(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-07
(45)【発行日】2024-05-15
(54)【発明の名称】ポリビニルアルコール系樹脂組成物、懸濁重合用分散安定剤及びビニル系樹脂の製造方法
(51)【国際特許分類】
C08L 29/04 20060101AFI20240508BHJP
C08F 216/06 20060101ALI20240508BHJP
C08F 8/12 20060101ALI20240508BHJP
C08F 2/20 20060101ALI20240508BHJP
【FI】
C08L29/04 S
C08F216/06
C08F8/12
C08F2/20
(21)【出願番号】P 2021565520
(86)(22)【出願日】2020-12-09
(86)【国際出願番号】 JP2020045918
(87)【国際公開番号】W WO2021125020
(87)【国際公開日】2021-06-24
【審査請求日】2023-05-23
(31)【優先権主張番号】P 2019227267
(32)【優先日】2019-12-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 亘
(72)【発明者】
【氏名】松本 真典
【審査官】中川 裕文
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/156006(WO,A1)
【文献】特開平11-001505(JP,A)
【文献】特開2001-322668(JP,A)
【文献】特開平08-311112(JP,A)
【文献】特開平08-208724(JP,A)
【文献】国際公開第2013/115239(WO,A1)
【文献】国際公開第2010/113569(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/076349(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/019613(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/124242(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 2/00- 2/60
6/00-246/00
C08K 3/00- 13/08
C08L 1/00-101/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(I)に示すポリオキシアルキレン単位がポリビニルアルコール鎖と結合した変性ビニルアルコール系重合体(A)と、ポリビニルアルコール鎖に
炭素-炭素二重結合を有する変性ビニルアルコール系重合体(B)を含
み、
一般式(I)に示すポリオキシアルキレン単位がポリビニルアルコール鎖と結合しており、且つ、ポリビニルアルコール鎖に炭素-炭素二重結合を有する変性ビニルアルコール系重合体は、前記変性ビニルアルコール系重合体(A)及び前記変性ビニルアルコール系重合体(B)の何れにも該当しない、ポリビニルアルコール系樹脂組成物。
【化1】
(式中、R
1及びR
2はそれぞれ独立にメチル基又はエチル基又は水素原子であり、R
3はアルキル基又は水素原子である。nは繰り返し単位数を表し、5≦n≦70の整数である。)
【請求項2】
前記変性ビニルアルコール系重合体(A)と前記変性ビニルアルコール系重合体(B)との重量比(A/B)が15/85~85/15である請求項1に記載のポリビニルアルコール系樹脂組成物。
【請求項3】
前記変性ビニルアルコール系重合体(B)の0.2重量%水溶液の、光路長1cm、波長280nmにおけるUV吸光度(Abs)が0.1以上3.0以下である請求項1又は2に記載のポリビニルアルコール系樹脂組成物。
【請求項4】
前記変性ビニルアルコール系重合体(A)のポリオキシアルキレン単位の変性率が0.01~5モル%である請求項1~3の何れか一項に記載のポリビニルアルコール系樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1~4の何れか一項に記載のポリビニルアルコール系樹脂組成物を含有する懸濁重合用分散安定剤。
【請求項6】
請求項5に記載された懸濁重合用分散安定剤を用いて、ビニル系化合物単量体、又はビニル系化合物単量体とそれに共重合し得る単量体との混合物を水中に分散させて懸濁重合を行うことを含むビニル系樹脂の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、変性ビニルアルコール系重合体を含むポリビニルアルコール系樹脂組成物に関する。また、本発明は、懸濁重合用分散安定剤、とりわけビニル系化合物、特に塩化ビニルの懸濁重合に適した分散安定剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
塩化ビニル単量体又は塩化ビニル単量体とこれに共重合し得る単量体との混合物を懸濁重合する場合において、各種の分散安定剤を使用することは必須であり、ポリビニルアルコール、メチロールセルロース等の分散安定剤が用いられているが、中でもポリビニルアルコール(PVA)は優れた性質を有しており、一般に最も使用されている。例えば、ビニル系化合物の懸濁重合用分散安定剤として、ビニルアルコール系重合体の末端にアルデヒド由来のカルボニル基を導入し、ケン化時に脱水反応又は脱酢酸反応を受けることで不飽和二重結合を導入することや(例えば特許文献1参照)、側鎖に特定のオキシアルキレン基を有する変性PVAを用いる方法等が提案されている(例えば特許文献2~3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平8-208724号公報
【文献】国際公開第2010/113569号
【文献】国際公開第2013/115239号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
これらの方法では、近年用いられる大型重合缶等、様々なタイプの重合缶に充分対応できていない。すなわち、分散力が乏しく可塑剤吸収性の低いビニル系樹脂粒子となったり、分散力が強い一方で保護コロイド性に乏しく粗大化したビニル系樹脂粒子が得られ加工性が低下したり、微細なビニル系樹脂粒子ではあるがかさ比重が低い等、安定して満足したビニル系樹脂粒子を得るのには不十分であった。
【0005】
上記事情に鑑み、本発明は一実施形態において、塩化ビニルのようなビニル系化合物を懸濁重合するに際して、微細で粒度の均一性が高く、かさ比重が高く、可塑剤吸収性が適正な樹脂粒子を得るのに適した分散安定剤として有用なポリビニルアルコール系樹脂組成物を提供することを課題の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者等は、上記の課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、所定のポリオキシアルキレン単位(以下、「アルキレン変性基」という。)を有する変性ビニルアルコール系重合体(A)と、ポリビニルアルコール鎖に二重結合を有する変性ビニルアルコール系重合体(B)を含むポリビニルアルコール系樹脂組成物を使用することが有効であることを見出した。
【0007】
従って、本発明は一側面において、一般式(I)に示すポリオキシアルキレン単位がポリビニルアルコール鎖と結合した変性ビニルアルコール系重合体(A)と、ポリビニルアルコール鎖に二重結合を有する変性ビニルアルコール系重合体(B)を含むポリビニルアルコール系樹脂組成物である。
【化1】
(式中、R
1及びR
2はそれぞれ独立にメチル基又はエチル基又は水素原子であり、R
3はアルキル基又は水素原子である。nは繰り返し単位数を表し、5≦n≦70の整数である。)
【0008】
本発明の一側面に係るポリビニルアルコール系樹脂組成物の一実施形態においては、前記変性ビニルアルコール系重合体(A)と前記変性ビニルアルコール系重合体(B)との重量比(A/B)が15/85~85/15である。
【0009】
本発明の一側面に係るポリビニルアルコール系樹脂組成物の別の一実施形態においては、前記変性ビニルアルコール系重合体(B)の0.2重量%水溶液の、光路長1cm、波長280nmにおけるUV吸光度(Abs)が0.1以上3.0以下である。
【0010】
本発明に係るポリビニルアルコール系樹脂組成物の更に別の一実施形態においては、前記変性ビニルアルコール系重合体(A)のポリオキシアルキレン単位の変性率が0.01~5モル%である。
【0011】
本発明は別の一側面において、本発明に係るポリビニルアルコール系樹脂組成物を含有する懸濁重合用分散安定剤である。
【0012】
本発明は更に別の一側面において、本発明に係る懸濁重合用分散安定剤を用いて、ビニル系化合物単量体、又はビニル系化合物単量体とそれに共重合し得る単量体との混合物を水中に分散させて懸濁重合を行うことを含むビニル系樹脂の製造方法である。
【発明の効果】
【0013】
本発明の懸濁重合用分散安定剤を用いてビニル系化合物の懸濁重合を行った場合には、粗大粒子の形成が少なく、粒子径の均一性が高い樹脂粒子が得られる。粗大粒子の形成が少ないために重合時のブロック化が抑制され、粒子径の均一性が高い粒子が得られることからスケール付着が低減する。また、高いかさ比重の樹脂が得られ、樹脂加工時の生産性が向上する。更に、可塑剤吸収性が適正な樹脂粒子を得ることも可能となる。このように、本発明の懸濁重合用分散安定剤は従来技術では達成することが難しかった要求性能を兼備することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の懸濁重合用分散安定剤は一実施形態において、一般式(I)に示すポリオキシアルキレン単位がポリビニルアルコール鎖と結合した変性ビニルアルコール系重合体(A)と、ポリビニルアルコール鎖に二重結合を有する変性ビニルアルコール系重合体(B)を含む。なお、以下の説明における「変性PVA」は変性ビニルアルコール系重合体を指す。
【0015】
【化2】
(式中、R
1及びR
2はそれぞれ独立にメチル基又はエチル基又は水素原子であり、R
3はアルキル基又は水素原子である。nは繰り返し単位数を表し、5≦n≦70の整数である。)
【0016】
一般式(I)においてnは5以上が好ましく、10以上がより好ましく、15以上が更により好ましく、20以上が最も好ましい。また、nは70以下が好ましく、60以下がより好ましい。
【0017】
R3を表すアルキル基は、例えば炭素数が1~10のアルキル基とすることができ、炭素数が1~5のアルキル基が好ましく、炭素数が1~3のアルキル基がより好ましい。R3を表すアルキル基の具体例としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基が挙げられる。
【0018】
一般式(I)に示す部分は、エーテル結合及び/又は炭素-炭素結合のみを介してポリビニルアルコール鎖と結合していることがpHの変化で脱離し、性能を発揮できないことを防止する観点から好ましい。
【0019】
一実施形態において、ポリビニルアルコール鎖に二重結合を有する変性ビニルアルコール系重合体(B)は、一般式(II)に示す構造をポリビニルアルコール鎖内に有する。
【化3】
(式中、nは繰り返し単位数を表し、1≦n≦10の整数である。)
【0020】
一般式(II)においてnは1以上が好ましく、2以上がより好ましい。また、nは10以下が好ましく、5以下がより好ましい。
【0021】
本発明のポリビニルアルコール系樹脂組成物は前記変性ビニルアルコール系重合体(A)と前記変性ビニルアルコール系重合体(B)との重量比(A/B)が15/85~85/15であることが好ましい。前記重量比(A/B)が15/85以下となると、分散力が発揮されず、結果としてビニル系樹脂の可塑剤吸収性が低下する。また、重量比(A/B)が85/15以上となると、変性ビニルアルコール系重合体(B)に起因する保護コロイド性が不足し、ビニル系樹脂が粗大化してしまう懸念がある。したがって、前記変性ビニルアルコール系重合体(A)と前記変性ビニルアルコール系重合体(B)との重量比(A/B)が15/85~85/15であることが好ましく、20/80~80/20がより好ましく、25/75が更により好ましい。なお、本発明においては、一般式(I)に示すポリオキシアルキレン単位がポリビニルアルコール鎖と結合しており、且つ、ポリビニルアルコール鎖に二重結合を有する変性ビニルアルコール系重合体は、変性ビニルアルコール系重合体(A)及び変性ビニルアルコール系重合体(B)の何れにも該当しないものとして取り扱う。
【0022】
前記変性ビニルアルコール系重合体(B)は0.2重量%水溶液の、光路長1cm、波長280nmにおけるUV吸光度(Abs)が0.1以上3.0以下であることが好ましい。この波長280nmの吸収は共役二重結合の二連鎖に相当し、吸光度が0.1未満であると、二重結合が不足し、保護コロイド性が低下したりするため、結果として適度な粒子径を有するビニル系樹脂を得にくい。また、吸光度が3.0以上とすると着色が顕著になり、分散剤として使用した際、ビニル系樹脂の着色に影響を与える。また、化学的に不安定となり、水溶液の粘度が高くなったり、ゲル化したりする場合がある。そのため、変性ビニルアルコール系重合体(B)の0.2重量%水溶液の波長280nmにおけるUV吸光度は0.1以上3.0以下が必要であり、0.2以上2.5以下が好ましく、0.3以上2.0以下が更に好ましい。
【0023】
前記変性ビニルアルコール系重合体(A)は、一般式(I)で示されるポリオキシアルキレン単位の種類にも依存するが、当該アルキレン単位の変性率(以下、「アルキレン変性率」ともいう。)が0.01モル%以上5モル%以下であることが好ましい。アルキレン変性率が5モル%を超えると、変性PVA(A)の一分子当りに含まれる親水基・疎水基のバランスが保てず、分散力が強い一方で保護コロイド性に乏しくなることがあり、その場合は懸濁重合用分散安定剤として用いることが困難となる。よって、アルキレン変性率は5モル%以下であることが好ましく、4モル%以下であることがより好ましく、2モル%以下であることが更により好ましい。一方、アルキレン変性率が0.01モル%未満の場合、該変性PVA(A)中に含まれる変性基の数が少なく、要求物性が十分に発現しない。よって、アルキレン変性率は0.01モル%以上であることが重要であり、0.05モル%以上であることが好ましく、0.1モル%以上であることがより好ましい。
【0024】
アルキレン変性率とは、変性PVA(A)のポリビニルアルコール鎖を構成する全単量体単位のモル数に対する、上記一般式(I)に示す部分を有するポリオキシアルキレン単位と結合している前記単量体単位のモル数の割合(モル%)である。アルキレン変性率はプロトンNMRで求めることができる。具体的には、変性PVAをケン化度99.95モル%以上にケン化した後、十分にメタノール洗浄を行い、分析用の変性PVAを作製する。作製した分析用の変性PVAを重水に溶解し、更にNaOH重水溶液を数滴加えpH=14にした後、プロトンNMRを用いて80℃で測定する。オキシエチレン部分(例:R1=H、R2=H)から算出する場合、変性PVAのポリビニルアルコール鎖のメチレン基に帰属される1.2~1.8ppmのピークの積分値と、オキシエチレン部分に帰属される3.6~3.7ppmのピークの積分値とから常法により含有量を算出する。具体的には、変性PVAのポリビニルアルコール鎖のメチレン基の積分値をbとし、オキシエチレン部分の積分値をa、オキシエチレン部分の繰り返し単位数をxとすると、プロトン数(メチレン基は2H、エチレン基は4H)を鑑み、アルキレン変性率は{a/(4×x)}/(b/2)×100(mol%)と計算される。例えば、a=1、x=1、b=100の場合は、0.5mol%と計算される。また、オキシブチレン又はオキシプロピレン部分から算出する場合、変性PVAのポリビニルアルコール鎖のメチレン基に帰属される1.2~1.8ppmのピークの積分値と、オキシブチレン部分(R1=H、R2=CH2CH3(又はR1=CH2CH3、R2=H))又はオキシプロピレン部分(R1=H、R2=CH3(又はR1=CH3、R2=H))の末端メチル基に帰属される0.80~0.95ppmのピークの積分値とから常法により含有量を算出する。具体的には、変性PVAのポリビニルアルコール鎖のメチレン基の積分値をbとし、オキシブチレン部分又はオキシプロピレン部分の積分値をc、繰り返し単位数をyとすると、プロトン数(メチレン基は2H、メチル基は3H)を鑑み、アルキレン変性率は{c/(3×y)}/(b/2)×100(mol%)と計算される。例えば、c=1、y=1、b=100の場合は、0.67mol%と計算される。なお、変性PVAがオキシエチレン部分と、オキシプロピレン部分又はオキシブチレン部分との双方を有する場合は、オキシエチレン部分から算出されるアルキレン変性率よりも、オキシプロピレン部分又はオキシブチレン部分の末端メチル基に帰属されるピークの積分値に基づいて算出されるアルキレン変性率のほうが測定精度が高いため、両者の値に相違がある場合には、オキシプロピレン部分又はオキシブチレン部分の末端メチル基に帰属されるピークの積分値に基づいて算出されるアルキレン変性率を採用することとする。
【0025】
前記変性ビニルアルコール系重合体(A)の粘度平均重合度は、ビニル系化合物を懸濁重合する際の分散安定性を高めるために400以上であることが好ましく、500以上であることがより好ましい。また、変性PVAの粘度平均重合度は分散力を低下させないために3000以下であることが好ましく、2000以下であることがより好ましく、1500以下であることが更により好ましく、1000以下であることが更により好ましい。
【0026】
前記変性ビニルアルコール系重合体(B)の粘度平均重合度は、ビニル系化合物を懸濁重合する際の分散安定性を高めるために600以上であることが好ましく、700以上であることがより好ましい。また、変性PVAの粘度平均重合度は分散力を低下させないために4000以下であることが好ましく、3000以下であることがより好ましく、2000以下であることが更により好ましく、1500以下であることが更により好ましい。
【0027】
粘度平均重合度は、JIS K6726:1994に準拠して測定される。すなわち、変性PVAを完全にケン化し、精製した後、30℃の水またはジメチルスルホキシド(DMSO)中で測定した極限粘度[η]から求める。
【0028】
前記変性ビニルアルコール系重合体(A)のケン化度は、水溶性の観点から、65モル%以上であることが必要である。また、変性PVAのケン化度は、ビニル系化合物を懸濁重合した際に得られる粒子のポロシティを高めて可塑剤吸収性を高めるために、99.9モル%以下であることが好ましく、90モル%以下であることがより好ましく、80モル%以下であることが更により好ましい。
【0029】
前記変性ビニルアルコール系重合体(B)のケン化度は、水溶性の観点から、65モル%以上であることが必要である。また、変性PVAのケン化度は、ビニル系化合物を懸濁重合した際に得られる粒子のポロシティを高めて可塑剤吸収性を高めるために、99.9モル%以下であることが好ましく、90モル%以下であることがより好ましく、80モル%以下であることが更により好ましい。
【0030】
変性PVAのケン化度は、JIS K6726:1994に準拠して測定される。すなわち、水酸化ナトリウムで試料中の残存酢酸基(モル%)を定量し、100から差し引くことで求めることができる。
【0031】
前記変性ビニルアルコール系重合体(A)の製造方法は特に制限されず、PVAの水酸基とポリオキシアルキレン基及び有機酸を反応させ、グラフトする方法等を用いることができるが、酢酸ビニルに代表されるビニルエステル系単量体を、有機酸の共存下で、一般式(I)に示すポリオキシアルキレン単位を有する不飽和単量体と共重合して変性ビニルエステル系重合体を得る工程と、得られた変性ビニルエステル系重合体をケン化する方法が容易で経済的であり、好適に用いられる。
【0032】
一般式(I)で示される変性構造を誘導する不飽和単量体としてはポリオキシアルキレンアルケニルエーテル、ポリオキシアルキレンモノ(メタ)アリルエーテル、ポリオキシアルキレンモノビニルエーテル等が挙げられ、具体的には、ポリオキシブチレンポリオキシエチレンアルケニルエーテル、ポリオキシプロピレンポリオキシエチレンアルケニルエーテル、ポリオキシブチレンアルケニルエーテル、ポリオキシブチレンポリオキシプロピレンアルケニルエーテル、ポリオキシプロピレンアルケニルエーテル、ポリオキシプロピレンポリオキシエチレンアルケニルエーテル、ポリオキシブチレンポリオキシエチレンモノアリルエーテル、ポリオキシプロピレンポリオキシエチレンモノアリルエーテル、ポリオキシブチレンモノアリルエーテル、ポリオキシブチレンポリオキシプロピレンモノアリルエーテル、ポリオキシプロピレンモノアリルエーテル、ポリオキシプロピレンポリオキシエチレンモノアリルエーテル、ポリオキシブチレンポリオキシエチレンモノビニルエーテル、ポリオキシプロピレンポリオキシエチレンモノビニルエーテル、ポリオキシブチレンモノビニルエーテル、ポリオキシブチレンポリオキシプロピレンモノビニルエーテル、ポリオキシプロピレンモノビニルエーテル、ポリオキシプロピレンポリオキシエチレンモノビニルエーテルなどが挙げられる。なかでも、下記の一般式(III)に示すようなエーテルが反応性や性能の面から更に好適に用いられる。一般式(III)に示すようなポリオキシアルキレンアルケニルエーテルの具体例としては、ポリオキシブチレンポリオキシエチレンアルケニルエーテルが挙げられる。
【化4】
(一般式(III)中、R
1及びR
2はそれぞれ独立にメチル基又はエチル基又は水素原子であり、R
3はアルキル基又は水素原子である。nは繰り返し単位数を表し、5≦n≦70の整数である。R
4及びR
5は一方がメチル基又はエチル基であり、他方が水素原子である。mは繰り返し単位数を表し、1≦m≦30の整数である。但し、繰り返し単位数nの部分と、繰り返し単位数mの部分は異なる。)
【0033】
ビニルエステル系単量体としては、酢酸ビニルの他、蟻酸ビニル、プロピオン酸ビニル、バレリン酸ビニル、カプリン酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、安息香酸ビニル、ピバリン酸ビニル及びバーサティック酸ビニル等が挙げられる。
【0034】
前記変性ビニルアルコール系重合体(B)に一般式(II)に示すような二重結合を導入する方法としては、特に限定されず、周知の重合方法、例えば無変性PVA系樹脂を過酸化水素や過ヨウ素酸などの酸化剤で酸化処理し熱処理する方法、たとえば、カルボニル基を含有するアルデヒドやケトンなどの連鎖移動剤や不飽和カルボン酸のような共重合モノマー共存下で重合し、得られたポリ酢酸ビニルをケン化して脱水反応を起こして導入する方法、酸素を吹き込みながら重合し、得られたポリ酢酸ビニルをケン化して脱水反応を起こして導入する方法が挙げられる。工業的にはカルボニル基を含有するアルデヒドやケトンなどの連鎖移動剤や不飽和カルボン酸のような共重合モノマー共存下で重合し、得られたポリ酢酸ビニルをケン化して脱水反応を起こしてポリビニルアルコール鎖に炭素-炭素二重結合を有する変性PVA系樹脂を得る方法が特に有利である。
【0035】
前記変性ビニルアルコール系重合体(B)に二重結合を誘導するための変性種としては、ビニルエステル系単量体と共重合できるマレイン酸ジメチル、マレイン酸モノメチル等の不飽和カルボン酸アルキルエステル、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、n-ブチルアルデヒド等のアルキルアルデヒド、四塩化炭素やブロモブタン等のハロゲン系炭化水素が挙げられる。
【0036】
本共重合を行うのに採用される重合方式としては、回分重合、半回分重合、連続重合、半連続重合のいずれでもよい。重合方法としては、塊状重合法、溶液重合法、懸濁重合法、乳化重合法等公知の方法の中から、任意の方法を採用することができる。その中でも、用いる変性種は重合粒子径に影響を与える水溶性や界面活性能を持つことが多いため重合粒子径を制御する必要のある懸濁重合及び乳化重合ではなく、アルコール系溶媒存在下で重合を行う溶液重合法又は溶媒を用いないで重合を行う塊状重合法が好適に採用される。溶液重合法に用いられるアルコール系溶媒としては、メタノール、エタノール、イソプロパノール等を用いることができるが、これらに限定されるものではない。またこれらの溶媒は単独で使用してもよいし、2種類以上のものを併用することもできる。
【0037】
ビニルエステル系単量体をラジカル重合する際の重合開始剤は、特に限定するものではないが、アゾビスイソブチロニトリル、アゾビス-2,4-ジメチルバレロニトリル、アゾビス(4-メトキシ-2,4-ジメチルバレロニトリル)、アゾビスジメチルバレロニトリル、アゾビスメトキシバレロニトリルなどのアゾ化合物、アセチルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、アセチルシクロヘキシルスルホニルパーオキサイド、2,4,4-トリメチルペンチル-2-パーオキシフェノキシアセテートなどの過酸化物、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、ジ-2-エチルヘキシルパーオキシジカーボネート、ジエトキシエチルパーオキシジカーボネートなどのパーカーボネート化合物、t-ブチルパーオキシネオデカネート、α-クミルパーオキシネオデカネートなどのパーエステル化合物などを単独で又は二種以上組み合わせて使用することができる。
【0038】
また、共重合を高い温度で行った場合、ビニルエステル系単量体の分解に起因するPVAの着色等が見られることがある。その場合には着色防止の目的で重合系にクエン酸のような酸化防止剤を1ppm以上100ppm以下(ビニルエステル系単量体の質量に対して)程度添加することはなんら差し支えない。
【0039】
本発明に係る変性PVAを製造する際のケン化方法も特に限定されるものではなく、前述した方法で得られた重合体を、常法に従い、アルコール類を溶媒兼用で用いることが好ましい。アルコールとしてはメタノール、エタノール、ブタノール等が挙げられる。アルコール中の重合体の濃度は20~50質量%の範囲から選ぶことができる。アルカリ触媒としては水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、ナトリウムメチラート、ナトリウムエチラート、カリウムメチラート等のアルカリ金属の水酸化物やアルコラートの如きアルカリ触媒を用いることができ、酸触媒としては、塩酸、硫酸等の無機酸水溶液、p-トルエンスルホン酸等の有機酸を用いることができる。これら触媒の使用量はビニルエステル系単量体に対して1~100ミリモル当量にすることが必要である。ケン化温度は特に制限はないが、通常10~70℃の範囲であり、好ましくは30~50℃の範囲から選ぶのが望ましい。反応は通常0.5~3時間にわたって行われる。
【0040】
本発明の懸濁重合用分散安定剤は、本発明の趣旨を損なわない範囲で、上記変性PVA以外のPVAや、その他の各種添加剤を含有してもよい。該添加剤としては、例えば、アルデヒド類、ハロゲン化炭化水素類、メルカプタン類などの重合調整剤;フェノール化合物、イオウ化合物、N-オキサイド化合物などの重合禁止剤;pH調整剤;架橋剤;防腐剤;防黴剤、ブロッキング防止剤;消泡剤等が挙げられる。本発明の効果を有意に発揮するという観点から、本発明の懸濁重合用分散安定剤は変性PVA(A)及び変性PVA(B)を合計で10質量%以上含有することが好ましく、30質量%以上含有することがより好ましく、70質量%以上含有することが更により好ましい。
【0041】
本発明の懸濁重合用分散安定剤は、特にビニル系化合物の懸濁重合に好適に用いることができる。従って、本発明の別の一側面によれば、懸濁重合用分散安定剤を用いて、ビニル系化合物単量体、又はビニル系化合物単量体とそれに共重合し得る単量体との混合物を水中に分散させて懸濁重合を行うことを含むビニル系樹脂の製造方法が提供される。
【0042】
ビニル系化合物としては、塩化ビニル等のハロゲン化ビニル;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等のビニルエステル;アクリル酸、メタクリル酸、これらのエステル及び塩;マレイン酸、フマル酸、これらのエステル及び無水物;スチレン、アクリロニトリル、塩化ビニリデン、ビニルエーテル等が挙げられる。これらの中でも、本発明の一実施形態に係る懸濁重合用分散安定剤は、特に好適には塩化ビニルを単独で、又は塩化ビニルを塩化ビニルと共重合することが可能な単量体と共に懸濁重合する際に用いられる。塩化ビニルと共重合することができる単量体としては、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニルなどのビニルエステル;(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチルなどの(メタ)アクリル酸エステル;エチレン、プロピレンなどのα-オレフィン;無水マレイン酸、イタコン酸などの不飽和ジカルボン酸類;アクリロニトリル、スチレン、塩化ビニリデン、ビニルエーテル等が挙げられる。
【0043】
本発明の懸濁重合用分散安定剤は、単独でもまた他の安定剤、例えばセルロース系誘導体、界面活性剤等と併用することができる。
【0044】
本発明の懸濁重合用分散安定剤を使用することにより、樹脂粒子のかさ比重が高く、粒度分布が均一で物性の非常に優れた塩化ビニル樹脂が得られる。以下、ビニル系化合物の重合法について例を挙げ具体的に説明するが、これらに限定されるものではない。
【0045】
塩化ビニル樹脂粒子等のビニル系化合物の樹脂粒子を製造する場合には、ビニル系化合物単量体に対し、上述の懸濁重合用分散安定剤を0.01質量%~0.3質量%、好ましくは0.04質量%~0.15質量%添加する。また、ビニル系化合物と水の比は質量比でビニル系化合物:水=1:0.9~1:3とすることができ、好ましくはビニル系化合物:水=1:1~1:1.5である。
【0046】
重合開始剤は、ビニル系化合物の重合に従来使用されているものでよく、これにはジイソプロピルパーオキシジカーボネート、ジ-2-エチルヘキシルパーオキシジカーボネート、ジエトキシエチルパーオキシジカーボネート等のパーカーボネート化合物、t-ブチルパーオキシネオデカノエート、α-クミルパーオキシネオデカノエート等のパーエステル化合物、アセチルシクロヘキシルスルホニルパーオキシド、2,4,4-トリメチルペンチル-2-パーオキシフェノキシアセテート等の過酸化物、アゾビス-2,4-ジメチルバレロニトリル、アゾビス(4-メトキシ-2,4-ジメチルパレロニトリル)等のアゾ化合物、更には過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム、過酸化水素等を単独又は組み合わせて使用することができる。
【0047】
更に、ビニル系化合物の重合に適宜使用される重合調整剤、連鎖移動剤、ゲル化改良剤、帯電防止剤、PH調整剤等を添加することも任意である。
【0048】
ビニル系化合物の重合を実施するに当たっての各成分の仕込み割合、重合温度等はビニル系化合物の懸濁重合で従来採用されている条件に準じて定めればよく、特に限定する理由は存在しない。
【実施例】
【0049】
以下、本発明について実施例を挙げて更に詳しく説明する。
(PVA1の製造)
酢酸ビニル1850g、メタノール1000g、変性種として一般式(III)で示され、m=5~9、n=45~55であるポリオキシアルキレンアルケニルエーテル(単量体A)133gを重合缶に仕込み、30分間系内を窒素置換した。単量体Aについてm=5~9、n=45~55であることは、NMRにより確認した。アゾビスイソブチロニトリル0.25gを重合缶に仕込み、60℃で9時間重合した後、冷却して重合を停止した。次いで常法により未反応の酢酸ビニルを除去し、得られた重合体を常法により水酸化ナトリウムメタノール溶液でケン化してPVA1を作製した。得られたPVA1の粘度平均重合度、ケン化度及び変性率を先述した分析法によって測定したところ、粘度平均重合度は750、ケン化度は73モル%、変性率は0.18モル%であった。
【0050】
紫外可視近赤外分光光度計((株)島津製作所製分光光度計UV1800)を用いて、光路長1cm、波長280nmにおける、ポリビニルアルコール系分散剤の0.2重量%水溶液の吸光度を測定したところ、0.02Absであった。なお、厚さ1cmの試料容器(セル)を用いた。
【0051】
(PVA2の製造)
酢酸ビニル1800g、メタノール612g、マレイン酸ジメチル4gを重合缶に仕込み、30分間系内を窒素置換した。アゾビスイソブチロニトリル0.3gを重合缶に仕込み、酢酸ビニル400g、マレイン酸ジメチル35gを滴下しながら、60℃で11時間重合した後、滴下を止め、冷却して重合を停止した。次いで常法により未反応の酢酸ビニルを除去し、得られた重合体を常法により水酸化ナトリウムメタノール溶液でケン化してPVA2を作製した。有機酸変性率を求める方法は特に限定されず、酸価等で求めることができるが、プロトンNMRで求めるのが簡便であるのでここではプロトンNMRにより求めた。具体的には、変性PVAをケン化度99.95モル%以上に完全にケン化した後、十分にメタノール洗浄を行い、分析用の変性PVAを作製する。変性種としてマレイン酸ジメチルを使用する場合、完全にケン化する過程で、カルボキシル基が生成する。従って、変性種の変性率は、有機酸変性率に等しい。作製した分析用の変性PVAを重水に溶解し、更にNaOH重水溶液を数滴加えpH=14にした後、80℃で測定し1H-NMRスペクトルを得た。変性PVAのポリビニルアルコール鎖のメチレン基(1.2~1.8ppm)のピークの積分値を基準として有機酸変性率を算出した。例えば、有機酸単位がカルボキシル基を有する場合はカルボキシル基に隣接する炭素の水素原子である2.2~2.9ppmのピークから算出する。有機酸単位がカルボキシル基を有する場合を例にすると、変性PVAのポリビニルアルコール鎖のメチレン基の積分値をbとし、カルボキシル基に隣接する炭素の水素原子の積分値をaとすると、プロトン数(メチレン基は2H)を鑑み、変性率はa/(b/2)×100(mol%)と計算される。例えば、a=1、b=100の場合は、2.0mol%と計算される。
PVA2の粘度平均重合度、ケン化度、変性率、及び0.2重量%水溶液の波長280nmにおけるUV吸光度を先述した分析法によって測定した。結果を表1に示す。
【0052】
(PVA3の製造)
酢酸ビニル1825g、メタノール1740g、マレイン酸ジメチル2gを重合缶に仕込み、30分間系内を窒素置換した。アゾビスイソブチロニトリル0.3gを重合缶に仕込み、酢酸ビニル550g、マレイン酸ジメチル22gを滴下しながら、60℃で11時間重合した後、滴下を止め、冷却して重合を停止した。次いで常法により未反応の酢酸ビニルを除去し、得られた重合体を常法により水酸化ナトリウムメタノール溶液でケン化してPVA3を作製した。PVA3の粘度平均重合度、ケン化度、変性率、及び0.2重量%水溶液の波長280nmにおけるUV吸光度を先述した分析法によって測定した。結果を表1に示す。
【0053】
(PVA4の製造)
酢酸ビニル1800g、メタノール612g、マレイン酸ジメチル7gを重合缶に仕込み、30分間系内を窒素置換した。アゾビスイソブチロニトリル0.3gを重合缶に仕込み、酢酸ビニル400g、マレイン酸ジメチル63gを滴下しながら、60℃で11時間重合した後、滴下を止め、冷却して重合を停止した。次いで常法により未反応の酢酸ビニルを除去し、得られた重合体を常法により水酸化ナトリウムメタノール溶液でケン化してPVA4を作製した。PVA4の粘度平均重合度、ケン化度、変性率、及び0.2重量%水溶液の波長280nmにおけるUV吸光度を先述した分析法によって測定した。結果を表1に示す。
【0054】
(PVA5の製造)
酢酸ビニル1800g、メタノール612g、マレイン酸ジメチル10gを重合缶に仕込み、30分間系内を窒素置換した。アゾビスイソブチロニトリル0.3gを重合缶に仕込み、酢酸ビニル400g、マレイン酸ジメチル88gを滴下しながら、60℃で11時間重合した後、滴下を止め、冷却して重合を停止した。次いで常法により未反応の酢酸ビニルを除去し、得られた重合体を常法により水酸化ナトリウムメタノール溶液でケン化してPVA5を作製した。PVA5の粘度平均重合度、ケン化度、変性率、及び0.2重量%水溶液の波長280nmにおけるUV吸光度を先述した分析法によって測定した。結果を表1に示す。
【0055】
(PVA6の製造)
酢酸ビニル3000g、変性種のアセトアルデヒド15gを重合缶に仕込み、30分間系内を窒素置換した。アゾビスイソブチロニトリル0.2gを重合缶に仕込み、65~75℃で6時間重合した後冷却して重合を停止した。次いで常法により未反応の酢酸ビニルを除去し、得られた重合体を常法により水酸化ナトリウムメタノール溶液でケン化し、120℃で6時間乾燥させて、PVA6を作製した。変性種としてアセトアルデヒドを使用する場合の変性率は、カルボニル変性率に等しい。カルボニル変性率はプロトンNMRで求めた。具体的には、変性PVAをケン化度99.95モル%以上に完全にケン化した後、十分にメタノール洗浄を行い、分析用の変性PVAを作製した。作製した分析用の変性PVAを重水に溶解し、更にNaOH重水溶液を数滴加えpH=14にした後、80℃で測定し1H-NMRスペクトルを得る。変性PVAの主鎖のメチレン基(1.2~1.8ppm)のピークの積分値を基準として、アセトアルデヒドの場合、メチル基末端(2.15~2.35ppm)のピークの積分値で算出する。具体的には、変性PVAの主鎖のメチレン基の積分値をbとし、アセトアルデヒドのメチル基末端の積分値をdとすると、プロトン数(メチレン基は2、アセトアルデヒドのメチル基末端はX=3)を鑑み、カルボニル変性率は(d/3)/(b/2)×100(mol%)と計算される。PVA6の粘度平均重合度、ケン化度、変性率、及び0.2重量%水溶液の波長280nmにおけるUV吸光度を先述した分析法によって測定した。結果を表1に示す。
【0056】
(PVA7の製造)
酢酸ビニル1220g、メタノール1350g、変性種として一般式(III)で示され、m=5~9、n=15~25であるポリオキシアルキレンアルケニルエーテル(単量体B)52gを重合缶に仕込み、30分間系内を窒素置換した。単量体Bについてm=5~9、n=15~25であることは、NMRにより確認した。アゾビスイソブチロニトリル0.25gを重合缶に仕込み、60℃で9時間重合した後、冷却して重合を停止した。次いで常法により未反応の酢酸ビニルを除去し、得られた重合体を常法により水酸化ナトリウムメタノール溶液でケン化してPVA7を作製した。PVA7の粘度平均重合度、ケン化度、変性率、及び0.2重量%水溶液の波長280nmにおけるUV吸光度を先述した分析法によって測定した。結果を表1に示す。
【0057】
(PVA8の製造)
単量体Aの代わりに、n=15~25のポリエチレングリコールアリルエーテル(単量体C)(日油株式会社提供ユニオックスPKA-5005)56gを重合缶に仕込んだ以外、PVA1と同様にPVA8を作製した。なお、単量体Cについてn=15~25であることは、NMRにより確認した。PVA8の粘度平均重合度、ケン化度、変性率、及び0.2重量%水溶液の波長280nmにおけるUV吸光度を先述した分析法によって測定した。結果を表1に示す。
【0058】
(PVA9の製造)
単量体Aの代わりに、一般式(III)で示され、m=15~25、n=15~25であるポリエチレングリコールポリプロピレングリコールアリルエーテル(単量体D)(日油株式会社提供ユニルーブPKA-5013)74gを重合缶に仕込んだ以外、実施例1と同様にPVA9を作製した。単量体Dについてm=15~25、n=15~25であることは、NMRにより確認した。PVA9の粘度平均重合度、ケン化度、変性率、及び0.2重量%水溶液の波長280nmにおけるUV吸光度を先述した分析法によって測定した。結果を表1に示す。
【0059】
(PVA10、11)
PVA8とPVA9はそれぞれデンカ(株)製ポリビニルアルコールW-24NとB-24を用いた。PVA8、PVA9の粘度平均重合度、ケン化度、変性率、及び0.2重量%水溶液の波長280nmにおけるUV吸光度を先述した分析法によって測定した。結果を表1に示す。
【0060】
【0061】
(実施例1~10及び比較例1~4)
表2に示した重量比率で各PVAをナウターミキサ(登録商標)でブレンドし、ポリビニルアルコール系樹脂組成物を得た。それらを分散安定剤とし、塩化ビニルの懸濁重合を行い、評価した。
【0062】
〈塩化ビニルの懸濁重合〉
攪拌器を備えた容量30Lのステンレス製オートクレーブ中に攪拌下30℃の水10.1kg、ポリビニルアルコール系樹脂組成物を5.8g、重合開始剤としてt-ブチルパーオキシネオデカノエートを4.6g、α-クミルパーオキシネオデカノエートを1g仕込んだ。オートクレーブを真空で脱気した後、塩化ビニル単量体を7.2kg加え、57℃で4時間重合した。
【0063】
〈塩化ビニル樹脂の評価〉
得られた塩化ビニル樹脂の平均粒径、粒度分布、可塑剤吸収量、及びかさ比重について以下の方法で評価した。
【0064】
平均粒径の測定はJIS Z8815:1994に準拠して、60メッシュ(目開き250μm)、80メッシュ(目開き180μm)、100メッシュ(目開き150μm)、150メッシュ(目開き106μm)、200メッシュ(目開き75μm)の篩を用いて、全体量に対する60メッシュ(目開き250μm)上の粒子量比率を粗粒量、累積頻度50%(質量基準)の粒子径(D50)を平均粒径、累積頻度80%(質量基準)の粒子径(D80)と累積頻度20%(質量基準)の粒子径(D20)の差を粒度分布とした。
【0065】
かさ比重は、JIS K6720-2:1999に準拠して測定した。
【0066】
可塑剤吸収量は以下の手順で測定した。内径25mm、深さ85mmのアルミニウム合金製容器の底にグラスファイバーを詰め、塩化ビニル樹脂10gを投入した。これに可塑剤(ジオクチルフタレート、以下DOPとする)15mLを加え、30分放置してDOPを塩化ビニル樹脂に充分浸透させた。その後1500Gの加速度下に過剰のDOPを遠心分離し、塩化ビニル樹脂10gに吸収されたDOPの質量を測定して、塩化ビニル樹脂100質量部当たりのDOP質量部(phr)に換算した。
【0067】
結果を表2に示す。比較例1、3、4ではポリビニルアルコール鎖に二重結合を有する変性ビニルアルコール系重合体(B)を使用しなかったため、塩化ビニル樹脂粒子が粗大化し、粗粒量が多く、粒子径の均一性が悪かった。変性ビニルアルコール系重合体(A)を使用しなかった比較例2では可塑剤吸収性の悪い塩化ビニル粒子となった。これに対して、実施例1~10に示したポリビニルアルコール系樹脂組成物を使用すると塩化ビニル樹脂中に粗大粒子の形成が少なく、粒子径の均一性が高い粒子が得られたことが分かる。また、可塑剤吸収性に優れており、さらに、重合時のブロック化やスケール付着が低減し、脱モノマー性に優れた重合体粒子が得られた。よって、実施例1~10に係る分散安定剤は工業的に極めて有利なものである。
【0068】