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特許7483736活性電極減極剤をもつ再充電可能なバッテリセル
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-07
(45)【発行日】2024-05-15
(54)【発明の名称】活性電極減極剤をもつ再充電可能なバッテリセル
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/056 20100101AFI20240508BHJP
   H01M 4/133 20100101ALI20240508BHJP
   H01M 4/134 20100101ALI20240508BHJP
   H01M 4/136 20100101ALI20240508BHJP
   H01M 4/40 20060101ALI20240508BHJP
   H01M 4/42 20060101ALI20240508BHJP
   H01M 4/46 20060101ALI20240508BHJP
   H01M 4/48 20100101ALI20240508BHJP
   H01M 4/587 20100101ALI20240508BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20240508BHJP
【FI】
H01M10/056
H01M4/133
H01M4/134
H01M4/136
H01M4/40
H01M4/42
H01M4/46
H01M4/48
H01M4/587
H01M4/62 Z
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2021550306
(86)(22)【出願日】2020-02-26
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-04-15
(86)【国際出願番号】 EP2020055035
(87)【国際公開番号】W WO2020174008
(87)【国際公開日】2020-09-03
【審査請求日】2021-08-27
(31)【優先権主張番号】19159989.3
(32)【優先日】2019-02-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】521380247
【氏名又は名称】インノリス・テクノロジー・アー・ゲー
【氏名又は名称原語表記】INNOLITH TECHNOLOGY AG
【住所又は居所原語表記】HIRZBODENWEG 95, 4052 BASEL, SWITZERLAND
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】弁理士法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】ツィンク,ローラン
(72)【発明者】
【氏名】プスツォッラ,クリスチアン
(72)【発明者】
【氏名】ボルク,マルクス
(72)【発明者】
【氏名】ラマール,ヴィスワナータン
【審査官】鈴木 雅雄
(56)【参考文献】
【文献】特開昭63-236276(JP,A)
【文献】特開2001-013015(JP,A)
【文献】特表2008-508672(JP,A)
【文献】特表2013-519968(JP,A)
【文献】特表2016-532279(JP,A)
【文献】特開2018-056107(JP,A)
【文献】韓国登録特許第10-1899212(KR,B1)
【文献】DEY,A.N. et al.,Inorganic Electrolyte Li/SO2 Rechargeable System,Journal of The Electrochemical Society,1988年,135(9),p.2115-2120
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/056
H01M 4/133
H01M 4/134
H01M 4/136
H01M 4/40
H01M 4/42
H01M 4/46
H01M 4/48
H01M 4/587
H01M 4/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハウジング(1)と、少なくとも一つの正極(4)と、少なくとも一つの負極(5)と、活性電極減極剤として働く二酸化硫黄系電解質とを含む再充電可能なバッテリセルであって、
前記正極(4)が、三次元多孔質金属構造をもつ伝導要素(41)を含み
前記正極(4)が炭素を含み、少なくとも0.2mmの厚みを有し、
前記正極を作製するのに使用される前記炭素の比表面積は、少なくとも600/gであり、
前記正極は多孔質であり、該正極の孔隙率は、少なくとも70%であり、
前記伝導要素(41)の前記多孔質金属構造は炭素を含み、該炭素は、前記多孔質金属構造内に均質に分布されている、ことを特徴とする、再充電可能なバッテリセル。
【請求項2】
炭素と、少なくとも一つのさらなる化学元素、または該化学元素を含む金属酸化物の形の少なくとも一つの化合物とを含む正極(4)によって特徴づけられる再充電可能なバッテリセルにおいて、
前記化学元素が、バナジウム、ニッケル、銅、マグネシウム、マンガン、チタン、アルミニウム、鉛、パラジウム、タングステン、およびクロムからなる群から選択され、
前記さらなる化学元素または該化学元素を含む前記化合物が、電極の前記炭素の総重量に対して、1~20重量%の濃度で存在することを特徴とする、請求項1に記載の再充電可能なバッテリセル。
【請求項3】
前記多孔質金属構造が、前記正極の厚みの少なくとも70%にわたって延在することを特徴とする、請求項1または2に記載の再充電可能なバッテリセル。
【請求項4】
前記正極(4)の炭素の量は、その表面積を基準として、少なくとも2mg/cmであることを特徴とする、請求項1~の何れか一項に記載の再充電可能なバッテリセル。
【請求項5】
前記正極(4)は、
フッ素化結合剤、
共役カルボン酸のモノマー構造単位、またはこの共役カルボン酸のアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、またはアンモニウム塩のモノマー構造単位、またはそれらの組み合わせのモノマー構造単位から構成されるポリマーからなる結合剤、
スチレンおよびブタジエンモノマー構造単位を主成分とするポリマーからなる結合剤、および、
カルボキシメチルセルロースからなる群から選択される結合剤、
からなる群から選択される結合剤を含み、
前記結合剤は、電極の合計重量に対して、20重量%の最大濃度で存在することを特徴とする、請求項1~の何れか一項に記載の再充電可能なバッテリセル。
【請求項6】
前記二酸化硫黄系電解質は、アルカリ金属またはアルカリ土類金属のアルミン酸塩、ハロゲン化物、シュウ酸塩、ホウ酸塩、リン酸塩、ヒ酸塩、および没食子酸塩からなる群から選択される伝導塩を含む、請求項1~の何れか一項に記載の再充電可能なバッテリセル。
【請求項7】
二酸化硫黄を主成分とする電解質は、伝導塩1モルあたり、少なくとも0.5モルのSOかつ20モル以下のSOを含むことを特徴とする、請求項1~の何れか一項に記載の再充電可能なバッテリセル。
【請求項8】
前記二酸化硫黄系電解質は、アルカリ金属ハロゲン化物またはアルカリ土類金属ハロゲン化物または元素周期表の第11,12または13族のハロゲン化物を含むことを特徴とする、請求項1~の何れか一項に記載の再充電可能なバッテリセル。
【請求項9】
前記負極(5)は、アルカリ金属、アルカリ土類金属、元素周期表の第12族の金属、またはアルミニウムである活性金属を含むことを特徴とする、請求項1~の何れか一項に記載の再充電可能なバッテリセル。
【請求項10】
前記負極(5)の前記活性金属は、リチウム、ナトリウム、カルシウム、亜鉛、またはアルミニウムであることを特徴とする、請求項に記載の再充電可能なバッテリセル。
【請求項11】
該負極(5)の活性材料の量は、その表面積を基準として、少なくとも10mg/cmであることを特徴とする、請求項1~10の何れか一項に記載の再充電可能なバッテリセル。
【請求項12】
前記負極(5)は、少なくとも0.05mmの厚みを有することを特徴とする、請求項1~11の何れか一項に記載の再充電可能なバッテリセル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、活性電極減極剤として働く二酸化硫黄(SO )系電解質を含む再充電可能なバッテリセルに関する。当該バッテリセルは、ハウジングと、少なくとも一つの正極と、少なくとも一つの負極とを有する。
【背景技術】
【0002】
再充電可能なバッテリセルは、多くの技術領域において非常に重要である。これらは、携帯電話などの、比較的低い電流強度しか必要とされない用途に使用されることが多い。高電流用途におけるバッテリセルにも大きな需要があり、その場合、エネルギーの大量貯蔵が特に重要である。
【0003】
再充電可能なバッテリセルの重要な属性の一つが、そのエネルギー密度である。理想的には、再充電可能なバッテリセルは、単位重量および単位体積当たりの電気エネルギーをできるだけ多く含有すべきである。活性金属としてのリチウムは、この目的にとって特に有益であることが証明されている。再充電可能なバッテリセルの前記活性金属は、電解質中の当該金属のイオンが、当該セルが充電または放電されるときに前記正極または前記負極に移動し、そこで電気化学プロセスに参加する金属である。これらの電気化学プロセスは、外部回路への電子の放出または外部回路からの電子の吸収に直接的または間接的につながる。活性金属としてリチウムを含有する再充電可能なバッテリセルは、リチウムイオンセルとも呼ばれる。
【0004】
リチウムイオンセルの前記正極および前記負極は両方とも、挿入電極として設計されている。本発明の趣旨での「挿入電極」という用語は、リチウムイオンセルの動作中に活性材料のイオンを貯蔵または除去することができる結晶構造を有する電極を指す。これは、電極プロセスが、前記電極の表面上だけでなく、それらの結晶構造内で生じることができることを意味する。有機電解質を含む従来のリチウムイオンセルの前記負極は、例えば、例えば銅を含む伝導要素に塗布された炭素コーティングを含み得る。当該伝導要素は、外部回路を創出するのに必要な電気的接続を提供する電気伝導性材料である。前記正極は、例えば、アルミニウム伝導要素に塗布されたコバルト酸リチウム(LiCoO )を含み得る。両電極は、概して、100μm未満の厚みを有することができ、したがって、典型的には非常に薄い。前記リチウムイオンセルが充電されるとき、前記活性金属の前記イオンは、前記正極から取り去られ、前記負極に貯蔵される。前記リチウムイオンセルが放電されるときは、逆のプロセスが生じる。
【0005】
前記イオンは、前記電解質によって前記電極間を輸送され、当該電解質は、必要なイオン移動性を確保する。先行技術のリチウムイオンセルは、典型的に、有機溶媒または溶媒混合物に溶解した伝導塩からなる電解質を含有する。当該伝導塩は、六フッ化リン酸リチウム(LiPF )などのリチウム塩である。前記溶媒混合物は、例えば、炭酸エチレンを含有することができる。前記有機溶媒または溶媒混合物により、このようなリチウムイオンセルは、有機リチウムイオンセルとも呼ばれる。
【0006】
有機リチウムイオンセルは、安定性および長期動作信頼性の点で問題が生じる場合がある。安全性上のおそれは、特に、前記有機溶媒または溶媒混合物の可燃性、すなわち、燃焼性によって生じる。有機リチウムイオンセルが引火、さらには爆発したとき、前記電解質の前記有機溶媒は可燃材料となる。このような安全性上のおそれを回避するために、付加的な対策が取られなければならない。これらの対策には、典型的には、前記有機リチウムイオンセルの充電プロセスおよび放電プロセスの高精度な調節、および最適化したバッテリ設計が含まれる。さらに、前記有機リチウムイオンセルは、意図しない温度上昇中に溶融して、当該有機リチウムイオンセルを溶融プラスチックで氾濫させることができる構成要素を含有する。当該氾濫により、さらなる無制御な温度上昇が確かに防止される。しかしながら、これらの安全対策は、前記有機リチウムイオンセルのより高い生産コストならびに体積および重量の増大につながる。これらの安全対策は、前記有機リチウムイオンセルのエネルギー密度も減少しかねない。
【0007】
上記の安定性および長期信頼性の論点は、バッテリセルを高エネルギー用途に向けて開発しようとするとき、より一層問題となる。
【0008】
一部の再充電可能なバッテリセルは、有機電解質の代わりに二酸化硫黄(SO)を主成分とする電解質を採用している。SOを主成分とする電解質を含有する再充電可能なバッテリセルは、大量の伝導塩を溶解する能力により、高いイオン伝導率を有する。「SO 系電解質」という用語は、本開示の文脈では、SOを単に低濃度の添加物として含有する電解質ではなく、前記SOの濃度が、前記電解質に含有される前記伝導塩のイオンであって、電荷輸送を担うイオンの可動性を許容するのに十分である電解質を指定するために使用されている。SO 系電解質は、上記した有機電解質と比べて不燃性という利点を有する。したがって、前記電解質の燃焼性による安全性上のおそれを軽減、または実質的に排除することができる。
【0009】
SOを採用した再充電可能なバッテリの例が、特許文献1(欧州特許第2534719号明細書)に提供されており、ハウジングと、正極と、負極と、電解質とをもつ再充電可能なバッテリセルが開示されている。この再充電可能なバッテリセルの前記電解質は、SOを主成分とし、伝導塩を含有している。前記正極の活性材料は、この再充電可能なバッテリセルにおけるエネルギー貯蔵を少なくとも部分的に担うものだが、リチウム金属酸化物、またはリン酸鉄リチウム(LiFePO )などのリチウム金属リン酸塩を含むことができる。この再充電可能なバッテリセルを用いれば、例えば、155mAh/gの比容量を、1C放電レートで達成することができる。1Cの放電レートでは、定義上、セルの公称容量が1時間で放電される。
【0010】
前記SO 系電解質と、前記正極の活性材料としてリチウム金属リン酸塩またはリチウム金属酸化物とを含有する再充電可能なバッテリセルに加えて、前記SOが前記電解質の成分として働くことができるだけでなく、前記伝導塩とともに、前記SOが「活性電極減極剤」と呼び得る反応成分として働くことができる再充電可能なバッテリセルが存在する。言い換えれば、前記活性電極減極剤は、SO 系電解質からなる、すなわち、前記再充電可能なバッテリセルのこの構成要素から構成される。これは、前記二酸化硫黄(SO )系電解質が活性電極減極剤として働くことを意味する。活性電極減極剤は、前記電解質のSOが、放電中に還元反応を起こし、これが次に、一つまたは複数の放電生成物が形成されて前記正極に析出される一つまたは複数の反応につながることを意味する。前記電解質中のその他の成分も、放電時に還元反応および/またはその他の化学反応を起こし得る。充電時は、前記放電生成物の一つまたは複数が消え始め、前記還元されたSOが酸化されて元の状態に戻る。前記電解質中のその他の成分も充電中に酸化され得る。本開示では、前記SOが電解質として働くだけでなく、放電中に還元され、充電中に再び酸化されて元の状態に戻る再充電可能なバッテリセルを「SO2減極剤バッテリセル」と呼ぶ。ここで使用する場合の「放電生成物」とは、放電中に前記電解質のSO2およびその他の成分の還元に続いて発生する反応によって形成される生成物を意味する。したがって、SO2減極剤バッテリセルは、前記正極用の付加的な活性材料、例えばリチウム金属リン酸塩またはリチウム金属酸化物を使用する必要性を排除または軽減することができる。これにより、前記再充電可能なバッテリセルの製造性を向上させることができ、生産コストを下げることができる。
【0011】
SO減極剤バッテリセルの一例が、Deyらの非特許文献1(Inorganic electrolyte Li‐SO 2 rechargeable system: development of a prototype hermetic C cell and evaluation of its performance and safety characteristics)に提供されている。Deyらにおいて報告された前記SO2減極剤バッテリセルは、単2形の再充電可能なLi‐SO バッテリセル試作においてLiAlCl ・6SOを含むSO 系電解質を採用したものだが、134Wh/kgのエネルギー密度および約144mAh/gの前記SO 系電解質の理論容量を示した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【文献】欧州特許第2534719号明細書
【非特許文献】
【0013】
【文献】“Inorganic electrolyte Li‐SO2 rechargeable system: development of a prototype hermetic C cell and evaluation of its performance and safety characteristics” J. Electrochem. Soc. 135,2115‐2120(1988)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
再充電可能なバッテリセルの用途の可能性を広げ、それらの性質を向上させるために、本発明は、先行技術の再充電可能なLi‐SO バッテリセル、SO減極剤セルおよび有機リチウムイオンセルと比べて、- 良好な電気的性能データ、特に、高いエネルギー密度および自然放電の減少、- 耐用年数の延長、特に、使用可能な充放電サイクル数の多さ、- 総重量の減少、- 直面し得るより困難な条件下、例えば、非常に低温(例えば-15℃)から非常に高温(例えば35℃)に及ぶ広い温度範囲、および、例えば、自動車の衝突から、前記セルの中身が空気および場合によっては裸火にさらされる結果となりかねない前記バッテリへの損傷の可能性を含む、動作安全性の増大、- カソードに必要な炭素が、さもなくば使用されるであろう電極材料と比べて比較的安価であるからという理由を含め、必要な原材料および生産プロセスの点における生産コストの減少、および- 過充電状態および深放電状態のときの安定性の向上を示すバッテリセルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
ここに開示する前記再充電可能なSO減極剤バッテリセルの有利な特徴の一つは、それらのSO系電解質の高い伝導率(室温で約0.1S/cm)である。この非常に良好な伝導率により、再充電可能なSO減極剤バッテリセルの良好な定格または性能、例えば、低い抵抗および高速の充電能力が可能になる。
【0016】
ここに記述する前記再充電可能なバッテリセルは、高エネルギー用途にも適するはずである。本開示の趣旨での再充電可能な高エネルギーバッテリセルは、500mAh/gを超え、好ましくは750mAh/gを超え、より好ましくは1000mAh/gを超える比容量を有することができる。高エネルギーセルのエネルギー密度は、150Wh/kg、好ましくは300Wh/kg、好ましくは500Wh/kg、より好ましくは1000Wh/kg、最も好ましくは1500Wh/kgになり得る。
【0017】
詳細には、ここに記述する前記エネルギー密度は、少なくとも150Wh/kg、少なくとも200Wh/kg、少なくとも250Wh/kg、少なくとも300Wh/kg、少なくとも500Wh/kg、少なくとも600Wh/kg、少なくとも700Wh/kg、少なくとも800Wh/kg、少なくとも900Wh/kg、少なくとも1000Wh/kg、約1500Wh/kg、または1500Wh/kgを超えることができる。
【0018】
この技術的問題は、請求項1、2および3に記載の性質を有する再充電可能なバッテリセルによって解決される。有利な実施形態およびさらなる発展は請求項4から14に定められる。
【0019】
本発明の第一の態様において、再充電可能なバッテリセルは、ハウジングと、少なくとも一つの正極と、少なくとも一つの負極と、活性電極減極剤として働く二酸化硫黄系電解質とを含む。前記正極は炭素を含有し、少なくとも0.2mmの厚みを有する。前記正極は、好ましくは、0.4mmの最小厚み、より好ましくは0.6mmの最小厚み、より好ましくは0.8mmの最小厚み、より好ましくは1.0mmの最小厚み、より好ましくは1.5mmの最小厚み、より好ましくは2.0mmの最小厚み、最も好ましくは4.0mmの最小厚みを有する。
【0020】
本発明の第二の態様において、前記再充電可能なバッテリセルは、同様に、ハウジングと、少なくとも一つの正極と、少なくとも一つの負極と、活性電極減極剤として働く二酸化硫黄系電解質とを含む。前記正極は、炭素に加えて、金属酸化物の形の少なくとも一つの他の化学元素または当該化学元素を含有する化合物を含む。この化学元素は、バナジウム、ニッケル、銅、マグネシウム、マンガン、チタン、アルミニウム、鉛、パラジウム、タングステンおよびクロムの群から選択される。前記付加的な化学元素または当該化学元素を含有する化合物は、前記正極中に、当該電極の前記炭素の総重量を基準として、1~20重量パーセント(重量%)、好ましくは5~15重量%の濃度で存在する。
【0021】
本発明の第三の態様において、前記再充電可能なバッテリセルは、同様に、ハウジングと、少なくとも一つの正極と、少なくとも一つの負極と、活性電極減極剤として働く二酸化硫黄系電解質とを含む。前記正極は、具体的には発泡金属の形の、三次元多孔質金属構造をもつ伝導要素を有する。この多孔質金属構造は、前記正極の厚みの少なくとも70%にわたって、好ましくは少なくとも80%にわたって、より好ましくは少なくとも90%にわたって延在する。
【0022】
典型的には、SO減極剤バッテリセルは、ハウジングと、少なくとも一つの正極と、少なくとも一つの負極と、SO 系電解質とを含む。SO減極剤バッテリセルは、同じ厚みまたは異なる厚みの電極を有することができ、例えば、カソードは、アノードと異なる厚みを有することができ、かつ/またはカソードは様々な厚みであることができ、かつ/またはアノードは様々な厚みでよい。
【0023】
上記したように、前記二酸化硫黄(SO )系電解質は、活性電極減極剤として働く。前記SOは活性材料として働き、したがって、前記再充電可能なバッテリセルにおいて可逆的かつ繰り返し生じることができる酸化還元反応に直接関与する。先に指摘したように、前記SO 系電解質の他の成分も、可逆的な酸化還元反応を起こし得る。このような可逆的な酸化還元反応は、前記SO減極剤バッテリセルの有益な再充電性および長期安定性の特性に寄与することができる。
【0024】
任意選択的に、付加的な活性材料、例えば、リチウム金属リン酸塩またはリチウム金属酸化物が前記正極に導入されてよい。しかしながら、このような材料の使用を排除または減少することにより、ここに記述するSO減極剤バッテリセルの製造性を向上させることができ、生産コストが下がる。したがって、このような材料の使用は、ここに記述するSO減極剤バッテリセルでは回避し得る。
【0025】
減極剤バッテリセルにおける、前記活性電極減極剤、すなわち、前記電解質は、実質的に液体であるが、固体を含むことがある。例えば、前記再充電可能なバッテリセルの動作中に前記正極で生じる前記酸化還元反応は、前記正極上または前記正極中に沈殿および/または析出することがある固体反応生成物の形成につながることがある。前記電極上に析出するこれらの固体反応生成物は、膜またはコーティングの形で前記正極の表面上に析出することがある。先に指摘したように、放電中に還元される前記SOを提供することに加えて、前記SO 系電解質は、前記電極間の電荷輸送も可能にし、イオン移動性を確保する。この目的のために、前記SO 系電解質は、当該電解質中に含有される前記伝導塩中の前記イオンの移動性を可能にし、前記電荷輸送を提供するのに十分に高い濃度のSOを含有する。
【0026】
SO減極剤バッテリセルは、ハウジングと、少なくとも一つの正極と、少なくとも一つの負極と、活性電極減極剤として働くSO 系電解質と、放電中および/または充電中に発生する前記反応を容易にすることができかつ/または当該反応に関与することができる一つまたは複数の付加的な構成要素とを含む。
【0027】
前記SO減極剤バッテリセルは、放電中の前記SO 電解質からの一つ以上の放電生成物の形成および/または充電中の前記SOの再形成に触媒作用を及ぼす一つまたは複数の構成要素を含むことができる。一つまたは複数の触媒的構成要素が望まれる場合は、前記正極は、炭素と、触媒として働くことができる、典型的には金属酸化物の形の、一つまたは複数の化学元素(または当該化学元素を含有する化合物)とを含むことができる。前記一つまたは複数の触媒的化学元素は、バナジウム、ニッケル、銅、マグネシウム、マンガン、チタン、アルミニウム、鉛、パラジウム、タングステン、クロム、およびそれらの組み合わせからなる群から選択される一つまたは複数の金属を含むことができる。前記(一つまたは複数の)付加的な化学元素(または当該(一つまたは複数の)化学元素を含有する(一つまたは複数の)化合物)は、前記正極中に、当該電極の前記炭素の総重量を基準として、0.01~20重量パーセント(重量%)、好ましくは1~20重量%、より好ましくは5~15重量%またはそれ以上の濃度で存在することができる。これらの範囲内には、0.01~1重量%、1~5重量%、2.5~7.5重量%、5~10重量%、7.5~12.5重量%、10~15重量%、12.5~17.5重量%、15~20重量%、20重量%を超える範囲がある。前記(一つまたは複数の)付加的な化学元素または(一つまたは複数の)化合物は、前記正極上での前記SO 系電解質の前記成分の前記酸化還元反応および/またはその他の反応を支援または促進する触媒として働くことができ、前記SO減極剤バッテリセルの一つまたは複数の性能特性を高め得る。例えば、触媒として働く前記(一つまたは複数の)付加的な化学元素または(一つまたは複数の)化合物は、前記電極上のコーティングとして存在してよく、当該電極は、例えば炭素を含有することができる。あるいは、前記(一つまたは複数の)付加的な化学元素または(一つまたは複数の)化合物は、前記電極に使用される前記炭素との混合物を形成することができる。例えば、前記正極は、炭素に加えて、酸化バナジウム(V)などのSOの既知のレドックス触媒を含んでよい。このような実施形態では、前記酸化バナジウムは、1~5重量%の量、2.5~7.5重量%の量、5~10重量%の量、7.5~12.5重量%の量、10~15重量%の量、12.5~17.5重量%の量、15~20重量%の量、20重量%を超える量で存在することができる。
【0028】
態様において、前記SO減極剤バッテリセルは、表面積の量の増大をもたらすために、三次元多孔質金属構造、例えば、発泡金属、金属フリース、金属格子、金属マトリックス、または金属メッシュをもつ伝導要素を有する正極を含むことができる。ここで使用する場合、「三次元多孔質金属構造」という用語は、高さ、長さおよび厚みを有する金属で作られ、細孔、穴、開口、格子状のもの、オリフィス、空洞、またはその他の孔(まとめて「細孔」)を含む任意の構造を指し、当該細孔は、前記電極の厚みの中へ入り込み、または任意選択的に当該厚みを貫通して、同じ外形寸法を有するが代わりに平らな表面を有する、すなわち、このような細孔を有しない電極と比較して、当該電極の全表面積を増大させるように働く複数の表面を利用できるようにする。先に言及したように、任意選択的に、前記三次元多孔質金属構造の前記細孔は、電解質が前記電極を完全に通過するのを許容することができ、このことにより、前記バッテリ中に有利な電解質の流れを提供し得る。あるいは、前記三次元多孔質金属構造の前記細孔は、前記電極を電解質が完全に通過するのを許容しなくてもよい。前記多孔質金属構造は、前記正極の厚みの少なくとも10%、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、または少なくとも90%を含むことができる。前記多孔質金属構造は、前記正極の重量の80%未満、70%未満、60%未満、50%未満、40%未満、30%未満、20%未満、および10%未満を含むことができ、重量パーセンテージが低い方が典型的には有利であるが、それは、その場合、前記電極の重量の残りが、概ね、バッテリの性能に寄与する材料であることができるからである。三次元多孔質金属構造を含む電極を含むSO減極剤バッテリセルでは、前記SO系触媒は、前記三次元多孔質金属構造の前記細孔を貫通することができ、したがって、前記細孔を部分的または完全に充填することができる。前記伝導要素は、前記正極の前記細孔内および前記表面上にある前記SO系電解質とその還元生成物および酸化生成物との必要な電気伝導性接続を確保する。したがって、三次元多孔質金属構造を含む伝導要素は、前記三次元多孔質金属構造を有しない電極を含むSO減極剤バッテリセルと比べて、前記SO減極剤バッテリセルの性能強化を提供し得る。
【0029】
このような三次元多孔質金属構造が採用される場合、前記正極における前記SO 系電解質の前記酸化還元反応を容易にするのを助けるために、炭素などの少なくとも一つの付加的な電極材料が、前記三次元多孔質金属構造の前記細孔の中へ組み込まれることができる。この付加的な電極材料も多孔質でよく、前記SO 系電解質が、前記三次元多孔質金属構造の前記細孔だけでなく、この付加的な電極材料の細孔にも浸透することができるようにし、それによって前記SO 系電解質によって発生することができる前記酸化還元反応のための表面積をさらに大きくした電極が提供される。前記電極の前記三次元多孔質金属構造に提供されるこのような付加的な電極材料の量を、ここでは、さらに後で述べるように、前記正極の「負荷量」と呼ぶ。したがって、前記三次元多孔質金属構造の中へ多孔質の付加的な電極材料を組み込むことにより、前記伝導要素の内表面積、したがって前記正極にて発生する前記還元酸化反応に利用できる反応表面が増大する。三次元多孔質金属伝導要素を有する電極は、前記正極の多大な負荷量を可能にすることができ、このことにより、前記バッテリの容量を高めることができる。
【0030】
[正極]
本開示のSO減極剤バッテリセルとともに使用し得る正極のさらなる詳細および付加的な特徴を下記に提供する。当業者が当該(一つまたは複数の)正極を調合する際の指針となるように、例示的な材料、寸法、およびその他のパラメータを下記に提供するが、当該(一つまたは複数の)正極の最終的な調合、材料、寸法、個数、配置、その他のパラメータは、具体的なバッテリパラメータおよび所望の性能特性に基づいて決定されることになる。
【0031】
上述したように、実施形態において、前記SO減極剤バッテリセルの前記正極は、発泡金属、金属フリース、金属格子、金属マトリックス、または金属メッシュなどの三次元多孔質金属構造を含む伝導要素を有する。このような三次元多孔質金属構造は、細孔を有しない滑らかな表面を含む電極と比較して、付加的な表面積を提供することができる。発泡金属は、多大な量の表面積を提供することができる三次元多孔質金属構造の一例であり、したがって、ここに記述する前記SO減極剤バッテリセルの全ての実施形態において潜在的に有用である電極材料として検討される。
【0032】
同様に先に言及したように、前記電極は、0.1mmから25mm、好ましくは0.2mmから20mmに及ぶかなりの厚み、および25mmを超えるかなりの厚みを有してよい。前記電極は、好ましくは0.4mmの最小厚み、より好ましくは0.6mmの最小厚み、より好ましくは0.8mmの最小厚み、より好ましくは1.0mmの最小厚み、より好ましくは1.5mmの最小厚み、より好ましくは2.0mmの最小厚み、最も好ましくは4.0mmの最小厚みを有する。より厚い電極が望まれる場合、10~20mm、12.5~17.5mm、14~16mm、および約15mmの厚みは、許容範囲の結果を提供することができる。SO減極剤バッテリセルが複数の正極を有する場合、当該電極同士は、同じ厚みまたは異なる厚みであることができる。
【0033】
同様に先に言及したように、前記正極にて前記SO 系電解質の前記酸化還元反応および/またはその他の反応に触媒作用を及ぼすために、少なくとも一つの付加的な電極材料が、前記伝導要素の前記三次元多孔質金属構造の中へ組み込まれることができる。同様に上述したように、前記付加的な電極材料は炭素を含むことができ、当該炭素自体も多孔質でよい。当該炭素は、前記三次元多孔質金属構造内または前記三次元多孔質金属構造の少なくとも一部内に実質的に均質に分布されることができる。これにより、前記伝導要素を介する炭素の必要な電気伝導性接続が可能になる。前記実質的に均質な分布は、前記金属構造の前記細孔の中へ、または少なくとも前記三次元多孔質金属構造の前記細孔の一部の中に、前記炭素を実質的に均等に組み込むことによって得られる。前記多孔質金属構造の中へ組み込まれた炭素の量は、上記した正極の前記負荷量である。前記炭素の前記実質的に均質な分布により、前記再充電可能なバッテリセルの性能をさらに向上させることができる。
【0034】
前記電極の全てまたは一部において前記炭素が実質的に均質に分布されているか否かは、当該電極を切断して、例えばSEMによって当該電極の異なる断面を検査することによって決定することができる。
【0035】
本開示では、別段の記載がない限り、「実質的に」という用語は、完全に、と、概ねではあるが完全にではない、の両方を包括することを意図している。例えば、「実質的に均質な分布」は、完全に均質な分布と、概ね均質であるが完全に均質ではない分布の両方を包括することを意図している。同様に、「実質的に均等に組み込むこと」は、前記細孔の中へ、前記炭素を完全に均等に組み込むことと、前記炭素を概ね均等に組み込むが完全に均等には組み込まないことの両方を包括することを意図している。
【0036】
先に指摘したように、前記正極を作製するのに使用される前記炭素も多孔質であることができ、したがって、大きな比表面積を提供することができる。前記正極を作製するのに使用される前記炭素の比表面積は、少なくとも200m/g、少なくとも600m/g、少なくとも1000m/g、少なくとも1400m/g、少なくとも1600m/g、および少なくとも2000m/gであることができ、より高い容量が望まれる場合は、高表面積であるほど概して好ましい。
【0037】
ここで述べるように、前記炭素によって提供される前記表面積の増大は、概して、前記SO減極剤バッテリセルの容量の増大につながり、したがって、前記再充電可能なバッテリセルの前記性能データが向上する。多孔質炭素材料の例はすすである。これらのすすには、ランプブラック、チャンネルブラック、およびファーネスブラックの形をした燃焼すす(いわゆる「カーボンブラック」)、分解すす(いわゆる「サーマルブラック」)が含まれる。前記多孔質炭素材料のさらなる例は、活性炭、メソカーボンマイクロビーズ(MCMB)、カーボンナノチューブ(CNT)、マルチウォールカーボンナノチューブ(MWCNT)およびグラフェンである。天然黒鉛、人造黒鉛(電気黒鉛)、黒鉛箔、コークス(ガスコークス、冶金コークス、石油コークス、レトルトコークス)、炭素繊維材料(ガラス状炭素、発泡炭素)、パイロカーボン、パイログラファイト、エアログラファイト、膨張化黒鉛、フラーレン、または無定形炭素(黒鉛化炭素および非黒鉛化炭素)も多孔質炭素材料として使用することができる。その他の種類の多孔質炭素も使用に適し得る。
【0038】
炭素が使用される場合、前記正極中の炭素負荷量は、少なくとも2mg/cmから200mg/cmまたはそれ以上に及ぶことができる。一般的に言えば、特定のSO減極剤バッテリセルに関して実験的に決定され得る点までは、負荷量が高いほど、前記SO減極剤バッテリセルの容量が増大することになる。しかしながら、この点を超えると、負荷量が高いほど、前記SO減極剤バッテリセルの容量および/またはその他の所望の(一つまたは複数の)性能特性に対して不利益を及ぼし始め得る。SO減極剤バッテリセルでは、少なくとも2mg/cm、少なくとも5mg/cm、少なくとも10mg/cm、少なくとも15mg/cm、少なくとも20mg/cm、少なくとも30mg/cm、少なくとも50mg/cmの炭素、少なくとも75g/cmの炭素、または少なくとも100mg/cmの炭素の負荷量を採用することができる。前記正極の最大負荷量は、好ましくは200mg/cm以下、より好ましくは150mg/cm以下、最も好ましくは100mg/cm以下であるべきである。
【0039】
前記正極中の炭素の重量は、前記正極の前記多孔質金属構造に分布させた前記材料の総重量に対して、少なくとも20重量%、少なくとも40重量%、少なくとも60重量%、少なくとも80重量%、少なくとも90重量%、および少なくとも95重量%であることができる。
【0040】
上述したように、前記正極には、炭素以外の材料が含まれてよいし、炭素に加えて含まれてもよい。例えば、実施形態では、前記SO減極剤バッテリセルは、放電中には前記SO 電解質からの一つまたは複数の放電生成物および/または充電中には前記SOの再形成につながる反応に触媒作用を及ぼすことができる酸化物などの、一つまたは複数の金属または金属含有化合物を含むことができる。実施形態では、この化学元素は、バナジウム、ニッケル、銅、マグネシウム、マンガン、チタン、アルミニウム、鉛、パラジウム、タングステン、クロムおよびそれらの組み合わせからなる群から選択される一つまたは複数の金属を含むことができる。例えば、前記電極は、酸化バナジウムを含むことができる。前記(一つまたは複数の)付加的な化学元素(または当該(一つまたは複数の)化学元素を含有する(一つまたは複数の)化合物)は、前記正極中に、当該電極の前記炭素の総重量を基準として、0.01~20重量パーセント(重量%)またはそれ以上の濃度で存在することができ、例えば、当該電極の前記炭素の総重量を基準として、1~20重量%、または5~15重量%の濃度で存在することができる。
【0041】
一般的に言えば、高孔隙率を有する電極は、より高容量のSO減極剤バッテリセルを提供することになる。前記孔隙率は、前記正極の総体積に対する空洞体積の比率を表し、該空洞体積は前記細孔によって形成される。前記孔隙率は、前記正極の内表面積の拡大につながる。一般的に言えば、前記正極の前記個々の細孔が前記再充電可能なバッテリセルの動作中に前記SO系電解質で完全に充填されていることができると有利である。放電中に前記SO系電解質から形成される前記固体反応生成物の吸収のためには、高い孔隙率、したがって大きな内表面積が概して有利である。孔隙率は、前記多孔質ベース電極材料、例えば、前記金属メッシュの孔隙率、(前記多孔質ベース材料の細孔を充填する)前記電極への材料(例えば、結合剤および炭素)の負荷量、および前記電極の全体的な体積を減らすために前記電極を圧縮するために行われる任意のカレンダリング(後述)も含む、いくつかの要因によって決まることになる。カレンダリング(すなわち、前記電極を圧縮すること)による前記電極の寸法の減少により、前記電極の体積が減少することになり、したがって、それに対応して前記孔隙率が減少することになる。カレンダリングは、バッテリのサイズをより小さくすることおよび/またはより多くの電極を使用することを可能にすることができ、機械的安定性も高めることができる。
【0042】
したがって、一般的に言えば、前記多孔質出発電極材料、例えば、発泡金属の孔隙率は非常に高く、例えば、90%を超えているが、前記電極の最終的な孔隙率はもっと低くなる。したがって、このような要因に応じて、前記孔隙率は、50%を大きく下回るものから97%を超えるものに及ぶことがあり、例えば、前記孔隙率は、好ましくは少なくとも50%、より好ましくは少なくとも60%、より好ましくは少なくとも70%、より好ましくは少なくとも80%、より好ましくは少なくとも90%、より好ましくは少なくとも95%、最も好ましくは少なくとも97%であり、前記出発電極材料(例えば、発泡金属)の孔隙率が高いほど、概して、より多くの負荷量、したがってより高いエネルギー容量を有する電極の構成が可能になる。また、前記孔隙率は、前記電極の密度を下げ、したがって前記電極の重量を下げ、これは、前記再充電可能なバッテリセルの総重量に良い効果をもたらすことができる。
【0043】
前記最終的な正極の孔隙率は、市販の水銀ポロシメトリーデバイスを使用して測定することができる。前記出発電極材料、例えば、発泡金属の孔隙率は、通常はサプライヤから入手可能である。
【0044】
その機械的強度を向上させるため、および、例えば、前記伝導要素に前記炭素を結合させるために、前記正極は、典型的には、少なくとも一つの結合剤を含有する。このような結合剤は、ここに開示するSO減極剤バッテリセルのいずれかまたは全てとともに使用し得る。前記結合剤は、フッ素化結合剤、特にポリフッ化ビニリデン(PFDV)、および/または、テトラフルオロエチレンとヘキサフルオロプロピレンとフッ化ビニリデンとのターポリマー(THV)でよい。さらに、前記結合剤は、共役カルボン酸のモノマー構造単位、またはこの共役カルボン酸のアルカリ塩、アルカリ土類塩またはアンモニウム塩のモノマー構造単位、またはそれらの組み合わせのモノマー構造単位を含むポリマーを含んでよい。前記結合剤は、スチレンモノマー構造単位またはブタジエンモノマー構造単位を主成分とするポリマーを含んでもよい。前記結合剤は、カルボキシアルキルセルロースおよびそれらの塩の群に属してもよい。先に言及した結合剤の少なくとも一つ(または組み合わせ)が前記正極中に存在してよい。採用する結合剤の量はバッテリごとに決定されることになる。典型的には、前記電極中の前記(一つまたは複数の)結合剤の重量は、前記電極の総重量に対して30重量%以下、例えば、前記電極の総重量に対して、25重量%以下、20重量%以下、15重量%以下、10重量%以下、7重量%以下、5重量%以下、または2重量%以下、例えば、0.5~2.0%、1~5%、2.5~5%、2~8%、4~8%、5~10%、5~7.5%、7.5%、7.5~10%、10~20%、10~12.5%、12.5~15%、10~15%、15~20%、20~25%、25~30%の量になり、重量パーセントが低い方が概して好ましい。結合剤の添加は、前記再充電可能なバッテリセルの長期安定性および耐用寿命を向上させ、前記金属電極に炭素を接着させるように働くこともできる。
【0045】
前記正極は、任意選択的に、炭素に加えて、金属ハロゲン化物、例えば、金属塩化物、金属フッ化物、および金属臭化物を含有することもできる。前記正極は、金属塩化物として、例えば塩化銅(CuCl )を含有してよい。これらの金属ハロゲン化物は、前記再充電可能なバッテリセルの放電中に還元されることができ、充電中に酸化されることができる電気化学的活性材料である。前記正極中の前記金属ハロゲン化物の含有量は、前記電極の総重量に対して、少なくとも2重量%、少なくとも5重量%、少なくとも10重量%、少なくとも20重量%、少なくとも30重量%、少なくとも40重量%、少なくとも50重量%、少なくとも60重量%、少なくとも70重量%、および少なくとも80重量%であることができ、量が多い方が典型的にはより大きな電荷容量を提供する。したがって、前記正極の容量の性質は、金属ハロゲン化物、特に金属塩化物を添加することによって向上させることができる。
【0046】
SO減極剤バッテリセルの前記カソードは、次のように調製することができる。有利には多孔質である、炭素と、フッ素化結合剤などの結合剤とを含むペーストを作製することができる。まず、前記フッ素化結合剤を溶媒に溶解してよい。次に、炭素および付加的な含有物(例えば、(一つまたは複数の)触媒剤)および/または溶媒を、前記結合剤と溶媒の溶液にかき混ぜながら加えることができる。次に、この結果生じた組成物を、前記カソードの骨格、例えば、多孔質発泡金属伝導要素に、前記炭素が前記カソードまたはその部分の中に実質的に均質に分布するように導入する。次に、前記カソード材料を、昇温で乾燥または焼きなましして、カソード材料を得る。所望の場合は、次に、前記カソード材料を圧縮して、より高密度の発泡材料を形成することができる。下記の実施例は、本開示のSO減極剤バッテリセルに使用するための正極を作るためのプロセスの説明を提供する。
【0047】
[負極]
本開示のSO減極剤バッテリセルとともに使用し得る負極の特徴および詳細を下記に提供する。当業者が当該(一つまたは複数の)負極を調合する際の指針となるように、例示的な材料、寸法、およびその他のパラメータを下記に提供するが、当該(一つまたは複数の)負極の最終的な調合、材料、寸法、個数、配置、その他のパラメータは、具体的なバッテリパラメータおよび所望の性能特性に基づいて決定されることになる。
【0048】
前記負極は、前記SO減極剤バッテリセル中に活性金属を含む。前記再充電可能なバッテリセルの前記活性金属は、前記セルが充電または放電されると、前記電解質中のそのイオンが前記負極または正極に移動し、そこで外部回路への電子の放出または外部回路からの電子の吸収に直接的または間接的につながる電気化学プロセスに参加する金属である。この活性金属は、アルカリ金属、アルカリ土類金属、元素周期表の第12族の金属、またはアルミニウムである。前記活性金属は、前記再充電可能なバッテリセルが充電されるときに前記負極に貯蔵される。
【0049】
実際のところ、実質的にすべての負極が、リチウム、ナトリウム、カルシウム、亜鉛、またはアルミニウムからなる群から選択される活性金属を採用することになる。とりわけ、アルカリ金属、特にリチウムは、前記負極において最も一般的に採用されている活性材料である。前記活性金属は、一般的に、金属成分、活性金属含有合金、活性金属含有金属間化合物、活性金属含有炭素材料、活性金属含有無機材料または同種のものとして提供される。前記無機材料は、少なくとも一つの酸化物、少なくとも一つの硫化物、少なくとも一つのリン化物、少なくとも一つの窒化物、および/または少なくとも一つのフッ化物を含んでもよい。前記負極中の前記活性金属の含有量は、20~100重量%に及ぶことができる。
【0050】
前記活性金属としてリチウムが使用される場合、リチウムは、一般的に、金属リチウム、リチウム含有合金、リチウム含有金属間化合物、リチウム含有炭素材料、リチウム含有無機材料、または同種のものとして提供される。
【0051】
例えば、前記SO系電解質中の前記伝導塩が、テトラクロロアルミン酸リチウム(LiAlCl )などの、リチウム塩の形をしたアルカリ金属塩の場合、前記負極は、金属リチウム、リチウム含有炭素材料、リチウム含有合金、次の元素の酸化物または硫化物、すなわち、スズ、ケイ素、アルミニウム、リン、亜鉛、ガリウム、ゲルマニウム、銀、インジウム、アンチモン、またはビスマスの酸化物または硫化物からなってよい。
【0052】
前記活性金属としてナトリウムが使用される場合、金属ナトリウム、ナトリウム含有合金、ナトリウム含有金属間化合物、ナトリウム含有炭素材料、ナトリウム含有無機材料、または同種のものを前記負極電極材料として使用してよい。
【0053】
前記負極を含む活性材料の量、すなわち、その表面積に対する前記電極の負荷量は、少なくとも10mg/cm、少なくとも20mg/cm、少なくとも40mg/cm、少なくとも60mg/cm、少なくとも80mg/cm、および少なくとも100mg/cmからなる群から選択される。一般的に言えば、前記負極中の活性材料の量が多いほど、前記再充電可能なバッテリセルの充放電プロセスに対して良い効果をもたらすことになる。
【0054】
前記負極は0.05mmから20mmの範囲内の厚みを有することができるが、当該厚みは、典型的には15mmを超えることはないだろう。この範囲内には、少なくとも0.05mm、少なくとも0.10mm、少なくとも0.50mm、少なくとも1.00mm、少なくとも1.50mm、少なくとも2.00mm、および少なくとも2.50mmの厚みがある。SO減極剤バッテリセルは、同じ厚みまたは異なる厚みの複数の負極を有することができる。
【0055】
前記負極は伝導要素を含む。この負極の伝導要素は、平らな構造、または、発泡金属、金属フリース、金属格子、金属マトリックスまたは金属メッシュなどの三次元多孔質金属構造を有してよい。前記負極の伝導要素は、前記負極の前記活性材料の必要な電子伝導接続を確保するためにも使用され、したがって、前記SO減極剤バッテリセルの性能に寄与する。
【0056】
前記負極は、少なくとも一つの結合剤を含むこともでき、当該少なくとも一つの結合剤は、前記負極の機械的強度に寄与し得る。この結合剤は、フッ素化結合剤、特にポリフッ化ビニリデン(PVDF)、および/または、テトラフルオロエチレンとヘキサフルオロプロピレンとフッ化ビニリデンとのターポリマー(THV)でよい。さらに、前記結合剤はポリマーを含んでよく、当該ポリマーは、共役カルボン酸のモノマー構造単位、またはこの共役カルボン酸のアルカリ塩、アルカリ土類塩またはアンモニウム塩のモノマー構造単位、またはそれらの組み合わせの構造単位で作られる。前記結合剤は、スチレンモノマー構造単位またはブタジエンモノマー構造単位を主成分とするポリマーを含んでもよい。前記結合剤は、カルボキシアルキルセルロースおよびそれらの塩の群に属してもよい。先に言及したような結合剤は、前記負極中に、当該電極の総重量に対して、20重量%以下、15重量%以下、10重量%以下、7重量%以下、5重量%以下、および2重量%以下の量で存在してよく、より低い重量パーセントの方が概して好ましい。結合剤の添加は、前記再充電可能なバッテリセルの長期安定性および耐用寿命を向上させることができる。
【0057】
[SOを主成分とする電解質]
上述したように、前記SO減極剤バッテリセルは、前記伝導塩中のイオンの移動性を許容するのに十分な濃度のSOを含有するSO系電解質を含み、当該塩は、前記電解質中に含有されて電荷輸送を引き起こす。前記SO 系電解質は前記活性電極減極剤としても働く。
【0058】
前記SO減極剤バッテリセル中のSOの量は、典型的には、伝導塩1モルあたり少なくとも0.5モルのSO、かつ典型的には20モル以下のSOであり、伝導塩1モルあたり、好ましくは少なくとも1.0モルのSOかつ6.0モル以下のSO、より好ましくは少なくとも2.0モルのSOかつ5.0モル以下のSOである。前記SOと前記伝導塩の間のこのような比率内の前記SO 系電解質は、典型的には、有機溶媒混合物を主成分とする電解質よりも多くの量の伝導塩を溶解することができる。SOの前記濃度がその他の値をとることもできることは本発明の範囲内である。下記の実験7および表3に示すように、前記電解質としてLiAlCl が使用される場合、伝導塩1モルあたり1.0~3.0モルの間のSO、および伝導塩1モルあたり1.5モルのSOを使用することができる。
【0059】
前記電解質中のSOの前記濃度は、その蒸気圧に影響する。ここに開示する前記SO減極剤バッテリセルにおける伝導塩1モルあたりの濃度がより低いSOを含むSO減極剤バッテリセルは、圧力下に置かれることを必要としない可能性があり、したがって、加圧ハウジングを必要としない可能性がある。これは、加圧ハウジングを必要とする再充電可能なリチウムバッテリと比較して、必要とされる製造プロセスの観点から有利なセルを提供し得る。
【0060】
前記電解質中のSOの前記濃度は、その伝導率にも影響する。SOの前記濃度に応じて、異なる伝導率の値が達成される。したがって、前記SO濃度を変えることによって、前記電解質の伝導率をSO減極剤バッテリセルの使用目的に適合させることができる。前記SO系電解質は、典型的には、前記再充電可能なバッテリセルに含有される電解質の総量を基準として、20重量%と75重量%の間のSOを含有するが、25重量%のSO、30重量%のSO、および40重量%のSOの値がより好ましい。前記電解質は、最大で75重量%のSOを含有してもよく、65重量%のSOの最大値および55重量%のSOの最大値がこの順で好ましい。
【0061】
典型的には、前記SO 系電解質は、アルカリ金属またはアルカリ土類金属のアルミン酸塩、ハロゲン化物、シュウ酸塩、ホウ酸塩、リン酸塩、ヒ酸塩、および没食子酸塩からなる群から選択される一つまたは複数の伝導塩を含む。前記伝導塩は、典型的には、テトラハロアルミン酸リチウムであり、最も典型的にはLiAlCl である。前記SO 系電解質中の前記伝導塩は、前記電解質の重量の、少なくとも20重量%、前記電解質の重量の少なくとも30重量%、少なくとも35重量%、少なくとも40重量%、少なくとも45重量%、または少なくとも50重量%を含んでよい。
【0062】
前記伝導塩に加えて、前記SO 系電解質は、典型的には、アルカリ金属またはアルカリ土類金属のハロゲン化物、または元素周期表の第11、12または13族のハロゲン化物を添加剤として含んでよい。このハロゲン化物に加えて、さらなる塩が、前記電解質の総重量の最大で約20重量パーセントの濃度で、例えば、前記再充電可能なバッテリセルに含有される電解質の総重量を基準として、少なくとも2重量%の濃度、好ましくは少なくとも4重量%の濃度、少なくとも6重量%の濃度、より好ましくは少なくとも8重量%の濃度、より好ましくは少なくとも10重量%の濃度、最も好ましくは少なくとも12重量%の濃度で存在することが望ましい。例えば、前記電解質は、伝導塩としてLiAlCl を含有し、付加的に自由な塩化アルミニウム(AlCl )を添加剤として含有してよい。AlCl などの前記添加剤を添加することにより、前記再充電可能なバッテリセルから取り出すことができる容量が増大する。このような添加剤は、例えば、前記SO 系電解質と相互作用または反応すること、前記SO 系電解質中で解離すること、前記電極プロセスに関与すること、または実質的に化学的に変化せずに前記SO 系電解質中に存在することができる。
【0063】
前記電解質中のSOおよび伝導塩の量は、好ましくは、前記電解質の重量の、少なくとも50重量%、より好ましくは60重量%よりも多く、より好ましくは70重量%よりも多く、より好ましくは80重量%よりも多く、より好ましくは85重量%よりも多く、より好ましくは90重量%よりも多く、より好ましくは95重量%よりも多く、または最も好ましくは99重量%よりも多く含み得る。
【0064】
所望の場合は、前記SO系電解質は、有機物質および/または有機物質以外の(一つまたは複数の)材料を含む添加剤を限られた量だけ有することができ、さらには全く有しないこともできる。典型的には、例えば一つまたは複数の溶媒または添加剤の形の、前記SO系電解質中の有機物質またはその他の(一つまたは複数の)材料、例えば、可燃性材料および/または爆発性材料の割合は、前記電解質の重量を基準として0重量%から50重量%以下に及ぶことになり、例えば、前記電解質の、40重量%以下、30重量%以下、20重量%以下、15重量%以下、10重量%以下、5重量%以下、1重量%以下、および実質的に0重量%になる。すなわち、前記SO系電解質は、有機溶媒および/またはその他の(一つまたは複数の)可燃性かつ/または爆発性の材料を実質的に含まなくてよい。前記SO系電解質中の有機溶媒およびその他の有機物質またはその他の可燃性または爆発性の材料の含有量を低く抑える、さらにはゼロにすることにより、前記電解質は、ほとんど可燃性ではなくなり、または実質的に可燃性ではなくなり、このことにより、このようなSO減極剤バッテリセルの動作安定性が高まる。ここで使用する場合、可燃性のという語は、材料が容易に引火して燃焼することができることを意味する。したがって、可燃性の成分の量が少ない、または可燃性の成分を実質的に含まないSO減極剤バッテリセルは、可燃性の成分を含む再充電可能なバッテリと比較して、安全上の利点を提供することができる。
【0065】
有利には、前記SO 系電解質は、水、有機物質および/またはその他の材料を含む不純物も実質的に含まない。このような不純物は、例えば、前記正極の前記活性材料の炭素質コーティングによって、または前記負極などのその他の炭素質材料によって生じ得る。実施形態において、水および有機不純物および/またはその他の不純物の量はそれぞれ、1000ppm未満、500ppm未満、400ppm未満、300ppm未満、200ppm未満、100ppm未満、50ppm未満、25ppm未満、10ppm未満、5ppm未満、1ppm未満、および0ppmの量で存在する。有利には、水および有機不純物の量はそれぞれ、約50ppm未満または以下に制限される。好ましくは、前記電解質は、水を実質的に含まない。好ましくは、前記電解質は、有機不純物も実質的に含まない。
【0066】
[セパレータ]
前記再充電可能なバッテリセルは、典型的には、前記正極と前記負極の電気的分離のためのセパレータを有することになる。このセパレータは、不織材料、膜、織布または編布、有機材料、無機材料、またはそれらの組み合わせからなってよい。有機セパレータは、非置換ポリオレフィン(例えば、ポリプロピレンまたはポリエチレン)、部分的にハロゲン置換されたポリオレフィンから完全にハロゲン置換されたポリオレフィン(例えば、部分的にフッ素置換されたものから完全にフッ素置換されたもの、例えば、PVDF、ETFE、PTFE)、ポリエステル、ポリアミド、またはポリスルホンからなってよい。有機材料と無機材料を組み合わせたセパレータには、例えば、ガラス繊維が適当なポリマーでコーティングされたガラス繊維織物材料が含まれる。当該コーティングは、好ましくは、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、エチレンテトラフルオロエチレン(ETFE)、パーフルオロエチレンプロピレン(FEP)、THV(テトラフルオロエチレンとヘキサフルオロプロピレンとフッ化ビニリデンとのターポリマー)、またはパーフルオロアルコキシポリマー(PFA)などの、フッ素含有ポリマーを含有する。前記コーティングは、アミノシラン、ポリプロピレン(PP)、またはポリエチレン(PE)を含有してもよい。前記セパレータは、さらに、濡れ性またはその他の性質を向上させるために界面活性剤で処理されてよい。
【0067】
上記した正極と前記SO系電解質を組み合わせることによって、次の性質および/または利点の一つまたは複数を提供するSO減極剤バッテリセルを作製することが可能である。
【0068】
- ハウジングをもつ前記SO減極剤バッテリセルの理論的に計算されるエネルギー密度が、当該バッテリセルの総重量に対して約1200Wh/kgである。当該エネルギー密度の少なくとも80%を実際に使用することができる。
- 前記正極の炭素負荷量に応じて、最大で約8000mAh/g炭素の比放電容量を達成することができる。このような放電容量は、活性材料としてリン酸鉄リチウムを含有する正極をもつ再充電可能なバッテリセルよりも大幅に高い。前記比放電容量は、前記正極の炭素負荷量に関連している。
- 前記正極は非常に厚くすることができ、したがって、セル内に必要な電極を少なくし得る。したがって、前記セルの電流放電および構造を単純化することができる。
- 自然放電が極めて少なくなり、例えば、室温、すなわち、23℃で一か月間の保存中に失われるであろう満充電セルの容量の損失は、5%未満、4%未満、3%未満、2%未満、または1%未満である。したがって、前記SO減極剤バッテリセルは、充電時により長い期間保存して、再充電なしに直ちに使用することができる。
- 前記再充電可能なバッテリセルのエネルギー含有量が高くなり得る。これにより、より少ないセルによってより多くのエネルギーを提供することが可能になり、これは、生産コストの低下にもつながり得る。
- 前記正極が炭素で作られる場合、より高価な材料、例えば、アルカリ金属酸化物またはアルカリ金属リン酸塩で作られる電極と比べて、生産コストを下げることができる。
- 前記SO減極剤バッテリセルは、多孔質の正極を有しない再充電可能なセルと比較して、前記正極の孔隙率により総重量を少なくすることができる。
【0069】
したがって、ここに開示する再充電可能なバッテリは、次のものを含むがそれらに限定されない幅広い潜在的な使用法および用途に適する可能性がある。
【0070】
- 例えば始動モータ用または作動中機器用のバッテリとしての、例えば電気自動車およびハイブリッド自動車用、またはこのような車両に電力を提供するための、自動車およびレクリエーショナルビークルの電源、
- トラック、機関車、および船舶などの、大型の輸送車両、
- ゴルフカート、オートバイ、自転車、スクータ、ATV、セグウェイ、および類似の自走式デバイスなどの、より小型の輸送デバイス、
- バッテリ駆動式のおもちゃおよびゲーム、
- 非常用バックアップ電源または無停電電源(UPS)、送配電網蓄電(例えば、ピーク期間中に使用するために需要の低いときに電気エネルギーを貯蔵するためのもの、分散型発電、スタンドアロン型電力システム、
- 太陽光および風力発電エネルギー貯蔵、
- ボートまたはボートのモータなどの海洋デバイスまたはボート上の作動中機器用の海洋デバイス、
- ラップトップ、タブレット、電話などの、個人用かつ小型の電子デバイス、
- リモートコントローラおよび3Dヘッドセットなどの、ゲーミングデバイスおよびアクセサリ、
- 監視または警報システムの電源
- 電動車椅子および階段昇降機などの、パーソナルモビリティ機器、
- フォークリフトなどの産業機械、
- 掃除機などのロボットおよびロボットデバイス、
- 芝刈り機、トリマ、およびチェーンソーなどの、芝生および園芸用の機器、
- 電動工具などの建設機器、
- トラクタなどの農業機器、
- 飛行機、ヘリコプタ、およびドローンを含む、航空機、
- 家庭用電気機械器具、
- 電源を提供するためのポータブルパワーパック(他の再充電可能なバッテリを再充電するためのものを含む)、および
- 内燃機関が現在使用されているほとんどの用途。
【0071】
典型的には家庭用デバイスにおいて使用されるバッテリ、例えば、単4形、単3形、単2形、単1形、9V形、18650形、21700形、および26650形を含む、複数のバッテリの種類が作製され得る。
【0072】
本開示のその他の有利な性質は、図面、実施例、および実験を用いて、下記により詳細に記述および説明する。
【図面の簡単な説明】
【0073】
図1】ここに開示するSO減極剤バッテリセルの一例を示す断面図である。
図2】ここに開示するSO減極剤バッテリセルの伝導要素の発泡金属の三次元多孔質構造の電子顕微鏡画像を示す図である。
図3】実験1に係る第一のハーフセル実験における正極の充放電サイクル数の関数として放電容量を示す図である。
図4】実験2に係る第二のハーフセル実験における正極の二つの放電曲線を示す図である。
図5】実験3に係る第三のハーフセル実験における触媒をもつ正極と比較した実験2からの前記正極の充放電サイクル数の関数として放電容量を示す図である。
図6】実験4に係る第四のハーフセル実験における異なる厚みおよび電荷をもつ正極の放電曲線を示す図である。
図7】実験5に係る第五のハーフセル実験における正極の放電曲線を示す図である。
図8】実験6に基づく第六のハーフセル実験における前記正極に使用される炭素の比表面積の関数として放電容量を示す図である。
図9】実験7に基づく第七のハーフセル実験における異なるSO 濃度をもつ電解質に関する放電曲線を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0074】
図1は、本開示に係るSO減極剤バッテリセルの例示的な一実施形態の断面図を提供する。このSO減極剤バッテリセルは角形セルとして示されており、とりわけ、ハウジング1を有する。このハウジング1は、電極アレイ3を封入し、三個の正極4および四個の負極5を含む。前記正極4および前記負極5は、前記電極アレイ3において交互にスタックされている。この例示的な実施形態では、前記再充電可能なバッテリセルの前記正極は、例えば活性炭の形の、多孔質炭素を含有する発泡体として示されている。前記負極5は、金属、例えば金属リチウムで作られている。
【0075】
ハウジング1は、もっと多くの正極4および/または負極5を収容することもできる。
一般に、負極5の数は正極4の数よりも一つ多いことが好ましい。結果的に、前記電極スタックの前面は、前記負極5の電極表面からなる。前記電極4、5は、電極接続部6,7を介して、対応するバッテリセルコンタクト9,10と接続されている。前記再充電可能なバッテリセルは、有利には前記正極4および負極5の全ての細孔または空洞に少なくともほぼ完全に浸透することができるSO 系電解質(図示せず)で充填されている。この図に示すSO減極剤バッテリセルでは、前記電解質は、例えば、1.5モルのSOに1モルのLiAlCl を含むことができる。
【0076】
図1では、電極4および5は、平らな設計を有し、すなわち、それらの面積に対して薄い厚みの層を有する。電極4および5は、図1に示すように、ほぼ同じ厚みを有することができるが、異なる厚みを有することもできる。例えば、前記負極5は、前記正極4よりも薄くてよい。前記正極のそれぞれが同じまたは異なる厚みでよい。同様に、前記負極のそれぞれが同じまたは異なる厚みでよい。
【0077】
前記電極4,5は、セパレータ11によって互いに分離されている。この例では、これらのセパレータ11は、ガラス繊維織物材料で作られている。図示の再充電可能なバッテリセルのハウジング1は、形状が本質的に立方体であり、すなわち、互いに直角をなす六個の実質的に矩形の面を有し、断面図で示す前記電極4、5とハウジング1の壁は、図面の層に対して垂直に延在しており、本質的に真っ直ぐで平らである。
【0078】
しかしながら、その代わりに、前記SO減極剤バッテリセルは、渦巻形セルとして設計することもできる。渦巻形セル設計を使用するとき、前記電極は、セパレータ材料とともに巻き上げられた薄層からなる。前記セパレータ材料は、前記正極と前記負極を空間的かつ電気的に分離するが、活性金属のイオンに対しては透過性もある。このようにして、大きな電気化学的に有効な表面が創出され、それに対応して高い電流効率が可能になる。
【0079】
前記再充電可能なバッテリセルは、円筒形セルとして設計することもできる。この場合、厚みのある多孔質の正極がバッテリハウジング内にあり、体積のほとんどを占有する。前記ハウジングが円形であるか矩形であるかに応じて、一つまたは複数の負極が使用される。これらは、前記ハウジング壁と前記厚みのある正極の間に載置される。前記電極は、セパレータによって互いに電気的に分離される。前記電解質は、前記ハウジング内で前記空洞および細孔内に分布されている。
【0080】
電極4,5は伝導要素41,51を有し、当該伝導要素41,51は、各電極4,5の活性材料の必要な電子伝導接続を可能にする。前記伝導要素41,51は、前記それぞれの電極4,5の電極反応に関与する前記活性材料と接触している。先に言及したように、前記正極4の前記伝導要素41には多孔質の発泡金属が使用される。この発泡金属は、実質的に前記電極4の厚み全体にわたって延在している。この発泡金属の前記細孔の中へ炭素材料が組み込まれている。
【0081】
前記正極4の作製中、前記炭素材料は、前記金属構造の厚み全体にわたって実質的に均一にその細孔を充填するように前記伝導要素41の前記多孔質構造の中へ組み込まれることができる。このようにして作製された前記電極材料は、次に、例えばカレンダリングによって、高圧下で圧縮される。
【0082】
図2は、図1に示す正極を形成する際に前記伝導要素として使用することができる発泡金属13の三次元多孔質構造の電子顕微鏡画像を示す。この図では、前記正極の前記伝導要素である前記発泡金属は充填されていない。縮尺は、細孔Pが100pmよりも大きい平均直径を有すること、すなわち、それらが比較的大きいことを示している。
【0083】
ここで述べるように、このような多孔質の発泡金属は、図1に示すものなどの、前記伝導要素の合計厚み「d」の90%超まで延在することができる。前記多孔質の発泡金属13全体に炭素が分布してよい。有利には、前記炭素は、実質的に均質に分布しており、それにより、前記炭素の分布におけるばらつきによる前記セルの機能におけるどんなばらつきも最小にする。その機械的強度を向上させるために、前記正極4はTHVなどの結合剤を含有してもよい。
【実施例
【0084】
〔実施例1〕正極の作製
炭素と結合剤の比率は、「高表面炭素」の形の炭素が約75~96重量%で、結合剤が約4~25重量%である。当該比率は、「高表面炭素」の形の炭素が92~96重量%で、結合剤が約4~6重量%になり得る。
【0085】
正極は次に記述するように作製した。
80重量%の高表面積を有する炭素と、20重量%のフッ素化結合剤とを使用して、ペーストを作製した。この目的のために、まず、前記フッ素化結合剤を溶媒中に溶解した。その後、かき混ぜながら、その他の溶媒と交互にして炭素を加えた。次に、90%を超える初期孔隙率を有する発泡金属伝導要素の三次元多孔質金属構造に、前記ペーストを実質的に均質に導入した。次に、それを50℃で一時間乾燥または焼きなましし、それによって前記電極材料を作製する。冷却後、この電極材料、すなわち、前記発泡金属に均質に導入された前記炭素を、1.6mmの初期厚みから出発して、カレンダを用いて0.5mmの厚みに圧縮した。このプレスされて焼き戻しされた電極材料から、1cmの表面をもつ片を打ち抜いて、前記正極を得た。前記正極は、約3mg/cmの炭素負荷量を有していた。
【0086】
下記の実験では、前記正極を、検査対象の電極として、すなわち、いわゆる作用電極として使用した。前記正極は、三電極アレイをもつハーフセルで検査した。その参照電極および対電極はそれぞれ金属リチウムで作った。前記ハーフセルで使用した前記SO 系電解質は、LiAlCl 1.5SOの組成を有していた。
【0087】
実施例1に記述した方法またはその変形を用いて調製したハーフセルを用いて八つの実験を行った。
【0088】
〔実験1〕
第一の実験では、実施例1に記述した方法に従って作製した正極を使用して、充放電サイクル数に関連して、ハーフセルの容量を決定した。このハーフセルは、図1に関して上記した三電極アレイに基づいており、当該三電極アレイは、上記組成の前記SO系電解質に浸漬されていた。図3は、前記サイクル数の関数として前記ハーフセルの容量を示す。前記サイクル数は、繰り返された充放電動作の数を表す。まず、前記ハーフセルを、C/10の充電/放電レートを使用して形成した。これらの形成サイクルは図示しない。「形成サイクル」という用語は、実測の開始前の前記ハーフセルの初期サイクルを指す。これらの形成サイクルの後、前記ハーフセルを、まず、C/5の放電レートで20サイクル放電し、続けてC/2の放電レートでさらに20サイクル放電した。定義上、セルの公称容量は、1Cの放電レートで一時間で放電され、そこから、放電電流をそれに応じて決定することができる。図3に示す容量は、前記それぞれの正極に含有される炭素の量(グラム単位)に調整した
【0089】
図3は、前記ハーフセルが、40サイクルを超えて約4000mAh/g炭素の放電容量を有することを示している。放電レートをC/5からC/2に上げても、容量出力に影響していない。これは、本開示の前記SO減極剤バッテリセルによって提供される高い容量を示している。
【0090】
〔実験2〕
第二のハーフセルの実験では、実施例1に基づいて作製した正極を、3.85ボルトの電圧から開始して2.5ボルトの最終放電電圧まで、C/5の放電レートおよびC/10の放電レートで放電させた。図4は、容量の関数としてのボルト(V)単位の電圧、したがって前記ハーフセルの放電曲線を示す。C/5の放電レートでは、約4000mAh/g炭素の容量が達成される。これは、上記した実験1からの値に対応している。しかしながら、C/10のより低い放電レートでは、約6500mA/g炭素の容量値が達成される。この実験は、ここに開示するSO減極剤バッテリセルの実質的な電源能力を証明している。
【0091】
〔実験3〕
第三のハーフセルの実験では、容量収率に対する触媒の影響を検査した。この目的のために、前記正極の中へ触媒を組み込んだ。酸化バナジウム(V)を触媒として使用した。触媒としてVを使用した前記正極は、実験1と同じようにして作製したが、次の組成を電極材料として使用した点で異なる。
75重量% 高表面炭素の形の炭素
20重量% フッ素化結合剤
5重量% V
【0092】
この正極も、実験1に記述したものと同じハーフセル実験に使用した。図5は、実験1からの触媒をもたない前記正極および触媒をもつ前記正極に関する充放電サイクル数の関数として容量を示す。図5は、前記正極においてVが触媒として使用される場合、より良好な容量収率を達成することができることを示している。平均して、触媒をもつ正極に関しては、300~400mAh/g炭素高い容量が得られる。
【0093】
〔実験4〕
第四のハーフセル実験では、前記正極の厚みおよびその電極表面1cmあたりの炭素負荷量の容量に対する影響を検査した。表1は、ハーフセル実験4に使用した前記正極の厚みおよび負荷量と、ハーフセル実験4で得られた容量とを示す。
【0094】
正極1は、実施例1に記述したように作製した。正極2および3に関しては、より厚い発泡金属ならびに18重量%のフッ素化結合剤および2重量%のカルボキシアルキルセルロース系結合剤を使用した。これらの正極1、2および3を、3.85ボルトの電圧から開始して2.5ボルトの最終放電電圧まで、C/5の放電レートで放電させた。比較を容易にするために、容量は1cmの電極表面積に統一した。図6は、前記異なる正極1,2および3の結果を示す。また、表1は、達成した容量をmAh/cmで列挙する。
【0095】
【表1】
【0096】
低負荷量の前記薄い正極1は、11.5mAh/cmの容量を示している。厚みおよび負荷量を増大することによって、電極2および3の場合のように、大幅に高くなった容量値が得られる。
【0097】
〔実験5〕
第五のハーフセル実験では、容量に対する前記正極の孔隙率の影響を調査した。表2は、このハーフセル実験に使用した前記正極の厚みおよび負荷量ならびに得られた容量を示す。表2において、電極3は、実験4からの前記電極3である。
【0098】
【表2】
【0099】
前記正極3および4に関して、異なる厚みの発泡金属を、1cmあたり同量の炭素で充填した。電極3の作製に関して、18重量%のフッ素化結合剤および2重量%のカルボキシアルキルセルロース系結合剤を使用した。電極4は、10重量%のカルボキシアルキルセルロース系結合剤を用いて作製した。12mg/cmの同じ負荷量をもつ異なる厚みの発泡金属を使用して、異なる孔隙率の電極を得た。前記厚い方の電極4は、前記薄い方の電極3と比べてより高い孔隙率を示している。これらの正極3および4を、3.85ボルトの電圧から開始して、2.5ボルトの最終放電電圧まで、C/5の放電レートで放電させたが、図7を参照のこと。
【0100】
図7は、一定の負荷量をもつ厚みの増大は、結果的に、容量値の実質的な増大になることを示している。三次元多孔質金属構造をもつ発泡金属またはその他の高多孔質伝導要素の使用は、一定の負荷量における容量の増大の達成を担っているように思われる。一方、このような三次元多孔質金属構造は、外部の電気回路への十分な電子的接触をもつ厚い正極の作製を可能にする。一方、高い孔隙率が達成され、このようなSO減極剤バッテリセルにおける活性電極に、反応して放電生成物を形成するためのかなりの量の空間を与える。
【0101】
〔実験6〕
使用する前記炭素の比表面積の影響を調査するために、二つの異なる正極を、実験1に記述したように作製した。それぞれの場合において、800m/gまたは1200m/gの比表面積をもつ炭素を使用した。ハーフセル実験では、充放電サイクル数の関数として、各正極に関してそれぞれの容量を特定した(図8を参照)。前記ハーフセルを、C/10の充電/放電レートを用いて形成した。形成サイクルは図示しない。まず、前記ハーフセルを、C/5放電レートで20サイクル放電し、続けてC/2放電レートでさらに20サイクル放電した。図8から分かるように、1200m/gのより大きな比表面積をもつ前記正極の容量は、800m/gのより小さな比表面積をもつ前記正極よりも大幅に高い。
【0102】
〔実験7〕
別のハーフセル実験では、SO 系電解質で使用される前記SO含有量に関して、達成可能な容量を検査した。五個の異なるLiAlCl SO 系電解質を作製した。前記x値は、1.0、1.5、2.0、2.5、および3.0とした。実験7で使用した前記電解質および達成した容量を表3に集約している。
【0103】
【表3】
【0104】
ハーフセル実験では、実施例1に基づいて作製した正極を、3.85ボルトの電圧から開始して2.5ボルトの最終放電電圧まで、C/5の放電レートで前記それぞれの電解質中で放電させた。図9は、得られた放電曲線を示す。先に言及したように、得られた容量は表3に集約している。表3および図9から分かるように、記述するバッテリに関する最適な濃度は、伝導塩1モルあたり1.5モルと2.5モルの間のSO、すなわち、伝導塩1モルあたり約2.0モルのSOである。このSO濃度では、ほぼ4500mAh/g炭素の容量が得られる。二酸化硫黄含有量を伝導塩1モルあたり2.0モルから1.5モルのSOに減少する、または二酸化硫黄含有量を伝導塩1モルあたり2.0モルから2.5モルのSOに増加すると、容量値が低くなることにつながる。
【0105】
〔実験8〕
第八のハーフセル実験では、前記SO 系電解質の中へ組み込まれた添加剤の効果を分析した。添加剤としてAlClを使用した。LiAlCl 1.5SO系電解質を作製した。前記電解質の総重量を基準として、4重量%、8重量%、および12重量%の濃度のAlClをこの電解質の三つのサンプルに添加した。このハーフセル実験では、実施例1に基づいて作製した正極を、3.85ボルトの電圧から開始して2.5ボルトの最終放電電圧まで、C/10の放電レートで前記それぞれの電解質中で放電させた。二つの放電サイクルを行った。放電サイクル1および2ごとに前記それぞれの電解質に関して得られた容量を表4に示す。
【0106】
【表4】
【0107】
表4に示すように、AlClの濃度が高いほど、得ることができる放電容量が高くなる。前記第一サイクルでは、12重量%のAlCl の濃度で、約34000mAh/g炭素の容量が達成される。この場合、上記した実験2と比べて、前記第一サイクルで、ほぼ七倍高い容量値に達することができる。ここで、C/10の放電レートおよび添加剤をもたない電解質では、6500mAh/g炭素の容量を達成した。第二の放電サイクルであっても、二倍高い容量を達成することが可能だった。
【0108】
〔定義〕
便宜のため、本明細書および添付の特許請求の範囲で採用した特定の用語をここにまとめる。これらの定義は、本開示全体に照らして解釈するべきであり、当業者によるように理解するべきである。
【0109】
「一つの」(a)および「一つの」(an)という冠詞は、ここで本明細書および請求項において使用する場合、別段に明確に指示されない限り、「少なくとも一つ」を意味すると理解すべきである。
【0110】
「および/または」という句は、ここで本明細書および請求項において使用する場合、そのように等位接続された要素の「いずれかまたは両方」、すなわち、連言的に存在する場合もあれば、選言的に存在する場合もある要素を意味すると理解すべきである。「および/または」によって列挙された複数の要素は、同じように、すなわち、そのように等位接続された要素の「一つまたは複数」と解釈するべきである。「および/または」節によって具体的に特定された要素以外に、それらの具体的に特定された要素に関連するか関連しないかを問わず、その他の要素が任意選択的に存在し得る。したがって、非制限的な一例として、「Aおよび/またはB」というときは、「を含む」(comprising)などのオープンエンド言語とともに使用される場合、ある実施形態ではAのみを指し(任意選択的にB以外の要素を含む)、別の実施形態ではBのみを指し(任意選択的にA以外の要素を含む)、さらに別の実施形態ではAとBの両方を指す(任意選択的にその他の要素を含む)、などの可能性がある。
【0111】
「または」という句は、ここで本明細書および請求項において使用する場合、そのように等位接続された要素の「いずれかまたは両方」、すなわち、連言的に存在する場合もあれば、選言的に存在する場合もある要素を意味すると理解すべきである。「または」によって列挙された複数の要素は、同じように、すなわち、そのように等位接続された要素の「一つまたは複数」と解釈するべきである。「または」節によって具体的に特定された要素以外に、それらの具体的に特定された要素に関連するか関連しないかを問わず、その他の要素が任意選択的に存在し得る。したがって、非制限的な一例として、「AまたはB」というとき、「を含む」(comprising)などのオープンエンド言語とともに使用される場合、ある実施形態ではAのみを指し(任意選択的にB以外の要素を含む)、別の実施形態ではBのみを指し(任意選択的にA以外の要素を含む)、さらに別の実施形態ではAとBの両方を指す(任意選択的にその他の要素を含む)、などの可能性がある。
【0112】
ここで本明細書および本特許請求の範囲において使用する場合、一つまたは複数の要素のリストに関して、「少なくとも一つ」という句は、当該要素リスト内の要素のいずれか一つまたは複数から選択された少なくとも一つの要素を意味するが、当該要素リスト内に具体的に列挙されたあらゆる要素の少なくとも一つを必ずしも含まず、当該要素リスト内の要素のどの組み合わせも排除しないと理解するべきである。この定義は、「少なくとも一つ」という句が指す要素リスト内で具体的に特定された要素以外の要素が、これらの具体的に特定された要素に関連するか関連しないかを問わず、任意選択的に存在し得ることも許容する。したがって、非制限的な一例として、「AおよびBの少なくとも一つ」(または等しく「AまたはBの少なくとも一つ」、または等しく「Aおよび/またはBの少なくとも一つ」)は、ある実施形態では、Bが存在しない、少なくとも一つの、任意選択的に二つ以上のAを指し(かつ任意選択的にB以外の要素を含む)、別の実施形態では、Aが存在しない、少なくとも一つの、任意選択的に二つ以上のBを指し(かつ任意選択的にA以外の要素を含む)、さらに別の実施形態では、少なくとも一つの、任意選択的に二つ以上のAと、少なくとも一つの、任意選択的に二つ以上のBとを指す(かつ任意選択的にその他の要素を含む)、などの可能性がある。
【0113】
別段に明確に指示されない限り、ここに記述されかつ下記に請求されたプロセスは、記載されたステップに付加するステップを含むことができ、当該プロセスの当該ステップまたは行為の順序は、当該プロセスの当該ステップまたは行為が記載された順序に必ずしも制限されないことも理解すべきである。本開示の文脈において、「プロセス」および「方法」という言葉は同義語である。
【0114】
本特許請求の範囲において、ならびに本明細書において、「を含む」(comprising)、「から構成される」(comprised of)、「を含む」(including)、「を保有する」(carrying)、「を有する」(having)、「含有する」(containing)、「ともなう」(involving)、「保持する」(holding)、「から構成される」(composed of)、および同種のものなどの全ての移行句は、オープンエンドとして、すなわち、「を含むがそれに限定されない」(including but not limited to)を意味すると理解するものとする。「からなる」(consisting of)および「から本質的になる」(consisting essentially of)という移行句のみを、クローズドまたはセミクローズド移行句としなければならない。
【0115】
当業者なら、ここに記述した具体的な実施形態に対する多くの均等物を認識し、あるいは、日常の実験を用いるだけで確認することができるだろう。このような均等物は、次の特許請求の範囲によって包含されることを意図している。
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