(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-07
(45)【発行日】2024-05-15
(54)【発明の名称】トナー
(51)【国際特許分類】
G03G 9/097 20060101AFI20240508BHJP
G03G 9/087 20060101ALI20240508BHJP
【FI】
G03G9/097 372
G03G9/087 325
G03G9/087 331
(21)【出願番号】P 2020045833
(22)【出願日】2020-03-16
【審査請求日】2023-03-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】長島 裕二郎
(72)【発明者】
【氏名】橋本 康弘
(72)【発明者】
【氏名】西川 浩司
(72)【発明者】
【氏名】長岡 朋弥
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 俊太郎
(72)【発明者】
【氏名】秋山 弘貴
(72)【発明者】
【氏名】香川 浩輝
【審査官】福田 由紀
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-072389(JP,A)
【文献】特開2018-194614(JP,A)
【文献】特開2020-012942(JP,A)
【文献】特開2020-012943(JP,A)
【文献】特開2018-194835(JP,A)
【文献】国際公開第2015/107961(WO,A1)
【文献】特開2019-211763(JP,A)
【文献】特開2019-219641(JP,A)
【文献】特開2019-219648(JP,A)
【文献】特開2018-194839(JP,A)
【文献】特開2016-110095(JP,A)
【文献】特開2015-031715(JP,A)
【文献】特開2016-142811(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03G 9/08-9/097
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
結着樹脂を含有するトナー粒子、及び該トナー粒子の表面の有機ケイ素重合体粒子を有するトナーであって、
該結着樹脂が、結晶性部位を有する樹脂を含有し、
該結晶性部位を有する樹脂の該結着樹脂中の含有量が、15.0質量%以上40.0質量%以下であり、
該結晶性部位を有する樹脂が、下記式(1A)で表されるモノマーユニット、第二のモノマーユニット、及び第三のモノマーユニットを有する重合体Aであり、
(式(1A)中、R
Z1は、水素原子又はメチル基を表し、Rは、炭素数18~36のアルキル基を表す。)
該第二のモノマーユニットがメタクリロニトリルユニットであり、該第三のモノマーユニットがスチレンユニットであり、
該有機ケイ素重合体粒子のメタノール/水混合溶媒を用いた濡れ性試験において、波長780nmの光の透過率が50%のときのメタノール濃度をa(体積%)とし、
該トナー粒子のメタノール/水混合溶媒を用いた濡れ性試験において、波長780nmの光の透過率が50%のときのメタノール濃度をb(体積%)としたとき、
下記式(I)を満たし、
|a-b|≦25 ・・・(I)
下記式(II)で計算される、ポリカーボネート膜に対する該有機ケイ素重合体粒子の固着指数が、3.5以下であることを特徴とするトナー。
固着指数=該ポリカーボネート膜に移行した該有機ケイ素重合体粒子の面積率c/該トナー粒子表面における該有機ケイ素重合体粒子の被覆率d×100 ・・・(II)
【請求項2】
前記メタノール濃度a(体積%)が、50体積%~100体積%である請求項1に記載
のトナー。
【請求項3】
前記有機ケイ素重合体粒子の前記トナー表面における分散度評価指数が、0.5以上2.0以下である請求項1または2に記載のトナー。
【請求項4】
前記有機ケイ素重合体粒子の一次粒子の個数平均粒径が、10nm~500nmである請求項1~3のいずれか1項に記載のトナー。
【請求項5】
前記有機ケイ素重合体粒子の10Hzで測定される比誘電率εraが、3.50以下である請求項1~4のいずれか1項に記載のトナー。
【請求項6】
前記有機ケイ素重合体粒子が、下記式(1)で表されるT3単位構造を有し、
R
1-SiO
3/2 ・・・(1)
(式(1)中、R
1は、炭素数が1~6のアルキル基又はフェニル基を表す。)
前記有機ケイ素重合体粒子の
29Si-NMR測定において、前記有機ケイ素重合体粒子に含有される全ケイ素元素に由来するピークの合計面積に対する、該T3単位構造を構成するケイ素に由来するピークの面積の割合が、0.50~1.00である請求項1~5のいずれか1項に記載のトナー。
【請求項7】
透過型電子顕微鏡により前記トナーの断面画像の観察を行い、前記トナー粒子の輪郭線を直線に展開して得られた該断面画像の展開画像において、
前記トナー粒子の表面から前記トナー粒子の内部に侵入した前記有機ケイ素重合体粒子の侵入深さをe(nm)とし、前記トナー粒子の表面からの前記有機ケイ素重合体粒子の凸高さをf(nm)としたとき、該侵入深さe及び該凸高さfが、下記式(IV)を満たす請求項1~6のいずれか1項に記載のトナー。
0.05≦e/(e+f)≦0.40 ・・・(IV)
(前記有機ケイ素重合体粒子の侵入深さe(nm)とは、該展開画像において、
前記有機ケイ素重合体粒子の輪郭線のうち前記有機ケイ素重合体粒子が前記トナー粒子に接触している部分の輪郭線を輪郭線Xとし、
該輪郭線Xの両端を直線で結んで得られる線分を線分Zとしたとき、
該線分Zから該輪郭線Xへ下した垂線及び該輪郭線Xとの交点xと、該線分Zと、の距離のうち最大のものを意味する。
前記有機ケイ素重合体粒子の凸高さf(nm)とは、該展開画像において、
前記有機ケイ素重合体粒子の輪郭線のうち該輪郭線X以外の部分の輪郭線を輪郭線Yとしたとき、
該線分Zから該輪郭線Yへ下した垂線及び該輪郭線Yとの交点yと、該線分Zと、の距離のうち最大のものを意味する。)
【請求項8】
前記式(1A)で表されるモノマーユニットが、ベヘニルアクリレートに由来する下記式で表されるユニットである、請求項1~
7のいずれか一項に記載のトナー。
【請求項9】
前記トナー中の前記有機ケイ素重合体粒子の含有量が、0.2質量%~6.0質量%である請求項1~
8のいずれか一項に記載のトナー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、電子写真法、静電記録法、トナージェット方式記録法などを利用した記録方法に用いられるトナーに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子写真技術を使用する複写機やプリンター等の画像形成装置は、使用目的及び使用環境の多様化が進んでいる。また、それと共に更なる長寿命化や小型化が強く求められている。
小型化という観点では、トナーの消費量を低減することが重要である。トナーの消費量を低減することで、トナーカートリッジの体積を低減することができる。そのために種々のトナーや外添剤が提案されている。
トナーの消費量を低減するためには、トナーの転写性を向上させることが重要である。そのため、外添剤として、大粒径のシリカや樹脂微粒子をスペーサー粒子として用いたトナーが提案されている。しかし、大粒径のシリカや樹脂微粒子を外添したトナーは、初期特性は良好であるが、トナーが現像器内で繰り返し摺擦を受けることで、外添剤がトナー粒子表面から次第に別のトナー粒子表面やカートリッジ部材に移行しやすい。また、外添剤がトナー粒子表面に埋没しやすい。
そのため、さらなる高寿命化を考慮し、長期間安定した転写性を持続するためには課題があった。移行とは、外添剤がトナーから別のトナー粒子表面やカートリッジ部材へ移動して付着することを指す。また、シリカは高抵抗材料であるため、トナー粒子の表面で転がって偏在することにより、トナー粒子の表面に局所的な帯電の分布の偏りが生じやすい。
【0003】
また、低温低湿環境(例えば15℃/10RH%)においては、トナーの帯電性が高くなりやすいため、トナーの静電的な付着力が高まりやすい。加えて、流動性も低下しやすく、帯電分布が不均一になりやすいため、転写性の低下がより顕著となる課題があった。
そこで、このような課題の解決に向けて、有機ケイ素重合体粒子の検討が行われている。有機ケイ素重合体粒子は一般的な無機材料に比べると、硬度が低く、弾性体であるため、これを外添剤として用いることで、現像器内での摺擦においてもトナー粒子への外添剤の埋没を抑制しやすくなる。
しかし、一方で、有機ケイ素重合体粒子はトナー粒子表面に固着させにくく、移行や偏在しやすくなるため、長期使用における安定した帯電性には未だ課題があった。
そこで長期使用における帯電特性を満足させる1つの方法としては、以下の手法が提案されている。
特許文献1では、真球状のシリコーン微粒子を固着又は埋没させてトナーの長期使用においても帯電性を安定化する手法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載のトナーは、耐久性及び帯電性をある程度改善できている。しかし、低温低湿環境においては、帯電分布の均一性が不足しており、転写性において、さらなる検討の余地があることがわかった。
すなわち、本開示は、低温低湿環境において、帯電性及び耐久性に優れ、長期使用にお
いても転写性に優れたトナーを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
結着樹脂を含有するトナー粒子、及び該トナー粒子の表面の有機ケイ素重合体粒子を有するトナーであって、
該結着樹脂が、結晶性部位を有する樹脂を含有し、
該結晶性部位を有する樹脂の該結着樹脂中の含有量が、15.0質量%以上40.0質量%以下であり、
該結晶性部位を有する樹脂が、下記式(1A)で表されるモノマーユニット、第二のモノマーユニット、及び第三のモノマーユニットを有する重合体Aであり、
(式(1A)中、R
Z1
は、水素原子又はメチル基を表し、Rは、炭素数18~36のアルキル基を表す。)
該第二のモノマーユニットがメタクリロニトリルユニットであり、該第三のモノマーユニットがスチレンユニットであり、
該有機ケイ素重合体粒子のメタノール/水混合溶媒を用いた濡れ性試験において、波長780nmの光の透過率が50%のときのメタノール濃度をa(体積%)とし、
該トナー粒子のメタノール/水混合溶媒を用いた濡れ性試験において、波長780nmの光の透過率が50%のときのメタノール濃度をb(体積%)としたとき、
下記式(I)を満たし、
|a-b|≦25 ・・・(I)
下記式(II)で計算される、ポリカーボネート膜に対する該有機ケイ素重合体粒子の
固着指数が、3.5以下であることを特徴とするトナー。
固着指数=該ポリカーボネート膜に移行した該有機ケイ素重合体粒子の面積率c/該トナー粒子表面における該有機ケイ素重合体粒子の被覆率d×100 ・・・(II)
【発明の効果】
【0007】
本開示によれば、低温低湿環境において、帯電性及び耐久性に優れ、長期使用においても転写性に優れるトナーを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図2】混合処理装置に使用される撹拌部材の構成の一例
【
図3】有機ケイ素重合体粒子の侵入深さの算出方法を示す模式図
【発明を実施するための形態】
【0009】
数値範囲を表す「XX以上YY以下」や「XX~YY」の記載は、特に断りのない限り、端点である下限及び上限を含む数値範囲を意味する。
数値範囲が段階的に記載されている場合、各数値範囲の上限及び下限は任意に組み合わせることができる。
(メタ)アクリル酸エステルとは、アクリル酸エステル及び/又はメタクリル酸エステルを意味する。
「モノマーユニット」とは、ポリマー中のモノマー物質の反応した形態をいう。例えば、ポリマー中のビニル系モノマーが重合した主鎖中の、炭素-炭素結合1区間を1ユニットとする。ビニル系モノマーとは下記式(Z)で示すことができる。
【化1】
[式(Z)中、R
Z1は、水素原子、又はアルキル基(好ましくは炭素数1~3のアルキル基であり、より好ましくはメチル基)を表し、R
Z2は、任意の置換基を表す。]
結晶性樹脂とは、示差走査熱量計(DSC)測定において明確な吸熱ピークを示す樹脂を指す。
【0010】
まず、転写性について考察する。
転写性に関する課題について着目すると、静電潜像担持体上のトナーが転写バイアスを受けても、静電的引力によって記録媒体上にトナーを転写できない場合がある。これは、
静電潜像担持体に対するトナーの静電的又は非静電的な付着力が高いことによるものである。
また、逆極性のトナーの比率が高いと転写バイアスを受けても転写できない場合もある。
【0011】
このような転写性に関する課題を解決するためには、静電的若しくは非静電的な付着力を低減する、又はトナー粒子間の帯電分布を均一にすることが重要である。
装置の長期使用においては、現像器内でトナーが繰り返し摺擦を受けるため、トナー粒子表面から外添剤が移行し、又は外添剤が次第にトナー粒子に埋め込まれる。その結果、非静電付着力の増加及びトナー粒子間の帯電分布の均一性の低下により、転写性を維持しにくいことが課題である。
そこで、本発明者らは、長期使用においても、安定した転写性を得られる方法を検討した。
【0012】
まず、転写性を改良する方法として有機ケイ素重合体粒子に注目した。有機ケイ素重合体粒子の有する弾性と帯電性により、長期に渡って帯電を安定化させる方法を検討した。
ここで弾性とは、カートリッジ内での摺擦などの外力を受けたとしても塑性変形せずに復元する特性のことを意味する。有機ケイ素重合体粒子は一般的な無機材料や樹脂微粒子に比べると、硬度が低く、弾性体であるため、これらの粒子を外添剤として用いることで、トナーが摺擦を受けてもトナー粒子表面への外添剤の埋没を抑制することができるのではないかと考えた。
加えて、本発明者らは、有機ケイ素重合体粒子のトナー粒子表面への固着性を高めることで、有機ケイ素重合体粒子の移行を抑制することを考えた。検討の結果、有機ケイ素重合体粒子の固着性を高めることで、トナーの弾性効果を得ることができるようになり、長期使用における外添剤の移行や埋め込みを抑制することができた。
【0013】
しかし、上述した構成のみでは、低温低湿環境における長期使用時の転写性を充分に改善することはできなかった。低温低湿環境においては依然として長期に渡る帯電分布の安定性が得られにくい。また、弾性を有する有機ケイ素重合体粒子は、長期に渡ってトナー粒子表面へ固着させておくことが難しく、現像器内で受ける摺擦により有機ケイ素重合体粒子がトナー粒子表面から移行しやすい。
そこで、本発明者らは、さらに転写性を改善する方法を検討した。
本発明者らは、鋭意検討の結果、有機ケイ素重合体粒子をトナー粒子に固着させることに加えて、トナー粒子の濡れ性と有機ケイ素重合体粒子の濡れ性の差を少なくすることで長期使用における転写性の改良ができることを突き止めた。
【0014】
上記効果が発現する理由について、本発明者らは次のように考えている。
濡れ性とは、メタノール/水混合溶媒を用いた濡れ性試験において、波長780nmの光の透過率が50%のときのメタノール濃度のことである。濡れ性は、材料表面の親水性/疎水性の程度を示している。
トナー粒子の表面の濡れ性と有機ケイ素重合体粒子の表面の濡れ性を近づけることにより、両者の界面における表面張力を低減させることができる。その結果、外添時に両者の界面を隙間なく密着させることができ、有機ケイ素重合体粒子の脱離を抑制できる。また、有機ケイ素重合体粒子の有する電荷をトナー粒子表面に拡散させることができるため、トナー粒子表面の帯電分布を均一にすることができると考えている。
【0015】
有機ケイ素重合体粒子の濡れ性とトナーの濡れ性が離れていると、外添時にこれらを隙間なく密着させにくい。また、これらを密着させられたとしても、長期使用による摺擦を受けると有機ケイ素重合体粒子とトナー粒子との界面に微小な隙間(クラック)が生じやすい。その結果、現像器内で受ける摺擦により有機ケイ素重合体粒子の移行が発生しやす
く、また、前述した電荷の拡散効果が得られにくいため、上記効果が得られにくいと考えている。
以上の観点から、トナー粒子表面の濡れ性と有機ケイ素重合体粒子の濡れ性を近づけつつ、しっかり固着させることで、低温低湿環境での長期使用における転写性を改善できることを見出した。
【0016】
具体的には、結着樹脂を含有するトナー粒子、及び該トナー粒子の表面の有機ケイ素重合体粒子を有するトナーであって、
該有機ケイ素重合体粒子のメタノール/水混合溶媒を用いた濡れ性試験において、波長780nmの光の透過率が50%のときのメタノール濃度をa(体積%)とし、
該トナー粒子のメタノール/水混合溶媒を用いた濡れ性試験において、波長780nmの光の透過率が50%のときのメタノール濃度をb(体積%)としたとき、
下記式(I)を満たし、
|a-b|≦25 ・・・(I)
下記式(II)で計算される、ポリカーボネート膜に対する該有機ケイ素重合体粒子の固着指数が、3.5以下であるトナーに関する。
固着指数=該ポリカーボネート膜に移行した該有機ケイ素重合体粒子の面積率c/該トナー粒子表面における該有機ケイ素重合体粒子の被覆率d×100 ・・・(II)
【0017】
前述した式(I)の通り、有機ケイ素重合体粒子の濡れ性試験におけるメタノール濃度a(体積%)と、トナー粒子のメタノール濃度b(体積%)の差の絶対値が、25以下であることが必要である。
|a-b|を25以下にすることで、有機ケイ素重合体粒子とトナーの界面におけるクラックの発生を抑制することができるため転写性が向上する。前述の効果をより発現させるため、|a-b|は、好ましくは20以下であり、より好ましくは15以下である。
|a-b|の下限は特に制限されないが、好ましくは0以上である。
トナー粒子の材料の種類や量及び有機ケイ素重合体粒子の組成や表面処理を変更することで、濡れ性の差を上記範囲に制御することができる。
【0018】
また、メタノール濃度aは、50体積%~100体積%であることが好ましく、55体積%~90体積%であることがより好ましい。濡れ性が上記範囲にあることにより有機ケイ素重合体粒子の帯電低下を抑制できるとともに、トナー粒子との親和性が向上しやすくなり、高温高湿環境(30℃、80RH%)においても、転写性の低下を抑制しやすくなる。
有機ケイ素重合体粒子の濡れ性は、有機ケイ素重合体粒子の組成や表面処理する材料の種類や量により制御することができる。
メタノール濃度bは、20体積%~100体積%であることが好ましく、30体積%~80体積%であることがより好ましい。
【0019】
さらに、式(II)で計算される、ポリカーボネート膜に対する有機ケイ素重合体粒子の固着指数が、3.5以下である必要がある。
固着指数=ポリカーボネート膜に移行した有機ケイ素重合体粒子の面積率c/該トナー粒子表面における有機ケイ素重合体粒子の被覆率d×100 ・・(II)
固着指数は、好ましくは3.2以下であり、より好ましくは3.0以下である。
【0020】
固着指数とは、ポリカーボネート膜に対する有機ケイ素重合体粒子の移行しやすさを示した値である。数値が小さいほど有機ケイ素重合体粒子がトナー粒子から外れにくく、他の部材へ移行しにくいことを意味する。有機ケイ素重合体粒子の表面とトナー粒子表面の性質を近づけることによって、より固着させやすくなる。
固着指数は外添条件の変更、トナー粒子及び有機ケイ素重合体の濡れ性を制御すること
で制御できる。
固着指数を3.5以下にすることで、現像機内で生じる摺擦を受けても、有機ケイ素重合体粒子の移行を抑えることができ、長期使用における転写性が向上する。
一方、下限は特に制限されないが、好ましくは0.0以上である。
【0021】
以下、トナーの好ましい形態について説明する。
有機ケイ素重合体粒子について詳細に説明する。有機ケイ素重合体粒子とは、有機基をもつケイ素と酸素が交互に結合してできた主鎖より構成される粒子である。
有機ケイ素重合体粒子の製法は特に限定されず、例えば水にシラン化合物を滴下し、触媒により加水分解、縮合反応させた後、得られた懸濁液を濾過、乾燥し得ることができる。触媒の種類、配合比、反応開始温度、滴下時間などにより、有機ケイ素重合体粒子の一次粒子の個数平均粒径をコントロールすることができる。
触媒として酸性触媒は塩酸、フッ化水素酸、硫酸、硝酸などが挙げられ、塩基性触媒はアンモニア水、水酸ナトリウム、水酸化カリウムなどが挙げられるが、これらに限定はされない。
【0022】
有機ケイ素重合体粒子は、ケイ素原子と酸素原子とが交互に結合した構造を有し、好ましくは下記式(1)で表されるT3単位構造を有している。
有機ケイ素重合体粒子の29Si-NMR測定において、有機ケイ素重合体粒子に含有される全ケイ素元素に由来するピークの合計面積に対する、T3単位構造を有するケイ素に由来するピークの面積の割合が、0.50~1.00であることが好ましい。より好ましくは0.70~1.00であり、さらに好ましくは0.90~1.00である。上記範囲であると、有機ケイ素重合体粒子に適切な弾性を持たせることができるため、長期耐久性の効果が得られやすい。
T3単位構造を有するケイ素に由来するピークの面積の割合は、有機ケイ素重合体粒子の重合に使用する有機ケイ素化合物の種類、特に三官能性シランの種類及び割合の少なくとも一方を変更することにより制御することができる。
【0023】
R1-SiO3/2 ・・・(1)
(式(1)中、R1は炭素数が1~6(好ましくは1~4、より好ましくは1又は2)のアルキル基又はフェニル基を表す。)
【0024】
有機ケイ素重合体粒子は、下記式(2)で表される構造を有する有機ケイ素化合物の縮重合物であることが好ましい。
【0025】
【0026】
(式(2)中、R2、R3、R4及びR5は、それぞれ独立して、炭素数1~6(好ましくは1~4、より好ましくは1又は2)のアルキル基、フェニル基、又は反応基(例えば、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、アセトキシ基、又は(好ましくは炭素数1~6、より好ましくは炭素数1~3の)アルコキシ基)を表す。)
【0027】
有機ケイ素重合体粒子を得るには、
式(2)の一分子中に4つの反応基を有する有機ケイ素化合物(四官能性シラン)、
式(2)中のR2がアルキル基又はフェニル基であり、3つの反応基(R3、R4、R5)を有する有機ケイ素化合物(三官能性シラン)、
式(2)中のR2、R3がアルキル基又はフェニル基であり、2つの反応基(R4、R5)を有する有機ケイ素化合物(二官能性シラン)、
式(2)中のR2、R3、R4がアルキル基又はフェニル基であり、1つの反応基(R5)を有する有機ケイ素化合物(一官能性シラン)を用いることができる。
T3単位構造に由来するピークの面積の割合を、0.50~1.00とするためには、有機ケイ素化合物として三官能性シランを50モル%以上使用することが好ましい。
【0028】
式(2)のR2は、炭素数1~6(好ましくは1~4、より好ましくは1又は2)のアルキル基又はフェニル基であることが好ましい。R3、R4及びR5は、それぞれ独立して、反応基(ハロゲン原子、ヒドロキシ基、アセトキシ基、又は、(好ましくは炭素数1~6、より好ましくは炭素数1~3の)アルコキシ基であることが好ましい。
これらの反応基が加水分解、付加重合及び縮合重合させて架橋構造を形成し、有機ケイ素重合体粒子を得ることができる。R3、R4及びR5の加水分解、付加重合及び縮合重合は、反応温度、反応時間、反応溶媒及びpHによって制御することができる。
【0029】
四官能性シランとしては、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトライソシアネートシランなどが挙げられる。
【0030】
三官能性シランとしては、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、メチルジエトキシメトキシシラン、メチルエトキシジメトキシシラン、メチルトリクロロシラン、メチルメトキシジクロロシラン、メチルエトキシジクロロシラン、メチルジメトキシクロロシラン、メチルメトキシエトキシクロロシラン、メチルジエトキシクロロシラン、メチルトリアセトキシシラン、メチルジアセトキシメトキシシラン、メチルジアセトキシエトキシシラン、メチルアセトキシジメトキシシラン、メチルアセトキシメトキシエトキシシラン、メチルアセトキシジエトキシシラン、メチルトリヒドロキシシラン、メチルメトキシジヒドロキシシラン、メチルエトキシジヒドロキシシラン、メチルジメトキシヒドロキシシラン、メチルエトキシメトキシヒドロキシシラン、メチルジエトキシヒドロキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、エチルトリクロロシラン、エチルトリアセトキシシラン、エチルトリヒドロキシシラン、プロピルトリメトキシシラン、プロピルトリエトキシシラン、プロピルトリクロロシラン、プロピルトリアセトキシシラン、プロピルトリヒドロキシシラン、ブチルトリメトキシシラン、ブチルトリエトキシシラン、ブチルトリクロロシラン、ブチルトリアセトキシシラン、ブチルトリヒドロキシシラン、ヘキシルトリメトキシシラン、ヘキシルトリエトキシシラン、ヘキシルトリクロロシラン、ヘキシルトリアセトキシシラン、ヘキシルトリヒドロキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、フェニルトリクロロシラン、フェニルトリアセトキシシラン、フェニルトリヒドロキシシラン、ペンチルトリメトキシシランなどが挙げられる。
【0031】
二官能性シランとしては、ジ-tert-ブチルジクロロシラン、ジ-tert-ブチルジメトキシシラン、ジ-tert-ブチルジエトキシシラン、ジブチルジクロロシラン、ジブチルジメトキシシラン、ジブチルジエトキシシラン、ジクロロデシルメチルシラン、ジメトキシデシルメチルシラン、ジエトキシデシルメチルシラン、ジクロロジメチルシラン、ジメチルジメトキシシラン、ジエトキシジメチルシラン、ジエチルジメトキシシランなどが挙げられる。
【0032】
一官能性シランとしては、t-ブチルジメチルクロロシラン、t-ブチルジメチルメトキシシラン、t-ブチルジメチルエトキシシラン、t-ブチルジフェニルクロロシラン、t-ブチルジフェニルメトキシシラン、t-ブチルジフェニルエトキシシラン、クロロジ
メチルフェニルシラン、メトキシジメチルフェニルシラン、エトキシジメチルフェニルシラン、クロロトリメチルシラン、トリメチルメトキシシラン、エトキシトリメチルシラン、トリエチルメトキシシラン、トリエチルエトキシシラン、トリプロピルメトキシシラン、トリブチルメトキシシラン、トリペンチルメトキシシラン、トリフェニルクロロシラン、トリフェニルメトキシシラン、トリフェニルエトキシシランなどが挙げられる。
【0033】
有機ケイ素重合体粒子は、疎水性を付与する目的で、表面処理されていてもよい。
疎水化処理剤としては、例えば、メチルトリクロロシラン、ジメチルジクロロシラン、トリメチルクロロシラン、フェニルトリクロロシラン、ジフェニルジクロロシラン、t-ブチルジメチルクロロシラン、ビニルトリクロロシランなどのクロロシラン類;
テトラメトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、o-メチルフェニルトリメトキシシラン、p-メチルフェニルトリメトキシシラン、n-ブチルトリメトキシシラン、i-ブチルトリメトキシシラン、ヘキシルトリメトキシシラン、オクチルトリメトキシシラン、デシルトリメトキシシラン、ドデシルトリメトキシシラン、テトラエトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、ジフェニルジエトキシシラン、i-ブチルトリエトキシシラン、デシルトリエトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、γ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ-クロロプロピルトリメトキシシラン、γ-アミノプロピルトリエトキシシラン、γ-(2-アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン、γ-(2-アミノエチル)アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N-フェニル-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-(2-アミノエチル)3-アミノプロピルトリメトキシシラン、及びN-β-(N-ビニルベンジルアミノエチル)-γ-アミノプロピルトリメトキシシラン等のなどのアルコキシシラン類;
ヘキサメチルジシラザン、ヘキサエチルジシラザン、へキサプロピルジシラザン、ヘキサブチルジシラザン、ヘキサペンチルジシラザン、ヘキサヘキシルジシラザン、ヘキサシクロヘキシルジシラザン、ヘキサフェニルジシラザン、ジビニルテトラメチルジシラザン、ジメチルテトラビニルジシラザンなどのシラザン類;
ジメチルシリコーンオイル、メチルハイドロジェンシリコーンオイル、メチルフェニルシリコーンオイル、アルキル変性シリコーンオイル、クロロアルキル変性シリコーンオイル、クロロフェニル変性シリコーンオイル、脂肪酸変性シリコーンオイル、ポリエーテル変性シリコーンオイル、アルコキシ変性シリコーンオイル、カルビノール変性シリコーンオイル、アミノ変性シリコーンオイル、フッ素変性シリコーンオイル、及び、末端反応性シリコーンオイルなどのシリコーンオイル;
ヘキサメチルシクロトリシロキサン、オクタメチルシクロテトラシロキサン、デカメチルシクロペンタシロキサン、ヘキサメチルジシロキサン、オクタメチルトリシロキサンなどのシロキサン類;
脂肪酸及びその金属塩として、ウンデシル酸、ラウリン酸、トリデシル酸、ドデシル酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ペンタデシル酸、ステアリン酸、ヘプタデシル酸、アラキン酸、モンタン酸、オレイン酸、リノール酸、アラキドン酸などの長鎖脂肪酸、前記脂肪酸と亜鉛、鉄、マグネシウム、アルミニウム、カルシウム、ナトリウム、リチウムなどの金属との塩が挙げられる。
【0034】
これらの中でも、アルコキシシラン類、シラザン類、シリコーンオイルは、疎水化処理を実施しやすいため、好ましく用いられる。これらの疎水化処理剤は、1種を単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0035】
有機ケイ素重合体粒子の一次粒子の個数平均粒径は、10nm~500nmであることが好ましく、20nm~300nmであることがより好ましい。
一次粒子の個数平均粒径がこの範囲にあると、長期耐久性と流動性を向上しやすくなり、低温低湿環境で長期使用においてもベタ画像の追従性が向上しやすい。
有機ケイ素重合体粒子の一次粒子の個数平均粒径が10nm以上であると、スペーサー効果が得られやすく、500nm以下であると流動性が向上しやすくなる。
有機ケイ素重合体粒子の一次粒子の個数平均粒径は、有機ケイ素重合体粒子の製造条件を変更することで制御することができる。
【0036】
トナー中の有機ケイ素重合体粒子の含有量は、0.1質量%~10.0質量%であることが好ましく、0.2質量%~6.0質量%であることがより好ましく、0.3質量%~3.0質量%であることがより好ましい。
【0037】
有機ケイ素重合体粒子の10Hzで測定される比誘電率εraは、3.50以下であることが好ましく、2.60以下であることがより好ましい。10Hzという低周波数で測定することで、有機ケイ素重合体粒子表面の比誘電率を捉えることができると考えている。
比誘電率εraが3.5以下であると帯電分布の均一性が向上しやすく、低温低湿環境における転写性が向上しやすくなる。下限は特に制限されないが、好ましくは1.50以上であり、より好ましくは2.00以上である。比誘電率εraは、有機ケイ素重合体粒子の組成、製造条件、表面状態又は表面処理を変更することにより制御できる。
【0038】
有機ケイ素重合体粒子のトナー表面における分散度評価指数が、0.5以上2.0以下であることが好ましく、1.0以上1.5以下であることがより好ましい。
分散度評価指数がこの範囲にあると、トナー粒子の耐久性と流動性が、さらに良化して特にベタ画像の追従性が向上しやすくなる。有機ケイ素重合体粒子の分散度評価指数は、有機ケイ素重合体粒子を添加するときの製造条件を変更することで制御することができる。
【0039】
透過型電子顕微鏡(以下、TEMともいう。)によりトナーの断面画像の観察を行い、トナー粒子の輪郭線を直線に展開して得られた該断面画像の展開画像において、
トナー粒子の表面からトナー粒子の内部に侵入した有機ケイ素重合体粒子の侵入深さをe(nm)とし、トナー粒子の表面からの有機ケイ素重合体粒子の凸高さをf(nm)としたとき、侵入深さe及び凸高さfが、下記式(IV)を満たすことが好ましい(
図3)。より好ましくは下記式(IV-B)を満たす。
0.05≦e/(e+f)≦0.40 (IV)
0.05≦e/(e+f)≦0.30 (IV-B)
【0040】
ここで、有機ケイ素重合体粒子の侵入深さe(nm)とは、上記展開画像において、
有機ケイ素重合体粒子の輪郭線のうち有機ケイ素重合体粒子がトナー粒子に接触している部分の輪郭線を輪郭線Xとし、
輪郭線Xの両端を直線で結んで得られる線分を線分Zとしたとき、
線分Zから輪郭線Xへ下した垂線及び輪郭線Xとの交点xと、線分Zと、の距離のうち最大のものを意味する。
また、有機ケイ素重合体粒子の凸高さf(nm)とは、上記展開画像において、
有機ケイ素重合体粒子の輪郭線のうち輪郭線X以外の部分の輪郭線を輪郭線Yとしたとき、
線分Zから輪郭線Yへ下した垂線及び輪郭線Yとの交点yと、線分Zと、の距離のうち最大のものを意味する。
【0041】
e/(e+f)を上記範囲に制御することで、トナー粒子表面からの有機ケイ素重合体粒子の重心位置を適正な距離にできる。そのため、長期使用においても有機ケイ素重合体
粒子の移行やトナー表面への埋没が発生し難く、安定して優れた付着性を維持できるため、静電潜像担持体へのトナーの付着力を低減でき、ゴーストが発生しにくくなる。
e/(e+f)は、外添剤の種類や外添条件の変更により制御できる。
【0042】
トナーの性能を向上させるために、トナーはさらに他の外添剤を含んでいてもよい。この場合、トナー粒子100質量部に対して、有機ケイ素重合体粒子を含む外添剤(無機又は有機の微粒子)の含有量が、総量で0.5質量部~10質量部であることが好ましい。
【0043】
トナー粒子について説明する。
式(I)を所望の範囲に制御するためにトナー粒子の組成を制御することが好ましい。また、トナー粒子の濡れ性を高い範囲に(疎水性を高く)制御しつつ、耐久性を両立させるためには、結着樹脂に結晶性樹脂を用いて濡れ性を制御することが好ましい。
また、高い疎水性を維持しつつ、良好な帯電性を得るためには、例えば、結晶性樹脂として結晶部位を側鎖に有する樹脂を用いることが好ましいと考えている。
具体的には結着樹脂が、結晶性部位を有する樹脂を含有し、結晶性部位を有する樹脂が下記式(1A)で表されるモノマーユニットを有することが好ましい。
【0044】
【0045】
(式(1A)中、RZ1は、水素原子又はメチル基を表し、Rは、炭素数18~36のアルキル基(好ましくは炭素数18~30の直鎖のアルキル基)を表す。)
【0046】
式(1A)で表される側鎖に結晶性を有する部位を有する樹脂とは有機構造体の骨格(主鎖)に対し、脂肪族炭化水素及び/又は芳香族炭化水素である側鎖(好ましくは脂肪族炭化水素の側鎖)を有する樹脂であって、側鎖間で結晶構造を取り得る樹脂である。
結晶性ポリエステルに代表される主鎖に結晶性部位を有する結晶性樹脂が主鎖の折りたたみによって結晶化するのに対し、側鎖に結晶性部位を有する樹脂は一分子の側鎖同士で結晶化していると考えられる。そのため、ごく狭い領域でも結晶化でき、主鎖に結晶性部位を有する結晶性樹脂に比べ周囲の環境による結晶化度の低下が起きにくいと考えられる。そのため、高い疎水性と帯電分布の均一性を両立しやすく、低温低湿環境における転写性及び耐静電オフセット性が良化しやすいと考えている。
結着樹脂は、結晶性を有する部位を有する樹脂に加え、非晶性樹脂など他の樹脂を含有してもよい。
【0047】
また、結着樹脂中の結晶性部位を有する樹脂の含有量は、帯電分布の均一性と耐久性の観点から、1.0質量%以上100.0質量%以下であることが好ましく、3.0質量%以上50.0質量%以下であることがより好ましく、15.0質量%以上40.0質量%以下であることがさらに好ましい。
【0048】
また、結晶性部位を有する樹脂は、式(1A)で表される第一のモノマーユニット、及び第一のモノマーユニットとは異なる第二のモノマーユニットを有する重合体Aであることが好ましい。
重合体Aはビニル樹脂であることが好ましい。
【0049】
第一のモノマーユニットは、炭素数18~36のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸エステルからなる群から選択される少なくとも一つ(第一の重合性単量体)が重合したモノマーユニットであることが好ましい。重合体A中の第一のモノマーユニットの含有割合は、重合体A中の全モノマーユニットの総モル数を基準として、5.0モル%以上60.0モル%以下であることが好ましい。より好ましくは10.0モル%以上40.0モル%以下である。
重合体A中の第一のモノマーユニットの含有割合は、好ましくは20.0質量%~90.0質量%であり、より好ましくは40.0質量%~80.0質量%である。
【0050】
重合体A中の第二のモノマーユニットの含有割合は、重合体A中の全モノマーユニットの総モル数を基準として、20.0モル%以上95.0モル%以下であることが好ましい。より好ましくは30.0モル%以上60.0モル%以下である。
重合体A中の第二のモノマーユニットの含有割合は、好ましくは5.0質量%~80.0質量%であり、より好ましくは15.0質量%~50.0質量%である。
【0051】
第一のモノマーユニットのSP値をSP11(J/cm3)0.5とし、第二のモノマーユニットのSP値をSP21(J/cm3)0.5としたとき、下記式(V)を満たすことが好ましい。
3.00≦(SP21-SP11)≦25.00 ・・・(V)
上記範囲に制御することで良好な帯電分布の均一性が得られるため低温低湿環境における耐静電オフセット性が良化する。SP21-SP11は、より好ましくは3.00~22.00である。
【0052】
重合体Aの重量平均分子量Mwは、好ましくは10000以上200000以下であり、より好ましくは20000以上150000以下である。
【0053】
炭素数18~36のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸エステルとしては、例えば、炭素数18~36の直鎖のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸エステル[(メタ)アクリル酸ステアリル、(メタ)アクリル酸ノナデシル、(メタ)アクリル酸エイコシル、(メタ)アクリル酸ヘンエイコサニル、(メタ)アクリル酸ベヘニル、(メタ)アクリル酸リグノセリル、(メタ)アクリル酸セリル、(メタ)アクリル酸オクタコシル、(メタ)アクリル酸ミリシル、(メタ)アクリル酸ドトリアコンチル等]及び炭素数18以上36以下の分岐のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸エステル[(メタ)アクリル酸2-デシルテトラデシル等]が挙げられる。
これらの内、トナーの帯電性の観点から、炭素数18~36の直鎖のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸エステルからなる群から選択される少なくとも一が好ましく、炭素数18~30の直鎖のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸エステルからなる群から選択される少なくとも一がより好ましい。
中でも、直鎖の(メタ)アクリル酸ステアリル及び(メタ)アクリル酸ベヘニルからなる群から選択される少なくとも一がさらに好ましく、直鎖の(メタ)アクリル酸ベヘニルからなる群から選択される少なくとも一がさらにより好ましい。
第一の重合性単量体は、1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0054】
重合体Aは、第一のモノマーユニットとは異なる第二のモノマーユニットを有する。第二のモノマーユニットを形成するための単量体(第二の重合性単量体)としては、例えば以下に挙げる重合性単量体を用いることができる。
ニトリル基を有する単量体;例えば、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等。
ヒドロキシ基を有する単量体;例えば、(メタ)アクリル酸-2-ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸-2-ヒドロキシプロピル等。
アミド基を有する単量体;例えば、アクリルアミド、炭素数1~30のアミンとエチレ
ン性不飽和結合を有する炭素数2~30のカルボン酸(アクリル酸及びメタクリル酸等)を公知の方法で反応させた単量体。
【0055】
ウレタン基を有する単量体:例えば、エチレン性不飽和結合を有する炭素数2~22のアルコール(メタクリル酸-2-ヒドロキシエチル、ビニルアルコール等)と、炭素数1~30のイソシアネート[モノイソシアネート化合物(ベンゼンスルフォニルイソシアネート、トシルイソシアネート、フェニルイソシアネート、p-クロロフェニルイソシアネート、ブチルイソシアネート、ヘキシルイソシアネート、t-ブチルイソシアネート、シクロヘキシルイソシアネート、オクチルイソシアネート、2-エチルヘキシルイソシアネート、ドデシルイソシアネート、アダマンチルイソシアネート、2,6-ジメチルフェニルイソシアネート、3,5-ジメチルフェニルイソシアネート及び2,6-ジプロピルフェニルイソシアネート等)、脂肪族ジイソシアネート化合物(トリメチレンジイソシアネート、テトラメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、ペンタメチレンジイソシアネート、1,2-プロピレンジイソシアネート、1,3-ブチレンジイソシアネート、ドデカメチレンジイソシアネート及び2,4,4-トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート等)、脂環族ジイソシアネート化合物(1,3-シクロペンテンジイソシアネート、1,3-シクロヘキサンジイソシアネート、1,4-シクロヘキサンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、水素添加ジフェニルメタンジイソシアネート、水素添加キシリレンジイソシアネート、水素添加トリレンジイソシアネート及び水素添加テトラメチルキシリレンジイソシアネート等)、及び芳香族ジイソシアネート化合物(フェニレンジイソシアネート、2,4-トリレンジイソシアネート、2,6-トリレンジイソシアネート、2,2’-ジフェニルメタンジイソシアネート、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート、4,4’-トルイジンジイソシアネート、4,4’-ジフェニルエーテルジイソシアネート、4,4’-ジフェニルジイソシアネート、1,5-ナフタレンジイソシアネート及びキシリレンジイソシアネート等)等]とを公知の方法で反応させた単量体、及び
炭素数1~26のアルコール(メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロピルアルコール、ブタノール、t-ブチルアルコール、ペンタノール、ヘプタノール、オクタノール、2-エチルヘキサノール、ノナノール、デカノール、ウンデシルアルコール、ラウリルアルコール、ドデシルアルコール、ミリスチルアルコール、ペンタデシルアルコール、セタノール、ヘプタデカノール、ステアリルアルコール、イソステアリルアルコール、エライジルアルコール、オレイルアルコール、リノレイルアルコール、リノレニルアルコール、ノナデシルアルコール、ヘンエイコサノール、ベヘニルアルコール、エルシルアルコール等)と、エチレン性不飽和結合を有する炭素数2~30のイソシアネート[2-イソシアナトエチル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸2-(0-[1’-メチルプロピリデンアミノ]カルボキシアミノ)エチル、2-[(3,5-ジメチルピラゾリル)カルボニルアミノ]エチル(メタ)アクリレート及び1,1-(ビス(メタ)アクリロイルオキシメチル)エチルイソシアネート等]とを公知の方法で反応させた単量体等。
【0056】
ウレア基を有する単量体:例えば炭素数3~22のアミン[1級アミン(ノルマルブチルアミン、t-ブチルアミン、プロピルアミン及びイソプロピルアミン等)、2級アミン(ジノルマルエチルアミン、ジノルマルプロピルアミン、ジノルマルブチルアミン等)、アニリン及びシクロキシルアミン等]と、エチレン性不飽和結合を有する炭素数2~30のイソシアネートとを公知の方法で反応させた単量体等。
カルボキシ基を有する単量体;例えば、メタクリル酸、アクリル酸、(メタ)アクリル酸-2-カルボキシエチル。
【0057】
なかでも、ニトリル基、アミド基、ウレタン基、ヒドロキシ基、ウレア基を有する単量体を使用することが好ましい。
また、第二の重合性単量体として、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、カ
プロン酸ビニル、カプリル酸ビニル、カプリン酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ミリスチン酸ビニル、パルミチン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、ピバリン酸ビニル、オクチル酸ビニルといったビニルエステル類も好ましく用いられる。ビニルエステル類は、非共役モノマーであり、前記第一の重合性単量体との反応性が適度に保たれやすい。そのため、重合体のブロック化の度合いが高まり、第一の重合性単量体の結晶性をあげやすく、帯電性と耐久性がより両立しやすくなる。
第二の重合性単量体は、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、アクリルアミド、及び酢酸ビニルからなる群から選択される少なくとも一であることがより好ましい。
【0058】
第二のモノマーユニットは、下記式(2A)で表されるモノマーユニット及び下記式(3A)で表されるモノマーユニットからなる群から選択される少なくとも一であることがより好ましい。
【0059】
【0060】
(式(2A)中、Xは単結合又は炭素数1~6のアルキレン基を示す。
R1は、ニトリル基(-C≡N)、
アミド基(-C(=O)NHR10(R10は水素原子、若しくは炭素数1~4のアルキル基を表す。))、
ヒドロキシ基、
-COOR11(R11は、水素原子、炭素数1~6(好ましくは1~4)のアルキル基若しくは炭素数1~6(好ましくは1~4)のヒドロキシアルキル基を表す。)、
ウレア基(-NH-C(=O)-N(R13)2(2つのR13はそれぞれ独立して、水素原子若しくは炭素数1~6(好ましくは1~4)のアルキル基を表す。))、
-COO(CH2)2NHCOOR14(R14は炭素数1~4のアルキル基を表す。)、又は
-COO(CH2)2-NH-C(=O)-N(R15)2(2つのR15はそれぞれ独立して、水素原子若しくは炭素数1~6(好ましくは1~4)のアルキル基を表す。)
である。R2は、水素原子又はメチル基を表す。)
(式(3A)中、R3は、炭素数1~4のアルキル基を表し、R4は、水素原子又はメチル基を表す。)
【0061】
重合体Aは、上述した第一のモノマーユニット、第二のモノマーユニットに加え、第三の重合性単量体が重合した第三のモノマーユニットを含んでいてもよい。
例えば、以下の単量体を用いることが可能である。
スチレン、o-メチルスチレンなどのスチレン及びその誘導体、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸-n-ブチル、(メタ)アクリル酸-t-ブチル、(メタ)アクリル酸-2-エチルヘキシルのような(メタ)アクリル酸エステル類。
なかでも、スチレンが好ましい。
重合体A中の第三のモノマーユニットの含有割合は、好ましくは1.0質量%~30.
0質量%であり、より好ましくは5.0質量%~20.0質量%である。また、重合体A中の第三のモノマーユニットの含有割合は、好ましくは1.0mol%~30.0mol%であり、より好ましくは5.0mol%~20.0mol%である。
【0062】
その他の結着樹脂について説明する。結着樹脂は、結晶性を有する部位を有する樹脂に加え、以下のような樹脂を含有してもよい。
結着樹脂として、ビニル系樹脂やポリエステル樹脂などが好適に例示できる。
ビニル系樹脂、ポリエステル樹脂及びその他の結着樹脂として、以下の樹脂又は重合体が例示できる。
ポリスチレン、ポリビニルトルエンなどのスチレン及びその置換体の単重合体;スチレン-プロピレン共重合体、スチレン-ビニルトルエン共重合体、スチレン-ビニルナフタリン共重合体、スチレン-アクリル酸メチル共重合体、スチレン-アクリル酸エチル共重合体、スチレン-アクリル酸ブチル共重合体、スチレン-アクリル酸オクチル共重合体、スチレン-アクリル酸ジメチルアミノエチル共重合体、スチレン-メタクリル酸メチル共重合体、スチレン-メタクリル酸エチル共重合体、スチレン-メタクリル酸ブチル共重合体、スチレン-メタクリ酸ジメチルアミノエチル共重合体、スチレン-ビニルメチルエーテル共重合体、スチレン-ビニルエチルエーテル共重合体、スチレン-ビニルメチルケトン共重合体、スチレン-ブタジエン共重合体、スチレン-イソプレン共重合体、スチレン-マレイン酸共重合体、スチレン-マレイン酸エステル共重合体などのスチレン系共重合体;ポリメチルメタクリレート、ポリブチルメタクリレート、ポリ酢酸ビニル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリビニルブチラール、シリコーン樹脂、ポリアミド樹脂、エポキシ樹脂、ポリアクリル樹脂、ロジン、変性ロジン、テルペン樹脂、フェノール樹脂、脂肪族又は脂環族炭化水素樹脂、芳香族系石油樹脂。これら結着樹脂は単独又は混合して使用できる。
【0063】
好ましくは、結着樹脂は、非晶性ポリエステル樹脂を含有する。
結着樹脂中の非晶性ポリエステル樹脂の含有量は、0質量%以上99.0質量%以下であることが好ましく、50.0質量%以上97.0質量%以下であることがより好ましく、60.0質量%以上85.0質量%以下であることがさらに好ましい。
【0064】
非晶性ポリエステル樹脂に用いられるモノマーとしては、多価アルコール(2価又は3価以上のアルコール)と、多価カルボン酸(2価又は3価以上のカルボン酸)、その酸無水物又はその低級アルキルエステルとが用いられる。
【0065】
多価アルコールとしては、以下のものを使用することができる。
2価のアルコール成分としては、ビスフェノール誘導体が好ましい。
ビスフェノール誘導体としては、例えば、ポリオキシプロピレン(2.2)-2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン、ポリオキシプロピレン(3.3)-2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン、ポリオキシエチレン(2.0)-2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン、ポリオキシプロピレン(2.0)-ポリオキシエチレン(2.0)-2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン、ポリオキシプロピレン(6)-2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン等を挙げることができる。
その他のアルコール成分としては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、1,2-プロピレングリコール、1,3-プロピレングリコール、1,4-ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,4-ブテンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、ジプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、ソルビット、1,2,3,6-ヘキサンテトロール、1,4-ソルビタン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、トリペンタエリスリトー
ル、1,2,4-ブタントリオール、1,2,5-ペンタントリオール、グリセリン、2-メチルプロパントリオール、2-メチル-1,2,4-ブタントリオール、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、1,3,5-トリヒドロキシメチルベンゼンが挙げられる。
【0066】
3価以上のアルコール成分としては、例えば、ソルビトール、1,2,3,6-ヘキサンテトロール、1,4-ソルビタン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、トリペンタエリスリトール、1,2,4-ブタントリオール、1,2,5-ペンタントリオール、グリセロール、2-メチルプロパントリオール、2-メチル-1,2,4-ブタントリオール、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、1,3,5-トリヒドロキシメチルベンゼンが挙げられる。
これらのうち、好ましくはグリセロール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトールが用いられる。これらの2価のアルコール及び3価以上のアルコールは、単独で又は複数を併用して用いることができる。
【0067】
多価カルボン酸としては、以下のものを使用することができる。
2価のカルボン酸成分としては、例えば、マレイン酸、フマル酸、シトラコン酸、イタコン酸、グルタコン酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、コハク酸、アジピン酸、セバチン酸、アゼライン酸、マロン酸、n-ドデセニルコハク酸、イソドデセニルコハク酸、n-ドデシルコハク酸、イソドデシルコハク酸、n-オクテニルコハク酸、n-オクチルコハク酸、イソオクテニルコハク酸、イソオクチルコハク酸、これらの酸の無水物及びこれらの低級アルキルエステルが挙げられる。
これらのうち、マレイン酸、フマル酸、テレフタル酸、n-ドデセニルコハク酸が好ましく用いられる。
【0068】
3価以上のカルボン酸、その酸無水物又はその低級アルキルエステルとしては、例えば、1,2,4-ベンゼントリカルボン酸、2,5,7-ナフタレントリカルボン酸、1,2,4-ナフタレントリカルボン酸、1,2,4-ブタントリカルボン酸、1,2,5-ヘキサントリカルボン酸、1,3-ジカルボキシル-2-メチル-2-メチレンカルボキシプロパン、1,2,4-シクロヘキサントリカルボン酸、テトラ(メチレンカルボキシル)メタン、1,2,7,8-オクタンテトラカルボン酸、ピロメリット酸、エンポール三量体酸、これらの酸無水物又はこれらの低級アルキルエステルが挙げられる。
これらのうち、特に1,2,4-ベンゼントリカルボン酸、すなわちトリメリット酸又はその誘導体が安価で、反応制御が容易であるため、好ましく用いられる。これらの2価のカルボン酸等及び3価以上のカルボン酸は、単独で又は複数を併用して用いることができる。
【0069】
ポリエステルの製造方法は、特に制限されるものではなく、公知の方法を用いることができる。例えば、前述のアルコールモノマー及びカルボン酸モノマーを同時に仕込み、エステル化反応またはエステル交換反応、及び縮合反応を経て重合し、ポリエステル樹脂を製造する。
【0070】
トナー粒子は、着色剤を含有することが好ましい。
黒色着色剤としては、カーボンブラック、磁性体、以下に示すイエロー/マゼンタ/シアン着色剤を用い黒色に調色されたものが利用される。
イエロー着色剤としては、縮合アゾ化合物、イソインドリノン化合物、アントラキノン化合物、アゾ金属錯体、メチン化合物、アリルアミド化合物に代表される化合物が挙げられる。具体的には、以下のものが挙げられる。C.I.ピグメントイエロー12、13、14、15、17、62、73、74、83、93、94、95、97、109、110、111、120、128、129、138、147、150、151、154、155
、168、180、185、214。
【0071】
マゼンタ着色剤としては、縮合アゾ化合物、ジケトピロロピロール化合物、アントラキノン化合物、キナクリドン化合物、塩基染料レーキ化合物、ナフトール化合物、ベンズイミダゾロン化合物、チオインジゴ化合物、ペリレン化合物が挙げられる。具体的には、以下のものが挙げられる。C.I.ピグメントレッド2、3、5、6、7、23、48:2、48:3、48:4、57:1、81:1、122、146、166、169、177、184、185、202、206、220、221、238、254、269、C.I.ピグメントバイオレッド19。
シアン着色剤としては、銅フタロシアニン化合物及びその誘導体、アントラキノン化合物、塩基染料レーキ化合物が挙げられる。具体的には、C.I.ピグメントブルー1、7、15、15:1、15:2、15:3、15:4、60、62、66が挙げられる。
これらの着色剤は、単独又は混合し、更には固溶体の状態で用いることができる。着色剤は、色相角、彩度、明度、耐光性、OHP透明性、トナー中への分散性の点から選択される。
着色剤の含有量は、結着樹脂100質量部に対し1質量部~20質量部であることが好ましい。
【0072】
トナーには、着色剤として磁性体を含有させて磁性トナーとすることも可能である。
磁性体としては、例えば以下のものが挙げられる。マグネタイト、ヘマタイト、フェライトなどの酸化鉄、鉄、コバルト、ニッケルなどの金属又はこれらの金属とアルミニウム、銅、マグネシウム、スズ、亜鉛、ベリリウム、カルシウム、マンガン、セレン、チタン、タングステン、バナジウムなどの金属との合金及びその混合物。
上記磁性体は、表面改質された磁性体がより好ましい。重合法により磁性トナーを調製する場合には、重合阻害のない表面改質剤により、疎水化処理を施したものが好ましい。このような表面改質剤としては、例えばシランカップリング剤、チタンカップリング剤を挙げることができる。
【0073】
磁性体の個数平均粒径は、2.0μm以下が好ましく、0.1μm~0.5μmがより好ましい。磁性体の含有量は、結着樹脂100質量部に対し、20質量部~200質量部が好ましく、40質量部~150質量部がより好ましい。
【0074】
トナー粒子はワックスを含有することが好ましい。
ワックス成分としては、例えば以下のものが挙げられる。
低分子量ポリエチレン、低分子量ポリプロピレン、ポリオレフィン共重合物、ポリオレフィンワックス、パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス、ペトロラタム、フィッシャートロプシュワックスのような脂肪族炭化水素系ワックス及びその誘導体;モンタンワックス及びその誘導体;ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィンワックス及びその誘導体;酸化ポリエチレンワックスのような脂肪族炭化水素系ワックスの酸化物;又は、それらのブロック共重合物;キャンデリラワックス、カルナバワックス、木ろう、ホホバろうのような植物系ワックス;みつろう、ラノリン、鯨ろうのような動物系ワックス;オゾケライト、セレシンのような鉱物系ワックス;モンタン酸エステルワックス、カスターワックスのような脂肪族エステルを主成分とするワックス類;脱酸カルナバワックスのような脂肪族エステルを一部又は全部を脱酸化したもの。誘導体には酸化物や、ビニル系モノマーとのブロック共重合物、グラフト変性物が含まれる。
さらには、高級脂肪族アルコール、ステアリン酸、パルミチン酸等の脂肪酸、あるいはその酸アミド、又はエステル。
ワックスの含有量は、結着樹脂100質量部に対し1質量部~25質量部であることが好ましい。
【0075】
トナーには、その帯電性を安定化させるために荷電制御剤を用いてもよい。荷電制御剤としては、有機金属錯体、キレート化合物が好ましい。その例としては、モノアゾ金属錯体;アセチルアセトン金属錯体;芳香族ヒドロキシカルボン酸又は芳香族ジカルボン酸の金属錯体又は金属塩が挙げられる。
【0076】
トナー粒子の製造方法は、特に限定されず、例えば、粉砕法、懸濁重合法、溶解懸濁法、乳化凝集法、分散重合法等の公知の製造方法を用いることができる。
例えば、粉砕法では、好ましくは以下の工程を含む。
i)トナー粒子を構成する結着樹脂、並びに必要に応じてワックス、着色剤及びその他の添加剤等を、ヘンシェルミキサー、ボールミルの様な混合機により充分に混合する工程
ii)得られた混合物を二軸混練押出機、加熱ロール、ニーダー、エクストルーダーの様な熱混練機を用いて溶融混練し、樹脂に、ワックスなどの添加剤を分散又は溶解させる工程
iii)冷却固化後、粉砕する工程、及び
iv)必要に応じて分級を行い、トナー粒子を得る工程
【0077】
また、トナー粒子及び有機ケイ素重合体粒子の濡れ性を制御するために上記製法で作成したトナー粒子表面にシェル層を形成してもよい。方法は特に限定されないが、トナー粒子のコア粒子を懸濁重合法、乳化重合凝集法、乳化凝集法などの湿式工程を含む製造方法で製造する場合は、コア粒子を製造後に、液中にシェル層となる化合物を添加してシェル層を形成することができる。
【0078】
コア粒子を粉砕法で製造する場合は、コア粒子を製造後に、コア粒子を水系媒体中に分散させてからシェル層となる化合物を添加してシェル層を形成することができる。
いずれの場合もシェル層を形成する化合物は分散液として添加してもよいし、コア粒子が分散している中で、シェル層の原料となるモノマーを添加して重合反応でシェル層を形成してもよい。
コア粒子にシェル層の化合物を微粒子の状態で添加した場合は、加熱することで、コア粒子に付着した微粒子状態の樹脂を膜状化してシェル層とすることも可能である。
【0079】
トナーの製造方法について説明する。
トナー粒子に有機ケイ素重合体粒子を外添混合し、必要に応じて固着させて、トナーを得る。
外添剤をトナー粒子に固着させる際、その固着力は、外添剤とトナー粒子との接触面積と、外添剤とトナー粒子の種類によって決まる、単位面積当たりの固着力によって決定される。
有機ケイ素重合体粒子は表面自由エネルギーが低く、離形性が高いため、単位面積当たりの固着力は低い。そのため、固着力を上げるには、接触面積を大きくする必要があるが、有機ケイ素重合体粒子のもつ弾性回復力のため、衝撃を与えてもトナー粒子の変形が進まず、接触面積はあまり増加しにくく、固着力を高くしにくい。
【0080】
一度の衝撃力を上げ、かつ連続的に衝撃を加えれば、固着力を上げることができるが、有機ケイ素重合体粒子が埋め込まれてしまう。そこで、トナー粒子表面に有機ケイ素重合体粒子を固着させるためには、熱により固着率を高めることが好ましい。熱をかけることで、トナー粒子表面をわずかに変形させ、有機ケイ素重合体粒子とトナー粒子表面の微小な空隙を埋めることができ、トナー粒子表面に埋没させず接触面積が増加し、固着力を上げることができる。
また、熱と衝撃力を同時に加えることで、有機ケイ素重合体粒子の埋め込み深さを有機ケイ素重合体粒子の粒径に応じて制御することもできる。
【0081】
有機ケイ素重合体粒子の固着性を良好にするには、加温工程の温度TRを、トナー粒子のガラス転移温度Tg近傍に設定することが好ましい。
具体的には、
加温工程の温度をTR(℃)、該トナー粒子のガラス転移温度をTg(℃)とした時、加温工程の温度TRは、Tg-10(℃)≦TR≦Tg+5(℃)を満たすことが好ましく、Tg-5(℃)≦TR≦Tg+5(℃)を満たすことがより好ましい。
加温工程時の混合処理エネルギーは、好ましくは1.0×10-3W・h/g~1.0×10-1W・h/gであり、より好ましくは5.0×10-3W・h/g~5.0×10-2W・h/gである。
加温時間は特に限定されないが、好ましくは、3分~30分であり、より好ましくは、3分~10分である。また、トナー粒子のガラス転移温度Tgは、保存性の観点から、40℃~70℃が好ましく、より好ましくは50℃~65℃である。
【0082】
加温工程に用いる装置としては、混合機能を有している装置が好ましく、公知の混合処理装置を用いることができるが、
図1に示すような混合処理装置1が特に好ましい。
図1は、加温工程で用いることができる混合処理装置1の一例を示す模式図である。
一方、
図2は、混合処理装置1に使用される攪拌部材の構成の一例を示す模式図である。
【0083】
混合処理装置1は、複数の攪拌部材33が表面に設置された回転体32と、回転体を回転駆動する駆動部38と、攪拌部材33と間隙を有して設けられた本体ケーシング31とを有する。
本体ケーシング31の内周部と、撹拌部材33との間隙(クリアランス)では、トナー粒子に効率的に熱を加えるとともに、トナー粒子に均一にシェアを与え、有機ケイ素重合体粒子を二次粒子から一次粒子へとほぐしながら、トナー粒子の表面に固着させることができる。
【0084】
また、この混合処理装置は、本体ケーシング31の内周部の径が、回転体32の外周部の径の2倍以下である。
図1は、本体ケーシング31の内周部の径が、回転体32の外周部の径(回転体32から攪拌部材33を除いた胴体部の径)の1.7倍である例を示す。本体ケーシング31の内周部の径が、回転体32の外周部の径の2倍以下であると、トナー粒子に力が作用する処理空間が適度に限定されるため、二次粒子となっている有機ケイ素重合体粒子を十分に分散させることが可能となる。
【0085】
また、上記クリアランスは、本体ケーシングの大きさに応じて、調整することが好適である。クリアランスのサイズは、本体ケーシング31の内周部の径の1%~5%にすることが、トナー粒子に効率的に熱を加えるという点で好適である。具体的には、本体ケーシング31の内周部の径が130mm程度の場合は、クリアランスを2mm~5mm程度とし、本体ケーシング31の内周部の径が800mm程度の場合は、10mm~30mm程度とすればよい。
【0086】
図2に示すように、複数の攪拌部材33の少なくとも一部が、回転体32の回転に伴ってトナー粒子を回転体の軸方向の一方向に送る、送り用攪拌部材33aとして形成される。また、複数の攪拌部材33の少なくとも一部が、回転体32の回転に伴ってトナー粒子を回転体の軸方向の他方向に戻す、戻し用攪拌部材33bとして形成されている。ここで、
図1のように、原料投入口35と製品排出口36が本体ケーシング31の両端部に設けられている場合には、原料投入口35から製品排出口36へ向かう方向(
図1で右方向)を「送り方向」という。
【0087】
すなわち、
図2に示すように、送り用攪拌部材33aの板面は送り方向43にトナー粒
子を送るように傾斜している。一方、攪拌部材33bの板面は、戻り方向42にトナー粒子を送るように傾斜している。
これにより、送り方向43への送りと、戻り方向42への送りとを繰り返し行いながら、加温処理を行う。また、攪拌部材33aと33bは、回転体32の円周方向に間隔を置いて配置した複数枚の部材が一組となっている。
図2に示す例では、攪拌部材33a、33bが回転体32に互いに180度の間隔で2枚の部材が一組をなしているが、120°の間隔で3枚、あるいは90°の間隔で4枚、というように多数の部材を一組としてもよい。
【0088】
図2に示す撹拌部材の例では、攪拌部材33aと33bは等間隔で、計12枚形成されている。
図2において、Dは攪拌部材の幅を示し、dは攪拌部材の重なり部分を示す間隔を示す。トナー粒子を送り方向と戻り方向に効率よく送る観点から、Dは、回転体32の長さに対して、20%~30%程度であることが好ましい。
図2は、回転体32の長さに対するDが23%である例を示す。攪拌部材33aと攪拌部材33bは、攪拌部材33aの端部位置から垂直方向に延長線を引いた場合、攪拌部材33bと攪拌部材33aの重なり部分dをある程度有することが好ましい。
【0089】
これにより、トナー粒子の表面に有機ケイ素重合体粒子を効率的に分散させることができる。Dに対するd((d/D)×100)は、10%~30%であることが、適切なシェアをかける点で好ましい。
【0090】
羽根の形状に関しては、
図2に示すような形状以外にも、送り方向及び戻り方向にトナー粒子を送ることができ、クリアランスを維持することができれば、例えば、曲面を有する形状や、先端羽根部分が棒状アームで回転体32に結合されたパドル構造の形状であってもよい。
【0091】
以下、
図1及び
図2に示す装置の模式図に従って、さらに詳細に説明する。
図1に示す装置は、少なくとも複数の攪拌部材33が表面に設置された回転体32と、回転体32を回転駆動する駆動部38と、攪拌部材33と間隙を有して設けられた本体ケーシング31を有する。さらに、本体ケーシング31の内側にあり、かつ回転体端部側面310に隣接している、冷熱媒体を流すことのできるジャケット34を有している。
また、
図1に示す混合処理装置は、さらに、本体ケーシング31の上部に形成された原料投入口35と、本体ケーシング31の下部に形成された製品排出口36とを有している。原料投入口35は、トナー粒子及び有機ケイ素重合体粒子を導入するために使用される。製品排出口36は外添混合処理されたトナーを本体ケーシング31から外に排出するために使用される。
【0092】
図1に示す混合処理装置は、原料投入口35の内部に、原料投入口用インナーピース316が挿入されており、製品排出口36の内部に、製品排出口用インナーピース317が挿入されている。
【0093】
まず、原料投入口35から原料投入口用インナーピース316を取り出し、トナー粒子及び有機ケイ素重合体粒子を原料投入口35より処理空間39に投入し、原料投入口用インナーピース316を挿入する。次に、駆動部38により回転体32を回転させ(41は回転方向を示す)、投入した処理物を、回転体32の表面に複数設けられた攪拌部材33により攪拌し、混合しながら加温混合処理する。
【0094】
さらに、ジャケット34に所望の温度の温水を通すことで、加温を行うことができる。温水の温度は、原料投入口用インナーピース316の内部に設置した熱電対でモニターす
る。
トナーを安定的に得るためには、原料投入口用インナーピース316の内部の温度TR(熱電対温度;℃)は、トナー粒子のガラス転移温度をTg(℃)として、Tg-10(℃)≦TR≦Tg+5(℃)の条件が好ましく、さらにはTg-5℃≦TR≦Tg+5℃がより好ましい。
加温混合処理条件としては、駆動部38の動力(W/g)は、混合処理エネルギーE(W・h/g)が、1.0×10-4W・h/g~1.0×10-1W・h/gの範囲内となるよう制御にすることが好ましい。
【0095】
加温工程で達成した有機ケイ素重合体粒子の埋め込み状態から、さらに埋め込むことなく、熱により表面のわずかな溶融を促進させることが好ましい。よって、トナーに機械的衝撃力を与えない方が好ましい。一方で有機ケイ素重合体粒子の被覆状態を均一にする為には、最低限の動力は必要であり、混合処理エネルギーE(W・h/g)が上記範囲となるように動力を制御することが好ましい。
駆動部38の動力は、トナー粒子投入時の動力(W)から、トナー粒子を投入していない時に運転した空動力(W)を差し引き、トナー粒子投入量(g)で割った値を示す。
処理時間は、加温する温度にもよるため、特に限定されないが、好ましくは、3分~30分であり、より好ましくは、3分~10分である。上記範囲に制御することで、トナー強度と固着を両立しやすくなる。
【0096】
攪拌部材の回転数は、上記動力と連動するため、上記動力が1.0×10
-4W/g~1.0×10
-1W/gの範囲内であれば特に限定されない。
図1に示す装置の処理空間39の容積が2.0×10
-3m
3の装置において、攪拌部材33の形状を
図2のものとしたときの攪拌部材の回転数としては、50rpm~500rpmであることが好ましい。より好ましくは、100rpm~300rpmである。
混合処理終了後、製品排出口36内の、製品排出口用インナーピース317を取り出し、駆動部38により回転体32を回転させ、製品排出口36からトナーを排出する。必要に応じて円形振動篩機などの篩機でトナーの粗粒などを分離してもよい。
【0097】
混合処理装置1の装置を用いて加温工程により有機ケイ素重合体粒子を固着する場合は、事前に外添工程で有機ケイ素重合体粒子を外添することが好ましい。
外添工程では、FMミキサ(日本コークス工業株式会社製)、スーパーミキサー(カワタ社製)、ノビルタ(ホソカワミクロン社製)、及びハイブリダイザー(奈良機械社製)などの公知の混合機を用いて、トナー粒子に有機ケイ素重合体粒子を外添したトナーを得ることができる。
【0098】
トナーは、外添工程において加温することで、外添と固着を一つの工程で行うこともでき、外添工程で外添と固着を一つの工程で行う場合には公知の混合処理装置を用いることができる。
外添工程で外添と固着を一つの工程で行う場合、FMミキサ(日本コークス工業株式会社製)、スーパーミキサー(カワタ社製)、ノビルタ(ホソカワミクロン社製)、及びハイブリダイザー(奈良機械社製)などの公知の混合機のジャケットに所望の温度の温水を通すことで、加温を行いつつ運転すればよい。
【0099】
各種物性の測定方法について以下に説明する。
<有機ケイ素重合体粒子の一次粒子の個数平均粒径の測定方法>
有機ケイ素重合体粒子の一次粒子の個数平均粒径の測定は、走査型電子顕微鏡「S-4800」(商品名;日立製作所製)を用いて行う。有機ケイ素重合体粒子が添加されたトナーを観察して、最大5万倍に拡大した視野において、ランダムに100個の有機ケイ素重合体粒子の一次粒子の長径を測定して個数平均粒径を求める。観察倍率は、有機ケイ素
重合体粒子の大きさによって適宜調整する。
なお、有機ケイ素重合体粒子を単独で入手できる場合は、有機ケイ素重合体粒子を単独で測定することもできる。
トナー中に、有機ケイ素重合体粒子以外のケイ素含有物が含まれる場合、トナー観察において、外添剤の各粒子に対してEDS分析を行い、Si元素ピークの有無から、分析した粒子が有機ケイ素重合体粒子であるか否かを判断する。
トナー中に、有機ケイ素重合体粒子とシリカ微粒子の両方が含まれている場合には、Si、Oの元素含有量(atomic%)の比(Si/O比)を標品と比較することで有機ケイ素重合体粒子の同定を行う。有機ケイ素重合体粒子、シリカ微粒子それぞれの標品に対して、同条件でEDS分析を行い、Si、Oそれぞれの元素含有量(atomic%)を得る。有機ケイ素重合体粒子のSi/O比をAとし、シリカ微粒子のSi/O比をBとする。AがBに対して、有意に大きくなる測定条件を選択する。具体的には、標品に対して、同条件で10回の測定を行い、A,Bそれぞれの相加平均値を得る。得られた平均値がA/B>1.1となる測定条件を選択する。
判別対象の微粒子のSi/O比が[(A+B)/2]よりもA側にある場合に当該微粒子を有機ケイ素重合体粒子と判断する。
有機ケイ素重合体粒子の標品として、トスパール120A(モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン合同会社)を、シリカ微粒子の標品として、HDK V15(旭化成)を用いる。
【0100】
<メタノール/水混合溶媒に対する濡れ性試験>
トナー粒子及び有機ケイ素重合体粒子のメタノール/水混合溶媒に対する濡れ性試験は、粉体濡れ性試験機「WET-100P」(レスカ社製)を用い、下記の条件及び手順で測定し、得られたメタノール滴下透過率曲線から算出する。
まずトナー10gをバイアル瓶に入れた水に添加して分散し、トナーから有機ケイ素重合体粒子やその他の外添剤を分離させる。分散には超音波式ホモジナイザーを用いて30分間処理して分散液を作製する。処理条件は以下の通りである。
超音波処理装置:超音波式ホモジナイザーVP-050(タイテック株式会社製)
マイクロチップ:ステップ型マイクロチップ、先端径φ2mm
マイクロチップの先端位置:ガラスバイアルの中央部、且つバイアル底面から5mmの高さ
超音波条件:強度100%、30分。このとき、分散液が昇温しないようにバイアルを氷水で冷却しながら超音波を掛ける。
分散液をスイングローター用ガラスチューブ(50mL)に入れ替えて、遠心分離機(H-9R;株式会社コクサン社製)にて、58.33S-1、30分間の条件で遠心分離を行う。
遠心分離後のガラスチューブ内では、比重によりトナー粒子及び有機ケイ素重合体粒子を主として含む画分を分離できる。得られた画分を真空条件下(40℃/24時間)で乾燥し、サンプルを得る。
なお、有機ケイ素重合体粒子を単独で入手できる場合は、有機ケイ素重合体粒子を単独で測定することもできる。
【0101】
直径5cm及び厚さ1.75mmの円筒型ガラス容器中に、フッ素樹脂コーティングされた長さ25mm及び最大胴径8mmの紡錘型回転子を入れる。
前記円筒型ガラス容器中に、蒸留水60.0mlを入れ、気泡などを除去するために超音波分散機で5分間処理を行う。この中に、検体である乾燥させたトナー粒子又は有機ケイ素重合体粒子を0.1g精秤して添加し、測定サンプル液を調製する。
マグネティックスターラーを用いて、円筒型ガラス容器中の紡錘型回転子を300rpmの速度で撹拌しながら、粉体濡れ性試験機を通して、測定サンプル液中に、メタノールを0.8ml/minの滴下速度で連続的に添加する。
波長780nmの光で透過率を測定し、メタノール滴下透過率曲線を作成する。得られたメタノール滴下透過率曲線から、透過率が50%を示したときのメタノール濃度a(体積%)、b(体積%)を読み取る。
なお、メタノール濃度は、(円筒型ガラス容器中に存在するメタノールの体積/円筒型ガラス容器中に存在するメタノール及び水の混合物の体積)×100、により算出される値である。
【0102】
<有機ケイ素重合体粒子の同定及びT3単位構造の確認>
トナー中に含まれる有機ケイ素重合体粒子の構成化合物の組成と比率の同定は、熱分解ガスクロマトグラフィー質量分析計(以下、「熱分解GC/MS」とも称する)及びNMRを用いる。
トナー中に、有機ケイ素重合体粒子以外のケイ素含有物や外添剤が含まれる場合、トナーをクロロホルムなどの溶媒に分散させ、その後に遠心分離等で比重の差で有機ケイ素重合体粒子を分離する。その方法は以下の通りである。
まずトナー1gをバイアル瓶に入れたクロロホルム31gに添加して分散し、有機ケイ素重合体粒子や他の外添剤をトナーから分離させる。分散には超音波式ホモジナイザーを用いて30分間処理して分散液を作製する。処理条件は以下の通りである。
超音波処理装置:超音波式ホモジナイザーVP-050(タイテック株式会社製)
マイクロチップ:ステップ型マイクロチップ、先端径φ2mm
マイクロチップの先端位置:ガラスバイアルの中央部、且つバイアル底面から5mmの高さ
超音波条件:強度30%、30分。このとき、分散液が昇温しないようにバイアルを氷水で冷却しながら超音波を掛ける。
分散液をスイングローター用ガラスチューブ(50mL)に入れ替えて、遠心分離機(H-9R;株式会社コクサン社製)にて、58.33S-1、30分間の条件で遠心分離を行う。
遠心分離後のガラスチューブ内では、比重により有機ケイ素重合体粒子を主として含む画分を分離できる。得られた画分を真空条件下(40℃/24時間)で乾燥し、サンプルを得る。
なお、有機ケイ素重合体粒子を単独で入手できる場合は、有機ケイ素重合体粒子を単独で測定することもできる。
【0103】
上記サンプル又は有機ケイ素重合体粒子を用いて有機ケイ素重合体粒子の構成化合物の存在量比及び、有機ケイ素重合体粒子中のT3単位構造の割合を、固体29Si-NMRで測定・算出する。
有機ケイ素重合体粒子の構成化合物の種類の分析には熱分解GC/MSが用いられる。
有機ケイ素重合体粒子を550℃~700℃程度で熱分解させた際に生じる、有機ケイ素重合体粒子由来の分解物の成分のマススペクトルを分析する事で、有機ケイ素重合体粒子の構成化合物の種類を同定する。具体的な測定条件は以下の通りである。
【0104】
[熱分解GC/MSの測定条件]
熱分解装置:JPS-700(日本分析工業)
分解温度:590℃
GC/MS装置:Focus GC/ISQ (Thermo Fisher)
カラム:HP-5MS 長さ60m、内径0.25mm、膜厚0.25μm
注入口温度:200℃
フロー圧:100kPa
スプリット:50mL/min
MSイオン化:EI
イオン源温度:200℃ Mass Range 45-650
【0105】
続いて同定した有機ケイ素重合体粒子の構成化合物の存在量比を、固体29Si-NMRで測定・算出する。
固体29Si-NMRでは、有機ケイ素重合体粒子の構成化合物のSiに結合する官能基の構造によって、異なるシフト領域にピークが検出される。
各ピークの官能基の構造は標準サンプルを用いて特定する。また得られたピーク面積から各構成化合物の存在量比を算出する。全ピーク面積に対してT3単位構造のピーク面積の割合を計算によって求めることができる。
固体29Si-NMRの測定条件は、下記の通りである。
装置:JNM-ECX5002 (JEOL RESONANCE)
温度:室温
測定法:DDMAS法 29Si 45°
試料管:ジルコニア3.2mmφ
試料:試験管に粉末状態で充填
試料回転数:10kHz
relaxation delay:180s
Scan:2000
該測定後に、有機ケイ素重合体粒子のクロロホルム不溶分の、置換基及び結合基の異なる複数のシラン成分をカーブフィティングにて下記X1構造、X2構造、X3構造、及びX4構造にピーク分離して、それぞれピーク面積を算出する。
なお、下記X3構造がT3単位構造である。
X1構造:(Ri)(Rj)(Rk)SiO1/2 (A1)
X2構造:(Rg)(Rh)Si(O1/2)2 (A2)
X3構造:RmSi(O1/2)3 (A3)
X4構造:Si(O1/2)4 (A4)
【0106】
【0107】
該式(A1)、(A2)及び(A3)中のRi、Rj、Rk、Rg、Rh、Rmはケイ素に結合している、炭素数1~6の炭化水素基などの有機基、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、アセトキシ基又はアルコキシ基を示す。
また、上記R1で表される炭化水素基は、13C-NMRにより確認する。
≪13C-NMR(固体)の測定条件≫
装置:JEOLRESONANCE製JNM-ECX500II
試料管:3.2mmφ
試料:試験管に粉末状態で充填
測定温度:室温
パルスモード:CP/MAS
測定核周波数:123.25MHz(13C)
基準物質:アダマンタン(外部標準:29.5ppm)
試料回転数:20kHz
コンタクト時間:2ms
遅延時間:2s
積算回数:1024回
該方法にて、ケイ素原子に結合しているメチル基(Si-CH3)、エチル基(Si-C2H5)、プロピル基(Si-C3H7)、ブチル基(Si-C4H9)、ペンチル基(Si-C5H11)、ヘキシル基(Si-C6H13)またはフェニル基(Si-C6H5)などに起因するシグナルの有無により、上記R1で表される炭化水素基を確認する。
なお、構造をさらに詳細に確認する必要がある場合、上記13C-NMR及び29Si-NMRの測定結果と共に1H-NMRの測定結果によって同定してもよい。
【0108】
<トナー中に含まれる有機ケイ素重合体粒子の定量方法>
トナー中に含まれる有機ケイ素重合体粒子の含有量は、蛍光X線を用いて測定する。
蛍光X線の測定は、JIS K 0119-1969に準ずるが、具体的には以下の通りである。測定装置としては、波長分散型蛍光X線分析装置「Axios」(PANalytical社製)と、測定条件設定及び測定データ解析をするための付属の専用ソフト「SuperQ ver.5.0L」(PANalytical社製)を用いる。なお、X線管球のアノードとしてはRhを用い、測定雰囲気は真空、測定径(コリメーターマスク径)は27mmとする。測定は、Omnianのメソッドを用いて元素FからUまでの範囲を測定し、軽元素を測定する場合にはプロポーショナルカウンタ(PC)、重元素を測定する場合にはシンチレーションカウンタ(SC)で検出する。
また、X線発生装置の加速電圧、電流値は、出力2.4kWとなるように設定する。測定サンプルとしては、専用のプレス用アルミリングの中にトナー4gを入れて平らにならし、錠剤成型圧縮機「BRE-32」(前川試験機製作所社製)を用いて、20MPaで、60秒間加圧し、厚さ2mm、直径39mmに成型したペレットを用いる。
前述条件で成形したペレットにX線を照射して、発生する特性X線(蛍光X線)を分光素子にて分光する。次に、サンプルに含まれる各元素固有の波長に対応する角度に分光された蛍光X線の強度を、FP法(ファンダメンタルパラメータ法)により分析し、トナーに含まれる各元素の含有比率を分析結果として得て、トナー中のケイ素原子の含有量を求める。
蛍光X線で求めたトナー中のケイ素の含有量と、固体29SiNMR及び熱分解GC/MSなどを用いて構造を特定した有機ケイ素重合体粒子の構成化合物中のケイ素の含有量比の関係から、計算によってトナー中の有機ケイ素重合体粒子の含有量を求めることができる。
トナー中に、有機ケイ素重合体粒子以外のケイ素含有物が含まれる場合、上記と同様の方法で、トナーから有機ケイ素重合体粒子以外のケイ素含有物を除去したサンプルを得て、トナー中に含まれる有機ケイ素重合体粒子を定量することができる。
【0109】
〈有機ケイ素重合体粒子の侵入深さ(e)、凸高さ(f)、及び侵入に関する指標(e/(e+f))の測定方法〉
(1)TEMによるトナーの断面の観察
可視光硬化性樹脂(商品名:アロニックスLCRシリーズD-800、東亞合成(株)製)中にトナーを分散させた後、短波長光を照射して硬化させる。得られた硬化物を、ダ
イアモンドナイフを備えたウルトラミクロトームで切り出し、250nmの薄片状サンプルを作製する。次いで、切り出したサンプルを透過型電子顕微鏡(商品名:電子顕微鏡JEM-2800、日本電子(株)製)(TEM-EDX)を用いて4万倍~5万倍の倍率で拡大し、トナーの粒子の断面像を得る。
なお、観察するトナーは以下のように選択する。
まず、トナーの粒子の断面の画像から、トナーの粒子の断面積を求め、その断面積と等しい面積を持つ円の直径(円相当径)を求める。この円相当径とトナーの重量平均粒径(D4)との差の絶対値が1.0μm以内であるトナーの粒子の断面の画像についてのみ観察する。
【0110】
(2)有機ケイ素重合体粒子の侵入深さ(e)、有機ケイ素重合体粒子の凸高さ(f)、及び侵入に関する指標(e/(e+f))の算出方法
一粒子の有機ケイ素重合体粒子及びトナー粒子表面からトナー粒子の内部方向へ400nm程度までの部分を含むTEM画像を切り出す。
切り出したTEM画像について、画像処理ソフトウェアImage J(https://imagej.nih.gov/ij/より入手可能)のライン描画ツール(StraghtタブのSegmented lineを選択)にてトナー粒子の周に沿った線(輪郭線)を描く。有機ケイ素重合体粒子の凸部がトナー粒子に埋没しているような部分は、トナー粒子の周の曲率を維持するように、その埋没はないものとして滑らかに線をつなぐ。なお、輪郭線Xを直線とする意図はない。
その線を直線へ変換(EditタブのSelectionを選択し、propertiesにてline widthを500pixelに変更後、EditタブのSelectionを選択しStraghtenerを行う)する(
図1参照)。
これにより、トナー粒子の輪郭線を直線に展開した展開画像が得られる。該展開画像について、有機ケイ素重合体粒子の侵入深さe(nm)及び凸高さf(nm)を求める。解析個数は、有機ケイ素重合体粒子の粒子100個とし、その算術平均値をその試料のe、fの値とする。
侵入深さe及び凸高さfの値から、有機ケイ素重合体粒子の侵入に関する指標であるe/(e+f)を求める。
【0111】
<有機ケイ素重合体粒子の比誘電率の測定方法>
有機ケイ素重合体粒子の比誘電率の測定には、電源、電流計としてSI 1260 electrochemical interface(東陽テクニカ製)、電流アンプとして1296 dielectric interface(東陽テクニカ製)を用いる。
前述の方法でトナーから分離した有機ケイ素重合体粒子を試料に用いることができる。なお、有機ケイ素重合体粒子を単独で入手できる場合は、有機ケイ素重合体粒子を単独で測定することもできる。
測定試料としては、錠剤成型器を用いて、試料を厚さ3.0±0.5mmの円板状に加熱成型した試料を用いる。上記試料の上下面にマスク蒸着を用いて、直径10mmの円形状に金電極を作製する。 作製した測定試料に測定電極を取り付け、100mVp-pの交流電圧を周波数10Hzで印加し、キャパシタンスを測定する。下記式から測定試料の比誘電率εを算出する。
ε=dC/ε0S
d:測定試料の厚さ(m)
C:キャパシタンス(F)
ε0:真空の誘電率(F/m)
S:電極面積(m2)
【0112】
<有機ケイ素重合体粒子の固着指数の測定方法>
有機ケイ素重合体粒子の固着状態を指数化する手法としては、基板にトナーを接触させた際の有機ケイ素重合体粒子の移行量を評価する。基板の表層の材料として、感光体の表面層を模擬する基板として、ポリカーボネート樹脂を表層材料に用いた基板を用いる。具体的には、まず、ビスフェノールZ型のポリカーボネート樹脂(商品名:ユーピロンZ-400、三菱エンジニアリングプラスチックス(株)、粘度平均分子量(Mv):40000)をトルエンに10質量%の濃度となるように溶解させて塗工液とする。
この塗工液を、50番手のマイヤーバーを用いて、50μmの厚みのアルミニウムシートに塗工し、塗膜を形成する。そして、この塗膜を100℃で10分間乾燥させることで、上記アルミニウムシート上にポリカーボネート樹脂の層(膜厚が10μm)を有するシートを作製する。このシートを基板ホルダーで保持する。基板は、一辺が3mmの正方形とする。
以下に、測定工程を、トナーを基板に配置する工程、基板からトナーを除去する工程、基板に供給された有機ケイ素重合体粒子の付着量を定量化する工程に分けて説明する。
【0113】
・トナーを基板に配置する工程
トナーは、多孔質な柔軟材料(以下「トナー保持体」と表記する。)に含有させ、トナー保持体を基板に接触させる。トナー保持体にトナーを含侵する方法は、トナーが十分に入っている容器中にトナー保持体を浸して取り出す工程を5回繰り返し、トナー保持体の表面がトナーで覆われて見えなくなっているのを目視で確認する。トナー保持体としては、丸三産業(株)製のスポンジ(商品名:ホワイトワイパー)を用いる。
トナーを含侵したトナー保持体は、基板の接触面に対して垂直方向に移動するステージに固定した荷重計の先端に固定し、トナーを含侵したトナー保持体と基板が荷重を測定しつつ接触できるようにする。トナーを含侵したトナー保持体と基板との接触は、ステージを移動させ、荷重計が10Nを示すまで、トナーを含侵したトナー保持体を基板に押し付け、その後、離間する工程を1工程とし、この工程を5回繰り返す。
【0114】
・基板からトナーを除去する工程
トナーを含侵したトナー保持体を接触させた後の基板に、掃除機のノズル先端に接続した内径約5mmのエラストマー製の吸引口をトナーの配置面と垂直となるように近づけ、基板に付着したトナーを除去する。この際、トナーの残留程度を目視で確認しながら除去する。吸引口の端部と基板の距離を1mmとし、吸引時間を3秒とし、吸引圧力を6kPaとする。
【0115】
・基板に供給された有機ケイ素重合体粒子の付着量を定量化する工程
トナーを除去した後に基板に残留する有機ケイ素重合体粒子の量と形状を数値化する際には、走査型電子顕微鏡による観察と画像計測を用いる。
まず、トナーを除去した後の基板に、白金を電流20mAおよび60秒間の条件でスパッタし、観察用試料とする。
走査型電子顕微鏡による観察においては、有機ケイ素重合体粒子を観察できる観察倍率を任意に選択する。走査型電子顕微鏡としては、日立超高分解能電界放出走査電子顕微鏡(商品名:S-4800、(株)日立ハイテクノロジーズ)を用い、S-4800(商品名)の反射電子像にて観察を行う。観察倍率は50000倍とし、加速電圧は10kVとし、作動距離は3mmとする。
【0116】
観察により得られた画像は、有機ケイ素重合体粒子が高輝度に、基板が低輝度に表されるので、二値化により、視野内の有機ケイ素重合体粒子の量を定量化することができる。二値化の条件は、観察装置やスパッタ条件により適切に選択する。二値化に、画像解析ソフトウェアであるImage J(https://imagej.nih.gov/ij/より入手可能)を用いる。
Image Jで有機ケイ素重合体粒子の面積のみを積算し、観察視野全体の面積で除
算することで観察視野内の有機ケイ素重合体粒子の面積率を求める。上記測定を二値化した画像100枚について行い、その平均値を基板上の有機ケイ素重合体粒子の面積率[c](単位:面積%)とする。
【0117】
次に、トナー粒子への有機ケイ素重合体粒子の被覆率[d](単位:面積%)を算出する。
有機ケイ素重合体粒子の被覆率は、走査型電子顕微鏡による観察と画像計測を用いて測定する。走査型電子顕微鏡による観察において、有機ケイ素重合体粒子を観察する観察倍率は、基板上の有機ケイ素重合体粒子を観察した倍率と同じ倍率を採用する。走査型電子顕微鏡としては、上記の日立超高分解能電界放出走査電子顕微鏡S-4800(商品名)を用いる。
なお、面積率c及び被覆率dの測定に関し、トナー中に、有機ケイ素重合体粒子以外の微粒子が含まれる場合、トナー観察において、外添剤の各粒子に対してEDS分析を行い、Si元素ピークの有無から、分析する粒子が有機ケイ素重合体粒子であるか否かを判断する。具体的には、有機ケイ素重合体粒子の一次粒子の個数平均粒径と同様の操作を行う。
画像撮影条件は以下の通りである。
【0118】
(1)試料作製
試料台(アルミニウム試料台15mm×6mm)に導電性ペーストを薄く塗り、その上にトナーを吹きつける。さらにエアブローして、余分なトナーを試料台から除去し十分乾燥させる。試料台を試料ホルダにセットし、試料高さゲージにより試料台高さを36mmに調節する。
【0119】
(2)S-4800観察条件設定
有機ケイ素重合体粒子の被覆率[d]の算出は、S-4800の反射電子像観察により得られた画像を用いて行う。反射電子像は2次電子像と比べてチャージアップが少ないため、有機ケイ素重合体粒子の被覆率[d]を精度良く測定することができる。
S-4800の筺体に取り付けられているアンチコンタミネーショントラップに液体窒素を溢れるまで注入し、30分間置く。S-4800の「PC-SEM」を起動し、フラッシング(電子源であるFEチップの清浄化)を行う。画面上のコントロールパネルの加速電圧表示部分をクリックし、[フラッシング]ボタンを押し、フラッシング実行ダイアログを開く。フラッシング強度が2であることを確認し実行する。フラッシングによるエミッション電流が20μA~40μAであることを確認する。試料ホルダをS-4800筺体の試料室に挿入する。コントロールパネル上の[原点]を押し試料ホルダを観察位置に移動させる。
加速電圧表示部をクリックしてHV設定ダイアログを開き、加速電圧を[0.8kV]、エミッション電流を[20μA]に設定する。オペレーションパネルの[基本]のタブ内にて、信号選択を[SE]に設置し、SE検出器を[上(U)]及び[+BSE]を選択し、[+BSE]の右の選択ボックスで[L.A.100]を選択し、反射電子像で観察するモードにする。
同じくオペレーションパネルの[基本]のタブ内にて、電子光学系条件ブロックのプローブ電流を[Normal]に、焦点モードを[UHR]に、WDを[3.0mm]に設定する。コントロールパネルの加速電圧表示部の[ON]ボタンを押し、加速電圧を印加する。
【0120】
(3)焦点調整
コントロールパネルの倍率表示部内をドラッグして、倍率を5000(5k)倍に設定する。操作パネルのフォーカスつまみ[COARSE]を回転させ、視野内全体にある程度焦点が合ったところでアパーチャアライメントの調整を行う。コントロールパネルの[
Align]をクリックし、アライメントダイアログを表示し、[ビーム]を選択する。操作パネルのSTIGMA/ALIGNMENTつまみ(X,Y)を回転し、表示されるビームを同心円の中心に移動させる。次に[アパーチャ]を選択し、STIGMA/ALIGNMENTつまみ(X,Y)を一つずつ回し、像の動きを止める又は最小の動きになるように合わせる。アパーチャダイアログを閉じ、オートフォーカスで、ピントを合わせる。この操作を更に2度繰り返し、ピントを合わせる。
次に対象のトナーについて、最大径の中点を測定画面の中央に合わせた状態でコントロールパネルの倍率表示部内をドラッグして、倍率を10000(10k)倍に設定する。操作パネルのフォーカスつまみ[COARSE]を回転させ、ある程度焦点が合ったところでアパーチャアライメントの調整を行う。コントロールパネルの[Align]をクリックし、アライメントダイアログを表示し、[ビーム]を選択する。操作パネルのSTIGMA/ALIGNMENTつまみ(X,Y)を回転し、表示されるビームを同心円の中心に移動させる。
次に[アパーチャ]を選択し、STIGMA/ALIGNMENTつまみ(X,Y)を一つずつ回し、像の動きを止める又は最小の動きになるように合わせる。アパーチャダイアログを閉じ、オートフォーカスで、ピントを合わせる。その後、倍率を50000(50k)倍に設定し、上記と同様にフォーカスつまみ、STIGMA/ALIGNMENTつまみを使用して焦点調整を行い、再度オートフォーカスでピントを合わせる。この操作を再度繰り返し、ピントを合わせる。ここで、観察面の傾斜角度が大きいと被覆率の測定精度が低くなりやすいので、ピント調整の際に観察面全体のピントが同時に合うものを選ぶことで、表面の傾斜が極力無いものを選択して解析する。
【0121】
(4)画像保存
ABCモードで明るさ合わせを行い、サイズ640×480ピクセルで写真撮影して保存する。この画像ファイルを用いて下記の解析を行う。トナー一つに対して写真を1枚撮影し、少なくともトナー100粒子以上について画像を得る。
【0122】
観察した画像を、画像解析ソフトウェアであるImage J(https://imagej.nih.gov/ij/より入手可能)を用いて二値化する。二値化した後、[Analyze]―[Analyze Particles]より、EDS分析に基づき有機ケイ素重合体粒子のみを抽出し、トナー粒子上における、有機ケイ素重合体粒子の被覆率(単位:面積%)を求める。
上記測定を二値化した画像100枚について行い、有機ケイ素重合体粒子の被覆率(単位:面積%)の平均値を有機ケイ素重合体粒子の被覆率[d]とする。基板上の有機ケイ素重合体粒子の面積率[c]および有機ケイ素重合体粒子の被覆率[d]から下記式(II)を用いて、有機ケイ素重合体粒子の固着指数を算出する。
固着指数=ポリカーボネート膜に移行した有機ケイ素重合体粒子の面積率[c]/トナー粒子表面における有機ケイ素重合体粒子の被覆率[d]×100 ・・・(II)
【0123】
<有機ケイ素重合体粒子の分散度評価指数の測定方法>
トナー表面における有機ケイ素重合体粒子の分散度評価指数の算出は、走査型電子顕微鏡「S-4800」を用いて行う。1万倍に拡大した視野で、有機ケイ素重合体粒子が外添されたトナーを、同一視野で加速電圧1.0kVで観察する。観察した画像から、画像処理ソフト「Image-Pro Plus5.1J」(MediaCybernetics社製)を使用し、以下のように算出する。
有機ケイ素重合体粒子のみが抽出されるように2値化し、有機ケイ素重合体粒子の個数n、全有機ケイ素重合体粒子に対し重心座標を算出し、各有機ケイ素重合体粒子に対する最近接の有機ケイ素重合体粒子との距離dn minを算出する。画像内の有機ケイ素重合体粒子間の最近接距離の平均値をdaveとすると、分散度は下記式で示される。
ランダムに観察した50個のトナーについて上記の手順にて分散度を求め、その平均値
を分散度評価指数とする。分散度評価指数の小さい方が、分散性が良いことを示す。
トナー中に、有機ケイ素重合体粒子以外の微粒子が含まれる場合、有機ケイ素重合体粒子は前述したEDS分析により区別できる。
【0124】
【0125】
<重合体A中の各モノマーユニットの含有割合の測定方法>
重合体A中の各モノマーユニットの含有割合の測定は、1H-NMRにより以下の条件にて行う。
測定装置 :FT NMR装置 JNM-EX400(日本電子社製)
測定周波数:400MHz
パルス条件:5.0μs
周波数範囲:10500Hz
積算回数 :64回
測定温度 :30℃
試料 :測定試料50mgを内径5mmのサンプルチューブに入れ、溶媒として重クロロホルム(CDCl3)を添加し、これを40℃の恒温槽内で溶解させて調製する。
得られた1H-NMRチャートより、第一のモノマーユニットの構成要素に帰属されるピークの中から、他に由来するモノマーユニットの構成要素に帰属されるピークとは独立したピークを選択し、このピークの積分値S1を算出する。
同様に、第二のモノマーユニットの構成要素に帰属されるピークの中から、他に由来するモノマーユニットの構成要素に帰属されるピークとは独立したピークを選択し、このピークの積分値S2を算出する。
さらに、重合体Aが第三のモノマーユニットを有する場合は、第三のモノマーユニットの構成要素に帰属されるピークから、他に由来するモノマーユニットの構成要素に帰属されるピークとは独立したピークを選択し、このピークの積分値S3を算出する。
第一のモノマーユニットの含有割合は、上記積分値S1、S2、及びS3を用いて、以下のようにして求める。なお、n1、n2、n3はそれぞれの部位について着眼したピークが帰属される構成要素における水素の数である。
第一のモノマーユニットの含有割合(モル%)=
{(S1/n1)/((S1/n1)+(S2/n2)+(S3/n3))}×100
同様に、第二のモノマーユニット、及び第三のモノマーユニットの含有割合は以下のように求める。
第二のモノマーユニットの含有割合(モル%)=
{(S2/n2)/((S1/n1)+(S2/n2)+(S3/n3))}×100
第三のモノマーユニットの含有割合(モル%)=
{(S3/n3)/((S1/n1)+(S2/n2)+(S3/n3))}×100
なお、重合体Aにおいて、ビニル基以外の構成要素に水素原子が含まれない重合性単量体が使用されている場合は、13C-NMRを用いて測定原子核を13Cとし、シングルパルスモードにて測定を行い、1H-NMRにて同様にして算出する。
また、トナーが懸濁重合法によって製造される場合、離型剤やその他の樹脂のピークが重なり、独立したピークが観測されないことがある。それにより、重合体A中の各種重合性単量体に由来するモノマーユニットの含有割合が算出できない場合が生じる。その場合、離型剤やその他の樹脂を使用しないで同様の懸濁重合を行うことで、重合体A’を製造し、重合体A’を重合体Aとみなして分析することができる。
【0126】
<SP値の算出方法>
SP11及びSP21は、Fedorsによって提案された算出方法に従い、以下のようにして求める。
それぞれの重合性単量体について、分子構造中の原子又は原子団に対して、「Polym.Eng.Sci.,14(2),147-154(1974)」に記載の表から蒸発エネルギー(Δei)(cal/mol)及びモル体積(Δvi)(cm3/mol)を求め、(4.184×ΣΔei/ΣΔvi)0.5をSP値(J/cm3)0.5とする。
なお、SP11、SP21は、該重合性単量体の二重結合が重合によって開裂した状態の分子構造の原子又は原子団に対して、上記と同様の算出方法によって算出する。
【0127】
<トナーの重量平均粒径(D4)の測定>
トナーの重量平均粒径(D4)は、以下のようにして算出する。測定装置としては、100μmのアパーチャーチューブを備えた細孔電気抵抗法による精密粒度分布測定装置「コールター・カウンター Multisizer 3」(登録商標、ベックマン・コールター(株)製)を用いる。測定条件の設定及び測定データの解析は、付属の専用ソフト「ベックマン・コールター Multisizer 3 Version3.51」(ベックマン・コールター(株)製)を用いる。なお、測定は実効測定チャンネル数2万5千チャンネルで行う。
測定に使用する電解水溶液は、特級塩化ナトリウムをイオン交換水に溶解して濃度が1.0%となるようにしたもの、例えば、「ISOTON II」(ベックマン・コールター(株)製)が使用できる。
なお、測定、解析を行う前に、以下のように専用ソフトの設定を行う。
専用ソフトの「標準測定方法(SOMME)を変更」画面において、コントロールモードの総カウント数を50000粒子に設定し、測定回数を1回、Kd値は「標準粒子10.0μm」(ベックマン・コールター(株)製)を用いて得られた値を設定する。「閾値/ノイズレベルの測定ボタン」を押すことで、閾値とノイズレベルを自動設定する。また、カレントを1600μAに、ゲインを2に、電解液をISOTON IIに設定し、「測定後のアパーチャーチューブのフラッシュ」にチェックを入れる。
専用ソフトの「パルスから粒径への変換設定」画面において、ビン間隔を対数粒径に、粒径ビンを256粒径ビンに、粒径範囲を2μmから60μmまでに設定する。
【0128】
具体的な測定法は以下のとおりである。
(1)Multisizer 3専用のガラス製250mL丸底ビーカーに電解水溶液200.0mLを入れ、サンプルスタンドにセットし、スターラーロッドの撹拌を反時計回りで24回転/秒にて行う。そして、専用ソフトの「アパーチャーチューブのフラッシュ」機能により、アパーチャーチューブ内の汚れと気泡を除去しておく。
(2)ガラス製の100mL平底ビーカーに電解水溶液30.0mLを入れる。この中に分散剤として「コンタミノンN」(非イオン界面活性剤、陰イオン界面活性剤、有機ビルダーからなるpH7の精密測定器洗浄用中性洗剤の10%水溶液、和光純薬工業(株)製)をイオン交換水で3質量倍に希釈した希釈液を0.3mL加える。
(3)発振周波数50kHzの発振器2個を、位相を180度ずらした状態で内蔵し、電気的出力120Wの超音波分散器「Ultrasonic Dispersion System Tetra150」(日科機バイオス(株)製)を準備する。超音波分散器の水槽内に3.3Lのイオン交換水を入れ、この水槽中にコンタミノンNを2.0mL添加する。
(4)上記(2)のビーカーを上記超音波分散器のビーカー固定穴にセットし、超音波分散器を作動させる。そして、ビーカー内の電解水溶液の液面の共振状態が最大となるようにビーカーの高さ位置を調整する。
(5)上記(4)のビーカー内の電解水溶液に超音波を照射した状態で、トナー10mg
を少量ずつ上記電解水溶液に添加し、分散させる。そして、さらに60秒間超音波分散処理を継続する。なお、超音波分散にあたっては、水槽の水温が10℃以上40℃以下となる様に適宜調節する。
(6)サンプルスタンド内に設置した上記(1)の丸底ビーカーに、ピペットを用いてトナー粒子を分散した上記(5)の電解水溶液を滴下し、測定濃度が5%となるように調整する。そして、測定粒子数が50000個になるまで測定を行う。
(7)測定データを装置付属の専用ソフトにて解析を行い、重量平均粒径(D4)を算出する。なお、専用ソフトでグラフ/体積%と設定したときの、「分析/体積統計値(算術平均)」画面の「平均径」が重量平均粒径(D4)である。
【実施例】
【0129】
以下に実施例及び比較例を挙げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明は何らこれに制約されるものではない。なお、実施例及び比較例の部数及び%は特に断りが無い場合、すべて質量基準である。
【0130】
<有機ケイ素重合体粒子1の製造例>
(第1工程)
温度計、攪拌機を備えた反応容器に、水:360部を入れ、濃度5.0質量%の塩酸:15部を添加して均一溶液とした。これを温度25℃で撹拌しながらメチルトリメトキシシラン136部を添加し、5時間撹拌した後、濾過してシラノール化合物またはその部分縮合物を含む透明な反応液を得た。
(第2工程)
温度計、攪拌機、滴下装置を備えた反応容器に、水:440部を入れ、濃度10.0質量%のアンモニア水:17部を添加して均一溶液とした。これを温度35℃で撹拌しながら第一工程で得られた反応液100部を0.5時間かけて滴下し、6時間撹拌し、微粒子分散液を得た。
(第3工程)
得られた微粒子分散液に、疎水化処理剤としてヘキサメチルジシラザン7部を添加して、25℃で48時間攪拌すると液の上層部に疎水化球状微粒子の粉体が浮遊する、粉体浮遊液が得られた。5分静置して浮かび上がった粉体を吸引濾過で回収し、100℃で24時間減圧乾燥して白色の有機ケイ素重合体粒子1の乾燥粉末を得た。
得られた有機ケイ素重合体粒子1の物性を表2に示す。
【0131】
<有機ケイ素重合体粒子2~11の製造例>
シラン化合物、反応開始温度、触媒添加量、滴下時間、乾燥時間、疎水化処理の量などの条件を表1に記載のように変更した以外は、有機ケイ素重合体粒子1の製造例と同様にして、有機ケイ素重合体粒子2~11を得た。物性を表2に示す。
【0132】
【表1】
表中の略称は以下の通り。
HMDS:ヘキサメチルジシラザン
【0133】
<その他の添加剤>
有機ケイ素重合体粒子1~11以外に使用する添加剤を以下の通り準備した。
樹脂微粒子1として、一次粒子の個数平均粒径150μm、メタノール濡れ性55体積%のスチレン-2-エチルヘキシルアクリレート-メチルメタクリレート-メタクリル酸共重合体を使用した。
また、大粒径シリカ1として、一次粒子の個数平均粒径110nmであり、HMDS(ヘキサメチルジシラザン)で表面処理された、ゾルゲルシリカ粒子を使用した。(メタノール濡れ性80体積%)
【0134】
【表2】
T3単位構造の比率は、「有機ケイ素重合体粒子に含有される全ケイ素元素に由来する
ピークの合計面積に対する、T3単位構造を構成するケイ素に由来するピークの面積の割合」を示す。
【0135】
<重合体A1の製造例>
還流冷却管、撹拌機、温度計、窒素導入管を備えた反応容器に、窒素雰囲気下、下記材料を投入した。
・溶媒 トルエン 100.0部・単量体組成物 100.0部(単量体組成物は以下のアクリル酸ベヘニル(モノマーユニットSP値:18.25、単量体SP値:17.69)・メタクリロニトリル(モノマーユニットSP値:25.96、単量体SP値:21.97)・スチレン(モノマーユニットSP値:20.11、単量体SP値:17.94)を以下に示す割合で混合したものとする)
(アクリル酸ベヘニル(炭素数22) 67.0部(28.9モル%))
(メタクリロニトリル 22.0部(53.8モル%))
(スチレン 11.0部(17.3モル%))
・重合開始剤 t-ブチルパーオキシピバレート(日油社製:パーブチルPV)0.5部
上記反応容器内を200rpmで撹拌しながら、70℃に加熱して12時間重合反応を行い、単量体組成物の重合体がトルエンに溶解した溶解液を得た。続いて、上記溶解液を25℃まで降温した後、1000.0部のメタノール中に上記溶解液を撹拌しながら投入し、メタノール不溶分を沈殿させた。得られたメタノール不溶分をろ別し、更にメタノールで洗浄後、40℃で24時間真空乾燥して重合体A1を得た。
上記重合体A1をNMRで分析したところ、アクリル酸ベヘニル由来のモノマーユニットが28.9モル%、メタクリロニトリル由来のモノマーユニットが53.8モル%、スチレン由来のモノマーユニットが17.3モル%含まれていた。
【0136】
<重合体A2~A8の製造例>
重合体A1の製造例からモノマー処方を表3のように変更し、重合体A2~A8を得た。これらをNMRで分析したところ、添加したモル比と同様の、各モノマーユニットが含まれていた。
【0137】
【0138】
<非晶性ポリエステル樹脂1の製造例>
冷却管、攪拌機、及び窒素導入管のついた反応槽中に、以下の材料を秤量した。
テレフタル酸 22.5部
無水トリメリット酸 2.7部
ポリオキシプロピレン(2.2)-2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン 74.8部
チタニウムジヒドロキシビス(トリエタノールアミネート) 0.3部
その後、200℃に加熱し、窒素を導入しつつ生成する水を除去しながら8時間反応さ
せた。その後、無水トリメリット酸3.0部を加え、180℃に加熱し、2.5時間反応させ非晶性ポリエステル樹脂1を合成した。
【0139】
<トナー粒子1の製造例>
<粉砕法によるトナー粒子の製造例>
・重合体A1 30.0部
・非晶性ポリエステル樹脂1 70.0部
・着色剤 ピグメントブルー15:3 6.5部
・ワックス パラフィンワックス 20.0部
(日本精蝋社製:HNP-51 融点Tm:74℃)
上記材料をヘンシェルミキサー(日本コークス社製)で前混合した後、二軸混練押し出し機(池貝鉄工社製:PCM-30型)によって、溶融混練した。
得られた混練物を冷却し、ハンマーミルで粗粉砕した後、機械式粉砕機(ターボ工業社製:T-250)で粉砕し、得られた微粉砕粉末を、コアンダ効果を利用した多分割分級機を用いて分級し、重量平均粒径(D4)7.0μmのトナー粒子1を得た。
【0140】
<トナー粒子2~11及び14の製造例>
トナー粒子1の製造において、表4に示すように非晶性ポリエステル樹脂1の量、重合体Aの種類及び量を変更したこと以外は、トナー粒子1の製造例と同様にして、トナー粒子2~11及び14を得た。
得られたトナー粒子の物性を表4に示す。
【0141】
<トナー粒子12の製造例>
・単量体組成物 100.0部
(単量体組成物は、以下のモノマーを含む)
(アクリル酸ヘキサデシル 22.2部)
(メタクリロニトリル 9.4部)
(スチレン 68.4部)
・着色剤 ピグメントブルー15:3 6.5部
・非晶性ポリエステル樹脂1 1.0部
・ワックス パラフィンワックス 20.0部
(日本精蝋社製:HNP-51 融点Tm:74℃)
・トルエン 100.0部
上記材料からなる混合物を調製した。上記混合物をアトライター(日本コークス社製)に投入し、直径5mmのジルコニアビーズを用いて、200rpmで2時間分散することで原材料分散液を得た。
一方、高速撹拌装置ホモミクサー(プライミクス社製)及び温度計を備えた容器に、イオン交換水735.0部とリン酸三ナトリウム(12水和物)16.0部を添加し、12000rpmで撹拌しながら60℃に昇温した。そこに、イオン交換水65.0部に塩化カルシウム(2水和物)9.0部を溶解した塩化カルシウム水溶液を投入し、60℃を保持しながら12000rpmで30分間撹拌した。そこに、10%塩酸を加えてpHを6.0に調整し、ヒドロキシアパタイトを含む無機分散安定剤が水中に分散した水系媒体を得た。
続いて、上記原材料分散液を撹拌装置及び温度計を備えた容器に移し、100rpmで撹拌しながら60℃に昇温した。そこに、重合開始剤としてt-ブチルパーオキシピバレート(日油社製:パーブチルPV)8.0部を添加して60℃を保持しながら100rpmで5分間撹拌した後、上記高速撹拌装置にて12000rpmで撹拌している水系媒体中に投入した。60℃を保持しながら上記高速撹拌装置にて12000rpmで20分間撹拌を継続し、造粒液を得た。
上記造粒液を還流冷却管、撹拌機、温度計、窒素導入管を備えた反応容器に移し、窒素
雰囲気下において150rpmで撹拌しながら70℃に昇温した。70℃を保持しながら150rpmで10時間重合反応を行った。その後、反応容器から還流冷却管を外し、反応液を95℃に昇温した後、95℃を保持しながら150rpmで5時間撹拌することでトルエンを除去し、トナー粒子分散液を得た。
得られたトナー粒子分散液を150rpmで撹拌しながら20℃まで冷却した後、撹拌を保持したままpHが1.5になるまで希塩酸を加えて分散安定剤を溶解させた。固形分をろ別し、イオン交換水で充分に洗浄した後、40℃で24時間真空乾燥して、単量体組成物の重合体を含むトナー粒子12を得た。物性を表4に示す。
【0142】
<トナー粒子13の製造例>
(コア粒子の製造例)
・非晶性ポリエステル樹脂1 100.0部
・C.I.ピグメントブルー15:3(銅フタロシアニン): 5.0部
・ワックス パラフィンワックス 20.0部
・フィッシャートロプッシュワックス(サゾール社製C105、融点:105℃)
2.0部
上記材料を三井ヘンシェルミキサ(三井三池化工機社製)で前混合した後、2軸押出機(商品名:PCM-30、池貝鉄工所社製)を用いて、吐出口における溶融物温度が140℃になるように、温度を設定し、溶融混練した。
得られた混練物を冷却し、ハンマーミルで粗粉砕した後、粉砕機(商品名:ターボミルT250、ターボ工業社製)を用いて微粉砕した。得られた微粉砕粉末を、コアンダ効果を利用した多分割分級機を用いて分級して、重量平均粒径(D4)7.0μmのコア粒子を得た。
【0143】
(トナー粒子の製造例)
イオン交換水300.0部を入れた反応容器を30℃で維持した後、希塩酸を加えて、水性媒体のpHを4.0に調整した。pH調整後、得られたコア粒子を100.0部投入し、コア粒子のスラリーを作製した。
一方、重合体A8を分散剤(界面活性剤)であるネオゲンRK(第一工業製薬社製)3.0部をイオン交換水50部に溶解した水溶液に、添加して、分散させ、固形分濃度50質量%のシェル用の重合体A8の粒子分散液を調製した。
続いて、コア粒子:100部に対してシェル用の重合体A8を1.0部添加するために、固形分濃度50質量%のシェル用の重合体A8の粒子分散液を2.0部添加して、75℃に昇温させて2時間保持することでコア粒子の表面にシェル層を形成させた。
室温まで冷却後、濾過、水洗、乾燥して重量平均粒径(D4)7.0μmのコアシェル構造を有するトナー粒子13を得た。物性を表4に示す。
【0144】
<トナー粒子15の製造例>
<結晶性ポリエステル樹脂1製造例>
減圧装置、水分離装置、窒素ガス導入装置、温度測定装置、撹拌装置を備えたオートクレープ中に、
・アジピン酸 175部
・エチレングリコール 130部
・シュウ酸チタン酸カリウム 0.40部
上記ポリエステルモノマーを仕込み、窒素雰囲気下、常圧下、200℃で6時間反応を行い、その後更に10~20mmHgの減圧下、220℃で1.5時間反応して結晶性ポリエステル樹脂1を得た。得られた結晶性ポリエステル樹脂1の物性は酸価=1.3mgKOH/g、DSC吸熱ピーク=79.8℃であった。
【0145】
<粉砕法によるトナー粒子15の製造例>
・結晶性ポリエステル樹脂1 20.0部
・非晶性ポリエステル樹脂1 80.0部
・着色剤 ピグメントブルー15:3 6.5部
・ワックス パラフィンワックス 20.0部
(日本精蝋社製:HNP-51 融点Tm:74℃)
上記材料をヘンシェルミキサー(日本コークス社製)で前混合した後、二軸混練押し出し機(池貝鉄工社製:PCM-30型)によって、溶融混練した。
得られた混練物を冷却し、ハンマーミルで粗粉砕した後、機械式粉砕機(ターボ工業社製:T-250)で粉砕し、得られた微粉砕粉末を、コアンダ効果を利用した多分割分級機を用いて分級し、重量平均粒径(D4)7.0μmのトナー粒子15を得た。物性を表4に示す。
【0146】
【0147】
<トナー1の製造例>
<混合処理装置1>
図1に示した混合処理装置1を使用した。本体ケーシング31の内周部の径が130mmであり、処理空間39の容積が2.0×10
-3m
3の装置を用い、駆動部38の定格動力を5.5kWとし、攪拌部材33の形状を
図2のものとした。そして、
図2における攪拌部材33aと攪拌部材33bの重なり幅dを攪拌部材33の最大幅Dに対して0.25Dとし、攪拌部材33と本体ケーシング31内周とのクリアランスを3.0mmとした。ジャケット内に冷熱媒体を流して、温度を調整した。
【0148】
<混合処理装置2>
FMミキサ(FM10C;日本コークス工業(株)製)を使用した。
【0149】
<外添工程1>
トナー粒子1:100部、有機ケイ素重合体粒子1:1.0部を、混合処理装置2を用い、回転数3600rpmで3分間混合した。温度が30℃で安定してから混合を開始し、混合中は30℃±1℃を維持するように調整した。
【0150】
<加温工程>
続いて、上記構成とした混合処理装置1の温度が50℃となるように、ジャケット内に温水を通水した。温度が50℃で安定してから混合を開始し、混合中は50℃±1℃を維持するように調整した。
混合処理装置1に、上記外添トナーを投入後、駆動部38の動力を1.5×10-2W/g(駆動部38の回転数:150rpm)で一定となるように、攪拌部材33の最外端部周速を調整しながら、10分間加温処理した。
【0151】
<外添工程2>
<その他の外添剤の外添工程>
FMミキサ(日本コークス工業株式会社製FM10C型)を使用して、上記加温した外添トナーに疎水性シリカ微粒子を添加した。FMミキサのジャケット内の水温が30℃±1℃で安定した状態で、トナー粒子1:100部に対して、疎水性シリカ微粒子(ヘキサメチルジシラザン処理、BET200m2/g):0.80部を投入した。
回転羽根の周速3600rpmで混合を開始し、槽内温度が30℃±1℃で安定するように、ジャケット内の水温と流量を制御しながら3分間混合した後、目開き75μmのメッシュで篩い、トナー1を得た。
トナー1の作製に使用したトナー粒子、外添混合条件を表5に示す。物性を表6に示す。
【0152】
<トナー2~26及び28~33の製造例>
トナー1の製造において、表5に示すトナー粒子、外添剤粒子、混合処理装置、外添条件にすること以外は、トナー1の製造と同様にして、トナー2~26及び28~33を得た。物性は表6に示す。
【0153】
<トナー27の製造例>
トナー粒子14:100部、及び有機ケイ素重合体粒子1:1.0部を、混合処理装置2を用い、回転数3600rpmで3分間混合した。次いで、これらを衝撃式の処理製蓋「ハイブリダイゼーションシステムNHS-1(奈良機械製作所社製)に移して、回転数6000rpmで5分間衝撃を付与した。次に、上述したトナーに疎水性シリカ微粒子(ヘキサメチルジシラザン処理、BET200m2/g):0.80部を加え、混合処理装置2を用い、回転数3600rpmで3分間混合することでトナー27を得た。トナー27の分析結果を表6に示す。
【0154】
【0155】
【0156】
<実施例1>
<画像形成装置>
下記評価方法に従って、トナー1を評価した。評価結果を表7に示す。
市販のカラーレーザープリンターSatera LBP7700C(キヤノン(株)社製)用のカートリッジから中に入っているトナーを抜き取り、エアーブローにて内部を清掃した後、評価するトナー(200g)を充填した。上記カートリッジをプリンターに装着し、トナーの帯電性が高くなりやすく、帯電分布の悪化が顕著になりやすい環境である低温低湿環境(温度15.0℃、湿度10.0RH%)で評価を実施した。
長期耐久試験を想定して、印字率1%となる横線パターンを15000枚印字する耐久試験を行ったのち、転写性、ベタ画像の追従性、ゴースト、静電オフセットについて評価した。
なお、転写材は、A4サイズのGF-C081(キヤノン社製、81.4g/m2)を用いた。
【0157】
<低温低湿環境における初期と長期印字後の転写性>
前記カラーレーザープリンターの定着機を外して未定着画像を出力できるように変更し、コントローラーにより画像濃度を調節可能にした。さらに、一色のカートリッジだけの装着でも作動するよう改造した。
転写性評価は、感光体上のトナー載り量が0.50mg/cm2になるように調整した条件でベタ画像を出力し、ベタ画像形成時の感光体上の転写残トナーを、マイラーテープによりテーピングして剥ぎ取った。剥ぎ取ったテープを紙上に貼ったものの反射率T1から、テープのみを紙上に貼ったものの反射率T0を差し引いた反射率差をそれぞれ算出した。その反射率差の値から、以下のようにして判定した。
なお、評価は初期と、上記15000枚印字後に行った。反射率はREFLECTMETER MODEL TC-6DS(東京電色社製)を使用して測定した。
A:反射率差が2.0%以下
B:反射率差が2.0%を超え4.0%以下
C:反射率差が4.0%を超え6.0%以下
D:反射率差が6.0%を超え10.0%以下
E:反射率差が10.0%を超える
【0158】
<低温低湿環境における長期印字後のゴースト評価>
上記転写評価で用いた長期印字後のカートッリッジを用いて低温低湿環境において評価した。ゴースト評価用のサンプル画像として、15mm四方のベタ画像が画像の最上流部左端から右端まで15mm間隔で配置され、その下流部に10mm幅の間隔を開けて全面ハーフトーン画像が配置された画像を1枚出力した。
このゴースト評価用のサンプル画像の出力においては、トナー担持ローラが一周回転することで上流側のベタ画像を転写した部分が、下流側のハーフトーン画像を転写する部分として利用される。得られたサンプル画像よりゴーストの評価を行った。
画像上で、ベタ画像部よりトナー担持ローラ一周分下流側に位置する部分の画像濃度と、周辺部分の画像濃度との差を算出し、評価した。なお、周辺部分とは、ハーフトーン画像部分のうち、ベタ画像部よりトナー担持ローラ一周分下流側に位置する部分以外の部分である。反射濃度計であるマクベス濃度計(マクベス社製)でSPIフィルターを使用して、画像濃度として反射濃度を測定した。
A:画像濃度差が0.05以下
B:画像濃度差が0.05を超え0.10以下
C:画像濃度差が0.10を超え0.20以下
D:画像濃度差が0.20を超え0.25以下
E:画像濃度差が0.25を超える
【0159】
<低温低湿環境における長期印字後の静電オフセットの評価>
上記転写評価で用いた長期印字後のカートッリッジを用いて低温低湿環境において評価した。画像の前半半分がベタ黒画像、後半半分が白地の静電オフセット試験用チャートを用いて連続100枚の画出しを行い、100枚目の画像に対し、目視にて静電オフセットの評価をした。なお、静電オフセットの評価基準は以下のように定める。
A:全く見られない
B:白地部にかすかに見られる
C:白地部に見られる
D:白地部に明らかに見られる
E:画像全域で見られる
【0160】
<低温低湿環境における長期印字後のベタ画像追従性>
上記転写評価で用いた長期印字後のカートッリッジを用いて低温低湿環境において評価した。全ベタ画像1枚目先端部の画像濃度と全ベタ画像3枚目後端部の画像濃度との差で評価した。反射濃度計であるマクベス濃度計(マクベス社製)でSPIフィルターを使用して、画像濃度として反射濃度を測定した。
A:画像濃度差が0.10以下
B:画像濃度差が0.10を超え0.20以下
C:画像濃度差が0.20を超え0.30以下
D:画像濃度差が0.30を超え0.40以下
E:画像濃度差が0.40を超える
【0161】
<高温高湿環境における長期印字後の転写性>
上記低温低湿環境における転写性の評価と同様に市販のカラーレーザープリンターSatera LBP7700C(キヤノン(株)社製)を用いて評価した。カートリッジと
しては中に入っているトナーを抜き取り、エアーブローにて内部を清掃した後、評価するトナー(200g)を充填した。
上記カートリッジをプリンターに装着し、高温高湿環境(温度30.0℃、湿度80.0RH%)で実施した。
長期耐久試験を想定して、印字率1%となる横線パターンを15000枚印字し耐久試験を行ったのち、転写性について評価した。
転写性評価は、感光体上のトナー載り量が0.50mg/cm2になるように調整した条件でベタ画像を出力し、ベタ画像形成時の感光体上の転写残トナーを、マイラーテープによりテーピングして剥ぎ取った。剥ぎ取ったテープを紙上に貼ったものの反射率T1から、テープのみを紙上に貼ったものの反射率T0を差し引いた反射率差をそれぞれ算出した。その反射率差の値から、以下のようにして判定した。なお、反射率はREFLECTMETER MODEL TC-6DS(東京電色社製)を使用して測定した。
A:反射率差が2.0%以下
B:反射率差が2.0%を超え4.0%以下
C:反射率差が4.0%を超え6.0%以下
D:反射率差が6.0%を超え10.0%以下
E:反射率差が10.0%を超える
【0162】
<実施例2~26、及び、比較例1~7>
トナー2~33を用い、実施例1と同様の評価を実施した。評価結果を表7に示す。尚、実施例2~4及び8~26は参考例として評価した。
【0163】
【符号の説明】
【0164】
1:混合処理装置、31:本体ケーシング、32:回転体、33、33a、33b:攪拌部材、34:ジャケット、35:原料投入口、36:製品排出口、37:中心軸、38:駆動部、39:処理空間、310:回転体端部側面、41:回転方向、42:戻り方向、43:送り方向、316:原料投入口用インナーピース、317:製品排出口用インナーピース、d:攪拌部材の重なり部分を示す間隔、D:攪拌部材の幅