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特許7483705レドックスフロー電池用電解液の状態管理
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-07
(45)【発行日】2024-05-15
(54)【発明の名称】レドックスフロー電池用電解液の状態管理
(51)【国際特許分類】
   H01M 8/18 20060101AFI20240508BHJP
   H01M 8/04 20160101ALI20240508BHJP
【FI】
H01M8/18
H01M8/04 Z
【請求項の数】 20
(21)【出願番号】P 2021528344
(86)(22)【出願日】2019-11-14
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-01-24
(86)【国際出願番号】 US2019061550
(87)【国際公開番号】W WO2020106549
(87)【国際公開日】2020-05-28
【審査請求日】2022-11-08
(31)【優先権主張番号】62/770,027
(32)【優先日】2018-11-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】519297300
【氏名又は名称】イーエスエス テック インコーポレーテッド
【氏名又は名称原語表記】ESS Tech,Inc.
【住所又は居所原語表記】26440 SW Parkway Avenue,Wilsonville,Oregon 97070 United States of America
(74)【代理人】
【識別番号】100137095
【弁理士】
【氏名又は名称】江部 武史
(74)【代理人】
【識別番号】100091627
【弁理士】
【氏名又は名称】朝比 一夫
(72)【発明者】
【氏名】ソン, ヤン
(72)【発明者】
【氏名】マクドナルド, ティモシー ジェイ.
(72)【発明者】
【氏名】ビハ, アレクサンドリア
【審査官】川口 由紀子
(56)【参考文献】
【文献】特開昭54-162130(JP,A)
【文献】特開平01-012466(JP,A)
【文献】特表2018-536968(JP,A)
【文献】特開昭60-070672(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 8/18
H01M 8/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フロー電池のリバランス反応器を処理するための方法であって、
前記フロー電池の電解液と、前記フロー電池で生成された水素ガスとを前記リバランス反応器に流す工程と、
前記電解液を流しながら、前記リバランス反応器の触媒床に負の電位を印加する工程と、
前記触媒床で、第二鉄の還元速度が閾値速度未満に低下することを検出する工程と、
前記第二鉄の還元速度の低下に応答して、前記触媒床にわたって前記電解液の代わりに脱イオン水を流す工程と、
前記リバランス反応器の動作時間の閾値間隔が経過した後、前記脱イオン水に前記触媒床を浸漬するための要求を示す工程と、
前記要求により、前記脱イオン水に前記触媒床を浸漬する工程と、
を含むことを特徴とするフロー電池のリバランス反応器を処理するための方法。
【請求項2】
前記触媒床に前記負の電位を印加する工程は、導電性ワイヤを前記触媒床に結合する工程と、電気デバイスから前記触媒床に電圧を印加する工程とを含む請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記触媒床に前記負の電位を印加する工程は、前記触媒床から電解液アニオンを忌避する負の電荷を前記触媒床に発生させる工程と、前記リバランス反応器の動作中、前記負の電位を閾値電位より正の電位側に高く維持する工程とを含む請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記負の電荷を前記触媒床に発生させる工程は、前記フロー電池が充電されている間、前記触媒床に前記負の電荷を維持する工程を含む請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記触媒床にわたって前記脱イオン水を流す工程は、前記リバランス反応器への前記電解液および前記水素ガスの流れを停止させる工程を含み、
前記リバランス反応器への前記電解液の流れを停止させる工程は、電池セルと前記リバランス反応器との間の流れを制御する第1のバルブセットを閉じる工程を含む請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記触媒床にわたって前記脱イオン水を流す工程は、脱イオン水リザーバと前記リバランス反応器との間の流れを制御する第2のバルブセットを開く工程を含み、
前記脱イオン水リザーバは、前記リバランス反応器に結合されている請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記触媒床を浸漬する工程は、前記第1のバルブセットを閉じることによって前記リバランス反応器への前記電解液の流れを停止させる工程と、前記リバランス反応器から前記触媒床を除去する工程と、所定の容量の前記脱イオン水で所定時間加熱された脱イオン水に前記触媒床を浸漬する工程とを含む請求項5に記載の方法。
【請求項8】
前記触媒床にわたって前記脱イオン水を流す工程は、前記触媒床を洗い流
前記脱イオン水を流す工程は、前記リバランス反応器から出る前記脱イオン水の抵抗率が抵抗率の閾値に達したとき終了する請求項1に記載の方法。
【請求項9】
レドックスフロー電池のセルと、前記レドックスフロー電池の電解液チャンバと、前記セルおよび前記電解液チャンバに結合されたリバランス反応器とを有するレドックスフロー電池システムであって、
前記リバランス反応器は、触媒床を有し、
前記レドックスフロー電池システムは、
前記レドックスフロー電池の前記セルを通って循環する電解液および前記レドックスフロー電池の前記電解液チャンバに貯蔵された水素ガスと、
前記レドックスフロー電池の充電中に前記触媒床に印加される負の電位と、
非一時的メモリに記憶されたコンピュータ可読命令で構成されたコントローラと、を含み、
前記電解液および前記水素ガスの両方は、前記セルに結合された前記リバランス反応器に流され、
前記命令は、
前記レドックスフロー電池の充電中に前記触媒床に負の電位を印加し、
前記リバランス反応器における第二鉄の還元速度が第2の閾値を下回ったことを検出することで、前記触媒床を脱イオン水で洗い流し、および、
前記レドックスフロー電池の動作時間の間隔が経過したとき、前記脱イオン水に前記触媒床を浸漬する要求を示すために、前記コントローラによって実行可能であることを特徴とするレドックスフロー電池システム。
【請求項10】
前記電解液は、第二鉄および第一鉄の鉄錯体、非酸化還元活性塩、および酸を含む請求項9に記載のレドックスフロー電池システム。
【請求項11】
前記水素ガスは、前記電解液からプロトンを消費するプロセスにおいて、前記セルの負極で生成される請求項9に記載のレドックスフロー電池システム。
【請求項12】
前記リバランス反応器の前記触媒床は、ゼリーロール構造を有する請求項9に記載のレドックスフロー電池システム。
【請求項13】
前記触媒床に印加される前記負の電位は、前記触媒床で負の電荷を生成するように構成され、
前記負の電位は、前記レドックスフロー電池の前記充電中に連続的に印加される請求項9に記載のレドックスフロー電池システム。
【請求項14】
前記触媒床は、前記脱イオン水が前記リバランス反応器を通って流されるとき、前記リバランス反応器内に収容されている間、前記脱イオン水で洗い流される請求項9に記載のレドックスフロー電池システム。
【請求項15】
前記触媒床は、前記レドックスフロー電池システムが動作を停止し、前記触媒床が前記リバランス反応器から除去されたとき、前記脱イオン水に浸漬される請求項9に記載のレドックスフロー電池システム。
【請求項16】
フロー電池のリバランス反応器を処理するための方法であって、
前記フロー電池の電解液と、前記フロー電池で生成された水素ガスとを前記リバランス反応器に流す工程と、
前記リバランス反応器の鉄還元速度の閾値速度未満への低下を検出する工程と、
前記鉄還元速度の低下に応答して、前記リバランス反応器への前記電解液および前記水素ガスの流れを停止し、前記リバランス反応器を通して脱イオン水を流す工程と、を含むことを特徴とするフロー電池のリバランス反応器を処理するための方法。
【請求項17】
前記リバランス反応器の前記鉄還元速度の低下を検出する工程は、前記リバランス反応器の性能を低下させる閾値速度未満である前記鉄還元速度を測定する工程を含む請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記脱イオン水を流す工程は、リザーバから前記リバランス反応器に前記脱イオン水を導く工程を含む請求項16に記載の方法。
【請求項19】
前記リバランス反応器は、触媒床を有し、
前記フロー電池の動作中に、前記リバランス反応器の前記触媒床に負の電荷を維持する工程をさらに含む請求項16に記載の方法。
【請求項20】
前記電解液を前記リバランス反応器に流す工程は、前記フロー電池の電池セルから前記リバランス反応器に前記電解液を送る工程を含み、
前記リバランス反応器は、前記電解液のpHおよび第一鉄の濃度を回復するように構成される請求項16に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【関連出願】
【0001】
本出願は、2018年11月20日に出願された、「レドックスフロー電池用電解液の状態管理」と題された米国特許仮出願第62/770,027号の優先権を主張する。その出願の全ての内容は、参照として本明細書に援用される。
【技術分野】
【0002】
本発明は、一般に、レドックスフロー電池システムを動作させるためのシステムに関する。
【背景技術】
【0003】
性能劣化は、電池システムにおける重大な障害である。これは、例えば、正極または負極における副反応、内部短絡、イオン移動、および触媒被毒を含む多くの要因から生じる。鉄レドックスフロー電池のようなハイブリッドフロー電池では、電池電解液に生じる望ましくない反応が容量劣化につながり、結果として高額な代償につながる。例えば、負極における水素ガスの発生並びにプロトン(H)イオンおよび第二鉄(Fe3+)イオンによる鉄腐食の発生は、電解液の電荷のアンバランスを引き起こし、それによって電池容量を低減させている。さらに、上記の少なくとも1つの副反応は、水素の発生をもたらす。一方、負極で発生する鉄の腐食は、電解液の不安定性を引き起こし、電池の有用な寿命をさらに低下させる。
【0004】
電池の性能を維持するために、電解液の充填状態(SOC)は、補助的なリバランス反応器(rebalancing reactor)で生じる支持電気化学反応によってリバランスされる。一例では、負極で生成された水素ガスは、触媒に向けられる。そして、水素ガスと触媒表面との間の接触は、水素ガスを化学的に酸化させ、プロトンを電解液に戻す。電解液を維持するための電解液の低phは、電解液のSOCのバランスと同様に維持される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、本発明者らは、このようなシステムで潜在的な問題を認識してきた。一例として、電解液中のアニオンの存在は、触媒性能を低下させる形で触媒と相互作用する。アニオンは、触媒表面上に吸着して、カチオン拡散二重層の形成を誘導するアニオン性錯体を形成する。正の二重層は、電気活性種が触媒上の反応部位に到達するのを抑制する。それにより、触媒を被毒化させ、リバランス反応器の効率を低下させる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
一例では、上記の問題は、フロー電池のリバランス反応器を処理するための方法によって対処される。この方法は、フロー電池の電解液と、フロー電池で生成された水素ガスとをリバランス反応器に流す工程と、フロー電池を充電しながらリバランス反応器の触媒床に負の電位を印加する工程と、リバランス反応器で閾値速度より低い第二鉄イオン還元速度(reduction rate)の減少を検出する工程と、リバランス反応器への電解液及び水素ガスの流れを停止し、次いで、第二鉄イオン還元の減少に応答してリバランス反応器に脱イオン水を流す工程と、動作時間の閾値間隔が経過した後、脱イオン水中に触媒床を浸漬する要求を示す工程と、を含む。このようにして、触媒劣化の可能性が低減され、フロー電池の性能は維持される。
【発明の効果】
【0007】
一例として、触媒は、リバランス反応器の動作の間に触媒の表面からアニオン性錯体を除去するために、高温で水に浸漬される。新鮮な触媒表面を露出させ、触媒をより高い容量で実行することができる。追加的にまたは代替的に、リバランス反応器の動作中に触媒表面に負の電位を印加する。それによって、アニオンを寄せ付けず、触媒上へのアニオン吸着の可能性を減少させる。
【0008】
上記の概要は、詳細な説明においてさらに説明される概念の選択を簡略化して導入するために提供されることを理解されたい。特許請求の範囲の発明の重要なまたは本質的な特徴を識別することは意図されておらず、その範囲は、詳細な説明に続く特許請求の範囲によって一意に定義される。さらに、請求項に記載された発明は、詳細な説明の一部または上記の欠点を解決する実装に限定されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、フロー電池システムの概略例を示す図である。
【0010】
図2図2は、フロー電池システムに結合されるリバランス反応器の概略例を示す図である。
【0011】
図3A図3Aは、基板、触媒、およびスペーサの間に挟まれた層を含む、リバランス反応器で使用され得る触媒床の一例を示す図である。
【0012】
図3B図3Bは、ゼリーロール(jelly roll)構造に巻かれた触媒床の端面を示す図である。
【0013】
図3C図3Cは、ゼリーロール構造に巻かれた触媒床の斜視側面を示す図である。
【0014】
図4図4は、リバランス反応器の触媒で生じる反応プロセスの第1の例を示す図である。
【0015】
図5図5は、リバランス反応器の触媒で生じる反応プロセスの第2の例を示す図である。
【0016】
図6図6は、リバランス反応器の性能に対するイオン濃度の影響を示すグラフを示す図である。
【0017】
図7図7は、リバランス反応器の性能を評価するための試験装置の一例の概略図を示す。
【0018】
図8図8は、第1の処理プロセスの第1の変数に対する触媒性能の変化のデータセットを示すグラフである。
【0019】
図9図9は、第1の処理プロセスの第2の変数に対する触媒性能の変化のデータセットを示すグラフである。
【0020】
図10図10は、リバランス反応器の動作中に適用される第2の処理プロセスでの触媒性能および第2プロセスのない触媒性能の比較を示すグラフを示す。
【0021】
図11図11は、第1の処理プロセスおよび第2の処理プロセスの組み合わせを使用して、リバランス反応器における触媒性能を維持するための方法の一例を示す。
【0022】
図12図12は、図11の方法の続きである。
【0023】
図13図13は、触媒床を浸漬するために使用される脱イオン水の量に対する触媒床の回復率を示すグラフである。
【0024】
図2~3Cは、概略的に示されている。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下の説明は、レドックスフロー電池用のリバランス反応器のためのシステムおよび方法に関する。レドックスフロー電池は、電子の流れを駆動する鉄の酸化還元反応に依存する全鉄フロー電池(IFB)である。IFBを含むレドックスフロー電池システムの一例は、図1の概略図に示される。これは、IFBシステムにおける複数の電池コンポーネントおよび複数の電池コンポーネントの配置を示す。複数のシステムコンポーネントは、IFB内の電解液の充電状態およびphを維持するためのリバランス反応器を含む。IFBの負および正の両方の電解液について、リバランス反応器は、図2の概略図に示すように、触媒表面で水素ガスを酸化するように構成される。その水素ガスは、IFBの負極で副反応によって生成される。触媒は、図3に示すように、触媒床に組み込まれ、基板とスペーサとの間に挟まれた層を形成する。触媒床は、触媒の充填密度を高めるために、ゼリーロール構造に巻かれる。ゼリーロールは、図3B~3Cに示すように、らせん状の構成で触媒を配置する。水素酸化は、リバランス反応器の炭素基板上の触媒表面で促進される。これは、図4のリバランス反応器で起こる第1の反応スキームに示されている。しかしながら、図5に示されるように、水素酸化反応は、炭素電極で起こる第2の反応スキームにおいて、炭素基板の触媒反応部位でアニオン層を形成することによって阻害される。電解液中のイオンの全体的な濃度は、図5に示すプロセスが原因でリバランス反応器の性能を低下させる。リバランス反応器の触媒によって促進される鉄還元速度に対するイオン濃度の影響は、図6にプロットされる。触媒および触媒床を処理することによって、リバランス反応器の性能は改善される。触媒床のための第1の処理プロセスおよび第2の処理プロセスは、図7の概略図に示される試験装置において評価される。触媒性能の低下は、触媒床を水に浸漬する工程を含む第1の処理プロセスによって緩和される。触媒床の異なる浸漬時間の結果は、浸漬時間とともに、リバランス反応器における鉄の還元速度(rate of iron reduction)をプロットしたグラフで図8に示される。触媒床を浸漬するために使用される水の量はまた、図9のグラフに示されるように、触媒性能に影響を及ぼす。図9は、異なる種類の触媒に対する水の量の影響を比較する。触媒耐久性の低下はまた、リバランスシステムの動作中に触媒床(例えば、基板上に支持された触媒)に電位(potential)を印加する工程を含む第2の処理プロセスによって対処される。印加された電位を有する触媒床での鉄の還元速度は、図10に示されるグラフにおける鉄還元速度のベースラインと比較される。リバランス反応器の触媒性能を維持するための方法は、図11~12に示される。図11に示す方法は、図12に続けて示されている。これは、3つの技術の組み合わせを組み込む方法である。この方法は、触媒床に負の電位を印加する工程と、触媒床をDI水で洗い流す工程(flushing)と、リバランス反応器の所望の触媒活性を長くするために、触媒床をDI水に浸漬する工程と、を含む。劣化した触媒床を浸漬するために使用されるDI水の量の影響は、触媒性能の回復率に関して図13に示される。
【0026】
図1~5は、様々なコンポーネントの相対的な位置決めを伴う例示的な構成を示す。互いに直接接触または直接結合が示されると、そのようなエレメントは、少なくとも1の例において、それぞれ直接接触または直接結合と称される。同様に、互いに隣接または連続するエレメントは、少なくとも一例では、互いに隣接し連続している。一例として、互いに面共有接触して配置されるコンポーネントは、面共有接触と称される。別の例としては、間にスペースのみを有して、他のコンポーネントを有さない相互に間隔をおいて配置されたエレメントは、少なくとも1つの例では、そのようなものと称される。さらに別の例として、互いに上下に、互いに反対側に、または互いに左右に示されたエレメントは、互いに対してそのように称される。さらに、図に示されるように、少なくとも1つの例では、エレメントの最上部の要素または点は、コンポーネントの「上部」と称され、エレメントの最底エレメントまたは点は、コンポーネントの「底部」と称される。本明細書で使用されるように、上部/底部、上方/下方、上/下は、図の垂直軸に関してであり、互いに対して図のエレメントの位置決めを説明するために使用される。このように、他のエレメントの上に示されたエレメントは、一例では、他のエレメントの上に垂直に配置される。さらに別の例として、図に示されるエレメントの形状は、それらの形状(例えば、円形、直線、平面、湾曲、丸み付け、面取り、角度付けなど)を有するものと称される。さらに、互いに交差して示されるエレメントは、少なくとも1つの例において、交差するエレメントと称されてもよく、または互いに交差していてもよい。さらに、別のエレメント内に示されるエレメントまたは別のエレメント外に示されるエレメントは、一例では、このようなものと称される。
【0027】
ハイブリッドレドックスフロー電池は、電極上に固体層として1つまたは複数の電気活性物質の堆積によって特徴付けられるレドックスフロー電池である。ハイブリッドレドックスフロー電池は、例えば、電池充電プロセスを通して、電気化学反応によって、基板上に固体としてめっきする化学物質を含む。電池放電の間、めっきされた種は、電気化学反応によってイオン化し、電解液に可溶性となる。ハイブリッド電池システムでは、レドックス電池の充電容量(例えば、保存されたエネルギー量)は、バッテリー充電中にめっきされた金属の量によって制限され、めっきシステムの効率、並びにめっきに利用可能な体積及び利用可能な表面積に依存する。
【0028】
レドックスフロー電池システムでは、図1の負極26などの負極をめっき電極と呼び、図1の正極28などの正極をレドックス電極と呼ぶ。電池のめっき側(例えば、図1の負極区画(compartment)20内の負の電解液を、めっき電解液と呼び、電池のレドックス側の正の電解液(例えば、図1の正極区画22)をレドックス電解液と呼ぶ。
【0029】
アノードは、電気活性材料が電子を失う電極を指し、カソードは、電気活性材料が電子を獲得する電極を指す。電池の充電中、正の電解液は、負極で電子を獲得する。したがって、負極は、電気化学反応のカソードである。放電の間、正極は、電子を失う。したがって、負極は、反応のアノードである。したがって、充電の間、負の電解液および負極は、それぞれ、電気化学反応の陰極液およびカソードと呼ばれる。一方、正の電解液および正極は、それぞれ、電気化学反応の陽極液およびアノードと呼ばれる。また、放電の間、負の電解液および負極は、それぞれ、電気化学反応の陽極液およびアノードと呼ばれる。一方、正の電解液および正極は、それぞれ、電気化学反応の陰極液およびカソードと呼ばれる。簡略化のために、本明細書では、正および負の用語は、レドックス電池フローシステムにおける電極、電解液、および電極区画を指すために使用される。
【0030】
ハイブリッドレドックスフロー電池の一例は、全鉄レドックスフロー電池(IFB)である。それにおいて、電解液は、鉄塩(例えば、FeCl、FeClなど)の形態で鉄イオンを含む。負極は、金属鉄を含む。例えば、負極では、第一鉄イオンFe2+は、電池の充電中、2つの電子を受け取り、負極上に鉄金属として析出する。鉄金属Feは、電池の放電中、2つの電子を失い、Fe2+として再溶解する。正極では、Fe2+は、充電中、電子を失って、第二鉄イオンFe3+を形成する。Fe3+は、放電中、電子を得て、Fe2+を形成する。電気化学反応は、下記式(1)および(2)に要約される。ここで、正反応(左から右)は、バッテリー充電中の電気化学反応を示す。一方、逆反応(左から右)は、バッテリー放電中の電気化学反応を示す。
Fe2++2e⇔Fe -0.44V (負極) (1)
2Fe2+⇔2Fe3++2e +0.77V (正極) (2)
【0031】
上述したように、全鉄レドックスフロー電池(IFB)で使用される負の電解液は、充電中、Fe2+が負極から2つの電子を受容して、Feを形成し、基板上に析出することができるように、十分な量のFe2+を提供する。放電の間、析出されたFeは、2つの電子を失う。それにより、Fe2+にイオン化し、電解液に再び溶解する。上記反応の平衡電位は、-0.44Vである。従って、この反応は、所望のシステムのための負の端子を提供する。IFBの正側では、電解液は、充電中、Fe2+を提供する。それは、電子を失って、Fe3+に酸化する。放電の間、電解液によって提供されたFe3+は、電極によって提供される電子を受け取ることによってFe2+となる。この反応の平衡電位は、+0.77Vである。これにより、所望のシステムのための正端子を生成する。
【0032】
IFBは、非再生電解液を利用する他の電池タイプとは対照的に、その電解液を充電および再充電する能力を提供する。充電は、図1の負端子40および正端子42のような端子を介して、電極に電流を印加することによって達成される。負極は、負端子を介して電圧源の負側に結合される。その結果、電子は、正極を介して負の電解液に送られる(例えば、Fe2+図1の正極区画22内の正の電解液中のFe3+に酸化されるように)。負極(例えば、めっき電極)に供給された電子は、負の電解液中でFe2+を還元して、めっき基板にFeを形成する。それにより、それを負極上にめっきすることができる。
【0033】
放電は、Feが酸化のために負の電解液に利用可能なままであり、Fe3+が還元のために正の電解液中で利用可能なままである間、維持される。一例として、Fe3+の利用可能性は、IFBセル(例えば、図1のセル18)の正極区画側への正の電解液の濃度または容量を増加させることによって維持される。それにより、追加のFe3+イオンを外部電源(例えば、外部の正電解液チャンバまたは正電解液チャンバ)を介して提供する。より一般的には、放電中のFeの利用可能性は、IFBシステムにおける問題である。放電に利用可能なFeは、負極基板の表面積および体積、ならびにめっき効率に比例する。充電容量は、負極区画内のFe2+の利用可能性に依存する。一例として、Fe2+の利用可能性は、IFBセルの負極区画側への負の電解液の濃度または容量を増大させるために、外部電源(例えば、外部の負電解液チャンバ)を介して追加のFe2+イオンを供給することによって維持される。
【0034】
IFBにおいて、正の電解液は、第一鉄イオン、第二鉄イオン、第二鉄錯体、またはそれらの任意の組み合わせを含む。一方、負の電解液は、IFBシステムの充電状態に応じて、第一鉄イオンまたは第一鉄錯体を含む。前述のように、負の電解液と正の電解液との両方に鉄イオンを利用することで、電池セルの両側に同じ電解液種を利用することができる。これは、電解液の相互汚染を減少させ、IFBシステムの効率を高める。それにより、他のレドックスフロー電池システムと比較して、電解液の交換をより少なくすることができる。
【0035】
IFBにおける効率の損失は、セパレータ(例えば、図1のセパレータ24)(例えば、イオン交換膜バリア、マイクロポーラス膜など)を通る電解液のクロスオーバーに起因する。例えば、正の電解液中の第二鉄イオンは、第二鉄イオンの濃度勾配と、セパレータを横切る電気泳動力とによって、負の電解液に向かって移動する。続いて、膜バリアを超えて、負極区画に浸透する第二鉄イオンは、クーロン効率の損失をもたらす。低pHレドックス側(例えば、より酸性の正極区画)から高pHめっき側(例えば、より酸性の低い負極区画)に移動する第二鉄イオンは、Fe(OH)の析出につながる。Fe(OH)の析出は、セパレータを劣化させ、永久電池性能および効率損失を引き起こす。例えば、Fe(OH)析出は、イオン交換膜の有機官能基を化学的に汚染するか、またはイオン交換膜の小さな微小孔を物理的に閉塞する。いずれの場合にも、Fe(OH)析出のために、膜のオーム抵抗が経時的に上昇し、電池性能が低下する。析出物は、電池を酸で洗浄することによって除去されるが、定期的なメンテナンスとダウンタイムは、商業的な電池用途には不利である。さらに、洗浄は、電解液の規則的な調製に依存する。これにより、プロセスコストおよび煩雑さを加えている。電解液のpH変化に応答して、正の電解液および負の電解液に特定の有機酸を添加することは、電池の充放電サイクル中に沈殿物の形成を緩和する。
【0036】
追加のクーロン効率損失は、H(例えば、プロトン)の還元およびその後のH(例えば、水素ガス)の形成と、水素ガスを形成するためにめっきされた鉄金属電極に供給された電子を有する負極区画内のプロトンの反応と、によって引き起こされる。
【0037】
IFB電解液(例えば、FeCl、FeCl、FeSO、Fe(SO等)は、容易に入手可能であり、低コストで製造される。IFB電解液は、より高い再生値を提供する。なぜなら、同じ電解液が負の電解液および正の電解液のために使用されるからであり、結果として、他のシステムと比較して、二次汚染の問題を減少させるからである。さらに、その電子構成により、鉄は、負極基板上でのめっき中に、一般的に均一な固体構造に固化する。ハイブリッドレドックス電池に一般的に使用される亜鉛および他の金属の場合、固体の樹枝状構造をめっき中に形成する。IFBシステムの安定した電極形態は、他のレドックスフロー電池と比較して、電池の効率を高める。さらに、鉄レドックスフロー電池は、有毒な原料の使用を減少させ、他のレドックスフロー電池の電解液と比較して、比較的中性のpHで操作することができる。従って、IFBシステムは、製造中の現在の他の全ての進んだレドックスフロー電池システムと比較して、環境上の危険を低減する。
【0038】
IFBの充電中、例えば、第一鉄イオンFe2+は、負極で、金属鉄Feに還元される(酸化還元反応で2つの電子を受け取る)。同時に、正極では、第一鉄イオンFe2+は、第二鉄イオンFe3+に酸化される(電子の損失)。同時に、負極において、第一鉄の還元反応は、プロトンHの還元と競合する。2つのプロトンは、それぞれ、水素ガスHを形成するために単一の電子を受容し、第一鉄イオンFe2+を生成するために鉄金属の腐食を形成する。水素プロトンの還元による水素ガスの生成と、鉄金属の腐食は、下記式(3)及び(4)にそれぞれ示される。
【0039】
その結果、負極区画内の負の電解液は、3~6のpH範囲で安定化する傾向がある。正極区画では、第二鉄イオンFe3+は、第一鉄イオンFe2+の酸解離定数(pKa)よりもはるかに低い酸解離定数(pKa)を有する。従って、より多くの第二鉄イオンが第一鉄イオンに酸化されるので、正の電解液は、2未満のpH(特に、1に近いpH)で安定化する傾向がある。
【0040】
したがって、(正極区画で)正の電解液が安定した第1の範囲に正の電解液のpHを維持することと、(負極区画で)負の電解液が安定した第2の範囲に負の電解液のpHを維持することとは、サイクル性能を低下させ、レドックスフロー電池の効率を向上させる。例えば、IFBにおける負の電解液を3~4のpHに維持することは、鉄の腐食反応を減少させ、鉄のめっき効率を高める。一方、正の電解液のpHを2未満(特に、1未満)に維持することは、第二鉄/第一鉄イオンの酸化還元反応を促進し、水酸化第二鉄の生成を減少させる。
【0041】
式(3)および(4)によって示されるように、水素の発生は、レドックスフロー電池システムにおいて電解液の不均衡(アンバランス)を引き起こす。例えば、充電中に、正極から負極に流れる電子(例えば、第一鉄イオン酸化の結果として)は、式(3)によって水素発生により消費される。それによって、式(1)によって与えられるめっきに利用可能な電子を減少させる。低減しためっきにより、電池の充電容量が低減する。さらに、減少した量の鉄金属が電池の放電のために利用可能であるので、鉄金属の腐食は、電池容量をさらに減少させる。これにより、正極区画と負極区画との間の電荷の不均衡な電解液状態は、反応(3)、(4)による水素製造の結果として発生する。さらに、鉄金属の腐食およびプロトンの還元に起因する水素ガスの生成は、プロトンを消費する。これは、負の電解液のpH上昇をもたらす。上述したように、pHの上昇は、レドックス電池フローシステム内の電解液を不安定化する。それにより、さらなる電池容量および効率損失につながる。
【0042】
レドックスフロー電池システムにおける水素ガス生成によって引き起こされる電解液のリバランス問題に対処するアプローチは、正の電解液中のアンバランスなイオンを、副反応から生成される水素で還元する工程を含む。一例として、IFBシステムでは、第二鉄イオンを含む正の電解液は、式5に従って水素ガスによって還元される。
【0043】
IFBシステムの例では、第二鉄イオンと水素ガスとを反応させることにより、水素ガスをプロトンに戻すことができる。それにより、負極区画及び正極区画において、実質的に一定のpHを維持させている。また、第二鉄イオンを第一鉄イオンに変換することにより、正極区画内の正の電解液の充電状態を負極区画内の負の電解液の充電状態とリバランスさせる。式5は、IFBシステムにおいて電解液をリバランスさせるために記載されているが、水素ガスを用いて電解液を還元する方法は、式6によって一般化される。
式6において、MX+は、イオン電荷を有する正の電解液Mを表し、MZ+は、イオン電荷zを有する還元された電解液Mを表す。
【0044】
グラファイトを含む触媒または担持された貴金属(例えば、炭素担持Pt、Rd、Ru、またはそれらの合金)触媒を含む触媒は、レドックスフロー電池システムにおいて実際に利用するために、式(5)によって記載される反応速度を増大させる。一例として、レドックスフロー電池システムにおいて生成される水素ガスは、触媒表面に向けられる。そして、水素ガスおよび電解液(第二鉄イオンを含む)は、触媒表面で流体的に接触される。水素ガスは、第二鉄イオンを第一鉄イオンに化学的に還元し、正の水素イオン(例えば、プロトン)を生成する。
【0045】
図1に戻ると、一般的なレドックスフロー電池システム10の概略図が示されている。いくつかの例では、レドックスフロー電池システム10は、上述したIFBシステムであってもよい。レドックスフロー電池システム10は、マルチチャンバ電解液貯蔵タンク110に流体的に接続されたレドックスフロー電池セル18を含む。レドックスフロー電池セル18は、一般に、負極区画20と、セパレータ24と、正極区画22とを含む。セパレータ24は、特定のイオンの伝導を可能にしながら、正の電解液と負の電解液とのバルク混合を防止する電気絶縁性のイオン伝導性バリアを含む。例えば、セパレータ24は、イオン交換膜および/または微多孔膜を含む。負極区画20は、負極と、電気活性物質を含む負の電解液とを含む。正極区画22は、正極28と、電気活性物質を含む正の電解液とを含む。いくつかの例では、複数のレドックスフロー電池セル18は、レドックスフロー電池システムにおいてより高い電圧または電流を生成するために、直列または並列に組み合わせられる。さらに、負の電解液ポンプ30および正の電解液ポンプ32は、図1に示されている。それらは、フロー電池システム10を通して、電解液溶液を送るために使用される。電解液は、セルの外部の1つまたは複数のタンクに保存される。また、電解液は、電池の負極区画20側と正極区画22側とを通して、負の電解液ポンプ30および正の電解液ポンプ32によってそれぞれ送られる。
【0046】
図1に示すように、レドックスフロー電池セル18は、さらに、負の電池端子40と、正の電池端子42とを含む。充電電流が電池端子40、42に印加されると、正の電解液は、正極28で酸化され(例えば、1つまたは複数の電子を失う)、負の電解液は、負極26で還元される(例えば、1つまたは複数の電子を獲得する)。電池の放電の間、逆酸化還元反応が電極上で起こる。すなわち、正の電解液は、正極28で還元され(例えば、1または複数の電子を獲得する)、負の電解液は、負極26で酸化される(例えば、1つまたは複数の電子を失う)。電池の両端子間の電位差は、正極区画22および負極区画20における電気化学的酸化還元反応によって維持され、反応が維持されている間に導体を通して電流を誘導する。レドックス電池によって貯蔵されるエネルギーの量は、放電用に電解液中で利用可能な電気活性材料の量によって制限される。これは、電解液の総容量および電気活性材料の溶解度に依存している。
【0047】
フロー電池システム10は、一体化されたマルチチャンバ電解液貯蔵タンク110をさらに含む。マルチチャンバ貯蔵タンク110は、隔壁98によって分割されている。隔壁98は、正および負の両方の電解液が単一のタンク内に含まれるように、貯蔵タンク内に複数のチャンバを形成する。負の電解液チャンバ50は、電気活性材料を含む負の電解液を保存する。正の電解液チャンバ52は、電気活性材料を含む正の電解液を保存する。隔壁98は、負の電解液チャンバ50と正の電解液チャンバ52との間に所望の容量比をもたらすように、マルチチャンバ貯蔵タンク110内に配置される。一例では、隔壁98は、負の酸化還元反応と正の酸化還元反応との間の化学量論比に応じて、負の電解液チャンバと正の電解液チャンバとの容量比を設定するように配置される。図1は、貯蔵タンク110の充填高さ112をさらに示す。これは、各タンク区画内の液面レベルを示す。
【0048】
図1はまた、負の電解液チャンバ50の充填高さ112の上方に配置されたガスヘッドスペース90と、正の電解液チャンバ52の充填高さ112の上方に位置されたスヘッドスペース92とを示す。ガスヘッドスペース92は、(例えば、プロトンの還元および腐食の副反応による)レドックスフロー電池の作動によって生成された水素ガスを貯蔵するために利用され、レドックスフロー電池セル18からの電解液を戻しながらマルチチャンバ貯蔵タンク110に搬送される。水素ガスは、マルチチャンバ貯蔵タンク110内の気液界面(例えば、充填高さ112)で自発的に分離される。それにより、レドックスフロー電池システムの一部としての追加の気液セパレータを有することを回避している。電解液から分離されると、水素ガスは、ガスヘッドスペース90、92を充填する。このように、貯蔵された水素ガスは、マルチチャンバ電解液貯蔵タンク110から他のガスをパージすることを図る。それによって、電解液種の酸化を低減するための不活性ガスブランケットとして作用する。これにより、レドックスフロー電池容量の損失の減少を図る。このようにして、一体化されたマルチチャンバ貯蔵タンク110を利用することは、従来のレドックスフロー電池システムに共通した別個の負および正の電解液貯蔵タンク、水素貯蔵タンク、および気液セパレータを有することができる。それによって、システム設計を単純化し、システムの物理的な設置面積を減少させ、システムコストを低減することができる。
【0049】
図1はまた、流出孔96を示す。これは、ガスヘッドスペース90と92との間の隔壁98に開口を形成し、2つのチャンバ間のガス圧を均等化する手段を提供する。流出孔96は、充填高さ112の上方の閾値高さに配置される。流出孔96の性能により、電池クロスオーバーの場合に、正および負の電解液チャンバの各々における電解液を自己バランスさせることができる。全鉄レドックスフロー電池システムの場合、同じ電解液(Fe2+)は、負および正の電極区画20と22の両方で使用される。そのため、負と正の電解液チャンバ50と52との間で電解液があふれ出ると、全体的なシステム効率を低下させる。しかし、全体の電解液組成、バッテリーモジュールの性能、およびバッテリーモジュールの容量は維持される。フランジ継手(flange fitting)は、漏れなく、連続的に加圧された状態を維持するために、マルチチャンバ貯蔵タンク110への入口およびマルチチャンバ貯蔵タンク110からの出口用に、全ての配管接続に利用される。マルチチャンバ貯蔵タンクは、負および正の電解液チャンバからの少なくとも1つの出口と、負および正の電解液チャンバへの少なくとも1つの入口とを含む。さらに、1つまたは複数の出口接続部は、水素ガスをリバランス反応器80および82に導くために、ガスヘッドスペース90および92から提供される。
【0050】
図1には示されていないが、一体化されたマルチチャンバ電解液貯蔵タンク110は、負の電解液チャンバ50と正の電解液チャンバ52のそれぞれに熱的に結合された1つまたは複数のヒータを含む。別の例では、負の電解液チャンバおよび正の電解液チャンバのうちの1つのみが、1つまたは複数のヒータを含む。正の電解液チャンバのみが1つまたは複数のヒータを含む場合には、負の電解液は、パワーモジュールの電池セルで発生した熱を負の電解液に伝達することにより加熱される。このようにして、パワーモジュールの電池セルを加熱し、負の電解液の温度調節を容易にする。1つまたは複数のヒータは、コントローラ88によって作動して、負の電解液チャンバ50および正の電解液チャンバの温度を独立してまたは一緒に調整する。例えば、電解液の温度が閾値温度未満に低下したことに応答して、コントローラは、電解液への熱流束が増加するように、1つまたは複数のヒータに供給される電力を増加させる。電解液の温度は、センサ60および62を含むマルチチャンバ電解液貯蔵タンク110に搭載された1つまたは複数の温度センサによって示される。
【0051】
一例として、1つまたは複数のヒータは、コイル型ヒータまたは電解液流体に浸漬された他の浸漬ヒータ、または表面マントルタイプのヒータを含む。表面マントルタイプのヒータは、その中の流体を加熱するために負および正の電解液チャンバの壁を介して熱を伝導的に伝達する。本開示の範囲から逸脱することなく、他の公知のタイプのタンクヒータを使用してもよい。さらに、コントローラ88は、固体充填閾値レベルを下回って低下する液体レベルに応答して、負および正の電解液チャンバ内の1つまたは複数のヒータを停止させる。別の方法では、コントローラ88は、固体充填閾値レベルを超えて増加する液体レベルに応答してのみ、負および正の電解液チャンバ内の1つまたは複数のヒータを作動させる。このようにして、正および/または負の電解液チャンバ内に十分な液体を必要とせずに、1つまたは複数のヒータの駆動を回避することができる。それによって、ヒータの過熱または焼損のリスクを低減する。
【0052】
さらに、図1に示されているように、マルチチャンバ貯蔵タンク110に典型的に貯蔵された電解液溶液は、フロー電池システム10全体に、負および正の電解液ポンプ30および32によって送られる。負の電解液チャンバ50内に保存された電解液は、負の電解液ポンプ30によって、負極区画20側に送られる。そして、正の電解液チャンバ52に保存された電解液は、正の電解液ポンプ32によって、電池の正極区画22側に送られる。
【0053】
2つの電解液リバランス反応器80および82、IFBのリバランスシステム85のコンポーネントは、レドックスフロー電池システム10において、それぞれ、電池の負側および正側の電解液の再循環流路と直列または並列に接続される。リバランスシステム85は、電池の負側および正側で電解液の再循環流路と直列に接続された1つまたは複数のリバランス反応器を含む。他のリバランス反応器は、冗長性(redundancy)(例えば、リバランス反応器は、電池を破壊し、動作をリバランスすることなく使用可能にする)のために、および、増大したリバランス容量のために、並列に接続される。
【0054】
一例では、電解液リバランス反応器80および82は、正極区画20および負極区画22から正の電解液チャンバ50および負の電解液チャンバ52の戻り流路に配置されている。リバランスシステム85は、本明細書に記載されるように、副反応やイオンクロスオーバーなどによって生じるレドックスフロー電池システム10における電解液の電荷(charge)の不均衡をリバランスさせる働きをする。一例では、電解液リバランス反応器80および82は、トリクルベッド反応器を含む。水素ガスおよび電解液は、電解液リバランス反応を実施するために充填層中の触媒表面で接触される。あるいは、電解液リバランス反応器80および82は、図3A~3Cに示され、以下でさらに説明するように、ゼリーロールとして構成された触媒床を有する。さらに、触媒表面の活性を維持するための方法は、図7図13に関してさらに以下に提供される。他の例では、電解液リバランス反応器80および82は、フロースルー型反応器を含む。この反応器は、水素ガスと電解液液体とを接触させることができ、充填された触媒床の不在下でリバランス反応を実施することができる。
【0055】
レドックスフロー電池システムの動作中、センサおよびプローブは、電解液の化学的特性(例えば、電解液のpH、濃度、充電状態など)をモニタし、制御する。例えば、図1に示すように、センサ62および60は、それぞれ、正の電解液チャンバ52および負の電解液チャンバ50において正の電解液および負の電解液の状態をモニタするように配置される。別の例として、図1にも示されているセンサ72および70は、それぞれ、正極区画22および負極区画20における正の電解液および負の電解液の状態をモニタする。一例では、センサ72および70は、レドックスフロー電池セル18のセパレータ24の負側および正側の圧力を示す信号をコントローラ88に送信する圧力センサを含む。セパレータ24の負極区画20および正極区画22における圧力は、それぞれ、負および正の電解液の入口流および出口流を制御することによって調節される。例えば、コントローラは、それに流体的に結合された真空ポンプのポンプ速度を増大させ、負の電解液ポンプ30のポンプ速度を低下させる1つまたは複数によって、および、負極区画からの出口流を増加させるために背圧流量調整器を絞ることによって、負極区画20内の圧力を低下させる。
【0056】
同様に、コントローラは、正の電解液ポンプ32のポンプ速度を増大させる1つまたは複数によって、および負極区画から出口流を減少させるために背圧流量調整器を絞ることによって、正極区画22の圧力を上昇させる。背圧流量調整器は、オリフィスおよびバルブ等を含む。例えば、コントローラ88は、負極区画20からより高い出口流を誘導するために、バルブを位置決めするための信号をより開いた位置に送る。それによって、負極区画の圧力を減少させる。正極区画の圧力を増加させ、負極区画内の圧力を低下させることにより、セパレータ24を横切る交差圧力(正から負)の増大を図る。正の電解液ポンプ32のポンプ速度を増大させ、正極区画22の出口で背圧を増大させることによって、正の電解液の流れを増大させることによって、交差圧力を増大させることは、交差圧力を増大させる他の方法よりも望ましくない場合がある。なぜなら、ポンプ寄生損失が増大するからである。
【0057】
センサは、電解液の化学的特性および他の特性(例えば、温度、流体圧力、電流、電圧など)をモニタするために、レドックスフロー電池システム全体の他の位置に配置されてもよい。例えば、センサは、外部の酸タンク(図示せず)内に配置されて、外部の酸タンクの酸の容量またはpHをモニタする。外部の酸タンクからの酸は、電解液中の沈殿物の生成を低減するために、外部ポンプ(図示せず)によって、レドックスフロー電池システム10に供給される。レドックスフロー電池システム10に他の添加剤を供給するために、追加の外部タンクおよびセンサを設置してもよい。例えば、フィールド水和システムの温度、圧力、導電率、およびレベルセンサを含む様々なセンサは、レドックスフロー電池システム10を乾燥状態で水和させるときに、コントローラ88に信号を送信する。さらに、コントローラ88は、レドックスフロー電池システム10の水和中に、フィールド水和システムのアクチュエータ(例えば、バルブおよびポンプ)に信号を送る。センサ情報は、コントローラ88に送信される。コントローラ88は、例えば、負および正の電解液ポンプ30および32を順次作動させて、セル18を通る電解液の流れを制御するか、または他の制御機能を実行する。このようにして、コントローラ88は、センサおよびプローブの1つまたは組み合わせに応答する。レドックスフロー電池セル18は、レドックスフロー電池システム用のパワーモジュールの複数のレドックスフロー電池セルスタックのうちの1つの中に配置される。レドックスフロー電池セルスタック内のレドックスフロー電池セル18の各々は、レドックスフロー電池セルスタック内の複数の他のレドックスフロー電池セルと直列および/または並列に電気的に接続される。さらに、レドックスフロー電池セルスタックの各々は、パワーモジュール内の複数の他のレドックスフロー電池セルスタックと直列および/または並列に電気的に接続される。このようにして、レドックスフロー電池セルスタックは、電力モジュールから電力を供給するために電気的に結合される。
【0058】
レドックスフロー電池システム10は、さらに、水素ガスの供給源を含む。一例では、水素ガスの供給源は、別個の専用水素ガス貯蔵タンクを含む。図1の例では、水素ガスは、一体化されたマルチチャンバ電解液貯蔵タンク110に貯蔵され、そのタンクから供給される。一体化されたマルチチャンバ電解液貯蔵タンク110は、正の電解液チャンバ52および負の電解液チャンバ50に追加の水素ガスを供給する。一体化されたマルチチャンバ電解液貯蔵タンク110は、電解液リバランス反応器80および82の入口に追加の水素ガスを交互に供給する。一例として、質量流量計または他の流量制御装置(コントローラ88によって制御される)は、一体化されたマルチチャンバ電解液貯蔵タンク110からの水素ガスの流れを調節する。
【0059】
一体化されたマルチチャンバ電解液貯蔵タンク110は、レドックスフロー電池システム10で生成された水素ガスを補充する。例えば、ガス漏れがレドックスフロー電池システム10で検出されたとき、または、還元反応速度(reduction redaction rate)が低水素分圧で低すぎるとき、水素ガスは、正の電解液および負の電解液中の電気活性種の充電状態をリバランスさせるために、一体化されたマルチチャンバ電解液貯蔵タンク110から供給される。一例として、コントローラ88は、測定されたpHの変化に応答して、または、電解液または電気活性種の測定された充電状態の変化に応答して、一体化されたマルチチャンバ電解液貯蔵タンク110から水素ガスを供給する。例えば、負の電解液50または負極区画20のpHの上昇は、水素がレドックスフロー電池システム10から漏れていること、および/または、反応速度(reaction rate)が利用可能な水素分圧で遅すぎることを示す。pH上昇に応答して、コントローラ88は、一体化されたマルチチャンバ電解液貯蔵タンク110からレドックスフロー電池システム10への水素ガスの供給を増大させる。さらなる例として、コントローラ88は、pH変化に応答して、一体化されたマルチチャンバ電解液貯蔵タンク110から水素ガスを供給する。pHは、第1の閾値pHを超えて増大するか、または第2の閾値pHを超えて減少する。
【0060】
IFBの場合、コントローラ88は、第二鉄イオンの還元率(rate of reduction)およびプロトンの生成率を増大させるために追加の水素を供給する。それにより、正の電解液のpHを低下させる。さらに、負の電解液のpHは、正の電解液から負の電解液へと交差する第二鉄イオンの水素還元によって、または、プロトン濃度勾配および電気泳動力のために負の電解液と交差する正側で生成されたプロトンによって低減される。このようにして、負の電解液のpHを安定領域内に維持する。一方、Fe(OH)として(正極室からの交差する)第二鉄イオンの析出のリスクを低減する。
【0061】
酸素還元電位(ORP)メータまたは光センサのような他のセンサによって検出された電解液のpHの変化に応答してまたは電解液の充電状態の変化に応答して、一体化されたマルチチャンバ電解液貯蔵タンク110からの水素ガスの供給率(速度)を制御するための他の制御スキームを実施する。さらに、コントローラ88の動作を引き起こす充電状態またはpHの変化は、時間の期間にわたって測定された変化率または変化に基づく。この変化率の期間は、レドックスフロー電池システム10の時定数に基づいて予め設定または調整される。例えば、再循環速度が高い場合、時間を短くする。そして、局所的な濃度変化(例えば、副反応またはガス漏れによる)は、その時定数が小さいので、迅速に測定される。上述したように、リバランスシステム(例えば、図1のリバランスシステム85)は、1つまたは複数のリバランス反応器(例えば、図1のリバランス反応器80および82)を含む。それにより、IFB電池の電解液のpHおよび安定性を維持するために使用される電気化学セルを形成する。リバランス反応器で発生する反応は、式(7)および式(8)によって以下に記載される。
【0062】
電気化学セルはまた、図1のリバランス反応器80であるアノードと、図1のリバランス反応器82であるカソードとを含むリバランスセルと呼ばれる。
【0063】
リバランスセル200の概略図は、図2に示される。IFB電池の負極から発生した水素(H)は、フローフィールドを通ってリバランスセル200のアノード側210に流れる。水素酸化触媒202によって水素分子から電子が奪われる。これにより、反応211によって示されるように、プロトン及び電子を生成する。水素酸化触媒202は、導電性担体(例えば、カーボンなど)上に担持された少量(例えば、0.02mg/cmから>0.2mg/cm)の貴金属(例えば、Pt、Pd、Ru、Rdまたはそれらの合金)を含む。第二鉄イオン(Fe3+)を含むIFB電解液は、アノード側210から膜分離器206の反対側に配置されリバランスセル200のカソード側220を通って流れる。カソード側220では、炭素電極204上の第二鉄イオンによって電子が受け取られる。それによって、反応221によって示されるように、第一鉄イオンを生成する。アノードとして作用する水素酸化触媒202は、アノード側210とカソード側220との間のイオンの選択的な交換を可能にする膜分離器206によって、カソードとして作用する炭素電極204から分離される。
【0064】
リバランスセル200は、水素酸化触媒202が埋め込まれた触媒床208に結合された導電性ワイヤ230を含む。導電性ワイヤ230は、チタンのような金属で形成され、ワイヤが触媒床内に固定されるように触媒床内に挿入される。導電性ワイヤ230は、例えば、触媒床208の表面積にわたって導電性ワイヤ230の範囲を最大にするために、波形パターンで織られる。電圧は、電気エネルギー貯蔵デバイス232(例えば、電池)から導電性ワイヤ230によって伝導される。水素酸化触媒202の表面に電位を印加するための導電性ワイヤ230の使用の更なる詳細は、図10~11を参照して以下に説明される。
【0065】
反応211および221の結果として生じるギブス自由エネルギーは負である。従って、この反応は自発的に起こり、理論的には電気的効率が高い。これらの電気化学セルから放出されるエネルギーは、全IFBシステム(例えば、電子部品、冷却ファン、および/または指示灯)の補助部品に電力を供給するために使用される。したがって、システム全体の効率を向上させる。電気化学セルへの電気的負荷の印加によって生成されるエネルギー(すなわち、電圧)は、システム電力バスに保存される。
【0066】
リバランスセル(例えば、図2のリバランスセル200)は、式(3)によるプロトンの損失を相殺し、電解液のpHを安定化させるために、リバランス反応器(例えば、図1のリバランス反応器80および82)に含まれる。それによって、式(4)の鉄腐食反応を抑制している。一例では、リバランスセルは、トリクルベッド反応器内の充填触媒床ハウジングとして適用される。水素は、図1の負の電解液チャンバ50および正の電解液チャンバ52のガスヘッドスペース90および92に対して、電解液貯蔵チャンバのガスヘッドスペースから、電解液貯蔵タンクに結合された1つまたは複数の細流床反応器に向けられる。別の例では、図3A~3Cに示されるように、リバランスセルは、ゼリーロール構造に構成される。これは、水素ガスを酸化するためにリバランス反応器の効率を高める。
【0067】
図3A~3Cにおいて、触媒床300の一例が示される。一例として、触媒床300は、図2に示すリバランスセル200を含む。触媒床300の単一層の断面は、図3Aのプロファイル図に示されており、明確にするために平面配向で配置されている。触媒層300は、基板層304を触媒層306で被覆して形成される。基板層304の一方の側または両側に触媒層306が被覆されている。基板層304の両側を被覆することは、基板層304の片側を被覆するのに比べて、触媒床300の酸化還元反応速度を増大させる。
【0068】
基板層304は、可撓性および屈曲可能な基材(例えば、炭素布、炭素紙、または別の種類の膜)を含む。基板層304は、多孔性または非多孔性であってもよく、および/または水素ガス、水素イオン、および電解液(例えば、図1の正の電解液チャンバ52からの正の電解液および負の電解液チャンバ50からの負の電解液)に対して透過性であってもよい。基板層304は、水素ガス、水素イオン、および正の電解液と負の電解液の両方を含む電解液に対して、さらに不活性であってもよい。基板層304の厚さ308は、基板層304を通る電解液種の拡散または対流輸送を実質的に妨げない程度に十分に小さい。例えば、基板層304が0.5mmより薄い場合には、反応速度は、基板層304が0.5mmより厚い場合と比較して、より高い。
【0069】
基板層304は、導電性、半導電性、または非導電性である。導電性基板層は、非導電性基板層と比較して、より高い反応速度をもたらす。例えば、炭素基板(例えば、炭素布、炭素紙など)は、電子の移動を助け、第二鉄/第一鉄酸化還元反応のための触媒表面を提供する。基材層304に利用される膜材料のいくつかの例には、ポリプロピレン、ポリオレフィン、バーフルオロアルコキシ(PFA)、ポリスルホンアミド(PSA)などが含まれる。さらに、基板層304は、薄いセラミックシートまたは薄い金属シートを含む。提供された基板層304は、第二鉄イオンと反応しない。
【0070】
触媒層306は、白金、パラジウム、ルテニウム、それらの合金のような1つまたは複数の異なる種類の触媒材料を含む。基板層304上の触媒材料の重量パーセントは、0.2wt%~0.5wt%である。触媒層306に被覆された基材層304は、多孔性であり、水素ガス、水素イオン、および電解液(正の電解液および負の電解液を含む)に対して透過性である。電解液中の水素ガスおよび金属イオンが触媒層306で流体的に接触すると、触媒層306は、酸化還元反応を触媒する。それによって、水素ガスは水素イオンに酸化され、金属イオンは還元される(例えば、図2の反応221および221)。基板層304は、触媒層表面で水素ガスと金属イオンとの酸化還元反応速度を増大させるために、触媒層306で全体的に被覆される。
【0071】
触媒層300は、触媒層上に配置されたスペーシング層310をさらに含む。図3A~3Cに示すように、スペーシング層310は、基板層304よりも薄い。しかしながら、他の例では、基板層304は、スペーシング層310よりも薄くてもよい。より薄いスペーシング層は、触媒床を横切るより高い圧力降下でより高い触媒床反応速度を生じる。一方、より厚いスペーシング層は、触媒床を横切るより低い圧力降下でより低い反応速度を生じる。いくつかの例では、スペーシング層310は、厚さ1mm未満である。スペーシング層310は、メッシュ(例えば、プラスチックまたは他のタイプの非導電性メッシュなど)を含む。例えば、スペーシング層は、ポリプロピレン、ポリオレフィン、ポリエチレン、ポリスチレン、または他のポリマーメッシュを含む。それらは、安定な第二鉄/第一鉄イオン溶液(例えば、第二鉄/第一鉄イオン溶液と反応しないまたはそれらの存在下で分解しない)である。他の例では、スペーシング層は、連続気泡プラスチックフォームまたはスポンジ材料を含む。
【0072】
図2の導電性ワイヤ230に類似する導電性ワイヤ330は、触媒層306を通して織られる。その結果、導電性ワイヤ330は、触媒材料に近接しており、例えば、触媒部位と接触しているまたは近くにある。導電性ワイヤ330は、触媒層306内のz-x平面に渡って直線状、波状、ジグザグ状のレイアウト等を有し、電気エネルギー貯蔵装置332(以下、電池332)に結合するために、触媒床300から延びている。電池332から供給される電圧は、導電性ワイヤ330によって触媒層306に伝送される。
【0073】
触媒床300は、図3B~3Cに示すように、ゼリーロール構造の触媒床320を形成するように螺旋状に巻かれる。基準軸301のセットは、y軸、x軸、およびz軸を示し、図中で比較のために提供される。x-z平面に沿って、ゼリーロール構造の触媒層320の端部を示す図3Bに示すように、螺旋状に巻かれたゼリーロール構造の触媒層320の各連続基材層304および触媒層306は、スペーシング層310によって分離される。スペーシング層310は、触媒層306を完全に覆う。このようにして、各触媒層306は、基材層304が触媒層306によって両側に被覆されるとき、スペーシング層310によって隣接する触媒層から完全に分離される。図3Cのゼリーロール構造の触媒床の斜視側面図に示すように、スペーシング層310は、破線で示すように、ゼリーロール構造の触媒床320の軸方向の寸法全体にわたって、例えばy軸に沿って延在する。
【0074】
図3Cに示すように、ゼリーロール構造に巻かれると、ゼリーロール構造の触媒床320は、円筒形状を有する。ゼリーロール構造の触媒床320の円筒状のロール構成により、ゼリーロール構造の触媒床320を単一のユニットとして除去することができる。それにより、リバランス反応器のメンテナンスの時間およびコストを低減する。電解液は、ゼリーロール構造の触媒床320を通って流れる。その流れは、充填された触媒床と比較して、長時間にわたって触媒床320と接触する。それにより、水素の酸化および鉄の還元を促進するゼリーロール構造の触媒床320の効率を増加させる。
【0075】
導電性ワイヤ330は、触媒層306中に組み込まれる。その結果、導電性ワイヤ330の端部および電池332に直接結合する導電性ワイヤ330の端部は、図3Cに示すようなy軸に沿って、軸方向に、ゼリーロール構造の触媒床320から延びる。ゼリーロール構造の触媒床320は、外側ハウジング内に挿入される。その外側ハウジングは、ゼリーロール構造の触媒床320の形状に適合するように円筒形である。それにより、円筒形の外側ハウジングの回転中心軸に沿って、ハウジングの内外を摺動する。y軸に対するゼリーロール構造の触媒床320の頂部または底部からの導電性ワイヤ330の延長により、導電性ワイヤ330は、ゼリーロール構造の触媒床320の外側ハウジングの頂部または底部を通ってバッテリー332に容易に接続されることができる。
【0076】
上述したように、リバランス反応器で使用される触媒床の触媒は、白金(Pt)のような金属である。触媒層306の単一の触媒部位は、簡潔にするために図4および5に示される。しかし、触媒床が複数の触媒部位を含むことが理解される。図4の第1のスキーム400に示されるように、Ptサイト402は、炭素基板404で1/2水素ガス分子からの電子の移動を触媒して、水素ガスをプロトンに酸化する。第1の反応スキーム400は、図3B~3Cのゼリーロール構造の触媒床320の触媒層306に沿ったPtサイトで生じる。水素分子から得られた電子は、鉄カチオンを含有する電解液と接触して、炭素基材(例えば、図3A~3Cの基材層304)で第二鉄を第一鉄に還元するために使用される。
【0077】
第1のスキーム400は、電解液が酸化還元活性種(例えば、第二鉄および第一鉄の鉄の錯体)を独占的に含むとき、リバランス反応器が実行するように構成される意図されたプロセスを表す。しかしながら、電解液は、溶解した塩化カリウム塩から支持非酸化還元活性種(例えば、カリウムカチオンおよび塩化物アニオン)を含む。支持電解液種は、イオン強度を増加させ、従って電解液の導電率を高める。しかしながら、支持種の存在は、Ptサイトの活性を低下させる。
【0078】
図5に示す第2のスキーム500は、支持電解液種が存在するときにリバランス反応器内で起こる。それにより、第1のスキーム400の実施と競合し、その実施を阻害または部分的に阻害している。第2のスキーム500では、電解液中の塩化物アニオンは、炭素基板504上に支持されたPtサイト502上に吸着する。十分な塩化物アニオンは、Ptサイトの周囲に負に帯電した層を形成するために、Ptサイトを取り囲む。負に帯電した層は、電解液中のカチオン506(例えばカリウム陽イオン)を引き付け、負に帯電した層の周囲に正に帯電した層を形成する。吸着された塩化物アニオンおよび周囲のカリウムカチオンは、それぞれ、表面電荷層および拡散層を形成する。その結果、リバランス反応の意図された反応物間(例えば、水素ガスおよび鉄カチオンとPtサイトとの間)の相互作用を阻害または部分的に阻害する電荷二重拡散層が得られる。したがって、電荷二重拡散層の存在は、リバランス反応器の意図された反応物と触媒との間の接触を少なくとも部分的に阻害することによって、触媒床の性能を低下させる。
【0079】
リバランス反応器の触媒床の性能は、電解液中の支持イオン種の濃度によって直接影響される。支持イオンの濃度が低い(例えば、閾値濃度未満)場合、Ptサイトの周りの電荷二重拡散層の拡散正帯電層は、主として、第二鉄および第一鉄イオンから形成される。これにより、鉄カチオンは、比較的まばらな塩化物表面電荷層を通ってPtサイトに拡散することができる。しかしながら、イオン濃度を増加させることは、二重拡散層を形成するために、鉄カチオンと競合する支持カチオン(例えば、カリウム)の増加をもたらす。二重拡散層が主としてカリウム陽イオンによって形成される場合、第二鉄および第一鉄イオンは、正に帯電したカリウムの境界層だけでなく、塩化物アニオンの緻密層によってPtサイトから遮断される。また、二重拡散層は、Ptサイトへの水素ガス分子の拡散を阻害する。こうして、水素ガスの酸化と第二鉄の還元の両方を阻害する。
【0080】
リバランス反応器上のイオン濃度の影響は、図6のグラフ600に示される。第二鉄から第一鉄への鉄還元速度(これは、リバランス反応器の性能の尺度である)は、グラフ600のy軸に沿ってプロットされている。モル/リットル(M)における電解液の全イオン濃度は、x軸に沿ってプロットされている。グラフ600の第1のプロット602は、第1のPt触媒のためのイオン濃度による還元速度の変化を示す。第2のプロット604は、第2のPt触媒のためのイオン濃度による還元速度の変化を示す。第1のPt触媒および第2のPt触媒は、同様に使用され、異なる炭素基材によって区別される。第2のPt触媒は、第1のPt触媒よりも疎水性の炭素担体上に担持される。第1のプロット602および第2のプロット604の両方とも、イオン濃度が増加するにつれて、第二鉄の還元速度の減少を示す。全イオン濃度の合計に対する依存性は、より疎水性の炭素担持体上に担持された第2のPt触媒よりも高い。
【0081】
荷電拡散二重層の形成に起因するIFBのリバランス反応器における触媒床の性能劣化は、触媒表面におけるアニオンの吸着を相殺する状態で、触媒床を処理することによって緩和される。例えば、このような処理は、触媒サイトから吸着されたアニオンを除去すること、および/または触媒サイトからアニオンを忌避することを含む。触媒床の劣化を緩和するための種々の触媒床の処理の効果は、図7の概略図に示すように、試験装置700を用いて評価される。
【0082】
試験装置700は、IFBによって使用される電解液を収容する電解液容器702を含む。電解液は、蠕動ポンプ706を介して、電解液容器702から矢印704で示す方向に流れる。蠕動ポンプ706の動作は、電解液の移動を起こし、試験装置700の電解液回路708中に電解液を流している。電解液は、加圧された水素ガスを含む高圧水素ボトル712に結合されたインジェクタ710に圧送される。バルブ714は、水素ボトルとインジェクタとの間に配置され、インジェクタへの水素ガスの流れを制御する。バルブが開放されると、水素ガスが注入器710で電解液に注入される。水素注入された電解液は、リバランス反応器716に流される。
【0083】
一例では、リバランス反応器716は、ゼリーロール構造の触媒床718を備えて構成される。他の例では、リバランス反応器702は、充填された触媒を有していてもよく、または他の何らかの触媒構成に適合されていてもよい。ゼリーロール構造の触媒床718は、炭素基板層(例えば、図3Bおよび図3Cに示されるゼリーロール構造の触媒床320)上の炭素担持Pt触媒のコイル状シートであってもよい。電解液は、電解液回路708を通って矢印704で示す方向に流れ、電解液容器702に戻る。電解液のイオン濃度は、電解液中の塩化カリウム(KC1)の濃度を変化させることによって調節される。
【0084】
図7の試験装置700を使用して、リバランス反応器716に適用される第1の処理の効果を評価する。図7の試験装置700は非限定的な例であり、他のシステムも同様にリバランス反応器を評価するために使用されることが理解される。第1の処理は、触媒床718が巻かれていない状態で、リバランス反応器716のゼリーロール構造の触媒床718(以下、触媒床718)を脱イオン(DI)水に浸漬する工程を含む。触媒床718は、リバランス反応器716の外側ハウジングから除去され、既知量のDI水で満たされた密閉容器内に配置される。密封容器は、オーブン内に配置され、所定の時間の間、目標温度(例えば、50℃)に加熱される。他の例では、目標温度は、70℃または80℃または室温と100℃との間の任意の温度である。オーブン温度、DI水の容量、および触媒床718がオーブン内で加熱される時間を含む変数セットは、それぞれの変数の効果を分離するために独立して変化させる。
【0085】
触媒床718は、DI水からの除去後、リバランス反応器716の外側ハウジングに戻され、新鮮なDI水でリンスされ、ゼリーロール構造に再び巻かれる。試験装置700の蠕動ポンプ706は、電解液回路708を通して電解液を送り込むために動作する。電解液がリバランス反応器716を通って流れるので、第二鉄の還元率は、サイクリックボルタンメトリー、酸化還元滴定、または酸素還元電位測定によって、電解液中の第二鉄濃度の変化を測定することによって決定される。
【0086】
図8のグラフ800には、第二鉄の還元の触媒床(例えば、図7の触媒床718)の浸漬時間及び温度の効果が示されている。第二鉄イオンの還元速度は、1平方メートル時間当たりのモルで、y軸に沿って測定される。DI水中での浸漬時間は、グラフ800のx軸に沿って示されている。2つのデータセットがグラフ800に示される。一方は、80℃での触媒床の浸漬を表す第1のデータセット802(●印)である。他方は、90℃での触媒床の浸漬を表す第2のデータセット804(◆印)である。第二鉄の還元(グラフ800に示されていない)の初期速度は、例えば、リバランス反応器における触媒床の使用の数サイクルの後、0.73mol/mhrである。
【0087】
第1のデータセット802は、例えば、DI水中に浸漬する触媒床の18時間および78時間の2つのデータ点を含む。より長い浸漬時間は、0.2mol/mhrだけ高い還元速度に対応する。第2のデータセット80は、例えば、89、125、および188時間の触媒床浸漬の3つのデータ点を含む。全ての3つのデータ点は、第1のデータセット802の速度よりも高い還元速度に対応する。第2のデータセット804はまた、より長い浸漬時間での第二鉄の還元速度の増大を示す。125時間と188時間との間の還元速度の増大は、89時間と125時間との間の還元速度の増大より小さく、および、第1のデータセット802によって示される還元速度の増大よりも小さい。
【0088】
グラフ800に表示された第1のデータセット802および第2のデータセット804は、暖かいDI水に触媒床を浸漬することが、第二鉄の還元速度を増大させることを示している。浸漬時間が188時間を超えて増大すると、浸漬時間の効果はあまり変わらないが、より長い浸漬時間は、還元速度を増大させることにつながる。暖かいDI水中に触媒床を浸漬することにより、吸着した塩化物アニオンを触媒表面から除去することができる。負に帯電した塩化物アニオンは、塩化物アニオンを双極子水分子に吸着させるファンデルワールス力を感じる。経時的に、ファンデルワールス力は、触媒表面への塩化物アニオンの吸着を克服する。従って、負に帯電した表面層の触媒表面を剥ぎ取る(stripping)ことができる。換言すれば、触媒床のDI浸漬中に触媒床の温度を閾値DI浸漬温度よりも高く維持することにより、触媒床の低い温度と比較して、劣化した触媒床の性能を回復して高めることができる。さらに、閾値時間よりも長くDI水に触媒床を浸漬することにより、より短いDI浸漬時間と比較して、劣化した触媒床の性能を回復して高めることができる。増大した回復性能は、より高いリバランス応速度(例えば、IFBリバランス反応器における触媒床のための第二鉄の還元速度)を指す。例えば、閾値DI浸漬温度は80℃よりも高い。別の例では、閾値DI浸漬温度は90℃よりも高い。一例では、閾値DI浸漬時間は、60時間よりも大きい。
【0089】
触媒床と相互作用するために存在する多数の水分子は、DI水中に浸漬した後の第二鉄の還元速度の変化にも影響する。例えば、触媒床を浸漬するために使用されるDI水の量は、触媒表面から除去された塩化物アニオンの量を決定する。第二鉄の還元速度に対するDI水量の影響は、図9のグラフ900に示される。図7の試験装置700のような試験装置は、ゼリーロール構造の触媒床の体積の影響を評価するために使用される。第二鉄イオンの還元速度を示すデータセットは、1平方メートル時間当たりのモル数で、触媒床で使用される5つの異なる触媒を表すコラムに表示される。
【0090】
グラフ900の第1のデータセット902は、各タイプの触媒についてのベースライン還元速度(例えば、DI水に浸漬することない還元速度)を示す。ベースライン還元速度は、例えば、0.9~1.1mol/mhrの範囲でわずかに変化する。各タイプの触媒は、40mL~500mLの範囲の異なる量のDI水に浸漬される。第2のデータセット904は、DI水に90℃で62時間浸漬した後の各タイプの触媒の還元速度を示す。各タイプの触媒についての第1のデータセット902と第2のデータセット904との比較は、第二鉄の還元速度が浸漬後の触媒の種類ごとに少なくとも100%増大する(例えば、3.8倍まで増加する)ことを示す。さらに、触媒床を浸漬するために使用されるより多量のDI水は、より多くの水分子の利用可能性が大きいため、還元速度のより高い増大と相関する。そして、触媒表面からの塩化物アニオンの除去を強いる全体的なファンデルワールス力を強化する。
【0091】
図13を参照すると、これは、種々の触媒床タイプに適用されるようなDI浸漬処理に使用されるDI水の量に対する劣化した触媒床の回復性能率のプロット1300を示す。各データ点は、同等の触媒表面積を有する異なる触媒床のDI浸漬を表している。プロット1300は、劣化した触媒床の性能回復が、閾値比よりも高いDI水量/触媒表面積の比でDI浸漬処理を実行することによって促進されることを推測する。一例では、触媒表面積に対するDI水量の閾値比(例えば、最大性能回復を達成するためのDI水の最小容量)は、触媒表面積の0.01m毎に10,000mL/m以上、15,000mL/m以上、または20,000mL/m以上である。
【0092】
リバランス反応器の触媒床のための第1の処理プロセスは、図8および図9に関して上述したように、目標温度および目標期間にDI水中に触媒床を浸漬する工程を含む。リバランス反応器を浸漬する工程は、触媒表面から吸着されたアニオンをはぎとるための効果的な方法である。それにより、水素分子が触媒床の反応性触媒部位に容易に拡散し、二重拡散層形成の可能性を低減させている。しかしながら、第1の処理は、DI水中の触媒床を継合するために、リバランス反応器からの触媒床の除去が原因で、リバランス反応器(およびIFB)の動作中に行われない。その結果、上述したような第1の処理の適用は、触媒性能の有意な低下が明らかになるまで遅延される。
【0093】
第1の処理工程の別の実施形態では、触媒床は、浸漬の代わりにDI水で洗い流される(flush)。触媒床を洗い流す工程は、リバランス反応器の動作操作と同時に発生しない。一方、触媒床を洗い流す工程は、リバランス反応器から触媒床を除去することなく行われる。それによって、リバランス反応器を処理するのに費やされる時間の量を減少させ、その動作休止時間を減少させる。例えば、レドックスフロー電池(例えば、少なくとも1つのリバランス反応器(例えば、図1のリバランス反応器80および82)を有する図1のレドックスフロー電池10)は、DI水システムに結合される。DI水システム内の水は、貯蔵器からリバランス反応器80および82のうちの1つまたは複数にDI水を供給するように適合される。それによって、リバランス反応器中をDI水で洗い流している(DI水で触媒床を洗い流す工程を含む)。DI水システム(例えば、貯蔵器)の一部をリバランス反応器の上流で加熱して、所望の温度(例えば、閾値DI浸漬温度より高い温度)に加熱されたDI水を触媒床に供給する。触媒床を出ると、触媒床から放出されたイオンを含むDI水は、廃棄または精製のために廃棄物タンク内に回収される。
【0094】
DI水システムから触媒床へのDI水の流れは、リバランス反応器の上流に配置されたバルブによって制御され、図1のコントローラ88のようなコントローラによって作動される。DI水システムバルブが開放されるように指令されると、フロー電池システムは、例えば、リバランス反応器の上流の電解液チャネル内に配置されたバルブを閉じることによって、リバランス反応器への電解液の流れを阻止するように構成される。DI水システムバルブは、リバランス反応器の性能が低下することを検出したとき、水が触媒床を洗い流すことができるように開放される。バルブは、DI水の制御された流量に基づいて、目標容量の水を触媒床に供給するために、設定された期間、開放される。DIシステムはまた、リバランス反応器の下流に配置されたバルブを含む。
【0095】
一例では、リバランス反応器をDI水で充填することができるように上流バルブを開きながら、下流バルブを閉じる。触媒床は、触媒床からイオンを脱着するために十分であると決定された期間、DI水中に浸漬される。一例では、所定の期間は、上述したように、閾値DI浸漬時間よりも大きい時間に対応する。その後、下流バルブは、時間が経過したときにDI水を排出するために開放される。その後、上流のDI水システムバルブの閉鎖と、リバランス反応器への電解液の流れを制御するリバランス反応器の上流バルブの再開放をする。
【0096】
あるいは、DI水は、触媒床が吸着されたアニオンで洗浄されたと判断するために、DI水のイオン濃度が十分に低くなるまで、触媒床を通って連続的に洗い流される。触媒から出るDI水の水の抵抗率をモニタする。それにより、水の抵抗率が閾値DI浸漬抵抗率未満に低下するまで、触媒床の洗い流す工程を進行させることができる。一例では、閾値DI浸漬抵抗率は18MΩ・cm以下である。閾値DI浸漬抵抗率より低く、浸漬触媒床から出るDI水の抵抗率を低下させることにより、触媒表面でのアニオン吸着を減少させることができる。触媒床を除去することなく実行される第1の処理プロセスを適合させることによって、触媒床は、リバランス反応器の減少したダウンタイム(例えば、動作停止)で、所望の性能により効率的に回復される。
【0097】
いくつかの例では、第1の処理プロセスは、リバランス反応器からの触媒床の除去を要求するDI水浸漬プロセス、または、リバランス反応器内の触媒床をDI水で洗い流すパージプロセスのいずれかとして構成される。他の例では、第1の処理プロセスの両方の構成をリバランスシステムに適用する。パージプロセスは、触媒床からアニオンを周期的に奪う(strip)ために比較的迅速で効率的な方法として使用される。その結果、リバランス平衡は、短時間で停止される。浸漬プロセスは、触媒床のまれで深い処理として使用されて、吸着されたアニオンを触媒表面からより完全に除去する。
【0098】
リバランス反応器から触媒床を除去することなく適用される第1の処理プロセスを構成することは、触媒性能を維持するためのより速いオプションを提供する。それにもかかわらず、触媒床を洗い流す工程は、第1の処理プロセスの持続時間にわたって、リバランス反応器およびレドックスフロー電池の動作停止を要求する。したがって、レドックスフロー電池(より具体的には、IFB)の動作中に現場で使用される追加の処理方法は、リバランス反応器における触媒劣化を日常的に減少させるために望ましい。
【0099】
第2の処理プロセスはまた、触媒表面上への塩化物アニオンの吸着に対処する。第2の処理プロセスは、リバランス反応器の動作中、リバランス反応器の触媒床に負の電位を印加する工程を含む。より具体的には、第2の処理は、水素ガスが副反応として生成されるとき、IFBの充電中に適用される。あるいは、第2の処理は、サイクルにかかわらず、IFBが動作するときはいつでも使用される。負の電位は、図2~3Cに示すように、導電性ワイヤを触媒床に導電的に結合することによって、ゼリーロールとして構成された触媒床に印加される。一例において、導電性ワイヤを触媒床に導電的に結合する工程は、ゼリーロール(例えば、図3Cの触媒床300)内に導電性ワイヤ(例えば、チタンワイヤ)を織りこむ工程と、ゼリーロールの頂部を通って延在させる工程と、導電性ワイヤに負の電位を印加する工程とを含む。
【0100】
導電性ワイヤは、図3Cに示すように、触媒床の軸方向長さ全体にわたって延びる。その結果、触媒床の軸方向の長さにわたって負の電位が印加される。さらに、導電性ワイヤは、負の電位がゼリーロール構造の連続した同心層の全体に印加されるように、ゼリーロール構造の連続した同心層の全体にわたって巻き付けられ、および/または織られる。一例では、導電性ワイヤは、ゼリーロール構造を形成するために前述の層を螺旋巻きする前に、基板層304、触媒層306、およびスペーシング層310のうちの1つまたは複数に導電的に結合および/または織られる。これにより、触媒床の体積にわたって導電性ワイヤおよび負電位をより完全に分配することを容易にする。これは、劣化した触媒床の回復性能を増大させることができる。例えば、導電性ワイヤは、チタンから形成され、ゼリーロール構造を調製するための基板として使用されるプラスチックメッシュを通して織られる。より大きなゼリーロール構造では、2本のチタンワイヤは、ゼリーロール構造を触媒床で巻く前に、軸方向の全長に沿ってプラスチックメッシュを通して織られる。プラスチックメッシュを通して導電性ワイヤを織ることにより、触媒と導電性ワイヤとの間の良好な接触が可能になり、触媒層の表面領域に触媒を均一に帯電させることができる。
【0101】
チタンメッシュ、炭素電極またはグラファイトフェルトから形成された対向電極を、リバランス反応器の電解液中に配置してもよい。触媒床に担持された触媒の表面積に対する対向電極表面積の比は、閾値表面積比よりも小さい。一例では、閾値表面積比は、0.2(例えば、1/5)以下である。触媒床表面積に対する対向電極表面積の比を0.2以下に維持することにより、アニオンによる触媒部位の被毒による、触媒床の劣化の危険性を減少させることができる。対向電極は、電解液タンクまたは電解液経路内に配置されてもよい。負の電位が触媒表面に印加されてアニオンを反発するので、電流は対向電極を流れない。
【0102】
触媒性能への印加電位の影響は、図10のグラフ1000に示されている。グラフ1000は、y軸に沿ったリバランス反応器の触媒床での第二鉄の還元速度(1平方メートル時間当たりのモル数で測定される)と、x軸に沿った電解液への初期露出から経過した時間とを含む。第1のプロット1002は、第1の触媒床に印加された電位なしで動作する第1のリバランス反応器内の第1の触媒床のベースライン傾向線を示す。第2のプロット1004は、第2の触媒床に印加されるより低い閾値の負電圧より大きい負の電圧で動作する第2のリバランス反応器内の第2の触媒床の傾向線を示す。一例では、より低い閾値負電圧は、-50mVである。別の例では、より低い閾値負電圧は、-400mVである。さらに、触媒床に印加される負電圧は、より高い閾値負電圧よりも低い。触媒床により高い閾値電圧未満の負電圧を印加することは、触媒表面における第二鉄イオンに対する第一鉄の電気化学的酸化が原因で、触媒床での第二鉄イオン還元速度を抑制するのに十分な電流を発生させる危険性を低減する。一例では、より高い閾値負電圧は、-800mVである。第1のプロット1002は、グラフ1000の持続時間にわたった第1の間隔1004の間、第2のプロット1004よりも一貫して低い還元速度を示す。
【0103】
グラフ1000に示された結果は、触媒床に負の電位を印加することが、電位の印加中に触媒性能が増大することを示す。しかしながら、印加された電位が除去されると、還元速度は、ベースライン速度に急速に低下するが、負の電位が触媒床に再印加されると、より高い還元速度に回復する。
【0104】
リバランス反応器内の触媒床への負の電位の連続的な印加は、触媒床に負の電荷を課す。負の電荷は、塩化物アニオンを反発し、触媒表面へのアニオンの吸着を抑制し、電荷二重拡散層の形成の可能性を低減する。リバランス反応器の動作中、負の電位は、触媒床に連続的に印加されてもよく、またはリバランス反応器に結合されたIFBの充電中に選択的に印加されてもよい。負の電位の大きさは、触媒性能が低下すると判定されたときに変化する。例えば、第二鉄の還元速度が閾値速度を下回るように検出されると、触媒床に織られた導電性ワイヤに電圧を供給する外部電気デバイスは、触媒床の負の電荷を増大させるために、および触媒床の表面におけるアニオンの吸着を妨げる反発力を増大させるために、増大される(例えば、印加されたより負の電位)。
【0105】
第2の処理プロセスは、IFB動作の間およびリバランス反応器の操作の間に日常的に使用される。それは、触媒の表面上に塩化物アニオンの吸着から生じる触媒劣化を遅らせるために、触媒床に負の電位を連続的に印加する工程を含んでいる。対照的に、第1の処理プロセスは、補助的な処理である。それによって、触媒床のDI浸漬またはパージは、連続的な負の過剰電位にもかかわらず、触媒の劣化が閾値劣化レベルを超えて到達したときの状態の間、追加の処理として実行される。例えば、第二鉄の還元速度が閾値反応速度を下回ったときに閾値劣化レベルに到達する。これは、リバランス反応器の性能が低下していることを示す。別の例では、閾値劣化レベルは、電解液のpHが第1の閾値pHよりも大きいときに示される。このように、リバランス反応器の触媒床は分解される。鉄金属の腐食およびプロトンの還元に起因する水素ガスの生成は、より高い率で生じる。これは、プロトンを消費し、電解液のpHを増大させる。別の例では、電池の充電容量が低下したときに閾値劣化レベルに到達する。リバランス反応器の触媒床が劣化したときに、IFB電池セルの負極におけるめっきを減少させる。これにより、電池の充電容量を低減する。
【0106】
1つの場合において、IFBが動作中であるとき、第2の処理は、連続的に使用される。多数の充電および再充電サイクルにわたって、リバランス反応器の触媒の性能は、触媒表面における電荷二重拡散層の形成に起因して減少する。これにより、リバランス反応器における第二鉄の還元速度の減少をもたらす。還元速度の低下を検出すると、第1の処理工程が適用される。例えば、リバランス反応器が動作を停止し、またはリバランス反応器が動作を停止しながら、触媒床は、DI水で洗い流される。そして、触媒床は、除去され、DI水中に浸漬される。
【0107】
別の例では、第1の処理プロセスの2つの実施形態の両方を、第2の処理プロセスと組み合わせて使用する。例えば、第2の処理は、IFBの通常の動作間隔で、または第二鉄の還元速度が第二鉄の還元速度を閾値速度以上に維持するために第1の閾値速度を下回ったときに、IFB動作中に連続的に適用される。第2の処理が閾値を超える第二鉄の還元速度をもはや維持することができない場合、第1の処理プロセスのDIフラッシュを使用して、触媒性能を回復させる。第1の処理プロセスのDI浸漬は、DIフラッシュが触媒性能を維持していなくても周期的に使用され、または、例えば、IFB動作の200時間毎のより長い動作期間の間の処理として使用される。
【0108】
上記の実施例は、第1および第2の処理プロセスがどのように実施されるかの非限定的な例であることが理解される。第1および第2の処理プロセスに関連する方法の様々な組み合わせが企図されている。第2の方法の負の電位は、例えば、-400mV対水素電位の比較的低い過剰電位であってもよい。したがって、負の電位は、リチウムイオン電池またはニッケル金属水素化物電池のような小さな電池によって容易に供給される。バッテリーの交換は、システム全体のコストを最小限に抑える。第1および第2の処理プロセスの両方は、IFBのためのリバランス反応器における触媒性能を高めるために、独立してまたは協力して、低コストで単純で効果的な方法であってもよい。表面電荷(例えば、上述した第2の処理プロセス)を生成することによって、リバランス反応器の触媒床の性能劣化を低減する第1の方法1100が図11に示される。
【0109】
第1の方法1100の触媒床は、図3B~3Cゼリーロール構造の触媒床320である。これは、カーボン上に担持された白金層または別の触媒金属層、炭素基板の層、及びスペーシング層を含むスタックとして構成される。コイルに巻かれた触媒床は、図1のレドックスフロー電池10のリバランス反応器80、82に関して、レドックスフロー電池に結合された少なくとも1つのリバランス反応器内に配置される。レドックスフロー電池は、溶解した第二鉄および第一鉄錯体と、支持非酸化還元活性塩(例えば、KCL)とを含む電解液で適合された全鉄フロー電池(IFB)である。IFBは、コントローラ(例えば、図1のコントローラ88)を有する。このコントローラは、IFBおよびリバランス反応器のセンサ(例えば、正及び負の電解液チャンバ内の温度センサ)から情報を取得し、IFBのアクチュエータ(例えば、電解液の流れを制御するバルブ)に命令を送る。コントローラは、コントローラのメモリに記憶された命令を参照して、センサから受信したデータに基づいてコマンドを実行する。電解液のpHは、電解液の安定性を維持するために酸性である。IFBの負極における副生成物である水素ガスは、生成され、触媒床によってプロトンに酸化されるためにリバランス反応器に導かれる。第二鉄はまた、触媒床の炭素基材で第一鉄に還元される。
【0110】
1102において、この方法は、IFBを動作させる工程を含む。例えば、ポンプは、IFBのセルを通して電解液を送るように駆動する。セルは、正極および負極の区画を含む。IFBは、順方向で式(1)および(2)を実施する充電または式(1)および(2)が逆方向で発生する間の放電のいずれかを行う。IFBが能動的に充電される場合、式(3)および(4)によるプロトン還元および鉄腐食などの副反応は、電解液のpHの上昇および電解液の安定性の損失をもたらす。
【0111】
1104において、この方法は、触媒床に負の電位を印加する工程を含む。負の電位(-400~-600mVの範囲にある)は、電力を供給する電気デバイスに結合され、触媒床に織られた導電性ワイヤ(例えば、チタンワイヤ)によって、リバランス反応器の触媒床に印加される。例えば、電気デバイスは、リチウムイオン電池またはニッケル金属水素化物電池であってもよい。電解液のpHが第1の閾値を超えると判断すると、電池は、スイッチによって導電性ワイヤに接続される。あるいは、電池は、リバランス反応器を通る電解液のIFB動作モードまたは活性流にかかわらず、常に、触媒床に印加された負の電位とワイヤとに連続的に結合される。また、電解液中に、対向電極が配置される。触媒床に過剰電位を印加すると、触媒床に負の電荷を与える。そうでなければ、触媒表面に吸着する可能性のある電解液中においてアニオンを忌避する。
【0112】
この方法は、pHが第1の閾値を超えて上昇したかどうかを決定するために、1106に進む。第1の閾値は、pH4のようなpHである。それを超えると、酸化鉄の形成の可能性が増大する。酸化鉄の析出は、酸化還元活性に利用可能な鉄カチオンの損失をもたらす。pHは、電解液のpH情報をコントローラに送るpHメータによって測定される。pHが第1の閾値を超えない場合、方法は、1108に進み、現在の条件(例えば、充電または放電モード)下で、IFBを動作させ続ける。次いで、方法はスタートに戻る。しかし、pHが第1の閾値を超えると測定された場合、方法は、1110に進む。
【0113】
1110において、この方法は、電解液のpHを低下させる工程を含む。電解液のpHを低下させる工程は、1112において、IFBからリバランス反応器に電解液を流す工程を含む。IFBの電解液貯蔵タンクとリバランス反応器との間のラインに配置されたバルブは、電解液が電解液貯蔵タンクからリバランス反応器に流れることを可能にするために開かれる。電解液のpHを調節する工程は、1114で、電解液貯蔵タンクからリバランス反応器に水素ガスを導く工程を含む。式(3)および(4)によって生成された水素ガスは、電解液貯蔵タンクに蓄積され、リバランス反応器に吸い上げられる。水素ガスおよび電解液がリバランス反応器に流入すると、水素ガスは触媒表面に拡散し、プロトンを生成するために酸化される。同時に、第二鉄イオンは、第一鉄イオンに還元される。高濃度のプロトンおよび第一鉄イオンを含有する電解液を、1116において、IFBのセルに再循環させて、セル内の電解液のpHおよび鉄種をリバランスさせる。
【0114】
1118において、方法は、リバランス反応器における第二鉄の還元速度が第2の閾値を上回るかどうかを決定する。第二鉄の還元速度は、サイクリックボルタンメトリー、レドックス滴定、または酸素還元電位計によって測定される。第2の閾値は、触媒性能が電解液の不安定性およびpH上昇が差し迫っている程度まで低下することを示すために、十分に遅い還元速度である。例えば、第2の閾値は、0.6mol/mhrに設定される。還元速度が第1の閾値を下回っていないと判定された場合、方法は、電解液のpHが第1の閾値を超えて上昇しているかどうかを評価するために、1104に戻る。
【0115】
鉄の還元速度が第2の閾値より小さく減衰すると決定されると、方法は、触媒床をDI水流で洗い流すために1120に進む。触媒床を洗浄するためにリバランス反応器にDI水を流す工程は、電解液チャネル内のリバランス反応器の上流に配置された第1のバルブを閉じるように命令する工程を含む。電解液チャネル内の第1のバルブは、IFBセルとリバランス反応器との間に配置され、IFBセルからリバランス反応器への電解液および水素ガスの流れを制御する。電解液チャンネル内の第1のバルブを閉じると、DI水システム内の第2のバルブを開くように命令する。第二のバルブは、DI水の加熱された貯蔵器からリバランス反応器にDI水を流すDIチャネル内に配置される。いくつかの例では、DI水システムは、リバランス反応器の下流に配置された第3のバルブを含む。第3のバルブは、触媒床内にDI水を保持するために、DI水による洗い流し中に閉じるように指示される。これにより、DI水がリバランス反応器からパージされる前に、触媒床をDIの容量に浸漬させることができる。あるいは、第3のバルブは、リバランス反応器をDI水が流れている間に、開くように命令されてもよい。
【0116】
触媒床がDI水に曝されると、触媒表面に吸着されたアニオンを剥ぎ取って、リバランス反応器から洗い流す。1122において、方法は、リバランス反応器を出るDI水の抵抗率が第3の閾値以上の抵抗率にあるかどうかを決定する。触媒床を洗浄した後のDI水の抵抗率は、例えば、DI水システム内の抵抗率プローブによって測定され、水中のイオン濃度を推測する。第3の閾値は、リバランス反応器を出る水が触媒床からのイオンの完全な除去のために、触媒床からイオンをもはや剥ぎ取らないことを示す抵抗率である。第3の閾値は、純粋なDI水と同様の抵抗率(例えば、18MΩ・cm)である。出口水の抵抗率が第3の閾値でない場合、方法は1112に戻り、リバランス反応器を介して貯蔵器からDI水を流す工程を継続する。
【0117】
水の抵抗率が第3の閾値に達するかまたはそれを超える場合、方法は、DI水システムの第2のバルブを閉じるために1124に進む。これにより、DI水のリバランス反応器への流れを停止させる。第1のバルブは、IFBセルからリバランス反応器に電解液を導くために、開くよう指示される。IFBの帯電が行われると、負極で発生した水素ガスは、リバランス反応器に吸い上げられ、酸化される。電解液は、触媒床での処理後、リバランス反応器から電池セルに循環される。次いで、方法1100は、図12の方法1200に続く。
【0118】
他の例では、第3の閾値は、代わりに、流出水の抵抗率よりむしろ、目標間隔の時間または水の所定の容量である。例えば、第3のバルブを閉じることにより、リバランス反応器をDI水で満たすことができる。リバランス反応器が充填されると、タイマーが作動し、触媒表面からアニオンを除去するために十分に見積もられた時間をセットする。あるいは、触媒床は、触媒表面からアニオンを洗い流すために、適切な量の水となるように計算された量の水で洗い流され、触媒の所望の性能を回復させる。
【0119】
方法1200の1202において、方法は、IFBの動作間隔(例えば、動作の時間数)が第4の閾値に到達したかどうかを決定する工程を含む。第4の閾値は、IFBが動作(例えば、100時間または200時間)中に一貫して動作している持続時間である。第4の閾値によって規定される時間の間隔は、触媒表面における二重拡散形成の高い可能性およびリバランス反応器の性能の低下を導くために計算または推定される経過動作期間である。動作間隔が第4の閾値に達していない場合、方法は1204に進み、リバランス反応器を介して電解液を循環させながら、IFBの動作(例えば、充電モードまたは放電モード)を継続する。
【0120】
動作間隔が第4の閾値に達すると、方法は1206に続き、リバランス反応器への電解液および水素ガスの流れを停止させる。電解液チャネルの第1のバルブを閉じることによって、電解液および水素ガスのリバランス反応器への流れを阻止することができる。この方法は、性能劣化の指示が受信されたかどうか(例えば、第1~第3の閾値を超えたかどうか)にかかわらず、1206に進む。DI水中に浸漬することによって触媒床を処理するための要求は、1208でコントローラによって示される。要求は、アラート信号(例えば、光またはアラーム)を活性化することによって指示される。これにより、触媒床の処理が要求されることを操作者に知らせる。触媒床を浸漬するための要求は、改善処理または先行(anticipatory)処理である。これは、触媒の状態に依存する。触媒床を浸漬する工程は、リバランス反応器から触媒床の除去と、目標期間に設定された温度で、既知の容量の水に触媒床を浸漬する工程とを含む。
【0121】
操作者が触媒床を再設置し、例えば、コントローラの通信装置にコマンドを入力することによって、または、アラームを停止させるためにボタンを押すことによって、リバランス反応器が動作の準備ができていることを示す場合、方法は、1210に進む。そして、電解液を循環させることおよび水素ガスをリバランス反応器に吸い上げることを再開する。次に、方法は、図11の方法1100のスタートに戻る。
【0122】
目標温度、持続時間、および容量で、DIへの触媒床の浸漬は、上述したDI洗浄(フラッシング)プロセスよりも触媒表面からアニオンをより完全に除去することができる。触媒床がリバランス反応器から取り出され、外部に浸漬されると、触媒床は展開されていなくてもよい。これにより、リバランス反応器内にまだ巻かれながら、触媒床のより大きな表面積を、触媒床を洗い流すよりも大容量のDI水と直接接触させることができる。さらに、触媒床が除去され、未展開であるとき、触媒床は、オーブン内のより高い温度に加熱された水に、より効率的かつ均一にさらされる。これは、DI水をリバランス反応器に供給する前に、リバランス反応器に結合されたDI水システム内のDI水の貯蔵部を加熱することによって達成される。従って、DI浸漬プロセスは、より多くの時間と労力を必要とする注意事項(caveat)を有しながら、触媒表面からアニオンを完全に除去するためのより効果的な方法である。したがって、DI浸漬プロセスをリバランス反応器のDI洗浄よりもそれほど頻繁ではなく適用することが望ましい。
【0123】
このようにして、フロー電池電解液のpHを維持する。それにより、酸化還元活性種の充電状態および濃度に関して、長期間のレドックスフロー電池の動作の間、フロー電池の電解液をバランスさせることができる。レドックスフロー電池は、電池によって電子流を誘導する鉄酸化還元反応に依存する全鉄フロー電池(IFB)である。充電中にIFBの負極における競合する副反応は、プロトンの消費をもたらし、電解液のpHの上昇を起こし、電解液のアンバランスにつながる。リバランス反応器(生成する水素は、第二鉄を第一鉄に還元しながら、プロトンを形成するために酸化される)にIFBを結合することは、電解液バランスを回復させる。しかしながら、リバランス反応器の触媒は、電解液中の支持塩から誘導されたアニオン(例えば、塩化物など)を吸着し、触媒部位の周囲に二重拡散層を形成する傾向がある。二重拡散層は、水素ガス分子と触媒との間の相互作用を妨げ、長期間の電池使用にわたって進行性の低下につながる形で触媒性能を低下させる。二重拡散層の形成は、触媒床に一定の負の電位を印加することによって回避される(例えば、上記の第2の処理プロセス)。負の電位は、触媒床に負の電荷を課す。それによって、触媒表面からアニオンを忌避し、二重拡散層の形成を抑制している。それにもかかわらず、時間が経つと、イオンが触媒表面に吸着されるようになる。脱イオン水は、触媒を加熱脱イオン(DI)水にさらすことによって、二重拡散層を除去するために使用される。触媒床は、リバランス反応器に収容されながらDI水で洗い流されるか、または、リバランス反応器のハウジングから除去され、DI水に浸漬される。触媒床をDI水にさらすことは、触媒表面からアニオンを除去する。これにより、触媒活性を再確立させている。触媒床に負の電位を印加する工程と、DI水によってアニオンを除去する工程の両方は、触媒性能を維持および/または増大させるために、コスト効率がよく、単純な方法である。これにより、より完全な周期的処理のルーチンと組み合わせた連続的なin situ処理プロトコルを提供することができる。
【0124】
IFBの使用の間に触媒床をDI水中に浸漬する第1の処理工程、および/または、IFBの動作中に触媒床に一定の負の電位を印加する第2の処理工程を有するリバランス反応器を処理する技術的効果は、電解液のpHが維持され、それにより、IFBの有用な寿命を長くすることである。
【0125】
一実施形態では、方法は、フロー電池の電解液と、フロー電池で生成された水素ガスとをリバランス反応器に流す工程と、電解液を流しながらリバランス反応器の触媒床に負の電位を印加する工程と、閾値速度よりも低い第二鉄の還元速度(率)の低下を触媒床で検出する工程と、第二鉄の還元速度の低下に応答して、触媒床にわたる電解液の代わりに脱イオン水を流す工程と、リバランス反応器の動作時間の閾値間隔が経過した後、脱イオン水中に触媒床を浸漬するための要求を示す工程とを含む。方法の第1の例では、触媒床に負の電位を印加する工程は、導電性ワイヤを触媒床に結合する工程と、電気デバイスから触媒床に電圧を伝達する工程とを含む。方法の第2の例は、任意に第1の例を含む。さらに、触媒床に負の電位を印加する工程は、触媒床から電解液アニオンを忌避する負の電荷を触媒床に発生させる工程と、リバランス反応器の動作中に閾値電位より大きく負の電位を維持する工程とを含む。方法の第3の例は、任意に、第1および第2の例のうちの1つまたは複数を含む。さらに、触媒床に負電荷を生成する工程は、レドックスフロー電池が充電されている間に、触媒床の負電荷を維持する工程を含む。方法の第4の例は、任意に、第1~3の例のうちの1つまたは複数を含む。さらに、触媒床を横切るにわたる脱イオン水を流す工程は、前記リバランス反応器への電解液および水素ガスの流れを停止させる工程を含む。リバランス反応器への電解液の流れを停止させる工程は、電池セルとリバランス反応器との間の流れを制御する第1のバルブセットを閉じる工程を含む。方法の第5の例は、任意に、第1から4の例のうちの1つまたは複数を含む。触媒床にわたる脱イオン水を流す工程は、脱イオン水リザーバとリバランス反応器との間の流れを制御する第2のバルブセットを開く工程を含む。脱イオン水リザーバは、リバランス反応器に流体的に結合されている。方法の第6の例は、任意に、第1~5の例のうちの1つまたは複数を含む。触媒床を浸漬する工程は、第1のバルブセットを閉じることで、リバランス反応器への電解液の流れを停止させる工程と、リバランス反応器から触媒床を除去する工程と、所定の容量の脱イオン水で所定時間、加熱された脱イオン水に触媒床を浸す工程とを含む。方法の第7の例は、任意に、第1~6の例のうちの1つまたは複数を含む。触媒床にわたる脱イオン水を流す工程は、触媒床を洗い流す。そして、リバランス反応器から出る脱イオン水が目標抵抗率に達したとき、洗い流す工程は終了する。
【0126】
別の実施形態では、システムは、レドックスフロー電池のセルを通って循環する電解液と、レドックスフロー電池の電解液チャンバに貯蔵された水素ガスとを含む。電解液と水素ガスの両方は、電池に結合されたリバランス反応器に流れる。レドックスフロー電池の充電中、負の電位が触媒床に印加される。コントローラは、非一時的メモリに記憶されたコンピュータ可読命令で構成される。命令は、レドックスフロー電池の充電中、触媒床に負の電位を印加するために、コントローラによって実行可能である。命令は、リバランス反応器で第二鉄の還元速度(率)が第2の閾値を下回ったことを検出すると、触媒床を脱イオン水で洗い流すために、コントローラによって実行可能である。命令は、レドックスフロー電池の動作時間の間隔が経過したとき、触媒床の脱イオン水への浸漬の要求を示すために、コントローラによって実行可能である。システムの第1の例では、電解液は、第二鉄および第一鉄錯体、非酸化還元活性塩、および酸を含む。システムの第2の例は、任意に第1の例を含む。第2の例は、電解液からプロトンを消費するプロセスにおいて、水素ガスがセルの負極で生成される場合をさらに含む。システムの第3の例は、任意に、第1および第2の例のうちの1つまたは複数を含む。さらに、第3の例は、リバランス反応器の触媒床は、ゼリーロール構造を有することを含む。システムの第4の例は、任意に、第1~3の例のうちの1つまたは複数を含む。さらに、第4の例は、触媒床に印加される負の電位は、触媒床で負電荷を生成するように構成されることを含み、負の電位は、レドックスフロー電池の動作中に連続的に印加されることを含む。システムの第5の例は、任意に、第1~4の例のうちの1つまたは複数を含む。さらに、第5の例は、脱イオン水がリバランス反応器を通って流れると、触媒床は、リバランス反応器に収容されながら、脱イオン水で洗い流されることを含む。システムの第6の例は、任意に、第1~5の例のうちの1つまたは複数を含む。さらに、第6の例は、触媒は、レドックスフロー電池システムが動作を停止し、触媒がリバランス反応器から除去されるとき、浸漬されることを含む。
【0127】
さらに別の実施形態では、方法は、フロー電池の電解液と、フロー電池で生成された水素ガスとをリバランス反応器に流す工程と、リバランス反応器の鉄還元速度(率)の低下を検出する工程と、鉄還元速度の低下に応答して、リバランス反応器への電解液および水素ガスの流れを停止する工程と、リバランス反応器を通して脱イオン水を流す工程とを含む。方法の第1の例では、リバランス反応器の鉄還元速度の低下を検出する工程は、リバランス反応器の性能を低下させる閾値速度未満である鉄還元速度を測定する工程を含む。方法の第2の例は、第1の例を任意で含む。さらに、第2の例は、脱イオン水を流す工程が、リザーバからリバランス反応器に脱イオン水を導く工程を含むことを含む。方法の第3の例は、任意に、第1および第2の例のうちの1つまたは複数を含む。さらに、第3の例は、フロー電池の動作中にリバランス反応器の触媒床に負電荷を維持する工程を含む。方法の第4の例は、任意に、第1~3の例のうちの1つまたは複数を含む。第4の例は、次の事をさらに含む。リバランス反応器に電解液を流す工程は、レドックスフロー電池の電池セルからリバランス反応器に電解液を送達する工程を含む。リバランス反応器は、電解液のpHおよび第一鉄濃度を回復するように構成される。
【0128】
別の表現では、レドックスフロー電池のリバランス反応器を処理するための方法は、レドックスフロー電池の電解液と、フロー電池で生成された水素ガスとをリバランス反応器に流す工程と、電解液および水素ガスをリバランス反応器に流しながら、リバランス反応器の触媒床に負の電位を印加する工程とを含む。方法の第1の例では、電解液をリバランス反応器に流す工程は、電解液のpHおよび第一鉄濃度を回復させるために、レドックスフロー電池の電池セルからリバランス反応器に電解液を供給する工程を含む。方法の第2の例は、任意に第1の例を含む。さらに、第2の例は、負の電位を触媒床に印加する工程は、アニオンを忌避するために、負の電位を連続的に維持する工程を含むことを含む。方法の第3の例は、任意に、第1および第2の例のうちの1つまたは複数を含む。さらに、第3の例は、触媒床に負の電位を印加する工程は、導電性ワイヤによって触媒床に電気的に結合された電気デバイスの動作を停止する工程を含むことを含む。方法の第4の例は、任意に、第1~3の例のうちの1つまたは複数を含む。さらに、第4の例は、次の事を含む。触媒床に負の電位を印加する工程は、触媒床で二重拡散層の形成を阻害する工程と、第一鉄の還元速度を増大させる工程とを含む。
【0129】
以下の特許請求の範囲は、新規かつ非自明であると考えられる特定のコンビネーションおよびサブコンビネーションを特に指摘する。これらの特許請求の範囲は、「an」要素、「第1の」要素またはその等価物を参照する。そのような特許請求の範囲は、1つまたは複数のこのような要素の組み込みを含むことが理解される。2つまたは複数の要素を必要とすることも排除しない。開示された特徴、機能、要素、および/または特性の他のコンビネーションおよびサブコンビネーションは、本発明の補正によって、または、この用途または関連する用途における新たな特許請求の範囲の提示によって請求される。そのような特許請求の範囲は、当初特許請求の範囲よりも広い、狭い、等しいまたは異なるかどうかにかかわらず、本開示の主題の範囲内に含まれるものとみなされる。
図1
図2
図3A
図3B
図3C
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