IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ビイエヌエヌティ・エルエルシイの特許一覧

特許7483618高出力システムのためのBNNT熱管理材料
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-07
(45)【発行日】2024-05-15
(54)【発明の名称】高出力システムのためのBNNT熱管理材料
(51)【国際特許分類】
   C01B 21/064 20060101AFI20240508BHJP
   C08K 3/38 20060101ALI20240508BHJP
   C08L 101/00 20060101ALI20240508BHJP
   C09K 5/14 20060101ALI20240508BHJP
   H01L 23/36 20060101ALI20240508BHJP
   H01L 23/373 20060101ALI20240508BHJP
【FI】
C01B21/064 M
C08K3/38
C08L101/00
C09K5/14 E
H01L23/36 D
H01L23/36 M
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020543776
(86)(22)【出願日】2019-02-19
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-06-03
(86)【国際出願番号】 US2019018547
(87)【国際公開番号】W WO2019161374
(87)【国際公開日】2019-08-22
【審査請求日】2022-02-21
(31)【優先権主張番号】62/632,349
(32)【優先日】2018-02-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】516318891
【氏名又は名称】ビイエヌエヌティ・エルエルシイ
(74)【代理人】
【識別番号】100098394
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 茂樹
(74)【代理人】
【識別番号】100153006
【弁理士】
【氏名又は名称】小池 勇三
(72)【発明者】
【氏名】ドゥシャティンスキ,トーマス・ジイ
(72)【発明者】
【氏名】ヘンネバーグ,トーマス・ダブリュ
(72)【発明者】
【氏名】ハフ,クレイ・エフ
(72)【発明者】
【氏名】ジョーダン,ケヴィン・シイ
(72)【発明者】
【氏名】スティーヴンス,ジョナサン・シイ
(72)【発明者】
【氏名】スミス,マイケル・ダブリュ
(72)【発明者】
【氏名】ホイットニー,アール・ロイ
(72)【発明者】
【氏名】スキャンメル,リンゼイ・アール
(72)【発明者】
【氏名】ウィクストロム,アレックス・アイ
【審査官】宮脇 直也
(56)【参考文献】
【文献】特表2013-505194(JP,A)
【文献】特開2007-145677(JP,A)
【文献】特開2008-214130(JP,A)
【文献】特開2007-137720(JP,A)
【文献】国際公開第2018/102423(WO,A1)
【文献】CHEN Hua et al.,"Purification of boron nitride nanotubes",Chemical Physics Letters,2006年,Vol.425,PP.315-319,DOI:10.1016/j.cplett.2006.05.058
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 21/064
H01L 23/373
H01L 23/36
C08L 101/00
C08K 3/38
C09K 5/14
JSTPlus/JST7580/JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
BNNT強化熱界面材料の製造方法であって、
合成したままのBNNT材料を精製して、残留ホウ素粒子含有量が20重量%以上ではない精製BNNT材料を形成する工程と、
前記精製BNNT材料を解凝集して解凝集BNNT材料を形成する工程と、
前記解凝集BNNT材料及びマイクロフィラーをポリマーマトリックス材料中に分散する工程と、
を含み、
前記ポリマーマトリックス材料中に分散された状態のBNNT中の凝集の1%未満は2つの次元の寸法が300μmを超え、
該BNNT中の凝集の5%未満は、2つの次元の寸法が200μmを超え、
該BNNT中の凝集の10%未満は、2つの次元の寸法が150μmを超え、
前記凝集の割合は、該BNNTの10X以上の倍率の光学画像に基づく凝集サイズ分布から決定され、
該BNNTにおける欠陥の個数は、直径の100倍の長さにつき1個未満であり、
前記合成したままのBNNT材料を精製する工程は、前記合成したままのBNNT材料を、不活性ガス中で、500℃~650℃の第1温度で3分~12時間の第1期間加熱することによって、ホウ素粒子を除去することを含む、
方法。
【請求項2】
前記合成したままのBNNT材料を精製する工程は、前記精製BNNT材料の残留h-BN同素体含有量が20%以上とならないように、h-BN同素体を除去する工程を更に含む、請求項に記載の方法。
【請求項3】
前記合成したままのBNNT材料を、650℃~800℃の第2温度で3分~12時間の第2期間加熱することによって、h-BN同素体粒子を除去することを更に含む、請求項に記載の方法。
【請求項4】
前記ポリマーマトリックス材料中に分散する工程の前に、前記解凝集BNNT材料を凍結乾燥することを更に含む、請求項に記載の方法。
【請求項5】
前記ポリマーマトリックス材料中に分散する工程の前に、少なくとも1つの官能基を前記解凝集BNNTの表面に追加することを更に含む、請求項に記載の方法。
【請求項6】
前記マイクロフィラーは50重量%~90重量%を構成する、請求項に記載の方法。
【請求項7】
前記精製及び解凝集BNNT材料は、0.1重量%~30重量%を構成する、請求項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2018年2月19日に出願された米国仮特許出願第62/632,349号の優先権を主張するものであり、その内容全体を参照により本明細書に明示的に援用する。
【0002】
本開示は、窒化ホウ素ナノチューブ(BNNT)を有する熱界面材料(TIM)などの熱管理のための熱伝導性材料、並びにTIMに使用するためのBNNTを調製する方法に関する。
【背景技術】
【0003】
技術進化により、最新の電子部品の電力密度が大きくなるにつれて、蓄熱は重要な性能限界となり、効率、寿命及びライフサイクルコストを低下する。電子部品への性能要求の高まりは、先進の材料を用いた新たな熱管理アーキテクチャへの要求を押し進めている。熱管理の問題は、複数のシステム内、通信システム内、より強力で応答の速い兵器システム(指向性エネルギーレーザー兵器、レールガン)の制御、センサ(マルチセンサフュージョン)、及びでこれらすべてを輸送し、しばしば給電する輸送プラットホーム/システムにおいて長い間取り組まれてきた。能動的熱管理、すなわち冷却は、このような問題を部分的にしか解決せず、性能の改良は、システムの重量、体積、出力、及びエネルギー需要が増えることによって相殺される。他方、改良された受動的熱管理は、熱を放散し、半導体ジャンクション温度(Tj)を下げることで、性能を改良し、コンポーネントの寿命を延ばし、かつ維持費その他のライフサイクルコストを削減する。能動的冷却は、熱を回路内の深部からヒートシンク及びその他の構造へ伝導するための最先端の材料を必要とし、そのような回路の近傍では、電気絶縁材料のみが使用される場合がある。現在頻繁に入手できる電気絶縁材料の熱伝導性は、たいていは不十分であり、これらの材料は機械的要件及び製造プロセスに適合しないことが多い。既存の電子デバイスの性能及び寿命を改良するため、更には次世代の電子デバイス及び高出力システムを可能にするためにも、改良されたTIMが重要である。
【0004】
改良TIMは、全ての電子部品に有益となる可能性を持つ。即時価値が最も高く、理論的な第1の標的は、より高出力のコンポーネント、例えば電源、電源変換装置、AC/DCコンポーネント、並びにエネルギー貯蔵及びその他の制御システムである。対象となる高出力電子システム及びアプリケーションとしては、例えば、フェーズドアレイレーダーなどのセンサ、通信システム(最も複雑な高出力RFシステムからWi-Fiのようなユビキタスなものまで)、有人又は無人輸送システム、及び兵器(特に熱/出力の対立の解決なくして進歩し得ないプロトタイプの指向性エネルギーシステム)が挙げられる。改良TIMは、かかるデバイスの実現に向けての極めて重要な次のステップである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】米国特許出願公開第2014/0080954(A1)号明細書
【文献】米国特許第6,864,571(B2)号明細書
【文献】米国特許第9,745,192号明細書
【文献】米国特許第9,776,865号明細書
【文献】米国特許第10,167,195号明細書
【文献】国際公開第PCT/US16/23432号
【文献】国際公開第PCT/US2017/063729号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
したがって、必要なのは、電子デバイスへの使用に適した改良された熱界面材料である。これらの改良TIMは、広範囲の動作温度にわたって電気絶縁性かつ熱伝導性であると共に、製造及び反復使用に耐える機械的強度を有しなければならない。
【課題を解決するための手段】
【0007】
BNNTは、電気コンポーネントにおいてTIMに非常に望ましい多数の特性を有し、本アプローチの実施形態に使用できる。BNNTは、電気絶縁性で、熱伝導が銅の8倍近く優れ、高温に耐え(例えば、酸化安定性は、炭素の350~550℃に対して700~900℃)、分子スケールであることで、半導体電子パッケージ内に深く組み込むことができる。BNNTは、特に、無触媒高温高圧プロセスで合成したときに高いアスペクト比を有し、そのため熱を効率的に伝達し得る。BNNTは、熱伝導性マイクロ粒子及びポリマーマトリックスと共に使用したときに、材料内の熱伝達を強化できる。本明細書に記載のように、BNNTを使用して、熱絶縁性ポリマーを、その重要な電気絶縁特性を失うことなく、熱伝導性複合体に変換し得る(例えば、1桁を超える改良)。これらのBNNT複合体を、BNNT改質熱界面材料に使用してもよく、これは、既存設計の性能、効率及び信頼性を改良し、次世代の、より高い電力密度設計を可能にする。
【0008】
高品質BNNT、例えば、バージニア州ニューポートニューズのBNNT社(BNNT,LLC)製のBNNTは、欠陥がほとんどなく、触媒不純物がなく、壁(層)の数が1~10であり(分布のピークは3層で、層数が多くなると急激に減少する)、本アプローチのいくつかの実施形態にとって出発BNNT材料又は合成したままの(as-synthesized)BNNT材料として好ましい。寸法は製造プロセスに応じて変動し得るが、BNNTの直径は典型的には約1.5~約6nmの範囲であり、ただし当然この範囲を超えて拡大してもよい。BNNTの長さは典型的には、数百nmから数百μmの範囲であるが、多数の要因のなかでも特に、合成したままのBNNT材料の生成に用いる合成及び回収プロセスに応じて、この範囲を超えて拡大し得る。
【0009】
過去の特許及び公開出願は、電気コンポーネントに使用される材料に、BNNTを含む材料を添加することを示唆している。例えば、特許文献1(Raman et al.);及び特許文献2(Arik et al.)を参照されたい。いずれの文献も、TIM及び他の熱管理システムに有用なBNNT材料を記載していない。代わりに、Ramanが開示した方法は、バルクでBNNTの使用を示唆したにすぎず、合成及び回収プロセス、合成したままの材料の性能改良のための改質、又はBNNTコンポーネントを用いた複合体マトリックスに関する示唆はない。同様に、Arikが開示した方法は、単に「触媒層から延びる概ね整列したナノチューブ」、すなわち、電気コンポーネントの限られた態様に関する面外及び相似面外熱伝達を示唆しているにすぎない。一般命題として、電気コンポーネントに使用しようとする材料にBNNTを単に分散又は包含させるだけでは、電気システムの熱管理を強化するには不十分であり、TIMへの包含には全く不適当である。Arikの化学気相堆積(CVD)成長法は、高品質のBNNT(すなわち、壁がほとんどない、高アスペクト比、最小限の欠陥、無触媒)の製造に必要な温度及び窒素圧をはるかに下回る温度及び窒素圧で起こることから、高品質のBNNTを生成しない。
【0010】
本アプローチによると、熱界面材料は、ポリマー複合体マトリックスのような複合体マトリックスの形態をとり得る。複合体マトリックスは、マトリックス材料、マイクロフィラー材料、及びBNNTフィラー材料を有し得る。TIMとしては、限定するものではないが、熱グリース(「ペースト」)、接着剤、ギャップフィラー(アンダーフィル)、ギャップパッド、上面コーティング、及びプリント配線板などの熱管理材料フォームファクタが挙げられる。
【0011】
本アプローチのいくつかの実施形態では、BNNT材料を、合成、解凝集、表面改質し、マトリックス材料内に分散してもよい。本アプローチによると、BNNT材料を公知の方法に従って合成してもよい。この説明では、合成後のBNNT材料を合成したままのBNNT材料と呼ぶ。本アプローチによると、合成したままのBNNT材料を、公知の方法に従って合成してもよく、合成方法及び条件に応じて、合成したままのBNNT材料は低品質にも高品質にもなり得る。高品質BNNTは、本アプローチの少なくともいくつかの実施形態にとって好ましくなり得る。特許文献3、特許文献4、特許文献5、及び特許文献6(2017年11月21日出願)は、高品質BNNTのための合成装置及びプロセスの例を記載しており、各々の全体を参照により援用する。実施形態によっては、合成BNNT材料を、1つ以上の方法で改質してもよい。
【0012】
合成BNNT材料は、多くの場合、非常に多数の凝集を含み、これはマイクロフィラー材料全体への十分なBNNT分散を妨害し得る。したがって、いくつかの実施形態では、合成BNNT材料を、本明細書に記載の1つ以上のプロセスなどにより、解凝集してもよい。
【0013】
合成した解凝集BNNT材料を、いくつかの実施形態では、更に凍結乾燥してもよい。例えば、BNNTを、溶媒(水、有機溶媒、又はこれらの組み合わせ)中で瞬間冷凍し、減圧乾燥して溶媒を昇華及び/又は蒸発により除去して、乾燥した解凝集BNNT材料を得てもよい。当然のことながら、凍結乾燥の前に、溶媒を用いた方法及び機械的方法を含む、多数の解凝集法を使用してもよい。
【0014】
いくつかの実施形態では、合成BNNT材料の表面を、1つ以上の化学的表面改質によって改質してもよい。実施形態に応じて、BNNT表面改質は、BNNTの解凝集及の分散の前でも後でもよい。実施形態に応じて、BNNTの表面改質は共有結合性でも非共有結合性でもよい。
【0015】
本アプローチのいくつかの実施形態は、精製及び解凝集された窒化ホウ素ナノチューブ(BNNT)を含有する熱界面フィラーの形態をとってもよい。精製BNNT材料は、残留ホウ素粒子含有量(h-BNナノケージに捕捉されたホウ素を含まない)が減少しており、いくつかの実施形態では、残留ホウ素粒子含有量が20重量%未満である。いくつかの実施形態では、残留ホウ素粒子含有量は10重量%未満であり、いくつかの実施形態では、残留ホウ素粒子含有量は3重量%未満であり、いくつかの実施形態では1重量%未満となり得る。解凝集BNNT材料では、BNNT凝集のサイズ及び含有量が低減している。例えば、いくつかの実施形態では、ポリマーマトリックス材料に分散されたとき、BNNT中の残存凝集の1%未満は、本明細書に記載の方法を用いて測定したときに、2つの次元の寸法が300μmを超える。いくつかの実施形態では、BNNT中の残存凝集の5%未満は、2つの次元の寸法が200μmを超える。いくつかの実施形態では、BNNT中の残存凝集の10%未満は、2つの次元の寸法が150μmを超える。いくつかの実施形態では、BNNT中の残存凝集の15%未満は、2つの次元の寸法が100μmを超える。いくつかの実施形態では、BNNT中の残存凝集の20%未満は、2つの次元の寸法が50μmを超える。いくつかの実施形態では、BNNT中の残存凝集の25%未満は、2つの次元の寸法が25μmを超える。
【0016】
本アプローチのいくつかの実施形態では、熱界面フィラー用のBNNT材料は、残留ホウ素粒子含有量が3重量%未満であり、BNNT中の残存凝集の1%未満は、2つの次元の寸法が300μmを超え得る。いくつかの実施形態では、残留ホウ素粒子含有量は1重量%未満であり、BNNT中の残存凝集の10%未満は、2つの次元の寸法が150μmを超える。いくつかの実施形態では、残留ホウ素粒子含有量は1重量%未満であり、BNNT中の残存凝集の10%未満は、2つの次元の寸法が150μmを超え、BNNT中の残存凝集の5%未満は、2つの次元の寸法が200μmを超える。
【0017】
いくつかの実施形態では、精製BNNT材料は、本明細書に記載の方法を用いて測定したときのh-BN同素体の含有量が低減している。例えば、残留h-BN同素体含有量は、いくつかの実施形態では30%未満、いくつかの実施形態では10%未満、いくつかの実施形態では3%未満である。
【0018】
解凝集BNNT材料は、いくつかの実施形態では、固体形態に戻ったときに解凝集の利益を維持するために凍結乾燥されてもよい。いくつかの実施形態では、BNNTを、ポリマーマトリックス材料中での分散を改良する官能基で表面改質してもよい。
【0019】
本アプローチのいくつかの実施形態は、ポリマーマトリックス材料と、少なくとも1種のマイクロフィラーと、精製及び解凝集BNNTとを有する、熱界面材料の形態をとり得る。いくつかの実施形態では、マイクロフィラー(複数可)は約50~約90重量%である。いくつかの実施形態では、精製及び解凝集BNNT材料は約0.1~約30重量%を構成する。いくつかの実施形態では、熱界面材料は誘電材料を含み得る。
【0020】
いくつかの実施形態では、本アプローチは、BNNT強化熱界面材料の製造方法の形態をとり得る。例えば、合成したままのBNNT材料を精製して、ホウ素粒子、a-BN、及びh-BN同素体などの様々なホウ素種を除去(すなわち、その量を低減)し得る。精製BNNT材料を解凝集して、BNNT凝集のサイズ及び凝集中のBNNTの質量を低減し、解凝集BNNT材料を形成してもよい。当然のことながら、解凝集BNNT材料は、ターゲットポリマーマトリックス中に分散されたときに、より少ない凝集と、解凝集されていないBNNT材料とを有する。解凝集BNNT材料は、1種以上のマイクロフィラー及びポリマーマトリックス材料中に分散されてもよい。
【0021】
合成したままのBNNT材料を精製する工程は、いくつかの実施形態では、合成したままのBNNT材料を不活性ガス及び水素供給原料中で、第1温度(約500℃~約650℃であってもよい)で第1期間(約3分~約12時間であってもよい)加熱することを含む。いくつかの実施形態では、合成したままのBNNT材料を精製する工程は、合成したままのBNNT材料を、第2温度(約650℃~約800℃であってもよい)で第2期間(約3分~約12時間であってもよい)加熱することを含む。
【0022】
いくつかの実施形態は、解凝集BNNT材料を分散する前に凍結乾燥することを含む。いくつかの実施形態では、BNNTは1つ以上の表面改質を有してもよい。例えば、分散前に、ポリマーマトリックス材料中の分散を改良する官能基を含むようにBNNTを改質してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】熱界面材料層を有する例証的な電子パッケージの図である。
図2】合成したままのBNNTの画像である。
図3A-3B】図3Aは、分散体中の精製BNNT材料の画像であり、8倍拡大図が挿入されている。図3Bは、分散体中の解凝集BNNT材料の画像であり、8倍及び20倍拡大図が挿入されている。
図4】本アプローチの実施形態による、シリコンダイと熱スプレッダとの間の熱界面材料の図である。
図5A-5B】図5Aは、無触媒、高温、高圧法から製造した合成したままのBNNT材料を示す。図5Bは、同じ合成したままのBNNT材料の、ホウ素及びa-BN粒子の除去後の画像である。
図6A-6B】図6Aは、BNNT材料のSEM画像である。図6Bは、BNNT材料のTEM画像である。
図7A-7B】図7Aは、BNNTの間に存在するh-BNナノケージのTEM画像である。図7Bは、BNNTの間に存在するh-BNナノシートのTEM画像である。
図8】様々なBNNTポリマー複合体の熱伝導率の公表値である。
図9】本アプローチの実施形態による、精製BNNT材料の例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本開示は、BNNTを複合体マトリックスに組み込む熱界面材料(TIM)など、BNNTで強化した熱管理用の熱伝導性及び電気絶縁性材料、並びに熱管理用の熱伝導性及び電気絶縁性材料に包含するためのBNNTの製造方法について、様々な実施形態を記載する。当然のことながら、以下の実施形態及び実施例は、本アプローチの例証であり、本アプローチの範囲を限定することを意図するものではない。
【0025】
本アプローチは、(例えばTIM用の)熱管理材料としての使用に特に適したBNNT材料を、当該BNNT材料を合成したままのBNNT材料から作製するためのプロセスを含めて提供する。本明細書に記載されているのは、BNNT改質TIMの実証例(高出力高密度電子部品における熱管理のためのBNNT-ポリマー複合体など)、及びBNNT改質TIMの製造方法である。本アプローチによると、TIMは、ポリマー複合体マトリックスのような複合体マトリックスの形態をとり得る。複合体マトリックスは、マトリックス材料、マイクロフィラー材料、及びBNNTフィラー材料を有し得る。本アプローチの実施形態では、BNNTフィラー材料及びマイクロフィラー材料をマトリックス材料に導入し、具体的な実施形態に応じて約4W/m・K~約10W/m・K及びそれ以上の熱伝導率を達成する。
【0026】
本明細書で使用するとき、TIMは、1つのコンポーネントから別の表面へ熱を伝達する材料である。図1は、電子部品パッケージ101の例を、TIMの一般的な位置103及び105と共に示す図である。この例では、TIM103はヒートシンク107とチップパッケージカバー109との間に位置しており、TIM105はチップパッケージカバー109とチップ基板111との間に位置している。当然のことながら、図1は、1つ以上のTIMを有する電子部品パッケージに想定される多数の構成のうちの1つを示しており、本アプローチを図示した構成に限定することを意図するものではない。TIMは表面間の空隙を満たし、コンポーネントと表面との間の熱膨張率(CTE)値の差による分離を防止する。TIMは、表面間で熱を伝達する能力の他に、チキソトロピー性及び絶縁耐力など特性を最適化して、特定の用途に合うよう特化されることが多い。市販のTIMの開発プロセスは、物理的・化学的の両方の複数のパラメータに対処し、熱伝導率に加えて、材料の安全性を考慮することが要求される。市販されている誘電TIMの選択肢は現在限られており、BNNTが材料に付与できる多機能特性の組み合わせをもたらすものはない。
【0027】
当業者は、TIMは様々な形態、例えば、接着剤、ペースト、アンダーフィル、ギャップフィル、及びギャップパッドであってもよく、以下に記載する具体的実施形態は、本アプローチをいかなる特定の形態にも限定しないことを理解するであろう。本アプローチによるTIMの実施形態は、特定の実施形態に好適又は必要な任意の形態をとり得る。BNNT改質TIMの実施形態としては、BNNTと1種以上のマイクロフィラーとを1つのマトリックス内に含むハイブリッドフィラーが挙げられる。マトリックスはポリマーマトリックスであってもよい。マトリックスの例としては、限定するものではないが、接着剤、アンダーフィル、及び積層基板としてのエポキシ;接着剤及びアンダーフィルとしてのシアノアクリレート;ギャップフィラー、ギャップパッド、及び接着剤としてのシリコーン;並びにペーストとしてのシリコーン油が挙げられる。当然のことながら、本アプローチは、以下に記載するような、任意の特定の複合体及びマトリックスに限定されない。
【0028】
本アプローチによると、熱界面材料は、マトリックス材料と、少なくとも1種のマイクロフィラーと、精製BNNT材料とを含み得る。精製BNNT材料は、本開示が合成したままのBNNT材料と呼ぶもの、すなわち、合成操作から回収されたBNNT、から調製されてもよい。合成したままのBNNT材料は、合成プロセス及び合成条件に大きく依存して「低品質」又は「高品質」とみなされ得る。本明細書で言及するとき、「低品質」BNNTは、典型的には10~50の壁を有し、アスペクト比が1,000未満:1であり、結晶性構造に多数の破断があり、合成プロセスの結果として金属不純物を包含し得る。「低品質」BNNT材料は、本アプローチのいくつかの実施形態に好適となり得るが、TIMに対して同程度の強化をもたらさない場合がある。他方、「高品質」BNNTは、アスペクト比がより高く、高結晶性である。一般に、高品質の合成したままのBNNT材料は、壁(層)の数が1~10の範囲(大部分は2層、3層、及び4層ナノチューブである)であり、長さ対直径比が典型的には長さと直径の比が典型的には10,000:1以上であり、通常は無触媒であり、かつ高結晶性である(欠陥が非常に少なく、直径の100倍の長さにつき1個未満のレベルであることを意味する)。高品質BNNT材料は、例えば、高温又は高温高圧(HTP)法によって合成され得る。特許文献3、特許文献4、特許文献5、及び特許文献6(2017年11月21日出願)は、高品質BNNTのための合成プロセスを記載しており、各々の全体を参照により援用する。
【0029】
加工条件に応じて、ホウ素粒子及びa-BN粒子、並びにh-BNナノケージ及びh-BNナノシートが、合成したままのBNNT材料中に存在し得る。合成条件に応じて、これらの非BNNT BN同素体コンポーネントは、合成したままのBNNT材料の質量の約5%という低濃度から約95%もの高濃度までを占める場合があり、いくつかの合成条件ではこの範囲を超える濃度を生じる場合もある。HTP法によって製造された合成したままのBNNT材料のタップ密度は、典型的には約0.5グラム毎リットル(0.5g/L)であり、プロセスパラメータに応じておよそ+/-50%で変動し得る。比較すると、h-BNの密度は約2,100g/Lである。HTPプロセスからの合成したままのBNNT材料は、多くの場合、図2に示すBNNT社の試料に見られるように、「パフボール」又は「コットンボール」の外観を有する。ホウ素粒子及び非BNNT BN同素体コンポーネントは、合成後精製プロセス(例えば、下記及び特許文献7(2017年11月29日出願)に記載のプロセス)を通じて除去(すなわち、除去プロセス後に残留粒子が残り得ることから、大幅に減少)してもよい。
【0030】
BNNT分子に沿ったフォノンの輸送は、同位体強化BNNTを利用することにより、更に強化される場合がある。それとは別に、10Bと11Bの両方を強化することによって利益がもたらされる。ホウ素供給原料を、10B及び/又は11Bを含有するBNNT合成のために選択してもよい。例えば、同位体強化ホウ素は、10Bについては96%、11Bについては98%で市販されており、合成プロセスは典型的にはホウ素の同位体含有量の影響を受けないことから、上記及び参照により本明細書に援用されるプロセスによるBNNTの合成に使用できる。
【0031】
合成したままのBNNT材料を精製BNNT材料に加工して、存在するホウ素の小さな粒子、a-BN、h-BNナノケージ、及びh-BNナノシートの量を減少させてもよい。h-BN同素体に封入されていないホウ素粒子は、下記及び参照により援用されるプロセスを通じて合成したままのBNNT材料から除去されてもよい。大部分の実施形態では、残留ホウ素粒子が残存すると考えられ、ホウ素粒子を「除去すること」は、BNNT材料から化学種を完全に排除することを必要としないことを当業者は理解するであろう。例えば、ホウ素除去後、残留ホウ素は、いくつかの実施形態では約20重量%未満、いくつかの実施形態では約15重量%未満、いくつかの実施形態では約10重量%未満、いくつかの実施形態では約5重量%未満、いくつかの実施形態では約3重量%未満、いくつかの実施形態では約1重量%未満存在し得る。
【0032】
参照によりその全体が援用される2017年11月29日出願の特許文献7は、BNNT材料の精製(refining)方法、又は援用された参照文献に使用されているようにBNNT材料の精製(purifying)方法を記載している。BNNT材料(例えば、いくつかの実施形態では合成したままのBNNT材料)を第1温度で第1期間、及び不活性ガス中で水蒸気などの水素供給原料と共に、加熱することによって、ホウ素粒子をBNNT材料から除去してもよい。第1温度は約500~650℃の温度、より好ましくは約550~600℃の温度でもよい。BNNT材料は第1温度を所与の時間、好ましくは約3分~約12時間、いくつかの実施形態では約4分~約60分、いくつかの実施形態では約5分~約30分間維持してもよい。特定の合成したままのBNNT材料に適切な加熱期間を、通例的な実験により、本アプローチから逸脱することなく決定できることを、当業者は理解するべきである。いくつかの実施形態では、不活性ガスは窒素を含んでもよく、又は窒素からなってもよく、又は本質的に窒素からなってもよい。いくつかの実施形態では、水素供給原料は、水蒸気及び水素ガスのうちの少なくとも1つであってもよい。いくつかの実施形態では、窒素ガス中の水蒸気の量を、例えば30~120℃の温度で乾燥窒素ガスを飽和水蒸気条件にすることで制御してもよい。あるいは、酸素を用いたホウ素除去段階を用いてもよい。BNNT材料を、酸素リッチ環境において第1温度で第1期間加熱して、ホウ素を除去してもよい。酸素リッチ段階の第1温度は、好ましくは約500~650℃、又はいくつかの実施形態では約550~600℃、又はいくつかの実施形態では約550+/-10であってもよく、第1期間は、好ましくは約3分~約12時間、いくつかの実施形態では約4分~約60分、いくつかの実施形態では約5分~約30分であってもよい。合成したままのBNNT材料のいくつかの形態では、h-BNナノケージに封入されたホウ素粒子はこの精製プロセスの影響を受けないが、h-BNナノケージが除去されたときにBNNT材料から除去される。当然のことながら、いくつかの実施形態では、経済的に実行可能なできるだけ多くのホウ素粒子を除去すべきである。精製BNNT材料中に存在する遊離ホウ素粒子の重量%が少なくとも約20重量%未満、いくつかの実施形態では好ましくは約10重量%未満、いくつかの実施形態ではより好ましくは約5重量%未満、更により好ましくは約3重量%未満になると、材料は、熱管理材料への包含により有利となる。例えば、精製BNNT材料のいくつかのプロトタイプでは、遊離ホウ素粒子は約1.0重量%を構成する。他の実施形態は、1重量%未満の重量%を含むように、より低い重量%を必要とする場合があり、いくつかの実施形態は更に低い重量%の遊離ホウ素粒子を必要とし得る。
【0033】
ホウ素除去の後、h-BN同素体を、下記及び参照により援用されたプロセスを通じて、BNNT材料から除去してもよい。大部分の実施形態では、残留h-BN粒子が残存すると考えられ、h-BN種を「除去すること」はBNNT材料から化学種を完全に排除することを必要としないことを、当業者は理解するであろう。例えば、h-BN同素体除去後、残留h-BN同素体は、いくつかの実施形態では約40重量%未満、いくつかの実施形態では約25重量%未満、いくつかの実施形態では約10重量%未満、いくつかの実施形態では約5重量%未満、いくつかの実施形態では約3重量%未満、いくつかの実施形態では約1重量%未満存在し得る。精製BNNT材料を倍率20,000Xで撮影した10の代表的HR-SEM顕微鏡画像分析を用いて、精製BNNT材料中のBNNTと他のh-BNナノ同素体の相対的割合を決定できる。BNNTは、熱伝導率強化で最も大きな改良をもたらすが、他のh-BN同素体は、ナノ粒子とマイクロフィラーの充填密度の組み合わせ、及びh-BNナノ粒子の熱伝導率がマトリックス材料の熱伝導率と比べて高いことにより、熱伝導率の改良に寄与する。
【0034】
いくつかの実施形態では、BNNT材料を第2温度で第2期間加熱することによってBN化合物を除去し得る。いくつかの実施形態について、温度を、第1温度で第1期間の後に第2温度で第2期間まで上昇して、ホウ素除去後にBN化合物を除去してもよい。第2温度は約650~800℃であり、いくつかの実施形態では約675~725℃である。第2期間は、好ましくは約3分~12時間であり、約4分~120分であってもよく、いくつかの実施形態では約5分~120分であってもよく、いくつかの実施形態では約10分~100分であってもよい。最適な温度及び期間パラメータは、BNNT材料に依存し、当然のことながら、当業者は、単純な実験を通じて有効な温度及び期間を決定し得る。ほとんどの実施形態では、a-BN粒子が最初に除去され、次いでh-BNナノシートがいくつかのh-BNナノケージと共に除去され、しばらくした後に、BNNTの一部が除去される。同素体除去の量は、BNNT材料がプロセスに曝露する時間に依存する。実際には、除去されたBN同素体の割合と精製プロセスの最終的な収率との間には、一定のバランスがある。精製BNNT材料が所望の実施形態の要件に適合する限り、商業的効率が許容可能な含有量を決定する。文献で論じられているように、硝酸などの酸でも同様のプロセスを実施できるが、酸はプロセスで早期にBNNTを攻撃する傾向があり、BNNTの量及び質を低減し、結果として熱伝導率を低下させる。ほとんどの実施形態で、酸を用いたBN同素体の除去は、BNNTに対する影響から、好ましくない。
【0035】
いくつかの実施形態では、BNNT材料はボレートを含み得る。ボレートは、第3温度で第3期間、好ましくは約500~650℃で約0.16~12時間、加熱することによって除去され得る。いくつかの実施形態では、ボレート除去は、BN除去後に起こり、そのため加熱温度を第2温度から第3温度に低下してもよい。
【0036】
除去プロセスを用いて、所与の実施形態の必要に応じて、十分な量のホウ素、BN種、及びボレート種を除去し得る。ホウ素除去の後、かつ、いくつかの実施形態ではBN種の除去後、更にいくつかの実施形態ではボレート種の除去後、合成したままのBNNT材料を精製BNNT材料と呼ぶ場合がある。精製BNNT材料の特性決定は、熱管理用途のためのナノチューブの調製に有用なステップとなり得る。例えば、精製プロセスの各段階で、高解像度の走査型電子顕微鏡(HR-SEM)は、材料中のBN同素体、BNNT、及びBNNT凝集のサイズ分布を観察するための効率的な技術である。代表的なHR-SEM顕微鏡写真の分析を用いて、様々なプロセス段階におけるBNNTと他のh-BNナノ同素体の相対的割合を決定でき、更に、様々なプロセス条件において特定の実施形態に好適な精製BNNT材料を製造する条件を特定することができる。更に、代表的なHR-SEM顕微鏡写真の分析を用いて、小さいBNNT凝集(<1μm)のサイズ分布を決定できる。光学顕微鏡を用いて、大きなBNNT凝集、すなわち、数ミクロンよりも大きい凝集のサイズ分布を決定できる。所望であれば、これらのサイズ分布を利用して、当業者が利用できる技術を用いて体積分布を予測することができる。
【0037】
ホウ素及びh-BN同素体の除去後、精製BNNT材料を解凝集し得る。合成したままのBNNT材料はBNNTの凝集を有し、これは多くの場合他のh-BN同素体及びホウ素粒子と混合されている。凝集中のBNNTのサイズ及び相対的質量は、出発ホウ素供給原料、合成プロセス及び操作条件、並びに回収技術など、様々な要因に依存し得る。ホウ素除去に関して上に記載された方法は、総じてBNNT凝集に影響しない。更に、BN同素体を除去するための上記の追加精製は、凝集中に存在するBN同素体を減少する以外は、総じてBNNT凝集に影響しない。
【0038】
凝集は、マトリックス材料中のBNNT分散に悪影響を与え、有効熱伝導率を低下する。「解凝集する」(deagglomerate)という用語は、本明細書で使用するとき、凝集のサイズ並びに凝集中に残存するBNNT及びh-BN同素体の質量の低減を意味することを、当業者は理解するであろう。BNNT凝集は、ほとんどのマイクロフィラー材料において熱伝導率及び分散性に悪影響を与える。結果として、ほとんどの熱管理材料の性能目標は、BNNT凝集のサイズ及び相対的質量の低減を必要とするであろう。本開示は、凝集のサイズ及び質量を低減させるために加工したBNNT材料を、簡便のため「解凝集BNNT材料」と呼ぶ。解凝集BNNT材料は、BNNT凝集を有する精製BNNT材料よりも優れた分散性と優れた熱伝導率を有するであろう。BNNT材料は、当該技術分野で溶液中の粒子を解凝集するために使用されている機械的手段の中でも特に、撹拌、音波処理、又は撹拌と音波処理との組み合わせによって、溶液中で解凝集できる。解凝集プロセスは、アルコール又は低分子量炭化水素溶媒などの溶液中で進行し得る。
【0039】
解凝集プロセスの程度は、光学顕微鏡を用いて3μmを超えるサイズのBNNT凝集の体積比を観察することによって、観察及び定量化できる。当然のことながら、BNNTはマトリックス材料中に分散される。HR-SEM及び/又は高解像度透過電子顕微鏡法を使用して、個別のナノチューブとしての解凝集BNNT材料中に存在するBNNTの分布、及び凝集中に残存するBNNT及びその他のh-BN同素体の分布を定量化できる。本開示で使用するとき、解凝集BNNT材料とは、ターゲットポリマーマトリックス中に分散したときに、残存凝集の1%未満は、分散BNNT材料の少なくとも10の代表的な光学顕微鏡画像(倍率10X)より決定した2つの次元の寸法が300μmを超えるBNNT材料である。例えば、10X以上の倍率の光学画像を用いて、画像中に見える、長さ及び幅が300μmを超える凝集のパーセンテージを特定してもよい。この明細書は、10の代表的な光学顕微鏡技法を用いて、分散した解凝集BNNT材料内の残存凝集部分がサイズの閾値内にあるか否かを決定する。いくつかの実施形態では、例えば、解凝集BNNT材料は、残存凝集の1%未満は2つの次元の寸法が300μmを超え、いくつかの実施形態では、残存凝集の5%未満は2つの次元の寸法が200μmを超え、いくつかの実施形態では、残存凝集の10%未満は2つの次元の寸法が150μmを超え、いくつかの実施形態では、残存凝集の15%未満は2つの次元の寸法が100μmを超える。追加例として、BNNT中の残存凝集の20%未満は2つの次元の寸法が50μmを超え、いくつかの好ましい実施形態では、BNNT中の残存凝集の25%未満は2つの次元の寸法が25μmを超える。当然のことながら、上記の代表的な光学顕微鏡技法を使用して、特定の実施形態について、十分な解凝集を達成する条件を決定し得る。
【0040】
いくつかの実施形態について、残存凝集のサイズ分布は、凝集の1%以下は2つの次元の寸法が300μmを超え、凝集の5%以下は2つの次元の寸法が200μmを超え、15%以下の粒子は2つの次元の寸法が100μmを超えることを必要とし得る。いくつかの実施形態では、残存凝集のサイズ分布は、凝集の1%以下は2つの次元の寸法が300μmを超え、凝集の15%以下は2つの次元の寸法が100μmを超え、20%以下の粒子は2つの次元の寸法が50μmを超えることを必要とし得る。
【0041】
本アプローチによる解凝集及び表面改質は、BNNT(合成したままのBNNT材料及び/又は精製BNNT材料など)の、ポリマーマトリックス中での分散を大幅に改良する。図3Aは、溶液中の精製BNNT材料301の光学画像であり、通常倍率と挿入図に示す8Xの両方に、BNNT凝集303が見える。図3Bは、本アプローチによる解凝集後の解凝集BNNT材料305を示す。各画像は倍率8Xの挿入図を含み、図3Bは、より小さい凝集307を示す倍率20Xの第2の挿入図を含む。これらの画像は、ポリマーマトリックス内のBNNT分散に対する解凝集の効果を実証する。図3Aに示すBNNT材料は、肉眼で見える大きな凝集303を含む。合成したままのBNNT材料を精製して、上記のように、元素状ホウ素の大部分を除去し、次いで、トルエンと共に溶液中で撹拌し、真空乾燥して溶媒を除去した。得られた精製BNNT材料を、次いで、プラネタリーミキサーでエポキシ樹脂中に分散し、図3Aに見える観察可能な凝集303を製造した。図3Bの分散は、同じ合成したままのBNNT材料を精製して大部分の元素状ホウ素を除去し、撹拌、振盪、及び音波処理の組み合わせによって解凝集した後、短鎖アルキル鎖で表面改質して得られた。表面改質解凝集BNNT材料を、次いで凍結乾燥した後、図3Aの分散と同じプラネタリーミキサー条件を用いてエポキシ樹脂中に分散した。図3Bに見られるように、解凝集BNNT材料は、エポキシマトリックス中により容易に分散し、肉眼で見える凝集がほとんどない。図3Bの分散中に存在する凝集307は、図3Aの分散中に存在する凝集よりもはるかに小さい。従って、本アプローチによって表面改質された解凝集BNNT材料は、ポリマーマトリックス中への分散が大幅に改良されている。デジタル画像処理技術は、凝集及び解凝集のサイズ分布を決定できる。
【0042】
いくつかの実施形態では、解凝集プロセスの後に凍結乾燥を行って解凝集を更に改良し、凍結乾燥なしで溶媒除去中に解凝集BNNT材料が固体状態に戻るときに個別のBNNTの分散を維持する。精製BNNT材料は、上記のように、例えば、溶媒(例えば、水、アルコール、トルエン、炭化水素、又はこれらの混合物)中での撹拌、音波処理、又は撹拌と音波処理との組み合わせによって、解凝集してもよい。当然のことながら、当業者は、所与の実施形態に対して適切なプロセスパラメータ(例えば、強度、時間など)を決定し得る。一般に、プロセスは、解凝集BNNT材料が、所望の実施形態に対するBNNT凝集のサイズ及び相対的質量(又は個別化したBNNTの十分な分布)を有するまで、及び少なくとも残存凝集の1%未満の2つの次元の寸法が300μmを超えるまで、継続する。公知の溶媒除去方法を使用してもよい。例えば、溶媒は、濾過、蒸発、及び/又は遠心分離並びにデカンテーションによって除去してもよく、所望であれば、その後水を添加してもよい。あるいは、溶媒がアルコールである場合、水を直接添加して混合物を希釈できる。音波処理と振盪との組み合わせを使用して、BNNTを溶液中に分散し、解凝集BNNT材料の懸濁液を作製してもよい。解凝集BNNT材料の溶液を瞬間冷凍してもよい。例えば、溶液を液体窒素に曝露してもよい。凍結乾燥器を、溶液の凍結乾燥(すなわち、真空下での溶媒の昇華)に使用してもよい。プロトタイプの実施形態は、凍結乾燥後に綿毛状の粉末を有する解凝集BNNT材料を生じた。静電力は、固体形態にある間にナノチューブを引き付けて一時的な凝集にし得るが、凍結乾燥及び解凝集されたBNNT材料は、分散性が改良されており、マトリックス材料に分散されたときに、凝集のサイズ及び凝集中に残存するBNNTの質量が低減するであろう。
【0043】
いくつかの実施形態では、精製BNNT材料及び/又は解凝集BNNT材料は、表面改質されてもよい。例えば、BNNT材料を表面改質して、マイクロフィラー、及び/又はマトリックス材料との相互作用などの1つ以上の特性が改良し得る。実施形態に応じて、表面改質は、合成したままのBNNT材料、精製BNNT材料、及び/又は解凝集BNNT材料に実施してもよい。いくつかの実施形態では、表面改質は、別のプロセス(例えば、解凝集など)の間に起こってもよい。当然のことながら、特定の実施形態に応じて、多種多様な表面改質を使用してもよい。当然のことながら、種々のプロセスも使用し得る。例えば、いくつかの表面改質プロセスは、懸濁液中でBNNTに実施されてもよい。BNNT材料(例えば、合成したままのBNNT材料、精製BNNT材料、又は解凝集BNNT材料)を、撹拌、音波処理、及び/又は振盪を通じて溶媒(水、トルエン、アルコール、又は炭化水素)中に懸濁してもよい。
【0044】
プロセスの一例として、所望の有機官能基(典型的には良好な末端脱離基、すなわち、ハロゲン又は類似の脱離基)を含有する試薬を過剰に懸濁液に導入する。官能基は、例えば、マトリックス材料として使用しているポリマーとの分散を強化する基であってもよい。トリメトキシ及びトリエトキシシラン含有短鎖アルキル鎖は、エポキシマトリックス材料内で分散性を改良できることから、その例である。塩基及び/又はその他の試薬を、官能基のBNNT表面との反応性を促進するために含んでもよい。混合物を、周囲温度又は高温で、十分な期間にわたって撹拌して、精製BNNTの表面上に存在する基(例えば、表面ヒドロキシル)と官能基試薬との反応が確実に成功するようにしてもよい。いくつかの実施形態では、反応時間は、最大で約18~24時間必要となり得る。当然、プロセスパラメータは、具体的な実施形態に応じて変動するであろう。
【0045】
種々のプロセスを使用して、反応後に残存する未反応試薬及び溶媒を除去してもよい。当該プロセスとしては、例えば、表面改質BNNTを、濾過及び/又は遠心分離により、周囲温度又は加熱した溶媒(水、アルコール、炭化水素、又はその他の有機溶媒)で洗浄することが挙げられる。得られた表面改質BNNTを、例えば真空炉を用いて乾燥してもよく、又は上記のように凍結乾燥してもよい。例えば、表面改質BNNTを、音波処理と振盪との組み合わせによって、水又はアルコールと水との混合物中に分散して、懸濁液を生成してもよい。分散された表面改質BNNTを含有する溶液を瞬間冷凍して(典型的には液体窒素を用いて)もよく、当該溶液を含有する容器を凍結乾燥器に接続してもよい。乾燥後、得られたプロトタイプの固体状態は、綿毛状粉末形態の表面改質BNNT材料に似ていた。このプロセスから得たBNNTの表面改質が成功したことを確認するため、BNNTの表面に結合している官能基を、FT-IRとその他の分光法を用いて決定できる。
【0046】
本アプローチによると、TIMは、解凝集BNNT材料と少なくとも1種のマイクロフィラーとをマトリックス材料中に分散することによって製造されてもよい。本アプローチの実施形態は、1つ以上のマトリックス材料を含んでもよい。マトリックス材料としては、限定するものではないが、エポキシ樹脂、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリジメチルシロキサン、熱可塑性ポリウレタンシアノアクリレート、ポリベンゾオキサジン改質エポキシ樹脂、ナイロンが挙げられる。当然のことながら、当業者は、所望の実施形態に好適なマトリックス材料を決定できるであろう。当該技術分野では多数の分散技術が公知である。例えば、分散は、解凝集BNNT材料(いくつかの実施形態では、凍結乾燥及び/又は表面改質され得る)を、熱管理材料及び性能要件に適したマトリックス材料中に、直接撹拌又はプラネトリーミキサー処理することによって実施してもよい。いくつかの実施形態では、BNNTを、ポリマー及び界面活性剤などの非共有結合性表面改質剤を用いてマトリックス材料中に分散してもよい。
【0047】
本アプローチの実施形態は、1種以上のマイクロフィラー粒子を含んでもよく、これはマイクロフィラーとも呼ばれる。好適なマイクロフィラーの選択は、所望の実施形態によって異なるが、一例として、マイクロフィラーは、h-BN小板及び複合体球体、ダイヤモンド粉末、アルミナ球体のような、様々なサイズ及び形状の誘電フィラーであってもよい。いくつかの実施形態では、マイクロフィラーは、銅、銀、又は黒鉛粒子のように、導電性であってもよい。いくつかの実施形態では、複数のマイクロフィラーを使用してもよい。得られるマイクロフィラー(複数可)は、好ましくは、総固体添加量(重量%)及び充填密度を全体で増大できる粒径分布を有する。例えば、マイクロフィラー粒子は、1~100μm、典型的には10~50μmの範囲の平均粒径を有し得る。
【0048】
本アプローチの一実施形態では、ポリマー中のBNNTの添加量が80重量%を超えると、有効熱伝導率は約5.9W/m・Kに達した。その他の実施形態では、BNNTにポリスチレン及びエポキシ樹脂を注入することによって、約3.61W/m・K(35重量%BNNT)及び約3W/m・K(30重量%BNNT)の熱伝導率を達成した。これらの実施形態は、合成したままのBNNT、すなわち、なおも元素状ホウ素をホウ素ナノ粒子の形態で20~50重量%の規模で含有する未精製BNNT材料に基づく。BNNTの更なる精製及び/又は表面改質を用いて、TIM中のBNNTの分散を更に強化し得る。更に、TIM性能を改良するために、より低粘度のフィラーを使用してもよい。得られる組み合わせは、フィラー粒子間の接触を増大し、マトリックスを形成するポリマーを通じた熱輸送を避けることによって、BNNTネットワークの熱伝導の達成を促進する。同様の取り組みにより、BNNT-ガラス繊維-エポキシ-B4C複合体の構造的性能の強化が得られた。
【0049】
BNNT改質TIMは、より高い充填密度と、改良されたフォノン輸送効率を有し、その結果図4に示すように高い熱伝導率を生じ、本アプローチによると、TIMを通じた熱輸送を強化するための精製及び解凝集BNNTを含み得る。図4は、シリコンダイ403と熱スプレッダ405との間のTIM401の実施形態を示す。これは正確な縮尺ではなく、いかなる相対的な粒径又は添加量を示唆することも意図しない。マイクロフィラー粒子407間の粒子間のスペースにBNNT409が含まれる。典型的なマイクロフィラーの熱伝導率はポリマーマトリックスの熱伝導率よりも2桁以上大きいことを考慮すると、粒子間スペース及びBNNTとマイクロフィラーとの間の界面に、改良の余地がある。複合体TIMにおける効率的な熱伝達(及び高い熱伝導率の改良)に対する最大の制限は、マイクロフィラー粒子間の高い熱抵抗性、すなわち非効率な熱伝達である。熱抵抗は、充填剤粒子間の界面で高く、これは(1)低熱伝導率のマトリックス材料の粒子間のギャップ、及び(2)フォノンエネルギーが、フィラー粒子間の充填密度を改良することによるTIM内の高熱伝導率BNNT熱輸送の包含とミスマッチであることによる。複合体を含む非金属における熱伝達は、マトリックス及びマイクロフィラー粒子を通ってTIMを横切るフォノンから生じる。多数の実施形態に最適な性能は、TIM中にマイクロフィラー粒子のマルチスケール分布が存在し、かつ正味のフィラー添加量が50~90重量%の範囲にある場合に起こる。しかしながら、いくつかの実施形態は、これらの添加量以外で最適性能を示し得る。
【0050】
BNNTの推定熱伝導率は>3,000W/m・Kで、銅の熱伝導率のほぼ8倍である。BNNTは、わずか数パーセントの添加量で、エポキシ、シリコーン油、シアノアクリレートなどの材料の粘度を上昇する。BNNTは一般的に、熱管理の観点から有用となる特性を有するが、BNNTの品質及び特徴は、誘電熱管理材料としての有効性に大きな影響を有する。化学気相堆積法(CVD)のボールミルなどの低温法によって製造された低品質BNNTと比べて、高品質BNNTは、壁が少なく、直径が小さく、結晶性欠陥が少ない。結果として高品質BNNTは高い熱伝導率を有する。合成したままのBNNT材料を製造するためのプロセスは、BNNTの品質及び特性決定に影響する。合成したままのBNNTの様々な形態のうち、BNNT社がその特許技術である無触媒、高温プロセスを用いて製造した高品質高結晶性BNNTは、平均2層~4層である。これらのBNNTの長さは数百nm~数百μmの範囲であり、約2nm~約15nmの直径内の平均長さは4μmである。低品質BNNTは、典型的には10~50層、直径わずか50~100nmの範囲で、構造に多数の欠陥があり、個々の特質によっては、本アプローチのいくつかの実施形態に適さない場合がある。
【0051】
当然のことながら、合成プロセスを修正して、特定の特徴を有するようにBNNT材料を調整してもよい。例えば、無触媒、高温及び高圧プロセスの様々な条件を操作してもよく、その例としては(限定するものではないが)次のものがある:ホウ素溶融物のサイズ、窒素圧、ホウ素溶融物上の窒素流動場速度、溶融物への熱分布、窒素ガスの温度分布、及び溶融物周辺の窒素ガスの剪断速度分布。これらは例であって、個々の合成プロセスに当てはまる場合も当てはまらない場合もあること、及び各合成プロセスは、合成したままのBNNTに影響するように調整した特定の条件をもたらすと考えられることを、当業者は理解するべきである。
【0052】
上記のように、合成したままのBNNT材料を精製して、様々なホウ素種を除去(すなわち量を低減)してもよい。図5A及び図5Bは、2つのBNNT材料を示す。図5Aの材料は、無触媒、高温、高圧法から製造した合成したままのBNNT材料を示し、図5Bの材料は、同じ合成したままのBNNT材料のホウ素粒子除去後である。図5Bの精製BNNT材料は、ホウ素粒子含有量が約5重量%未満である。ホウ素除去の影響は、図5Aで茶色の合成したままのBNNT材料から、精製BNNT材料303の青/白色への明確な色変化により目視できる。加えて、BETによって測定した表面積は、精製材料では10~100%増大している。
【0053】
表1は、精製BNNT材料の例を、選択した材料特性と共に列挙する。精製BNNT材料は、BNNT社製である。
【0054】
【表1】
【0055】
概して、BNNTは約50質量%がP1G及びP2G、30質量%がP3G、30質量%未満がP0Gである。BNNT材料は、10μmのオーダーの長さに延びるナノチューブネットワークを有する。図6AはBNNT材料のSEM画像を示し、図6BはBNNT材料のTEM画像を有する。これらの画像において、BNNT材料は、BNNT社からのP2Gである。h-BNナノケージの可視粒子及び数個のh-BNナノシートが、精製BNNT材料全体に見られる。
【0056】
本明細書に記載のプロトタイプに使用されたBNNT材料に関して、h-BNナノケージは、典型的には約3~約15層を有し、h-BNナノシートは典型的には約1~約10層を有する。h-BNナノシートは、数百nm~数μmのオーダーの寸法を有する。図7Aは、BNNT703中に存在するh-BNナノケージ701のTEM画像を示し、図7BはBNNT707中に存在するh-BNナノシート705を示す。図7A及び図7Bに示す精製BNNT材料は、上で参照したBNNT社のP0G材料である。
【0057】
本アプローチによると、TIMは1種以上のマイクロフィラー材料を含んでもよい。熱管理材料に好適なマイクロフィラーは市販されている。例としては、限定するものではないが、窒化アルミニウム(AlN)、酸化アルミニウム(Al23)、窒化ホウ素(BN)、ダイヤモンド、及び窒化ケイ素(Si43)などの電気絶縁マイクロフィラーが挙げられる。マイクロフィラー材料は、様々なサイズの粒子を含み得る。いくつかの実施形態では、広いサイズ分布のマイクロフィラー粒子を使用して、体積添加量を増やすことによって熱ネットワークを最適化し得る。特定の2-Dマイクロフィラー、例えば、ナノフィブリル化セルロース(NFC)と組み合わせたBNNSは、マイクロフィラーのアライメント平面において並外れた熱伝導率を有することが明らかになっており、いくつかの実施形態に好適となり得る。
【0058】
現在入手可能な熱伝導性かつ電気絶縁性の界面材料は、フィラーの添加量が70~90体積%と高く、約1~6W/m・Kしか達成しない。BN充填接着剤では0.5~5W/m・Kの範囲の値が一般的であるが、30W/m・Kという高い熱伝導率が、ポリベンゾオキサジン(PBz)フェノール樹脂を含む高添加量BN充填接着剤で達成されている。30W/m・Kの材料に使用したPBzフェノール樹脂は、機械的特性と接着特性が低いが、いくつかの実施形態には好適となり得る。例えば、PBzは、いくつかの実施形態においてエポキシ添加剤として含まれる場合がある。
【0059】
図8は、様々なBNNTポリマー複合体の熱伝導率の公表値を示す。現在までに、BNNT改質ポリマーマトリックスで達成された最も高い熱伝導率(5.9W/m・K)は、ポリスチレン(PS)中で、BNNT社のチームによって達成された。ポリマー結合BNNTセラミック複合体混合物は、70重量%を超える添加量でその接着特性を維持している。
【0060】
本アプローチによると、BNNTとポリマーマトリックス内に分散した複数のサイズのマイクロフィラーとの組み合わせは、熱管理材料のための熱伝導率を改良する。粒径は、BNNTの直径の数ナノメートルから、BNNTの長さの数マイクロメートル、マイクロフィラー粒子の数十マイクロメートルまでの範囲である。このサイズ分布は、マクロスケールの構造を通って熱を効率的に移動させるネットワークを作る。
【0061】
いくつかの実施形態では、マイクロフィラーは、窒化ホウ素、ダイヤモンド粉末、窒化アルミニウム、及び酸化アルミニウムを含んでもよい。しかし、高周波RF TIMは、多くの場合、誘電率を最小限に抑える必要がある。球状窒化アルミニウム及び酸化アルミニウムは、BN及びダイヤモンドと比べて、粘度に対する影響が比較的小さいことは有利であるが、RF性能が低い。
【0062】
ダイヤモンド粉末は熱伝導率が高い;しかし、その硬度と、密に充填できないこと(不定形であるため)が、ボンドライン厚が薄いTIM又は摩耗の影響を受けやすい用途での使用を妨げる。
【0063】
本アプローチの実施形態は、1種以上のポリマー材料を用い得る。例えば、エポキシ接着剤をいくつかの実施形態で使用し得る。マトリックス材料としては、限定するものではないが、エポキシ樹脂、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリジメチルシロキサン、熱可塑性ポリウレタンシアノアクリレート、ポリベンゾオキサジン改質エポキシ樹脂、ナイロンが挙げられる。
【0064】
当然のことながら、その他のポリマー材料を使用してもよい。多数のポリマー材料は、0.1~0.3W/m・Kの熱伝導率を有する。ナノスケール及びマイクロスケールの材料がポリマー中に存在することは、複合体の粘度、強度、接着などの特性に強く影響する。例えば、わずか数重量パーセントのBNNTをエポキシ樹脂又はシリコーン油に添加することで、はるかに高い粘度を有するペーストが得られる。充填エポキシ接着剤は、高出力電子産業において、コンポーネント内と、電子コンポーネントを熱管理コンポーネントに取り付けるための両方で、有望なTIMである。一実施形態では、短鎖アミンを有するビスフェノールA樹脂を高速硬化性硬質エポキシとして使用してもよい。未改質ビスフェノールAニート樹脂の粘度は、4,000~20,000cPの範囲である。低粘度の樹脂を用いると、フィラーを高い添加量で分散することが最も容易になる。
【0065】
ボイドはTIM複合体の熱伝導率に悪影響を及ぼす。BNNTの添加は、本アプローチによると、マイクロフィラー粒子間のボイドを埋める。BNNT材料は、合成したままのBNNT材料、精製BNNT材料、解凝集BNNT材料、表面改質BNNT材料、及びこれらの組み合わせであってもよい。エポキシ樹脂、BNNT材料、及びマイクロフィラーは、撹拌、音波処理、プラネタリーミキサー処理など、当該技術分野で利用可能な、TIM全体の均質性を高める技術を用いて混合してもよい。
【0066】
PBz強化エポキシ接着剤、熱可塑性ナイロンマルチポリマーの上面コーティング、及びPTFE高RF(無線周波数)積層体は、本アプローチによるBNNT材料を含み得るTIMの更なる例である。上に論じたように、PBzを使用すると、一般的なエポキシ樹脂と比べて、フィラー体積パーセントが高くなり、非常に高い熱伝導率が達成されている。PBzは、エポキシ樹脂と比べて低粘度(20cP)であり、短時間で硬化し、保管寿命が90日を超え、スケール変更可能なプロセスに非常に適しており、かつ高弾性率であることから、有用である。いくつかの実施形態では、PBz/BNNT材料複合体を、エポキシ又は他のマトリックス材料と組み合わせてもよい。
【0067】
いくつかの実施形態は、劣化削減を含め、電子コンポーネントの局所環境への曝露を低減するため、上面コンフォーマルコーティングの形態をとってもよい。本アプローチを、プリント配線板(PWB)のコンポーネントのコーティング及びアセンブリの熱伝導率を改良するために使用してもよい。一例として、溶解したナイロンマルチポリマー熱可塑性樹脂を使用して、スプレー塗布用の分散複合体を作製してもよい。BNNTを、ガラス繊維、アルミニウム、銅、ステンレス鋼、及びPTFEにスプレーコーティングして、基板の表面プロファイル及び特性を改質してもよい。これは、BNNT材料(精製BNNT材料であってもよい)を、アルコールなどの溶媒中に分散し、当該BNNT分散を基板上にスプレーし、その後溶媒を蒸発させることによって実施してもよい。いくつかの実施形態では、上面コーティングは、BNNT材料/マイクロフィラーと、融解温度が低い可溶性熱可塑性樹脂との混合物を用いて適用されてもよい。適用されたTIMフィルムは、流動してコンフォーマルコーティングを形成し得る。
【0068】
現在の高RF PWBは、最も一般的にはマイクロ粒子充填PTFEから製造され、1.5W/m・K以下の熱伝導率を有する。低い熱伝導率は、熱流を制限し、半導体のTjに悪影響を及ぼす。本アプローチは、例えば衛星通信、ナビゲーション、及び撮像に使用されるRFコンポーネント及びシステムの熱工学的制限を大幅に改善する。BNNTの卓越した誘電特性は、かかる用途に有利である。
【0069】
PTFE/微粒子積層体は、現在ハイエンドPWB基板に商業利用されている。接着用途に類似した方法では、本アプローチのBNNT材料/マイクロフィラー系をPTFE粉末と混合してもよい。得られた材料を、任意でアルゴン又はその他の不活性ガス下で圧縮成形して、PTFE粒子を溶融及び流動させてハイブリッドフィラーとし、均質な複合体を形成してもよい。
【0070】
上で論じたように、2017年11月29日に提出され、全体が参照により援用される特許文献7に記述されるようなBNNT精製工程を使用して、物質の1質量パーセント以下までホウ素粒子の量を低減し得る。いくつかの実施形態では、高品質BNNT、すなわち、壁(層)の数が1~10(大部分は、2層及び3層である)の範囲にあり、長さ対直径の比が典型的には10,000対1以上であり、BNNTが無触媒であり、BNNTが高結晶性で欠陥が非常に少ない(直径の100倍の長さにつき1個未満の欠陥)であるBNNTは、BNNT材料として好ましい。
【0071】
合成したままのBNNT材料は、多くの場合、BNNT以外のホウ素種を多数有する。表2は、BNNT社から入手可能な合成したままのBNNT材料の更なる例を、おおよそのホウ素粒子含有量(質量%)、及び最も優勢な同素体(主)、及び2番目に多い同素体(副)と共に示す。
【0072】
【表2】
【0073】
BNNT社製のBNNT材料に関して、合成したままのBNNT材料を「ベータ」と呼び、精製BNNT材料を「ガンマ」と呼ぶ。簡略のため、Q2ベータをQ2Bと呼び、精製されたQ2ガンマ材料をQ2Gと呼び、他の種類についても同様とする。図9は、Q0G1301(左上)、Q1G1303(右上)、Q2G1305(左下)及びD2G1305(右下)のSEM画像を、精製BNNT材料の実施形態の例として示す。
【0074】
以下の段落は、小規模実施形態に適用された本アプローチの例を示す。1つのプロトタイプでは、Q1G BNNTを、マルチスケールサイズ分布のダイヤモンド粒子(80重量%)を有するエポキシ系(20重量%エポキシ樹脂)のペーストに含んだ。Q1G BNNTの添加により、ダイヤモンド/エポキシペーストの熱伝導率は1.700±0.039から2.203±0.049W/m・Kまで30%近く上昇した。熱抵抗もほぼ同じだけ上昇したが、熱抵抗の工業規格(50psiで<0.1in2・C/W)の観点から、この初期プロトタイプのエポキシ/BNNT材料/ダイヤモンドペーストは競争力がある。
【0075】
追加のプロトタイプTIMにおいて、BNNT社製の異なるBNNT材料を使用した。h-BN小板(49重量%h-BN)を有するシリコーン系のペーストに、試験したBNNT材料のいずれかを1重量%添加した結果、表4に示すように、熱伝導率が上昇した。
【0076】
【表3】
【0077】
熱的性能は、使用するBNNT材料の種類に応じて変動する。BNNT社が合成した様々なBNNT材料を1重量%含有するシリコーン系(50重量%)ペースト及びh-BN小板(50重量%)の場合、D2G材料が熱伝導率に関して他の全てを上回る性能を示した。
【0078】
TIMは、いくつかの実施形態で重要となり得るその他の特徴、なかでも特に、振れ(run-out)、蒸発速度、絶縁耐力、高温安定性、無線周波数透過性などを有する。極端な温度、圧力、及び/又は湿度環境では、接着のための粘着性、温度安定性、及び真空での性能が、TIMの性能にとって重要となり得る。BNNTは、独自の特性を豊富に有することで、BNNTで作製したTIMに、熱安定性、RF透過性、絶縁耐力などの多機能性を付与することができ、これは極端な条件を意図した実施形態に有利となり得る。
【0079】
いくつかの実施形態では、粒子間の熱輸送を更に改良するために、1つ以上のコンポーネントの表面が、共有結合性又は非共有稀有合性で改質されてもよい。例えば、上記のようなエポキシ実施形態は、窒化ホウ素(BN)にしっかりと界面を接するPBzなどのポリマーによって強化されてもよい。エポキシ/PBz/BNNT材料/マイクロフィラー系を、熱可塑性コンフォーマルコーティング内で、回路基板の上面へ適用してもよい。この系をPTFEと混合して、高RFシステム用積層板を作製してもよい。いくつかの実施形態では、BNNTの表面を共有結合又は非共有結合性の化学によって改質し、BNNTからマイクロフィラー粒子へのフォノン輸送を改良してもよい。BNNTに追加した官能基のフォノンエネルギーは、マイクロフィラー粒子によりよくマッチする。
【0080】
本アプローチによると、BNNTのマトリックス中への解凝集及び分散は、熱性能特性に影響し得る。当業者は、音波処理、撹拌、化学処理、並びにポリマー及び界面活性剤の使用が挙げられるがこれらに限定されない、多種多様な解凝集及び分散技法を理解するであろう。撹拌のような穏やかな技法は、解凝集ステップ中にBNNTのモルホロジーを最もよく保全する可能性があるが、個別のBNNTを単離するために、より強力な処理が必要となり得る。本明細書に記載のように、精製、解凝集、及び表面改質による分散性の改良は、複合体材料の熱的特性を改良する。
【0081】
本アプローチのいくつかの実施形態は、(1)個別のBNNT分子の分散を助けるため、及び(2)高い固体含有量においてTIMの粘度を低下させるために、ポリマー又は界面活性剤の添加を必要とする場合がある。例えば、球状h-BN及び無孔性ダイヤモンド粉末を用いた90重量%という高い添加量のエポキシマトリックス及びマイクロフィラーを用いたいくつかの実施形態では、得られるペーストが崩壊しすぎて、有意義な測定値が得られなかった。界面活性剤(ドデシル硫酸ナトリウムなど)の添加は、最終複合体のボイド増大というリスクを伴いながらも、粘度を改良し、より高い固形含有量を可能にし得る。球状マイクロフィラー材料は、これらの粒子は互いに滑ることができる(特に界面活性剤及びシリコーンの存在下で)ことから、いくつかの実施形態で有利となり得る。
【0082】
ASTM D-5470の確認法を用いて、面方向圧力及びボンドライン厚依存性の熱抵抗を決定し、TIMの熱伝導率と接触抵抗を計算する。この方法は、代表的な最終用途の条件(温度、時間、圧力、ボンドライン厚)の下で多数の実施形態の熱的性能を可能にするペースト試料と固体試料の両方を測定することができる。
【0083】
面直方向の熱伝導率及び熱抵抗については、リファレンスバー法が、定常状態の熱伝導率のサーモグラフィベースの測定法である。この方法では、基板の役割を果たす黒色のテフロンフィルムと、測定システム内のリファレンス材料との間にTIM複合体を適用してもよい。実際のシステム(例えばアルミニウム及びシリコン)におけるゲージ接触抵抗をよりよくするため、様々な基板を使用できる。界面の断面周辺の熱勾配を使用して、試料の熱伝導率を決定し得る。更に、接触抵抗によって生じる熱勾配の不規則性の特徴を決定できる。熱界面抵抗は、固有熱伝導率から空間解像度(20xの倍率で30ミクロン)の約20倍を超える試料について空間的に分離できる。IR顕微鏡は、熱源の出力レベルが異なる、2次元温度図を記録する。フーリエの法則を用いて、公知の参照材料から熱流を計算し、次いで、試料の熱伝導率の測定に使用してもよい。
【0084】
面内熱伝導率は、オングストローム法を用いて特性評価でき、これは試料の繊維又は細片の時間依存的熱拡散を測定する。測定値は、熱顕微鏡を使用して、抵抗加熱したワイヤからのフレーム当たりの熱放散をビデオ録画することで得られる。熱伝導率を得るため、比熱及び密度の値を、それぞれ示差走査熱量測定及び次元解析によって取集してもよい。この方法に使用する試料は、厚さ100μmのキャストシートから得た複合体の細片(幅1mm×長さ3cm)とすることができる。
【0085】
本アプローチの実施形態は、初期のBNNT合成プロセスに応じて変動し得ることを当業者は理解すべきである。特定の合成プロセスから得られるBNNT材料は、直径及び長さ平均から不純物含有量までに及ぶ様々なパラメータを有するであろう。かかるパラメータは、異なる合成プロセスでは大きく変動し得る。これらのパラメータは、次に、本アプローチによる実施形態のためのBNNT材料の調製に適し得る合成後加工(例えば、精製、解凝集、表面改質など)に影響する可能性が高いであろう。開示された実施例は例示的なものとして提供されており、本アプローチの範囲を限定するものと理解されるべきではない。
【0086】
本明細書で使用する用語は、特定の実施形態を説明する目的のものだけであり、アプローチを制限することを意図するものではない。文脈上別途明記しない限り、本明細書で使用する場合、単数形(「1つの」(a、an)、及び「当該」(the))は、複数形も同様に含むことを意図する。本明細書中で使用する場合、用語「を含む(comprises)」及び/又は「を含む(comprising)」は、言及した特徴、整数、工程、操作、要素、及び/又はコンポーネントの存在を明記するものの、1つ以上の他の特徴、整数、工程、操作、要素、コンポーネント、及び/又はこれらの群の存在又は追加を除外するものではないことが更に理解されよう。
【0087】
本アプローチは、本アプローチの精神又は本質的特徴を逸脱することなく、他の特定の形態で実施可能である。開示された実施形態はそれ故、全ての点を、限定的なものではなく例示的なものとして考慮することができ、本アプローチの範囲は、前述の説明ではなく出願における特許請求の範囲により示されており、特許請求の範囲における意味及び等価な範囲内に収まる全ての変化はそれ故、特許請求の範囲に包含されることを意図する。様々な可能性が利用可能であり、本アプローチの範囲は本明細書で記載される実施形態に限定されないことを、当業者は理解すべきである。
図1
図2
図3A
図3B
図4
図5A
図5B
図6A
図6B
図7A
図7B
図8
図9a)】
図9b)】
図9c)】
図9d)】