(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-07
(45)【発行日】2024-05-15
(54)【発明の名称】不織布用繊維処理剤
(51)【国際特許分類】
D06M 13/292 20060101AFI20240508BHJP
A61F 13/511 20060101ALI20240508BHJP
【FI】
D06M13/292
A61F13/511
(21)【出願番号】P 2020054275
(22)【出願日】2020-03-25
【審査請求日】2022-12-23
(31)【優先権主張番号】P 2019064590
(32)【優先日】2019-03-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000114318
【氏名又は名称】ミヨシ油脂株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100218062
【氏名又は名称】小野 悠樹
(74)【代理人】
【識別番号】100093230
【氏名又は名称】西澤 利夫
(72)【発明者】
【氏名】新関 恒一
【審査官】大▲わき▼ 弘子
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-231666(JP,A)
【文献】特開2018-154948(JP,A)
【文献】特開2018-154942(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D06M13/00-15/715、
D04H1/00-18/04、
A61F13/511
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリオキシアルキレン分岐アルキルエーテルリン酸エステル塩(A)
と、
直鎖または分岐のアルキルリン酸エステル塩およびポリオキシアルキレン直鎖アルキルエーテルリン酸エステル塩から選ばれる少なくとも1種(B)と、
を含有し、
前記成分(A)は、分岐アルキル基の炭素数が16以下であり、
前記成分(A)の含有量が10質量%以上である、
不織布用繊維処理剤。
【請求項2】
前記成分(A)の含有量が70質量%以下である、請求項
1に記載の不織布用繊維処理剤。
【請求項3】
前記成分(B)として、アルキル基の炭素数が16~22である成分(B1)を含有する、請求項
1に記載の不織布用繊維処理剤。
【請求項4】
前記成分(A)に対する前記成分(B1)の質量比(B1)/(A)が0.01~0.40である、請求項
3に記載の不織布用繊維処理剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、不織布用繊維処理剤に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、衛生材料向け不織布等の分野において、合成繊維に親水性を付与するために種々のアルキルリン酸エステル塩や、親水性シリコーン誘導体、非イオン界面活性剤等を配合した薬剤を用いる手法が提案されている(特許文献1~6等参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平4-82961号公報
【文献】特開平9-215706号公報
【文献】特開2010-70875号公報
【文献】特開2018-119228号公報
【文献】特開2017-210693号公報
【文献】特許第6291617号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一方で不織布製造は製造装置の進歩による著しい高速化や繊維の微細化により薬剤は高い工程通過性を求められ、薬剤はとりわけ高度な帯電防止性付与の機能性が要求される。
【0005】
しかしながら、帯電防止性や透水速度向上のため親水性の強いアルキルリン酸エステル塩を適用すると、得られた不織布は繰り返し透水性を著しく損なう。
【0006】
また、繰り返し透水性向上のため繊維処理剤に非イオン界面活性剤や親水性シリコーン誘導体を配合すると、帯電防止性の低下や製造コストの上昇などの問題を生じるため、これらの性能を両立しうる繊維処理剤の開発が課題として挙げられる。
【0007】
合成繊維の親水化処理に用いられるアルキルリン酸エステル塩のなかでも、特許文献5、6のようにアルキル鎖に分岐を有するアルキルリン酸エステル塩は極めて良好な親水性と帯電防止性を付与することができ、強親水性の付与や短繊維不織布製造時の工程通過性改良などを目的に繊維処理剤へ配合されている。しかしながら、これらの繊維処理剤は特定の衛生材料向け不織布に要求される帯電防止性や工程通過性、繰り返し透水性には不十分なレベルであり、問題の解決には至らなかった。
【0008】
本発明は、以上のような事情に鑑みてなされたものであり、繰り返し透水性を損なうこと無く、良好な親水性と帯電防止性、工程通過性を付与する不織布用繊維処理剤を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は上記課題を解決するために鋭意検討した結果、原料である分岐高級アルコールにポリオキシエチレン鎖を導入したポリオキシエチレン分岐アルキルエーテルリン酸エステル塩を薬剤中に配合することにより、薬剤の繰り返し透水性を阻害せず良好な親水性と帯電防止性、工程通過性を不織布に付与できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち本発明の不織布用繊維処理剤は、ポリオキシアルキレン分岐アルキルエーテルリン酸エステル塩(A)を含有することを特徴としている。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、不織布の原糸もしくは原綿、これらを加工した不織布自身へ吸水性能ならびに帯電防止性能等を付与するとともに、薬剤処理した不織布の繰り返し透水性を損なうことなく工程通過性を改善できる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、本発明を詳細に説明する。
【0013】
本発明の不織布用繊維処理剤に使用される成分(A)は、ポリオキシアルキレン分岐アルキルエーテルリン酸エステル塩である。成分(A)は、次式(I)で表されるリン酸モノエステル塩および/またはリン酸ジエステル塩を主成分とし、リン酸モノエステル塩を最も多く含むものが好ましい。成分(A)は、これらの他、ポリリン酸塩等を含んでもよい。成分(A)は、典型的にはこれらの混合物である。
【0014】
【化1】
(上記式中、R
aは分岐アルキル基、AOはオキシアルキレン基(Aはアルキレン部位)を示し、Mはカチオンを示し、mはポリオキシアルキレンの平均付加モル数、nは1または2の整数を示す。各式中におけるR
aおよびMが複数の場合、その各々は同一でも互いに異なっていてもよい。AOは、各々が同一であっても互いに異なっていてもよい。) リン酸モノエステル塩、リン酸ジエステル塩等の混合物である成分(A)は、例えば、対応する分岐アルキル基を有するポリオキシアルキレン分岐アルキルエーテルと無水リン酸を反応させることにより得られるポリオキシアルキレン分岐アルキルエーテルリン酸を、水酸化カリウム等のアルカリで中和することにより得ることができる。
【0015】
成分(A)における分岐アルキル基の炭素数は、特に限定されるものではないが、本発明の効果を得る点、特に帯電防止性、工程通過性が良好となる点や、溶解性を高め高濃度配合を可能とする点を考慮すると、18以下が好ましく、16以下がより好ましく、16未満が更に好ましい。帯電防止性、工程通過性、親水性の点では14以下がより好ましく、12以下が更に好ましい。繰り返し透水性の点では6以上が好ましく、8以上がより好ましい。
【0016】
分岐アルキル基としては、例えば、主鎖に1つまたは複数、例えば1~2個の分岐鎖を有するアルキル基が挙げられる。分岐の形態としては、特に限定されず、iso、neo、sec、tertで表記される分岐形態を含む。具体的には、例えば、2-エチルヘキシル基等のイソオクチル基、2-プロピルヘプチル基や3,6-ジメチルオクチル基等のイソデシル基、2-ブチルオクチル基等のイソドデシル基、3,5-ジメチルウンデシル基等のイソトリデシル基、2-ヘプチルノニル基等のイソセチル基、2-メチルヘプタデシル基等のイソステアリル基等が挙げられる。成分(A)の原料となる分岐高級アルコールはオレフィンのヒドロホルミル化反応により得られる分岐構造を有するアルコール(オキソアルコール)や、ゲルベ反応による2分子縮合で得られた、β位に分岐構造を有するアルコール(ゲルベアルコール)が市販されており、これらを用いることが好ましく、いずれの分岐高級アルコールも側鎖は直鎖状であっても分岐状であってもよい。
【0017】
成分(A)においてポリオキシアルキレン基は、繰り返し透水性を向上させる。成分(A)におけるオキシアルキレン基は、炭素数2~4が好ましく、炭素数2~3がより好ましく、炭素数2が更に好ましい。その中でも、各々が同一であっても互いに異なっていてもよい。オキシアルキレン基の全体において、オキシエチレン基を含んでいることが好ましい。その中でも、全てのオキシアルキレン基がオキシエチレン基のみからなるもの、オキシエチレン基とオキシプロピレン基が混在しているものがより好ましく、全てのオキシアルキレン基がオキシエチレン基のみからなるものが更に好ましい。オキシアルキレン基に炭素数の異なる複数種が混在している場合、例えばオキシエチレン基とオキシプロピレン基が混在している場合、これらはランダム状に混在していてもよく、ブロック状に混在していてもよい。
【0018】
成分(A)のうち、ポリオキシアルキレン分岐アルキルエーテルリン酸エステル塩におけるポリオキシアルキレンの平均付加モル数mは、特に限定されないが、繰り返し透水性を付与する点を考慮すると1以上が好ましい。帯電防止性、工程通過性が良好となる点や、親水性が良好となる点を考慮すると、20以下が好ましく、18以下がより好ましく、15以下が更に好ましく、10以下が特に好ましく、7以下が最も好ましい。
【0019】
成分(A)におけるカチオンMとしては、特に限定されるものではないが、例えば、水素、アルカリ金属、アルカリ土類金属、マグネシウム、有機アンモニウム等が挙げられる。アルカリ金属としては、例えば、リチウム、ナトリウム、カリウム等が挙げられる。アルカリ土類金属としては、例えば、カルシウム等が挙げられる。有機アンモニウムとしては、例えば、NR1R2R3R4で表されるものが挙げられる。ここでR1~R4はそれぞれ独立に、水素原子、ヒドロキシ基を含んでもよいアルキル基もしくはアルキレン基、またはポリオキシアルキレン基を示す。これらの中でも、ナトリウムおよびカリウムから選ばれるいずれかのアルカリ金属、アンモニウム、炭素数20以下、好ましくは10以下、より好ましくは5以下のアルキル基もしくはヒドロキシアルキル基を有する有機アンモニウムが好ましい。
【0020】
成分(A)としては、例えば、ポリオキシエチレン2-エチルヘキシルエーテルリン酸エステル塩(POE(1)~POE(20))、ポリオキシエチレン3,6-ジメチルオクチルエーテルリン酸エステル塩(POE(1)~POE(20))、ポリオキシエチレン2-プロピルヘプチルエーテルリン酸エステル塩(POE(1)~POE(20))、ポリオキシエチレン2-ブチルヘキシルエーテルリン酸エステル塩(POE(1)~POE(20))、ポリオキシエチレン3,5-ジメチルウンデシルエーテルリン酸エステル塩(POE(1)~POE(20))、ポリオキシエチレン2-ヘプチルノニルエーテルリン酸エステル塩(POE(1)~POE(20))、ポリオキシエチレン2-メチルヘプタデシルエーテルリン酸エステル塩(POE(1)~POE(20))等が挙げられる。なお、括弧内の数字は、ポリオキシエチレン(POE)単位の数を示す。
【0021】
本発明の不織布用繊維処理剤において、成分(A)の含有量は、本発明の効果、特に繰り返し透水性、帯電防止性が良好となる点から、10質量%以上が好ましく、12質量%以上がより好ましく、20質量%以上が更に好ましい。また、溶解性、ハンドリング性等や、本発明の効果を得る点を併せて考慮すると、70質量%以下が好ましく、50質量%以下がより好ましく、40質量%以下が更に好ましい。
【0022】
本発明の不織布用繊維処理剤は、直鎖または分岐のアルキルリン酸エステル塩およびポリオキシアルキレン直鎖アルキルエーテルリン酸エステル塩から選ばれる少なくとも1種(B)を更に含有することが好ましい。成分(B)を更に含有することで、本発明の効果、特に繰り返し透水性がより良好となる。すなわち、成分(A)による良好な親水性と帯電防止性、工程通過性とのバランスを保ちながら、繰り返し透水性も満足する不織布用繊維処理剤が得られる。
【0023】
成分(B)は、次式(II)で表されるリン酸モノエステル塩および/またはリン酸ジエステル塩を主成分とし、リン酸モノエステル塩を最も多く含むものが好ましい。成分(B)は、これらの他、ポリリン酸塩等を含んでもよい。成分(B)は、典型的にはこれらの混合物である。
【0024】
【化2】
(上記式中、R
bはアルキル基、AOはオキシアルキレン基(Aはアルキレン部位)を示し、Mはカチオンを示し、mはポリオキシアルキレンの平均付加モル数、nは1または2の整数を示す。各式中におけるRおよびMが複数の場合、その各々は同一でも互いに異なっていてもよい。AOは、各々が同一であっても互いに異なっていてもよい。)
【0025】
リン酸モノエステル塩、リン酸ジエステル塩等の混合物である成分(B)は、例えば、対応するアルキル基を有するアルキルアルコールやポリオキシアルキレンアルキルエーテルと無水リン酸を反応させることにより得られるアルキルリン酸エステルやポリオキシアルキレンアルキルエーテルリン酸を、水酸化カリウム等のアルカリで中和することにより得ることができる。
【0026】
成分(B)におけるアルキル基の炭素数は、特に限定されるものではないが、本発明の効果が全体的により良好となる点を考慮すると、4~22が好ましく、6~22がより好ましい。
【0027】
その中でも、本発明の不織布用繊維処理剤は、成分(B)として、アルキル基の炭素数が16~22である成分(B1)を含有することが好ましい。アルキル基の炭素数が16~22である成分(B1)を含有すると、疎水性であるアルキル基の炭素数がより大きいため、特に繰り返し透水性がより良好となる。すなわち、成分(A)による良好な親水性と帯電防止性、工程通過性とのバランスを保ちながら、繰り返し透水性も満足する不織布用繊維処理剤が得られる。
【0028】
成分(B)のアルキル基としては、例えば、ブチル基、ヘキシル基、オクチル基、2-エチルヘキシル基(イソオクチル基)、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基(ラウリル基)、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基(ステアリル基)、ノナデシル基、イコシル基、へンイコシル基、ドコシル基等が挙げられる。成分(B)は、互いに異なるアルキル基を有する化合物の混合物であってもよく、この場合、上記アルキル基の炭素数は、平均炭素数である。分岐アルキル基としては、例えば、主鎖に1つまたは複数、例えば1~2個の分岐鎖を有するアルキル基が挙げられる。分岐の形態としては、特に限定されず、iso、neo、sec、tertで表記される分岐形態を含む。
【0029】
成分(B)のうち、ポリオキシアルキレン直鎖アルキルエーテルリン酸エステル塩におけるオキシアルキレン基は、炭素数2~4が好ましく、炭素数2~3がより好ましく、炭素数2が更に好ましい。その中でも、各々が同一であっても互いに異なっていてもよい。オキシアルキレン基の全体において、オキシエチレン基を含んでいることが好ましい。その中でも、全てのオキシアルキレン基がオキシエチレン基のみからなるもの、オキシエチレン基とオキシプロピレン基が混在しているものがより好ましく、全てのオキシアルキレン基がオキシエチレン基のみからなるものが更に好ましい。オキシアルキレン基に炭素数の異なる複数種が混在している場合、例えばオキシエチレン基とオキシプロピレン基が混在している場合、これらはランダム状に混在していてもよく、ブロック状に混在していてもよい。
【0030】
成分(B)のうち、ポリオキシアルキレン直鎖アルキルエーテルリン酸エステル塩におけるポリオキシアルキレンの平均付加モル数mは、前記式(I)中におけるRO(AO)mが複数の場合はそれぞれ独立に、例えば0.25以上、0.5以上、1以上、または2以上である。また、例えば30以下、20以下、10以下、または6以下である。
【0031】
成分(B)におけるカチオンMとしては、特に限定されるものではないが、例えば、水素、アルカリ金属、アルカリ土類金属、マグネシウム、有機アンモニウム等が挙げられる。アルカリ金属としては、例えば、リチウム、ナトリウム、カリウム等が挙げられる。アルカリ土類金属としては、例えば、カルシウム等が挙げられる。有機アンモニウムとしては、例えば、NR1R2R3R4で表されるものが挙げられる。ここでR1~R4はそれぞれ独立に、水素原子、ヒドロキシ基を含んでもよいアルキル基もしくはアルキレン基、またはポリオキシアルキレン基を示す。これらの中でも、ナトリウムおよびカリウムから選ばれるいずれかのアルカリ金属、アンモニウム、炭素数20以下、好ましくは10以下、より好ましくは5以下のアルキル基もしくはヒドロキシアルキル基を有する有機アンモニウムが好ましい。
【0032】
成分(B)のうち、直鎖または分岐のアルキルリン酸エステル塩としては、例えば、ヘキシルリン酸エステル塩、オクチルリン酸エステル塩、2-エチルヘキシルリン酸エステル塩、デシルリン酸エステル塩、イソデシルリン酸エステル塩、ドデシルリン酸エステル塩(ラウリルリン酸エステル塩)、トリデシルリン酸エステル塩、イソトリデシルリン酸エステル塩、テトラデシルリン酸エステル塩(ミリスチルリン酸エステル塩)、ヘキサデシルリン酸エステル塩(セチルリン酸エステル塩)、オクタデシルリン酸エステル塩(ステアリルリン酸エステル塩)、イソオクタデシルリン酸エステル塩(イソステアリルリン酸エステル塩)等が挙げられる。
【0033】
成分(B)のうち、ポリオキシアルキレン直鎖アルキルエーテルリン酸エステル塩としては、例えば、ポリオキシエチレンヘキシルエーテルリン酸エステル塩(POE(1)~POE(30))、ポリオキシエチレンオクチルエーテルリン酸エステル塩(POE(1)~POE(30))、ポリオキシエチレンデシルエーテルリン酸エステル塩(POE(1)~POE(30))、ポリオキシエチレンドデシルエーテルリン酸エステル塩(ラウリルエーテルリン酸エステル塩)(POE(1)~POE(30))、ポリオキシエチレントリデシルエーテルリン酸エステル塩(POE(1)~POE(30))、ポリオキシエチレンテトラデシルエーテルリン酸エステル塩(ミリスチルエーテルリン酸エステル塩)(POE(1)~POE(30))、ポリオキシエチレンヘキサデシルエーテルリン酸エステル塩(セチルエーテルリン酸エステル塩)(POE(1)~POE(30))、ポリオキシエチレンオクタデシルエーテルリン酸エステル塩(ステアリルエーテルリン酸エステル塩)(POE(1)~POE(30))等が挙げられる。なお、括弧内の数字は、ポリオキシエチレン(POE)単位の数を示す。
【0034】
本発明の不織布用繊維処理剤における成分(A)ならびに成分(B)の製造方法は特に限定されるものではないが、対応するアルキル基を有するアルキルアルコールおよび/またはポリオキシアルキレンアルキルエーテルと五酸化二リンの無溶媒による反応後にアルカリ物質で中和する方法により簡便に目的の化合物を得ることができる。この方法を用いる場合、対応するアルキル基を有するアルキルアルコールおよび/またはポリオキシアルキレンアルキルエーテルと五酸化二リンとの反応モル比[(リン酸化度)=(対応するアルキル基を有するアルキルアルコールおよび/またはポリオキシアルキレンアルキルエーテルのモル数)/五酸化二リンのモル数]によりリン酸モノエステル塩の生成量が変化するが、経験的にリン酸化度は2.0~3.0が好ましい。リン酸化度が2.0未満となると成分中に無機リン酸塩が多くなり工程通過性に悪影響を及ぼす虞があり、リン酸化度が3.0を超えると未反応のポリオキシアルキレンアルキルエーテルが増加して親水性や帯電防止性に悪影響を及ぼす虞がある。
【0035】
本発明の不織布用繊維処理剤において、成分(A)に対する成分(B)の質量比(B)/(A)は、成分(A)による親水性・浸透性を維持しながら成分(B)により繰り返し透水性が良好となる点等を考慮すると、3以下が好ましく、2以下がより好ましい。
【0036】
本発明の不織布用繊維処理剤において、成分(A)に対する成分(B1)の質量比(B1)/(A)は、成分(A)による親水性・浸透性を維持しながら成分(B1)により繰り返し透水性が良好となる点等を考慮すると、0.01~0.40が好ましく、0.01~0.30がより好ましく、0.01~0.20が更に好ましい。
【0037】
本発明の不織布用繊維処理剤において、成分(A)、(B)の合計量は、本発明の効果を得る点を考慮すると、不織布用繊維処理剤の固形分に対して50質量%以上が好ましく、70質量%がより好ましく、80質量%以上が更に好ましく、90質量%以上が特に好ましく、95質量%以上が最も好ましい。ここで固形分は、繊維へ付着処理した際に消失する水や溶剤等の揮発性成分を除いた割合である。
【0038】
本発明の不織布用繊維処理剤は、成分(A)、(B)を溶解するための水や溶剤を含有し、その中でも水を含有することが好ましい。本発明に使用する水としては、純水、蒸留水、精製水、軟水、イオン交換水、水道水等のいずれであってもよい。本発明の不織布用繊維処理剤における固形分の割合は、特に限定されないが、5~90質量%が好ましく、10~80質量%がより好ましい。
【0039】
本発明の不織布用繊維処理剤は、上記した各成分以外に、本発明の効果を損なわない範囲内において、その他の成分を含有していてもよい。その他の成分としては、例えば、界面活性剤、親水性シリコーン樹脂、浸透剤、平滑剤、抗菌剤、酸化防止剤、防腐剤、艶消し剤、顔料、防錆剤、芳香剤、消泡剤、香料、pH調整剤、粘度調整剤等が挙げられる。界面活性剤としては、例えば、ポリオキシアルキレンアルキルエーテルおよびポリオキシアルキレンアルケニルエーテル、ポリオキシアルキレン脂肪酸エステル、脂肪酸アルカノールアミド等の非イオン界面活性剤、アルファオレフィンスルホン酸塩およびアルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキル硫酸塩、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル硫酸塩、スルホコハク酸エステル塩等の陰イオン界面活性剤、アルキルベタインおよびアルキルスルホベタイン、アルキルアミノ脂肪酸塩等の両性界面活性剤、アルキル第四級アンモニウム塩等の陽イオン界面活性剤等が挙げられる。
非イオン界面活性剤は、帯電防止性や工程通過性を損なう恐れがあることから、本発明の不織布用繊維処理剤に用いる場合、その含有量は、50質量%以下が好ましく、30質量%以下がより好ましく、10質量%以下がさらに好ましい。
【0040】
本発明の不織布用繊維処理剤の製造方法としては、特に限定されるものではないが、例えば、成分(A)、(B)および水を配合し、必要に応じてその他の成分を配合し、常温または必要に応じて加熱(例えば40~100℃)して均一に混合することにより、本発明の不織布用繊維処理剤を得ることができる。各成分の配合順序、配合方法は特に限定されない。本発明の不織布用繊維処理剤は、例えば、本発明の不織布用繊維処理剤を必要に応じて水で希釈して、水溶液もしくはエマルション分散液として繊維に付与することができる。
【0041】
次に、本発明の不織布用繊維処理剤を用いた不織布について説明する。
【0042】
不織布の原料繊維としては、例えば、ポリエチレンやポリプロピレン等のポリオレフィン繊維、ポリエステル繊維、ポリアミド繊維等の合成繊維、レーヨンやキュプラ等の再生繊維、綿等の天然繊維等や、これらのうち2種以上を使用した混合繊維、複合繊維等が挙げられる。
【0043】
繊維の断面形態としては、円形断面、異形断面等が挙げられる。異形断面としては、例えば、星形、楕円形、三角形、四角形、五角形、多葉形、アレイ形、T字形、馬蹄形等が挙げられる。
【0044】
複合繊維の断面形態としては、例えば、鞘芯型、並列型、偏心鞘芯型、多層型、放射型、海島型等が挙げられる。複合繊維としては、例えば、高密度ポリエチレン/ポリプロピレン、直鎖状低密度ポリエチレン/ポリプロピレン、低密度ポリエチレン/ポリプロピレン、プロピレンと他のα-オレフィンとの二元共重合体または三元共重合体/ポリプロピレン、直鎖状低密度ポリエチレン/高密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン/高密度ポリエチレン等のポリオレフィン樹脂/ポリオレフィン樹脂や、ポリプロピレン/ポリエチレンテレフタレート、高密度ポリエチレン/ポリエチレンテレフタレート、直鎖状低密度ポリエチレン/ポリエチレンテレフタレート、低密度ポリエチレン/ポリエチレンテレフタレート等のポリオレフィン樹脂/ポリエステル樹脂や、共重合ポリエステル/ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル樹脂/ポリエステル樹脂や、ポリアミド樹脂/ポリエステル樹脂、ポリオレフィン樹脂/ポリアミド樹脂の組み合わせ等が挙げられる。
【0045】
原料繊維の紡糸方法としては、公知の紡糸方法であってよく、例えば、溶融紡糸法、湿式紡糸法、乾式紡糸等が挙げられる。紡糸した繊維は、延伸、捲縮等の処理を行ってもよい。
【0046】
不織布の製造工程では、繊維の集積層(ウェブ)を形成し、次に繊維同士を結合させる。
【0047】
繊維の集積層を形成する方法としては、例えば、乾式法、湿式法、スパンボンド法等が挙げられる。乾式法は、短繊維(例えば15~100mm)を、カード機やエアレイと呼ばれる空気流で一定方向またはランダムに並べて、繊維の集積層を形成する。湿式法は、短い繊維を水中に分散し抄紙機で漉いて繊維の集積層を形成する。スパンボンド法は、溶融した原料樹脂を紡糸機のノズルの先から溶出・紡糸させ、連続した長繊維で繊維の集積層を形成する。繊維を作る(紡糸)工程からそのまま不織布を製造する方法としては、その他にメルトブロー法、フラッシュ紡糸法等が挙げられる。
本発明の不織布用繊維処理剤は、帯電防止性や工程通過性に優れることから、短繊維(例えば15~100mm)に用いられることが好ましい。
【0048】
繊維同士を結合させる方法としては、例えば、サーマルボンド法、ニードルパンチ法、水流絡合法、ケミカルボンド法等が挙げられる。サーマルボンド法は、低融点の熱融着繊維を混合した繊維の集積層を、熱ロールの間を通して熱圧着し、あるいは熱風を当て、繊維同士を接着させる。ニードルパンチ法は、繊維の集積層を、高速で上下するニードル(針)で繰り返し突き刺し、ニードルに刻まれた突起により繊維を絡ませる。水流絡合法は、スパンレース、ウォーターパンチ、ウォータージェットとも呼ばれ、繊維の集積層に高圧の水流を噴射して繊維を絡ませる。ケミカルボンド法は、エマルジョン系の接着樹脂を含浸や噴霧等の方法で繊維の集積層に付着させ、加熱乾燥させて繊維の交点を接着する。
【0049】
本発明の不織布用繊維処理剤を用いて、繊維に付着処理する方法は、特に限定されるものではない。本発明の不織布用繊維処理剤は、製造工程の円滑化、容易化等を目的とする紡糸油剤、工程油剤や、最終用途に対する効果を目的とする仕上げ油剤として供給されてよい。工程油剤として使用される場合、カード機等での摩擦による静電気の発生、繊維のちぎれ、毛玉の発生等を抑制する、制電性能、平滑性、耐久性、熱安定性、安全性等の性能も付与し得る。本発明の不織布用繊維処理剤を繊維に付着させる工程としては、例えば、紡糸、延伸、捲縮等の工程が挙げられる。付着方法としては、繊維の製造工程やその特性に応じて均一に効率よく目的の付着量が得られる手段として、例えば、ローラーによる給油、浸漬、噴霧、泡塗工等の手段で本発明の不織布用繊維処理剤を繊維に供給し、乾燥する方法等が挙げられる。あるいは、繊維同士を結合した不織布に対して本発明の不織布用繊維処理剤を、例えば、ローラーによる給油、浸漬、噴霧、泡塗工等の手段で、供給、乾燥することで付着処理してもよい。
【0050】
本発明の不織布用繊維処理剤は、合成繊維に対し、吸水性能ならびに帯電防止性能等を付与し、不織布製造の工程油剤や仕上げ油剤として利用できるとともに、不織布へ帯電防止性と親水性、繰り返し透水性を付与する。
【0051】
本発明の不織布用繊維処理剤の繊維への付着量は、特に限定されるものではないが、本発明の効果を得る点や工程油剤としての性能等を考慮すると、繊維質量を基準とし固形分として0.05~2質量%が好ましく、0.1~1.5質量%がより好ましい。
【0052】
本発明の不織布用繊維処理剤で繊維が付着処理された不織布は、不織布の原糸もしくは原綿、これらを加工した不織布自身へ吸水性能ならびに帯電防止性能等を付与するとともに、薬剤処理した不織布の繰り返し透水性を損なうことなく工程通過性を改善できることから、このような性能が要求される各種用途に使用することができる。本発明の不織布が使用可能な分野としては、例えば、衛生材料用、医療用、衣料用、日用雑貨、農業・土木資材用、テープ用基材、フィルター用、包装資材用等が挙げられる。その中でも、紙おむつ、生理用品、マスク、包帯、絆創膏、消毒布、サージカルテープ等の衛生材料用、特に、乳児用使い捨ておむつ、介護用使い捨ておむつ等の紙おむつ、ナプキン等の生理用品等の吸収性物品の表面材、例えばトップシートや、トップシートと吸収要素との間に配置される中間シート等に好適である。
【実施例】
【0053】
以下に、実施例により本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
1.不織布用繊維処理剤の調製
表3、表4の配合(質量部)の各成分を、50℃で1時間撹拌して実施例および比較例の不織布用繊維処理剤を作製した。
【0054】
表3、表4に示すポリオキシアルキレン分岐アルキルエーテルリン酸エステル塩(A)、アルキルリン酸エステル塩またはポリオキシアルキレンアルキルエーテルリン酸エステル塩(B)は次のものを使用した。表3、表4に記載の配合量は有効分を示している。
【0055】
ポリオキシアルキレン分岐アルキルエーテルリン酸エステル塩(A)
【0056】
【0057】
アルキルリン酸エステル塩および/またはポリオキシアルキレンアルキルエーテルリン酸エステル塩(B)
【0058】
【0059】
2.評価
上記において作製した不織布用繊維処理剤を用いて次の評価を行った。
【0060】
以下の記述において、薬剤は実施例および比較例の不織布用繊維処理剤、付着量は薬剤の水以外の固形分(全有効分)の付着量を意味する。
【0061】
[親水性(ストライクスルー試験)]
2つの円筒形測定器具(内径40φ)の間に、目標付着量が0.4質量%となるように薬剤処理した10cm角のポリエチレンテレフタレート/ポリエチレン複合繊維(PET/PE)製評価用不織布(エアスルー不織布、目付20g/m2)を4枚挟み、測定器具の上部円筒へ生理食塩水を50cc注ぎ入れた。注いだ生理食塩水が評価用不織布を30ccにするまでの時間を測定し、初期透水性能を評価した。
評価は生理食塩水の透過時間が10秒以内であるものを◎+、同じく10秒超30秒以内であれば◎、30秒超1分以内は○、1分超2分以内は△、2分を超えるものは×とした。
【0062】
[繰り返し透水性(水滴法)]
ストライクスルー試験の操作を5回連続で行った後、試験直後の薬剤処理不織布4枚を濾紙で挟み、ローラーを用いて水分を取り除いた。表面側の濾紙を取り除き、ストライクスルー試験部分にシリンジを用いて生理食塩水の水滴を10箇所落とした。
評価は水滴が3秒以内に染込む箇所を計測して行い、全て染込む場合は◎+、8箇所以上は◎、7もしくは6箇所は○、5~2箇所は△、1箇所以下は×とした。
【0063】
[浸透性(綿沈降法)]
評価する薬剤の5%水溶液(有効分換算)を200mL調製して、その上から薬剤未処理のポリエチレンテレフタレート/ポリエチレン複合繊維(PET/PE)製評価用短繊維(1.7dtex、38mm)0.5gを静かに投下し、短繊維全体が水溶液中に水没するまでの時間を測定した。
評価は短繊維全体が水溶液中に水没するまでの時間が3秒以内であれば◎+、5秒以内であれば◎、10秒以内であれば○、15秒以内であれば△、15秒を超えるものは×とした。
【0064】
[カード通過性]
評価する薬剤をポリエチレンテレフタレート/ポリエチレン複合繊維(PET/PE)製評価用短繊維(1.7dtex、38mm)20gに付着油量0.5%(有効分換算)となるように浸漬処理し、80℃で30分間乾燥させた後、オープナーで開繊した。開繊した処理原綿を全量ミニチュアローラーカードに通過させ、通過時の状態ならびに得られたウェブの状態を以下の項目について確認した。
(1)フライ発生の有無
(2)ネップ発生の有無
(3)スカム発生の有無
(4)シリンダーへの巻きつきの有無
(5)ウェブの形成不良
評価は(1)から(5)の項目が全く生じなければ◎+、軽度の不良が1つ生じた場合は◎、軽度の不良が2つ生じた場合は○、軽度の不良が3つ以上生じた場合は△、いずれか重度の不良が生じれば×とした。
【0065】
[表面漏洩抵抗]
カード通過性評価で得られたウェブの表面漏洩抵抗値をJIS L 1094 附属書Aに記載の方法を参考にして、25℃、40%RHの環境下において24時間調湿後に測定した。
評価は測定された表面漏洩抵抗値が1.0×108Ω未満は◎+、1.0×108Ω以上5.0×108Ω未満は◎、5.0×108Ω以上1.0×109Ω未満は○、1.0×109Ω以上1.0×1010Ω未満は△、1.0×1010Ω以上は×とした。
【0066】
上記評価の結果を表3、表4に示す。
【0067】
【0068】