(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-07
(45)【発行日】2024-05-15
(54)【発明の名称】細胞製造装置、細胞製造方法並びにこれに用いられるサーバ、システムおよび装置
(51)【国際特許分類】
C12M 3/06 20060101AFI20240508BHJP
C12M 1/00 20060101ALI20240508BHJP
【FI】
C12M3/06
C12M1/00 A
(21)【出願番号】P 2021509524
(86)(22)【出願日】2020-03-25
(86)【国際出願番号】 JP2020013406
(87)【国際公開番号】W WO2020196649
(87)【国際公開日】2020-10-01
【審査請求日】2023-02-08
(31)【優先権主張番号】P 2019061785
(32)【優先日】2019-03-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(74)【代理人】
【識別番号】100131705
【氏名又は名称】新山 雄一
(74)【代理人】
【識別番号】100145713
【氏名又は名称】加藤 竜太
(72)【発明者】
【氏名】西下 直希
【審査官】菅原 洋平
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-221187(JP,A)
【文献】特開2013-034436(JP,A)
【文献】特開2012-065590(JP,A)
【文献】特開2013-255447(JP,A)
【文献】国際公開第2015/056603(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12M 1/00ー3/10
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
目的細胞を含む製品を製造する装置であって、
目的細胞を含む原料液体を細胞濾過フィルタへ吐出する手段と、
前記細胞濾過フィルタによって得られた目的細胞を含む濾過液体を回収する手段と、
前記吐出を行うフィルタに対する座標の動作条件を可変的に規制する手段と、
を備える装置。
【請求項2】
前記吐出の速度の動作条件を可変的に規制する手段と、
を更に備える請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記細胞濾過フィルタの通液時間を可変的に規制する手段と、
を更に備える請求項1または2に記載の装置。
【請求項4】
前記吐出の回数、前記吐出する手段の使用個数および吐出圧力からなる群より選ばれる1以上の追加動作条件を可変的または非可変的に規制する手段と、
を更に備える請求項1から3いずれかに記載の装置。
【請求項5】
前記動作条件が可変であり、
前記装置は、濾過液体中に含まれる細胞数を検知する手段と、前記検知に基づき前記動作条件を調節する手段と、を更に備える請求項1から4いずれかに記載の装置。
【請求項6】
前記動作条件が可変であり、
前記装置は、前記吐出を行うフィルタに対する座標における濾物の蓄積またはそれに相関する事象を検知する手段と、前記検知に基づき前記動作条件を調節する手段と、を更に備える請求項1から5いずれか記載の装置。
【請求項7】
前記細胞濾過フィルタを、前記濾過液体を回収する容器の開口部に装着する手段を更に備え
、
前記装着する手段は、
2以上の前記細胞濾過フィルタまたは前記容器を支持する支持体を把持する手段と、
前記把持した支持体を搬送し、前記2以上の細胞濾過フィルタと前記容器の開口部との位置をあわせる手段と、を備える
請求項1から6いずれか記載の装置。
【請求項8】
前記濾過液体から固液分離で目的細胞を回収する手段を更に備える請求項1から
7いずれか記載の装置。
【請求項9】
前記固液分離が遠心分離であり、
前記回収する手段は、前記濾過液体を回収した容器の開口部を閉鎖する手段と、前記容器に対して遠心力を負荷する手段と、を備える請求項
8記載の装置。
【請求項10】
請求項1から
9いずれか記載の装置を用い、前記製品を製造する方法。
【請求項11】
前記吐出を行うフィルタに対する座標と、前記製品における目的細胞の回収率との対応関係、に関するデータを記憶するデータベースと、
前記データベースを参照して、所要の前記回収率を達成するための前記吐出を行うフィルタに対する座標の動作条件を選択する手段と、
前記選択した動作条件の情報を請求項1から
9いずれか記載の装置に送信する手段と、を備えるサーバ。
【請求項12】
前記データベースは、前記吐出の速度と、前記製品における目的細胞の生存率との対応関係に関するデータをさらに記憶し、
前記データベースを参照して、所要の前記生存率を達成するための前記吐出の速度の動作条件を選択する手段と、
前記選択した前記吐出の速度の動作条件の情報を前記装置に送信する手段と、
をさらに備える
請求項
11記載のサーバ。
【請求項13】
請求項1から
8いずれか記載の装置と、請求項
11または
12記載のサーバと、を備えるシステム。
【請求項14】
前記装置は、前記サーバから送信された情報の動作条件に基づき前記製品を製造し、
その結果としての、前記吐出の速度と、前記製品における目的細胞の生存率との対応関係、または前記吐出を行うフィルタに対する座標と、前記製品における目的細胞の回収率との対応関係、に関する実績データを前記サーバへ送信し、
前記データベースは、前記実績データを追加的に記憶する請求項
13記載のシステム。
【請求項15】
前記吐出を行うフィルタに対する座標と、前記製品における目的細胞の回収率との対応関係、に関するデータを記憶するデータベースと、
前記データベースを参照して、所要の前記回収率を達成するための及び前記吐出を行うフィルタに対する座標の動作条件を選択する手段をさらに備える請求項1から
9のいずれかに記載の装置。
【請求項16】
前記データベースは、前記吐出の速度と、前記製品における目的細胞の生存率との対応関係に関するデータをさらに記憶し、
前記選択する手段は、所要の前記生存率を達成するための前記吐出の速度の動作条件を選択する請求項
15に記載の装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞製造装置、細胞製造方法並びにこれに用いられるサーバ、システムおよび装置に関する。
【背景技術】
【0002】
患者本人又は提供者の体液や組織から細胞を採取し、それらを培養にて増幅・加工して患部へ移植する治療、いわゆる再生医療・細胞医療は従来の技術では治療困難とされた疾患に対して新たな治療法を提供できる可能性があり、注目を集めている。(例えば、非特許文献1参照。)。上記に加え、患者本人又は提供者の体液や組織から細胞を採取し、それらを培養にて増幅・加工した細胞から疾患原因を解明し、新薬開発を行う個別化医療に向けた創薬研究も大変注目されている。
【0003】
上述した再生医療・細胞医療や個別化医療に向けた創薬研究で使用する細胞を含む製品の製造工程は複数工程に渡る。例えば、細胞を組織等から採取する工程、取得した細胞を培養して増幅させる工程(拡大培養)、細胞を培養して目的細胞へ加工する工程(分化誘導培養)等が挙げられるが、いずれの工程においても、対象とする細胞を回収する工程が必要である。
例えば、細胞を組織等から採取する工程においては、組織中に含まれる夾雑物を組織から除去する必要がある。また、分化誘導培養時には、例えばES細胞やiPS細胞等の多能性幹細胞は、時間経過とともに細胞凝集塊を形成しつつ、様々な細胞へと分化誘導することが知られている。そのため、高純度の目的細胞を回収する為には、目的細胞から、それ以外の細胞や細胞塊、培養時に発生する細胞破片物(培養デブリスともいう)や夾雑物等を除去し、目的の細胞のみを回収する必要がある。
一般的に、このような回収操作は、細胞懸濁液を濾過フィルタ等平膜型の細胞濾過分離器具で濾過することにより行われる。
【0004】
一方、近年、細胞を含む製品を効率的に製造すべく、細胞の播種、培地交換等の培養操作から製剤化、製品化までを機械化した装置が開発されている。
例えば特許文献1では、因子導入装置と、細胞塊作製装置と、初期化培養装置と、複数の細胞塊を拡大培養する拡大培養装置と、培地を補給する培地補給装置とを備え、幹細胞の樹立から拡大培養までをパッケージ化した製造装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【非特許文献】
【0006】
【文献】ロバート・ポール・ランザ他著,大野典也他監訳,「再生医学~ティッシュエンジニアリングの基礎から最先端技術まで~」,株式会社エヌ・ティー・エス,2002年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1では、死細胞塊を除去することを目的として送液路にフィルタが設けられている。しかしながら、送液路に設けられたフィルタによって、培養液から死細胞塊を除去し、目的細胞のみを分離しようとする場合、前記培養液をフィルタの全面に一度に適用するため、前記フィルタの内部に培養デブリスや夾雑物、死細胞塊が沈着し、目詰まりする。そのため、目的の細胞のみを効率的に回収することができず、回収率や回収効率が著しく低下する。また、回収率を向上させようと、培養液の送液速度を上げると、フィルタと細胞とが衝突する際のダメージも大きくなり、細胞死が起こり、回収した目的細胞の品質が低下する。
従って、本発明は、回収される目的細胞の回収率や品質を改善する細胞製造装置、細胞製造方法並びにこれに用いられるサーバ、システムおよび装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討および研究を行った結果、細胞濾過フィルタへの原料液体の吐出を行うフィルタに対する座標が目的細胞の生存率や収率に影響を与えることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、上記課題を解決する本発明は、目的細胞を含む製品を製造する装置であって、目的細胞を含む原料液体を細胞濾過フィルタへ吐出する手段と、前記細胞濾過フィルタによって得られた目的細胞を含む濾過液体を回収する手段と、前記吐出を行うフィルタに対する座標の動作条件を可変的に規制する手段と、を備える装置である。
【0010】
本発明に係る目的細胞を含む製品を製造する装置の一実施形態においては、前記吐出の速度の動作条件を可変的に規制する手段と、を更に備える装置が示される。
【0011】
本発明に係る目的細胞を含む製品を製造する装置の一実施形態においては、また前記細胞濾過フィルタの通液時間を可変的に規制する手段と、を更に備える装置が示される。
【0012】
本発明に係る目的細胞を含む製品を製造する装置の一実施形態においては、また、前記吐出の回数、前記吐出をする手段の使用本数および吐出圧力からなる群より選ばれる1以上の追加動作条件を可変的または非可変的に規制する手段と、を更に備える装置が示される。
【0013】
本発明に係る目的細胞を含む製品を製造する装置の一実施形態においては、前記動作条件が可変であり、前記装置が、濾過液体中に含まれる細胞数を検知する手段と、前記検知に基づき前記動作条件を調節する手段と、を更に備える装置が示される。
【0014】
本発明に係る目的細胞を含む製品を製造する装置の一実施形態においては、前記動作条件が可変であり、前記装置は、前記吐出を行うフィルタに対する座標における濾物の蓄積またはそれに相関する事象を検知する手段と、前記検知に基づき前記動作条件を調節する手段と、を更に備える装置が示される。
【0015】
本発明に係る目的細胞を含む製品を製造する装置の一実施形態においては、前記細胞濾過フィルタを、前記濾過液体を回収する容器の開口部に装着する手段を更に備える装置が示される。
【0016】
本発明に係る目的細胞を含む製品を製造する装置の一実施形態においては、前記装着する手段は、2以上の前記細胞濾過フィルタまたは前記容器を支持する支持体を把持する手段と、前記把持した支持体を搬送し、前記2以上の細胞濾過フィルタと前記容器の開口部との位置をあわせる手段と、を備える装置が示される。
【0017】
本発明に係る目的細胞を含む製品を製造する装置の一実施形態においては、前記細胞濾過フィルタを、前記濾過液体を回収する容器の開口部から離脱する手段を更に備える装置が示される。
【0018】
本発明に係る目的細胞を含む製品を製造する装置の一実施形態においては、前記濾過液体から固液分離で目的細胞を回収する手段を更に備える装置がさらに示される。
【0019】
本発明に係る目的細胞を含む製品を製造する装置の一実施形態においては、前記固液分離が遠心分離であり、前記回収する手段は、前記濾過液体を回収した容器の開口部を閉鎖する手段と、前記容器に対して遠心力を負荷する手段と、を備える装置が示される。
【0020】
上記課題を解決する本発明は、また上述した目的細胞を含む製品を製造する装置を用い、前記製品を製造する方法である。
【0021】
上記課題を解決する本発明は、前記吐出を行うフィルタに対する座標と、前記製品における目的細胞の回収率との対応関係、に関するデータを記憶するデータベースと、前記データベースを参照して、所要の前記回収率を達成するための前記吐出を行うフィルタに対する座標の動作条件を選択する手段と、前記選択した動作条件の情報を上述した目的細胞を含む製品を製造する装置に送信する手段と、を備えるサーバである。
【0022】
本発明に係るサーバの一実施形態においては、前記データベースは、前記吐出の速度と、前記製品における目的細胞の生存率との対応関係に関するデータをさらに記憶し、前記選択する手段は、所要の前記生存率を達成するための前記吐出の速度の動作条件を選択し、前記送信する手段は、前記情報を上述した目的細胞を含む製品を製造する装置に送信するものであるサーバが示される。
【0023】
上記課題を解決する本発明は、上述した目的細胞を含む製品を製造する装置と、上述したサーバとを備えるシステムである。
【0024】
上記システムの一実施形態においては、前記装置は、前記サーバから送信された情報の動作条件に基づき前記製品を製造し、その結果としての、前記吐出の速度と、前記製品における目的細胞の生存率との対応関係、または前記吐出を行うフィルタに対する座標と、前記製品における目的細胞の回収率との対応関係、に関する実績データを前記サーバへ送信し、前記データベースは、前記実績データを追加的に記憶するシステムが示される。
【0025】
上記装置の一実施形態においては、前記吐出を行うフィルタに対する座標と、前記製品における目的細胞の回収率との対応関係、に関するデータを記憶するデータベースと、前記データベースを参照して、所要の前記回収率を達成するための及び前記吐出を行うフィルタに対する座標の動作条件を選択する手段をさらに備える装置が示される。
【0026】
上記装置の一実施形態においては、さらに、前記データベースは、前記吐出の速度と、前記製品における目的細胞の生存率との対応関係に関するデータをさらに記憶し、前記選択する手段は、所要の前記生存率を達成するための前記吐出の速度の動作条件を選択する装置が示される。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、細胞濾過フィルタへの原料液体の吐出を行うフィルタに対する座標の動作条件を可変的に規制することで、目的細胞の生存率や回収率を向上しながら作業効率を最大化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】本発明の一実施形態に係る細胞製造装置の斜視図である。
【
図2】細胞濾過フィルタ上への原料液体の吐出を行う際の様子および動作を模式的に示す図である。
【
図3】本発明の細胞製造装置の一実施形態において、原料液体が吐出される濾過フィルタに対する座標に対応し、原料液体が適用されるフィルタ上の場所の例を模式的に示す図である。
【
図4】本発明の一実施形態に係る細胞製造の流れを示す図である。
【
図5】本発明の一実施形態に係る細胞製造の流れを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明の実施形態に基づき詳細に説明する。
【0030】
(細胞製造装置)
本発明に係る細胞製造装置は、目的細胞を含む製品を製造する装置であって、目的細胞を含む原料液体を細胞濾過フィルタへ吐出する手段と、前記細胞濾過フィルタによって得られた目的細胞を含む濾過液体を回収する手段と、前記吐出を行うフィルタに対する座標の動作条件を可変的に規制する手段と、を備える。
【0031】
本明細書において、吐出を行うフィルタに対する「座標」とは、吐出手段から原料液体が吐出される場所の、フィルタに対する相対的な位置を意味する。簡便には、フィルタを平面視したときの平面内の第1軸をX軸、第1軸と交わる平面内の第2軸をY軸とした場合に、このX軸座標とY軸座標とで表される座標を含んでよい。また、座標は、吐出手段により原料液体が吐出開始する場所と、フィルタ表面との距離(前記平面に対する直行方向であるZ軸の座標)を含んでもよい。
【0032】
座標の動作条件を「可変的に規制する」とは、複数の座標を選択可能であり、かつ、座標が再現性なくランダムに変化しなければ足り、幅をもった再現性を許容する。また、装置の動作前または動作中に複数の座標を設定可能であれば足り、必ずしも動作中に座標が可変(典型的にはフィードバック制御)でなくてもよい。
このため、原料液体を吐出する手段の可動域を機械構造的または機械電気制御的に制約し、かつ上記相対位置を複数通りに決定することができればよい。
【0033】
本発明の細胞製造装置は、上流側より供給される目的細胞を含む原料液体を、細胞濾過フィルタへ吐出する手段と、前記細胞濾過フィルタによって得られた目的細胞を含む濾過液体を回収する手段と、前記吐出を行うフィルタに対する座標の動作条件を可変的に規制する手段とを有する限り、その前後における機構、構成等は任意である。
【0034】
例えば、原料液体は、手作業あるいは自動培養装置等において調製されてよい。
【0035】
自動培養装置は、通常は手作業によっておこなう細胞培養操作の全部または一部を、機械または器具で代替することにより自動または半自動的に行う装置のことを指す。細胞培養操作とは、例えば培地の交換や細胞回収、洗浄の操作等が挙げられる。具体例としては、例えば、Aastrom Replicell System(Aastrom Bioscience社製)、また、特開2004-344128、特開2004-89095、特開2001-275659により開示されている培養装置等が挙げられる。
【0036】
図1は本発明の一実施形態に係る細胞製造装置の斜視図である。
目的細胞を含む原料液体を細胞濾過フィルタ11へ吐出する手段として、分注ピペット先端に装着されたピペットチップ40が設けられており、ピペットチップ40の下方には細胞濾過フィルタ11、さらにその下方には目的細胞を含む濾過液体を回収する手段として容器30が設けられている。
【0037】
X軸駆動機構71、Y軸駆動機構72及びZ軸駆動機構73からなるヘッド駆動装置70(この図ではZ軸駆動機構73)に、図示しない原料液体源に連通された分注ヘッド42が固定され、さらにこの分注ヘッド42の先端にピペットチップ40が着脱可能に固定されている。また、細胞濾過フィルタ11がX軸およびY軸の平面に対し平行、この実施形態では水平に設置されている。
【0038】
ここで、X軸駆動機構71およびY軸駆動機構72が互いに摺動可能に連結されているから、ピペットチップ40の先端の軌道、並びにピペットチップ40の先端のフィルタに対する相対位置が再現可能に制約される。この結果、ピペットチップ40から原料液体が自然落下して適用されるフィルタに対する座標の動作条件が、可変的に規制されている。このように、本実施形態では、X軸駆動機構71およびY軸駆動機構72が規制手段に対応する。
【0039】
前記目的細胞を含む原料液体を細胞濾過フィルタ11へ吐出する手段としては、上述した分注ピペットに限定されず、フィルタや濾液を回収する容器の大きさに応じて適当な吐出手段を用いればよく、ピペット、マイクロピペット、注射器等が挙げられる。吐出手段の吐出部分の口径は、原料液体を吐出することが出来れば特に限定されないが、内径が例えば下限としては、0.03mm以上、0.05mm以上、0.15mm以上、0.56mm以上、1.00mm以上、2.50mm以上が好ましく、上限としては、8.00mm以下、5.00mm以下、4.00mm以下が好ましい。
【0040】
図2は、細胞濾過フィルタ上への原料液体の吐出を行う際の様子および動作を模式的に示す。細胞濾過フィルタ11上へピペットチップ40より原料液体の吐出を行うと、細胞濾過フィルタ11を通過した目的細胞を含む濾過液体が容器30内に回収される(a)。このとき、細胞濾過フィルタ11は、基本的に、目的細胞を通過させる一方、それ以外の細胞や細胞塊、デブリス、夾雑物等を通過させずに濾別するように設計される。しかし、フィルタ11上のある箇所への原料液体の吐出量が増すにつれ、当該座標に対応するフィルタ11の場所での濾物5が大型化し、通過させるべき目的細胞をもトラップし始める(b)ことを、本発明者は見出した。
このトラップ現象は、目的細胞の回収率を低下する要因である。本発明では、フィルタ11に対するピペットチップ40の相対位置を可変化することで、フィルタ11の一場所あたりの原料液体の吐出量を低減して、上記トラップ現象を抑制する。さらに、上記相対位置の可変化を再現可能に制約し、吐出を行うフィルタ11に対する座標の動作条件を可変的に規制することで、トラップ現象を再現可能に抑制し、目的細胞の回収率を向上させる。
【0041】
座標の数が多くなると、一座標あたりの原料液体の適用量が低減して目的細胞の回収率が改善する。一方で、座標の数が多くなると、原料液体の吐出手段の個数の増加、吐出手段の位置を再現可能に変動させるために稼働条件が複雑化するという不利益が生じ得る。そこで、フィルタに対する座標の動作条件の可変的な規制の仕方については、特に限定されず、目的細胞の回収率と、装置構成や稼働条件の簡便さを総合的に考慮して適宜設定すればよい。
【0042】
図3は、本発明の細胞製造装置の一実施形態において、原料液体が吐出される濾過フィルタに対する座標に対応し、原料液体が適用されるフィルタ上の場所の例を模式的に示す。なお、
図3(b)~(k)および前述した
図2(c)において、中実の丸印は、原料液体が適用されるフィルタ上の場所(座標)を図示するための仮想上の印である。
フィルタの平面視平面での座標(フィルタ上の場所)の数は特に限定されないが、前記座標の数の下限としては、1箇所以上であり、好ましくは例えば、2箇所以上、3箇所以上である。また、前記座標の数の上限としては、特に限定されないが、例えば20箇所以下、15箇所以下、10箇所以下である。なお、後述のフィルタと吐出手段との距離(Z軸の座標)の数が2通り以上である場合、フィルタの平面視平面での座標(フィルタ上の場所)の数は1箇所であってもよいし、2箇所以上であってもよい。他方、後述のフィルタと吐出手段との距離(Z軸の座標)の数が1通りである場合、フィルタの平面視平面での座標(フィルタ上の場所)の数は2箇所以上である。
【0043】
座標同士は、互いに離間していてもよい(間隔は等間隔でも、不等間隔でもよい)し、隣接または結合していてもよい。なお、本明細書において、吐出手段の意図的でない微動(技術的に制動しきれない微動)に起因する吐出開口の微動は、座標の相違とは扱われない。具体的には、互いに隣接または結合する座標は、互いに離隔していないが、フィルタの平面視平面での座標については、ピペットチップ40(吐出手段の一例)の吐出開口が移動した軌道の面積がピペットチップ40の吐出開口面積の2倍以上である限りにおいて、本発明では2箇所以上とみなす(換言すると、ピペットチップ40の吐出開口が移動した軌道の面積がピペットチップ40の吐出開口面積の2倍未満の場合、座標数は1個とみなす)。また、座標の配置も特に限定されず、対称(点対称、または線対称)でも、非対称でもよいし、整列していてもそうでなくてもよい。
【0044】
原料液体の吐出の仕方も、特に限定されず、吐出速度が一定または不一定のいずれでもよく、間欠または連続のいずれでもよい。また、ピペットチップ40 1本あたり2カ所以上の座標で吐出を行う場合、ピペットチップ40が座標間を移動することになるが、そのときの吐出速度は、座標に位置する時(または停止時)と座標間に位置する時(または移動時)とで同じでも異なってもよい(座標間に位置または移動時は吐出しなくてもよい)。例えば
図3(j)、(k)は、中実の丸印で表される座標同士の間でのピペットチップ40の移動軌道として、ジグザグ形、渦巻き形を示すが、丸印で表される座標に位置する時と、座標間に位置する時とで、吐出速度が同じでも異なってもよい(座標間に位置する時には吐出しなくてもよい)。
【0045】
図1に戻って、Z軸駆動機構73は、Y軸駆動機構72に対して(ただし、X軸駆動機構71に対して、でも構わない)摺動可能に連結されており、ピペットチップ40の先端と細胞濾過フィルタ11との距離(Z軸の座標)を再現可能に調整することができる。これにより、フィルタ11に適用される時の原料液体の線速度が再現可能に調整され、濾過液体中の目的細胞の回収率および生存率等の品質(特に生存率)を再現可能に改善し得る。なお、傾向としては、距離をある程度あけることで、フィルタへの原料液体の自然落下中に線速度が低下する。このように、Z軸駆動機構73は、フィルタに対する座標を可変的に規制する手段でもあり、かつ、吐出の速度の動作条件を可変的に規制する手段(後述)の一例でもある。
【0046】
本実施形態では、XY座標が2通り以上であり得るため、フィルタと吐出手段との距離(Z軸の座標)の数は、特に限定されず、1通りであってもよいし、2通り以上であってもよい。
【0047】
好ましい一実施形態では、このような規制手段は、ピペットチップ40等の吐出する手段により吐出を行うフィルタに対する座標を移動させるようにプログラムされたコンピュータによって制御される。また、別の一実施形態では、このような規制手段は、手動で操作される。例えば、完全閉鎖系の自動培養装置において、前記吐出手段および記細胞濾過フィルタが組み込まれている場合、目的細胞を含む原料液体のフィルタに対する座標を移動させるように閉鎖系内に配置されたロボットアーム等の規制手段は、閉鎖系の外部の位置からユーザが制御するジョイスティック等によって操作されてもよい。
【0048】
フィルタと吐出手段との距離(Z軸の座標)は、例えば2mm以上(好ましくは5mm以上)異なる限りにおいて、本発明では2通り以上とみなす(換言すると、2mm未満の差の場合、Z軸座標数は1通りとみなす)。なお、本明細書において、吐出手段の意図的でない微動(技術的に制動しきれない微動)に起因する吐出開口の微動は、座標の相違とは扱われない。具体的には、ピペットチップ40 1本あたり2カ所以上のZ軸座標で吐出を行う場合、ピペットチップ40が座標間を移動することになるが、そのときの吐出速度は、座標に位置する時(または停止時)と座標間に位置する時(または移動時)とで同じでも異なってもよい(座標間に位置または移動時は吐出しなくてもよい)。
【0049】
また、本発明に係る細胞製造装置の好ましい一実施形態においては、吐出の速度の動作条件を可変的に規制する手段をさらに備えてよい。吐出の速度は、目的細胞(特に生存する目的細胞)の回収率および目的細胞の生存率に影響する。したがって、吐出の速度の動作条件を可変的に規制することによって、目的細胞(特に生存する目的細胞)の回収率および生存率等の品質を再現性をもって改善し得る。
【0050】
X軸駆動機構71、Y軸駆動機構72及びZ軸駆動機構73は、公知のいずれの機構を用いることも可能であり、例えば、ステージ(例えば、xステージ、xyステージ又はxyzステージ)、弁(例えば、電磁弁又は空気弁)、ギヤ、モータ(例えば、電気モータ又はステッピングモータ)、ピストン、ブレーキ、ケーブル、ボールスクリューアセンブリ、ラックアンドピニオン機構、グリッパ、アーム、ピボットポイント、ジョイント、並進要素、又は他の機械的若しくは電気的要素などの1つ以上の要素を含んでよい。また、例えば、吐出手段を支持する構造が1つ以上のロボット要素を含んでもよい。例えば、吐出手段を支持する構造がxy方向又はxyz方向に自在に変位させることが可能なロボットアームを含んでもよい。
【0051】
吐出の速度の動作条件を可変的に規制する機構としては、Z軸駆動機構73に特に限定されず、例えば、コンピュータにより制御されたコントローラより送られてくる制御信号により送出圧を可変なポンプ等であってもよい。
【0052】
なお、目的細胞を含む濾過液体を回収する手段は、濾過液体を一時的に受容できるものであれば特に限定されず、各種の容器体または流路等であってよい。
【0053】
前記、目的細胞を含む濾過液体を回収する手段としての容器体としては、例えば、遠心管、試験管、ビーカー、フラスコ、チューブ、凍結用バイアル、細胞培養容器(マルチウェルプレートやシャーレ含む)、ナノ状/マイクロ状の多孔質不織布(濾紙)、漏斗、時計皿、細胞カウンタープレート、RNA回収・精製キット、濾液回収さじ、細胞播種用リザーバーが挙げられる。また、前記容器体の材質としては、ポリスチレン、ポリプロピレン、ポリエチレン、ガラス、アクリル、等が挙げられる。濾液中の細胞を観察が必要であれば、透明性に優れているポリスチレンが好ましい。なお、前記容器体の形状や大きさについては、特に限定はない。
【0054】
本発明の一実施態様に係る細胞製造装置は、前記細胞濾過フィルタの通液時間を可変的に規制する手段をさらに備えてよい。
本発明における通液時間とは、原料液体が濾過フィルタ上のある一点を通過する際に要する時間である。通液時間は吐出過程において上記Z軸の座標を変更したり、吐出速度の変更、線速度の変更、吐出する手段の形状や吐出部分の孔径、吐出する手段の個数、濾過フィルタを材質、構造、性質の異なる濾過フィルタへと変更することで、可変的に規制することができる。前記通液時間を規制することによって、濾液中に含まれる細胞の生存率を向上させて、濾液中に含まれる細胞の回収率を向上させることが可能となる。
本発明における線速度とは、原料液体が濾過フィルタ上のある一点を通過する際の含量液体の速度である。前記線速度は、その他の条件に応じて適宜設定設定されればよく特定の数値範囲に限定されるものではないが、例えば、下限としては、50mm/sec以上、500mm/sec以上、1000mm/sec以上、3000mm/sec以上が好ましく、上限としては、5000mm/sec以下が好ましい。
また、吐出速度は、その他の条件に応じて適宜設定設定されればよく特定の数値範囲に限定されるものではないが、例えば、下限としては、2μL/sec以上、10μL/sec以上、100μL/sec以上、250μL/sec以上、500μL/sec以上が好ましく、上限としては、5000μL/sec以下、2000μL/sec以下、1000μL/sec以下、850μL/sec以下が好ましい。濾過フィルタの材質は、特に限定されないが、例えば、Polytetrafluoroethylene(PTFE)、Polyvinylidene Fluoride(PVDF)、セルロース混合エステルなどが挙げられる。
濾過フィルタの構造は、例えば、フィルタ孔径、孔径の勾配、フィルタの厚みが挙げられ、前記フィルタ孔径は、例えば、下限としては、0.1μm以上、0.2μm以上、0.4μm以上、0.8μm以上が好ましい。
また、濾過フィルタは、表面処理を施すことによって、例えば親水性や疎水性の性質を与えても良い。前期濾過フィルタに表面処理を施すことによって、フィルタの濡れ性や水接触角を調整することができる。目的細胞を良好な生存率と回収率で濾過するという観点においては、水接触角θは、1°より大きく、80°より小さいことが好ましい。なお、本発明における水接触角とは、固体表面が液体及び気体と接触しているとき、前記3相の接触する境界線において液体面が固体面と成す角度のことをいう。
また、前記濾過フィルタは単層でもよいし、複数の層であってもよく、目的細胞や原料液体の種類や量に応じて、適宜選択できる。
【0055】
本発明の一実施態様に係る細胞製造装置は、目的細胞を含む原料液体を細胞濾過フィルタにかける操作において、前記吐出の回数、前記吐出する手段(例えばピペットチップ40)の使用個数、又は吐出をする際の吐出圧力等の1以上の追加動作条件を可変的または非可変的に規制する手段を有してよい。
吐出の回数は、一回当たりの原料液体の吐出最大量が定まっているときに、細胞濾過フィルタへの原料液体の吐出量を決定する。したがって、吐出の回数を規制することで、細胞濾過フィルタへの原料液体の吐出量を再現可能に設定することができる。
吐出する手段の使用個数は、目的細胞の種類や所望される性能(例えば生存率)等の制約によって吐出速度を増加できない場合に、目的細胞製品の製造時間を短縮するときに有用である。つまり、吐出する手段の使用個数を規制することで、吐出速度に依存せずに、細胞濾過フィルタへの原料液体の時間あたり吐出量を設定することができる。なお、吐出する手段の具体例については前述したとおりである。
【0056】
吐出圧力は、吐出する手段の構造や先端部の表面積や吐出を制御する装置、例えばピペットチップ40のポンプの圧力を変更することによって可変的に規制することができる。
吐出圧力を規制することで、吐出速度も可変的に規制できる。また、前記吐出圧力は、原料液体に含まれる目的細胞の特性、原料液体の粘度や組成などに応じて適宜設定すればよく特に限定されないが、例えば、下限としては、0.1MPa以上、0.5MPa、1MPaが好ましく、前記吐出圧力の上限としては、目的細胞が細胞死を起こさない圧力であれば特に限定されないが、例えば10MPa以下、5MPa以下が好ましい。
前記目的細胞の特性としては、例えば、シェアストレスに対する耐性が挙げられる。
上記のように、吐出圧力を規制することで、目的細胞の生存率や回収率を向上させることができる。
【0057】
本発明の細胞製造装置の一実施形態においては、吐出を行うフィルタに対する座標の動作条件を可変とし、フィードバック制御してもよい。
【0058】
一実施形態に係る細胞製造装置において、座標の動作条件が可変であり、濾過液体中に含まれる細胞数を検知する手段と、前記検知に基づき前記動作条件を調節する手段とを備える。濾過液体中に含まれる細胞数は、理想的には、細胞濾過フィルタへの原料液体の供給量に比例するが、前述のトラップ現象が生じると、原料液体の供給量に比して濾過液体中の細胞数が増えにくくなるという現象を伴う。したがって、濾過液体中に含まれる細胞数を検知することで、トラップ現象の有無や程度を推定することができ、それに基づき動作条件を動作中に調節すれば、トラップ現象の予防又は悪化防止を効率的に行うことができる。
濾過液体中に含まれる細胞数の検知は、例えば、容器30の内部または外部より容器中の濾過液体に対して測定光を照射し、分光吸光光度計で濁度を測定する方法が挙げられる。
また、動作条件の調節は、濾過液体中に含まれる細胞数だけでなく、細胞濾過フィルタへの原料液体の供給量を考慮して行うのが好ましいところ、細胞濾過フィルタへの原料液体の供給量は、流量計等で直接的に測定してもよいし、単位時間当たりの供給量が一定であれば供給時間を測定し、間接的に算出してもよい。
【0059】
別の実施形態に係る細胞製造装置において、座標の動作条件は可変であり、前記吐出を行うフィルタに対する座標における濾物の蓄積またはそれに相関する事象を検知する手段と、前記検知に基づき前記動作条件を調節する手段とを備える。
検知によってトラップ現象の有無や程度を把握することができ、それに基づき動作条件を動作中に調節すれば、トラップ現象の予防又は悪化防止を効率的に行うことができる。
なお、フィルタに対する座標における濾物の蓄積それに相関する事象は、特に限定されず、蓄積した濾物(
図2の符号5)の存否や大きさ、蓄積に伴うフィルタの重量増加等であってよい。
蓄積した濾物の検知は、例えば、フィルタ表面を連続的ないしは一定間隔で撮像し、その画像解析によって行うことができる。
【0060】
図4は、本発明の一実施形態に係る細胞製造の流れを示す図である。例えば
図4に示されるように、一実施形態に係る製造装置は、前記細胞濾過フィルタ11を、容器30の開口部に装着する手段を備えてよい。フィルタの装着を装置が機械的に行うことで、吐出および回収の工程だけでなく、その前に行うフィルタの装着が目的細胞に与え得る影響を排除し、また全工程をクリーン環境中で行うことも可能である。
【0061】
前記装着する手段は、2以上の前記細胞濾過フィルタ11または容器30を支持する支持体12を把持する手段20と、前記把持した支持体12を搬送し、前記2以上の細胞濾過フィルタ11と対応する2以上の前記容器30の開口部との位置をあわせる手段とを備えてよい。
細胞濾過フィルタ11の1座標あたりの原料液体の吐出量を減らしつつ、濾過液体中の目的細胞数を増やすためには、細胞ろ過フィルタ11の数を増やし、各フィルタ11に並行的に原料液体を吐出するのが有用である。しかし、フィルタ11および各フィルタ11が装着される容器30の数が増すにつれ、装着の作業量と困難性(例えば、フィルタ11を水平に装着することの失敗が生じやすい)が増し、フィルタの装着が目的細胞に与え得る影響も大きくなりやすい。
上記実施形態によれば、この工程を、位置合わせを含めて装置が機械的に行うことで、目的細胞に与え得る影響を排除しつつ、目的細胞製品の製造効率を向上し得る。
【0062】
一実施形態に係る製造装置は、前記細胞濾過フィルタ11を、容器30の開口部から離脱する手段を備えてよい。フィルタの離脱を装置が機械的に行うことで、吐出および回収の工程だけでなく、その後に行うフィルタの離脱が目的細胞に与え得る影響(例えばフィルタ上の濾物を混入させる失敗等)を排除し、また全工程をクリーン環境中で行うことも可能である。
【0063】
図4を用いて細胞製造の流れを説明すると、細胞濾過フィルタ11は、鍔部を有する筒状物の底に濾過膜が設けられている。この細胞濾過フィルタ11の2以上が、筒状物の断面形に略一致した穴に挿入され、鍔部によって支持体12に係止され、支持されている。この状態の支持体12を、XYZ軸の各方向に自在に可動な細胞濾過フィルタユニット把持アーム20によって把持し、容器30の開口部の上部位置(水平面を構成するX軸およびY軸によって定まる)へと移動させ、さらに容器30の開口部の高さ(Z軸)へと移動させ、細胞濾過フィルタ11を開口部に嵌合させる。この時点で、細胞濾過フィルタ11が開口部に対して完全に正確に位置合わせされていれば、細胞濾過フィルタ11が開口部に正しい姿勢(典型的には水平)で装着される。
【0064】
しかし、本実施形態のように同時に装着するフィルタ11の数が多くなるにつれ、すべてのフィルタ11の装着を一度の位置合わせで成功することは難しくなる。装着失敗の典型例では、フィルタ11が嵌合途中で容器30の開口部の縁にひっかかり、傾斜した状態で装着される。そこで、細胞濾過フィルタ11を容器30の開口部に対して嵌合させた状態で、フィルタ11を水平方向に関して微細に動かすことが好ましい。これにより、正しい姿勢で装着されていないフィルタ11も、微細に動かされる中で正しく位置合わせされ、正しい姿勢で装着される可能性が高まる。
【0065】
このようにして、細胞濾過フィルタ11と容器30の開口部とを位置合わせし、細胞濾過フィルタ11を開口部に装着する(a~b)。位置合わせの手段自体は周知であるため、説明を省略する。
【0066】
次に、各細胞濾過フィルタ11へとピペットチップ40から原料液体を吐出して濾過を行う(c)。なお、
図4(c)では、複数のフィルタ11に対し吐出を行うピペットチップ40が1つであるが、その数を適宜設定可能であることは前述の通りである。
【0067】
各容器30へと濾過液体の回収を終えた後、前記した装着動作とは逆手順で細胞濾過フィルタユニット把持アーム20を動作することで、容器30の開口部から細胞濾過フィルタ11を離脱させる。
【0068】
なお、
図4の支持体12は2以上のフィルタ11を支持するが、2以上の容器30を支持しても構わない。
【0069】
本発明の一実施形態に係る細胞製造装置は、回収した濾過液体から固液分離で目的細胞を回収する手段を更に備えてもよい。目的細胞の回収工程をも装置が機械的に行うことで、回収工程が目的細胞に与え得る影響を排除し、また全工程をクリーン環境中で行うことも可能である。
【0070】
固液分離で目的細胞を回収する手段としては、特に限定されないが、例えば、遠心分離や中空糸による分取が挙げられる。中でも、遠心分離は簡単で効率的であるために好ましい。遠心分離の過程で容器から濾過液体や目的細胞が流失しないよう、回収手段は、容器の開口部を閉鎖する手段と、開口部が閉鎖された容器に対して遠心力を負荷する手段とを備えることが好ましい。
【0071】
図5を用いて、本発明の一実施形態に係る細胞製造の流れを示す。目的細胞1を含む濾過液を収容した容器30に対し、
図4に示したものと同様の把持アーム22が開口部上方から蓋50を移動させて密着させ、開口部を閉鎖する(a~b)。
【0072】
図5の蓋50は、平板状物であり、複数の容器30の開口部を被覆するのに十分な面積を有する。開口部の閉鎖を高確度に行う観点で、蓋50には開口部の外形に略一致する凹部が設けられ、凹部に容器30の開口部を嵌合させることが好ましい。
【0073】
次に、容器30に対して遠心力を負荷する手段60によって、目的細胞1を濾過液体の液体成分から分離する(b)。必要に応じ、容器30の目的細胞に洗浄液を添加して分散させ、再度、遠心分離を行って、洗浄液を除去してもよい。
【0074】
次に、容器30に製薬上許容し得る媒体や培地を添加し、目的細胞1を懸濁させて製品を作製した(c)後、蓋50を取り外して、容器30の開口部を開放する(d)。なお、蓋50の取外し動作は、取付け動作の逆手順であってよい。
本発明において、製薬上許容し得る媒体としては、ヒトの治療の際に用いられる溶液であれば特に限定されないが、例えば、生理食塩液、5%ブドウ糖液、リンゲル液、乳酸リンゲル液、酢酸リンゲル液、開始液(1号液)、脱水補給液(2号液)、維持輸液(3号液)、術後回復液(4号液)を挙げることができる。
また、容器30には、例えば、DMSO、グリセロール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン、ポリビニルピロリドン、ソルビトール、デキストラントレハロース、HESなども添加し、目的細胞1を懸濁させて製品を作成することができる。
【0075】
一実施形態に係る装置は、さらに、前記吐出を行うフィルタに対する座標と、前記製品における目的細胞の回収率との対応関係、に関するデータを記憶するデータベースと、前記データベースを参照して、所要の前記回収率を達成するための及び前記吐出を行うフィルタに対する座標の動作条件を選択する手段をさらに備えてよい。記憶済みの対応関係データを活用して吐出を行うことで、より高い期待値で、所要の回収率で目的細胞を回収することができる。
【0076】
一実施形態に係る装置は、さらに、前記データベースは、前記吐出の速度と、前記製品における目的細胞の生存率との対応関係に関するデータをさらに記憶し、前記選択する手段は、所要の前記生存率を達成するための前記吐出の速度の動作条件を選択してよい。記憶済みの対応関係データを活用して吐出を行うことで、より高い期待値で、所要の生存率の目的細胞を回収することができる。
【0077】
本発明において目的細胞は、特に限定されず、フィルタ濾過によって他成分(目的細胞以外の細胞や細胞塊、培養デブリス(細胞破片物)や夾雑物等)から分離可能な性質(サイズやフィルタ親和性)を有し、かつ分離を要する任意の細胞であってよい。動物、植物、昆虫等のあらゆる生物由来の細胞または人工的な細胞が挙げられるが、本発明の効果に対するニーズの大きさから、動物由来の細胞、特にヒト由来の細胞が好ましい。
【0078】
例えば、動物の体液や組織から採取した細胞、人工的に癌化させた株化細胞、さらにはこれらの細胞を生体外で培養したもの等が挙げられ、好ましくはヒトの体液や組織から採取した細胞またはその細胞を培養したもの、例えば、ヒトの骨髄液、血液(末梢血、G-CSF動員末梢血等を含む)、臍帯血液、月経血液、脂肪組織、肝臓組織、膵臓組織、心臓組織、神経組織、腫瘍組織等から採取した細胞またはその細胞を培養したものを含む。
【0079】
コロニー形成細胞は、生体外において任意条件の下で細胞を培養すると、コロニーを形成する細胞であれば特に限定されないが、例えば前駆細胞や幹細胞を挙げることができる。前駆細胞としては、例えば血管内皮前駆細胞、神経前駆細胞、肝前駆細胞等の前駆細胞が挙げられる。また、幹細胞としては、造血幹細胞、間葉系幹細胞または脂肪由来幹細胞、癌幹細胞等の体性幹細胞、ES細胞またはiPS細胞等の多能性幹細胞が挙げられる。
【0080】
接着性のコロニー形成細胞とは、該細胞が増殖していく際に、任意の足場に接着して増殖していく細胞を指し、例えば、血管内皮前駆細胞、神経前駆細胞、肝前駆細胞等の前駆細胞、間葉系幹細胞や脂肪由来幹細胞等の体性幹細胞、ES細胞やiPS細胞等の多能性幹細胞を挙げることができるが特にこれには限定されない。
【0081】
非接着性(浮遊性)のコロニー形成細胞とは、該細胞が増殖していく際に、足場に接着しなくても増殖できる細胞を指し、例えば、癌幹細胞、神経幹細胞などの体性幹細胞やES細胞やiPS細胞等の多能性幹細胞を挙げることができる。
【0082】
また、本発明における目的細胞としては、多能性幹細胞を分化誘導させた分化細胞でもよい。前記分化細胞としては、例えば内胚葉系細胞、中胚葉系細胞、外胚葉系細胞、体細胞が挙げられる。
【0083】
内胚葉系細胞は、消化管、肺、甲状腺、膵臓、肝臓などの器官の組織、消化管に開口する分泌腺の細胞、腹膜、胸膜、喉頭、耳管、気管、気管支、尿路(膀胱、尿道の大部分、尿管の一部)などへと分化する能力を有し、一般的に、胚体内胚葉(DE)と言われることがある。多能性幹細胞から内胚葉系細胞への分化は、内胚葉系細胞に特異的な遺伝子の発現量を測定することにより確認することができる。内胚葉系細胞に特異的な遺伝子としては、例えば、SOX17、FOXA2、CXCR4、AFP、GATA4、EOMES等を挙げることができる。
【0084】
中胚葉系細胞は、体腔及びそれを裏打ちする中皮、筋肉、骨格、皮膚真皮、結合組織、心臓、血管(血管内皮も含む)、血液(血液細胞も含む)、リンパ管、脾臓、腎臓、尿管、性腺(精巣、子宮、性腺上皮)などへと分化する。中胚葉系細胞に特異的な遺伝子としては、例えば、MESP1、MESP2、FOXF1、BRACHYURY、HAND1、EVX1、IRX3、CDX2、TBX6、MIXL1、ISL1、SNAI2、FOXC1及びPDGFRα等を挙げることができる。
【0085】
外胚葉系細胞は、皮膚の表皮や男性の尿道末端部の上皮、毛髪、爪、皮膚腺(乳腺、汗腺を含む)、感覚器(口腔、咽頭、鼻、直腸の末端部の上皮を含む、唾液腺)水晶体などを形成する。外胚葉系細胞の一部は発生過程で溝状に陥入して神経管を形成し、脳や脊髄などの中枢神経系のニューロンやメラノサイトなどの元にもなる。また末梢神経系も形成する。外胚葉系細胞に特異的な遺伝子としては、例えば、FGF5、OTX2、SOX1、PAX6等を挙げることができる。
【0086】
本発明における体細胞は、多能性幹細胞から分化誘導することができ、生体内に存在し得る体細胞であれば特に限定されないが、例えば、体性幹細胞(骨髄、脂肪組織、歯髄、胎盤、卵膜、臍帯血、羊膜、絨毛膜等に由来する間葉系幹細胞、神経幹細胞等)、神経細胞、グリア細胞、オリゴデンドロサイト、シュワン細胞、心筋細胞、心筋前駆細胞、肝細胞、肝臓前駆細胞、α細胞、β細胞、繊維芽細胞、軟骨細胞、角膜細胞、血管内皮細胞、血管内皮前駆細胞、周細胞、骨格筋細胞、巨核球、造血幹細胞、気道上皮細胞、生殖細胞、樹状細胞、好酸球、肥満細胞、T細胞、エリスロポエチン産生細胞、腸管上皮、肺胞上皮細胞、腎臓細胞等が例示でき、前記細胞は遺伝子導入された形態やゲノム上の対象遺伝子などをノックダウンされた形態でもよい。
【0087】
癌幹細胞は、幹細胞と同様に多分化能と無制限に増殖する能力を有しており、治療薬への耐性を有する細胞である。
【0088】
目的細胞を含む原料液体中に含まれる液体とは、流動性を示す液体であれば特に限定されないが、例えば生理食塩水、緩衝液、培地、及び洗浄液等の液状物が挙げられる。
【0089】
培地は、基礎培地を用いてもよく、当該基礎培地に添加剤を加えて用いることもできる。基礎培地としては、例えば、Neurobasal培地、Neural Progenitor Basal培地、NS-A培地、BME培地、BGJb培地、CMRL 1066培地、Glasgow MEM培地、Improved MEM Zinc Option培地、IMDM培地、Medium 199培地、Eagle MEM培地、αMEM培地、DMEM培地、DMEM/F12培地、ハム培地、RPMI 1640培地、Fischer’s培地、及びこれらの混合培地など、動物細胞の培養に用いることのできる培地であれば特に限定されない。iNまたはiMNを培養する場合において、Neurobasal培地及びDMEM/F12の混合物が好適に用いられる。
【0090】
添加剤は、特に限定されないが、血清、レチノイン酸、Wnt、BMP、bFGF、EGF、HGF、Sonic hedgehog (Shh)、神経栄養因子ファミリー、インスリン様増殖因子1(IGF1)、アミノ酸、ビタミン類、インターロイキン類、インスリン、トランスフェリン、ヘパリン、ヘパラン硫酸、コラーゲン、フィブロネクチン、プロゲステロン、セレナイト、B27-サプリメント、N2-サプリメント、ITS-サプリメント、抗生物質など細胞の増殖または生存に必要な物質が挙げられる。iNまたはiMNを培養する場合において、レチノイン酸、Shh、BDNF、GDNF、NT-3、B27-サプリメント及びN2-サプリメントが好適に用いられる。
これらの添加剤は、一度に添加してもよいし、目的細胞を含む製品の製造の経過に併せて段階的に変化させてもよい。
【0091】
洗浄液は、除去目的とする細胞、細胞塊、培養デブリス(細胞破片物)や夾雑物を洗い流すことができれば特に限定されないが、例えば生理食塩水、リンゲル液、細胞培養に用いる培地、リン酸緩衝液等の一般的な緩衝液、あるいはこれら溶液に血清やタンパク質を添加した溶液が挙げられる。
【0092】
(細胞製品の製造方法)
本発明に係る細胞製品の製造方法は、上記したような細胞製造装置を用い、細胞製品を製造する工程を有する。回収される目的細胞の品質やその回収率を改善し得る。
【0093】
上記細胞製品の製造方法は、組織から細胞を単離する工程を含んでもよい。また、前記細胞製品の製造方法は、細胞を培養する工程を含んでもよい。さらに前記細胞製品の製造方法は、培養した細胞を製薬上許容し得る媒体や培地と混合して製剤化する工程を含んでもよい。また、前記細胞製品の製造方法は、培養した細胞や製剤化された細胞製剤を凍結保存する工程を含んでもよい。
前記培養工程における培養方法は、細胞の種類に応じて適宜適した培養条件を選択すればよく、従来の培養方法も使用できるし、新たな培養条件を設定することもできる。
前記細胞は、細胞製品に含まれる目的細胞を製造できれば特に限定されないが、例えば上記した細胞が挙げられる。
【0094】
細胞濾過フィルタによる濾過が必要となる工程は特に限定されないが、例えば組織から細胞を単離する工程、細胞を培養する工程、製剤化工程、凍結保存工程、製品化工程、目的細胞の特性解析時が挙げられる。なお、前記目的細胞の特性解析としては、遺伝子解析、RNA抽出、染色体の解析、FACS、細胞内代謝の解析などが挙げられる。
【0095】
(サーバ)
本発明に係るサーバは、前記吐出を行うフィルタに対する座標と、前記製品における目的細胞の回収率との対応関係、に関するデータを記憶するデータベースと、前記データベースを参照して、所要の前記回収率を達成するための前記吐出を行うフィルタに対する座標の動作条件を選択する手段と、前記選択した動作条件の情報を上述した目的細胞を含む製品を製造する装置に送信する手段と、を備える。記憶済みの対応関係データを活用して吐出を行うことで、より高い期待値で、所要の回収率で目的細胞を回収することができる。また、端末となる細胞製造装置から物理的に分離したサーバにてデータを集中管理することで、細胞製造装置の端末を簡素化できる。
【0096】
本発明に係るサーバの一実施形態においては、前記データベースは、前記吐出の速度と、前記製品における目的細胞の生存率との対応関係に関するデータをさらに記憶し、前記選択する手段は、所要の前記生存率を達成するための前記吐出の速度の動作条件を選択し、前記送信する手段は、前記情報を、吐出速度を可変的に規制する細胞製造装置に送信してよい。記憶済みの対応関係データを活用して吐出を行うことで、より高い期待値で、所要の生存率の目的細胞を回収することができる。また、端末となる細胞製造装置から物理的に分離したサーバにてデータを集中管理することで、細胞製造装置の端末を簡素化できる。
【0097】
データベース中のデータは、目的細胞の種類やフィルタの種類によって分類されていることが好ましい。これにより、所要とされる回収率や生存率等の品質を、更に高い期待値で実現し得る。
【0098】
なお、サーバのハードウェアとしては、特に限定されず、従来公知の汎用のサーバ装置を用いることが可能である。
【0099】
(システム)
本発明に係る細胞製造システムは、上述した目的細胞を含む製品を製造する装置と、上述したサーバとを備える。
【0100】
一実施形態に係るシステムにおいて、前記装置は、前記サーバから送信された情報の動作条件に基づき前記製品を製造し、その結果としての、前記吐出の速度と、前記製品における目的細胞の生存率との対応関係、または前記吐出を行うフィルタに対する座標と、前記製品における目的細胞の回収率との対応関係、に関する実績データを前記サーバへ送信し、前記データベースは、前記実績データを追加的に記憶する構成を有する。データベースに記憶されるデータの量と種類が増すにつれ、データに基づき推奨される座標または吐出速度の動作条件の精度が改善し続けることができる。
【実施例】
【0101】
以下、実施例により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はかかる実施例に限定されるものではない。なお、実施例において示した特性値の評価は、それぞれ以下の方法によって測定された。
【0102】
実施例1
細胞濾過工程において、iPS細胞(目的細胞)を含む原料液体を細胞濾過フィルタに吐出するときのフィルタに対する座標によって、細胞回収量が影響を受けるか否かを確認した。なお、この実施例では、フィルタの平面視平面での座標を変化させ、吐出手段とフィルタとの距離は固定した。
【0103】
実験は次の手順により実施した。
1. iPS細胞(RPC-SF-iM株)の凍結液を37℃恒温槽で解凍した。
2. 解凍した液を5mL StemFit培地に希釈し、1500rpm、3minで遠心分離した。
3. 培養上清を除去してから、iPS細胞を1.44x10
5cells/mLの濃度で含む950uLの細胞懸濁液(原料液体)を調製し、吐出手段(ピペットチップ40)より細胞濾過フィルタ上に吐出した。細胞懸濁液の吐出速度は、100μL/sec、500μL/sec、または900μL/secのいずれかに設定した。
また、原料液体の吐出の仕方は、(1)
図3(b)のようにフィルタ(セルストレーナ 100μmメッシュ)上の1座標へと全量、(2)
図3(c)のようにフィルタ上の2座標へと半分量ずつ(2回繰り返す)、(3)
図3(g)のようにフィルタ上の4座標へと1/4量ずつ(ただし、2つのピペットチップ40を併用し、2座標へ同時に吐出を2回繰り返す)とした。
4. 濾過液体中に含まれる細胞数・細胞生存率を計測する。
5. 下の式に基づき、フィルタに捕捉された細胞数(未回収の目的細胞数)と未回収の細胞数の割合(%)を算出した。
(未回収の細胞数)=(濾過前の総細胞数)-(濾過後の総細胞数)
(未回収の細胞の割合)(%)=(未回収細胞数)/(濾過前の総細胞数)×100
得られた結果を表1に示す。
【0104】
【0105】
表1に示すように、原料液体を吐出するフィルタに対する座標(フィルタの平面視平面での座標)によって、未回収細胞の数や割合、並びに目的細胞の回収率が大きく変わった。具体的には、座標の数を増し、座標ごとの原料液体の吐出量を減らすことで、フィルタ上に捕捉される目的細胞が減り、濾過液体に含まれる目的細胞が増加することが分かった。つまり、座標の動作条件を可変的に規制することで、目的細胞の回収率を再現可能に改善し得ることが分かった。
【0106】
実施例2
細胞濾過工程において、原料液体を吐出する高さ(吐出手段の吐出口より細胞濾過フィルタ表面までの距離)が回収される目的細胞に影響するか否かを確認した。なお、この実施例では、フィルタの平面視平面での座標を固定し、吐出手段とフィルタとの距離を変化させた。
【0107】
実験は次の手順により実施した。
すなわち、実施例1における手順1~3と同様にして原料液体(1.44x105cells/mL)を調製し、吐出手段(ピペットチップ40)より細胞濾過フィルタ(実施例1で用いたものと同じ)上に吐出した。
細胞懸濁液の吐出速度は、900μL/secとした。
フィルタ表面からの吐出手段の吐出口の高さを、条件1においては0mm、条件2においては20mm、条件3においては100mmと設定し、原料液体をフィルタ上の1箇所へと落下させた。なお、目的細胞の生存率は下の式に基づき算出した。
(濾過液体中の細胞生存率)(%)=(濾過液体中の生細胞数)/(濾過液体中の総細胞数)×100
得られた結果を表2に示す。
【0108】
【0109】
表2に示すように、吐出手段の吐出口より細胞濾過フィルタ表面までの距離によって、濾過液体中の総細胞数(回収率)ならびに、目的細胞の生存率および生存する目的細胞の数が大きく変わった。これにより、フィルタに対する座標(フィルタと吐出位置との距離)の動作条件を可変的に規制することで、目的細胞の回収率及び生存率を再現可能に改善し得ることが分かった。なお、距離は、原料液体のフィルタに対する線速度に影響し、結果的に目的細胞の回収率と生存率に影響を与えると推測される。
【0110】
実施例3
細胞濾過工程において、細胞懸濁液の吐出速度が回収細胞の生存率に影響を与えるか否かを確認した。
実験は次の手順により実施した。
1. すなわち、実施例1における手順1~3と同様にして原料液体(1.40x105cells/mL)を調製し、吐出手段(ピペットチップ40)より、10μL/sec、100μL/sec、500μL/sec、900μL/sec、2000μL/secの吐出速度で、細胞濾過フィルタ(実施例1で用いたものと同じ)上に吐出した。
2.濾過液体を回収後、濾過液体中の総細胞数および生存細胞数を計測し、生存率を算出した。
【0111】
【0112】
表3に示すように、濾過液中に含まれる総細胞数は、吐出速度にかかわらず略一定であった。一方、細胞の生存率は、吐出速度が500μL/sec以下では極めて高かったが、900μL/sec以上になると低下した。これにより、原料液体の吐出速度を可変的に規制することで、目的細胞の生存率および生存する目的細胞の収率を再現可能に改善し得ることが分かった。
【符号の説明】
【0113】
10 細胞濾過フィルタユニット
11 細胞濾過フィルタ
12 支持体
20 細胞濾過フィルタユニット把持アーム
30 容器
40 ピペットチップ