直な構造から高耐熱、高剛性である。しかし、一方では、「脆い」、つまり、衝撃に対して割れやすい場合がある。
この「脆さ」(割れやすさ)を改善するため、α-オレフィン等を環状オレフィンと共重合して、樹脂の剛性を適度に低下させることが考えられる。
しかし、α-オレフィンと環状オレフィンとを単にランダム共重合すると、環状オレフィン構造の担う機能が、α-オレフィンにより「希釈」ないし「相殺」され、結果、所望の強度等が得られないおそれがある。
【0018】
ここで、オレフィン系樹脂(β)が「ガラス転移点が50℃以下の領域と125℃以上の領域の両方にある」という要件を満たすことは、オレフィン系樹脂(β)が、熱に対する分子運動性が顕著に異なる2以上の部位を含むことを意味すると考えられる。すなわち、要件(I)を満たすことは、オレフィン系樹脂(β)が、樹脂の脆さを緩和するα-オレフィンがリッチな部位と、樹脂の剛性を担保する環状オレフィンがリッチな部位の両方を有している重合体を含むことを示している。
【0019】
このようなオレフィン系樹脂(β)であれば、環状オレフィン構造の担う機能が、α-オレフィンにより希釈ないし相殺されることがなく、環状オレフィンとα-オレフィン双方に由来する性質がそれぞれ発現されると考えられる。その結果、良好な耐衝撃性を得ることができると考えられる。
【0020】
特に、オレフィン系樹脂(β)は、高温側のガラス転移点が125℃以上の領域にあることで耐熱性に優れ、50℃以下の低温領域にガラス転移温度があることで衝撃強度に優れるという効果が得られると考えられる。このような性質は、特に、高温殺菌・滅菌などへの適性、および、割れにくさが求められる医療用容器への適用に好ましいと考えられる。
【0021】
オレフィン系樹脂(β)に含まれるグラフト型オレフィン系重合体[R1]は、前述のとおり、主鎖および側鎖を有する。オレフィン系樹脂(β)は、前述のとおり、50℃以下の低温領域と125℃以上の高温領域との両方にガラス転移点を有するが、これらのガラス転移温点はグラフト型オレフィン系重合体[R1]に起因する。特に制限はないが、前記低温領域のガラス転移点および高温領域のガラス転移点は、グラフト型オレフィン系重合体[R1]の主鎖または側鎖に起因する。例えば、前記低温領域のガラス転移点は主鎖に起因し、高温領域のガラス転移点は側鎖に起因して発現されるか、または、前記低温領域のガラス転移点は側鎖に起因し、高温領域のガラス転移点は主鎖に起因して発現される。
【0022】
グラフト型オレフィン系重合体[R1]の主鎖は、少なくとも1種の炭素原子数2~20のα-オレフィンと、少なくとも1種の環状オレフィンとの共重合体から構成される。
前記炭素原子数2~20のα-オレフィンの具体例としては、エチレン、プロピレン、1-ブテン、2-メチル-1-プロペン、2-メチル-1-ブテン、3-メチル-1-ブテン、1-ヘキセン、2-エチル-1-ブテン、2,3-ジメチル-1-ブテン、2-メチル-1-ペンテン、3-メチル-1-ペンテン、4-メチル-1-ペンテン、3,3-ジメチル-1-ブテン、1-ヘプテン、メチル-1-ヘキセン、ジメチル-1-ペンテン、エチル-1-ペンテン、トリメチル-1-ブテン、メチルエチル-1-ブテン、1-オクテン、メチル-1-ペンテン、エチル-1-ヘキセン、ジメチル-1-ヘキセン、プロピル-1-ヘプテン、メチルエチル-1-ヘプテン、トリメチル-1-ペンテン、プロピル-1-ペンテン、ジエチル-1-ブテン、1-ノネン、1-デセン、1-ウンデセン、1-ドデセン等を挙げることができる。
より好ましくは、炭素原子数2~10のα-オレフィンであり、さらに好ましくは炭素原子数2~8のα-オレフィンである。具体的には、エチレン、プロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、1-オクテン、1-デセンなどの直鎖状オレフィン、および4-メチル-1-ペンテン、3-メチル-1-ペンテン、3-メチル-1-ブテン等の分岐状オレフィンを挙げることができ、中でもエチレン、プロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、1-オクテンが好ましい。
前記α-オレフィンは、1種単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0023】
前記環状オレフィンは、環構造内に二重結合を有する、置換基を有していてもよい炭化水素類である。具体的には、シクロブテン、シクロペンテン、シクロオクテンなどの単環の環状オレフィン;ノルボルネン、ジシクロペンタジエンなどのノルボルネン環構造を有する化合物(以下、単に「ノルボルネン化合物」と言う。);を挙げることができる。
前記環状オレフィンの具体例としては、たとえば、下記一般式(3)で示される環状オレフィンが挙げられる。
【0024】
【化3】
(式(3)中、R
1~R
4は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子または炭化水素基であり、R
1とR
4とは互いに結合して単環または多環を形成していてもよく、かつ該単環または多環が二重結合を有してもよく、また、R
1とR
2とでアルキリデンを形成してもよく、R
3とR
4とでアルキリデンを形成してもよい。mは0または1である。)
このようなノルボルネン化合物の具体的例を挙げると、m=0であるノルボルネン類としては、2-ノルボルネン;5-クロロ-2-ノルボルネン、5-ブロモ-2-ノルボルネンなどのハロゲン原子を有するノルボルネン類;5-メチル-2-ノルボルネン、5-エチル-2-ノルボルネン、5-ブチル-2-ノルボルネン、5-ヘキシル-2-ノルボルネン、5-デシル-2-ノルボルネンなどのアルキル基を有するノルボルネン類;5-ビニル-2-ノルボルネン、5-プロペニル-2-ノルボルネンなどのアルケニル基を有するノルボルネン類;5-シクロヘキシル-2-ノルボルネン、5-シクロペンチル-2-ノルボルネンなどのシクロアルキル基を有するノルボルネン類;5-シクロペンテニル-2-ノルボルネン、5-シクロヘキセニル-2-ノルボルネンなどのシクロアルケニル基を有するノルボルネン類;5-フェニル-2-ノルボルネン、p-メチル-5-フェニル-2-ノルボルネン、o-メチル-5-フェニル-2-ノルボルネン、m-メチル-5-フェニル-2-ノルボルネンなどの芳香族炭化水素基を有するノルボルネン類;5-クロロメチル-2-ノルボルネン、p-クロロ-5-フェニル-2-ノルボルネンなどのハロゲン原子が置換された炭化水素基を有するノルボルネン類;を挙げることができる。
m=0であり、R1とR4とが互いに結合して単環または多環を形成するものとして、ジシクロペンタジエン、メチルジシクロペンタジエン、ジヒドロジシクロペンタジエン(トリシクロ[5.2.1.0
2,6]デカ-8-エン)、テトラシクロ[9.2.1.0
2,10.0
3,8]テトラデカ-3,5,7,12-テトラエン(1,4-メタノ-1,4,4a,9a-テトラヒドロ-9H-フルオレンともいう)、テトラシクロ[10.2.1.0
2,11.0
4,9]ペンタデカ-4,6,8,13-テトラエン(1,4-メタノ-1,4,4a,9,9a,10-ヘキサヒドロアントラセンともいう)などを挙げることができる。
また、m=0であり、R
1とR
2とで、またはR
3とR
4とでアルキリデンを形成するものとしては、5-メチリデン-2-ノルボルネン、5-エチリデン-2-ノルボルネン、5-プロピリデン-2-ノルボルネン、5-イソプロピリデン-2-ノルボルネンなどを挙げることができる。
m=1であるテトラシクロドデセン類としては、テトラシクロ[6.2.1.1
3,6.0
2,7]ドデカ-4-エン;9-クロロテトラシクロ[6.2.1.1
3,6.0
2,7]ドデカ-4-エン、9-ブロモテトラシクロ[6.2.1.1
3,6.0
2,7]ドデカ-4-エンなどのハロゲン原子を有するテトラシクロドデセン類;9-メチルテトラシクロ[6.2.1.1
3,6.0
2,7]ドデカ-4-エン、9-エチルテトラシクロ[6.2.1.1
3,6.0
2,7]ドデカ-4-エン、9-ブチルテトラシクロ[6.2.1.1
3,6.0
2,7]ドデカ-4-エン、9-ヘキシルテトラシクロ[6.2.1.1
3,6.0
2,7]ドデカ-4-エン、9-デシルテトラシクロ[6.2.1.1
3,6.0
2,7]ドデカ-4-エンなどのアルキル基を有するテトラシクロドデセン類;9-ビニルテトラシクロ[6.2.1.1
3,6.0
2,7]ドデカ-4-エン、9-プロペニルテトラシクロ[6.2.1.1
3,6.0
2,7]ドデカ-4-エンなどのアルケニル基を有するテトラシクロドデセン類;9-シクロヘキシルテトラシクロ[6.2.1.1
3,6.0
2,7]ドデカ-4-エン、9-シクロペンチルテトラシクロ[6.2.1.1
3,6.0
2,7]ドデカ-4-エンなどのシクロアルキル基を有するテトラシクロドデセン類;9-シクロペンテニルテトラシクロ[6.2.1.1
3,6.0
2,7]ドデカ-4-エン、9-シクロヘキセニルテトラシクロ[6.2.1.1
3,6.0
2,7]ドデカ-4-エンなどのシクロアルケニル基を有するテトラシクロドデセン類;9-フェニルテトラシクロ[6.2.1.1
3,6.0
2,7]ドデカ-4-エンなどの芳香族炭化水素基を有するテトラシクロドデセン類;9-クロロメチルテトラシクロ[6.2.1.1
3,6.0
2,7]ドデカ-4-エンなどのハロゲン原子が置換された炭化水素基を有するテトラシクロドデセン類;を挙げることができる。
また、m=1であり、R
1とR
2とで、またはR
3とR
4とでアルキリデンを形成するものとしては、9-メチレンテトラシクロ[6.2.1.1
3,6.0
2,7]ドデカ-4-エン、9-エチリデンテトラシクロ[6.2.1.1
3,6.0
2,7]ドデカ-4-エンなどを挙げることができる。
上記式(3)で示される環状オレフィンとしては、2-ノルボルネンおよびテトラシクロ[6.2.1.1
3,6.0
2,7]ドデカ-4-エンから選ばれる少なくとも一種が好ましい。
前記環状オレフィンは、1種単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
グラフト型オレフィン系重合体[R1]の主鎖を構成する共重合体は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)よりポリスチレン換算値として求められる重量平均分子量が10000~500000の範囲にあることが好ましく、100000~200000の範囲であることがより好ましい。
【0025】
主鎖を構成する共重合体の重量平均分子量は、例えば、後述する末端不飽和環状オレフィン系共重合体を含まない条件下で製造した場合のα-オレフィン・環状オレフィン共重合体を分析することなどにより求められる。
【0026】
グラフト型オレフィン系重合体[R1]の側鎖は、少なくとも1種の環状オレフィンの重合体、または、少なくとも1種の炭素原子数2~20のα-オレフィンと少なくとも1種の環状オレフィンとの共重合体から構成される。
側鎖におけるα-オレフィンおよび環状オレフィンは、それぞれ前記主鎖におけるα-オレフィンおよび環状オレフィンと同様である。
【0027】
グラフト型オレフィン系重合体[R1]の側鎖を構成する環状オレフィン重合体または環状オレフィン系共重合体の重量平均分子量は、10000~100000の範囲にあることが好ましい。後述する環状オレフィン樹脂(α)との相溶性を向上させるためには10000~50000の範囲であることが好ましい。
【0028】
一方、前記重量平均分子量が10000より小さいと、十分な相溶効果が得られず耐衝撃性が低下し、100000より大きいと、環状オレフィン系樹脂(α)へのオレフィン系樹脂(β)の分散不良がおこり、耐衝撃効果を得ることが困難になる場合がある。
【0029】
前記重量平均分子量はゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)よって求められるポリスチレン換算の重量平均分子量である。側鎖を構成する環状オレフィン系共重合体等の重量平均分子量は、例えば、後述するオレフィン系樹脂の製造方法の工程(A)から得られる重合体を分析することから求められる。
【0030】
グラフト型オレフィン系重合体[R1]の主鎖および側鎖は、本発明の効果を奏する限り、α-オレフィンに由来する構造単位および環状オレフィンに由来する構造単位以外の構造単位を含んでいてもよい。そのような構造単位の割合は、主鎖および側鎖の全構造単位中、通常0~20モル%、好ましくは0~10モル%である。
【0031】
グラフト型オレフィン系重合体[R1]の好適な態様として、側鎖は、α-オレフィンに由来する構造単位の含有率が0~80モル%、環状オレフィンに由来する構造単位の含有率が20~100モル%であり、主鎖は、α-オレフィンに由来する構造単位の含有率が40~99モル%、環状オレフィンに由来する構造単位の含有率が1~60モル%であり、かつ、主鎖におけるα-オレフィンに由来する構造単位の含有率が、側鎖におけるα-オレフィンに由来する構造単位の含有率よりも大きい重合体を挙げることができる。また、主鎖における環状オレフィンに由来する構造単位のモル比は、側鎖における環状オレフィンに由来する構造単位のモル比よりも小さいことが好ましい。
【0032】
このような態様のグラフト型オレフィン系重合体[R1]を含むオレフィン系樹脂(β)においては、側鎖の分子運動性が、125℃以上の領域のガラス転移点として観測され、主鎖の分子運動性が、50℃以下のガラス転移点として観測されるものと考えられる。
側鎖中のα-オレフィンに由来する構造単位の含有量は、通常0~80モル%、好ましくは30~80モル%、より好ましくは50~75モル%である。
側鎖中の環状オレフィンに由来する構造単位の含有量は、通常20~100モル%、好ましくは20~70モル%、より好ましくは25~50モル%である。
主鎖中のα-オレフィンに由来する構造単位の含有量は、通常40~99モル%、好ましくは70~95モル%である。
主鎖中の環状オレフィンに由来する構造単位の含有量は、通常1~60モル%、好ましくは5~30モル%である。
【0033】
また、主鎖中のα-オレフィンに由来する構造単位の含有量(モル%)は、側鎖中のα-オレフィンに由来する構造単位の含有量(モル%)よりも、5モル%以上大きいことが好ましく、10モル%以上大きいことがより好ましく、15モル%以上大きいことがさらに好ましい。
【0034】
グラフト型オレフィン系重合体[R1]のその他の好適な態様として、主鎖は、α-オレフィンに由来する構造単位の含有率が0~80モル%、環状オレフィンに由来する構造単位の含有率が20~100モル%であり、側鎖は、α-オレフィンに由来する構造単位の含有率が40~99モル%、環状オレフィンに由来する構造単位の含有率が1~60モル%であり、かつ、側鎖におけるα-オレフィンに由来する構造単位の含有率が、主鎖におけるα-オレフィンに由来する構造単位の含有率よりも大きい重合体を挙げることができる。また、側鎖における環状オレフィンに由来する構造単位のモル比は、主鎖における環状オレフィンに由来する構造単位のモル比よりも小さいことが好ましい。
【0035】
このような態様のグラフト型オレフィン系重合体[R1]を含むオレフィン系樹脂(β)においては、主鎖の分子運動性が、125℃以上の領域のガラス転移点として観測され、側鎖の分子運動性が、50℃以下のガラス転移点として観測されるものと考えられる。
主鎖中のα-オレフィンに由来する構造単位の含有量は、通常0~80モル%、好ましくは30~80モル%、より好ましくは50~75モル%である。
主鎖中の環状オレフィンに由来する構造単位の含有量は、通常20~100モル%、好ましくは20~70モル%、より好ましくは25~50モル%である。
側鎖中のα-オレフィンに由来する構造単位の含有量は、通常40~99モル%、好ましくは70~95モル%である。
側鎖中の環状オレフィンに由来する構造単位の含有量は、通常1~60モル%、好ましくは5~30モル%である。
【0036】
また、側鎖中のα-オレフィンに由来する構造単位の含有量(モル%)は、主鎖中のα-オレフィンに由来する構造単位の含有量(モル%)よりも、5モル%以上大きいことが好ましく、10モル%以上大きいことがより好ましく、15モル%以上大きいことがさらに好ましい。
【0037】
グラフト型オレフィン系重合体[R1]中の、主鎖の含有量は、グラフト型オレフィン系重合体[R1]の全体に対して1~80質量%であることが好ましく、10~60質量%であることがより好ましい。
【0038】
また、グラフト型オレフィン系重合体[R1]中の、側鎖の含有量は、グラフト型オレフィン系重合体[R1]の全体に対して20~99質量%であることが好ましく、40~90質量%であることがより好ましい。このような範囲とすることで、耐衝撃性を高め、かつ脆さを緩和することができる。
主鎖および側鎖内におけるα-オレフィンに由来する構造単位および環状オレフィンに由来する構造単位の含有量(共重合比)を前述のようにすることで、ガラス転移点が50℃以下の領域と125℃以上の領域との両方にあるオレフィン系樹脂(β)が得られる。
主鎖および側鎖内におけるα-オレフィンに由来する構造単位および環状オレフィンに由来する構造単位の含有量(共重合比)は、例えば、重合反応における仕込みモノマー量、追添モノマー量、残存モノマー量などから求めることができる。
【0039】
また、別の方法としては、(1)まず、α-オレフィンに由来する構造単位と環状オレフィンに由来する構造単位の共重合比が既知の(または通常の手法で精度よく測定可能な)ランダム重合体のガラス転移温度を測定することにより、各構造単位の含有量とガラス転移温度の相関式を求め、(2)次に、その相関式に、オレフィン系樹脂(β)で測定されたガラス転移温度を代入することで求めることもできる。発明者らの知見によると、側鎖の分子運動と主鎖の分子運動は独立性が高く、このような手法により、十分な精度で、各セグメント内におけるα-オレフィンに由来する構造単位および環状オレフィンに由来する構造単位の含有量(共重合比)を知ることができる。
グラフト型オレフィン系重合体[R1]中における、側鎖の含有量および主鎖の含有量は、例えば、重合反応における仕込みモノマー量、追添モノマー量、残存モノマー量などから求めることができる。
【0040】
また、別の方法としては、グラフト型オレフィン系重合体[R1]全体を基準としたα-オレフィンに由来する構造単位および/または環状オレフィンに由来する構造単位の共重合比(13C-NMRなどで求めらえる)と、主鎖および側鎖内におけるα-オレフィンに由来する構造単位および/または環状オレフィンに由来する構造単位の共重合比から、方程式を立式して求めることもできる。
【0041】
なお、側鎖の「長さ」は、オレフィン系樹脂(β)が、側鎖に由来すると考えられるガラス転移点を有する限り特に限定されないが、典型的には、モノマーに由来する構造単位10個分以上(好ましくは20個以上、より好ましくは40個以上)、または、ポリマー鎖中の分子量500以上(好ましくは1000以上、より好ましくは2000以上)である。側鎖がこのような長さとなるようにグラフト型オレフィン系重合体[R1]を合成することで、オレフィン系樹脂(β)が確実に2つのガラス転移点を有することとなり、本発明の効果を確実に得ることができる。
主鎖の「長さ」についても、側鎖と同様である。
【0042】
<オレフィン系樹脂(β)の製造方法>
オレフィン系樹脂(β)は、たとえば下記工程(A)および工程(B)の各工程を含む製造方法により製造される。
工程(A):下記一般式(1)で表される周期表第4族の遷移金属化合物(A)を含むオレフィン重合用触媒存在下で、少なくとも1種の環状オレフィンを重合、または、少なくとも1種の炭素原子数2~20のα-オレフィンと少なくとも1種の環状オレフィンとを重合し、末端不飽和環状オレフィン系共重合体を製造する工程。
工程(B):下記一般式(2)で表される化合物(B)を含むオレフィン重合用触媒の存在下で、前記工程(A)で得られた末端不飽和環状オレフィン系共重合体と、少なくとも1種の炭素原子数2~20のα-オレフィンおよび少なくとも1種の環状オレフィンとを共重合する工程。
【0043】
【化4】
(式(1)中、Mは周期表第4族の遷移金属を示し、mは1~4の整数を示し、R
1およびR
6は、炭素原子数1~30の炭化水素基であり、R
2~R
5は、互いに同一でも異なっていてもよく、水素原子、ハロゲン原子、炭化水素基、環状不飽和炭化水素基、ヘテロ環式化合物残基、酸素含有基、窒素含有基、ホウ素含有基、イオウ含有基、リン含有基、ケイ素含有基、ゲルマニウム含有基、またはスズ含有基を示し、これらのうちの2個以上が互いに連結して環を形成していてもよく、また、mが2以上の場合にはR
2~R
6で示される基のうち2個の基が連結されていてもよく、nは、Mの価数を満たす数であり、Xは、水素原子、ハロゲン原子、炭化水素基、酸素含有基、イオウ含有基、窒素含有基、ホウ素含有基、アルミニウム含有基、リン含有基、ハロゲン含有基、ヘテロ環式化合物残基、ケイ素含有基、ゲルマニウム含有基、またはスズ含有基を示し、nが2以上の場合には、互いに同一であっても、異なっていてもよく、またXで示される複数の基は互いに結合して環を形成してもよい。)
【0044】
【化5】
(式(2)中、Mは、元素の周期表の3~6族から選ばれる金属原子であり、
nは0~5の整数であり、nが0の場合にはXは存在せず、
Xは、独立に中性、モノアニオン性、ジアニオン性、トリアニオン性もしくはテトラアニオン性の一座配位リガンドであるか、または2つのXにより形成される、中性、モノアニオン性もしくはジアニオン性の二座配位リガンドであり、Xとnは、化合物(B)が全体で中性となるように選択され、
Zは、独立にO、S、N(C
1-C
40)ヒドロカルビルまたはP(C
1-C
40)ヒドロカルビルであり、
Lは、(C
1-C
40)ヒドロカルビレンまたは(C
1-C
40)ヘテロヒドロカルビレンであり、前記(C
1-C
40)ヒドロカルビレンは、前記Zを連結する1炭素原子~18炭素原子リンカー主鎖を含む部分を有し、前記(C
1-C
40)ヘテロヒドロカルビレンは、前記Zを連結する1原子~18原子リンカー主鎖を含む部分を有し、前記(C
1-C
40)ヘテロヒドロカルビレンの1原子~18原子リンカー主鎖における1~18原子は、それぞれ独立に炭素原子またはヘテロ原子であり、前記ヘテロ原子は、独立にO、S、S(O)、S(O)
2、Si(
RC)
2、P(
RP)またはN(
RN)であり、前記
RCは、独立に置換もしくは未置換の(C
1-C
18)ヒドロカルビルまたは(C
1-C
18)ヘテロヒドロカルビルであり、前記
RPは、独立に置換もしくは未置換の(C
1-C
18)ヒドロカルビルまたは(C
1-C
18)ヘテロヒドロカルビルであり、前記
RNは、独立に置換もしくは未置換の(C
1-C
18)ヒドロカルビルまたは(C
1-C
18)ヘテロヒドロカルビルであるか、あるいは存在せず、 R
3a、R
4a、R
3bおよびR
4bは、それぞれ独立に水素原子、(C
1-C
40)ヒドロカルビル、(C
1-C
40)ヘテロヒドロカルビル、Si(
RC)
3、O(
RC)、S(
RC)、N(
RN)
2、P(
RP)
2またはハロゲン原子であり、
R
6c、R
7cおよびR
8cの少なくとも1つ、ならびに、R
6d、R
7dおよびR
8dの少なくとも1つは、独立に(C
2-C
40)ヒドロカルビルまたはSi(
RC)
3であり、それ以外のR
6c、R
7c、R
8c、R
6d、R
7dおよびR
8dは、独立に水素原子、(C
1-C
40)ヒドロカルビル、(C
1-C
40)ヘテロヒドロカルビル、Si(
RC)
3、O(
RC)、S(
RC)、N(
RN)
2、P(
RP)
2またはハロゲン原子であり、
R
3a、R
4a、R
3b、R
4b、R
6c、R
7c、R
8c、R
6d、R
7dおよびR
8dから任意に選択される2つ以上のR基が結合して1つまたは複数の環構造を形成してもよく、この環構造は、環中に水素原子を除く3~50原子を有し、
R
5cおよびR
5fの少なくとも1つは、独立に(C
1-C
40)ヒドロカルビル、(C
1-C
40)ヘテロヒドロカルビル、Si(
RC)
3、O(
RC)、S(
RC)、(
RN)
2、P(
RP)
2またはハロゲン原子であり、それ以外のR
5cおよびR
5fは、独立に水素原子、(C
1-C
40)ヒドロカルビル、(C
1-C
40)ヘテロヒドロカルビル、Si(
RC)
3、O(
RC)、S(
RC)、N(
RN)
2、P(
RP)
2またはハロゲン原子であり、
R
5ccおよびR
5ffの少なくとも1つは、独立に(C
1-C
40)ヒドロカルビル、(C
1-C
40)ヘテロヒドロカルビル、Si(
RC)
3、O(
RC)、S(
RC)、N(
RN)
2、P(
RP)
2またはハロゲン原子であり、それ以外のR
5ccおよびR
5ffは、独立に水素原子、(C
1-C
40)ヒドロカルビル、((C
1-C
40)ヘテロヒドロカルビル、Si(
RC)
3、O(
RC)、S(
RC)、N(
RN)
2、P(
RP)
2またはハロゲン原子であり、
R
9a、R
10a、R
11a、R
9b、R
10b、R
11b、R
9aa、R
10aa、R
11aa、R
9bb、R
10bbおよびR
11bbは、それぞれ独立に水素原子、(C
1-C
40)ヒドロカルビル、(C
1-C
40)ヘテロヒドロカルビル、Si(
RC)3、O(
RC)、S(
RC)、N(
RN)
2、P(
RP)
2またはハロゲン原子であり、
カルバゾール基上の置換基から任意に選択される2つ以上のR基(が結合して1つまたは複数の環構造を形成してもよく、この環構造は、環中に水素原子を除く3~50原子を有し、
上述のヒドロカルビル、ヘテロヒドロカルビル、ヒドロカルビレンおよびヘテロヒドロカルビレン基は、それぞれ独立に、未置換であるか、または少なくとも1つの置換基R
sで置換(R
sによる過置換まで)され、
R
5c+R
5f+R
7cの炭素原子の合計またはR
5cc+R
5ff+R
7dの炭素原子の合計が5炭素原子を超え、
R
sは、独立にハロゲン原子、ポリフルオロ置換、パーフルオロ置換、未置換(C
1-C
18)アルキル、F
3C-、FCH
2O-、F
2HCO-、F
3CO-、R
3Si-、RO-、RS-、RS(O)-、RS(O)
2-、R
2P-、R
2N-、R
2C=N-、NC-、RC(O)O-、ROC(O)-、RC(O)N(R)-またはR
2NC(O)-であるか、あるいは、前記R
sの2つが結合して未置換(C
1-C
18)アルキレンを形成し、前記Rは独立に未置換(C
1-C
18)アルキルである。)
【0045】
以下、(A)、(B)の工程について順に説明する。
〔工程(A)〕
工程(A)は、グラフト型オレフィン系重合体[R1]の側鎖の原料となる末端不飽和環状オレフィン重合体または末端不飽和環状オレフィン系共重合体を製造する工程である。
本工程は、後述する周期表第4族の遷移金属化合物(A)の存在下で、環状オレフィンを重合して、末端不飽和環状オレフィン重合体を製造するか、または、α-オレフィンと環状オレフィンを重合して、末端不飽和環状オレフィン系共重合体を製造する工程である。
ここで、工程(A)で生成される末端不飽和環状オレフィン重合体は、ポリマー鎖の片末端にビニル基をもつ環状オレフィン重合体を含み、末端不飽和環状オレフィン系共重合体は、ポリマー鎖の片末端にビニル基をもつ環状オレフィン系共重合体を含む。
以下、末端不飽和環状オレフィン系共重合体を製造する場合について述べる。末端不飽和環状オレフィン重合体を製造する場合については、これに準じて考えることができる。
工程(A)で生成される末端不飽和環状オレフィン系共重合体は、片末端にビニル基をもつ環状オレフィン系共重合体以外として、ビニレン基やビニリデン基等の不飽和炭素-炭素結合を有する環状オレフィン系共重合体や両末端不飽和環状オレフィン系共重合体を含む場合がある。これらは、工程(B)を経て得られる樹脂(β)中にそのまま含まれる。なお、これらは、樹脂(β)において、工程(B)でグラフト型重合体の生成に寄与しなかった片末端にビニル基をもつ環状オレフィン系共重合体とともに、上述した主鎖に取り込まれなかった環状オレフィン系共重合体を構成する。
【0046】
なお、工程(A)で生成される共重合体のうち、ビニレン基を有する共重合体における不飽和炭素-炭素結合の位置は、共重合体の末端付近にあると考えられ、本発明ではビニレン基を有する共重合体も含めて工程(A)で生成される共重合体を「末端不飽和環状オレフィン系共重合体」と称する。
末端不飽和環状オレフィン系共重合体の末端ビニル率(全不飽和炭素-炭素結合に対するビニル基数の割合)は、通常は40%以上、好ましくは50%、より好ましくは60%以上、さらに好ましくは70%以上である。
【0047】
末端不飽和環状オレフィン系共重合体における末端ビニル基の割合は1000炭素原子あたり、通常0.1~20個であるが、好ましくは、0.4~20個の範囲にある。末端ビニル率(全不飽和炭素-炭素結合に対するビニル基数の割合)および、1000炭素原子あたりの末端ビニル基の割合が少ない場合、後工程(B)における当該末端不飽和環状オレフィン系共重合体(具体的には片末端にビニル基をもつ環状オレフィン系共重合体)の主鎖への導入量が低くなり、グラフト型オレフィン系重合体の生成量が少なくなるため所望の効果が得られない場合がある。
【0048】
末端ビニル率(全不飽和炭素-炭素結合に対するビニル基数の割合)および、1000炭素原子あたりの末端ビニル基の割合は、1H-NMR測定によるポリマー構造解析により常法にて算出することが出来る。
【0049】
[遷移金属化合物(A)]
本発明で用いられる遷移金属化合物(A)は、下記一般式(1)で表される構造を有する特定の化合物であり、オレフィン重合用触媒として機能し、後述する化合物(C)の存在下でより好適に機能する。
遷移金属化合物(A)を含むオレフィン重合用触媒は、主に前述の環状オレフィンを重合、または、α-オレフィンと環状オレフィンを重合して、末端不飽和環状オレフィン系共重合体を生成する特徴を有している。
以下、本発明で用いられる遷移金属化合物(A)の化学構造上の特徴について説明する。
本発明で用いられる遷移金属化合物(A)は、下記一般式(1)で表される遷移金属化合物である。
【0050】
【化6】
一般式(1)中、N……Mは、一般的には配位していることを示すが、本発明においては配位していてもしていなくてもよい。
一般式(1)において、Mは周期表第4族の遷移金属原子を示し、具体的にはチタン、ジルコニウム、ハフニウムなどであり、好ましくはジルコニウムである。
mは1~4の整数を示し、好ましくは1または2であり、特に好ましくは2である。
R
1は、炭素原子数1~30の炭化水素基を示す。炭化水素基として具体的には、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、t-ブチル基、ネオペンチル基、n-ヘキシル基などの炭素原子数が1~30、好ましくは1~20の直鎖状または分岐状のアルキル基;ビニル基、アリル基、イソプロペニル基などの炭素原子数が2~30、好ましくは2~20の直鎖状または分岐状のアルケニル基;エチニル基、プロパルギル基など炭素原子数が2~30、好ましくは2~20の直鎖状または分岐状のアルキニル基;シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、アダマンチル基などの炭素原子数が3~30、好ましくは3~20の環状飽和炭化水素基;シクロペンタジエニル基、インデニル基、フルオレニル基などの炭素原子数5~30の環状不飽和炭化水素基;フェニル基、ナフチル基、ビフェニル基、ターフェニル基、フェナントリル基、アントラセニル基などの炭素原子数が6~30、好ましくは6~20のアリール基;トリル基、イソプロピルフェニル基、t-ブチルフェニル基、ジメチルフェニル基、ジ-t-ブチルフェニル基などのアルキル置換アリール基などが挙げられる。
上記炭化水素基は、水素原子がハロゲンで置換されていてもよく、たとえば、トリフルオロメチル基、ペンタフルオロフェニル基、ビス(トリフルオロメチル)フェニル基、クロロフェニル基などの炭素原子数1~30、好ましくは1~20のハロゲン化炭化水素基が挙げられる。また、上記炭化水素基は、他の炭化水素基で置換されていてもよく、たとえば、ベンジル基、クミル基などのアリール基置換アルキル基などが挙げられる。
R
2~R
5は、互いに同一でも異なっていてもよく、水素原子、ハロゲン原子、炭化水素基、ヘテロ環式化合物残基、酸素含有基、窒素含有基、ホウ素含有基、イオウ含有基、リン含有基、ケイ素含有基、ゲルマニウム含有基、またはスズ含有基を示し、これらのうちの2個以上が互いに連結して環を形成していてもよく、また、mが2以上の場合にはR
2~R
5で示される基のうち2個の基が連結されていてもよく、ハロゲン原子としては、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素が挙げられる。
炭化水素基として具体的には、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、t-ブチル基、ネオペンチル基、n-ヘキシル基などの炭素原子数が1~30、好ましくは1~20の直鎖状または分岐状のアルキル基;ビニル基、アリル基、イソプロペニル基などの炭素原子数が2~30、好ましくは2~20の直鎖状または分岐状のアルケニル基;エチニル基、プロパルギル基など炭素原子数が2~30、好ましくは2~20の直鎖状または分岐状のアルキニル基;シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、アダマンチル基などの炭素原子数が3~30、好ましくは3~20の環状飽和炭化水素基;シクロペンタジエニル基、インデニル基、フルオレニル基などの炭素原子数5~30の環状不飽和炭化水素基;フェニル基、ナフチル基、ビフェニル基、ターフェニル基、フェナントリル基、アントラセニル基などの炭素原子数が6~30、好ましくは6~20のアリール基;トリル基、イソプロピルフェニル基、t-ブチルフェニル基、ジメチルフェニル基、ジ-t-ブチルフェニル基などのアルキル置換アリール基などが挙げられる。
上記炭化水素基は、水素原子がハロゲンで置換されていてもよく、たとえば、トリフルオロメチル基、ペンタフルオロフェニル基、クロロフェニル基などの炭素原子数1~30、好ましくは1~20のハロゲン化炭化水素基が挙げられる。また、上記炭化水素基は、他の炭化水素基で置換されていてもよく、たとえば、ベンジル基、クミル基などのアリール基置換アルキル基などが挙げられる。
さらにまた、上記炭化水素基は、ヘテロ環式化合物残基;アルコキシ基、アリーロキシ基、エステル基、エーテル基、アシル基、カルボキシル基、カルボナート基、ヒドロキシ基、ペルオキシ基、カルボン酸無水物基などの酸素含有基;アミノ基、イミノ基、アミド基、イミド基、ヒドラジノ基、ヒドラゾノ基、ニトロ基、ニトロソ基、シアノ基、イソシアノ基、シアン酸エステル基、アミジノ基、ジアゾ基、アミノ基がアンモニウム塩となったものなどの窒素含有基;ボランジイル基、ボラントリイル基、ジボラニル基などのホウ素含有基;メルカプト基、チオエステル基、ジチオエステル基、アルキルチオ基、アリールチオ基、チオアシル基、チオエーテル基、チオシアン酸エステル基、イソチアン酸エステル基、スルホンエステル基、スルホンアミド基、チオカルボキシル基、ジチオカルボキシル基、スルホ基、スルホニル基、スルフィニル基、スルフェニル基などのイオウ含有基;ホスフィド基、ホスホリル基、チオホスホリル基、ホスファト基などのリン含有基、ケイ素含有基、ゲルマニウム含有基、またはスズ含有基を有していてもよい。
これらのうち、特に、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、t-ブチル基、ネオペンチル基、n-ヘキシル基などの炭素原子数1~30、好ましくは1~20の直鎖状または分岐状のアルキル基;フェニル基、ナフチル基、ビフェニル基、ターフェニル基、フェナントリル基、アントラセニル基などの炭素原子数6~30、好ましくは6~20のアリール基;これらのアリール基にハロゲン原子、炭素原子数1~30、好ましくは1~20のアルキル基またはアルコキシ基、炭素原子数6~30、好ましくは6~20のアリール基またはアリーロキシ基などの置換基が1~5個置換した置換アリール基などが好ましい。
酸素含有基、窒素含有基、ホウ素含有基、イオウ含有基、リン含有基としては、上記例示したものと同様のものが挙げられる。ヘテロ環式化合物残基としては、ピロール、ピリジン、ピリミジン、キノリン、トリアジンなどの含窒素化合物、フラン、ピランなどの含酸素化合物、チオフェンなどの含硫黄化合物などの残基、およびこれらのヘテロ環式化合物残基に炭素原子数が1~30、好ましくは1~20のアルキル基、アルコキシ基などの置換基がさらに置換した基などが挙げられる。
ケイ素含有基としては、シリル基、シロキシ基、炭化水素置換シリル基、炭化水素置換シロキシ基など、具体的には、メチルシリル基、ジメチルシリル基、トリメチルシリル基、エチルシリル基、ジエチルシリル基、トリエチルシリル基、ジフェニルメチルシリル基、トリフェニルシリル基、ジメチルフェニルシリル基、ジメチル-t-ブチルシリル基、ジメチル(ペンタフルオロフェニル)シリル基などが挙げられる。これらの中では、メチルシリル基、ジメチルシリル基、トリメチルシリル基、エチルシリル基、ジエチルシリル基、トリエチルシリル基、ジメチルフェニルシリル基、トリフェニルシリル基などが好ましい。特にトリメチルシリル基、トリエチルシリル基、トリフェニルシリル基、ジメチルフェニルシリル基が好ましい。炭化水素置換シロキシ基として具体的には、トリメチルシロキシ基などが挙げられる。
ゲルマニウム含有基およびスズ含有基としては、前記ケイ素含有基のケイ素をゲルマニウムおよびスズに置換したものが挙げられる。
【0051】
次に上記で説明したR2~R5の例について、より具体的に説明する。アルコキシ基として具体的には、メトキシ基、エトキシ基、n-プロポキシ基、イソプロポキシ基、n-ブトキシ基、イソブトキシ基、t-ブトキシ基などが挙げられる。
アルキルチオ基として具体的には、メチルチオ基、エチルチオ基等が挙げられる。アリーロキシ基として具体的には、フェノキシ基、2,6-ジメチルフェノキシ基、2,4,6-トリメチルフェノキシ基などが挙げられる。アリールチオ基として具体的には、フェニルチオ基、メチルフェニルチオ基、ナフチルチオ基等が挙げられる。
アシル基として具体的には、ホルミル基、アセチル基、ベンゾイル基、p-クロロベンゾイル基、p-メトキシベンゾイル基などが挙げられる。エステル基として具体的には、アセチルオキシ基、ベンゾイルオキシ基、メトキシカルボニル基、フェノキシカルボニル基、p-クロロフェノキシカルボニル基などが挙げられる。
チオエステル基として具体的には、アセチルチオ基、ベンゾイルチオ基、メチルチオカルボニル基、フェニルチオカルボニル基などが挙げられる。アミド基として具体的には、アセトアミド基、N-メチルアセトアミド基、N-メチルベンズアミド基などが挙げられる。イミド基として具体的には、アセトイミド基、ベンズイミド基などが挙げられる。アミノ基として具体的には、ジメチルアミノ基、エチルメチルアミノ基、ジフェニルアミノ基などが挙げられる。
イミノ基として具体的には、メチルイミノ基、エチルイミノ基、プロピルイミノ基、ブチルイミノ基、フェニルイミノ基などが挙げられる。スルホンエステル基として具体的には、スルホン酸メチル基、スルホン酸エチル基、スルホン酸フェニル基などが挙げられる。スルホンアミド基として具体的には、フェニルスルホンアミド基、N-メチルスルホンアミド基、N-メチル-p-トルエンスルホンアミド基などが挙げられる。
R6は、炭素原子数1~30の炭化水素基を示す。 炭化水素基として具体的には、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、t-ブチル基、ネオペンチル基、n-ヘキシル基などの炭素原子数が1~30、好ましくは1~20の直鎖状または分岐状のアルキル基;ビニル基、アリル基、イソプロペニル基などの炭素原子数が2~30、好ましくは2~20の直鎖状または分岐状のアルケニル基;エチニル基、プロパルギル基など炭素原子数が2~30、好ましくは2~20の直鎖状または分岐状のアルキニル基;シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、アダマンチル基などの炭素原子数が3~30、好ましくは3~20の環状飽和炭化水素基;シクロペンタジエニル基、インデニル基、フルオレニル基などの炭素原子数5~30の環状不飽和炭化水素基;フェニル基、ナフチル基、ビフェニル基、ターフェニル基、フェナントリル基、アントラセニル基などの炭素原子数が6~30、好ましくは6~20のアリール基;トリル基、イソプロピルフェニル基、t-ブチルフェニル基、ジメチルフェニル基、ジ-t-ブチルフェニル基などのアルキル置換アリール基などが挙げられる。
【0052】
上記炭化水素基は、水素原子がハロゲンで置換されていてもよく、たとえば、トリフルオロメチル基、ペンタフルオロフェニル基、クロロフェニル基などの炭素原子数1~30、好ましくは1~20のハロゲン化炭化水素基が挙げられる。また、上記炭化水素基は、他の炭化水素基で置換されていてもよく、たとえば、ベンジル基、クミル基などのアリール基置換アルキル基などが挙げられる。
特に、炭素原子数が6~20のアリール基で置換した基であるフェニルエチル基、ジフェニルメチル基、クミル基、ジフェニルエチル基、トリフェニルメチル基、更にアダマンチル、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシルなどの炭素原子数が3~30、好ましくは3~20の環状飽和炭化水素基から選ばれる基であることが好ましい。特に好ましくはフェニル、ナフチル、フルオレニル、アントラニル、フェナントリルなどの炭素原子数6~30、好ましくは6~20のアリール基、または炭化水素置換シリル基であり、R6が上記置換基であることにより、工程(A)における環状オレフィンの共重合性が向上する。
R2~R6は、これらのうちの2個以上の基、好ましくは互いに隣接する2個以上の基が互いに連結して脂肪環、芳香環または、窒素原子などの異原子を含む炭化水素環を形成していてもよく、これらの環はさらに置換基を有していてもよい。また、mが2以上の場合には、R2~R6で示される基のうち2個の基が連結されていてもよい。さらに、mが2以上の場合にはR1同士、R2同士、R3同士、R4同士、R5同士、R6同士は、互いに同一でも異なっていてもよい。
nは、Mの価数を満たす数であり、具体的には0~5、好ましくは1~4、より好ましくは1~3の整数である。
Xは、水素原子、ハロゲン原子、炭化水素基、酸素含有基、イオウ含有基、窒素含有基、ホウ素含有基、アルミニウム含有基、リン含有基、ハロゲン含有基、ヘテロ環式化合物残基、ケイ素含有基、ゲルマニウム含有基、またはスズ含有基を示す。なお、nが2以上の場合には、互いに同一であっても、異なっていてもよい。
ハロゲン原子としては、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素が挙げられる。
炭化水素基としては、前記R2~R5で例示したものと同様のものが挙げられる。具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ヘキシル基、オクチル基、ノニル基、ドデシル基、アイコシル基などのアルキル基;シクロペンチル基、シクロヘキシル基、ノルボルニル基、アダマンチル基などの炭素原子数が3~30のシクロアルキル基;ビニル基、プロペニル基、シクロヘキセニル基などのアルケニル基;ベンジル基、フェニルエチル基、フェニルプロピル基などのアリールアルキル基;フェニル基、トリル基、ジメチルフェニル基、トリメチルフェニル基、エチルフェニル基、プロピルフェニル基、ビフェニル基、ナフチル基、メチルナフチル基、アントリル基、フェナントリル基などのアリール基などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。また、これらの炭化水素基には、ハロゲン化炭化水素、具体的には炭素原子数1~20の炭化水素基の少なくとも一つの水素がハロゲンに置換した基も含まれる。
これらのうち、炭素原子数が1~20のものが好ましい。
ヘテロ環式化合物残基としては、前記R2~R6で例示したものと同様のものが挙げられる。
酸素含有基としては、前記R2~R5で例示したものと同様のものが挙げられ、具体的には、ヒドロキシ基;メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基などのアルコキシ基;フェノキシ基、メチルフェノキシ基、ジメチルフェノキシ基、ナフトキシ基などのアリーロキシ基;フェニルメトキシ基、フェニルエトキシ基などのアリールアルコキシ基;アセトキシ基;カルボニル基などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
イオウ含有基としては、前記R2~R6で例示したものと同様のものが挙げられ、具体的には、メチルスルフォネート基、トリフルオロメタンスルフォネート基、フェニルスルフォネート基、ベンジルスルフォネート基、p-トルエンスルフォネート基、トリメチルベンゼンスルフォネート基、トリイソブチルベンゼンスルフォネート基、p-クロルベンゼンスルフォネート基、ペンタフルオロベンゼンスルフォネート基などのスルフォネート基;メチルスルフィネート基、フェニルスルフィネート基、ベンジルスルフィネート基、p-トルエンスルフィネート基、トリメチルベンゼンスルフィネート基、ペンタフルオロベンゼンスルフィネート基などのスルフィネート基;アルキルチオ基;アリールチオ基などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
窒素含有基として具体的には、前記R2~R5で例示したものと同様のものが挙げられ、具体的には、アミノ基;メチルアミノ基、ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基、ジプロピルアミノ基、ジブチルアミノ基、ジシクロヘキシルアミノ基などのアルキルアミノ基;フェニルアミノ基、ジフェニルアミノ基、ジトリルアミノ基、ジナフチルアミノ基、メチルフェニルアミノ基などのアリールアミノ基またはアルキルアリールアミノ基などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
ホウ素含有基として具体的には、BR4(Rは水素、アルキル基、置換基を有してもよいアリール基、ハロゲン原子等を示す)が挙げられる。リン含有基として具体的には、トリメチルホスフィン基、トリブチルホスフィン基、トリシクロヘキシルホスフィン基などのトリアルキルホスフィン基;トリフェニルホスフィン基、トリトリルホスフィン基などのトリアリールホスフィン基;メチルホスファイト基、エチルホスファイト基、フェニルホスファイト基などのホスファイト基(ホスフィド基);ホスホン酸基;ホスフィン酸基などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
ケイ素含有基として具体的には、前記R2~R5で例示したものと同様のものが挙げられ、具体的には、フェニルシリル基、ジフェニルシリル基、トリメチルシリル基、トリエチルシリル基、トリプロピルシリル基、トリシクロヘキシルシリル基、トリフェニルシリル基、メチルジフェニルシリル基、トリトリルシリル基、トリナフチルシリル基などの炭化水素置換シリル基;トリメチルシリルエーテル基などの炭化水素置換シリルエーテル基;トリメチルシリルメチル基などのケイ素置換アルキル基;トリメチルシリルフェニル基などのケイ素置換アリール基などが挙げられる。
ゲルマニウム含有基として具体的には、前記R2~R5で例示したものと同様のものが挙げられ、具体的には、前記ケイ素含有基のケイ素をゲルマニウムに置換した基が挙げられる。スズ含有基として具体的には、前記R2~R5で例示したものと同様のものが挙げられ、より具体的には、前記ケイ素含有基のケイ素をスズに置換した基が挙げられる。
ハロゲン含有基として具体的には、PF6、BF4などのフッ素含有基、ClO4、SbCl6などの塩素含有基、IO4などのヨウ素含有基が挙げられるが、これらに限定されるものではない。アルミニウム含有基として具体的には、AlR4(Rは水素、アルキル基、置換基を有してもよいアリール基、ハロゲン原子等を示す)が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
なお、nが2以上の場合は、Xで示される複数の基は互いに同一でも異なっていてもよく、またXで示される複数の基は互いに結合して環を形成してもよい。
以上のような、上記一般式(1)で表される遷移金属化合物(A)は、1種単独でまたは2種以上組み合わせて用いることができる。
このような遷移金属化合物は、末端のビニル基の占める割合および環状オレフィンの共重合性の点で好ましい。特に好ましくは、下記式(1-a)で表される化合物が挙げられる。
【0053】
【0054】
工程(A)は、溶液(溶解)重合において実施可能であり、重合条件については、オレフィン系ポリマーを製造する溶液重合プロセスを用いれば、特に限定されないが、下記重合反応液を得る工程を有することが好ましい。
重合反応液を得る工程とは、脂肪族炭化水素または芳香族炭化水素を重合溶媒として用いて、上述した遷移金属化合物の存在下に、環状オレフィンの重合体、またはα-オレフィンと環状オレフィンとの共重合体の重合反応液を得る工程である。
【0055】
工程(A)の重合溶媒としては、例えば、脂肪族炭化水素、芳香族炭化水素などが挙げられる。具体的には、プロパン、ブタン、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、デカン、ドデカン、灯油などの脂肪族炭化水素、シクロペンタン、シクロヘキサン、メチルシクロペンタンなどの脂環族炭化水素、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素、エチレンクロリド、クロルベンゼン、ジクロロメタンなどのハロゲン化炭化水素が挙げられ、1種単独で、あるいは2種以上組み合わせて用いることができる。また、工程(A)の重合溶媒は、後述する工程(B)の重合溶媒と同一でも異なっていてもよい。
また、工程(A)の重合温度は、15℃~200℃の範囲が好ましく、より好ましくは、20℃~150℃の範囲である。
工程(A)の重合圧力は、通常常圧~10MPaゲージ圧、好ましくは常圧~5MPaゲージ圧の条件下であり、重合反応は、回分式、半連続式、連続式のいずれの方法においても行うことができる。
上述の要件を満たすガラス転移点を有するオレフィン系樹脂(β)は、工程(A)においてフィードするα-オレフィンと環状オレフィンのモル濃度比を調節して環状オレフィン系共重合体等を製造することによって得ることが可能である。フィードするα-オレフィンと環状オレフィンのモル濃度比(α-オレフィン/環状オレフィン)は通常10/90~90/10、好ましくは30/70~80/20、より好ましくは50/50~70/30である。
【0056】
工程(A)の反応時間(共重合が連続法で実施される場合には平均滞留時間)は、触媒濃度、重合温度などの条件によっても異なるが、通常0.5分間~5時間、好ましくは5分間~3時間である。
得られる末端不飽和環状オレフィン系共重合体等の分子量は、重合系内に水素を存在させるか、または重合温度を変化させることによっても調節することができる。さらに、後述の化合物(C1)の使用量により調節することもできる。具体的には、トリイソブチルアルミニウム、メチルアルミノキサン、ジエチル亜鉛等が挙げられる。水素を添加する場合、その量はオレフィン1kgあたり0.001~100NL程度が適当である。末端のビニル基の含有量向上のためには、無水素条件で行うことが好ましい。
【0057】
〔工程(B)〕
工程(B)は、下記一般式(2)で表される化合物(B)を含むオレフィン重合用触媒の存在下で、前記工程(A)で得られた末端不飽和環状オレフィン共重合体または末端不飽和環状オレフィン系共重合体と、少なくとも1種の炭素原子数2~20のα-オレフィンおよび少なくとも1種の環状オレフィンとを共重合する工程である。
【0058】
[化合物(B)]
前記化合物(B)は下記一般式(2)で表される。
【0059】
【化8】
式(2)中の記号の定義は以下のとおりである。
Mは、元素の周期表の3~6族のいずれか1つの(例えば、4族の)金属原子であり、前記金属Mは、+2、+3、+4、+5または+6の形式的酸化状態である。
nは0~5の整数であり、nが0の場合にはXは存在しない(すなわち、(X)
nが存在しない)。
Xは、独立に中性、モノアニオン性、ジアニオン性、トリアニオン性もしくはテトラアニオン性の一座配位リガンドであるか、または2つのXにより形成される、中性、モノアニオン性もしくはジアニオン性の二座配位リガンドであり、Xとnは、化合物(B)が全体で中性となるように選択される。
Zは、独立にO、S、N(C
1-C
40)ヒドロカルビルまたはP(C
1-C
40)ヒドロカルビルである。
Lは、(C
1-C
40)ヒドロカルビレンまたは(C
1-C
40)ヘテロヒドロカルビレンであり、
前記(C
1-C
40)ヒドロカルビレンは、前記Z(このZにLが結合される)を連結する1炭素原子~18炭素原子リンカー主鎖、好ましくは、1炭素原子~12炭素原子リンカーを含む部分を有し、
前記(C
1-C
40)ヘテロヒドロカルビレンは、前記Zを連結する1原子~18原子リンカー主鎖、好ましくは、1炭素原子~12炭素原子リンカー鎖を含む部分を有し、
前記(C
1-C
40)ヘテロヒドロカルビレンの1原子~18原子リンカー主鎖における1~18原子は、独立に炭素原子またはヘテロ原子であり、
前記ヘテロ原子は、独立にO、S、S(O)、S(O)
2、Si(
RC)
2、P(
RP)、またはN(
RN)であり、
前記
RCは、独立に置換もしくは未置換の(C
1-C
18)ヒドロカルビルまたは(C
1-C
18)ヘテロヒドロカルビルであり、
前記
RPは、独立に置換もしくは未置換の(C
1-C
18)ヒドロカルビルまたは(C
1-C
18)ヘテロヒドロカルビルであり、前記
RNは、独立に置換もしくは未置換の(C
1-C
18)ヒドロカルビルまたは(C
1-C
18)ヘテロヒドロカルビルであるか、あるいは存在しない(例えば、N(
RN)が-N=として結合される場合が挙げられる。)。
R
3a、R
4a、R
3bおよびR
4bは、それぞれ独立に水素原子、(C
1-C
40)ヒドロカルビル、(C
1-C
40)ヘテロヒドロカルビル、Si(
RC)
3、O(
RC)、S(
RC)、N(
RN)
2、P(
RP)
2またはハロゲン原子であり、
RC、
RNおよび
RPは上記で定義したとおりである。
R
6c、R
7cおよびR
8cの少なくとも1つ、ならびに、R
6d、R
7d、およびR
8dの少なくとも1つは、独立に(C
2-C
40)ヒドロカルビルまたはSi(
RC)
3であり、それ以外のR
6c、R
7c、R
8c、R
6d、R
7dおよびR
8dは、独立に水素原子、(C
1-C
40)ヒドロカルビル、(C
1-C
40)ヘテロヒドロカルビル、Si(
RC)
3、O(
RC)、S(
RC)、N(
RN)
2、P(
RP)
2またはハロゲン原子であり、
RC、
RNおよび
RPは上記で定義したとおりである。
R
3a、R
4a、R
3b、R
4b、R
6c、R
7c、R
8c、R
6d、R
7dおよびR
8dから任意に選択される2つ以上のR基が結合して1つまたは複数の環構造を形成してもよく、この環構造は、環中に水素原子を除く3~50原子を有する。
R
5cおよびR
5fの少なくとも1つは、独立に(C
1-C
40)ヒドロカルビル、(C
1-C
40)ヘテロヒドロカルビル、Si(
RC)
3、O(
RC)、S(
RC)、(
RN)
2、P(
RP)
2またはハロゲン原子であり、それ以外のR
5cおよびR
5fは、独立に水素原子、(C
1-C
40)ヒドロカルビル、(C
1-C
40)ヘテロヒドロカルビル、Si(
RC)
3、O(
RC)、S(
RC)、N(
RN)
2、P(
RP)
2またはハロゲン原子であり、
RC、
RNおよび
RPは上記で定義したとおりである。
R
5ccおよびR
5ffの少なくとも1つは、独立に(C
1-C
40)ヒドロカルビル、(C
1-C
40)ヘテロヒドロカルビル、Si(
RC)
3、O(
RC)、S(
RC)、N(
RN)
2、P(
RP)
2またはハロゲン原子であり、それ以外のR
5ccおよびR
5ffは、独立に水素原子、(C
1-C
40)ヒドロカルビル、((C
1-C
40)ヘテロヒドロカルビル、Si(
RC)
3、O(
RC)、S(
RC)、N(
RN)
2、P(
RP)
2またはハロゲン原子であり、
RC、
RNおよび
RPは上記で定義したとおりである。
R
9a、R
10a、R
11a、R
9b、R
10b、R
11b、R
9aa、R
10aa、R
11aa、R
9bb、R
10bbおよびR
11bbは、それぞれ独立に水素原子、(C
1-C
40)ヒドロカルビル、(C
1-C
40)ヘテロヒドロカルビル、Si(
RC)
3、O(
RC)、S(
RC)、N(
RN)
2、P(
RP)
2またはハロゲン原子であり、
RC、
RNおよび
RPは上記で定義したとおりである。
カルバゾール基上の置換基(例えば、R
9a、R
10a、R
5a、R
11a、R
9b、R
10b、R
5f、R
11b)から任意に選択される2つ以上のR基が結合して1つまたは複数の環構造を形成してもよく、この環構造は、環中に水素原子を除く3~50原子を有する。
上述のヒドロカルビル(例えば、
RC、
RN、
RP、(C
1-C
40)ヒドロカルビル)、ヘテロヒドロカルビル(例えば、(C
1-C
40)ヘテロヒドロカルビル)、ヒドロカルビレン(例えば、(C
1-C
40)ヒドロカルビレン)、およびヘテロヒドロカルビレン(例えば、(C
1-C
40)ヘテロヒドロカルビレン)基は、それぞれ独立に未置換であるか、または少なくとも1つの置換基R
sで置換(R
sによる過置換まで)されている。
R
5c+R
5f+R
7cの炭素原子の合計またはR
5cc+R
5ff+R
7dの炭素原子の合計は、5炭素原子を超える。
R
sは、独立にハロゲン原子、ポリフルオロ置換(少なくとも1つの置換基R
sの1つが少なくとも2つのフルオロ置換基を表し、これは、形式上、未置換の場合の前記置換基の少なくとも2つの水素原子を置換する)、パーフルオロ置換(すなわち、1つのR
sが、それにより置換される未置換の場合の前記置換基の水素原子と同数のフルオロ置換基を表す)、未置換(C
1-C
18)アルキル、F
3C-、FCH
2O-、F
2HCO-、F
3CO-、R
3Si-、RO-、RS-、RS(O)-、RS(O)
2-、R
2P-、R
2N-、R
2C=N-、NC-、RC(O)O-、ROC(O)-、RC(O)N(R)-またはR
2NC(O)-であるか、あるいは、前記R
sの2つが結合して未置換(C
1-C
18)アルキレンを形成し、前記Rは独立に未置換(C
1-C
18)アルキルである。
前記化合物(B)は、前記式(2)における各ZがOであることが好ましく、下記式(2a)で表わされる化合物(Ba)であることがより好ましい。
【0060】
【化9】
式(2a)中の記号の定義は以下のとおりである。
ZはOである。
R
7cおよびR
7dは、それぞれ独立に(C
1-C
40)ヒドロカルビルである。
Mは、元素の周期表の3~6族のいずれか1つの(例えば、4族の)金属原子であり、金属Mは、+2、+3、+4、+5または+6の形式的酸化状態である。
nは0~5の整数であり、nが0の場合にはXは存在しない(すなわち、(X)nが存在しない)。
Xは、独立に中性、モノアニオン性、ジアニオン性、トリアニオン性もしくはテトラアニオン性の一座配位リガンドであるか、または2つのXにより形成される、中性、モノアニオン性、またはジアニオン性の二座配位リガンドであり、Xとnは、化合物(Ia)が全体で中性となるように選択される。
Lは、(C
1-C
40)ヒドロカルビレンまたは(C
1-C
40)ヘテロヒドロカルビレンであり、前記(C
1-C
40)ヒドロカルビレンは、前記Z(このZにLが結合される)を連結する1炭素原子~18炭素原子リンカー主鎖、好ましくは、1炭素原子~12炭素原子リンカーを含む部分を有し、前記(C
1-C
40)ヘテロヒドロカルビレンは、前記Zを連結する1原子~18原子リンカー主鎖、好ましくは、1炭素原子~12炭素原子リンカー鎖を含む部分を有し、前記(C
1-C
40)ヘテロヒドロカルビレンの1原子~18原子リンカー主鎖における1~18原子は、独立に炭素原子またはヘテロ原子であり、各ヘテロ原子は、独立にO、S、S(O)、S(O)
2、Si(
RC)
2、P(
RP)またはN(
RN)であり、前記
RCは、独立に置換もしくは未置換の(C
1-C
18)ヒドロカルビルまたは(C
1-C
18)ヘテロヒドロカルビルであり、前記
RPは、独立に置換もしくは未置換の(C
1-C
18)ヒドロカルビルまたは(C
1-C
18)ヘテロヒドロカルビルであり、前記
RNは、独立に置換もしくは未置換の(C
1-C
18)ヒドロカルビルまたは(C
1-C
18)ヘテロヒドロカルビルであるか、あるいは存在しない(例えば、N(
RN)が-N=として結合される場合が挙げられる。)。
R
3a、R
4a、R
3bおよびR
4bは、それぞれ独立に水素原子、(C
1-C
40)ヒドロカルビル、(C
1-C
40)ヘテロヒドロカルビル、Si(
RC)
3、O(
RC)、S(
RC)、N(
RN)
2、P(
RP)
2またはハロゲン原子であり、
RC、
RNおよび
RPは上記で定義したとおりである。
R
5cおよびR
5fの少なくとも1つは、独立に(C
1-C
40)ヒドロカルビル、(C
1-C
40)ヘテロヒドロカルビル、Si(
RC)
3、O(
RC)、S(
RC)、N(
RN)
2、P(
RP)
2またはハロゲン原子であり、それ以外のR
5cおよびR
5fは、独立に水素原子、(C
1-C
40)ヒドロカルビル、(C
1-C
40)ヘテロヒドロカルビル、Si(
RC)
3、O(
RC)、S(
RC)、N(
RN)
2、P(
RP)
2またはハロゲン原子であり、
RC、
RNおよび
RPは上記で定義したとおりである。
R
5ccおよびR
5ffの少なくとも1つは、独立に(C
1-C
40)ヒドロカルビル、(C
1-C
40)ヘテロヒドロカルビル、Si(
RC)
3、O(
RC)、S(
RC)、N(
RN)
2、P(
RP)
2またはハロゲン原子であり、それ以外のR
5ccおよびR
5ffは、独立に水素原子、(C
1-C
40)ヒドロカルビル、(C
1-C
40)ヘテロヒドロカルビル、Si(
RC)
3、O(
RC)、S(
RC)、N(
RN)
2、P(
RP)
2またはハロゲン原子であり、
RC、
RNおよび
RPは、上記で定義したとおりである。
上述のヒドロカルビル(例えば、
RC、
RN、
RP、(C
1-C
40)ヒドロカルビル)、ヘテロヒドロカルビル(例えば、(C
1-C
40)ヘテロヒドロカルビル)、ヒドロカルビレン(例えば、(C
1-C
40)ヒドロカルビレン)およびヘテロヒドロカルビレン(例えば、(C
1-C
40)ヘテロヒドロカルビレン)基は、独立に未置換であるか、または少なくとも1つの置換基R
sで置換(R
sによる過置換まで)されている。
R
5c+R
5f+R
7cの炭素原子の合計またはR
5cc+R
5ff+R
7dの炭素原子合計は、5炭素原子を超える。
R
sは、独立にハロゲン原子、ポリフルオロ置換(前記少なくとも1つの置換基R
sの1つが少なくとも2つのフルオロ置換基を表し、これは、形式上、未置換の場合の前記置換基の少なくとも2つの水素原子を置換する)、パーフルオロ置換(すなわち、前記1つのR
sが、それにより置換される未置換の場合の前記置換基の水素原子と同数のフルオロ置換基を表す)、未置換(C
1-C
18)アルキル、F
3C-、FCH
2O-、F
2HCO-、F
3CO-、R
3Si-、RO-、RS-、RS(O)-、RS(O)
2-、R
2P-、R
2N-、R
2C=N-、NC-、RC(O)O-、ROC(O)-、RC(O)N(R)-またはR
2NC(O)-であるか、あるいは、前記R
sの2つが結合して未置換(C
1-C
18)アルキレンを形成し、前記Rは独立に未置換(C
1-C
18)アルキルである。
前記化合物(B)は、下記式(2a-1)で表わされる化合物(Ba-1)であることがさらに好ましい。
【0061】
【化10】
式(2a-1)中の記号の定義は以下のとおりである。
ZはOである。
R
7cおよびR
7dは、それぞれ独立に(C
4-C
40)ヒドロカルビルである。
Mは、元素の周期表の3~6族のいずれか1つの(例えば、4族の)金属原子であり、金属Mは、+2、+3、+4、+5または+6の形式的酸化状態である。
nは0~5の整数であり、nが0の場合にはXは存在しない(すなわち、(X)nが存在しない)。
Xは、独立に中性、モノアニオン性、ジアニオン性、トリアニオン性もしくはテトラアニオン性の一座配位リガンドであるか、または2つのXにより形成される、中性、モノアニオン性もしくはジアニオン性の二座配位リガンドであり、Xとnは、化合物(Ia-1)が全体で中性となるように選択される。
Lは、(C
1-C
40)ヒドロカルビレンまたは(C
1-C
40)ヘテロヒドロカルビレンであり、前記(C
1-C
40)ヒドロカルビレンは、前記Z(このZにLが結合される)を連結する1炭素原子~18炭素原子リンカー主鎖、好ましくは、1炭素原子~12炭素原子リンカーを含む部分を有し、前記(C
1-C
40)ヘテロヒドロカルビレンは、前記Zを連結する1原子~18原子リンカー主鎖、好ましくは、1炭素原子~12炭素原子リンカー鎖を含む部分を有し、前記(C
1-C
40)ヘテロヒドロカルビレンの1原子~18原子リンカー主鎖における1~18原子は、それぞれ独立に炭素原子またはヘテロ原子であり、前記ヘテロ原子は、独立にO、S、S(O)、S(O)
2、Si(
RC)
2、P(
RP)またはN(
RN)であり、前記
RCは、独立に置換もしくは未置換の(C
1-C
18)ヒドロカルビルまたは(C
1-C
18)ヘテロヒドロカルビルであり、前記
RPは、独立に置換もしくは未置換の(C
1-C
18)ヒドロカルビルまたは(C
1-C
18)ヘテロヒドロカルビルであり、前記
RNは、独立に置換もしくは未置換の(C
1-C
18)ヒドロカルビルまたは(C
1-C
18)ヘテロヒドロカルビルであるか、あるいは存在しない(例えば、N(
RN)が-N=として結合される場合が挙げられる。)。
R
3aおよびR
3bは、それぞれ独立に水素原子、(C
1-C
40)ヒドロカルビル、(C
1-C
40)ヘテロヒドロカルビル、Si(
RC)
3、O(
RC)、S(
RC)、N(
RN)
2、P(
RP)
2またはハロゲン原子であり、
RC、
RNおよび
RPは上記で定義したとおりである。
R
5cおよびR
5fの少なくとも1つは、独立に(C
1-C
40)ヒドロカルビル、(C
1-C
40)ヘテロヒドロカルビル、Si(
RC)
3、O(
RC)、S(
RC)、N(
RN)
2、P(
RP)
2またはハロゲン原子であり、それ以外のR
5cおよびR
5fは、独立に水素原子、(C
1-C
40)ヒドロカルビル、(C
1-C
40)ヘテロヒドロカルビル、Si(
RC)3、O(
RC)、S(
RC)、N(
RN)
2、P(
RP)
2またはハロゲン原子であり、
RC、
RNおよび
RPは上記で定義したとおりである。
R
5ccおよびR
5ffの少なくとも1つは、独立に(C
1-C
40)ヒドロカルビル、(C
1-C
40)ヘテロヒドロカルビル、Si(
RC)
3、O(
RC)、S(
RC)、N(
RN)
2、P(
RP)
2またはハロゲン原子であり、それ以外のR
5ccおよびR
5ffは、独立に水素原子、(C
1-C
40)ヒドロカルビル、(C
1-C
40)ヘテロヒドロカルビル、Si(
RC)
3、O(
RC)、S(
RC)、N(
RN)
2、P(
RP)
2またはハロゲン原子であり、
RC、
RNおよび
RPは上記で定義したとおりである。
上述のヒドロカルビル(例えば、
RC、
RN、
RP、(C
1-C
40)ヒドロカルビル、ヘテロヒドロカルビル(例えば、(C
1-C
40)ヘテロヒドロカルビル)、ヒドロカルビレン(例えば、(C
1-C
40)ヒドロカルビレン)およびヘテロヒドロカルビレン(例えば、(C
1-C
40)ヘテロヒドロカルビレン)基は、独立に未置換であるか、または少なくとも1つの置換基R
sで置換(R
sによる過置換まで)されている。
R
5c+R
5f+R
7cの炭素原子の合計またはR
5cc+R
5ff+R
7dの炭素原子合計は、5炭素原子を超える。
前記R
sは、独立にハロゲン原子、ポリフルオロ置換(前記少なくとも1つの置換基R
sの1つが少なくとも2つのフルオロ置換基を表し、これは、形式上、未置換の場合の前記置換基の少なくとも2つの水素原子を置換する)、パーフルオロ置換(すなわち、前記1つのR
sが、それにより置換される未置換の場合の前記置換基の水素原子と同数のフルオロ置換基を表す)、未置換(C
1-C
18)アルキル、F
3C-、FCH
2O-、F
2HCO-、F
3CO-、R
3Si-、RO-、RS-、RS(O)-、RS(O)
2-、R
2P-、R
2N-、R
2C=N-、NC-、RC(O)O-、ROC(O)-、RC(O)N(R)-またはR
2NC(O)-であるか、あるいは前記R
sの2つが結合して未置換(C
1-C
18)アルキレンを形成し、前記Rは独立に未置換(C
1-C
18)アルキルである。
前記化合物(B)の特に好ましい態様は、前記式(2a-1)において、 R
5c、R
5f、R
5ccおよびR
5ffが、それぞれ独立に(C
1-C
40)ヒドロカルビル、好ましくは(C
1-C
20)ヒドロカルビル、より好ましくは(C
1-C
10)ヒドロカルビル、特に好ましくは(C
4-C
8)アルキルまたはフェニルであり、
R
7cおよびR
7dが、それぞれ独立に(C
4-C
10)ヒドロカルビル、好ましくは(C
4-C
8)アルキルであり、
R
3aおよびR
3bが、それぞれ独立に(C
1-C
6)アルキル、(C
1-C
6)アルキル-O-、((C
1-C
6)アルキル)
2-N-、(C
3-C
6)シクロアルキル、フッ素原子または塩素原子、好ましくはフッ素原子または塩素原子、より好ましくはフッ素原子であり、
Lが、(C
1-C
20)ヒドロカルビレン、好ましくは(C
1-C
10)ヒドロカルビレン、より好ましくは(C
1-C
5)ヒドロカルビレン、さらに好ましくは-CH
2CH
2CH
2-であり、
Mが、元素の周期表の4族の金属であり、好ましくはハフニウム、ジルコニウムまたはチタニウム、より好ましくはハフニウムであり、
nは、2または3、好ましくは2であり、
Xは、独立に(C
1-C
8)アルキル、(C
1-C
6)アルキル、(C
1-C
4)アルキルまたは(C
1-C
3)アルキル、好ましくは(C
1-C
4)アルキルまたは(C
1-C
3)アルキル、より好ましくは(C
1-C
3)アルキル、さらに好ましくはメチルである。
前記化合物(B)の具体例としては、(2',2''-(プロパン-l,3-ジイルビス(オキシ))ビス(3-(3,6-ジ-tert-ブチル-9H-カルバゾール-9-イル)-5'-フルオロ-5-(2,4,4-トリメチルペンタン-2-イル)ビフェニル-2-オール)ジメチルハフニウム、
[[2'、2'''-[1,3-プロパンジイルビス(オキシ-kO)]ビス[3-[3,6-ビス(1,1-ジメチルエチル)-9H-カルバゾール-9-イル]-5'-フルオロ-5-(1,1,3,3-テトラメチルブチル)[1,1'-ビフェニル]-2-オラト-kO]](2-)]-ハフニウムジメチルが挙げられる。
【0062】
前記化合物(B)は特表2015-500920号公報に記載の態様を引用することができる。
工程(B)において、末端不飽和環状オレフィン系共重合体等と共重合を行う炭素原子数2~20のα-オレフィンおよび環状オレフィンについては、グラフト型オレフィン系重合体[R1]の主鎖の説明において挙げたα-オレフィンおよび環状オレフィンとそれぞれ同様である。
【0063】
前記化合物(B)は、後述する化合物(C)と組み合わせて 末端不飽和環状オレフィン系共重合体等と、少なくとも1種の炭素原子数2~20のα-オレフィンおよび少なくとも1種の環状オレフィンとを共重合するオレフィン重合用触媒として機能する。
前記化合物(B)は、1種単独でまたは2種以上組み合わせて用いられる。
【0064】
共重合工程は、通常、溶液(溶解)重合において実施可能であり、重合条件については、オレフィン系ポリマーを製造する溶液重合プロセスを用いれば、特に限定されないが、下記重合反応液を得る工程を有することが好ましい。
重合反応液を得る工程とは、脂肪族炭化水素を重合溶媒として用いて、前述の化合物(B)を含むオレフィン重合用触媒の存在下で、末端不飽和環状オレフィン系共重合体等とα-オレフィンと環状オレフィンとの共重合体の重合反応液を得る工程である。
共重合工程の重合溶媒としては、例えば、脂肪族炭化水素、芳香族炭化水素などが挙げられる。具体的には、プロパン、ブタン、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、デカン、ドデカン、灯油などの脂肪族炭化水素;シクロペンタン、シクロヘキサン、メチルシクロペンタンなどの脂環族炭化水素;ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素;エチレンクロリド、クロルベンゼン、ジクロロメタンなどのハロゲン化炭化水素が挙げられ、1種単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
共重合工程の重合温度は、好ましくは90℃~200℃、より好ましくは100℃~200℃の範囲である。
【0065】
共重合工程の重合圧力は、通常常圧~10MPaゲージ圧、好ましくは常圧~5MPaゲージ圧の条件下であり、重合反応は、回分式、半連続式、連続式のいずれの方法においても行うことができる。さらに重合を反応条件の異なる2段以上に分けて行うことも可能である。本発明ではこのうち、モノマーを連続して反応器に供給して共重合を行う方法を採用することが好ましい。
【0066】
共重合工程の反応時間(共重合が連続法で実施される場合には平均滞留時間)は、触媒濃度、重合温度などの条件によっても異なるが、通常0.5分間~5時間、好ましくは5分間~3時間である。
【0067】
共重合工程におけるポリマー濃度は、定常運転時は5~50wt%であり、好ましくは10~40wt%であり、重合能力における粘度制限、後処理工程(脱溶媒)負荷及び生産性の観点から、15~35wt%であることがより好ましい。
得られる共重合体の分子量は、重合系内に水素を存在させるか、または重合温度を変化させることによっても調節することができる。さらに、後述の化合物(C1)の使用量により調節することもできる。具体的には、トリイソブチルアルミニウム、メチルアルミノキサン、ジエチル亜鉛等が挙げられる。水素を添加する場合、その量はオレフィン1kgあたり0.001~100NL程度が適当である。
【0068】
上述の要件を満たすガラス転移点を有するオレフィン系樹脂(β)は、工程(B)においてフィードするα-オレフィンと環状オレフィンのモル濃度比を調節して共重合を行うことによって得ることが可能である。フィードするα-オレフィンと環状オレフィンのモル濃度比(α-オレフィン/環状オレフィン)は通常10/90~90/10、好ましくは10/90~70/30、より好ましくは20/80~50/50である。
【0069】
[化合物(C)]
本発明に係るオレフィン系樹脂(β)の製造方法では、上述した工程(A),(B)においてオレフィン重合用触媒として用いられる遷移金属化合物(A)および化合物(B)と共に、後述する化合物(C)を用いることが好ましい。
【0070】
化合物(C)は、遷移金属化合物(A)および遷移金属化合物(B)と反応して、オレフィン重合用触媒として機能するものであり、具体的には、(C1)有機金属化合物、(C2)有機アルミニウムオキシ化合物、および、(C3)遷移金属化合物(A)または化合物(B)と反応してイオン対を形成する化合物、から選ばれるものである。以下、(C1)~(C3)の化合物について順次説明する。
【0071】
((C1)有機金属化合物)
本発明で用いられる(C1)有機金属化合物として、具体的には下記の一般式(C1-a)で表わされる有機アルミニウム化合物、一般式(C1-b)で表わされる周期表第1族金属とアルミニウムとの錯アルキル化物、および一般式(C1-c)で表わされる周期表第2族または第12族金属のジアルキル化合物が挙げられる。なお、(C1)有機金属化合物には、後述する(C2)有機アルミニウムオキシ化合物は含まないものとする。
【0072】
【化11】
上記一般式(C1-a)中、R
aおよびR
bは、互いに同一でも異なっていてもよく、炭素原子数が1~15、好ましくは1~4の炭化水素基を示し、Yはハロゲン原子を示し、pは0<p≦3、qは0≦q<3、rは0≦r<3、sは0≦s<3の数であり、かつp+q+r+s=3である。)
【0073】
【化12】
上記一般式(C1-b)中、M
3はLi、NaまたはKを示し、R
cは炭素原子数が1~15、好ましくは1~4の炭化水素基を示す。)
【0074】
【化13】
上記一般式(C1-c)中、R
dおよびR
eは、互いに同一でも異なっていてもよく、炭素原子数が1~15、好ましくは1~4の炭化水素基を示し、M
4はMg、ZnまたはCdである。
前記一般式(C1-a)で表わされる有機アルミニウム化合物としては、次のような一般式(C-1a-1)~(C-1a-4)で表わされる化合物を例示できる。
【0075】
【化14】
(式中、R
aおよびR
bは、互いに同一でも異なっていてもよく、炭素原子数が1~15、好ましくは1~4の炭化水素基を示し、pは好ましくは1.5≦p≦3の数である。)
【0076】
【化15】
(式中、R
aは炭素原子数が1~15、好ましくは1~4の炭化水素基を示し、Yはハロゲン原子を示し、pは好ましくは0<p<3の数である。)
【0077】
【化16】
(式中、R
aは炭素原子数が1~15、好ましくは1~4の炭化水素基を示し、pは好ましくは2≦p<3の数である。)
【0078】
【化17】
(式中、R
aおよびR
bは、互いに同一でも異なっていてもよく、炭素原子数が1~15、好ましくは1~4の炭化水素基を示し、Yはハロゲン原子を示し、pは0<p≦3、qは0≦q<3、sは0≦s<3の数であり、かつp+q+s=3である。)
一般式(C1-a)に属する有機アルミニウム化合物としてより具体的には、トリメチルアルミニウム、トリエチルアルミニウム、トリn-ブチルアルミニウム、トリプロピルアルミニウム、トリペンチルアルミニウム、トリヘキシルアルミニウム、トリオクチルアルミニウム、トリデシルアルミニウムなどのトリn-アルキルアルミニウム;
トリイソプロピルアルミニウム、トリイソブチルアルミニウム、トリsec-ブチルアルミニウム、トリtert-ブチルアルミニウム、トリ2-メチルブチルアルミニウム、トリ3-メチルブチルアルミニウム、トリ2-メチルペンチルアルミニウム、トリ3-メチルペンチルアルミニウム、トリ4-メチルペンチルアルミニウム、トリ2-メチルヘキシルアルミニウム、トリ3-メチルヘキシルアルミニウム、トリ2-エチルヘキシルアルミニウムなどのトリ分岐鎖アルキルアルミニウム;
トリシクロヘキシルアルミニウム、トリシクロオクチルアルミニウムなどのトリシクロアルキルアルミニウム;
トリフェニルアルミニウム、トリトリルアルミニウムなどのトリアリールアルミニウム;
ジイソブチルアルミニウムハイドライドなどのジアルキルアルミニウムハイドライド;
(i-C
4H
9)
xAl
y(C
5H
10)
z(式中、x、y、zは正の数であり、z≧2xである。)などで表されるトリイソプレニルアルミニウムなどのトリアルケニルアルミニウム;
イソブチルアルミニウムメトキシド、イソブチルアルミニウムエトキシド、イソブチルアルミニウムイソプロポキシドなどのアルキルアルミニウムアルコキシド;
ジメチルアルミニウムメトキシド、ジエチルアルミニウムエトキシド、ジブチルアルミニウムブトキシドなどのジアルキルアルミニウムアルコキシド;
エチルアルミニウムセスキエトキシド、ブチルアルミニウムセスキブトキシドなどのアルキルアルミニウムセスキアルコキシド;
R
a
2.5Al(OR
b)
0.5で表される平均組成を有する部分的にアルコキシ化されたアルキルアルミニウム(式中、R
aおよびR
bは、互いに同一でも異なっていてもよく、炭素原子数が1~15、好ましくは1~4の炭化水素基を示す);
ジエチルアルミニウムフェノキシド、ジエチルアルミニウム(2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェノキシド)、エチルアルミニウムビス(2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェノキシド)、ジイソブチルアルミニウム(2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェノキシド)、イソブチルアルミニウムビス(2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェノキシド)などのジアルキルアルミニウムアリーロキシド;
ジメチルアルミニウムクロリド、ジエチルアルミニウムクロリド、ジブチルアルミニウムクロリド、ジエチルアルミニウムブロミド、ジイソブチルアルミニウムクロリドなどのジアルキルアルミニウムハライド;
エチルアルミニウムセスキクロリド、ブチルアルミニウムセスキクロリド、エチルアルミニウムセスキブロミドなどのアルキルアルミニウムセスキハライド;
エチルアルミニウムジクロリド、プロピルアルミニウムジクロリド、ブチルアルミニウムジブロミドなどのアルキルアルミニウムジハライドなどの部分的にハロゲン化されたアルキルアルミニウム;
ジエチルアルミニウムヒドリド、ジブチルアルミニウムヒドリドなどのジアルキルアルミニウムヒドリド;
エチルアルミニウムジヒドリド、プロピルアルミニウムジヒドリドなどのアルキルアルミニウムジヒドリドなどその他の部分的に水素化されたアルキルアルミニウム;
エチルアルミニウムエトキシクロリド、ブチルアルミニウムブトキシクロリド、エチルアルミニウムエトキシブロミドなどの部分的にアルコキシ化およびハロゲン化されたアルキルアルミニウムなどを挙げることができる。
また(C1-a)に類似する化合物も本発明に使用することができ、そのような化合物として例えば、窒素原子を介して2以上のアルミニウム化合物が結合した有機アルミニウム化合物を挙げることができる。このような化合物として具体的には、(C
2H
5)
2AlN(C
2H
5)Al(C
2H
5)
2などを挙げることができる。
前記一般式(C1-b)で表される化合物としては、LiAl(C
2H
5)
4、LiAl(C
7H
15)
4などを挙げることができる。
前記一般式(C1-c)で表される化合物としては、ジメチルマグネシウム、ジエチルマグネシウム、ジブチルマグネシウム、ブチルエチルマグネシウム、ジメチル亜鉛、ジエチル亜鉛、ジフェニル亜鉛、ジ-n-プロピル亜鉛、ジイソプロピル亜鉛、ジ-n-ブチル亜鉛、ジイソブチル亜鉛、ビス(ペンタフルオロフェニル)亜鉛、ジメチルカドミウム、ジエチルカドミウムなどを挙げることができる。
またその他にも、(C1)有機金属化合物としては、メチルリチウム、エチルリチウム、プロピルリチウム、ブチルリチウム、メチルマグネシウムブロミド、メチルマグネシウムクロリド、エチルマグネシウムブロミド、エチルマグネシウムクロリド、プロピルマグネシウムブロミド、プロピルマグネシウムクロリド、ブチルマグネシウムブロミド、ブチルマグネシウムクロリドなどを使用することもできる。
また重合系内で上記有機アルミニウム化合物が形成されるような化合物、例えばハロゲン化アルミニウムとアルキルリチウムとの組み合わせ、またはハロゲン化アルミニウムとアルキルマグネシウムとの組み合わせなどを、前記(C1)有機金属化合物として使用することもできる。
上記のような(C1)有機金属化合物は、1種単独でまたは2種以上組み合わせて用いられる。
【0079】
((C2)有機アルミニウムオキシ化合物)
本発明で用いられる(C2)有機アルミニウムオキシ化合物は、従来公知のアルミノキサンであってもよく、また特開平2-78687号公報に例示されているようなベンゼン不溶性の有機アルミニウムオキシ化合物であってもよい。(C2)有機アルミニウムオキシ化合物としては、具体的には、メチルアルミノキサン、エチルアルミノキサン、イソブチルアルミノキサン等が挙げられる。
【0080】
従来公知のアルミノキサンは、例えば下記のような方法によって製造することができ、通常、炭化水素溶媒の溶液として得られる。
(1)吸着水を含有する化合物または結晶水を含有する塩類、例えば塩化マグネシウム水和物、硫酸銅水和物、硫酸アルミニウム水和物、硫酸ニッケル水和物、塩化第1セリウム水和物などの炭化水素媒体懸濁液に、トリアルキルアルミニウムなどの有機アルミニウム化合物を添加して、吸着水または結晶水と有機アルミニウム化合物とを反応させる方法。
(2)ベンゼン、トルエン、エチルエーテル、テトラヒドロフランなどの媒体中で、トリアルキルアルミニウムなどの有機アルミニウム化合物に直接水、氷または水蒸気を作用させる方法。
(3)デカン、ベンゼン、トルエンなどの媒体中でトリアルキルアルミニウムなどの有機アルミニウム化合物に、ジメチルスズオキシド、ジブチルスズオキシドなどの有機スズ酸化物を反応させる方法。
【0081】
なお前記アルミノキサンは、少量の有機金属成分を含有してもよい。また回収された上記のアルミノキサンの溶液から溶媒または未反応有機アルミニウム化合物を蒸留して除去した後、得られたアルミノキサンを溶媒に再溶解またはアルミノキサンの貧溶媒に懸濁させてもよい。
アルミノキサンを調製する際に用いられる有機アルミニウム化合物として具体的には、前記一般式(C1-a)に属する有機アルミニウム化合物として例示したものと同様の有機アルミニウム化合物を挙げることができる。
これらのうち、トリアルキルアルミニウム、トリシクロアルキルアルミニウムが好ましく、トリメチルアルミニウムが特に好ましい。
上記のような有機アルミニウム化合物は、1種単独でまたは2種以上組み合せて用いられる。
【0082】
アルミノキサンの調製に用いられる溶媒としては、ベンゼン、トルエン、キシレン、クメン、シメンなどの芳香族炭化水素、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、デカン、ドデカン、ヘキサデカン、オクタデカンなどの脂肪族炭化水素、シクロペンタン、シクロヘキサン、シクロオクタン、メチルシクロペンタンなどの脂環族炭化水素、ガソリン、灯油、軽油などの石油留分または上記芳香族炭化水素、脂肪族炭化水素、脂環族炭化水素のハロゲン化物とりわけ、塩素化物、臭素化物などの炭化水素溶媒が挙げられる。さらにエチルエーテル、テトラヒドロフランなどのエーテル類を用いることもできる。これらの溶媒のうち特に芳香族炭化水素または脂肪族炭化水素が好ましい。
また本発明で用いられるベンゼン不溶性の有機アルミニウムオキシ化合物は、60℃のベンゼンに溶解するAl成分がAl原子換算で通常10%以下、好ましくは5%以下、特に好ましくは2%以下であるもの、すなわち、ベンゼンに対して不溶性または難溶性であることが好ましい。
本発明で用いられる(C2)有機アルミニウムオキシ化合物としては、下記一般式(III)で表されるボロンを含んだ有機アルミニウムオキシ化合物を挙げることもできる。
【0083】
【化18】
(一般式(III)中、R
17は炭素原子数が1~10の炭化水素基を示し、4つのR
18は、互いに同一でも異なっていてもよく、水素原子、ハロゲン原子、炭素原子数が1~10の炭化水素基を示す。)
前記一般式(III)で表されるボロンを含んだ有機アルミニウムオキシ化合物は、下記一般式(IV)で表されるアルキルボロン酸と、有機アルミニウム化合物とを、不活性ガス雰囲気下に不活性溶媒中で、-80℃~室温の温度で1分~24時間反応させることにより製造できる。
【0084】
【化19】
(一般式(IV)中、R
19は前記一般式(III)におけるR
17と同じ基を示す。)
前記一般式(IV)で表されるアルキルボロン酸の具体的な例としては、メチルボロン酸、エチルボロン酸、イソプロピルボロン酸、n-プロピルボロン酸、n-ブチルボロン酸、イソブチルボロン酸、n-ヘキシルボロン酸、シクロヘキシルボロン酸、フェニルボロン酸、3,5-ジフルオロフェルニルボロン酸、ペンタフルオロフェニルボロン酸、3,5-ビス(トリフルオロメチル)フェニルボロン酸などが挙げられる。これらの中では、メチルボロン酸、n-ブチルボロン酸、イソブチルボロン酸、3,5-ジフルオロフェニルボロン酸、ペンタフルオロフェニルボロン酸が好ましい。これらは1種単独でまたは2種以上組み合わせて用いられる。
このようなアルキルボロン酸と反応させる有機アルミニウム化合物として具体的には、前記一般式(C1-a)に属する有機アルミニウム化合物として例示したものと同様の有機アルミニウム化合物を挙げることができる。
前記有機アルミニウム化合物としては、トリアルキルアルミニウム、トリシクロアルキルアルミニウムが好ましく、特にトリメチルアルミニウム、トリエチルアルミニウム、トリイソブチルアルミニウムが好ましい。これらは1種単独でまたは2種以上組み合わせて用いられる。
【0085】
上記のような(C2)有機アルミニウムオキシ化合物は、1種単独でまたは2種以上組み合せて用いられる。
遷移金属化合物(A)、遷移金属化合物[B]に加えて、助触媒成分としてのメチルアルミノキサンなどの(C2)有機アルミニウムオキシ化合物を併用すると、オレフィン化合物に対して非常に高い重合活性を示す。
【0086】
((C3)遷移金属化合物(A)または遷移金属化合物[B]と反応してイオン対を形成する化合物)
本発明で用いられる、遷移金属化合物(A)または遷移金属化合物[B]と反応してイオン対を形成する化合物(C3)(以下、「イオン化イオン性化合物」という。)としては、特開平1-501950号公報、特開平1-502036号公報、特開平3-179005号公報、特開平3-179006号公報、特開平3-207703号公報、特開平3-207704号公報、USP-5321106号などに記載されたルイス酸、イオン性化合物、ボラン化合物およびカルボラン化合物などを挙げることができる。さらに、ヘテロポリ化合物およびイソポリ化合物も挙げることができる。
【0087】
具体的には、前記ルイス酸としては、BR3(Rは、フッ素、メチル基、トリフルオロメチル基などの置換基を有していてもよいフェニル基またはフッ素である。)で示される化合物が挙げられ、例えばトリフルオロボロン、トリフェニルボロン、トリス(4-フルオロフェニル)ボロン、トリス(3,5-ジフルオロフェニル)ボロン、トリス(4-フルオロメチルフェニル)ボロン、トリス(ペンタフルオロフェニル)ボロン、トリス(p-トリル)ボロン、トリス(o-トリル)ボロン、トリス(3,5-ジメチルフェニル)ボロンなどである。
前記イオン性化合物としては、例えば下記一般式(V)で表される化合物が挙げられる。
【0088】
【化20】
(一般式(V)中、R
20はH
+、カルボニウムカチオン、オキソニウムカチオン、アンモニウムカチオン、ホスホニウムカチオン、シクロヘプチルトリエニルカチオンまたは遷移金属を有するフェロセニウムカチオンであり、R
21~R
24は、互いに同一でも異なっていてもよく、有機基、好ましくはアリール基または置換アリール基である。)。
前記カルボニウムカチオンとして具体的には、トリフェニルカルボニウムカチオン、トリ(メチルフェニル)カルボニウムカチオン、トリ(ジメチルフェニル)カルボニウムカチオンなどの三置換カルボニウムカチオンなどが挙げられる。
前記アンモニウムカチオンとして具体的には、トリメチルアンモニウムカチオン、トリエチルアンモニウムカチオン、トリプロピルアンモニウムカチオン、トリブチルアンモニウムカチオン、トリ(n-ブチル)アンモニウムカチオンなどのトリアルキルアンモニウムカチオン;N,N-ジメチルアニリニウムカチオン、N,N-ジエチルアニリニウムカチオン、N,N-2,4,6-ペンタメチルアニリニウムカチオンなどのN,N-ジアルキルアニリニウムカチオン;ジ(イソプロピル)アンモニウムカチオン、ジシクロヘキシルアンモニウムカチオンなどのジアルキルアンモニウムカチオンなどが挙げられる。
前記ホスホニウムカチオンとして具体的には、トリフェニルホスホニウムカチオン、トリ(メチルフェニル)ホスホニウムカチオン、トリ(ジメチルフェニル)ホスホニウムカチオンなどのトリアリールホスホニウムカチオンなどが挙げられる。
R
15としては、カルボニウムカチオンおよびアンモニウムカチオンが好ましく、特にトリフェニルカルボニウムカチオン、N,N-ジメチルアニリニウムカチオン、N,N-ジエチルアニリニウムカチオンが好ましい。
またイオン性化合物として、トリアルキル置換アンモニウム塩、N,N-ジアルキルアニリニウム塩、ジアルキルアンモニウム塩、トリアリールホスフォニウム塩などを挙げることもできる。
前記トリアルキル置換アンモニウム塩として具体的には、例えばトリエチルアンモニウムテトラ(フェニル)ホウ素、トリプロピルアンモニウムテトラ(フェニル)ホウ素、トリ(n-ブチル)アンモニウムテトラ(フェニル)ホウ素、トリメチルアンモニウムテトラ(p-トリル)ホウ素、トリメチルアンモニウムテトラ(o-トリル)ホウ素、トリ(n-ブチル)アンモニウムテトラ(ペンタフルオロフェニル)ホウ素、トリプロピルアンモニウムテトラ(o,p-ジメチルフェニル)ホウ素、トリ(n-ブチル)アンモニウムテトラ(m,m-ジメチルフェニル)ホウ素、トリ(n-ブチル)アンモニウムテトラ(p-トリフルオロメチルフェニル)ホウ素、トリ(n-ブチル)アンモニウムテトラ(3,5-ジトリフルオロメチルフェニル)ホウ素、トリ(n-ブチル)アンモニウムテトラ(o-トリル)ホウ素などが挙げられる。
前記N,N-ジアルキルアニリニウム塩として具体的には、例えばN,N-ジメチルアニリニウムテトラ(フェニル)ホウ素、N,N-ジエチルアニリニウムテトラ(フェニル)ホウ素、N,N,2,4,6-ペンタメチルアニリニウムテトラ(フェニル)ホウ素などが挙げられる。
【0089】
前記ジアルキルアンモニウム塩として具体的には、例えばジ(1-プロピル)アンモニウムテトラ(ペンタフルオロフェニル)ホウ素、ジシクロヘキシルアンモニウムテトラ(フェニル)ホウ素などが挙げられる。
【0090】
さらにイオン性化合物として、トリフェニルカルベニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、N,N-ジメチルアニリニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、フェロセニウムテトラ(ペンタフルオロフェニル)ボレート、トリフェニルカルベニウムペンタフェニルシクロペンタジエニル錯体、N,N-ジエチルアニリニウムペンタフェニルシクロペンタジエニル錯体、下記式(VI)または(VII)で表されるホウ素化合物などを挙げることもできる。
【0091】
【化21】
(式(VI)中、Etはエチル基を示す。)
【0092】
【化22】
(式(VII)中、Etはエチル基を示す。)
イオン化イオン性化合物(化合物(C3))の例であるボラン化合物として具体的には、例えば、デカボラン;
ビス〔トリ(n-ブチル)アンモニウム〕ノナボレート、ビス〔トリ(n-ブチル)アンモニウム〕デカボレート、ビス〔トリ(n-ブチル)アンモニウム〕ウンデカボレート、ビス〔トリ(n-ブチル)アンモニウム〕ドデカボレート、ビス〔トリ(n-ブチル)アンモニウム〕デカクロロデカボレート、ビス〔トリ(n-ブチル)アンモニウム〕ドデカクロロドデカボレートなどのアニオンの塩;
トリ(n-ブチル)アンモニウムビス(ドデカハイドライドドデカボレート)コバルト酸塩(III)、ビス〔トリ(n-ブチル)アンモニウム〕ビス(ドデカハイドライドドデカボレート)ニッケル酸塩(III)などの金属ボランアニオンの塩などが挙げられる。
イオン化イオン性化合物の例であるカルボラン化合物として具体的には、例えば4-カルバノナボラン、1,3-ジカルバノナボラン、6,9-ジカルバデカボラン、ドデカハイドライド-1-フェニル-1,3-ジカルバノナボラン、ドデカハイドライド-1-メチル-1,3-ジカルバノナボラン、ウンデカハイドライド-1,3-ジメチル-1,3-ジカルバノナボラン、7,8-ジカルバウンデカボラン、2,7-ジカルバウンデカボラン、ウンデカハイドライド-7,8-ジメチル-7,8-ジカルバウンデカボラン、ドデカハイドライド-11-メチル-2,7-ジカルバウンデカボラン、トリ(n-ブチル)アンモニウム1-カルバデカボレート、トリ(n-ブチル)アンモニウム1-カルバウンデカボレート、トリ(n-ブチル)アンモニウム1-カルバドデカボレート、トリ(n-ブチル)アンモニウム1-トリメチルシリル-1-カルバデカボレート、トリ(n-ブチル)アンモニウムブロモ-1-カルバドデカボレート、トリ(n-ブチル)アンモニウム6-カルバデカボレート、トリ(n-ブチル)アンモニウム6-カルウンバデカボレート、トリ(n-ブチル)アンモニウム7-カルバウンデカボレート、トリ(n-ブチル)アンモニウム7,8-ジカルバウンデカボレート、トリ(n-ブチル)アンモニウム2,9-ジカルバウンデカボレート、トリ(n-ブチル)アンモニウムドデカハイドライド-8-メチル-7,9-ジカルバウンデカボレート、トリ(n-ブチル)アンモニウムウンデカハイドライド-8-エチル-7,9-ジカルバウンデカボレート、トリ(n-ブチル)アンモニウムウンデカハイドライド-8-ブチル-7,9-ジカルバウンデカボレート、トリ(n-ブチル)アンモニウムウンデカハイドライド-8-アリル-7,9-ジカルバウンデカボレート、トリ(n-ブチル)アンモニウムウンデカハイドライド-9-トリメチルシリル-7,8-ジカルバウンデカボレート、トリ(n-ブチル)アンモニウムウンデカハイドライド-4,6-ジブロモ-7-カルバウンデカボレートなどのアニオンの塩;
トリ(n-ブチル)アンモニウムビス(ノナハイドライド-1,3-ジカルバノナボレート)コバルト酸塩(III)、トリ(n-ブチル)アンモニウムビス(ウンデカハイドライド-7,8-ジカルバウンデカボレート)鉄酸塩(III)、トリ(n-ブチル)アンモニウムビス(ウンデカハイドライド-7,8-ジカルバウンデカボレート)コバルト酸塩(III)、トリ(n-ブチル)アンモニウムビス(ウンデカハイドライド-7,8-ジカルバウンデカボレート)ニッケル酸塩(III)、トリ(n-ブチル)アンモニウムビス(ウンデカハイドライド-7,8-ジカルバウンデカボレート)銅酸塩(III)、トリ(n-ブチル)アンモニウムビス(ウンデカハイドライド-7,8-ジカルバウンデカボレート)金酸塩(III)、トリ(n-ブチル)アンモニウムビス(ノナハイドライド-7,8-ジメチル-7,8-ジカルバウンデカボレート)鉄酸塩(III)、トリ(n-ブチル)アンモニウムビス(ノナハイドライド-7,8-ジメチル-7,8-ジカルバウンデカボレート)クロム酸塩(III)、トリ(n-ブチル)アンモニウムビス(トリブロモオクタハイドライド-7,8-ジカルバウンデカボレート)コバルト酸塩(III)、トリス〔トリ(n-ブチル)アンモニウム〕ビス(ウンデカハイドライド-7-カルバウンデカボレート)クロム酸塩(III)、ビス〔トリ(n-ブチル)アンモニウム〕ビス(ウンデカハイドライド-7-カルバウンデカボレート)マンガン酸塩(IV)、ビス〔トリ(n-ブチル)アンモニウム〕ビス(ウンデカハイドライド-7-カルバウンデカボレート)コバルト酸塩(III)、ビス〔トリ(n-ブチル)アンモニウム〕ビス(ウンデカハイドライド-7-カルバウンデカボレート)ニッケル酸塩(IV)などの金属カルボランアニオンの塩などが挙げられる。
【0093】
イオン化イオン性化合物の例であるヘテロポリ化合物は、ケイ素、リン、チタン、ゲルマニウム、ヒ素および錫から選ばれる原子と、バナジウム、ニオブ、モリブデンおよびタングステンから選ばれる1種または2種以上の原子とを含む化合物である。具体的には、リンバナジン酸、ゲルマノバナジン酸、ヒ素バナジン酸、リンニオブ酸、ゲルマノニオブ酸、シリコノモリブデン酸、リンモリブデン酸、チタンモリブデン酸、ゲルマノモリブデン酸、ヒ素モリブデン酸、錫モリブデン酸、リンタングステン酸、ゲルマノタングステン酸、錫タングステン酸、リンモリブドバナジン酸、リンタングストバナジン酸、ゲルマノタングストバナジン酸、リンモリブドタングストバナジン酸、ゲルマノモリブドタングストバナジン酸、リンモリブドタングステン酸、リンモリブドニオブ酸、およびこれらの酸の塩が挙げられるが、この限りではない。また、前記塩としては、前記酸の、例えば周期表第1族または2族の金属、具体的には、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム、ベリリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム等との塩、トリフェニルエチル塩等の有機塩が挙げられる。
【0094】
イオン化イオン性化合物の例であるイソポリ化合物は、バナジウム、ニオブ、モリブデンおよびタングステンから選ばれる1種の原子の金属イオンから構成される化合物であり、金属酸化物の分子状イオン種であるとみなすことができる。具体的には、バナジン酸、ニオブ酸、モリブデン酸、タングステン酸、およびこれらの酸の塩が挙げられるが、この限りではない。また、前記塩としては、前記酸の例えば周期表第1族または第2族の金属、具体的にはリチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム、ベリリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム等との塩、トリフェニルエチル塩等の有機塩が挙げられる。
【0095】
上記のようなイオン化イオン性化合物((C3)遷移金属化合物(A)、遷移金属化合物[B]と反応してイオン対を形成する化合物)は、1種単独でまたは2種以上組み合せて用いられる。
上記のような(C3)イオン化イオン性化合物は、1種単独でまたは2種以上組み合せて用いられる。
【0096】
有機金属化合物(C1)は、有機金属化合物(C1)と、工程(A)においては遷移金属化合物(A)中の遷移金属原子(M)とのモル比(C1/M)が、工程(B)においては化合物(B)中の遷移金属原子(M)とのモル比(C1/M)が、通常0.01~100000、好ましくは0.05~50000となるような量で用いられる。
有機アルミニウムオキシ化合物(C2)は、有機アルミニウムオキシ化合物(C2)中のアルミニウム原子と、工程(A)においては遷移金属化合物(A)中の遷移金属原子(M)とのモル比(C2/M)が、工程(B)においては化合物(B)中の遷移金属原子(M)とのモル比(C2/M)が、通常10~500000、好ましくは20~100000となるような量で用いられる。
【0097】
イオン化イオン性化合物(C3)は、イオン化イオン性化合物(C3)と、工程(A)においては遷移金属化合物(A)中の遷移金属原子(M)とのモル比(C3/M)が、工程(B)においては化合物(B)中の遷移金属原子(M)(ハフニウム原子)とのモル比(C2/M)が、通常1~10、好ましくは1~5となるような量で用いられる。
【0098】
<環状オレフィン系樹脂組成物>
本発明の環状オレフィン系樹脂組成物は、環状オレフィン系樹脂(α)と前記オレフィン系樹脂(β)を含有することを特徴とする。
前述のオレフィン系樹脂(β)は、任意の配合割合にて、環状オレフィン系樹脂(α)と良好に相容化することから、本発明の環状オレフィン系樹脂組成物における環状オレフィン系樹脂(α)とオレフィン系樹脂(β)との含有割合に特段の制限はないが、環状オレフィン系樹脂本来の剛性や硬度などの物性を良好に保持しながら、耐衝撃性や靱性を改良する含有割合として、環状オレフィン系樹脂(α)は1~99質量部であることが好ましく、より好ましくは5~95質量部、さらに好ましくは10~90質量部である。また、オレフィン系樹脂(β)は1~99質量部であることが好ましく、より好ましくは5~95質量部、さらに好ましくは10~90質量部である。ただし、環状オレフィン系樹脂(α)とオレフィン系樹脂(β)との各質量部の合計は100質量部である。
【0099】
環状オレフィン系樹脂(α)とオレフィン系樹脂(β)の含有割合が上記範囲にあることにより、本発明の環状オレフィン系樹脂組成物は環状オレフィン系樹脂本来の剛性や硬度などの物性を良好に保持しながら、耐衝撃性や靱性が改良され、さらに各種成形品の製造に好適に使用することができる。
【0100】
次に、環状オレフィン系樹脂(α)について以下に説明する。
(環状オレフィン系樹脂(α))
本実施形態に係る環状オレフィン系樹脂(α)は、環状オレフィンに由来する構造単位を必須構成単位とする樹脂である。
本実施形態に係る環状オレフィン系樹脂(α)を構成する環状オレフィン化合物は特に限定はされないが、例えば、エチレンと、上述したグラフト型オレフィン系共重合体が有する側鎖を構成する環状オレフィンとして例示された少なくとも一つの環状オレフィンとから構成される環状オレフィン共重合体を挙げることができる。
【0101】
また、オレフィン系樹脂(β)に含まれる環状オレフィン系共重合体と環状オレフィン系樹脂(α)を構成する骨格はそれぞれ独立しており、異なっていてもよいが、相容性の観点から類似または同一骨格であることが好ましい。すなわち、オレフィン系樹脂(β)に含まれる、環状オレフィンから導かれる構造単位と、環状オレフィン系樹脂(α)に含まれる、環状オレフィンから導かれる構造単位とは、同一種の環状オレフィンから導かれる構造単位であることが好ましい。さらに、オレフィン系樹脂(β)に含まれる、環状オレフィンから導かれる構造単位の割合(mol%)と、環状オレフィン系樹脂(α)に含まれる、環状オレフィンから導かれる構造単位の割合(mol%)とは、近いことが好ましく、例えばその差が20mol%以下、好ましくは10mol%以下である。
本実施形態に係る環状オレフィン系樹脂(α)の135℃のデカリン中で測定される極限粘度[η]は、好ましくは0.03dl/g~10dl/g、より好ましくは0.05dl/g~5dl/g、さらに好ましくは0.10dl/g~2dl/gである。
極限粘度[η]が上記範囲にあることで本発明の環状オレフィン系樹脂組成物は、機械的強度と成形性に優れる。
【0102】
<成形体>
本実施形態に係る成形体は、上述のオレフィン系樹脂(β)あるいは環状オレフィン系樹脂組成物を、公知の成形方法により成形して得られる。例えば、押出成形、射出成形、インフレーション成形、ブロー成形、押出ブロー成形、射出ブロー成形、プレス成形、真空成形、パウダースラッシュ成形、カレンダー成形、発泡成形等の公知の熱成形方法により得られる。
得られる成形体の用途は特に限定されないが、例えば、医療用容器やガスバリアフィルムが挙げられる。
【0103】
医療用容器としては、例えば、薬液や薬剤を充填してなる注射筒(以下、プレフィルドシリンジとも呼ぶ。)に使用されるシリンジ、薬液や薬剤を充填してなる保存容器に使用される保存容器(以下、薬液保存容器とも呼ぶ。)等が挙げられる。
【0104】
ここで、プレフィルドシリンジとは、薬液や薬剤があらかじめ充填されているシリンジ形状の製剤であり、1種類の液が充填されたシングルチャンバータイプのものと、2種の薬剤が充填されたダブルチャンバータイプがある。ほとんどのプレフィルドシリンジはシングルチャンバータイプであるが、ダブルチャンバータイプについては、粉末とその溶解液からなる液・粉タイプの製剤と2種類の液からなる液・液タイプの製剤がある。シングルチャンバータイプの内溶液の例としては、ヘパリン溶液等が挙げられる。
【0105】
薬液保存容器としては、例えば、薬ビン、バイアルビン、輸液ボトル、バルク容器、シャーレ、試験管、分析セル等を挙げることができる。
医療用容器は、オートクレーブ滅菌、放射線滅菌、EOG滅菌、紫外線滅菌、マイクロ波、煮沸水、スチーム等の公知の滅菌処理を行ってもよい。
ガスバリアフィルムは、酸素や水蒸気等のガスの透過を抑えることで内容物の酸化や分解、変質を抑制する透明フィルムである。
【実施例】
【0106】
以下、実施例を参照して本発明を具体的に説明するが、本発明を実施例に限定されるものではない。なお、以下の記載においては、テトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ-4-エンを「TD」と略記する。
以下の実施例および比較例において、各物性は以下の方法により測定あるいは評価した。
【0107】
[分子量測定]
ポリマーサンプルの分子量および分子量分布は、カラムとして東ソー株式会社製TSKgel GMH6-HT 2本、および、TSKgel GMH6-HTL 2本(カラムサイズはいずれも内径7.5mm、長さ300mm)を直列接続した、ゲル浸透クロマトグラフ(東ソー株式会社製HLC-8321 GPC/HT型)を用いて測定した。移動相媒体は、o-ジクロロベンゼンに酸化防止剤としてBHT(和光純薬工業)を0.025質量%配合した媒体を用い、試料濃度は0.15%(W/V)、流速は1.0ml/分とし、140℃で測定した。標準ポリスチレンは、分子量が590~20,600,000については東ソー社製を用いた。得られたクロマトグラムはWaters製データ処理ソフトEmpower3を用いて、公知の方法によって、標準ポリスチレンサンプルを使用した検量線を用いて解析することで、数平均分子量Mn、重量平均分子量Mwおよび分子量分散度Mw/Mnを算出した。
【0108】
[ガラス転移点(Tg)]
得られた重合体のTgは、以下の条件でDSC測定を行い求めた。
装置:エスアイアイナノテクノロジー社製、DSC6220
測定条件:窒素雰囲気下、250℃で5分間ホールドした試料を-20℃まで急冷し、その後昇温速度10℃/min.で250℃まで昇温する過程のDSC曲線を取得した。
得られたDSC曲線において、各ベースラインの延長した直線から縦軸方向に等距離にある直線と、ガラス転移の階段状変化部分の曲線とが交わる点の温度を、ガラス転移温度とした。
【0109】
[主鎖および側鎖中のモノマー(エチレン(C2)およびTD)の組成比]
(1)あらかじめ、TDに由来する構造単位とエチレンに由来する構造単位を含む2元系ランダム共重合体数種について、ガラス転移温度を測定し、13C-NMR分析による環状オレフィン含有量と、DSC(示差走査熱量計)測定によるTg(ガラス転移点温度)の相関式を求めた。
(2)実施例で得られた各ポリマーについて、上記の13C-NMR測定を行い、ポリマー全体を基準としたTDに由来する構造単位の含有量(mol%)を求めた。
(3)次に、上記のDSC測定を行い、主鎖および側鎖のガラス転移点(2点)の値を得た。得られた値を上述の相関式に代入して、主鎖および側鎖中のTDに由来する構造単位の含有量を算出した。
【0110】
[グラフト型オレフィン系重合体[R1]の確認]
ゲル浸透クロマトグラフにより得られるクロマトグラムをピーク分離することにより、環状オレフィン系共重合体が消費されていることを確認し、グラフト型オレフィン系重合体[R1]が生成していることを確認した。
【0111】
[高速面衝撃試験]
樹脂組成物をユーピレックス(商品名、宇部興産製)のフィルムに挟み込み、2.0mmのスペーサ-を用いて、250℃、5MPa、3分間の条件で真空プレス成形した。
得られた厚み2mmのプレスシートに、23℃の条件下、径が1/2インチのロードセル付き撃芯(ストライカ)を試験速度5m/sで衝突させた。プレスシートの裏面には支持台径1インチの台を使用した。得られる変位および試験力変位曲線から試験力の最大点までのエネルギー値を最大衝撃点エネルギーとして算出した。この値が大きいほど、耐衝撃性が高いことを表す。
【0112】
[実施例1]
<工程(A)>
触媒として使用した下記式(a)で示される化合物(a)は公知の方法によって合成した。
【0113】
【0114】
充分に窒素置換した内容積2.0Lのガラス製反応器に、トルエン1500mlおよびTD5.4ml(0.034mmоl)を入れたのち、25℃に保持し600rpmで重合器内部を撹拌しながら、エチレンを240リットル/hrで連続的に供給し、液相および気相を飽和させた。引き続きエチレンを連続的に供給した状態で、メチルアルミノキサン(MAO)のトルエン溶液(1.39mol/L)を5.4mL(7.5mmol)、上記化合物(a)のトルエン溶液(0.008mol/L)を1.0mL(0.006mmol)加え、常圧下、25℃で4.5分間重合を行った。重合の停止は少量のイソブタノールを添加することにより行った。得られた重合反応液を、希塩酸で洗浄し、分液して得られた有機層を大量のメタノール/アセトン混合液に投入し、末端不飽和環状オレフィン系共重合体を析出させた。ろ過により得られた該共重合体を130℃にて10時間減圧乾燥することにより、末端不飽和環状オレフィン系共重合体を2.4g得た。得られた末端不飽和環状オレフィン系共重合体のエチレンに由来する構造単位は61mol%、重量平均分子量は55,600g/mol、Mw/Mnは1.94であった。これを後述するオレフィン系樹脂(β-1)に含まれるグラフト型オレフィン系重合体[R1]の側鎖の組成および分子量とした。
【0115】
<工程(B)>
触媒として使用した下記式(b)で示される化合物(b)は公知の方法によって合成した。
【0116】
【0117】
充分に窒素置換した内容積500mLのガラス製反応器に、上記工程(A)で合成した末端不飽和環状オレフィン系共重合体 2.4gを加え、トルエン250mlに溶解させたのち、90℃に昇温し600rpmで重合器内部を撹拌しながら、エチレンおよび水素をそれぞれ96リットル/hr、0.48リットル/hrで連続的に供給し、液相および気相を飽和させた。引き続きエチレンおよび水素を連続的に供給した状態で、TDを2.6ml(17mmоl)、トリイソブチルアルミニウム(iBu3Alとも記す)のトルエン溶液(1.0mol/L)を0.48mL(0.48mmol)、上記化合物(b)のトルエン溶液(0.010mol/L)を0.80mL(0.0008mmol)、ついでトリフェニルカルベニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート(Ph3CB(C6F5)4とも記す)のトルエン溶液(0.0040mol/L)を0.80mL(0.0032mmol)加え、常圧下、90℃で10分間重合を行った。重合の停止は少量のイソブタノールを添加することにより行った。得られた重合反応液を、希塩酸で洗浄し、分液して得られた有機層を大量のメタノールに投入し、重合体を析出させた。ろ過により得られたオレフィン系樹脂を130℃にて10時間減圧乾燥することにより、4.8gのオレフィン系樹脂(β-1)を得た。また、重合活性として、1時間あたり触媒1mmоlあたりの収量を算出したところ、18kg/(mmоl・hr)であった。重量平均分子量は154,600g/mol、分子量分散度Mw/Mnは2.96であった。
オレフィン系樹脂(β―1)を熱プレス成形にてシートを成形して外観を観察したところ、不溶解分(ゲル)は観察されなかった。
【0118】
上記工程(B)で生成するオレフィン系樹脂(β-1)を構成するエチレン-TD共重合体の構造解析のため、末端不飽和環状オレフィン系共重合体を加えない以外は、上記工程(B)と同様にして行い、3.3gのエチレン-TD共重合体(樹脂(γ-1))を得た。該エチレン-TD共重合体の主鎖のエチレンに由来する構造単位は92mol%、重量平均分子量は175,000g/mol、分子量分散度Mw/Mnは2.01であった。これをオレフィン系樹脂(β-1)に含まれるグラフト型オレフィン系重合体[R1]の主鎖の組成および分子量とした。
評価結果を表1に示す。
【0119】
[実施例2]
<工程(A)>
充分に窒素置換した内容積2.0Lのガラス製反応器に、トルエン1500mlおよびTD5.4ml(0.034mmоl)を入れたのち、25℃に保持し600rpmで重合器内部を撹拌しながら、エチレンを240リットル/hrで連続的に供給し、液相および気相を飽和させた。引き続きエチレンを連続的に供給した状態で、メチルアルミノキサン(MAO)のトルエン溶液(1.39mol/L)を5.4mL(7.5mmol)、上記化合物(a)のトルエン溶液(0.046mol/L)を1.8mL(0.0084mmol)加え、常圧下、25℃で5分間重合を行った。重合の停止は少量のイソブタノールを添加することにより行った。得られた重合反応液を、希塩酸で洗浄し、分液して得られた有機層を大量のメタノール/アセトン混合液に投入し、末端不飽和環状オレフィン系共重合体を析出させた。ろ過により得られた該共重合体を130℃にて10時間減圧乾燥することにより、末端不飽和環状オレフィン系共重合体を4.2g得た。得られた末端不飽和環状オレフィン系共重合体のエチレンに由来する構造単位は62mol%、重量平均分子量は53,200g/mоlであった。これを後述するオレフィン系樹脂(β-2)に含まれるグラフト型オレフィン系重合体[R2]の側鎖の組成および分子量とした。
【0120】
<工程(B)>
充分に窒素置換した内容積250mLのガラス製反応器に、上記工程(A)で合成した末端不飽和環状オレフィン系共重合体3.5gを加え、トルエン250mlに溶解させたのち、90℃に昇温し600rpmで重合器内部を撹拌しながら、エチレンおよび水素をそれぞれ96リットル/hr、0.96リットル/hrで連続的に供給し、液相および気相を飽和させた。引き続きエチレンおよび水素を連続的に供給した状態で、TDを2.6ml(17mmоl)、トリイソブチルアルミニウム(iBu3Alとも記す)のトルエン溶液(1.0mol/L)を0.60mL(0.60mmol)、上記化合物(b)のトルエン溶液(0.010mol/L)を0.10mL(0.0010mmol)、ついでトリフェニルカルベニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート(Ph3CB(C6F5)4とも記す)のトルエン溶液(0.0040mol/L)を0.10mL(0.0040mmol)加え、常圧下、90℃で5.5分間重合を行った。重合の停止は少量のイソブタノールを添加することにより行った。得られた重合反応液を、希塩酸で洗浄し、分液して得られた有機層を大量のメタノールに投入し、重合体を析出させた。ろ過により得られたオレフィン系樹脂を130℃にて10時間減圧乾燥することにより、5.6gのオレフィン系樹脂(β-2)を得た。また、重合活性として、1時間あたり触媒1mmоlあたりの収量を算出したところ、23kg/(mmоl・hr)であった。重量平均分子量は84,500g/mol、分子量分散度Mw/Mnは2.32であった。
オレフィン系樹脂(β―2)を熱プレス成形にてシートを成形して外観を観察したところ、不溶解分(ゲル)は観察されなかった。
【0121】
上記工程(B)で生成するオレフィン系樹脂(β-2)を構成するエチレン-TD共重合体の構造解析のため、環状オレフィン系共重合体を加えてない以外は、上記工程(B)と同様にして行い、0.70gのエチレン-TD共重合体(樹脂(γ-2))を得た。該エチレン-TD共重合体の主鎖のエチレンに由来する構造単位は88mol%、重量平均分子量は120,000g/mоl、分子量分散度Mw/Mnは1.90であった。これを後述するオレフィン系樹脂(β-2)に含まれるグラフト型オレフィン系重合体[R2]の主鎖の組成および分子量とした。
評価結果を表1に示す。
【0122】
[比較例1]
実施例1の工程(B)において末端不飽和環状オレフィン系共重合体を含まない以外は同様に合成した環状オレフィン系共重合体と、実施例1の工程(A)で得た末端不飽和環状オレフィン系共重合体とを、1:1の重量比にてトルエン中に溶解し、90℃で1時間撹拌し、大量のメタノールに投入し樹脂組成物を析出させた。この樹脂組成物から厚み2mmのプレスシートを作製した。評価結果を表1に示す。
【0123】
[比較例2]
実施例1の工程(A)より得られた末端不飽和環状オレフィン系共重合体のみを用いて厚み2mmのプレスシートを作製した。評価結果を表1に示す。
[比較例3]
三井化学社製 アペル(登録商標)6015Tを用いて厚み2mmのプレスシートを作製した。評価結果を表1に示す。
【0124】
【0125】
表1に示されるとおり、グラフト型共重合体を含む実施例1および2のオレフィン系樹脂の高速面衝撃エネルギー値は、環状オレフィンの含有率の高い樹脂単体である比較例2および3より高い値を示した。また、樹脂の破壊タイプは「延性破壊」と「脆性破壊」の2種類に分類され、樹脂が伸びて変形したのちに切れる挙動を延性破壊、ほとんど伸びることなく割れてしまう挙動を脆性破壊という。一般的に耐衝撃性が向上すると延性破壊となるが、グラフト型共重合体を含む実施例1および2の破壊タイプは延性破壊を示した。
また、比較例1はオレフィン型グラフト共重合体[R1]を含まず、側鎖に該当する成分と主鎖に該当する成分とをブレンドした樹脂である。実施例の高速面衝撃エネルギー値は比較例1よりも高い値を示した。これより、50℃以下の低温領域にガラス転移点があることに加え、グラフト構造を有するグラフト型重合体[R1]を含むことで環状オレフィン樹脂の耐衝撃性が向上したことがわかる。
【0126】
また、実施例1および2のオレフィン系樹脂の高温領域のガラス転移点は162℃および154℃という高い値を示しており、耐熱性に優れる。
また、実施例1および2の重合活性から分かる通り、実施例1および2の製造方法は、一定の触媒量から得られる樹脂量が多いため、重合体の製造コストを低く抑えることができ、生産合理性に優れると考えられる。