(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-07
(45)【発行日】2024-05-15
(54)【発明の名称】画像形成装置
(51)【国際特許分類】
G03G 15/20 20060101AFI20240508BHJP
G03G 9/097 20060101ALI20240508BHJP
G03G 9/08 20060101ALI20240508BHJP
G03G 9/093 20060101ALI20240508BHJP
【FI】
G03G15/20 510
G03G9/097 374
G03G9/08
G03G9/097 375
G03G9/093
(21)【出願番号】P 2020132155
(22)【出願日】2020-08-04
【審査請求日】2023-08-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 亨
(72)【発明者】
【氏名】斎藤 益朗
(72)【発明者】
【氏名】内山 明彦
(72)【発明者】
【氏名】中居 智朗
(72)【発明者】
【氏名】上倉 健太
(72)【発明者】
【氏名】清野 友蔵
【審査官】菅藤 政明
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-229550(JP,A)
【文献】特開2005-17752(JP,A)
【文献】特開2019-128514(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03G 15/20
G03G 9/097
G03G 9/08
G03G 9/093
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
現像剤を用いて記録材に未定着の現像剤像を形成する画像形成部と、
定着部材と、前記定着部材に圧接して定着ニップ部を形成する加圧部材と、を有し、前記定着ニップ部に記録材を通過させて前記現像剤像を記録材に定着させる定着部と、
前記定着部材または前記加圧部材の少なくとも一方にバイアスを印加するバイアス印加手段と
を備える画像形成装置において、
前記定着部材は、導電性を有する表層を有し、
前記現像剤は、結着樹脂を含有するトナー粒子を有するトナーであって、該トナー粒子の表面に多価酸と第4族元素を含む化合物の反応物が存在し、未定着時の体積抵抗率をTvとし、定着後の体積抵抗率をFvとすると、Tv/Fv>100を満たすトナーであり、
前記バイアス印加手段は、正極性のバイアスと負極性のバイアスを選択的に印加可能であり、記録材に含有される填料の帯電極性と同じ極性のバイアスを、記録材が前記定着ニップ部を通過しているとき、および、記録材が前記定着ニップ部を通過しないときに、それぞれ印加することを特徴とした画像形成装置。
【請求項2】
前記バイアス印加手段は、前記現像剤の帯電極性と記録材に含有される填料の帯電極性とが異なる極性の場合には、記録材が前記定着ニップ部を通過しているときに、前記現像剤の帯電極性とは逆極性のバイアスを印加する請求項1に記載の画像形成装置。
【請求項3】
前記トナー粒子は、前記結着樹脂を含有するトナー母粒子及び該トナー母粒子表面の凸部を有し、該凸部が有機ケイ素重合体を含む請求項1または2に記載の画像形成装置。
【請求項4】
前記トナー粒子は、前記凸部の表面に前記多価酸と第4族元素を含む化合物との反応物を有する請求項3に記載の画像形成装置。
【請求項5】
前記有機ケイ素重合体が、下記式(II)で表される構造を有する請求項3又は4に記載の画像形成装置。
R-SiO
3/2 (II)
(式(II)中、Rは、アルキル基、アルケニル基、アシル基、アリール基又はメタクリロキシアルキル基を示す。)
【請求項6】
前記Rが、炭素数1以上6以下のアルキル基、ビニル基、フェニル基、又はメタクリロキシプロピル基である請求項5に記載の画像形成装置。
【請求項7】
前記トナーは、前記トナー粒子表面に個数平均粒径が50nm以上500nm以下の微粒子を有する請求項1~6のいずれか1項に記載の画像形成装置。
【請求項8】
前記微粒子が、ケイ素を含有する微粒子である請求項7に記載の画像形成装置。
【請求項9】
前記微粒子が、シリカ微粒子である請求項7に記載の画像形成装置。
【請求項10】
前記定着部材は、外面に前記加圧部材が接触する、可撓性を有する筒状のフィルムであり、
前記定着部は、ヒータを含み、前記フィルムの内面に接触するヒータユニットを有する請求項1~9のいずれか1項に記載の画像形成装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子写真方式などを利用して像担持体上に形成したトナー像を転写材に転写することで記録画像を得る、レーザプリンタ、複写機などの画像形成装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、トナーのオフセット画像不良防止などの目的で、定着装置にバイアスを印加する画像形成装置が知られている。この定着バイアスとして、未定着トナー画像を記録材上に押さえつける方向の電界が発生するような極性のバイアスが印加される。例えば、負極性の未定着トナー画像に対しては、未定着トナー画像と接する定着部材としての定着フィルム側にトナーと同極性の負バイアスを印加する(または、加圧部材としての加圧ローラ側にトナーと逆極性の正バイアスを印加する)ようにしている。
【0003】
しかし、記録材の用紙填料に使用される材料には、帯電し易い極性が互いに異なる材料が含まれる。例えば、重質炭酸カルシウム(石灰石を粉砕/分級して製造される炭酸カルシウム)、軽質炭酸カルシウム(化学的に反応合成し製造された炭酸カルシウム)やニ酸化チタンは、正極性に帯電しやすい。一方、タルク、カオリンクレーやホワイトカーボンなどは、負極性に帯電しやすい。ただし、炭酸カルシウムの他の一種であるチョーク(Chalk)は負極性に帯電するものの、填料に使用される日本国内の重質炭酸カルシウムの原石はすべてCalcite系であるため正極性に帯電する。
【0004】
このため、トナーと逆極性に帯電している填料(例えば、負極性トナーに対し、正極性に帯電する炭酸カルシウムなど)やその填料を含む紙粉等の塵埃が、定着装置に印加される定着バイアスにより、定着部材の表面に付着することがある。このような塵埃の付着が画像不良やトナー汚染を引き起こすことが知られている。この問題に対処するため、特許文献1に開示されている画像形成装置では、定着ニップに記録材が通過していない期間(記録材と次の記録材との間(いわゆる紙間)や前回転、後回転期間など)にトナーと逆極性の定着バイアスを印加している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に開示されている従来の画像形成装置においては、以下の課題があることがわかった。
【0007】
1)特許文献1に開示されている従来の画像形成装置では、記録材が定着ニップを通過している時以外に定着バイアス極性を切り替えている。最近の画像形成装置においては、紙間を極力短くすることで単位時間当たりのプリント枚数を増やす装置が増えており、紙間距離が約10mm程度の画像形成装置も上梓されている。また、FPOT(First
Print Output Time)を早くするため、前回転時間や後回転時間をできるだけ短くして定着装置の回転時間を短くすることで定着装置の寿命を延ばす画像形成装置も増えている。このように、最近の画像形成装置では、定着ニップを記録材が通過する時以外の時間が短くなる傾向がある。そのため、填料、紙粉等の塵埃の付着防止やクリーニングをするために逆極性の定着バイアスを印加出来る時間が短くなり、塵埃の付着防
止が不十分となったり、定着部材の周方向の一部分しかクリーニング出来ない課題がある。また、紙間が約10mm程度の小紙間の画像形成装置では、定着バイアスの正負極性の切替に要する時間の点から、紙間時間内に定着バイアスの極性切替が難しい課題がある。
【0008】
2)特許文献1に開示されている画像形成装置では、記録材が定着ニップを通過する時は、トナーと同極性の定着バイアスを印加し、記録材が定着ニップを通過しない紙間等ではトナーと逆極性の定着バイアスを印加するように固定されていた。そのため、トナーと逆極性に帯電する填料を用いた用紙を通紙する場合、定着ニップを通紙中に印加される定着バイアスの影響で、トナーと逆極性に帯電する填料やその填料を含む紙粉などの塵埃が定着部材に引き付けられ付着、汚れとなってしまう課題がある。負極性トナーに対しては、正極性に帯電する炭酸カルシウムを填料に用いた用紙が通紙される場合に、逆に正極性トナーに対しては、負極性に帯電するタルク、カオリンクレーなどを填料に用いた用紙が通知される場合に、そのような課題が発生する。例えば、負極性トナーに対し、正極性に帯電する炭酸カルシウムを填料に含む用紙を通紙した場合、定着ニップ部を用紙が通過する期間、定着フィルムに負バイアスの定着バイアスを印加すると、定着フィルムが、正極性に帯電した填料、紙粉を引き付けてしまう。
【0009】
3)逆に、定着ニップ部を用紙が通過中に、トナーと逆極性に帯電した填料、紙粉等を定着部材に引き付けないような極性の定着バイアスを印加すると、今度はトナー画像を定着部材に引き付けてしまい、オフセット画像不良となってしまう課題がある。例えば、負極性トナーに対し正極性に帯電した填料、紙粉等を付着させないよう定着フィルムに正極性バイアスを印加する場合に、そのような課題が発生する。
【0010】
4)特許文献1に開示された画像形成装置では、トナーと同極性に帯電する填料を使用する用紙を通紙した場合、定着ニップ部を用紙が通過しない期間に印加される定着バイアスにより、上記填料や紙粉を定着部材に引き寄せて付着させてしまう課題がある。例えば、負極性トナーに対し負極性に帯電するタルク等を填料に使用する用紙を通紙した場合に、そのような課題が発生する。すなわち、負極性トナーに対し、タルク等を填料に使用する用紙を通紙した場合、填料のタルクや紙粉は負極性に帯電するため、定着ニップ部を用紙が通過しない期間に印加される正極性の定着バイアスにより填料、紙粉が定着部材に引き寄せられ付着してしまう。
【0011】
本発明は、上記課題に鑑みてなされてものであり、記録材の用紙填料、紙粉等の塵埃が定着部材に付着、蓄積することによる汚れを軽減し、汚れによる画像不良防止、定着装置の寿命延命が可能な画像形成装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上述の課題を解決するために、本発明の画像形成装置は、
現像剤を用いて記録材に未定着の現像剤像を形成する画像形成部と、
定着部材と、前記定着部材に圧接して定着ニップ部を形成する加圧部材と、を有し、前記定着ニップ部に記録材を通過させて前記現像剤像を記録材に定着させる定着部と、
前記定着部材または前記加圧部材の少なくとも一方にバイアスを印加するバイアス印加手段と
を備える画像形成装置において、
前記定着部材は、導電性を有する表層を有し、
前記現像剤は、結着樹脂を含有するトナー粒子を有するトナーであって、該トナー粒子の表面に多価酸と第4族元素を含む化合物の反応物が存在し、未定着時の体積抵抗率をTvとし、定着後の体積抵抗率をFvとすると、Tv/Fv>100を満たすトナーであり、
前記バイアス印加手段は、正極性のバイアスと負極性のバイアスを選択的に印加可能で
あり、記録材に含有される填料の帯電極性と同じ極性のバイアスを、記録材が前記定着ニップ部を通過しているとき、および、記録材が前記定着ニップ部を通過しないときに、それぞれ印加することを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、通紙する記録材の填料/紙粉の帯電極性により、帯電した填料/紙粉を記録材上に押さえつけるような電界が発生するように印加する定着バイアスの極性を切り替えるため、定着部材への帯電した填料/紙粉の付着を防止することができる。また、現像剤として、定着前後の現像剤の体積抵抗率比が、Tv/Fv>100を満たす現像剤を用いることで、定着時、現像剤の体積抵抗率が下がり現像剤の電荷が減衰する。これにより、記録材が定着ニップを通過中に現像剤と逆極性の定着バイアスを印加しても定着部材への付着を防止することができる。
【0014】
すなわち、正負いずれの帯電極性を有する填料を使用した記録材を通紙しても、印加する定着バイアスを適正に制御することで、現像剤の定着部材への付着を防止すことができる。したがって、オフセット画像不良が発生すること無く、通紙中および通紙中以外においても帯電した填料/紙粉の定着部材への付着を従来の画像形成装置よりも軽減することができる。さらに、填料/紙粉の定着部材への付着が軽減することで、填料/紙粉の定着部材への蓄積や填料/紙粉とトナーとの混合物の定着部材への汚れ付着を軽減でき、定着装置の寿命を長くすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図4】本実施形態の定着部材への高圧バイアス給電方法の概略図
【
図5】本実施例のトナー、従来トナー、記録材の定着前後の体積抵抗率のグラフ
【
図6】本実施例のトナー、従来トナー、記録材の定着前後の体積抵抗率比のグラフ
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に図面を参照して、この発明を実施するための形態を、実施例に基づいて例示的に詳しく説明する。ただし、この実施の形態に記載されている構成部品の寸法、材質、形状それらの相対配置などは、発明が適用される装置の構成や各種条件により適宜変更されるべきものである。すなわち、この発明の範囲を以下の実施の形態に限定する趣旨のものではない。
【0017】
数値範囲を表す「XX以上YY以下」や「XX~YY」の記載は、特に断りのない限り、端点である下限及び上限を含む数値範囲を意味する。
以下、図面を用いて画像形成装置について説明する。なお、以下の例は特許請求の範囲に係る発明を限定するものでなく、また以下の例で説明されている特徴の組合せの全てが発明の解決手段に必須のものとは限らない。
【0018】
(実施形態)
[画像形成装置の全体構成]
図1は、本発明が適用される画像形成装置の一例としての画像形成装置100の概略構成を示す模式的断面図である。ここでは、画像形成装置の一例として、モノクロプリンタに本発明を適用した例を説明する。画像形成装置100は、ホストコンピュータなどの外部装置(不図示)より入力される画像情報に応じた画像を記録材Pに形成する。
【0019】
画像形成装置100は、像担持体としてのドラム型(円筒形状)の電子写真感光体であ
る感光ドラム1を有する。外部装置からプリント指令が入力されると、感光ドラム1は、図中矢印R1方向に所定の速度(プロセススピード)で回転駆動される。本実施形態では、感光ドラム1としては、直径30mmのアルミニウムシリンダの外周面に、有機光導電体層(OPC感光体)が塗布されて構成されたものを用いる。また、感光ドラム1は、その長手方向(回転軸線方向)の両端部を支持部材によって回転自在に支持されており、一方の端部に駆動手段としての駆動モータ(不図示)からの駆動力が伝達されることにより回転駆動される。本実施形態では、感光ドラム1の帯電極性は負極性である。
【0020】
回転する感光ドラム1の外周面(表面)は、帯電手段としてのローラ状の帯電部材である帯電ローラ2により、所定の極性の所定の電位に一様に帯電させられる。帯電ローラ2は、導電性ローラで構成されており、感光ドラム1の表面に当接して配置され、所定の圧力で感光ドラム1に向けて付勢(押圧)されている。帯電ローラ2は、感光ドラム1の回転に伴って従動して回転する。そして、帯電ローラ2には、不図示の帯電電源(高圧電源)から、所定の負極性の帯電電圧(帯電バイアス)が印加されて、感光ドラム1は所定の電位Vdに帯電される。
【0021】
帯電された感光ドラム1の表面に対して、レーザから発せられた光を多面鏡によって走査させるスキャナユニットから構成される露光手段である露光装置(レーザスキャナ)3により、画像情報の書き込みが行われる。露光装置3は、外部装置から画像形成装置100に入力される画像情報の時系列電気デジタル画素信号に応じて変調されたレーザ光Lを出力する。また、露光装置3は、レーザ光Lにより、帯電した感光ドラム1の表面を選択的に走査露光する。これにより、感光ドラム1の露光された部分(画像部)の電位の絶対値が低下して明部電位Vlとなり、感光ドラム1上に画像情報に応じた静電潜像(静電像)が形成される。露光手段としての露光装置3は、帯電手段により帯電させられた感光ドラム1に静電像を形成する像形成手段の一例である。露光装置3としては、レーザースキャナー装置に限定されることは無く、例えば、感光ドラム1の長手方向に沿って複数のLEDが配列されたLEDアレイを採用しても良い。
【0022】
感光ドラム1上に形成された静電潜像は、現像手段としての現像装置4により、現像剤としてのトナーを用いてトナー像として現像(可視化)される。現像装置4は、現像剤担持体としての現像ローラ4aと、現像ローラ4aに供給するトナーを収納する現像容器4bと、を有する。本実施形態では、現像ローラ4aとしては、金属からなる直径20mmのローラ表面に、EPDM(エチレン-プロピレン-ジエン三元共重合体)などの高分子弾性体がコーティングされて構成されたものを用いる。現像ローラ4aには、不図示の現像電源(高圧電源)から、所定の直流の現像電圧(現像バイアス)が印加される。現像容器4bから現像ローラ4aに供給されたトナーは、現像ローラ4aと感光ドラム1とが対向する現像位置で現像ローラ4aと感光ドラム1との間に形成された電界により、静電潜像のパターンに応じて選択的に感光ドラム1の表面に付着する。本実施形態では、一様に帯電処理された後に露光されて電位の絶対値が低下した感光ドラム1上の露光部に、感光ドラム1の帯電極性と同極性に帯電したトナーが付着して、トナー像が形成される(反転現像)。
【0023】
感光ドラム1に対向して、転写手段としてのローラ状の転写部材である転写ローラ5が配置されている。転写ローラ5は、感光ドラム1の表面に当接して配置され、所定の圧力で感光ドラム1に向けて付勢(押圧)されている。これにより、感光ドラム1の表面と転写ローラ5の外周面(表面)との間に、ニップ部(転写ニップ)である転写部Nが形成される。本実施形態では、転写ローラ5は、電気抵抗が106~109Ω程度の導電性弾性体(NBRヒドリンゴム)を、ステンレスなどの金属からなる外径6mmのシャフトの周囲に、外径17mmとなるように設けた導電性ローラである。
【0024】
なお、抵抗値Rの測定は、23℃、50%RHの環境下で
図2に示すような方法で測定する。すなわち、測定するローラ201をφ30のアルミシリンダ202に総圧9.8N(1kgf)で当接させ、30rpmで回転させ、電源203から、1000Vの電圧を印加した時の電流を測定する。電流は、100Ωの抵抗204の端子間電圧Vrを電圧計205で測定して求める。そしてローラ抵抗Rは、下記式(1)で求められる。
ローラ抵抗R=印加電圧×100/Vr (1)
【0025】
転写ローラ5には、不図示の転写電源(高圧電源)から、現像時のトナーの帯電極性(正規の帯電極性)とは逆極性である正極性の所定の転写電圧(転写バイアス)が印加される。これにより、転写部Nに送られた感光ドラム1上のトナー像は、記録材P上に転写される。
【0026】
一方、給送カセット8のシート積載台8a上に積載されている記録材Pは、所定の制御タイミングで駆動される給送ローラ9により一枚ずつピックアップされ、搬送ローラ10と搬送コロ11とによりレジスト部へと送られる。レジスト部では、記録材Pの先端をレジストローラ12とレジストコロ13との間のニップ部で一旦受け止めて記録材Pの斜行矯正を行い、所定の搬送タイミングでその記録材Pを転写部Nへと給送する。すなわち、レジスト部では、感光ドラム1の表面のトナー像の先端部位が転写部Nに到達したとき、記録材Pの先端部位も転写部Nに到達するように、記録材Pの搬送タイミングが制御される。レジスト部を通過した記録材Pは、転写入口ガイド14に沿って搬送され、転写部Nに案内される。
【0027】
転写部Nに給送された記録材Pは、感光ドラム1と転写ローラ5とにより挟持されて搬送されながら、その上にトナー像が転写される。転写ローラ5は雰囲気温湿度や耐久状況によって抵抗が変動する。さらに記録材も種類によったり、雰囲気温湿度によって抵抗が変わったり、二面目の画像形成時は一面目のトナーの載り具合によっても抵抗が変わったりする。そこで、転写ローラ5と感光ドラム1との間に所定の転写電流が流れるように転写ローラ5に印可する電圧値を制御する、ATVC(Active Transfer Voltage Control)と呼ばれる制御が行われる。このATVC制御により決定された転写電圧によって感光ドラム1上のトナー像が記録材P上に転写される。以上、画像形成装置100において、記録材P上への未定着のトナー像の形成にかかわる構成が、本発明の画像形成部(画像形成手段)に相当する。
【0028】
その後、記録材Pは、感光ドラム1の表面から分離されて、画像形成装置100の定着部(定着手段)としての定着装置15へと搬送される。記録材Pが分離された後の感光ドラム1の表面は、クリーニング手段としてのクリーナ6により転写残トナーが除去され、繰り返して作像に供される。クリーナ6は、クリーニング部材としてのクリーニングブレード6aと、回転する感光ドラム1の表面からクリーニングブレード6aによって掻き取られた転写残トナーを収容する回収容器6bと、を有する。
【0029】
定着装置15は、定着回転体(定着部材)としての定着フィルムと、熱源としてのヒータなどを備えた定着フィルムユニット15aと、定着フィルムユニット15aに圧接する加圧回転体(加圧部材)としての加圧ローラ15bと、を有する。定着フィルムユニット15aと加圧ローラ15bとが接触して、ニップ部(定着ニップ)である定着部(加熱部)Tが形成される。定着装置15は、未定着のトナー像を担持した記録材Pに、定着部Tで熱と圧力を付与することにより、未定着のトナー像を記録材Pに定着(固着)させる。定着装置15は、感光ドラム1から分離された記録材を加熱部において加熱する加熱手段、特に加熱部において記録材に接触して記録材を加熱しながら回転する回転体を有する加熱手段の一例である。定着装置15から排出された記録材Pは、中間排出ローラ16により搬送される。
【0030】
ここで、画像形成装置100は、記録材Pの片面にトナー像を定着させて出力する片面画像形成(片面プリント)と、記録材Pの一面目(表面)と二面目(裏面)の両面にトナー像を定着させて出力する両面画像形成(両面プリント)と、を実行可能である。片面画像形成を行う場合は、記録材Pは、中間排出ローラ16を経由して排出ローラ17に搬送され、排出トレイ18上に排出される。一方、両面画像形成を行う場合は、記録材Pは、一旦中間排出ローラ16によって途中まで搬送された後、中間排出ローラ16が逆回転することによりスイッチバックされ、反転フラッパ19が切り換えられることによって両面搬送路20に送られる。両面搬送路20に送られた記録材Pは、両面搬送ローラ21によって移送され、搬送ローラ10と搬送コロ11とにより再度レジスト部へと送られる。その後、一面目(表側)の画像形成と同様の工程で二面目(裏側)の画像形成が行われる。二面目の画像形成後は、記録材Pは中間排出ローラ16を経由して排出ローラ17に搬送され、排出トレイ18上に排出される。
【0031】
なお、本実施形態では、感光ドラム1と、感光ドラム1に作用するプロセス手段としての帯電ローラ2、現像装置4及びクリーナ6と、が一体化されて、プロセスカートリッジ7が構成されている。プロセスカートリッジ7は、画像形成装置100の筐体を構成する装置本体101に対して取り外し可能に装着される。
【0032】
本実施形態では、一体化されたプロセスカートリッジを用いているが、新たなトナーをトナーボトルやトナーパックから現像容器に補給する、いわゆるトナー補給方式のカートリッジを用いても良い。
【0033】
[トナーの説明]
本発明者らは、従来の画像形成装置の課題を解決すべく鋭意検討した結果、結着樹脂を含有するトナー粒子を有するトナーであって、トナー粒子の表面が、多価酸と第4族元素を含む化合物との反応物を有するトナーで、未定着時のトナー画像の体積抵抗率をTvとし、加熱加圧した定着後のトナー画像の体積抵抗率をFvとすると、Fv<Tvとなるトナーを用い、定着装置に印加する定着バイアスの極性を制御することにより、記録材の填料、紙粉等の塵埃の定着部材への付着、汚れを軽減出来ることを見出した。
【0034】
多価酸は電子対を受け取り、負に帯電しやすい。そのため、多価酸と第4族元素を含む化合物との反応物も負に帯電しやすく帯電性に優れている。さらに、第4族元素(チタン族元素である金属)は、酸化数が+4の状態が最も安定である。そのため、多価酸と架橋構造を作り、その架橋構造により電子の移動が促進される。したがって、トナー粒子の表面が、多価酸と第4族元素を含む化合物との反応物を有するトナーであると、トナー表面に付与された電荷は、上記架橋構造を伝わって全面に伝搬しやすい。定着によってトナーが加熱と加圧をされると、トナー粒子表面の多価酸と第4族元素を含む化合物との反応物は、溶融したトナー粒子と混ざり合う。これにより、トナー粒子内部に電荷を移動させやすい特性が発現する。結果として、未定着に比べて、定着後の体積抵抗率は低下する。
【0035】
一方、表面に多価酸と第4族元素を含む化合物との反応物を有さず、例えば抵抗調整剤として酸化チタンを含有するトナーは、多価酸と第4族元素を含む化合物との反応物と比べて、接触によって付与された電荷は表面を移動しにくく、表面(の接触部)に電荷が局在化しやすい。また、トナー同士の接触によっても、多価酸と第4族元素を含む化合物との反応物と比べて電荷移動がしにくい。また、定着によってトナーが加熱と加圧をされても、多価酸と第4族元素を含む化合物との反応物と比べて、トナー粒子内部に電荷を移動する特性が発現しない。結果として、定着後の体積抵抗率は未定着時と有意差が無く、本発明のトナーのような効果を生み出さなかったと考えている。
【0036】
この多価酸は、2価以上の酸であればどのようなものでも構わない。具体例としては、以下のものがあげられる。
リン酸、炭酸、硫酸などの無機酸;ジカルボン酸、トリカルボン酸などの有機酸。
有機酸の具体例としては、以下のものがあげられる。
シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、フマル酸、マレイン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸などのジカルボン酸。
クエン酸、アコニット酸、無水トリメリット酸などのトリカルボン酸。
そのなかでも、多価酸が、炭酸、硫酸、及びリン酸からなる群より選ばれた少なくとも一つを含有することが、第4族元素と強固に反応し、吸湿しにくいことから好ましい。より好ましくは、多価酸が、リン酸を含有することである。該多価酸は、多価酸をそのまま用いてもよいし、多価酸とナトリウム、カリウム、リチウムなどとのアルカリ金属塩;マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウムなどとのアルカリ土類金属塩;又は、多価酸のアンモニウム塩として用いてもよい。
【0037】
第4族元素を含む化合物は、第4族元素を含む化合物であれば、特段限定されず、どのようなものでも構わない。第4族元素としては、チタン、ジルコニウム、ハフニウムなどが挙げられる。そのなかでも、第4族元素は、チタン及びジルコニウムの少なくとも一方を含有することが好ましい。
【0038】
チタンを含む化合物の具体例としては、以下のものが挙げられる。
テトライソプロピルチタネート、テトラブチルチタネート、テトラオクチルチタネートなどのチタンアルコキシド。
チタンジイソプロポキシビスアセチルアセトネート、チタンテトラアセチルアセトネート、チタンジイソプロポキシビス(エチルアセトアセテート)、チタニウムジ-2-エチルヘキソキシビス2-エチル-3-ヒドロキシヘキソキシド、チタンジイソプロポキシビスエチルアセトアセテート、チタンラクテート、チタンラクテートアンモニウム塩、チタンジイソプロポキシビストリエタノールアミネート、チタンイソステアレート、チタンアミノエチルアミノエタノレート、チタントリエタノールアミネートなどのチタンキレート。
中でもチタンキレートは多価酸と反応しやすいため好ましい。また、チタンラクテート、チタンラクテートアンモニウム塩がより好ましい。
【0039】
ジルコニウムを含む化合物の具体例としては、以下のものが挙げられる。
ジルコニウムテトラプロポキシド、ジルコニウムテトラブトキシドなどのジルコニウムアルコキシド。
ジルコニウムテトラアセチルアセトネート、ジルコニウムトリブトキシモノアセチルアセトネート、ジルコニウムジブトキシビス(エチルアセトアセテート)、ジルコニウムラクテート、ジルコニウムラクテートアンモニウム塩などのジルコニウムキレート。
中でもジルコニウムキレートは多価酸と反応しやすいため好ましい。また、ジルコニウムラクテート、及び、ジルコニウムラクテートアンモニウム塩がより好ましい。
【0040】
ハフニウムを含む化合物の具体例としては、以下のものが挙げられる。
ハフニウムラクテート、ハフニウムラクテートアンモニウム塩などのハフニウムキレート。
【0041】
トナー粒子の表面が、多価酸と第4族元素を含む化合物との反応物を有するとは、例えば、トナー粒子の表面に、多価酸と第4族元素を含む化合物との反応物が存在している状態が挙げられる。トナー粒子の表面に、多価酸と第4族元素を含む化合物との反応物を存在させる方法としては、従来公知の様々な方法を用いることができるが、例えば下記方法
がある。
【0042】
トナー母粒子の分散液中で、多価酸と第4族元素を含む化合物を反応させて、得られた反応物をトナー母粒子の表面に付着させてトナー粒子を得る方法。例えば、トナー母粒子の分散液に、多価酸及び第4族元素を含む化合物を添加及び混合することで、多価酸と第4族元素を含む化合物とを反応させ、反応物を得ると同時に、分散液を撹拌しておくことで、トナー母粒子の表面に反応物を付着させてトナー粒子を得る方法が挙げられる。
【0043】
また、例えば、多価酸と第4族元素を含む化合物とを反応させ、反応物を含有する微粒子を作製し、トナー母粒子と混合することでトナー母粒子の表面に該反応物を含有する微粒子を付着させてトナー粒子を得る方法が挙げられる。具体的には、FMミキサ、メカノハイブリッド(日本コークス社製)、スーパーミキサー、ノビルタ(ホソカワミクロン社製)など、せん断力を与える高速撹拌機を用いて、トナー母粒子と該反応物の微粒子を混合するとよい。中でも、トナー母粒子の分散液に、多価酸及び第4族元素を含む化合物を添加及び混合することで、多価酸と第4族元素を含む化合物とを反応させ、反応物を得ると同時に、分散液を撹拌しておくことで、トナー母粒子の表面に反応物を付着させてトナー粒子を得る方法が好ましい。
【0044】
上記方法によれば、トナー粒子上に、微小な粒子状の多価酸と第4族元素を含む化合物との反応物を、均一に分散させ、かつ、トナー母粒子と該反応物とが強固に接着した状態で得ることができる。
【0045】
多価酸と第4族元素を含む化合物との反応物は、溶媒中で多価酸及び第4族元素を含む化合物を反応させることで得ることができる。該溶媒としては、どのようなものでも構わない。該溶媒の具体例としては、以下のものが挙げられる。
ヘキサン、ベンゼン、トルエン、ジエチルエーテル、クロロホルム、酢酸エチル、テトラヒドロフラン、アセトン、アセトニトリル、N,N-ジメチルホルムアミド、1-ブタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、メタノール、エタノール、水。
【0046】
多価酸と第4族元素を含む化合物との反応物は、特に限定されない。多価酸及び第4族元素の塩(以下、多価酸金属塩ともいう)が好ましい。多数枚印刷時の画像劣化抑制の観点から、硫酸チタン、炭酸チタン、リン酸チタン、硫酸ジルコニウム、炭酸ジルコニウム、及びリン酸ジルコニウムからなる群より選ばれた少なくとも一つを含有することが好ましい。より好ましくは、リン酸チタン及びリン酸ジルコニウムの少なくとも一方を含有することである。
【0047】
多価酸と第4族元素を含む化合物との反応物を含有する微粒子の個数平均粒径は、1nm以上400nm以下であることが好ましく、1nm以上200nm以下であることがより好ましく、1nm以上60nm以下であることがさらに好ましい。該微粒子の個数平均粒径を上記範囲にすることで、該微粒子の脱離による部材汚染を抑制することができる。該微粒子の個数平均粒径を上記範囲に調整する手法は、該微粒子の原料である多価酸と第4族元素を含む化合物の添加量や、それらが反応するときのpH、反応時の温度などが挙げられる。
【0048】
トナー粒子中の多価酸と第4族元素を含む化合物との反応物の含有量は、0.01質量%以上5.00質量%以下であることが好ましく、0.01質量%以上3.00質量%以下であることがより好ましい。
【0049】
本発明のトナーは、前記多価酸金属塩に含まれる金属元素を金属元素Mとし、前記トナーのX線光電子分光分析によって得られたスペクトルから求める前記トナー表面の構成元
素比率における、前記金属元素Mの比率をM1(at%)としたときに、M1が1.0(at%)以上10.0(at%)以下であることが好ましい。
【0050】
また、前記トナー1gを61.5%のショ糖水溶液31gと、非イオン性界面活性剤と陰イオン界面活性剤からなる10%の精密測定器洗浄用中性洗剤水溶液6gからなる混合水溶液に分散させ、シェーカーを用いて1分間に300回振とうする処理(a)を施して得たトナーをトナー(a)とし、前記トナー(a)のX線光電子分光分析によって得られたスペクトルから求める前記トナー表面の構成元素比率における、前記金属元素Mの比率をM2(at%)とするとき、前記M1と前記M2がともに1.0以上10.0以下であり、前記M1およびM2が以下の関係式(ME-1)を満たすことが好ましい。
0.90≦M2/M1 (ME-1)
【0051】
上記処理(a)では、トナー表面に弱く付着している多価酸金属塩を取り除くことができる。具体的には、トナー母粒子に対し、乾式法で付着させた多価酸金属塩は上記処理(a)によって取り除かれやすい。このように、上記処理(a)によってトナー表面に存在する多価酸金属塩を評価することが可能である。上記処理(a)による各パラメータの変化が小さいほど、多価酸金属塩がトナー母粒子に強く固着していることを示す。
【0052】
上記M1およびM2は各処理の前後における、多価酸金属塩によるトナー表面の被覆状態を表す。そして、多価酸金属塩によるトナー表面の被覆状態は帯電性および電荷の移動性に寄与する。上記M1およびM2は1.0(at%)以上、10.0(at%)以下であることが好ましい。上記M1およびM2が上記範囲であると、トナーの負帯電性および電荷の移動性が更に良好になる。上記M1およびM2は1.0(at%)以上、7.0(at%)以下であるとより好ましく、1.5(at%)以上、5.0(at%)以下であるとさらに好ましい。
【0053】
上記式(ME-1)は、上記処理(a)において多価酸金属塩がトナー表面から剥離せず、残存している比率を意味している。上記式(ME-1)が0.90以上となる場合、トナー表面に多価酸金属塩が強く固着しているため、トナーから部材への多価酸金属塩の移行が抑制される。よって、長期にわたる使用時にも安定し、耐久性に優れたトナーを得ることができる。
【0054】
トナー母粒子の分散液中で、多価酸と第4族元素を含む化合物とを反応させ、得られた反応物をトナー母粒子表面に付着させてトナー粒子を得る場合、下記式(2)で示される有機ケイ素化合物を併用することが好ましい。該有機ケイ素化合物を併用することで、得られた反応物がより強固にトナー粒子に固着し、かつ、多価酸と第4族元素を含む化合物との反応物が疎水化され、環境安定性がさらに向上する。
【0055】
具体的には、まず、トナー母粒子の分散液を調整する。トナー母粒子は、後述の方法で凸部が形成されたトナー母粒子であることが好ましい。そして、(好ましくは下記式(2)で示される)有機ケイ素化合物を加水分解する。有機ケイ素化合物は、事前に加水分解してもいし、トナー母粒子の分散液中で加水分解してもよい。そして、トナー母粒子の分散液中で、多価酸と第4族元素を含む化合物とを反応させ、得られた反応物をトナー母粒子表面に付着させる際に、得られた有機ケイ素化合物の加水分解物を縮合させ、トナー粒子を得る。得られた縮合物はトナー粒子表面に移行する。該縮合物は粘性があるため、多価酸と第4族元素を含む化合物との反応物を、トナー粒子の表面に密着させ、該反応物をより強固にトナー粒子に固着することができる。また、該反応物の表面にも該縮合物は移行し、該反応物を疎水化し、環境安定性をさらに向上させることができる。
【0056】
式(2)で示される化合物を用いることで、Rbで表される置換基がトナー母粒子との
親和性を有するためトナー母粒子と強く固着し、得られた縮合物におけるケイ素重合体部が多価酸と第4族元素を含む化合物との反応物との親和性を有することで該反応物と強く固着する。トナー粒子の表面に多価酸と第4族元素を含む化合物との反応物が存在する態様としては、多価酸と第4族元素を含む化合物との反応物が、有機ケイ素重合体を介してトナー粒子表面に付着していることが好ましい。また、多価酸と第4族元素を含む化合物との反応物は、機械的衝撃力により付着したものでないことが好ましい。
Ra(n)-Si-Rb(4-n) (2)
【0057】
式(2)中、Raは、ハロゲン原子、ヒドロキシ基又は(好ましくは炭素数1~4、より好ましくは炭素数1~3の)アルコキシ基を示し、Rbは、(好ましくは炭素数1~8、より好ましくは炭素数1~6の)アルキル基、(好ましくは炭素数1~6、より好ましくは炭素数1~4の)アルケニル基、(好ましくは炭素数6~14、より好ましくは6~10の)アリール基、(好ましくは炭素数1~6、より好ましくは1~4の)アシル基又はメタクリロキシアルキル基を示す。nは2~4の整数を示す。ただし、Ra及びRbが複数存在する場合、複数のRa、複数のRbの置換基は、それぞれ、同一でも異なってもよい。)以降、式(2)中のRaを官能基、Rbを置換基と呼称する。式(2)で示される有機ケイ素化合物としては、特段の制限なく、公知の有機ケイ素化合物を用いることができる。具体的には、以下の、官能基を二つ有する二官能シラン化合物、官能基を三つ有する三官能シラン化合物、官能基を四つ有する四官能シラン化合物が挙げられる。
【0058】
二官能シラン化合物として、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシランなどが挙げられる。
【0059】
三官能シラン化合物として、以下のものが挙げられる。
メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、メチルジエトキシメトキシシラン、メチルエトキシジメトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、プロピルトリメトキシシラン、プロピルトリエトキシシラン、ブチルトリメトキシシラン、ブチルトリエトキシシラン、ヘキシルトリメトキシシラン、ヘキシルトリエトキシシラン、オクチルトリメトキシシラン、オクチルトリエトキシシラン、デシルトリメトキシシラン、デシルトリエトキシシランなどの置換基としてアルキル基を有する三官能シラン化合物;
ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、アリルトリメトキシシラン、アリルトリエトキシシランなどの置換基としてアルケニル基を有する三官能シラン化合物;
フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシランなどの置換基としてアリール基を有する三官能シラン化合物;
γ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ-メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、γ-メタクリロキシプロピルジエトキシメトキシシラン、γ-メタクリロキシプロピルエトキシジメトキシシランなどの置換基としてメタクリロキシアルキル基を有する三官能シラン化合物など。
【0060】
四官能シラン化合物として、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラプロポキシシラン、テトラブトキシシランなどが挙げられる。
【0061】
トナー粒子中の、式(2)で示される有機ケイ素化合物からなる群より選択される少なくとも1つの有機ケイ素化合物の縮合物の含有量は、0.1質量%以上20.0質量%以下であることが好ましく、0.5質量%以上15.0質量%以下であることがより好ましい。
【0062】
トナー粒子は、結着樹脂を含有するトナー母粒子及びトナー母粒子表面の凸部を有する
ことが好ましい。そして、該凸部は有機ケイ素重合体を含むことが好ましい。有機ケイ素重合体を含む凸部の形成方法には特段の制限はなく、公知の方法を用いることができる。例えば、水系媒体中でトナー粒子を形成する場合には水系媒体中で重合工程などを行いながら前述のように有機ケイ素化合物の加水分解液を添加して凸部を形成させることができる。また、トナー母粒子が分散した水系媒体中で有機ケイ素化合物を縮合し、トナー母粒子上に凸部を形成する方法が挙げられる。また、乾式又は湿式でトナー母粒子上に有機ケイ素重合体を含む凸部を機械的な外力によって付着させる方法が挙げられる。中でも、トナー母粒子と凸部を強固に固着させることが可能であることから、トナー母粒子が分散した水系媒体中で有機ケイ素化合物を縮合し、トナー母粒子表面に凸部を形成する方法が好ましい。
【0063】
上記方法について説明する。上記方法によってトナー母粒子表面に凸部を形成する場合、トナー母粒子が水系媒体に分散したトナー母粒子分散液を得る工程(工程1)、及び有機ケイ素化合物(及び/又はその加水分解物)をトナー母粒子分散液に混合し、有機ケイ素化合物をトナー母粒子分散液中で縮合反応させることでトナー母粒子上に有機ケイ素重合体を含む凸部を形成する工程(工程2)を含むことが好ましい。
【0064】
工程1において、トナー母粒子分散液を得る方法としては、水系媒体中で製造したトナー母粒子の分散液をそのまま用いる方法、及び乾燥したトナー母粒子を水系媒体に投入し、機械的に分散させる方法等が挙げられる。乾燥したトナー母粒子を水系媒体に分散させる場合、公知の分散助剤を用いてもよい。
【0065】
工程2において、有機ケイ素化合物はそのままトナー母粒子分散液に加えてもよく、加水分解後にトナー母粒子分散液に加えてもよい。中でも、上記縮合反応が制御しやすく、トナー母粒子分散液中に残留する有機ケイ素化合物量を減らせることから、加水分解後に加えることが好ましい。
【0066】
加水分解は公知の酸及び塩基を用いてpHを調整した水系媒体中で行うことが好ましい。有機ケイ素化合物の加水分解にはpH依存性があることが知られており、上記加水分解を行う場合のpHは、有機ケイ素化合物の種類によって適宜変更することが好ましい。例えば、有機ケイ素化合物としてメチルトリエトキシシランを用いる場合、上記水系媒体のpHが2.0以上6.0以下であることが好ましい。
【0067】
工程2における縮合反応はトナー母粒子分散液のpHを調整することで制御することが好ましい。有機ケイ素化合物の縮合反応はpH依存性があることが知られており、縮合反応を行う場合のpHは、有機ケイ素化合物の種類によって適宜変更することが好ましい。
例えば、有機ケイ素化合物としてメチルトリエトキシシランを用いる場合、上記水系媒体のpHが6.0以上12.0以下であることが好ましい。pHを調整することで、凸部の高さや凸部の幅を制御することが可能である。有機ケイ素化合物は、上記式(I)で表される化合物を用いることができる。
【0068】
上記凸部の形成後に、前述した方法で、トナー粒子の表面に、多価酸と第4族元素を含む化合物との反応物を存在させることが好ましい。すなわち、トナー粒子は、上記凸部の表面に多価酸と第4族元素を含む化合物との反応物を有することが好ましい。
【0069】
有機ケイ素重合体は、下記式(II)で表される構造を有することが好ましい。
R-SiO3/2 (II)
(式(II)中、Rは、(好ましくは炭素数1~8、より好ましくは1~6の)アルキル基、(好ましくは炭素数1~6、より好ましくは1~4の)アルケニル基、(好ましくは炭素数1~6、より好ましくは1~4の)アシル基、(好ましくは炭素数6~14、より
好ましくは6~10の)アリール基又はメタクリロキシアルキル基を示す。)
【0070】
式(II)は、有機ケイ素重合体が有機基と、ケイ素重合体部を有することを表している。このことにより、式(II)で表される構造を含む有機ケイ素重合体において、有機基がトナー母粒子との親和性を有することでトナー母粒子と強く固着し、ケイ素重合体部が多価酸と第4族元素を含む化合物との反応物との親和性を有することで該反応物と強く固着する。
【0071】
また、式(II)は有機ケイ素重合体が架橋していることを表している。有機ケイ素重合体が架橋構造を有することで、有機ケイ素重合体の強度が増すとともに、残存するシラノール基が少なくなることで疎水性が増す。よって、さらに耐久性に優れる。
【0072】
式(II)中、Rが、メチル基、プロピル基、ノルマルヘキシル基等の炭素数1以上6以下のアルキル基、ビニル基、フェニル基、又はメタクリロキシプロピル基であることが好ましく、炭素数1以上6以下のアルキル基又はビニル基であることがより好ましい。上記構造を有する有機ケイ素重合体は、有機基の分子運動性が制御されることで硬さと柔軟性を併せ持つため、長期にわたって使用された場合においてもトナーの劣化が抑制され、優れた性能を示す。
【0073】
トナー粒子表面が、さらに微粒子を有することが好ましい。微粒子の個数平均粒径は、50nm以上500nm以下であることが好ましく、50nm以上200nm以下であることがより好ましい。上記微粒子を有することで、スペーサー効果によってトナー粒子表面に存在する多価酸と第4族元素を含む化合物との反応物の部材への移行を抑制することが可能となる。よって、長期にわたる使用においてもトナーの帯電能力の低下及び帯電部材の帯電付与能の低下が抑制される。
【0074】
上記微粒子としては、特段の制限なく従来公知の微粒子を用いることができる。具体的には、ポリスチレン、ポリエステル、ポリカーボネート、アクリル樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、フェノール樹脂等に代表される架橋又は非架橋の樹脂微粒子、湿式製法シリカ、乾式製法シリカなどの原体シリカ微粒子又はそれら原体シリカ微粒子にシランカップリング剤、チタンカップリング剤、シリコーンオイルなどの処理剤により表面処理を施したシリカ微粒子、有機ケイ素化合物を重合して得られる有機ケイ素重合体を有する有機ケイ素重合体微粒子等が挙げられる。中でも、上記微粒子はケイ素を含有する微粒子であることが好ましく、シリカ微粒子であることがより好ましい。
【0075】
上記微粒子の含有量は、トナー粒子100.0質量部に対して、0.1質量部以上5.0質量部以下であることが好ましい。
【0076】
トナー母粒子の製造方法は、特に限定されることはなく、公知の懸濁重合法、溶解懸濁法、乳化凝集法、及び粉砕法などを用いることができる。水系媒体中でトナー母粒子を製造した場合は、トナー母粒子を含む水系媒体を、そのまま、トナー母粒子の分散液として用いてもよい。また、洗浄やろ過、乾燥を行った後、水系媒体中に再分散させて、トナー母粒子の分散液としてもよい。一方、乾式でトナー母粒子を製造した場合は、公知の方法によって水系媒体に分散させて、トナー母粒子の分散液としてもよい。トナー母粒子を水系媒体中に分散させるために、水系媒体が分散安定剤を含有していることが好ましい。
【0077】
以下、懸濁重合法を用いた、トナー母粒子の製造例を具体的に述べる。まず、結着樹脂を生成しうる重合性単量体、及び必要に応じて各種添加物を混合し、分散機を用いて、該材料を溶解又は分散させた重合性単量体組成物を調製する。各種添加物として、着色剤、ワックス、荷電制御剤、重合開始剤、連鎖移動剤などが挙げられる。分散機としては、ホ
モジナイザー、ボールミル、コロイドミル、又は超音波分散機が挙げられる。
【0078】
次いで、重合性単量体組成物を、難水溶性の無機微粒子を含有する水系媒体中に投入し、高速攪拌機又は超音波分散機などの高速分散機を用いて、重合性単量体組成物の液滴を調製する(造粒工程)。その後、該液滴中の重合性単量体を重合してトナー母粒子を得る(重合工程)。重合開始剤は、重合性単量体組成物を調製する際に混合してもよく、水系媒体中に液滴を形成させる直前に重合性単量体組成物中に混合してもよい。また、液滴の造粒中や造粒完了後、すなわち重合反応を開始する直前に、必要に応じて重合性単量体や他の溶媒に溶解した状態で加えることもできる。重合性単量体を重合して樹脂粒子を得たあと、必要に応じて脱溶剤処理を行い、トナー母粒子の分散液を得るとよい。
【0079】
結着樹脂としては、以下の樹脂又は重合体が例示できる。
ビニル系樹脂;ポリエステル樹脂;ポリアミド樹脂;フラン樹脂;エポキシ樹脂;キシレン樹脂;シリコーン樹脂。
これらの中でも、ビニル系樹脂が好ましい。なお、ビニル系樹脂としては、下記単量体の重合体又はそれらの共重合体が挙げられる。中でも、スチレン系単量体と不飽和カルボン酸エステルとの共重合体が好ましい。
スチレン、α-メチルスチレンなどのスチレン系単量体;アクリル酸メチル、アクリル酸ブチル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸2-ヒドロキシエチル、メタクリル酸t-ブチル、メタクリル酸2-エチルヘキシルなどの不飽和カルボン酸エステル;アクリル酸、メタクリル酸などの不飽和カルボン酸;マレイン酸などの不飽和ジカルボン酸;マレイン酸無水物などの不飽和ジカルボン酸無水物;アクリロニトリルなどのニトリル系ビニル単量体;塩化ビニルなどのハロゲン含有ビニル単量体;ニトロスチレンなどのニトロ系ビニル単量体。
【0080】
着色剤として、以下に挙げるブラック顔料、イエロー顔料、マゼンタ顔料、シアン顔料などが用いられる(本実施形態はモノクロプリンタであるが、カラープリンタに使用する場合のイエロー、マゼンタ、シアントナーの顔料の例も述べる)。
ブラック顔料としては、カーボンブラックなどが挙げられる。
イエロー顔料としては、モノアゾ化合物;ジスアゾ化合物;縮合アゾ化合物;イソインドリノン化合物;イソインドリン化合物;ベンズイミダゾロン化合物;アントラキノン化合物;アゾ金属錯体;メチン化合物;アリルアミド化合物が挙げられる。
具体的には、C.I.ピグメントイエロー74、93、95、109、111、128、155、174、180、185などが挙げられる。
【0081】
マゼンタ顔料としては、モノアゾ化合物;縮合アゾ化合物;ジケトピロロピロール化合物;アントラキノン化合物;キナクリドン化合物;塩基染料レーキ化合物;ナフトール化合物:ベンズイミダゾロン化合物;チオインジゴ化合物;ペリレン化合物が挙げられる。
具体的には、C.I.ピグメントレッド2、3、5、6、7、23、48:2、48:3、48:4、57:1、81:1、122、144、146、150、166、169、177、184、185、202、206、220、221、238、254、269、C.I.ピグメントバイオレッド19などが挙げられる。
【0082】
シアン顔料としては、銅フタロシアニン化合物及びその誘導体;アントラキノン化合物;塩基染料レ-キ化合物が挙げられる。具体的には、C.I.ピグメントブルー1、7、15、15:1、15:2、15:3、15:4、60、62、66が挙げられる。
【0083】
また、顔料とともに、着色剤として従来知られている種々の染料を併用してもよい。着色剤の含有量は、結着樹脂100質量部に対して、1.0質量部以上20.0質量部以下であることが好ましい。
【0084】
トナーは、磁性体を含有させて磁性トナーとすることも可能である。この場合、磁性体は着色剤の役割を兼ねることもできる。磁性体としては、マグネタイト、ヘマタイト、フェライトなどに代表される酸化鉄;鉄、コバルト、ニッケルなどに代表される金属又はこれらの金属とアルミニウム、コバルト、銅、鉛、マグネシウム、スズ、亜鉛、アンチモン、ベリリウム、ビスマス、カドミウム、カルシウム、マンガン、セレン、チタン、タングステン、バナジウムなどの金属との合金及びその混合物などが挙げられる。
【0085】
ワックスを以下に例示する。
ベヘン酸ベヘニル、ステアリン酸ステアリル、パルミチン酸パルミチルなどの1価のアルコールと脂肪族モノカルボン酸エステル、又は、1価のカルボン酸と脂肪族モノアルコールのエステル;セバシン酸ジベヘニル、ヘキサンジオールジベヘネートなどの2価のアルコールと脂肪族モノカルボン酸エステル、又は、2価のカルボン酸と脂肪族モノアルコールのエステル;グリセリントリベヘネートなどの3価のアルコールと脂肪族モノカルボン酸エステル、又は、3価のカルボン酸と脂肪族モノアルコールのエステル;ペンタエリスリトールテトラステアレート、ペンタエリスリトールテトラパルミテートなどの4価のアルコールと脂肪族モノカルボン酸エステル、又は、4価のカルボン酸と脂肪族モノアルコールのエステル;ジペンタエリスリトールヘキサステアレート、ジペンタエリスリトールヘキサパルミテートなどの6価のアルコールと脂肪族モノカルボン酸エステル、又は、6価のカルボン酸と脂肪族モノアルコールのエステル;ポリグリセリンベヘネートなどの多価アルコールと脂肪族モノカルボン酸エステル、又は、多価カルボン酸と脂肪族モノアルコールのエステル;カルナバワックス、ライスワックスなどの天然エステルワックス;パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス、ペトロラタムなどの石油系ワックス及びその誘導体;フィッシャートロプシュ法による炭化水素ワックス及びその誘導体;ポリエチレンワックス、ポリプロピレンワックスなどのポリオレフィンワックス及びその誘導体;高級脂肪族アルコール;ステアリン酸、パルミチン酸などの脂肪酸;酸アミドワックスが挙げられる。
ワックスの含有量は、結着樹脂100質量部に対して、0.5質量部以上20.0質量部以下であることが好ましい。
【0086】
トナーは、特性又は効果を損なわない程度に、トナー粒子に各種有機又は無機微粒子を外添してもよい。有機又は無機微粒子としては、例えば、以下のようなものが用いられる。
(1)流動性付与剤:シリカ、アルミナ、酸化チタン、カーボンブラック及びフッ化カーボン。
(2)研磨剤:金属酸化物(例えば、チタン酸ストロンチウム、酸化セリウム、アルミナ、酸化マグネシウム、酸化クロム)、窒化物(例えば、窒化ケイ素)、炭化物(例えば、炭化ケイ素)、金属塩(例えば、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、炭酸カルシウム)。
(3)滑剤:フッ素系樹脂微粒子(例えば、フッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン)、脂肪酸金属塩(例えば、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸カルシウム)。
(4)荷電制御性粒子:金属酸化物(例えば、酸化錫、酸化チタン、酸化亜鉛、シリカ、アルミナ)、カーボンブラック。
【0087】
有機又は無機微粒子は疎水化処理することもできる。有機又は無機微粒子の疎水化処理の処理剤としては、未変性のシリコーンワニス、各種変性シリコーンワニス、未変性のシリコーンオイル、各種変性シリコーンオイル、シラン化合物、シランカップリング剤、その他有機ケイ素化合物、有機チタン化合物が挙げられる。これらの処理剤は単独で又は併用して用いられてもよい。
【0088】
[トナーの各物性の測定方法]
以下に、各物性値の測定方法を記載する。
【0089】
<トナー粒子などの重量平均粒径(D4)、個数平均粒径(D1)の測定方法>
トナー母粒子、トナー粒子又はトナー(測定方法の説明において、以下、単にトナー粒子と記載する)の重量平均粒径(D4)、個数平均粒径(D1)は、以下のようにして算出する。
【0090】
測定装置としては、100μmのアパーチャーチューブを備えた細孔電気抵抗法による精密粒度分布測定装置「コールター・カウンター Multisizer 3」(登録商標、ベックマン・コールター(株)製)を用いる。測定条件の設定及び測定データの解析は、付属の専用ソフト「ベックマン・コールター Multisizer 3 Version3.51」(ベックマン・コールター(株)製)を用いる。なお、測定は実効測定チャンネル数2万5千チャンネルで行う。測定に使用する電解水溶液は、特級塩化ナトリウムをイオン交換水に溶解して濃度が1.0%となるようにしたもの、例えば、「ISOTON II」(ベックマン・コールター(株)製)が使用できる。
【0091】
なお、測定、解析を行う前に、以下のように専用ソフトの設定を行う。専用ソフトの「標準測定方法(SOMME)を変更」画面において、コントロールモードの総カウント数を50,000粒子に設定し、測定回数を1回、Kd値は「標準粒子10.0μm」(ベックマン・コールター(株)製)を用いて得られた値を設定する。「閾値/ノイズレベルの測定ボタン」を押すことで、閾値とノイズレベルを自動設定する。また、カレントを1,600μAに、ゲインを2に、電解水溶液をISOTON IIに設定し、「測定後のアパーチャーチューブのフラッシュ」にチェックを入れる。専用ソフトの「パルスから粒径への変換設定」画面において、ビン間隔を対数粒径に、粒径ビンを256粒径ビンに、粒径範囲を2μmから60μmまでに設定する。
【0092】
具体的な測定法は以下のとおりである。
(1)Multisizer 3専用のガラス製250mL丸底ビーカーに前記電解水溶液200.0mLを入れ、サンプルスタンドにセットし、スターラーロッドの撹拌を反時計回りで24回転/秒にて行う。そして、専用ソフトの「アパーチャーチューブのフラッシュ」機能により、アパーチャーチューブ内の汚れと気泡を除去しておく。
(2)ガラス製の100mL平底ビーカーに前記電解水溶液30.0mLを入れる。この中に分散剤として「コンタミノンN」(非イオン界面活性剤、陰イオン界面活性剤、有機ビルダーからなるpH7の精密測定器洗浄用中性洗剤の10%水溶液、和光純薬工業(株)製)をイオン交換水で3質量倍に希釈した希釈液を0.3mL加える。
(3)発振周波数50kHzの発振器2個を、位相を180度ずらした状態で内蔵し、電気的出力120Wの超音波分散器「Ultrasonic Dispersion System Tetra150」(日科機バイオス(株)製)を準備する。超音波分散器の水槽内に3.3Lのイオン交換水を入れ、この水槽中にコンタミノンNを2.0mL添加する。
(4)前記(2)のビーカーを前記超音波分散器のビーカー固定穴にセットし、超音波分散器を作動させる。そして、ビーカー内の電解水溶液の液面の共振状態が最大となるようにビーカーの高さ位置を調整する。
(5)前記(4)のビーカー内の電解水溶液に超音波を照射した状態で、トナー粒子10mgを少量ずつ前記電解水溶液に添加し、分散させる。そして、さらに60秒間超音波分散処理を継続する。なお、超音波分散にあたっては、水槽の水温が10℃以上40℃以下となる様に適宜調節する。
(6)サンプルスタンド内に設置した前記(1)の丸底ビーカーに、ピペットを用いてトナー粒子を分散した前記(5)の電解水溶液を滴下し、測定濃度が5%となるように調整する。そして、測定粒子数が50,000個になるまで測定を行う。
(7)測定データを装置付属の前記専用ソフトにて解析を行ない、重量平均粒径(D4)及び個数平均粒径(D1)を算出する。なお、前記専用ソフトでグラフ/体積%と設定したときの、「分析/体積統計値(算術平均)」画面の「平均径」が重量平均粒径(D4)であり、前記専用ソフトでグラフ/個数%と設定したときの、「分析/個数統計値(算術平均)」画面の「平均径」が個数平均粒径(D1)である。
【0093】
<X線光電子分光法を用いた金属元素Mの比率M1およびM2の算出方法>
・処理(a)
イオン交換水100mLにスクロース(キシダ化学(株)製)160gを加え、湯せんをしながら溶解させ、61.5%のショ糖水溶液を調製する。遠心分離用チューブに上記ショ糖濃厚液を31.0gと、コンタミノンN(商品名)(非イオン界面活性剤、陰イオン界面活性剤、有機ビルダーからなるpH7の精密測定器洗浄用中性洗剤の10質量%水溶液、和光純薬工業(株)製)を6g入れ分散液を作製する。この分散液にトナー1.0gを添加し、スパチュラなどでトナーのかたまりをほぐす。遠心分離用チューブをシェーカーにて300spm(strokes per min)、20分で振とうする。振とう後、溶液をスイングローター用ガラスチューブ(50mL)に入れ替えて、遠心分離機にて3500rpm、30分の条件で分離する。トナーと水溶液が十分に分離されていることを目視で確認し、最上層に分離したトナーをスパチュラ等で採取する。採取したトナーを減圧濾過器で濾過した後、乾燥機で1時間以上乾燥させる。乾燥品をスパチュラで解砕してトナー(a)を得る。
【0094】
本発明のトナー、上記トナー(a)について、X線光電子分光法を用いて、以下の通りに測定を行い、上記M1およびM2を算出する。金属元素Mの比率M1およびM2の比率は、トナーを以下の条件で測定し、算出する。
・測定装置:X線光電子分光装置:Quantum2000(アルバックファイ株式会社製)
・X線源:モノクロAl Kα
・Xray Setting:100μmφ(25W(15KV))
・光電子取りだし角:45度
・中和条件:中和銃とイオン銃の併用
・分析領域:300×200μm
・Pass Energy:58.70eV
・ステップサイズ:0.1.25eV
・解析ソフト:Maltipak(PHI社)
ここで、例えばTi原子の定量値の算出には、Ti 2p(B.E.452~468eV)のピークを使用する。ここで得られたTi元素の定量値をM1(at%)とする。
【0095】
上記方法を用いて、本発明のトナーおよび上記トナー(a)を測定し、各トナーの金属元素Mの比率をそれぞれ、M1(at%)およびM2(at%)とする。
【0096】
<多価酸と第4族元素を含む化合物との反応物の検出方法>
飛行時間型二次イオン質量分析法(TOF-SIMS)を用いて、トナー表面の多価酸と第4族元素を含む化合物との反応物(好ましくは多価酸金属塩)を以下の方法により検出する。トナーサンプルをTOF-SIMS(TRIFTIV:アルバック・ファイ社製)を用いて以下の条件で分析する。
・一次イオン種: 金イオン (Au+)
・一次イオン電流値: 2pA
・分析面積: 300×300μm2
・画素数: 256×256pixel
・分析時間: 3min
・繰り返し周波数: 8.2kHz
・帯電中和: ON
・二次イオン極性: Positive
・二次イオン質量範囲: m/z 0.5~1850
・試料基板:インジウム
【0097】
上記条件で分析を行い、第4族の金属イオンと多価酸イオンとを含む二次イオン(例えばリン酸チタンの場合はTiPO3(m/z 127)、TiP2O5(m/z 207)等)に由来するピークが検出される場合、トナー表面に多価酸と第4族元素を含む化合物との反応物が存在するものとする。
【0098】
<シリカを含有する微粒子の一次粒子の個数平均粒径の測定方法>
シリカを含有する微粒子の一次粒子の個数平均粒径の測定は、走査型電子顕微鏡「S-4800」(商品名;日立製作所製)を用いて行う。シリカを含有する微粒子が添加されたトナーを観察して、最大5万倍に拡大した視野において、ランダムに100個のシリカを含有する微粒子の一次粒子の長径を測定して個数平均粒径を求める。観察倍率は、シリカを含有する微粒子の大きさによって適宜調整する。
【0099】
<有機ケイ素重合体の凸部及び該凸部表面の多価酸と第4族元素を含む化合物との反応物の確認>
透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて、トナーの断面を以下の方法により観察する。まず、常温硬化性のエポキシ樹脂中にトナーを充分分散させた後、40℃の雰囲気下で2日間硬化させる。得られた硬化物からダイヤモンド刃を備えたミクロトーム(EM UC7:Leica社製)を用い、厚さ50nmの薄片状のサンプルを切り出す。
【0100】
このサンプルを、TEM(JEM2800型:日本電子社製)を用いて加速電圧200V、電子線プローブサイズ1mmの条件で50万倍の倍率に拡大し、トナーの断面を観察する。この際、後述するトナーの個数平均粒径(D1)の測定法に従い、同トナーを測定した際の個数平均粒径(D1)の0.9倍~1.1倍の最大径を有するトナーの断面を選択する。
【0101】
続いて、得られたトナーの断面の構成元素を、エネルギー分散型X線分光法(EDX)を利用して解析し、EDXマッピング像(256×256ピクセル(2.2nm/ピクセル)、積算回数200回)を作製する。作製したEDXマッピング像において、トナー母粒子の表面にケイ素元素に由来するシグナルが観察され、後述の有機ケイ素重合体の確認方法によって上記シグナルが有機ケイ素重合体に由来すると確認される場合、上記シグナルを有機ケイ素重合体の像とする。また、トナー母粒子の表面に連続的に有機ケイ素重合体の像が観察される場合、有機ケイ素重合体の像の端点同士を結んだ線分を基線とする。なお、ケイ素に由来するシグナルの強度がバックグラウンドのケイ素強度と同等になった部分を有機ケイ素重合体の像の端点とする。
【0102】
各基線について、基線から有機ケイ素重合体の像表面までの垂線のうち最大長を取る垂線を探し、その最大長を像高さHとする。凸部とは、好ましくは上記像高さHが30nm以上300nm以下の有機ケイ素重合体を含む像である。凸部の基線を凸基線として、凸基線の長さを計測し、凸幅Wとする。凸幅Wの算術平均値は、好ましくは20nm以上500nm以下である。
【0103】
また、EDXマッピング像において、凸部は、好ましくは半円状で存在している。半円状とは、曲面を有する半円状に近い形状のものであればよく、略半円状も含まれる。半円状には、例えば、半真円状や、半楕円状も含まれる。半円状は、円の中心を通る直線で切
断されたもの、すなわち円を半分にした形状のものを含む。また半円状は、円の中心を通らない直線で切断されたもの、すなわち円の半分よりも大きい形状のものも、円の半分よりも小さい形状のものも含む。
【0104】
上記TOF-SIMSによりトナー表面に多価酸と第4族元素を含む化合物との反応物の存在を確認し、さらに、上記凸部について、その表面に多価酸と第4族元素を含む化合物との反応物の金属に由来するシグナルが観察される場合、凸部の表面に多価酸と第4族元素を含む化合物との反応物を有すると判断する。
【0105】
<有機ケイ素重合体の確認方法>
トナー粒子表面の有機ケイ素重合体は、Si、及びOの元素含有量(atomic%)の比(Si/O比)を標品と比較することで確認する。有機ケイ素重合体、及びシリカ微粒子それぞれの標品に対して、上記<有機ケイ素重合体の凸部及び該凸部表面の多価酸と第4族元素を含む化合物との反応物の確認>に記載の条件でEDX分析を行い、Si、Oそれぞれの元素含有量(atomic%)を得る。
【0106】
有機ケイ素重合体のSi/O比をAとし、シリカ微粒子のSi/O比をBとする。AがBに対して、有意に大きくなる測定条件を選択する。具体的には、標品に対して、同条件で10回の測定を行い、A及びB、それぞれの相加平均値を得る。得られた平均値がA/B>1.1となる測定条件を選択する。<有機ケイ素重合体の凸部及び該凸部表面の多価酸と第4族元素を含む化合物との反応物の確認>において観察されるトナー断面に観察されるケイ素が検出される部分のSi/O比が[(A+B)/2]よりもA側にある場合に当該部分を有機ケイ素重合体と判断する。有機ケイ素重合体粒子の標品として、トスパール120A(モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン合同会社)を、シリカ微粒子の標品として、HDK V15(旭化成)を用いる。
【0107】
[トナーの製造例]
以下、「部」及び「%」は特に断りがない場合、全て質量基準である。
【0108】
<多価酸金属塩微粒子の製造例>
・イオン交換水 100.0部
・リン酸ナトリウム(12水和物) 8.5部
以上を混合したのち、室温で、T.K.ホモミクサー(特殊機化工業株式会社製)を用いて、10,000rpmにて撹拌しながら、ジルコニウムラクテートアンモニウム塩(ZC-300、マツモトファインケミカル株式会社)60.0部(ジルコニウムラクテートアンモニウム塩として7.2部相当)を添加した。1.0mol/Lの塩酸を加えpHを7.0に調整した。温度を70℃に調整し、撹拌を維持しながら1時間反応を行った。
その後、遠心分離で固形分を取り出した。続いて、イオン交換水に再度分散、遠心分離で固形分を取り出すという工程を3回繰り返し、ナトリウムなどのイオンを除去した。再度、イオン交換水に分散させ、スプレードライで乾燥し、個数平均粒径が22nmのリン酸ジルコニウム化合物微粒子を得た。
【0109】
<トナー母粒子分散液の製造例>
イオン交換水390.0部を入れた反応容器に、リン酸ナトリウム(12水和物)11.2部を投入し、窒素パージしながら65℃で1.0時間保温した。T.K.ホモミクサー(特殊機化工業株式会社製)を用いて、12,000rpmにて撹拌した。撹拌を維持しながら、イオン交換水10.0部に7.4部の塩化カルシウム(2水和物)を溶解した塩化カルシウム水溶液を反応容器に一括投入し、分散安定剤を含む水系媒体を調製した。さらに、反応容器内の水系媒体に1.0mol/Lの塩酸を投入し、pHを6.0に調整し、水系媒体を調製した。
【0110】
(重合性単量体組成物の調製)
・スチレン:60.0部
・カーボンブラック(Nipex35:オリオンエンジニアドカーボンズ社製):6.3部
上記材料をアトライタ(日本コークス工業株式会社製)に投入し、さらに直径1.7mmのジルコニア粒子を用いて、220rpmで5.0時間分散させて、顔料が分散された着色剤分散液を調製した。
【0111】
次いで、着色剤分散液に下記材料を加えた。
・スチレン 10.0部
・アクリル酸n-ブチル 30.0部
・ポリエステル樹脂 5.0部
(テレフタル酸と、ビスフェノールAのプロピレンオキサイド2モル付加物との縮重合物、重量平均分子量Mw=10,000、酸価:8.2mgKOH/g)
・HNP9(融点:76℃、日本精蝋社製) 6.0部
上記材料を65℃に保温し、T.K.ホモミクサーを用いて、500rpmにて均一に溶解、分散し、重合性単量体組成物を調製した。
【0112】
(造粒工程)
水系媒体の温度を70℃、撹拌装置の回転数を12,000rpmに保ちながら、水系媒体中に重合性単量体組成物を投入し、重合開始剤であるt-ブチルパーオキシピバレート8.0部を添加した。そのまま撹拌装置にて12,000rpmを維持しつつ10分間造粒した。
【0113】
(重合工程)
高速撹拌装置からプロペラ撹拌羽根を備えた撹拌機に変更し、200rpmで撹拌しながら70℃を保持して5.0時間重合を行い、さらに85℃に昇温して2.0時間加熱することで重合反応を行った。さらに、98℃に昇温して3.0時間加熱することで残留モノマーを除去し、イオン交換水を加えて分散液中のトナー母粒子濃度が30.0質量%になるように調整し、トナー母粒子が分散したトナー母粒子分散液を得た。トナー母粒子の個数平均粒径(D1)は6.2μm、重量平均粒径(D4)は6.9μmであった。
【0114】
<有機ケイ素化合物液の製造例>
・イオン交換水 70.0部
・メチルトリエトキシシラン 30.0部
上記材料を200mLのビーカーに秤量し、10%塩酸でpHを3.5に調整した。その後、ウォーターバスで60℃に加熱しながら1.0時間撹拌し、有機ケイ素化合物液を作製した。
【0115】
<トナー1>実施例1
(多価酸金属塩付着工程)
反応容器内に下記サンプルを秤量し、プロペラ撹拌翼を用いて混合した。
・トナー母粒子分散液 500.0部
・チタンラクテート44%水溶液(TC-310:マツモトファインケミカル社製)
3.2部(チタンラクテートとして1.4部相当)・有機ケイ素化合物液 10.0部
【0116】
次に、1.0mol/LのNaOH水溶液を用いて、得られた混合液のpHを9.5に調整し、5.0時間保持した。温度を25℃に下げたのち、1.0mol/Lの塩酸でp
Hを1.5に調整して1.0時間撹拌後、イオン交換水で洗浄しながら、ろ過した。得られた粉体を恒温槽で乾燥した後、風力式分級機で分級することにより、トナー粒子1を得た。トナー粒子1の個数平均粒径(D1)は6.2μm、重量平均粒径(D4)は6.9μmであった。トナー粒子1をTOF-SIMS分析することでリン酸チタン由来のイオンが検出された。なお、前記リン酸チタン化合物は、チタンラクテートと、水系媒体中のリン酸ナトリウム、またはリン酸カルシウム由来のリン酸イオンとの反応物である。トナー粒子1を本例のトナー1として用いた。
【0117】
<トナー2>実施例2
トナー1の製造例において、チタンラクテート44%水溶液(TC-310:マツモトファインケミカル社製)3.2部を、4.3部(チタンラクテートとして1.9部相当)を添加した以外はトナー1の製造例と同様にしてトナー粒子2を得た。トナー粒子2の個数平均粒径(D1)は6.2μm、重量平均粒径(D4)は6.9μmであった。トナー粒子2をTOF-SIMS分析することでリン酸チタン由来のイオンが検出された。トナー粒子2を本例のトナー2として用いた。
【0118】
<トナー3>実施例3
トナー1の製造例において、チタンラクテート44%水溶液(TC-310:マツモトファインケミカル社製)3.2部を、2.1部(チタンラクテートとして0.9部相当)を添加した以外はトナー1の製造例と同様にしてトナー粒子3を得た。トナー粒子2の個数平均粒径(D1)は6.2μm、重量平均粒径(D4)は6.9μmであった。トナー粒子3をTOF-SIMS分析することでリン酸チタン由来のイオンが検出された。トナー粒子3を本例のトナー3として用いた。
【0119】
<トナー4>実施例4
トナー1の製造例において、チタンラクテート44%水溶液(TC-310:マツモトファインケミカル社製)3.2部を、ジルコニウムラクテートアンモニウム塩(ZC-300、マツモトファインケミカル株式会社)11.7部(ジルコニウムラクテートアンモニウム塩として1.4部相当)を添加した以外はトナー1の製造例と同様にしてトナー粒子3を得た。トナー粒子2の個数平均粒径(D1)は6.2μm、重量平均粒径(D4)は6.9μmであった。トナー粒子4をTOF-SIMS分析することでリン酸ジルコニウム由来のイオンが検出された。なお、前記リン酸ジルコニウム化合物は、ジルコニウムラクテートアンモニウム塩と、水系媒体中のリン酸ナトリウム、またはリン酸カルシウム由来のリン酸イオンとの反応物である。トナー粒子4を本例のトナー4として用いた。
【0120】
<トナー5>実施例5
反応容器内に下記サンプルを秤量し、プロペラ撹拌翼を用いて混合した。
・トナー母粒子分散液 500.0部
【0121】
次に、温度を25℃に保持しながら、1.0mol/Lの塩酸でpHを1.5に調整して1.0時間撹拌後、イオン交換水で洗浄しながら、ろ過した。得られた粉体を恒温槽で乾燥した後、風力式分級機で分級することにより、トナー粒子5を得た。
・トナー粒子5 100.0部
・疎水性シリカ微粒子(ヘキサメチルジシラザン処理:個数平均粒径12nm)
1.0部
・リン酸ジルコニウム化合物微粒子 1.5部
【0122】
上記材料をSUPERMIXER PICCOLO SMP-2(株式会社カワタ製)に投入して、3,000rpmで20分間混合を行った。その後、目開き150μmのメッシュで篩い、トナー5を得た。トナー5の個数平均粒径(D1)は6.2μm、重量平
均粒径(D4)は6.9μmであった。トナー5をTOF-SIMS分析したところ、リン酸ジルコニウム由来のイオンが検出された。
【0123】
<トナー6>(比較例 従来トナー例)
トナー6の製造例において、リン酸ジルコニウム化合物微粒子に替えて、個数平均粒径が28nmの酸化チタン微粒子を1.5部、SUPERMIXER PICCOLO SMP-2(株式会社カワタ製)に投入して、3,000rpmで20分間混合を行った。その後、目開き150μmのメッシュで篩い、トナー6を得た。トナー6をTOF-SIMS分析したところ、多価酸金属塩由来のイオンは検出されなかった。
【0124】
得られたトナー1~6の物性を表1に示す。
<表1>
【0125】
[本発明で使用されるトナーの定着前後の体積抵抗率確認]
まず、本発明のトナーの特性を確認するために、トナー1とトナー6とを上記画像形成装置を用いて、記録材としてのXerox社製Vitality Multipurpose Paper、Letterサイズ、坪量75g/m2上にそれぞれトナー乗り量0.4mg/cm2のベタ黒画像を形成し、未定着のままのサンプルと、定着後のサンプルを作成した。
【0126】
定着条件としては、画像形成装置の一例として、プロセス速度が約200mm/secで、LTR縦サイズの記録材を毎分40枚の生産性でプリントする画像形成装置を用いた。この場合の紙間距離は約20mmである。径が約Φ18の定着フィルムを用い、径が約Φ22の加圧ローラを用い、約22Kgfの加圧力で定着ニップ幅約7~8mmを得ている。
【0127】
定着温度を振り、定着ニップ部でトナー溶融状態の異なるサンプルを作成した。そして、上記のサンプルを(株)ダイアインスツルメンツ製高抵抗計ハイレスタUP MCP-HT450型および同社製測定プローブURSを用い、23℃、50%RHの環境下でプローブ押圧力10.8N(1.1kgf)、印加電圧100V、印加時間10秒の条件で体積抵抗率(Ω・cm)を測定した。未定着画像の体積抵抗率をTv、定着後の画像の体積抵抗率をFvとする。なお、定着直後のサンプルは抵抗変動が大きいため同環境下に十分に放置(約72h)した後に抵抗測定を行った。測定結果は表2の通りである。
【0128】
【0129】
ここで、定着温度とは、定着フィルムの表面温度である。
【0130】
表2の測定結果のグラフを
図5に示す。定着温度155℃のサンプルでは、トナー溶融が十分では無く、定着性が不十分でいわゆるコールドオフセットが発生している状態のサンプルであった(トナー1、トナー6のサンプルともに)。定着温度165℃のサンプルでは、トナー1、トナー6ともにコールドオフセットの発生は見られなかった。定着温度175℃のサンプルは、定着温度165℃からさらに温度を10℃アップし、トナーを十分溶融させ、定着性も十分な状態にしたサンプルである。
【0131】
定着温度155℃のコールドオフセットが発生している状態のサンプルで体積抵抗率を測定すると、トナー1、トナー6とも未定着時の体積抵抗率値から多少低下しているものの、トナー1、トナー6の体積抵抗率に大きな差は見られなかった。定着温度165℃のサンプルでは、従来トナーのトナー6では、コールドオフセットが発生しなくなる程度にトナー溶融が進んだことで、定着温度155℃時の体積抵抗率値より多少体積抵抗率は低下しているもの、その低下度合いは小さいものであった。
【0132】
一方、本発明に関わるトナー1では、コールドオフセットが発生しなくなる程度にトナー溶融が進んだことにより、定着温度155℃時の体積抵抗率値より体積抵抗率の大きな低下が見られた。これは、トナー溶融が十分進んだことで、トナー1のトナー粒子表面の多価酸と第4族元素を含む化合物との反応物が、溶融したトナー粒子と混ざり合い、トナー粒子内部に電荷を移動させやすい特性が発現した結果、体積抵抗率の大きな低下が発現したと考える。
【0133】
さらに定着温度をアップした定着温度175℃のサンプルでは、トナー1、トナー6ともトナーは十分溶融しており定着温度165℃時からトナー溶融状態に大きな変化は無いため、トナー1、トナー6ともに定着温度165℃時から体積抵抗率の変化は小さいものであった。
【0134】
表3と
図6にトナー1、トナー6および記録材の各定着温度での定着前後の体積抵抗率比Tv/Fvの値およびグラフを示す。定着前後の体積抵抗率比Tv/Fvは、電気抵抗特性で説明した手順で測定した各トナーの未定着画像の体積抵抗率Tvと定着後画像の体積抵抗率Fvとの比である。
【0135】
【0136】
トナーの溶融が十分で無いコールドオフセットが発生している状態(定着温度約155℃)時は、トナー1、トナー6とも定着前後の体積抵抗率比Tv/Fvの値は小さい。
【0137】
これに対し、トナー溶融が十分な状態の定着温度165、175℃時には、従来のトナー6の定着前後の体積抵抗率比Tv/Fvの値の変化は155℃時に比べ小さいものの、本発明に関わるトナー1の定着前後の体積抵抗率比Tv/Fvの値は、155℃時に比べ大きく変化している。
【0138】
他のトナー2~トナー5についても同様の測定を行った結果を表4に示す。ここでの定着前後の体積抵抗率比Tv/Fvの値は、トナーが十分溶融した定着温度約175℃時の値を使用した。
【0139】
<表4>各トナーにおける、定着前後の体積抵抗率比Tv/Fv
【0140】
(定着装置)
次に、本発明の本実施形態に係る定着装置の一例について説明する。本実施形態では、フィルム加熱方式の定着装置を用いている。
【0141】
図3に、定着装置の概略図を示す。定着装置は、定着フィルム方式の定着器15、排出ゴムローラ125、排出ころ126、制御部130(不図示)及び可変バイアス印加部116等を備えている。定着器15は、トナー画像が形成された記録材Pを加熱する加熱手段としてのフィルムユニット15aと、このフィルムユニット15aとで記録材Pを挟持し回転して搬送しながらトナー画像を記録材Pに定着する加圧手段としての加圧ローラ15b等を備える。定着器15は、フィルムユニット15aが備える定着フィルム113と、定着フィルム113の外面に圧接する加圧部材としての加圧ローラ15bとによって定着ニップ部を形成する。この定着ニップ部に、未定着のトナー画像(現像剤像)を有する記録材Pを通過させて、トナー画像を記録材P上に定着するようになっている。
【0142】
図4に定着フィルム113の構成の一例およびバイアス給電構成の一例を示す。
図3に示す定着フィルム113は、
図4に示すように、熱容量の小さなエンドレス状(筒状)で耐熱性と可撓性とを備えたフィルム部材であり、クイックスタート性に最適な総厚約20μm乃至約100μmの厚みを有している。
【0143】
また、定着フィルム113は、
図4に示すように基層113a、導電性プライマ層113b、離型層113cが内側から順に積層する複層構造に形成されている。基層113aは、ポリイミド、ポリアミドイミド、PEEK等の耐熱性樹脂、あるいは、耐熱性、高熱伝導性を有するSUS、AL、NI、TI、ZN等の金属部材を単独ないし複合して形成されたものである。
【0144】
樹脂製の基層113aは、熱伝導性を向上するために、BN、アルミナ、AL、CF(carbon fiber filler)等の高熱伝導性粉末を混入してあっても良い
。また、定着フィルム113の長寿命化を図るため、基層113aは、充分な強度、耐久性が要求され、総厚20μm以上の厚みであることが好ましい。
【0145】
定着フィルム113の基層113aの外側には、導電性プライマ層113bが形成されている。導電性プライマ層113bは、カーボンブラック等の導電性付与部材が分散されており、比抵抗が1×105Ω・cm以下で、厚みが約2μm乃至約10μmに設定されている。なお、本実施の形態では、導電性プライマ層113bが導電性部材により形成されているが、基層113aと導電性プライマ層113bとの内、少なくとも導電性プライマ層113bが導電性部材により形成されていることが好ましい。
【0146】
導電性プライマ層113bの外側には、表層として離型層113cが形成されている。離型層113cは、シート上の未定着トナー画像に直接接触する層であり、トナーのオフセットの防止、シートとの分離性の向上を図るために、離型性に優れた材料が用いられている。離型層113cとしては、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)、PFA(テトラフルオロエチレンパーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体)、FEP(テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体)等が使用可能である。
【0147】
また、それ以外にもETFE(エチレンテトラフルオロエチレン共重合体)、CTFE(ポリクロロトリフルオロエチレン)、PVDF(ポリビニリデンフルオライド)等のフッ素樹脂を、混合ないし単独で使用してもよい。さらには、シリコーン樹脂等の離型性の良好な耐熱樹脂を混合ないし単独で使用してもよい。また、離型層113cには、カーボンブラック、イオン導電性物質等の導電性部材が混入されており、比抵抗が約1×107Ω・cm乃至約1×1012Ω・cmで厚さが約5μm乃至約20μmであることが好ましい。また、離型層113cの被覆の方法としては、例えば、基層113aの外面に、接着剤としての機能をも有する導電性プライマ層113bを塗布し、離型層113cを被覆する等の方法が挙げられる。
【0148】
本実施形態の画像形成装置はモノプロプリンタであるため、定着装置の定着部材である定着フィルムには弾性層は特に設けていない。
【0149】
図4に示すように、定着フィルム113の内部(内側)には、加熱用ヒータ111やフィルムガイド112などを含むヒータユニット115が設けられている。定着フィルム113とヒータユニット115が、定着フィルムユニット15aを構成する。本実施形態のヒータユニット115では、加熱用ヒータ111が、定着フィルム113が定着ニップを形成する部分において、基層113aと直接摺擦するように設けられている。すなわちこの構成によれば、定着ニップ部を通過する記録材P上の未定着トナー画像に定着フィルム113の内側から効率よく熱を伝えることができ、記録材P上の未定着トナー画像を熱溶解、定着させることができる。なお、ヒータユニット115の構成としては、例えば、定着フィルム113との間に伝熱部材等を介在させることで、加熱用ヒータ111が定着フィルム113の内面と直接接触しない構成としてもよい。
【0150】
加熱用ヒータ111は、アルミナ、ALN等のセラミック材料より形成される高熱伝導性基板の長手方向(シート搬送方向Aに対して交差する方向)に沿って通電発熱抵抗層が形成されたものであり、不図示の通電部によって発熱可能に構成されている。具体的に、AG/PD(銀パラジウム)、NI/CR、RUO2、TA2N、TASIO2等の導電剤と、ガラス、ポリイミド等のマトリックス成分からなる通電発熱抵抗層を、スクリーン印刷、蒸着、スパッタリング、メッキ、金属箔等によって形成されている。なお、通電発熱抵抗層は厚み約10μm、幅約1mm乃至約5mmの線状もしくは細帯状で弓状に塗工して形成されている。
【0151】
そして、加熱用ヒータ111による加熱温度は、サーミスタ等の温度検知部114によって検知され、加熱温度が所定温度になるように制御される。また、通電発熱抵抗層の上には、耐熱性のガラス、ポリイミド、ポリアミドイミド、PEEK等の絶縁性保護層が形成されている。また、加熱用ヒータ111における定着フィルム113との摺擦部分には、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)、PFA(テトラフルオロエチレンパーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体)等が単独もしくは混合で被覆されていてもよい。または、FEP(テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体)、ETFE(エチレン-テトラフルオロエチレン共重合体)を被覆してもよい。さらには、CTFE(ポリクロロトリフルオロエチレン)、PVDF(ポリビニリデンフルオライド)等のフッ素樹脂層やポリイミド、ポリアミドイミド等の樹脂を被覆してもよい。もしくは、グラファイト、二硫化モリブデン等からなる乾性被膜潤滑剤、ガラス、DLC(ダイアモンドライクカーボン)等を薄く塗布あるいは蒸着することによって形成された摺動層を設けてもよい。
【0152】
これにより、定着フィルム113と加熱用ヒータ111が低摩擦係数で滑らかに摺動することが可能になる。また、高熱伝導性の基板製の加熱用ヒータ111は、定着フィルム113と摺動する面の表面粗さを所定以下に抑え、潤滑性グリース等により摺動性を確保し、熱抵抗を小さく抑えることで熱効率を向上させる構成であっても良い。
【0153】
このように構成される加熱用ヒータ111は、フィルムガイド112によって保持される。フィルムガイド112は、加熱用ヒータ111からの発熱が、定着ニップ部とは反対方向へ放熱することを防ぐ機能を有している。フィルムガイド112は、液晶ポリマー(LCP)、フェノール樹脂、PPS、PEEK等の耐熱性樹脂により形成されており、定着フィルム113が余裕をもってルーズに外嵌されていて、定着フィルム113を
図2中矢印のC方向に回転自在に案内するように位置している。
【0154】
また、加圧ローラ15bは、SUS、SUM、AL等の金属製の芯金121の外側に、好ましくは導電性部材を分散させたシリコンゴムやフッ素ゴム等の耐熱ゴムあるいはシリコンゴムを発泡して形成された弾性層122が設けられている。さらに、弾性層122の外側にPFA、PTFE、FEP等の離型層123を形成してある。加圧ローラ15bは、定着フィルム113の側に不図示の加圧バネ等の加圧手段により、長手方向両端部から加熱定着に必要な定着ニップを形成すべく十分に加圧され、圧接している。また、加圧ローラ15bの金属製の芯金121の長手方向端部には、不図示の駆動手段の回転力が加わるようになっている。この結果、定着フィルム113は、フィルムガイド112の外周面に余裕をもってルーズに外嵌されて、回転する加圧ローラ15bの外周面との摩擦力により従動回転するようになっている。
【0155】
また、本実施形態には、画像形成時に、定着フィルム113の導電性プライマ層113bに定着バイアスを印加するための印加手段としての可変バイアス印加部116が設けられている。
【0156】
可変バイアス印加部116は、本実施形態の負極性であるトナーTと同極の負極性の直流バイアスを導電性プライマ層113bに印加する負極バイアス印加部116bと、トナーTと逆極性の正極の直流バイアスを印加する正極バイアス印加部116aとを備えている。さらに、可変バイアス印加部116は、バイアス切替手段SW1等も備えている。バイアス切替手段SW1は、導電性プライマ層113bに加える直流バイアス(直流電圧)を切り換えるとき、後述の制御部130によって、正極バイアス印加部116aと負極バイアス印加部116bとに選択的に切り換えて印加可能になっている。なお、可変バイアス印加部116のバイアス印加の切り換えタイミングについては後述する。
【0157】
また、
図4に示すように、可変バイアス印加部116の出力端と導電性プライマ層113bは、給電部材としての導電ブラシ117によって電気的に接続されている。導電ブラシ117は、
図4の(B)図に示すように、導電性プライマ層113bの離型層113cに被覆されていない部分113baに接触している。なお、
図4の定着フィルム113は、構成を理解し易くするため、厚みを厚く図示してあるが、実際は、約20μm乃至約100μmである。また、導電ブラシ117の代わりに、導電ゴムリング、導電布、導電接触片等を使用してもよい。
【0158】
図3において、定着ニップよりも記録材Pの搬送方向Aの下流側には、導電性の排出ゴムローラ(導電性部材)125と排出ころ126とが対になって配置されている。これらは、定着ニップ部から排出されたシートPを挟持搬送するローラ対である。導電性の排出ゴムローラ125は、アルミ等の金属製の芯金125aと、芯金125aの外周に形成されたシリコンゴム等の耐熱ゴムにカーボンブラック等の導電性付与部材が分散されたゴム層125bとで形成されている。排出ゴムローラ125は、比抵抗が1×10
6Ω以下の導電性を備えている。
【0159】
また、排出ゴムローラ125は、定着ニップを記録材Pが通過しているとき、記録材Pの先端が接触する位置に配置されている。排出ゴムローラ125はアースEされている。このため、記録材Pが定着ニップを通過しながら排出ゴムローラ125に接触すると、可変バイアス印加部116に接続される導電性プライマ層113bと、記録材Pと、排出ゴムローラ125とによって、アースされた電流経路が形成される。これによって、定着フィルム113の導電性プライマ層113bとアースEとの間には、電位差が生じるようになっている。
【0160】
なお、排出ゴムローラ125の代わりに、定着装置15の記録材Pの搬送方向下流側にアースされた導電性ブラシ、導電性ガイド等を配置して記録材Pに接触させてもよい。この場合においても、アースされた電流回路が形成されるので、定着フィルム113の導電性プライマ層113bとアースEとの間には、電位差を生じる。したがって、導電性プライマ層113bとアースEとの間に、電位差を生じるようにするために、排出ゴムローラ125をアースさせなければならないものではない。
【0161】
加圧ローラ15bの金属製の芯金121は、抵抗素子124を介してアースEされている。このため、加圧ローラ15bのチャージアップを防止し、加圧ローラ15bの表面の電位を安定させることができるので、加圧ローラ15b、フィルムユニット110、排出ゴムローラ125、排出ころ126等の間での電位差のばらつき等が起こりにくくなる。
【0162】
また、定着ニップと排出ゴムローラ125との間には、記録材Pが定着ニップから排出されたことを検知する排出センサ127が設けられている。また、
図1に示す画像形成装置100には、搬送される記録材Pの先端を検知するトップセンサ108(不図示)が設けられている。
【0163】
可変バイアス印加部116は、トップセンサ108、排出センサ127からの信号に基づく制御手段としての制御部130(不図示)の制御動作によって、定着フィルム113の導電性プライマ層113bへのバイアスの印加ON/OFFおよび印加電極の切り換えを行うようになっている。
【0164】
(定着バイアス制御)
表5に従来トナーおよび従来例の画像形成装置での定着バイアス制御での定着部材への填料/紙粉の付着確認結果を示す。
【0165】
まず、負極性トナーを用いた場合、記録材として、填料に炭酸カルシウムを用いた用紙、いわゆる炭カル紙、および、填料にタルクを用いた用紙、いわゆるタルク紙を通紙した結果を表5の1、2に示す。1、2の場合、未定着トナーの極性は負のため、従来例の画像形成装置では、定着ニップに記録材が通紙中は、トナーと接する定着部材に定着バイアスとして同極性の負バイアスを印加する。定着ニップに記録材が通紙していない紙間時などは、定着バイアスとして未定着トナーと逆極性の正バイアスを印加する。
【0166】
通紙する記録材が炭カル紙の場合(表5の1)、記録材が定着ニップ通過時は、トナー画像はオフセットしないものの、トナーと逆極性に帯電している填料/紙粉は定着部材に付着する。また、記録材が定着ニップを通過していない紙間等では、トナーと逆極性に帯電している填料/紙粉は定着部材に付着しない。
【0167】
記録材がタルク紙の場合(表5の2)、記録材が定着ニップを通過時は、填料/紙粉は負極性に帯電しているため、定着部材に付着せず、また、トナーも定着部材へ付着しない。記録材が定着ニップを通過していない紙間等では、正バイアスが印加されるため、負極性に帯電した填料/紙粉が定着部材に付着してしまう。
【0168】
<表5>従来トナーおよび従来例の画像形成装置での定着バイアス制御での定着部材への填料/紙粉の付着確認
【0169】
これに対し、本実施例でのトナーおよび画像形成装置での定着バイアス制御の一例を行った場合の定着部材への填料/紙粉等の付着の確認結果を表6に示す。
【0170】
表6の1から12に、負極性のトナーを用いた場合を示す。記録材として炭カル紙を用い、負極性トナーを用いる表6の1から6について説明する。本実施形態の画像形成装置の定着バイアス制御においては、正極性に帯電する填料/紙粉を通紙される場合、記録材が定着ニップを通過中および通過していない紙間等において、填料/紙粉と同極性である正バイアスを印加している。この場合、正極性に帯電している填料/紙粉は記録材が定着ニップ通過中も通過していない紙間等も定着部材には付着しない。
【0171】
また、記録材が定着ニップを通過するとき、従来トナーであるトナー6は、定着ニップにて体積抵抗率の低下が低いため、トナーの負極性の電荷減衰が小さく、正極性の定着バイアスにより、定着部材への付着が発生し、オフセット画像不良となった。
【0172】
しかし、本発明の実施例でのトナー1からトナー5を用いた場合、定着時にトナーの体積抵抗率が大きく低下することでトナーの電荷も大きく減衰するため、未定着トナー画像と逆極性のバイアスが印加されていても定着部材へは付着しない。
【0173】
記録材としてタルク紙を用い、負極性トナーを用いた表6の7から12を次に説明する。タルク紙の填料/紙粉は負極性に帯電するため、本実施形態の画像形成装置の定着バイアス制御では、記録材が定着ニップ通紙中および通紙しない紙間等において、定着バイア
スとして填料/紙粉と同極性の負バイアスを印加する。このため、負極性に帯電した填料/紙粉は、定着部材へは付着しない。
【0174】
従来トナーのトナー6では、定着時のトナーの体積抵抗率の低下が小さく、トナーの負極性の電荷減衰も小さいものの、定着バイアスが負バイアスが印加されるため、定着部材への付着は見られなかった。
【0175】
本実施例のトナー1からトナー5では、定着ニップ部での溶融により、トナーの体積抵抗率の低下が大きく、負極性のトナーの電荷減衰も大きい点と、定着バイアスが負バイアスのため、定着部材への付着は見られなかった。
【0176】
<表6>本実施形態の画像形成装置での定着バイアス制御での定着部材への填料/紙粉の付着確認
【0177】
本実施形態においては、記録材が定着ニップを通紙中と紙間とで定着バイアスの極性は切り替えていない。このため、従来の画像形成装置のように紙間で定着バイアスは切り替
えていない。したがって、紙間での定着バイアス切替時間は問題にならないため、紙間距離が約10mmと短い画像形成装置に対しても適用可能である。さらに、記録材が定着ニップを通過中と紙間とで定着バイアスを切り替えていないため、従来の画像形成装置に比べ定着バイアス極性の切替回数を少なくすることができ、定着部材表層の摩耗を低減させ寿命を延命させることができる。
【0178】
以上の説明では、トナーの帯電極性として負極性のトナーを用いる場合について説明したものの、トナーの帯電制御剤を変更し、正極性の帯電特性をもつトナーを用いても良い。画像形成装置としてモノクロプリンタでは無く、カラープリンタを用いても良い。
【0179】
定着バイアスを印加する部材として定着部材の場合を説明したが、帯電した填料/紙粉が記録材側に押しつけられる電界が発生するように加圧部材側に定着バイアスを印加しても良い。定着装置としてフィルム加熱方式の定着装置について説明したが、他の定着方式(ローラ定着方式、ベルト定着方式など)の定着装置を用いても良い。定着装置の加熱部材としてセラミックヒータについて説明したが、他の加熱方式(ハロゲンヒータ、電磁誘導加熱など)を用いても良い。
【符号の説明】
【0180】
15…定着装置、15a…定着フィルムユニット、15b…加圧ローラ、113…定着フィルム、116…可変バイアス印加部