(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-07
(45)【発行日】2024-05-15
(54)【発明の名称】金型
(51)【国際特許分類】
B29C 33/00 20060101AFI20240508BHJP
【FI】
B29C33/00
(21)【出願番号】P 2020052980
(22)【出願日】2020-03-24
【審査請求日】2023-02-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000208765
【氏名又は名称】株式会社エンプラス
(74)【代理人】
【識別番号】110001737
【氏名又は名称】弁理士法人スズエ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】庭山 晃
【審査官】北澤 健一
(56)【参考文献】
【文献】実開昭55-169415(JP,U)
【文献】特開2017-222060(JP,A)
【文献】特開平09-117941(JP,A)
【文献】特開平02-038013(JP,A)
【文献】特開2002-001778(JP,A)
【文献】実開昭55-169416(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 33/00-33/76
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
成形機の基台に取り付けられる金型であって、
基台に対向する基台側面、及び前記基台側面と反対側の成形側面を有する板状の可動駒、
前記可動駒の成形側面に、前記可動駒の縁部が露出するように配置されている成形型、
前記可動駒の縁部の成形側面に対向するように配置され、かつ前記基台に取り付けられている可動駒受け体、
前記可動駒の縁部の成形側面に形成されている可動駒側位置決め溝、
前記可動駒受け体の基台側面に形成されている受け体側位置決め溝、
前記可動駒側位置決め溝と前記受け体側位置決め溝に挿入されている可動駒位置決め体、及び
前記可動駒位置決め体と前記可動駒受け体との間に配置されている圧力センサ、
を備え、
前記可動駒は、成形時に基台側に位置し、離型時に可動駒受け体側に位置する金型。
【請求項2】
前記基台と前記可動駒との間に配置されている温調駒、及び前記可動駒と前記可動駒受
け体との間に配置されている弾性部材をさらに備える請求項
1に記載の金型。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金型に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、金型を用いて成形品を製造する際の離型性を評価するためには、金型から成形品を離型するときの離型抵抗を測定している。例えば、特許文献1には、金型から成形品を離型するときのエジェクタピンの突き出し力を離型抵抗として、圧力センサを用いて測定することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、エジェクタピンなどのエジェクタ機構を用いる離型方式では、離型時に成形品の機能面を破損させる虞があるため、成形品の機能面となる位置にエジェクタ機構を配置できず、離型抵抗を測定できない場合がある。
そこで本発明は、エジェクタ機構を用いずに離型抵抗を測定することができる金型の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の課題を解決するための、本発明に関する金型は、成形機の基台に取り付けられる金型であって、基台に対向する基台側面、及び前記基台側面と反対側の成形側面を有する板状の可動駒、前記可動駒の成形側面に、前記可動駒の縁部が露出するように配置されている成形型、前記可動駒の縁部の成形側面に対向するように配置され、かつ前記基台に取り付けられている可動駒受け体、並びに前記可動駒の縁部と前記可動駒受け体との間に配置されている圧力センサを備え、前記可動駒は、成形時に基台側に位置し、離型時に可動駒受け体側に位置する。
【発明の効果】
【0006】
本発明の金型によれば、エジェクタ機構を用いずに離型抵抗を測定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】
図1は、本発明の実施の形態の金型の概略断面図であり、成形機の上基台に取り付けられているときの様子を示す図である。
【
図2】
図2は、実施の形態の金型(上金型)の分解斜視図である。
【
図3】
図3は、実施の形態の金型の概略断面図であり、(A)は成形時の様子を示す図、(B)は離型時の様子を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。
【0009】
図1に示すように、実施の形態の金型1は、上金型として、上温調駒3a及び上金型取り付け駒5aを介して、可動側基台である成形機の上基台7aに取り付けられている。下金型9は、下温調駒3b及び下金型取り付け駒5bを介して、固定側基台である成形機の下基台7bに取り付けられている。
【0010】
上温調駒3a及び下温調駒3bは、電気加熱要素や冷却媒体など(図示せず)をそれぞれ備え、金型1及び下金型9を加熱又は冷却する。
上金型取り付け駒5a及び下金型取り付け駒5bは、例えば、成形品を製造する際の成形機からの荷重に耐え得る、炭素工具鋼、合金工具鋼、高速度工具鋼のような金属材料から形成されている。炭素工具鋼は、JIS G4401 2009に規定され、合金工具鋼及び高速度工具鋼は、JIS G4403 2015にそれぞれ規定されている。
【0011】
実施の形態の金型1である上金型は、板状の可動駒11と、成形型13と、可動駒受け体15と、圧力センサ17とを備えている。
【0012】
板状の可動駒11は、上基台7aに対向する基台側面19、及び基台側面19と反対側の成形側面21を有する。板状の可動駒11のサイズは、例えば、10mm~300mm×30mm~300mm×1mm~30mm(縦×横×厚さ)である。可動駒11は、例えば、上述したような金属材料から形成されている。
【0013】
可動駒11の基台側面19は、可動駒11が後述する弾性部材(スプリング)23によって上基台7a側に向けて持ち上げられているため、上金型取り付け駒5aに接触している。
【0014】
可動駒11の成形側面21には、可動駒11の縁部25が露出するように成形型13が配置されている。
【0015】
可動駒11の縁部25には、上基台7a側に向かって凹んでいる可動駒側位置決め溝27が形成されている。可動駒側位置決め溝27は、可動駒11の基台側面19と成形側面21に平行な溝壁27a、及び溝壁27aと可動駒11の成形側面21に垂直に交わる側壁27bを有する。
【0016】
成形型13は、上成形型として、上成形型本体29と、成形型取り付け駒31とを備えている。上成形型本体29は、成形型取り付け駒31によって、可動駒11の成形側面21に着脱自在に設けられている。上成形型本体29の表面33には、微細な凹凸を有する微細パターンが形成されている。微細な凹凸は、例えば、0.1μm~1000μmの凹凸である。
【0017】
可動駒受け体15は、可動駒11の縁部25の成形側面21に対向するように配置され、受け体取り付け部材35、上金型取り付け駒5a、及び上温調駒3aを介して上基台7aに取り付けられている。具体的には、可動駒受け体15は、上金型取り付け駒5aに取り付けられた受け体取り付け部材35に、可動駒受け体15の下基台側面37から、上基台7aに向けてネジ止めすることによって、上基台7aに取り付けられている。可動駒受け体15は、例えば、上述したような金属材料から形成されている。
【0018】
可動駒受け体15の上基台側面39には、下基台7b側に向かって凹んでいる受け体側位置決め溝41が形成されている。受け体側位置決め溝41は、可動駒受け体15の上基台側面39に平行な溝壁41a、及び溝壁41aと可動駒受け体15の上基台側面39に垂直に交わる側壁41bを有する。受け体側位置決め溝41の溝壁41aは、可動駒側位置決め溝27の溝壁27aと平行に位置しており、受け体側位置決め溝41の側壁41bは、可動駒側位置決め溝27の側壁27bの直線上に位置している。
【0019】
圧力センサ17は、可動駒11の縁部25と、可動駒受け体15との間に配置されている。具体的には、圧力センサ17は、可動駒受け体15の受け体側位置決め溝41の溝壁41a上に配置されている。圧力センサ17は、離型荷重に耐え得るセンサであり、例えば、ひずみゲージ式、金属ゲージ式、半導体ゲージ式、半導体隔膜式のような圧力センサである。圧力センサ17は、検出した圧力信号を外部に出力するために、配線が上金型から外部に向かって延び出している(
図2)。
【0020】
圧力センサ17の上には、可動駒位置決め体43が配置され、可動駒11の可動駒側位置決め溝27と、可動駒受け体15の受け体側位置決め溝41に挿入されている。
可動駒位置決め体43は、断面視においてH字形状を有し、圧力センサ17上に配置されているウェブ45と、ウェブ45の両端部から上基台7a及び下基台7b側にそれぞれ延出している2つのフランジ47とを有する。
【0021】
可動駒位置決め体43のウェブ45は、圧力センサ17に接触している。
可動駒位置決め体43の2つのフランジ47は、可動駒側位置決め溝27の側壁27bと受け体側位置決め溝41の側壁41bに沿って接触しているが、可動駒側位置決め溝27の溝壁27aと、受け体側位置決め溝41の溝壁41aには接触していない。
【0022】
可動駒位置決め体43は、圧力センサ17に接触しているウェブ45を有するため、可動駒11から可動駒位置決め体43に荷重が加えられた場合、その荷重を圧力センサ17に伝えることができる。
また、可動駒位置決め体43は、可動駒側位置決め溝27の側壁27bと受け体側位置決め溝41の側壁41bに沿って接触している2つのフランジ47を有するため、可動駒11が上基台7aと平行方向にずれることを抑制又は防止して、成形不良の発生を抑制又は防止することができる。
【0023】
可動駒位置決め体43の2つのフランジ47の可動駒11側の間には、弾性部材であるスプリング23が配置されている。スプリング23は、可動駒11の受け体側位置決め溝27の溝壁27aと可動駒位置決め体43のウェブ45とに接触して、可動駒11を上基台7a側に向けて持ち上げ、上金型取り付け駒5aに接触させている。
スプリング23は、可動駒11を上基台7a側に向けて持ち上げ、上金型取り付け駒5aに接触させることにより、可動駒11が上金型取り付け駒5aに接触していない場合と比較して、上温調駒3aによる成形型13の加熱又は冷却の際の温度ロスを低減させ、成形型13の温度変化を短時間で行うことができるため、成形品の製造時間を短縮することができる。
【0024】
下金型9は、下成形型として、下成形型本体49と、成形型取り付け駒51とを備えている。下成形型本体49は、成形型取り付け駒51によって、下金型取り付け駒5b上に着脱自在に設けられている。下成形型本体49の表面53には、上成形型本体29の表面33の凹凸パターンに対応する微細パターンが形成されている。
【0025】
このような実施の形態の金型1は、例えば、溶融微細転写プロセスに用いることができる。溶融微細転写プロセスに用いられる材料は、例えば、アクリル樹脂、ポリカーボネート(PC)、シクロオレフィンポリマー(COP)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ABS樹脂のような熱可塑性樹脂である。
【0026】
続いて、実施の形態の金型1の組み立てについて、
図2を参照して説明する。
最初に、上金型取り付け駒5aと、受け体取り付け部材35を用意し、上金型取り付け駒5aの長手方向の両端部に、受け体取り付け部材35を取り付ける。
【0027】
次に、可動駒11と、上成形型本体29と、成形型取り付け駒31を用意し、可動駒11の成形側面21に、上成形型本体29を縁部25が露出するように、成形型取り付け駒31を用いて取り付ける。言い換えると、可動駒11の成形側面21に、縁部25が露出するように成形型13を取り付ける。
【0028】
次に、成形型13を取り付けた可動駒11と、スプリング23と、可動駒位置決め体43と、圧力センサ17と、可動駒受け体15とを用意する。
可動駒11の受け体側位置決め溝27に、スプリング23を配置し、可動駒位置決め体43を挿入し、可動駒位置決め体43の2つのフランジ47の間に圧力センサ17を配置する。続いて、可動駒受け体15を、可動駒11の受け体側位置決め溝27に挿入した可動駒位置決め体43が、可動駒受け体15の受け体側位置決め溝41(
図2において図示せず)に挿入するように配置し、受け体取り付け部材35を介して、上金型取り付け駒5aに取り付ける。このようにして、実施の形態の金型1を組み立てることができる。
実施の形態の金型1は、上温調駒3aを介して成形機の上基台7a(
図2において図示せず)に取り付けられる。
【0029】
以下に、実施の形態の金型1による成形品の離型抵抗の測定について、
図3を参照して説明する。なお、
図3は、溶融微細転写プロセスによって熱可塑性樹脂製の成形品を製造している。
【0030】
最初に、
図1に示すように、実施の形態の金型1を、上温調駒3a及び上金型取り付け駒5aを介して成形機の上基台7aに取り付け、下金型9を、下温調駒3b及び下金型取り付け駒5bを介して成形機の下基台7bに取り付ける。
【0031】
次に、上温調駒3a及び下温調駒3bを用いて金型1及び下金型9を加温し、下金型9の下成形型本体49の表面53上に、熱可塑性樹脂をスクリュー等で可塑化した樹脂材料55を塗布する。
【0032】
続いて、樹脂材料55を成形するために、成形機の上基台7aを下基台7bに向けて下降させ、上成形型本体29の表面33を樹脂材料55に接触させると、成形型13及び可動駒11は、樹脂材料55から上基台7a方向の力、すなわち反作用の力を受ける。このため、可動駒11は、成形時に上基台7a側に位置する(
図3(A))。言い換えると、可動駒11は、成形時にスプリング23の有無によらず上基台7a側に位置している。
このとき、圧力センサ17には、可動駒11が上基台7a側に位置しているため、可動駒11の縁部25に形成されている可動駒側位置決め溝27の溝壁27aに、可動駒位置決め体43の2つのフランジ47が接触せずに、可動駒位置決め体43から圧力センサ17に成形荷重57が伝わらない。
【0033】
一定時間経過後、上温調駒3a及び下温調駒3bを用いて金型1及び下金型9を冷却し、樹脂材料55を固化して成形品59を製造する。
【0034】
次に、成形品59を離型するために、成形機の上基台7aを上昇させると、可動駒11と成形型13はそのままに、上温調駒3a、上金型取り付け駒5a、可動駒受け体15、圧力センサ17、及び可動駒位置決め体43が上基台7aとともに上方に動く。すなわち、可動駒11は、離型時に可動駒受け体15側に位置する(
図3(B))。
このとき、圧力センサ17は、可動駒11が可動駒受け体15側に位置しているため、可動駒11の縁部25に形成されている可動駒側位置決め溝27の溝壁27aに、可動駒位置決め体43の2つのフランジ47が接触して、可動駒位置決め体43から圧力センサ17に離型荷重61が伝わる。この離型荷重61を離型抵抗として圧力センサ17で測定することによって、成形品59の離型抵抗を測定することができる。
【0035】
したがって、実施の形態の金型1は、エジェクタピンなどのエジェクタ機構を用いずに離型抵抗を測定することができる。
また、実施の形態の金型1は、圧力センサ17に成形荷重57が伝わらないため、成形時に破損する虞がなく、長期間使用することができる。
このような実施の形態の金型1は、例えば、成形品の離型抵抗を経時的に測定することによって、成形品の製造プロセスの監視に使用することができる。
【0036】
[変形例]
本発明は、上述した実施の形態に限らず、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々変形可能である。
例えば、実施の形態の金型1を、下金型として、固定側基台である成形機の下基台7bに取り付け、下金型9を上金型として、可動側基台である成形機の上基台7aに取り付けてもよい。
【0037】
実施の形態の金型1は、上成形型のパターンを成形材料に転写するようなインプリント成形にも用いることができる。
また、実施の形態の金型1は、上成形型である成形型13を下基台7bに向かって突出している成形型(コア)とし、下成形型本体49を下基台7bに向かって凹んでいる成形型(キャビティ)として、射出成形にも用いることができる。
さらに、実施の形態の金型1は、可塑化用流体として二酸化炭素を用いて樹脂成形品の表面層を可塑化する転写成形方法にも用いることができる。この場合、上温調駒3a及び下温調駒3bは成形機の上基台7a及び下基台7bに取り付けられていなくてもよく、スプリング23は配置されていなくてもよい。
【0038】
可動駒11と成形型13は、一体に形成されていてもよい。
以下に、本願出願の当初の特許請求の範囲に記載された発明を付記する。
[1]
成形機の基台に取り付けられる金型であって、
基台に対向する基台側面、及び前記基台側面と反対側の成形側面を有する板状の可動駒、
前記可動駒の成形側面に、前記可動駒の縁部が露出するように配置されている成形型、
前記可動駒の縁部の成形側面に対向するように配置され、かつ前記基台に取り付けられ
ている可動駒受け体、並びに
前記可動駒の縁部と前記可動駒受け体との間に配置されている圧力センサを備え、
前記可動駒は、成形時に基台側に位置し、離型時に可動駒受け体側に位置する金型。
[2]
前記可動駒の縁部の成形側面に形成されている可動駒側位置決め溝、前記可動駒受け体の基台側面に形成されている受け体側位置決め溝、及び前記可動駒側位置決め溝と前記受け体側位置決め溝に挿入されている可動駒位置決め体をさらに備え、
前記圧力センサは、前記可動駒位置決め体と前記可動駒受け体との間に配置されている[1]に記載の金型。
[3]
前記基台と前記可動駒との間に配置されている温調駒、及び前記可動駒と前記可動駒受け体との間に配置されている弾性部材をさらに備える[1]又は[2]に記載の金型。
【符号の説明】
【0039】
1 金型
11 可動駒
13 成形型
15 可動駒受け体
17 圧力センサ