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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-07
(45)【発行日】2024-05-15
(54)【発明の名称】要求の厳しい用途のための超硬合金
(51)【国際特許分類】
   C22C 29/08 20060101AFI20240508BHJP
   C22C 1/051 20230101ALI20240508BHJP
   B22F 1/00 20220101ALI20240508BHJP
   B22F 1/148 20220101ALI20240508BHJP
   B23B 27/14 20060101ALN20240508BHJP
【FI】
C22C29/08
C22C1/051 G
B22F1/00 Q
B22F1/148
B23B27/14 B
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2021534296
(86)(22)【出願日】2019-11-28
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-02-09
(86)【国際出願番号】 IB2019060285
(87)【国際公開番号】W WO2020128688
(87)【国際公開日】2020-06-25
【審査請求日】2022-10-28
(31)【優先権主張番号】1820632.6
(32)【優先日】2018-12-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(73)【特許権者】
【識別番号】518414476
【氏名又は名称】ハイペリオン マテリアルズ アンド テクノロジーズ (スウェーデン) アクティエボラーグ
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】テル, オリヴィエ
(72)【発明者】
【氏名】ラヴィーン, オリヴィエ
【審査官】萩原 周治
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第102400027(CN,A)
【文献】特表2019-527293(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0369973(US,A1)
【文献】国際公開第2017/220533(WO,A1)
【文献】特表2013-544963(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 29/00-29/18
C22C 1/04-1/059
B22F 1/00-8/00
B23B 27/0-29/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
WCを含む硬質相およびバインダー相を含む超硬合金であって、
超硬合金の総量を基準として9wt%でるバインダー相含有量、及び
超硬合金の総量を基準として7.5wt%のNi;0.75wt%のCr;0.75wt%のMoおよび91wt%のWC
を含み、
WCの粒度が、線形切片によって決定された0.1~2μmの範囲である、超硬合金。
【請求項2】
超硬合金におけるCr/(Ni+Cr+Mo)の商wt%が、0.03~0.1の範囲である、請求項1に記載の超硬合金。
【請求項3】
超硬合金におけるMo/(Ni+Cr+Mo)の商wt%が、0.04~0.12の範囲である、請求項1または2に記載の超硬合金。
【請求項4】
WCの粒度が、線形切片によって決定された0.4~0.8μmの範囲である、請求項1に記載の超硬合金。
【請求項5】
請求項1に記載の超硬合金を含む、部材。
【請求項6】
部材が、チョーク弁、制御弁、弁座、プラグ座、フラック座、ケージ、ケージアセンブリ、シールリング、及び、体またはスラリーの通過流を可能にする弁の部材部分からなる群から選択される、請求項に記載の部材。
【請求項7】
WCを含む硬質相およびバインダー相を含む超硬合金物品を作成する方法であって、該方法が、
粉末化バッチであって、粉末化バッチの総量を基準として7.5wt%のNi;0.75wt%のCr;0.75wt%のMoおよび91wt%のWCの原材料を含む粉末化バッチを調製することと;
粉末化バッチを圧縮してプリフォームを形成することと;
プリフォームを焼結して超硬合金物品を形成することと
を含み、
超硬合金物品のバインダー相含有量が、焼結された超硬合金物品の総量を基準として9wt%であり、粉末化バッチに出発物質として含まれるWCの粒径が、Fisher Sub-Sieve Sizer(FSSSによって決定された0.4~2μmの範囲であり、かつ
焼結された超硬合金物品中のWCの粒度が、0.1~2μmの範囲である、
方法。
【請求項8】
プリフォームを焼結して超硬合金物品を形成することが、真空またはHIP処理を含む、請求項に記載の方法。
【請求項9】
結が、1360~1500℃の温度および0~20MPaの圧力で処理することを含む、請求項またはに記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の主題は、要求の厳しい用途のための耐摩耗性超硬合金および製造方法に関し、特に、排他的にではないが、所与の硬度に対して比較的高い靭性を有する、耐腐食性および耐浸食性の超硬合金に関する。
【背景技術】
【0002】
超硬合金は、岩石の切断、機械加工、掘削または分解のためのツールなどの要求の厳しい用途のために、広範に使用されてきた。これらの高い耐摩耗性の炭化物は、油およびガス産業における部材として特に適用されることが見出されており、それらの産業において、例えば、チョーク弁および制御弁、ケージ、弁座ならびにシールリングを含む様々な流体流を制御する部材のために典型的に使用される。それらの炭化物の適性は、特に、硬度、靭性、強度および耐摩耗性を含むそれらの物理的および機械的特性に大きく起因する。物理的に要求の厳しい油およびガス適用において、従来の超硬合金部材は、耐用年数が比較的短い。さらに、接近可能性が制限され(例えば、海中環境)、点検のために長い生産中断時間がかかることに起因して、稼働中の性能および負担の予測が非常に重要である。
【0003】
油およびガス生産系における流れを制御する部材は、典型的に、高速の流体流(>200m/秒)に晒され、そこで流体は、典型的に、様々な湿度、流量およびpHで、砂/油/ガス/水と混合される。動作条件には、関連する腐食、孔食および段階的なクラッキングの可能性の増大を伴う、特にHSへの曝露を含む「酸性」条件も含まれ得る。
【0004】
深海環境と共に、動作の(特に、媒体流の高い変動性、ならびに極度の高圧および高温を含む)条件がますます困難になるということは、従来の部材が、短い耐用年数を有し、故障率が高くなりやすいことを意味する。
【0005】
WO2017/220533は、2.9~11wt%のNi;0.1~2.5wt%のCr;0.1~1wt%のMoおよび残余のWCを含む(WCは、0.5μm以下の粒度を含む)、超硬合金の処理ラインツールを開示している。
【0006】
CN102400027は、7.3~7.7wt%のNi、0.6~1wt%のCr、0.3~0.7wt%のMoおよび残余のWCを有する耐腐食性超硬合金を記載している。
【0007】
WO2012/045815は、WC、ならびに3~11wt%のNi;0.5~7wt%のCr;0.3~1.5wt%のMo;0~1wt%のNbおよび0~0.2wt%のCoを含む、電解耐腐食性を示す、油およびガス適用のための超硬合金を記載している。
【0008】
WO2016/107842は、7~11wt%のNi;0.5~2.5wt%のCr;0.5~1wt%のMoおよび残余のWC(4μm以上のWC粒度を有する)の組成物を有するシールリングなどの流体を取扱う部材のための超硬合金を開示している。
【0009】
しかし、油およびガス流体流の制御におけるある特定の環境下では、既存の超硬合金は、耐腐食性および機械抵抗性、特に耐湿式浸食性には最適化されていない。すなわち、既存の超硬合金は、流れ条件が腐食性および浸食性である場合、特にスラリーおよび/またはキャビテーション現象によって誘導される浸食の場合、不満足な故障率を示す。
【発明の概要】
【0010】
本開示は、要求の厳しい用途に適した、特にこのような要求の厳しい用途の部材部分のための構成要素または主要材料としての使用に適した超硬合金材料を対象とする。また、困難な環境および動作条件に耐えるために、望ましい靭性、硬度、強度および耐摩耗性の性質を有する超硬合金が提供される。
【0011】
また、金属成形のためのツールまたは流体取扱いのための摩耗部分としての使用に適した超硬合金が提供される。
【0012】
また、特に流体流部材としての使用を含む、油およびガス生産における部材部分としての使用に適した超硬合金が提供される。
【0013】
それらの目的は、比較的高い硬度、靭性および抗折力(TRS)を有する超硬合金材料によって達成される。特に、本開示による超硬合金材料は、1550~1700HV30の範囲の硬度を含むことができる(ISO3878:1983)。さらに、本発明の超硬合金は、9~11MN/m3/2の範囲の靭性を含むことができる(Palmqvist、ISO28079:2009)。さらに、本発明の超硬合金は、3000N/mm超のTRSを含むことができる(ISO3327:2009)。
【0014】
WCを含む硬質相およびバインダー相を含む超硬合金であって、超硬合金のバインダー相含有量が、7~11wt%の間であり、超硬合金が、5.9~9wt%のNi;0.45~0.75wt%のCr;0.55~0.85wt%のMoおよび85~95wt%または87~94wt%のWCを含み、WCの粒度が、線形切片によって決定された0.1~2μmの範囲であることを特徴とする、超硬合金が提供される。
【0015】
必要に応じて、超硬合金は、WCを残余wt%として含む。
【0016】
本発明の超硬合金は、特に、高い耐浸食性、耐摩耗性および耐腐食性、特に耐湿式浸食性を有する部材、特に流体流を制御する部材としての使用に適している。したがって、本発明の超硬合金は、特に、油およびガス生産における部材としての使用に適している。特に、本発明者らは、列挙される組成物、特にバインダー含有量(硬質相含有量に対する)およびWC粒度に部分的に起因して、列挙される炭化物グレードによって、高い耐キャビテーション性、耐腐食性および耐浸食性が提供されることを特定した。本発明の超硬合金は、著しく増強された耐スラリー浸食性および改善された耐キャビテーション性(靭性に関連する)を有する部材を提供する。
【0017】
超硬合金は、Cr、MoおよびWを、遊離/元素形態の1つもしくは組合せで、または超硬合金のその他の構成要素のいずれかもしくは組合せと組み合わせられた化合物として含む。
【0018】
必要に応じて、WCを含む硬質相およびバインダー相を含む超硬合金であって、超硬合金のバインダー相含有量が、7~11wt%の間であり、超硬合金が、5.9~9wt%のNi;0.45~0.75wt%のCr;0.55~0.85wt%のMo、ならびに存在する場合には不純物レベルのFe、Co、Ti、Nb、Ta、V、Re、Ru、Zr、Alおよび/またはYのいずれか1つまたは組合せからなり、WCの粒度が、線形切片によって決定された0.1~2μmの範囲である、超硬合金が提供される。
【0019】
好ましくは、超硬合金は、炭化物を排他的に含む。好ましくは、超硬合金は、WCを、主な炭化物成分wt%として含む。必要に応じて、超硬合金は、MoおよびCrのいずれか1つまたは組合せの少量wt%の炭化物を含むことができる。
【0020】
必要に応じて、超硬合金は、窒化物および/または炭窒化物を含まない。必要に応じて、超硬合金は、不純物レベルで存在する窒化物および/または炭窒化物を含むことができる。必要に応じて、このような窒化物および/または炭窒化物の不純物レベルは、0.05wt%未満、0.01wt%未満または0.001wt%未満である。必要に応じて、超硬合金は、Ti、ならびにTiの炭化物、窒化物および/または炭窒化物を含まない。好ましくは、超硬合金は、組成的にTiを含まないように、0wt%のTiを含む。
【0021】
必要に応じて、一部の態様では、Ni、CrおよびMoの実質的にすべての、大部分のまたは主な成分wt%は、バインダー相に存在する。すなわち、ある特定の実施形態では、少量または比較的少量(すなわち、10wt%未満、5wt%未満、2wt%未満または1%未満)の、Ni、Crおよび/またはMoのそれぞれの総量wt%は、バインダー相の外側に/バインダー相を超えて存在することができる。このような少量は、硬質相とバインダー相の間の粒界に、または硬質相に存在することができる。
【0022】
必要に応じて、超硬合金の硬質相は、少なくとも85wt%、86wt%、87wt%、88wt%、89wt%、90wt%、91wt%、92wt%、93wt%である。必要に応じて、超硬合金におけるWCの量は、少なくとも85wt%もしくは87wt%であり、または85~95wt%、87~94wt%、88~93wt%もしくは89~92wt%の範囲である。
【0023】
必要に応じて、焼結超硬合金における炭素含有量は、高い耐湿式浸食性、耐摩耗性および靭性にさらに寄与するように所定の範囲内に維持される。必要に応じて、焼結材料の炭素含有量は、微細構造の遊離炭素(上限)およびエータ相の開始点(下限)の間の範囲で保持され得る。このような限界値は、当業者によって認識されよう。
【0024】
必要に応じて、超硬合金におけるCr/(Ni+Cr+Mo)の商wt%は、0.03~0.1;0.04~0.1;0.05~0.1;0.06~0.1または0.07~0.09の範囲である。このCrの相対量は、耐腐食性および耐湿式浸食性を増強すると同時に、油およびガスなどの要求の厳しい用途に必要な硬度および靭性を含む望ましい機械的性質を維持する。
【0025】
必要に応じて、超硬合金におけるMo/(Ni+Cr+Mo)の商wt%は、0.04~0.12;0.04~0.1;0.05~0.1;0.06~0.1または0.07~0.09の範囲である。超硬合金におけるMoの濃度は、耐腐食性および耐湿式浸食性を増強すると同時に、機械的に要求の高い適用に必要な硬度および靭性を含む望ましい機械的性質を維持する。
【0026】
WC硬質相に対するバインダー相の量(wt%)は、靭性を増強すると同時に、要求の厳しい用途に適したレベルに硬度を維持することが見出された。この相対バインダー含有量は、増強された耐腐食性、特に耐湿式浸食性への寄与ももたらす。必要に応じて、超硬合金は、7.0~11.0wt%;7.5~10.5wt%;8.0~10.5wt%;8.5~10wt%または8~10wt%のバインダー相を含むことができる。
【0027】
必要に応じて、最終的な焼結超硬合金におけるWCの粒度は、線形切片によって決定される通り、0.1~2μm;0.2~1.8μm;0.2~1.6μm;0.2~1.4μm;0.2~1.2μm;0.2~1.0μm;0.3~0.9μm;0.4~0.8μm;または0.5~0.7μmの範囲であり得る。必要に応じて、出発WC材料のFSSS粒度は、0.4~2μmまたは0.5~1.5μmの範囲であり得る。このような粒度は、増強された靭性を提供すると同時に、硬度を維持し、せん断(sheer)力およびストレスに耐える能力が増強された超硬合金を構成する。好ましくは、線形切片によって測定された、焼結材料におけるWCの粒度は、0.3~0.9μmの範囲である。
【0028】
必要に応じて、超硬合金は、7.0~8wt%;7.1~7.9wt%;7.2~7.8wt%;7.3~7.8wt%;7.4~7.7wt%;または7.4~7.6wt%の範囲のNiを含む。必要に応じて、超硬合金は、0.55~0.75wt%;0.57~0.73wt%;0.59~0.71wt%;0.61~0.69wt%;または0.63~0.67wt%の範囲のCrを含む。必要に応じて、超硬合金は、0.65~0.8wt%;0.67~0.8wt%;0.7~0.8wt%;0.71~0.79wt%;0.72~0.78wt%;または0.73~0.77wt%の範囲のMoを含む。バインダー含有量およびWC粒度に加えて、特にNi、CrおよびMoの量を含んで列挙される組成物範囲は、油およびガス適用における部材が一般に遭遇する特に高い耐湿式浸食性を示す組成物を提供する。したがって、本発明の超硬合金は、特に、チョーク弁、制御弁、弁座、プラグ座、フラック(frac)座、ケージ、ケージアセンブリ、シールリング、流体および/またはスラリーの通過流を可能にする弁の部材部分のいずれか1つを含む部材としての使用に適している。一態様によれば、本発明の超硬合金は、特に、ダイ、しごき加工(ironing)ダイ、伸線または金属成形における他の部材のためのダイとしての使用を含む、金属成形のためのツールとして使用することができる。
【0029】
WCを含む硬質相およびバインダー相を含む超硬合金であって、超硬合金のバインダー相含有量が、7~11wt%の間であり、超硬合金が、5.9~9wt%のNi;0.45~0.75wt%のCr;0.55~0.85wt%のMoおよび残余としてのWCを含み、WCの粒度が、線形切片によって決定された0.1~2μmの範囲であることを特徴とする、超硬合金が提供される。
【0030】
また、WCを含む硬質相およびバインダー相を含む超硬合金物品を作成する方法であって、該方法が、6~9wt%のNi;0.45~0.75wt%のCr;0.55~0.85wt%のMoおよび残余として含まれるWCに原材料を含む粉末化バッチを調製することと;粉末化バッチを圧縮してプリフォームを形成することと;プリフォームを焼結して物品を形成することとを含み、超硬合金のバインダー相含有量が、7~11wt%の間であり、粉末化バッチに出発物質として含まれるWCの粒径が、FSSSによって決定された0.4~2μmの範囲であることを特徴とする、方法が提供される。
【0031】
また、WCを含む硬質相およびバインダー相を含む超硬合金物品を作成する方法であって、該方法が、6~9wt%のNi;0.45~0.75wt%のCr;0.55~0.85wt%のMoおよび85~95wt%のWCに原材料を含む粉末化バッチを調製することと;粉末化バッチを圧縮してプリフォームを形成することと;プリフォームを焼結して物品を形成することとを含み、超硬合金のバインダー相含有量が、7~11wt%の間であり、粉末化バッチに出発物質として含まれるWCの粒径が、FSSSによって決定された0.4~2μmの範囲であることを特徴とする、方法が提供される。
【0032】
必要に応じて、プリフォームを焼結して物品を形成する工程は、真空またはHIP処理を含む。必要に応じて、焼結の処理は、1360~1500℃の温度および0~20MPaの圧力で処理することを含む。
【0033】
また、本明細書に記載される方法によって製造された、要求の厳しい用途のための物品が提供される。
【0034】
また、本明細書に記載される方法によって得ることができる、超硬合金物品が提供される。
【0035】
必要に応じて、Crは、Cr形態で、粉末化バッチの一部に添加することができる。
【0036】
必要に応じて、該方法は、Cr元素を添加することを含むことができる。このような実装に従って、該方法は、当業者によって認識される通り、微細構造の遊離炭素(上限)およびエータ相の開始点(下限)の間の範囲で焼結超硬合金における望ましい炭素wt%を達成するように、追加の炭素を添加することをさらに含むことができる。必要に応じて、粉末化バッチにおけるFSSSによるWC粒径は、0.4~2μm;0.6~1.8μm;0.8~1.6μm;0.8~1.4μm;または0.8~1.2の範囲であり得る。
【0037】
必要に応じて、本発明の超硬合金は、タングステン超硬合金である。
【0038】
本発明の超硬合金は、さらに、タングステン、チタン、クロム、バナジウム、タンタル、ネオジム、ニオブおよびモリブデンの群から選択される炭化物、窒化物および/または炭窒化物を含むことができる。このような成分は、好ましくは、材料の他の成分に対して大部分のまたは主な成分wt%として超硬合金に含まれるWCに対して、少量wt%の添加剤として粉末バッチに添加することができる。
【0039】
必要に応じて、超硬合金は、鉄、クロム、ニッケル、コバルト、モリブデンまたはそれらの組合せを含む金属相成分を含むことができる。このような成分は、バインダー相に存在することができる。好ましくは、本発明の超硬合金は、Coを組成的に含まないように、コバルトを含まない(すなわち、0wt%またはほぼ0wt%のコバルトを含む)。必要に応じて、超硬合金は、0.01wt%未満、0.05wt%未満、0.01wt%未満またはほぼ0.001wt%未満ほどの不純物レベルのコバルトを含むことができる。
【0040】
必要に応じて、超硬合金は、窒素または窒素化合物を含まない。しかし、超硬合金は、0.1wt%未満、0.05wt%未満または0.01wt%未満などの不純物レベルの、窒化物などの窒素または窒素化合物を含むことができる。
【0041】
必要に応じて、本発明の超硬合金は、さらに、不純物レベルのFe、Ti、Nb、Ta、V、Re、Ru、Zr、Alおよび/またはYのいずれかを含むことができる。これらの元素は、元素、炭化物、窒化物または炭窒化物形態のいずれかで存在することができる。不純物レベルは、超硬合金に存在する不純物の全量について、0.1wt%未満または0.5wt%未満などのレベルである。
【0042】
ここで、本発明の具体的な実装を、単なる例として、以下の添付の図を参照しながら記載する。
【図面の簡単な説明】
【0043】
図1】比較例に加えて、本発明の態様による異なる実施例の材料についての、スラリー浸食に起因する材料損失の体積(mm)を示すグラフである。
図2】比較例に加えて、本発明の態様による異なる実施例の材料についての、キャビテーションによって経時的に誘導される摩耗を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0044】
相対的に高い靭性を有し、増強された耐腐食性および耐浸食性を示す耐摩耗性の超硬合金グレードが提供される。本発明者らは、このような物理的および機械的特性を、WC硬質相に対して7~11wt%の範囲のバインダー相含有量によって達成することができ、その超硬合金が、5.9~9wt%のNi;0.45~0.75wt%のCr;0.55~0.85wt%のMoおよび残余として含まれるWCの組成物を有することを特定した。また、望ましい物理的および機械的特性は、Fisher Model 95 Sub-Sieve Sizer(商標)(FSSS)によって決定される通り、WCの粒度を0.1~2μm、好ましくは0.2~1μmの範囲に制御することによって達成される。特に本発明者らは、これらの焼結超硬合金の粒度が、油およびガス適用において典型的に遭遇する通り、スラリーに曝露された流体流を制御する部材が典型的に遭遇すると思われる湿式浸食に対して増強された抵抗性を提供することを特定している。
【0045】
本発明の超硬合金は、特に、油およびガス生産における部材としての使用を含む、このような部材が腐食および機械的浸食(特に湿式浸食を含む)を受けやすい、潜在的に摩耗度が高い要求の厳しい用途に適合される。また、本発明の炭化物は、金属成形のためのツールとしてまたは流体取扱いのための摩耗部分としての使用に適している。
【実施例
【0046】
ミル加工、圧縮、成形および焼結hip処理を含む従来の粉末冶金方法を使用して、本発明による超硬合金を製造した。比較用試験片に加えて、本発明による超硬合金材料を調製した。
【0047】
試料混合物グレードA~Gのそれぞれを、硬質構成要素を形成する粉末およびバインダーを形成する粉末から調製した。以下の調製方法は、出発粉末化材料:WC95.05g、Cr3C20.61g、Ni6.89g、C0.07g、Mo0.61g、PEG2g、エタノール50mlを有する、以下の表1のグレードEに対応する。それが当業者に可能な粉末化材料の相対量であり、粉末化バッチを作成し、表1の超硬合金の完全に焼結された最終的な組成物を達成するためには、適切な調整が必要とされることが、当業者によって認識されよう。均一混合物が得られ、乾燥およびふるい分けによって顆粒化されるまで、粉末を、潤滑剤および抗凝集剤と共に湿式ミル加工した。乾燥粉末を圧縮して、前述の標準形状による未焼結部分を形成し、SinterHIPを使用して1350~1500℃および5MPaで焼結した。
【0048】
表1は、本発明によるグレードA~Gのさらなる特徴付けと共に、組成物(wt%)を詳細に示す。
【0049】
硬度試験を、ISO3878に従ってグレードA~Gで行い、Palmqvist ISO28079に従って靭性試験を行った。ビッカース押し込み試験を、30kgf(HV30)を使用して実施して、硬度を評価した。Palmqvist破壊靭性を、
に従って計算した。
【0050】
式中、Aは、一定の0.0028であり、HVは、ビッカース硬度(N/mm2)であり、Pは、適用負荷(N)であり、ΣLは、インプリントの亀裂の長さの合計(mm)である。結果は表2に示される。
【0051】
表3は、実施例グレードDを、比較例1~6と共に、様々な異なる組成物およびWC出発物質の粒径に従って詳細に示す。出発物質の粒径は、標準ミル加工および焼結手順に従って低減され、したがって、完全に焼結された最終的な材料の粒度(線形切片によって決定された)は、出発物質の粒径(FSSSによって決定された)未満(最大で、またはおよそ半分)となり得ることが認識されよう。
【0052】
線形切片法(ISO4499-2:2008)は、WC粒度の測定法である。粒度測定は、微細構造のSEM画像から得られる。名目上は二相の材料、例えば超硬合金(硬質相およびバインダー相)について、線形切片技術により粒度分布の情報が得られる。超硬合金の微細構造の較正済み画像に、線を引く。この線が、WCの粒子を切り取る場合、線の長さ(l)を、較正規則を使用して測定する(ここで、1次、2次、3次、...n次粒子について、i=1、2、3、...n)。少なくとも100個の粒子を、測定のために計数した。平均WC粒度は、以下の通り定義される。
【0053】
硬度(ISO3878)、靭性(Palmqvist、ISO28079)およびTRS(ISO3327:2009)試験を、グレードDおよび比較例1~6で行った。抗折力を決定するための試験片は、タイプCのシリンダーであった(40×3mm2の寸法を有する円筒横断面)。試料を、2つの支持体の間に置き、破壊が生じるまで、それらの中心に負荷した(3点曲げ)。最大負荷を記録し、試験当たり最少で5つの試料で平均した。結果は表4に示される。
【0054】
グレードDならびに比較例1、3、4、5および6の腐食率を評価し、結果を表5に示す。試料の表面粗さ(Ra)は、0.036μmであった。腐食率(mm/年)を、以下の模擬試験条件下で、浸漬時間に対する質量損失を用いることによって推定した。
1)曝気条件において、pH6の合成海水(3.56%wtのNaCl)中、25℃において212時間浸漬させた。
2)曝気条件において、pH1の合成海水(3.56%wtのNaCl+0.1MのHSO)中、60℃において212時間浸漬させた。
【0055】
質量損失腐食率(mm/年)を、先の模擬試験条件に従って、次式(ASTMG31-72「実験室での金属の浸漬腐食試験のための標準技法(Standard Practice for Laboratory Immersion Corrosion Testing of Metals)」):
腐食率=8.76×10×((重量損失(g)/(曝露された表面積(cm)×密度(g/cm)×浸漬時間(時))
を使用して推定した。
【0056】
グレードDの耐腐食性を、比較例1、3、4、5および6と共に、曝気条件においてpH1の合成海水(3.56%wtのNaCl)中、25℃において分極(動電位(potentiodymamic))曲線を用いることによって試験した。試料の表面粗さ(Ra)は、0.017μmであった。最初に、開路電位(OCP)を1時間記録し、次に分極抵抗を、OCP前後-5mVから+5mVまで、0.166mV/秒の走査速度で電位を試料に印加することによって推定し、最後に周期分極を、OCPから陽極方向に最大電流5mA/cmまで0.5mV/秒で試料に印加し、次に逆に印加した。結果は表6に示される。
表6-耐腐食性:グレードDならびに比較例1、3、4、5および6のOCP、崩壊または孔食電位、再不動態化電位および分極抵抗
【0057】
表3のグレードの耐湿式(スラリー)浸食性を、湿式スラリー浸食リグを使用して以下の条件下で試験した。
- 3.5%NaClの模擬海水スラリー溶液
- 浸食物サイズ:約181~250μm
- スラリー流量、約41L/分
- ジェット流速、約24m/秒
- スラリー濃度、約2.1%wt/wt
- 実行時間、120分
- 角度、30°
【0058】
結果は、先の条件に従うスラリー浸食試験中の材料損失の体積のグラフである図1に示されている。分かる通り、グレードCは、試験したすべての比較例に対して最小の体積損失を示した。
【0059】
グレードDおよび比較例3~5の耐キャビテーション浸食性を、次式ASTM G32-7(「振動装置を使用するキャビテーション浸食性のための標準試験法(Standard test method for cavitation erosion using vibratory apparatus)」)に従って、3.5%NaCl溶液中25℃で試験した。結果は、標準化累積平均浸食深度(MDE)対キャビテーションホーンへの曝露時間(分)のグラフである図2に示されている。分かる通り、各試料(Dおよび実施例3~5)は、記載される通り耐キャビテーション浸食性の2つの別個の試験に対応する、2組の結果を含む。グレードCは、線12および13によって表される。比較例3は、線10および11によって表される。比較例4は、線14および15によって表される。比較例5は、線16および17によって表される。分かる通り、グレードDのMDE(線12)は、試験したすべてのMDE試料の中で最も低かった。したがって(According)、本発明の超硬合金材料(グレードD)は、増強された靭性および耐腐食性と共に高い摩耗性(耐湿式浸食性)を示した。
【0060】
別途定義がない限り、本明細書で使用されるすべての技術用語および科学用語は、本発明において記載の主題が関係する分野の技術者に一般に理解される意味と同じ意味を有する。
【0061】
別途指示がない限り、「wt%」への任意の言及は、超硬合金の総質量に対する成分の質量画分を指す。
【0062】
ある範囲の値、例えば、濃度範囲、百分率範囲または比率範囲が提供される場合、文脈によって別途明示がない限り、その範囲の上限および下限の間の下限単位の小数までに介在する各値、ならびにその記述される範囲における任意の他の記述されるまたは介在する値は、記載の主題に包含されると理解される。これらのより小さい範囲の上限および下限は、独立して、そのより小さい範囲に含まれてもよく、このような実施形態も、記述される範囲内の特に除外された限界値がある場合はそれを条件として、記載の主題に包含される。記述される範囲が、限界値の一方または両方を含む場合、含まれるそれらの限界値のいずれかまたは両方を除く範囲も、記載の主題に含まれる。
【0063】
先におよび本明細書の他所で使用される「1つの(a)」および「1つの(an)」という用語は、列挙された成分の「1つまたは複数」を指すと理解されるべきである。単数形の使用は、特に別途記述がない限り複数を含むことが、当業者には明らかとなろう。したがって、「1つの(a)」、「1つの(an)」および「少なくとも1つの(at least one)」という用語は、本願では交換可能に使用される。
【0064】
別途指示がない限り、本明細書および特許請求の範囲で使用される、成分の量、サイズ、重量、反応条件などの性質を表すすべての数値は、すべての場合において「約」という用語によって修正されると理解されるであろう。したがって、反対が示されない限り、以下の本明細書および添付の特許請求の範囲に記載される数値パラメーターは、本発明の主題によって得られることが求められる望ましい性質に応じて変わり得る近似である。少なくとも、特許請求の範囲への均等論の原則の適用を制限するものではないが、各数値パラメーターは、報告された有効桁数に照らして、通常の四捨五入技術を適用することによって少なくとも解釈されるべきである。
【0065】
本出願を通して、様々な実施形態の説明では「含む(comprising)」という言語が使用されるが、ある場合には代替として、「から本質的になる(consisting essentially of)」または「からなる(consisting of)」という言語を使用して実施形態が説記載され得ることが、当業者によって理解されよう。
【0066】
こうして本発明の主題を記載してきたが、本発明の主題は、多くのやり方で修正され得るか、または変えられ得ることが明らかとなろう。このような修正形態および変更形態は、本発明の主題の精神および範囲からの逸脱とみなされるべきではなく、このようなすべての修正形態および変更形態は、以下の特許請求の範囲に含まれることが企図される。
図1
図2