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特許7483491医用画像処理装置、放射線治療計画装置及び医用画像処理方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-07
(45)【発行日】2024-05-15
(54)【発明の名称】医用画像処理装置、放射線治療計画装置及び医用画像処理方法
(51)【国際特許分類】
   A61N 5/10 20060101AFI20240508BHJP
   A61B 5/055 20060101ALI20240508BHJP
   G06T 7/00 20170101ALI20240508BHJP
【FI】
A61N5/10 P
A61B5/055 380
A61B5/055 390
G06T7/00 612
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2020086092
(22)【出願日】2020-05-15
(65)【公開番号】P2021178126
(43)【公開日】2021-11-18
【審査請求日】2023-04-04
(73)【特許権者】
【識別番号】594164542
【氏名又は名称】キヤノンメディカルシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003708
【氏名又は名称】弁理士法人鈴榮特許綜合事務所
(72)【発明者】
【氏名】大石 悟
【審査官】段 吉享
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-028252(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61N 5/10
A61B 6/03
A61B 5/055
G06T 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者に関するMR画像に含まれる腫瘍領域の第1の境界領域を同定する同定部と、
前記第1の境界領域を、前記第1の境界領域に解剖学的に対応する、前記患者に関するX線特性画像における第2の境界領域に変換する変換部と、
前記第2の境界領域を前記X線特性画像に描画する描画部と、を具備し、
前記変換部は、磁場の歪み補正なしの第1のMR座標系から磁場の歪み補正がされた第2のMR座標系への第1の変換と前記第2のMR座標系から前記患者の体位補正なしの第1のX線特性座標系への第2の変換とに基づいて前記第1の境界領域を変形して前記第2の境界領域に変換する、
医用画像処理装置。
【請求項2】
前記同定部は、歪み補正なし且つ体位補正なしの前記MR画像から前記第1の境界領域を同定する、請求項1記載の医用画像処理装置。
【請求項3】
前記MR画像の撮像時における撮像部位の解剖学的構造と、前記X線特性画像の撮像時における前記撮像部位の解剖学的構造とが略一致するか否かを判定する判定部を更に備え、
前記変換部は、前記判定部により略一致しないと判定された場合、磁場の歪み補正なしの前記第1のMR座標系から磁場の歪み補正がされた前記第2のMR座標系への第1の変換と前記第2のMR座標系から前記患者の体位補正なしの第1のX線特性座標系への第2の変換と前記第1のX線特性座標系から前記患者の体位補正がされた第2のX線特性座標系への第3の変換とに基づいて、前記第1の境界領域を変形させることにより前記第2の境界領域を算出する、
請求項記載の医用画像処理装置。
【請求項4】
前記変換部は、
前記第1の境界領域を構成する複数の第1の頂点各々について前記第1の変換、前記第2の変換及び第3の変換を施して前記第2の境界領域を構成する複数の第2の頂点各々を算出し、
前記複数の第2の頂点に基づいて複数の多角形を構成し、
前記複数の多角形により画定される領域を前記第2の境界領域に決定する、
請求項記載の医用画像処理装置。
【請求項5】
前記第2の境界領域が描画された前記X線特性画像を表示する表示部を更に備える、請求項1記載の医用画像処理装置。
【請求項6】
前記表示部は、前記第2の境界領域が描画された前記X線特性画像に含まれるリスク臓器領域を強調する、請求項記載の医用画像処理装置。
【請求項7】
前記X線特性画像は、CT画像、X線吸収係数画像、電子密度画像又は物理密度画像である、請求項1記載の医用画像処理装置。
【請求項8】
患者に関するMR画像に含まれる腫瘍領域の第1の境界領域を同定する同定部と、
前記第1の境界領域を、前記第1の境界領域に解剖学的に対応する、前記患者に関するX線特性画像における第2の境界領域に変換する変換部と、
前記第2の境界領域を前記X線特性画像に描画する描画部と、
前記第2の境界領域が描画された前記X線特性画像に基づいて放射線治療計画を作成する計画部と、を具備し、
前記変換部は、磁場の歪み補正なしの第1のMR座標系から磁場の歪み補正がされた第2のMR座標系への第1の変換と前記第2のMR座標系から前記患者の体位補正なしの第1のX線特性座標系への第2の変換とに基づいて前記第1の境界領域を変形して前記第2の境界領域に変換する、
放射線治療計画装置。
【請求項9】
患者に関するMR画像に含まれる腫瘍領域の第1の境界領域を同定し、
前記第1の境界領域を、前記第1の境界領域に解剖学的に対応する、前記患者に関するX線特性画像における第2の境界領域に変換し、
前記第2の境界領域を前記X線特性画像に描画する、ことを具備し、
前記変換することは、磁場の歪み補正なしの第1のMR座標系から磁場の歪み補正がされた第2のMR座標系への第1の変換と前記第2のMR座標系から前記患者の体位補正なしの第1のX線特性座標系への第2の変換とに基づいて前記第1の境界領域を変形して前記第2の境界領域に変換する、
医用画像処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書及び図面に開示の実施形態は、医用画像処理装置、放射線治療計画装置及び医用画像処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
放射線治療計画では、通常、CT画像においてリスク臓器領域と腫瘍領域とが同定されている。しかし、腫瘍領域は、CT画像では同定し難い場合があり、そのような場合、MR画像に歪み補正や体位補正が施された後、補正したMR画像とCT画像との合成画像において腫瘍領域が同定されている。
【0003】
歪み補正と体位補正とは、双方とも、非剛体変換処理(ワーピング)であり、非剛体変換処理後の画素中心位置は、非剛体変換処理前の画素中心位置に一致しない。そのため、補間処理が必要になる。補間処理は一種のローパスフィルタリング処理であるため、処理を行う度に画像が劣化し、腫瘍領域等の境界が不明瞭になる。その結果、人間あるいはコンピュータによる自動境界決めに誤差が発生するおそれが生じる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特表2018-506349号公報
【文献】特開2016-116774号公報
【文献】特開平08-318001号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本明細書及び図面に開示の実施形態が解決しようとする課題の一つは、CT画像等のX線特性画像に腫瘍領域の境界領域を正確に描画することである。ただし、本明細書及び図面に開示の実施形態により解決しようとする課題は上記課題に限られない。後述する実施形態に示す各構成による各効果に対応する課題を他の課題として位置づけることもできる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
実施形態に係る医用画像処理装置は、同定部、変換部及び描画部を有する。同定部は、患者に関するMR画像に含まれる腫瘍領域の第1の境界領域を同定する。変換部は、前記第1の境界領域を、前記第1の境界領域に解剖学的に対応する、前記患者に関するX線特性画像における第2の境界領域に変換する。描画部は、前記第2の境界領域を前記X線特性画像に描画する。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1図1は、本実施形態に係る放射線治療計画装置を含む放射線治療システムの構成例を示す図である。
図2図2は、図1の放射線治療計画装置の構成例を示す図である。
図3図3は、放射線治療計画装置の処理回路による放射線治療計画の作成処理の流れの一例を示す図である。
図4図4は、図3に示す処理の流れを模式的に示す図である。
図5図5は、第1の変換、第2の変換及び第3の変換各々についてのフィールドマップの生成処理を模式的に示す図である。
図6図6は、図3のステップSA3における変換処理の流れの一例を示す図である。
図7図7は、図6に示す一連の変換処理の流れを模式的に示す図である。
図8図8は、図7のステップSB1における頂点の特定処理を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、図面を参照しながら、医用画像処理装置、放射線治療計画装置及び医用画像処理方法の実施形態について詳細に説明する。
【0009】
本実施形態に係る医用画像処理装置は、X線特性画像やMR画像等の医用画像を処理するコンピュータである。医用画像処理装置は、放射線治療計画装置に機能的に含まれても良いし、放射線治療計画装置とは別体のコンピュータであっても良い。以下の実施形態において医用画像処理装置は、放射線治療計画装置に機能的に含まれているとする。
【0010】
図1は、本実施形態に係る放射線治療計画装置5を含む放射線治療システム100の構成例を示す図である。図1に示すように、放射線治療システム100は、治療計画用CT(Computed Tomography)装置1、治療計画用MRI(Magnetic Resonance Imaging)装置2、PACS(Picture Archiving and Communication Systems)3、放射線治療情報システム4、放射線治療計画装置5及び放射線治療装置6を含む。治療計画用CT装置1、治療計画用MRI装置2、PACS3、放射線治療情報システム4、放射線治療計画装置5及び放射線治療装置6は、ネットワークを介して、相互に通信可能に接続されている。なお、図1に示す構成はあくまでも一例であり、実施形態はこれに限定されるものではなく、例えば、その他種々の装置(CT装置や、MRI装置などの他のモダリティ)やシステム(種々の部門システム)が放射線治療システム100に含まれてもよい。
【0011】
治療計画用CT装置1は、架台と寝台とコンソールとを有する。架台は、X線管とX線検出器とを回転軸回りに回転可能に支持する支持機構を搭載する。寝台は、患者が載置される天板と、天板を移動自在に支持する基台とを有する。天板は、治療計画用MRI装置2の天板と同様、放射線治療装置の天板のように平面形状を有している。架台は、X線管とX線検出器とを高速で回転させながら、X線管によるX線の照射とX線検出器によるX線の検出とを行うことにより、患者によるX線の減弱を示す生データをX線検出器により収集する。生データは、コンソールに伝送される。コンソールは、生データに基づいて3次元のX線特性画像を再構成する。コンソールは、X線特性画像として、CT値の空間分布を示す画像を生成してもよいし、CT値からX線吸収係数や電子密度、物理密度を算出し、X線吸収係数、電子密度又は物理密度の空間分布を示すX線吸収係数画像、電子密度画像又は物理密度画像を生成してもよい。X線特性画像は、PACS3及び放射線治療計画装置5に送信される。
【0012】
治療計画用MRI装置2は、架台と寝台とコンソールとを有する。架台は、例えば、静磁場磁石、傾斜磁場電源、傾斜磁場コイル、送信回路、送信コイル、受信コイル及び受信回路を有する。静磁場磁石を介した静磁場の印加の下、傾斜磁場コイルを介した傾斜磁場の印加と送信コイルを介したRFパルスの印加とが繰り返される。RFパルスの印加に起因して患者から放出されたMR信号が放出される。放出されたMR信号は、受信コイルを介して受信される。受信されたMR信号は、受信回路によりA/D変換等の信号処理が施される。A/D変換後のMR信号は、k空間データと呼ばれる。寝台は、患者が載置される天板と、天板を移動自在に支持する基台とを有する。天板は、治療計画用CT装置1の天板と同様、放射線治療装置6の天板のように平面形状を有している。コンソールは、k空間データに基づいてMR画像を再構成する。MR画像としては、如何なるコントラスト強調によるものでもよいが、例えば、解剖学的情報の描出に優れたT1強調画像が再構成されるとよい。MR画像は、PACS3及び放射線治療計画装置5に送信される。
【0013】
PACS3は、治療計画用CT装置1及び治療計画用MRI装置2を含む各種モダリティによって収集された医用画像をネットワークを介して受信し、保管、管理するコンピュータを含む。例えば、PACS3は、治療計画用CT装置1及び治療計画用MRI装置2によって生成された、同一患者に関するX線特性画像及びMR画像を保管、管理する。
【0014】
放射線治療情報システム4は、放射線治療に関する種々の情報を記憶して管理するコンピュータを含む。具体的には、放射線治療情報システム4は、放射線治療計画や実績情報(照射履歴)、種々の報告、患者の状況の記録など、治療の進捗に関わる種々の情報を、患者ごとに記憶して管理する。放射線治療情報システム4は、ネットワークに接続された各装置からアクセスされ、管理する情報を提供することができる。
【0015】
放射線治療計画装置5は、治療計画用CT装置1により生成された患者の3次元のX線特性画像及び治療計画用MRI装置2により生成された同一患者の3次元のMR画像を用いて、放射線治療装置6による放射線治療の放射線治療計画を作成するコンピュータである。放射線治療計画は、PACS3と放射線治療装置6とに供給される。
【0016】
放射線治療装置6は、治療用架台(ガントリ)と治療用寝台とコンソールとを有する。治療用架台は、照射ヘッドを回転軸回りに回転可能に支持する。照射ヘッドには、電子銃等により発生された電子等を加速する加速管と、加速管により加速された電子が衝突する金属ターゲットとが搭載される。金属ターゲットに電子が衝突することにより、放射線であるX線が発生する。照射ヘッドは、放射線治療計画装置5により作成される放射線治療計画に従い放射線を照射する。照射ヘッド内には放射線絞り器であるマルチリーフコリメータ(MLC:Multi-Leaf Collimator)が搭載されている。MLCは、放射線の照射範囲を設定する複数の放射線遮蔽板を有し、治療計画に基づいて各放射線遮蔽板を独立して駆動することで、放射線の照射領域(PTV)の形状に一致した照射野を形成することができる。照射ヘッドからの放射線のビーム軸と回転軸とが交わる点は、空間的に不動であり、アイソ・センタと呼ばれている。治療用寝台は、患者が載置される治療用天板と、治療用天板を移動自在に支持する基台とを有する。治療用天板は、治療計画用CT装置1及び治療計画用MRI装置2と同様、平面形状を有している。患者の治療部位がアイソ・センタに一致するように治療用架台、治療用寝台及び患者が位置合わせされる。なお、放射線治療装置6は、放射線としてX線を照射するLINIACに限定されず、粒子線を照射する粒子線治療装置でも良い。
【0017】
図2は、放射線治療計画装置5の構成例を示す図である。図2に示すように、放射線治療計画装置5は、処理回路51、通信機器53、表示機器55、入力機器57及び記憶装置59を有する。処理回路51は処理部の一例であり、通信機器53は通信部の一例であり、入力機器57は入力部の一例であり、記憶装置59は記憶部の一例である。
【0018】
処理回路51は、プロセッサを有する。当該プロセッサが記憶装置59等にインストールされた各種プログラムを起動することにより、取得機能511、同定機能512、変換機能513、判定機能514、表示制御機能515及び計画機能516を実現する。各機能511~516は単一の処理回路51で実現される場合に限らない。複数の独立したプロセッサを組み合わせて処理回路を構成し、各プロセッサがプログラムを実行することにより各機能511~516を実現するものとしても構わない。取得機能511は取得部の一例であり、同定機能512は同定部の一例であり、変換機能513は変換部の一例であり、判定機能514は判定部の一例であり、表示制御機能515は描画部及び表示部の一例であり、計画機能516は計画部の一例である。
【0019】
取得機能511の実現により、処理回路51は、種々の情報を取得する。具体的には、処理回路51は、治療計画用CT装置1により生成された患者のX線特性画像、治療計画用MRI装置2により生成された同一患者のMR画像等を取得する。取得の形態としては、各種装置から直接的に取得する事に限定されず、当該装置から受信した情報を記憶装置59に記憶し、記憶装置59から当該情報を取得してもよい。
【0020】
同定機能512の実現により、処理回路51は、医用画像に含まれる各種の解剖学的領域を同定する。例えば、処理回路51は、患者に関するMR画像に含まれる腫瘍領域の第1の境界領域を同定する。また、処理回路51は、同一患者に関するX線特性画像に含まれるリスク臓器領域を同定する。
【0021】
変換機能513の実現により、処理回路51は、MR画像における第1の境界領域を、第1の境界領域に解剖学的に対応する、X線特性画像における第2の境界領域に変換する。処理回路51は、変換機能513による変換処理は、磁場の歪み補正なしの第1のMR座標系から磁場の歪み補正がされた第2のMR座標系への第1の変換と、第2のMR座標系から患者の体位補正なしの第1のX線特性座標系への第2の変換と、第1のX線特性座標系から患者の体位補正がされた第2のX線特性座標系への第3の変換とを行う。第3の変換は、判定機能514による判定結果に応じて選択的に実行される。
【0022】
判定機能514の実現により、処理回路51は、MR画像の撮像時における撮像部位の解剖学的構造と、X線特性画像の撮像時における当該撮像部位の解剖学的構造とが略一致するか否かを判定する。
【0023】
表示制御機能515の実現により、処理回路51は、種々の情報を、表示機器55を介して表示する。具体的には、処理回路51は、医用画像に表示処理を施し、表示処理が施された医用画像を表示機器55に表示する。表示処理として、処理回路51は、例えば、第2の境界領域をX線特性画像に描画する。処理回路51は、第2の境界領域が描画されたX線特性画像を表示機器55に表示する。医用画像が3次元画像である場合、処理回路51は、表示処理として、ボリュームレンダリングやMPR(Multi-Planner Reconstruction)、CPR(Curved MPR)、MIP(Maximum Intensity Projection)や加算投影等の画素値投影処理を行ってもよい。
【0024】
計画機能516の実現により、処理回路51は、第2の境界領域がX線特性画像に基づいて患者に関する放射線治療計画を作成する。治療計画の作成方法としては、フォーワード・プランニング(Forward Planning)とインバース・プランニング(Inverse Planning)の2種類がある。フォーワード・プランニングは、放射線治療の照射門数や照射角度、放射線強度、コリメータ開度、ウェッジフィルター等の放射線治療条件を詳細に設定し、それらの条件で最終的に得られる放射線分布を見て、放射線治療条件を評価する。放射線分布を変更する時は、放射線治療条件の一部あるいは全部を変更して再度放射線分布を求める。このようにフォーワード・プランニングにおいては、放射線治療条件を変えながら、少しずつ放射線分布を変化させ、所望の放射線分布が実現できるまで何度も繰り返し放射線条件が変更される。インバース・プランニングは、腫瘍領域及び適切なマージンを設定し、その領域に照射する放射線量及び許容範囲を設定する。さらに危険臓器などのリスク臓器領域をX線特性画像から抽出し、リスク臓器領域に対する放射線量を、所定レベル以上の放射線量にならない安全レベルに設定する。処理回路51は、放射線分布に対する要求を満足する放射線治療計画を、放射線治療条件を変更しながら逐次的に立案する。
【0025】
通信機器53は、ネットワークを介して、放射線治療システム100に含まれる治療計画用CT装置1、治療計画用MRI装置2、PACS3、放射線治療情報システム4、放射線治療計画装置5及び放射線治療装置6との間で情報通信を行うためのインタフェースである。
【0026】
表示機器55は、処理回路51の表示制御機能515に従い種々の情報を表示する。表示機器55としては、液晶ディスプレイ(LCD:Liquid Crystal Display)、CRT(Cathode Ray Tube)ディスプレイ、有機ELディスプレイ(OELD:Organic Electro Luminescence Display)、プラズマディスプレイ又は他の任意のディスプレイが適宜使用可能である。また、表示機器55は、プロジェクタでもよい。
【0027】
入力機器57は、ユーザからの各種の入力操作を受け付け、受け付けた入力操作を電気信号に変換して処理回路51に出力する。具体的には、入力機器57は、マウス、キーボード、トラックボール、スイッチ、ボタン、ジョイスティック、タッチパッド、タッチパネルディスプレイ等が適宜選択される。入力機器57は、音声を集音するマイク等の入力機器からの音声信号を用いた音声入力装置であってもよい。入力機器57は、光学センサを用いた非接触入力回路でもよい。入力機器57は、当該入力機器への入力操作に応じた電気信号を処理回路51へ出力する。また、入力機器57は、ネットワーク等を介して接続された他のコンピュータに設けられた入力機器でもよい。
【0028】
記憶装置59は、種々の情報を記憶するROMやRAM、HDD、SSD、集積回路記憶装置等の記憶装置である。記憶装置59は、例えば、取得機能511により取得されたMR画像やX線特性画像等を記憶する。記憶装置59は、上記記憶装置以外にも、CD(Compact Disc)、DVD(Digital Versatile Disc)、フラッシュメモリ等の可搬型記憶媒体や、半導体メモリ素子等との間で種々の情報を読み書きする駆動装置であってもよい。記憶装置59は、放射線治療計画装置5にネットワークを介して接続された他のコンピュータ内にあってもよい。
【0029】
次に、一般的な治療計画の手法とその問題点について詳細に説明する。
【0030】
治療計画においては、CT画像とMR画像との合成画像を用いて、患者の治療対象部位の位置の特定及び照射領域の決定が行われる。
【0031】
例えば、放射線の照射領域の決定においては、まず、CT画像などに基づいて放射線の照射を避けるべきリスク臓器領域が設定される。そして、腫瘍の進展や存在が肉眼的に確認できる3次元領域である肉眼的腫瘍体積(GTV:gross tumor volume)が設定され、設定されたGTV及び肉眼的には確認できないが潜在的な腫瘍領域を含む臨床的標的体積(CTV:clinical target volume)が設定される。ここで、GTVの設定には、CT画像とMR画像との合成画像が用いられる。例えば、MR画像に対してGTVを設定することで、CT画像における対応する位置にGTVが設定される。リスク臓器領域、GTV及びCTVの設定は、例えば、コンツーリング(輪郭の抽出)によって行われる。コンツーリングは、医師等の医療従事者による手動の処理や画像処理による自動の処理のどちらで行われる場合もある。
【0032】
放射線の照射領域の決定においては、呼吸、嚥下、心拍動、蠕動などの体内臓器の動きによる影響を吸収するためのインターナルマージン(IM:internal margin)を含めたITV(internal target volume)がCTVに対して設定される。さらに、毎回の照射における設定誤差(SM:set-up margin)を含めた計画標的体積(PTV:planning target volume)がITVに対して設定されることで、放射線の照射領域が決定される。
【0033】
決定された放射線の照射領域に対して放射線治療装置が照射する放射線の照射角度や、照射角度ごとの線量分布及び照射野の形状、照射する回数などの放射線治療計画が作成される。
【0034】
上述したように、治療計画ではCT画像とMR画像との合成画像が用いられるが、この合成に際し、歪みの補正、画像座標系の補正、撮像時の体位や呼吸位相の違いによるズレに関する補正が段階的に実施される。これらの補正は、いずれも変形処理である。変形処理では、補正前の各画素の位置が、補正後に画素の中心位置にはないため、補間処理が必要になる。補間処理は、一種のローパスフィルター処理であるため、補間処理後の画質は劣化する。したがって、このような補正を段階的に複数回行った場合、その劣化は顕著となる。
【0035】
特に、放射線治療の治療計画では、CT画像でリスク臓器領域を同定し、線量計算シミュレーションにおいてCT画像の画素値を電子密度あるいは物理密度に変換する。さらに、放射線の照射領域(腫瘍およびマージン)を同定するが、CT画像では腫瘍領域を明確に同定できない場合も多く、このような場合に腫瘍領域が明確に同定できるMR画像を用いることがある。この場合、複数回の補正処理が施されたMR画像とCT画像とを合成し、補正後のMR画像上で腫瘍領域を同定すると、対応するCT画像上に腫瘍領域が同定される。しかしながら、この時、補正後のMR画像は、複数回の変形処理を行っているため、特に元々シャープであった腫瘍領域の辺縁が少し鈍ってしまっている。その結果、MR画像上での腫瘍領域の境界領域が不鮮明あるいはボケによって少し幅を持って認識されることになる。
【0036】
そこで、本実施形態に係る放射線治療計画装置5は、MR画像に含まれる腫瘍領域の境界領域に限定して補正処理を実行することで、補正処理に伴う画質の劣化を低減する。以下、放射線治療計画装置5の処理について詳細に説明する。なお、以下の処理においてX線特性画像はCT画像、X線吸収係数画像、電子密度画像及び物理密度画像の何れにも適用可能であるが、例示のため、X線特性画像はCT画像であるとする。
【0037】
図3は、放射線治療計画装置5の処理回路51による放射線治療計画の作成処理の流れの一例を示す図である。図4は、図3に示す処理の流れを模式的に示す図である。なお図3及び図4に示す処理の開始段階において、同一患者に関する3次元のMR画像と3次元のCT画像とが、取得機能511を実行することで処理回路51により取得されているものとする。
【0038】
図3及び図4に示すように、処理回路51は、同定機能512の実現により、MR画像I1に含まれる腫瘍領域RC1の境界領域B1を同定する(ステップSA1)。ステップSA1において処理回路51は、まず、歪み補正及び体位補正が行われていないMR画像I1を表示機器55に表示する。そして医療従事者等のユーザは、MR画像I1を観察して、腫瘍を目視で確認し、入力機器57を介して腫瘍に対応する画像領域を指定する。処理回路51は、ユーザが入力機器57を介して指定した画像領域を腫瘍領域RC1に設定する。そして処理回路51は、腫瘍領域RC1の境界領域B1を画像処理により特定する。なお、処理回路51は、MR画像I1に画像認識処理を施すことにより腫瘍領域RC1又は境界領域B1を特定してもよい。画像認識処理としては、閾値処理や機械学習等の任意の手法により行われればよい。境界領域B1は、MR画像I1に含まれているのでMR座標系により規定されている。このように、ステップSA1において処理回路51は、歪み補正なし且つ体位補正なしのMR画像から腫瘍領域の境界領域を特定する。
【0039】
ステップSA1に並行して処理回路51は、同定機能512の実現により、CT画像に含まれるリスク臓器領域を同定する(ステップSA2)。ステップSA2において処理回路51は、まず、CT画像I2を表示機器55に表示する。そしてユーザは、CT画像I2を観察して、リスク臓器を目視で確認し、入力機器57を介してリスク臓器に対応する画像領域を指定する。処理回路51は、指定された画像領域をリスク臓器領域RRに設定する。処理回路51は、CT画像I2に画像認識処理を施すことによりリスク臓器領域RRを特定してもよい。画像認識処理としては、閾値処理や機械学習等の任意の手法により行われればよい。なおステップSA2は、ステップSA5より前であればいつ実行されてもよい。
【0040】
ステップSA1が行われると処理回路51は、変換機能513の実現により、MR座標系の境界領域B1を、CT座標系の境界領域B2に変換する(ステップSA3)。変換は、第1の変換、第2の変換及び第3の変換を含む。第1の変換は、MR座標系から磁場の歪み補正後のMR座標系への変換である。第2の変換は、歪み補正後のMR座標系からCT座標系への変換である。第3の変換は、CT座標系から体位補正後のCT座標系への変換である。ステップSA3の詳細については後述する。ステップSA3によれば、MR画像I1における境界領域B1のみを、歪み補正(第1の変換)とMR座標系からCT座標系への変換(第2の変換)と体位補正(第3の変換)とが施された、CT画像I2における境界領域B2に変換することが可能になる。なお体位補正(第3の変換)は、判定機能514により、MR画像I1の撮像時とCT画像I2の撮像時とで患者の体位が変化したと判定された場合に実行される。
【0041】
ステップSA3が行われると処理回路51は、表示制御機能515の実現により、CT画像I2に、CT座標系の境界領域B2を描画する(ステップSA4)。ステップSA4において処理回路51は、例えば、CT画像I2を構成する複数の画素のうちの、境界領域B2を構成する画素に、境界領域B2である事を示す画素値を割り当てる。境界領域B2に囲まれた画像領域が腫瘍領域RC2に設定される。
【0042】
ステップSA4が行われると処理回路51は、表示制御機能515の実現により、境界領域B2が描画されたCT画像I2を表示機器55に表示する。処理回路51は、ユーザに対する視認性を高めるため、境界領域B2及び/又はリスク臓器領域RRを色等で強調してCT画像I2に重畳するとよい。境界領域B2は、MR画像I1に描画された腫瘍領域RC1の境界領域B1に由来するので、CT画像I2にもともと描画されている腫瘍領域の境界領域よりも正確に境界を表している。一方、CT画像I2に描出されている、境界領域B2以外のリスク臓器領域RR等の解剖学的領域は、CT画像I2に由来するので、第1の変換、第2の変換及び第3の変換が施されておらず、これら変換に起因する画質の劣化は存在しない。よってユーザは、境界領域B2やリスク臓器領域RR等の位置及び範囲を正確に把握することができる。
【0043】
なお、CT画像I2への境界領域B2の描画とCT画像I2の表示との順番は上記順序に限定されない。例えば、処理回路51は、まずCT画像I2を表示し、その後、表示されたCT画像I2に境界領域B2を描画してもよい。描画方法としては、境界領域B2を、CT画像I2のレイヤ(layer)とは異なるレイヤに描画し、レイヤ毎に透過度を設定してオーバレイする方法でもよい。
【0044】
ステップSA5が行われると処理回路51は、計画機能516の実現により、境界領域B2が描画されたCT画像I2に基づいて放射線治療計画を作成する(ステップSA6)。例えば、処理回路51は、腫瘍領域への目標線量、リスク臓器への許容線量を決定し、インバース・プランニングを実行することで、最適な照射方法等を作成することができる。あるいは、照射門数、各架台角度、天板角度、それぞれの角度での強度配分、マルチリーフコリメータを含んだ照射野開度、ウェッジフィルターなどを細かく設定し、それを元に線量分布が目標に合致しているかをチェックしても良い。仮に駄目な場合は、その度にパラメータを少しずつ変更し、さらに線量分布を計算する。このような処理を繰り返し行うことで、目標とする線量分布にできるだけ近づける。
【0045】
ステップSA6において処理回路51は、DVH(Dose Volume Histogram)を生成してもよい。具体的には、処理回路51は、腫瘍領域RC2やリスク臓器領域RR等の三次元線量分布を計算し、線量と体積との関係を表すグラフをDVHとして生成する。DVHは、ユーザによる確認等のため、表示機器55に表示される。
【0046】
以上により、放射線治療計画の作成処理の流れの説明を終了する。
【0047】
次に、図3のステップSA3における変換処理の詳細について説明する。
【0048】
図3のステップSA3における変換処理を実行するための前準備として、第1の変換、第2の変換及び第3の変換各々についてのフィールドマップが生成される。
【0049】
図5は、第1の変換、第2の変換及び第3の変換各々についてのフィールドマップの生成処理を模式的に示す図である。図5に示すように、治療計画用MRI装置2により撮像されたMR画像の座標系をXYZ座標系とする。MR画像には、静磁場の不均一性による歪みと勾配磁場の非直線性による歪みとが重畳されている。そのためCT画像に対して位置合わせするためには、まず、これらの歪みを補正しなければならない。XYZ座標系は歪み補正前のMR座標系である。
【0050】
歪みは予め撮像したファントム画像に応じて評価される。具体的には三次元的に等間隔に多数配置されたマーカーを有するファントムを治療計画用MRI装置2で撮像する。マーカー内部にはMRIで画像化できるよう、オイルや水が含まれている。治療計画用MRI装置2は、当該ファントムに関するMR画像を生成し、当該MR画像からマーカー位置を同定する。同定したマーカーは本来なら三次元的に等間隔に配置されているはずであるが、歪みによってずれが生じている。そのずれを補正するように非剛体変形を行うことで歪みは補正できる。
【0051】
歪み補正後のMR画像の座標系をxyz座標系とすると、処理回路51は、MR画像に描出される全マーカー位置について、xyz座標系の点(x2、y2、z2)からXYZ座標系の点(X2、Y2、Z2)への変換式を算出し、各位置についてxyz座標系からXYZ座標系への変換式が割り当てられたフィールドマップ(以下、歪み補正フィールドマップと呼ぶ)を生成する。点(X2、Y2、Z2)は、MR画像に描出されたマーカー位置に対応し、点(x2、y2、z2)は当該マーカー位置が本来あるべき位置、すなわち、歪みがない場合にあるべき位置に対応する。点(X2、Y2、Z2)は、処理回路51によるMR画像に対する画像処理等により自動的に特定されてもよいし、ユーザによる入力機器57を介した指示により特定されてもよい。点(x2、y2、z2)は、処理回路51によりファントムの構造に基づいて自動的に特定される。ユーザによる入力機器57を介した指示により特定されるとよい。マーカーが存在しない位置については、近傍のマーカー位置の変換式に基づく補間等により算出されるとよい。歪み補正フィールドマップは、記憶装置59に記憶される。
【0052】
なお、MR画像には三次元歪みがあるが、三次元画像歪補正にはMR断面を細かく撮像する必要がある。そこでスライス方向の歪みをほぼ無視することで、二次元歪みとして補正処理が行われれば良い。この場合、スライス方向の歪みは後段の体位補正である程度補正される。なお、MR断面を細かく撮像してスライス方向の歪みを補正しても良い。
【0053】
次に、歪み補正後のMR画像からCT画像への変換である。MR画像とCT画像とでは原点が異なるうえ、場合によっては座標軸が傾いている可能性がある。その座標系のずれを補正する処理がこの処理である。CT画像は、例えば前記のMR画像歪み計測用ファントムを治療計画用CT装置1で撮像することにより生成され、MR画像は、同じファントムを治療計画用MRI装置2で撮像することにより生成される。なお、この時、CT装置の原点とMRI装置の原点とに同じマーカーが配置されるようにファントムを配置すると良い。
【0054】
CT画像の座標系をabc座標系とすると、処理回路51は、abc座標系の点(a1、b1、c1)からxyz座標系の点(x1、y1、z1)への変換式を算出し、各点についてabc座標系からxyz座標系への変換式が割り当てられたフィールドマップ(以下、MR/CTフィールドマップと呼ぶ)を生成する。点(a1、b1、c1)は、処理回路51によるMR画像に対する画像処理等により自動的に特定されてもよいし、ユーザによる入力機器57を介した指示により特定されても良い。点(x1、y1、z1)は、処理回路51によるMR画像に対する画像処理等により自動的に特定されてもよいし、ユーザによる入力機器57を介した指示により特定されてもよい。点(a1、b1、c1)は、例えば、CT画像の原点に配置されたマーカーを基準に、それぞれのマーカーとの位置関係で定義できる。同様に、点(x1、y1、z1)は、MR画像の原点に配置されたマーカーを基準に、それぞれのマーカーとの位置関係で定義できる。マーカーが存在しない位置については、近傍のマーカー位置の変換式に基づく補間等により算出されるとよい。abc座標系からxyz座標系への変換は、回転及びシフトのアフィン変換で計算できる。MR/CTフィールドマップは記憶装置59に記憶される。
【0055】
CT画像撮像時の患者体位とMR画像撮像時の患者体位とが一致していれば体位補正は不要である。しかし一般的には異なる2時点の体位は違っているので、abc座標系に基づく画像も最終画像ではない。あくまでabc座標系は、MR画像撮像時の体位に基づくCT座標系である。そこで最終段階として、CT画像撮像時の体位に基づくCT座標系に変換する。CT画像撮像時の体位に基づくCT座標系をijk座標系とする。ijk座標系とabc座標系との関係は、CT画像に描出される臓器形状などで比較され、例えばabc座標系の臓器をijk座標系の臓器と一致させるような非剛体変形をすることで体位は補正される。
【0056】
処理回路51は、ijk座標系の点(i0、j0、k0)からabc座標系の点(a0、b0、c0)への変換式を算出し、各点についてijk座標系からabc座標系への変換式が割り当てられたフィールドマップ(以下、体位補正フィールドマップと呼ぶ)を生成する。点(i0、j0、k0)と点(a0、b0、c0)とは、処理回路51によるMR画像に対する画像処理等により自動的に特定されてもよいし、ユーザによる入力機器57を介した指示により特定されてもよい。点(i0、j0、k0)と点(a0、b0、c0)とは、例えば、XYZ座標系からabc座標系へと変換したMR画像とCT画像とに描出される同一の解剖学的特徴点に設定される。当該解剖学的特徴点は、例えば、骨、血管、肺結節等の、MR画像とCT画像とにおいて解剖学的な対応点を把握しやすい点に設定される。体位補正フィールドマップは、記憶装置59に記憶される。
【0057】
上記処理により生成された歪み補正フィールドマップ、MR/CTフィールドマップ及び/又は体位補正フィールドマップを用いて、図3のステップSA3における変換処理が行われる。
【0058】
図6は、図3のステップSA3における変換処理の流れの一例を示す図である。図7は、図6に示す変換処理の流れを模式的に示す図である。図6に示すように、図3のステップSA1において腫瘍領域の境界領域が特定されると、処理回路51は、境界領域の頂点を特定する(ステップSB1)。ステップSB1において処理回路51は、歪み補正前のMRI座標系であるXYZ座標系において境界領域を構成する各画素を頂点として特定する。処理対象のMR画像とCT画像とは3次元画像であり、MR画像のスライス方向(Z軸)に関する空間分解能は、他の方向の空間分解能に比して低いものとする。この場合、処理対象のMR画像とCT画像とはスライスの集合体に等しい。
【0059】
図8は、ステップSB1における頂点の特定処理を模式的に示す図である。図8に示すように、MR画像の断面iで腫瘍領域RC2iが、それに隣接する断面i+1で腫瘍領域RC2i+1が同定されたとする。断面iにおける腫瘍領域RC2iの境界B2iを構成する頂点in(nは頂点の識別子)が特定される。隣接する頂点in同士を結ぶ線分in-i(n+1)が形成される。断面i+1についても同様に、頂点(i+1)nが特定され、線分(i+1)n-(i+1)(n+1)が形成される。また、腫瘍領域の3次元的な境界に一致するよう、断面iにおける1以上の頂点inと断面i+1における1以上の頂点in+1との間にも線分in-(i+1)nが形成され、これら頂点を線分で結ぶことにより三角形や四角形、それ以上の多角形が形成される。これら複数の多角形により腫瘍領域の境界が画定される。
【0060】
以下の変換処理は頂点毎に行われる。図6では、一例として、頂点(XA、YA、ZA)に関する変換処理が例示されている。
【0061】
ステップSB1が行われると処理回路51は、各頂点を、歪み補正前のMR座標系(XYZ座標系)から歪み補正後の座標系(xyz座標系)に変換する(ステップSB2)。具体的には、ステップSB2において処理回路51は、XYZ座標系の頂点(XA、YA、ZA)に歪み補正フィールドマップを適用してxyz座標系の頂点(xA、yA、zA)を算出する。
【0062】
ステップSB2が行われると処理回路51は、各頂点を、歪み補正後の座標系(xyz座標系)から体位補正前のCT座標系(abc座標系)に変換する(ステップSB3)。具体的には、ステップSB3において処理回路51は、xyz座標系の頂点(xA、yA、zA)にMR/CTフィールドマップを適用してabc座標系の頂点(aA、bA、cA)を算出する。
【0063】
ステップSB3が行われると処理回路51は、判定機能514の実現により、体位変化があるか否かを判定する(ステップSB4)。より詳細には、ステップSB4において処理回路51は、CT画像の撮像時における撮像部位の解剖学的構造と、MR画像の撮像時における撮像部位の解剖学的構造とが略一致するか否かを判定する。但し、例えば、CT画像の撮像日とMR画像の撮像日との間の日数が閾値以下である場合、体位変化がなければ解剖学的構造が略一致する。あるいは、CT画像の撮像日とMR画像の撮像日との間に、当該撮像部位の解剖学的構造が変化する事象が含まれていない場合、体位変化がなければ解剖学的構造が略一致する。当該事象としては、例えば、外科的手術が該当する。撮像日や当該事象の有無は、MR画像及びCT画像に関連付けられた検査オーダや電子カルテから抽出されればよい。解剖学的構造が一致しない場合は、当該MR画像を治療計画に使用することはできないため、治療計画はCT画像のみによって行われる。なお、体位変化の有無は、ユーザにより入力機器57を介して指示されてもよい。
【0064】
体位変化があると判定された場合(ステップSB4:YES)、処理回路51は、変換機能513の実現により、頂点を、体位補正前のCT座標系から体位補正後のCT座標系に変換する(ステップSB5)。具体的には、ステップSB5において処理回路51は、abc座標系の頂点(aA、bA、cA)に体位補正フィールドマップを適用してijk座標系の頂点(iA、jA、kA)を算出する。
【0065】
上記のステップSB2-SB5の処理が、境界領域を構成する全ての頂点毎に繰り返し行われる。この場合において、ステップSB4における体位変化の有無の判定は1回のみ行われればよい。また、上記のステップSB2-SB5の処理は、境界領域を構成する全ての頂点について一括して行われてもよい。すなわち、全ての頂点について歪み補正フィールドマップ、MR/CTフィールドマップ及び/又は体位補正フィールドマップを順番に適用してもよい。
【0066】
ステップSB5が行われると又はステップS4において体位変化が無いと判定されると(ステップS4:NO)、処理回路51は、変換後の複数の頂点に基づき複数の多角形を構成する(ステップSB6)。多角形は、ステップSB1におけるMR画像での頂点間の接続と同様の接続で形成されればよい。処理回路51は、複数の多角形により画定される領域を、体位補正後のCT座標系の境界領域に決定される。
【0067】
以上により、図6に示す変換処理の説明を終了する。
【0068】
このように、図6に示す変換処理によれば、体位変化なしと判定された場合、処理回路51は第1の変換と第2の変換とに基づいて、歪み補正前のMR座標系における境界領域を変形して、体位補正前のCT座標系における境界領域に変換する。体位変化ありと判定された場合、処理回路51は、第1の変換と第2の変換と第3の変換とに基づいて、歪み補正前のMR座標系における境界領域を変形して、体位補正後のCT座標系における境界領域に変換する。処理回路51は、境界領域を構成する各頂点に対して第1の変換と第2の変換と第3の変換とを3次元的に適用し、変換後の頂点を多角形で結ぶことにより、CT画像において腫瘍領域の境界領域を3次元的に画定している。このような処理によれば、MR画像全体に対して上記3種の変換処理を適用する場合に比して画像劣化を低減することができる。
【0069】
なお、境界領域の検証のため、処理回路51は、MR画像由来の境界領域が描画されたCT画像と、MR画像とCT画像との合成画像とを並べて表示機器55に表示してもよい。合成画像は、補正フィールドマップ、MR/CTフィールドマップ及び体位補正フィールドマップが画像領域全体に順番に適用されたMR画像をCT画像に合成することにより生成される画像である。
【0070】
以上説明した実施形態は、一例であり、種々の変形が可能である。例えば、取得機能511、同定機能512、変換機能513、判定機能514及び表示制御機能515は、放射線治療計画装置5とは別体のコンピュータである医用画像処理装置に実装されてもよい。また、取得機能511、同定機能512、変換機能513、判定機能514及び表示制御機能515は、治療計画用CT装置1又は治療計画用MRI装置2に実装されてもよい。また、治療用計画用MRI装置2によりMR画像に対して歪み補正(第1の変換)が施された場合、ステップSB2は不要である。
【0071】
以上の説明によれば、実施形態に係る医用画像処理装置は、同定部、変換部及び描画部を有する。同定部は、患者に関するMR画像に含まれる腫瘍領域の第1の境界領域を同定する。変換部は、第1の境界領域に解剖学的に対応する、当該患者に関するX線特性画像における第2の境界領域に変換する。描画部は、第2の境界領域をX線特性画像に描画する。
【0072】
例えば、MR画像とX線特性画像との合成画像を利用してMR画像の腫瘍領域をX線特性画像において同定する場合、MR画像全体をCT画像全体に位置合わせするため、MR画像に第1の変換、第2の変換及び第3の変換等の多段の変換処理を施すため、X線特性画像に合成されるMR画像の画質が劣化し、腫瘍領域の境界が不鮮明になっていた。
【0073】
上記構成によれば、MR画像全体に多段の変換処理を施さずに、MR画像に含まれる腫瘍領域の境界領域に限定して多段の変換処理を施して当該境界領域をX線特性画像に描画することができる。すなわち、当該X線特性画像には画像劣化を引き起こす多段の変換処理を施さずに、MR画像由来の正確な境界領域のみを描画することができる。このようなCT画像を観察することにより、CT画像において腫瘍領域の境界領域を正確に把握することが可能になる。また、このようなCT画像に基づいて放射線治療計画を作成することにより、リスク臓器領域や正常領域への線量を低減することができる。
【0074】
以上説明した少なくとも1つの実施形態によれば、CT画像等のX線特性画像に腫瘍領域の境界領域を正確に描画することができる。
【0075】
上記説明において用いた「プロセッサ」という文言は、例えば、CPU、GPU、或いは、特定用途向け集積回路(Application Specific Integrated Circuit:ASIC))、プログラマブル論理デバイス(例えば、単純プログラマブル論理デバイス(Simple Programmable Logic Device:SPLD)、複合プログラマブル論理デバイス(Complex Programmable Logic Device:CPLD)、及びフィールドプログラマブルゲートアレイ(Field Programmable Gate Array:FPGA))等の回路を意味する。プロセッサは記憶回路に保存されたプログラムを読み出し実行することで機能を実現する。なお、記憶回路にプログラムを保存する代わりに、プロセッサの回路内にプログラムを直接組み込むよう構成しても構わない。この場合、プロセッサは回路内に組み込まれたプログラムを読み出し実行することで機能を実現する。また、プログラムを実行するのではなく、論理回路の組合せにより当該プログラムに対応する機能を実現しても良い。なお、本実施形態の各プロセッサは、プロセッサごとに単一の回路として構成される場合に限らず、複数の独立した回路を組み合わせて1つのプロセッサとして構成し、その機能を実現するようにしてもよい。さらに、図1及び図2における複数の構成要素を1つのプロセッサへ統合してその機能を実現するようにしてもよい。
【0076】
いくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更、実施形態同士の組み合わせを行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0077】
1 治療計画用CT装置
2 治療計画用MRI装置
3 PACS
4 放射線治療情報システム
5 放射線治療計画装置
6 放射線治療装置
51 処理回路
53 通信機器
55 表示機器
57 入力機器
59 記憶装置
100 放射線治療システム
511 取得機能
512 同定機能
513 変換機能
514 判定機能
515 表示制御機能
516 計画機能
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8