(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-07
(45)【発行日】2024-05-15
(54)【発明の名称】シャッタ装置および撮像装置
(51)【国際特許分類】
G03B 9/36 20210101AFI20240508BHJP
G03B 17/02 20210101ALI20240508BHJP
H04N 23/55 20230101ALI20240508BHJP
【FI】
G03B9/36 Z
G03B17/02
H04N23/55
(21)【出願番号】P 2020097432
(22)【出願日】2020-06-04
【審査請求日】2023-04-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110412
【氏名又は名称】藤元 亮輔
(74)【代理人】
【識別番号】100104628
【氏名又は名称】水本 敦也
(74)【代理人】
【識別番号】100121614
【氏名又は名称】平山 倫也
(72)【発明者】
【氏名】上田 祐志
【審査官】殿岡 雅仁
(56)【参考文献】
【文献】特開昭63-174023(JP,A)
【文献】特開2012-215713(JP,A)
【文献】実開平02-053027(JP,U)
【文献】特開2017-097106(JP,A)
【文献】特開2020-051565(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03B 9/08 - 9/54
G03B 17/02
G02B 25/00 - 25/04
H04N 5/222- 5/257
H04N 23/00
H04N 23/40 - 23/76
H04N 23/90 - 23/959
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
開口を有する地板と、
前記開口を開閉する複数のシャッタ羽根と、
前記複数のシャッタ羽根を駆動する駆動部材と、
前記駆動部材と当接して
回動しつつ該駆動部材を制動する制動部材と、
前記制動部材の第1の摺動面に対して摺動する第2の摺動面を有する被摺動部材とを有し、
前記制動部材は、樹脂材料により形成されており、
前記第1および第2の摺動面はそれぞれ、前記制動部材の回動中心軸回りの周方向において互いに摺動する平面形状の摺動部を有し、
前記第1および第2の摺動面のうち少なくとも一方の摺動面は、
前記摺動部の摺動により発生した摩耗粉が前記摺動部から排除されるように形成された、前記周方向に延びる溝部を有することを特徴とするシャッタ装置。
【請求項2】
前記少なくとも一方の摺動部に、前記溝部が同心円状に複数形成されていることを特徴とする請求項1に記載のシャッタ装置。
【請求項3】
開口を有する地板と、
前記開口を開閉する複数のシャッタ羽根と、
前記複数のシャッタ羽根を駆動する駆動部材と、
前記駆動部材と当接して回動しつつ該駆動部材を制動する制動部材と、
前記制動部材の第1の摺動面に対して摺動する第2の摺動面を有する被摺動部材とを有し、
前記制動部材は、樹脂材料により形成されており、
前記第1および第2の摺動面はそれぞれ、前記制動部材の回動中心軸回りの周方向において互いに摺動する平面形状の摺動部を有し
前記第1および第2の摺動面のうち少なくとも一方の摺動面は、前記摺動部の摺動により発生した摩耗粉が前記摺動部から排除されるように形成された、前記周方向に対して交差する方向に延びる溝部を前記周方向に複数有することを特徴とするシャッタ装置。
【請求項4】
前記
溝部は、前記第1および第2の摺動面の摺動方向のうち一方と他方とで発生する摩擦力が異なるように形成されていることを特徴とする請求項
3に記載のシャッタ装置。
【請求項5】
前記制動部材は、前記駆動部材と当接する部分が第1の樹脂材料により形成され、前記第1の摺動面が前記第1の樹脂材料とは摩擦係数が異なる第2の樹脂材料により形成された二色成形部材であることを特徴とする請求項1から
4のいずれか一項に記載のシャッタ装置。
【請求項6】
前記制動部材のうち、前記第1の摺動面が設けられた部分の厚みが、前記駆動部材と当接する部分の厚みよりも小さいことを特徴とする請求項1から
5のいずれか一項に記載のシャッタ装置。
【請求項7】
請求項1から
6のいずれか一項に記載のシャッタ装置と、
前記シャッタ装置により露光量が制御される撮像素子とを有することを特徴とする撮像装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、デジタルカメラ等の撮像装置に搭載されるシャッタ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
シャッタ装置は、ばね力やモータの駆動力によりシャッタ羽根群を走行させて撮像面の露光量を制御する。このようなシャッタ装置には、露光区間を高速で走行したシャッタ羽根群に対して制動力を与える制動機構が設けられる。特許文献1には、シャッタ羽根を駆動する駆動部材(駆動レバー)に対して樹脂材料により形成された制動部材を当接(摺動)させ、両者の間に発生した摩擦力を制動力として用いるシャッタ装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、シャッタ羽根群とともに高速で移動する駆動部材と制動部材との摺動によって、これらの摺動面から摩耗粉が発生する。また、シャッタ装置の動作回数が増加すると、駆動部材と制動部材との摺動面の状態変化によって摩擦力が変化し、安定した制動性能が得られないおそれがある。
【0005】
本発明は、樹脂材料により形成された制動部材と被摺動部材との摺動面における摩耗粉の発生を抑制するとともに、安定した制動性能を維持できるようにしたシャッタ装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一側面としてのシャッタ装置は、開口を有する地板と、該開口を開閉する複数のシャッタ羽根と、該複数のシャッタ羽根を駆動する駆動部材と、該駆動部材と当接して該駆動部材を制動する制動部材と、該制動部材の第1の摺動面に対して摺動する第2の摺動面を有する被摺動部材とを有する。制動部材は、樹脂材料により形成されている。第1および第2の摺動面はそれぞれ、制動部材の回動中心軸回りの周方向において互いに摺動する平面形状の摺動部を有する。第1および第2の摺動面のうち少なくとも一方の摺動面は、前記摺動部の摺動により発生した摩耗粉が前記摺動部から排除されるように形成された、前記周方向に延びる溝部を有する又は、周方向に対して交差する方向に延びる溝部を周方向に複数有することを特徴とする。なお、上記シャッタ装置を有する撮像装置も、本発明の他の一側面を構成する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、樹脂材料により形成された制動部材と被摺動部材との摺動面における摩耗粉の発生を抑制するとともに、安定した制動性能を維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】実施例1のフォーカルプレーンシャッタの斜視図。
【
図3】実施例1のシャッタにおけるシャッタ羽根群を示す図。
【
図4】実施例1のシャッタにおける先駆動レバーと先幕ユニットの分解斜視図。
【
図5】実施例1のシャッタにおける後駆動レバーと後幕ユニットの分解斜視図。
【
図6】実施例1のシャッタにおけるMG地板ユニットとサブ地板ユニットの分解斜視図。
【
図7】実施例1のシャッタにおけるチャージユニットの分解斜視図。
【
図9】実施例1のシャッタの走行待機状態を示す図。
【
図10】実施例1のシャッタの走行途中状態を示す図。
【
図11】実施例1のシャッタの先幕走行完了状態を示す図。
【
図12】実施例1のシャッタの後幕走行完了状態を示す図。
【
図13】実施例1のシャッタのチャージ途中状態を示す図。
【
図14】実施例1のシャッタのチャージ完了状態を示す図。
【
図15】実施例1のシャッタにおける後駆動レバーと後ブレーキユニットの動作を示す図。
【
図16】実施例1のシャッタにおける後ブレーキユニットを示す図。
【
図17】実施例1のシャッタにおける後ブレーキレバーの摺動面の形状例を示す図。
【
図18】実施例2のシャッタにおけるブレーキユニットを示す図。
【
図19】実施例3のシャッタにおけるブレーキユニットを示す図。
【
図20】実施例3のシャッタにおけるブレーキユニットの変形例を示す図。
【
図21】実施例1~3のシャッタを搭載した撮像装置を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施例について図面を参照しながら説明する。
【実施例1】
【0010】
図21(a)は、本発明の実施例1であるシャッタ装置としてのフォーカルブレーンシャッタ(以下、単にシャッタという)を備えたレンズ交換式撮像装置(以下、カメラという)1および交換レンズ2の内部構成を示している。
図21(b)は、カメラ1および交換レンズ2の電気的構成を示している。
【0011】
図21(a)に示すように、カメラ1に着脱可能に装着される交換レンズ2は、複数のレンズおよび絞りを含む撮像光学系3を備えている。撮像光学系3は、被写体からの光を結像させる。一点鎖線は撮像光学系の光軸4を示している。カメラ1は、CCDセンサやCMOSセンサ等の撮像素子6を有し、撮像素子6の前側(交換レンズ側)にはシャッタ1000が配置されている。撮像素子6は、撮像光学系3により形成された被写体像を光電変換(撮像)する。シャッタ1000は、後に詳しく説明するようにシャッタ羽根群を開閉させることによって撮像素子6の露光量を制御する。またカメラ1は、背面表示部9aと電子ビューファインダ9bを有する。
【0012】
図21(b)に示すように、カメラ1は、カメラ制御部5、画像処理部7、記録再生部8、表示部9および操作検出部10を有する。カメラ制御部5は、カメラ1の動作全体を制御するとともに、電気接点11を介して交換レンズ2内のレンズ制御部12と通信しながら交換レンズ2の動作も制御する。レンズ制御部12は、レンズ駆動部13を介して撮像光学系3のフォーカスレンズ、像振れ補正レンズおよび絞り等を駆動する。またカメラ制御部5は、レンズ制御部12から送信される各種レンズ情報を受信する。
【0013】
画像処理部7は、撮像素子6からの撮像信号に対して各種画像処理を行うことで画像データを生成する。表示部9は、前述した背面表示部9aと電子ビューファインダ9bを含み、撮像により生成された画像データや各種撮像情報を表示する。記録再生部8は、記録用の撮像により生成された撮像画像データを半導体メモリ等の記録媒体に記録したり、記録された撮像画像データを表示部9に再生表示させたりする。
【0014】
操作検出部10は、カメラ1に設けられたボタン、ダイヤル等の操作部材の操作を検出して操作信号をカメラ制御部5に出力する。操作検出部10は、背面表示部9aに設けられたタッチセンサも含む。カメラ制御部5は、操作検出部10からの操作信号に応じてカメラ1および交換レンズ2の動作を制御する。具体的には、カメラ制御部5は、画像処理部7にて生成されたAE(自動露出)やAF(オートフォーカス)用の画像データから輝度や焦点状態を検出し、輝度の検出結果に応じて絞り値、シャッタ速度およびESO感度を設定し、焦点状態の検出結果に応じて合焦状態が得られるフォーカスレンズの位置を算出する。絞り値およびフォーカスレンズの位置はレンズ制御部12に送信され、レンズ制御部12はこれらに応じて絞りやフォーカスレンズを駆動する。
【0015】
図1はシャッタ1000の外観を示し、
図2はシャッタ1000を分解して示している。シャッタ1000はシャッタ地板400を基本的な支持体とし、該シャッタ地板400上に各部品が搭載されている。シャッタ地板400と仕切り板20は、後述するように複数のシャッタ羽根とこれらに連結された2本のアームにより構成される後幕ユニット600の走行スペースを形成している。また、仕切り板20とカバー板700は、後述するように複数のシャッタ羽根とこれらに連結された2本のアームにより構成される先幕ユニット500の走行スペースを形成している。
【0016】
シャッタ地板400には開口400aが形成されている。仕切板20とカバー板700にも、開口400aと重なる開口20aと開口700aがそれぞれ形成されており、撮像時には交換レンズ2を透過した光が開口400a、開口20aおよび開口700aを順に通過して撮像素子6を露光する。
【0017】
また、シャッタ地板400には、サブ地板ユニット300が取り付けられている。サブ地板310には、チャージユニット200、MG地板ユニット100およびフレキシブル配線板30が取り付けられている。
【0018】
図3(a)は、シャッタ1000の露光動作の開始前のセット状態を示している。このとき、先幕ユニット500の複数(4つ)のシャッタ羽根510~540は展開されており、地板400の開口400aを完全に遮蔽している。これにより、撮像素子6は遮光された状態となっている。また、後幕ユニット600の複数(4つ)のシャッタ羽根610~640は重畳されており、先幕ユニット500の走行時に交換レンズ2を透過する光を遮蔽しないよう開口400aの外側に退避している。
【0019】
図3(b)は、先幕ユニット500の走行が完了した状態を示している。
図3(a)から
図3(b)までの過程において、先幕ユニット500の重畳動作によって開口400aが開放され、撮像素子6が露光される。また、先幕ユニット500は走行完了時に開口400aの外側に退避している。
【0020】
図3(c)は、後幕ユニット600が走行が完了した状態を示している。このとき、後幕ユニット600の複数のシャッタ羽根は展開されており、開口400aを完全に遮蔽している。これにより、撮像素子6は遮光された状態となり、シャッタ1000の露光動作が終了する。
【0021】
図4(a)、(b)は、先駆動レバーユニット350と先幕ユニット500を分解して示している。先幕ユニット500は、先メインアーム550と、先サブアーム560と、上述した複数のシャッタ羽根としての第1、第2、第3および第4先シャッタ羽根510、520、530、540とを含み、これらにより平行リンクを形成している。各先シャッタ羽根と各アームはダボ570により回動可能に連結されている。先サブアーム560は、その嵌合部560aにて先サブアーム軸310gと回動可能に嵌合する。先メインアーム550は、その嵌合部550bにて先メインアーム軸310iと回動可能に嵌合する。さらに先メインアーム550は、その嵌合部550aにて駆動部材としての先駆動レバー351の先駆動ピン351bと嵌合し、先駆動レバー351と一体回動可能である。先駆動レバー351が回動すると、先幕ユニット500が開閉方向に動作(走行)する。
【0022】
先駆動レバーユニット350は、先駆動レバー351と、先駆動スプリング352と、アジャスターギア353と、先駆動レバー351の回動をアシストするブーストスプリング354とから構成されている。先駆動レバー351は、先駆動軸310cと嵌合する嵌合部351aと、先幕ユニット500と連結される先駆動ピン351bと、後述するチャージカム341(
図6、7参照)と当接するカムフォロア351cと、先駆動スプリング352の端部を係止する係止部351dと、後述する先ブレーキユニット320(
図6参照)をセット位置までチャージするブレーキチャージピン351eとを備えている。先駆動レバー351は、先駆動軸310cに回動可能に取り付けられている。先駆動スプリング352は、先駆動レバー351と先幕ユニット500を駆動するためのトーションばねであり、先幕ユニット500を時計回り方向CWに付勢している。先駆動スプリング352の固定端はアジャスターギア353に組み込まれており、アジャスターウォーム170によってばね力が調整可能となっている。この構成により、先幕ユニット500の幕速度の調整が可能である。
【0023】
図5(a)、(b)は、後駆動レバーユニット360と後幕ユニット600を分解して示している。後幕ユニット600は、後メインアーム650と、後サブアーム660と、上述した複数のシャッタ羽根としての第1、第2、第3および第4後シャッタ羽根610、620、630、640とを含み、これらにより平行リンクを形成している。各後シャッタ羽根と各アームはダボ670により回動可能に連結されている。後サブアーム660は、その嵌合部660aにて後サブアーム軸310jと回動可能に嵌合する。後メインアーム650は、その嵌合部650bにて後メインアーム軸310hと回動可能に嵌合する。さらに後メインアーム650は、その嵌合部650aにて駆動部材としての後駆動レバー361の後駆動ピン361bと嵌合し、後駆動レバー361と一体回動可能である。後駆動レバー361が回動すると、後幕ユニット600が開閉方向に動作(走行)する。
【0024】
後駆動レバーユニット360は、後駆動レバー361と、後駆動スプリング362と、アジャスターギア363と、後駆動レバー361の回動をアシストするブーストスプリング364とから構成されている。後駆動レバー361は、後駆動軸310dと嵌合する嵌合部361aと、後幕ユニット600と連結される後駆動ピン361bと、チャージカム341と当接するカムフォロア361cと、後駆動スプリング362の端部を係止する係止部361dと、後述する後ブレーキユニット330(
図6参照)をセット位置までチャージするブレーキチャージピン361eと、後ブレーキユニット330と当接する後ブレーキピン361fとを備えている。後駆動レバー361は、後駆動軸310dに回動可能に取り付けられている。後駆動スプリング362は、後駆動レバー361と後幕ユニット600を駆動するためのトーションばねであり、後幕ユニット600を時計回り方向CWに付勢している。後駆動スプリング362の固定端はアジャスターギア363に組み込まれており、アジャスターウォーム180によってばね力が調整可能となっている。この構成により、後幕ユニット600の幕速度の調整が可能である。
【0025】
図6は、サブ地板ユニット300およびMG地板ユニット100を分解して示している。MG地板110には、先MGユニット120と、後MGユニット130と、先MGカムレバー140と、後MGカムレバー150とが取り付けられ、これらはMG地板110とこれに固定される上地板160との間に支持される。先MGカムレバー140は、先緊定レバー371と当接するレバー部140aを有する。先MGユニット120は、ロータリーMG121、ヨークMG122およびコイル123により構成されている。先MGカムレバー140は、ロータリーMG121と同軸に固定されている。コイル123に通電されると発生した磁気力によりロータリーMG121が回転し、それと同時に先MGカムレバー140が回転する。後MGユニット130と後MGカムレバー150も同様に構成されている。
【0026】
サブ地板310には、先駆動レバーユニット350を支持する先駆動軸310cと、後駆動レバーユニット360を支持する後駆動軸310dと、先緊定レバー371を支持する先緊定軸310eと、後緊定レバー381を支持する後緊定軸310fとが設けられている。先緊定スプリング372は、先緊定レバー371の軸部の外周に配置されており、先緊定レバー371を反時計回り方向CCWに付勢している。後緊定スプリング382は、後緊定レバー381の軸部の外周に配置されており、後緊定レバー381を反時計回り方向CCWに付勢している。
【0027】
図7は、チャージユニット200およびサブ地板ユニット300を分解して示している。チャージユニット200は、ギア等を介してモーター210の駆動力を先駆動レバーユニット350と後駆動レバーユニット360に伝え、先幕ユニット500と後幕ユニット600を走行完了位置から走行開始位置に復帰させるチャージを行う。チャージユニット200は、モータ210と、第1ギア211、第2ギア212、チャージカムギア213、チャージレバー220およびモータ210を支持するモーターベース240と、ギア群のスラスト方向の動きを規制するギアカバー230とにより構成されている。チャージレバー220は、サブ地板310に設けられた回転軸310aに回動可能に取り付けられている。モータ210にはピニオンギア210aが取り付けられており、モータ210の駆動力(回転力)はピニオンギア210aを介して第1ギア211、第2ギア212およびチャージカムギア213に伝わる。チャージカムギア213は、チャージレバー220を介してチャージカム341を駆動する。これにより、先駆動レバーユニット350(先幕ユニット500)および後駆動レバーユニット360(後幕ユニット600)をチャージすることができる。
【0028】
次に、
図8から
図14を用いて、シャッタ1000の動作を説明する。
図8は、セット状態のシャッタ1000を示している。この状態では、先駆動レバー351および後駆動レバー361は、カムフォロア351c、361cを介してチャージカム341により保持されている。これにより、先駆動レバー351および後駆動レバー361がそれぞれ、先駆動スプリング352および後駆動スプリング362の付勢力によって時計回り方向に回動することが阻止されている。
【0029】
図9は、露光動作直前にセット状態が解除された走行待機状態のシャッタ1000を示している。この状態では、モータ210に通電されることでチャージカム341がセット状態の位置から退避され、先幕ユニット500と後幕ユニット600が走行可能となるように先駆動レバー351と後駆動レバー361のチャージカム341による保持状態が解除されている。先駆動レバー351の立ち曲げ部351fは、先緊定レバー371の係止部371bに当接しており、先駆動レバー351は先駆動スプリング352の付勢力による時計回り方向への回動が阻止(係止)されている。
【0030】
この状態からコイル123に通電されると、発生した磁気力によって
図6に示した先MGカムレバー140が反時計回り方向に回動され、この回動によって先MGカムレバー140のレバー部140aと先緊定レバー371の腕部371aとが当接し、先緊定レバー371が時計回り方向に回動される。先緊定レバー371が一定の角度以上回動すると、先緊定レバー371の係止部371bによる先駆動レバー351の立ち曲げ部351fの係止が解除され、先駆動スプリング352の付勢力によって先駆動レバー351が時計回り方向に回動される。これにより、先幕ユニット500が走行する。後幕ユニット600も同様にして走行する。チャージカム341はチャージカムスプリング342によって反時計回り方向に付勢されており、セット解除時にはチャージカムスプリング342の付勢力によって先駆動レバー351と後駆動レバー361の走行軌跡外に退避している。
【0031】
この後、所定の時間間隔をおいて、コイル123、133に順次通電され、撮像素子6の露光が開始される。露光期間であるシャッタ秒時は、先幕側のコイル123と後幕側のコイル133の通電タイミングの間隔を変えることで制御される。
【0032】
図10は、先駆動レバー351と先幕ユニット500が一体となって
図9の状態から走行を開始した走行途中の状態を示している。上述したように先緊定レバー371による先駆動レバー351の係止が解除されると、先緊定レバー371は先緊定スプリング372の付勢力によって先駆動レバー351を係止可能な位置まで復帰する。
【0033】
図11は、先幕ユニット500の走行が完了した状態を示している。先駆動レバー351は、走行完了の直前に先ブレーキユニット320から制動作用を受ける。
【0034】
図12は、後幕ユニット600の走行が完了した状態を示している。先幕ユニット500と同様に、後駆動レバー361は走行完了の直前に後ブレーキユニット330から制動作用を受ける。また、後緊定レバー381は後緊定スプリング382の付勢力によって後駆動レバー361を係止可能な位置まで復帰する。
【0035】
先幕ユニット500と後幕ユニット600の走行による露光が完了して所定時間が経過した後、次の撮像に備えたチャージを行うため、モータ210への通電が行われる。モータ210の回転力は、ピニオンギア210a、第1ギア211、第2ギア212およびチャージカムギア213を介してチャージレバー220に伝達され、チャージレバー220は回転軸310a回りにおいて反時計回り方向に回動される。
【0036】
チャージレバー220のカムフォロア220aはチャージカム341に当接している。このため、チャージレバー220の回動に伴ってチャージカム341が時計回り方向に回動される。モータ210への通電が継続されると、チャージカム341が先駆動レバー351のカムフォロア351cに当接し、先駆動レバー351は反時計回り方向に回動され始める。
【0037】
図13は、チャージカム341が後駆動レバー361のカムフォロア361cに当接し、後駆動レバー361が反時計回り方向に回動し始めたチャージ途中状態を示している。このとき、先駆動レバー351は後駆動レバー361に先行してチャージされている。これにより、先幕ユニット500と後幕ユニット600による撮像素子6に対する遮光状態が確保される。さらにモータ210への通電が継続されることにより、引き続きチャージカム341は時計回り方向に回転される。
【0038】
図14は、チャージ完了状態を示している。この状態では、先駆動レバー351と後駆動レバー361は、チャージカム341によって最大まで反時計回り方向に回動された位置に保持されている。ここまでの過程において、先駆動レバー351と後駆動レバー361はそれぞれ、先緊定レバー371の係止部371aと後緊定レバー381の係止部381aを押し退けて反時計回り方向への回動を続ける。ただし、先緊定レバー371と後緊定レバー381はそれぞれ、先緊定スプリング372と後緊定スプリング382の反時計回り方向への付勢力により、先駆動レバー351と後駆動レバー361を係止可能な位置まで復帰している。また、先ブレーキユニット320と後ブレーキユニット330は、後述するようにそれぞれ先駆動レバー351と後駆動レバー361のチャージに伴ってセット状態までチャージされる。
【0039】
その後、モータ210への通電が継続されると、チャージカムギア213が時計回り方向に回転して
図8に示したセット状態の位置に戻る。
【0040】
次に、
図15(a)~(d)を用いて、後駆動レバー361に制動作用を付与する後ブレーキユニット330について説明する。後駆動レバー361への制動作用によって後幕ユニット600の走行完了時に発生する衝撃を緩和する。先駆動レバー351に制動作用を付与する先ブレーキユニット320は、後ブレーキユニット330と同様に構成されているため、その説明を省略する。
【0041】
図15(a)はサブ地板310に組み付けられた後駆動レバー361と後ブレーキユニット330を示している。後ブレーキユニット330の詳細な構成については後述する。
図5(b)~(d)は、
図5(a)とは反対側から見た後駆動レバー361と後ブレーキユニット330の後ブレーキレバー331を示している。
【0042】
図15(a)、(b)は、後幕ユニット600が走行し、後駆動レバー361のブレーキピン361fが制動部材としての後ブレーキレバー331のカム面331aと当接し始めた状態を示す。後駆動レバー361は後駆動軸310dと嵌合する嵌合部361aを回動中心とし、後ブレーキレバー331はサブ地板310に設けられた後ブレーキ軸310mを回動中心としている。後幕ユニット600の走行完了直前に後駆動レバー361が後ブレーキレバー331に当接し始めるように後ブレーキレバー331が配置されることで、露光に影響することなく後駆動レバー361に制動作用を付与することができる。また、後ブレーキレバー331のカム面331aは、後駆動レバー361のブレーキピン361fに対してなす圧力角が小さくなる形状を有する。これは、後駆動レバー361と後ブレーキレバー331との当接が開始される際の衝撃を小さくして露出むらを抑制するためである。
【0043】
図15(c)は、後幕ユニット600の走行が完了した時点での後駆動レバー361と後ブレーキレバー331を示している。後ブレーキレバー331は、後駆動レバー361の時計回り方向の回動に伴って、反時計回り方向に所定量だけ回転した状態にある。このとき後ブレーキレバー331のストッパ当接部331bは、サブ地板310のストッパ軸310kに取り付けられたゴム製のブレーキ緩衝部材313に衝突して停止している。走行完了直前から走行完了時までの間に、後ブレーキユニット330は後駆動レバー361に反時計回り方向の制動力を与える。
【0044】
露光動作の終了後、後駆動レバー361のチャージが開始されると、後駆動レバー361のブレーキチャージピン361eが後ブレーキレバー331のチャージカム面331cに当接する。さらにチャージが継続されると、後駆動レバー361の反時計回り方向への回動に伴って、後ブレーキレバー331は時計回り方向に回動する。
【0045】
図15(d)は、後駆動レバー361のチャージが完了した時点での後駆動レバー361と後ブレーキレバー331を示している。このとき、後ブレーキレバー331は
図9に示した走行待機状態の位置まで復帰している。
【0046】
図16(a)は、後ブレーキユニット330をその回動軸の方向から見て示しており、
図16(b)は後ブレーキユニット330の
図16(a)中のA-A線での断面を示している。
【0047】
後ブレーキユニット330は、後ブレーキレバー331、固定板332、板ばね333、ブレーキ調整部材334、締結部材335およびブレーキ戻しばね336により構成されている。後ブレーキレバー331、固定板332、板ばね333、ブレーキ調整部材334およびブレーキ戻しばね336は、前述した後ブレーキ軸310m回りに組み付けられている。
【0048】
制動部材としての後ブレーキレバー331は、樹脂材料によりモールド成形された部材であり、後ブレーキ軸310mに回動可能に嵌合している。被摺動部材としての固定板332は、後ブレーキ軸310mに対して回動不能に嵌合している。板ばね333は、後ブレーキ軸310m回りに配置されて固定板332に当接している。ブレーキ調整部材334は、後ブレーキ軸310m回りに配置されて板ばね333に当接している。締結部材335は、締め付け用のナットもしくはビス等により構成され、後ブレーキ軸310mに締め込まれている。締結部材335の頭部は、ブレーキ調整部材334に当接している。
【0049】
この構成により、板ばね333の押圧力は、固定板332の摺動面(第2の摺動面)332sを後ブレーキレバー331の摺動面(第1の摺動面)331sに押圧し、さらに後ブレーキレバー331の摺動面331tを後ブレーキ軸310mの座面である摺動面310nに押圧する。このため、後ブレーキレバー331の反時計回り方向への回動に伴って、後ブレーキレバー331の摺動面331sと固定板332の摺動面332sとの間および後ブレーキレバー331の摺動面331tと後ブレーキ軸310mの摺動面310nとの間のそれぞれに摩擦力が発生する。後ブレーキユニット330は、これらの摩擦力を制動力として利用する。
【0050】
軸方向の高さが互いに異なる複数種類のブレーキ調整部材334から使用するものを選んで板ばね333のチャージ量を変化させることにより、板ばね333の押圧力、つまりは制動力を調整することができる。
【0051】
ブレーキ戻しばね336は、その両端が後ブレーキレバー331のばね掛け部331dとストッパ軸310kに掛けられており、後ブレーキレバー331を時計回り方向に付勢する。これにより、後ブレーキレバー331をブレーキ力(摩擦力)の作用方向とは逆方向に付勢力を与えて、チャージの負荷を軽減している。
【0052】
後ブレーキレバー331を金属材料により形成すると、シャッタ動作の回数が増加するにつれて後駆動レバー361のブレーキピン361fと後ブレーキレバー331のカム面331aとが削れて摩耗粉が発生する。これに対して本実施例では、後ブレーキレバー331を自己潤滑性を有する樹脂材料により形成することで、上記のような削れの発生を抑制することができる。
【0053】
また、金属製の後ブレーキレバー331では、制動力を調整するために後ブレーキレバー331の摺動面331sに合成樹脂製の摩擦部材を取り付けたり潤滑剤を塗布したりする必要がある。これに対して本実施例では、後ブレーキレバー331の樹脂材料が有する自己潤滑性によって、摩擦部材や潤滑剤を使用することなく制動力の調整が可能である。
【0054】
なお、本実施例において、後ブレーキレバー331を2つの異種材料を用いた二色成形部材として製作してもよい。樹脂材料はその種類によって様々な物性を示すため、使用箇所に応じた最適な樹脂材料を選択することができる。例えば、基材部分を耐摩耗性が高い第1の樹脂材料により形成し、後ブレーキレバー331の摺動面331sおよび摺動面331tの部分を第1の樹脂材料よりも摩擦係数が低い第2の樹脂材料により形成してもよい。このように後ブレーキレバー331を摩擦係数が異なる樹脂材料を用いて形成することで、発生する摩擦力を任意に変更することができる。すなわち、後ブレーキレバー331のカム面331aでの削れの発生を抑制しつつ、制動力の微調整を容易とすることができる。また、樹脂材料とゴム材料の二色成形によって、後ブレーキレバー331に緩衝作用を持たせてもよい。
【0055】
図17(a)~(d)は、後ブレーキレバー331において固定板332の摺動面332sと摺動する摺動面331sの形状の例を示している。
図16にも示した
図17(a)に示す後ブレーキレバー331の摺動面331eには、後ブレーキレバー331の回動方向である摺動方向
(周方向)に同心円状に延びる2本の溝部331eが形成されている。摺動面331eにおいて溝部331e以外の同心円状の3つの凸部
(平面形状の摺動部)が固定板332の摺動面
(平面形状の摺動部)332sと摺動し、溝部331eは固定板332の摺動面332sに接触しない凹部である。溝部331eにより、摺動面331s、332sの間に発生した摩耗粉等の異物を排除することができ、異物による制動力の変化を抑制することができる。
【0056】
なお、本実施例では、摺動面331s、332s間に潤滑剤を必要としてないが、摩耗を抑制する目的で潤滑剤を用いてもよい。潤滑剤を用いる場合は、後ブレーキレバー331の溝部331eは、潤滑剤の保持性を向上させることができる。本実施例では、溝部331eは、後ブレーキレバー331の固定板332との摺動面に設けているが、後ブレーキ軸310mの座面310nとの摺動面に設けてもよい。もしくは、後ブレーキレバー331の摺動面の両面に設けてもよい。
【0057】
図17(b)に示す後ブレーキレバー331の摺動面331sには、摺動方向に対して直交(直角に交差)する方向に延びる溝部331eが等間隔で複数形成されている。溝部331eは、摺動方向に対して斜めに交差する方向に延びてもよい。
図17(c)に示す後ブレーキレバー331の摺動面331sには、摺動方向の一方(反時計回り方向)に向かって高くなる傾斜面が周期的に複数形成されている。傾斜面の間の低い部分が摺動方向に対して交差(直交)する方向に延びる溝部331eとなっている。
図17(d)に示す後ブレーキレバー331の摺動面331sには、摺動方向に対して交差する方向に延びるV字形状(へリンボーン形状)の溝部331eが複数形成されている。
【0058】
図17(c)、(d)に示す溝部331eを形成することで、摺動方向の一方と他方とで発生する摩擦力を変化させることができる。つまり、後ブレーキレバー331に対する制動力を十分に確保しつつ、チャージに対する負荷を軽減することができる。また、
図17(a)~(d)に示した溝部331eを組み合わせてもよい。
【0059】
さらに本実施例では後ブレーキレバー331の摺動面331eに溝部331eを設けているが、固定板332を樹脂材料により形成して該固定板332の摺動面332eに溝部を設けてもよいし、後ブレーキレバー331と固定板332の摺動面331e、332eの両方に溝部を設けてもよい。もう1つの被摺動部材である後ブレーキ軸310mの摺動面310nに溝部を設けてもよい。
【実施例2】
【0060】
次に本発明の実施例2について説明する。実施例2は、実施例1に対して後ブレーキユニット330における後ブレーキレバー331の形状を変更した実施例である。後ブレーキユニット330の基本構成および動作は実施例1と同様である。本実施例において、実施例1と共通する部材には実施例1(
図16)と同符号を付している。
【0061】
図18(a)は、実施例2における後ブレーキレバーユニット330をその回動軸の方向から見て示しており、
図18(b)は後ブレーキユニット330の
図18(a)中のB-B線での断面を示している。
【0062】
後ブレーキレバー331において摺動面331s、331tが設けられた摺動部の軸方向での厚みを、後ブレーキレバー331において後駆動レバー361と当接するカム面331aが設けられた部分の厚みよりも小さくしている。これにより、後ブレーキレバー331が後駆動レバー361に当接した際の衝撃と摩耗に対する強度を確保しつつ、後ブレーキユニット330を軸方向に小さくしてシャッタ1000を小型化することができる。
【実施例3】
【0063】
次に本発明の実施例3について説明する。実施例3の後ブレーキユニット330の動作は実施例1と同様である。本実施例において、実施例1と共通する部材には実施例1(
図16)と同符号を付している。
【0064】
図19(a)は、実施例3における後ブレーキレバーユニット330をその回動軸の方向から見て示しており、
図19(b)は後ブレーキユニット330の
図19(a)中のC-C線での断面を示している。
【0065】
後ブレーキユニット330は、後ブレーキレバー331、固定板332、皿ばね337a、337b、押圧板338および締結部材335により構成されている。本実施例では、皿ばね337を押圧力の発生源として利用することにより、皿ばね337a、337bのチャージ量によらない一定の押圧力を得ることができる。これは、皿ばねの非線形性の荷重たわみ特性を利用したものである。
【0066】
本実施例では、押圧板338上に2つの皿ばね337a、337bを直列に積み重ねた構成を採っているが、
図20に示すように3つの皿ばね337a、337b、337cを直列に積み重ねて、押圧板338をなくしてもよい。
【0067】
従来のブレーキユニットでは、構成部品の製造誤差による軸方向の寸法のばらつきや摩擦部材の摩擦係数のばらつき等が制動力に影響を与えるために、安定した制動力を得るための調整が難しい。これに対して本実施例では、皿ばね337a、337b(、337c)のチャージ量によらない一定の押圧力を得ることができ、軸方向の寸法のばらつきが制動力に与える影響を低減することができる。さらに後ブレーキレバー331を樹脂材料により形成することで、その表面の状態を安定させ、摩擦係数のばらつきを低減することができる。したがって、本実施例によれば安定した制動力を得やすく、その調整を簡単または不要とすることができる。
【0068】
以上説明した各実施例は代表的な例にすぎず、本発明の実施に際しては、各実施例に対して種々の変形や変更が可能である。
【符号の説明】
【0069】
1 撮像装置
310 サブ地板
320 先ブレーキユニット
330 後ブレーキユニット
350 先駆動レバーユニット
360 後駆動レバーユニット
400 シャッタ地板
500 先幕ユニット
600 後幕ユニット
1000 フォーカルプレーンシャッタ