(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-07
(45)【発行日】2024-05-15
(54)【発明の名称】複合歯車、カートリッジ、画像形成装置、成形型、および複合歯車の製造方法
(51)【国際特許分類】
F16H 55/17 20060101AFI20240508BHJP
F16H 55/06 20060101ALI20240508BHJP
B29C 45/26 20060101ALI20240508BHJP
B29C 45/16 20060101ALI20240508BHJP
【FI】
F16H55/17 A
F16H55/06
B29C45/26
B29C45/16
(21)【出願番号】P 2020095174
(22)【出願日】2020-06-01
【審査請求日】2023-05-24
(31)【優先権主張番号】P 2019119939
(32)【優先日】2019-06-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003133
【氏名又は名称】弁理士法人近島国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】飯島 学
(72)【発明者】
【氏名】藤井 達朗
(72)【発明者】
【氏名】板橋 優太
【審査官】木原 裕二
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2011/058701(WO,A1)
【文献】特開2001-315160(JP,A)
【文献】特表平08-506649(JP,A)
【文献】実開昭63-083675(JP,U)
【文献】特開2010-125822(JP,A)
【文献】特開平02-072259(JP,A)
【文献】特開平04-351365(JP,A)
【文献】特開2001-150491(JP,A)
【文献】特開2019-195937(JP,A)
【文献】特開2010-139041(JP,A)
【文献】特開2003-021224(JP,A)
【文献】実開平04-124628(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 55/17
F16H 55/06
B29C 45/26
B29C 45/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸部と、前記回転軸部から径方向に広がる円盤状のウェブと、を有する第1の部材と、
外周に少なくとも一つ以上の噛合歯を有し、前記ウェブに支持されて前記第1の部材の外周を囲むように設けられている第2の部材と、を備えた複合歯車であって、
前記第1の部材の最外周面が前記第2の部材との間に径方向の空間を有し、前記第2の部材の最内周面が前記
第1の部材との間に径方向の空間を有し、前記第1の部材及び前記第2の部材の少なくとも一方が、前記第1の部材及び前記第2の部材の他方を前記回転軸部の軸方向の両側から挟持するように形成されている、複合歯車。
【請求項2】
前記第2の部材は、前記第1の部材の一部を前記軸方向の両側から挟持する挟持部を有する、請求項1に記載の複合歯車。
【請求項3】
前記ウェブの前記挟持部によって挟持される部分が、外周から前記回転軸部に向かうにつれて、前記軸方向の厚みが漸減するよう形成されている、請求項2に記載の複合歯車。
【請求項4】
前記第1の部材の前記ウェブには、軸方向に貫通する貫通穴が設けられ、
前記第2の部材は、前記貫通穴を貫通するように形成され、
前記第1の部材が第1の樹脂材料から成り、前記第2の部材が第2の樹脂材料から成り、前記第1の樹脂材料が前記第2の樹脂材料よりも高剛性であり、
前記第1の部材及び前記第2の部材を一体化するように成形済みの前記第1の部材に対して前記第2の樹脂材料が射出されたゲートのゲート痕を前記第1の部材の前記貫通穴の位置に備えた請求項1に記載の複合歯車。
【請求項5】
前記第1の部材の前記ウェブの外周に突条が形成されている請求項1に記載の複合歯車。
【請求項6】
前記第1の部材及び前記第2の部材の前記他方は、前記回転軸部の周方向に対向する2つの側縁部を含む貫通穴を備え、
前記第1の部材及び前記第2の部材の前記一方は、前記貫通穴を貫通するように形成されている、請求項1に記載の複合歯車。
【請求項7】
前記側縁部の各々は、前記軸方向に見て直線状に延びており、前記回転軸部の径方向に対して-10°から+10°の範囲の傾斜角度を有する、請求項6に記載の複合歯車。
【請求項8】
前記貫通穴は、前記第1の部材に設けられ、前記貫通穴は、2つの前記側縁部と、前記貫通穴の外周側および内周側において、2つの前記側縁部を繋ぐ外周縁部と、内周縁部と、により画成される、請求項7に記載の複合歯車。
【請求項9】
前記外周縁部および/または前記内周縁部が曲線形状を有する、請求項8に記載の複合歯車。
【請求項10】
前記側縁部と、前記外周縁部および/または前記内周縁部と、が曲線形状を有する隅部を介して連続している、請求項8に記載の複合歯車。
【請求項11】
前記隅部の曲線形状が、円筒面または面取りである、請求項10に記載の複合歯車。
【請求項12】
前記貫通穴の2つの前記側縁部のなす角φ(度)が以下を満たす複合歯車であって、
【数1】
ただし、l[mm]は前記第1の部材の最外周面から前記貫通穴の外周縁部までの長さ、t[mm]は前記第1の部材の前記ウェブの厚みを示す、請求項6に記載の複合歯車。
【請求項13】
前記第1の部材は、前記第2の部材の一部を前記軸方向の両側から挟持する挟持部を有する、請求項1に記載の複合歯車。
【請求項14】
前記第1の部材は、前記第2の部材の一部を前記軸方向の両側から挟持する第1挟持部を有し、前記第2の部材は、前記第1の部材の一部を前記軸方向の両側から挟持する第2挟持部を有する、請求項1に記載の複合歯車。
【請求項15】
感光ドラムと、
前記感光ドラムの長手方向の端部に取り付けられて前記感光ドラムに回転力を伝達する請求項1に記載の複合歯車と、を備えた画像形成装置用のカートリッジ。
【請求項16】
請求項15に記載のカートリッジと、前記カートリッジの前記感光ドラムを用いて画像形成を行う画像形成機構と、を備えた画像形成装置。
【請求項17】
複合歯車の製造に用いられる成形型において、
前記複合歯車は、
回転軸部と、前記回転軸部から径方向に広がる円盤状のウェブと、を有する第1の部材と、
外周に少なくとも一つ以上の噛合歯を有し、前記ウェブに支持されて前記第1の部材の外周を囲むように設けられている第2の部材と、を備え、
前記第1の部材の最外周面が前記第2の部材との間に径方向の空間を有し、前記第2の部材の最内周面が前記
第1の部材との間に径方向の空間を有し、前記第1の部材及び前記第2の部材の少なくとも一方が、前記第1の部材及び前記第2の部材の他方を前記回転軸部の軸方向の両側から挟持するように形成されており、
前記成形型は、第1の固定金型と、第2の固定金型と、移動金型と、を有し、前記移動金型が前記第1の固定金型に対向している状態で前記第1の部材が成形され、前記第1の部材が成形された後に前記移動金型が前記第2の固定金型に対向する位置に移動した状態で、前記第1の部材と一体になるように前記第2の部材が成形されるように構成されている、成形型。
【請求項18】
回転軸部と、前記回転軸部から径方向に広がる円盤状のウェブと、を有する第1の部材を成形する第1の工程と、
第1の工程で成形された前記第1の部材を成形型に収容し、外周に少なくとも一つ以上の噛合歯を有する第2の部材を、前記ウェブに支持されて前記第1の部材の外周を囲むように形成する第2の工程と、を含み、
前記第2の工程において、前記第1の部材の最外周面が前記第2の部材との間に径方向の空間を有し、前記第2の部材の最内周面が前記
第1の部材との間に径方向の空間を有し、前記第1の部材及び前記第2の部材の少なくとも一方が、前記第1の部材及び前記第2の部材の他方を前記回転軸部の軸方向の両側から挟持するように、前記第2の部材を形成する複合歯車の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複合歯車、カートリッジ、画像形成装置、成形型、および複合歯車の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
樹脂製の歯車は、複写機、プリンター等のOA機器、インクカートリッジ等の消耗品、デジタルカメラやビデオカメラ等の小型精密機器のような広い範囲の機械製品に動力伝達部品として組み込まれている。従来、高精度な動力伝達部品としての樹脂製歯車には歯先円寸法や噛合い誤差(日本歯車工業会規格JGMA 116-02)や歯すじ等級(ISO1328を基とするJIS B 1702)の精度規格がその用途と目的に応じて設定されている。特に、高品質な機械製品に用いられる樹脂製歯車では、これら精度規格の幅を小さく設定して品質を高めたものが多い。
【0003】
しかし、近年のカラープリンターやカラー複写機は高品質だけでなく、駆動時の低騒音性能や印字性能の高度化など機能面の向上も併せて求められるようになってきている。これらの機器の場合、従来のように歯車の精度規格幅を小さく設定する方法だけは要求を満足することが困難であり、歯車の回転伝達精度(JIS B 1702-3附属書 1)などの動的精度も高めることが必要になる。
【0004】
例えば傾斜させた歯を有する斜歯(はすば)歯車などの場合、回転伝達精度が悪化する事象として、(1)歯車歯面精度の不良、(2)歯車支持部の不良、(3)回転駆動時における歯車の変形、といった問題が知られている。
【0005】
これら問題の内、(1)は、例えば歯面に与えられた規格が使用環境に適していないか、成形加工時の樹脂収縮に伴う形状悪化などに起因するものと考えられる。(2)は例えば歯車の支持軸が回転軸に対して偏芯あるいは傾いていることにより生じると考えられる。(3)は歯車を実際に機械製品に組み込み、特定の回転速度で回転させたときに発生するトルクなどによって引き起こされる、と考えられる。上記の(1)、(2)の場合では、歯車に対して歯すじ誤差精度(JIS B 1702)や同軸度などの諸規格を設定し、その規格に収まる歯車を採用することで管理することが可能である。一方、(3)は歯車の動的環境によって生じる問題のため、(1)、(2)のような静的環境下における精度規格では回避するのが難しい場合がある。
【0006】
例えば、
図13(a)、(b)に示すような樹脂製歯車70は、傾斜した歯71(はす歯)が形成された円環状のリム72と、歯車の中心に配設された回転支持部74とがウェブ79で接続されている。回転支持部74は円筒状で、内径部81と外径部82および83から成る。回転支持部の構造は、機械製品の構成によって違い、内径部81に樹脂製あるいは金属製のシャフトを嵌合させて支持する、外径部82または83、あるいは両方を軸受として支持する、などの構成がある。
【0007】
通常、このような樹脂製歯車70を回転駆動させるとトルクが発生するため回転支持部74にねじりモーメントが生じる。また、樹脂製歯車70が傾斜した歯71を有する場合では、歯のねじれ成分によってスラスト方向へ分力が発生する。つまり複数の力成分が回転支持部の軸周りで発生することになる。
【0008】
従来、この種の樹脂製歯車はポリアセタールなどの摺動性が良く、機械的強度が大きい樹脂材料を用いて形成されていた。しかし、近年の機械製品の高機能化などにより樹脂製歯車にかかる力が大きくなり、回転支持部への負荷が増大しているため変形が度々問題となっている。そこで、近年では回転支持部を高剛性な合成樹脂で形成し、歯車は従来通りのポリアセタール等で形成した複合歯車が提案されている。
【0009】
例えば、
図14(a)、(b)、
図15(a)~(c)は、二種類の材料で形成された複合歯車40の従来構成を示している。この複合歯車40は、高剛性な合成樹脂で形成された回転支持部61を有する第1の部材60(
図14(a))と、歯部91を含む第2の部材90(
図14(a)、
図15(a)~(c))から成る。第2の部材90は、前記第1の部材よりも柔らかい合成樹脂から形成され、前記第1の部材の外周を覆うよう第1の部材60と一体化される。
【0010】
図14(a)、(b)、
図15(a)~(c)の複合歯車40において、第1の部材60の回転支持部61は内径穴62と外径部63および64を有する。また、回転支持部61の外周側には第2の部材で覆われる内側ウェブ65が配設されている。第2の部材90には、
図15(b)、(c)に示すように前記内側ウェブ65を覆う外側ウェブ92が配設されている。このように、第1の部材60を高剛性材料から形成することにより回転駆動時に発生するねじりモーメントやスラスト分力による変形を抑制することができ、前述した(3)の問題を最小限に留めることができる。さらに、第2の部材90に摺動性の良い合成樹脂を用いることで歯車に必要な回転潤滑性も得られる。
【0011】
このような複合歯車40は、第1の部材60による回転支持部と、第2の部材90の歯車部は強固に結合していなければならない。従来では、第1の部材60と第2の部材90を別々に製作し、その後、締結や圧入で両者を組み合わせる製造方法が用いられることがあった。しかし、この手法では、組み付け時の誤差によって精度が低下しやすく、さらに製造に伴う装置、部品、労働力、時間も余分に必要となる問題があった。
【0012】
そこで、他の製造方法として、第1の部材を金型にインサートし第2の部材を射出成形することで二つの部材を完全に密着させる方法が提案されている。この手法によると、第1の部材と第2の部材に相溶性が無いと剥離してしまう可能性があるため、
図14(a)、(b)、
図15(a)~(c)の複合歯車のように第1の部材を第2の部材で挟持させる構造を取る。また、回転時に生じるトルクで位相ずれが生じないように、第1の部材の内側ウェブ65の最外周に凹凸部67を付加して回転方向の密着強度も確保する。いずれにしても、この種の複合歯車はスラスト方向と回転方向両方の密着強度が必要となる。
【0013】
例えば、特許文献1では軸方向に凹溝を有したインサート部材の外周に合成樹脂からなる歯部を一体成形し、剛性と精度を両立させる構成が提案されている。また、特許文献2では凹凸部が形成された円盤部が回転軸に設けられ、歯車をこの円盤部全体を覆うように成形し、回転軸と歯車間の固着強度を向上させる構成が提案されている。また、特許文献3では樹脂製歯車の側面に設けられた凸部と金属板側面に設けられた穴部とを係合させることにより、剛性を確保する構成が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【文献】特開2010-139041号公報
【文献】特開2003-21224号公報
【文献】実開平4-124628号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
しかしながら、上記のような複数の異種材料からなる複合歯車は部材間の結合を強固にするほど、寸法変化による割れの発生が問題になることがある。この種の製品において、歯車部は摺動性のよいポリアセタールなどの結晶性樹脂で製造されることが多い。例えばポリアセタールのような結晶性樹脂は摺動性を得やすい反面、成形後も分子の結晶化が進み続けるため、経時収縮量が大きい。そのため、この種の結晶性樹脂を歯車部に用いた複合歯車は、収縮量の違いから歪が生じやすくなる傾向がある。例えば、
図14(a)、(b)、
図15(a)~(c)に示すような複合歯車では、回転軸部を構成する第1の部材60にポリブタジエンテレフタレートなどを用いた繊維強化樹脂を、第2の部材90にポリアセタール樹脂を使用する場合がある。その場合、ポリアセタール樹脂の収縮率が1.6~2.0%であるのに対して、ポリブタジエンテレフタレートなどを用いた繊維強化樹脂では収縮率は0.2~0.8%程度、と大きく異なる。このため、
図14および15の構造では、第1の部材60の内側ウェブ65を覆うように第2の部材90の外側ウェブ92が形成されているため、第1の部材60が第2の部材90の収縮を阻害する関係が形成される。そして、上記のような材質選定によると、第2の部材90の機械的強度のほうが、第1の部材60よりも弱いため経時収縮が進むと第2の部材90で歪が大きくなって、割れが発生することがある。
【0016】
通常、経時収縮は、常温の生活環境下では比較的ゆっくりと進むため、割れが生じるのに数十年から数百年を要し問題になる可能性は低い。しかしながら、歯車が用いられる機器によっては、周囲温度が高い環境で使用される場合があり、その場合には経時収縮の速度が加速され、数年で割れが生じることがある。
【0017】
上記の特許文献1は、軸方向に凹溝を有したインサート部材の外周に合成樹脂からなる歯部を一体成形することで剛性と精度を両立させる構成を提案しているが、二つの材料の収縮差によって生じる歪の抑制に関する対策は行われていない。
【0018】
特許文献2は、凹凸部が形成された円盤部が回転軸に設けられ、歯車をこの円盤部全体を覆うように成形し、回転軸と歯車間の固着強度を向上させる構成を提案しているが、やはり収縮差による歪の抑制に関する対策は行われていない。
【0019】
また、特許文献3は、樹脂製歯車の側面に設けられた樹脂製歯車の側面に設けられた凸部と金属板側面に設けられた穴部とを係合させることにより、剛性を確保する構成を提案している。そして、この凸部と、穴部との係合部にクリアランスを設定することによって経時収縮の割れを抑制することが開示されている。しかしながら、剛性確保用の金属板金は樹脂材平面部の片側面に設置されているだけで、スラスト方向には強固に結合しているとは言い難く、クリアランスがあることが相まって使用時に両者が分離する可能性がある。以上のように、従来技術では、歯車を異種材料からなる2部材で構成する場合、これら2部材間の結合力確保と収縮差から生じる割れの抑制の両立は困難であった。
【0020】
本発明の課題は、上記の問題に鑑み、経時収縮による割れなどの破損の可能性を低減できる複合歯車、カートリッジ、画像形成装置、成形型、および複合歯車の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0021】
本発明の一態様は、回転軸部と、前記回転軸部から径方向に広がる円盤状のウェブと、を有する第1の部材と、外周に少なくとも一つ以上の噛合歯を有し、前記ウェブに支持されて前記第1の部材の外周を囲むように設けられている第2の部材と、を備えた複合歯車であって、前記第1の部材の最外周面が前記第2の部材との間に径方向の空間を有し、前記第2の部材の最内周面が前記第1の部材との間に径方向の空間を有し、前記第1の部材及び前記第2の部材の少なくとも一方が、前記第1の部材及び前記第2の部材の他方を前記回転軸部の軸方向の両側から挟持するように形成されている、複合歯車である。
【0022】
本発明の他の一態様は、複合歯車の製造に用いられる成形型において、前記複合歯車は、回転軸部と、前記回転軸部から径方向に広がる円盤状のウェブと、を有する第1の部材と、外周に少なくとも一つ以上の噛合歯を有し、前記ウェブに支持されて前記第1の部材の外周を囲むように設けられている第2の部材と、を備え、前記第1の部材の最外周面が前記第2の部材との間に径方向の空間を有し、前記第2の部材の最内周面が前記第1の部材との間に径方向の空間を有し、前記第1の部材及び前記第2の部材の少なくとも一方が、前記第1の部材及び前記第2の部材の他方を前記回転軸部の軸方向の両側から挟持するように形成されており、前記成形型は、第1の固定金型と、第2の固定金型と、移動金型と、を有し、前記移動金型が前記第1の固定金型に対向している状態で前記第1の部材が成形され、前記第1の部材が成形された後に前記移動金型が前記第2の固定金型に対向する位置に移動した状態で、前記第1の部材と一体になるように前記第2の部材が成形されるように構成されている、成形型である。
【0023】
本発明のさらに他の一態様は、回転軸部と、前記回転軸部から径方向に広がる円盤状のウェブと、を有する第1の部材を成形する第1の工程と、第1の工程で成形された前記第1の部材を成形型に収容し、外周に少なくとも一つ以上の噛合歯を有する第2の部材を、前記ウェブに支持されて前記第1の部材の外周を囲むように形成する第2の工程と、を含み、前記第2の工程において、前記第1の部材の最外周面が前記第2の部材との間に径方向の空間を有し、前記第2の部材の最内周面が前記第1の部材との間に径方向の空間を有し、前記第1の部材及び前記第2の部材の少なくとも一方が、前記第1の部材及び前記第2の部材の他方を前記回転軸部の軸方向の両側から挟持するように、前記第2の部材を形成する複合歯車の製造方法である。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、経時収縮による割れなどの破損の可能性を低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】実施形態に係る複合歯車を示したもので、(a)は回転軸部を構成する第1の部材の斜視図、(b)は外周に噛合歯を備えた第2の部材を含む複合歯車全体の斜視図である。
【
図2】(a)~(c)は実施形態に係る複合歯車の構成を示した説明図である。
【
図3】(a)~(c)は実施形態に係る複合歯車の構成を示した説明図である。
【
図4】(a)、(b)は実施形態に係る複合歯車を形成する成形型の構成および動作を示した説明図である。
【
図5】(a)~(c)は実施形態に係る複合歯車の収縮後の状態を示した説明図である。
【
図6】(a)~(c)は実施形態に係る複合歯車の収縮後の状態を示した説明図である。
【
図7】(a)~(c)は実施例2に係る複合歯車の構成を示した説明図である。
【
図8】(a)~(c)は実施例3に係る複合歯車の構成を示した説明図である。
【
図9】(a)~(c)は実施例4に係る複合歯車のゲート痕の位置を示した説明図である。
【
図10】(a)、(b)は実施例5に係る複合歯車の構成を示した説明図である。
【
図11】(a)~(c)は実施例6に係る複合歯車の構成を示した説明図である。
【
図12】(a)、(b)は実施例7に係る複合歯車を形成する成形型の構成および動作を示した説明図である。
【
図13】(a)、(b)は従来の一種類の合成樹脂で形成された歯車の構成を示した説明図である。
【
図14】従来の歯車において、(a)は回転軸部を構成する第1の部材の斜視図、(b)は外周に噛合歯を備えた第2の部材を含む歯車全体の斜視図である。
【
図15】(a)~(c)は従来の複合歯車の構成を示した説明図である。
【
図16】(a)は従来の複合歯車の収縮時に生じる応力分布を示した説明図、(b)は実施形態に係る複合歯車の収縮時に生じる応力分布を示した説明図である。
【
図17】実施形態に係る複合歯車が回転駆動時に生じる応力分布を示した説明図である。
【
図18】実施形態に係るカートリッジを用いた画像形成装置の構成を示した説明図である。
【
図19】実施形態に係るカートリッジの構成を示した斜視図である。
【
図20】(a)、(b)は実施形態に係る複合歯車の変形例を示した説明図である。
【
図21】(a)~(c)は実施形態に係る複合歯車の変形例を示した説明図である。
【
図22】(a)~(c)は実施形態に係る複合歯車の変形例を示した説明図である。
【
図23】(a)~(g)は実施形態に係る複合歯車の変形例を示した説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、添付図面を参照して本発明を実施するための形態につき説明する。なお、以下に示す構成はあくまでも一例であり、例えば細部の構成については本発明の趣旨を逸脱しない範囲において当業者が適宜変更することができる。また、本実施形態で取り上げる数値は、可能な数値設定の一例である。
【0027】
図1(a)~
図4(b)は本実施形態の複合歯車、および複合歯車を成形する成形型(金型)の構成を示している。このうち、
図1(a)~
図3(c)は本実施形態の複合歯車10の構成を示している。
図1(a)は、複合歯車10(
図1(b))の回転軸部を構成する第1の部材50の斜視図の形式で示している。
図2(b)は、
図2(a)(複合歯車10の上面図)のA-A線の断面矢視に相当し、複合歯車10の回転支持部51の中心軸に対して平行な断面を示している。
図2(c)は、
図2(b)の一点鎖線で示した円内の断面構造を詳細に示している。
図3(b)は、
図3(a)(複合歯車10の側面図)のB-B線の断面矢視に相当し、
図3(c)は、
図3(b)の一点鎖線で示した円内の断面構造を詳細に示している。
【0028】
また、
図19は本実施形態の複合歯車を利用する画像形成用のカートリッジ1020の構成を、
図18は
図19のカートリッジ1020を着脱して用いる画像形成装置1010の構成を示している。本実施形態の複合歯車は、例えばカートリッジ1020の伝達部材100(
図19)の部分に、用いられる。本実施形態の複合歯車は、駆動軸1002を介して画像形成装置本体1001側の動力をカートリッジ1020内の機構に伝達するよう配置される。以下では、まず
図18、
図19を参照して、画像形成装置1010およびカートリッジ1020の構成と動作につき説明しておく。
【0029】
図18に示すように、画像形成装置1010は、電子写真方式を採用するフルカラープリンタである。画像形成装置1010は、画像形成部1011と、シートSを搬送する搬送部1012とを備える。画像形成機構としての画像形成部1011は、複数(本実施形態では4個)のカートリッジ1020を中間転写ベルト1027の走行方向に並べた、所謂タンデム型の構成を有する。各カートリッジ1020は、イエロー、マゼンタ、シアン、ブラックのトナー像をそれぞれ形成する画像形成装置用のプロセスカートリッジである。
【0030】
画像形成装置本体1001には、複数のカートリッジ1020が着脱可能に装着される。ここで、各カートリッジ1020の構成は同様であるため、以下、
図18中の左端のカートリッジ1020について説明し、他のカートリッジについては、符号及び説明を省略する。
【0031】
カートリッジ1020は、感光ドラム1021、帯電ローラ1022、現像装置1023、ドラムクリーナ1024を備えている。感光ドラム1021は、画像形成装置本体1001に配置された不図示のドラムモータによって、所定のプロセススピードで回転駆動される。感光ドラム1021の表面は、帯電ローラ1022により均一に帯電される。帯電された感光ドラム1021の表面には、スキャナユニット1025により、画像情報に基づいてレーザービームが照射されることで静電潜像が形成される。感光ドラム1021上の静電潜像は、現像装置1023によりトナーを付着させてトナー像として現像される。感光ドラム1021上のトナー像は、一次転写ローラ1026と感光ドラム1021との間に一次転写バイアスが印加されることで、中間転写ベルト1027に一次転写される。転写後に感光ドラム1021に残った転写残トナーは、ドラムクリーナ1024により除去される。
【0032】
このような工程が各カートリッジ1020で実行されることで、各カートリッジ1020の感光ドラム1021上に形成された各色のトナー像が、中間転写ベルト1027上に重ねて転写され、中間転写ベルト1027上にフルカラーのトナー像が形成される。中間転写ベルト1027上のトナー像は、中間転写ベルト1027と二次転写ローラ1028とで構成される二次転写部により、搬送部1012により搬送されたシートSに二次転写される。転写後に中間転写ベルト1027に残ったトナーは、ベルトクリーナ1029により除去される。
【0033】
搬送部1012は、複数の搬送ローラで構成されており、カセット1013に収容されたシートSをピックアップして、画像形成部1011の二次転写部に搬送する。二次転写部へのシートSの搬送は、レジストレーションローラ対1014により中間転写ベルト1027上のトナー像とタイミング合わせて行われる。二次転写部でトナー像が転写されたシートSは、定着装置1030で加熱及び加圧されることでトナー像が定着される。トナー像が定着されたシートSは、排出トレイ1031に排出される。
【0034】
図19は、第1実施形態に係る画像形成装置本体1001に装着されるカートリッジ1020の斜視図である。感光ドラム1021は、長手方向(±Z方向)に延びる例えばアルミニウムの円筒部材と、円筒部材の表面に形成された感光層とを有する。感光ドラム1021の長手方向の端部には、画像形成装置本体1001の不図示のドラムモータの回転力が伝達される伝達部材100が取り付けられている。伝達部材100は、ユーザがカートリッジ1020を画像形成装置本体1001に着脱することにより、画像形成装置本体1001側の駆動軸1002に係合又は係合解除するように構成されている。例えば、カートリッジ1020を画像形成装置本体1001に装着する場合には、
図19中、伝達部材100と画像形成装置本体1001側の駆動軸1002とを同軸に揃えながら、ユーザはカートリッジ1020を+Z方向に移動させて伝達部材100を駆動軸1002に係合させる。また、カートリッジ1020を画像形成装置本体1001から取り外す場合には、
図19中、ユーザはカートリッジ1020を-Z方向に移動させて伝達部材100を駆動軸1002から係合解除させる。
【0035】
再び
図1(a)~
図3(c)において、本実施形態の複合歯車10は、高剛性の樹脂で形成された第1の部材50を備える。この第1の部材50は、複合歯車10の回転軸部を構成するもので、円筒形状の回転支持部51を有する。また、複合歯車10は、前記第1の部材よりも柔らかい合成樹脂で形成された第2の部材30を備える。この第2の部材30は、第1の部材50の外周を覆い、最外周面に少なくとも歯部31(噛合歯)を備える。本明細書において、第1の部材50と第2の部材30が接触している部分を接続部と称する。また、特に断らない限り、複合歯車10に関して、「回転軸方向」は回転支持部51の回転軸の方向を表す。「周方向」は回転支持部51の回転軸を中心とする回転方向を表し、「放射方向radial direction」及び「内径方向inward-radial direction」は回転支持部51の回転軸を中心とした方向を表す。
【0036】
図1(a)~
図3(c)に示すように、第1の部材50の回転支持部51は、回転軸部を構成し、内径穴52と外径部53(
図2(b))、54を有する。回転支持部51の外周には、第2の部材30と結合される円盤状の内側ウェブ55が配設される。
【0037】
本実施形態の内側ウェブ55には、貫通穴57が設けられている(
図2(a)、(c))。貫通穴57は、回転支持部51の回転軸を中心からほぼ同じ距離にある周上に複数、配置される。本実施形態では、貫通穴57は、例えば
図3(b)、(c)などに示すように、いわゆる扇面形状を有する。
【0038】
本実施形態では、貫通穴57を画成する2つの側縁部58、58は、円周方向に対向し、歯車回転中心に対して放射方向b1(径方向)と実質的に平行な向きを持つ。第2の部材30は、第1の部材50の貫通穴57を介して内側ウェブ55を挟持する外側ウェブ32を備える。詳しくは、外側ウェブ32は、第1フランジ32aと、貫通部32bと、第2フランジ32cと、を有している。第1フランジは、外周側に歯部31が形成されている環状のリム31rから回転支持部51の回転軸に向かって内径方向に広がっている部分である。貫通部32bは、第1フランジ32a内周端から回転軸方向に延びて貫通穴57を貫通し、第2フランジ32cに接続している。第2フランジ32cは、貫通部32bから貫通穴57の外周縁部57bよりも外周側に広がっている。このように、第2の部材30の外側ウェブ32は、回転軸方向において第1フランジ32aと第2フランジ32cとの間に内側ウェブ55の外周縁部57bを挟持するように形成されている。言い換えると、第2の部材30に設けられた第1フランジ32a及び第2フランジ32cは、第1の部材50の一部を軸方向の両側から挟持する挟持部として機能する。
【0039】
第2の部材30は、例えば成形済みの第1の部材50に対して2色成形を行うことにより、第1の部材50と一体化した状態で形成される。その際、第2の部材30は、貫通穴57に関しては貫通穴57の内周側に空間を残して第1の部材50の内側ウェブ55を貫通し、内側ウェブ55を表裏から挟持するよう形成される。また、第2の部材30が成形される時、第1の部材50の内側ウェブ55の最外周面55aの外側には、第2の部材30のリム31rの内周面31raとが接触しない空間が形成されるよう2色成形を行う。
【0040】
即ち、本実施形態では、
図3(c)に示すように、上記の2つの個所において、第1の部材50の外径側の部位と、第2の部材30の内径側の部位は接触せず、空間a1、a2が形成される。空間a1は、径方向に所定の距離を空けて互いに対向している、第1の部材50の貫通穴57の内周縁部57aと第2の部材30の貫通部31bとの間の空間である。空間a2は、径方向に所定の距離を空けて互いに対向している、第1の部材50の最外周面55aと第2の部材30のリム31rの内周面31raとの間の空間である。第1の部材50はポリアセタール、ポリブチレンテレフタレート、ポリフェニレンスルフィド、ポリアミド、ナイロンなどの比較的、高剛性な合成樹脂材料(第1の樹脂材料)を用いて製作される。第2の部材30は、第1の樹脂材料とは異なる第2の樹脂材料を用いて製作され、例えばポリアセタール樹脂(コポリマー)等の比較的摺動性の高い樹脂材料を用いることができる。
【0041】
図4(a)、(b)は、本実施形態において複合歯車10を形成する成形型の一例を示している。金型1はDSI(Die Slide Injection)のような手法により、第1の部材50および第2の部材30を射出成形し複合歯車10を形成するために用いられる。この例では、金型1は固定側(ゲート側)の金型2と、移動駒4を有した可動側(反ゲート側)金型3とから成る。移動駒4は第1の部材50が成形された後、第1の部材50と共に第2の部材30を成形する位置に金型内で移動することができる。
【0042】
移動金型としての移動駒4は固定側の金型2の左半部(第1の固定金型)とともに第1の部材50を成形する第1の成形部を構成し、移動駒4は固定側の金型2の右半部(第2の固定金型)とともに第2の部材30を成形する第2の成形部を構成する。
【0043】
図4(a)は、金型1において移動駒4が第1の部材50を成形する位置にあり、第1の部材50が成形する状態を示している。
図4(b)は移動駒4が第2の部材30を成形する位置に移動しており、この位置で第2の部材30が成形する状態を表した図である。
【0044】
即ち、この金型は、第1の部材を成形する第1の成形部と、第2の部材を成形する第2の成形部と、が単一の金型内に配置された構成である。そして、金型の可動側に設置された第1の成形部は、第1の部材の成形後に第1の部材と共に第2の成形部に対向する位置に移動し、第1の部材と第2の部材とが一体化するように第2の部材を成形する。
【0045】
図1(a)~
図3(c)に示すような本実施形態と、
図14(a)~
図15(c)に示す従来例と比較すると、第1の部材にある内側ウェブと第2の部材にある外側ウェブの構成が異なっている。前述のように、複合歯車の第1の部材と第2の部材は強固に結合していることが好ましく、内側ウェブと外側ウェブとは挟持によって結合されている必要がある。
【0046】
また、歯車の駆動トルクで回転方向に位相ずれしないよう、第1の部材にアンカー形状を設け、第2の部材との接合強度を確保する必要がある。本実施形態と従来例はウェブの構成に大きな違いはあるものの、内側ウェブが外側ウェブに挟持されている点は共通である。また、アンカーとなる形状においては従来例では凹凸部67が、本実施形態では貫通穴57がその役割を果たしている。
【0047】
しかしながら、本実施形態の複合歯車10では、貫通穴57の部位、および第1の部材50の最外周の部位において、第1の部材50の外径側と第2の部材30の内径側が接触せずに空間(a1、a2)を形成している点で、従来例と大きく異なる。前述のように、
図13(a)~
図15(c)のような従来構成において、第1の部材を第2の部材で覆うように構成し、上記のような空間を有していない複合歯車は経年収縮の違いから歪が生じ、破損する懸念があった。あるいは、経年収縮を考慮しても破損の可能性が十分小さい耐用期間を設定したり、コスト増加を許容して破損が生じないような第1の部材50および第2の部材30の肉厚を設定したりする等の対策が必要となっていた。
【0048】
これに対して、
図1(a)~3(c)で示す本実施形態では、第1の部材50と第2の部材30の間に空間a1、a2が形成されており、第1の部材50が第2の部材30の収縮を阻害しにくくなり、歪の発生が抑制される。
【0049】
例えば、
図5(a)~
図6(c)は、本実施形態の複合歯車10において第2の部材30が収縮した状態を示している。第2の部材30は円形の成形品であるから、内径方向の収縮は円中心に向かって発生する。そのため収縮前に存在していた空間a1、a2は、より小さな空間a3、a4へと縮小し、新たに空間a5が形成されている。つまり、第2の部材30の収縮に伴い、内側ウェブ55の貫通穴57の内周縁部57aと外側ウェブ32の貫通部32bとの間の径方向の距離、及び、第1の部材50の最外周面55aと第2の部材30のリム31rの内周面31raとの間の距離が縮まる。その一方で、内側ウェブ55の貫通穴57の外周縁部57bと外側ウェブ32の貫通部32bとの間に径方向に隙間(空間a5)が生じる。このように、第1の部材50と第2の部材30の間の空間a1~a5は、第1の部材50と第2の部材30の収縮率の差によって生じる、径方向に関する内側ウェブ55と外側ウェブ32の相対的な位置変化を吸収する受け代として機能する。この受け代の作用により、複合歯車の歪の発生を抑制することができる。
【0050】
また、本実施形態の複合歯車10の第1の部材50の貫通穴57は、放射方向b1と同じ向きの2つの側縁部58、58を備える。前述のように、第2の部材30は径方向の収縮とほぼ同じ比率で周方向にも収縮する。そのため、第2の部材30は第1の部材50の貫通穴57の側縁部58、58に接した状態で収縮する。この作用により、第2の部材30に収縮が生じても、歯車の第1の部材50と第2の部材30の間は、周方向において間に隙間が生じることがなく、両者の密な結合状態が維持される。さらに、第2の部材30の収縮は放射方向にほぼ一致する方向を持つ貫通穴57の側縁部58、58に沿って生じるので、歯車の周方向に関しても歪が生じることを低減する。
【0051】
以上のように、内側ウェブ55と外側ウェブ32の相対的な位置変化が生じた後も、径方向において内側ウェブ55が外側ウェブ32に挟持され、かつ、貫通穴57を介して外側ウェブ32が内側ウェブ55に係合された状態は維持される。つまり、上記の空間a1~a5は、第1の部材50及び第2の部材30を軸方向及び周方向に関して相対移動不能に結合することに影響を与えることなく、収縮率の差による第1の部材50及び第2の部材30の寸法変化を許容して歪の発生を抑制可能とする。言い換えると、本実施形態の複合歯車は、第1の部材50と第2の部材30を強固に結合させつつ、しかも経時収縮による割れのような破損を抑制することができる。以下では、
図7(a)~
図12(b)を参照して、本実施形態の複合歯車の細部を変形した構成につき説明する。
【0052】
図7(a)~
図12(b)は、本実施形態の複合歯車の細部を変形した構成を示している。以下では、
図1(a)~4(b)に示した複合歯車10および金型1と同一の構成には同一符号を付し、重複する説明は省略するものとする。
【0053】
図3(c)に示した構成では、貫通穴57の側縁部58、58が回転軸を中心とする放射方向b1に一致している。これに対して、
図7(a)~(c)に示した複合歯車11は、貫通穴57の側縁部b2、側縁部b3は、放射方向b1に対して傾斜した角度を有する。
図7(a)は複合歯車11の
図3(b)の複合歯車10と同じ位置における断面を示している。
図7(b)は放射方向b1よりも小さい角度で側縁部b2、b2を形成した例を、
図7(c)は放射方向b1よりも大きい角度で側縁部b3、b3を形成した例を示している。ただし、側縁部の傾斜角度の大小は、貫通穴57の中心角φ0(
図7(a))を基準(0°)として、2つの側縁部の稜線を延長した線がなす角φ1、φ2が大きいか小さいかによって表す。側縁部の傾斜角度が負の場合、
図7(b)のように、内径方向に向かうときの側縁部b2、b2の周方向の間隔の減少率が、側縁部を放射方向b1、b1に沿って形成した場合よりも小さい(側縁部b2、b2がより平行に近い)構成となる。また、側縁部の傾斜角度が正の場合、
図7(c)のように、内径方向に向かうときの側縁部b3、b3の周方向の間隔の減少率が、側縁部を放射方向b1、b1に沿って形成した場合よりも大きい構成となる。言い換えれば、側縁部の傾斜角度が正の場合側縁部の延長線の交点が、複合歯車10の回転軸よりも貫通穴57に近い構成となる。
【0054】
このような構成の複合歯車11によると第2の部材30の収縮に異方性があったとしても歪の抑制と結合力の維持が可能となる。例えば、第2の部材30の周方向の収縮率より、径方向の収縮率のほうが大きいと、
図3(a)~(c)のような構成では、第1の部材50の貫通穴57の2つの側縁部58が第2の部材30の収縮の抵抗となって引張応力が生じる可能性がある。このような第2の部材30の収縮の異方性に対しては、
図7(b)のように貫通穴57の2つの側縁部b2、b2の交角φ1を小さくにすることで第2の部材30の収縮が阻害されにくくなり、複合歯車11の歪の発生を軽減することができる。
【0055】
また、第2の部材30の径方向の収縮率より周方向の収縮率が大きい場合には周方向において第1と第2の部材間に隙間が生じることになる。この場合には、第1の部材50と第2の部材30の間にガタを生じる可能性がある。このような第2の部材30の収縮の異方性に対しては、
図7(c)のように貫通穴の2つの側縁部b3、b3の交角φ2を大きくとすることで、第2の部材が収縮しても隙間が生じず第1の部材50と第2の部材30の結合が密に維持される。
【0056】
上記の例から明らかなように、第1の部材50の貫通穴の2つの側縁部の交角は、第2の部材30の収縮率、例えばその異方性に応じて決定しておけばよい。その場合、直線状の側縁部の角度は、例えば、前記回転軸部の直径方向(放射方向)に対して-10°から+10°の範囲の傾斜角度となるよう選ぶことができる。
【0057】
図8(a)~(c)は複合歯車12の異なる構成を示している。ここで、
図8(a)は複合歯車12の正面図、
図8(b)は断面図、
図8(c)は詳細図である。この例は、第2の部材30の肉厚方向の収縮を考慮した構成である。即ち、ポリアセタール樹脂などから成る第2の部材30の収縮は内径方向、周方向だけでなく肉厚方向にも僅かながら発生する。この肉厚方向の収縮は外径や円周に比べ非常に小さいため、生じる歪は小さく、成形品が割れる可能性は低い。しかしながら、本実施形態は、第2の部材30によって第1の部材50が挟持される構成であるから、わずかな肉厚方向の収縮でも第2の部材の内径方向への収縮を阻害する可能性がある。そこで、
図8(b)、(c)に示すように、複合歯車12には、第1の部材50の内側ウェブ55は内側に向かって減肉、即ち厚みが漸減するような勾配cを設けている。このように第1の部材50の内側ウェブ55に厚みの勾配cを設けた構成により、第2の部材30が肉厚方向に収縮しても内径方向への収縮が阻害されにくくなり、上述の作用が得られやすくなる。言い換えると、外側ウェブ32の貫通部32b等の収縮により、内側ウェブ55を挟持している第1フランジ32aと第2フランジ32cとが軸方向に接近しようとする。このとき、内側ウェブ55が有する勾配cによって外側ウェブ32が内径方向の反力を内側ウェブ55から受けることで、第2の部材30が内径方向に均一に収縮しやすくなる。なお、勾配cは、内側ウェブ55のうち少なくとも第2の部材30に挟持される部分に、設定されているものとする。
【0058】
図9(a)~(c)は複合歯車13の異なる構成を示している。ここで、
図9(a)は複合歯車13の正面図、(b)は背面図、(c)は断面図である。この複合歯車13は、軸方向視で第1の部材50の貫通穴57上の位置(図示の例では黒点で表した4点)に、第2の部材30を射出する時のゲート痕33を有する。ゲートが複数ある場合、ゲート痕33の少なくとも一部(好ましくは全て)が貫通穴57上にあればよい。また、各ゲートについて、ゲート痕33の面積の少なくとも一部(好ましくは全て)が軸方向視で貫通穴57と重なっていればよい。このような第2の部材30をインサート成形する際のゲートの配置をゲート痕33で示した位置にとることにより、第2の部材30を射出成形する際に生じる圧力を、貫通穴を通じてゲートの反対側へ逃がすことができる。これにより、第1の部材50が変形しにくくなる利点がある。
【0059】
図10(a)、(b)は複合歯車14の異なる構成を示している。ここで、
図10(a)は複合歯車14の正面図、(b)は貫通穴57付近の詳細図である。この複合歯車14は、第1の部材50の貫通穴57の隅部R(corner part)に面取り、または円筒面のような曲線形状を有する。貫通穴57は、前述同様に2つの側縁部58、58と、これらを繋ぐ外周縁部57bおよび内周縁部57aにより画成された扇面形状である。即ち、前記側縁部58,58と、外周縁部57bおよび/または前記内周縁部57aと、を面取り、または円筒面のような曲線形状を有する隅部Rを介して連続させる。
【0060】
特に、
図10(a)、(b)に示すように内周縁部57aと側縁部58、58との間の隅部Rに面取り、または円筒面を設けることができる。このように内周縁部57aと側縁部58、58との間の隅部Rに面取りや円筒面を設けず、角部(sharp edged corner)とする構成では、歯車の駆動トルクによって隅部にはノッチ効果と呼ばれる応力集中が発生する。この応力は、隅部の角部を引き裂くように働く。しかしながら、上記のようにこのような構成にすることで隅部への応力が分散し、複合歯車14の機械的強度を高めることができる。
【0061】
図11(a)~(c)、および
図12(a)、(b)は、それぞれさらに異なる構成を有する複合歯車15、およびこの複合歯車15の製造に用いられる成形型としての金型1を示している。ここで、
図11(a)は複合歯車15の正面図、(b)は断面図、(c)は詳細図である。
図12(a)は金型1の断面図であり、金型1の構成は
図4で表したものと同等である。また、
図12(b)は第2の部材30が成形される際の状態を示している。
図11(a)~(c)の複合歯車15では、成形済みの第1の部材50の内側ウェブ55の最外周部にリング状の突条dを設けてある。このような構成では、成形済みの第1の部材50に対して第2の部材30を2色成形する際、第1の部材50の突条dと金型駒5を接触させることにより、第2の部材30と第1の部材50との間に第2の部材30用の樹脂材料が充填されるのを抑制できる。即ち、第1の部材50の最外周と第2の部材30の内周の間に、確実に両者が接触せず、第2の部材30の収縮を吸収する空間を形成することができる。そのため、本実施形態の構造を備えた複合歯車を容易かつ確実に製造することができる。
【0062】
また、
図20(a、b)にはさらに異なる構成を示している。この構成は、
図3(a~c)に示す構成と比べて、内側ウェブ55に形成される各貫通穴57の、第1の部材50の回転中心に対する中心角φが異なっている。言い換えると、
図20(a、b)の構成と
図3(a~c)の構成とで、周方向に関して貫通穴57が空けられている領域と内側ウェブ55の一部として樹脂が充填されている領域との比率が異なっている。この図のように第1の部材50の貫通穴57の中心角φを制御することで、第2の部材30を成形する際に生じる圧力を調整できると同時に、第1の部材50の内側ウェブ55の剛性を調整することができる。これにより、第2の部材30の収縮による歪の発生を抑制する作用を維持しながら、第2の部材30の成形による第1の部材50の内側ウェブ55の変形を抑制する作用を得ることができる。
【0063】
上記を鑑みて、貫通穴57の2つの側縁部の稜線を延長した線がなす角(中心角φ)は、例えば以下の範囲であると好適である。
【数1】
ただし、l[mm]は第1の部材50の最外周面から貫通穴57の外周縁部57bまでの長さ、t[mm]は第1の部材50の内側ウェブ55の厚み(貫通穴57の付近における厚み)を示す。また、
【0064】
本実施形態における上記の各構成例では、
図1(a)~
図3(c)に示すように、第1の部材50に貫通穴57が設けられている例を示した。しかし、これに限るものではない。
図21(a~c)、
図22(a~c)、
図23(a~e)は、本実施形態の複合歯車の細部を変形した構成を示している。以下では、
図1(a)~3(c)に示した複合歯車10と同一の構成には同一符号を付し、重複する説明は省略するものとする。
【0065】
図21(a)は、一変形例の正面図を示し、(b)は(a)に示す複合歯車のE-E部分における断面図を示し、(c)はその詳細図を示している。ここに示すように、第2の部材30に貫通穴57が設けられていてもよい。この場合、第1の部材50の内側ウェブ55に、径方向に広がる第1フランジ55cと、軸方向に延びて貫通穴57を通る貫通部55dと、外側ウェブ32の第1フランジ55cとは反対側で径方向に広がる第2フランジ55eと、を設ける。これにより、第1フランジ55c及び第2フランジ55eによって外側ウェブ32が軸方向の両側から挟持された状態で、第1の部材50と第2の部材30が結合される。言い換えると、第1の部材50に設けられた第1フランジ55c及び第2フランジ55eは、第2の部材30の一部を軸方向の両側から挟持する挟持部として機能する。つまり、本変形例では、第1の部材50の一部が径方向の両側から第2の部材30の一部を挟持する構成となっている。
【0066】
本変形例においては、貫通穴57の外周縁部57bと貫通部55bの外周側の面との間に径方向の空間a6を設けておく。また、内側ウェブ55の最外周面と第2の部材30のリム31rとの間にも径方向の空間a7を設けておく。これらの空間a6,a7は、
図1(a)~
図3(c)の構成における空間a1,a2と同様に、第1の部材と第2の部材の結合強度を維持しつつ、第1の部材と第2の部材の収縮率の差によって生じる相対的な位置変化を吸収する受け代として機能する。
【0067】
本変形例では、2色形成を行う際に、第2の部材30を形成した後に第1の部材50を形成することができる。本変形例の構成により、第2の部材30の材料の方が第1の部材50の材料より融点が高い場合は、第2の部材30に貫通穴57を設けておいた方が歯車の性能を高めることができる。
【0068】
また
図22(a)は別の変形例の正面図を示し、(b)は(a)に示す複合歯車のF-F部分の断面図を示し、(c)はその詳細図である。このように、第1の部材50に設けた断面が径方向内向きに開いたコの字状(squared-C shape)の係合形状50Aと、第2の部材30に設けた断面が径方向外向きに開いたコの字状の係合形状30Aとが組み合わせられていてもよい。つまり、本変形例では、第1の部材50の一部(50A)が軸方向の両側から第2の部材30の一部を挟持する第1挟持部として機能すると同時に、第2の部材30の一部(30A)が軸方向の両側から第1の部材50の一部を挟持する第2挟持部として機能する。また、本変形例は、第1の部材又は第2の部材に設けた貫通穴を介さずに、第1の部材及び第2の部材の一方が他方を挟持する構成の一例である。
【0069】
本変形例において、第2の部材30の最内周面である係合形状30Aの内周面と、径方向において係合形状30Aと対向する第1の部材50の面(回転支持部51の外径部54)との間に空間a9が設けられている。また、第1の部材50の係合形状50Aの最外周面と、径方向において係合形状50Aと対向する第2の部材30のリム31rとの間に空間a8が設けられている。これらの空間a8,a9は、
図1(a)~
図3(c)の構成における空間a1,a2と同様に、第1の部材と第2の部材の結合強度を維持しつつ、第1の部材と第2の部材の収縮率の差によって生じる相対的な位置変化を吸収する受け代として機能する。これにより、成形品の厚みは増す可能性はあるが、成形品を製造するための型の加工を簡略化させることができる。
【0070】
さらに
図23(a)は別の変形例の第1の部材50の斜視図であり、(b)は第二の部材30を含んだ複合歯車10の斜視図である。(c)は複合歯車10の正面図を示し、(d)および(f)はそれぞれ複合歯車10のF-F部分の断面図、G-G部分の断面図を示す。また(e)および(g)は(d)(f)それぞれの詳細図を示す。
【0071】
本変形例の第1の部材50の内側ウェブ55は、外周に複数の凹部55uおよび複数の凸部55pを有している。一方、第2の部材30は、外側ウェブ32の第1フランジ32aと第2フランジ32cが内側ウェブ55の凸部55pを径方向の両側から挟み込むように形成されている。
【0072】
本変形例において、第2の部材30の最内周面である外側ウェブ32の内周面と、径方向において外側ウェブ32と対向する第1の部材50の面(回転支持部51の外径部54)との間に空間a10が設けられている。また、第1の部材50の最外周面である凸部55pの外周面と、径方向において凸部55pと対向する第2の部材30のリム31rとの間に空間a11が設けられている。さらに、凹部55uの外周面と、径方向において凹部55uと対向する第2の部材30の面(第1フランジ32a及び第2フランジ32cを接続して軸方向に延びる面)との間にも、空間a12が設けられている。これらの空間a10~a12は、
図1(a)~
図3(c)の構成における空間a1,a2と同様に、第1の部材と第2の部材の結合強度を維持しつつ、第1の部材と第2の部材の収縮率の差によって生じる相対的な位置変化を吸収する受け代として機能する。
【0073】
本変形例は、第1の部材又は第2の部材に設けた貫通穴を介さずに、第1の部材及び第2の部材の一方が他方を挟持する構成の他の一例である。これにより、成形品である複合歯車10を製造するための型の加工を簡略化させることができる。なお、
図23(a)~(g)は、第1の部材50に凹部55uおよび凸部55pを備える例を示したが、第2の部材30の内周に凹部および凸部を有し、凸部を挟み込むように第1の部材50が形成されていてもよい。これにより、成形品を製造するための型の加工を簡略化させることができる。
【0074】
以下では、実施例1~7として、
図1(a)~
図6(c)に示した構成、および
図7(a)~
図12(b)、
図20(a)~
図23(g)に示した変形例の構成を持つ複合歯車の性能、ないし特性に関する評価結果につき説明する。
【0075】
<実施例1>
以下では、実施例1の歯車と、比較例1及び2の複合歯車において、第1の部材50と第2の部材30の収縮率に大きな差が生じた場合の耐久時間を評価する。実施例1の構成は、
図1(a)~
図3(c)に示した複合歯車である。第1の部材50にはポリブタジエンテレフタレート樹脂(ガラス繊維を30%含有)を、また、第2の部材30はポリアセタール樹脂(コポリマー)を用いている。第2の部材30の歯部31(噛合歯)はモジュールm=0.5、圧力角20°、歯数は91、ねじれ角β=20°、歯幅t=10mmで形成している。複合歯車は、
図4に示すような金型を用いて、第1の部材を成形した後に第2の部材を成形した。
【0076】
下表1は、比較例1および2、実施例1の歯車を80°Cおよび120°C高温炉に投入・保管し、クラックが生じるまでの経過時間を測定した結果である。また、回転伝達誤差(トルク0.1N・m、回転速度25rpm駆動時の1歯成分の伝達誤差)測定を行った。
【0077】
【0078】
比較例1は
図13(a、b)に示すような従来の樹脂歯車の例であり、ポリアセタール(POM)樹脂のみで形成されている。比較例2は、
図14(a)~
図15(c)で説明した構成の複合歯車であり、実施例1と同じ材料構成で第1の部材と第2の部材が形成されている。
【0079】
表1に示したように、従来構成の比較例1、比較例2と、実施例1を比較すると回転伝達誤差に大きな差異がみられ、比較例1の誤差が大きい結果となった。これは、比較例1の歯車では回転支持部と歯車部両方とも同一の材料を使用しており、比較的剛性の弱いポリアセタールを用いたため、回転駆動時のトルクによって歯車が変形してしまったためと考えられる。一方、比較例2と実施例1は複合材料で形成されているため部品剛性が強く、回転伝達誤差が良好である。
【0080】
しかしながら、高温環境下の耐久時間では比較例2と実施例1よりも比較例1のほうが長く、有利であることが確認された。これは比較例1が同一材料のみで形成されているため、収縮差による歪が生じないためであることが考えられる。それでも、比較例1では80°C環境で13230時間、120°C環境では1825時間でクラックが生じている。これは歪による破断ではなく、高温環境下でエージングしたことによる材料分子鎖の伸びや切断・縮合によって機械的強度が低下したことに原因があると考えられる。これに対し、第2の部材30の収縮を吸収する構造を持たない比較例2の耐久時間は著しく短い。これは複合歯車を構成する第2の部材と第1の部材との複合材料の収縮差から歪が発生したためである、と考えられる。一方、実施例1も複合材から形成されているが、比較例1より劣るものの、ほぼ同等の耐久時間が得られている。これは、実施例1では、貫通穴57の内周側や第1の部材50の外周側に第2の部材30の収縮を吸収する空間を有しているために、歪の発生が最小限に抑えられているものと推測できる。
【0081】
図16(a)、(b)は、比較例2と実施例1の二つの複合歯車に対し、回転軸部を構成する第1の部材が0.13%、外周側の第2の部材が0.36%の収縮が発生したと仮定した時に第2の部材で生じる応力の解析結果である。
図16(a)が比較例2、
図16(b)が実施例1の解析結果に相当し、応力の大きい部分が淡色で、応力の小さい部分が濃色で表現されている。
図16(a)、(b)を比較して明らかなように、
図16(a)の比較例2では大きな応力が生じていることが分かる。応力が最も発生している部位は第1の部材の凹凸部67(
図14(a))と対応している。つまり、回転方向のアンカーとして設けた凹凸部67の形状が、収縮作用によって応力を発生させてしまうことが示されている。一方、実施例1によれば、上記の収縮を吸収する空間が設けられているために、第2の部材に収縮が生じても応力が生じないことが判る。
【0082】
<実施例2>
以下では、実施例1の複合歯車、
図7(b)の複合歯車(実施例2-1)、
図7(c)の複合歯車(実施例2-2)、従来の複合歯車(比較例2:上記の比較例2と同様)の評価結果を示す。実施例2-1、2-2の各部の材料と、歯車緒元は上記の実施例1と同一であるが、
図7(b)、(c)のように貫通穴の側縁部が歯車中心の放射方向から傾いている点が異なる。実施例2-1は貫通穴の側縁部を-10°(
図7(b))、実施例2-2は貫通穴の側縁部を+10°(
図7(c))だけ、それぞれ放射(直径)方向から傾斜させた構造である。なお、実施例1の貫通穴の側縁部は歯車中心の放射方向に沿って延びる構造である。
【0083】
下表2は、比較例2と実施例1、2-1および2-2の複合歯車を80°Cおよび120°C高温炉に投入・保管し、クラックが生じるまでの経過時間を評価した結果である。また、常温常湿環境(23°C-50%)下で1年間保管した後の回転伝達誤差(トルク0.1N・m、回転速度25rpm駆動時の1歯成分の伝達誤差)も測定している。
【0084】
【0085】
表2に示すように、従来構成の比較例2と実施例2-1および2-2を比較すると、実施例2-1および2-2では耐久時間が著しく向上していることが分かる。特に実施例2-1は実施例1と比較しても耐久時間に優れている。しかしながら、特に実施例2-1の1年後の回転伝達誤差は実施例1よりも若干悪化している。一方、実施例2-2の耐久時間も向上していることを確認したが、実施例1よりはやや耐久時間は落ちている(80°C)。しかしながら、実施例2-2の1年後の回転誤差は実施例1よりも良好であり、精度が高い。これらの結果から実施例1(貫通穴の側縁部は回転軸を中心とした放射方向に沿っている)では、第2の部材の収縮に異方性がある、と考えられる。例えば、内径方向の収縮率が周方向の収縮率よりも小さいと、周方向において第1と第2の部材間に隙間が生じる。このような状態では歪は生じにくくなるが、回転伝達誤差は隙間の影響で悪化する。そして、実施例2-1では側縁部の傾斜が-10°と負に設定されているため、隙間がより大きく生じ、耐久時間は向上したのに対して回転伝達誤差が悪化したと考えられる。一方、実施例2-2は側縁部の傾斜が+10°と正に設定されているため、隙間が生じない替わりに歪が多少発生するため、耐久時間がやや低下して回転伝達誤差は良化したと考えられる。
【0086】
以上の評価結果から、貫通穴の側縁部の傾斜角度は、第2の部材の収縮率、あるいはさらに回転伝達誤差や耐久性のいずれを優先するかによって、選択できることが判る。例えば複合歯車は回転伝達誤差を優先するか、あるいは耐久性を優先するかは、用途によって変わるため、適宜選択できるのが好ましい。例えば、内径方向の収縮率が周方向の収縮率よりも小さい場合では、回転伝達精度を得るためには側縁部の傾斜を負に、耐久性を得るためには側縁部の傾斜を正に設定することが考えられる。また、内径方向の収縮率が周方向の収縮率よりも大きい場合では、回転伝達精度を得るためには側縁部の傾斜を正に、耐久性を得るためには側縁部の傾斜を負に設定することが考えられる。
【0087】
<実施例3>
以下では、実施例3の複合歯車(
図8(a~c))と、比較例2(
図14(a、b))の複合歯車の評価につき説明する。実施例3の各部の材料と、歯車緒元は上記の実施例1と同一であるが、実施例3の複合歯車は、
図8(a~c)に示すように第1の部材の内側ウェブには内側に向かって、厚みが漸減(減肉)するように0.5°の勾配がつけてある。下表3は、比較例2と実施例1および3の複合歯車を80°Cおよび120°C高温炉に投入・保管し、クラックが生じるまでの経過時間を調査した結果を示している。
【0088】
【0089】
表3に示すように、従来構成の比較例2と実施例1、実施例3を比較すると、実施例3の耐久時間が著しく向上していることが判る。即ち、第2の部材30が肉厚方向に収縮しても、その分、第1の部材50の内側ウェブが減肉しているため、内径方向への収縮が阻害されにくくなり、歪の発生が抑制される作用が認められる。
【0090】
<実施例4>
以下では、
図9(a~c)の構成を有する複合歯車(実施例1、実施例4)と、従来の複合歯車(上記の比較例2)の評価につき説明する。下表4は、
図9(a~c)の構成を有する複合歯車(実施例1、実施例4)と、従来の複合歯車(上記の比較例2)の回転伝達誤差(トルク0.1N・m、回転速度25rpm駆動時の1歯成分の伝達誤差)の比較結果を示している。実施例4の各部の材料と歯車緒元、およびウェブ形状は実施例1と同一であるが、実施例4では、
図9に示すように第2の部材を射出するゲートが第1の部材の貫通穴上の位置に配設されている。
【0091】
【0092】
従来構成の比較例2と実施例1および4を比較すると、回転伝達誤差は実施例4において大きく改善されている。これは第2の部材を射出ゲートが、第1の部材の貫通穴上に配設されているため射出成形に伴う圧力を第1の部材が受けにくく、変形しにくくなった結果、と考えられる。
【0093】
<実施例5>
以下では、
図10(a、b)の構成を有する複合歯車(実施例5)、上記の実施例1、および従来の複合歯車(上記の比較例2)の評価につき説明する。
【0094】
表5は、
図10(a、b)の構成を有する実施例5の複合歯車、上記の実施例1、および従来の複合歯車(上記の比較例2)の比較結果を示している。実施例5の各部の材料と、歯車緒元は上記の実施例1と同一であるが、
図10(a、b)に示すように第1の部材の貫通穴の隅部、特に内周側の隅部を曲線形状(円筒面、面取り)で構成されている。表5は、比較例2と実施例1および5の複合歯車のCADモデルに対して、トルク0.1N・mで回転駆動させた際、第1の部材で生じる最大主応力(MPa)の解析結果に相当する。
【0095】
【0096】
従来構成の比較例2と、実施例1および5を比較すると、実施例1では比較例2よりも大きな主応力が生じているが、実施例5は比較例2よりも小さな主応力となっている。ここで、
図17は実施例1の解析結果であり、複合歯車を反時計回りにトルクを付加した際に第1の部材で生じる応力分布を示している。
図17に示されるように、貫通穴の隅部において応力が大きく生じていることが判る。これは所謂、ノッチ効果と呼ばれる作用であり、実施例1の貫通穴の隅部のような部位には応力集中しやすくなる傾向がある。しかしながら、実施例5、即ち
図10(a、b)のように応力集中しやすい貫通穴の隅部を曲線形状、例えば円筒面や面取りの形状を付加するだけで、表5に示したように応力を分散させ、主応力を低減させる作用がある。
【0097】
<実施例6>
以下では、
図11(a~c)のように構成した実施例6の複合歯車と、上記の実施例1および比較例2の複合歯車の評価につき説明する。実施例6の複合歯車では、各部の材料と、歯車緒元は上記の実施例1と同一であるが、
図11(a~c)のように第1の部材50の内側ウェブ55の外周部にリング状に突条dを設けてある。
【0098】
表6は、
図11(a~c)の構成を有する実施例6の複合歯車、上記の実施例1、および従来の複合歯車(上記の比較例2)の比較結果を示している。評価は耐久時間(hr)で、この耐久時間(hr)は比較例2と実施例1および6の複合歯車を80°Cおよび120°C高温炉に投入・保管し、クラックが生じるまでの経過時間に相当する。
【0099】
【0100】
従来構成の比較例2と実施例1および6を比較すると、特に実施例6において耐久時間が向上している。これは、実施例6の第1の部材の内側ウェブ外周にリング状に突条dを設けることにより、第1の部材の外径に第2の部材が形成されにくくなった結果、と考えてよい。この例では第2の部材にはポリアセタール樹脂を用いているが、通常の射出成形では10μmほどの空間があれば樹脂が流入する傾向がある。実施例1は実施例6のような突条を欠いており、第1の部材が形成されてから第2の部材が形成されるまでに第1の部材自体が収縮し、金型と第1の部材間に若干の隙間が形成されてしまっている可能性がある。このような場合、第1の部材の外周部に微小な第2の部材の材料が流入してしまう。第2の部材が第1の部材の外周部に形成されると第2の部材の収縮を吸収するための空間が減り、第2の部材の収縮を阻害し、割れなどの破損に関する耐久時間が低下する。しかしながら、実施例6では突条d(
図11(a~c))がこの流入をせき止める作用を発揮し、第2の部材の収縮を吸収するための空間を確保でき、割れのような破損に対する耐久時間を向上させることができるようになる。
【0101】
<実施例7>
以下では、
図20(a、b)のように構成した複合歯車(実施例7)と、上記の実施例1の複合歯車の評価につき説明する。実施例7(a、b)の複合歯車では、各部の材料と、歯車緒元は上記の実施例1と同一であるが、
図20(a、b)のように内側ウェブ上の貫通穴の側縁部のなす角φを実施例1よりも大きくしている。言い換えると、周方向において貫通穴が設けられている領域の比率が、実施例1よりも大きい構成としている。
【0102】
表7は、
図20(a、b)の構成を有する実施例7の複合歯車、上記の実施例1の複合歯車の比較結果を示している。評価は第2の部材成形による、第1の部材の内側ウェブの変形で、充填完了時点での変形量の解析結果(μm)に相当する。
【0103】
【0104】
実施例1と実施例7を比較すると、実施例7において内側ウェブの変形が抑制されている。これは側縁部のなす角を大きくすることで、第2の部材を成形する際に生じる圧力が緩和された結果である。ウェブの剛性としては低下していることが考えられるが、剛性低下の影響以上に圧力緩和の影響が大きく効いた結果であるといえる。
【符号の説明】
【0105】
1…成形型(金型)、2…第1の固定金型、第2の固定金型(金型)、4…移動駒(移動金型)、10~15、40…複合歯車、30、90…第2の部材、31…歯部、32、92…外側ウェブ、50、60、74…第1の部材、51、61…回転支持部、55、65…内側ウェブ、57…貫通穴、57a…内周縁部、57b…外周縁部、58…側縁部。