(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-07
(45)【発行日】2024-05-15
(54)【発明の名称】トナーの製造方法およびトナー製造用機械式粉砕機
(51)【国際特許分類】
G03G 9/08 20060101AFI20240508BHJP
B02C 13/10 20060101ALI20240508BHJP
【FI】
G03G9/08 381
B02C13/10
(21)【出願番号】P 2020047347
(22)【出願日】2020-03-18
【審査請求日】2023-03-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 裕樹
(72)【発明者】
【氏名】岩崎 陽介
(72)【発明者】
【氏名】山下 大輔
(72)【発明者】
【氏名】土川 黎
(72)【発明者】
【氏名】岡村 竜次
(72)【発明者】
【氏名】三浦 正治
(72)【発明者】
【氏名】大浦 智也
(72)【発明者】
【氏名】小林 昌弘
(72)【発明者】
【氏名】溝尾 祐一
【審査官】高草木 綾音
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-255704(JP,A)
【文献】特開2003-173046(JP,A)
【文献】特開2005-021768(JP,A)
【文献】特開2007-167757(JP,A)
【文献】特開昭63-104659(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03G 9/00-9/16
B02C 13/00-13/31
B02C 18/00-18/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
結着樹脂を含有するトナー原料を溶融混練して溶融混練物を得る溶融混練工程、
該溶融混練物を冷却して冷却物を得る冷却工程、及び
該冷却物を被粉砕物として、該被粉砕物を粉砕手段によって粉砕する粉砕工程
を有するトナーの製造方法であって、
該粉砕手段は、
該被粉砕物を該粉砕手段内に投入するための投入口、該投入口に連通した渦巻室、及び粉砕された該被粉砕物を該粉砕手段から排出するための排出口を有するケーシング内に、
中心回転軸に支持され、外周面に複数の凸部及び凹部を有する回転子と、
該回転子の外側に、該回転子の該外周面と所定の間隙を設けて配置され、その内周面に複数の凸部及び凹部を有する固定子と、
を備え、
該粉砕手段は、該固定子の該内周面と該回転子の該外周面とが形成する隙間に該被粉砕物を通過させて粉砕し、
該渦巻室は、該中心回転軸の外周を囲むように形成されており、
該渦巻室は、該回転子の軸方向上流側端面と対向した開口部を有し、
該渦巻室が、該渦巻室で旋回する該被粉砕物の少なくとも一部が衝突し、衝突した該被粉砕物を該開口部から該回転子側に送る規制部を有
し、
該渦巻室内の該中心回転軸を中心とする環状空間において、該環状空間の外周の壁に該規制部を有する、
ことを特徴とする、トナーの製造方法。
【請求項2】
前記粉砕工程が、
前記冷却物を粉砕して第一の粉砕品を得る第一の粉砕工程、及び
該第一の粉砕
品をさらに粉砕する第二の粉砕工程
を有し、
前記粉砕手段が、少なくとも第二の粉砕工程で用いられる、請求項1に記載のトナーの製造方法。
【請求項3】
前記渦巻室内の前記中心回転軸を中心とする環状空間の外周を1としたとき、前記渦巻室は、該環状空間において、前記被粉砕物の流れの下流側の2/3の範囲に前記規制部を
有する、請求項1または2に記載のトナーの製造方法。
【請求項4】
前記規制部は、前記回転子の軸方向上流側端面に対向し、かつ、前記被粉砕物が衝突する規制面を有し、
前記被粉砕物の流れの下流側端部において、前記中心回転軸の軸線と、該規制面と、が、前記被粉砕物の流れの軸方向下流側になす角が、5°以上75°以下である、請求項1~3のいずれか1項に記載のトナーの製造方法。
【請求項5】
前記規制部は、前記回転子の軸方向上流側端面に対向し、かつ、前記被粉砕物が衝突する規制面を有し、
該規制面の軸方向上流側端部が、前記開口部と対向する前記渦巻室の面Aに接しており、
該面Aから該面Aと対向する前記回転子の軸方向上流側端面までの距離を1としたとき、
該軸方向上流側端部から前記中心回転軸の軸線方向に対して平行に延ばした線分と、該規制面の軸方向下流側端部から前記軸線方向に延ばした垂線と、の交点から該面Aまでの距離Lが、該面Aから該面Aと対向する前記回転子の軸方向上流側端面までの距離の1/4以上3/4以下である、請求項1~4のいずれか1項に記載のトナーの製造方法。
【請求項6】
前記規制部の径方向の長さが、前記渦巻室の径方向の長さに対し、1/4以上3/4以下である、請求項1~5のいずれか1項に記載のトナーの製造方法。
【請求項7】
前記渦巻室が、前記規制部を1~3個有する、請求項1~6のいずれか1項に記載のトナーの製造方法。
【請求項8】
トナー製造用機械式粉砕機であって、
該粉砕機は、
被粉砕物を該粉砕機内に投入するための投入口、該投入口に連通した渦巻室、及び粉砕された該被粉砕物を該粉砕機から排出するための排出口を有するケーシング内に、
中心回転軸に支持され、外周面に複数の凸部及び凹部を有する回転子と、
該回転子の外側に、該回転子の該外周面と所定の間隙を設けて配置され、その内周面に複数の凸部及び凹部を有する固定子と、
を備え、
該粉砕機は、該固定子の該内周面と該回転子の該外周面とが形成する隙間に該被粉砕物を通過させて粉砕し、
該渦巻室は、該中心回転軸の外周を囲むように形成されており、
該渦巻室は、該回転子の軸方向上流側端面と対向した開口部を有し、
該渦巻室が、該渦巻室で旋回する該被粉砕物の少なくとも一部が衝突し、衝突した該被粉砕物を該開口部から該回転子側に送る規制部を有
し、
該渦巻室内の該中心回転軸を中心とする環状空間において、該環状空間の外周の壁に該規制部を有する、
ことを特徴とする、トナー製造用機械式粉砕機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、電子写真、静電荷像を顕像化するための画像形成方法及びトナージェットに使用されるトナーの製造方法及びトナー製造用機械式粉砕機に関する。
【背景技術】
【0002】
電子写真、静電荷像を顕像化するための画像形成方法では、静電荷像を現像するためのトナーが使用される。トナーの製造法としては粉砕法および重合法に大別され、簡便な製造方法としては粉砕法が挙げられる。粉砕法によるトナーの一般的な製造方法としては、以下のようなものが挙げられる。
結着樹脂及び必要に応じて着色剤、荷電制御剤、離型剤、流動性付与剤、磁性材料を加えて混合し、溶融混練し、冷却固化した後、混練物を粉砕手段により微細化する。その後、必要に応じて所望の粒度分布に分級する工程や流動化剤などを添加する工程を経て、画像形成に供するトナーとする。
また、二成分現像方法に用いるトナーの場合には、各種磁性キャリアと上記トナーを混合した後、画像形成に供する。
【0003】
粉砕手段としては各種粉砕装置が用いられるが、特に近年、CO
2排出量削減への対応から、粉砕装置の省エネルギー化が求められており、電力消費の少ない
図1のような機械式粉砕機が用いられることが多い。
図1の機械式粉砕機では、高速回転する回転子103と、回転子の周囲に配置されている固定子104との間に形成された間隙(以下、該間隙を「粉砕ゾーン」ともいう。)に粉体原料を導入することにより被粉砕物を粉砕する。
【0004】
近年、高画質化の観点でトナーの小粒径化が求められている。
より小粒径のトナーの製造のため、固定子の溝の形状を工夫した機械式粉砕機が開示されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
トナーの小粒径化のためには、
図1の機械式粉砕機では、回転子を高速回転させることや、回転子と固定子の間隔を狭めることが有効である。しかしながら、回転子を高速回転させた場合、粉砕時の摩擦熱等によって被粉砕物の温度や粉砕ゾーン内の空気などの温度が上昇し、粉砕機内にトナーが融着する不具合(機内融着)が発生しやすくなる。また、回転子と固定子の間隔を狭めた場合も機内融着が発生しやすくなる。
ここで、特許文献1に記載の機械式粉砕機は、固定子の溝の形状を工夫することにより、より小粒径のトナーを製造することができる。
しかしながら、特許文献1に記載の機械式粉砕機は、トナーのさらなる小粒径化の観点、及び機内融着の抑制という観点から、改善の余地があることがわかった。
【0007】
本開示は上述した課題を解決するものである。すなわち、本開示は、トナーのさらなる小粒径化と、機内融着の抑制を実現するトナーの製造方法及びトナー製造用機械式粉砕機を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示のトナーの製造方法は、
結着樹脂を含有するトナー原料を溶融混練して溶融混練物を得る溶融混練工程、
該溶融混練物を冷却して冷却物を得る冷却工程、及び
該冷却物を被粉砕物として、該被粉砕物を粉砕手段によって粉砕する粉砕工程
を有するトナーの製造方法であって、
該粉砕手段は、
該被粉砕物を該粉砕手段内に投入するための投入口、該投入口に連通した渦巻室、及び粉砕された該被粉砕物を該粉砕手段から排出するための排出口を有するケーシング内に、
中心回転軸に支持され、外周面に複数の凸部及び凹部を有する回転子と、
該回転子の外側に、該回転子の該外周面と所定の間隙を設けて配置され、その内周面に複数の凸部及び凹部を有する固定子と、
を備え、
該粉砕手段は、該固定子の該内周面と該回転子の該外周面とが形成する隙間に該被粉砕物を通過させて粉砕し、
該渦巻室は、該中心回転軸の外周を囲むように形成されており、
該渦巻室は、該回転子の軸方向上流側端面と対向した開口部を有し、
該渦巻室が、該渦巻室で旋回する該被粉砕物の少なくとも一部が衝突し、衝突した該被粉砕物を該開口部から該回転子側に送る規制部を有する、
ことを特徴とする。
【0009】
また、本開示のトナー製造用機械式粉砕機は、
被粉砕物を該粉砕機内に投入するための投入口、該投入口に連通した渦巻室、及び粉砕された該被粉砕物を該粉砕機から排出するための排出口を有するケーシング内に、
中心回転軸に支持され、外周面に複数の凸部及び凹部を有する回転子と、
該回転子の外側に、該回転子の該外周面と所定の間隙を設けて配置され、その内周面に複数の凸部及び凹部を有する固定子と、
を備え、
該粉砕機は、該固定子の該内周面と該回転子の該外周面とが形成する隙間に該被粉砕物を通過させて粉砕し、
該渦巻室は、該中心回転軸の外周を囲むように形成されており、
該渦巻室は、該回転子の軸方向上流側端面と対向した開口部を有し、
該渦巻室が、該渦巻室で旋回する該被粉砕物の少なくとも一部が衝突し、衝突した該被粉砕物を該開口部から該回転子側に送る規制部を有する、
ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本開示によれば、トナーのさらなる小粒径化と、機内融着の抑制を実現するトナーの製造方法及びトナー製造用機械式粉砕機を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図4】渦巻室内の中心回転軸を中心とする環状空間における被粉砕物の流れの下流側の2/3の範囲を示す図
【
図6】渦巻室の径方向の長さに対する規制部の径方向の長さの一例
【発明を実施するための形態】
【0012】
本開示において、数値範囲を表す「XX以上YY以下」や「XX~YY」の記載は、特に断りのない限り、端点である下限及び上限を含む数値範囲を意味する。
数値範囲が段階的に記載されている場合、各数値範囲の上限及び下限は任意に組み合わせることができる。
【0013】
本開示のトナーの製造方法は、
結着樹脂を含有するトナー原料を溶融混練して溶融混練物を得る溶融混練工程、
該溶融混練物を冷却して冷却物を得る冷却工程、及び
該冷却物を被粉砕物として、該被粉砕物を粉砕手段によって粉砕する粉砕工程
を有するトナーの製造方法であって、
該粉砕手段は、
該被粉砕物を該粉砕手段内に投入するための投入口、該投入口に連通した渦巻室、及び粉砕された該被粉砕物を該粉砕手段から排出するための排出口を有するケーシング内に、
中心回転軸に支持され、外周面に複数の凸部及び凹部を有する回転子と、
該回転子の外側に、該回転子の該外周面と所定の間隙を設けて配置され、その内周面に複数の凸部及び凹部を有する固定子と、
を備え、
該粉砕手段は、該固定子の該内周面と該回転子の該外周面とが形成する隙間に該被粉砕物を通過させて粉砕し、
該渦巻室は、該中心回転軸の外周を囲むように形成されており、
該渦巻室は、該回転子の軸方向上流側端面と対向した開口部を有し、
該渦巻室が、該渦巻室で旋回する該被粉砕物の少なくとも一部が衝突し、衝突した該被粉砕物を該開口部から該回転子側に送る規制部を有する、
ことを特徴とする。
【0014】
本発明者らの検討によれば、上記トナーの製造方法及びトナー製造用機械式粉砕機により、より小粒径のトナーを製造することができる。また、機内融着を抑制することができる。
【0015】
粉砕手段(トナー製造用機械式粉砕機)による粉砕方法の概略を、
図1を用いて説明する。
図1では横型の機械式粉砕機の概略断面図を示しているが、縦型であってもよい。
機械式粉砕機は、被粉砕物を粉砕手段内(機械式粉砕機内)に投入するための投入口101、該投入口に連通した渦巻室1021、及び粉砕された該被粉砕物を該粉砕手段(機械式粉砕機)から排出するための排出口106を有するケーシングを備える。
該ケーシング内には、回転子103と固定子104が備わる。
粉砕手段(機械式粉砕機)は、必要に応じて、冷水供給口109及び冷水排出口110を備えていてもよく、冷却水を通せるジャケットを有していてもよい。また、必要に応じて冷風発生装置108を有していてもよい。
【0016】
本開示のトナーの製造方法により従来にない優れた効果が得られる理由について、本発明者らは以下のように考えている。
投入口101へ所定量の被粉砕物が投入されると、被粉砕物は、該投入口101に連通した渦巻室1021から、開口部1022を通って回転子103側に送られ、回転子103の外周面と固定子104の内周面との間隙である粉砕ゾーン内に導入される。
回転子103は、中心回転軸107に支持され、外周面に複数の凸部及び凹部を有する。固定子104は、回転子103の外側に、回転子103の外周面と所定の間隙を設けて配置され、その内周面に複数の凸部及び凹部を有する。粉砕手段(機械式粉砕機)は、固定子104の内周面と回転子103の外周面とが形成する隙間に被粉砕物を通過させて、
高速回転する回転子と固定子との間に発生する衝撃によって、被粉砕物を粉砕する。
その後、粉砕された被粉砕物は、吸引ブロアー(不図示)により引かれるエアー(空気)の気流に乗って後室105及び排出口106を通り、粉砕手段(機械式粉砕機)から排出される。
【0017】
該渦巻室は、被粉砕物を含む気流を、該回転子の回転方向と同じ方向に回転させながら、回転子側に送り込む構成を有している。
吸引ブロアーによりエアー(空気)が引かれているから、渦巻室と粉砕ゾーンとの間には気圧の差が生じ、渦巻室の一部が、粉砕ゾーンに対して高圧となる。以下、該粉砕ゾーンに対して高圧となる渦巻室の一部を「高圧部」ともいう。
エアーの気流が該渦巻室から該粉砕ゾーンに入るとき、渦巻室の高圧部から入り易いと考えられる。そのため、気流は渦巻室の高圧部から粉砕ゾーンに入り、粉砕ゾーンにおいては回転子の回転方向と同じ方向に回転しながら、後室を経由して排出口に排出される。
すなわち、気流の軌道は、粉砕ゾーン内において、回転子を中心とした螺旋状の軌道になると考えられる。よって、気流は、渦巻室の高圧部から粉砕ゾーンに入り易くなるため、及び、回転子の回転方向と同じ方向に回転しながら流れるため、回転子の外周面と固定子の内周面の全面ではなく、各面の一部を通り、排出口に排出されると考えられ、被粉砕物も気流と同じ軌道を通ると考えられる。
【0018】
該渦巻室内の気流のうち、高圧部の近傍に存在する気流は、渦巻室を旋回することなく粉砕ゾーンに入ると考えられる。他方で、高圧部から離れた場所に存在する気流は、該渦巻室内を旋回した後に粉砕ゾーンに入ると考えられる。
すなわち、渦巻室から粉砕ゾーンに送られる被粉砕物には、該渦巻室内を旋回することなく該渦巻室の高圧部から粉砕ゾーンに送られるものと、該渦巻室内を旋回した後に粉砕ゾーンに送られるものとが存在すると考えられる。これらのうち、該渦巻室内を旋回した後に粉砕ゾーンに送られる被粉砕物は、該渦巻室内を旋回することなく粉砕ゾーンに送られる被粉砕物よりも、渦巻室内を旋回するぶん、遅れて粉砕ゾーンに送られることになる。
しかしながら、被粉砕物が該渦巻室から粉砕ゾーンへ入る際は、高圧部から入り易いと考えられるため、渦巻室内を旋回せずに粉砕ゾーンに早く入る被粉砕物も、渦巻室を旋回してから遅れて入る被粉砕物も、渦巻室の高圧部から粉砕ゾーンに入り易いと考えられる。粉砕ゾーンに送られた被粉砕物は、気流に乗って螺旋状の軌道になり、回転子の外周面と固定子の内周面の全面ではなく、各面の一部を通り、排出口に排出されると考えられる。
【0019】
本開示にかかる粉砕手段においては、
該渦巻室1021は、該中心回転軸107の外周を囲むように形成され、
該渦巻室1021は、該回転子103の軸方向上流側端面と対向した開口部1022を有し、
該渦巻室1021が、該渦巻室1021で旋回する被粉砕物の少なくとも一部が衝突し、衝突した該被粉砕物を該開口部1022から該回転子103側に送る規制部201を有する。渦巻室1021が規制部201を有する粉砕手段の一例を
図2に記す。
該渦巻室内を旋回する該被粉砕物は、該規制部と衝突することにより、強制的に該回転子側に送られる。そのため、渦巻室から粉砕ゾーンに被粉砕物が入り易い箇所が、渦巻室の高圧部及び規制部近辺の2か所になる。被粉砕物が粉砕ゾーンに入り易い箇所が増えるため、粉砕ゾーンにおける被粉砕物の軌道が、規制部がない場合よりも分散する。これにより、粉砕ゾーンにおける回転子の外周面と固定子の内周面をより多く使用して被粉砕物を粉砕することができる。
【0020】
該規制部を有することにより、従来構成よりもトナーをより小粒径にすることができる
。これは以下のような理由によるものと本発明者らは考えている。
トナーの小粒径化のためには回転子の回転数を上げることが有効であるが、回転数を上げると、負荷電流が高くなる。負荷電流が高すぎる場合、回転子を高速回転させるためのモーターの過負荷で粉砕装置が止まってしまう場合がある。そのため、通常は、モーターの負荷電流の上限より低い負荷電流で粉砕装置を使用しなければならない。規制部を有しない従来の粉砕装置では、被粉砕物の軌道が分散していなかったため、所望の粒径のトナーが得られる回転数にしようとすると負荷電流が高くなりすぎる場合があった。
該規制部を有することにより、粉砕ゾーンにおける被粉砕物の軌道を、規制部を有さない場合よりも分散させることができるため、所望の粒径のトナーが得られる回転数にしたときでも負荷電流が高くなりすぎることを抑制することができる。
従来構成よりも低い負荷電流で回転子の回転数を上げることができるため、トナーをより小粒径にすることができる。
【0021】
また、該規制部を有することにより、機内融着を抑制することができる。これは以下のような理由によるものと本発明者らは考えている。
規制部を有さない
図1の機械式粉砕機においては、被粉砕物の多くが粉砕ゾーンにおける回転子の外周面と固定子の内周面の全面ではなく、各面の一部を通ると考えられるため、被粉砕物が粉砕されると、粉砕時の摩擦熱により、粉砕ゾーンうち被粉砕物が粉砕された箇所の温度が上昇する。その結果、温度が上昇した箇所を起点にトナーが融着を起こす場合があった。
該規制部を有することにより、粉砕ゾーンにおける被粉砕物の軌道を、規制部がない場合よりも分散させることができる。そのため、粉砕時の摩擦熱によって温度が上昇する箇所も、粉砕ゾーンの広い範囲に分散され、ある一部の温度が過度に上昇することを防ぐことができる。よって、トナーの機内融着をより抑制することができる。
【0022】
該規制部は、該渦巻室で旋回する該被粉砕物の少なくとも一部が衝突し、衝突した該被粉砕物を該開口部から該回転子側に送る効果があれば、形状は特に限定されないが、該規制部の好ましい態様を以下に説明する。
【0023】
該規制部は、該回転子の軸方向上流側端面に対向し、かつ、該被粉砕物が衝突する規制面を有することが好ましい。
被粉砕物の良好な衝突を生じさせるために、規制面は、被粉砕物の流れの上流側から下流側に向かって、厚さ(中心回転軸方向の幅)が増す構成であることが好ましい。被粉砕物の流れの上流側から下流側に向かって、規制面の厚さが滑らかに増す構成でもよく、段階的に増す構成でもよいが、滑らかに増す構成であることがより好ましい。即ち、規制部の上流側端部は、渦巻室の壁面と滑らかに接続されており、下流側に向かうにつれて、壁面から離れていく構成とすることができる。
また、被粉砕物の流れの下流側端部において、該中心回転軸の軸線と、該規制面と、が、該被粉砕物の流れの軸方向下流側になす角(以下、単に「なす角」とも称する)が、5°以上75°以下であることが好ましく、15°以上75°以下であることがより好ましい。
該なす角を上記範囲に制御することで、該被粉砕物を回転子側に強制的に送る効果がより高くなる。そのため、より小粒径のトナーを製造し易くすることができる。また、機内融着をより抑制することができる。
該なす角の一例を
図3に記す。
【0024】
該規制面は平面であっても曲面であってもよいが、該被粉砕物を効率的に回転子側に送るために平滑であることが好ましい。規制面が平滑である場合、該平滑な面と、中心回転軸の軸線と、がなす角を、上記なす角とする。
規制面が平滑でない場合は、下記のようにして求められる角を、上記なす角とする。
まず、規制面の最も膨らんでいる点を特定する。次に、規制面の最も膨らんでいる点を含むように、規制部の渦巻室周方向に沿った断面を得る。得られた断面について、該規制面の該中心回転軸の軸線方向の両端部と、該両端部を直線で結んだときの中心から該規制面の最も膨らんでいる点で三角形を作り、該被粉砕物の流れに対して最も上流側に位置する該三角形の辺を特定する。特定された辺と、中心回転軸の軸線と、がなす角を、上記なす角とする。
【0025】
該規制部は、渦巻室と一体であってもよく、規制部材を渦巻室内に設置して該規制部としてもよい。該規制部の形状は特に限定されず、例えば板状、柱体状とすることができる。規制部の強度の観点から、規制部の形状は柱体状であることが好ましく、三角柱状であることがより好ましい。
【0026】
渦巻室内の中心回転軸を中心とする環状空間の外周を1としたとき、該渦巻室は、該環状空間において、該被粉砕物の流れの下流側の2/3、より好ましくは1/3の範囲に該規制部を有することが好ましい。該規制部は、渦巻室の環状空間において、被粉砕物の流れの下流側の2/3(より好ましくは1/3)の範囲に存在すればよく、該範囲における規制部の位置は特に制限されない。例えば、該範囲の全体が規制部であってもよく、該範囲の一部が規制部であってもよい。
該規制部の周方向の長さは、特に制限されないが、渦巻室内の中心回転軸を中心とする環状空間の外周を1としたとき、1/36以上1/3以下であることが好ましく、1/18以上1/6以下であることがより好ましい。
該規制部の位置を上記範囲に制御することで、該被粉砕物を回転子側に強制的に送る効果がより高くなる。そのため、より小粒径のトナーを製造し易くすることができる。また、機内融着をより抑制することができる。
図4の斜線部が、渦巻室内の中心回転軸を中心とする環状空間における該被粉砕物の流れの下流側の2/3のおおよその範囲を示している。
図4の斜線部で示した範囲に該規制部を有することが好ましい態様である。
【0027】
また、該被粉砕物を回転子側に強制的に送る効果をより高くするために、該渦巻室は、渦巻室内の中心回転軸を中心とする環状空間において、該環状空間の外周の壁に該規制部を有することが好ましい。
【0028】
該規制面の軸方向上流側端部が、該開口部と対向する該渦巻室の面Aに接しており、
面Aから該面Aと対向する回転子の軸方向上流側端面までの距離を1としたとき、
該軸方向上流側端部から該中心回転軸の軸線方向に対して平行に延ばした線分と、該規制面の軸方向下流側端部から該軸線方向に延ばした垂線と、の交点から該面Aまでの距離L(以下、単に「距離L」ともいう。)が、該面Aから該面Aと対向する該回転子の軸方向上流側端面までの距離の1/4以上3/4以下であることが好ましい。より好ましくは3/5~1/2である。
該距離Lを上記範囲に制御することで、該被粉砕物を回転子側に強制的に送る効果がより高くなる。そのため、より小粒径のトナーを製造し易くすることができる。また、機内融着をより抑制することができる。
図5に上記距離Lの一例を記す。
【0029】
該規制部の径方向の長さは、該渦巻室の径方向の長さに対し、1/4以上3/4以下であることが好ましい。より好ましくは1/2~3/5である。
該規制部の径方向の長さを上記範囲に制御することで、該被粉砕物を回転子側に強制的に送る効果がより高くなる。そのため、より小粒径のトナーを製造し易くすることができる。また、機内融着をより抑制することができる。
図6に該渦巻室の径方向の長さに対する規制部の径方向の長さの一例を示す。
【0030】
該規制部は、被粉砕物が衝突して該規制部が摩耗することを防ぐ観点から、被粉砕物よりも堅い材料からなることが好ましい。該被粉砕物よりも堅い材料としては特に限定されないが、例えばABS樹脂とすることができる。
該渦巻室は、該規制部を1個有していてもよく、複数個有していてもよい。圧力損失を抑える観点から、該渦巻室は、該規制部を1~3個有することが好ましい。より好ましくは1~2個有する。
また、渦巻室の渦の方向は、該中心回転軸の回転方向と同一であってもよく、異なっていてもよいが、好ましくは該中心回転軸の回転方向と同一である。
【0031】
次に、トナーの製造方法について説明する。
トナーの製造方法は、必要に応じて原料混合工程を有することができる。原料混合工程においては、トナー原料として少なくとも結着樹脂を所定量秤量して配合及び混合する。必要に応じて、着色剤、トナーの加熱定着時にホットオフセットの発生を抑制する離型剤、該離型剤を分散させる分散剤、帯電制御剤などの任意成分を混合して混合物を得てもよい。
混合装置の一例としては、ダブルコン・ミキサー、V型ミキサー、ドラム型ミキサー、スーパーミキサー、ヘンシェルミキサー、ナウターミキサーなどがある。
【0032】
トナーの製造方法は、溶融混練工程を有する。溶融混練工程においては、トナー原料を溶融混練して溶融混練物を得る。トナーの製造方法が原料工程を有する場合は、トナー原料の混合物を溶融混練して溶融混練物を得ることができる。
該溶融混練工程では、トナー原料中の樹脂類を溶融し、任意成分を分散させてもよい。該溶融混練工程では、例えば、加圧ニーダー、バンバリィミキサーなどのバッチ式練り機や、連続式の練り機を用いることができる。連続生産できることから、1軸または2軸押出機が好ましく、該押出機のとしては、例えば、神戸製鋼所社製KTK型2軸押出機、東芝機械社製TEM型2軸押出機、ケイ・シー・ケイ社製2軸押出機、ブス社製コ・ニーダー、池貝社製PCM型2軸押出機などが挙げられる。
【0033】
トナーの製造方法は、冷却工程を有する。冷却工程においては溶融混練物を冷却して冷却物を得る。溶融混練物の冷却方法は特に限定されないが、例えば、溶融混練物を2本ロールなどで圧延し、水冷、油冷、空冷などで冷却して冷却物を得ることができる。また、溶融混練物を自然冷却して冷却物を得てもよい。
【0034】
トナーの製造方法は、被粉砕物を粉砕手段によって粉砕する粉砕工程を有する。上記冷却工程で得られた冷却物を被粉砕物として、該冷却物を粉砕工程において本開示の粉砕手段により粉砕する。該粉砕工程において、冷却物は所望の粒径にまで粉砕される。
粉砕工程は、冷却物を粉砕して第一の粉砕品を得る第一の粉砕工程、及び、該第一の粉砕品をさらに粉砕する第二の粉砕工程を有することが好ましい。この場合、本開示の粉砕手段は、少なくとも該第二の粉砕工程で用いられるが、第一の粉砕工程でも用いることができる。
第一の粉砕工程で使用できる、本開示の粉砕手段以外の粉砕機としては、クラッシャー、ハンマーミル、フェザーミルなどが挙げられる。第一の粉砕工程で得られた第一の粉砕品は、本開示の粉砕手段でさらに粉砕される。粉砕工程では、このように所定の粒径になるまで段階的にトナーを粉砕することが好ましい。
【0035】
次に、結着樹脂を少なくとも含むトナーの原材料について説明する。
<結着樹脂>
トナーは結着樹脂を含む。結着樹脂としては、一般的な樹脂を用いることができる。結着樹脂としては、例えば、ポリエステル樹脂、スチレン-アクリル酸共重合体、ポリオレ
フィン系樹脂、ビニル系樹脂、フッ素樹脂、フェノール樹脂、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂などが挙げられる。
これらの中でも、低温定着性を良好にするという観点から非晶性ポリエステル樹脂が好ましい。また、低温定着性と耐ホットオフセット性の両立の観点から、低分子量の非晶性ポリエステル樹脂と高分子量の非晶性ポリエステル樹脂を併用することが好ましい。また、さらなる低温定着性の向上と保管時の耐ブロッキング性の観点から結晶性ポリエステルを可塑剤として用いてもよい。
【0036】
<着色剤>
トナーは着色剤を含有してもよい。着色剤としては、以下のものが挙げられる。
着色剤としては、公知の有機顔料若しくは油性染料、カーボンブラック、又は磁性体などが挙げられる。
シアン系着色剤としては、銅フタロシアニン化合物及びその誘導体、アントラキノン化合物、塩基染料レーキ化合物などが挙げられる。
マゼンタ系着色剤としては、縮合アゾ化合物、ジケトピロロピロール化合物、アントラキノン化合物、キナクリドン化合物、塩基染料レーキ化合物、ナフトール化合物、ベンズイミダゾロン化合物、チオインジゴ化合物、ペリレン化合物などが挙げられる。
イエロー系着色剤としては、縮合アゾ化合物、イソインドリノン化合物、アントラキノン化合物、アゾ金属錯体、メチン化合物、アリルアミド化合物などが挙げられる。
黒色系着色剤としては、カーボンブラック、磁性体、又は、前記イエロー系着色剤、マゼンタ系着色剤、及びシアン着色剤を用い黒色に調色されたものが挙げられる。
該着色剤は、一種単独で又は二種以上を混合して用いることができる。
【0037】
<離型剤>
トナーは、必要に応じて、トナーの加熱定着時にホットオフセットの発生を抑制する離型剤を含有してもよい。該離型剤としては、低分子量ポリオレフィン類、シリコーンワックス、脂肪酸アミド類、エステルワックス類、カルナバワックス、炭化水素系ワックスなどが一般的に例示できる。
【0038】
<トナーの重量平均粒径(D4)>
トナーの重量平均粒径(D4)は、好ましくは4.55μm未満であり、より好ましくは4.40μm未満であり、さらに好ましくは4.20μm未満である。トナーの重量平均粒径(D4)は小さいほど好ましいが、例えば3.00μm以上とすることができる。
トナーの重量平均粒径(D4)は以下のように測定する。
測定装置として、50μmのアパーチャーチューブを備えた細孔電気抵抗法による精密粒度分布測定装置「コールター・カウンタ Multisizer 3」(登録商標、ベックマン・コールター社製)を用いる。測定条件の設定及び測定データの解析は、付属の専用ソフト「ベックマン・コールター Multisizer 3 Version3.51」(ベックマン・コールター社製)を用いる。なお、測定は実効測定チャンネル数2万5千チャンネルで行う。
測定に使用する電解水溶液は、特級塩化ナトリウムをイオン交換水に溶解して濃度が約1質量%となるようにしたもの、例えば、「ISOTON II」(ベックマン・コールター社製)が使用できる。
なお、測定及び解析を行う前に、以下のように専用ソフトの設定を行う。
専用ソフトの「標準測定方法(SOM)を変更」画面において、コントロールモードの総カウント数を50000粒子に設定し、測定回数を1回、Kd値は「標準粒子10.0μm」(ベックマン・コールター社製)を用いて得られた値を設定する。
「閾値/ノイズレベルの測定ボタン」を押すことで、閾値とノイズレベルを自動設定する。また、カレントを1600μAに、ゲインを2に、電解水溶液をISOTON IIに設定し、「測定後のアパーチャーチューブのフラッシュ」にチェックを入れる。
専用ソフトの「パルスから粒径への変換設定」画面において、ビン間隔を対数粒径に、粒径ビンを256粒径ビンに、粒径範囲を1μmから30μmまでに設定する。
【0039】
具体的な測定法は以下の通りである。
(1)Multisizer 3専用のガラス製250mL丸底ビーカーに電解水溶液約200mLを入れ、サンプルスタンドにセットし、スターラーロッドの撹拌を反時計回りで24回転/秒にて行う。そして、専用ソフトの「アパーチャーチューブのフラッシュ」機能により、アパーチャーチューブ内の汚れと気泡を除去しておく。
(2)ガラス製の100mL平底ビーカーに電解水溶液約30mLを入れる。この中に分散剤として「コンタミノンN」(非イオン界面活性剤、陰イオン界面活性剤、有機ビルダーからなるpH7の精密測定器洗浄用中性洗剤の10質量%水溶液、和光純薬工業社製)をイオン交換水で約3質量倍に希釈した希釈液を約0.3mL加える。
(3)発振周波数50kHzの発振器2個を、位相を180度ずらした状態で内蔵し、電気的出力120Wの超音波分散器「Ultrasonic Dispersion System Tetora150」(日科機バイオス社製)を準備する。超音波分散器の水槽内に約3.3Lのイオン交換水を入れ、この水槽中にコンタミノンNを約2mL添加する。
(4)前記(2)のビーカーを超音波分散器のビーカー固定穴にセットし、超音波分散器を作動させる。そして、ビーカー内の電解水溶液の液面の共振状態が最大となるようにビーカーの高さ位置を調整する。
(5)前記(4)のビーカー内の電解水溶液に超音波を照射した状態で、トナー約10mgを少量ずつ電解水溶液に添加し、分散させる。そして、さらに60秒間超音波分散処理を継続する。なお、超音波分散にあたっては、水槽の水温が10℃以上40℃以下となるように適宜調節する。
(6)サンプルスタンド内に設置した前記(1)の丸底ビーカーに、ピペットを用いてトナーを分散した前記(5)の電解水溶液を滴下し、測定濃度が約5%となるように調整する。そして、測定粒子数が50000個になるまで測定を行う。
(7)測定データを装置付属の専用ソフトにて解析を行ない、重量平均粒径(D4)を算出する。なお、専用ソフトでグラフ/体積%と設定したときの、「分析/体積統計値(算術平均)」画面の「平均径」が重量平均粒径(D4)である。
【実施例】
【0040】
<検証実験>
以下、実験例及び比較例を用いて本開示をさらに詳細に説明するが、これらは本開示を何ら限定するものではない。なお、以下の処方において、部は特に断りのない限り質量基準である。
【0041】
<非晶性ポリエステル樹脂Lの製造例>
・ポリオキシプロピレン(2.2)-2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン:72.0部(0.20モル;多価アルコール総モル数に対して100.0mol%)
・テレフタル酸:
28.0部(0.17モル;多価カルボン酸総モル数に対して96.0mol%)
・2-エチルヘキサン酸錫(エステル化触媒):0.5部
冷却管、攪拌機、窒素導入管、及び、熱電対のついた反応槽に、上記材料を秤量した。次にフラスコ内を窒素ガスで置換した後、撹拌しながら徐々に昇温し、200℃の温度で撹拌しつつ、4時間反応させた。
さらに、反応槽内の圧力を8.3kPaに下げ、1時間維持した後、180℃まで冷却し、大気圧に戻した。
・無水トリメリット酸:3部(0.01モル;多価カルボン酸総モル数に対して4.0mol%)
・tert-ブチルカテコール(重合禁止剤):0.1部
その後、上記材料を加え、反応槽内の圧力を8.3kPaに下げ、温度180℃に維持したまま、1時間反応させ、ASTM D36-86に従って測定した軟化点が90℃に達したことを確認してから温度を下げて反応を止め、非晶性ポリエステル樹脂Lを得た。
【0042】
<非晶性ポリエステル樹脂Hの製造例>
・ポリオキシプロピレン(2.2)-2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン:72.3部(0.20モル;多価アルコール総モル数に対して100.0mol%)
・テレフタル酸:18.3部(0.11モル;多価カルボン酸総モル数に対して65.0mol%)
・フマル酸:2.9部(0.03モル;多価カルボン酸総モル数に対して15.0mol%)
・2-エチルヘキサン酸錫(エステル化触媒):0.5部
冷却管、攪拌機、窒素導入管、及び、熱電対のついた反応槽に、上記材料を秤量した。次にフラスコ内を窒素ガスで置換した後、撹拌しながら徐々に昇温し、200℃の温度で撹拌しつつ、2時間反応させた。
さらに、反応槽内の圧力を8.3kPaに下げ、1時間維持した後、180まで冷却し、大気圧に戻した。
・無水トリメリット酸:6.5部(0.03モル;多価カルボン酸総モル数に対して20.0mol%)
・tert-ブチルカテコール(重合禁止剤):0.1部
その後、上記材料を加え、反応槽内の圧力を8.3kPaに下げ、温度160℃に維持したまま、15時間反応させ、ASTM D36-86に従って測定した軟化点が137℃に達したのを確認してから温度を下げて反応を止め、非晶性ポリエステル樹脂Hを得た。
【0043】
<結晶性ポリエステル樹脂>
・1,6-ヘキサンジオール:34.5部(0.29モル;多価アルコール総モル数に対して100.0mol%)
・ドデカン二酸:65.5部(0.28モル;多価カルボン酸総モル数に対して100.0mol%)
・2-エチルヘキサン酸錫:0.5部
冷却管、攪拌機、窒素導入管、及び、熱電対のついた反応槽に、上記材料を秤量した。フラスコ内を窒素ガスで置換した後、撹拌しながら徐々に昇温し、140℃の温度で撹拌しつつ、3時間反応させた。
次に、上記材料を加え、反応槽内の圧力を8.3kPaに下げ、温度200℃に維持したまま、4時間反応させ、結晶性ポリエステル樹脂を得た。
【0044】
<トナーの製造例>
・非晶性ポリエステル樹脂L 80部
・非晶性ポリエステル樹脂H 20部
・結晶性ポリエステル樹脂 5部
・フィッシャートロプシュワックス(炭化水素ワックス、最大吸熱ピークのピーク温度90℃) 8部
・C.I.ピグメントブルー15:3 7部
上記材料をヘンシェルミキサー(FM-75型、三井鉱山(株)製)を用いて、回転数20s-1、回転時間5minで混合した後、二軸混練機(PCM-30型、株式会社池貝製)にて溶融混練した。溶融混練時のバレル温度は、溶融混練物の出口温度が120℃になるよう設定した。溶融混練物の出口温度は、安立計器社製ハンディタイプ温度計HA-200Eを用い直接計測した。得られた溶融混練物を冷却して冷却物を得て、該冷却物
をピンミルにて体積平均粒径100μm以下に粗粉砕し、第一の粉砕品(トナー粗砕物)を得た。
【0045】
得られたトナー粗砕物を、粉砕機(ターボ工業社製ターボミルT250-CRS―RS型)で粉砕しトナーを得た。このとき、渦巻室が規制部を有さない粉砕機で粉砕した場合と、渦巻室が規制部を有する粉砕機で粉砕した場合を比較した。
規制部については、3Dプリンタなどと呼ばれる三次元造形装置でABS樹脂を原料として規制部材を成型し、以下のような条件となるように該規制部材を設置して規制部とした。
・なす角:20°
・位置:渦巻室内の中心回転軸を中心とする環状空間において、該トナー粗砕物の流れの下流側の1/4の位置
・距離L:面Aから、該面Aと対向する該回転子の軸方向上流側端面までの距離の1/2
・該規制部の径方向の長さ:該渦巻室の径方向の長さに対し1/2
・該規制部の周方向の長さ:渦巻室内の中心回転軸を中心とする環状空間の外周の長さに対し1/12
【0046】
粉砕機の回転子と固定子の最小間隙を1.0mmに設定し、機械式粉砕機に導入する空気の温度を-15℃、吸引ブロワーの流量を8m3/min、トナー粗砕物の供給量を10kg/hr、回転子の周速を170m/secに設定し、粉砕を行った。また、ジャケットに冷却水を通しながら、粉砕を行った。
【0047】
粉砕ゾーンにおけるトナー粗砕物の軌道の散らばりの評価は、粉砕機を改造して、回転子と固定子の間の粉砕ゾーンのトナー粗砕物のサンプリングを行い、実施した。
回転子の軸方向上流側端面から13mmの箇所に、回転子の周方向に計9個のφ5のサンプリング口を粉砕機の外枠に穴を開け、粉砕機内部のサンプルを採取するサンプリング口を作製した(サンプリング口の位置は
図7~8を参照)。回転子の周方向のサンプリング口は、中心回転軸の真上を0°とし、回転子の回転方向に0°、30°、60°、90°、120°、回転子の逆回転方向に-30°、-60°、-90°、-120°の箇所に作製した。サンプリングは、トナー粗砕物を粉砕している間、サンプリング口から回転子と固定子の間の粉砕ゾーンに一定の長さの綿棒を入れ、30秒でトナーが綿棒にどのくらい付着するのかを下記の基準で評価し、トナーの粉砕ゾーンでの散らばりの評価を行った。
評価結果を表1に記す。
A:綿棒にトナーが多く付着している。
B:綿棒にトナーが若干付着している。
C:綿棒にトナーがほとんど付着していない。
【0048】
【0049】
規制部材を設置しない場合、すなわち規制部を有さない場合、評価結果がB以上である点が3点のみであった。これに対し、規制部材を設置した場合、すなわち規制部を有する場合、評価結果がB以上である点が6点に増えた。よって、規制部材を設置した方、すな
わち規制部を有するほうが、トナーが粉砕ゾーンでより散っていると判断することができる。
【0050】
<実施例1>
上記検証実験例と同様にトナー粗砕物を作製し、上記検証実験例と同様の条件にて規制部材を設置した。
【0051】
<粉砕後のトナーの重量平均粒径(D4)の評価>
粉砕中の負荷電流が38Aになるように、回転子の回転数を変更して粉砕を行った。粉砕を始めて30分後のトナーの重量平均粒径(D4)を測定し、トナーが小粒径化しているのかを下記の基準で評価した。評価結果を表4に示す。表4の()内の数値はトナーのD4の値(単位:μm)を示す。
同じ負荷電流の時に、回転子の回転数が高くできる方が、トナーを小粒径化し易い傾向にある。
A:D4が4.25μm未満。
B:D4が4.25μm以上4.40μm未満。
C:D4が4.40μm以上4.55μm未満。
D:D4が4.55μm以上4.70μm未満。
E:D4が4.70μm以上。
【0052】
<機内融着性の評価>
粉砕ゾーンの軸方向下流側で、トナーが高温になりやすく、機内融着が発生しやすい。粉砕ゾーンの下流側の温度は排出口の温度と相関が高いため、今回は、排出口の温度を測定し、機内融着性の評価を行った。なお、排出口の温度が50℃以上である場合に機内融着を引き起こしやすい。
トナー粗砕物を投入し、60分間のロングラン運転を行い、安定した状態での粉砕室内温度を確認し、以下の基準で評価した。また、運転後に機内融着の有無を目視で確認した。
トナー粗砕物の供給量と回転子の回転数を変えて、5つの条件で評価した。評価結果を表4に示す。表4の()内の数値は排出口の温度の値(単位:℃)を示す。
A:温度が40℃未満。
B:温度が40℃以上、45℃未満。
C:温度が45℃以上、50℃未満。
D:温度差が50℃以上、55℃未満。
E:温度差が55℃以上。
【0053】
以上の各評価項目において、実施例1の製造方法では全てA判定であった。
【0054】
<実施例2~19>
実施例2~17は、規制部のなす角、位置、距離L及び径方向の長さを表2のように変更し、規制部の周方向の長さを表3のように変更した以外は実施例1と同様の方法で評価した。
実施例18は規制部の数を2個に増やし、実施例19は規制部の数を3個に増やした以外は、実施例1と同様の方法で評価した。増やした規制部のなす角などは表2,3の通りである。
規制部の条件を表2,3に示す。また、評価結果を表4に示す。
【0055】
【表2】
※1:渦巻室内の中心回転軸を中心とする環状空間の外周を1としたときの、該環状空間における、規制部の該トナー粗砕物の流れの下流側の位置。
※2:渦巻室の径方向の長さに対する、規制部の径方向の長さ。
【0056】
【0057】
<比較例1>
規制部を設置しない以外は実施例1と同様の方法で評価した。評価結果を表4に示す。
【0058】
【表4】
※表中、「周速」は回転子の周速を示し、「供給量」は、トナー粗砕物の供給量を示す。
【符号の説明】
【0059】
101:投入口、1021:渦巻室、1022:開口部、103:回転子、104:固定子、105:後室、106:排出口、107:中心回転軸、108:冷風発生装置、109:冷水供給口、110:冷水排出口、201:規制部、301:なす角、302:規制面、501:面A、502:規制面の軸方向上流側端部、503:規制面の軸方向下流側端部、504:距離L、601:渦巻室の径方向の長さ、602:規制部の径方向の長さ