(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-07
(45)【発行日】2024-05-15
(54)【発明の名称】MAGEA1特異的T細胞受容体およびその使用
(51)【国際特許分類】
C12N 15/12 20060101AFI20240508BHJP
C07K 14/725 20060101ALI20240508BHJP
C12N 15/867 20060101ALI20240508BHJP
C12N 15/13 20060101ALI20240508BHJP
C07K 16/28 20060101ALI20240508BHJP
C12N 7/01 20060101ALI20240508BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20240508BHJP
C12N 1/15 20060101ALI20240508BHJP
C12N 1/19 20060101ALI20240508BHJP
C12N 1/21 20060101ALI20240508BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20240508BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20240508BHJP
A61K 48/00 20060101ALI20240508BHJP
A61K 35/76 20150101ALI20240508BHJP
A61K 35/12 20150101ALI20240508BHJP
A61K 38/16 20060101ALI20240508BHJP
【FI】
C12N15/12
C07K14/725 ZNA
C12N15/867 Z
C12N15/13
C07K16/28
C12N7/01
C12N5/10
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
A61P35/00
A61K39/395 N
A61K39/395 D
A61K48/00
A61K35/76
A61K35/12
A61K38/16
(21)【出願番号】P 2021558921
(86)(22)【出願日】2020-04-01
(86)【国際出願番号】 EP2020059193
(87)【国際公開番号】W WO2020201318
(87)【国際公開日】2020-10-08
【審査請求日】2022-07-14
(32)【優先日】2019-04-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】517419917
【氏名又は名称】メディジーン イミュノテラピーズ ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100120134
【氏名又は名称】大森 規雄
(74)【代理人】
【識別番号】100110663
【氏名又は名称】杉山 共永
(72)【発明者】
【氏名】ヴェーナー,カリナ
(72)【発明者】
【氏名】ヴァイス,マノン
(72)【発明者】
【氏名】ラッフェゲルスト,シルク
(72)【発明者】
【氏名】モーシュ,アンジャ
【審査官】山内 達人
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第106749620(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N
C07K
A61P
A61K
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
MAGEA1に対して特異的な単離されたT細胞受容体(TCR)であって、
- 配列番号2のアミノ酸配列を有するCDR1、配列番号3のアミノ酸配列を有するCDR2および配列番号4のアミノ酸配列を有するCDR3を含むTCRα鎖、並びに、
- 配列番号5のアミノ酸配列を有するCDR1、配列番号6のアミノ酸配列を有するCDR2および配列番号7のアミノ酸配列を有するCDR3を含むTCRβ鎖
を含み、
配列番号1のアミノ酸配列のHLA-A2結合形態を特異的に認識する、前記TCR。
【請求項2】
前記配列番号1のアミノ酸配列のHLA-A2結合形態が、HLA-A
*02:01、HLA-A
*02:04、HLA-A
*02:16およびHLA-A
*02:17からなる群から選択される遺伝子によってコードされた分子によって提示される、請求項1に記載の単離されたTCR。
【請求項3】
配列番号8と少なくとも80%同一であるアミノ酸配列を有する可変TCRα領域および配列番号9と少なくとも80%同一であるアミノ酸配列を有する可変TCRβ領域を含む、請求項1または2に記載の単離されたTCR。
【請求項4】
請求項1から3のいずれかに記載のTCRの機能性部分を含む単離されたポリペプチドであって、前記機能性部分が、配列番号
2、3、4
、5、6および7のアミノ酸配
列を含
み、前記機能性部分は、TCRの抗原への結合を媒介する、単離されたポリペプチド。
【請求項5】
請求項1から3のいずれか一項に記載の少なくとも2つのTCRを含む多価TCR複合体。
【請求項6】
IFN-γ分泌が、
HLA-A
*02:01、HLA-A
*02:04、HLA-A
*02:16、またはHLA-A
*02:17の遺伝子によってコードされた分子によって提示される配列番号1のアミノ酸配列のHLA-A2結合形態への、
エフェクター細胞上に発現された
、請求項1から3のいずれか一項に記載の単離されたTCR、
請求項4に記載のポリペプチド、または
請求項5に記載の多価TCR複合体の結合
によって誘導される、請求項1から3のいずれか一項に記載の単離されたTCR、請求項4に記載のポリペプチド、または請求項5に記載の多価TCR複合体。
【請求項7】
請求項1から3のいずれか一項に記載のTCRをコードするかまたは請求項4に記載の単離されたポリペプチドをコードする核酸。
【請求項8】
請求項7に記載の核酸を含むベクター。
【請求項9】
請求項1から3のいずれか一項に記載のTCRを発現する細胞。
【請求項10】
MAGEA1に対する特異性を媒介する請求項1から3のいずれか一項に記載のTCRの部分に特異的に結合する抗体または抗原結合性断片。
【請求項11】
医薬として使用するための、請求項1から3のいずれか一項に記載のTCR、請求項4に記載のポリペプチド、請求項5に記載の多価TCR複合体、請求項7に記載の核酸、請求項8に記載のベクター、または請求項9に記載の細胞。
【請求項12】
前立腺がん、子宮がん、甲状腺がん、精巣がん、腎がん、膵臓がん、卵巣がん、食道がん、非小細胞肺がん、肺腺癌、扁平上皮癌、非ホジキンリンパ腫、多発性骨髄腫、メラノーマ、肝細胞癌、頭頚部がん、胃がん、子宮内膜がん、子宮頸がん、結腸直腸がん、胃腺癌、胆管細胞癌、乳がん、膀胱がん、骨髄性白血病および急性リンパ芽球性白血病、肉腫または骨肉腫からなる群から選択されるがんの処置において使用するための、請求項1から3のいずれか一項に記載のTCR、請求項4に記載のポリペプチド、請求項5に記載の多価TCR複合体、請求項7に記載の核酸、請求項8に記載のベクター、または請求項9に記載の細胞。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、MAGEA1由来のペプチドに対して特異的な単離されたT細胞受容体(TCR)およびTCRの機能性部分を含むポリペプチドに関する。さらに、多価TCR複合体、TCRをコードする核酸、TCRを発現する細胞およびTCRを含む医薬組成物に関する。本発明はまた、医薬として使用するためのTCR、特に、がんの処置において使用するためのTCRに関する。
【背景技術】
【0002】
メラノーマ関連抗原1とも呼ばれるMAGEA1は、互いに高い相同性を有するいくつかのタンパク質をコードするMAGEA遺伝子ファミリーのメンバーである。MAGEA抗原は、がん/精巣抗原(CTA)のファミリーに属し、分子レベルで同定された最初のヒト腫瘍関連抗原であった(Science 1991. 254: 1643-1647/ republished in J. Immunol. 2007; 178:2617-2621)。MAGEA遺伝子ファミリーは、第Xp28染色体に位置する12個の相同性の高い遺伝子を含む。これらの発現は、非小細胞肺がん、膀胱がん、食道、頭頚部がんおよび肉腫、ならびにメラノーマ、ある特定の種類の乳がんなどの様々な組織学的起源のがんにおいて、また生殖細胞において(Front Med (Lausanne). 2017; 4: 18.)、一貫して検出される。MAGEA1は、細胞質(cytosolic)/細胞質(cytoplasmic)タンパク質であり、MAGEA1タンパク質に由来するペプチドは、MHCクラスIバックグラウンドで、すなわち、HLA分子上に提示される。より詳細には、MAGEA1由来のエピトープは、HLA-A2分子上に提示され、抗原免疫原性であること、およびこれにより、がん免疫療法に関する標的として適合することが示される。免疫療法の技術分野における複数の臨床試験が既に、MAGEAタンパク質を標的として行われている(clinicaltrials.gov)。前記抗原の免疫原性と組み合わせた、多数の患者を有するメラノーマおよび肺がんのような広範囲の腫瘍実体におけるMAGEA1の発現(Lancet Oncol 2003; 4: 104-09)は、T細胞媒介免疫療法に対する有望な標的として、MAGEA1を適格とする。養子細胞移入(ACT)を使用するがん免疫療法の原理は、患者自身の免疫系を利用する高度に腫瘍特異的ながん処置を可能にする。ACTは、MAGEA1のような細胞内タンパク質に由来する既定のエピトープに対する特異性を有するT細胞受容体(TCR)を発現するように遺伝子操作された、ex vivoで拡大された自己の(患者由来の)T細胞を使用する。よって、腫瘍特異的/拘束性抗原であるMAGEA1のみを標的とし、したがって、がん免疫療法に対する並外れた可能性を有する効率性の高いTCRに対する需要が依然として存在する。よって、MAGEA1を標的とするこのような特異的TCRに対する需要が存在する。
【発明の概要】
【0003】
本発明の1つの目的は、MAGEA1に対して特異的なT細胞受容体(TCR)の提供であった。
【0004】
具体的な実施形態では、単離されたTCRは、配列番号2のアミノ酸配列を有するCDR1、配列番号3のアミノ酸配列を有するCDR2および配列番号4のアミノ酸配列を有するCDR3を含むTCRα鎖と、配列番号5のアミノ酸配列を有するCDR1、配列番号6のアミノ酸配列を有するCDR2および配列番号7のアミノ酸配列を有するCDR3を含むTCRβ鎖を含む。
【0005】
TCRは、アミノ酸配列である配列番号1またはその断片を特異的に認識する。具体的な実施形態では、TCRは、配列番号1のアミノ酸配列のHLA-A2および/またはHLA-A26結合形態、好ましくはHLA-A2結合形態を特異的に認識する。より詳細には、TCRは、HLA-A*02:01、HLA-A*02:02、HLA-A*02:04、HLA-A*02:16、HLA-A*02:17およびHLA-A*26:01からなる群から選択される遺伝子によってコードされた分子によって提示される配列番号1のアミノ酸配列を特異的に認識し、より好ましくは、TCRは、HLA-A*02:01、HLA-A*02:04、HLA-A*02:16およびHLA-A*02:17からなる群から選択される遺伝子によってコードされた分子によって提示される配列番号1のアミノ酸配列を特異的に認識し、さらにより好ましくは、TCRは、HLA-A*02:01にコードされた分子によって提示される配列番号1のアミノ酸配列を特異的に認識する。
【0006】
本発明のTCRは、高い腫瘍細胞認識能、高い腫瘍細胞殺滅能および高い機能性アビディティを示すため、特に有用である。さらに、TCRは、有効な腫瘍退縮に対して有利である、Th2サイトカインIL-4、IL-5およびIL-13の分泌をあまり示さない。
【0007】
好ましくは、TCRは、他のMAGEAファミリーのメンバーに対する交差反応性を有さない。
【0008】
本発明の別の目的は、MAGEA1に対して特異的である機能性TCRを発現するT細胞の提供である。
【0009】
本発明によるTCRは、単離および/または精製され、可溶性であるかまたは膜に結合してもよい。
【0010】
一部の実施形態では、TCRのアミノ酸配列は、1つまたは複数の表現型に影響しない(phenotypically silent)置換を含んでもよい。さらに、本発明のTCRは標識され得る。有用な標識は当技術分野で公知であり、任意選択で様々な長さのリンカーを介して、通常の方法を使用してTCRまたはTCRバリアントに連結され得る。用語「標識」または「標識基」は、任意の検出可能な標識を指す。さらに、またはあるいは、アミノ酸配列は、治療剤または薬物動態改変部分を含むように改変され得る。治療剤は、免疫エフェクター分子、細胞毒性剤および放射性核種からなる群から選択されてもよい。免疫エフェクター分子は、例えば、サイトカインであってもよい。薬物動態改変部分は、少なくとも1つのポリエチレングリコール繰り返し単位、少なくとも1つのグリコール基、少なくとも1つのシアリル基またはそれらの組合せであってもよい。
【0011】
TCR、特に本発明によるTCRの可溶性形態は、例えば、免疫原性を低下させる、流体力学的サイズ(溶液中のサイズ)溶解度および/もしくは安定性を増加させる(例えば、タンパク質分解に対する保護を増強させることによって)ならびに/または血清中半減期を延長するために、追加の機能性部分を付加することによって改変され得る。他の有用な機能性部分および改変には、患者の体内で本発明のTCRを有するエフェクター宿主細胞を遮断するかもしくは活性化するために、またはトランスジェニックTCR自体を遮断するかもしくは活性化するために使用され得る「自殺」または「安全スイッチ」が含まれる。グリコシル化パターンが変更されたTCRも本発明において予想される。
【0012】
薬物または治療実体、例えば、TCR、特に本発明のTCRの可溶性形態に対して小分子化合物を添加することも考えられる。
【0013】
TCR、特に本発明のTCRの可溶性形態は、それぞれの分子(タグ)の特定、追跡、精製および/または単離を補助する追加のドメインを導入するためにさらに改変され得る。
【0014】
一部の実施形態では、TCRは一本鎖タイプのものであり、ここで、TCRα鎖とTCRβ鎖は、リンカー配列によって連結されている。
【0015】
本発明の別の態様は、本明細書に記載されているTCRの機能性部分を含むポリペプチドであって、機能性部分が、配列番号4および7のアミノ酸配列のうちの1つを含み、好ましくは、機能性部分が、配列番号2、3、4および5、6、7のアミノ酸配列を含む、ポリペプチドを指す。
【0016】
具体的実施形態では、機能性部分は、TCRα可変鎖および/またはTCRβ可変鎖を含む。
【0017】
具体的実施形態は、本明細書に記載されている少なくとも2つのTCRを含む多価TCR複合体を指す。より具体的な実施形態では、前記TCRのうちの少なくとも1つに、治療剤が付随する。
【0018】
一部の実施形態は、機能性ポリペプチドまたは機能性多価ポリペプチドとして、エフェクター細胞、特に免疫エフェクター細胞上に発現される本発明のTCRを指し、ここで、IFN-γ分泌は、アミノ酸配列である配列番号2のHLA-A2結合形態に結合した際にTCRを発現する前述のエフェクター細胞において誘導される。
【0019】
本発明の別の態様は、本明細書に記載されているTCRをコードするかまたは上記のポリペプチドをコードする核酸を指す。
【0020】
本発明のさらなる態様は、上記の本出願の核酸を含むプラスミドまたはベクターを指す。好ましくは、ベクターは、発現ベクターまたは細胞、特に真核生物の細胞の形質導入もしくはトランスフェクションに好適なベクターである。ベクターは、例えば、レトロウイルスベクター、例えば、ガンマーレトロウイルスベクターまたはレンチウイルスベクターであってもよい。
【0021】
本発明の別の態様は、本明細書に記載されているTCRを発現する細胞を指す。細胞は、単離された初代細胞であっても天然に存在しなくてもよい。
【0022】
本発明の別の態様は、上記の核酸または上記のプラスミドもしくはベクターを含む細胞を指す。より詳細には、細胞は:
a)少なくとも1つの上記の核酸を含む発現ベクター、または
b)本明細書に記載されているTCRのアルファ鎖をコードする核酸を含む第1の発現ベクター、および本明細書に記載されているTCRのベータ鎖をコードする核酸を含む第2の発現ベクター
を含んでもよい。
【0023】
細胞は、末梢血リンパ球(PBL)または末梢血単核細胞(PBMC)であってもよい。典型的には、細胞は、免疫エフェクター細胞、特にT細胞である。他の好適な細胞型は、改変されたかまたは未改変の、ガンマ-デルタT細胞およびNK様T細胞およびNK細胞を含む。
【0024】
別の態様は、MAGEA1に対する特異性を媒介する、本明細書に記載されているTCRの一部に特異的に結合する抗体またはその抗原結合断片を指す。具体的な実施形態では、MAGEA1特異性を媒介するTCRの部分は、配列番号4のアルファ鎖のCDR3および/または配列番号7のベータ鎖のCDR3を含む。一部の実施形態では、MAGEA1特異性を媒介するTCRの部分は、配列番号2、3、4および5、6、7のアミノ酸配列を含む。
【0025】
本発明の別の態様は、本明細書に記載されているTCR、本明細書に記載されているポリペプチド、本明細書に記載されている多価TCR複合体、本明細書に記載されている核酸、本明細書に記載されているベクター、本明細書に記載されている細胞、または本明細書に記載されている抗体を含む医薬組成物を指す。
【0026】
典型的には、医薬組成物は、少なくとも1つの薬学的に許容される担体を含む。
【0027】
本発明の別の態様は、医薬として使用するための、特にがんの処置において使用するための、本明細書に記載されているTCR、本明細書に記載されているポリペプチド、本明細書に記載されている多価TCR複合体、本明細書に記載されている核酸、本明細書に記載されているベクター、本明細書に記載されている細胞、または本明細書に記載されている抗体を指す。がんは、血液がんであっても固形腫瘍であってもよい。がんは、前立腺がん、子宮がん、甲状腺がん、精巣がん、腎がん、膵臓がん、卵巣がん、食道がん、非小細胞肺がん、肺腺癌、扁平上皮癌、非ホジキンリンパ腫、多発性骨髄腫、メラノーマ、肝細胞癌、頭頚部がん、胃がん、子宮内膜がん、子宮頸がん、結腸直腸がん、胃腺癌、胆管細胞癌、乳がん、膀胱がん、骨髄性白血病および急性リンパ芽球性白血病、肉腫または骨肉腫からなる群から選択されてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】異なるドナー(ドナーAまたはB;灰色または黒色の棒)に由来するTCR T15.8-4.3-83を発現するエフェクターによるMAGEA1
KVL(配列番号1)ペプチド(KVL)を負荷したT2細胞の特異的認識を示すグラフである。完全マウスC領域(murC)を有するTCRバージョンに関して、IFN-γの分泌によって測定されたTCR媒介性標的認識を左のグラフに示し、最小限にマウス化されたヒトC領域(mmC)に関しては真中のグラフに示す。ベンチマーク対照MAGEA1-TCRを形質導入したエフェクターによって媒介される認識を右側に示す。対照として、無関係のASTN-1ペプチド(配列番号28)を負荷したT2細胞を、本発明のTCRまたは対照TCR(Ctrl.MAGEA1-TCR)を発現するT細胞と共にインキュベートした。
【
図2】3つの異なるエフェクター細胞調製物(影付きの白色、淡灰色および暗灰色の棒)において発現されたTCR T15.8-4.3-83によるKVLペプチドを負荷したリンパ芽球様細胞株(LCL)の特異的認識の際のIFN-γ分泌を示すグラフである。負荷されていないLCLを各エフェクター細胞(無地の棒、白色、淡灰色および暗灰色)と共培養した場合には、認識は観察されない。ボックスは、提示および認識を担うHLAアレルを示す。HLA-Aに対してヘテロ接合性のLCLの場合には(アスタリスクによって示される)、他のHLA-Aに関するペプチドの認識は除外され得る(データは示さず)。
【
図3】TCR T15.8-4.3-83を発現するエフェクター(上のグラフ)またはベンチマークCtrl.MAGEA1-TCR(下のグラフ)によって媒介される異なる起源の様々な腫瘍細胞株の認識を示すグラフである。エフェクター細胞は、3名の異なるドナー(ドナーA、BまたはC;白色、淡灰色または暗灰色の棒)に由来した。MAGEA1-TCRを発現するエフェクター細胞(無地の棒)または形質導入されていない対照細胞(影付きの棒)による標的認識は、IFN-γ分泌を測定することによって検出した。KVLペプチドを負荷したかまたは無関係のASTN1ペプチドを負荷したT2細胞は、標的対照としての役割を果たし、各グラフの右側に示される(T2+KVL、T2+ASTN1)。
【
図4A】腫瘍細胞株UACC-62(A)のTCR媒介性溶解を示すグラフである。細胞の溶解は、蛍光標識された標的細胞の消失によって測定した。腫瘍細胞は、未改変のまま(黒色)または陽性対照としてKVLペプチドを負荷して(灰色)試験した。標的を、TCR T15.8-4.3-83(上のグラフ)、ベンチマークCtrl.MAGEA1-TCR(真中のグラフ)を発現するかまたは形質導入されていない(下のグラフ)3名の異なるドナー(ドナーA、BまたはC、黒塗りの丸)に由来するエフェクター細胞と最大144時間共培養した。単独で培養した標的細胞を、参照(白抜きの丸)として各グラフに示す。IncuCyte(商標) Zoom Systemを用いて2時間ごとにイメージを撮り、分析し、144時間にわたりウェル当たりの標的細胞数を示す。
【
図4B】NCI-H1703(B)のTCR媒介性溶解を示すグラフである。細胞の溶解は、蛍光標識された標的細胞の消失によって測定した。腫瘍細胞は、未改変のまま(黒色)または陽性対照としてKVLペプチドを負荷して(灰色)試験した。標的を、TCR T15.8-4.3-83(上のグラフ)、ベンチマークCtrl.MAGEA1-TCR(真中のグラフ)を発現するかまたは形質導入されていない(下のグラフ)3名の異なるドナー(ドナーA、BまたはC、黒塗りの丸)に由来するエフェクター細胞と最大144時間共培養した。単独で培養した標的細胞を、参照(白抜きの丸)として各グラフに示す。IncuCyte(商標) Zoom Systemを用いて2時間ごとにイメージを撮り、分析し、144時間にわたりウェル当たりの標的細胞数を示す。
【
図4C】Saos-2(C)のTCR媒介性溶解を示すグラフである。細胞の溶解は、蛍光標識された標的細胞の消失によって測定した。腫瘍細胞は、未改変のまま(黒色)または陽性対照としてKVLペプチドを負荷して(灰色)試験した。標的を、TCR T15.8-4.3-83(上のグラフ)、ベンチマークCtrl.MAGEA1-TCR(真中のグラフ)を発現するかまたは形質導入されていない(下のグラフ)3名の異なるドナー(ドナーA、BまたはC、黒塗りの丸)に由来するエフェクター細胞と最大144時間共培養した。単独で培養した標的細胞を、参照(白抜きの丸)として各グラフに示す。IncuCyte(商標) Zoom Systemを用いて2時間ごとにイメージを撮り、分析し、144時間にわたりウェル当たりの標的細胞数を示す。
【
図4D】647-V(D)のTCR媒介性溶解を示すグラフである。細胞の溶解は、蛍光標識された標的細胞の消失によって測定した。腫瘍細胞は、未改変のまま(黒色)または陽性対照としてKVLペプチドを負荷して(灰色)試験した。標的を、TCR T15.8-4.3-83(上のグラフ)、ベンチマークCtrl.MAGEA1-TCR(真中のグラフ)を発現するかまたは形質導入されていない(下のグラフ)3名の異なるドナー(ドナーA、BまたはC、黒塗りの丸)に由来するエフェクター細胞と最大144時間共培養した。単独で培養した標的細胞を、参照(白抜きの丸)として各グラフに示す。IncuCyte(商標) Zoom Systemを用いて2時間ごとにイメージを撮り、分析し、144時間にわたりウェル当たりの標的細胞数を示す。
【
図5】3名の異なるドナー(ドナーA、BまたはC;白色、淡灰色または暗灰色の棒)に由来するベンチマークctrl.MAGEA1-TCRを形質導入したか(無地の棒)または形質導入されていない(影付きの棒)エフェクターとの共培養後に、トレオニン置換スキャンのためのペプチドを負荷したT2細胞の認識を示すグラフである。TCRの元のMAGEA1由来のエピトープKVLの認識を左側に示す。x軸に示されるエピトープ配列は、元のAAのトレオニンとの交換に関する位置を示す。元のAAの交換により排除された認識を黒枠で強調する。標的認識は、T細胞媒介性IFN-γ分泌を測定することによって検出された。
【
図6】3名の異なるドナー(ドナーA、BまたはC;白色、淡灰色または暗灰色の棒)に由来するTCR T15.8-4.3-83を形質導入したか(無地の棒)または形質導入されていない(影付きの棒)エフェクターとの共培養後に、トレオニン置換スキャンのためのペプチドを負荷したT2細胞の認識を示すグラフである。TCRの元のMAGEA1由来のエピトープKVLの認識を左側に示す。x軸に示されるエピトープ配列は、元のAAのトレオニンとの交換に関する位置を示す。元のAAの交換により排除された認識を黒枠で強調する。標的認識は、T細胞媒介性IFN-γ分泌を測定することによって検出された。
【
図7】HEK 293T細胞(A)、K562細胞(B)およびLCL細胞(C)のTCR T15.8-4.3-83媒介性認識を示すグラフである。標的細胞の認識は、T細胞媒介性IFN-γ分泌を測定することによって検出された。x軸上に示されるように、細胞株およびT2細胞に、対照としてのMAGEA1由来のKVLペプチド(+KVL)もしくはASTN1由来のKVLペプチド(+ASTN1)を負荷したか、またはMAGEA1、ASTN1もしくは13種のMAGEファミリーのメンバーをコードするivtRNAをトランスフェクトした。標的を、2名のドナー(淡灰色または暗灰色)に由来するTCRを形質導入したか(無地の棒)または形質導入されていない(影付きの棒)エフェクター細胞と共培養した。単独で培養した標的細胞(標的のみ)によって媒介されるバックグラウンドを白い棒で与える。破線は、IFN-γの標的と無関係のバックグラウンド分泌を示す。
【
図8】健康な組織に由来するかまたは健康なヒト組織に相当する人工多能性幹細胞(iPS)に由来する未改変(負荷されていない)またはKVLを負荷した標的細胞のTCR T15.8-4.3-83媒介性認識を示すグラフである。標的細胞の認識は、TCR T15.8-4.3-83を形質導入した3名の異なるドナー(ドナーA、BまたはC;白色、淡灰色または暗灰色の棒)に由来するT細胞によるIFN-γの分泌を測定することによって検出された。標的単独(標的のみ)のバックグラウンドIFN-γの分泌は、対照として各細胞型について示され、TCRによって認識される、エピトープKVLを負荷したT2細胞(T2+KVL)の認識およびエフェクター単独(エフェクターのみ)によるバックグラウンドは、グラフの右側に示される。
【
図9】正常細胞のエフェクター細胞との共培養の位相差顕微鏡で撮影した代表的写真を示す。KVLを負荷した標的細胞のすべてについて明らかなTCR媒介性溶解が存在するが(細胞層の完全な破壊)、TCRを発現するエフェクター細胞は、未改変の正常細胞を溶解しない。
【
図10】MAGEA1およびHLA-A
*02:01の二重陽性腫瘍細胞株に応答してIFN-γを産生するTCRトランスジェニックエフェクターT細胞集団の能力を示すグラフである。FH1、FH2 FH3およびFH4は、国際公開第2018/170338号パンフレットに開示されたTCRを指し、FH1:Vα=国際公開第’338号パンフレットの配列番号7 Vβ=国際公開第’338号パンフレットの配列番号5;FH2:Vα=配列番号11 Vβ=国際公開第’338号パンフレットの配列番号9、FH3:Vα=国際公開第’338号パンフレットの配列番号15 Vβ=国際公開第’338号パンフレットの配列番号13;FH1:Vα=国際公開第’338号パンフレットの配列番号19 Vβ=国際公開第’338号パンフレットの配列番号17。R37P1C9は、国際公開第2018/104438号パンフレットに開示されたMAGA1-TCRを指す。
【
図11】MAGEA1およびHLA-A
*02:01二重陽性腫瘍細胞株を溶解するTCRトランスジェニックエフェクターT細胞集団の能力を示すグラフである。FH1、FH2 FH3およびFH4は、国際公開第2018/170338号パンフレットに開示されたTCRを指す(
図10を参照されたい)。R37P1C9は、国際公開第2018/104438号パンフレットに開示されたMAGA1-TCRを指す。UTD:形質導入されていない。
【
図12】様々なKVLペプチドに特異的なTCRの機能性アビディティを示すグラフである。機能性アビディティは、トランスジェニックTCRとpMHC複合体の間の個々の非共有結合性相互作用の多重親和性(multiple affinity)の蓄積された強度を指す。FH1、FH2 FH3およびFH4は、国際公開第2018/170338号パンフレットに開示されたTCRを指す(
図10を参照されたい)。R37P1C9は、国際公開第2018/104438号パンフレットに開示されたMAGA1-TCRを指す。
【
図13】エピトープ配列における重要なアミノ酸を決定するために、セリン残基を使用して、MAGEA1
KVLペプチドにおいて個々のアミノ酸を系統的に置き換えること(セリンスキャン)を示すグラフである。
【
図14A】様々なTCRを形質導入したT細胞のTH2特異的サイトカインIL-4の分泌パターンを示すグラフである。UT:トランスフェクトされていない。T1367は、国際公開第2014/118236号パンフレットに開示されたTCRを示す。標的のみ:腫瘍細胞をTCRなしで培養する。
【
図14B】様々なTCRを形質導入したT細胞のTH2特異的サイトカインIL-5の分泌パターンを示すグラフである。UT:トランスフェクトされていない。T1367は、国際公開第2014/118236号パンフレットに開示されたTCRを示す。標的のみ:腫瘍細胞をTCRなしで培養する。
【
図14C】様々なTCRを形質導入したT細胞のTH2特異的サイトカインIL-13の分泌パターンを示すグラフである。UT:トランスフェクトされていない。T1367は、国際公開第2014/118236号パンフレットに開示されたTCRを示す。標的のみ:腫瘍細胞をTCRなしで培養する。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本発明の詳細な記載
本発明が、その好ましい実施形態のうちのいくつかについて詳細に説明される前に、以下の一般的定義を提供する。
【0030】
以下に例示的に記載されるように、本発明は、本明細書において具体的に開示されていないいずれかの要素(単数または複数)、制限(単数または複数)の非存在下で、好適に実践され得る。
【0031】
本発明は、特定の実施形態に関しておよび特定の図を参照して記載されるが、本発明はそれらにではなく特許請求の範囲によってのみ限定される。
【0032】
本記載および特許請求の範囲において用語「含む(comprising)」が使用される場合、それは他の要素を排除しない。本発明の目的のために用語「からなる(consisting of)」は、用語「を構成する(comprising of)」の好ましい実施形態であると考えられる。以下で、群が少なくとも一定数の実施形態を含むと定義される場合、これは、好ましくはこれらの実施形態だけからなる群を開示するとも理解される。
【0033】
本発明の目的のために用語「得られた(obtained)」は、用語「得ることができる(obtainable)」の好ましい実施形態であると考えられる。以下で、例えば抗体が具体的な供給源から得ることができると定義される場合、これはこの供給源から得られる抗体を開示するとも理解される。
【0034】
不定冠詞または定冠詞が単数名詞、例えば「a」、「an」または「the」を参照して使用される場合、これは、他に具体的に述べられている場合を除いてその名詞の複数を含む。本発明の文脈において、用語「約(about)」または「およそ(approximately)」は、当業者が問題となる特質の技術的効果をまだ確保すると理解する正確さの区間を記す。用語は、±10%、好ましくは±5%の示された数値からの偏差を典型的には示す。
【0035】
技術的用語は、それらの一般的な意味または当業者にとっての意味で使用される。具体的な意味が特定の用語によって伝えられる場合、用語の定義は以下にその用語が使用される文脈において与えられる。
【0036】
TCRバックグラウンド
TCRは、2つの異なる、別々のタンパク質鎖、すなわちTCRアルファ(α)鎖およびTCRベータ(β)鎖から構成される。TCRα鎖は、可変(V)、連結(J)および定常(C)領域を含む。TCRβ鎖は、可変(V)、多様性(D)、連結(J)および定常(C)領域を含む。TCRα鎖とTCRβ鎖の両方の再配列V(D)J領域は、超可変領域(CDR、相補性決定領域)を含有し、これらの中で、CDR3領域は、特異的エピトープ認識を決定する。C末端領域において、TCRα鎖とTCRβ鎖の両方は、疎水性膜貫通ドメインを含有し、短い細胞質側末端で終わる。
【0037】
典型的には、TCRは、1つのα鎖と1つのβ鎖のヘテロ二量体である。このヘテロ二量体は、ペプチドを提示するMHC分子に結合し得る。
【0038】
本発明の文脈における用語「可変TCRα領域」または「TCRα可変鎖」または「可変ドメイン」は、TCRα鎖可変領域を指す。本発明の文脈における用語「可変TCRβ領域」または「TCRβ可変鎖」は、TCRβ鎖可変領域を指す。
【0039】
TCR遺伝子座および遺伝子は、国際免疫遺伝学(IMGT)TCR学名命名法(IMGTデータベース、www. IMGT.org;Giudicelli, V., et al.,IMGT/LIGM-DB, the IMGT(登録商標) comprehensive database of immunoglobulin and T cell receptor nucleotide sequences, Nucl. Acids Res., 34, D781-D784 (2006). PMID: 16381979;T cell Receptor Factsbook, LeFranc and LeFranc, Academic Press ISBN 0-12- 441352-8)を使用して命名される。
【0040】
標的
本明細書に記載のTCRに対する標的は、MAGEA1(NCBI参照配列:NM_004988.4)由来のペプチドKVL(配列番号1)である。
【0041】
TCR特異的配列
一部の実施形態は、TCRα鎖およびTCRβ鎖を含む単離されたTCRに関し、ここで、
- TCRα鎖は、配列番号4の配列を有する相補性決定領域3(CDR3)を含み、
- TCRβ鎖は、配列番号7のアミノ酸配列を有するCDR3を含む。
【0042】
具体的な実施形態は、
- 配列番号2のアミノ酸配列を有するCDR1、配列番号3のアミノ酸配列を有するCDR2および配列番号4の配列を有するCDR3を含むTCRα鎖、
- 配列番号5のアミノ酸配列を有するCDR1、配列番号6のアミノ酸配列を有するCDR2および配列番号7の配列を有するCDR3を含むTCRβ鎖
を含む単離されたTCRを指す。
【0043】
一部の実施形態では、TCRは、配列番号8と少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%同一であるアミノ酸配列を有する可変TCRα領域および配列番号9と少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%同一であるアミノ酸配列を有する可変TCRβ領域を含む。
【0044】
好ましい実施形態は、配列番号8のアミノ酸配列を有する可変TCRα領域および配列番号9のアミノ酸配列を有する可変TCRβ領域を含むTCRに関する。
【0045】
そのトランスジェニック形態において、実施例において使用されるT細胞クローンT15.8-4.3-83を起源とするTCRは、配列番号4の配列を有する相補性決定領域3(CDR3)を含むTCRα鎖および配列番号7のアミノ酸配列を有するCDR3を含むTCRβ鎖を含む。特に、本発明のTCRは、配列番号8のアミノ酸配列を有する可変TCRα領域および配列番号9のアミノ酸配列を有する可変TCRβ領域を含む。
【0046】
実施例を見ると分かるように、本発明によるTCRは、MAGEA1に対して特異的であり、他のエピトープまたは抗原に対しては非常に低い交差反応性しか示さない。
【0047】
他の実施形態は、配列番号10と少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%同一であるアミノ酸配列を有するTCRα鎖および配列番号11と少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%同一であるアミノ酸配列を有するTCRβ鎖を含む単離されたTCRに関する。
【0048】
具体的な実施形態は、配列番号10のアミノ酸配列を有するTCRα鎖および配列番号11のアミノ酸配列を有するTCRβ鎖を含むTCRを指す。よって、HLA-A*02:01の配列番号1のMAGEA1ペプチドとの複合体に対して特異的である本明細書に記載のTCRは、TRAV19*01遺伝子によってコードされたVα鎖およびTRAV30*01遺伝子によってコードされたVβ遺伝子を含む。
【0049】
他の実施形態は、TCRα鎖およびTCRβ鎖を含む単離されたTCRを指し、ここで、
- 可変TCRα領域は、配列番号8と少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%同一であるアミノ酸配列を有し、配列番号3に示されるCDR3領域を含み、
- 可変TCRβ領域は、配列番号9と少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%同一であるアミノ酸配列を有し、配列番号7に示されるCDR3領域を含む。
【0050】
複数の配列間のパーセント同一性の決定は、好ましくは、Vector NTI Advance(商標) 10プログラム(Invitrogen Corporation、Carlsbad CA、USA)のAlignXアプリケーションを使用して達成される。このプログラムは、改変Clustal Wアルゴリズムを使用する(Thompson et al., 1994. Nucl Acids Res. 22: pp. 4673-4680;Invitrogen Corporation;Vector NTI AdvanceTM10 DNA and protein sequence analysis software. User's Manual, 2004, pp.389-662)。パーセント同一性の決定は、AlignXアプリケーションの標準パラメーターを用いて実施される。
【0051】
本発明によるTCRは、単離または精製される。「単離される」は、本発明の文脈において、TCRが、元々天然に存在した状況下で存在しないことを意味する。「精製される」は、本発明の文脈において、例えば、TCRが、他のタンパク質およびTCRが元々由来する細胞の非タンパク質部分を含まないかまたは実質的に含まないことを意味する。
【0052】
一部の実施形態では、TCRのアミノ酸配列は、1つまたは複数の表現型に影響しない置換を含んでもよい。
【0053】
「表現型に影響しない置換」は、「保存的アミノ酸置換」とも称される。「保存的アミノ酸置換」の概念は、当業者によって理解されており、好ましくは、正電荷残基(H、K、およびR)をコードするコドンは、正電荷残基をコードするコドンで置換され、負電荷残基(DおよびE)をコードするコドンは、負電荷残基をコードするコドンで置換され、中性極性残基(C、G、N、Q、S、T、およびY)をコードするコドンは、中性極性残基をコードするコドンで置換され、中性非極性残基(A、F、I、L、M、P、V、およびW)をコードするコドンは、中性非極性残基をコードするコドンで置換されることを意味する。これらのバリエーションは、自発的に生じてもよく、ランダム突然変異誘発によって導入されてもよく、または定方向突然変異誘発によって導入されてもよい。これらの変化は、これらのポリペプチドの本質的な特性を破壊することなくなされ得る。当業者は、バリアントアミノ酸および/またはそれらをコードする核酸を容易かつ日常的にスクリーニングし、これらのバリエーションがリガンド結合能を実質的に低下させるかまたは破壊するかどうかを当技術分野で公知の方法によって決定することができる。
【0054】
当業者は、TCRをコードする核酸も改変され得ることを理解する。核酸配列全体における有益な改変は、配列のコドン最適化を含む。発現したアミノ酸配列内に保存的置換をもたらす変更がなされ得る。これらのバリエーションは、機能に影響を及ぼさないTCR鎖のアミノ酸配列の相補性決定領域および非相補性決定領域においてなされ得る。通常、付加と欠失は、CDR3領域において行うべきではない。
【0055】
本発明の一部の実施形態によれば、TCRのアミノ酸配列は、検出可能な標識、治療剤または薬物動態改変部分を含むように改変される。
【0056】
検出可能な標識に関する非限定的な例は、放射標識、蛍光標識、核酸プローブ、酵素および造影試薬である。TCRに付随し得る治療剤としては、放射性化合物、免疫調節薬、酵素または化学療法剤が挙げられる。治療剤は、化合物が標的部位でゆっくり放出され得るように、TCRに連結したリポソームによって封入され得る。このことによって、体内での輸送中の損傷が避けられ、TCRの関連する抗原提示細胞への結合後に、治療剤、例えば、毒素が最大の効果を有することが保障される。治療剤の他の例は、
【0057】
ペプチド細胞毒素、すなわちリシン、ジフテリア毒素、シュードモナス細菌外毒素A、DNaseおよびRNaseなどの、哺乳動物の細胞を殺滅する能力を有するタンパク質またはペプチドである。小分子細胞毒性剤、すなわち700ダルトン未満の分子量を有する、哺乳動物の細胞を殺滅する能力を有する化合物。このような化合物は、細胞毒性作用を有することが可能な毒性金属を含有し得る。さらに、これらの小分子細胞毒製剤は、プロドラッグ、すなわち細胞毒性剤を放出するために、生理的条件下で、崩壊されるかまたは変換される化合物も含むことが理解されるべきである。このような薬剤としては、例えば、ドセタキセル、ゲムシタビン、シスプラチン、メイタンシン誘導体、ラシェルマイシン、カリチアマイシン、エトポシド、イフォスファミド、イリノテカン、ポルフィマーナトリウム フォトフリンII、テモゾロミド、トポテカン、グルクロン酸トリメトレキサート、ミトキサントロン、オーリスタチンE、ビンクリスチンおよびドキソルビシン;放射性核種、例えば、ヨウ素131、レニウム186、インジウム111、イットリウム90、ビスマス210および213、アクチニウム225およびアスタチン213が挙げられる。例えば、キレート剤、免疫刺激薬としても知られる免疫賦活剤、すなわち、免疫応答を刺激する免疫エフェクター分子によって放射性核種をTCRまたはその誘導体に付随させ得る。例示的な免疫賦活剤は、IL-2およびIFN-γなどのサイトカイン、抗T細胞またはNK細胞決定基抗体(例えば、抗CD3、抗CD28または抗CD16)を含む抗体またはその断片;抗体様結合特性を有する代替タンパク質足場;スーパー抗原、すなわちポリクローナルT細胞活性化および大量のサイトカイン放出をもたらすT細胞の非特異的活性化を引き起こす抗原、およびその変異体;IL-8、血小板因子4、メラノーマ成長刺激タンパク質などのケモカイン、補体活性化因子;異種タンパク質ドメイン、同種タンパク質ドメイン、ウイルス/細菌タンパク質ドメイン、ウイルス/細菌ペプチドである。
【0058】
ヒトTリンパ球における抗原受容体分子(T細胞受容体分子)は、細胞表面でCD3(T3)分子複合体と非共有結合により会合している。この複合体の抗CD3モノクローナル抗体による撹乱により、T細胞活性化が誘導される。よって、一部の実施形態は、抗CD3抗体、または前記抗CD3抗体の機能性断片またはバリアントと会合した(通常は、アルファまたはベータ鎖のNまたはC末端への融合により)本明細書に記載されているTCRを指す。本明細書に記載の組成物および方法において使用するのに好適な抗体断片およびバリアント/アナログとしては、ミニボディ、Fab断片、F(ab’)2断片、dsFvおよびscFv断片、Nanobodies(商標)(Ablynx(Belgium)、ラクダ科動物(例えば、ラクダまたはラマ)抗体に由来する合成単一免疫グロブリン可変重鎖ドメインを含む分子)ならびにドメイン抗体(親和性成熟単一免疫グロブリン可変重鎖ドメインまたは免疫グロブリン可変軽鎖ドメインDomantis(Belgium)を含む)またはアフィボディ(操作されたタンパク質A足場アフィボディ(Sweden)を含む)もしくはアンチカリン(操作されたアンチカリンPieris(Germany)を含む)などの抗体様結合特性を示す代替タンパク質足場が挙げられる。
【0059】
治療剤は、好ましくは、免疫エフェクター分子、細胞毒性剤および放射性核種からなる群から選択され得る。好ましくは、免疫エフェクター分子はサイトカインである。
【0060】
薬物動態改変部分は、例えば、少なくとも1つのポリエチレングリコール繰り返し単位、少なくとも1つのグリコール基、少なくとも1つのシアリル基またはそれらの組合せであってもよい。少なくとも1つのポリエチレングリコール繰り返し単位、少なくとも1つのグリコール基、少なくとも1つのシアリル基は、当業者に公知のいくつかの方法によって付随させ得る。好ましい実施形態では、ユニットはTCRに共有結合により連結される。本発明によるTCRは、1つまたはいくつかの薬物動態改変部分によって改変されてもよい。特に、TCRの可溶性形態は、1つまたはいくつかの薬物動態改変部分によって改変される。薬物動態改変部分は、治療薬の薬物動態プロファイルに対する有益な変化、例えば、血漿中半減期の改善、免疫原性の低減または増強、および溶解度の改善を達成し得る。
【0061】
本発明によるTCRは、可溶性であっても、または膜に結合していてもよい。用語「可溶性」は、例えば、治療剤を抗原提示細胞に送達するための標的化剤として使用するための、可溶性形態である(すなわち、膜貫通ドメインまたは細胞質ドメインを有さない)TCRを指す。安定性のために、可溶性αβヘテロ二量体TCRは、好ましくは、例えば、国際公開第03/020763号パンフレットに記載されているように、それぞれの定常ドメインの残基間に導入されたジスルフィド結合を有する。本発明のαβヘテロ二量体に存在する定常ドメインの一方または両方は、C末端(単数または複数)で、例えば、最大15、または最大10もしくは最大8もしくはそれより少ないアミノ酸で切断されてもよい。養子治療において使用するために、αβヘテロ二量体TCRは、例えば、細胞質ドメインと膜貫通ドメインの両方を有する全長鎖としてトランスフェクトされてもよい。TCRは、それぞれアルファ定常ドメインとベータ定常ドメインの間に天然に見られるものに対応するジスルフィド結合を含有してもよく、さらにまたはあるいは非天然ジスルフィド結合が存在してもよい。
【0062】
よって、TCR、特に本発明によるTCRの可溶性形態は、例えば、免疫原性を低下させる、流体力学的サイズ(溶液中のサイズ)溶解度および/もしくは安定性を増加させる(例えば、タンパク質分解に対する保護を増強させることによって)ならびに/または血清中半減期を延長するために、追加の機能性部分を付加することによって改変され得る。
【0063】
他の有用な機能性部分および改変には、患者の体内で本発明のTCRを有するエフェクター宿主細胞を遮断するために使用され得る「自殺」または「安全スイッチ」が含まれる。1つの例は、Gargett and Brown Front Pharmacol. 2014; 5: 235に記載された誘導性カスパーゼ9(iCasp9)「安全スイッチ」である。簡潔には、その二量体化がAP1903/CIPなどの小分子二量体化薬に依存し、改変されたエフェクター細胞においてアポトーシスの急速な誘導をもたらすカスパーゼ9ドメインを発現させるために、エフェクター宿主細胞は周知の方法によって改変される。この系は、例えば、欧州特許第2173869号明細書に記載されている。他の「自殺」「安全スイッチ」に関する例は、当技術分野において公知であり、例えば、単純ヘルペスウイルスチミジンキナーゼ(HSV-TK)、CD20の発現とそれに続く抗CD20抗体を使用する枯渇、またはmycタグ(Kieback et al, Proc Natl Acad Sci U S A. 2008 Jan 15;105(2):623-8)がある。
【0064】
グリコシル化パターンが変更されたTCRも本明細書において予想される。当技術分野で公知であるように、グリコシル化パターンは、アミノ酸配列に依存し(例えば、以下で議論される特定のグリコシル化アミノ酸残基の存在または非存在)および/またはタンパク質が産生される宿主細胞もしくは生物に依存し得る。ポリペプチドのグリコシル化は、典型的には、N連結またはO連結されている。N連結は、炭水化物部分のアスパラギン残基の側鎖への結合を指す。結合分子へのN連結グリコシル化部位の付加は、アスパラギン-X-セリンおよびアスパラギン-X-トレオニン(ここで、Xは、プロリン以外の任意のアミノ酸である)から選択される1つまたは複数のトリペプチド配列を含有するように、アミノ酸配列を変更することによって、従来より達成されている。O連結グリコシル化部位は、1つまたは複数のセリンまたはトレオニン残基の出発配列への付加またはそれによる置換によって導入され得る。
【0065】
TCRのグリコシル化の別の手段は、グリコシドのタンパク質への化学的連結または酵素的連結によるものである。使用される連結方式によって、糖類は、(a)アルギニンおよびヒスチジン、(b)遊離カルボキシル基、(c)遊離スルフヒドリル基、例えば、システインのスルフヒドリル基、(d)遊離ヒドロキシル基、例えば、セリン、トレオニン、もしくはヒドロキシプロリンのヒドロキシル基、(e)芳香族残基、例えば、フェニルアラニン、チロシン、もしくはトリプトファンの芳香族残基、または(f)グルタミンのアミド基に結合され得る。同様に、脱グリコシル化(すなわち、結合分子上に存在する炭水化物部分の除去)は、例えば、TCRをトリフルオロメタンスルホン酸に曝露することによって化学的に、またはエンドグリコシダーゼおよびエキソグリコシダーゼを用いることによって酵素的に達成され得る。
【0066】
小分子化合物などの薬物をTCR、特に本発明のTCRの可溶性形態に付加することも考えられる。連結は、共有結合、または静電力によるなど非共有結合的相互作用によって達成され得る。当技術分野で公知の様々なリンカーは、薬物コンジュゲートを形成するために用いることができる。
【0067】
TCR、特に本発明のTCRの可溶性形態は、それぞれの分子(タグ)の特定、追跡、精製および/または単離を補助する追加のドメインを導入するためにさらに改変され得る。よって、一部の実施形態では、TCRα鎖またはTCRβ鎖は、エピトープタグを含むように改変されてもよい。
【0068】
エピトープタグは、本発明のTCRに組み込むことができるタグの有用な例である。エピトープタグは、特異的抗体の結合を可能にし、したがって、患者の体内の可溶性TCRもしくは宿主細胞または培養(宿主)細胞の結合および移動の特定および追跡を可能にするアミノ酸の短いストレッチである。エピトープタグと、故にタグ付けされたTCRの検出は、いくつかの異なる技法を使用して達成され得る。
【0069】
タグは、前記タグに対して特異的な結合分子(抗体)の存在下で細胞を培養することによって、本発明のTCRを有する宿主細胞の刺激および増殖のためにさらに用いることができる。
【0070】
一般的に、TCRは、一部の事例では、TCRの標的抗原との親和性およびオフレートを改変する様々な変異で改変され得る。特に、変異は、親和性を増加させるおよび/またはオフレートを低下させる場合がある。よって、TCRの少なくとも1つのCDRおよびその可変ドメインフレームワーク領域が変異し得る。
【0071】
しかし、好ましい実施形態では、TCRのCDR領域は、改変されないかまたは実施例におけるTCR受容体に関するようにin vitro親和性成熟を受けない。このことは、CDR領域が天然に存在する配列を有することを意味する。これは有利であり得る。in vitro親和性成熟によって、TCR分子に対する免疫原性がもたらされ得るからである。これより、治療効果および処置を低下または不活性化する抗薬物抗体の産生がもたらされ、ならびに/または有害作用が誘導される場合がある。
【0072】
変異は、1つまたは複数の置換、欠失または挿入であってもよい。これらの変異は、当技術分野で公知の任意の好適な方法、例えば、Example in Sambrook, Molecular Cloning - 4th Edition (2012) Cold Spring Harbor Laboratory Pressに記載されている、ポリメラーゼ連鎖反応、制限酵素に基づくクローニング、ライゲーションに依存しないクローニング手順によって導入され得る。
【0073】
交差反応性のリスクを伴う理論的に予測できないTCR特異性は、内因性TCR鎖と外因性TCR鎖の間の誤対合に起因して生じ得る。TCR配列の誤対合を避けるために、組換えTCR配列は、いくつかの異なる形質導入されたTCR鎖の正しい対合を効率的に増強することが示された技術である、最低限のマウス化Cα領域およびCβ領域を含有するように改変されてもよい。TCRのマウス化(すなわち、アルファおよびベータ鎖ヒト定常領域をそれらのマウスのカウンターパートによって交換すること)は、宿主細胞におけるTCRの細胞表面での発現を改善するために通常適用される技法である。特定の理論に拘束されることを望むものではないが、マウス化TCRは、CD3共受容体とより効率的に会合する;および/または優先的に互いに対合し、所望の抗原特異性のTCRを発現するようex vivoで遺伝子改変されているが、それらの「オリジナルの」TCRを依然として保持および発現するヒトT細胞上で混合TCRを形成しにくいと考えられる。
【0074】
マウス化TCRの発現の改善を代表する9つのアミノ酸が特定されており(Sommermeyer and Uckert, J Immunol. 2010 Jun 1; 184(11):6223-31)、TCRアルファおよび/またはベータ鎖定常領域におけるアミノ酸残基のうちの1つまたはすべてをそれらのマウスのカウンターパート残基で置換することが予測される。この技法は、「最低限のマウス化(minimal murinization)」とも称され、細胞表面の発現を増強するという利点をもたらすが、同時に、アミノ酸配列における「外来の」アミノ酸残基の数を低減し、それによって、免疫原性のリスクを低減する。
【0075】
一部の実施形態は、本明細書に記載されている単離されたTCRを指し、TCRは、一本鎖タイプのものであり、TCRα鎖およびTCRβ鎖は、リンカー配列によって連結している。
【0076】
好適な一本鎖TCR形態は、可変TCRα領域に対応するアミノ酸配列によって構成された第1のセグメント、TCRβ鎖定常領域細胞外配列に対応するアミノ酸配列のN末端に融合した可変TCRβ領域に対応するアミノ酸配列によって構成された第2のセグメント、および第1のセグメントのC末端を第2のセグメントのN末端に連結するリンカー配列を含む。あるいは、第1のセグメントは、TCRβ鎖可変領域に対応するアミノ酸配列によって構成されていてもよく、第2のセグメントは、TCRα鎖定常領域細胞外配列に対応するアミノ酸配列のN末端に融合したTCRα鎖可変領域配列に対応するアミノ酸配列によって構成されていてもよい。上記一本鎖TCRは、第1の鎖と第2の鎖の間にジスルフィド結合をさらに含んでもよく、リンカー配列の長さとジスルフィド結合の位置は、第1のセグメントと第2のセグメントの可変ドメイン配列が実質的にネイティブT細胞受容体におけるのと同様に変異によって配向されるようなものである。より具体的には、第1のセグメントは、TCRα鎖定常領域細胞外配列に対応するアミノ酸配列のN末端に融合したTCRα鎖可変領域配列に対応するアミノ酸配列によって構成されていてもよく、第2のセグメントは、TCRβ鎖定常領域細胞外配列に対応するアミノ酸配列のN末端に融合したTCRβ鎖可変領域に対応するアミノ酸配列によって構成されていてもよく、かつジスルフィド結合は、第1の鎖と第2の鎖の間にもたらされてもよい。リンカー配列は、TCRの機能を損なわない任意の配列であってもよい。
【0077】
本発明の文脈において、「機能性」TCRαおよび/またはβ鎖融合タンパク質は、例えば、少なくとも実質的な生物学的活性を維持する、アミノ酸の付加、欠失または置換によって改変されたTCRまたはTCRバリアントを意味することになる。TCRのαおよび/またはβ鎖の場合には、このことは、両方の鎖が、その生物学的機能、特に前記TCRの特異的ペプチド-MHC複合体への結合、および/または特異的ペプチド:MHC相互作用の際の機能的シグナル伝達を発揮するT細胞受容体(改変されていないαおよび/もしくはβ鎖を有するかまたは別の発明の融合タンパク質αおよび/またはβ鎖を有する)を形成することが可能なままであることを意味することになる。
【0078】
具体的実施形態では、TCRは、機能性T細胞受容体(TCR)αおよび/またはβ鎖融合タンパク質であるよう改変されてもよく、ここで、前記エピトープタグは、6から15アミノ酸、好ましくは9から11アミノ酸の長さを有する。別の実施形態では、TCRは、機能性T細胞受容体(TCR)αおよび/またはβ鎖融合タンパク質であるように改変されてもよく、ここで、T細胞受容体(TCR)αおよび/またはβ鎖融合タンパク質は、いずれも離れて配置されているかまたはタンデムに直接配置されている2つ以上のエピトープタグを含む。融合タンパク質の実施形態は、融合タンパク質がその生物学的活性(単数または複数)(「機能性」)を維持する限り、2、3、4、5またはさらに多くのエピトープタグを含有し得る。
【0079】
好ましいのは、本発明による機能性T細胞受容体(TCR)αおよび/またはβ鎖融合タンパク質であり、ここで、前記エピトープタグは、以下に限定されないが、CD20もしくはHer2/neuタグ、または他の従来のタグ、例えば、myc-タグ、FLAG-タグ、T7-タグ、HA(ヘマグルチニン)-タグ、His-タグ、S-タグ、GST-タグ、もしくはGFP-タグから選択され、myc、T7、GST、GFPタグは、既存の分子に由来するエピトープである。対照的に、FLAGは、高い抗原性のために設計された合成エピトープタグである(例えば、米国特許第4,703,004号明細書および同第4,851,341号明細書を参照されたい)。高品質の試薬をその検出に使用することが可能であるため、mycタグが好ましくは使用され得る。エピトープタグは、当然のことながら、抗体による認識の他に、1つまたは複数の追加の機能を有してもよい。これらのタグの配列は文献に記載されており、当業者に周知である。
【0080】
TCRバリアント
本発明の別の態様は、本明細書に記載されているTCRの機能性部分を含むポリペプチドであって、機能性部分が、配列番号4および7のアミノ酸配列のうちの少なくとも1つを含む、ポリペプチドを指す。
【0081】
機能性部分は、TCRの抗原への、特に抗原-MHC複合体への結合を媒介し得る。
【0082】
一実施形態では、機能性部分は、本明細書に記載されているTCRα可変鎖および/またはTCRβ可変鎖を含む。
【0083】
TCRバリアント分子、TCR受容体の結合特性を有してもよいが、エフェクター細胞(T細胞以外)のシグナル伝達ドメイン、特にNK細胞のシグナル伝達ドメインと組み合わされてもよい。したがって、一部の実施形態は、エフェクター細胞、例えば、NK細胞のシグナル伝達ドメインと組み合わせた、本明細書に記載されているTCRの機能性部分を含むタンパク質を指す。
【0084】
本発明の別の態様は、本明細書に記載されている少なくとも2つのTCRを含む多価TCR複合体を指す。この態様の一実施形態では、少なくとも2つのTCR分子が、リンカー部分を介して連結し、多価複合体を形成する。好ましくは、複合体は水溶性であるため、リンカー部分はそれに従って選択されるべきである。リンカー部分は、形成された複合体の構造的多様性が最小限になるように、TCR分子上の規定の位置に結合可能であることが好ましい。本態様の一実施形態は、本発明のTCR複合体によって提供され、ここで、ポリマー鎖またはペプチドリンカー配列は、TCRの可変領域配列内に位置していない各TCRのアミノ酸残基間に伸びている。本発明の複合体は、医学において使用するためのものであってもよく、リンカー部分は、それらの医薬適合性、例えば、それらの免疫原性に関して選択されるべきである。上記の望ましい基準を満たすリンカー部分の例は、当技術分野、例えば、抗体断片を連結する技術分野において公知である。
【0085】
リンカーの例は、親水性ポリマーおよびペプチドリンカーである。親水性ポリマーに関する例は、ポリアルキレングリコールである。このクラスの最も一般的に使用されるものは、ポリエチレングリコールまたはPEGに基づく。しかし、他のものは、他の好適な、必要に応じて置換された、ポリプロピレングリコールを含むポリアルキレングリコール、およびエチレングリコールとプロピレングリコールの共重合体に基づく。ペプチドリンカーは、アミノ酸の鎖から構成され、単純なリンカー、またはその上にTCR分子が結合し得る多量体ドメインを生成するように機能する。
【0086】
一実施形態は、多価TCR複合体を指し、ここで、前記TCRの少なくとも1つに、治療剤が付随している。
【0087】
サイトカインおよびケモカインの放出
一部の実施形態は、本明細書に記載されている単離されたTCR、本明細書に記載されているポリペプチド、本明細書に記載されている多価TCR複合体を指し、ここで、IFN-γの分泌は、エフェクター細胞上に発現された本発明のTCRの配列番号1からなる群から選択されるアミノ酸配列のHLA-A*02結合形態への結合によって誘導される。
【0088】
エフェクター細胞上に発現された本発明のTCRの配列番号1からなる群から選択されるアミノ酸配列のHLA-A*02結合形態への結合によって誘導されるIFN-γの分泌は、500pg/mlより多くてもよく、例えば1000pg/mlより多くてもよく、2000pg/mlより多くてもよく、より好ましくは4000pg/mlより多くてもよく、最も好ましくは6000pg/mlよりさらにより多くてもよい。IFN-γの分泌は、無関係のペプチド(例えば、配列番号28)のHLA-A*02結合形態への結合と比較して、配列番号1のアミノ酸配列のHLA-A*02結合形態への結合の場合には、少なくとも5倍、より高くてもよい。
【0089】
「エフェクター細胞」は、末梢血リンパ球(PBL)または末梢血単核細胞(PBMC)であってもよい。典型的には、エフェクター細胞は、免疫エフェクター細胞、特にT細胞である。他の好適な細胞型は、ガンマ-デルタT細胞およびNK様T細胞を含む。
【0090】
本発明は、標的アミノ酸配列である配列番号1またはHLA-A*2、好ましくはまたはそのHLA-A*2:01結合形態に結合するTCRまたはその断片を同定するための方法であって、候補TCRまたはその断片を配列番号1のアミノ酸配列またはHLA-A*2、好ましくはまたはそのHLA-A*2:01結合形態と接触させることと、候補TCRまたはその断片が標的に結合するおよび/または免疫応答を媒介するか否かを決定することとを含む方法にも関する。
【0091】
候補TCRまたはその断片が免疫応答を媒介するかどうかは、例えば、サイトカイン分泌、例えば、IFN-γ分泌の測定によって決定することができる。上述のように、サイトカイン分泌は、アミノ酸配列である配列番号1をコードするivtRNAをトランスフェクトされたK562細胞(または他のAPC)が調査されるTCRまたはTCRの断片を含む分子を発現するCD8+濃縮PBMCと共にインキュベートされるin vitroアッセイによって測定することができる。
【0092】
特定の実施形態では、本発明のTCRは、Th2サイトカインIL-4、IL-5およびIL-13の分泌をあまり示さない。これは、Th2サイトカイン応答が腫瘍進行を増加させる可能性があるため(Jager MJ, Desjardins L, Kivela T, Damato BE (eds): Current Concepts in Uveal Melanoma. Dev Ophthalmol. Basel, Karger, 2012, vol 49, pp 137-149、J Immunother. 2018 Oct;41(8):369-378)、有利である可能性がある。
【0093】
核酸、ベクター
本発明の別の態様は、本明細書に記載されているTCRをコードする核酸または本明細書に記載されているTCRをコードするポリヌクレオチドをコードする核酸に関する。
【0094】
【0095】
「核酸分子」は、一般的に、DNAまたはRNAのポリマーを意味し、一本鎖または二本鎖であってもよく、天然源から合成または得られてもよく(例えば、単離および/または精製されてもよく)、天然、非天然または改変されたヌクレオチドを含有してもよく、および天然、非天然または改変されたヌクレオチド間の連結、例えば、未改変オリゴヌクレオチドのヌクレオチド間に見られるホスホジエステルの代わりに、ホスホロアミデート連結またはホスホロチオエート連結などを含有してもよい。好ましくは、本明細書に記載の核酸は組換え体である。本明細書で使用される場合、用語「組換え体」は、(i)天然もしくは合成核酸セグメントを、生細胞中で複製し得る核酸分子に連結することによって、生細胞の外側で構築される分子、または(ii)上記(i)に記載されたものの複製から得られる分子を指す。本発明の目的として、複製は、in vitro複製であっても、またはin vivo複製であってもよい。核酸は、当技術分野で公知の、または市販の(例えば、Genscript、Thermo Fisherおよび同様の会社からの)手順を使用して、化学合成および/または酵素的ライゲーション反応に基づいて構築され得る。例えば、Sambrook et al.を参照されたく、例えば、核酸は、天然に存在するヌクレオチドまたは分子の生物学的安定性を増加させるか、またはハイブリダイゼーションの際に形成される二本鎖の物理的安定性を高めるように設計された様々な改変ヌクレオチド(例えば、ホスホロチオエート誘導体およびアクリジン置換ヌクレオチド)を使用して化学的に合成され得る。核酸は、組換えTCR、ポリペプチド、もしくはタンパク質、またはその機能性部分もしくは機能性バリアントのいずれかをコードする任意のヌクレオチド配列を含み得る。
【0096】
本開示は、単離または精製された核酸のバリアントであって、バリアント核酸が、本明細書に記載のTCRをコードするヌクレオチド配列と、少なくとも75%、80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、または99%同一なヌクレオチド配列を含む、バリアントも提供する。このようなバリアントヌクレオチド配列は、MAGEA1を特異的に認識する機能性TCRをコードする。
【0097】
本開示は、本明細書に記載の核酸のいずれかのヌクレオチド配列に相補的であるヌクレオチド配列または本明細書に記載の核酸のいずれかのヌクレオチド配列に対してストリンジェントな条件下でハイブリダイズするヌクレオチド配列を含む単離または精製された核酸も提供する。
【0098】
ストリンジェントな条件下でハイブリダイズするヌクレオチド配列は、好ましくは、高ストリンジェンシーな条件下でハイブリダイズする。「高ストリンジェンシーな条件」とは、ヌクレオチド配列が、非特異的ハイブリダイゼーションよりも検出可能な程度に濃い量で、標的配列(本明細書に記載のいずれかの核酸のヌクレオチド配列)に特異的にハイブリダイズすることを意味する。高ストリンジェンシーな条件には、ヌクレオチド配列に適合したほんの僅かな小さな領域(例えば、3~10塩基)を偶然有するランダム配列から、正確に相補的な配列を有するポリヌクレオチド、または散在する僅かな不適合を含有するに過ぎないポリヌクレオチドを区別する条件が含まれる。このような相補性の小領域は、14~17塩基またはそれより多い塩基の完全長の相補体よりも容易に融解し、高ストリンジェンシーなハイブリダイゼーションにより、それらの区別が容易になる。比較的高ストリンジェンシーな条件としては、例えば、約50~70℃の温度で、約0.02~0.1MのNaClまたはそれと同等なものによって提供されるような、低塩条件および/または高温条件が挙げられる。このような高ストリンジェンシーな条件は、存在するとしても、ヌクレオチド配列と鋳型または標的鎖との間の不適合をほとんど許容せず、本明細書に記載のTCRのいずれかの発現を検出するのに特に好適である。ホルムアミド添加量を増加させることによって、条件をよりストリンジェントにし得ることは一般的に認識されている。
【0099】
本明細書の他の箇所で既に記載されているように、TCRをコードする核酸は改変されてもよい。核酸配列全体における有用な改変は、コドン最適化であり得る。発現したアミノ酸配列内に保存的置換をもたらす変更がなされ得る。これらのバリエーションは、機能に影響を及ぼさないTCR鎖のアミノ酸配列の相補性決定領域および非相補性決定領域においてなされ得る。通常、付加と欠失は、CDR3領域において起こらない。
【0100】
別の実施形態は、本明細書に記載されているTCRをコードする核酸を含むベクターを指す。
【0101】
ベクターは、好ましくは、プラスミド、シャトルベクター、ファージミド、コスミド、発現ベクター、レトロウイルスベクター、アデノウイルスベクターもしくは粒子および/または遺伝子治療において使用されるベクターである。
【0102】
「ベクター」は、核酸配列を、コードされたポリペプチドの合成が起こり得る好適な宿主細胞中に運ぶための能力を有する任意の分子または組成物である。典型的には、および好ましくは、ベクターは、所望の核酸配列(例えば、本発明の核酸)を組み込むために、当技術分野で公知の組換えDNA技法を使用して操作された核酸である。ベクターは、DNAまたはRNAを含んでもよく、および/またはリポソームを含んでもよい。ベクターは、プラスミド、シャトルベクター、ファージミド、コスミド、発現ベクター、レトロウイルスベクター、レンチウイルスベクター、アデノウイルスベクターもしくは粒子および/または遺伝子治療において使用されるベクターであってもよい。ベクターは、複製開始点として、宿主細胞における複製を可能とする核酸配列を含んでもよい。ベクターは、1つまたは複数の選択可能なマーカー遺伝子および当業者にとって公知の他の遺伝要素も含んでもよい。ベクターは、好ましくは、前記核酸の発現を可能にする配列に作動可能に連結した本発明による核酸を含む発現ベクターである。
【0103】
好ましくは、ベクターは発現ベクターである。より好ましくは、ベクターは、レトロウイルスベクター、より具体的には、ガンマ-レトロウイルスまたはレンチウイルスのベクターである。
【0104】
細胞、細胞株
本発明の別の態様は、本明細書に記載されているTCRを発現する細胞を指す。
【0105】
一部の実施形態では、細胞は、単離されるかまたは天然に存在しない。
【0106】
具体的実施形態では、細胞は、本明細書に記載されているTCRをコードする核酸または前記核酸を含むベクターを含んでもよい。
【0107】
細胞中では、上記TCRをコードする核酸配列を含む上記ベクターが導入されてもよく、または前記TCRをコードするivtRNAが導入されてもよい。細胞は、T細胞などの末梢血リンパ球であってもよい。TCRのクローニングおよび外因性発現の方法は、例えば、Engels et al.(Relapse or eradication of cancer is predicted by peptide-major histocompatibility complex affinity. Cancer Cell, 23(4), 516-26. 2013)に記載されている。一次ヒトT細胞のレンチウイルスベクターによる形質導入は、例えば、Cribbs "simplified production and concentration of lentiviral vectors to achieve high transduction in primary human T cells" BMC Biotechnol. 2013; 13: 98に記載されている。
【0108】
用語「トランスフェクション」と「形質導入」は交換可能であり、外因性核酸配列が、宿主細胞、例えば、真核宿主細胞に導入されるプロセスを指す。核酸配列の導入または移入は、上述の方法に限定されないが、電気穿孔、微量注射、遺伝子銃送達、リポフェクション、スーパーフェクションおよびレトロウイルスまたは形質導入またはトランスフェクションに好適な他のウイルスによる上述の感染を含む任意の数の手段よって達成され得る。
【0109】
一部の実施形態は、
a)本明細書に記載されている少なくとも1つの核酸を含む発現ベクター、または
b)本明細書に記載されているTCRのアルファ鎖をコードする核酸を含む第1の発現ベクター、および本明細書に記載されているTCRのベータ鎖をコードする核酸を含む第2の発現ベクター
を含む細胞を指す。
【0110】
一部の実施形態では、細胞は、末梢血リンパ球(PBL)または末梢血単核細胞(PBMC)である。細胞は、ナチュラルキラー細胞またはT細胞であってもよい。好ましくは、細胞はT細胞である。T細胞は、CD4+またはCD8+T細胞であってもよい。一部の実施形態では、細胞は、幹細胞様メモリーT細胞である。
【0111】
幹細胞様メモリーT細胞(TSCM)は、自己再生能および長期間存続する能力によって特徴付けられる、分化の程度の低いCD8+またはCD4+T細胞の亜集団である。in vivoでこれらの細胞がそれらの抗原に遭遇すると、これらは、一部の静止したままのTSCMと共に、セントラルメモリーT細胞(TCM)、エフェクターメモリーT細胞(TEM)および最終分化エフェクターメモリーT細胞(TEMRA)へとさらに分化する(Flynn et al., Clinical & Translational Immunology (2014))。これらの残っているTSCM細胞は、in vivoで耐性免疫記憶を構築する能力を示し、したがって、養子T細胞療法に関する重要なT細胞亜集団であると考えられる(Lugli et al., Nature Protocols 8, 33-42 (2013) Gattinoni et al., Nat. Med. 2011 Oct; 17(10): 1290-1297)。幹細胞メモリーT細胞亜集団にT細胞プールを限定するために、免疫磁気選択を使用することができる。(Riddell et al. 2014, Cancer Journal 20(2): 141-44)を参照されたい。
【0112】
TCRを標的とする抗体
本発明の別の態様は、MAGEA1に対する特異性を媒介する、本明細書に記載されているTCRの一部に特異的に結合する抗体またはその抗原結合断片を指す。一実施形態では、MAGEA1に対する特異性を媒介するTCRの一部は、配列番号4、および/または配列番号7のベータ鎖のCDR3を含む。
【0113】
抗体またはその抗原結合断片は、TCRの活性をモジュレートし得る。抗体またはその抗原結合断片は、TCRのMAGEA1との結合をブロックする場合もあり、ブロックしない場合もある。抗体またはその抗原結合断片は、TCRの治療活性をモジュレートするため、または診断目的で使用され得る。
【0114】
医薬組成物、医学的処置およびキット
本発明の別の態様は、本明細書に記載されているTCRを含む医薬組成物、前記TCRの機能性部分を含むポリペプチド、本明細書に記載されている多価TCR複合体、TCRをコードする核酸、前記核酸を含むベクター、前記TCRを含む細胞、または本明細書に記載されているTCRの一部に特異的に結合する抗体を指す。
【0115】
本発明のこれらの活性成分は、好ましくは、許容される担体または担体材料と混合した用量で、このような医薬組成物によって、疾患が処置されるかまたは少なくとも緩和され得るように使用される。このような組成物は、(活性成分および担体に加えて)、当技術分野の公知の状態である充填材料、塩、緩衝液、安定剤、可溶化剤および他の材料を含み得る。
【0116】
用語「薬学的に許容される」は、活性成分の生体活性の有効性を妨げない、非毒性材料を定義する。担体の選択は、適用に依存する。
【0117】
医薬組成物は、活性成分の活性を増強するかまたは処置を補う追加の成分を含有してもよい。このような追加の成分および/または因子は、相乗効果を達成するかまたは有害もしくは望ましくない作用を最小限にするための、医薬組成物の一部であり得る。
【0118】
本発明の活性成分の製剤化または調製および適用/薬物治療のための技法は、"Remington's Pharmaceutical Sciences", Mack Publishing Co., Easton, PA, latest editionに公開されている。適当な適用は、非経口適用、例えば、筋肉内、皮下、髄内注射および髄腔内、直接脳室内、静脈内、節内、腹腔内または腫瘍内注射である。静脈内注射は、患者にとって好ましい処置である。
【0119】
好ましい実施形態によれば、医薬組成物は、注入または注射である。
【0120】
注射用組成物は、少なくとも1つの有効成分、例えば、TCRを発現する増殖T細胞集団(例えば、処置される患者に対して自己であるかまたは同種間である)を含む薬学的に許容される流体組成物である。有効成分は、通常、生理的に許容される担体中に溶解されるかまたは懸濁され、さらに、組成物は、乳化剤、保存剤、およびpH緩衝剤などの少量の1つまたは複数の非毒性補助剤を含んでもよい。本開示の融合タンパク質と共に使用するのに有用な、このような注射用組成物は従来的なものであり、適当な製剤は、当業者に周知である。
【0121】
典型的には、医薬組成物は、少なくとも1つの薬学的に許容される担体を含む。
【0122】
したがって、本発明の別の態様は、本明細書に記載されているTCR、前記TCRの機能性部分を含むポリペプチド、本明細書に記載されている多価TCR複合体、前記TCRをコードする核酸、前記核酸を含むベクター、前記TCRを含む細胞、または医薬として使用するための本明細書に記載されているTCRの一部に特異的に結合する抗体を指す。
【0123】
一部の実施形態は、本明細書に記載されているTCR、前記TCRの機能性部分を含むポリペプチド、本明細書に記載されている多価TCR複合体、前記TCRをコードする核酸、前記核酸を含むベクター、がんの処置において使用するための前記TCRを含む細胞を指す。
【0124】
一実施形態では、がんは、血液がんまたは固形腫瘍である。
【0125】
血液がんは、固形腫瘍を形成せず、したがって、体内に主に分散される血液のがんとも言われる。血液がんの例は、白血病、リンパ腫または多発性骨髄腫である。固形腫瘍には2つの主要なタイプ、すなわち肉腫および癌が存在する。肉腫は、例えば、血管、骨、脂肪組織、靭帯、リンパ管、筋肉または腱の腫瘍である。
【0126】
一実施形態では、がんは、前立腺がん、子宮がん、甲状腺がん、精巣がん、腎がん、膵臓がん、卵巣がん、食道がん、非小細胞肺がん、肺腺癌、扁平上皮癌、非ホジキンリンパ腫、多発性骨髄腫、メラノーマ、肝細胞癌、頭頚部がん、胃がん、子宮内膜がん、子宮頸がん、結腸直腸がん、胃腺癌、胆管細胞癌、乳がん、膀胱がん、骨髄性白血病および急性リンパ芽球性白血病、肉腫または骨肉腫からなる群から選択される。
【0127】
(i)本明細書に記載されている単離されたTCR、(ii)組換えTCRをコードする核酸を含むウイルス粒子、(iii)本明細書に記載されている組換えTCRを発現するよう改変された、T細胞またはNK細胞などの免疫細胞、(iv)本明細書に記載されている組換えTCRをコードする核酸のうちの1つまたは複数を含有する医薬組成物およびキットも本明細書において企図されている。一部の実施形態では、本開示は、本明細書に記載の組換えTCRをコードするヌクレオチド配列を含むレンチウイルスベクター粒子(または組換えTCRを発現するよう、本明細書に記載のベクター粒子を使用して改変されたT細胞)を含む組成物を提供する。このような組成物は、本明細書にさらに記載されている本開示の方法において、対象に投与することができる。
【0128】
本明細書に記載されている改変T細胞を含む組成物は、公知の技法に従って、養子免疫療法のための方法および組成物において、または本開示に基づいて、当業者に明らかとなるそのバリエーションにおいて利用することができる。
【0129】
一部の実施形態では、細胞は、最初に、それらを培養培地から回収し、次いで、細胞を洗浄し、培地および投与に好適な容器系(「薬学的に許容される」担体)において、治療有効量で濃縮することによって製剤化される。好適な注入培地は、任意の等張培地製剤、典型的には、通常生理食塩水、Normosol R(Abbott)またはPlasma-Lyte A(Baxter)であってもよいが、水中5%のデキストロースまたは乳酸リンゲル液も利用することができる。注入培地にヒト血清アルブミンを補充してもよい。
【0130】
組成物中の有効治療のための細胞数は、典型的には、10より多い細胞、かつ最大106、108または109以下の細胞であり、1010より多い細胞でもよい。細胞数は、組成物が、その中に含まれる細胞の種類に応じて意図される最終的用途に応じて変わることになる。本発明において提供される用途では、細胞は、一般的には1リットル以下の体積中にあり、500ml以下、さらには250mlまたは100ml以下であってもよい。したがって、所望の細胞の密度は、典型的には1ml当たり106を超える細胞であり、一般的には1ml当たり107を超え、一般的には1ml当たり108を超える。臨床的に関連する数の免疫細胞は、109、1010または1011の細胞に累積的に等しいかまたはそれを超える複数の注入物中に配分され得る。本発明において提供される医薬組成物は、種々の形態、例えば、固体、液体、粉体、水性、または凍結乾燥形態であってもよい。好適な医薬担体の例は、当技術分野において公知である。このような担体および/または添加剤は、従来の方法によって製剤化することができ、好適な用量で対象に投与することができる。安定化剤、例えば、脂質、ヌクレアーゼ阻害剤、ポリマーおよびキレート剤は、組成物を体内での分解から保護することができる。注射による投与が意図される組成物中には、界面活性剤、保存剤、湿潤剤、分散剤、懸濁化剤、緩衝剤、安定化剤および等張剤のうちの1つまたは複数が含まれてもよい。
【0131】
本明細書に記載されている組換えTCR、または本発明において提供される組換えTCRをコードするヌクレオチド配列を含むウイルスベクター粒子は、キットとしてパッケージングされてもよい。キットは、任意選択で、1つまたは複数の成分、例えば、使用説明書、デバイス、および追加の試薬、ならびに本方法を実践するためのコンポーネント、例えば、チューブ、容器およびシリンジを含んでもよい。例示的なキットは、組換えTCRをコードする核酸、組換えTCRポリペプチド、または本発明において提供されるウイルスを含んでもよく、任意選択で、使用説明書、対象においてウイルスを検出するためのデバイス、および組成物を対象に投与するためのデバイスを含んでもよい。
【0132】
目的の遺伝子(例えば、組換えTCR)をコードするポリヌクレオチドを含むキットも本明細書において企図されている。目的の配列(例えば、組換えTCR)をコードするウイルスベクターおよび任意選択で免疫チェックポイント阻害剤をコードするポリヌクレオチド配列を含むキットも、本明細書において企図されている。
【0133】
本明細書において企図されるキットは、本明細書に開示されたTCRのうちのいずれか1つまたは複数をコードするポリヌクレオチドの存在を検出するための方法を実行するためのキットも含む。特に、このような診断キットは、適当な増幅プライマーおよび検出プライマーならびに本明細書に開示されたTCRをコードするポリヌクレオチドを検出するために、ディープシーケンシングを実施するための他の関連試薬のセットを含んでもよい。さらなる実施形態では、本発明におけるキットは、抗体または他の結合分子などの、本明細書に開示されたTCRを検出するための試薬を含んでもよい。診断キットは、本明細書に開示されたTCRをコードするポリヌクレオチドの存在を決定するため、または本明細書に開示されたTCRの存在を決定するための説明書も含有し得る。キットは、説明書を含有してもよい。説明書は、典型的には、キットに含まれる成分、対象の適切な状態を決定するための方法を含む投与のための方法、適切な投薬量、および適切な投与方法を説明する有形の表現を含む。説明書は、処置時間の持続期間にわたって対象をモニタリングするためのガイダンスも含み得る。
【0134】
本発明において提供されるキットは、本明細書に記載の組成物を対象に投与するためのデバイスも含み得る。医薬またはワクチンを投与するための、当技術分野で公知の種々のデバイスのいずれかが、本発明において提供されるキットに含まれてもよい。例示的なデバイスとしては、以下に限定されないが、皮下注射針、静脈注射針、カテーテル、無針注射デバイス、吸入器、および液体ディスペンサー、例えば、点眼器が挙げられる。典型的には、キットのウイルスを投与するためのデバイスは、キットのウイルスに対応するものであり、例えば、高圧注射用デバイスなどの無針注射用デバイスは、高圧注射によって損傷を受けなかったウイルスと共に、キット中に含まれてもよいが、典型的には、高圧注射によって損傷を受けたウイルスと共に、キット中に含まれることはない。
【0135】
本発明において提供されるキットは、化合物、例えば、T細胞活性化因子または刺激物質、またはTLRアゴニスト、例えば、対象に対するTLR4アゴニストを投与するためのデバイスも含んでよい。医薬を対象に投与するための、当技術分野で公知の種々のデバイスのいずれかは、本発明において提供されるキット中に含まれてもよい。例示的なデバイスとしては、皮下注射針、静脈注射針、カテーテル、無針注射、以下に限定されないが、皮下注射針、静脈注射針、カテーテル、無針注射デバイス、吸入器、および液体ディスペンサー、例えば、点眼器が挙げられる。典型的には、キットの、化合物を投与するためのデバイスは、化合物投与の所望の方法に対応するものであろう。
【0136】
実験
1.実験:MAGEA1特異的TCRの単離
MAGEA1由来のエピトープに対する特異性および目的のいずれかのMHC分子に対する拘束性を有するT細胞を単離するために、in vitroプライミングアプローチを使用した。プライミング系は、抗原提示細胞としてHLA-A*02:01陰性ドナーの成熟樹状細胞(mDC)を使用し、抗原に特異的なT細胞応答および自己のCD8+T細胞の拡大を開始する。ミニ遺伝子(配列番号27)をコードし、MAGEA1由来のペプチドKVLEYVIKV(配列番号1において参照される)を含有するアミノ酸配列へと翻訳されるin vitroで転写されたRNA(ivtRNA)は、特異的抗原の供給源としての役割を果たす。同時に、ヒトのHLA-A*02:01をコードするivtRNAを、mDCにトランスフェクトされる拘束エレメントの供給源として使用し、この専用のHLAアレルについてアロジェニックプライミングを設定した(国際公開第2007/017201号パンフレットに記載されている)。mDCへの電気穿孔後に、ミニ遺伝子をコードするivtRNAは、タンパク質へと翻訳され、次に、プロセシングされ、同時にトランスフェクトされたmDCによって発現されるトランスジェニックHLA-A*02:01分子によってペプチドとして提示される。同じドナーに由来するT細胞のivtRNAがトランスフェクトされたmDCとのin vitro共培養によって、対応するTCRの供給源としての役割を果たす抗原特異的T細胞のde novo誘導がもたらされる。拡大後に、抗原特異的T細胞を濃縮し、希釈を制限するかまたはFACSに基づく単一細胞選別によって単一細胞をクローニングすることができる。
【0137】
1.1 実験のレイアウト
高親和性TCRの単離および同定のためのT細胞の樹状細胞によるプライミングは、以下のプロトコールに従ったアロジェニックHLA-A*02:01分子によるペプチド提示を使用して達成した:
【0138】
成熟樹状細胞は、Jonuleitら(Jonuleit et al. 1997, Eur. J. Immunol. 1997, 27:3135-3142)に従って、DCのための好適な成熟カクテルを使用して、8日以内に生成した。抗原提示細胞(8日のmDC)は健康なドナーに由来し、MG_X1をコードする20μgのivtRNAおよびアロジェニックHLA分子(HLA-A*02:01)をコードする20μgのivtRNAを用いる電気穿孔によって細胞にトランスフェクトした。次に、調製されたmDCを、IL-7(0日目に5ng/ml)およびIL-2(2~3日ごとに50U/ml)を補充した好適な細胞培地中、37℃(6%のCO2)で、約14日間、健康なドナーの自己のCD8+濃縮PBMCと1:20の比で共培養した。次に、HLA-A*02:01 MAGEA1278~286多量体(ProImmune)を使用して、MAGEA1278~286特異的細胞を同定し、次に、FACS技術を使用する単一細胞選別によって分離した。
【0139】
1.2 結果
記載したin vitroプライミングアプローチによって、候補TCR T15.8-4.3-83を発現するT細胞クローンが同定された。NGS分析を使用してTCR配列を特定し、再構築して、機能性および安全性についてのTCRの完全な特徴付けのために、好適なエフェクターT細胞において遺伝子導入により発現させた。
【0140】
2.実験:エピトープの特異性
遺伝子導入により発現した、組換えTCRの機能性を確認するために、TCRを形質導入したエフェクターT細胞をペプチドを負荷したT2細胞(標的細胞)と共培養した。特異的ペプチド:MHC複合体のTCR媒介性認識により、TCRを発現するT細胞の活性化およびある種のサイトカイン、例えば、IFN-γの分泌がもたらされる。共培養上清において分泌されたIFN-γを分析するために、ELISAを実施した。
【0141】
2.2 実験のレイアウト
HLA-A*02を発現するT2細胞に飽和量のペプチド(10-5M)を負荷した。MAGEA1由来のKVLペプチド(配列番号1)を負荷したT2細胞は陽性標的としての役割を果たし、無関係のASTN1ペプチド(配列番号28)を負荷したT2細胞は陰性標的としての役割を果たした。エフェクター細胞として、2名の異なるドナーに由来するCD8濃縮T細胞集団に形質導入して、組換えTCR T15.8-4.3-83を安定して発現させた。エフェクターは、TCR T15.8-4.3-83の2つの異なるバージョンを発現するように調製し、一つのバージョンはマウスC領域(murC)を有し、一つのバージョンはヒトの最小限にマウス化されたC領域(mmC)を有した。対照のMAGEA1-TCR(ベンチマークTCR)も2名の異なるドナーに由来するT細胞において発現し、分析された。
【0142】
エフェクター細胞と標的細胞を、96ウェル丸底プレートにおいて、2.5:1のE:Tで共培養させた。共培養の約20時間後に、上清を回収し、ELISA(標準的なサンドイッチELISA、BDヒトIFN-γ ELISAセット)によって分析した。
【0143】
2.3 結果
TCRを発現するエフェクター細胞は、KVLペプチドを負荷したT2細胞と共に培養した際にのみIFN-γを分泌し、トランスジェニックTCR T15.8-4.3-83によって媒介される、提示されたペプチド:MHC複合体の特異的認識が示され、その機能性が証明された。陰性標的である、無関係のASTN1ペプチド(配列番号28、KLYGLDWAEL)を負荷したT2細胞は認識されなかった(
図1)。トランスジェニックTCRは、TCRのC領域とは無関係に、特異的標的認識およびIFN-γの分泌を媒介する。
【0144】
3.実験:拘束の分析
TCRは、ある種のMHC分子と組み合わせた場合にのみそれらの特異的エピトープを認識するため、抗原の発現レベルだけでなく、標的細胞のHLA型も(in vitroおよびin vivoで)標的を陽性または陰性の標的であると規定する。言い換えれば、HLA型に依存して、TCRベースのACTに関する処置レジメンに患者を含めることも含めないこともある。
【0145】
HLA-A
*02:01に加えて、どのHLA分子が、MAGEA1由来のKVLペプチドを負荷され得るか、かつTCR T15.8-4.3-83を発現するT細胞によって認識され得るかを評価するために、詳細な拘束分析を実施した。したがって、ヨーロッパ人および北アメリカのコーカサス人において最も頻度の高いHLAアロタイプを網羅する53種のLCL細胞株(EBVにより形質転換されたB細胞)をAPC(抗原提示細胞)として使用し、KVLペプチドを負荷されていないかまたは負荷されたTCRを発現するエフェクター(
図2)と共培養した。
【0146】
3.1 実験のレイアウト:
53種のLCL細胞株に、飽和量のMAGEA1由来のKVLペプチド(10-5M;配列番号1)を約1.5時間負荷し、洗浄し、次に、異なるエフェクター調製物に由来するTCR T15.8-4.3-83を発現するエフェクターと共培養した。負荷されていないLCLを対照として使用した。共培養は、96ウェル丸底プレートにおいて1:1のE:Tで設定し、約20時間後に上清を回収し、ELISA(標準的なサンドイッチELISA、BDヒトIFN-γ ELISAセット)によってIFN-γのレベルを分析した。
【0147】
3.2 結果
TCR T15.8-4.3-83の拘束分析は、HLA-A
*02:01に提示される場合だけでなく、様々な程度で、HLA-A
*02:04、HLA-A
*02:16、およびHLA-A
*02:17に提示される、そのMAGEA1由来のエピトープをも認識するTCRの能力を示す。
図2は、負荷されていないLCLに関して検出されたバックグラウンドレベルを超えるペプチド特異的認識をもたらすこれらのLCL(試験した53個のうち)に関するデータのみを示す。
【0148】
4.実験:腫瘍細胞の認識
T細胞受容体の有効性、特異性および臨床適用に対するその適合性を分析するために、腫瘍細胞株のセットを、TCRを形質導入したエフェクター細胞と共培養した際のIFN-γ分泌を測定することによって、TCR媒介性認識について試験した。
【0149】
4.1 実験のレイアウト(
図3):
3名の異なるドナーに由来するエフェクター細胞にTCR T15.8-4.3-83およびベンチマークCtrl.MAGEA1-TCRを形質導入した。TCRを形質導入したかまたは形質導入されていないエフェクターを、様々な腫瘍細胞株と共培養した。細胞株U266、NCI-H1703、UACC-62、Saos-2およびMel624.38(HLA-A2+/MAGEA1+)およびHLA-A2をトランスフェクトした細胞株KYO-1およびOPM-2(HLA-A2+/MAGEA1+)は、陽性標的としての役割を果たした。細胞株NCI-H1755、647-VおよびCMK(HLA-A2+/MAGEA1-)、未改変のOPM-2およびKYO-1(HLA-A2-/MAGEA1+)は、陰性標的としての役割を果たした。細胞株のHLA-A2発現をFACSによって分析し(データは示さず)、qPCRを使用してMAGEA1発現データを作成し、当業者に公知の公共に利用可能なデータベースから抽出した。対照として、すべてのエフェクターも、飽和濃度(10
-5M)のMAGEA1由来のKVLペプチド(配列番号1)または無関係のASTN1ペプチド(配列番号28)を負荷したT2細胞と共培養した。共培養のために、エフェクターと標的を2.5:1のE:Tで、96ウェル丸底プレートに播種し、約20時間の共培養後に上清を回収し、ELISAによってIFN-γのレベルを分析した。
【0150】
4.2 結果(
図3)
腫瘍細胞を効果的に認識するTCRの能力を、T15.8-4.3-83を形質導入したエフェクターを様々な腫瘍細胞株のセットと共培養することによって評価した。
図3に示されるように、T15.8-4.3-83とCtrl MAGA1-TCRの両方が、HLA-A2陽性およびMAGA1陽性の腫瘍細胞株U266、NCi-H1703、UACC-62、Saos-2およびMel624.38の特異的認識を媒介した。KYO-1およびOPM-2細胞は、HLA-A2をコードするivtRNAによるトランスフェクション後にのみ認識された。
【0151】
トランスフェクトされていないKYO-1およびOPM-2(HLA-A2/MAGEA1陽性)ならびにNCI-H1755、647-VおよびCMK(HLA-A2+/MAGEA1-)は、陰性対照としての役割を果たした。抗原MAGEA1が発現されなかったか、または必要な拘束エレメントが存在しなかった場合は常に、陰性対照は認識されなかった。MAGEA1陽性細胞株およびHLA-A2陽性細胞株のみの有効な認識は、TCRの高度に有効かつ特異的な腫瘍細胞認識を示す。
【0152】
4.3実験のレイアウト(
図10)
20.000個のTCRトランスジェニックエフェクターT細胞を、96ウェル丸底プレートにおいて、20.000個の腫瘍細胞と共培養した。メラノーマ細胞株UACC-257、メラノーマ細胞株UACC-62または骨肉腫細胞株SAOS-2のいずれかとの20時間の共培養後に、標準的IFN-γ ELISAを実施する。4000pgを超える値は、三次多項式を使用して推定する。
【0153】
4.5 結果(
図10)
MAGEA1およびHLA-A
*02:01二重陽性腫瘍細胞株に応答してIFN-γを産生するTCRトランスジェニックエフェクターT細胞集団の能力を評価した。T15.8-4.3-83は、国際公開第2018/170338号パンフレットに開示されたTCR FH1、FH2、FH3およびFH4ならびに国際公開第2018/104438号パンフレットに開示されたR37P1C9と比較して、3種の細胞株すべて、UACC-257、UACC-62またはSAOS-2に対して増強された腫瘍細胞認識能を示す。UACC-62は、T15.8-4.3-83にのみ認識される。
【0154】
5.実験:腫瘍細胞の死滅
腫瘍細胞を認識するだけでなく効率的に溶解し、これにより、腫瘍細胞を死滅させるTCRの能力は、最も重要であり、臨床的に適切である。TCR T15.8-4.3-83の殺滅能を分析するために、IncuCyte(商標) Zoomデバイスを使用して、6日にわたって長期死滅アッセイを実施した。IncuCyte(商標)デバイスは、細胞のライブイメージングを可能にする顕微鏡に基づくシステムである。腫瘍細胞株のセットを96ウェル平底プレートのウェル中に播種し、3名の異なるドナーに由来するTCRを発現するエフェクターと共培養した。腫瘍細胞株は、核に拘束される赤色蛍光タンパク質mKate2を安定して発現し、IncuCyte(商標) Zoomシステムが、各ウェルにおける赤色蛍光細胞の正確な数を決定することを可能にした。経時的にウェル当たりの増加した細胞数が腫瘍細胞の成長を示し、一方、ウェル当たりの細胞数の低下はTCR媒介性死滅を示すことになる。
【0155】
5.1 実験のレイアウト(
図4A~4D)
腫瘍細胞株647-V(膀胱尿路上皮癌)、UACC-62(メラノーマ)、Saos-2(骨の骨肉腫)およびNCI-H1703(肺腺癌)に、製造業者の使用説明書に従って、IncuCyte(商標) NucLight(商標) Red Lentivirus Reagentを使用することによって、核に拘束される赤色蛍光タンパク質mKate2を安定して形質導入した。腫瘍細胞を96ウェル平底プレートに播種し、一晩、プラスチックに付着させた。陽性対照として、腫瘍細胞に、飽和濃度のMAGEA1由来のKVLペプチド(10
-5M)を約1.5時間負荷させ、洗浄し、次いで、共培養に使用した。KVLを負荷したか、または未改変の腫瘍細胞を、単独で培養したか、または3名の異なるドナーに由来するTCR T15.8-4.3-83を形質導入したエフェクターと共培養した。形質導入されていないエフェクターとの共培養は、陰性対照としての役割を果たした。2時間ごとに、IncuCyte(商標) Zoomシステムを用いて写真を撮り、IncuCyte(商標) Zoomソフトウェア(バージョン2016B)を用いて分析した。
【0156】
5.2 結果(
図4A~4D)
図4A~4Dは、それぞれ、赤色蛍光標的細胞株647-V(HLA-A2+/MAGEA1-)、UACC-62(HLA-A2+/MAGEA1+)、Saos-2(HLA-A2+/MAGEA1+)およびNCI-H1703(HLA-A2+/MAGEA1+)のTCR媒介性の、抗原特異的溶解を示す。形質導入されていないエフェクター細胞は、腫瘍細胞のいずれの成長(経時的な細胞数の増加)にも影響を及ぼさないが、TCR T15.8-4.3-83を形質導入したエフェクター細胞は、抗原MAGEA1およびHLA-A2を発現する腫瘍細胞NCI-H1703、UACC-62およびSaos-2を効率的に死滅させる(経時的な細胞数の減少)。MAGEA1陰性の647-V細胞は死滅しない。すべての腫瘍細胞は、対照としてのKVLペプチドを人工的に負荷した場合に死滅する。参照として、KVLペプチドを負荷していないかまたは負荷した、単独で培養した腫瘍細胞も分析し、各グラフに成長を示す。
【0157】
5.3 実験のレイアウト(
図11)
20.000個のTCRトランスジェニックエフェクターT細胞を7.500個のIncuCyte(登録商標) NucLight Red Lentivirusを形質導入したSAOS-2細胞と共培養する。共培養開始の1日前に、腫瘍細胞を播種した。エフェクター細胞を添加した後、培養プレートをIncuCyte ZOOM(登録商標)デバイスに移し、37℃および6%のCO
2で、72時間にわたり、赤色蛍光細胞の拡大をモニターし、4時間ごとに写真を撮る。各測定点におけるウェル当たりの赤色蛍光腫瘍細胞の細胞数(l/mm
2)を、IncuCyte ZOOM(登録商標)ソフトウェアを使用して計算する。各測定点は、3つの技術的反復の平均を表す。
【0158】
5.4 結果(
図11)
形質導入されていないT細胞の存在下で培養したSAOS-2細胞は、強力な増殖を示す。異なるTCRトランスジェニックT細胞の共培養は、SAOS-2細胞数の減少を誘導する。興味深いことに、死滅の速度および程度は、異なるTCRトランスジェニックエフェクター細胞間で変化する。TCR T15.8-4.3-83は、国際公開第2018/170338号パンフレットに開示されたTCR FH1、FH2、FH3およびFH4ならびに国際公開第2018/104438号パンフレットに開示されたR37P1C9と比較して、MAGEA1およびHLA-A
*02:01二重陽性腫瘍細胞株を溶解する最も高い能力を示す。
【0159】
6.実験:TCRエピトープ認識モチーフ
TCRの特異的エピトープ認識モチーフの詳細な分析のために、トレオニン置換スキャンおよび/またはセリンスキャンを実施した。エピトープの元のアミノ酸をトレオニン(それぞれ、またはセリン)で置換することによって、TCR媒介性認識に必須であるエピトープ内の位置を特定することができる。この認識は、ペプチドのHLA分子への適切な結合およびペプチド:MHC複合体のTCR自体との相互作用に依存し、いずれも、1つの単一アミノ酸の置換によって影響を受け得る。
【0160】
6.1 実験のレイアウト(
図5および6)
TCR T15.8-4.3-8のエピトープ認識モチーフを特異的に規定するために、TCR T15.8-4.3-83を発現する3名の異なるドナー由来のエフェクターおよびベンチマークMAGEA1-TCRを発現するエフェクターを調製した。T細胞を、TCRの特異的エピトープKVL(配列番号1)を負荷したか、またはトレオニンで連続的に置換された(トレオニン置換スキャン)それぞれ個々のアミノ酸残基を有するペプチドを負荷したT2細胞と共培養した。T2細胞に、飽和濃度(10
-5M)のペプチドを別々に負荷し、洗浄し、1:1のE:Tでエフェクターと共培養した。約20時間の共培養後に、上清を回収し、ELISAによって分泌されたIFN-γを分析した。
【0161】
6.2 結果(
図5および6)
TCR T15.8-4.3-83を形質導入したか(
図6に示される)またはベンチマークCtrl.MAGEA1-TCRを形質導入した(
図5に示される)エフェクターに関するトレオニン置換スキャンの結果は、それらのエピトープおよびエピトープ由来の誘導体に対する個々のTCRの別個の特異性を実証する。参照として、MAGEA1由来のKVLエピトープの認識を、各グラフの左側に示す。ベンチマークCtrl.MAGE A1-TCRは、位置4および7のトレオニン置換を有するペプチドを認識しない(EおよびI、
図5)。
【0162】
対照的に、TCR T15.8-4.3-83は、ペプチド認識がないことによって示されるように(
図6)、位置1、3および5(K、LおよびY)におけるアミノ酸置換に対して感受性が高いようである。
【0163】
エピトープ内の単一アミノ酸の交換は、両方のTCRによって媒介される認識を顕著に妨害し、それらの高い選択的認識パターンを証明し、認識に関して重要であると考えられる位置は、2つの分析されたTCRで顕著に異なっている。
【0164】
6.3 実験のレイアウト(
図13)
20.000個のTCRトランスジェニックT細胞を、20.000個の10
-5Mのペプチドを負荷したT2細胞と共培養する。20時間の共培養後に、標準的IFN-γ ELISAを実施する(4000pgを超える値は、三次多項式を使用して推定する)。上記のトレオニン残基の代わりに、セリン残基を使用して、MAGEA1
KVLペプチドにおける個々のアミノ酸を系統的に置き換える(セリンスキャン)。
【0165】
6.4 結果(
図13)
T15.8-4.3-83を形質導入したT細胞は、FH1またはR37P1C9 TCRを形質導入したT細胞とは異なる固定位置を有する異なる認識モチーフを示す(セリンスキャンによる)。
【0166】
トレオニンスキャンとセリンスキャンの組合せは、エピトープにおける1番目の位置(リシン)およびエピトープにおける5番目の位置(チロシン)が、T15.8-4.3-83 TCRにとって特に重要であると考えられることを示す。
【0167】
7.実験:MAGEファミリーのメンバー
MAGEファミリーの13個のメンバーは、MAGEA1由来のKVLペプチドと非常に類似する(2~4個のアミノ酸ミスマッチのみ)ペプチド配列を含有し、潜在的なTCR T15.8-4.3-83媒介性の交差認識をさらに調査するために、インデプス分析を行った。MAGEファミリーのメンバーの発現は、がんおよび精巣においてだけでなく、生命維持に必要な器官においても記載されており、タンパク質由来のペプチドの潜在的な交差認識が、臨床開発のためのTCRに対する除外基準であるとする。
【0168】
他のMAGEファミリーのメンバーを起源とする内因的に処理され、提示されるペプチドの認識について調査するために、MAGEA1エピトープKVLEYVIKVに類似するペプチド配列を含有するMAGEファミリーの13個のメンバーすべてが、異なる起源の3つの細胞株において組換え発現された。細胞株を共培養し、TCR T15.8-4.3-83を発現するエフェクターと共に組換えMAGEファミリーのメンバーを発現させることによって、タンパク質由来のMAGEペプチドの潜在的な交差認識を分析した。
【0169】
7.1 実験のレイアウト
MAGEファミリーのメンバーMAGEA8(NCBI Reference Sequence(受託):NM_001166400.1)、MAGEA9(NM_005365.4)、MAGEA11(NM_005366.4)、MAGEB1(NM_002363.4)、MAGEB2(NM_002363.4)、MAGEB3(NM_002365.4)、MAGEB5(NM_001271752.1)、MAGEB16(NM_001099921.1)、MAGEB17(NM_001277307.1)、MAGEB18(NM_173699.3)、MAGEC2(NM_016249.3)、MAGED2(NM_014599.5)およびMAGEE2(NM_138703.4)をコードするivtRNAを生成した。MAGEA1(NM_004988.4)およびASTN1ペプチドKLYをコードするivtRNAを陽性および陰性対照RNAとして生成した。腫瘍細胞株HEK293T(HLA-A2+/MAGE-)、LCL(HLA-A2+/MAGE-)およびHLA-A2を形質導入したK562(MAGE-)に、13個のMAGEファミリーのメンバー、MAGEA1またはASTN1ペプチドKLYのいずれかをコードする20μgのivtRNAを別々にトランスフェクトした。MAGEファミリーのメンバーのトランスジェニック発現をFACSによって分析した(データは示さず)。対照として、T2細胞および3種の細胞株に、MAGEA1由来のKVLペプチド(10-5M)またはASTN1由来のKVLペプチド(10-5M)のいずれかをさらに負荷した。ペプチドを負荷した対照細胞およびトランスフェクトした細胞株をトランスフェクションの3時間後に、96ウェル丸底プレートに播種し、2名のドナーに由来する形質導入されていないかまたはTCR T15.8-4.3-83を形質導入したエフェクターを1:1のE:T比で共培養した。約20時間の共培養後に上清を回収し、ELISAによって分泌されたIFN-γを分析した。
【0170】
7.2 結果
図7は、HEK 293T細胞(A)、K562細胞(B)およびLCL細胞(C)において発現された組換えMAGEファミリーのメンバーのTCR T15.8-4.3-83媒介性認識を示す。T2細胞ならびにKVLペプチドまたはASTN1ペプチドを外部から負荷したHEK 293T、K562またはLCL細胞の認識は、対照としての役割を果たした。形質導入されていないエフェクターは、いずれの特異的認識も示さなかったが、2名のドナーに由来するTCR T15.8-4.3-83を形質導入したエフェクターは、完全長MAGEA1をコードするivtRNAをトランスフェクトした3つの細胞株すべてを特異的に認識した。これは、MAGEA1をコードするRNAのMAGEA1タンパク質への効率的な翻訳およびタンパク質由来KVLペプチドのプロテオソームプロセシングとその後の細胞表面におけるHLA-A2分子によるエピトープの負荷および提示を示す。ASTN1ペプチドをトランスフェクトした細胞株のいずれについても認識されず、バックグラウンドレベルを超える組換え発現されたMAGEファミリーのメンバーのいずれも認識されなかった。標的細胞の人工的負荷(以前に記載されている)の際に認識され得る、MAGEファミリーのメンバーに由来するペプチドは、内因的に発現されたMAGEタンパク質からプロセシングされないか、MHC分子に負荷されないか、または細胞表面に提示されないかのいずれかである。したがって、これらのペプチドは、免疫原性T細胞エピトープとして適格ではなく、TCR T15.8-4.3-83媒介性交差認識に対する臨床的に適切な標的であるとも考えられない。
【0171】
8.実験:正常細胞の分析
TCRの安全プロファイルを調査するために、異なる起源の健康な組織に由来する細胞のTCR媒介性認識が調査され、除外されなければならない。したがって、TCRを発現するエフェクターを、腎臓(PromoCellによって得られる腎皮質上皮細胞)、肺(Lonzaによって得られる肺線維芽細胞)、およびiPS由来の肝細胞、心筋細胞、および内皮細胞(Cellular Dynamicsによって得られる)に由来する正常細胞と共培養した。調査した細胞は、抗原MAGEA1に対して内因的に陰性であり、したがって、潜在的なMAGEA1に関連しないオフターゲット毒性の特定が可能になった。
【0172】
8.1 実験のレイアウト
正常細胞を解凍し、供給業者に指定されたように、共培養前の1週間培養した。細胞を96ウェル平底プレートに播種し、3名の異なるドナーに由来するTCR T15.8-4.3-83を形質導入したかまたは形質導入されていないエフェクター(データは示さず)と共培養した。標的細胞のHLA-A2発現を、抗体染色およびFACSによって確認し(データは示さず)、標的細胞を未改変または対照としてのMAGEA1由来KVL(配列番号1)ペプチドの過剰量(10-5M)を負荷したかのいずれかで試験した。対照として、エフェクター細胞および標的細胞を単独で播種し、T2細胞にTCRのエピトープKVL(10-5M;配列番号1)を負荷した。約20時間の共培養後に、上清を回収し、ELISAによって分析した。約48時間の共培養後に、IncuCyte(商標) Zoomデバイス(Essen BioScience Inc.)で位相差イメージを撮影し、接着標的細胞の溶解および剥離について潜在的な毒性効果を可視化した。
【0173】
8.2 結果
図8に示されるように、3名のドナーに由来するTCR T15.8-4.3-83を形質導入したエフェクターの共培養により、人工的にKVLペプチドを負荷した細胞のみの認識がもたらされ、MHC分子の文脈で、それらの細胞表面にTCRのエピトープを適切に提示する標的細胞の能力を表した。未改変正常細胞は、トランスジェニックTCR T15.8-4.3-83を発現するエフェクターによって認識されず、調査された受容体の好ましい安全プロファイルを示した。
【0174】
標的細胞においてTCRを形質導入したエフェクターによって媒介される潜在的な毒性効果を可視化するために、単独で培養したか、TCR T15.8-4.3-83で形質導入したエフェクターと共培養した異なる標的細胞、またはTCRを発現するエフェクターと共培養したKVLペプチドを負荷した標的細胞について位相差イメージを撮影した。
図9は、3名のドナーのうちの1名に由来するエフェクター細胞との共培養の代表的な写真を示す。KVLを負荷した標的細胞のすべてに明らかなTCR媒介性溶解が存在するが(細胞層の完全な崩壊)、TCRを発現するエフェクター細胞は、未改変の正常細胞を溶解しない。
【0175】
9 実験:機能性アビディティ
様々なKVLペプチドに特異的なTCRの機能性アビディティを測定するために、段階的な量のKVLペプチドを負荷したT2細胞との共培養において、最大半量の相対的IFN-γ放出(EC50値)が決定される。
【0176】
機能性アビディティは、トランスジェニックTCRとpMHC複合体の間の個々の非共有結合による相互作用の多重親和性の蓄積された強度を指す。
【0177】
9.1 実験のレイアウト(
図12)
TCRトランスジェニックT細胞集団の機能性アビディティを、段階的な量のKVLペプチド(10
-4M~10
-12M)を負荷したT2細胞との共培養において、最大半量の相対的IFN-γ放出(EC50値)として決定する。20時間の共培養後に、標準的IFN-γ ELISAを実施する(4000pgを超える値は、三次多項式を使用して推定する)。
【0178】
9.2 結果(
図12)
様々なKVL特異的TCRは、それらの機能性アビディティにおいて、KVLペプチドを負荷したT2細胞と異なる。TCR T15.8-4.3-83は、低いEC50値、すなわち、国際公開第2018/170338号パンフレットに開示されたTCR FH1、FH2、FH3およびFH4ならびに国際公開第2018/104438号パンフレットに開示されたR37P1C9と比較して、KVLペプチドを負荷した2種の細胞の高い機能性アビディティを示す。
【0179】
10 実験:サイトカイン分泌
異なるTCRを形質導入したT細胞のTH2特異的サイトカインIL-4、IL-5およびIL-13のTCR分泌パターンを比較する。Th2型の炎症は、腫瘍成長を容易にすることが提唱されている(Jager MJ, Desjardins L, Kivela T, Damato BE (eds): Current Concepts in Uveal Melanoma. Dev Ophthalmol. Basel, Karger, 2012, vol 49, pp 137-149、J Immunother. 2018 Oct;41(8):369-378)。したがって、低いまたは検出不能な分泌レベルのTh2は、腫瘍退縮に有利であり得る。
【0180】
10.1 実験のレイアウト(
図14)
20.000個のTCRトランスジェニックエフェクターT細胞を、丸底の96ウェルプレートにおいて、20.000個の腫瘍細胞と共培養する。MAGPIX(登録商標)システムのプロトコールに従って、MILLIPPLEX(登録商標) MAP Kitを使用して、分泌されたサイトカインに関して、無細胞上清を分析した。
【0181】
10.2 結果(
図14)
T1367 TCRを形質導入したT細胞は、いくつかのTH2サイトカイン、特にIL-4、IL-5およびIL-13を分泌する。15.8-4.3-83 TCRを形質導入したT細胞は、TH2サイトカインの同等の分泌を示さないが、国際公開第2014/118236号パンフレットに開示されたT1367は、これらのサイトカインのかなりの分泌を示す。
【0182】
本出願は、以下の実施形態をさらに含む。
【0183】
実施形態1:MAGEA1に対して特異的な単離されたT細胞受容体(TCR)。
【0184】
実施形態2:アミノ酸配列である配列番号1またはその断片を特異的に認識する、実施形態1に記載の単離されたTCR。
【0185】
実施形態3:配列番号1のアミノ酸配列のHLA-A2および/またはHLA-A26結合形態、好ましくはHLA-A2結合形態を特異的に認識する、実施形態1および2に記載の単離されたTCR。
【0186】
実施形態4:HLA-A*02:01、HLA-HLA-A*02:04、HLA-A*02:16およびHLA-A*02:17からなる群から選択される遺伝子によってコードされた分子によって提示される配列番号1のアミノ酸配列を特異的に認識する、先行する実施形態のいずれかに記載の単離されたTCR。
【0187】
実施形態5:HLA-A*02:01、HLA-A*02:04、HLA-A*02:16およびHLA-A*02:17からなる群から選択される遺伝子によってコードされた分子によって提示される配列番号1のアミノ酸配列を特異的に認識する、先行する実施形態のいずれかに記載の単離されたTCR。
【0188】
実施形態6:HLA-A*02:01にコードされた分子によって提示される配列番号1のアミノ酸配列を特異的に認識する、先行する実施形態のいずれかに記載の単離されたTCR。
【0189】
実施形態7:
- 配列番号2のアミノ酸配列を有するCDR1、配列番号3のアミノ酸配列を有するCDR2および配列番号4のアミノ酸配列を有するCDR3を含むTCRα鎖、
- 配列番号5のアミノ酸配列を有するCDR1、配列番号6のアミノ酸配列を有するCDR2および配列番号7のアミノ酸配列を有するCDR3を含むTCRβ鎖
を含む、先行する実施形態のいずれか1つに記載の単離されたTCR。
【0190】
実施形態8:配列番号8と少なくとも80%同一であるアミノ酸配列を有する可変TCRα領域および配列番号9と少なくとも80%同一であるアミノ酸配列を有する可変TCRβ領域
を含む、先行する実施形態のいずれか1つに記載の単離されたTCR。
【0191】
実施形態9:配列番号8のアミノ酸配列を有する可変TCRα領域および配列番号9のアミノ酸配列を有する可変TCRβ領域
を含む、先行する実施形態のいずれか1つに記載の単離されたTCR。
【0192】
実施形態10:配列番号10と少なくとも80%同一であるアミノ酸配列を有するTCRα鎖および配列番号11と少なくとも80%同一であるアミノ酸配列を有するTCRβ鎖
を含む、先行する実施形態のいずれか1つに記載の単離されたTCR。
【0193】
実施形態11:配列番号10または配列番号12のアミノ酸配列を有するTCRα鎖および配列番号11または配列番号13のアミノ酸配列を有するTCRβ鎖
を含む、先行する実施形態のいずれか1つに記載の単離されたTCR。
【0194】
実施形態12:TCRα鎖およびTCRβ鎖を含み、
- 可変TCRα領域が、配列番号8と少なくとも80%同一であるアミノ酸配列を有し、配列番号4に示されるアミノ酸配列を有するCDR3を含み、
- 可変TCRβ領域が、配列番号9と少なくとも80%同一であるアミノ酸配列を有し、配列番号7に示されるアミノ酸配列を有するCDR3を含む、先行する実施形態のいずれか1つに記載の単離されたTCR。
【0195】
実施形態13:TCRが精製される、先行する実施形態のいずれか1つに記載の単離されたTCR。
【0196】
実施形態14:そのアミノ酸配列が、1つまたは複数の表現型に影響しない置換を含む、先行する実施形態のいずれか1つに記載の単離されたTCR。
【0197】
実施形態15:そのアミノ酸配列が、検出可能な標識、治療剤または薬物動態修飾部分を含むよう改変されている、先行する実施形態のいずれか1つに記載の単離されたTCR。
【0198】
実施形態16:治療剤が、免疫エフェクター分子、細胞毒性剤および放射性核種からなる群から選択される、実施形態15に記載の単離されたTCR。
【0199】
実施形態17:免疫エフェクター分子が、サイトカインである、実施形態16に記載の単離されたTCR。
【0200】
実施形態18:可溶性であるかまたは膜に結合している、先行する実施形態のいずれか1つに記載の単離されたTCR。
【0201】
実施形態19:薬物動態修飾部分が、少なくとも1つのポリエチレングリコール繰り返し単位、少なくとも1つのグリコール基、少なくとも1つのシアリル基またはそれらの組合せである、実施形態15に記載の単離されたTCR。
【0202】
実施形態20:一本鎖タイプのものであり、TCRα鎖およびTCRβ鎖が、リンカー配列によって連結している、先行する実施形態のいずれか1つに記載の単離されたTCR。
【0203】
実施形態21:TCRα鎖またはTCRβ鎖が、エピトープタグを含むように改変されている、実施形態1から20のいずれか1つに記載の単離されたTCR。
【0204】
実施形態22:実施形態1から21のいずれかのTCRの機能性部分を含む単離されたポリペプチドであって、機能性部分が、配列番号4および7のアミノ酸配列の少なくとも1つを含む、単離されたポリペプチド。
【0205】
実施形態23:機能性部分が、配列番号2、3、4、5、6、および7のアミノ酸配列を含む、実施形態1から21のいずれかに記載のTCRの機能性部分を含む単離されたポリペプチド。
【0206】
実施形態24:機能性部分が、TCRα可変鎖および/またはTCRβ可変鎖を含む、実施形態21に記載の単離されたポリペプチド。
【0207】
実施形態25:実施形態1から21のいずれか1つで実現されている。
【0208】
実施形態26:IFN-γ分泌が、HLA-A*02:01にコードされた分子によって提示される、配列番号1のアミノ酸配列に結合することによって誘導される、実施形態1から21に記載の単離されたTCR、実施形態22から24に記載のポリペプチドならびに実施形態25に記載の多価TCR複合体。
【0209】
実施形態27:実施形態1から21のいずれか1つに記載のTCRをコードするか、または実施形態22から24に記載のポリペプチドをコードする核酸。
【0210】
実施形態28:実施形態27の核酸を含むベクター。
【0211】
実施形態29:発現ベクターである、実施形態28に記載のベクター。
【0212】
実施形態30:レトロウイルスベクターである、実施形態28または29に記載のベクター。
【0213】
実施形態31:レンチウイルスベクターである、実施形態28または29に記載のベクター。
【0214】
実施形態32:実施形態1から21に記載のTCRを発現する細胞。
【0215】
実施形態33:単離されるか、または天然に存在しない、実施形態32に記載の細胞。
【0216】
実施形態34:実施形態27に記載の核酸または実施形態28から31に記載のベクターを含む、実施形態32および33に記載の細胞。
【0217】
実施形態35:
a)実施形態27で実現されている少なくとも1つの核酸を含む発現ベクター、または
b)実施形態1から21のいずれか1つで実現されているTCRのアルファ鎖をコードする核酸を含む第1の発現ベクター、および実施形態1から21のいずれか1つで実現されているTCRのベータ鎖をコードする核酸を含む第2の発現ベクター
を含む、実施形態32から34に記載の細胞。
【0218】
実施形態36:末梢血リンパ球(PBL)または末梢血単核細胞(PBMC)である、実施形態32から35のいずれか1つに記載の細胞。
【0219】
実施形態37:T細胞である、実施形態32から36のいずれか1つに記載の細胞。
【0220】
実施形態38:MAGEA1に対する特異性を媒介する、実施形態1から21に記載のTCRの一部に特異的に結合する抗体またはその抗原結合断片。
【0221】
実施形態39:MAGEA1特異性を媒介するTCRの部分が、配列番号2、3、4、5、6、および7に示されるCDR、好ましくは配列番号4のアルファ鎖のCDR3および/または配列番号7のベータ鎖のCDR3、より好ましくは配列番号2、3および4に示されるアルファ鎖のCDRおよび配列番号5、6および7のベータ鎖のCDRのうちの少なくとも1つを含む、実施形態38に記載の抗体。
【0222】
実施形態40:実施形態1から21に記載のTCRを含む医薬組成物、実施形態22から24に記載のポリペプチド、実施形態25に記載の多価TCR複合体、実施形態27に記載の核酸、実施形態28から31に記載のベクター、実施形態32から37のいずれか1つに記載の細胞、または実施形態38から39に記載の抗体。
【0223】
実施形態41:少なくとも1つの薬学的に許容される担体を含む、実施形態40に記載の医薬組成物。
【0224】
実施形態42:医薬として使用するための、実施形態1から21に記載のTCR、実施形態22から24に記載のポリペプチド、実施形態25に記載の多価TCR複合体、実施形態27に記載の核酸、実施形態28から31に記載のベクター、実施形態32から37のいずれか1つに記載の細胞、または実施形態38から39に記載の抗体。
【0225】
実施形態43:がんの処置において使用するための、実施形態1から21に記載のTCR、実施形態22から24に記載のポリペプチド、実施形態25に記載の多価TCR複合体、実施形態27に記載の核酸、請求項28から31に記載のベクター、または実施形態32から37のいずれか1つに記載の細胞。
【0226】
実施形態44:がんが、血液がんまたは固形腫瘍である、実施形態43に記載のTCR、ポリペプチド、多価TCR複合体、核酸、ベクターまたは細胞。
【0227】
実施形態45:がんが、前立腺がん、子宮がん、甲状腺がん、精巣がん、腎がん、膵臓がん、卵巣がん、食道がん、非小細胞肺がん、肺腺癌、扁平上皮癌、非ホジキンリンパ腫、多発性骨髄腫、メラノーマ、肝細胞癌、頭頚部がん、胃がん、子宮内膜がん、子宮頸がん、結腸直腸がん、胃腺癌、胆管細胞癌、乳がん、膀胱がん、骨髄性白血病および急性リンパ芽球性白血病、肉腫または骨肉腫からなる群から選択される、実施形態43および44に記載のTCR、ポリペプチド、多価TCR複合体、核酸、ベクターまたは細胞。
【0228】
実施形態46:がんが、好ましくは、肉腫または骨肉腫からなる群から選択される、実施形態43および44に記載のTCR、ポリペプチド、多価TCR複合体、核酸、ベクターまたは細胞。
【配列表】