(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-07
(45)【発行日】2024-05-15
(54)【発明の名称】無線周波数フィルタのための補正ユニット
(51)【国際特許分類】
H03H 9/64 20060101AFI20240508BHJP
H03H 9/145 20060101ALI20240508BHJP
【FI】
H03H9/64 Z
H03H9/145 D
(21)【出願番号】P 2020546982
(86)(22)【出願日】2019-03-08
(86)【国際出願番号】 EP2019055828
(87)【国際公開番号】W WO2019170853
(87)【国際公開日】2019-09-12
【審査請求日】2022-02-02
(32)【優先日】2018-03-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】NO
(73)【特許権者】
【識別番号】516221328
【氏名又は名称】コングスベルグ ディフェンス&エアロスペース アクティーゼルスカブ
(74)【代理人】
【識別番号】110002066
【氏名又は名称】弁理士法人筒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ペテルセン,ビョルン ホルスト
(72)【発明者】
【氏名】ルース,スティグ
【審査官】及川 尚人
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-070272(JP,A)
【文献】特開2005-176338(JP,A)
【文献】特開平07-176978(JP,A)
【文献】特開2002-158504(JP,A)
【文献】特開昭61-065615(JP,A)
【文献】実開昭60-019230(JP,U)
【文献】特開2006-261964(JP,A)
【文献】特開平09-214284(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H03H 9/145-9/76
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1のバスおよび第2のバスを含む無線周波数伝送線路に接続された入力界面および出力界面を有するバンドパスフィルタと共に使用するためのフィルタ補正ユニットであって、
前記バンドパスフィルタは、通過帯域応答を有する所定の周波数範囲内で信号を伝送するように選択され、
前記バンドパスフィルタは、
当該バンドパスフィルタの通過帯域応答内の通過帯域振幅のピークを生成する共振器を含み、
前記
フィルタ補正ユニットは、前記無線周波数伝送線路および前記バンドパスフィルタに接続された
前記第1のバスを有し、
前記フィルタ補正ユニットは、
補正素子としての、少なくとも1つの表面音響波(SAW)変換器を備え、
前記SAW変換器の各々は、圧電基板上に2つの電極を有し、一方の前記電極は、前記第1のバスに接続され、他方の前記電極は、
前記第2のバスに接続され、
それにより、前記フィルタ補正ユニットの、補正素子としての前記SAW変換器の各々は、前記無線周波数伝送線路に沿って前記バンドパスフィルタに並列に接続され、
前記SAW変換器の周波数依存性の損失は、伝送された信号の振幅を、前記バンドパスフィルタの既知の通過帯域応答の
逆のファクタと一致させ
、前記通過帯域振幅のピークの振幅を減少させて、前記バンドパスフィルタの周波数応答を平坦化するように構成されている、
フィルタ補正ユニット。
【請求項2】
前記第2のバスは、接地されている、請求項1に記載のフィルタ補正ユニット。
【請求項3】
前記バンドパスフィルタは、圧電基板材料上に作製され、前記SAW変換器は、前記圧電基板材料と同じ圧電基板材料上に作製される、請求項1に記載のフィルタ補正ユニット。
【請求項4】
前記第1のバスは、前記フィルタ補正ユニットの第1の入力および出力界面の両方に接続される、請求項1に記載のフィルタ補正ユニット。
【請求項5】
前記第2のバスは、前記フィルタ補正ユニットの第2の入力および出力界面の両方に接続される、請求項1に記載のフィルタ補正ユニット。
【請求項6】
少なくとの1つの前記SAW変換器が結合する主要な音響波モードは、擬似的なSAWモードである、請求項1~5のいずれか1項に記載のフィルタ補正ユニット。
【請求項7】
少なくとも1つの前記SAW変換器が結合する主要な音響波モードは、表面に結合した漏れ波モードである、請求項1~5のいずれか1項に記載のフィルタ補正ユニット。
【請求項8】
誘導性素子と容量性素子とを含み、前記容量性素子の一方の端部は、第1の伝送線路または前記バンドパスフィルタの前記入力界面および出力界面の一方に接続され、他方の端部は、接地され、前記誘導性素子は、前記第1のバスと前記伝送線路またはフィルタ界面との間で接続され、前記
誘導性素子と前記容量性素子は、前記伝送線路および前記
バンドパスフィルタに対する前記フィルタ補正ユニットのインピーダンス整合を改善するように選択される、請求項1~4のいずれか1項に記載のフィルタ補正ユニット。
【請求項9】
誘導性素子と容量性素子とを含み、前記容量性素子は、第1および第2の伝送線路またはフィルタ界面の間で接続され、前記誘導性素子は、前記第1または前記第2のバスと前記第1または前記第2の伝送線路または前記バンドパスフィルタの前記入力界面および出力界面の一方との間で接続され、前記
誘導性素子と前記容量性素子は、前記伝送線路および前記フィルタに対する前記
フィルタ補正ユニットのインピーダンス整合を改善するように選択され、前記
バンドパスフィルタは、バランスのとれた4ポートバンドパスフィルタである、請求項1、3、4および5のいずれか1項に記載のフィルタ補正ユニット。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか1項に記載のフィルタ補正ユニットを2つ含むフィルタ補正システムであって、
前記フィルタ補正ユニットは、前記バンドパスフィルタの前記入力界面および出力界面の両方に接続される、フィルタ補正システム。
【請求項11】
請求項1~10のいずれか1項に記載のフィルタ補正ユニットを含む無線周波数フィルタであって、
前記バンドパスフィルタは、接地された容量性フィルタ素子から構成
されかつ当該容量性フィルタ素子を含み、前記容量性フィルタ素子は、少なくとも1つの前記SAW変換器を介して実現され、前記
SAW変換器の各々は、圧電基板上に2つの電極を有し、第1の前記電極は、前記バンドパスフィルタの内部に接続され、第2の前記電極は、接地され、前記SAW変換器の周波数依存性の損失は、伝送された信号を前記
バンドパスフィルタの既知の通過帯域応答の
逆のファクタと一致させるように、および
前記バンドパスフィルタの応答を定義するために必要な容量を実現するように構成される、無線周波数フィルタ。
【請求項12】
前記
バンドパスフィルタは、LCフィルタである、請求項11に記載の無線周波数フィルタ。
【請求項13】
前記
バンドパスフィルタは、コームライン構造内で結合された伝送線路を備える、請求項11に記載の無線周波数フィルタ。
【請求項14】
前記無線周波数フィルタ内に組み込まれた伝送線路は、マイクロストリップ線路である、請求項11~13のいずれか1項に記載の無線周波数フィルタ。
【請求項15】
前記無線周波数フィルタ内に組み込まれた伝送線路は、ストリップラインである、請求項11~13のいずれか1項に記載の無線周波数フィルタ。
【請求項16】
伝送線路および前記SAW変換器
は、前記バンドパスフィルタ内に組み込ま
れ、
前記伝送線路
および前記SAW変換器は、単一の圧電基板上に配置される、請求項11~15のいずれか1項に記載の無線周波数フィルタ。
【請求項17】
少なくとも1つの前記SAW変換器が結合する主要な音響波モードは、擬似的なSAWモードである、請求項11~16のいずれか1項に記載の無線周波数フィルタ。
【請求項18】
少なくとも1つの前記SAW変換器が結合する主要な音響波モードは、表面に結合した漏れ波モードである、請求項11~16のいずれか1項に記載の無線周波数フィルタ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無線周波数用途、特にマイクロ波領域内またはその近傍におけるフィルタ補正のための1つまたは複数の表面音響波(SAW)変換器の使用に関する。
【0002】
以下の発明は、一般的には無線周波数装置に関し、詳細には無線周波数フィルタに関し、より詳細には音響波装置を採用した無線周波数フィルタの分野に関する。
【背景技術】
【0003】
様々な通信システム、特に通信衛生システムにおいて、利用可能な周波数スペクトルを効果的に利用するには、高性能な無線周波数(RF)フィルタが必要である。その用途では、一般に、通過帯域が非常に平坦であり(フィルタの通過帯域での挿入損失のばらつきが少ない)、除去帯域が良好に抑制され、除去帯域への急峻な遷移をもちながら、質量が低く小型であるフィルタが必要とされている。高性能なRFフィルタを設計する場合、達成可能な電気的性能は通常、使用される共振器技術の品質係数(Q値)によって制限され、高いQ値の技術は通常、フィルタの質量と大きさに関して不利益をもたらす。通信システムの受信側で低雑音増幅器(LNA)の後に使用されるフィルタのような一部の用途において、LNAの利得(ゲイン)を増加させることでフィルタに関連する損失を補償することができるため、平均挿入損失レベルに関連するフィルタ要件が緩和される。これらの用途において、鋭い遷移帯域端、良好な通過帯域性能および除去帯域への急峻な遷移を実現するために、高いQ値が主に必要とされる。その結果、挿入損失の要件の緩和を活用してRFフィルタの通過帯域性能を向上させるために、複数のフィルタ設計技術が開発されてきた。これにより、組み込まれた共振器の必要とされるQ値を減少させて、対応するRFフィルタの大きさおよび質量を減少させることができる。これらの設計技術は、後述するように、一般的に予歪および損失の多い(lossy)フィルタの設計原理に依存する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
共振器の無限のQ値を仮定した従来の無損失(lossless)フィルタ設計において、所望のフィルタ応答は、通常、フィルタに組み込まれた共振器の伝送極とゼロ点に対応する根をもつ多項式関数によって定義される。実現されると、無損失合成技術を用いて設計されたフィルタが実現されると、フィルタは、使用される共振器のQ値が有限であるために、伝送多項式の根へのシフトを示す。これは、一般的に、非ゼロの挿入損失と遷移帯域端の丸みによる通過帯域性能の低下を特徴とする無損失応答の劣化をもたらす。予歪技術は、参考文献[1]および[2]に記載されるように、設計されたフィルタの伝送極にシフトを導入して、有限のQ値によって導入されたシフトを補償する。これにより、有限のQ値を有する共振器を使用してネットワークを実現するときに導入される曲率に対抗して、無損失応答の通過帯域に曲率を効果的に導入することができる。予歪設計技術の欠点は、挿入損失を増加させながら、反射損失を大幅に劣化させることである[3]。
【0005】
予歪に基づく設計技術がフィルタ応答を定義する多項式関数を修正するのに対し、損失の多い設計技術は、不均一な散逸、追加および/または再分配された損失ならびに修正されたフィルタトポロジーを適用して、挿入損失を犠牲にしながらフィルタの通過帯域性能を向上させる。文献に記載されている損失の多いフィルタ合成技術は、一般に、所望のフィルタ応答の無損失多項式記述の極とゼロ点を実現する無損失(無限のQ値を有する)フィルタトポロジーから開始する。次いで、無損失フィルタネットワークの外部に散逸性素子が追加され、ネットワークに類似性変換が適用されて、ネットワーク内の損失が再分配される。その結果、散逸性クロスカップリングと有限のQ値の共振器とを含む修正されたフィルタトポロジーを得ることができる[1][4]。文献には、散逸性クロスカップリングを用いたフィルタネットワークの数値最適化に依存する損失の多いフィルタ設計戦略も報告されている。損失の多いフィルタネットワークに共通するのは散逸性クロスカップリングの導入であるが、これは、フィルタの複雑さを増大させる可能性がある。
【0006】
反射損失性能を著しく劣化させることなく、または散逸性クロスカップリングを用いた複雑なフィルタトポロジーを導入することなく、任意のフィルタの通過帯域性能を向上させるために挿入損失を犠牲にする代替的な方法として、通過帯域外の周波数と比較して、接続されたフィルタの通過帯域の周波数範囲内で散逸性特性が増加した、整合する周波数依存性の損失誘導性素子に、フィルタを接続することが挙げられる。損失誘導性素子の散逸プロファイルが、接続されたフィルタの通過帯域内の挿入損失のばらつきに対抗するように構成された場合、その素子によって導入された損失は、フィルタ応答を修正して、通過帯域の挿入損失のばらつきが低減された全体的なネットワーク応答が生成され得る。以下に記載する発明は、周波数依存性のアドミタンスとして作用する表面音響波(SAW)変換器を使用することで、そのような損失誘導性素子を実現する。当業者に知られているように、および従来技術を示す
図1aおよび
図1bに示すように、SAW変換器は、圧電基板上に2つの電極を有する。各電極は、他方の電極の電極フィンガーに重なるフィンガー構造101,102のセットに対応する。変換器の一方の電極をフィルタの入力端子または出力端子に接続し、他方の電極を接地することで、またはバランスのとれた4ポートフィルタと使用する場合には第2の入力端子または出力端子に接続することで、フィルタの通過帯域内に周波数依存性の損失が導入され得る。以下に記載するように、1つまたは複数のSAW変換器の散逸プロファイルは、電極フィンガーの形状を操作することで、接続されたフィルタの通過帯域に整合するように調整することができる。また、SAW変換器を接続されたフィルタの内部に配置することで、フィルタ内のシャント接続された容量性素子を置き換えることができ、また、フィルタの通過帯域内に損失を選択的に導入することができる。
【0007】
表面音響波(SAW)共振器を使用して、接続されたフィルタにノッチの形態で損失を選択的に導入することができることが以前に実証されている。米国特許第7,791,436B2および欧州特許第1935094号には、フィルタの通過帯域内またはその近傍にノッチ応答を導入するために、接地されたSAW共振器と組み合わされたフィルタが記載されている。低周波数において、SAW共振器の音響的に活性な領域の外側では、共振器応答は、コンデンサ(キャパシタ)の応答とほぼ同じであるため、接続されたフィルタ内の容量性素子を置き換えることができる。周波数が高くなると、共振器応答は、共振周波数の近傍で短絡状態に遷移してから、反共振周波数の近傍で開回路状態に遷移する。反共振を超える周波数では、共振器は、再び容量性素子に近い状態に戻るように遷移する。したがって、接地されたSAW共振器は、共振周波数の近傍で、接続されたフィルタの応答にノッチを導入する。このノッチは通常、共振時のアドミタンスが高いために数十dBと深く、SAW共振器のQ値が高いために急峻になる。例えばシャント接続されたラダー型(ladder type)構成のようにSAW共振器と組み合わせることで広帯域のノッチ応答を生成することができるが、このノッチの形状は、容易には操作することができない。また、数dBの浅い補正が必要な場合、共振器のアドミタンスピークに基づくノッチ素子は、全体的に高すぎる。
【0008】
その一方で、以下に記載する発明では、当業者に知られている従来のSAW設計技術を用いてSAW変換器のアドミタンスが容易に生成されるため、シャント接続されたSAW変換器に依存して、接続されたフィルタに損失を誘発することができる。また、SAW変換器のアドミタンスピークは、同程度の変換器開口(aperture)を有するSAW共振器よりも数桁小さいため、接続されたフィルタでは数dBの補正が可能である。
【0009】
受動的マイクロ波フィルタを設計する際には、無損失素子の場合に優れた方法(および数学的記述)が存在する。素子に損失を導入すると、通過帯域の振幅端の丸みによる劣化や(無損失に関する説明で記載した)反射損失の劣化が生じる。従来技術で既知の技術として、予歪(損失を補償するための一次近似)や損失の多いフィルタ合成が挙げられる[3]。本願は、上記問題を扱うが、アプローチはまったく異なる。クロスカップリングを含む非常に複雑なネットワークを使用する代わりに、その複雑さは、SAW素子、すなわちSAW補正素子に組み込まれる。その主な目的は、挿入損失をあまり犠牲にすることなく、良好な反射損失を実現しながら、通過帯域応答を均等化することである。本発明は、音響素子を用いたフィルタの通過帯域補正と、上述した背景に記載されたフィルタの通過帯域を補正することの両方に関する。
【0010】
SAW変換器の金属パターンの抵抗損失を無視した場合の変換器のアドミタンスは、次式で示すことができる。
【数1】
【0011】
式中、YSAW(ω)は変換器のアドミタンスを示し、Ga(ω)は音響コンダクタンスを示し、Ba(ω)=Ga(ω)*1/πω(ここでは畳み込み積を示す)は音響サセプタンスを示し、Ctは変換器の容量を示す。Ga(ω)およびBa(ω)は、一般的に同じ桁である。変換器のGa(ω)およびBa(ω)の音響的に活性な領域の外側は、ほぼゼロである。変換器のアドミタンスは、変換器の容量から概算することができる。音響的に活性な領域において、音響コンダクタンスとサセプタンスとが増加し、結果として変換器のアドミタンスが相対的に増加する。SAW変換器の一方の電極が伝送線路に接続され、他方の電極が接地されている場合、この周波数領域における変換器のアドミタンスの増加により、伝送線路は、変換器の音響的に活性な領域において散逸の増加を示す。散逸プロファイルの相対的な増加における形状と大きさは、主に音響コンダクタンスとサセプタンスによって決定される。これは、変換器の電極のフィンガーパターンによって定義される[5]。上述したような従来のSAW設計技術を採用することで、変換器の電極の操作を介して、音響コンダクタンスとサセプタンスを調整することができる。これにより、接続されたRFフィルタの通過帯域応答を補正するために利用できる散逸プロファイルを生成することができる。
【0012】
主に無線システムで使用される代替技術の1つが、米国特許出願第2016/0191012号に記載されている。ここでは、第1の容量に並列接続された容量補償器を使用するRFラダーフィルタが記載されている。これにより、第1の並列容量が補償され、反共振周波数が増加して、好ましい通過帯域に適切な帯域幅を提供することができる、本発明の目的は、帯域幅を増加させることなく、通過帯域内のばらつきを低減することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上述した目的は、添付の特許請求の範囲に従って達成される。
【0014】
本発明では、主な注目点は、フィルタの共振器(SAW/BAW/XBARおよび/または電気マイクロ波に基づく)の有限損失に起因するがそれに限定されない良好な反射損失を含むフィルタの通過帯域を補償することである。大まかに言えば、フィルタの通過帯域は平坦化される一方で、良好な反射損失は、フィルタの振幅リップルの大きさにほぼ等しい挿入損失を犠牲にすることでのみ得られる。当該アプローチの枠組みの中では、通過帯域幅はほとんど変化しない。阻止帯域のレベルや遷移帯域の急峻さなどの他のパラメーターには大きな影響がない。この概念は、共振周波数と反共振周波数の両方をもつSAW/BAW/XBAR共振器、および共振周波数のみをもつ電気マイクロ波共振器を含む異なるフィルタの実現に対応する。そのため、例えば、SAW/BAW/XBARの外部/内部静電容量を減少させ、共振周波数と反共振周波数との間の周波数分離を増加させ、フィルタの帯域幅を増加させることを可能にする上述した米国特許出願第2016/019012号に記載されているがこれに限定されないような従来技術のように、Q値の変更および/または電気的負荷条件の補償などの内部素子を修正する技術に頼ることができない。
【0015】
このようにして、フィルタ補正は、入力端子および出力端子を有する任意のRFフィルタを、または2つの入力端子および出力端子を有する4ポートRFフィルタの場合には周波数依存性のアドミタンスとして作用する1つまたは複数の表面音響波変換器を備える補正ユニットを、圧電基板と、変換器ごとの基板の表面上の2つの電極とに接続することによって提供される。ここで、一方の電極はバスに接続され、バスは補正ユニットの入力と出力との間で接続され、一方の界面はフィルタに接続され、他方の電極は第2のバスに接続され、このバスは接地され、または補正ユニットの第2の入力と出力との間のバランスのとれた4ポートフィルタと組み合わされた場合にはそのうちの1つがフィルタに接続される。また、SAW変換器は、シャント接続された容量性素子を置き換えるため、およびフィルタの通過帯域に損失を選択的に導入するために、フィルタの内部に接続されてもよい。表面音響波変換器は、変換器と、接続されたフィルタとの間のインピーダンス不整合を低減するために、誘導性素子および容量性素子と組み合わされてもよい。
【0016】
音響的に活性な領域外では、SAW変換器は、コンデンサとして機能する。これにより、接続されたフィルタの応答に広帯域の摂動が導入される。音響的に活性な領域において、変換器の音響アドミタンスの増加によって、SAW変換器のアドミタンスが増加する。これにより、接地に向けられた電力が、またはバランスのとれた4ポートフィルタの場合には第2のSAW変換器の電極に接続された端子に向けられた電力が、相対的に増加する。音響的に活性な領域が、接続されたフィルタの通過帯域の周波数範囲と一致する場合、ネットワークは、その通過帯域応答においてディップを示す。ここで、ディップの形状および大きさは、SAW変換器の音響アドミタンスによって決定する。音響アドミタンスの形状および大きさは、SAW変換器の電極フィンガーパターンを操作することで正確に制御することができ、従来のSAW設計技術を介して、接続されたフィルタの通過帯域応答に合わせて調整することができる。これにより、挿入損失の増加を犠牲にして、接続されたネットワークの通過帯域における挿入損失のばらつきを低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
以下、本発明を例示する添付の図面を参照して、本発明をより詳細に説明する。
【
図1a】従来技術によるSAW変換器の基本的な電極形状を示す図である。
【
図1b】従来技術による2つのバスを介して接続された任意の数のSAW変換器の一実施形態を示す図である。
【
図2a】本発明の好ましい実施形態を示す図である。
【
図3】補正ユニットに接続する前のSAWインピーダンス素子フィルタ(IEF)の応答を示す図である。
【
図4】誘導性および容量性の整合要素を有するSAW補正ユニットの応答を示す図である。
【
図5】フィルタの両側に補正ユニットを接続した後のSAW-IEFの応答を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
図2aに示すように、補正ユニット203は、実際には既知の特性および歪みを有するバンドパスフィルタとなるフィルタ201に接続される。
図2aおよび
図2bの下部に示すように、補正ユニット203a~203bには、少なくとも1つのSAW変換器204a~204nが含まれてもよい。また、信号線における補正ユニットのインピーダンス不整合を低減するために、補正ユニット203には、誘導性素子208,209および容量性素子210,211が含まれてもよい。上述したように、SAW変換器の構造は、当業者には知られているため、ここでは詳細に説明しない。
【0019】
図2aにおいて、補正ユニット203aおよびフィルタ201は、接地されている。
図2bは、本発明のバランスのとれた実施形態を示す。
【0020】
図2cにおいて、フィルタの振幅応答および挿入損失IL1を示す本発明の機能が示されている。補正ユニット203a,203b内のSAW変換器は、フィルタ201の既知の誤差の逆数に対応する補正信号をフィルタ201の入力または出力に追加するように、既知の方法で配置される。結果として得られる組み合わされた信号は、信号から誤差が除去された最後の図に示されている。図に示すように、補正は、
【数2】
で示すように、接続されたネットワークの挿入損失の劣化によって達成される。
図2aおよび
図2bに示すように、補正ユニットは、フィルタの両側に配置されてもよい。
【0021】
当該技術分野において知られているように、SAW変換器の音響アドミタンスの帯域幅は、変換器のフィンガーパターンの長さと基板材料の特性によって制限される。必要とされる散逸プロファイルの帯域幅が1つの変換器の達成可能な最大帯域幅を超える用途において、フィルタに結合された且つ通過帯域の別の部分をそれぞれ補正する複数のSAW変換器を採用することで、必要とされる帯域幅を達成することができる。誘導された補正の大きさは、ここでは電極フィンガーが重なる長さとして定義される変換器開口と基板材料の特性とによって制限される。必要とされる補正の大きさが1つの変換器の達成可能な最大の大きさを超える場合、重なる散逸プロファイルを有する複数のSAW変換器を並列に結合することで、補正の大きさを向上させることができる。代替的に、補正の大きさは、変換器開口を減らすか、複数の同様のSAW変換器を直列に結合することで、減少させることができる。その結果、1つまたは複数のSAW変換器を上述したようにRFフィルタに接続することで、挿入損失を犠牲にして、ネットワークの通過帯域応答全体を任意に補正することができる。挿入損失の劣化を最小限に抑えるために、主に通過帯域のリップルのピークに影響を与えるように損失を導入してもよい。これにより、通過帯域のリップルの最小値に近いレベルまで通過帯域を平坦化することができる。結果として生じる挿入損失の劣化は、ここでは、変換器の静電容量によって与えられる音響的に活性な周波数範囲外の変換器の固有損失、および接続されたRFフィルタのピーク間の通過帯域のリップルによって示される。このタイプの損失プロファイルは、リップルのピークにおいて損失をそれぞれ導入する複数の損失誘導性SAW変換器にフィルタを接続することで、または複数の通過帯域および阻止帯域を有するマルチバンド変換器を介して、実現することができる。ここで、各通過帯域は、リップルのピークと一致する。このプロセスは、
図2cおよび
図5に示されている。
【0022】
本発明の制限の1つとして、フィルタとSAW変換器との間のインピーダンス不整合により、ネットワークの反射損失が劣化することが挙げられる。この不整合は、
図2aおよび
図2bに示すように、誘導性要素208,209および容量性要素210,211を含むことで低減することができる。容量性素子210,211は、SAW変換器のバスが接続されるカプセルコネクターピンの寄生容量を介して、カプセルの接地面に接続された任意の容量性要素と組み合わせて実現されてもよい。誘導性素子208,209は、SAW変換器のバスをカプセルピンに接続するボンディングワイヤを介して、SAW変換器の圧電基板上、別個のPCB上、またはカプセル内に実装されたセラミック基板上に実現された任意の誘導性構造と組み合わせて実現されてもよい。また、誘導性素子は、チップインダクタまたはトロイダル要素などの当業者に知られている代替の誘導性素子を介して実現されてもよい。
【0023】
振幅の摂動は、実際には、SAW変換器によって引き起こされて、接続されたネットワークの位相に小さな摂動を導入する場合がある。クラマース・クローニッヒの関係式によれば、導入された位相分散の大きさは誘導された振幅補正の大きさと相関しており、通過帯域補正が大きい場合に注目される場合がある。
図3~
図5に示すシミュレーション結果について、約1dBの補正を適用して通過帯域の振幅応答を補正した。これに対応する群遅延のばらつきと線形位相リップルの変化は、それぞれ1.2nsと-0.4度であり、それぞれ9%と-3%の変化を示した。観測された位相応答の摂動は、適用された振幅補正の大きさと帯域幅に依存し、数dB程度の中程度の補正において小さいと予想される。
【0024】
本発明のさらなる制限は、SAW変換器の電力処理能力を超える電力処理能力を有するフィルタに接続された場合、SAW変換器によって、ネットワークの電力処理能力が制限される場合があることである。なお、SAW変換器の電力処理能力がSAW-IEFに組み込まれたSAW共振器の電力処理能力を超えるため、同じ基板上のSAWインピーダンス素子フィルタ(IEF)と組み合わされた場合には、損失誘導性SAW変換器の電力処理能力は、制限の要因とならないことに留意されたい。ここで、SAW-IEFとは、接続されたSAW共振器素子から構成されたフィルタネットワークを指す。そのフィルタリング応答は、構成するSAW共振器のトポロジー構成と周波数依存性のインピーダンスとによって定義される。SAW変換器がより小さい移動SAWを受けるのに対して、SAW共振器内のフィンガーパターンが共振器キャビティ内でより大きい定在波を受けるため、SAW共振器の電力処理能力は、同程度の開口数のSAW変換器の電力処理能力よりも劣る。
【0025】
本発明のさらなる制限は、損失誘導性SAW素子を介した通過帯域補正を適用することができる周波数領域に関するものである。この周波数範囲は、SAW変換器を定義するために使用される処理技術および使用される圧電基板のSAW速度によって制限される。ここで、適用可能なおおよその周波数範囲は、100MHz~10GHzの範囲である。SAW補正ユニットが、接続されたSAWフィルタと同じ基板上に実装された本発明の一実施形態において、変換器の形状を定義する処理技術による制限がSAW変換器とSAWフィルタとに等しく影響を与えるため、SAW補正ユニットの上述した周波数の制約は、制限の要因とはならない。
【0026】
本発明の一実施形態である電気音響フィルタの例として、1つの入力および出力端子を有する圧電基板上に定義された横方向SAWフィルタ、SAWインピーダンス素子フィルタ(IEF)、バルク音響波(BAW)フィルタおよび薄膜バルク音響波共振器(FBAR)フィルタが挙げられるが、これらに限定されるものではない。ここで、フィルタの入力および/または出力端子は、同じ圧電基板上に定義された2つの電極101,102を有する1つまたは複数の損失誘導性SAW変換器204a~204nに接続される。各損失誘導性SAW変換器204a~204nにおいて、一方の電極101a~101nは、第1のバス103に接続される。このバスは、フィルタ207aの入力または出力インタフェースと、フィルタネットワーク212aを収容するカプセルの入力または出力ピンとの両方に接続される。他方の電極102a~102nは、接地されている第2のバス104に接続される。接地されていない第1のバス103は、ボンディングワイヤを介して、または誘導性素子208,209および容量性素子210,211を介して、フィルタ207aとピン界面212aとに接続されてもよい。誘導性素子208,209は、カプセル内に実装されたチップインダクタ、誘導性PCBまたはセラミック基板を介して、またはSAW変換器を定義する圧電基板上の誘導性金属化パターンを介して、実現されてもよい。容量性素子210,211は、プリント基板(PCB)上、圧電基板上または圧電結晶上の容量性構造を介して、またはカプセル内の接地されたチップコンデンサを介して、実現されてもよい。同じ圧電基板上に集積されている場合、接地されていないバスは、電気音響フィルタに直接結合されてもよい。
【0027】
本発明の別の実施形態である任意の平面互換RFフィルタの例として、1つの入力および出力端子を有する上述したような電気音響フィルタ、集中定数LCフィルタ、ストリップラインフィルタおよびマイクロストリップフィルタが挙げられるが、これらに限定されるものではない。ここで、フィルタの入力および/または出力端子は、フィルタネットワークを収容するカプセル内に実装された別個の圧電基板上に定義された2つの電極101,102を有する1つまたは複数の損失誘導性SAW変換器204a~204nに接続される。SAW変換器の電極101a~101n,102a~102nは、最初に記載した本発明の実施形態と同様の方法で、RFフィルタ201、接地面、およびカプセルの入力または出力端子に接続される。
【0028】
本発明のさらなる実施形態において、1つまたは複数の損失誘導性SAW変換器204a~204nがカプセル内に実装されて、フィルタ補正モジュールを構成する。各モジュールは、カプセル内に実装された圧電基板上の2つの電極101,102を有する1つまたは複数のSAW変換器204a~204nを含む。ここで、各変換器において、一方の電極102a~102nは、接地されたバス104に接続され、他方の電極101a~101nは、バス103に接続される。バス103は、ボンディングワイヤを介してカプセルの入力ピン205aと出力ピン206aとを結合するか、ボンディングワイヤ、またはカプセル内に実装されたチップインダクタまたは誘導性PCBまたは圧電基板のような誘導性要素、または圧電基板上に定義された誘導性金属化パターンのいずれかによって実現された誘導性素子208,209を介して、カプセルの入力205aと出力ピン206aとを結合する。また、入力および/または出力ピンは、カプセル内のチップコンデンサのような接地された容量性素子210,211に接続され得る。1つまたは複数の損失誘導性SAWモジュール203aは、任意の外部RFフィルタモジュール201の入力または出力端子に接続されてもよい。これにより、挿入損失の増加を犠牲にして、通過帯域の周波数の選択性が改善されたフィルタネットワークが形成される。
【0029】
本発明の代替実施形態であるシャント接続された容量性素子が組み込まれた任意の平面RFフィルタの例として、集中定数インダクタ/コンデンサ(LC)フィルタおよび当業者に知られている任意の平面伝送線路フィルタ構造が挙げられるが、これらに限定されるものではない。平面RFフィルタは、1つまたは複数の損失誘導性SAW変換器と組み合わされる。ここで、SAW変換器は、RFフィルタ内のシャント接続された容量性素子を実現するため、および接続されたネットワークの通過帯域に損失を選択的に導入するために、使用される。各SAW変換器は、フィルタネットワークを収容するカプセル内に実装された圧電基板上に定義された2つの電極101,102を有する。一方の電極101は、ボンディングワイヤを介してRFフィルタの内部に接続され、他方の電極102は、ボンディングワイヤを介して接地されている。損失誘導性SAW変換器は、共通の圧電基板上に定義されてもよく、別個の圧電基板上に定義されてもよい。
【0030】
本発明のさらなる実施形態であるバランスのとれた4ポート電気音響フィルタの例として、2つの入力端子と2つの出力端子を有する圧電基板上に定義された横方向SAWフィルタ、SAWインピーダンス素子フィルタ(IEF)、バルク音響波(BAW)フィルタおよび薄膜バルク音響波共振器(FBAR)フィルタが挙げられるが、これらに限定されるものではない。ここで、入力端子および/または出力端子は、同じ圧電基板上に定義された2つの電極101a~101n,102a~102nを有する1つまたは複数の損失誘導性SAW変換器204a~204nに接続される。各損失誘導性SAW変換器204a~204nにおいて、一方の電極101a~101nは、第1のバス103に接続される。このバスは、フィルタ207aの入力または出力界面と、フィルタネットワーク212aを収容するカプセルの入力または出力ピンとの両方に接続される。他方の電極102a~102nは、第2のバス104に接続される。このバスは、フィルタ207bの他方の入力または出力端子と、カプセル212bの他方の入力または出力ピンとに接続される。2つのバス103,104は、最初に記載した本発明の実施形態と同様の方法で、RFフィルタ202およびカプセル212a~212bの入力または出力端子に接続される。
【0031】
本発明のさらなる実施形態であるバランスのとれた任意の平面互換4ポートRFフィルタの例として、2つの入力端子と2つの出力端子とを有する上述したような電気音響フィルタ、集中定数LCフィルタ、ストリップラインフィルタおよびマイクロストリップフィルタが挙げられるが、これらに限定されるものではない。ここで、入力端子および/または出力端子は、フィルタネットワークを収容するカプセル内に実装された圧電基板上に定義された2つの電極101,102を有する1つまたは複数の損失誘導性SAW変換器204a~204nに接続される。SAW変換器の電極101a~101n,102a~102nは、上述した実施形態と同様の方法で、RFフィルタ202およびカプセル212a~212bの入力端子または出力端子207a~207bに接続される。
【0032】
本発明は、石英、LiTaO3およびLiNbO3などの一般的なSAW基板材料上の実現可能な開口を有するSAW変換器に、適切な補正の大きさを提供する。SAW変換器の音響的に活性な領域の外側の伝送率に対して、数dB程度の伝送率のディップが達成可能であることが判明した。他の音響波モードをサポートする材料と回転も、補正素子の実現に適していると考えられ、その例として、擬似的なSAWモードおよび表面に結合された漏れ波モードが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0033】
SAWインピーダンス素子フィルタの入力および出力に接続された1つの損失誘導性SAW変換器204aを用いて、シミュレーションを実施した。ここでは、インピーダンス不整合を低減するために、接続されたネットワークの入力界面および出力界面に誘導性素子および容量性素子が含まれた。
図2c、
図3、
図4および
図5は、本発明に従って得られるフィルタの周波数応答の効果と改善を示す。
【0034】
図3は、SAWインピーダンス素子フィルタの応答を示す。図の左上には、SAW-IEFの通過帯域の振幅応答が示されている。図の右上には、SAW-IEFの反射損失応答が示されている。図の左下には、SAW-IEF全体の振幅が示されており、右下には、SAW-IEFの群遅延応答が示されている。
【0035】
図4は、入力または出力端子のみにおいて誘導性素子208,209および容量性素子210,211に接続された1つのSAW変換器204aを備える補正ユニット203aの電気応答を示す。
図4の左上には、補正ユニットの振幅応答が示されており、右上には、その反射損失応答が示されている。図の左下には、補正ユニット全体の振幅が示されており、右下には、その群遅延応答が示されている。
【0036】
図5は、SAWインピーダンス素子フィルタの入力および出力207aにおける1つの補正ユニット203aを有する接続されたネットワークの応答を示す。図の左上には、接続されたネットワークの通過帯域の振幅応答が示されており、右上には、反射損失応答が示されている。図の左下には、全体の振幅応答が示されており、左下には、群遅延応答が示されている。
【0037】
上述した図に示すように、接続されたネットワークでは、通過帯域における挿入損失のばらつきが大幅に改善されている。ネットワークの通過帯域全体の平均挿入損失は、1.3dB劣化している。また、接続されたネットワークでは、反射損失応答および群遅延のばらつきにも小さな摂動が見られる。
【0038】
要約すると、本発明は、信号伝送線路213に実装された入力および出力界面を有するバンドパスフィルタ201,202を含むRF伝送線路で使用するためのフィルタ補正ユニット203a~203bに関する。フィルタは、所定の周波数範囲内で信号を伝送するように選択されたバンドパスフィルタであり、振幅リップルや損失などの信号に既知の歪みを発生させる既知の制限を含む品質係数を有する。補正ユニット203a~203bは、RF伝送線路213と、フィルタの入力界面または出力界面との間で接続される。これにより、フィルタに入る前またはフィルタを通過した後のいずれかで伝送された信号を補正することができる。
【0039】
補正ユニットは、少なくとも1つのSAW変換器204a~204nを備える。1つまたは複数の変換器は、圧電基板上に2つの電極101,102を有する。一方の電極101a~101nは、第1のバス103に接続され、他方の電極102a~102nは、第2のバス104に接続される。ここで、第1のバス103は、伝送線路213と、RFフィルタの入力界面または出力界面207aとを接続する。第2のバス104は、接地され、またはバランスのとれた4ポートRFフィルタ202と組み合わされた場合には伝送線路213と、フィルタの第2の入力界面または出力界面207bとを接続するために使用される。好ましくは、SAW変換器には、フィルタの既知の歪みの逆数である係数で伝送された信号を歪ませるように選択された、適合されたまたは類似の電極フィンガーパターンが設けられる。
【0040】
第2のバス104は、直接接地されてもよく、または共通の導体を介して接地されてもよく、またはバランスのとれた4ポートRFフィルタ202と組み合わされた場合には伝送線路213の第2の界面212bと、RFフィルタの第2の入力界面または出力界面207bとを接続するために使用されてもよい。
【0041】
また、好ましくは、フィルタ補正ユニットは、補正ユニット203a~203bの入力界面205a~205bおよび/または出力界面205a~205bにおいて、2つのバス103,104の間の容量性素子210,211と、SAW変換器204a~204nとフィルタ補正ユニット203a~203bの入力界面205a~205bおよび出力界面206a~206bとを接続するバス103,104の間の誘導性素子208,209と、を含む。これにより、信号線における補正ユニット203a~203bのインピーダンス整合が提供される。
【0042】
補正ユニット203a~203bおよびバンドパスフィルタ201,202は、共通の界面207a~207bを有する単一構造を提供する共通の圧電基板材料上に作製されてもよい。
【0043】
本発明の別の態様によれば、RFフィルタは、上述したようなフィルタ補正ユニットを含むように提供される。この場合、バンドパスフィルタは、接地された容量性フィルタ素子から構成されてもよい。容量性フィルタ素子は、圧電基板上に2つの電極101,102をそれぞれ有する少なくとも1つのSAW変換器を介して実現される。ここで、第1の電極101は、バンドパスフィルタの内部に接続され、第2の電極102は、接地されている。1つまたは複数のSAW変換器は、フィルタの既知の歪みの逆数である係数で伝送された信号を歪ませるように、およびバンドパスフィルタ応答を定義するために必要な容量を実現するように構成される。これにより、組み合わされた機能を有することになる。フィルタおよび補正部分は、同じタイプの素子の変形例である。
【0044】
フィルタは、例えばLCフィルタ、または結合された伝送線路のようないくつかの異なる方法で実現されてもよい。潜在的な一実施形態として、コームライン構造内に配置されたマイクロストリップ伝送線路が挙げられる。SAW変換器は、伝送線路と同じ基板上で実現されてもよく、別個の基板上で実現されてもよい。
【0045】
[参考文献]
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