(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-07
(45)【発行日】2024-05-15
(54)【発明の名称】防眩フィルム
(51)【国際特許分類】
G02B 5/02 20060101AFI20240508BHJP
B32B 7/023 20190101ALI20240508BHJP
G02B 1/14 20150101ALI20240508BHJP
G02B 1/113 20150101ALN20240508BHJP
【FI】
G02B5/02 B
B32B7/023
G02B1/14
G02B1/113
(21)【出願番号】P 2021103450
(22)【出願日】2021-06-22
【審査請求日】2021-06-22
【審判番号】
【審判請求日】2023-03-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000002901
【氏名又は名称】株式会社ダイセル
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】弁理士法人有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】廣瀬 健策
(72)【発明者】
【氏名】林 正樹
【合議体】
【審判長】里村 利光
【審判官】河原 正
【審判官】廣田 健介
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-912(JP,A)
【文献】特開2019-142220(JP,A)
【文献】特許第6719677(JP,B2)
【文献】特開2017-173163(JP,A)
【文献】特開2008-129130(JP,A)
【文献】国際公開第2016/047059(WO,A1)
【文献】「JIS ディスプレイのぎらつき度合の求め方 JIS C 1006:2019」、一般財団法人 日本規格協会、令和元年12月20日
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 5/02
G02B 1/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シート状の基材と、
前記基材に重ねて配置された下側ハードコート層と、
前記下側ハードコート層の前記基材側とは反対側に重ねて配置された上側ハードコート層と、を備え、
前記下側ハードコート層の厚みが、前記上側ハードコート層の厚みの少なくとも150%以上の範囲の値であり、
前記上側ハードコート層は、ウレタン(メタ)アクリレート、エポキシ(メタ)アクリレート、ポリエステル(メタ)アクリレート、ポリエーテル(メタ)アクリレートから選択される少なくとも1つであって、チオール基を含まない光硬化性樹脂又は
チオール基を含まないオリゴマーの硬化物を、マトリクス樹脂として含み、
前記上側ハードコート層
は、表面に凹凸が形成され
且つチオール基を含まない層であり、
前記下側ハードコート層は、微粒子を含む、防眩フィルム。
【請求項2】
画素密度が441ppiである有機ELディスプレイの表面に装着した状態において、8ビット階調表示で且つ平均輝度が170階調のグレースケール画像として画像データが得られるように調整したときの、JIS C 1006:2019に準拠する方法で測定される前記ディスプレイの輝度分布の標準偏差が、6.9以上12以下の範囲の値である、請求項1に記載の防眩フィルム。
【請求項3】
ヘイズ値が0.5%以上25%以下の範囲の値である、請求項1又は2に記載の防眩フィルム。
【請求項4】
前記上側ハードコート層の前記下側ハードコート層とは反対側の面の鉛筆硬度が、4H以上の範囲の値である、請求項1~3のいずれか1項に記載の防眩フィルム。
【請求項5】
前記上側ハードコート層の厚みが、3μm以上6μm以下の範囲の値である、請求項1~4のいずれか1項に記載の防眩フィルム。
【請求項6】
前記下側ハードコート層の厚みが、10μm以上20μm以下の範囲の値である、請求項1~5のいずれか1項に記載の防眩フィルム。
【請求項7】
前記上側ハードコート層は、前記マトリクス樹脂である上側マトリクス樹脂と、前記上側マトリクス樹脂中に分散され且つ平均粒径が0.5μm以上5.0μm以下の範囲の値である凹凸形成粒子と、を含む、請求項1~6のいずれか1項に記載の防眩フィルム。
【請求項8】
前記上側マトリクス樹脂と前記凹凸形成粒子との屈折率差が、0以上0.20以下の範囲の値である、請求項7に記載の防眩フィルム。
【請求項9】
前記上側ハードコート層は、複数の樹脂成分を含み、前記複数の樹脂成分の相分離により形成された共連続相構造を有する、請求項1~6のいずれか1項に記載の防眩フィルム。
【請求項10】
前記下側ハードコート層は、下側マトリクス樹脂と、前記下側マトリクス樹脂中に分散され且つ平均粒径が5nm以上100nm以下の範囲の値である
前記微粒子と、を含む、請求項1~9のいずれか1項に記載の防眩フィルム。
【請求項11】
前記上側ハードコート層の前記下側ハードコート層とは反対側に重ねて配置された少なくとも1つの反射防止層を備える、請求項1~10のいずれか1項に記載の防眩フィルム。
【請求項12】
前記上側ハードコート層と接触するように配置される前記反射防止層が、金属酸化物粒子を含む、請求項11に記載の防眩フィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、表示装置のディスプレイに装着される防眩フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
防眩フィルムは、各種表示装置のディスプレイの表面に装着される。防眩フィルムは、例えば、ディスプレイに入射する外光を散乱させてディスプレイの表示内容を見易くすると共に、外部からディスプレイを保護する。防眩フィルムは、例えば、粗面化により微細な凹凸形状が形成された表面を有する。防眩フィルムの表面構造は、例えば特許文献1に開示されるように、マトリクス樹脂中に微粒子(フィラー)を分散させた防眩層により形成される。また、この表面構造は、例えば特許文献2に開示されるように、複数のポリマーの液相からのスピノーダル分解によって形成される共連続相構造(相分離構造)により形成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2009-109702号公報
【文献】特開2002-40213号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
防眩フィルムをディスプレイの表面に装着すると、ディスプレイからの出射光が、防眩フィルム表面の凹凸により屈折したり、防眩フィルム表面の凹凸によるレンズ効果でディスプレイの画素が拡大されて見えたりする。これにより、ギラツキが発生し、ディスプレイの見かけの表示性能が低下する。このギラツキは、ディスプレイが例えば400ppi以上の高精細画素を有する場合に顕著となる。
【0005】
ギラツキを抑制する方法としては、例えば、ディスプレイの画素サイズに合わせて防眩フィルム表面の凹凸を微細化する方法が挙げられる。この場合、特許文献1の構成では、防眩層を薄くして粒子の埋没を防ぐ必要がある。また特許文献2の構成では、共連続相構造部分を薄くして目的の凹凸形状をフィルム表面に形成し易くする必要がある。これにより、特許文献1及び2のいずれにおいても、防眩フィルムの硬度が低下し、防眩フィルムの耐久性が低下する。
【0006】
そこで本開示は、高精細画素を有するディスプレイの表面に防眩フィルムを装着する場合において、防眩性を得ると共にギラツキを良好に抑制し、且つ、防眩フィルムの硬度低下を防止することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の一態様に係る防眩フィルムは、シート状の基材と、前記基材に重ねて配置された下側ハードコート層と、前記下側ハードコート層の前記基材側とは反対側に重ねて配置された上側ハードコート層と、を備え、前記下側ハードコート層の厚みが、前記上側ハードコート層の厚みの少なくとも150%以上の範囲の値である。
【0008】
上記構成によれば、下側ハードコート層により上側ハードコート層を支持できる。また、下側ハードコート層とは個別に上側ハードコート層を構成できる。このため、上側ハードコート層を薄くして、上側ハードコート層の下側ハードコート層とは反対側に微細な凹凸形状を形成し易くできる。よって、高精細画素を有するディスプレイに防眩フィルムを装着したときに発生するギラツキを適切に抑制できる。また、下側ハードコート層の厚みが、上側ハードコート層の厚みの少なくとも150%以上の範囲の値である。従って、この上側ハードコート層を薄くした場合でも、ハードコート層全体の厚みをある程度確保できる。これにより、ハードコート層の厚み不足による防眩フィルムの硬度低下を防止できる。よって、防眩フィルムの耐久性の低下を防止できる。
【0009】
画素密度が441ppiである有機ELディスプレイの表面に装着した状態において、8ビット階調表示で且つ平均輝度が170階調のグレースケール画像として画像データが得られるように調整したときの、JIS C 1006:2019に準拠する方法で測定される前記ディスプレイの輝度分布の標準偏差が、0以上12以下の範囲の値であってもよい。
【0010】
ここでディスプレイの輝度分布の標準偏差は、ディスプレイの輝点のばらつきの程度を示す。ギラツキは、ディスプレイの輝点に起因して生じる。従って、ギラツキの大小は、ディスプレイの輝度分布の標準偏差の値と対応する。ディスプレイの輝度分布の標準偏差の値が大きいほど、ギラツキの程度が大きく、ディスプレイの輝度分布の標準偏差の値が小さいほど、ギラツキの程度は小さい。よって、ディスプレイの輝度分布の標準偏差は、ギラツキを定量的に評価するための客観的指標として用いることができる。また、高精細画素を有する有機ELディスプレイを用いてディスプレイの輝度分布の標準偏差を設定することで、高精細画素を有する自発光型ディスプレイに特有の画素からの広範囲な出射角度の入射光によって発生するギラツキの抑制にも対応できる。
【0011】
従って上記構成によれば、自発光型であり且つ高精細画素を有する有機ELディスプレイを用い、上記設定条件に基づいてディスプレイの輝度分布の標準偏差を0以上12以下の範囲の値とすることで、ギラツキが発生し易い過酷な防眩フィルムの使用態様においても、ギラツキを良好に抑制できる。
【0012】
ヘイズ値が0.5%以上25%以下の範囲の値であってもよい。このようにヘイズ値が設定されることで、ディスプレイからの出射光を防眩フィルムに適切に透過させつつ、防眩フィルムへの入射光を散乱できる。これにより、良好な防眩性を得ることができる。
【0013】
前記上側ハードコート層の前記下側ハードコート層とは反対側の面の鉛筆硬度が、4H以上の範囲の値であってもよい。これにより、防眩フィルムがディスプレイの表面に装着された状態において、防眩フィルムに何らかの物体が外部から接触した場合でも、外力により防眩フィルムが凹むのを防止できる。また、防眩フィルムの表面に傷がつきにくいように、防眩フィルムの耐久性を向上しつつ、防眩フィルムの光学特性を維持できる。
【0014】
前記上側ハードコート層の厚みが、3μm以上6μm以下の範囲の値であってもよい。これにより、下側ハードコート層で上側ハードコート層を支持しつつ、上側ハードコート層を一層薄くできる。よって、良好な防眩性を得つつギラツキを抑制できるように、防眩フィルムの表面の凹凸形状を形成し易くできる。
【0015】
前記下側ハードコート層の厚みが、10μm以上20μm以下の範囲の値であってもよい。これにより、防眩フィルムに適度な硬度を付与し易くでき、且つ、防眩フィルムの不要なカールを抑制し易くできる。また、下側ハードコート層の厚みをある程度確保し、ハードコート層全体の硬度を向上し易くできる。
【0016】
前記上側ハードコート層は、上側マトリクス樹脂と、前記上側マトリクス樹脂中に分散され且つ平均粒径が0.5μm以上5.0μm以下の範囲の凹凸形成粒子と、を含んでいてもよい。これにより、ハードコート層全体の硬度を確保しつつ、マトリクス樹脂と凹凸形成粒子とを利用して、良好な防眩性を得つつギラツキを抑制できるように、防眩フィルムの表面形状を形成し易くできる。
【0017】
前記上側マトリクス樹脂と前記凹凸形成粒子との屈折率差が、0以上0.20以下の範囲の値であってもよい。これにより、マトリクス樹脂と凹凸形成粒子との界面における光反射を抑制できる。よって、この光反射による不要な影響を抑制できる。その結果、良好な光学特性を有する防眩フィルムを実現できる。
【0018】
或いは前記上側ハードコート層は、複数の樹脂成分を含み、前記複数の樹脂成分の相分離により形成された共連続相構造を有していてもよい。これにより、ハードコート層全体の硬度を確保しつつ、共連続相構造を利用して、良好な防眩性を得つつギラツキを抑制できるように、防眩フィルムの表面形状を形成し易くできる。
【0019】
前記下側ハードコート層は、下側マトリクス樹脂と、前記下側マトリクス樹脂中に分散され且つ平均粒径が5nm以上100nm以下の範囲の微粒子と、を含んでいてもよい。このように、マトリクス樹脂と微粒子とを用いて下側ハードコート層を構成できる。よって、下側ハードコート層の設計自由度を向上できる。
【0020】
前記上側ハードコート層の前記下側ハードコート層とは反対側に重ねて配置された少なくとも1つの反射防止層を備えていてもよい。これにより、防眩フィルムをディスプレイの表面に装着した状態において、防眩フィルムを介してディスプレイの表面に外光が映り込むのを防止できる。よって、防眩フィルムをディスプレイの表面に装着したときのディスプレイの見かけの表示性能を更に向上できる。
【0021】
前記上側ハードコート層と接触するように配置される前記反射防止層が、金属酸化物粒子を含んでいてもよい。反射防止層をこのような構成とすることで、反射防止層を例えばスパッタリング法や蒸着法等により効率よく形成できる。
【発明の効果】
【0022】
本開示に係る各態様によれば、高精細画素を有するディスプレイの表面に防眩フィルムを装着する場合において、良好な防眩性が得られると共にギラツキを良好に抑制でき、且つ、防眩フィルムの硬度低下を防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】
図1は、第1実施形態に係る防眩フィルムの模式的な断面図である。
【
図2】
図2は、
図1の上側ハードコート層の部分断面図である。
【
図3】
図3は、第2実施形態に係る防眩フィルムの模式的な断面図である。
【
図4】
図4は、ギラツキ検査機の模式的な概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本開示の各実施形態について、図を参照して説明する。本書において言及するギラツキとは、JIS C 1006:2019において定義される現象を指す。
(第1実施形態)
図1は、第1実施形態に係る防眩フィルム1の構成を示す断面図である。
図2は、
図1の上側ハードコート層4の部分断面図である。防眩フィルム1は、表示装置16(
図3参照)のディスプレイ16aの表面に装着される。防眩フィルム1は、ディスプレイ16aに入射する入射光を散乱させて防眩する。また防眩フィルム1は、ディスプレイ16aを外部から保護する。また防眩フィルム1は、ディスプレイ16aの表面に装着された状態で、ギラツキを抑制する。このように防眩フィルム1は、複数の機能を有する。
【0025】
表示装置16及びディスプレイ16aの各種類は、限定されない。表示装置16としては、例えば、パーソナルコンピュータ(PC)、テレビ、スマートフォン等を例示できる。ディスプレイ16aとしては、液晶ディスプレイ(LCD)、有機ELディスプレイ(OLED)、無機ELディスプレイ、プラズマディスプレイパネル(PDP)等、公知のものを例示できる。本実施形態のディスプレイ16aは、一例として自発光型であり、ここでは有機ELディスプレイである。またディスプレイ16aは、画素密度が400ppi以上の高精細画素を有する。ディスプレイ16aの画素密度は、例えば、500ppi以上、600ppi以上、700ppi以上、800ppi以上のいずれの範囲の値でもよい。またディスプレイ16aは、自発光型及び透過型のいずれでもよい。ディスプレイ16aの画素配列は、マトリクス配列でもよいし、ペンタイル配列でもよい。ペンタイル配列については、例えば、特許第6653020号公報の記載を参照できる。
【0026】
図1及び
図2に示すように、一例として防眩フィルム1は、基材2、下側ハードコート層3、上側ハードコート層4、及び、粘着層7を備える。基材2は、ディスプレイ16aと下側ハードコート層3との間に配置され、下側ハードコート層3を支持する。粘着層7は、ディスプレイ16aと基材2との間に配置され、防眩フィルム1をディスプレイ16aの表面に固定する。粘着層7は、例えば光学糊を含む。粘着層7は、防眩フィルム1の光学特性に影響を及ぼしにくい材質で構成される。
【0027】
基材2は、ディスプレイ16aと下側ハードコート層3との間に配置される。基材2は、シート状に形成される。基材2は、ハードコート層3、4を支持する。粘着層7は、ディスプレイ16aと基材2との間に配置される。粘着層7は、防眩フィルム1をディスプレイ16aの表面に固定する。一例として、粘着層7は、防眩フィルム1をディスプレイ16aの表面に脱着自在に固定するが、これに限定されない。
【0028】
基材2の材質としては、例えば、ガラス、セラミックス、及び樹脂を例示できる。樹脂としては、例えば、下側ハードコート層3の材質と同様の樹脂を使用できる。好ましい基材2の材質としては、透明性ポリマー、例えば、セルロース誘導体(セルローストリアセテート(TAC)、セルロースジアセテート等のセルロースアセテート等)、ポリエステル系樹脂(ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリアリレート系樹脂等)、ポリスルホン系樹脂(ポリスルホン、ポリエーテルスルホン(PES)等)、ポリエーテルケトン系樹脂(ポリエーテルケトン(PEK)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)等)、ポリカーボネート系樹脂(PC)、ポリオレフィン系樹脂(ポリエチレン、ポリプロピレン等)、環状ポリオレフィン系樹脂(JSR株式会社製フィルム「アートン(ARTON)」(登録商標)、日本ゼオン株式会社製フィルム「ゼオネックス(ZEONEX)」(登録商標)等)、ハロゲン含有樹脂(ポリ塩化ビニリデン等)、(メタ)アクリル系樹脂、スチレン系樹脂(ポリスチレン等)、酢酸ビニル又はビニルアルコール系樹脂(ポリビニルアルコール等)を例示できる。
【0029】
基材2は、1軸又は2軸延伸されていてもよい。基材2は、例えば、光学的に等方性で低屈折率であることが好ましい。光学的に等方性の基材2としては、未延伸フィルムを例示できる。
【0030】
基材2の厚み寸法は、適宜設定可能である。基材2の厚み寸法としては、例えば、5μm以上2000μm以下の範囲の値が好ましく、15μm以上1000μm以下の範囲が一層好ましく、20μm以上500μm以下の範囲の値がより好ましい。
【0031】
本実施形態のハードコート層3、4は、基材2よりも高硬度であってもよい。また下側ハードコート層3は、上側ハードコート層4よりも透明であってもよい。この場合、下側ハードコート層3は、上側ハードコート層4よりも全光線透過率が高くてもよい。下側ハードコート層3は、防眩フィルム1の硬度を向上させる。ここで言う硬度は、例えば、JIS K 5600-5-4:1999に準拠する引っかき硬度(鉛筆法)により測定される鉛筆硬度の値として示すことができる。下側ハードコート層3は、基材2に重ねて配置される。下側ハードコート層3は、上側ハードコート層4を基材2側に固定するアンカー層としても機能する。下側ハードコート層3の上側ハードコート層4側の面は、上側ハードコート層4の下側ハードコート層3側の面よりも平滑であってもよい。
【0032】
下側ハードコート層3の厚みは、上側ハードコート層4の厚みの少なくとも150%以上の範囲の値である。これにより下側ハードコート層3は、上側ハードコート層4よりも十分な厚みを有する。本実施形態の下側ハードコート層3は、上側ハードコート層4よりも高硬度であってもよい。下側ハードコート層3の厚みを増大させることにより、防眩フィルム1全体の硬度が増大する。一例として、下側ハードコート層3の厚みは、上側ハードコート層4の厚みの少なくとも150%以上450%以下の範囲の値である。下側ハードコート層3の厚みとしては、例えば、200%以上450%以下の範囲の値が好ましく、250%以上400%以下の範囲の値が一層好ましく、250%以上350%以下の範囲の値がより好ましい。
【0033】
また例えば、下側ハードコート層3の厚みは、10μm以上20μm以下の範囲の値である。別の例では、下側ハードコート層3の厚みは、5μmよりも大きく20μm以下の範囲の値である。また下側ハードコート層3の厚みとしては、例えば、8μm以上20μm以下の範囲の値が好ましく、10μm以上20μm以下の範囲の値が一層好ましい。下側ハードコート層3の厚みを5μmよりも大きい範囲の値とすることで、下側ハードコート層3の割れ等の損傷を防止し、防眩フィルム1に適度な硬度を付与し易くできる。下側ハードコート層3の厚みを20μm以下の範囲の値とすることで、防眩フィルム1の不要なカールを抑制し易くできる。
【0034】
下側ハードコート層3は、下側マトリクス樹脂30と、下側マトリクス樹脂30中に分散された微粒子31とを含む。微粒子31は、一例として、平均粒径が5nm以上100nm以下の範囲である。微粒子31の平均粒径としては、例えば、5nm以上50nm以下の範囲の値が好ましく、10nm以上20nm以下の範囲の値が一層好ましい。ここで言う平均粒径とは、コールターカウンター法における50%体積平均粒径を指す(以下に言及するその他の平均粒径も同様とする。)
【0035】
微粒子31は、真球状に形成されているが、これに限定されない。一例として、微粒子31は、球形状や楕円体形状に形成されていてもよい。また一例として、微粒子31は、中実に形成されているが、中空に形成されていてもよい。微粒子31が中空に形成される場合、微粒子31の中空部には、空気またはその他の気体が充填されていてもよい。
【0036】
下側マトリクス樹脂30と微粒子31との屈折率差は、一例として、0以上0.20以下の範囲の値に設定される。この屈折率差としては、例えば、0以上0.15以下の範囲の値が好ましく、0以上0.10以下の範囲の値が一層好ましい。これにより、下側マトリクス樹脂30と微粒子31との界面における入射光の不要な反射が抑制される。
【0037】
下側ハードコート層3中の下側マトリクス樹脂30と微粒子31との質量比は、適宜設定可能である。例えば、下側ハードコート層3中の下側マトリクス樹脂30の総重量G1と、下側ハードコート層3中の微粒子31の総重量G2との比G2/G1は、0.5以上3.0以下の範囲の値に設定される。比G2/G1としては、例えば、1.0以上3.0以下の範囲の値が好ましく、1.5以上3.0以下の範囲の値が一層好ましい。
【0038】
下側マトリクス樹脂30としては、活性エネルギー線により硬化する光硬化性樹脂、及び、熱硬化性樹脂の少なくともいずれかの硬化物及び塗工時に添加した溶剤の乾燥により硬化する溶剤乾燥型樹脂を例示できる。
【0039】
光硬化性樹脂としては、例えば、ウレタン(メタ)アクリレート(オリゴマー)、エポキシ(メタ)アクリレート(オリゴマー)、ポリエステル(メタ)アクリレート(オリゴマー)、ポリエーテル(メタ)アクリレート(オリゴマー)、(メタ)アクリレート(オリゴマー)等を例示できる。
【0040】
また、光硬化性樹脂が用いられる場合、反応性希釈剤が併用されてもよい。反応性希釈剤の具体例としては、エチル(メタ)アクリレート、エチルヘキシル(メタ)アクリレート、スチレン、メチルスチレン、N-ビニルピロリドン等の単官能モノマー並びに多官能モノマー、例えば、ポリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ヘキサンジオール(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート等を例示できる。
【0041】
光硬化性樹脂が紫外線硬化性樹脂である場合、光重合開始剤を用いることが好ましい。光重合開始剤としては、アセトフェノン類、ベンゾフェノン類、ミヒラーベンゾイルベンゾエート、α-アミロキシムエステル、テトラメチルチウラムモノスルフィド、チオキサントン類を例示できる。また光硬化性樹脂には、光増感剤を混合して用いることも好ましい。光増感剤としては、n-ブチルアミン、トリエチルアミン、ポリ-n-ブチルホスフィン等を例示できる。
【0042】
溶剤乾燥型樹脂としては、公知の熱可塑性樹脂を例示できる。この熱可塑性樹脂としては、スチレン系樹脂、(メタ)アクリル系樹脂、酢酸ビニル系樹脂、ビニルエーテル系樹脂、ハロゲン含有樹脂、脂環式オレフィン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、セルロース誘導体、シリコーン系樹脂、及びゴム又はエラストマー等を例示できる。溶剤乾燥型樹脂の材料は、有機溶媒に可溶であることが好ましい。また溶剤乾燥型樹脂は、成形性、製膜性、透明性、及び耐候性に優れることが好ましい。このような溶剤乾燥型樹脂としては、スチレン系樹脂、(メタ)アクリル系樹脂、脂環式オレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂、セルロース誘導体(セルロースエステル類等)を例示できる。
【0043】
ここで、基材2の材質がトリアセチルセルロース(TAC)等のセルロース系樹脂である場合、溶剤乾燥型樹脂に用いられる熱可塑性樹脂として、セルロース系樹脂を例示できる。このセルロース系樹脂は、ニトロセルロース、アセチルセルロース、アセチルブチルセルロース、エチルセルロース、メチルセルロース、セルロースアセテートプロピオネート、エチルヒドロキシエチルセルロース等のセルロース誘導体を例示できる。溶剤乾燥型樹脂としてセルロース系樹脂を用いることで、基材2と下側ハードコート層3とを良好に密着させられると共に、防眩フィルム1の優れた透明性が得られる。
【0044】
また熱硬化性樹脂としては、フェノール樹脂、尿素樹脂、ジアリルフタレート樹脂、メラミン樹脂、グアナミン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂、アミノアルキッド樹脂、メラミン-尿素共縮合樹脂、ケイ素樹脂、ポリシロキサン樹脂等を例示できる。熱硬化性樹脂が用いられる場合、架橋剤、重合開始剤等の硬化剤、重合促進剤、溶剤、及び粘度調整剤等の少なくともいずれかを併用してもよい。
【0045】
微粒子31としては、例えば、無機系微粒子を例示できる。この無機系微粒子としては、シリカ(SiO2)、ジルコニア、チタニア(TiO2)、その他の各種金属酸化物の微粒子を例示できる。金属酸化物としては、インジウムスズ酸化物、酸化スズ、酸化インジウム、酸化ゲルマニウム、酸化亜鉛、酸化アルミニウムを例示できる。また無機系微粒子としては、金属フッ化物粒子、金属硫化物粒子、金属窒化物粒子、金属粒子を例示できる。微粒子31としては、例えば、良好な透明性を有するものが好ましい。例えばナノシリカ粒子等、微粒子31がシリカを含む構成の場合、防眩フィルム1の硬度向上が図り易くなる。
【0046】
上側ハードコート層4は、下側ハードコート層3の基材2側とは反対側に重ねて配置される。一例として、上側ハードコート層4は、上側マトリクス樹脂40と、上側マトリクス樹脂40中に分散された凹凸形成粒子41とを含む。上側マトリクス樹脂40は、一例として、下側マトリクス樹脂30と同様の材料を含んでいてもよい。本実施形態のマトリクス樹脂30、40は、互いに組成が異なる。一例として、下側マトリクス樹脂30がウレタン系樹脂を含む場合、上側マトリクス樹脂40は、アクリル系樹脂を含む。また一例として、凹凸形成粒子41は、平均粒径が0.5μm以上5.0μm以下の範囲であってもよい。凹凸形成粒子41の平均粒径としては、例えば0.5μm以上3.0μm以下の範囲の値が好ましく、0.5μm以上2.0μm以下の範囲の値が一層好ましい。凹凸形成粒子41の材料は、一例として、微粒子31の材料を含んでいてもよい。
【0047】
また、上側マトリクス樹脂40と凹凸形成粒子41との屈折率差は、下側マトリクス樹脂30と微粒子31との屈折率差と同様でもよいし、異なっていてもよい。一例として、上側マトリクス樹脂40と凹凸形成粒子41との屈折率差は、0以上0.20以下の範囲の値である。この場合、前記屈折率差としては、例えば0以上0.15以下の範囲の値が好ましく、0以上0.07以下の範囲の値が一層好ましい。下側マトリクス樹脂30中の微粒子31、及び、上側マトリクス樹脂40中の凹凸形成粒子41は、例えば、防眩フィルム1の断面を走査電子顕微鏡(SEM)又は、透過電子顕微鏡(TEM)を用いて観察することで確認できる。
【0048】
上側ハードコート層4の厚みは、適宜設定可能である。一例として、上側ハードコート層4の厚みは、3μm以上6μm以下の範囲の値である。また上側ハードコート層4の厚みとしては、例えば、3μm以上5μm以下の範囲の値がより好ましく、3μm以上4μm以下の範囲の値が、一層好ましい。上側ハードコート層4の厚みを3μm以上とすることで、上側ハードコート層4の硬度を維持し易くできる。また上側ハードコート層4の厚みを6μm以下の範囲の値とすることで、凹凸形成粒子41を上側ハードコート層4とは反対側の面から外部に向けて突出させ、上側ハードコート層4の表面の凹凸形状を形成し易くできる。
【0049】
防眩フィルム1のヘイズ値は、例えば、ハードコート層3、4の各表面形状、及び、ハードコート層3、4の各組成のうちの少なくともいずれかを変化させることにより調整される。また、防眩フィルム1の硬度は、例えば、ハードコート層3、4の材質を変更することにより調整される。これにより防眩フィルム1は、一例として、ヘイズ値が0.5%以上25%以下の範囲の値であり、且つ、上側ハードコート層4の下側ハードコート層3とは反対側の面の鉛筆硬度が、4H以上の範囲の値に設定される。ここで言う鉛筆硬度は、JIS K 5600-5-4:1999に準拠する引っかき硬度(鉛筆法)により測定される値を指す。防眩フィルム1のヘイズ値としては、例えば、5%以上20%以下の範囲の値が好ましく、10%以上15%以下の範囲の値が一層好ましい。
【0050】
防眩フィルム1の上側ハードコート層4の下側ハードコート層3とは反対側の面の鉛筆硬度が、4H以上の範囲の値に設定されることで、防眩フィルム1がディスプレイ16aの表面に装着された状態において、防眩フィルム1に何らかの物体が外部から接触した場合でも、外力により防眩フィルム1が凹むのを防止できる。また、防眩フィルム1の表面に傷がつきにくいように、防眩フィルム1の耐久性を向上しつつ、防眩フィルム1の光学特性を維持できる。
【0051】
また防眩フィルム1は、高精細画素を有するディスプレイ16aの表面に装着されたときに発生するギラツキを適切に抑制できるように、ディスプレイ16aとは反対側の表面に存在する微細な凹凸の形状が設定されている。ここでギラツキは、ディスプレイの輝点に起因して生じる。従って、ギラツキの大小は、ディスプレイの輝度分布の標準偏差の値と対応する。ディスプレイの輝度分布の標準偏差の値が大きいほど、ギラツキの程度が大きく、ディスプレイの輝度分布の標準偏差の値が小さいほど、ギラツキの程度は小さい。よって、ディスプレイの輝度分布の標準偏差は、ギラツキを定量的に評価するための客観的指標として用いることができる。
【0052】
そこで防眩フィルム1は、ディスプレイ16aに装着されたときのディスプレイ16aの輝度分布の標準偏差が所定範囲内の値に抑制されるように、表面の凹凸形状が設定されている。具体的に防眩フィルム1は、一例として、画素密度が441ppiである有機ELディスプレイ16aの表面に装着した状態において、8ビット階調表示で且つ平均輝度が170階調のグレースケール画像として画像データが得られるように調整したときの、JIS C 1006:2019に準拠する方法で測定されるディスプレイの輝度分布の標準偏差が、0以上12以下の範囲の値である。このディスプレイの輝度分布の標準偏差は、例えば、後述するギラツキ検査機10を用いて計測される。ディスプレイ16aの輝度分布の標準偏差に基づいてギラツキが抑制される。これにより防眩フィルム1は、例えば人の官能評価や、表面状態に影響を受け易い摩擦係数等の評価によりギラツキを抑制する場合に比べて、客観的な指標に基づき、安定したギラツキの抑制効果が得られる。
【0053】
以上のように、防眩フィルム1によれば、下側ハードコート層3により上側ハードコート層4を支持できる。また、下側ハードコート層3とは個別に上側ハードコート層4を構成できる。このため、上側ハードコート層4を薄くして、上側ハードコート層4の下側ハードコート層3とは反対側に微細な凹凸形状を形成し易くできる。よって、高精細画素を有するディスプレイ16aの表面に防眩フィルム1を装着したときに発生するギラツキを適切に抑制できる。また、下側ハードコート層3の厚みが、上側ハードコート層4の厚みの少なくとも150%以上の範囲の値である。従って、この上側ハードコート層4を薄くした場合でも、ハードコート層3、4全体の厚みをある程度確保できる。これにより、ハードコート層3、4の厚み不足による防眩フィルム1の硬度低下を防止できる。よって、防眩フィルム1の耐久性の低下を防止できる。
【0054】
また防眩フィルム1は、一例として、画素密度が441ppiである有機ELディスプレイの表面に装着した状態において、8ビット階調表示で且つ平均輝度が170階調のグレースケール画像として画像データが得られるように調整したときの、JIS C 1006:2019に準拠する方法で測定されるディスプレイの輝度分布の標準偏差が、0以上12以下の範囲の値である。このように、高精細画素を有する有機ELディスプレイを用いてディスプレイの輝度分布の標準偏差を設定することで、高精細画素を有する自発光型ディスプレイに特有の画素からの広範囲な出射角度の入射光によって発生するギラツキの抑制にも対応できる。従って、自発光型であり且つ高精細画素を有する有機ELディスプレイを用い、上記設定条件に基づいてディスプレイの輝度分布の標準偏差を0以上12以下の範囲の値とすることで、ギラツキが発生し易い過酷な防眩フィルム1の使用態様においても、ギラツキを良好に抑制できる。
【0055】
また一例として、防眩フィルム1は、上側ハードコート層4の厚みが、3μm以上6μm以下の範囲の値である。これにより、下側ハードコート層3で上側ハードコート層4を支持しつつ、上側ハードコート層4を一層薄くできる。よって、良好な防眩性を得つつギラツキを抑制できるように、防眩フィルム1の表面の凹凸形状を形成し易くできる。
【0056】
また防眩フィルム1は、一例として、ヘイズ値が0.5%以上25%以下の範囲の値である。このようにヘイズ値が設定されることで、ディスプレイ16aからの出射光を防眩フィルム1に適切に透過させつつ、防眩フィルム1への入射光を散乱できる。これにより、良好な防眩性を得ることができる。
【0057】
また一例として、防眩フィルム1は、上側ハードコート層4の下側ハードコート層3とは反対側の面の鉛筆硬度が、4H以上の範囲の値である。これにより、防眩フィルム1がディスプレイ16aの表面に装着された状態において、防眩フィルム1の耐久性を向上しつつ、防眩フィルム1の光学特性を維持できる。
【0058】
また一例として、防眩フィルム1は、下側ハードコート層3の厚みが、10μm以上20μm以下の範囲の値である。これにより、防眩フィルム1に適度な硬度を付与し易くでき、且つ、防眩フィルム1の不要なカールを抑制し易くできる。また、下側ハードコート層3の厚みをある程度確保し、ハードコート層3、4全体の硬度を向上し易くできる。
【0059】
また一例として、上側ハードコート層4は、上側マトリクス樹脂40と、上側マトリクス樹脂40中に分散され且つ平均粒径が0.5μm以上5.0μm以下の範囲の凹凸形成粒子41とを含む。これにより、ハードコート層3、4全体の硬度を確保しつつ、上側マトリクス樹脂40と凹凸形成粒子41とを利用して、良好な防眩性を得つつギラツキを抑制できるように、防眩フィルム1の表面形状を形成し易くできる。
【0060】
また一例として、下側ハードコート層3は、下側マトリクス樹脂30と、下側マトリクス樹脂30中に分散され且つ平均粒径が5nm以上100nm以下の範囲の微粒子31とを含む。このように、下側マトリクス樹脂30と微粒子31とを用いて下側ハードコート層3を構成できる。よって、下側ハードコート層3の設計自由度を向上できる。
【0061】
また一例として、上側マトリクス樹脂40と凹凸形成粒子41との屈折率差が、0以上0.20以下の範囲の値である。これにより、上側マトリクス樹脂40と凹凸形成粒子41との界面における光反射を抑制できる。よって、この光反射による不要な影響を抑制できる。その結果、良好な光学特性を有する防眩フィルム1を実現できる。
【0062】
また本実施形態では、一例として、下側ハードコート層3が、上側ハードコート層4よりも高硬度である。これにより、上側ハードコート層4を下側ハードコート層3により一層安定して支持できる。また、ハードコート層3、4全体の硬度を確保し易くできる。以下、その他の実施形態について、第1実施形態との差異を中心に説明する。
【0063】
(第2実施形態)
図3は、第2実施形態に係る防眩フィルム101の模式的な断面図である。
図3に示されるように、一例として防眩フィルム101は、上側ハードコート層4の下側ハードコート層3とは反対側に重ねて配置された少なくとも1つの反射防止(AR)層を備える点が、防眩フィルム1と異なる。本実施形態の防眩フィルム101は、下側反射防止層5と上側反射防止層6とを備える。反射防止層5、6は、一例として、スパッタリング法や蒸着法により形成される薄膜である。複数の反射防止層5、6が用いられる場合、複数の反射防止層5、6は、厚み方向に重ねて配置される。
【0064】
上側ハードコート層4と接触するように配置される反射防止層(ここでは下側反射防止層5)は、一例として、金属酸化物粒子を含む。この金属酸化物としては、SiO2、ZrO2、NbO2等を例示できるが、これに限定されない。下側反射防止層5は、上側ハードコート層4に重ねて配置される。上側反射防止層6は、下側反射防止層5に重ねて配置される。反射防止層5、6は、防眩フィルム1の表面を粗面化することにより、防眩フィルム1に反射防止特性を付与する。
【0065】
防眩フィルム101によれば、防眩フィルム101をディスプレイ16aの表面に装着した状態において、防眩フィルム101を介してディスプレイ16aの表面に外光が映り込むのを防止できる。よって、防眩フィルム101をディスプレイ16aの表面に装着したときのディスプレイ16aの見かけの表示性能を更に向上できる。また、上側ハードコート層4と接触するように配置される下側反射防止層5を金属酸化物粒子を含む構成とすることで、反射防止層5を例えばスパッタリング法や蒸着法等により効率よく形成できる。
【0066】
(第3実施形態)
第3実施形態に係る防眩フィルムは、一例として、上側ハードコート層4が、複数の樹脂成分を含み、複数の樹脂成分の相分離により形成された共連続相構造(相分離構造)を有する。上側ハードコート層4の表面には、一例として、複数の長細状(紐状又は線状)の凸部が形成される。長細状凸部は、分岐している。上側ハードコート層4の表面では、複数の長細状凸部が密な状態で配置された共連続相構造が形成される。
【0067】
上側ハードコート層4は、複数の長細状凸部と、隣接する長細状凸部間に位置する凹部とにより、防眩性を発現する。防眩フィルムは、このような上側ハードコート層4を備えることで、ヘイズ値と透過像鮮明度(写像性)とのバランスに優れる。上側ハードコート層4の表面は、長細状凸部が略網目状に形成されることにより、網目状構造、言い換えると、連続し又は一部欠落した不規則な複数のループ構造を有する。ここで、本実施形態の防眩フィルムも、防眩フィルム1と同様、下側ハードコート層3の厚みが、上側ハードコート層4の厚みの少なくとも150%以上の範囲の値である。
【0068】
また一例として、上側ハードコート層4は、厚みが3μm以上6μm以下の範囲の値である。これにより、下側ハードコート層3で上側ハードコート層4を支持しつつ、上側ハードコート層4を一層薄くできる。上側ハードコート層4を薄くすることで、複数の樹脂成分の相分離により形成される共連続相構造により、ギラツキを抑制するのに適した凹凸形状を上側ハードコート層4に形成し易くできる。
【0069】
上側ハードコート層4の表面は、レンズ状(海島状)の凸部が形成されるのが防止されている。よって、上側ハードコート層4を透過するディスプレイ16aからの光が上側ハードコート層4の表面の凹凸により屈折したり、上側ハードコート層4の表面の凹凸によるレンズ効果でディスプレイ16aの画素が拡大されて見えたりするのが防止される。その結果、レンズ効果によるディスプレイ16aのギラツキが抑制される。これにより、高精細画素を有するディスプレイ16aに防眩フィルム1を装着した状態において、防眩性を得ると共にディスプレイ16aのギラツキを高度に抑制でき、文字や画像のボケも抑制できる。
【0070】
なお複数の長細状凸部は、互いに独立していてもよいし、繋がっていてもよい。上側ハードコート層4の共連続相構造は、後述するように、上側ハードコート層4の原料の溶液を用いて、液相からのスピノーダル分解(湿式スピノーダル分解)により形成される。共連続相構造の詳細については、例えば、特許第6190581号公報の記載を参照できる。
【0071】
[上側ハードコート層の材質]
上側ハードコート層4に含まれる複数の樹脂成分は、相分離可能なものであればよい。一例として、長細状凸部が形成され且つ高い耐擦傷性を有する上側ハードコート層4を得るためには、例えば、複数の樹脂成分にポリマー及び硬化性樹脂が含まれることが好ましい。
【0072】
ポリマーとしては、熱可塑性樹脂を例示できる。熱可塑性樹脂としては、スチレン系樹脂、(メタ)アクリル系樹脂、有機酸ビニルエステル系樹脂、ビニルエーテル系樹脂、ハロゲン含有樹脂、オレフィン系樹脂(脂環式オレフィン系樹脂を含む)、ポリカーボネート系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、熱可塑性ポリウレタン樹脂、ポリスルホン系樹脂(ポリエーテルスルホン、ポリスルホン等)、ポリフェニレンエーテル系樹脂(2,6-キシレノールの重合体等)、セルロース誘導体(セルロースエステル類、セルロースカーバメート類、セルロースエーテル類等)、シリコーン樹脂(ポリジメチルシロキサン、ポリメチルフェニルシロキサン等)、ゴム又はエラストマー(ポリブタジエン、ポリイソプレン等のジエン系ゴム、スチレン-ブタジエン共重合体、アクリロニトリル-ブタジエン共重合体、アクリルゴム、ウレタンゴム、シリコーンゴム等)等を例示できる。これらの熱可塑性樹脂は、単独で又は二種以上の組み合わせで使用できる。またポリマーとしては、硬化反応に関与する官能基、又は、硬化性化合物と反応する官能基を有するものも例示できる。このポリマーは、官能基を主鎖又は側鎖に有していてもよい。
【0073】
前記官能基としては、縮合性基や反応性基(例えば、ヒドロキシル基、酸無水物基、カルボキシル基、アミノ基又はイミノ基、エポキシ基、グリシジル基、イソシアネート基等)、重合性基(例えば、ビニル、プロペニル、イソプロペニル、ブテニル、アリル基等のC2-6アルケニル基、エチニル、プロピニル、ブチニル基等のC2-6アルキニル基、ビニリデン基等のC2-6アルケニリデン基、又はこれらの重合性基を有する基((メタ)アクリロイル基等))を例示できる。これらの官能基のうち、重合性基が好ましい。
【0074】
また上側ハードコート層4には、複数種類のポリマーが含まれていてもよい。これらの各ポリマーは、液相からのスピノーダル分解により相分離可能であってもよいし、互いに非相溶であってもよい。複数種類のポリマーに含まれる第1のポリマーと第2のポリマーとの組み合わせは特に制限されないが、加工温度付近で互いに非相溶なものを使用できる。
【0075】
例えば、第1のポリマーがスチレン系樹脂(ポリスチレン、スチレン-アクリロニトリル共重合体等)である場合、第2のポリマーとしては、セルロース誘導体(例えば、セルロースアセテートプロピオネート等のセルロースエステル類)、(メタ)アクリル系樹脂(ポリメタクリル酸メチル等)、脂環式オレフィン系樹脂(ノルボルネンを単量体とする重合体等)、ポリカーボネート系樹脂、ポリエステル系樹脂(ポリC2-4アルキレンアリレート系コポリエステル等)等を例示できる。
【0076】
また例えば、第1のポリマーがセルロース誘導体(例えば、セルロースアセテートプロピオネート等のセルロースエステル類)である場合、第2のポリマーとしては、スチレン系樹脂(ポリスチレン、スチレン-アクリロニトリル共重合体等)、(メタ)アクリル系樹脂、脂環式オレフィン系樹脂(ノルボルネンを単量体とする重合体等)、ポリカーボネート系樹脂、ポリエステル系樹脂(ポリC2-4アルキレンアリレート系コポリエステル等)等を例示できる。
【0077】
複数種類のポリマーには、少なくともセルロースエステル類(例えば、セルロースジアセテート、セルローストリアセテート、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレート等のセルロースC2-4アルキルカルボン酸エステル類)が含まれていてもよい。
【0078】
上側ハードコート層4の構造は、上側ハードコート層4の製造時に、複数の樹脂成分に含まれていた硬化性樹脂前駆体が活性エネルギー線(紫外線又は電子線等)や熱等により硬化することで固定される。また、このような硬化性樹脂により、上側ハードコート層4に耐擦傷性及び耐久性が付与される。
【0079】
上側ハードコート層4の耐擦傷性を得る観点から、複数種類のポリマーに含まれる少なくとも一つのポリマーは、硬化性樹脂前駆体と反応可能な官能基を側鎖に有するポリマーであることが好ましい。上側ハードコート層4の構造を形成するポリマーには、上記した互いに非相溶な2つのポリマー以外に、他のポリマーが含まれていてもよい。第1のポリマーの重量M1と第2のポリマーの重量M2との質量比M1/M2、及び、ポリマーのガラス転移温度は、適宜設定可能である。
【0080】
硬化性樹脂前駆体としては、活性エネルギー線(紫外線又は電子線等)や熱等により反応する官能基を有し、この官能基により硬化又は架橋して樹脂を形成する硬化性化合物を例示できる。
【0081】
このような硬化性化合物としては、熱硬化性化合物又は熱硬化性樹脂(エポキシ基、重合性基、イソシアネート基、アルコキシシリル基、シラノール基等を有する低分子量化合物(例えば、エポキシ系樹脂、不飽和ポリエステル系樹脂、ウレタン系樹脂、シリコーン系樹脂等))、紫外線や電子線等により硬化する光硬化性(電離放射線硬化性)化合物(光硬化性モノマー、オリゴマー等の紫外線硬化性化合物等)等を例示できる。このうち、例えば紫外線硬化性化合物が特に実用的である。耐擦傷性等の耐性を向上させるため、光硬化性化合物は、分子中に2以上(好ましくは2~15、更に好ましくは4~10程度)の重合性不飽和結合を有することが好ましい。具体的に光硬化性化合物は、エポキシ(メタ)アクリレート、ウレタン(メタ)アクリレート、ポリエステル(メタ)アクリレート、シリコーン(メタ)アクリレート、少なくとも2つの重合性不飽和結合を有する多官能性単量体であることが好ましい。
【0082】
硬化性樹脂前駆体には、その種類に応じた硬化剤が含まれていてもよい。例えば熱硬化性樹脂前駆体には、アミン類、多価カルボン酸類等の硬化剤が含まれていてもよく、光硬化性樹脂前駆体には、光重合開始剤が含まれていてもよい。光重合開始剤としては、慣用の成分、例えば、アセトフェノン類又はプロピオフェノン類、ベンジル類、ベンゾイン類、ベンゾフェノン類、チオキサントン類、アシルホスフィンオキシド類等を例示できる。
【0083】
また硬化性樹脂前駆体には、硬化促進剤が含まれていてもよい。例えば光硬化性樹脂前駆体には、光硬化促進剤、例えば、第三級アミン類(ジアルキルアミノ安息香酸エステル等)、ホスフィン系光重合促進剤等が含まれていてもよい。
【0084】
上側ハードコート層4の製造工程では、上側ハードコート層4の原料となる溶液に含まれるポリマーと硬化性樹脂前駆体のうち、少なくとも2つの成分を、加工温度付近で互いに相分離させる組み合わせとして使用する。相分離させる組み合わせとしては、例えば、(a)複数種類のポリマー同士を互いに非相溶で相分離させる組み合わせ、(b)ポリマーと硬化性樹脂前駆体とを非相溶で相分離させる組み合わせ、又は、(c)複数の硬化性樹脂前駆体同士を互いに非相溶で相分離させる組み合わせ等が挙げられる。これらの組み合わせのうち、通常は、(a)複数種類のポリマー同士の組み合わせや、(b)ポリマーと硬化性樹脂前駆体との組み合わせが挙げられ、特に(a)複数種類のポリマー同士の組み合わせが好ましい。
【0085】
ここで通常、ポリマーと、硬化性樹脂前駆体の硬化により生成した硬化樹脂又は架橋樹脂とは、互いに屈折率が異なる。また通常、複数種類のポリマー(第1のポリマーと第2のポリマー)の屈折率も互いに異なる。ポリマーと、硬化樹脂又は架橋樹脂との屈折率差、及び、複数種類のポリマー(第1のポリマーと第2のポリマー)の屈折率差としては、例えば、0以上0.04以下の範囲の値が好ましく、0以上0.02以下の範囲の値が一層好ましい。
【0086】
上側ハードコート層4は、マトリクス樹脂中に分散されるように配置された第1実施形態の複数の微粒子(フィラー)30を含んでいてもよい。また上側ハードコート層4には、光学特性を損なわない範囲で、慣用の添加剤、例えば、有機又は無機粒子、安定剤(酸化防止剤、紫外線吸収剤等)、界面活性剤、水溶性高分子、充填剤、架橋剤、カップリング剤、着色剤、難燃剤、滑剤、ワックス、防腐剤、粘度調整剤、増粘剤、レベリング剤、消泡剤等が含まれていてもよい。
【0087】
第3実施形態における上側ハードコート層4の製造方法は、一例として、上側ハードコート層4の原料となる溶液(以下、単に溶液とも称する。)を調製する調製工程と、調製工程で調製した溶液を所定の支持体(本実施形態では下側ハードコート層3)の表面に塗布し、溶液中の溶媒を蒸発させると共に、液相からのスピノーダル分解により相分離構造を形成する形成工程と、形成工程後に硬化性樹脂前駆体を硬化する硬化工程とを有する。
【0088】
[調製工程]
調製工程では、溶媒と、上側ハードコート層4を構成するための樹脂組成物とを含む溶液を調製する。溶媒は、前述した上側ハードコート層4に含まれるポリマー及び硬化性樹脂前駆体の種類及び溶解性に応じて選択できる。溶媒は、少なくとも固形分(複数種類のポリマー及び硬化性樹脂前駆体、反応開始剤、その他添加剤)を均一に溶解できるものであればよい。
【0089】
溶媒としては、例えば、ケトン類(アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等)、エーテル類(ジオキサン、テトラヒドロフラン等)、脂肪族炭化水素類(ヘキサン等)、脂環式炭化水素類(シクロヘキサン等)、芳香族炭化水素類(トルエン、キシレン等)、ハロゲン化炭素類(ジクロロメタン、ジクロロエタン等)、エステル類(酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル等)、水、アルコール類(エタノール、イソプロパノール、ブタノール、シクロヘキサノール等)、セロソルブ類(メチルセロソルブ、エチルセロソルブ等)、セロソルブアセテート類、スルホキシド類(ジメチルスルホキシド等)、アミド類(ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等)等を例示できる。また、溶媒は混合溶媒であってもよい。
【0090】
樹脂組成物としては、前記熱可塑性樹脂、光硬化性化合物、光重合開始剤、前記熱可塑性樹脂、及び光硬化性化合物を含む組成物が好ましい。或いは樹脂組成物としては、前記互いに非相溶な複数種類のポリマー、光硬化性化合物、及び光重合開始剤を含む組成物が好ましい。溶液中の溶質(ポリマー及び硬化性樹脂前駆体、反応開始剤、その他添加剤)の濃度は、複数の樹脂成分の相分離が生じる範囲、及び、溶液の流延性やコーティング性等を損なわない範囲において調整できる。
【0091】
ここで、防眩フィルム1を装着したディスプレイ16aの輝度分布の標準偏差の値(ギラツキ値)は、溶液中の樹脂組成物の組み合わせや質量比、或いは、調製工程、形成工程、及び硬化工程の施工条件等によって変化しうる。従って、各条件を変化させて上側ハードコート層4を形成し、得られた上側ハードコート層4の物性を予め測定・把握しておくことで、目的の物性を有する防眩フィルムを得ることができる。
【0092】
[形成工程]
形成工程では、調製工程で調製した溶液を、支持体(ここでは一例として基材2)の表面に流延又は塗布する。溶液の流延方法又は塗布方法としては、慣用の方法、例えば、スプレー、スピナー、ロールコーター、エアナイフコーター、ブレードコーター、ロッドコーター、リバースコーター、バーコーター、コンマコーター、ディップ、ディップ・スクイズコーター、ダイコーター、グラビアコーター、マイクログラビアコーター、シルクスクリーンコーター等を例示できる。
【0093】
支持体の表面に流延又は塗布した溶液から、溶媒を乾燥により蒸発させて除去する。この蒸発過程における溶液の濃縮に伴って、複数の樹脂成分の液相からのスピノーダル分解による相分離を生じさせ、相間距離(ピッチ又は網目径)が比較的規則的な相分離構造を形成する。長細状凸部の共連続相構造は、溶媒蒸発後の樹脂成分の溶融流動性がある程度高くなるような乾燥条件や処方を設定することにより形成できる。
【0094】
溶媒の蒸発は、上側ハードコート層4の表面に長細状凸部を形成し易い点から、加熱乾燥により行うのが好ましい。乾燥温度が低過ぎたり、乾燥時間が短か過ぎると、樹脂成分に対する熱量の付与が不十分となり、樹脂成分の溶融流動性が低下して、長細状凸部の形成が困難となるおそれがあるため留意する。
【0095】
一方、乾燥温度が高過ぎたり、乾燥時間が長過ぎると、一旦形成された長細状凸部が流動して高さが低下する場合があるものの、長細状凸部の構造は維持される。そのため、長細状凸部の高さを変えて上側ハードコート層4の防眩性や滑り性を調整する手段として、乾燥温度及び乾燥時間を利用できる。また形成工程では、溶媒の蒸発温度を高くしたり、樹脂成分に粘性の低い成分を用いたりすることにより、相分離構造が繋がった共連続相構造を形成できる。
【0096】
複数の樹脂成分の液相からのスピノーダル分解による相分離の進行に伴って、共連続相構造が形成されて粗大化すると、連続相が非連続化し、液滴相構造(球状、真球状、円盤状や楕円体状等の独立相の海島構造)が形成される。ここで、相分離の程度によって、共連続相構造と液滴相構造との中間的構造(共連続相から液滴相に移行する過程の相構造)も形成できる。溶媒除去後、表面に微細な凹凸を有する上側ハードコート層4が形成される。
【0097】
このように、相分離により上側ハードコート層4の表面に微細な凹凸形状を形成することで、上側ハードコート層4中に微粒子を分散させなくても上側ハードコート層4のヘイズ値を調整できる。また、上側ハードコート層4中に微粒子を分散させなくて済むことから、外部ヘイズ値に比べて内部ヘイズ値を抑制しながら上側ハードコート層4のヘイズ値を調整し易くできる。なお、調製工程において溶液に微粒子を添加することで、微粒子を含む上側ハードコート層4を形成できる。
【0098】
[硬化工程]
硬化工程では、溶液中の硬化性樹脂前駆体を硬化させることで、形成工程で形成された相分離構造を固定化し、上側ハードコート層4を形成する。硬化性樹脂前駆体の硬化は、硬化性樹脂前駆体の種類に応じて、加熱又は活性エネルギー線の照射、或いはこれらの方法の組み合わせにより行う。照射する活性エネルギー線は、光硬化成分等の種類に応じて選択する。
【0099】
活性エネルギー線の照射は、不活性ガス雰囲気中で行ってもよい。活性エネルギー線が紫外線である場合、光源として、遠紫外線ランプ、低圧水銀ランプ、高圧水銀ランプ、超高圧水銀ランプ、ハロゲンランプ、レーザ光源(ヘリウム-カドミウムレーザ、エキシマレーザ等の光源)等を用いることができる。
【0100】
以上の各工程を経ることにより、第3実施形態の上側ハードコート層4を備える防眩フィルムが製造される。本実施形態では、完成後の上側ハードコート層4の厚みを例えば3μm以上6μm以下の範囲の値となるように共連続相構造を形成することで、ギラツキの抑制に適した凹凸形状を上側ハードコート層4の表面に付与できる。ここで、防眩フィルムを装着したときのディスプレイ16aのギラツキを抑制する方法としては、例えば上側ハードコート層4の表面の凹凸を縮小することが考えられるが、防眩フィルムの防眩性の低下を考慮することが必要である。しかしながら、上側ハードコート層4の凹凸を縮小するだけでなく、上側ハードコート層4の凹凸の傾斜を高くして凹凸を急峻化すると共に凹凸の数を増やすことで、防眩フィルムを装着したときのディスプレイ16aのギラツキを抑制しながら防眩性を向上できる。
【0101】
(ギラツキ検査機及びギラツキ検査方法)
次に、ギラツキ検査機とギラツキの評価方法について説明する。
[ギラツキ検査機]
図4は、ギラツキ検査機10の模式的な概略図である。ギラツキ検査機10は、防眩フィルムを装着したディスプレイ16aのギラツキを検査する機器である。ギラツキ検査機10は、筐体11、撮像装置12、保持部(調整部)13、撮像装置用架台14、表示装置用架台(調整部)15、及び、画像処理装置17を備える。
【0102】
筐体11は、ギラツキの検査空間である暗室を形成する。筐体11は、中空の直方体の形状を有する。筐体11内には、撮像装置12、保持部13、撮像装置用架台14、及び、表示装置用架台15が配置される。また筐体11内には、ギラツキの検査対象である表示装置16が配置される。筐体11は、撮像装置12による撮像時において、外部から筐体11内への光の侵入が防止できる構成を有する。
【0103】
撮像装置12は、一例としてレンズ18と撮像素子とを有するエリアカメラである。撮像装置12は、ディスプレイ16aに表示される画像を撮像する。撮像装置12は、レンズ18がディスプレイ16aと対向するように保持部13に保持される。撮像装置12は、画像処理装置17に接続される。撮像装置12により撮像された画像データは、画像処理装置17に送信される。
【0104】
保持部13は、鉛直方向(
図4では紙面上下方向)に延伸した棒形状を有する層である。保持部13の基端側は、撮像装置用架台14により固定される。保持部13の先端側には、撮像装置12が保持される。撮像装置12は、保持部13によって鉛直方向に移動可能に配置される。撮像装置12が鉛直方向に移動することで、ディスプレイ16aとレンズ18との間の相対距離が変更される。
【0105】
表示装置16は、防眩フィルムを装着したディスプレイ16aを撮像装置12と対向させた状態で、表示装置用架台15の上面に載置される。表示装置用架台15は、防眩フィルムを装着したディスプレイ16aの表面が撮像装置12と対向し、且つ水平面となるように表示装置16を支持する。また表示装置用架台15は、ディスプレイ16aとレンズ18との間の相対距離を変更させるように、表示装置16を鉛直方向に移動させる。
【0106】
ギラツキ検査機10では、撮像装置12とディスプレイ16aとの間の相対距離を調整することで、撮像素子により撮像されるディスプレイ16aに表示された画像のサイズが調整される。換言すると、撮像素子が有する複数の受光素子のうち、単位画素(例えば1画素)当たりに撮像される、ディスプレイ16aに表示された画像の画素サイズが調整される。
【0107】
画像処理装置17は、撮像装置12によって撮像された画像データのデータ処理を行う。具体的に画像処理装置17は、撮像装置12によって撮像された画像データから、ディスプレイ16aに表示された画像の輝度分布の標準偏差の値を求める。画像処理装置17は、一例として、撮像装置12によって撮像された画像データが入力される入力部と、入力された画像データを画像処理する画像処理部と、画像処理部によって処理された結果を不図示の表示器または印字装置等に出力する出力部とを備える。
【0108】
なお、撮像素子の単位画素(例えば1画素)当たりに撮像される、ディスプレイ16aに表示された画像の画素サイズの調整方法としては、撮像装置12のレンズ18とディスプレイ16aとの間の相対距離(撮像距離)を変更させる方法の他、撮像装置12が備えるレンズ18がズームレンズである場合には、撮像装置12の焦点距離を変える方法でもよい。
【0109】
レンズ18のF値及び撮像装置12のシャッタースピード(露光時間)は、適宜設定可能である。レンズ18のF値は、撮影時にディスプレイ16aの構造(例えば画素や画素配列)に起因する周期的なノイズが画像データに含まれるのを低減する観点から、例えばF4以上F8以下の範囲のF値(一例として、F4、F6、又はF8のうちのいずれか)が好ましい。このうちレンズ18のF値としては、例えば、F8が最も好ましい。また撮像装置12のシャッタースピードとしては、ギラツキの検査を行うために適切な光量が得られる範囲(一例として、0.01S以上0.1S以下の範囲)の値が好ましい。
【0110】
撮影条件は、例えば以下の内容に設定できる。
レンズ18のF値:F8
レンズ焦点距離:12mm
Y/Xの範囲:1.65以上1.75以下の範囲の値
但し、Xは、ディスプレイのピクセルサイズ(μm)である。Yは、撮像装置12の撮像素子の画素の撮影ピッチ(μm)である。本書でいうピクセルとは、ディスプレイがR(Red)、G(Green)、B(Blue)の3原色によりカラー表示する場合、カラー表示を行うための単位となるRGBの3画素をまとめたものを指す。また撮影ピッチとは、撮像装置12の撮像素子で撮影される画像の縦方向長さL1を、撮像装置12の撮像素子の縦方向のピクセル数N1で除して算出される値A1(A1=Ll/N1)と、撮像装置12の撮像素子で撮影される画像の横方向長さL2を、撮像装置12の撮像素子の横方向のピクセル数N2で除して算出される値A2(A2=L2/N2)との平均値{(A1+A2)/2}を指す。
【0111】
[ギラツキ検査方法]
以下に示すギラツキ評価方法では、一例として、評価の便宜上、表面に防眩フィルムを装着した状態におけるディスプレイ16aを予め一色(一例として緑色)に均一発光させて表示させる。
【0112】
まず、撮像素子の単位画素当たりに撮像される防眩フィルムを装着したディスプレイ16aの画素のサイズが所定値となるように調整する(調整ステップ)。調整ステップでは、撮像素子の有効画素数に応じて、撮像装置12と、防眩フィルムを装着したディスプレイ16aとの間の相対距離を調整し、撮像装置12によって撮像された画像データにおいて、防眩フィルムを装着したディスプレイ16aに表示された画像の画素の輝線がない、或いは、輝線があったとしてもギラツキの評価に影響を与えない程度に調整する。
【0113】
なお、撮像装置12と表示装置16との間の相対距離は、実際の表示装置16の使用態様(例えば、ユーザの目とディスプレイ16aとの間の相対距離)を考慮して設定されることが好ましい。
【0114】
調整ステップを行った後、防眩フィルムを装着したディスプレイ16aのギラツキを評価する測定エリアを設定する(設定ステップ)。設定ステップにおいて、測定エリアは、例えばディスプレイ16aのサイズ等に応じて適切に設定できる。
【0115】
調整ステップを行った後、防眩フィルムを装着したディスプレイ16aの測定エリアを撮像装置12により撮像する(撮像ステップ)。このとき一例として、8ビット階調表示でかつ平均輝度が170階調のグレースケール画像の画像データが得られるように、撮像装置12のシャッタースピードまたはディスプレイ16aの全画素の輝度の少なくともいずれかを調整する。撮像ステップにおいて撮像された画像データは、画像処理装置17へと入力される。
【0116】
撮像ステップ後、画像処理装置17は、画像データから、防眩フィルムを装着したディスプレイ16aの測定エリアの画像における輝度のばらつきを求める(演算ステップ)。この演算ステップでは、輝度のばらつきは、輝度分布の標準偏差を求めることで数値化できる。ここで、防眩フィルムを装着したディスプレイ16aのギラツキ度合は、防眩フィルムを装着したディスプレイ16aの輝度のばらつきが大きいほど大きくなる。これに基づいて、輝度分布の標準偏差の値が小さいほど、ギラツキは小さいと定量的、かつ客観的に評価できる。また調整ステップにおいて、防眩フィルムを装着したディスプレイ16aの輝線がギラツキの評価に影響を与えない程度に調整される。このため、輝線による輝度ムラを抑え、正確なギラツキの評価を行える。
【0117】
以上の各ステップを経ることにより、表面に防眩フィルムを装着した状態におけるディスプレイ16aの輝度分布の標準偏差を求め、その値の大小によりギラツキを評価できる。
【0118】
(確認試験)
次に、本開示の性能を確認するための確認試験について説明する。本開示は、以下に示す実施例1~8に限定されない。実施例1~4、8は、第1実施形態に対応する。実施例5は、第2実施形態に対応する。実施例6、7は、第3実施形態に対応する。また、実施例1~8に対する比較用に比較例1、2を準備した。これらの実施例及び比較例に係る防眩フィルムの材料として、以下の(A)~(M)のものを準備した。
【0119】
[原料]
(A)ナノシリカ含有ウレタン系紫外線硬化性化合物:共栄社化学(株)製「HX-RPH-NA」、ナノシリカ微粒子(平均粒子径15nm)を含有する。
(B)フッ素基含有紫外線反応型表面改質剤:DIC(株)製「メガファックRS-75」
(C)アクリル系ハードコート配合物A:日本化工塗料(株)製「FA-3155クリア」
(D)アクリル系ハードコート配合物B:日本化工塗料(株)製「FA-3155M」、アクリル微粒子とマトリクス樹脂を含有する。
(E)重合性基を有するアクリル系重合体A:ダイセル・オルネクス(株)製「サイクロマーP」、屈折率1.51
(F)セルロースアセテートプロピオネート:イーストマン社製「CAP-482-20」、アセチル化度=2.5%、プロピオニル度=46%、ポリスチレン換算の数平均分子量75000、屈折率1.49
(G)シリコーンアクリレート:ダイセル・オルネクス(株)製「EB1360」、屈折率1.52
(H)ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート:ダイセル・オルネクス(株)製「DPHA」、屈折率1.52
(I)ペンタエリスリトールトリアクリレート:ダイセル・オルネクス(株)製「PETA」、屈折率1.51
(J)ウレタンアクリレートA:ダイセル・オルネクス(株)製「KRM8452」、10官能脂肪族ウレタンアクリレート、平均分子量1200
(K)光開始剤A:BASFジャパン(株)製「イルガキュア184」
(L)ポリマータイプレベリング剤:ビックケミー・ジャパン製「BYK-399」
(M)PETフィルム:三菱ケミカル(株)製「ダイヤホイル」、厚み125μmのもの
【0120】
[実施例1]
ナノシリカ含有ウレタン系紫外線硬化性化合物(A)100重量部、ポリマータイプレベリング剤(L)0.5重量部を混合し、溶液を調製した。この溶液を、ワイヤーバー(#18)を用いて、基材2であるPETフィルム(M)上に流延した。その後、100℃のオーブン内に1分間放置し、溶媒を蒸発させて厚み約10μmのコート層を形成した。その後、コート層に対し、高圧水銀ランプにより紫外線を約5秒間照射し(積算光量約300mJ/cm2照射、以下同様)、コート層を紫外線硬化処理した。これにより、厚み10μmの下側ハードコート層3を形成した。
【0121】
次に、アクリル系ハードコート配合物A(C)50重量部、アクリル系ハードコート配合物B(D)50重量部とを混合し、溶液を調製した。この溶液を、ワイヤーバー(#10)を用いて、下側ハードコート層3上に流延した。その後、100℃のオーブン内で1分間放置し、溶媒を蒸発させて厚み約6μmのコート層を形成した。その後、コート層に対し、高圧水銀ランプにより紫外線を約5秒間照射し、コート層をUV硬化処理した。これにより、厚み6μmの上側ハードコート層4を形成した。以上により、実施例1の防眩フィルム1を作製した。
【0122】
[実施例2]
ワイヤーバー(#28)を用いて、厚み15μmの下側ハードコート層3を形成したこと以外は、実施例1と同一の製造条件により、実施例2の防眩フィルム1を作製した。
【0123】
[実施例3]
ワイヤーバー(#6)を用いて、厚み3.5μmの上側ハードコート層4を形成したこと以外は、実施例1と同一の製造条件により、実施例3の防眩フィルム1を作製した。
【0124】
[実施例4]
ワイヤーバー(#6)を用いて、厚み3.5μmの上側ハードコート層4を形成したこと以外は、実施例2と同一の製造条件により、実施例4の防眩フィルム1を作製した。
【0125】
[実施例5]
上側ハードコート層4上に、複数の反射防止層を形成したこと以外は実施例3と同様にして、実施例5の防眩フィルム101を作製した。具体的には、ドライ(Dry)コーティング法の一つであるスパッタリング法により、上側ハードコート層4上に、複数の反射防止層として、二酸化ケイ素層(厚み15nm)、五酸化ニオブ層(厚み10nm)、二酸化ケイ素層(厚み35nm)、五酸化ニオブ層(厚み100nm)、及び、二酸化ケイ素層(厚み80nm)を順次形成した。その後、最上位に位置する反射防止層の表面に対し、フッ素含有化合物溶液(ダイキン工業(株)製「オプツールDSX」)を塗布した。その後、この溶液の塗膜を100℃で乾燥することにより、厚み8nmの防汚層を形成した。これにより、実施例5の防眩フィルム101を作製した。
【0126】
[実施例6]
下記に示す上側ハードコート層4を形成したこと以外は、実施例1と同一の製造条件により、実施例6の防眩フィルムを作製した。重合性基を有するアクリル系重合体A(E)41重量部、セルロースアセテートプロピオネート(F)12重量部、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート(H)40重量部、シリコーンアクリレート(G)27.7重量部、光開始剤A(K)5重量部を、メチルエチルケトン250重量部と1-ブタノール122重量部との混合溶媒に溶解し、溶液を調製した。
【0127】
この溶液を、ワイヤーバー(#22)を用いて、下側ハードコート層3上に流延した。その後、100℃のオーブン内で1分間放置し、溶媒を蒸発させて厚み約5μmのコート層を形成した。その後、コート層に対し、高圧水銀ランプにより紫外線を約5秒間照射し、コート層をUV硬化処理した。これにより、厚み5μmの上側ハードコート層4を形成した。以上により、実施例6の防眩フィルムを作製した。
【0128】
[実施例7]
下記に示すように上側ハードコート層を形成したこと以外は、実施例1と同一の製造条件により、実施例7の防眩フィルムを作製した。具体的には、重合性基を有するアクリル系重合体(E)58質量部、セルロースアセテートプロピオネート(F)7質量部、ウレタンアクリレートA(J)106質量部、フッ素基含有紫外線反応型表面改質剤(B)1質量部、光開始剤A(K)3質量部を、MEK186質量部と酢酸ブチル80質量部と1-ブタノール39質量部との混合溶媒に溶解し、溶液を調製した。
【0129】
この溶液を、ワイヤーバー(#18)を用いて、下側ハードコート層上に流延した。その後、100℃のオーブン内で1分間放置し、溶媒を蒸発させて厚み約6μmのコート層を形成した。その後、コート層に対し、高圧水銀ランプにより紫外線を約5秒間照射し、コート層をUV硬化処理した。これにより、厚み6μmの上側ハードコート層を形成した。以上により、実施例7の防眩フィルムを作製した。
【0130】
[実施例8]
下記に示すように上側ハードコート層を形成したこと以外は、実施例1と同一の製造条件により、実施例8の防眩フィルムを作製した。具体的には、透明樹脂であるペンタエリスリトールトリアクリレート(I)を用いた。また、透光性粒子である、スチレン-アクリル共重合粒子(屈折率1.51、平均粒径9.0μm)、及び、ポリスチレン粒子(屈折率1.60、平均粒径3.5μm)を、透明樹脂100質量部に対して、それぞれ10.0質量部及び16.5質量部含有させた。これに、トルエンとシクロヘキサノンの混合溶剤(質量比7:3)を、透明樹脂100質量部に対して190質量部配合し、溶液を調製した。
【0131】
この溶液を、ワイヤーバー(#16)を用いて、下側ハードコート層上に流延した。その後、100℃のオーブン内で1分間放置し、溶媒を蒸発させて厚み約5μmのコート層を形成した。その後、コート層に対し、高圧水銀ランプにより紫外線を約5秒間照射してコート層をUV硬化処理した。これにより、厚み5μmの上側ハードコート層を形成した。以上により、実施例8の防眩フィルムを作製した。
【0132】
[比較例1]
ワイヤーバー(#8)を用いて、厚み5μmの下側ハードコート層を形成したこと以外は、実施例1と同一の製造条件により、比較例1の防眩フィルムを作製した。以上により、比較例1のフィルムを作製した。
【0133】
[比較例2]
ワイヤーバー(#6)を用いて、厚み3.5μmの上側ハードコート層を形成したこと以外は、比較例1と同一の製造条件により、比較例2の防眩フィルムを作製した。次に、実施例1~8及び比較例1~2の各防眩フィルムについて、以下の各項目の測定を行い、測定結果を評価した。
【0134】
[鉛筆硬度]
JIS K 5600-5-4:1999に準拠する引っかき硬度(鉛筆法)に準拠する方法で測定した。具体的には、鉛筆硬度試験機((株)安田精機製作所製No.553-M鉛筆硬度試験機)を用い、ガラス基板上に防眩フィルムを配置し、防眩フィルムに対する鉛筆の角度45°、荷重750g、測定速度30mm/minの測定条件に基づいて測定した。測定に際し、三菱鉛筆(株)製鉛筆「Hi-uni」を使用し、1測定当たり、3回の引っかき動作を実施した。
【0135】
[カール高さ]
防眩フィルムを、平面サイズが一定(100mm×100mm)になるようにカットし、上側ハードコート層を基材よりも上側に向けた状態で、平坦な基準面上に一定時間配置した。このとき、基準面から浮き上がった防眩フィルムの基準面からの最大高さ(四隅のうちの最大高さ)を測定することにより、カール高さの評価を行った。当該評価によれば、カールの最大高さの値が小さいほど、防眩フィルムが平坦であり、ディスプレイ16aの表面に装着し易いと評価できる。
【0136】
[ディスプレイの輝度分布の標準偏差(ギラツキ値)]
表示装置16としてスマートフォンを用い、そのディスプレイ16aの表面に防眩フィルムを装着した。このスマートフォンのディスプレイ16aは、自発光型のカラーディスプレイであり、画素密度が441ppiの有機EL(OLED)である。また、このディスプレイ16aの画素配列は、ペンタイル配列である。具体的に、このペンタイル配列は、1画素当たり、2つの赤色のサブピクセルと、2つの緑のサブピクセルと、1つの青のサブピクセルとを含む。このスマートフォンは、三星電子(株)製「Galaxy S4(SC-04E)」である。
【0137】
またギラツキ検査機10として、コマツNTC(株)製フィルムギラツキ検査機置を用い、防眩フィルムを装着したときの表示装置16のディスプレイ16aの輝度分布の標準偏差(ギラツキσ:ギラツキ値)を測定した。この測定に際しては、8ビット階調表示で且つ平均輝度が170階調のグレースケール画像として画像データが得られるように、撮像装置12のシャッタースピード、及び、表示装置16の全画素の輝度の少なくともいずれかを調整した。これにより、JIS C 1006:2019に準拠する方法で測定されるディスプレイの輝度分布の標準偏差を測定した。
このときの測定条件は以下の通りとした。
撮影条件は、例えば以下の内容に設定できる。
レンズ18のF値:F8
レンズ焦点距離:12mm
Y:97.2μm
X:57.6μm
Y/X:1.69
レンズ18とディスプレイ16aとの間の相対距離(撮像距離):328mm
【0138】
[ヘイズ及び全光線透過率]
ヘイズメーター(日本電色(株)製、NDH-5000W)を用い、JIS K7136に準拠する方法で測定した。ヘイズは、上側ハードコート層の凹凸形状を有する表面とは反対の面が受光器側となるように配置して測定した。
【0139】
[視感度反射率]
JIS Z 8701に準拠する方法に基づき、分光光度計((株)日立ハイテクサイエンス製「U-3900H」)を用いて測定した。実施例1~8及び比較例1~2の防眩フィルムを市販の黒色アクリル板に光学糊で貼り付け、裏面からの反射ができるだけ影響しないようにしたものを測定対象に用いた。
【0140】
[60°グロス]
グロスメーター((株)堀場製作所製、IG-320)を用い、JlS K7105に準拠する方法に基づき、防眩フィルムの表面の入射角60度における光沢度(以下、60°グロスとも称する。)を測定した。
また、実施例1~8及び比較例1~4の上側ハードコート層の厚みD1に対する下側ハードコート層の厚みD2の比率D2/D1(%)を算出した。各測定結果及び算出結果を表1及び表2に示す。
【0141】
【0142】
【0143】
表1のように、実施例1~8に示された本開示の構成は、比率D2/D1が166.7%以上428.6%以下の範囲の値であった。このうち実施例2~6、8に示された本開示の構成は、比率D2/D1が200%以上428.6%以下の範囲の値であった。
【0144】
また、実施例1~6、8に示された本開示の構成は、輝度分布の標準偏差であるギラツキ値が、0以上12以下(具体的には6.9以上10.9以下)の範囲の値であった。また、実施例1~7に示された本開示の構成は、ヘイズが0.5%以上25%以下(具体的には10%以上17%以下)の範囲の値であった。また、実施例1~8に示された本開示の構成は、60°グロスが、50%以上55%以下の範囲の値であった。また、実施例1~8に示された本開示の構成は、全光線透過率が、85%以上100%以下(具体的には89%以上93%以下)の範囲の値であった。
【0145】
また実施例1~8に示された本開示の構成は、カール高さが、15mm以下の範囲の値であった。また実施例1~8に示された本開示の構成は、上側ハードコート層4の下側ハードコート層3とは反対側の面の鉛筆硬度が、4H以上の範囲の値であった。また実施例5は、視感度反射率が1.0%以下(具体的には0.6%)の範囲の値であった。これにより実施例5は、ディスプレイの表面に装着された状態において、ディスプレイへの入射光の反射を抑制し、ディスプレイの表示内容を見易くできることが確認された。これに対して比較例1及び2は、鉛筆硬度が2Hであり、実施例1~8に比べて硬度が劣ることが確認された。以上により、比較例1及び2に対する実施例1~8の優位性が確認された。
【0146】
各実施形態における各構成と各方法、及び、それらの組み合わせ等は、一例であって、本開示の趣旨から逸脱しない範囲内で、適宜、構成の付加、省略、置換、及びその他の変更が可能である。本開示は、実施形態によって限定されることはなく、特許請求の範囲によってのみ限定される。また、本明細書に開示された各々の態様は、本明細書に開示された他のいかなる特徴とも組み合わせることができる。
【符号の説明】
【0147】
1、101 防眩フィルム
2 基材
3 下側ハードコート層
4 上側ハードコート層
5 下側反射防止層(反射防止層)
6 上側反射防止層(反射防止層)
16a ディスプレイ
30 下側マトリクス樹脂
31 微粒子
40 上側マトリクス樹脂
41 凹凸形成粒子