(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-07
(45)【発行日】2024-05-15
(54)【発明の名称】リチウムイオン電池から金属を抽出するためのプロセス
(51)【国際特許分類】
C22B 3/44 20060101AFI20240508BHJP
C22B 7/00 20060101ALI20240508BHJP
C22B 23/00 20060101ALI20240508BHJP
C22B 26/12 20060101ALI20240508BHJP
C22B 47/00 20060101ALI20240508BHJP
C22B 21/00 20060101ALI20240508BHJP
【FI】
C22B3/44 101A
C22B7/00 C
C22B23/00 102
C22B26/12
C22B47/00
C22B21/00
(21)【出願番号】P 2021523891
(86)(22)【出願日】2019-10-25
(86)【国際出願番号】 US2019058074
(87)【国際公開番号】W WO2020092157
(87)【国際公開日】2020-05-07
【審査請求日】2022-10-04
(32)【優先日】2018-10-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】594066006
【氏名又は名称】アルベマール コーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】110000741
【氏名又は名称】弁理士法人小田島特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ディン,ナァン
【審査官】池田 安希子
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第103956534(CN,A)
【文献】国際公開第2014/154152(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第107117661(CN,A)
【文献】国際公開第2017/159743(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22B 1/00 - 61/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
1つ以上の金属、液体、酸、及び1つ以上の他の成分を含む組み合わせから、前記1つ以上の金属を抽出するためのプロセスであって、
(A)前記組み合わせにチオ硫酸ナトリウムを含む還元剤を添加することであって、前記還元剤が、前記1つ以上の金属の実質的な部分を還元するように、かつ前記1つ以上の他の成分に対して実質的な効果を有しないように適合され、したがって、Fe(II)及び/又はMn(II)を含む酸浸出液を生成する、前記添加することと、
(B)アルミニウムを含む沈殿物を形成するように、前記組み合わせのpHを調整することと、続いて
(C)前記酸浸出液に酸化剤を添加することによって、前記Fe(II)及び/又は前記Mn(II)を前記酸浸出液から除去することであって、前記酸化剤が、過マンガン酸塩アニオン(MnO
4
-)、オゾン、硝酸、硫酸、ハロゲン、過塩素酸塩、または亜塩素酸塩の1つ以上の塩類を含む、前記除去することと、を含む、前記プロセス。
【請求項2】
工程(B)において、前記pHが、2~8の範囲にある、請求項1に記載のプロセス。
【請求項3】
工程(B)において、前記pHが、3.5~4.5の範囲にある、請求項1に記載のプロセス。
【請求項4】
プロセスであって、
(A
)1つ以上の金属、液体、酸、及び1つ以上の他の成分を含む組み合わせから、
前記1つ以上の金属を抽出することであって、前記1つ以上の金属及び1つ以上の他の成分が、1つ以上の使用済みリチウムイオン電池から得られ、前記抽出が、前記組み合わせにチオ硫酸ナトリウムを含む還元剤を添加することを含み、前記還元剤が、前記1つ以上の金属の実質的な部分を還元するように、かつ前記1つ以上の他の成分に対して実質的な効果を有しないように適合され、したがって、Fe(II)及び/又はMn(II)を含む浸出液を生成する、前記抽出することと、
(B)前記浸出液に酸化剤を添加することによって、前記浸出液から前記Fe(II)及び/又は前記Mn(II)を除去することであって、前記酸化剤が、過マンガン酸塩アニオン(MnO4
-)、オゾン、硝酸、硫酸、ハロゲン、過塩素酸塩、または亜塩素酸塩の1つ以上の塩類を含む、前記除去することと、を含む、前記プロセス。
【請求項5】
プロセスであって、
(A)1つ以上のリチウムイオン電池から塊を調製することであって、前記塊が、リチウム、コバルト、ニッケル、マンガン、鉄、アルミニウム、及びそれらのいずれかの組み合わせからなる群から選択される1つ以上を含む、前記調製することと、
(B)前記塊を酸と接触させて、組み合わせを形成することと、
(C)酸浸出液を形成するように、前記組み合わせを還元剤と接触させることであって、前記還元剤が、チオ硫酸ナトリウムを含む、前記接触させることと、
(D)アルミニウムを含む沈殿物を形成するように、前記酸浸出液のpHを調整することと、
(E)前記沈殿物を前記酸浸出液から分離し、前記酸浸出液の少なくとも一部分を酸化剤と接触させることであって、前記酸化剤が、過マンガン酸塩アニオン(MnO
4
-)、オゾン、硝酸、硫酸、ハロゲン、過塩素酸塩、亜塩素酸塩、及びそれらのいずれかの組み合わせの塩類からなる群から選択される1つ以上を含む、前記接触させることと、
(F)前記酸浸出液から、リチウム、コバルト、ニッケル、マンガン、鉄、アルミニウム、及びそれらいずれかの組み合わせからなる群から選択される1つ以上を抽出することと、を含む、前記プロセス。
【請求項6】
工程(D)において、前記酸浸出液の前記pHが、2~8の範囲にある、請求項5に記載のプロセス。
【請求項7】
工程(D)において、前記酸浸出液の前記pHが、3.5~4.5の範囲にある、請求項5に記載のプロセス。
【請求項8】
アルミニウムを含む1つ以上の化合物が、濾過によって前記酸浸出液から抽出される、請求項5に記載のプロセス。
【請求項9】
前記酸化剤が、過マンガン酸塩アニオン(MnO
4
-)である、請求項5に記載のプロセス。
【請求項10】
工程(F)において、リチウムが、水酸化リチウム、炭酸リチウム、リン酸リチウム、硫酸リチウム、塩化リチウム、硝酸リチウム、及びそれらのいずれかの組み合わせからなる群から選択される1つ以上として前記酸浸出液から抽出される、請求項5に記載のプロセス。
【請求項11】
工程(F)において、コバルトが、硫酸コバルト、塩化コバルト、硝酸コバルト、及びそれらのいずれかの組み合わせからなる群から選択されたものとして前記酸浸出液から抽出される、請求項5に記載のプロセス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、概して、リチウムイオン電池から1つ以上の金属を抽出するための1つ以上のプロセスに関する。
【背景技術】
【0002】
この項では、本明細書に記載され、及び/または以下に特許請求される技術のいくつかの態様に関連し得るか、もしくは文脈を提供し得る情報を紹介する。この情報は、本明細書に開示されるものをより良好に理解するための背景である。このような背景には、「関連」技術の考察を含み得る。このような技術が関連していることは、それが「先行」技術であることを意味するものではない。関連技術は、先行技術である場合があり、そうでない場合がある。この考察は、この観点から読み取られるべきであり、先行技術の認可として読み取られるべきではない。
【0003】
リチウムイオン電池(LIB)中の正極活物質(CAM)は、リチウム(Li)及びコバルト(Co)を含有し、これらの両方とも、特に電子移動性におけるこれらの用途のために需要がある。使用済みLIBは、細断、ふるい、磁気分離を含む物理的プロセスを介して再利用することができる。CAMは、アノードからの黒鉛とともに、最後には「黒色塊」と呼ばれることの多い細粒分になる。物理的プロセスの性質上、黒色塊中には多くの不純物が存在する。最も一般的な不純物には、集電体からの銅及びアルミニウム、電池筐体からの鉄、ならびにおそらく残存または分解された電解物からのリンがある。
【0004】
黒色塊から有価金属を回収するための典型的な湿式製錬法では、酸浸出が最初の工程である。典型的には、硫酸(H2SO4)及び過酸化水素(H2O2)をこの工程に使用して、Li及びCoを豊富に含む溶液を生成する。H2O2の働きは、CAM中のCo(III)を酸性溶液に溶けやすいCo(II)に還元することである。しかしながら、H2O2は、還元剤または酸化剤のいずれかとして、酸化還元対の化学電位に応じて挙動することができる。これでは、目的の金属とともに不純物を不必要に持ち込むという問題が生じる。例えば、銅(Cu)及びリン(P)の両方は、H2O2が使用されるときにLi+及びCo2+とともに溶液に入り、したがって、これらの元素を除去するために通常、さらなる精製工程が必要となる。
【0005】
したがって、黒色塊から有価金属を回収するための湿式製錬法で使用するために、1つ以上の改善された酸浸出プロセスが必要である。特に、既知のプロセスに比べて、目的となる金属とともに不純物が運ばれにくい、1つ以上の改善された酸浸出プロセスが必要である。さらに、LIBの再利用のための改善されたプロセスが必要である。
【発明の概要】
【0006】
一般に、本開示は、1つ以上のリチウムイオン電池から1つ以上の金属を抽出するための1つ以上のプロセスを提供する。
【0007】
一態様において、(A)1つ以上のリチウムイオン電池から塊を調製することであって、塊が、リチウム、コバルト、ニッケル、マンガン、鉄、アルミニウム、及び前述のもののうちの2つ以上の任意の組み合わせからなる群から選択される1つ以上を含む、調製することと、(B)塊を酸と接触させて、組み合わせを形成することと、(C)酸浸出液を形成するように、組み合わせを還元剤と接触させることであって、還元剤は、チオ硫酸ナトリウムを含む、接触させることと、(D)アルミニウムを含む沈殿物を形成するように、酸浸出液のpHを調整することと、(E)酸浸出液から、リチウム、コバルト、ニッケ
ル、マンガン、鉄、アルミニウム、及び前述のもののうちの2つ以上の任意の組み合わせからなる群から選択される1つ以上を抽出することと、を含むプロセスが提供される。
【0008】
1つ以上の態様は、酸浸出液のpHが約2~約8の範囲にある、任意の先行段落に記載のプロセスを含む。
【0009】
1つ以上の態様は、酸浸出液のpHが約3.5~約4.5の範囲にある、任意の先行段落に記載のプロセスを含む。
【0010】
1つ以上の態様は、アルミニウムを含む1つ以上の化合物が濾過によって酸浸出液から抽出される、任意の先行段落に記載のプロセスを含む。
【0011】
1つ以上の態様は、酸浸出液を酸化剤と接触させることによって、酸浸出液からFe(II)及びMn(II)を除去することをさらに含む、任意の先行段落に記載のプロセスを含む。
【0012】
1つ以上の態様は、酸化剤が、過マンガン酸塩アニオン(MnO4
-)、オゾン、硝酸、硫酸、ハロゲン、過塩素酸塩、亜塩素酸塩、及び前述のもののうちの2つ以上の任意の組み合わせの塩類からなる群から選択される1つ以上を含む、任意の先行段落に記載のプロセスを含む。
【0013】
1つ以上の態様は、工程(E)において、リチウムは、水酸化リチウム、炭酸リチウム、リン酸リチウム、硫酸リチウム、塩化リチウム、硝酸リチウム、及び前述のもののうちの2つ以上の任意の組み合わせからなる群から選択される1つ以上として酸浸出液から抽出される、任意の先行段落に記載のプロセスを含む。
【0014】
1つ以上の態様は、工程(E)のコバルトは、硫酸コバルト、塩化コバルト、硝酸コバルト、及び前述のもののうちの2つ以上の任意の組み合わせからなる群から選択されたものとして酸浸出液から抽出される、任意の先行段落に記載のプロセスを含む。
【0015】
別の態様において、1つ以上の金属は、1つ以上の金属、液体、酸、及び1つ以上の他の成分を含む組み合わせから抽出することを含むプロセスが提供され、このプロセスは、(A)組み合わせに還元剤を添加することであって、還元剤は、1つ以上の金属の実質的な部分を還元するように、かつ1つ以上の他の成分に対して実質的な効果を有しないように適合される、添加することと、(B)アルミニウムを含む沈殿物を形成するように、組み合わせのpHを調整することと、を含む。
【0016】
1つ以上の態様は、還元剤がチオ硫酸ナトリウムを含む、先行段落に記載のプロセスを含む。
【0017】
1つ以上の態様は、酸浸出液のpHが約2~約8の範囲にある、先行段落に記載のプロセスを含む。
【0018】
1つ以上の態様は、酸浸出液のpHが約3.5~約4.5の範囲にある、先行段落に記載のプロセスを含む。
【0019】
別の態様において、(A)当該1つ以上の金属、液体、酸、及び1つ以上の他の成分を含む組み合わせから、1つ以上の金属を抽出することであって、1つ以上の金属及び1つ以上の他の成分は、1つ以上の使用済みリチウムイオン電池から得られ、抽出には、組み合わせにチオ硫酸ナトリウムを含む還元剤を添加することを含み、還元剤は、1つ以上の
金属の実質的な部分を還元するように、かつ1つ以上の他の成分に対して実質的な効果を有しないように適合され、したがって、Fe(II)及びMn(II)を含む浸出液を生成する、抽出することと、(B)浸出液に酸化剤を添加することによって、浸出液からFe(II)及びMn(II)を除去することであって、酸化剤には、過マンガン酸塩アニオン(MnO4
-)、オゾン、硝酸、硫酸、ハロゲン、過塩素酸塩、または亜塩素酸塩の1つ以上の塩類を含む、除去することと、を含む、プロセスが提供される。
【0020】
1つ以上の態様は、工程(A)において、pHが約2~約8の範囲にある、先行段落に記載のプロセスを含む。
【0021】
1つ以上の態様は、工程(A)において、pHが約3.5~約4.5の範囲にある、先行段落に記載のプロセスを含む。
【0022】
複数の実施形態が開示されているが、さらに他の実施形態が以下の詳細な説明から当業者に明らかになるであろう。明らかなように、本明細書に開示される特定の実施形態は、本明細書に提示される特許請求の範囲の趣旨及び範囲から全て逸脱することなく、様々な明らかな態様で変更することができる。したがって、図面及び詳細な説明は、本質的に例示的なものであり、限定的なものではないと見なされる。
【0023】
次に、開示される実施形態の好ましい実施形態の詳細な説明に関して、添付の図面(複数可)を参照する。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】本開示の特定の態様による、LIBを再利用するための例示的なプロセスのフローチャートを例示する。
【
図2】本開示の特定の態様による、Mn
2+/Fe
2+の酸化中の50℃未満の低いコバルト(Co)損失(50℃を超えるCo損失と比較して)を示すグラフを例示する。
【
図3】本開示の特定の態様による、異なる金属組成物を有する特定の浸出液中のMn
2+/Fe
2+の酸化過程中のpH変化を示すグラフを例示する。
【0025】
特許請求される主題は、様々な変更及び代替形態の影響を受けやすいが、図面(複数可)は、例として本明細書に詳細に記載される特定の実施形態を例示する。しかしながら、本明細書における特定の実施形態の記載は、特許請求される主題を開示される特定の形態に限定することを意図したものではなく、逆に、添付の特許請求の範囲が定義する趣旨及び範囲内にある全ての変更、同等物、及び代替物を包含することを意図したものであることを理解されたい。
【0026】
定義
本開示において使用される用語を明確に定義するために、以下の定義が提供される。特に指示がない限り、以下の定義は、本開示に適用可能である。参照により本明細書に組み込まれる任意の文書によって提供される任意の定義または使用法が、本明細書に提供される定義または使用法と矛盾する限りにおいて、本開示で提供される定義または使用法が制御する。
【0027】
本開示において、特定の態様内で、異なる特徴の組み合わせが想定され得るように、主題の特徴が説明される。本明細書に開示されるありとあらゆる態様及びありとあらゆる特徴に関して、本明細書に記載の設計、組成物、プロセス、または方法に有害な影響を及ぼさない全ての組み合わせは、特定の組み合わせの明示的な説明を伴うか、あるいは伴わないことが企図される。加えて、特に明示的に記載されない限り、本明細書に開示される任
意の態様または特徴を組み合わせて、本開示と一致する発明の設計、組成物、プロセス、または方法を説明することができる。
【0028】
本開示において、組成物及びプロセスは、多くの場合、様々な成分または工程を「含む」という観点で説明されるが、組成物及び方法は、特に指定のない限り、様々な成分または工程「から本質的になる」または「からなる」とすることもできる。例えば、本開示の主題の特定の態様と一致するプロセスは、接触工程及び抽出工程を含むことができるか、代替的に、接触工程及び抽出工程から本質的になることができる、あるいは代替的に、接触工程及び抽出工程からなることができる。
【0029】
「a」、「an」、及び「the」という用語は、特に指定されない限り、複数の代替物、例えば、少なくとも1つ、1つ以上、及び1つまたは2つ以上を含むことが意図される。例えば、「溶媒」の開示では、特に指定されない限り、1つ以上の溶媒、あるいは2つ以上の溶媒の混合物または組み合わせを含むことを意味する。
【0030】
本明細書では、「室温」または「周囲温度」という用語は、外部熱または冷却源が反応容器に直接適用されない15℃~40℃の任意の温度を記載するために使用される。したがって、「室温」及び「周囲温度」という用語は、個々の温度、ならびに外部加熱源または冷却源は反応容器に直接適用されない15℃~40℃の温度のあらゆる全ての範囲、部分範囲、及び部分範囲の組み合わせを含む。
【0031】
「大気圧」または「周囲圧力」という用語は、本明細書で使用するとき、外部圧力の変更手段が利用されない地球空気圧を説明するためのものである。一般に、極端な地球の高度で実施しない限り、「大気圧」または「周囲圧力」は、約1気圧(代替的に、約14.7psiまたは約101kPa)である。
【0032】
本明細書において、「接触する」という用語は、特に指定されない限り、成分が任意の順序で、任意の方法で、任意の時間長にわたって接触される、組み合わされる、添加される、または一緒になるシステム、組成物、プロセス、及び方法を説明するために使用される。例えば、成分は、任意の好適な技術を使用して、ブレンドまたは混合することによって組み合わせることができる。
【0033】
「約」という用語は、量、大きさ、配合、パラメータ、及び他の量及び特色が正確ではない、ならびに正確である必要はないが、許容範囲、換算係数、四捨五入、測定誤差等、及び当業者には既知である他の係数を反映して、必要に応じて大きくなるか、または小さくなることを含む近似であってもよいことを意味する。一般に、量、大きさ、配合、パラメータ、または他の量もしくは特色は、そのようであると明示的に記載されているか否かにかかわらず、「約」あるいは「近似」である。「約」という用語はまた、特定の初期混合物から生じる組成物についての異なる平衡条件に起因して異なる量も含む。「約」という用語によって修飾されているか否かにかかわらず、特許請求の範囲は、その量の同等物を含む。
【0034】
本明細書では、様々な数値範囲が開示される。任意のタイプの範囲が本明細書に開示または特許請求されるとき(例えば、「...からの範囲(ranging from・・・)」、「...からの範囲内(in the range of from・・・)」、「...からの範囲内(in a range of from...)」)、その意図は、特に指定されない限り、そのような範囲の終点、ならびにその中に含まれる任意の部分範囲及び部分範囲の組み合わせを含め、このような範囲が合理的に含むことができる各可能な数を個別に開示または特許請求することにある。例えば、本開示では、酸浸出工程におけるプロセス反応条件が、特定の態様において20℃~約110℃の範囲の温度を
含むことができることを記載している。温度が約20℃~約110℃の範囲内とすることができるという開示により、その意図は、温度がその範囲内の任意の温度とすることができ、例えば、約20℃、約25℃、約30℃、約35℃、約40℃、約45℃、約50℃、約55℃、約60℃、約65℃、約70℃、約75℃、約80℃、約85℃、約90℃、約95℃、約100℃、約105℃、または約110℃に等しいとすることができることを記載することにある。加えて、温度は、約20℃~約110℃の任意の範囲内とすることができ(例えば、温度は、約70℃~約90℃の範囲内とすることができる)、これには、約20℃~約110℃の範囲の任意の組み合わせも含まれる。同様に、本明細書に開示される他の全ての範囲は、本実施例と同様の方法で解釈されるべきである。
【0035】
本明細書に開示される実施形態では、「または」という用語によって区切られる実施形態の特定の特徴を満たすのに好適であるとして列挙される材料を提供することができる。例えば、本開示の主題の特定の特徴は、以下のように開示することができる。特徴Xは、A、B、またはCとすることができる。また、各特徴について、「特徴Xは、Aであるか、代替的にBであるか、または代替的にCである」という記載も、この記載が明示的に記載されているかどうかにかかわらずこの記載が本開示の実施形態であるように、代替的な列挙として表現することができることも企図される。
【0036】
本明細書に記載の任意の方法及び材料と同様または同等の任意の方法ならびに材料を、本明細書に記載される主題の実施または試験に使用することができるが、典型的な方法及び材料は、本明細書に記載される。
【0037】
本明細書に言及される全ての刊行物及び特許は、例えば、本明細書に記載される主題に関連して使用することができる刊行物に記載される構築物及び方法論を説明及び開示する目的で、参照により本明細書に組み込まれる。
【発明を実施するための形態】
【0038】
次に、以下に特許請求される主題の例示的な態様が開示される。明確にするために、実際の実施態様の全ての特徴が本明細書に記載されるわけではない。いずれのこのような実際の実施形態の開発において、システム関連及び事業関連の制約への準拠など、開発者の特定の目標を達成するために、実装態様によって異なることとなる実装態様固有の多数の決定が行われなければならないことが理解されるであろう。さらに、このような開発努力は、複雑で時間がかかるものであっても、本開示の利益を有する当業者にとっては日常的な作業であることが理解されるであろう。
【0039】
本開示は、一般に、使用済みリチウムイオン電池(LIB)から1つ以上の金属を抽出するための1つ以上のプロセスを対象とする。LIBは、(例えば、LIBを細断することによって)黒色塊を形成するように処理されてもよく、これにより、LIBからの1つ以上の金属のより効率的な抽出が容易になる。
【0040】
LIBは、一般に、正極活物質(CAM)を含むカソード、及び黒鉛を含むアノードを含む。CAMは、リチウム、コバルト、ニッケル、マンガン、及び前述のもののうちの2つ以上の任意の組み合わせからなる群から選択される1つ以上の金属を含む。LIBはまた、鉄、アルミニウム、銅、リン、黒鉛、プラスチック、及び前述のもののうちの2つ以上の任意の組み合わせからなる群から選択される1つ以上の他の成分を含んでもよい。したがって、一態様において、黒色塊は、CAM及び1つ以上の他の成分を含む。
【0041】
A.酸浸出
一態様において、プロセスは、1つ以上の金属、液体、酸、及び1つ以上の他の成分を含む組み合わせを調製することを含む。1つ以上の金属及び1つ以上の他の成分は、上述
の通りLIBから得られてもよい。
【0042】
図1に例示するように、組み合わせは、黒色塊を酸及び液体溶媒、例えば、酸ならびに水を含む酸性水溶液と接触させることによって調製されてもよい。黒色塊を酸と混合することにより、黒色塊中に存在し得る特定の不純物(例えば、アルミニウム及び鉄)に起因して水素ガスが発生する場合がある。したがって、発泡を回避または低減するために、黒色塊は、追加の加熱なしに、まず酸と接触することが好ましい。水素ガス形成が実質的に完了すると、泡沫/泡が見えなくなることからも明らかなように、組み合わせは、酸浸出液を形成するのに十分な条件下でチオ硫酸ナトリウム(Na
2S
2O
3)を含む還元剤と接触させる。還元剤は、水溶液であってもよい。このプロセスによって、CAMの1つ以上の金属(例えば、リチウム、コバルト、ニッケル、及び/またはマンガン)は、任意の鉄及び/またはアルミニウムとともに酸浸出液中に放出され、その一方で銅及びリンは、固体形態のままである。
【0043】
酸及び還元剤は、全ての可溶塩をそれらの溶解度限界内に保ちながら、水分消費を最小限に抑えるのに十分な量で存在する。したがって、一態様において、酸は、酸性溶液の総重量に基づいて、約0.1重量%~約55重量%の範囲の量で存在する。酸は、酸性溶液の総重量に基づいて、約20重量%~約40重量%の範囲の量で存在し得る。酸は、酸性溶液の総重量に基づいて、約25重量%の量で存在し得る。酸は、硫酸、塩酸、及び硝酸からなる群から選択される1つ以上を含む。
【0044】
一態様において、還元剤は、還元剤溶液の総重量に基づいて、約0.1重量%~約100重量%の範囲の量で存在する。還元剤は、還元剤溶液の総重量に基づいて、約5重量%~約50重量%の範囲の量で存在し得る。還元剤は、還元剤溶液の総重量に基づいて、約40重量%の量で存在し得る。
【0045】
例示的な実施例として、コバルト酸リチウム(LiCoO
2)を含む黒色塊の場合、酸浸出反応は、以下に従って進行してもよい。
【数1】
【0046】
実際には、いくつかの異なるタイプのLIBが全体的に一緒に収集及び処理されるため、結果として得られる酸浸出液は、Li2SO4、CoSO4、NiSO4、MnSO4、Na2SO4、及び前述のもののうちの2つ以上の任意の組み合わせからなる群から選択される1つ以上を含む。式1では、+5及び-2の電荷(または+6及び-1)の電荷を有する硫黄を含有するチオ硫酸アニオンは、実質的には還元剤としてのみ機能する。酸化されると、チオ硫酸アニオンは、硫酸アニオンと元素硫黄を形成する。
【0047】
この組み合わせは、例えば、組み合わせと還元剤との混合物を加熱及び/または撹拌することによって、反応を合理的な時間で完了または実質的に完了させるのに十分な条件下で還元剤と接触させることが好ましい。したがって、一態様において、プロセスは、組み合わせと還元剤との混合物の温度を約20℃~約110℃の範囲の温度に加熱または上昇させることをさらに含んでもよい。温度は、約60℃~約95℃の範囲にあってもよい。温度は、少なくとも約90℃であってもよい。
【0048】
酸浸出工程における組み合わせと還元剤との混合物の温度は、上述の通り広範囲とすることができるが、酸が硫酸(H2SO4)を含み、還元剤がチオ硫酸ナトリウム(Na2S2O3)である場合、少なくとも約90℃(例えば、90℃~約110℃の範囲内)の
温度は、このような温度が過剰な硫酸(H2SO4)とチオ硫酸ナトリウム(Na2S2O3)との間の副反応を促進すると考えられるため特に最適であり、この態様において、濾過後に元素硫黄が形成されることは実質的に予想されないことが見出された。
【0049】
一態様において、プロセスは、約0.5時間~約18時間の範囲の期間、組み合わせを還元剤と接触させることを含む。期間は、約1時間~約6時間の範囲にあってもよい。期間は、約3時間であってもよい。
【0050】
一態様において、プロセスは、大気圧程度の圧力で、組み合わせを還元剤と接触させることを含む。
【0051】
式1によって例示される上記の反応において、結果として得られる酸浸出液中に銅(Cu)またはリン(P)が検出されないか、あるいは実質的に検出されないことが見出された。上記反応において、他の微量の金属不純物も影響を受け得ると考えられ、例えば、上記反応において、酸浸出液中にスズ(Sn)またはチタン(Ti)が検出されないか、あるいは実質的に検出されないことが見出された。
【0052】
B.pH調整
また、このプロセスは、アルミニウムを含む沈殿物(例えば、アルミニウムを含む1つ以上の化合物)を形成し、酸浸出液から溶解したアルミニウム(Al3+)の大部分(すなわち、≧90%)を取り除くために、酸浸出液を酸浸出液のpHを調整するように適合された塩基と接触させることを含む。例えば、酸浸出液は、水酸化アルミニウム(Al(OH)3)を含む沈殿物を形成するのに十分な条件下で、水酸化リチウム(LiOH)を含む塩基溶液と接触させてもよい。
【0053】
一態様において、酸浸出液のpHは、約2~約8の範囲の値である。酸浸出液のpHは、約3.5~約4.5の範囲の値であってもよい。酸浸出液のpHは、約4.0の値であってもよい。上記のpHを使用することにより、約8のpHを上回ると、Co、Ni、及びMnの損失が著しくなり、約2のpHを下回ると、アルミニウム(Al)を沈殿及び除去することができないことが見出された。
【0054】
一態様において、塩基は、塩基溶液の総重量に基づいて、約1重量%~約100重量%の範囲の量で存在する。塩基は、塩基溶液の総重量に基づいて、約1重量%~約50重量%の範囲の量で存在し得る。塩基は、塩基溶液の総重量に基づいて、約10重量%の量で存在し得る。塩基は、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、及び前述のもののうちの2つ以上の任意の組み合わせからなる群から選択される1つ以上を含む。
【0055】
一態様において、pH調整工程中の酸浸出液の温度は、約20℃~約110℃の範囲の温度である。温度は、約60℃~約95℃の範囲にあってもよい。温度は、少なくとも約90℃であってもよい。
【0056】
PH調整工程中の酸浸出液の温度は、上述の通り広範囲であってもよいが、酸浸出液からのアルミニウム除去の効率、及びAl(OH)3沈殿物の濾過性を向上させることができるため、少なくとも約90℃(例えば、90℃~約110℃の範囲内)の温度が最適である。例えば、室温下でのpH調整と比較して、アルミニウム除去の効率は、90℃以上で行うときに60%から90%に向上する。加えて、周囲条件(すなわち、周囲温度及び周囲圧力)下では、水酸化アルミニウム(Al(OH)3)がゲルとして形成される傾向があり、これは加熱(≧90℃)されたときには発生しない傾向がある。
【0057】
pH調整工程の後、プロセスは、固体を酸浸出液から分離することを含んでもよい。例
えば、pH調整工程に続いて、固体廃棄物は、濾過によって酸浸出液から分離されてもよい。固体/液体分離は、酸浸出液から固体を除去し、それにより、酸浸出液は、Li/Co富化溶液となる。固体は、黒鉛、プラスチック、銅、1つ以上のアルミニウム含有化合物、1つ以上の鉄含有化合物、1つ以上のリン含有化合物、及び前述のもののうちの1つ以上の任意の組み合わせからなる群から選択される1つ以上を含んでもよい。アルミニウム含有化合物の一例としては、水酸化アルミニウム(Al(OH)3)が挙げられるが、これに限定されない。鉄含有化合物の例としては、リン酸鉄(FePO4)及び水酸化鉄(III)(Fe(OH)3)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0058】
C.鉄及びマンガンの除去
チオ硫酸ナトリウム(Na2S2O3)は、還元剤であるため、酸浸出工程からの実質的に全ての鉄は、他の金属とともにFe(II)として酸浸出液中に残存してもよく、これらの一部は、遷移金属(例えば、コバルト、ニッケル、及びマンガン)とすることができる。関与する金属イオン対の酸化還元電位は、概して以下のような傾向を示した。
Fe(III)/Fe(II)<MnO2/Mn(II)<Co(III)/Co(II)<Ni(III)/Ni(II)
【0059】
したがって、Fe(II)及びMn(II)は、酸浸出液から選択的に酸化され、沈殿され、除去することができる。したがって、このプロセスは、酸浸出液を酸化剤と接触させることを含む。好適な酸化剤の例としては、過マンガン酸塩アニオン(MnO4
-)、オゾン、硝酸、濃縮硫酸(例えば、約95重量%超)、ハロゲン、過塩素酸塩、亜塩素酸塩、及び前述のもののうちの2つ以上の任意の組み合わせの塩類からなる群から選択される1つ以上が挙げられるが、これらに限定されない。精製ならびにFe(II)及びMn(II)除去の目的のために、過マンガン酸塩の塩類が好適な選択肢である。過マンガン酸塩の塩類の例としては、過マンガン酸ナトリウム(NaMnO4)、過マンガン酸カリウム(KMnO4)、前述のもののうちの2つ以上の任意の組み合わせからなる群から選択される1つ以上が挙げられるが、これらに限定されない。
【0060】
例えば、酸浸出液から不溶性固体を分離した結果生じるLi/Co富化酸浸出液に、過マンガン酸塩の塩類の化学量の水溶液を撹拌中に添加し、それにより、濃い茶色の固体がほぼ瞬時に形成され得る。一態様において、過マンガン酸塩の塩類は、過マンガン酸塩溶液の総重量に基づいて、約1重量%~約100重量%の範囲の量で存在する。過マンガン酸塩の塩類は、過マンガン酸塩溶液の総重量に基づいて、約10重量%の量で存在し得る。
【0061】
酸化剤が過マンガン酸ナトリウム(NaMnO
4)である場合、以下の反応が代表的なものである。
【数2】
【0062】
Fe(II)が酸化されてFe(III)に変換されると、当業者には周知であるように、約3未満のpHでFe(OH)3として酸浸出液から沈殿させることができる。
【0063】
一態様において、この工程は、本方法が周囲温度よりも高い温度で行われた場合と比較してコバルトの損失を減少させるために、周囲温度で行われる。これは、Co
3+/Co
2+のより高い酸化還元電位が、50℃でより高いCo損失(20℃でのCo損失と比較して)を例示する
図2によって証明されるように、周囲温度よりも高い高温度によって克服することができるからである。この反応工程を周囲条件(すなわち、周囲温度及び周囲圧力)下で約3時間~約5時間の範囲の期間行うとき、除去効率は、同じ条件下で約1時間行う場合よりも約20%高いことが見出された。したがって、一態様において、この工程を室温で約3~約5時間の範囲の滞留時間で行い、その結果、Feを約100%除去し、Mnの約85%をMnO
2として除去することができる。
【0064】
MnO2の形成により酸が発生するため、LiOHまたはNaOHなどの塩基溶液を使用して、pHを約3.5~約4に増加させて、実質的に全てのFe(III)がMnO2とともに酸浸出液から沈殿することを確実にする助けとなり得る。
【0065】
過マンガン酸塩の消費量は、一般に、黒色塊中に入ってくるMnの量のみに基づいては予測不可能である。上述の反応に加えて、任意の残存チオ硫酸ナトリウムは、以下に従って酸化されてもよい。
【数3】
【0066】
これらの不純物(すなわち、チオ硫酸塩及び鉄イオン)が酸浸出液中に存在する場合、添加された過マンガン酸塩の量に対してプロットされたpH曲線は、
図3に例示されるように、S
2O
3
2-、Fe
2+、次いでMn
2+の配列で酸化還元反応を示す。最初の2つのイオンの酸化は、pHを増加させ、Mn
2+の酸化は、pHを低下させる。したがって、この工程は、これらのイオンの量に関係なく、過マンガン酸塩の添加時に約±0.02のpH変化によって証明されるように、pHがレベルオフになるまで監視することによって制御することができる。
【0067】
上記に続いて、リチウム(Li)、コバルト(Co)、及びニッケル(Ni)が豊富な溶液であり、1つ以上の追加の分離及び/または抽出プロセスの準備ができている酸浸出液が得られる。
【0068】
D.溶媒抽出
A~Cの工程に続いて、酸浸出液は、コバルト、ニッケル、及びリチウムを含む。コバルト及びニッケルは、物理的及び化学的特性が非常に類似しているため、分離することが難しいとされている。したがって、天然資源中にはコバルト及びニッケルが共存していることが多く、溶媒抽出は、これら2つを分離するための方法として広く受け入れられている。
【0069】
したがって、一態様において、本プロセスは、酸浸出液を、酸浸出液からコバルトを抽出して有機混合物/水性混合物を形成するように適合された溶媒と接触させることを含む。溶媒抽出プロセスには、CoをNi水溶液から分離する(すなわち、抽出する)ことと、Coとともに共抽出された不純物を除去する(すなわち、スクラビングする)ことと、Co水溶液を生成し、有機物を再生成する(すなわち、ストリッピングする)ことと、を含む。
【0070】
CYANEX(登録商標)272は、Solvay(登録商標)による市販の溶媒であり、ニッケル溶液からコバルトを抽出するために使用され得る。しかしながら、CYANEX(登録商標)272は、銅、アルミニウム、鉄、及びリンの中でCoについてはあまり選択性がない。これが酸浸出工程の開始時にチオ硫酸ナトリウムを使用する理由の1つ
である。これらの不純物(すなわち、Cu、Al、Fe、及び/またはP)が酸浸出液から除去されるか、または酸浸出液中で還元されると、酸浸出液からのCo及びNiの分離は、概してかなり簡単である。溶媒であるCYANEX(登録商標)272は、再生成及び再使用することができるため、全体的に、コバルト、ニッケル、及びリチウムの損失はほとんどなく、溶媒に関連する費用も最小限で済む。
【0071】
CYANEX(登録商標)272中の有効成分は、以下に示すように、プロトンを放出して抽出したイオンと交換するホスフィン酸(例えば、ジアルキルホスフィン酸)を含有する。
【数4】
【0072】
抽出選択性は、水性相のpHに依存するため、水酸化リチウム(LiOH)を含む塩基溶液などの塩基の連続添加は、抽出工程全体中に所望のpHを維持するために使用される。一態様において、pHは、約4.0~約5.5の範囲内にある。pHは、約5~約5.5の範囲内にあってもよい。pHは、約5であってもよい。
【0073】
一態様において、有機溶媒は、抽出中、灯油中のCYANEX(登録商標)272を含む溶液である。抽出されるコバルトの量に応じて、様々な濃度のCYANEX(登録商標)272、及び様々な体積比の有機相と水性相(O/A)を使用してもよく、これは、本開示を考慮して当業者には周知であるべきである。例えば、2重量%~5重量%のCoを含む酸浸出液について、約2~約6の範囲の初期O/Aを有する、約0.5M~約1M(すなわち、約17重量%~約35重量%)のCYANEX(登録商標)272を使用してもよい。5重量%のCo溶液は、典型的には、LCOタイプのLIBから生成される。この期間中、有機混合物/水性混合物に、LiOH及び/またはNaOHを含むアルカリ溶液などのアルカリ塩基を連続的に添加して、pHを約5~約5.5の範囲内に維持する。
【0074】
一態様において、有機水性混合物の有機相をスクラビングして、Coとともに共抽出された不純物を除去してもよい。例えば、コバルトを含有する水性混合物の有機相は、Li+、Na+、Mn2+、及びNi2+などの少量の他の金属カチオンも抽出する。このスクラビング工程では、水性混合物の有機相と接触させるために、Co溶液の総重量に基づいて、pH4~5及びO/A=1~2を有する、3重量%~6重量%のCo溶液を使用する。スクラビング溶液のCo2+は、緩やかに結合したLi+、Na+、及びNi2+、ならびにCo2+よりも有機物への親和性が高い、抽出されたMn2+の30%~80%を置換する。
【0075】
ストリッピングは、抽出の逆反応である。したがって、一態様において、Co装填有機物(すなわち、酸浸出液からコバルトを抽出し、次いで、3重量%~6重量%のCo溶液と接触させることによってスクラビングした後の有機相)を酸性溶液(例えば、H2SO4)と接触させ、プロトンは、Co2+を置換して水性相に放出する。例えば、O/A=1~8を有する1~4MH2SO4溶液は、装填Co2+をCo装填有機物から完全に放出することができる。
【0076】
E.分離工程
溶媒抽出に続いて、典型的には、2つの水性流が生成される。(1)精製されたCo富化溶液、及び(2)Ni/Li/Na溶液。
【0077】
Co富化溶液は、硫酸コバルト七水和物(CoSO4・7H2O)などのCo塩生成物
を生成するために結晶化プロセスを通じて処理されてもよく、かつ/またはCo(OH)2、CoCO3、及びCoSなどの様々な塩類として沈殿させることができる。また、Co富化溶液を処理して、例えば、塩化コバルト及び硝酸コバルトなどの他のCo含有生成物を生成してもよい。
【0078】
ニッケルをNi/Li/Na溶液から分離して、Li/Na溶液を生成してもよい。1つのアプローチとしては、Ni/Li/Na溶液のpHを約10~約11の範囲で増加させることであり、実質的に全てのNiを水酸化ニッケル(Ni(OH)2)としてNi/Li/Na溶液から沈殿させることができる。作製することができる他のNi生成物としては、硫化ニッケル、シュウ酸ニッケル、炭酸ニッケル、リン酸ニッケル、及び前述のもののうちの2つ以上の任意の組み合わせからなる群から選択される1つ以上が挙げられる。したがって、生成されたLi/Na溶液は、次に、1つ以上のリチウム含有化合物、例えば、水酸化リチウム、炭酸リチウム、リン酸リチウム、硫酸リチウム、塩化リチウム、硝酸リチウム、及び前述のもののうちの2つ以上の任意の組み合わせからなる群から選択される1つ以上を作製するように処理することができる。当業者が理解するように、プロセス条件は、特定のリチウム化合物の溶解度に応じて変化し得る。
【0079】
図1では、リチウム含有生成物を水酸化リチウム一水和物として例示する。この場合、LiOH・H
2O結晶化工程からの水酸化リチウム濃縮液は、本明細書に記載されるプロセスの全てのpH調整ニーズに消費されるアルカリ溶液として、プロセス内で再利用することができる。
【0080】
F.代替案
代替的に、残存金属(すなわち、Fe及びAlなどの他の不純物を有するCo、Ni、Mn)は、工程A及びBに続いて、酸浸出溶液のpHを約10を超えるpH、またはより好ましくは約11を超えるpHに増加させることによって、完全に沈殿させることができる。このようにpHを増加させることにより、Co/Ni濃縮物固体は、その後のCo/Ni分離のための中間生成物として形成され、精製されたリチウム流は、水酸化リチウム、炭酸リチウム、またはリン酸リチウムなどの様々なLi生成物を生成する。
【実施例】
【0081】
本開示のより良好な理解を容易にするために、以下の実施形態の実施例が提供される。以下の実施例は、添付の特許請求の範囲を限定するか、または定義するために断じて読まれるべきものではない。
【0082】
実施例1.チオ硫酸ナトリウムで酸浸出を行う。
20gの黒色塊試料を60gの25%H
2SO
4溶液と混合し、そこに10gの40%Na
2S
2O
3溶液を添加した。真空濾過を行う前に、この混合物を90℃で3時間加熱した。得られた酸浸出液は、以下の表1に示すイオンを含有した。
【表1】
【0083】
実施例2.実施例1との比較のために、H
2O
2を用いて酸浸出を行う。
実施例1で使用したのと同じ黒色塊試料100gを300gの35%H
2SO
4溶液と混合し、そこに30.5gの50%H
2O
2溶液を添加した。真空濾過を行う前に、この混合物を90℃で3時間加熱した。得られた酸浸出液は、表2に列挙されるイオンを含有した。
【表2】
【0084】
実施例3.Al除去のためのpH調整。
実施例1に記載されるのと同じ条件下で生成された酸浸出液またはスラリーは、pH値2.0を有した。酸浸出液に、90℃の温度で、10%のLiOH溶液を添加して、pHを3.52の値に増加させた。90%のAlを酸浸出液から除去し、酸浸出工程から生成された他の固体廃棄物とともに濾過した。
【0085】
実施例4.Co/Ni濃縮物の生成。
10%のLiOH溶液を、pHが11の値に達するまで、上記の方法で2つの黒色塊材料から調製された2つの酸浸出液試料に添加した。したがって、生成されたCo/Ni濃縮物固体は、表3に示す組成物を有する。
【表3】
【0086】
実施例5.鉄及びマンガンの除去。
酸浸出液試料100.00gに40%NaMnO
4溶液を添加し、生成されたスラリーのpHを監視して記録したところ、pHが減少し始め、最終的には追加の過マンガン酸塩を加えても変化を示さなかった。合計5.15gの40%NaMnO
4を消費した。周囲条件下で3時間撹拌した後、得られたスラリーのpHは、1.86で安定化した。真空濾過を実行する前に、3.36gの10%LiOHを添加して、pHを3.51に増加させた。Fe/Mn除去前後の酸浸出液の組成物を表4に示す。
【表4】
【0087】
実施例6.溶媒抽出
酸浸出、pH調整、Fe/Mn除去工程から生成された酸浸出溶液を溶媒抽出に使用する。まず、このような酸浸出溶液96gを0.5MのCYANEX(登録商標)272溶液(O/A=5)386gで30分間激しく撹拌する。同時に、2.4重量%のLiOH溶液を酸浸出溶液とCYANEX(登録商標)272溶液の混合物中にゆっくりと注入して、全時間をとおしてpHを5.3に維持した。Coは100%、Mnは96%、及びAlは100%抽出された。抽出が完了すると、Co装填有機相を水性相から分離した。次に、6%Co溶液(pH=4)をCo装填有機物(O/A=1)で30分間撹拌し、Li及びNa、ならびに77重量%のMnなどの共抽出金属をスクラビングした。スクラビングした有機相を再び水性相から分離した。最後に、H
2SO
4の4M溶液を上記の工程から得られた有機相(O/A=8)で30分間撹拌した。最後のCo流の組成物を表5に示す。
【表5】
【0088】
主題は、多数の態様及び特定の実施例を参照して上述される。上記の詳細な説明を踏まえると、多くの変形例が当業者に示唆されるであろう。そのような明らかな変形は全て、添付の特許請求の完全な意図される範囲内にある。本明細書に開示される主題の他の態様は、以下を含むことができるが、これらに限定されない(態様は、「含む」として記載されるが、代替的に、「から本質的になる」、または「からなる」とすることができる)。
【0089】
態様1.1つ以上の金属、液体、酸、及び1つ以上の他の成分を含む組み合わせから、1つ以上の金属を抽出するためのプロセスであって、
(A)組み合わせに還元剤を添加することであって、還元剤が、1つ以上の金属の実質的な部分を還元するように、かつ1つ以上の他の成分に対して実質的な効果を有しないように適合される、添加することと、
(B)アルミニウムを含む沈殿物を形成するように、組み合わせのpHを調整することと、を含む、プロセス。
【0090】
態様2.還元剤が、チオ硫酸ナトリウムを含む、態様1に定義されるプロセス。
【0091】
態様3.pHが、約2~約8の範囲にある、態様1~2及び6のいずれか1項に定義されるプロセス。
【0092】
態様4.pHが、約3.5~約4.5の範囲にある、態様1~3及び6のいずれか1項に定義されるプロセス。
【0093】
態様5.プロセスであって、
(A)当該1つ以上の金属、液体、酸、及び1つ以上の他の成分を含む組み合わせから、1つ以上の金属を抽出することであって、1つ以上の金属及び1つ以上の他の成分が、1つ以上の使用済みリチウムイオン電池から得られ、抽出には、組み合わせにチオ硫酸ナトリウムを含む還元剤を添加することを含み、還元剤が、1つ以上の金属の実質的な部分を還元するように、かつ1つ以上の他の成分に対して実質的な効果を有しないように適合され、したがって、Fe(II)及びMn(II)を含む浸出液を生成する、抽出することと、
(B)浸出液に酸化剤を添加することによって、浸出液からFe(II)及びMn(II)を除去することであって、酸化剤には、1つ以上の過マンガン酸塩アニオン(MnO4
-)、オゾン、硝酸、硫酸、ハロゲン、過塩素酸塩、または亜塩素酸塩の1つ以上の塩類を含む、除去することと、を含む、プロセス。
【0094】
態様6.プロセスであって、
(A)1つ以上のリチウムイオン電池から塊を調製することであって、塊が、リチウム、コバルト、ニッケル、マンガン、鉄、アルミニウム、及び前述のもののうちの2つ以上の任意の組み合わせからなる群から選択される1つ以上を含む、調製することと、
(B)塊を酸と接触させて、組み合わせを形成することと、
(C)酸浸出液を形成するように、組み合わせを還元剤と接触させることであって、還元剤が、チオ硫酸ナトリウムを含む、接触させることと、
(D)アルミニウムを含む沈殿物を形成するように、酸浸出液のpHを調整することと、
(E)酸浸出液から、リチウム、コバルト、ニッケル、マンガン、鉄、アルミニウム、及び前述のもののうちの2つ以上の任意の組み合わせからなる群から選択される1つ以上を分離及び/または抽出することと、を含む、プロセス。
【0095】
態様7.工程(D)において、pHが、約2~約8の範囲にある、態様6に定義されるプロセス。
【0096】
態様8.工程(D)において、酸浸出液のpHが、約3.5~約4.5の範囲にある、態様6~7のいずれか1項に定義されるプロセス。
【0097】
態様9.アルミニウムを含む1つ以上の化合物が、濾過によって酸浸出液から抽出される、態様6~8のいずれか1項に定義されるプロセス。
【0098】
態様10.酸浸出液を酸化剤と接触させることによって、酸浸出液からFe(II)及びMn(II)を除去することをさらに含む、態様6~9のいずれか1項に定義されるプロセス。
【0099】
態様11.酸化剤が、過マンガン酸塩アニオン(MnO4
-)、オゾン、硝酸、硫酸、ハロゲン、過塩素酸塩、亜塩素酸塩、及び前述のもののうちの2つ以上の任意の組み合わせの塩類からなる群から選択される1つ以上を含む、態様6~10のいずれか1項に定義されるプロセス。
【0100】
態様12.リチウムが、水酸化リチウム、炭酸リチウム、リン酸リチウム、硫酸リチウム、塩化リチウム、硝酸リチウム、及び前述のもののうちの2つ以上の任意の組み合わせからなる群から選択される1つ以上として酸浸出液から抽出される、態様6~11のいずれか1項に定義されるプロセス。
【0101】
態様13.コバルトが、硫酸コバルト、塩化コバルト、硝酸コバルト、及び前述のもののうちの2つ以上の任意の組み合わせからなる群から選択されたものとして酸浸出液から抽出される、態様6~12のいずれか1項に定義されるプロセス。