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特許7483718精製所に組み込まれたフィッシャー・トロプシュ過程による液体炭化水素の生成方法
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  • 特許-精製所に組み込まれたフィッシャー・トロプシュ過程による液体炭化水素の生成方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-07
(45)【発行日】2024-05-15
(54)【発明の名称】精製所に組み込まれたフィッシャー・トロプシュ過程による液体炭化水素の生成方法
(51)【国際特許分類】
   C10G 2/00 20060101AFI20240508BHJP
   C01B 3/38 20060101ALI20240508BHJP
【FI】
C10G2/00
C01B3/38
【請求項の数】 16
(21)【出願番号】P 2021537449
(86)(22)【出願日】2019-09-11
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-01-04
(86)【国際出願番号】 BR2019050387
(87)【国際公開番号】W WO2020051663
(87)【国際公開日】2020-03-19
【審査請求日】2022-09-09
(31)【優先権主張番号】BR1020180683349
(32)【優先日】2018-09-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】BR
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】591005349
【氏名又は名称】ペトロレオ ブラジレイロ ソシエダ アノニマ - ペトロブラス
(74)【代理人】
【識別番号】100145713
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 竜太
(74)【代理人】
【識別番号】100165157
【弁理士】
【氏名又は名称】芝 哲央
(74)【代理人】
【識別番号】100120684
【弁理士】
【氏名又は名称】宮城 三次
(72)【発明者】
【氏名】ポンテス ビッテンコート,ロベルト カルロス
【審査官】上坊寺 宏枝
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第107365597(CN,A)
【文献】特表2004-534874(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0005838(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第101733121(CN,A)
【文献】米国特許出願公開第2007/0010590(US,A1)
【文献】特開2009-221036(JP,A)
【文献】特表2007-519805(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0291295(US,A1)
【文献】特表平11-513730(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2003/0087971(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10G 2/00
C01B 3/32-3/48、3/56
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水蒸気改質水素生成装置を含む精製装置に組み込まれたフィッシャー・トロプシュ装置におけるフィッシャー・トロプシュ過程によって、炭化水素を原料とした、HおよびCOを主成分とする混合物からなる合成ガスを変換して液体炭化水素を生成する方法であって、前記精製装置を循環する、前記水蒸気改質水素生成装置における水蒸気改質水素生成過程からのガス流を前記フィッシャー・トロプシュ過程の原料として再循環させることを含み、前記ガス流は、前記水蒸気改質水素生成過程の圧力スイング吸着(Pressure Swing Adsorption; PSA)区間からのものであって、二酸化炭素含有量が少なくとも20%であり、水素含有量が50%v/v未満のものである、方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法であって、前記水蒸気改質水素生成過程からの前記ガス流が、25から35%の水素と、35から55%の二酸化炭素と、10から30%のメタンと、8から15%の一酸化炭素とを含む、前記水蒸気改質水素生成装置に返送されるパージガス流である、方法。
【請求項3】
請求項2に記載の方法であって、H:COの比の値(H/CO(mol/mol))が1.2~5.5mol/molである、方法。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載の方法であって、前記フィッシャー・トロプシュ過程が、
前記水蒸気改質水素生成過程から生じる前記原料を、0.5kgf/cm(0.049MPa)から4~40kgf/cm(0.39MPa~3.92MPa)の圧力で圧縮することと、
前記圧縮された原料を前記フィッシャー・トロプシュ装置のフィッシャー・トロプシュ反応器に供給し、触媒と接触させることと、
随意に、得られた液体生成物を、液体炭化水素を含む油性の流れと、水性の流れとに分離することと、
を含む、方法。
【請求項5】
請求項2~4のいずれか1項に記載の方法であって、非圧縮の前記パージガス流の一部が前記水蒸気改質水素生成装置の改質炉の燃料を構成するために搬送される、方法。
【請求項6】
請求項5に記載の方法であって、軽質炭化水素を含む未変換の残留ガス留分が、非圧縮の前記パージガス流の一部とともに前記水蒸気改質水素生成装置の改質炉の燃料を構成するために返送されるか、または随意に軽質アルケン回収区間に搬送される、方法。
【請求項7】
請求項4~6のいずれか1項に記載の方法であって、前記フィッシャー・トロプシュ反応器で使用される前記触媒が、酸化アルミニウム、チタン、アルミネート、シリカ、ジルコニア、またはそれらの混合物を含む各種担体上に担持された各種コバルト化合物の中から選択される、方法。
【請求項8】
請求項7に記載の方法であって、前記触媒が、Pt、ReまたはRuの中から選択された貴金属を促進剤としてさらに含む、方法。
【請求項9】
請求項4~6のいずれか1項に記載の方法であって、前記フィッシャー・トロプシュ反応器で使用される前記触媒が、シリカ、銅、貴金属、および、酸化カリウム、酸化銅、シリカ、酸化亜鉛、またはそれらの組み合わせの中から選択された促進剤を随意に含む各種鉄化合物の中から選択される、方法。
【請求項10】
請求項4~9のいずれか1項に記載の方法であって、前記フィッシャー・トロプシュ反応器が、スラリー反応器、流動床反応器、固定床反応器、または移動床反応器のコンパクトな各種反応器から選択される、方法。
【請求項11】
請求項4~8のいずれか1項に記載の方法であって、前記フィッシャー・トロプシュ反応器における反応の温度が、180℃から300℃であり、圧力が4から30kgf/cm(0.39~2.94MPa)である、方法。
【請求項12】
請求項4~6または請求項9のいずれか1項に記載の方法であって、前記フィッシャー・トロプシュ反応器における反応の温度が、250℃から400℃の間である、方法。
【請求項13】
請求項1~12のいずれか1項に記載の方法であって、前記液体炭化水素が、ガソリン、ディーゼル油、および潤滑油である、方法。
【請求項14】
請求項1~13のいずれか1項に記載の方法であって、前記水蒸気改質水素生成過程からの前記ガス流が、既設の前記精製装置からのものである、方法。
【請求項15】
請求項4に記載の方法であって、請求項4に記載した前記フィッシャー・トロプシュ過程で得られた液体炭化水素を含む前記油性の流れが、既存の前記精製装置における蒸留区間、水素化処理区間および廃水処理区間を含む各精製区間に搬送される、方法。
【請求項16】
請求項4に記載の方法であって、請求項4に記載した前記フィッシャー・トロプシュ過程で生成された前記水性の流れが、前記精製装置の既存の酸性水生成器に搬送される、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、精製所に組み込まれたフィッシャー・トロプシュ過程を用いた液体炭化水素の生成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
フィッシャー・トロプシュ合成反応は、その技術的で科学的な興趣により、多くの注目を集めてきた。この興趣は、炭化水素を、高品質で合計価額の高い液体生成物に変換することと関係している。当該反応は、合成ガスからガソリンやディーゼル油、潤滑油といった液体炭化水素を生成するために、一酸化炭素(CO)の接触水素化を必要とする。フランツ・フィッシャー(Franz Fischer)およびハンス・トロプシュ(Hans Tropsch)によって最初の発明がなされて以来、多くの改良や調整が行われてきた。
【0003】
基本的に、HおよびCOを主成分とする混合物からなる合成ガスを変換するためのフィッシャー・トロプシュ反応は、以下の包括的な反応式によって特徴づけることができる。
2H+CO→-CH-+H
【0004】
フィッシャー・トロプシュ反応で生成される炭化水素は、メタンから、100個以上の炭素原子を含むパラフィン系炭化水素までさまざまである。
【0005】
フィッシャー・トロプシュ反応は、伝統的な固定床反応器、流動床反応器または移動床反応器や、懸濁気泡塔型の気液固三相反応器、そして最近ではいわゆるマイクロチャネル反応器または「ミリチャネル」反応器(「積層型多流路反応器」)を含む、いくつかの種類の反応器で行うことができる。
【0006】
現在、各種化学薬品や直鎖アルケン、ガソリン、ディーゼル油、潤滑油を生産する、大規模なフィッシャー・トロプシュ反応経路を基礎とした操業中の工業団地群が、南アフリカ(生産能力750万トン/年)やマレーシア(生産能力50万トン/年)、カタールにある。
【0007】
通常、フィッシャー・トロプシュ過程は、合成ガスの生成、合成ガスの浄化、フィッシャー・トロプシュ合成、および生成物の処理という、4つの主な区間を備える。フィッシャー・トロプシュ過程の資本コストの60~70%近くは、天然ガスから生成されたか、あるいは石炭から生成されたかにかかわらず、合成ガスの生成段階と関係している。フィッシャー・トロプシュ合成部のコストは総コストの20%近くを占めており、精製作業は10%ほどである。精製作業は、水素化処理、ディーゼル油の生成のための水素化異性化(Hydroisomerization)、および各種重質留分を変換するための水素化分解の各段階を含む。
【0008】
実際、フィッシャー・トロプシュ法を導入し、実施するための高い資本コストは、石油への外部依存を減じたり、広範囲に渡って過剰に生産されている天然ガスを遠隔地域で評価したりするための戦略的な状況において、その使用に制約を加えている。一例として、石炭(12,000トン/日)およびバイオマス(1,412トン/日)を使用した50,000バレル/日のフィッシャー・トロプシュ装置(「FT装置」)のための推定投資額は、58億米ドルである。
【0009】
フィッシャー・トロプシュの触媒や方法に関する文献は、1954年には4000種近くもの出版物や、同程度の数の特許が存在したように、大量にある。しかし、周知であるにもかかわらず、フィッシャー・トロプシュ法の分野におけるイノベーションの可能性は、依然として高い。最近の特許は、例えば、液体生成物から分離されたガス(以下、「テールガス」)の燃料や、合成ガスの生産部門への供給原料、軽質炭化水素またはその他の成分の回収、といった技術の利用についてのテーマに関するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】米国特許出願公開第2016/0293985号明細書
【文献】米国特許出願公開第2016/0003480号明細書
【文献】米国特許第9,328,291号明細書
【文献】米国特許出願公開第2010/0108568号明細書
【文献】欧州特許第2,487,225号明細書
【文献】米国特許第6,043,288号明細書
【文献】ブラジル特許出願公開第PI0508327-3号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
さらに、フィッシャー・トロプシュ法のコストの削減に努める方法と、より高いエネルギー効率の達成に努める方法との統合が明らかにされている。特許文献1は、フィッシャー・トロプシュ法と、固体酸化物燃料電池法を用いて合成ガスを生成する方法との統合を教示している。
【0012】
特許文献2は、フィッシャー・トロプシュ法によるガス化と熱電併給との統合を、順に教示している。
【0013】
特に、フィッシャー・トロプシュ過程と精製過程との統合と比較して、その技術水準で教示されているいくつかの経路がある。
【0014】
特許文献3は、精製所で生成される重質留分(瀝青、重油、またはコークス)の、ガス化法による合成ガスの生成への利用法と、それをフィッシャー・トロプシュ過程で利用する方法とを教示している。
【0015】
特許文献4は、航空灯油を生産する目的での、水素化分解、オリゴマー化、アルキル化、および水素化処理と、フィッシャー・トロプシュ過程との統合を教示している。
【0016】
特許文献5は、フィッシャー・トロプシュ過程で生成されたナフサ留分を、中間留分(ディーゼル油および航空灯油)の生産量を最大化するために合成ガス生成装置の原料として利用する方法を教示している。
【0017】
さらに、フィッシャー・トロプシュ過程で利用するための合成ガスを生成する方法が、水蒸気改質のための代替方法とともに記載されている。
【0018】
特許文献6は、ガス状の炭化水素、酸素、および、随意で水蒸気の流れを反応させることによって合成ガスを生成するための方法を教示している。当該方法は、一般的には、触媒を使用する場合には自己熱改質として知られる方法に、触媒が存在しない場合には部分酸化として知られる方法に、分類することができる。これらの方法は、高価な酸素を使用するという工業的な観点からは不都合である。
【0019】
特許文献7は、二酸化炭素を透過する1つ以上の逆選択性膜を用い、これにより流れを他の構成要素に濃縮して、低濃度の水素を含む流れから富水素流を生成するための方法を明らかにしている。低濃度の水素を含むガスは、フィッシャー・トロプシュ区間から来ることができる。
【0020】
したがって、フィッシャー・トロプシュ法に関する多くの専門的な引用や説明が文献中にあるという事実にもかかわらず、小規模な装置でフィッシャー・トロプシュ誘導体を生成するために低廉な原料を使用した方法や、それらを既存の精製装置と統合する方法を提供する必要性は依然として存在する。
【課題を解決するための手段】
【0021】
本発明は、既存の水素生成装置に組み込まれたフィッシャー・トロプシュ過程によって液体炭化水素を生成するための方法に関し、特に、水蒸気改質水素生成過程が原因で生じる再循環流を含む方法に関する。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】水蒸気改質水素生成過程を簡単に示すフローチャートである。
図2】フィッシャー・トロプシュ過程と、水蒸気改質水素生成装置との統合を簡単に示すフローチャートである。
図3】水蒸気改質水素生成装置からのパージガスを使用した液体副産物の生成において、本発明に従ってフィッシャー・トロプシュ区間で使用される圧力および温度の影響を示すグラフである。
【0023】
以下に示す詳細な説明は、添付の図を参照している。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明は、水素生成装置に組み込まれたフィッシャー・トロプシュ過程を通じて液体炭化水素を生成するための方法であって、特に、小規模なフィッシャー・トロプシュ過程において、水蒸気改質水素生成過程が原因で生じる再循環流を原料として含む方法に関する。
【0025】
図1に示すように、水素生成過程は、天然ガスや液化石油ガス(Liquefied Petroleum Gas; LPG)、製油所ガス、ナフサといった炭化水素の流れ(図1の流れ1)を、水素生成装置自体で生成された水素の一部(図1の流れ2)とともに、触媒および各種固定床反応器向け吸収剤を含む前処理反応器に最初の原料として供給することで開始する。この反応器の主な機能は、硫黄を含む有機化合物および無機化合物を除去することである。
【0026】
しかしながら、供給原料の種類に応じて、前記の反応器は、各種塩化物や各種オレフィンを除去する機能も有することがある。
【0027】
典型的な動作条件は、約10kgf/cm(0.98MPa)から約40kgf/cm(3.92MPa)の間の値の圧力、および約250℃から約400℃の範囲の温度を必要とし、さまざまな結晶形のCoMo/アルミナ触媒、またはNiMo/アルミナ触媒を含む。
【0028】
炭化水素原料、再循環水素、および水素生成装置自体の熱回収区間で生成された水蒸気の混合物は、一次改質炉に供給される(図1の流れ3)。この改質炉は、典型的には101.2mmの直径と8から12mの高さとを持ち、内部にはニッケルを含む固定床触媒がアルミナ、アルミン酸カルシウム、マグネシウムなどの耐火性担体に担持されている、一揃いのパイプを含む炉からなり、以下に例示する、(1)改質反応および(2)シフト反応という主要な反応を引き起こす。
(1)改質反応 C2m+nHO→nCO+H2(m+n)
(2)シフト反応 CO+HO→CO+H
【0029】
水蒸気は、触媒へのコークスの蓄積を防ぐために、上記反応((1)および(2))の化学量論上、過剰に本過程に供給される。一次改質炉の区間における典型的な動作条件は、約450℃から約550℃の間(パイプ入口)、および800℃から950℃の間(パイプ出口)の温度と、約10kgf/cm(0.98MPa)から約40kgf/cm(3.92MPa)の圧力と、2から5mol/molの水蒸気/炭素比と、である。上記反応((1)および(2))は、総合的に見て十分に吸熱されており、必要な熱は、いわゆる「パージガス」(図1の流れ10)で大部分が構成され、たいていは天然ガスや製油所ガスといった外部燃料によって補完されている燃料を燃焼することによって供給される。
【0030】
改質炉から排出されたプロセスガス(図1の流れ4)は、熱力学的平衡に近い組成を有する、CH、CO、CO、H、および水蒸気の混合物である。改質炉からの出口温度が約840℃、圧力が約25.2kgf/cm(2.47MPa)、水蒸気/炭素比が約3.0mol/molの条件下では、改質炉の排出物組成は、乾燥基準(%v/v)で、70.2%のH、12.3%のCO、8.9%のCO、および8.4%のCHである。このガスは、ボイラー水から発生する水蒸気で冷却された後、「シフト」反応器に供給される(図1の流れ5)。
【0031】
シフト反応器は、典型的には、鉄、クロム、および銅の酸化物を基礎とする触媒(「高温シフト」)を含み、COの変換反応(反応(2))に触媒作用を及ぼす。典型的な動作条件は、温度が約330℃(入口)から約450℃(出口)の間であり、圧力が約10kgf/cm(0.98MPa)から約40kgf/cm(3.92MPa)の間である。反応器からの排出組成物(図1の流れ6)は、熱力学的平衡に近い組成を有する、CH、CO、CO、H、および水蒸気の混合物である。反応器からの出口温度が約425℃、圧力が約24.4kgf/cm(2.39MPa)、および改質炉内の水蒸気/炭素比が約3.0mol/molのとき、シフト反応器からの排出物組成は、乾燥基準(%v/v)で、72.5%のH、3.5%のCO、16.0%のCO、および7.8%のCHである。
【0032】
シフト反応器から排出された流れ(図1の流れ6)は、次に、約20から約45℃の通常の温度に冷却され、液化分離装置に搬送されて、そこで水性の流れ(図1の流れ7)が生成されるとともに、ガス流(図1の流れ8)が生成される。水性の流れは処理してもよく、さらに、装置自体の水蒸気発生システムに再循環するか、または精製所のボイラー水処理設備に搬送してもよい。ガス流(図1の流れ8)は、次に、本過程で生成された水素の分離および回収のために「圧力スイング吸着(Pressure Swing Adsorption; PSA)」区間に搬送される。
【0033】
圧力スイング吸着区間は、酸化アルミニウム、活性炭、およびゼオライトからなる床に吸着材を含むいくつかの反応器で構成されており、99.99%よりも高純度な高圧水素流と、CH、CO、CO、およびHで構成され、燃料として改質炉に返送される、低圧のいわゆるパージガス(図1の流れ10)を含むガス流と、を分離することができる。パージガスの組成は、通常、25から35%のH、35から55%のCO、10から30%のCH、および8から15%のCOである。
【0034】
パージガスは大量に生成される。例えば、小規模な水素生成装置(550,000Nm/日)のための、生成された水素に対するパージガスの標準的な容積比は、0.64(Nm/Nm)であり、すなわち、約350,000Nm/日のパージガスが生成される。水蒸気改質過程による、より大規模な水素生成装置は、生成される水素がおよそ3,500,000Nm/日の値に達する可能性があり、これは現在の技術では、本装置内で燃料として使用される副産物である、会合状態のパージガスの2,000,000Nm/日以上に相当する。
【0035】
したがって、本発明の目的は、精製装置、好ましくは既存の精製装置に組み込まれた小規模なフィッシャー・トロプシュ過程によって液体炭化水素を生成する方法であって、水蒸気改質水素生成過程からのガス流、好ましくはパージガスのような水蒸気改質水素生成過程の圧力スイング吸着区間から来るガス流をフィッシャー・トロプシュ過程の原料として再循環させ、当該ガス流は、二酸化炭素含有量が少なくとも20%であり、水素含有量が好ましくは50%v/v未満である方法を提供することである。
【0036】
図2は、精製装置に組み込まれたフィッシャー・トロプシュ過程による液体炭化水素の生成過程を示している。この過程では、特に、水蒸気改質水素生成装置の圧力スイング吸着区間から来る(図2の流れ12)パージガスを、フィッシャー・トロプシュ過程の唯一の原料として再循環させることを行っており、このパージガスは、約0.5kgf/cm(0.049MPa)未満から、約4kgf/cm(0.39MPa)~約40kgf/cm(3.92MPa)の標準的な圧力で圧縮に供される。随意で、パージガス流の一部は圧縮されず(図2の流れ13)、改質炉の燃料を構成するために搬送される。圧縮されたパージガスは、次に、フィッシャー・トロプシュ反応器に供給され、そこでHおよびCOを変換する触媒と接触して、ガソリン、ディーゼル油、潤滑油のような炭化水素を含む液体生成物へと変換される(図2の流れ15)。
【0037】
液体留分(図2の流れ15)は、合成油と呼ばれる、ナフサからワックスまでの蒸留範囲を含む液体炭化水素の混合物からなり、さまざまな量の各種含酸素化合物および水も含有することができる。この流れは、ガソリン、ディーゼル油、および潤滑油の各種留分が得られる専用の分離過程に送られてもよく、これらは硫黄を含まないため、精製所からの最終的な液体副産物の流れを直接混合して構成されてもよい。あるいは、固定投資を削減することが目的である場合、合成油は、精製所の既存の装置で処理されてもよい。
【0038】
固定投資の低減を目的とした好ましい選択肢では、フィッシャー・トロプシュ区間で生成された液体生成物は、最初に水性の流れと油性の流れとに分離された後、これらは精製所の既存の装置、好ましくは蒸留区間、水素化処理区間、および廃水処理区間に搬送される。一例として、油性の流れ(合成油)は精製所の蒸留装置に返送され、蒸留留分は、ガソリン、ディーゼル油、および潤滑油の水素化処理装置の原料を構成する。水性の流れは、適切に処理するために、精製所の既設の酸性水装置に搬送されてもよい。当業者は、既存の精製所で合成油を処理するための他のいくつかの計画を、既存の装置の種類および特性と相関関係を有するものとして行うことができる。この過程で生成された、分子量がペンタン以下の軽質炭化水素を含む未変換のガス留分は、好ましい選択肢では「テールガス」として知られ、水素生成過程に返送されて改質炉の燃料を構成する(図2の流れ14)。別のオプションでは、テールガスは、軽質アルケン回収区間に搬送されてもよい。
【0039】
フィッシャー・トロプシュ反応は、固定床(「多管式固定床」)反応器や移動床反応器、「スラリー床」反応器、循環流動床(Circulating Fluidized Bed; CFB)反応器、固定流動床(Fixed Fluidized Bed; FFB)反応器といった、周知で広く使用されている各種反応器で実施することができる。「ミリチャネル」型または「マイクロチャネル」型のコンパクトな各種反応器(「積層型多流路反応器」)は、本発明で求められる生産能力の点で特に好ましい。
【0040】
フィッシャー・トロプシュ反応は、好ましくは、酸化アルミニウム、チタン、アルミネート、シリカ、ジルコニア、またはそれらの混合物を含む各種担体上に担持された、酸化コバルトを含む触媒を使用し、また、促進剤としてPt、ReまたはRuなどの貴金属をその組成中に含んでいてもよく、約180℃から約300℃、好ましくは約190℃から250℃の間の温度、および約4kgf/cm(0.39MPa)から約30kgf/cm(2.94MPa)の間の圧力で動作する。このような取り合わせは、反応の際に副生成物として生成される含酸素化合物の生成量が少ないディーゼル油やワックスの生産に特に好ましい。また、フィッシャー・トロプシュ段階のコバルト系触媒は、Pt、Re、またはRuの中から選択された貴金属を促進剤として含む。また、好ましくは、「シフト」反応の発生を有利にするために、促進剤としての銅や、ワックス含有量を低減するためのゼオライト、またはそれらの組み合わせを含んでいてもよい。あるいは、フィッシャー・トロプシュ区間の触媒は、酸化鉄系であってよく、シリカ、銅、各種貴金属、および、酸化カリウム(KO)、酸化銅、シリカ、酸化亜鉛、またはそれらの組み合わせの中から選択されたアルカリ金属からなる促進剤を含んでいてもよい。この場合、当該区間は、好ましくは約250℃から約400℃の間、より好ましくは約300℃から350℃の間の温度で動作する。
【0041】
フィッシャー・トロプシュ区間は、目的が固定費を削減することであるか、または各種液体生成物からの収量を最大化することであるかにそれぞれ応じて、1つまたは複数の反応段階を含んでいてもよい。
【0042】
フィッシャー・トロプシュ区間は、通常、希釈された空気を通過させることと、約200℃から約400℃の間の温度と、Hおよび/または希釈されたパージガスで触媒を還元することとによってコークスを除去するために、触媒再生手段を含む必要がある。
【0043】
天然ガスを燃焼させる水蒸気改質炉からフィッシャー・トロプシュ過程に供給されるパージガスは、メタン、水素、一酸化炭素および二酸化炭素を含み、好ましくは二酸化炭素含有量が少なくとも20%であり、水素含有量は、好ましくは50%v/v未満である。より具体的には、パージガスの組成は、標準的には、25から35%のH、35から55%のCO、10から30%のCH、および8から15%のCOを含み、H:CO比は約1.2から5.5mol/molの間である。
【0044】
本発明は、既設の水素装置に変更を加えることなく、また、フィッシャー・トロプシュ装置からの各種生成物および排水のための蒸留区間および各処理区間を必要とせずに、小規模なフィッシャー・トロプシュ過程を既存の精製装置に組み込むことを可能にする。本過程の固定費を削減することが望まれるシナリオでは、パージガスを大量に変換することは、パージガスを燃焼に使用する改質炉のバーナーを、天然ガスなどの別の燃料を燃焼させるものに交換する必要があるために好ましくない。
【0045】
公称容量未満で動作し、パージガスのH:CO比を低減するための「圧力スイング吸着」システムの容量が過剰な既存の水素生成装置に特に有用な選択肢の1つは、COの「排出」が確認されるまで、シフト反応器からの入口温度を下げることである。市販の高温シフト触媒(High Temperature Shift Catalysts; HTS)の場合、COを逃がし、その結果、H:CO比を低下させるために、温度を約280℃から約300℃の間で加減することができる。
【0046】
(実施例)
以下の各実施例は、本発明のさまざまな実施形態を示している。
【0047】
(実施例1)
この実施例は、本発明による方法の構成を説明するものである。表1に提示した「設計」の生産能力で動作する、99.99%のHの、1,100,000Nm/日の生産能力の水蒸気改質過程による工業用水素生成装置は、その技術水準に従って、表1に記載された組成の1099.12kmol/時間のパージガスを生成する。本発明のパージガスは、コバルト系触媒を使用し、200℃の温度および5bar(0.5MPa)の圧力で動作する、小規模なフィッシャー・トロプシュ装置に搬送することができる。フィッシャー・トロプシュ過程が原因で生じるガス留分は、燃料として改質炉に戻すことができ、水蒸気改質段階に必要な反応熱を提供するために、天然ガスで補完することができる。この過程は、コスト削減のために精製所の蒸留区間に返送されるか、または分離して精製されることが好ましい、約487.5kg/時間のガソリン、46.1kg/時間のディーゼル油、および0.2kgのパラフィンを含む混合物を生産することができる。フィッシャー・トロプシュ過程が原因で生じる(液化された)水性留分は、精製所の廃水処理区間、または酸性水区間に搬送できることが好ましい。
【0048】
以下の表1は、水蒸気改質過程による水素生成装置からのパージガスを使用したフィッシャー・トロプシュ過程からの各種液体誘導体の生産を示している。
【表1】
【0049】
(1)天然ガスの組成(%v/v)は、CH=89.85、C=8.04、C=0.42、CO=0.69、およびN=1.0であり、燃料ガスのCp=0.501kcal/kg℃である。(2)コバルト系触媒は、パージガスに含まれるCOの80%を変換すると仮定した場合、温度200℃、および圧力5barで使用する。(3)「本発明」の場合、パージガスは、フィッシャー・トロプシュ区間が原因で生じる残留ガスを意味する。各流れは、図2に示した番号を参照している。
【0050】
(実施例2)
この実施例では、各種液体誘導体をより多く生産するために、水蒸気改質区間の過程条件(水蒸気/炭素比)が、本発明に従って調整される。
【0051】
以下の表2は、水蒸気改質過程による水素生成装置からのパージガスを用いたフィッシャー・トロプシュ過程からの各種液体誘導体の生成を示している。
【表2】
【0052】
(1)天然ガスの組成(%v/v)は、CH=89.85、C=8.04、C=0.42、CO=0.69、およびN=1.0であり、燃料ガスのCp=0.501kcal/kg℃である。(2)コバルト系触媒は、パージガスに含まれるCOの80%を変換すると仮定した場合、温度200℃、および圧力5barで使用する。(3)「本発明」の場合、パージガスはフィッシャー・トロプシュ区間が原因で生じる残留ガスを意味する。
【0053】
(実施例3)
この実施例では、本発明に従ってフィッシャー・トロプシュ区間の過程条件(圧力および温度)を変更し、液体副産物の生成に与える影響を定量化する。装置からのデータは、表1で「設計」条件として提示したものであり、その結果は図3に示した通りである。
【0054】
本明細書に記載された発明から分かるように、本発明の解決策は、水素生成処理、蒸留処理および水素化処理において、小規模なフィッシャー・トロプシュ過程を精製所の既存の装置に組み込むことで、液体炭化水素の生成量の増加を低投資で提供する。したがって、車両からの各種排出物質を削減する、硫黄を含有しない高品質の液体燃料を得ることができる。
【0055】
さらに、フィッシャー・トロプシュ過程で原料として使用するために、コストの高い専用の合成ガス生成装置を使用することは避けられる。これは小規模生産を指すことから、既存の蒸留精製装置の各区間の隙間を利用した分離区間および精製区間や、水素化処理区間、廃水処理区間への投資は避けられ、経済的なフィッシャー・トロプシュ過程とすることができる。さらに、小規模なフィッシャー・トロプシュ過程であれば、フィッシャー・トロプシュ過程に関連した合成ガスの生成を構成する大規模な複合施設と異なり、緊急停止してもさしたる支障はない。いくつかの精製所に小規模な装置を設置することで、高い生産量を得ることができる。
【0056】
本願の保護範囲に対しては、種々の変形が可能である。したがって、本発明が上述した具体的な構成/実施形態に限定されない、という事実が補強される。
図1
図2
図3