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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-07
(45)【発行日】2024-05-15
(54)【発明の名称】スクロール圧縮機
(51)【国際特許分類】
   F04C 18/02 20060101AFI20240508BHJP
   F04C 29/04 20060101ALI20240508BHJP
【FI】
F04C18/02 311Y
F04C29/04 B
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2021000330
(22)【出願日】2021-01-05
(65)【公開番号】P2022105791
(43)【公開日】2022-07-15
【審査請求日】2023-11-20
(73)【特許権者】
【識別番号】516299338
【氏名又は名称】三菱重工サーマルシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100162868
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 英輔
(74)【代理人】
【識別番号】100161702
【弁理士】
【氏名又は名称】橋本 宏之
(74)【代理人】
【識別番号】100189348
【弁理士】
【氏名又は名称】古都 智
(74)【代理人】
【識別番号】100196689
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 康一郎
(72)【発明者】
【氏名】金井 暉裕
(72)【発明者】
【氏名】舘石 太一
(72)【発明者】
【氏名】山下 拓馬
(72)【発明者】
【氏名】岡田 義之
(72)【発明者】
【氏名】内川 瑛美里
(72)【発明者】
【氏名】高橋 一樹
(72)【発明者】
【氏名】高須 洋悟
【審査官】大瀬 円
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-180176(JP,A)
【文献】特開2015-113817(JP,A)
【文献】特開平7-269475(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04C 18/02
F04C 29/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸線に沿って延びるケーシングと、
前記ケーシング内に設けられて、前記ケーシング内の空間を前記軸線方向一方側の高圧側空間と前記軸線方向他方側の低圧側空間とに区画するディスチャージカバーと、
前記低圧側空間に設けられて、前記軸線に対して偏心回転する旋回スクロールと、
前記低圧側空間における前記ディスチャージカバーと前記旋回スクロールとの間に設けられて、前記低圧側空間から冷媒が導入される圧縮室を前記旋回スクロールとともに画成する固定スクロールと、
を備え、
前記固定スクロール及び前記ディスチャージカバーに、前記圧縮室で圧縮された前記冷媒を前記高圧側空間に吐出する吐出ポートが形成されており、
前記固定スクロールと前記ディスチャージカバーとの間に、前記吐出ポートを囲う環状をなすインジェクション空間、及び、該インジェクション空間を前記低圧側空間に連通させる連通路が画成されており、
前記インジェクション空間に外部から液冷媒を導入するインジェクション管をさらに備えるスクロール圧縮機。
【請求項2】
前記連通路は、前記軸線の周方向全域にわたって形成されている請求項1に記載のスクロール圧縮機。
【請求項3】
前記ディスチャージカバーは、前記吐出ポートの外周側で前記軸線方向一方側に環状に凹む環状凹部を有し、
前記固定スクロールは、前記前記吐出ポートの外周側で前記軸線方向一方側に環状に突出するとともに前記環状凹部にはまり込む環状凸部を有し、
前記インジェクション空間は、前記環状凹部の底面と前記環状凸部の先端面との間に画成されており、
前記連通路は、前記環状凸部の外周面と前記環状凹部の外側壁面との間に画成されており、
前記環状凸部の内周面と前記環状凹部の内側壁面との間に設けられて、前記インジェクション空間と前記吐出ポートとを隔てるシール部をさらに備える請求項1又は2に記載のスクロール圧縮機。
【請求項4】
前記固定スクロールには、前記インジェクション空間と前記圧縮室とを連通させる貫通部が形成されていない請求項1から3のいずれか一項に記載のスクロール圧縮機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、スクロール圧縮機に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、液インジェクション(液冷媒)をハウジングの外部から圧縮室に導入してスクロールを冷却するスクロール圧縮機が開示されている。このスクロール圧縮機によれば、運転中に生じる熱膨張によるスクロールのラップと端板との接触が抑制される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第6535153号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、特許文献1に記載されたスクロール圧縮機では、圧力の関係上液冷媒を圧縮室の中心部に導入することが難しく、圧縮室のある程度外側に導入する必要がある。このため、圧縮室の外側を冷却してしまい、運転中の温度が比較的高い固定スクロールの内側を十分に冷却できない場合がある。
【0005】
本開示は、上記課題を解決するためになされたものであって、固定スクロールの内側を効果的に冷却できるスクロール圧縮機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本開示に係るスクロール圧縮機は、軸線に沿って延びるケーシングと、前記ケーシング内に設けられて、前記ケーシング内の空間を前記軸線方向一方側の高圧側空間と前記軸線方向他方側の低圧側空間とに区画するディスチャージカバーと、前記低圧側空間に設けられて、前記軸線に対して偏心回転する旋回スクロールと、前記低圧側空間における前記ディスチャージカバーと前記旋回スクロールとの間に設けられて、前記低圧側空間から冷媒が導入される圧縮室を前記旋回スクロールとともに画成する固定スクロールと、を備え、前記固定スクロール及び前記ディスチャージカバーに、前記圧縮室で圧縮された前記冷媒を前記高圧側空間に吐出する吐出ポートが形成されており、前記固定スクロールと前記ディスチャージカバーとの間に、前記吐出ポートを囲う環状をなすインジェクション空間、及び、該インジェクション空間を前記低圧側空間に連通させる連通路が画成されており、前記インジェクション空間に外部から液冷媒を導入するインジェクション管をさらに備える。
【発明の効果】
【0007】
本開示のスクロール圧縮機によれば、固定スクロールの内側を効果的に冷却できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の実施形態に係るスクロール圧縮機の概略構成を示す断面図である。
図2図1の要部拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
(スクロール圧縮機)
以下、本開示の実施形態に係るスクロール圧縮機1について、図1及び図2を参照して詳細に説明する。
【0010】
図1は、本発明の実施形態に係るスクロール圧縮機1の概略構成を示す断面である。本実施形態のスクロール圧縮機1は、例えばパッケージエアコン等の冷媒回路内を流通する冷媒を圧縮する。
本実施形態に係るスクロール圧縮機1は、ケーシング10と、吸入配管13と、排出配管14と、インジェクション管130と、駆動部20と、第1軸受50と、第2軸受60と、給油ポンプ140と、旋回スクロール40と、ブッシュアセンブリ70と、第3軸受80と、オルダムリング90と、固定スクロール30と、ディスチャージカバー100と、を備える。
【0011】
(ケーシング)
ケーシング10は、両端が閉塞された筒状をなす軸線О1に沿って延びる筐体である。ケーシング10は、ケーシング本体11を有している。
ケーシング本体11は、駆動部20の軸線О1が延びる軸線О1方向に延在している。ケーシング本体11は内側にケーシング内周面11aを有しており、ケーシング本体11内部には、冷媒を圧縮するための各種部品が収容される収容空間12が区画されている。
ケーシング本体11は、駆動部20と、第1軸受50と、第2軸受60と、給油ポンプ140と、旋回スクロール40と、ブッシュアセンブリ70と、第3軸受80と、オルダムリング90と、固定スクロール30と、ディスチャージカバー100と、を収容している。
【0012】
ケーシング本体11内部の収容空間12は、ディスチャージカバー100を境に、高圧側空間12bと、低圧側空間12aと、に区画されている。
高圧側空間12bは、収容空間12内でディスチャージカバー100よりも軸線О1方向一方側(下流側、上側)に位置しており、冷媒が圧縮室31で圧縮され、ディスチャージカバー100から該冷媒が吐出される空間である。
低圧側空間12aは、収容空間12内でディスチャージカバー100よりも軸線О1方向他方側(上流側、下側)に位置しており、冷媒が圧縮室31で圧縮される前に存在する高圧側空間12bよりも雰囲気の気圧が低い空間である。
【0013】
ケーシング本体11には、吸入配管13と、排出配管14と、インジェクション管130と、が設けられている。吸入配管13、排出配管14、及びインジェクション管130は、ケーシング本体11の内外をそれぞれ連通させており、各管内部を冷媒が流通可能となっている。
【0014】
吸入配管13は、冷媒をケーシング本体11外部からケーシング本体11内部の低圧側空間12aに供給している。吸入配管13内部を流通する冷媒の大部分は気体である。
排出配管14は、冷媒をケーシング本体11内部の高圧側空間12bからケーシング本体11外部へ排出している。排出配管14より排出された冷媒は、冷媒回路(不図示)を流通して減圧膨張された後、再び吸入配管13へと戻る。排出配管14内部を流通する冷媒の大部分は気体である。
【0015】
インジェクション管130は、液冷媒をケーシング本体11外部からケーシング本体11内部のディスチャージカバー100と固定スクロール30とが画成するインジェクション空間Sに供給している。インジェクション管130内部を流通する液冷媒の大部分は液体である。
【0016】
ケーシング本体11は、第1ケーシング部15と、第2ケーシング部16と、第3ケーシング部17と、を有している。
第1ケーシング部15及び第3ケーシング部17は、ディスチャージカバー100とともに低圧側空間12aを画成している。第1ケーシング部15は内側に第1内周面15aを、第3ケーシング部17は内側に第3内周面を有している。
第1ケーシング部15は、軸線О1を中心とした円筒状をなす部材であり、上流側と下流側の両方に開口端部を有している。
第3ケーシング部17は、蓋状の部材であり、第1ケーシング部15の軸線О1方向他方側の開口端部を塞ぐように、第1ケーシング部15と組み合わされている。
【0017】
第2ケーシング部16は、ディスチャージカバー100とともに高圧側空間12bを画成しており、内側に第2内周面16aを有している。
第2ケーシング部16は、蓋状の部材であり、第2ケーシング部16の軸線О1方向他方側を向く開口端部は、ディスチャージカバー100が有しているフランジ部100bを間に介して第1ケーシング部15の軸線О1方向一方側の開口端部と組み合わされている。したがって、第2ケーシング部16の開口端部、フランジ部100b、第1ケーシング部15の開口端部によって、高圧側空間12bの気密性が保たれている。
【0018】
第1内周面15a、第2内周面16a、及び第3内周面は、それぞれケーシング本体11のケーシング内周面11aの一部である。
【0019】
(駆動部)
駆動部20は、回転軸21と、ロータ22と、コイル160と、偏心軸23と、を有している。
回転軸21は、軸線О1を中心とする円柱形状をなす部材である。回転軸21は、低圧側空間12a内の略中央で軸線О1方向に延びている。回転軸21は、ロータ22の回転により、軸線О1回りにロータ22と一体に回転する。
ロータ22は、回転軸21の一部を軸線О1に沿って覆うように一体となって形成されている。ロータ22は、該ロータ22を軸線О1の径方向外側から覆うコイル160によって生じる電磁力の影響を受けて回転する。
【0020】
偏心軸23は、下流側を向く回転軸21の第1端面21aに設けられている。偏心軸23は、該偏心軸23の低圧側空間12a上流側の端面23aが回転軸21の第1端面21aに対向した状態で、回転軸21の第1端面21aに接合されている。偏心軸23は、軸線О1に対して偏心された偏心軸線О2を中心軸として軸線О1方向に延びている。偏心軸23は、回転軸21よりも小さい円柱形状をなす部材である。したがって、偏心軸23は、軸線О1回りに回転軸21が回転すると、回転軸21と一体に軸線О1回りに公転旋回する。
【0021】
(第1軸受)
第1軸受50は、ケーシング本体11内部に収容される。第1軸受50は、第1内周面15aに固定されている。第1軸受50は、第1ケーシング部15と吸入配管13との接続位置と、圧縮室31との間に配置されている。
第1軸受50は、軸線О1方向に延び、回転軸21の圧縮室31側の第1端部21bを回転可能に支持している。
【0022】
(第2軸受)
第2軸受60は、第3ケーシング部17近傍の第1ケーシング部15の第1内周面15aに固定されている。第2軸受60は、回転軸21の第3ケーシング部17側の第2端部21cを回転可能に支持している。
【0023】
(給油ポンプ)
給油ポンプ140は、第1軸受50、第2軸受60、及び第3軸受80の摺動部に給油路(不図示)を介してそれぞれ潤滑油を供給している。給油ポンプ140は、第2軸受60の第3ケーシング部17側に設けられている。
【0024】
(旋回スクロール)
旋回スクロール40は、第1軸受50と第2ケーシング部16との間に配置されている。旋回スクロール40は、旋回端板41と、旋回ラップ42と、ボス部43と、を有している。
【0025】
旋回端板41は、軸線О1方向を板厚方向とする円盤形状をなし、第1面41aと、第2面41bと、を有している。
第1面41a及び第2面41bは、軸線О1に対して直交している。第1面41aは軸線О1方向で固定スクロール30と対向しており、圧縮室31の一部を構成する。第2面41bは、第1面41aの反対側に配置された面である。第2面41bは、第1軸受50と対向している。
【0026】
旋回ラップ42は、旋回端板41の第1面41aに設けられ、軸線О1方向一方側に向かって立設している。旋回ラップ42は、固定ラップ33と同様に、軸線О1方向一方側から見て渦巻き状に形成された壁体である。旋回ラップ42は、偏心軸線О2方向から見て該偏心軸線О2を中心とするインボリュート曲線をなすように構成されることが望ましい。
【0027】
上記構成とされた旋回ラップ42は、軸線О1方向に対向する固定スクロール30の固定ラップ33と噛み合うように配置されている。これにより、旋回ラップ42と固定ラップ33との間には、低圧側空間12aから冷媒が導入され、該冷媒を圧縮する空間である圧縮室31が画成されている。そして、旋回ラップ42が固定ラップ33に対して公転旋回することで、圧縮室31内の容積が変化し、圧縮室31内の冷媒が圧縮される。したがって、旋回スクロール40は、低圧側空間12aに設けられて、軸線О1に対して偏心回転する。
【0028】
ボス部43は、旋回端板41の第2面41bの中央付近に環状に設けられている。ボス部43は、円筒形状の部材であり、旋回端板41の第2面41bから軸線О1方向他方側に突出している。ボス部43は、偏心軸23の外周面を囲むように配置されている。
【0029】
(ブッシュアセンブリ)
ブッシュアセンブリ70は、旋回スクロール40と回転軸21とを連結しており、偏心軸23とボス部43との間に設けられたブッシュ71を有している。ブッシュアセンブリ70は、旋回スクロール40と回転軸21との間に設けられている。
【0030】
(第3軸受)
第3軸受80は、ブッシュ71の外周面とボス部43の内周面との間に配置されている。第3軸受80は、軸線О1方向に延び、ブッシュ71を介して偏心軸23を支持している。
【0031】
(オルダムリング)
オルダムリング90は、旋回端板41と第1軸受50との間に設けられている。オルダムリング90は、旋回端板41に形成されたキー溝に嵌合するキーを有している。オルダムリング90は、旋回スクロール40が回転軸21の回転に伴って偏心軸線О2回りに自転することを抑制しつつ、回転軸21の自転運動を旋回スクロール40の公転旋回運動へ変換する継手部材である。
【0032】
次に、図2を参照して、固定スクロール30及びディスチャージカバー100について説明する。図2は、図1の要部拡大断面図である。
【0033】
(固定スクロール)
固定スクロール30は、低圧側空間内12aにおいてディスチャージカバー100と旋回スクロール40との間に設けられている。固定スクロール30は、締結部37と、固定端板32と、固定ラップ33と、環状凸部35と、を有している。
【0034】
締結部37は、固定スクロール30の軸線О1の径方向外側端部のボルト150で第1軸受50に締結されるフランジ状の部材である。締結部37は第1内周面15aに沿って軸線О1の周方向に間隔をあけて複数が設けられている。これにより、固定スクロール30は、ケーシング10内部で動かないように位置決めされている。
周方向に隣接する締結部37同士の間の締結部37外周面と第1内周面15aとの間には隙間が形成されている。
【0035】
固定端板32は、軸線О1方向を板厚方向とする円盤形状をなし、背面32bと、前面32aと、固定スクロール側吐出孔36aと、吐出弁34と、を有している。
背面32b及び前面32aは、軸線О1に対して直交する面である。背面32bは軸線О1方向において、ディスチャージカバー100と対向する面である。該背面32bは、低圧側空間12aに露出している。前面32aは、背面32bの反対側に配置された面である。前面32aは、軸線О1方向において旋回スクロール40と対向し、圧縮室31の一部を構成する。
【0036】
固定スクロール側吐出孔36aは、固定端板32の中央を軸線О1方向に貫通するように形成された孔である。固定スクロール側吐出孔36aは、前面32aから背面32bに向かって軸線О1方向に延びている。固定スクロール側吐出孔36aは、圧縮室31で圧縮された冷媒を吐出弁34、吐出空間36b、及びディスチャージカバー側吐出孔36cを介して高圧側空間12bへ吐出させるための流路である。
【0037】
吐出弁34は、吐出空間36b内に設けられている。吐出弁34は、吐出空間36b内で高圧側空間12bから圧縮室31へ冷媒が逆流してしまうことを防止する目的で、固定スクロール側吐出孔36aの出口を開閉させる弁としての機能を有している。
吐出空間36bは、固定スクロール30とディスチャージカバー100との間に画成される空間であり、固定スクロール側吐出孔36aを通過した冷媒が通過する空間である。吐出空間36bを通過した冷媒は、後続のディスチャージカバー100が有しているディスチャージカバー側吐出孔36cに入り、高圧側空間12bへと抜ける。
【0038】
固定ラップ33は、固定端板32の前面32aに設けられ、軸線О1方向他方側に立設される。固定ラップ33は、軸線О1方向から見て渦巻き状に形成された壁体である。一例として、固定ラップ33は、軸線О1方向から見て該軸線О1を中心とするインボリュート曲線をなすように構成されることが望ましい。
【0039】
環状凸部35は、背面32bに設けられており、固定スクロール側吐出孔36aの外周側で軸線О1方向一方側に向かって突出する円筒形状の部材である。環状凸部35は、固定スクロール側吐出孔36a及び吐出空間36bの外周側で該固定スクロール側吐出孔36a及び吐出空間36bを囲むように配置されている。
【0040】
(ディスチャージカバー)
ディスチャージカバー100は、固定スクロール30と第2ケーシング部16との間に設けられており、ケーシング10内の空間である収容空間12を軸線О1方向一方側の高圧側空間12bと軸線О1方向他方側の低圧側空間12aとに区画している。ディスチャージカバー100は、フランジ部100bと、ディスチャージカバー側吐出孔36cと、内周面100aと、環状凹部101と、シール部120と、を有している。
【0041】
フランジ部100bは、周方向にわたって第1ケーシング部15の端部と第2ケーシング部16の端部とに挟まれる形で不図示のボルト等で第1ケーシング部15及び第2ケーシング部16に締結されて保持されている。これにより、ディスチャージカバー100は、ケーシング10内部で動かないように位置決めされており、収容空間12を高圧側空間12bと低圧側空間12aとに区画している。
【0042】
ディスチャージカバー側吐出孔36cは、ディスチャージカバー100の略中央を軸線О1方向に貫通するように形成された孔である。ディスチャージカバー側吐出孔36cは、ディスチャージカバー100の軸線О1方向他方側を向く内周面100aから高圧側空間12bに向かって軸線О1方向に延びている。ディスチャージカバー側吐出孔36cは、吐出空間36bから導入される冷媒を高圧側空間12bへ吐出するための流路である。
【0043】
固定スクロール側吐出孔36a、吐出空間36b、及びディスチャージカバー側吐出孔36cは、圧縮室31と高圧側空間12bとを連通する吐出ポート36を構成する。即ち、これら固定スクロール側吐出孔36a、吐出空間36b、及びディスチャージカバー側吐出孔36cはそれぞれ吐出ポート36の一部である。
【0044】
環状凹部101は、内周面100aに設けられており、ディスチャージカバー側吐出孔36cの外周側で軸線О1方向一方側に環状に凹む凹部である。環状凹部101は、環状凸部35がはまり込むように形成されている。
固定スクロール30の環状凸部35の先端面35aと、ディスチャージカバー100の環状凹部101の底面101aとの間には、ディスチャージカバー側吐出孔36cを囲う環状をなす空間であるインジェクション空間Sが画成されている。
【0045】
インジェクション空間Sには、インジェクション管130を介して外部から液冷媒が導入され、該液冷媒がインジェクション空間S内に充填される。液冷媒には、例えばR32冷媒が用いられる。
環状凸部35の先端面35aには、インジェクション空間Sと圧縮室31とを連通する孔等の貫通部は形成されておらず、液冷媒がインジェクション空間Sから圧縮室31内に貫通部を介して直接導入されることはない。
【0046】
シール部120は、環状凸部35の内周面と環状凹部101の内側壁面との間に設けられており、インジェクション空間Sと吐出ポート36とを液冷媒が流通不可能なように隔てている。
シール部120は凹溝と、シール部材と、を有している。凹溝は、環状凹部101の内側壁面にディスチャージカバー側吐出孔36cに向かう方向に凹んで形成された凹部であり、シール部材が凹溝に埋め込まれている。シール部材には、例えばОリングが用いられる。
【0047】
環状凸部35の外周面と環状凹部101の外側壁面との間には、周方向にわたって連通路110が設けられている。つまり、連通路110は、固定スクロール30とディスチャージカバー100との間で、インジェクション空間Sを低圧側空間12aに連通させている。
インジェクション空間S内の液冷媒は、該インジェクション空間Sから連通路110を通過し、連通路110を通過した後は固定スクロール30の外面となる固定端板32の背面32bを軸線О1の径方向外側に向かって放射状に流れていく。
【0048】
固定スクロール30の外面を流れた後の液冷媒は、周方向に隣接する締結部37同士の間の締結部37外周面と第1内周面15aとの間の隙間から固定スクロール30よりも軸線О1方向他方側へ流れ出る。該隙間を流れ出た液冷媒は、公転旋回駆動している旋回スクロール40と接触して圧縮室31に吸入され、該液冷媒も気体の冷媒と同様に圧縮に用いられる。
【0049】
(作用効果)
本開示の実施形態に係るスクロール圧縮機1は、固定スクロール30とディスチャージカバー100との間に、吐出ポート36を囲う環状をなすインジェクション空間S、及び、該インジェクション空間Sを前記低圧側空間12aに連通させる連通路110が画成されている。さらに、インジェクション空間Sに外部から液冷媒を導入するインジェクション管130がケーシング10に設けられている。
これにより、インジェクション空間Sに導入された液冷媒が固定スクロール30の内側の外面を冷却する。さらに、液冷媒がインジェクション空間Sから連通路110を通過し、低圧側空間12aへと流れ出るため、インジェクション管130から新たな液冷媒をインジェクション空間Sに供給し続けることができる。したがって、運転中に温度が比較的高いスクロールの内側及び吐出ポート36内の冷媒を効果的に冷却することができる。
【0050】
また、上記の構成によれば、インジェクション空間Sを低圧側空間12aに連通させる連通路110が、軸線О1の周方向全域にわたって形成されている。
これにより、液冷媒が固定スクロール30の外面全域を流れるため、固定スクロール30の外面を満遍なく冷却することができる。したがって、スクロールの熱分布を適正化することができる。
【0051】
また、上記の構成によれば、ディスチャージカバー100が吐出ポート36の外周側で環状凹部101を有しており、固定スクロール30が環状凹部101にはまり込む環状凸部35を有している。また、環状凹部101の底面101aと環状凸部35の先端面35aとの間にインジェクション空間Sが画成され、環状凸部35の外周面と環状凹部101の外側壁面との間に周方向にわたって連通路110が画成されている。さらに、環状凸部35の内周面と環状凹部101の内側壁面との間にインジェクション空間Sと吐出ポート36とを隔てるシール部120を備えている。
これにより、連通路110が先端面35a及び背面32bとの間を段差部としてつなぐことで液冷媒によって冷却される表面積が増加し、固定スクロール30の内側及び吐出ポート36内の冷媒をより効果的に冷却することが出来る。したがって、上記効果をより高めることができる。
【0052】
また、上記の構成では、固定スクロール30には、インジェクション空間Sと圧縮室31とを連通させる貫通部が形成されていない。
これにより、冷媒圧縮の際にデッドボリューム(連通による圧縮に寄与しない空間の増加)が生じない。したがって、圧縮に際して余分なエネルギーを投入することがないため、スクロール圧縮機1を効率的に運転することができる。
【0053】
(その他の実施形態)
以上、本開示の実施形態について図面を参照して詳述したが、具体的な構成は実施形態の構成に限られるものではなく、本開示の要旨を逸脱しない範囲内での構成の付加、省略、置換、及びその他の変更が可能である。また、本開示は実施形態によって限定されることはなく、特許請求の範囲によってのみ限定される。
【0054】
なお、環状凸部35の先端面35aには、軸線О1方向他方側にむかって凹む凹部が形成されていてもよい。これにより、液冷媒と接触する固定スクロール30内側の表面積が増加するため、より効果的にスクロール内側を冷却することができる。
【0055】
また、シール部120は、環状凸部35に設けられていてもよいし、環状凹部101及び環状凸部35の両方に設けられていてもよい。
【0056】
また、本実施形態の説明においては、パッケージエアコン等の冷媒回路の位置構成要素としてのいわゆる定置用スクロール圧縮機の図を用いているが、車載用カーエアコンや冷凍装置等に用いられるスクロール圧縮機として本実施形態の構成を用いてもよい。
【0057】
<付記>
実施形態に記載のスクロール圧縮機1は、例えば以下のように把握される。
【0058】
(1)第1の態様に係るスクロール圧縮機1は、軸線О1に沿って延びるケーシング10と、前記ケーシング10内に設けられて、前記ケーシング10内の空間を前記軸線О1方向一方側の高圧側空間12bと前記軸線О1方向他方側の低圧側空間12aとに区画するディスチャージカバー100と、前記低圧側空間12aに設けられて、前記軸線О1に対して偏心回転する旋回スクロール40と、前記低圧側空間12aにおける前記ディスチャージカバー100と前記旋回スクロール40との間に設けられて、前記低圧側空間12aから冷媒が導入される圧縮室31を前記旋回スクロール40とともに画成する固定スクロール30と、を備え、前記固定スクロール30及び前記ディスチャージカバー100に、前記圧縮室31で圧縮された前記冷媒を前記高圧側空間12bに吐出する吐出ポート36が形成されており、前記固定スクロール30と前記ディスチャージカバー100との間に、前記吐出ポート36を囲う環状をなすインジェクション空間S、及び、該インジェクション空間Sを前記低圧側空間12aに連通させる連通路110が画成されており、前記インジェクション空間Sに外部から液冷媒を導入するインジェクション管130をさらに備える。
【0059】
これにより、インジェクション空間Sに導入された液冷媒が固定スクロール30の内側の外面を冷却する。さらに、液冷媒がインジェクション空間Sから連通路110を通過し、低圧側空間12aへと流れ出るため、インジェクション管130から新たな液冷媒をインジェクション空間Sに供給し続けることができる。
【0060】
(2)第2の態様に係るスクロール圧縮機1は、(1)のスクロール圧縮機1であって、前記連通路110は、前記軸線О1の周方向全域にわたって形成されていてもよい。
【0061】
これにより、液冷媒が固定スクロール30の外面全域を流れるため、固定スクロール30の外面を満遍なく冷却することができる。
【0062】
(3)第3の態様に係るスクロール圧縮機1は、(1)または(2)のスクロール圧縮機1であって、前記ディスチャージカバー100は、前記吐出ポート36の外周側で前記軸線О1方向一方側に環状に凹む環状凹部101を有し、前記固定スクロール30は、前記前記吐出ポート36の外周側で前記軸線О1方向一方側に環状に突出するとともに前記環状凹部101にはまり込む環状凸部35を有し、前記インジェクション空間Sは、前記環状凹部101の底面101aと前記環状凸部35の先端面35aとの間に画成されており、前記連通路110は、前記環状凸部35の外周面と前記環状凹部101の外側壁面との間に画成されており、前記環状凸部35の内周面100aと前記環状凹部101の内側壁面との間に設けられて、前記インジェクション空間Sと前記吐出ポート36とを隔てるシール部120をさらに備えていてもよい。
【0063】
これにより、連通路110が先端面35a及び背面32bとの間を段差部としてつなぐことで液冷媒によって冷却される表面積が増加し、固定スクロール30の内側及び吐出ポート36内の冷媒をより効果的に冷却することが出来る。
【0064】
(4)第4の態様に係るスクロール圧縮機1は、(1)から(3)のいずれかのスクロール圧縮機1であって、前記固定スクロール30には、前記インジェクション空間Sと前記圧縮室31とを連通させる貫通部が形成されていなくてもよい。
【0065】
これにより、冷媒圧縮の際にデッドボリューム(連通による圧縮に寄与しない空間の増加)が生じないため、スクロール圧縮機1を効率的に運転することができる
【符号の説明】
【0066】
1…スクロール圧縮機 10…ケーシング 11…ケーシング本体 11a…ケーシング内周面 12…収容空間 12a…低圧側空間 12b…高圧側空間 13…吸入配管 14…排出配管 15…第1ケーシング部 15a…第1内周面 16…第2ケーシング部 16a…第2内周面 17…第3ケーシング部 20…駆動部 21…回転軸 21a…第1端面 21b…第1端部 21c…第2端部 22…ロータ 23…偏心軸 23a…端面 30…固定スクロール 31…圧縮室 32…固定端板 32a…前面 32b…背面 33…固定ラップ 34…吐出弁 35…環状凸部 35a…先端面 36…吐出ポート 36a…固定スクロール側吐出孔 36b…吐出空間 36c…ディスチャージカバー側吐出孔 37…締結部 40…旋回スクロール 41…旋回端板 41a…第1面 41b…第2面 42…旋回ラップ 43…ボス部 50…第1軸受 60…第2軸受 70…ブッシュアセンブリ 71…ブッシュ 80…第3軸受 90…オルダムリング 100…ディスチャージカバー 100a…内周面 100b…フランジ部 101…環状凹部 101a…底面 110…連通路 120…シール部 130…インジェクション管 140…給油ポンプ 150…ボルト 160…コイル О1…軸線 О2…偏心軸線 S…インジェクション空間
図1
図2