(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-07
(45)【発行日】2024-05-15
(54)【発明の名称】ステータ-コイルアセンブリ及びこれを備えた電動モータ
(51)【国際特許分類】
H02K 3/28 20060101AFI20240508BHJP
H02K 3/46 20060101ALI20240508BHJP
【FI】
H02K3/28 J
H02K3/46 B
(21)【出願番号】P 2020162105
(22)【出願日】2020-09-28
【審査請求日】2023-03-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107423
【氏名又は名称】城村 邦彦
(74)【代理人】
【識別番号】100120949
【氏名又は名称】熊野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100155457
【氏名又は名称】野口 祐輔
(72)【発明者】
【氏名】北山 直嗣
(72)【発明者】
【氏名】平野 慎介
【審査官】中島 亮
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-101031(JP,A)
【文献】特開2011-030406(JP,A)
【文献】特表平04-501199(JP,A)
【文献】特開2006-050690(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 3/00- 3/52
H02K 1/00
H02K 21/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
周方向に離間して設けられた複数のティースを有するステータコアと、各ティースに巻き付けられたコイルとを有する電動モータのステータ-コイルアセンブリであって、
互いに隣接する同位相のコイルが、連続した一本のコイル線で形成され
、
前記ステータコアと前記コイルとの間に配されたインシュレータを有し、
前記インシュレータに係止部を設け、
前記コイル線のうち、互いに隣接する同位相のコイル同士を接続する渡り線を、張力が加わった状態で、前記インシュレータの係止部に外径側から係合させたステータ-コイルアセンブリ。
【請求項2】
前記インシュレータが、前記ステータコアの各ティースを被覆する複数のティース被覆部と、前記複数のティース被覆部の軸方向一方の端部に設けられた環状部と、前記環状部から軸方向一方に突出した前記係止部とを有し、
前記係止部が、軸方向一方の端部から外径側に延びるフランジ部を有する請求項1に記載のステータ-コイルアセンブリ。
【請求項3】
互いに隣接する同位相のコイルからなる複数のコイル組を形成し、各コイル組のコイル線の両端にバスバーとの接点が設けられた請求項1又は2に記載のステータ-コイルアセンブリ。
【請求項4】
互いに隣接する同位相のコイルからなる複数のコイル組を形成し、同位相のコイル組が、位相の異なるコイル組を挟んで周方向に離間して設けられ、
周方向に離間した同位相のコイル組が連続した一本のコイル線で形成され、このコイル線の両端にバスバーとの接点が設けられた請求項1又は2に記載のステータ-コイルアセンブリ。
【請求項5】
周方向に離間した同位相のコイル組を接続する渡り線に、給電線との接点が設けられた請求項4に記載のステータ-コイルアセンブリ。
【請求項6】
請求項1~5の何れか1項に記載のステータ-コイルアセンブリと、前記ステータ-コイルアセンブリの内周に配されたロータと、前記ステータ-コイルアセンブリが接続されたバスバーとを備えた電動モータ。
【請求項7】
前記ロータの磁極数と、前記ステータ-コイルアセンブリのティース間の溝の数との比が2:3以外となる分数溝モータである請求項6に記載の電動モータ。
【請求項8】
前記ロータの磁極数と、前記ステータ-コイルアセンブリの前記ティース間の溝の数との比が10:12である請求項7に記載の電動モータ。
【請求項9】
各位相のコイルをスター結線で結線した請求項6~8の何れか1項に記載の電動モータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ステータ-コイルアセンブリ及びこれを備えた電動モータに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば下記の特許文献1に示されている電動モータでは、複数のコイルを一本の連続したコイル線(導体)で形成している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記の電動モータでは、一本のコイル線で形成された同位相のコイルの間に、位相の異なる他のコイルが配されるため、同位相のコイル同士を接続する渡り線が、他のコイルを跨いで設けられる。この場合、各相(U相、V相、W相)のコイル同士を接続する渡り線がステータコアの軸方向一方側に設けられるため、ステータコアの軸方向一方側に各相の渡り線を配置するためのスペースが必要となり、電動モータの軸方向寸法が嵩む。
【0005】
例えば、各コイルをそれぞれ別個のコイル線で形成し、各コイルの両端をバスバーに接続すれば、コイル同士を接続する渡り線が不要となるため、電動モータの軸方向寸法を縮小できる。しかし、このように各コイルの両端をバスバーに接続すると、コイルとバスバーとの接点の数が多くなるため、生産性が低下する。
【0006】
そこで、本発明は、コイルとバスバーとの接点を減じて電動モータの生産性を高めることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するために、本発明は、周方向に離間して設けられた複数のティースを有するステータコアと、各ティースに巻き付けられたコイルとを有する電動モータのステータ-コイルアセンブリであって、互いに隣接する同位相のコイルが、連続した一本のコイル線で形成されたステータ-コイルアセンブリを提供する。
【0008】
このように、本発明では、互いに隣接する同位相のコイルを、連続した一本のコイル線で形成した。これにより、各コイルの両端をバスバーに接続する場合(すなわち、コイルの数の2倍の接点を設ける場合)と比べて、コイルとバスバーとの接点の数を減じることができる。
【0009】
上記のステータ-コイルアセンブリでは、ステータコアに設けられた隣接するティースにコイル線を連続的に巻き付けることで、互いに隣接する同位相のコイルが形成される。具体的には、隣接するティースの一方にコイル線を巻き付けた後、コイル線の張力を維持しながら、隣接するティースの他方にコイル線を巻き付ける。このとき、隣接するコイルは、渡り線の張力により互いに接近する側に引っ張られた状態となる。ステータコアのティースは放射状に配されており、隣接するティースの間隔が内径側に行くほど小さくなっているため、隣接するコイルが互いに接近する側に引っ張られることで、コイルがティースに対して内径側にずれる恐れがある。
【0010】
そこで、ステータコアとコイルとの間に配されたインシュレータに係止部を設け、隣接する同位相のコイルを形成するコイル線のうち、コイル同士を接続する渡り線を、インシュレータの係止部に外径側から係合させることが好ましい。このように、コイル同士を接続する渡り線をインシュレータの係止部に外径側から係合させることで、渡り線を介して両コイルを外径側に引っ張ることができるため、各コイルが内径側にずれることを防止できる。
【0011】
上記の電動モータは、互いに隣接する同位相のコイルからなる複数のコイル組を形成することができる。この場合、各コイル組のコイル線の両端にバスバーとの接点を設ければ、全てのコイルの両端をバスバーに接続する場合と比べて、接点の数を1/2にすることができる。
【0012】
上記の電動モータは、互いに隣接する同位相のコイルからなる複数のコイル組を形成し、同位相のコイル組が、位相の異なるコイル組を挟んで周方向に離間して設けられた構成とすることができる。この場合、周方向に離間した同位相のコイル組を連続した一本のコイル線で形成し、このコイル線の両端にバスバーとの接点を設ければ、各コイル組のコイル線の両端をバスバーに接続する場合と比べて、コイル線とバスバーとの接点をさらに減じることができる。このとき、周方向に離間した同位相のコイル組を接続する渡り線に、給電線との接点を設ければ、両コイル組を並列に配置した回路を形成することができる。
【発明の効果】
【0013】
以上のように、本発明によれば、コイル線とバスバーとの接点が減じられるため、ステータ-コイルアセンブリの生産性、ひいては電動モータの生産性を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図2】本発明の一実施形態に係るステータ-コイルアセンブリの斜視図である。
【
図3】上記ステータ-コイルアセンブリを外径側から見た側面図である。
【
図4】上記ステータ-コイルアセンブリを軸方向から見た正面図である。
【
図6】上記ステータ-コイルアセンブリの各コイルの接続状態を示す回路図である。
【
図7】他の実施形態に係るステータ-コイルアセンブリの断面図である。
【
図8】
図7のステータ-コイルアセンブリの各コイルの接続状態を示す回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
【0016】
図1に示す電動モータ1は三相DCブラシレスモータであり、本発明の一実施形態に係るステータ-コイルアセンブリ2と、ロータ3と、回転軸4と、バスバー5と、ハウジング6とを主に備える。ステータ-コイルアセンブリ2はハウジング6の内周面に固定される。回転軸4は、軸受7を介してハウジング6に回転自在に取り付けられる。ロータ3は、回転軸4に固定されたロータコアと、ロータコアの外周に固定されたマグネットとを有する。外部電源から供給された電流をインバータ回路で制御してステータ-コイルアセンブリ2に供給することで、ロータ3及び回転軸4が一体回転する。この電動モータ1は、ロータ3の磁極の数をP、ステータ-コイルアセンブリ2におけるティース間の溝の数をNとした場合、P:Nが2:3以外となる(すなわち、2N/3Pが整数でない)分数溝モータであり、具体的には、P:Nが10:12である10極12溝の分数溝モータである。分数溝モータとしては、他にも8極9溝や14極18溝などが存在する。
【0017】
図2~4に示すように、ステータ-コイルアセンブリ2は、ステータコア10と、インシュレータ20と、コイル30とを有する。
【0018】
ステータコア10は、
図5に示すように、円筒部11と、円筒部11から内径向きに突出した複数のティース12とを有する。ステータコア10は、例えば、絶縁被膜が施された電磁鋼板の積層体からなる積層鋼板や、絶縁被膜が施された軟磁性粉末の圧粉体からなる圧粉磁心で一体に形成される。ティース12は、円周方向等間隔の複数箇所(図示例では12箇所)に配される。図示例では、各ティース12の内径端にフランジ部12aが設けられる。
【0019】
インシュレータ20は、ステータコア10とコイル30との間に配され、両者を絶縁する樹脂部品である。本実施形態のインシュレータ20は、ステータコア10の各ティース12を被覆する筒状のティース被覆部21と、各ティース被覆部21の外径端を周方向に連続する周方向部22と、各ティース被覆部21の軸方向一方の端部に設けられた環状部23(
図4参照)とを有する。インシュレータ20は、例えば、軸方向中央部で分割した2部品で形成され、ステータコア10に軸方向両側から装着される。この他、ステータコア10をインサート部品として樹脂で射出成形することで、一体に形成してもよい。
【0020】
コイル30は、ステータコア10の各ティース12の外周に集中巻きで巻き付けられたコイル線からなる(
図5参照)。コイル線は、エナメル等の絶縁材で被覆された導線(例えば銅線)からなる。全てのコイル30は、周方向何れかに隣接するコイル30と同位相であり、隣接する一対の同位相のコイル30でコイル組40を形成する。本実施形態では、
図4に示すように、第1のU相コイル組40(U1)、第2のU相コイル組40(U2)、第1のV相コイル組40(V1)、第2のV相コイル組40(V2)、第1のW相コイル組40(W1)、第2のW相コイル組40(W2)が設けられる。
【0021】
各コイル組40は、連続した一本のコイル線で形成される。具体的には、
図6の右端に示す第1のU相コイル組40(U1)で説明すると、図中右側のティース12にコイル線を正方向(時計回り方向)に巻き付けて一方のコイル30を形成した後、そのコイル線を、図中左側のティース12に逆方向(反時計回り方向)に巻き付けて他方のコイル30を連続的に形成することにより、コイル組40が形成される。こうして形成された各コイル組40のコイル線の両端は、バスバー5(
図1参照)の導体に接続される。具体的には、各コイル組40のコイル線の両端が、ヒュージング等によりバスバー5の導体に通電可能な状態で取り付けられ、これらの接点Pが設けられる。尚、
図6のコイル線上の矢印は、コイル線の巻き付け方向及び順序を示している。
【0022】
本実施形態では、各コイル組40のコイル線がスター結線で結線される。具体的には、各コイル組40のコイル線の一方の端部が、バスバー5の中立線5aに接続され、各コイル組40のコイル線の他方の端部が、バスバー5の接続端子5bが接続された導体に接続される。これにより、第1のU相コイル組40(U1)と第2のU相コイル組40(U2)、第1のV相コイル組40(V1)と第2のV相コイル組40(V2)、第1のW相コイル組40(W1)と第2のW相コイル組40(W2)が、それぞれ並列に接続される。バスバー5の接続端子5bには、外部の電源からの給電線が接続される。
【0023】
このように、隣接する同位相のコイル30を一本の連続したコイル線で形成することで、各コイル30を別個のコイル線で形成する場合と比べて、コイル線とバスバー5との接点P(ヒュージング箇所)の数を減じることができるため、ステータ-コイルアセンブリ2の生産性が向上し、ひいては電動モータ1の生産性が向上する。
【0024】
コイル線は、隣接する同位相のコイル30を形成する部分と、両コイル30を接続する渡り線31とを有する。各コイル30を形成する際には、コイル線にある程度の張力を加える必要があるため、コイル30同士を接続する渡り線31にも張力が加わり、両コイル30が接近する側に引っ張られる。しかし、隣接するティース12は何れも軸心に向けて延びているため、両コイル30が接近する側に引っ張られると、両コイル30がティース12の間隔が狭い側、すなわち内径側にずれる恐れがある。
【0025】
そこで、本実施形態では、インシュレータ20に係止部24を設け、この係止部24に渡り線31を外径側から係合させた。具体的には、
図2~4に示すように、インシュレータ20の軸方向一方(
図3の左側)の端部に設けられた環状部23の周方向複数箇所に、軸方向一方に突出した係止部24を設けている。係止部24は、環状部23と一体成形する他、別体に形成した係止部24を環状部23に固定してもよい。そして、各コイル組40を形成するコイル線の渡り線31を、インシュレータ20の係止部24に外径側から係合させている。こうして係止部24で形成された渡り線31を介して、コイル30の内径側への移動を規制することができる。特に、図示例では、係止部24の軸方向一方の端部に外径側に延びるフランジ部24a(
図3参照)が設けられているため、渡り線31を係止部24に係合させやすくなっている。
【0026】
本発明は、上記の実施形態に限られない。以下、本発明の他の実施形態を説明するが、上記の実施形態と同様の点については重複説明を省略する。
【0027】
図7、8に示す実施形態では、第1のU相コイル組40(U1)と第2のU相コイル組40(U2)とを一方の連続したコイル線で形成し、第1のV相コイル組40(V1)と第2のV相コイル組40(V2)とを一方の連続したコイル線で形成し、第1のW相コイル組40(W1)と第2のW相コイル組40(W2)とを一方の連続したコイル線で形成している。そして、
図8に示すように、各相の一対のコイル組40を連続形成するコイル線の両端を、バスバー5の中立線5aにヒュージング等により接続する(スター結線)。このように、各相の一対のコイル組40(合計4個のコイル30)を一本のコイル線で形成することで、コイル30とバスバー5との接点Pの数がさらに減じられる。
【0028】
U相のコイル組40(U1)、40(U2)を形成するコイル線には、両コイル組40(U1)、40(U2)同士を接続する渡り線32(U)が設けられる。V相のコイル組40(V1)、40(V2)を形成するコイル線には、両コイル組40(V1)、40(V2)同士を接続する渡り線32(V)が設けられる。W相のコイル組40(W1)、40(W2)を形成するコイル線には、両コイル組40(W1)、40(W2)同士を接続する渡り線32(W)が設けられる。渡り線32(U)、32(V)、32(W)には、ヒュージング等により、外部からの給電線8が接続され、これらの接点Qが設けられる。これにより、第1のU相コイル組40(U1)と第2のU相コイル組40(U2)、第1のV相コイル組40(V1)と第2のV相コイル組40(V2)、第1のW相コイル組40(W1)と第2のW相コイル組40(W2)とが、それぞれ並列に接続される。尚、この場合、バスバー5には、中立線5aの導体のみが設けられ、給電線が接続される接続端子等は設けられない。
【0029】
また、この実施形態では、
図7に示すように、各相のコイル線の渡り線32(U)、32(V)、32(W)が、ステータコア10の外周面よりも外径側に配された部分を有する。具体的には、インシュレータ20に、ステータコア10の外周面よりも外径側に配された係止部25を設け、渡り線32(U)、32(V)、32(W)を係止部25の外径側を回り込ませている。このように、各渡り線32(U)、32(V)、32(W)の一部をステータコア10よりも外径側に配することで、渡り線32(U)、32(V)、32(W)に給電線8を接続しやすくなる。
【0030】
以上のような電動モータ1は、例えば、アイドリングストップ機能を有する車両やハイブリッド車両に設けられる電動オイルポンプに組み込まれる。エンジン停止中に、電動オイルポンプにより、トランスミッションケース底部のオイル溜りからオイルを吸引し、このオイルを吐出してトランスミッション内にオイルを圧送することにより、トランスミッション内で必要な油圧が確保される。
【符号の説明】
【0031】
1 電動モータ
2 ステータ-コイルアセンブリ
3 ロータ
4 回転軸
5 バスバー
6 ハウジング
7 軸受
8 給電線
10 ステータコア
11 円筒部
12 ティース
20 インシュレータ
24 係止部
30 コイル
31 (コイル同士を接続する)渡り線
32(U)、32(V)、32(W) (コイル組同士を接続する)渡り線
40 コイル組
P コイル線とバスバーとの接点
Q コイル線(渡り線)と給電線との接点