(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-07
(45)【発行日】2024-05-15
(54)【発明の名称】アンテナ上の干渉波に対する、及び、センサカバーからの反射に対する感度が抑制された合成樹脂製アンテナを備えたレーダーシステム
(51)【国際特許分類】
G01S 7/03 20060101AFI20240508BHJP
G01S 13/931 20200101ALI20240508BHJP
H01Q 1/42 20060101ALI20240508BHJP
H01Q 17/00 20060101ALI20240508BHJP
H01Q 21/06 20060101ALI20240508BHJP
【FI】
G01S7/03 230
G01S13/931
H01Q1/42
H01Q17/00
H01Q21/06
(21)【出願番号】P 2020547181
(86)(22)【出願日】2019-08-15
(86)【国際出願番号】 DE2019200098
(87)【国際公開番号】W WO2020052719
(87)【国際公開日】2020-03-19
【審査請求日】2022-08-01
(31)【優先権主張番号】102018215393.0
(32)【優先日】2018-09-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】503355292
【氏名又は名称】コンティ テミック マイクロエレクトロニック ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
【氏名又は名称原語表記】Conti Temic microelectronic GmbH
【住所又は居所原語表記】Ringlerstrasse 17, 85057 Ingolstadt, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100069556
【氏名又は名称】江崎 光史
(74)【代理人】
【識別番号】100111486
【氏名又は名称】鍛冶澤 實
(74)【代理人】
【識別番号】100191835
【氏名又は名称】中村 真介
(74)【代理人】
【識別番号】100208258
【氏名又は名称】鈴木 友子
(74)【代理人】
【識別番号】100221981
【氏名又は名称】石田 大成
(72)【発明者】
【氏名】ヴィンターマンテル・マルクス
【審査官】渡辺 慶人
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-007108(JP,A)
【文献】特開2014-190720(JP,A)
【文献】特開2013-190230(JP,A)
【文献】特開2015-181222(JP,A)
【文献】特開2008-258772(JP,A)
【文献】国際公開第2016/144956(WO,A1)
【文献】欧州特許出願公開第01662609(EP,A1)
【文献】国際公開第2018/001921(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 7/00 - 7/42
13/00 - 13/95
H01Q 1/00 - 1/10
1/27 - 3/46
21/00 - 25/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
合成樹脂製アンテナが、センサ側及び/或いは車両側のカバーを向いている前面に、複数本のレーダーシグナルを送信及び/或いは受信するためのシングルアンテナを有し、該複数本のシングルアンテナが、オブジェクトの検出及び/或いは角度測定のために使用される合成樹脂ベースのアンテナを備えた車両の周辺把握のためのレーダーシステムであって
、
-合成樹脂製アンテナの前面が、各々のシングルアンテナ間において、その表面が、少なくとも部分的に反射しないように構成されており、但し、アンテナ内のストラクチャ及び/或いは金属化は、均一でない、及び/或いは、
-合成樹脂製アンテナの前面が、少なくとも部分的に平滑でなく、反射する表面を有している、及び/或いは、
-合成樹脂製アンテナの前面の縁が、シングルアンテナに対して平行でなく、
これにより、アンテナの表面上の、及び/或いは、アンテナとセンサ側及び/或いは車両側のカバー間における反射よる干渉波を低減できる、乃至、その、角度測定に対する、悪影響を回避、或いは、低減できる
ことを特徴とする車両の周辺把握のためのレーダーシステム。
【請求項2】
該合成樹脂製アンテナの前面が、非平面の反射する表面を有し、該シングルアンテナが、鉛直次元、即ち仰角方向に、そのメインビーム方向が仰角約0°である収束を有し、且つ、該表面のラインが、鉛直断面を基準として直線的ではないことを特徴とする請求項1に記載のレーダーシステム。
【請求項3】
該表面が、鉛直断面を基準として、段を有する、或いは、ノコギリ歯状の輪郭、乃至、これらを組み合わせたシェープを有していることを特徴とする請求項2に記載のレーダーシステム。
【請求項4】
該表面が、シングルアンテナの外部においてのみ全体的、乃至、部分的に非平面で有ることを特徴とする請求項2或いは3に記載のレーダーシステム。
【請求項5】
該シングルアンテナ自体も、全体的、乃至、部分的に非平面な表面を有していることを特徴とする請求項2或いは3に記載のレーダーシステム。
【請求項6】
合成樹脂製アンテナの前面は、各々のシングルアンテナ間において、その表面が、少なくとも部分的に反射しないように構成されており、且つ、その少なくとも一部が、レーダー波を部分的に乃至完全に吸収する合成樹脂マテリアルから構成されており、及び/或いは、
該合成樹脂製アンテナが、各々のシングルアンテナ間に、受動的なアンテナ、所謂、ブラインドアンテナを有しており、それによって受信されたパワーの少なくとも一部を再反射せず、該合成樹脂製マテリアル内に吸収すること
を特徴とする請求項1に記載のレーダーシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に搭載されるドライバー・アシスタント・システムにおいて用いられるレーダーシステムに関する。該レーダーシステムは、本発明においては、アンテナ上の干渉波に対する、及び、センサカバーからの反射に対する感度が抑制された合成樹脂ベースの中空導体アンテナを有している。
【背景技術】
【0002】
車両にはますます、センサーシステムの助けを借りて周辺部を捕捉し、その様にして認識された交通状況から車両の自動的リアクションを導き出す、及び/或いは、ドライバーに指示を出す、特に好ましくは、警告するドライバー・アシスタント・システムが装備される様になってきている。尚、これらは、快適機能と安全機能に分類される。
【0003】
快適機能としては、現時点の開発においては、FSRA(Full Speed Range Adaptive Cruise Control)が、最も重要な役割を果たしている。車両は、交通状況が許す場合、ドライバーが設定した希望速度に自己速度を制御するが、状況が適さない場合、その交通状況に自己速度を自動的に適合させる。
【0004】
近年、安全機能には、様々な様態が存在している。その中でも、緊急事態において制動距離、乃至、停止距離を短縮するための機能から自立的な緊急制動機能までが、一つのグループを構成している。他のグループとしては、車線変更機能が挙げられる:これら機能は、ドライバーが、危険な車線変更を実施しようとした際に、即ち、隣接車線上の死角に車がある(BSD「Blind Spot Detection」と呼ばれる)、或いは、後方から高速で接近して来る車がある(LCA「Lane Change Assist」)場合に、ドライバーに警告を発する、乃至、操舵に介入する。
【0005】
しかし近い将来、ドライバーが、アシストされるのみならず、ドライバーの役割も、車両自体によって自律的に実施されるようになってくるであろう;要するに、ドライバーは、徐々に代替され、所謂自律走行へと変わっていくであろう。
【0006】
上記の如きシステムでは、レーダーセンサ類が、多くの場合、他の技術に基づいた、カメラセンサ類などのセンサ類との組み合わせとして、採用されている。レーダーセンサ類は、悪い気象条件下でも信頼性高く機能し、オブジェクトへの間隔だけでなく、ドップラー効果によって、ラジアル方向の相対速度も直接的に測定できると言う長所を有している。送信周波数としては、24GHz、77GHz並びに79GHzが採用されている。
【0007】
この様なシステムの機能範囲が増えてきていることにより、恒常的に、例えば、最長検出距離など要求性能が、高まってきている。しかしながら同時に、価格は、大幅に下落している。
【0008】
レーダーセンサの主要部品は、アンテナである;実際、アンテナが、センサの性能と価格を決定していると言っても過言ではない。現在、アンテナは、多くの場合、例えば、パッチアンテナとして、高周波基板上にプレナ技術を用いて実現されている。この様なアンテナの実施形態の欠点は、入力経路とアンテナ自体における損失(到達距離を制限する)のみならず、この様な基板の高いコスト(特に、高周波に耐える特別で高価且つ製造工程が複雑な基材が必要であるため)が、挙げられる。更にこの様な平面アンテナは、アンテナとセンサ及び/或いは車両側のカバー間における反復反射、所謂「レードーム(ラドーム)」に対して弱い乃至敏感である。この様な反復反射は、特に角度形成の質の劣化につながるため、車両が誤った車線に帰属され、それに伴って誤ったシステム反応が実施される要因となりうる。同様な効果は、カップリングとビーム特性の変化の要因となりうる干渉波、特に、アンテナ上の表面波によっても起こる。従来採用されているこの様な効果を低減するアプローチとしては、本来のアンテナのビーム範囲以外に対して吸収性を有するマテリアルを使用することが挙げられるが、これには、余計なコストがかかってしまう。
【0009】
最近ではアンテナを実施するための代案的なアプローチも研究されている:有望な候補としては、損失が少ないだけでなく、マテリアルコストも比較的安価であり、且つ、近年になって大量生産を可能にする製造方法も確立されていることから、合成樹脂ベースの中空導体アンテナを挙げることができる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
よって本発明の課題は、特に堅牢な角度形成を実現するために、アンテナ表面上の干渉波、並びに、センサカバーからの反射に対する低減された感度を有する合成樹脂製アンテナの構成を提供する事にある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の課題は、請求項1~5に記載のレーダーシステムによって根本的に解決される。
【0012】
本発明の長所は、改善されたパフォーマンス及び/或いはより低いコスト及び/或いはセンサカバーに対する要求が低減されたレーダーシステムを実施できるという事実から得られるものである。
【0013】
本発明において車両の周辺部を捕捉するためのレーダーシステムは、合成樹脂製アンテナを包含しているが、特徴としては、該センサ側及び/或いは車両側のカバーに向いている前面の合成樹脂製のアンテナは、レーダーシグナルを送信及び/或いは受信するための複数のシングルアンテナを有しており、これらのシングルアンテナが、オブジェクトの検出及び/或いはその角度測定に使用される、但し、合成樹脂製アンテナの前面、シングルアンテナとその表面の間、その少なくとも一部は、反射しない、即ち、金属化していない構成となっており、且つ、その少なくとも一部は、レーダー波を部分的に乃至完全に吸収する合成樹脂マテリアルから構成されている、及び/或いは、該合成樹脂製アンテナは、各々のシングルアンテナ間に、受動的なアンテナ、所謂、ブラインドアンテナを有しており、それによって受信されたパワーの少なくとも一部を再反射せず、該合成樹脂製マテリアル内に吸収する、及び/或いは、該合成樹脂製アンテナの前面は、各々のシングルアンテナ間において、その表面が、少なくとも部分的に反射しないように構成されている、特に好ましくは、金属化されていない、但し、特にアンテナ内のストラクチャ及び/或いは金属化は、均一でない、及び/或いは、合成樹脂製アンテナの前面が、少なくとも部分的に平滑でなく、反射する表面、特に、平滑でなく金属化された表面を有している、及び/或いは、合成樹脂製アンテナの前面の縁が、シングルアンテナに対して平行でない、特に、斜めになっている。
【0014】
この様な形態とすることにより、アンテナの表面上の、及び/或いは、アンテナとセンサ側及び/或いは車両側のカバー間における反射よる干渉波を低減できる、乃至、その、特に角度測定に対する、悪影響を回避、或いは、低減できる。
【0015】
ある好ましい実施形態においては、該合成樹脂製アンテナの前面は、非平面の反射する表面を有し、該シングルアンテナは、鉛直次元、即ち仰角方向に、そのメインビーム方向が仰角約0°である収束を有し、且つ、該表面のラインは、鉛直断面を基準として直線的ではない。ある好ましい実施形態においては、該表面は、鉛直断面を基準として、段を有する、或いは、ノコギリ歯状の輪郭、乃至、これらを組み合わせたシェープを有している。
【0016】
該表面が、シングルアンテナの外部においてのみ全体的、乃至、部分的に非平面で有ることが好ましい。しかしながら、シングルアンテナ自体が、全体的、乃至、部分的に非平面な表面を有していることも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】
図1は、従来の技術に係るレーダーシステムの高周波基板を示している;これの上には、送信アンテナと受信アンテナが、平面パッチアンテナとして実装されている。
【
図2】
図2は、平行6面体状の合成樹脂ベースの中空導体アンテナの前面(左)と後面(右)を示している。
【
図3】
図3は、合成樹脂ベースの中空導体アンテナを備えたレーダーセンサの断面を示しているが、該レーダーセンサは、車両側のカバーの後ろに設置されている。
【
図4】
図4は、アンテナと車両側のカバー間の反射、並びに、アンテナ上の表面波を示している。
【
図5】
図5は、付加的なブラインドアンテナを有する合成樹脂製アンテナの前面を示している。
【
図6】
図6は、合成樹脂製アンテナの前面は、金属化されておらず、且つ、アンテナの裏面のシングルアンテナ間が領域の上層部が、パターン形成されて金属化されている場合における、アンテナと車両側のカバーとの間の反射を示している。
【
図7】
図7は、鉛直方向にノコギリ歯形状の表面ストラクチャを有している合成樹脂製アンテナを示している。
【
図8】
図8は、
図7のアンテナとセンサに対して平行な車両側のカバーとの間の反射を示している;尚、
図8aは、上から、
図8bは、側方から見た図である。
【
図9】
図9には、前面の左右のエッジが、シングルアンテナに対してそれぞれ斜めになっている合成樹脂製アンテナが示されている;尚、左の図は、アンテナを前方から、右の図は、示されているレベルにおける断面を示している。
【発明を実施するための形態】
【0018】
現在、周辺把握をするためのレーダーシステム用アンテナの多くは、高周波基板上の平面アンテナとして実施されている。
図1は、高周波基板が、一つの高周波部品、一つの所謂MMIC(Monolithic Microwave Integrated Circuit)、3本の送信アンテナ(TX1,TX2,TX3)並びに4本の受信アンテナ(RX1,RX2,RX3,RX4)を示しているが、アンテナは、それぞれ、複数のアンテナエレメント(所謂、パッチ)から組み合わされている。該送信アンテナのパッチは、
図1では、単に区別するために斜線を用いて示されている-これらは、物理的には、受信アンテナのパッチと同じ構造を有している。他の図でも送信アンテナとその入力経路が斜線で描かれている場合もあるが、それらの物理的構造は、常に、受信アンテナと同じである。
【0019】
該アンテナとそれへの高周波チップからの入力経路は、高周波基板の上層の上に、高周波に適したマテリアル特性、例えば、定義された厚み、定義された誘電率、及び/或いは、非常に小さい損失角などを有する特殊な基質を必要としている。特に、この特殊な基質のマテリアルコストとその処理(必要とされているストラクチャ精度も鑑みると)、同様な大きさで同様な層の数を有する単なる低周波基板と比較すると、コストが何倍にも膨れ上がる。コストのみならず、アンテナ内及びそこへの入力経路におけるシグナル損失も短所である。一般的に、入力経路を含む送信アンテナと受信アンテナにおける出力損失は、6dBとされている-センサ感度が6dB下がると、最長センサ到達距離は、30%短縮する。
【0020】
この様に、基板ベースのアンテナには、上記の如き欠点があることから、所謂導波路アンテナが、注目されている:それにおいては、該アンテナとそれへの入力経路が、最も単純に表すとすれば、金属製乃至金属化された壁を有する長方形断面を有する空洞である中空導体を用いて実現されている。この様なアンテナは、平行六面体形の合成樹脂製部品として実施できるが(
図2参照)、左側の図に示されている前面上に、照射用の開口部が、右側の図に示されている裏面上に、入力用の開口部が、そして、内部には、中空構造があり、これらの表面波全て(外側と裏側)は、金属化されている。一般的に、この様なアンテナは、複数の層から構成されており、例えば、高周波接続がクロスすることが可能になっている。尚、シングルアンテナの配置は、チップに依存していないため、
図2に示す様に、3本の送信アンテナは、4本の受信アンテナの下に配置することも可能である(
図1に係る基板ベースのアンテナでは、隣り合って配置されている)。特に、該チップが、アンテナレイヤー上にないため、センサの小型化が可能になる。
【0021】
この様な合成樹脂製アンテナの製造方法としては、射出成形の他、近年では、3Dプリントも候補となり得る。金属化される合成樹脂から製造された導波路アンテナは、金属のみで製造されているものよりもコスト的に有意に有利である。
【0022】
図3は、合成樹脂製アンテナ3.3を備えたレーダーセンサ3.1の断面を示している。アンテナ3.3の下には、高周波信号を照射する乃至受信する構造を介して直接的、即ち基板3.5を介さずに、アンテナ3.3とカップリングされている高周波部品3.4を備えた基板3.5がある。センサ3.1は、裏側のアルミニウムハウジング3.6と表側の合成樹脂製カバー3.2からなる、所謂センサドームに囲まれている。センサ3.1全体が、車両側のカバー3.7(例えば、塗装されたバンパ)の後ろに取付けられている。
【0023】
該車両側のカバー3.7は、多くの場合、レーダー波の貫通という特性に対しては最適化されてはいない。よって、減衰のみならず、レーダー波が部分的に反射される。これは、
図4に図解されている;水平断面図には、簡略化するためにセンサ全体ではなく、合成樹脂製アンテナ4.1の一部とそれに対して斜めに設置されているカバー4.2のみが示されている。入射波ビーム4.3は、直接的に受信アンテナRX1に当たる。該入射波ビーム4.4は、アンテナの金属化された表面に当たり、そこで、波ビーム4.5として反射される-但し、反射されたビーム4.5の一部4.6のみが、カバーを貫通し、その他4.7は、カバーから再反射され、受信アンテナRX1にも当たる。これにより受信アンテナRX1上では、通常異なる位相を有する二本のビームが重なりあう-二回反射されたビーム4.7が、直接的なビーム4.3よりも小さな振幅を有しているとしても、受信アンテナRX1の受信シグナルの位相ポジションと振幅をずらせてしまう。勿論、ビーム4.7以外にも、受信アンテナRX1に当たる二回反射されたビームも存在している。他の受信アンテナにも、直接的なビームと二回反射されたビームのオーバーラップは勿論ある;アンテナ4.1に対してカバー4.2が斜めに設置されているため、二回反射されたビームの相対的位相ポジションは、RX4用の図において、二回反射されたビーム4.8と二回反射されたビーム4.7の通り道の長さの比の相違から容易に解るように、アンテナ毎に異なっている。角度形成には、送信アンテナと受信アンテナの全ての組み合わせからの受信シグナルが用いられる;そのために、デジタルビームフォーミングが実施される。この様な反復反射により、振幅と位相に関してシグナルに様々異なる影響があった場合、角度形成に狂いが生じ、オブジェクトの誤ったポジショニングの、即ち、例えば、誤った走行レーン帰属とそれに伴う誤ったシステム反応の原因となる。更に、振幅エラーから、レーダー反射、要するに所謂オブジェクトのRCSが誤って推定され、誤った分類するの原因となり得る。
【0024】
このような反復反射だけで無く、アンテナ表面上に広がる干渉波も、シグナルの振幅と位相エラーが起こる。この所謂表面波は、複数のアンテナのカップリングの原因となる-
図4では、送信アンテナTX1は、表面波4.9を介して送信アンテナTX2とカップリングされている;一方、アンテナの周縁部における付加的な放射の原因ともなっている-
図4では、送信アンテナTX1の表面波4.10を介して、左縁からの照射4.11につながっている。
【0025】
以下、上記の如き合成樹脂製アンテナにおける効果を回避する或いは少なくとも低減する本発明に係る様々な対策を説明する。
【0026】
第一のアプローチは、少なくとも合成樹脂製アンテナの上層を、レーダー波を吸収する合成樹脂マテリアルから作製し、アンテナの前面は金属化しないと言うことを基礎にしている。これにより、アンテナとセンサ側乃至車両側のカバー間の反復反射とアンテナ上の表面波の双方を押さえられる、或いは、少なくとも低減される。吸収するマテリアルの多くは、その裏面に導通する層を必要としている:これは、一つの乃至複数の吸収する合成樹脂層の裏面を金属化することによって得られる。現今使用されている平面アンテナにおいて、アンテナとセンサ側乃至車両側カバー間の反復反射並びにアンテナ上の表面波に対するこの様な吸収を原理とする減衰を実施する場合は、一つの、或いは、複数の付加的な吸収するエレメントが採用されており、これが、本発明のアプローチでは少なくともその多くを回避し得る付加的コストの要因となっている。
【0027】
第二実施形態(
図5参照)では、実質的なアンテナの間に所謂ブラインドアンテナを挟む;これらは、
図5では、ドットを打って示されているが、各列に一本のシングルアンテナが示されている。これらのブラインドアンテナによって受信されたパワーは、アンテナ内に実装されているアースから少なくとも部分的に、そこに吸収する合成樹脂を用い、アースの壁が少なくとも一部金属化されないことによって吸収される。これにより、アンテナとセンサ側乃至車両側のカバー間の反復反射とアンテナ上の表面波の双方を押さえられる、或いは、少なくとも低減される。
【0028】
第三の実施形態を
図6に示す。この例では、合成樹脂製アンテナの平滑な前面は、金属化されていない。アンテナの上層6.1は、シングルアンテナ間の領域の裏面上において構造化され金属化されているが、構造化の形状には、バリエーションがある。これにより、シングルアンテナ間に入射するビームは、上層の裏面に当たって初めて反射され、上層の構造化によって厚さが異なっているために反射ビームは、異なる位相ポジションを得る、即ち、様々な方向に拡散される。合成樹脂製アンテナから反射散乱されたビームは、部分的に、車両側のカバーから反射され、アンテナへ戻ってくる。
図6では、再反射されたビームのみが描かれている;カバーを貫通した分は、以降の考察において関係ないため、描かれていない。ここでは、受信アンテナのそれぞれ五つの受信エレメントに異なる位相ポジションにおいて当たっている。これにより、各々の受信アンテナにおいて、一般的に、干渉する様にではなく、むしろ、打ち消し合う様に重なり合い、二回反射された阻害分は、その振幅内にあって、その作用は、低減される。不規則な構造化に起因してこの阻害分のみならず、シングルアンテナを介して振幅と位相も変化する;阻害分が減ったとしても、(デジタルビームフォーミングによって実施される)角度形成においてエラーの原因になっている。その際問題になるのは、特に、シングルアンテナを介して反復するデジタルビームフォーミングにおいてサイドローブとなる、即ち、ゴーストターゲットとなり得る周期的なエラーである;要するに、角度形成において、リアルなオブジェクトの他に、存在しないオブジェクトが、他の角度に発生する。よって、多様な構造化を、規則的なパターンを有さず、ランダムと言えるほどにデザインしている。これまでは、合成樹脂製アンテナの上層の構造化された裏面は、金属化されていた;しかし、この金属化は、省くことも可能である。それは、次の層までの空隙が、様々な厚さを有しており、合成樹脂内と空気中の波長が異なっていることから、これによりビームの発散を得られるからである。このアプローチは、複数の層を通じて実施可能である。第四実施形態の短所は、アンテナ上の表面波の合成樹脂内に侵入しない一部は、影響を受けないため、その妨害効果を低減できないことにある。
【0029】
そのため、第四実施形態では、合成樹脂製アンテナの金属化された前面の構造化が提案される。第一アプローチは-第三実施形態の如く-ランダムとも言える構造化を用いることである。
図7には、第二アプローチが描かれている;但し、
図7では、該合成樹脂製アンテナは、鉛直方向にノコギリ歯状の表面構造化を有する縦断面図として描かれている;水平方向は、構造化されていない、要するに、アンテナのどの場所を見ても、縦断面は、
図7と同じに見える-シングルアンテナの領域も同様。仰角方向において各々のアンテナは、ここでも、センサ全体に対して鉛直、即ち、方向7.1に対してメインビーム(要するに最も高いパワー密度)を有するべきであるため、それぞれの五つのアンテナエレメントは、鉛直方向のビームに対するアンテナ外における異なるランタイムを相殺する各々異なる位相ポジションを有していなければならない。
図7に示されている如く、隣接するアンテナエレメント間の高さの差は、好ましくは、0.4mm、即ち、ここで議論されているレーダー周波数76GHzにおける約4mmである波長の1/10であり、よって、アンテナエレメントからアンテナエレメントへの鉛直な放射における、360°/10=36°の位相変位による波長の1/10の経路長の差を相殺できる。この位相変位は、アンテナエレメントへの共通な供給ポイントからの長さが異なる入力経路によって実現されている。これは、送信アンテナと受信アンテナの双方で同様である。
【0030】
例えば、隣接する受信アンテナRX1とRX2(
図2の様な配置の場合)のカップリングを観察すると、これは、それぞれの隣接するアンテナエレメントのカップリングに支配される。この様なカップリングは、受信アンテナRX2によって受信されたパワーが、例えば、アンテナエレメントの共通の出力ポイントが、最適に合わせられていないことにより、部分的に反射により戻され、合成樹脂製アンテナの表面上で、それぞれ隣接する受信アンテナRX1のアンテナエレメントにカップリングされることによって起こる。受信アンテナRX2内において反射され、受信アンテナRX1に到達するパワーは、アンテナエレメント毎に異なる位相を有している;共通の供給ポイントへの異なる経路長による位相変位は、(RX2とRX1内で)二倍になり、RX1のアンテナからアンテナエレメントにおいて、72°の位相差となる。五つのアンテナエレメントでは、受信アンテナRX1内の五つのカップリングされたアンテナエレメントシグナルが、完全に消滅する。
【0031】
カバーと合成樹脂製アンテナ間の反復反射に対して、
図7の様な鉛直方向にノコギリ歯状になっている表面も同様に作用する。
【0032】
図8aは、水平方向において多少斜めに侵入してくる波に対するアンテナを上から示している。カバーは、センサに対して平行である。合成樹脂製アンテナのこのカバーに対して斜めになっている表面により、二回反射した妨害ビームは、受信アンテナRX4の五つのアンテナエレメントの共通の出力ポイントに、異なる位相ポジションをもって侵入する(他の受信アンテナでも同様)。この二回反射により、隣接する二つのアンテナエレメントに関して、波長の約1/10の経路長の差が、二重に関与する;三番目の経路長の差は、アンテナエレメントに入射する際-直接入射するビーム同様-アンテナ内において共通の出力ポイントへの異なる経路長によって、相殺されるため関与しない。これにより、二回反射した妨害ビームは、再び、五つのアンテナエレメント間において72°の逐次的位相変位を得、互いに相殺し、角度形成を妨害しない。これにより、車両側のセンサカバーに対する要求が低減する事が可能になり、コスト的に有利になる。
【0033】
この効果は、以下のようにも説明できる:
図8bは、アンテナとこの二回反射した妨害ビームを側方から示している。アンテナ表面の鉛直方向の傾きにより、妨害ビームは、二倍の仰角傾きでアンテナに入射する;鉛直方向への広がりによって、線直方向の受信方向においてアンテナの感度領域が制限されていることから、有意に0°から仰角がずれれば、入射する波のパワーを受けない、乃至、少ないパワーのみしか受けない。
【0034】
但し、上記の如き少なくとも略完全な相殺は、方位角が非常に小さい場合にのみ有効である;尚、方位角が大きい場合には、経路長の差は、波長の1/10の二回分、即ち、位相差72°と有意にずれる。この場合、相殺は部分的である、要するに、二回反射したビームの一部のみが受信される。しかしながら、この妨害部分は、水平方向の構造化が、変化しないため、即ち、これに関しては、各々のアンテナが、同じ周辺部を見ていることから、四本のいずれの受信アンテナにおいても似通っている。しかし、例えば、合成樹脂製アンテナの周縁部の向きや隣接するアンテナ構成に差異があることから、アンテナの周りが全く同じであり、よって阻害分も同じであると言うことは、あり得ない。
【0035】
特記すべきは、上記の考察は、送信アンテナでも同様に有効であることである;そこでは、二回反射したビームは、送信される波の振幅と位相をずれさせるが、これに基づいて、角度形成が送信アンテナと受信アンテナの全組み合わせのシグナルから実現されていることから、角度形成もずれてしまう。
【0036】
この表面にノコギリ歯状の構造化が施された第四実施形態では、アンテナ自体が、構造化された表面上に実施されている、即ち、鉛直方向に傾いている。代案的には、アンテナの間の領域のみをノコギリ歯状に構造化し、アンテナ自体は、平滑に実施することも可能である;即ち、アンテナの脇には、アンテナエレメント毎に異なる段が備わっている。
【0037】
ノコギリ歯状の構造化-連続的な傾き-の代わりに、段状の構造化を採用する事も可能である。
【0038】
図9に係る第五実施形態では、合成樹脂製アンテナの前面の左右のエッジは、シングルアンテナに対してそれぞれ斜めになっている;尚、左の図は、アンテナを前方から、右の図は、示されているレベルにおける断面9.1を示している。受信側で効果を有する表面波9.2は、受信アンテナRX1の五つのアンテナエレメントに、異なる波長、よって、異なる位相ポジションで到達し、少なくとも一部が、相殺される(これは、他の受信アンテナと送信アンテナでも同様に有効)。周縁部を斜めに配置する代わりに、他の形状、例えば、段状やノコギリ歯状のプロファイルを用いることも勿論可能である。
【0039】
更に特記すべきは、複数回反射とそれに伴う問題となる効果は、車両側のセンサのカバーにのみ起因するものではなく、センサ側のカバー、即ち、センサハウジングの前面によっても起こっている。これに対しても上述の対策は同様に効果を示し、センサパフォーマンス、及び/或いは、センサハウジングに対する要求の低減に活かされることが出来る。
なお、本発明は、以下の態様も包含し得る:
1.合成樹脂製アンテナが、センサ側及び/或いは車両側のカバーを向いている前面に、複数本のレーダーシグナルを送信及び/或いは受信するためのシングルアンテナを有し、該複数本のシングルアンテナが、オブジェクトの検出及び/或いは角度測定のために使用される合成樹脂ベースのアンテナを備えた車両の周辺把握のためのレーダーシステムであって、
合成樹脂製アンテナの前面は、各々のシングルアンテナ間において、その表面が、少なくとも部分的に反射しないように構成されている、特に好ましくは、金属化されておらず、且つ、その少なくとも一部が、レーダー波を部分的に乃至完全に吸収する合成樹脂マテリアルから構成されている、及び/或いは、
-該合成樹脂製アンテナが、各々のシングルアンテナ間に、受動的なアンテナ、所謂、ブラインドアンテナを有しており、それによって受信されたパワーの少なくとも一部を再反射せず、該合成樹脂製マテリアル内に吸収する、及び/或いは、
-合成樹脂製アンテナの前面が、各々のシングルアンテナ間において、その表面が、少なくとも部分的に反射しないように構成されている、特に好ましくは、金属化されておらず、但し、特にアンテナ内のストラクチャ及び/或いは金属化は、均一でない、及び/或いは、
-合成樹脂製アンテナの前面が、少なくとも部分的に平滑でなく、反射する表面、特に、平滑でなく金属化された表面を有している、及び/或いは、
-合成樹脂製アンテナの前面の縁が、シングルアンテナに対して平行でない、特に、斜めになっており、
これにより、アンテナの表面上の、及び/或いは、アンテナとセンサ側及び/或いは車両側のカバー間における反射よる干渉波を低減できる、乃至、その、特に角度測定に対する、悪影響を回避、或いは、低減できる
ことを特徴とする車両の周辺把握のためのレーダーシステム。
2.該合成樹脂製アンテナの前面が、非平面の反射する表面を有し、該シングルアンテナが、鉛直次元、即ち仰角方向に、そのメインビーム方向が仰角約0°である収束を有し、且つ、該表面のラインが、鉛直断面を基準として直線的ではないことを特徴とする上記1.に記載のレーダーシステム。
3.該表面が、鉛直断面を基準として、段を有する、或いは、ノコギリ歯状の輪郭、乃至、これらを組み合わせたシェープを有していることを特徴とする上記2.に記載のレーダーシステム。
4.該表面が、シングルアンテナの外部においてのみ全体的、乃至、部分的に非平面で有ることを特徴とする上記2.或いは3.に記載のレーダーシステム。
5.該シングルアンテナ自体も、全体的、乃至、部分的に非平面な表面を有していることを特徴とする上記2.或いは3.に記載のレーダーシステム。