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特許7483497内燃機関の点火時期制御方法及び内燃機関の点火時期制御装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-07
(45)【発行日】2024-05-15
(54)【発明の名称】内燃機関の点火時期制御方法及び内燃機関の点火時期制御装置
(51)【国際特許分類】
   F02P 5/153 20060101AFI20240508BHJP
   F02P 5/15 20060101ALI20240508BHJP
【FI】
F02P5/153
F02P5/15 G
F02P5/15 K
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020090722
(22)【出願日】2020-05-25
(65)【公開番号】P2021188512
(43)【公開日】2021-12-13
【審査請求日】2023-02-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】507308902
【氏名又は名称】ルノー エス.ア.エス.
【氏名又は名称原語表記】RENAULT S.A.S.
【住所又は居所原語表記】122-122 bis, avenue du General Leclerc, 92100 Boulogne-Billancourt, France
(74)【代理人】
【識別番号】110002468
【氏名又は名称】弁理士法人後藤特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】米倉 賢午
【審査官】戸田 耕太郎
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2010/084578(WO,A1)
【文献】特開2007-016665(JP,A)
【文献】特開平11-050878(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02P 5/153
F02P 5/15
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関の回転数と負荷によって定まる運転点に応じて点火時期を補正する、内燃機関の点火時期制御方法であって、
前記内燃機関の燃焼重心と、前記燃焼重心の目標値であって前記運転点によって定まる目標燃焼重心と、の差分を演算し、
前記差分によって、前記内燃機関の運転が安定している状況と、前記内燃機関の運転が不安定であるか間もなく安定性を欠く状態に変化しそうな状況と、を判定する基準値を予め設定し、
前記内燃機関の出力軸におけるトルクの変動量に基づいて、前記内燃機関の燃焼に関する安定度を表す燃焼変動率を算出し、
前記燃焼変動率によって、前記内燃機関の運転を安定的に継続できる範囲内において、前記内燃機関の燃焼が相対的に安定な状況と、前記内燃機関の燃焼が相対的に不安定な状況と、を判定する閾値を予め設定し、
前記差分が前記基準値以下であって前記内燃機関の運転が安定しており、かつ、前記燃焼変動率が前記閾値よりも小さく、前記内燃機関の運転を安定的に継続できる範囲内において、前記内燃機関の燃焼が相対的に安定な状況であるときには、前記運転点に応じた前記点火時期の補正周期を第1周期に設定し、
前記差分が前記基準値以下であって前記内燃機関の運転が安定しており、かつ、前記燃焼変動率が前記閾値以上であり、前記内燃機関の運転を安定的に継続できる範囲内において、前記内燃機関の燃焼が相対的に不安定な状況であるときには、前記運転点に応じた前記点火時期の補正周期を、前記第1周期よりも長い第2周期に設定し、
前記差分が前記基準値より大きく、前記内燃機関の運転が不安定であるか間もなく安定性を欠く状態に変化しそうな状況であるときには、前記燃焼変動率に依らず、前記運転点に応じた前記点火時期の補正周期を前記第1周期に設定する、
内燃機関の点火時期制御方法。
【請求項2】
内燃機関の回転数と負荷によって定まる運転点に応じて点火時期を補正する、内燃機関の点火時期制御方法であって、
前記内燃機関の燃焼重心と、前記燃焼重心の目標値であって前記運転点によって定まる目標燃焼重心と、の差分を演算し、
前記差分によって、前記内燃機関の運転が安定している状況と、前記内燃機関の運転が不安定であるか間もなく安定性を欠く状態に変化しそうな状況と、を判定する基準値を予め設定し、
前記内燃機関の出力軸におけるトルクの変動量に基づいて、前記内燃機関の燃焼に関する安定度を表す燃焼変動率を算出し、
前記燃焼変動率によって、前記内燃機関の運転を安定的に継続できる範囲内において、前記内燃機関の燃焼が相対的に安定な状況と、前記内燃機関の燃焼が相対的に不安定な状況と、を判定する閾値を予め設定し、
前記差分が前記基準値以下であって前記内燃機関の運転が安定しており、かつ、前記燃焼変動率が前記閾値よりも小さく、前記内燃機関の運転を安定的に継続できる範囲内において、前記内燃機関の燃焼が相対的に安定な状況であるときには、前記運転点に応じた前記点火時期の補正量を第1補正量に設定し、
前記差分が前記基準値以下であって前記内燃機関の運転が安定しており、かつ、前記燃焼変動率が前記閾値以上であり、前記内燃機関の運転を安定的に継続できる範囲内において、前記内燃機関の燃焼が相対的に不安定な状況であるときには、前記運転点に応じた前記点火時期の補正量を、前記第1補正量よりも小さい第2補正量に設定し、
前記差分が前記基準値より大きく、前記内燃機関の運転が不安定であるか間もなく安定性を欠く状態に変化しそうな状況であるときには、前記燃焼変動率に依らず、前記運転点に応じた前記点火時期の補正量を前記第1補正量に設定する、
内燃機関の点火時期制御方法。
【請求項3】
内燃機関の回転数と負荷によって定まる運転点に応じて点火時期を補正するコントローラを備える、内燃機関の点火時期制御装置であって、
前記コントローラが、
前記内燃機関の燃焼重心と、前記燃焼重心の目標値であって前記運転点によって定まる目標燃焼重心と、の差分を演算し、
前記差分によって、前記内燃機関の運転が安定している状況と、前記内燃機関の運転が不安定であるか間もなく安定性を欠く状態に変化しそうな状況と、を判定する基準値を予め設定し、
前記内燃機関の出力軸におけるトルクの変動量に基づいて、前記内燃機関の燃焼に関する安定度を表す燃焼変動率を算出し、
前記燃焼変動率によって、前記内燃機関の運転を安定的に継続できる範囲内において、前記内燃機関の燃焼が相対的に安定な状況と、前記内燃機関の燃焼が相対的に不安定な状況と、を判定する閾値を予め設定し、
前記差分が前記基準値以下であって前記内燃機関の運転が安定しており、かつ、前記燃焼変動率が前記閾値よりも小さく、前記内燃機関の運転を安定的に継続できる範囲内において、前記内燃機関の燃焼が相対的に安定な状況であるときには、前記運転点に応じた前記点火時期の補正周期を第1周期に設定し、
前記差分が前記基準値以下であって前記内燃機関の運転が安定しており、かつ、前記燃焼変動率が前記閾値以上であり、前記内燃機関の運転を安定的に継続できる範囲内において、前記内燃機関の燃焼が相対的に不安定な状況であるときには、前記運転点に応じた前記点火時期の補正周期を、前記第1周期よりも長い第2周期に設定し、
前記差分が前記基準値より大きく、前記内燃機関の運転が不安定であるか間もなく安定性を欠く状態に変化しそうな状況であるときには、前記燃焼変動率に依らず、前記運転点に応じた前記点火時期の補正周期を前記第1周期に設定する、
ように構成されている、内燃機関の点火時期制御装置。
【請求項4】
内燃機関の回転数と負荷によって定まる運転点に応じて点火時期を補正するコントローラを備える、内燃機関の点火時期制御装置であって、
前記コントローラが、
前記内燃機関の燃焼重心と、前記燃焼重心の目標値であって前記運転点によって定まる目標燃焼重心と、の差分を演算し、
前記差分によって、前記内燃機関の運転が安定している状況と、前記内燃機関の運転が不安定であるか間もなく安定性を欠く状態に変化しそうな状況と、を判定する基準値を予め設定し、
前記内燃機関の出力軸におけるトルクの変動量に基づいて、前記内燃機関の燃焼に関する安定度を表す燃焼変動率を算出し、
前記燃焼変動率によって、前記内燃機関の運転を安定的に継続できる範囲内において、前記内燃機関の燃焼が相対的に安定な状況と、前記内燃機関の燃焼が相対的に不安定な状況と、を判定する閾値を予め設定し、
前記差分が前記基準値以下であって前記内燃機関の運転が安定しており、かつ、前記燃焼変動率が前記閾値よりも小さく、前記内燃機関の運転を安定的に継続できる範囲内において、前記内燃機関の燃焼が相対的に安定な状況であるときには、前記運転点に応じた前記点火時期の補正量を第1補正量に設定し、
前記差分が前記基準値以下であって前記内燃機関の運転が安定しており、かつ、前記燃焼変動率が前記閾値以上であり、前記内燃機関の運転を安定的に継続できる範囲内において、前記内燃機関の燃焼が相対的に不安定な状況であるときには、前記運転点に応じた前記点火時期の補正量を、前記第1補正量よりも小さい第2補正量に設定し、
前記差分が前記基準値より大きく、前記内燃機関の運転が不安定であるか間もなく安定性を欠く状態に変化しそうな状況であるときには、前記燃焼変動率に依らず、前記運転点に応じた前記点火時期の補正量を前記第1補正量に設定する、
ように構成されている、内燃機関の点火時期制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の点火時期を制御する内燃機関の点火時期制御方法及び内燃機関の点火時期制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、火花点火内燃機関(以下、単にエンジンという)を搭載した車両等においては、エンジンの運転状態、例えばエンジンの回転数及び負荷等にしたがって、エンジンの点火時期を補正する制御が行われている。点火時期の制御は、ノッキング等の異常燃焼現象を低減し、または抑制することにより、運転状態によらずに、エンジンの性能を発揮させるために行われる。例えば、特許文献1には、ノッキングセンサを用いてノッキングの発生頻度を判定し、ノッキングの発生頻度に応じて点火時期の進角周期や進角量を調節する点火時期制御方法が記載されている。また、特許文献1は、エンジンの回転数や負荷に応じて、点火時期の進角周期や進角量を調節することについて言及している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2013-164083号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のように、エンジンの点火時期を補正する場合、具体的な補正態様によっては燃焼安定度が変化する。そして、この燃焼安定度の変化を無視し得ない場合がある。
【0005】
しかし、特許文献1は、ノッキングの発生頻度、エンジンの回転数、及びエンジンの負荷等に応じて点火時期を調節するが、点火時期の制御において燃焼安定度を何ら考慮していない。したがって、特許文献1の点火時期の制御方法は、ノッキングの発生頻度を抑制し得るとしても、燃焼安定度が損なわれてしまうおそれがある。燃焼安定度が損なわれると、場合によっては失火してしまう場合がある。
【0006】
そこで、本発明は、燃焼安定度の悪化を抑制しつつ、点火時期を適切に補正できる、内燃機関の点火時期制御方法及び内燃機関の点火時期制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のある態様は、内燃機関の回転数と負荷によって定まる運転点に応じて点火時期を補正する、内燃機関の点火時期制御方法である。この点火時期制御方法では、内燃機関の燃焼重心と、燃焼重心の目標値であって運転点によって定まる目標燃焼重心と、の差分を演算し、差分によって、内燃機関の運転が安定している状況と、内燃機関の運転が不安定であるか間もなく安定性を欠く状態に変化しそうな状況と、を判定する基準値を予め設定し、内燃機関の出力軸におけるトルクの変動量に基づいて、内燃機関の燃焼に関する安定度を表す燃焼変動率を算出し、燃焼変動率によって、内燃機関の運転を安定的に継続できる範囲内において、内燃機関の燃焼が相対的に安定な状況と、内燃機関の燃焼が相対的に不安定な状況と、を判定する閾値を予め設定する。そして、差分が基準値以下であって内燃機関の運転が安定しており、かつ、燃焼変動率が閾値よりも小さく、内燃機関の運転を安定的に継続できる範囲内において、内燃機関の燃焼が相対的に安定な状況であるときには、運転点に応じた点火時期の補正周期を第1周期に設定する。また、差分が基準値以下であって内燃機関の運転が安定しており、かつ、燃焼変動率が閾値以上であり、内燃機関の運転を安定的に継続できる範囲内において、内燃機関の燃焼が相対的に不安定な状況であるときには、運転点に応じた点火時期の補正周期を、第1周期よりも長い第2周期に設定する。一方、差分が基準値より大きく、内燃機関の運転が不安定であるか間もなく安定性を欠く状態に変化しそうな状況であるときには、燃焼変動率に依らず、運転点に応じた点火時期の補正周期を第1周期に設定する。
また、別の態様では、差分が基準値以下であって内燃機関の運転が安定しており、かつ、燃焼変動率が閾値よりも小さく、内燃機関の運転を安定的に継続できる範囲内において、内燃機関の燃焼が相対的に安定な状況であるときには、運転点に応じた点火時期の補正量を第1補正量に設定する。また、差分が基準値以下であって内燃機関の運転が安定しており、かつ、燃焼変動率が閾値以上であり、内燃機関の運転を安定的に継続できる範囲内において、内燃機関の燃焼が相対的に不安定な状況であるときには、運転点に応じた点火時期の補正量を、第1補正量よりも小さい第2補正量に設定する。一方、差分が基準値より大きく、内燃機関の運転が不安定であるか間もなく安定性を欠く状態に変化しそうな状況であるときには、燃焼変動率に依らず、運転点に応じた点火時期の補正量を第1補正量に設定する。
【発明の効果】
【0008】
本発明の内燃機関の点火時期制御方法及び内燃機関の点火時期制御装置によれば、燃焼安定度の悪化を抑制して、点火時期を適切に補正できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、内燃機関システムの概略構成図である。
図2図2は、第1実施形態に係る点火時期制御を示すフローチャートである。
図3図3は、第1周期で点火時期制御を行う場合における燃焼安定度、点火時期補正量、及び、燃焼重心の変化を示す模式的なグラフである。
図4図4は、第2周期で点火時期制御を行う場合における燃焼安定度、点火時期補正量、及び、燃焼重心の変化を示す模式的なグラフである。
図5図5は、第2実施形態に係る点火時期制御を示すフローチャートである。
図6図6は、第1補正量で点火時期制御を行う場合における燃焼安定度、点火時期補正量、及び、燃焼重心の変化を示す模式的なグラフである。
図7図7は、第2補正量で点火時期制御を行う場合における燃焼安定度、点火時期補正量、及び、燃焼重心の変化を示す模式的なグラフである。
図8図8は、第3実施形態の点火時期制御を示すフローチャートである。
図9図9は、第4実施形態の点火時期制御を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、添付図面を参照しながら本発明の実施形態について説明する。
【0011】
(第1実施形態)
図1は、内燃機関システム100の概略構成図である。図1に示すように、内燃機関システム100は、内燃機関であるエンジン1と、エンジン1に空気を導入するための通路である吸気通路2と、エンジン1からの排気ガスを排出するための通路である排気通路3と、エンジン1が吸入する空気の圧力を高めるターボ過給機5と、いわゆる排出ガス再循環(EGR)システムと、コントローラ20と、を備える。EGRシステムは、再循環させる排気ガス(以下、EGRガスという)を吸気通路2に還流するための排気ガス還流通路(以下、EGR通路という)8を備える。
【0012】
エンジン1は、例えば4気筒の火花点火内燃機関であり、各気筒にそれぞれ設けられた点火プラグ(図示しない)によって各気筒に導入された混合気に点火する。ノッキング等の異常燃焼を低減または抑制するために、各気筒の点火時期がそれぞれに制御される。エンジン1の点火時期の制御(以下、単に点火時期制御という)はコントローラ20が行う。点火時期制御の詳細は後述する。
【0013】
また、エンジン1には、クランク角センサ14及び筒内圧センサ15が取り付けられている。クランク角センサ14は、所定の基準位置に対するクランクシャフトの回転角及び回転数を検出する。筒内圧センサ15は、各気筒にそれぞれ取り付けられ、各々の筒内圧を検出する。
【0014】
吸気通路2には、吸気流れの上流側から順に、吸気流量調整装置12と、ターボ過給機5のコンプレッサ5Aと、吸気酸素センサ13と、スロットルチャンバ(TH/C)4と、インタークーラ6と、が配置されている。また、EGR通路8は、吸気流量調整装置12とターボ過給機5のコンプレッサ5Aとの間において吸気通路2に接続する。すなわち、内燃機関システム100は、いわゆる低圧EGR(LP-EGR)システムである。
【0015】
吸気流量調整装置12は、吸気通路2に導入する空気の流量を調整する。これにより、吸気流量調整装置12は、吸気通路2とEGR通路8の圧力差を調整する。すなわち、吸気流量調整装置12は、吸気通路2とEGR通路8の差圧を確保する差圧生成弁として機能する。この結果、吸気流量調整装置12は、EGR通路8から還流させるEGRガスをEGR通路8に逆流させることなく、吸気通路2に導入する。本実施形態においては、吸気流量調整装置12は、吸気通路2を負圧に調整することにより、EGRガスを吸気通路2に導入する。このため、吸気流量調整装置12は特に負圧生成弁として機能する。なお、吸気流量調整装置12は、例えばモータ式のバタフライバルブ(ADM/V)である。
【0016】
コンプレッサ5Aは、吸気通路2とEGR通路8の接続部に対して、吸気通路2の下流側に配置される。コンプレッサ5Aは、タービン5Bとともにターボ過給機5を構成する。コンプレッサ5Aは、吸気通路2の吸気流れの上流側から流入する空気またはEGRガスを含む空気を圧縮し、吸気通路2の下流側に供給する。コンプレッサ5Aは、タービン5Bにより駆動され、タービン5Bは排気ガスのエネルギによって駆動される。
【0017】
吸気酸素センサ13は、コンプレッサ5Aの下流側に配置される。吸気酸素センサ13は、コンプレッサ5Aによって圧縮された圧縮空気の酸素量を計測する。内燃機関システム100では、吸気酸素センサ13で計測する酸素量によって、エンジン1の吸入空気量を検知または推定する。なお、本実施形態では吸気酸素センサ13を用いるが、吸気酸素センサ13の代わりに、エアフローメータ(図示しない)を用いてもよい。また、吸気酸素センサ13またはエアフローメータの配置は、エンジン1の吸入空気量を検知または推定し得る限りにおいて任意である。
【0018】
スロットルチャンバ4は、スロットルバルブを有する吸気絞り装置である。スロットルチャンバ4は、例えばアクセル開度等に応じてスロットルバルブの開度を調整することにより、エンジン1に供給する混合気の量を制調整する。
【0019】
インタークーラ6は、エンジン1の吸気ガスを冷却する吸気ガス冷却装置である。すなわち、インタークーラ6は、コンプレッサ5Aで圧縮されることにより温度が上昇した圧縮空気を冷却し、温度が調整された圧縮空気をエンジン1に供給する。
【0020】
排気通路3には、排気流れの上流側から順に、ターボ過給機5のタービン5Bと、排気浄化装置7と、が配置されている。また、排気通路3は、タービン5Bを迂回するバイパス通路を有する。そして、このバイパス通路には、タービン5Bに供給する排気ガスの量を調節するウェイストゲートバルブ11が配置されている。
【0021】
タービン5Bは、排気通路3を流れる排気ガスのエネルギを利用してコンプレッサ5Aを駆動する。また、タービン5Bに供給する排気ガスの量は、ウェイストゲートバルブ11の開閉制御によって制御される。
【0022】
排気浄化装置7は、排気ガスから有害物質を取り除くことにより、排気ガスを浄化する装置である。排気浄化装置7は、例えば、三元触媒や酸化触媒等である。
【0023】
EGR通路8は、排気浄化装置7より下流側とコンプレッサ5Aより上流側で、排気通路3と吸気通路2を接続する。EGR通路8には、排気ガス冷却装置9と、EGR還流装置10と、が設けられている。排気ガス冷却装置9は、EGR通路8を流れる排気ガス、すなわち吸気通路2に導入する排気ガスを冷却するEGRクーラである。EGR還流装置10は、EGR通路8を流れる排気ガスの流量を制御するEGRバルブである。EGR通路8、排気ガス冷却装置9、及び、EGR還流装置10は、いわゆるEGRシステムを構成する。
【0024】
コントローラ20は、内燃機関システム100の各部を統括的に制御する制御部である。コントローラ20は、例えば、中央演算装置(CPU)、読み出し専用メモリ(ROM)、ランダムアクセスメモリ(RAM)及び入出力インタフェース(I/Oインタフェース)を備えたマイクロコンピュータで構成される。また、コントローラ20は、複数のマイクロコンピュータで構成される場合がある。
【0025】
コントローラ20は、吸気酸素センサ13、クランク角センサ14、筒内圧センサ15、及び図示しない各種センサと接続しており、これらのセンサから吸気に含む酸素量、クランク角、筒内圧、及びその他の検出値を取得する。そして、コントローラ20は、これらの検出値の一部または全部を用いて、エンジン1、スロットルチャンバ4、EGR還流装置10、及び、吸気流量調整装置12等の動作を制御する。特に、本実施形態においては、コントローラ20は、エンジン1の点火時期を制御するようにプログラムされた点火時期制御装置として機能するように構成されている。
【0026】
以下、コントローラ20が実行するエンジン1の点火時期制御について説明する。
【0027】
図2は、点火時期制御を示すフローチャートである。ステップS101に示すように、コントローラ20は、まず、内燃機関システム100の運転状態を取得する(ステップS101)。内燃機関システム100の運転状態(以下、単に運転状態という)とは、エンジン1その他の内燃機関システム100を構成する各部の動作の状態をいう。運転状態について「取得」とは、運転状態を表すパラメータの値を特定することをいう。コントローラ20は、例えば、各種センサから運転状態を表すパラメータの値を検出値として直接的に読み込むことにより、運転状態を取得することができる。また、コントローラ20は、予め用意した所定の変換マップ等を用いて各種センサから得る1または複数の検出値を変換することにより運転状態を表すパラメータの値を得ることにより、運転状態を取得することができる。この他、各種センサから得る検出値の演算もしくは変換により得た数値等を読み込むこと等により、運転状態を取得することができる。
【0028】
具体的には、コントローラ20は、点火時期制御のために、クランク角センサ14からクランク角の検出値を得る。そして、コントローラ20は、クランク角を用いてエンジン1の回転数を特定する。エンジン1の回転数は運転状態を表すパラメータの1つである。本実施形態においては、コントローラ20は、エンジン1の回転数の他、エンジン1の出力軸のトルクの値等であるエンジン1の負荷を、運転状態を表すパラメータとして取得する。そして、コントローラ20は、運転状態としてエンジン1の回転数及び負荷を取得することにより、いわゆる運転点を特定する。
【0029】
上記のように運転状態を取得すると、ステップS102に示すように、コントローラ20は、目標燃焼重心を取得する。目標燃焼重心とは、燃焼重心の目標値であり、運転状態(いわゆる運転点)によって定まる。すなわち、コントローラ20は、ステップS101において運転状態の取得することによって特定した運転点に基づいて目標燃焼重心を取得する目標燃焼重心取得部として機能するように構成されている。コントローラ20は、運転状態を表すパラメータを用いた演算、変換、または、演算もしくは変換した値の読み込みにより、目標燃焼重心を取得することができる。本実施形態では、内燃機関システム100は、運転点ごとに目標燃焼重心が定められた変換マップである目標燃焼重心マップを有しており、コントローラ20は特定した運転点に対応する目標燃焼重心マップの値を読み込むことにより、目標燃焼重心を取得する。なお、燃焼重心とは、1つの燃焼サイクルにおいて発生する全熱量のうち、50%の熱量が発生するクランク角である。
【0030】
一方、ステップS103に示すように、コントローラ20は燃焼重心を取得する。すなわち、コントローラ20は、燃焼重心を取得する。すなわち、コントローラ20は燃焼重心を取得する燃焼重心取得部として機能するように構成されている。ここで取得する燃焼重心は、運転しているエンジン1における実際の燃焼重心であり、コントローラ20は、運転状態を表すパラメータを用いた演算、変換、または、演算もしくは変換した値の読み込みによって取得することができる。本実施形態では、コントローラ20は、例えば、筒内圧センサ15によって検出する筒内圧及びその経時的変化、及び/または、その他の検出値に基づいて算出または推定することにより、燃焼重心を取得する。なお、エンジン1は複数の気筒を有するので、コントローラ20は、それらの気筒ごとに燃焼重心を取得する。すなわち、内燃機関システム100においてはエンジン1の気筒ごとに点火時期制御を行う。
【0031】
目標燃焼重心と燃焼重心を取得すると、ステップS104に示すように、コントローラ20は、目標燃焼重心と燃焼重心の差分Δを取得する。すなわち、コントローラ20は、目標燃焼重心と燃焼重心の差分Δを取得する差分取得部として機能するように構成されている。ここで算出する差分Δは、目標燃焼重心と燃焼重心の差の絶対値である。すなわち、差分Δ=|燃焼重心-目標燃焼重心|である。また、コントローラ20は、差分Δを自ら算出することにより差分Δを取得することができる他、コントローラ20以外の演算装置等によって演算された差分Δを読み込むことにより、差分Δを取得することができる。本実施形態では、コントローラ20は自ら差分Δを算出する。
【0032】
次いで、ステップS105に示すように、コントローラ20は、点火時期の補正量である点火時期補正量を取得する。すなわち、コントローラ20は点火時期補正量を取得する点火時期補正量取得部として機能するように構成されている。点火時期補正量は、クランク角で表され、例えば、各気筒における点火時期を、補正前の点火時期である現在の点火時期から進角または遅角させるクランク角における分量である。
【0033】
点火時期を進角させるか遅角させるかの区別、すなわち点火時期制御の方向性は、例えば点火時期補正量の符号により定めることができる。点火時期補正量の符号は、目標燃焼重心と燃焼重心の大小関係より定める。燃焼重心が目標燃焼重心に対して遅角している場合、点火時期補正量の符号は例えば正であり、点火時期補正量は点火時期を進角させる分量を定める。また、燃焼重心が目標燃焼重心に対して進角している場合、点火時期補正量の符号は例えば負であり、点火時期補正量は点火時期を遅角させる分量を定める。
【0034】
また、点火時期補正量の大きさ(絶対値)は、目標燃焼重心と燃焼重心の差分Δに基づいて決定される。コントローラ20は、点火時期補正量の大きさ及び符号を、差分Δに基づいて算出推定することができる。また、差分Δを点火時期補正量に対応付ける所定の変換マップである補正量マップをあらかじめ用意している場合、コントローラ20は、補正量マップから差分Δに対応する補正量を読み込むことにより、点火時期補正量の大きさ及び符号を取得できる。コントローラ20は、点火時期補正量を自ら算出等することにより点火時期補正量を取得できる。また、コントローラ20は、コントローラ20以外の演算装置等によって算出等された点火時期補正量を読み込むことにより、点火時期補正量を取得することができる。本実施形態では、コントローラ20は自ら点火時期補正量を算出する。
【0035】
このようにコントローラ20は点火時期補正量を取得する一方で、ステップS106に示すように、コントローラ20はエンジン1における燃焼の安定度を表す燃焼安定度を取得する。すなわち、コントローラ20は、燃焼安定度を取得する燃焼安定度取得部として機能するように構成されている。燃焼安定度は、例えば燃焼変動率あるいは単に燃焼変動と称されるパラメータ(いわゆるCOV(coefficient of variation))を用いて表し、または燃焼変動率等に基づいて算出等することができる。また、燃焼安定度は、例えばエンジン1の出力軸におけるトルクの変動量から検出または算出等することができる。燃焼安定度は、その値が小さいほどエンジン1における燃焼が相対的に安定していることを表し、その値が大きいほどエンジン1における燃焼が相対的に不安定であることを表す。
【0036】
エンジン1の燃焼を安定または不安定であると判定する燃焼安定度の値は、内燃機関システム100を搭載する車両等に求められる性能やエンジン1の具体的な特性等との適合により定める。例えば、ある車両においては、燃焼安定度が約5%以下に収まっている場合、エンジン1における燃焼が安定していると判断される。
【0037】
ステップS107に示すように、コントローラ20は、燃焼安定度を取得すると、燃焼安定度を所定の第1閾値Th1と比較する。第1閾値Th1は、本実施形態において、点火時期の補正態様を決定するための燃焼安定度の基準値であり、内燃機関システム100を搭載する車両等に求められる性能等との適合により予め定める。したがって、第1閾値Th1はエンジン1の燃焼が安定しているか否かを判定するものではなく、燃焼安定度の値が第1閾値Th1以上であっても、エンジン1及びエンジン1を有する内燃機関システム100は安定的に運転を継続可能である。但し、燃焼安定度の性質上、燃焼安定度の値が第1閾値Th1よりも小さい場合、燃焼安定度が第1閾値Th1以上である場合と比較して相対的にエンジン1の燃焼は安定している。
【0038】
コントローラ20は、取得した燃焼安定度と第1閾値Th1との比較結果によって、点火時期の補正態様、すなわち点火時期補正の実行方法を変更する。これにより、コントローラ20は、燃焼安定度に基づいて点火時期の補正態様を変更する。したがって、コントローラ20は、燃焼安定度を第1閾値Th1と比較する比較部、及び、点火時期の補正態様を変更する補正態様変更部として機能するように構成されている。また、コントローラ20は、点火時期の補正態様の変更を、点火時期の補正に係るパラメータ(以下、補正パラメータという)を変更することにより行う。すなわち、コントローラ20は、補正パラメータを変更する補正パラメータ変更部として機能するように構成されている。
【0039】
補正パラメータは点火時期の補正態様の特徴を決定するパラメータであり、補正パラメータの変更は燃焼安定度を変動させる。したがって、点火時期の補正自体が燃焼安定度を変動させるが、補正パラメータを変更することにより、コントローラ20は、点火時期の補正に起因した燃焼安定度の変動を制御する。補正パラメータは、例えば、点火時期の補正周期、及び、点火時期の補正量等であり、コントローラ20は点火時期の補正に係る1または複数の補正パラメータを同時に変更することができる。
【0040】
本実施形態においてコントローラ20が変更する補正パラメータは補正周期である。したがって、コントローラ20は、燃焼安定度と第1閾値Th1との比較結果に応じて点火時期の補正周期を変更する。より具体的には、ステップS108に示すように、燃焼安定度が第1閾値Th1よりも小さい場合、コントローラ20は、点火時期の補正周期を第1周期に設定する。一方、ステップS109に示すように、燃焼安定度が第1閾値Th1以上である場合、コントローラ20は、点火時期の補正周期を、第1周期とは異なる第2周期に設定する。第1周期は第2周期と比較して相対的に短い補正周期であり、第2周期は第1周期と比較して相対的に長い補正周期である。すなわち、第1周期<第2周期である。
【0041】
その後、ステップS110に示すように、コントローラ20は、燃焼安定度に基づいて設定した補正パラメータの設定により、点火時期の補正を実行する。すなわち、コントローラ20は、点火時期の補正を実行する点火時期補正部として機能するように構成されている。ここでは、コントローラ20は、燃焼安定度が第1閾値Th1よりも小さい場合、第1周期で点火時期の補正を実行し、燃焼安定度が第1閾値Th1以上である場合、第2周期で点火時期の補正を実行する。点火時期の補正量は、ステップS105で取得した補正量である。
【0042】
以下、上記のように構成された内燃機関システム100の作用を説明する。
【0043】
図3は、第1周期で点火時期制御を行う場合における燃焼安定度、点火時期補正量、及び、燃焼重心の変化を示す模式的なグラフである。図3(A)に示すように、時刻T0から点火時期制御を開始し、時刻T0における燃焼安定度は第1閾値Th1よりも小さいとする。したがって、この状況は、燃焼安定度が第1閾値Th1以上である後述の場合と比較して、エンジン1の燃焼が相対的に安定している状況である。すなわち、図3ではエンジン1の燃焼が十分に安定している場合に点火時期制御が必要となった状況を示している。
【0044】
図3(B)に示すように、コントローラ20は、点火時期の補正量を取得し、その補正量の点火時期補正を実行する。燃焼安定度は第1閾値Th1よりも小さく、エンジン1の燃焼が十分に安定している状況であるから、コントローラ20は第1周期P1で点火時期補正量を取得する。そして、コントローラ20は、取得した補正量の点火時期補正を第1周期P1で実行する。
【0045】
図3(C)は、燃焼重心及び目標燃焼重心を示している。例えば、点火時期制御を開始する時刻T0においては、燃焼重心の値は「V0」であり、かつ、目標燃焼重心の値は「G1」である。このため、コントローラ20は、時刻T0以後、最初に行う点火時期補正の補正量を、時刻T0における目標燃焼重心の値G1と燃焼重心の値V0の差分Δに基づいて取得する。点火時期の補正量の値については、時刻T0以降においてもこれと同様である。なお、図3(C)においては、目標燃焼重心の値G1は、説明の便宜のため、一定値にしている。
【0046】
このように、エンジン1の燃焼が十分に安定している状況において、相対的に短周期な第1周期P1で点火時期の補正を実行すると、例えば点火時期制御開始以後の時刻T1からさらにその後の時刻T2にかけて燃焼安定度が上昇する場合がある(図3(A)参照)。この燃焼安定度の上昇すなわち燃焼の不安定化は、点火時期を補正することによって必然的に生じる燃焼の変動に起因する。ここでは、時刻T1から時刻T2にかけて燃焼安定度に上昇量d1程度の変化があるとする。
【0047】
一方、時刻T0から点火時期制御が行われたことによって、燃焼重心は時間経過とともに目標燃焼重心G1に収束する(図3(C)参照)。例えば、時刻T2頃には、燃焼重心は概ね目標燃焼重心G1に収束する。したがって、燃焼重心が目標燃焼重心G1に収束するまでに要する時間C1は、後述する第2周期で点火時期の補正をする場合と比較して相対的に短時間である。短周期の第1周期P1で点火時期を補正が実行されると、このように時間C1程度の短時間で燃焼重心を目標燃焼重心G1に収束させることができる。
【0048】
そして、燃焼重心が概ね目標燃焼重心G1に収束する結果、時刻T2以降においては、実際的な変動はあるものの、燃焼重心は安定的に推移する(図3(C)参照)。このため、時刻T2以降の燃焼安定度も安定的に推移する(図3(A)参照)。つまり、短周期の第1周期P1で点火時期の補正を実行すると、短時間で燃焼重心が目標燃焼重心G1に収束するので、これに応じて燃焼安定度も短時間で安定化する。その結果、燃焼安定度の上昇量d1も抑えられる。
【0049】
上記のように、短周期な第1周期P1で点火時期補正を実行する場合、燃焼重心が目標燃焼重心G1に収束するまでに要する時間C1は短く、燃焼重心の収束性が良い。このため、第1周期P1で点火時期補正を実行することにより、目標燃焼重心G1と実際の燃焼重心がほぼ一致する理想的な運転状態でエンジン1を運転できる期間が長い。その結果、コントローラ20は、短周期な第1周期P1で点火時期補正を実行することにより、エンジン1を燃費良く運転することができる。
【0050】
一方、燃焼安定度の上昇量d1は、例えば後述する第2周期P2で点火時期補正をする場合と比較して大きい。しかし、初めから燃焼安定度は第1閾値Th1よりも小さいので、上昇量d1程度の上昇を考慮しても、燃焼安定度は例えば第1閾値Th1を超えない等の許容し得る範囲内での推移を継続する。したがって、短周期な第1周期P1で点火時期補正を実行することにより、極僅かの燃焼安定度の損失と引き換えにして、第2周期P2で点火時期補正をする場合よりも大きな燃費改善効果を得ることができる。すなわち、コントローラ20は、エンジン1の燃焼が十分に安定している場合に第1周期P1で点火時期補正を実行することによって、燃焼重心の収束性と燃焼安定度を両立して点火時期を補正できる。
【0051】
図4は、第2周期で点火時期制御を行う場合における燃焼安定度、点火時期補正量、及び、燃焼重心の変化を示す模式的なグラフである。図4(A)に示すように、時刻T0から点火時期制御を開始し、時刻T0における燃焼安定度は第1閾値Th1以上であるとする。したがって、この状況は、燃焼安定度が第1閾値Th1よりも小さい前述の場合と比較して、エンジン1の燃焼が相対的に不安定な状況である。但し、この燃焼の不安定性の程度は、エンジン1の運転を安定的に継続できる範囲内である。すなわち、図4では、内燃機関システム100を搭載する車両の運転性等を考慮して許容し得る範囲内で、エンジン1の燃焼が不安定になっている場合に、さらに点火時期制御が必要となった状況を示している。
【0052】
この場合、コントローラ20は、図4(B)に示すように、点火時期の補正量を取得し、その補正量の点火時期補正を実行する。燃焼安定度は第1閾値Th1以上であり、エンジン1の燃焼が若干不安定な状況であるから、コントローラ20は、第2周期P2で点火時期の補正量を取得する。そして、コントローラ20は、取得した補正量の点火時期補正を第2周期P2で実行する。また、図4(C)は、燃焼重心及び目標燃焼重心を示している。コントローラ20は、図3の場合と同様に、点火時期補正の補正量を取得する。
【0053】
このように、エンジン1の燃焼が若干不安定な状況において、相対的に長周期な第2周期P2で点火時期の補正を実行すると、点火時期を補正することによって必然的に生じる燃焼の変動に起因して、燃焼安定度が上昇する場合がある(図4(A)参照)。ここでは、時刻T1から時刻T2にかけて燃焼安定度に上昇量d2程度の変化があるとする。
【0054】
また、時刻T0から点火時期制御が行われたことによって、燃焼重心が時間経過とともに目標燃焼重心G1に収束することは(図4(C)参照)、補正周期が短周期な第1周期P1である場合と同じである。但し、補正周期が長周期な第2周期P2であることによって、補正周期が短周期な第1周期P1である場合よりも点火時期補正の頻度が相対的に低減される。このため、燃焼重心が目標燃焼重心G1に収束する時刻は時刻T3程度までかかり、時刻T2よりも遅れる。したがって、燃焼重心が目標燃焼重心G1に収束するまでに要する時間C2は、補正周期が短周期な第1周期P1である場合に燃焼重心が目標燃焼重心G1に収束するまでに要する時間C1よりも長くなる。
【0055】
一方、補正周期が長周期な第2周期P2であることによって、例えば単位時間当たりに起こるエンジン1の燃焼変動が抑えられる。このため、図4(A)に示すように、燃焼安定度の上昇量d2は、短周期な第1周期P1で点火時期補正をする場合の上昇量d1よりも小さい。すなわちd2<d1である。また、燃焼安定度の上昇は、点火時期補正の初期(例えば時刻T2程度)で収まり、燃焼重心が目標燃焼重心G1に収束する以前であっても、時刻T2以降において燃焼安定度は安定的に推移する。
【0056】
上記のように、長周期な第2周期P2で点火時期補正を実行する場合、燃焼重心が目標燃焼重心G1に収束するまでに要する時間C2が、第1周期P1で点火時期補正をする場合よりも長くなる。すなわち、長周期な第2周期P2で点火時期補正を実行すると、燃焼重心の収束性は相対的に悪化し、理想的な運転状態でエンジン1を運転できる期間が減少する。しかし、この期間の損失は極僅かであるから、燃費に関する損失も極僅かである。その一方で、長周期な第2周期P2で点火時期補正を実行することにより、点火時期補正を行うにも関わらず、燃焼安定度の上昇は上昇量d2の程度に小さく抑えられる。したがって、燃焼安定度が第1閾値Th1以上であり、エンジン1の燃焼が若干不安定な場合、コントローラ20は、長周期な第2周期P2で点火時期補正を実行することによって、第1周期P1で点火時期補正をする場合と比較して、燃焼重心の収束性の悪化を抑えつつ、かつ、燃焼安定度の上昇を抑えることができる。すなわち、コントローラ20は、エンジン1の燃焼が若干不安定な場合に第2周期P2で点火時期補正を実行することによって、燃焼重心の収束性と燃焼安定度を両立して点火時期を補正できる。
【0057】
(第2実施形態)
第1実施形態においては、燃焼安定度に基づいて点火時期の補正態様を変更するために、コントローラ20は補正パラメータの1つである補正周期を変更する。しかし、コントローラ20は、補正周期の代わりに、または、補正周期の変更に加えて、他の補正パラメータを変更することができる。以下、燃焼安定度に基づいて点火時期の補正態様を変更するために、コントローラ20が補正パラメータの1つである点火時期補正量を変更する第2実施形態について説明する。
【0058】
図5は、第2実施形態に係る点火時期制御を示すフローチャートである。図5に示すように、運転状態の取得(ステップS101)、目標燃焼重心の取得(ステップS102)、燃焼重心の取得(ステップS103)、目標燃焼重心と燃焼重心の差分Δの取得(ステップS104)、点火時期補正量の取得(ステップS105)、及び、燃焼安定度の取得(ステップS106)については、第1実施形態と同様である。
【0059】
一方、ステップS201に示すように、コントローラ20は、燃焼安定度を取得すると、取得した燃焼安定度と第2閾値Th2と比較する。第2閾値Th2は、第1実施形態の第1閾値Th1に対応する基準値である。したがって、本実施形態では、便宜上、第2閾値Th2を第1実施形態の第1閾値Th1と異なるものとしているが、第2閾値Th2は第1実施形態の第1閾値Th1と同じ値にすることができる。但し、第2閾値Th2は第1閾値Th1と同じ値に設定しなければならないわけではなく、第2閾値Th2は第1閾値Th1と異なる値に設定することができる。
【0060】
コントローラ20は、燃焼安定度と第2閾値Th2との比較結果によって、点火時期の補正態様、すなわち点火時期補正の実行方法を変更するのも第1実施形態と同様である。但し、本実施形態において、点火時期の補正態様を変更するためにコントローラ20が変更する補正パラメータは点火時期補正量である。具体的には、ステップS202に示すように、燃焼安定度が第2閾値Th2よりも小さい場合、コントローラ20は、点火時期補正量を第1補正量に修正する。これにより、コントローラ20は、点火時期の補正量を第1補正量に設定する。一方、ステップS203に示すように、燃焼安定度が第2閾値Th2以上である場合、コントローラ20は、点火時期補正量を第1補正量とは異なる第2補正量に修正する。これにより、コントローラ20は、点火時期の補正量を第2補正量に設定する。第1補正量は第2補正量と比較して相対的に大きい補正量であり、第2補正量は第1補正量と比較して相対的に小さい補正量である。すなわち、第1補正量>第2補正量である。
【0061】
取得した点火時期補正量を第1補正量及び/または第2補正量にする修正は、例えば、取得した点火時期補正量に所定のゲインを乗じ、または、取得した点火時期補正量に閾値処理等を施すことにより行われる。第1補正量には、例えばステップS105で取得した点火時期補正量をそのまま利用できる。この場合、実際的には取得した点火時期補正量に何ら修正は加えないが、第2補正量に対して相対的に大きい第1補正量を設定するために、取得した点火時期補正量を1倍(等倍)するゲイン処理による修正が施されたものとみなす。また、第2補正量には、取得した点火時期補正量が所定の上限値を超える場合にその値を上限値に置き換えた値、または、取得した点火時期補正量に1未満の所定ゲインを乗じた値、等を用いることができる。いずれにしても、第2補正量の値は第1補正量の値以下である。
【0062】
こうした修正等により、第1補正量または第2補正量を点火時期の補正量に設定すると、ステップS204に示すように、コントローラ20はこれを用いて点火時期の補正を実行する。
【0063】
以下、上記のように点火時期の補正量に第1補正量または第2補正量を設定する場合の作用を説明する。
【0064】
図6は、第1補正量で点火時期制御を行う場合における燃焼安定度、点火時期補正量、及び、燃焼重心の変化を示す模式的なグラフである。図6(A)に示すように、時刻T0から点火時期制御を開始し、時刻T0における燃焼安定度は第2閾値Th2よりも小さいとする。したがって、この状況は、燃焼安定度が第2閾値Th2以上である後述の場合と比較して、エンジン1の燃焼が相対的に安定している状況である。すなわち、図6ではエンジン1の燃焼が十分に安定している場合に点火時期制御が必要となった状況を示している。
【0065】
図6(B)に示すように、コントローラ20は目標燃焼重心G1と燃焼重心の差分Δに基づいて取得される点火時期補正量に修正を加えた第1補正量を用いて、点火時期の補正を実行する。第1補正量には、例えば取得される点火時期補正量をそのまま使用されるので、必要に応じて、第2補正量を使用する場合よりも大きな値の第1補正量が許容される。なお、本実施形態における点火時期の補正周期P3は任意である。補正周期P3は、第1実施形態の補正周期である第1周期P1及び第2周期P2のいずれとも異なる値を設定可能であり、第1周期P1または第2周期P2のいずれかと同じ値に設定してもよい。図6(C)に示すように、説明の便宜のため、第1実施形態と同様に、目標燃焼重心G1は一定値であるとする。
【0066】
上記のように、エンジン1の燃焼が十分に安定している状況において、相対的に大きい値を有する第1補正量で点火時期の補正を実行すると、例えば時刻T1から時刻T2にかけて燃焼安定度が上昇する場合がある(図6(A)参照)。ここでは、時刻T1から時刻T2にかけて燃焼安定度に上昇量d3程度の変化があるとする。
【0067】
一方、時刻T0から点火時期制御が行われたことによって、燃焼重心は時間経過とともに目標燃焼重心G1に収束する(図6(C)参照)。例えば、時刻T4頃には、燃焼重心は概ね目標燃焼重心G1に収束する。したがって、燃焼重心が目標燃焼重心G1に収束するまでに要する時間C3は、後述する第2補正量で点火時期の補正をする場合と比較して相対的に短時間である。相対的に値が大きい第1補正量によって点火時期の補正を実行する場合、必要に応じて例えば変化量D1に示すように1回の補正で燃焼重心を大きく変動させる等、燃焼重心を目標燃焼重心G1に早期に収束させることを優先した補正が許容されるからである。
【0068】
そして、燃焼重心が早期に目標燃焼重心G1に収束する結果、例えば、時刻T2以降において燃焼重心は安定的に推移する(図6(C)参照)。このため、時刻T2以降の燃焼安定度も安定的に推移する(図6(A)参照)。つまり、相対的に値が大きい第1補正量で点火時期の補正を実行すると、短時間で燃焼重心が目標燃焼重心G1に収束するので、これに応じて、燃焼安定度も短時間で安定化する。その結果、燃焼安定度の上昇量d3も抑えられる。
【0069】
上記のように、値が大きい第1補正量で点火時期補正を実行する場合、燃焼重心が目標燃焼重心G1に収束するまでに要する時間C3は短く、燃焼重心の収束性が良い。このため、第1補正量で点火時期補正を実行することにより、目標燃焼重心G1と実際の燃焼重心がほぼ一致する理想的な運転状態でエンジン1を運転できる期間が長い。その結果、コントローラ20は、値が大きい第1補正量で点火時期補正を実行することにより、エンジン1を燃費良く運転することができる。
【0070】
一方、燃焼安定性の上昇量d3は、例えば後述する第2補正量で点火時期を補正する場合と比較して大きい。しかし、初めから燃焼安定度は第2閾値Th2よりも小さいので、上昇量d3程度の上昇を考慮しても、燃焼安定度は例えば第2閾値Th2を超えない等の許容し得る範囲内での推移を継続する。したがって、コントローラ20が、値が大きい第1補正量で点火時期の補正を実行することにより、極僅かの燃焼安定度の損失と引き換えにして、第2補正量で点火時期補正をする場合よりも大きな燃費改善効果を得ることができる。すなわち、コントローラ20は、エンジン1の燃焼が十分に安定している場合に第1補正量で点火時期補正を実行することによって、燃焼重心の収束性と燃焼安定度を両立して点火時期を補正できる。
【0071】
図7は、第2補正量で点火時期制御を行う場合における燃焼安定度、点火時期補正量、及び、燃焼重心の変化を示す模式的なグラフである。図7(A)に示すように、時刻T0から点火時期制御を開始し、時刻T0における燃焼安定度は第2閾値Th2以上であるとする。したがって、この状況は、燃焼安定度が第2閾値Th2よりも小さい前述の場合と比較して、エンジン1の燃焼が相対的に不安定な状況である。但し、この燃焼の不安定性の程度は、エンジン1の運転を安定的に継続できる範囲内である。すなわち、図7では、内燃機関システム100を搭載する車両の運転性等を考慮して許容し得る範囲内で、エンジン1の燃焼が不安定になっている場合に、さらに点火時期制御が必要となった状況を示している。
【0072】
この場合、図7(B)に示すように、コントローラ20は目標燃焼重心G1と燃焼受信の差分Δに基づいて取得された点火時期補正量に修正を加えた第2補正量を用いて、点火時期の補正を実行する。第2補正量は第1補正量よりも値が小さいので、図7(C)に示すように、1回の点火時期の補正で生じる燃焼重心の変化量D2は、第1補正量を使用する場合の燃焼重心の変化量D1よりも小さい。このため、燃焼重心が目標燃焼重心G1に収束する時刻は時刻T5程度までかかり、時刻T3(図6(C)参照)よりも遅れる。したがって、燃焼重心が目標燃焼重心G1に収束するまでに要する時間C4は、第1補正量で点火時期を補正する場合に燃焼重心が目標燃焼重心G1に収束するまでの時間C3よりも長くなる。
【0073】
一方、第2補正量で点火時期を補正することによって、例えば単位時間あたりに起こるエンジン1の燃焼変動が抑えられる。このため、図7(A)に示すように、燃焼安定度の上昇量d4は、第1補正量で点火時期補正をする場合の上昇量d3よりも小さい。すなわち、d4<d3である。また、燃焼安定度の上昇は、点火時期補正の初期(例えば時刻T2程度)で収まり、燃焼重心が目標燃焼重心G1に収束する以前であっても、時刻T2以降において燃焼安定度は安定的に推移する。
【0074】
上記のように、第2補正量で点火時期補正を実行する場合、燃焼重心が目標燃焼重心G1に収束するまでに要する時間C4が、第1補正量で点火時期補正をする場合よりも長くなる。すなわち、値が小さい第2補正量で点火時期補正を実行すると、燃焼重心の収束性は相対的に悪化し、理想的な運転状態でエンジン1を運転できる期間が減少する。しかし、この期間の損失は極僅かであるから、燃費に関する損失も極僅かである。その一方で、値が小さい第2補正量で点火時期補正を実行することにより、点火時期補正を行うにも関わらず、燃焼安定度の上昇は上昇量d4の程度に小さく抑えられる。したがって、燃焼安定度が第2閾値Th2以上であり、エンジン1の燃焼が若干不安定な場合、コントローラ20は、値が小さい第2補正量で点火時期補正を実行することによって、第1補正量で点火時期補正をする場合と比較して、燃焼重心の収束性の悪化を抑えつつ、かつ、燃焼安定度の上昇を抑えることができる。すなわち、コントローラ20は、エンジン1の燃焼が若干不安定な場合に第2補正量で点火時期補正を実行することによって、燃焼重心の収束性と燃焼安定度を両立して点火時期を補正できる。
【0075】
(第3実施形態)
第1実施形態及び第2実施形態においては、コントローラ20は、燃焼安定度が第1閾値Th1または第2閾値Th2で表される基準値と燃焼安定度の大小関係に基づいて、点火時期の補正パラメータを変更している。しかし、第1実施形態及び第2実施形態のように燃焼安定度に基づいて点火時期の補正パラメータを変更する前提で、さらに必要な場合には、コントローラ20は、燃焼安定度以外の基準に基づいて、点火時期補正の補正パラメータを変更してもよい。以下、燃焼重心と目標燃焼重心の差分Δに基づいて、補正パラメータの1つである補正周期を変更する第3実施形態について説明する。
【0076】
図8は、第3実施形態の点火時期制御を示すフローチャートである。図8に示すように、第3実施形態の点火時期制御は、第1実施形態の点火時期制御において点火時期補正量の取得(ステップS105)と燃焼安定度の取得(ステップS106)の間に、コントローラ20が目標燃焼重心と燃焼重心の差分Δを第3閾値Th3と比較するステップS301を設けたものである。第3閾値Th3は、差分Δに基づいて補正パラメータを変更するか否かを決定するための基準値であり、内燃機関システム100を搭載する車両等に求められる性能やエンジン1の具体的な特性等との適合により定める。
【0077】
ステップS301において差分Δと第3閾値Th3を比較した結果、差分Δが第3閾値Th3以下である場合、コントローラ20は、第1実施形態と同様に点火時期補正を実行する。すなわち、この場合には、コントローラ20は、燃焼安定度を取得し(ステップS106)、取得した燃焼安定度と第1閾値Th1の比較結果に基づいて(ステップS107)、補正周期を第1周期または第2周期に設定して(ステップS108,S109)、点火時期の補正を実行する(ステップS110)。
【0078】
一方、ステップS301において差分Δと第3閾値Th3を比較した結果、差分Δが第3閾値Th3よりも大きい場合、コントローラ20は、補正周期を第1周期に設定し(ステップS108)、点火時期の補正を実行する(ステップS110)。すなわち、この場合には、コントローラ20は、燃焼安定度の取得(ステップS106)及び燃焼安定度と第1閾値Th1の比較(ステップS107)を省略し、かつ、補正周期を第1周期に設定することを決定する。
【0079】
上記のように、本実施形態においては、差分Δが第3閾値Th3以下である場合には補正周期を第1周期に設定し、差分Δが第3閾値Th3よりも大きい場合には第1実施形態と同様に燃焼安定度に基づいて補正周期を第1周期または第2周期のどちらに設定するかを選択する。差分Δが第3閾値Th3以下となる状況は、そもそも燃焼重心と目標燃焼重心が一定程度に近接しており、エンジン1の運転が概ね安定している状態である。このため、第1実施形態のように、燃焼安定度に基づいて補正周期を変更することにより、第1実施形態と同様の効果が得られる。一方、差分Δが第3閾値Th3よりも大きくなる状況は、燃焼重心と目標燃焼重心が大きくかけ離れており、エンジン1の運転が既に明らかに不安定であるか、エンジン1の運転が安定しているとしても、間もなく安定性を欠く状態に変化しそうな状況等である。したがって、燃焼安定度によらず、エンジン1の運転を安定させることを優先して、燃焼重心の収束性が相対的に良い第1周期を採用することにより、燃焼重心を目標燃焼重心にできる限り早く近づける。これにより、コントローラ20は、燃焼重心の収束性と燃焼安定度を両立した点火時期補正をする利益が殆どないような状況の継続を抑えることができる。
【0080】
(第4実施形態)
上記第3実施形態においては、コントローラ20は燃焼重心と目標燃焼重心の差分Δに基づいて補正周期を変更するが、この代わりに、コントローラ20は差分Δに基づいて点火時期の補正量を変更することができる。以下、差分Δに基づいて、補正パラメータの1つである点火時期の補正量を変更する第4実施形態について説明する。
【0081】
図9は、第4実施形態の点火時期制御を示すフローチャートである。図9に示すように、第4実施形態の点火時期制御は、第2実施形態の点火時期制御において点火時期補正量の取得(ステップS105)と燃焼安定度の取得(ステップS106)の間に、コントローラ20が目標燃焼重心と燃焼重心の差分Δを第3閾値Th3と比較するステップS301を設けたものである。
【0082】
ステップS301において差分Δと第3閾値Th3を比較した結果、差分Δが第3閾値Th3以下である場合、コントローラ20は、第2実施形態と同様に点火時期補正を実行する。すなわち、この場合には、コントローラ20は、燃焼安定度を取得し(ステップS106)、取得した燃焼安定度と第2閾値Th2の比較結果に基づいて(ステップS201)、補正周期を第1周期または第2周期に設定して(ステップS202,S203)、点火時期の補正を実行する(ステップS204)。
【0083】
一方、ステップS301において差分Δと第3閾値Th3を比較した結果、差分Δが第3閾値Th3よりも大きい場合、コントローラ20は、点火時期補正量を第1補正量に設定し(ステップS202)、点火時期の補正を実行する(ステップS204)。すなわち、この場合には、コントローラ20は、燃焼安定度の取得(ステップS106)及び燃焼安定度と第2閾値Th2の比較(ステップS201)を省略し、かつ、点火時期補正量を第1補正量に修正することを決定する。
【0084】
上記のように、本実施形態においては、差分Δが第3閾値Th3以下である場合には点火時期の補正量を第1補正量に設定し、差分Δが第3閾値Th3よりも大きい場合には第2実施形態と同様に燃焼安定度に基づいて点火時期の補正量を第1補正量または第2補正量のどちらに設定するかを選択する。すなわち、燃焼重心と目標燃焼重心が大きくかけ離れている場合には、燃焼安定度によらず、エンジン1の運転を安定させることを優先して、燃焼重心の収束性が相対的に良い第1補正量を用いた点火時期補正を採用し、燃焼重心を目標燃焼重心にできる限り早く近づける。これにより、コントローラ20は、燃焼重心の収束性と燃焼安定度を両立した点火時期補正をする利益が殆どないような状況の継続を抑えることができる。
【0085】
上記第1~第4実施形態のいずれか、または、これらの組み合わせに係る内燃機関システム100の点火時期制御方法は、内燃機関であるエンジン1の運転状態に応じて点火時期を補正する内燃機関の点火時期制御方法である。そして、この内燃機関システム100の点火時期制御方法は、内燃機関であるエンジン1の燃焼に関する安定度を表す燃焼安定度を取得し、燃焼安定度に基づいて、点火時期の補正に係るパラメータである補正パラメータを変更することにより、点火時期の補正態様を変更する、内燃機関の点火時期制御方法である。
【0086】
この内燃機関の点火時期制御方法は、燃焼重心の収束性と燃焼安定度を両立することができる。また、燃焼重心の収束性は燃費に関連し、燃焼安定度はエンジン1の異常燃焼に関連する。したがって、上記各実施形態等に係る内燃機関の点火時期制御方法によれば、燃費の改善と異常燃焼の抑制を両立した点火時期制御を実行できる。
【0087】
特に、第1実施形態に係るエンジン1の点火時期制御方法は、燃焼安定度に基づいて、点火時期の補正に係るパラメータの1つである補正周期を変更するものである。この点火時期制御方法は、点火時期の補正周期を変更するので、燃焼重心の収束性と燃焼安定度を両立した上記の点火時期補正を実現しやすい。
【0088】
また、第1実施形態に係るエンジン1の点火時期制御方法では、燃焼安定度が所定の第1閾値Th1よりも小さい場合、補正周期を第1周期P1に設定し、燃焼安定度が第1閾値Th1以上である場合、補正周期を、第1周期P1よりも長い第2周期P2に設定する。すなわち、燃焼安定度が十分に低く、エンジン1の燃焼が十分に安定しているときは、点火時期の制御周期が相対的に短く設定される。これにより、燃焼重心が目標燃焼重心に収束するまでの時間を短くし、最適な点火時期で運転する時間を長くできる。その結果、この点火時期補正によって、第2周期P2で点火時期補正をする場合よりも大きな燃費改善効果が得られる。一方で、エンジン1の燃焼が必要十分には安定してるものの、燃焼安定度が若干低いときは、点火時期の制御周期が相対的に長く設定される。これにより、点火時期が変化すること起因してエンジン1の燃焼の変動が増加することを抑制しつつ、燃焼重心を目標燃焼重心に収束させることができる。これらにより、第1実施形態に係るエンジン1の点火時期制御方法によれば、燃焼重心の収束性と燃焼安定度が特に両立されやすい。
【0089】
さらに、第3実施形態に係るエンジン1の点火時期制御方法では、内燃機関であるエンジン1の燃焼重心と、燃焼重心の目標値であり、運転状態によって定まる目標燃焼重心と、の差分Δを取得し、差分Δが所定の第3閾値Th3以下である場合には、燃焼安定度に基づいて補正周期を変更する。一方、差分Δが第3閾値Th3よりも大きい場合には、補正周期を、燃焼安定度に基づいて設定する補正周期(第1周期P1または第2周期P2)のうち相対的に短周期である第1周期P1に設定する。これにより、目標燃焼重心からの燃焼重心のずれが大きいときに、ある程度(差分Δが第3閾値Th3以下となる程度)まで、燃焼重心が目標燃焼重心に近づけることを優先される。その結果、最適な点火時期で運転する時間を長くできる。
【0090】
第2実施形態に係るエンジン1の点火時期制御方法は、燃焼安定度に基づいて、点火時期の補正に係るパラメータの1つである補正量を変更するものである。この点火時期制御方法は、点火時期の補正量を変更するので、燃焼重心の収束性と燃焼安定度を両立した上記の点火時期補正を実現しやすい。
【0091】
特に、第2実施形態に係るエンジン1の点火時期制御方法では、燃焼安定度が所定の第2閾値Th2よりも小さい場合、補正量を第1補正量に設定し、燃焼安定度が第2閾値Th2以上である場合、補正量を、第1補正量よりも小さい第2補正量に設定する。すなわち、燃焼安定度が十分に低く、エンジン1の燃焼が十分に安定しているときは、点火時期の補正量が相対的に大きく設定される。これにより、燃焼重心が目標燃焼重心に収束するまでの時間を短くし、最適な点火時期で運転する時間を長くできる。その結果、この点火時期補正によって、第2補正量で点火時期補正をする場合よりも大きな燃費改善効果が得られる。一方で、エンジン1の燃焼が必要十分には安定してるものの、燃焼安定度が若干低いときは、点火時期の補正量が相対的に小さく設定される。これにより、点火時期が変化すること起因してエンジン1の燃焼の変動が増加することを抑制しつつ、燃焼重心を目標燃焼重心に収束させることができる。これらにより、第2実施形態に係るエンジン1の点火制御方法によれば、燃焼重心の収束性と燃焼安定度が特に両立されやすい。
【0092】
さらに、第4実施形態に係るエンジン1の点火時期制御方法では、内燃機関であるエンジン1の燃焼重心と、燃焼重心の目標値であり、運転状態によって定まる目標燃焼重心と、の差分Δを取得し、差分Δが所定の第3閾値Th3以下である場合には、燃焼安定度に基づいて補正量を変更する。一方、差分Δが第3閾値Th3よりも大きい場合には、補正量を、燃焼安定度に基づいて設定する補正量(第1補正量または第2補正量)のうち相対的に大きい第1補正量に設定する。これにより、目標燃焼重心からの燃焼重心のずれが大きいときに、ある程度(差分Δが第3閾値Th3以下となる程度)まで、燃焼重心が目標燃焼重心に近づけることを優先される。その結果、最適な点火時期で運転する時間を長くできる。
【0093】
上記第1~第4実施形態のいずれか、または、これらの組み合わせに係る内燃機関システム100のコントローラ20は、内燃機関であるエンジン1の運転状態に応じて点火時期を補正する内燃機関の点火時期制御装置である。そして、点火時期制御装置であるコントローラ20は、内燃機関であるエンジン1の燃焼に関する安定度を表す燃焼安定度を取得する燃焼安定度取得部、及び、燃焼安定度に基づいて、点火時期の補正に係るパラメータである補正パラメータを変更することにより、点火時期の補正態様を変更する補正態様変更部として機能するように構成されている。
【0094】
なお、上記各実施形態は、その一部または全部を組み合わせることができる。例えば、第1実施形態と第2実施形態を組み合わせ、燃焼安定度に基づいて、補正周期と補正量の両方を変更してもよい。
【0095】
上記各実施形態においては、内燃機関システム100は点火時期制御に燃焼重心の値を使用しているが、内燃機関システム100は、燃焼重心の代わりに、任意の燃焼位相を使用してもよい。コントローラ20は、燃焼重心の代わりに、例えば、1つの燃焼サイクルにおいて発生する全熱量のうち、10%の熱量が発生するクランク角を使用してもよい。また、燃焼重心及びその他の燃焼位相は、エンジン1の燃焼の状態を表すパラメータの1つである。このため、内燃機関システム100は、エンジン1の燃焼の状態を検出等可能であれば、燃焼重心またはその他の燃焼位相の代わりに、エンジン1の燃焼の状態を表す他の任意のパラメータを使用することができる。
【0096】
上記各実施形態の内燃機関システム100はEGRシステムを備えているが、本発明はEGRシステムを有しない内燃機関システムにも好適である。但し、EGRシステムを有する内燃機関システムは、通常、点火時期制御の応答に比べてEGR率制御の応答が遅い。点火時期は電気的にほぼ瞬時に変化するのに対し、EGRバルブのメカニカルな応答遅れや、EGRバルブの開度が変化してから当該開度に応じたEGRガス量になるまでの遅れがあるからである。このため、EGRシステムを有する内燃機関システムでは、過渡状態において点火時期と実際のEGR率とがアンマッチな状態が生じやすく、点火時期を頻繁に操作することによって燃焼安定度が損なわれやすい。したがって、燃焼安定度の変動を抑えつつ点火時期制御を行うことができる本発明は、EGRシステムを備えた内燃機関システムに特に好適である。上記各実施形態の内燃機関システム100は低圧EGRシステムを例示しているが、本発明は、当然に、高圧EGR(HP-EGR)システムにも好適である。高圧EGRシステムは、スロットルチャンバ4の下流側にEGRガスを還流させるEGRシステムである。また、いわゆるリーンバーンを採用する内燃機関システムは、点火時期を頻繁に操作することによって燃焼安定度が損なわれやすい。このため、本発明は、リーンバーンを採用する内燃機関システムにも特に好適である。
【符号の説明】
【0097】
1 :エンジン
2 :吸気通路
3 :排気通路
4 :スロットルチャンバ
5 :ターボ過給機
5A :コンプレッサ
5B :タービン
6 :インタークーラ
7 :排気浄化装置
8 :EGR通路
9 :排気ガス冷却装置
10 :EGR還流装置
11 :ウェイストゲートバルブ
12 :吸気流量調整装置
13 :吸気酸素センサ
14 :クランク角センサ
15 :筒内圧センサ
20 :コントローラ
100 :内燃機関システム
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9