(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-07
(45)【発行日】2024-05-15
(54)【発明の名称】光学測定方法、光学測定装置及び光学測定プログラム
(51)【国際特許分類】
G01N 21/23 20060101AFI20240508BHJP
【FI】
G01N21/23
(21)【出願番号】P 2020043449
(22)【出願日】2020-03-12
【審査請求日】2022-12-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000206967
【氏名又は名称】大塚電子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000154
【氏名又は名称】弁理士法人はるか国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】稲野 大輔
【審査官】田中 洋介
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-042722(JP,A)
【文献】特開平10-010041(JP,A)
【文献】特開2003-240678(JP,A)
【文献】特開2005-257508(JP,A)
【文献】特開2003-172691(JP,A)
【文献】特開2000-111472(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/00-21/61
JSTPlus/JSTChina/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料に対して、所定の波長域で、複数のピーク及びバレイを含む分光スペクトルを測定するステップと、
複数の
波長分散係数を含む第1波長分散式を用いて、前記試料の厚さを前記ピーク又は前記バレイの表す波長ごとに算出するとともに、前記算出された厚さに基づく評価値が最も大きくなる
ように算出された波長分散係数を、前記複数のピークの各光学次数を特定するために用いる波長分散係数として仮決定するステップと、
前記複数のピークに含まれる特定のピークの
光学次数
として複数通りの
値を想定し、
当該特定のピークの光学次数が想定した各値である条件のもと、前記複数のピークの各
光学次数と波長に基づいて、第2波長分散式を算出するステップと、
仮決定された前記
波長分散係数を含む第1波長分散式と、前記第2波長分散式と、に基づいて、前記特定のピークの
光学次数を特定するとともに、特定された
光学次数と前記第2波長分散式に基づいて、前記
波長分散係数を本決定するステップと、
前記本決定された前記
波長分散係数を含む前記第2波長分散式に基づいて、リタデーションを算出するステップと、
を含
み、
前記評価値は、前記算出された厚さの波長依存性または標準偏差が小さいほど大きい値であることを特徴とする光学測定方法。
【請求項2】
前記第1波長分散式及び前記第2波長分散式は、コーシーの波長分散式であることを特徴とする請求項1に記載の光学測定方法。
【請求項3】
前記分光スペクトルは、平行ニコルスペクトルであることを特徴とする請求項1または2に記載の光学測定方法。
【請求項4】
光の進行方向と前記試料の表面のなす角度を変更するステップと、
前記角度が維持された状態で前記分光スペクトルを測定し、前記本決定された前記
波長分散係数を含む前記第2波長分散式に基づいて、リタデーションを測定するステップと、
前記角度を変更するステップと、前記リタデーションを測定するステップと、を所定の回数繰り返し実行することにより算出された複数のリタデーションに基づいて、前記試料の厚さ方向位相差または3次元屈折率を算出するステップと、
をさらに含むことを特徴とする請求項1乃至
3のいずれかに記載の光学測定方法。
【請求項5】
試料に対して、所定の波長域で、複数のピーク及びバレイを含む分光スペクトルを測定する測定部と、
複数の
波長分散係数を含む第1波長分散式を用いて、前記試料の厚さを前記ピーク又は前記バレイの表す波長ごとに算出するとともに、前記算出された厚さに基づく評価値が最も大きくなる
ように算出された波長分散係数を、前記複数のピークの各光学次数を特定するために用いる波長分散係数として仮決定する仮決定部と、
前記複数のピークに含まれる特定のピークの
光学次数
として複数通りの
値を想定し、
当該特定のピークの光学次数が想定した各値である条件のもと、前記複数のピークの各
光学次数と波長に基づいて、第2波長分散式を算出する第2波長分散式算出部と、
仮決定された前記
波長分散係数を含む第1波長分散式と、前記第2波長分散式と、に基づいて、前記特定のピークの
光学次数を特定するとともに、特定された
光学次数と前記第2波長分散式に基づいて、前記
波長分散係数を本決定する本決定部と、
前記本決定された前記
波長分散係数を含む前記第2波長分散式に基づいて、リタデーションを算出するリタデーション算出部と、
を含
み、
前記評価値は、前記算出された厚さの波長依存性または標準偏差が小さいほど大きい値であることを特徴とする光学測定装置。
【請求項6】
光学測定装置に用いられるコンピュータで実行される光学測定プログラムであって、
試料に対して、所定の波長域で、複数のピーク及びバレイを含む分光スペクトルを測定するステップと、
複数の
波長分散係数を含む第1波長分散式を用いて、前記試料の厚さを前記ピーク又は前記バレイの表す波長ごとに算出するとともに、前記算出された厚さに基づく評価値が最も大きくなる
ように算出された波長分散係数を、前記複数のピークの各光学次数を特定するために用いる波長分散係数として仮決定するステップと、
前記複数のピークに含まれる特定のピークの
光学次数
として複数通りの
値を想定し、
当該特定のピークの光学次数が想定した各値である条件のもと、前記複数のピークの各
光学次数と波長に基づいて、第2波長分散式を算出するステップと、
仮決定された前記
波長分散係数を含む第1波長分散式と、前記第2波長分散式と、に基づいて、前記特定のピークの
光学次数を特定するとともに、特定された
光学次数と前記第2波長分散式に基づいて、前記
波長分散係数を本決定するステップと、
前記本決定された前記
波長分散係数を含む前記第2波長分散式に基づいて、リタデーションを算出するステップと、
を前記コンピュータに実行させ
、
前記評価値は、前記算出された厚さの波長依存性または標準偏差が小さいほど大きい値であることを特徴とする光学測定プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学測定方法、光学測定装置及び光学測定プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、試料と、偏光子及び検光子と、の位置関係を試料の平面方向に回転させながら測定を行うことにより、光学次数及びリタデーションを求める光学測定装置が知られている(下記特許文献1及び特許文献2参照)。また、試料の複屈折率または試料の厚さの一方が既知である場合に、リタデーションを測定する方法もある(下記特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平11-211656号公報
【文献】特開2003-172691号公報
【文献】特開2003-240678号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1及び特許文献2のように、試料と偏光光学系のなす角度を複数通りに変化させて測定する場合、測定装置に試料または偏光光学系を傾斜させる駆動機構が必要となる。また、特に試料のリタデーションが高い場合、次数の特定が困難であり、正確なリタデーションの測定を行うことは困難である。特許文献3の光学測定方法では、試料の複屈折率または試料の厚さの少なくとも一方が既知でなければ、リタデーションの波長分散を測定できない。
【0005】
本開示は、上記実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、簡易な測定機構を用いて分光スペクトルを測定し、該分光スペクトルに含まれるピーク又はバレイの次数を特定するとともに正確なリタデーションを測定することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本開示に係る光学測定方法は、試料に対して、所定の波長域で、複数のピーク及びバレイを含む分光スペクトルを測定するステップと、複数の条件で設定される係数を含む第1波長分散式を用いて、前記試料の厚さを前記ピーク又は前記バレイの表す波長ごとに算出するとともに、前記算出された厚さに基づく評価値が最も大きくなる前記条件において、前記第1波長分散式に含まれる係数を仮決定するステップと、前記複数のピークに含まれる特定のピークの次数を複数通りの条件で設定し、設定された複数の条件のもと、前記複数のピークの各次数と波長に基づいて、第2波長分散式を算出するステップと、仮決定された前記係数を含む第1波長分散式と、前記第2波長分散式と、に基づいて、前記特定のピークの次数を特定するとともに、特定された次数と前記第2波長分散式に基づいて、前記係数を本決定するステップと、前記本決定された前記係数を含む前記第2波長分散式に基づいて、リタデーションを算出するステップと、を含むことを特徴とする。
【0007】
また、本開示に係る光学測定装置は、試料に対して、所定の波長域で、複数のピーク及びバレイを含む分光スペクトルを測定する測定部と、複数の条件で設定される係数を含む第1波長分散式を用いて、前記試料の厚さを前記ピーク又は前記バレイの表す波長ごとに算出するとともに、前記算出された厚さに基づく評価値が最も大きくなる前記条件において、前記第1波長分散式に含まれる係数を仮決定する仮決定部と、前記複数のピークに含まれる特定のピークの次数を複数通りの条件で設定し、設定された複数の条件のもと、前記複数のピークの各次数と波長に基づいて、第2波長分散式を算出する第2波長分散式算出部と、仮決定された前記係数を含む第1波長分散式と、前記第2波長分散式と、に基づいて、前記特定のピークの次数を特定するとともに、特定された次数と前記第2波長分散式に基づいて、前記係数を本決定する本決定部と、前記本決定された前記係数を含む前記第2波長分散式に基づいて、リタデーションを算出するリタデーション算出部と、を含むことを特徴とする。
【0008】
また、本開示に係る光学測定プログラムは、光学測定装置に用いられるコンピュータで実行される光学測定プログラムであって、試料に対して、所定の波長域で、複数のピーク及びバレイを含む分光スペクトルを測定するステップと、複数の条件で設定される係数を含む第1波長分散式を用いて、前記試料の厚さを前記ピーク又は前記バレイの表す波長ごとに算出するとともに、前記算出された厚さに基づく評価値が最も大きくなる前記条件において、前記第1波長分散式に含まれる係数を仮決定するステップと、前記複数のピークに含まれる特定のピークの次数を複数通りの条件で設定し、設定された複数の条件のもと、前記複数のピークの各次数と波長に基づいて、第2波長分散式を算出するステップと、仮決定された前記係数を含む第1波長分散式と、前記第2波長分散式と、に基づいて、前記特定のピークの次数を特定するとともに、特定された次数と前記第2波長分散式に基づいて、前記係数を本決定するステップと、前記本決定された前記係数を含む前記第2波長分散式に基づいて、リタデーションを算出するステップと、を前記コンピュータに実行させることを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は本実施形態に係る光学測定装置の概略構成を示す模式図である。
【
図2】
図2は本実施形態に係る測定部の概略構成の一例を示す図である。
【
図3】
図3は測定された平行ニコルスペクトルの一例を示す図である。
【
図4】
図4は本実施形態にかかるリタデーションを算出する方法を示すフローである。
【
図5】
図5は厚さの波長依存性の一例を示す図である。
【
図6】
図6は第1波長分散式及び第2波長分散式をグラフに表した図である。
【
図7】
図7は本発明の効果を検証するための実験結果の一例を示す図である。
【
図8】
図8は本発明の効果を検証するための実験結果の一例を示す図である。
【
図9】
図9は本発明の効果を検証するための実験結果の一例を示す図である。
【
図10】
図10は本発明の効果を検証するための実験結果の一例を示す図である。
【
図11】
図11は、厚さ方向位相差または3次元複屈折率を算出するための方法を示すフローである。
【
図12】
図12は、本実施形態に係る測定部の概略構成の他の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本開示における実施形態について、図面を用いて以下に説明する。
【0011】
図1は、本実施形態の光学測定装置100の概略構成を示す模式図である。
図1に示すように、本実施形態の光学測定装置100は、情報処理部102と測定部104とを含む。情報処理部102は、制御部106と、記憶部108と、表示部110と、入出力部112と、を含む。情報処理部102は、例えば、一般的なコンピュータである。制御部106、記憶部108、表示部110及び入出力部112は、データバス114により相互に電気信号のやり取りができるよう接続されている。
【0012】
制御部106は、プロセッサであるCPU(Central Processing Unit)である。具体的には、制御部106は、機能的に、波長算出部116、仮決定部120、規格化部122、第2波長分散式算出部124、本決定部126及びリタデーション算出部128を含み、各部は、記憶部108に記憶されたプログラムに従って後述する演算を行う。
【0013】
記憶部108は、RAM(Random Access Memory)などの主記憶装置及びHDD(Hard Disk Drive)やSSD(Solid State Drive)等の静的に情報を記録できる補助記憶装置である。記憶部108には、光学測定プログラムの他、情報処理部102に含まれる各部の動作を制御するプログラムが記憶される。
【0014】
表示部110は、CRT(Cathode Ray Tube)やいわゆるフラットパネルディスプレイ等である。表示部110は、ユーザに対して視覚的に画像を表示する。
【0015】
入出力部112は、キーボードやマウス、タッチパネル等の、ユーザが情報を入力するための一又は複数の機器である。入出力部112は、情報処理部102が測定部104等の外部機器と情報をやり取りするための一又は複数のインタフェースである。例えば、入出力部112は、測定部104が測定した結果が入力される。入出力部112には、有線接続するための各種ポート及び、無線接続のためのコントローラが含まれていてよい。なお、ここで示した情報処理部102の構成は一例であり、これ以外の構成のものであってもよい。
【0016】
図2は、測定部104の概略構成を示す模式図である。
図2に示すように、測定部104は、光源202と、光ファイバ204と、集光レンズ206と、偏光子208と、回転試料ステージ210と、検光子214と、マルチチャンネル分光器216と、を含む。なお、
図2に示す測定部104は、平行ニコルスペクトルを測定する場合を示す一例である。
【0017】
光源202は、例えば白色の光を発するハロゲンランプである。光源202は、測定の対象である波長域の光を発する光源202であれば、他の種類の光源202であってもよい。光源202が発した光は、光ファイバ204を経由し、集光レンズ206によって平行光に変換される。
【0018】
偏光子208は、直線偏光子である。偏光子208は、集光レンズ206によって変換された平行光のうち、透過軸方向の成分のみを透過させる。
【0019】
回転試料ステージ210は、試料212が配置される。偏光子208を経由した光の進行方向をZ軸方向とした場合に、回転試料ステージ210は、回転試料ステージ210に配置された試料212の表面とZ軸とのなす角度が変更できるように構成される。
図2では、試料212の表面をXY平面とした場合、X軸とZ軸とのなす角度及びY軸とZ軸とのなす角度がいずれも90度である場合を示している。また、回転試料ステージ210は、偏光子208を透過した光のうち、測定対象となる波長域の成分を透過する材料で形成される。なお、測定部104は、回転試料ステージ210を有しない構成であってもよい。
【0020】
検光子214は、直線偏光子であって、偏光子208と透過軸が平行になるように配置される。試料212を透過した光は、波長に応じて、X軸成分とY軸成分に位相差が生じる。検光子214は、当該位相差の生じた光の透過軸方向の成分のみを透過させる。透過した光は集光レンズ206によって集光され、光ファイバ204を経由してマルチチャンネル分光器216に入力される。
【0021】
マルチチャンネル分光器216は、入力された光の強度を、波長ごとに弁別して測定する。具体的には、例えば、マルチチャンネルアナライザは、
図3に示すような平行ニコルスペクトルを測定する。
図3の縦軸は、マルチチャンネルアナライザが測定した強度から換算した透過率であって、横軸は波長である。試料212を透過した後の光は、波長によってX軸成分とY軸成分の位相が異なるため、透過率の波長依存性は、
図3に示すように、波形状である。
【0022】
次に、
図4に示すフローを用いて、本実施形態にかかるリタデーションの測定方法及び制御部106に含まれる各部の機能について説明する。まず、測定部104は、試料212に対して、所定の波長域で、複数のピーク及びバレイを含む分光スペクトルを測定する(S402)。具体的には、例えば、測定部104は、
図3に示すような、400nm乃至800nmの波長域で複数のピーク及びバレイを含む平行ニコルスペクトルを測定する。
【0023】
次に、波長算出部116は、演算波長域に含まれる各ピーク及びバレイの表す波長を算出する(S404)。具体的には、例えば、波長算出部116は、演算波長域として、500nmから750nmの範囲を設定する。
図3の例では、波長算出部116は、当該演算波長域に含まれる7個のピーク及び7個のバレイのそれぞれ表す波長を算出する。なお、当該演算波長域は、ユーザが入出力部112に入力することにより設定されてよい。
【0024】
次に、仮決定部120は、複数の条件で設定される係数を含む第1波長分散式を用いて、試料の厚さをピーク又はバレイの表す波長ごとに算出するとともに、算出された厚さに基づく評価値が最も大きくなる条件において、第1波長分散式に含まれる係数を仮決定する(S406)。具体的には、例えば、仮決定部120は、数1乃至数4を用いて波長分散係数A,B及びCを仮決定する。数1は、λ
Cの関数である厚さを算出する数式である。
【数1】
【0025】
数1において、iは、ピーク及びバレイの指数である。例えば、iは、S404で算出された14個のピークの表す波長及びバレイの表す波長のうち、最も長い波長740nmのピークの指数は0であり、最も短い波長500nmのバレイの指数は13である。λは波長である。λ
Cは、隣接するピークの中間波長または隣接するバレイの中間波長であって、数2で表される。
【数2】
【0026】
Δn(λ)は、波長λにおける複屈折率であって、例えば数3に示すようにコーシーの波長分散式と未知の波長分散係数A,B及びCを用いて算出される。
【数3】
【0027】
仮決定部120は、数1で算出される厚さに基づく評価値が最大となるように、第1波長分散式に含まれる波長分散係数A,B及びCを仮決定する。例えば、仮決定部120は、数1を用いて各ピークまたはバレイ波長で算出された厚さと、数4とを用いて、標準偏差σを算出し、標準偏差σの逆数を評価値とする。
【数4】
【0028】
数4において、dλC,iは、各指数iについて、隣接するピークの中間波長または隣接するバレイの中間波長ごとに算出された試料212の厚さである。maxは、演算波長域における指数の最大値である。上記例では、演算波長域にピーク及びバレイが合わせて14個含まれることから、maxの値は13である。
【0029】
具体的には、仮決定部120は、標準偏差σの逆数を評価値とし、非線形最小二乗法を用いて波長分散係数A,B及びCを算出する。なお、当該アルゴリズムは一例であって、標準偏差σの逆数である評価値が最大となる条件における波長分散係数A,B及びCが特定できれば他のアルゴリズムを用いて波長分散係数A,B及びCが仮決定されてもよい。
【0030】
図5は、仮決定部120が波長分散係数A,B及びCを仮決定するまでに、繰り返し変更された波長分散係数A,B及びCのうち3通りの条件において算出された厚さdと波長との関係を表す図である。
図5に示す例では、波長分散係数Bが13723である条件が、厚さdの標準偏差が最も小さい。従って、仮決定部120は、当該条件で算出されたA,B及びCを波長分散係数として仮決定する。
【0031】
なお、評価値は、他の方法で算出されてもよい。具体的には、評価値は、算出された厚さの波長依存性が小さいほど大きい値となるように設定されてもよい。例えば、仮決定部120は、S406において各条件下で算出された厚さの波長依存性に対して、1次式の近似直線を算出してもよい。そして、仮決定部120は、当該近似式に含まれる傾きが最も小さくなる条件におけるA,B及びCを波長分散係数として仮決定してもよい。すなわち、仮決定部120は、厚さの波長依存性が最も平坦となる条件におけるA,B及びCを波長分散係数として仮決定してもよい。
【0032】
次に、規格化部122は、仮決定された波長分散係数A,B及びCを含む第1波長分散式を規格化する(S410)。具体的には、規格化部122は、数5を用いて、所定の波長λnにおけるリタデーションを基準として、第1波長分散係数を規格化する。所定の波長λnは、適宜設定されてよいが、ここでは、600nmであるとする。なお、数5に含まれるA’,B’及びC’は、規格化された後の波長分散係数である。
【数5】
【0033】
次に、第2波長分散式算出部124は、次数が複数通りに設定された条件のもと、各ピークまたはバレイの次数と第1波長分散式に基づいて、第2波長分散式を算出する(S412)。具体的には、第2波長分散式算出部124は、複数のピークに含まれる特定のピークの次数を複数通りの条件で設定し、設定された複数の条件のもと、複数のピークの各次数と波長に基づいて、第2波長分散式を算出する。例えば、演算波長域に含まれるピークまたはバレイのうち、最も波長の長いピークまたはバレイが表す波長をλ
0と設定し、該ピークの次数をm
0とする。第2波長分散式算出部124は、
図3に表す測定結果に含まれる波長740nmにおけるピークの次数m
0が10である条件と、次数m
0が11である条件と、次数m
0が12である条件を設定する。各ピーク及び各バレイが表す波長におけるリタデーションRe.(λ
i)は、数6及び数7で表される。
【数6】
【数7】
【0034】
例えば、波長740nmにおけるピークの次数が10である条件下では、λ
0、λ
1、λ
2のリタデーションは数8乃至数10で表される。
【数8】
【数9】
【数10】
【0035】
同様に、演算波長域に含まれる全てのピーク及びバレイが表す波長のリタデーションは、上記数6または数7を用いて算出される。また、波長740nmにおけるピークの次数が11である条件と、12である条件と、において、第2波長分散式算出部124は、同様の演算を行う。
【0036】
次に、第2波長分散式算出部124は、波長分散係数α
m0,β
m0及びγ
m0を含み、数11で表される第2波長分散式を算出する。数11で表されるように、第2波長分散式は、第1波長分散式と同様に、コーシーの波長分散式である。
【数11】
【0037】
第2波長分散式算出部124は、各条件下で、数6及び数7を用いて算出した各リタデーションの値と、数11を用いて算出した各リタデーションの値と、の残差が最も小さくなるように、波長分散係数αm0,βm0及びγm0を算出する。
【0038】
さらに、規格化部122は、所定の波長λnのリタデーションを基準として、各条件下で算出された波長分散係数α
m0,β
m0及びγ
m0を含む第2波長分散式を規格化する。なお、所定の波長λnは、S410で用いられた600nmである。規格化された第2波長分散式は、数12で表される。
【数12】
【0039】
ここで、α
m0’,β
m0’及びγ
m0’は、規格化後の第2波長分散式に含まれる波長分散係数である。
図6は、波長740nmにおけるピークの次数m
0が10である条件と、11である条件と、12である条件において算出された規格化後の第2波長分散式を表す図である。
【0040】
次に、本決定部126は、仮決定された係数を含む第1波長分散式と、第2波長分散式と、に基づいて、特定のピークの次数を特定するとともに、特定された次数と第2波長分散式に基づいて、係数を本決定する(S414)。具体的には、本決定部126は、S412において算出され、規格化された各第2波長分散式と、S410において算出された第1波長分散式と、を比較する。そして、本決定部126は、第1波長分散式と最も一致する第2波長分散式が算出された条件に基づいて、次数を特定する。
【0041】
図6は、各条件で算出された規格化後の第2波長分散式とともに、S410において算出された規格化後の第1波長分散式を表す。
図6に示すように、S410において算出された第1波長分散式は、波長740nmにおけるピークの次数m
0が11である条件下で算出された第2波長分散式と最も一致度が高い。従って、本決定部126は、波長740nmにおけるピークの次数m
0が11であると特定する。さらに、本決定部126は、次数m
0が11である条件下で算出された規格化前の第2波長分散式に含まれるα
m0,β
m0及びγ
m0を波長分散係数として本決定する。
【0042】
次に、リタデーション算出部128は、本決定された係数を含む第2波長分散式に基づいて、リタデーションを算出する(S416)。具体的には、リタデーション算出部128は、S414で本決定されたαm0,βm0及びγm0を含む数11と、ユーザにより入力部に入力された波長と、に基づいて、ユーザが所望する波長におけるリタデーションを算出する。
【0043】
以上のように本発明によれば、簡易な測定機構を用いて分光スペクトルを測定し、該分光スペクトルに含まれるピーク又はバレイの次数を特定するとともに正確なリタデーションを測定することができる。本発明の効果について、実測のデータを用いて説明する。
【0044】
図7は、リタデーションの異なる2枚の単層の水晶板である試料212(単層試料1及び単層試料2)について、S402のステップでそれぞれ測定された分光スペクトル(本例では平行ニコルスペクトル)を示す図である。
【0045】
図8は、
図7で示した2枚の単層の水晶板を重ね合わせて作成された試料212(重ね合わせ試料)について、S402のステップで測定された分光スペクトル(本例では平行ニコルスペクトル)を示す図である。
【0046】
図9は、
図7の測定結果と、S404乃至S416のステップで算出した第2波長分散式と、を用いて算出されたリタデーションの波長依存性を表す図である。
図10は、
図8の測定結果と、S404乃至S416のステップで算出した第2波長分散式と、を用いて算出されたリタデーションの波長依存性を表す図である。また、
図10は、
図9に示す2枚の単層の水晶板におけるリタデーションの波長依存性を足し合わせた計算値を併せて示している。
【0047】
2枚の単層の水晶板のリタデーションの合計値と、重ね合わせ試料のリタデーションは、理論上一致するはずである。しかしながら、S404乃至S416のステップにおいて、第2波長分散式に含まれる波長分散係数が正確に算出されなかった場合、2枚の単層の水晶板のリタデーションの合計値と、重ね合わせ試料のリタデーションは異なるおそれがある。本発明によれば、
図10に示すように、計算値と実測値との一致度は高い。従って、本発明によれば、正確なリタデーションを測定できることが確認された。
【0048】
なお、本発明は、上記実施形態に限られず種々の変形が可能である。例えば、本発明は、
図4に示すフローで算出されたリタデーションを用いて、試料の厚さ方向位相差または3次元屈折率を算出してもよい。
図11は、試料の厚さ方向位相差または3次元屈折率を算出するために方法を示すフローである。
【0049】
まず、変数としてiが0に設定される(S1102)。次に、回転試料ステージ210の傾斜角度は、変数iの各値と予め対応して設定されたθi度に設定される(S1104)。変数iの値が0である場合、回転試料ステージ210の傾斜角度は、θ0度に設定される。
【0050】
そして、回転試料ステージ210の傾斜角度が維持された状態で、リタデーションが測定される(S1106)。具体的には、S402のステップと同様に、測定部104は、光の進行方向と試料212の表面のなす角度がθ0度である場合に、平行ニコルスペクトルを測定する。そして、S404乃至S416のステップで算出された本係数に基づいてリタデーションを算出する。
【0051】
次に変数iが所定の定数nと一致するか判定される(S1108)。変数iが所定の定数nと一致する場合はS1112へ進み、一致しない場合S1110へ進む。なお、厚さ方向位相差または3次元屈折率を算出するために十分な回数のS1106ステップが実行されるように、所定の定数nは、適宜設定される。
【0052】
変数iが所定の定数nと一致しない場合、変数iはインクリメントされる(S1110)。そして、回転試料ステージ210の傾斜角度は、変数iの各値と予め対応して設定されたθi度に変更される(S1104)。そして、S402のステップと同様に、測定部104は、光の進行方向と試料212の表面のなす角度がθi度である場合に、平行ニコルスペクトルを測定する。さらに、S404乃至S416のステップで算出された本係数に基づいてリタデーションが算出される。
【0053】
以上のように、角度を変更するステップと、リタデーションを測定するステップと、を所定の回数繰り返し実行することにより複数のリタデーションが算出される。そして、算出された複数のリタデーションに基づいて、試料の厚さ方向位相差または3次元屈折率が算出される(S1112)。なお、回転試料ステージ210の傾斜角度は、偏光子208を透過した光の進行方向と試料表面のなす角度であるため、当該角度を変更しながら測定したリタデーションにより、試料の厚さ方向位相差または3次元屈折率を算出することができる。当該計算方法は、既知のものであるため、詳細な説明は省略する。
【0054】
また、本発明にかかる測定部104は、顕微光学系を含んでいてもよい。具体的には、例えば、測定部104は、
図12に示す構成であってもよい。
図2と同様の構成については説明を省略する。具体的には、測定部104は、
図2の構成に加えて、対物レンズ1202と、ハーフミラー1204と、観察用カメラ1206と、を含む。対物レンズ1202は、試料212の測定対象となる微細な領域を透過した光を検光子214に導く。ハーフミラー1204は、集光レンズ206を経由した光を分離する。分離された光の一部は、マルチチャンネル分光器216に入力され、他の一部は観察用カメラ1206に入力される。これにより、試料212の測定対象となる微細な領域のリタデーションを測定できるとともに、当該微細な領域を観察用カメラ1206で観察することができる。
【0055】
また、上記では、実験結果の一例として試料212が水晶板である場合について説明したが、試料212は、液晶パネルであってもよい。本発明によれば、S406にステップで試料212の厚さを算出することができるため、液晶パネルのセルギャップを測定することができる。
【0056】
また、上記において、測定部104が測定する分光スペクトルが平行ニコルスペクトルである場合について説明したが、分光スペクトルは平行ニコルスペクトルに限られない。分光スペクトルは、偏光光学系で得られる分光情報を含むスペクトルであればよく、例えば直交ニコルスペクトルであってもよい。
【0057】
また、上記において、第1波長分散式及び第2波長分散式がコーシーの波長分散式である場合について説明したが、第1波長分散式及び第2波長分散式はコーシーの波長分散式に限られない。第1波長分散式は及び第2波長分散式は、複屈折率と波長との関係を表す多項式であればよく、例えば、数13で表されるセルマイヤーの波長分散式であってもよい。
【数13】
【0058】
また、リタデーションを算出する方法は、
図4に示すフローで示される方法に限られない。具体的には、まず、演算波長域に含まれる最も波長の長いピークの次数をm
0(所定の整数)と設定する。次に、当該ピークの次数がm
0である条件下において、演算波長域に含まれる各ピーク及び各バレイの表す波長について、リタデーションを算出する。そして、算出された各ピーク及び各バレイの表す波長におけるリタデーションを用いて、数3で表されるコーシーの波長分散式に対してフィッティングを行う。フィッティングで算出された次数と、設定された次数m
0の残差δm
0を算出する。次に、演算波長域に含まれる最も波長の長いピークの次数をm
0+1と設定し、同様に次数m
0+1の残差δm
0を算出する。演算波長域に含まれる最も波長の長いピークの次数がm
0から所定の値まで変化させながら、各次数について次数の残差を算出する。以上のステップで算出された残差のうち最も残差が小さく条件における次数を、演算波長域に含まれる最も波長の長いピークの次数として特定する。さらに、特定された次数に基づいて、演算波長域に含まれる各ピーク及び各バレイの表す波長について、リタデーションを算出する。算出されたリタデーションと、数3で表されるコーシーの波長分散式に対してフィッティングを行うことで、波長分散式に含まれる各係数を決定する。そして、係数が決定された波長分散式を用いて、任意の波長におけるリタデーションが算出されてもよい。
【符号の説明】
【0059】
100 光学測定装置、102 情報処理部、104 測定部、106 制御部、108 記憶部、110 表示部、112 入出力部、114 データバス、116 波長算出部、120 仮決定部、122 規格化部、124 第2波長分散式算出部、126 本決定部、128 リタデーション算出部、202 光源、204 光ファイバ、206 集光レンズ、208 偏光子、210 回転試料ステージ、212 試料、214 検光子、216 マルチチャンネル分光器、1202 対物レンズ、1204 ハーフミラー、1206 観察用カメラ。