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▶ ザ・トラステイーズ・オブ・ザ・ユニバーシテイ・オブ・ペンシルベニアの特許一覧

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-07
(45)【発行日】2024-05-15
(54)【発明の名称】脊髄性筋萎縮症の治療に有用な組成物
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/864 20060101AFI20240508BHJP
   C12N 7/01 20060101ALI20240508BHJP
   C12N 15/12 20060101ALI20240508BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20240508BHJP
   C07K 14/015 20060101ALN20240508BHJP
   C07K 14/47 20060101ALN20240508BHJP
【FI】
C12N15/864 100Z
C12N7/01 ZNA
C12N15/12
C12N5/10
C07K14/015
C07K14/47
【請求項の数】 17
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2022033576
(22)【出願日】2022-03-04
(62)【分割の表示】P 2019547087の分割
【原出願日】2018-02-27
(65)【公開番号】P2022078208
(43)【公開日】2022-05-24
【審査請求日】2022-03-31
(31)【優先権主張番号】62/464,756
(32)【優先日】2017-02-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/618,437
(32)【優先日】2018-01-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/515,902
(32)【優先日】2017-06-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】502409813
【氏名又は名称】ザ・トラステイーズ・オブ・ザ・ユニバーシテイ・オブ・ペンシルベニア
(74)【代理人】
【識別番号】110000741
【氏名又は名称】弁理士法人小田島特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ウイルソン,ジェームス・エム
(72)【発明者】
【氏名】ヒンデラー,クリスチャン
(72)【発明者】
【氏名】カッツ,ネイサン
(72)【発明者】
【氏名】ワン,チャン
【審査官】小倉 梢
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/164757(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2016/0074474(US,A1)
【文献】Mol. Ther. Methods Clin. Dev.,2016年,Vol. 3, 16060,p. 1-8
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00 - 15/90
C12N 7/00 - 7/08
C07K 14/00 - 14/825
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
UniProt/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a) AAVhu68カプシド中にパッケージングされるための、ベクターゲノムを含む核酸配列であって、ベクターゲノムが、AAV 5’末端逆位反復(ITR)、発現制御配列に機能可能に繋げられたSMN1タンパク質をコードする核酸配列、及びAAV 3'ITRを含む、核酸配列;
(b) コードされたAAVhu66カプシドタンパク質の発現を促す調節配列に機能可能に繋げられた、配列番号8をコードするAAVhu68カプシド核酸配列(AAVhu68 VP1);
(c) AAV repタンパク質の発現を促す調節配列に機能可能に繋げられた、AAV repタンパク質をコードする核酸配列;及び
(d) ベクターゲノムの複製およびベクターゲノムのAAVhu68カプシド中へのパッケージングを可能にするヘルパー機能をコードする核酸配列、
を含む宿主細胞。
【請求項2】
SMN1タンパク質をコードする核酸配列が、
(i) 配列番号1か、又は配列番号2のアミノ酸配列のSMN1タンパク質アイソフォームDタンパク質をコードする配列番号1と少なくとも70%同一である配列;
(ii) 配列番号3;
(iii) 配列番号4;
(iv) 配列番号5、又は
(v) 配列番号6、
から選択される、請求項1に記載の宿主細胞。
【請求項3】
発現制御配列(a)が、エンハンサー、プロモーター、イントロン、コザック配列、ポリA、又は翻訳後調節要素の1以上を更に含む、請求項1に記載の宿主細胞。
【請求項4】
プラスミドが(a)の核酸配列を含む、請求項1に記載の宿主細胞。
【請求項5】
プラスミドが(b)及び(c)の核酸配列を含む、請求項1に記載の宿主細胞。
【請求項6】
配列番号8をコードする核酸配列が、配列番号7であるか又はそれと95%同一の配列である、請求項1に記載の宿主細胞。
【請求項7】
宿主細胞が培養物中にある、請求項1に記載の宿主細胞。
【請求項8】
宿主細胞が懸濁液中にある、請求項1に記載の宿主細胞。
【請求項9】
宿主細胞が哺乳動物細胞である、請求項1に記載の宿主細胞。
【請求項10】
宿主細胞がHEK293細胞である、請求項1に記載の宿主細胞。
【請求項11】
宿主細胞が昆虫細胞である、請求項1に記載の宿主細胞。
【請求項12】
請求項1~11のいずれか1に記載の宿主細胞を用いて産生される、SMN1コード配列を含むベクターゲノムを含む組換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)hu68ベクター。
【請求項13】
ベクターゲノムが、5'AAV ITR、サイトメガロウイルス即時早期エンハンサー、ニワトリベータアクチンプロモーター、イントロン、ポリA、及び3’AAV ITRを含む、請求項1に記載のrAAVhu68ベクター
【請求項14】
ベクターゲノムが配列番号15又は配列番号25の配列を有する、請求項1に記載のrAAVhu68ベクター
【請求項15】
AAVhu68ベクターが、配列番号7又はそれと99%同一である配列を用いて産生される、請求項12から14のいずれか1に記載のrAAVhu68ベクター
【請求項16】
配列番号2をコードするSMN1コード配列を含むベクターゲノムを含む組換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)hu68ベクターであって、AAVhu68カプシドが配列番号8をコードするAAVhu68VP1核酸配列から産生される、rAAVhu68ベクター。
【請求項17】
SMN1コード配列は配列番号3である、請求項16に記載のrAAVhu68ベクター
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の背景
脊髄性筋萎縮症(SMA)は、スプライソソーム生合成に関与する遍在的に発現するタンパク質(運動神経細胞生存-SMN)をコードする遺伝子であるテロメア側のSMN1における突然変異によって引き起こされる神経筋疾患である。SMAはSMN1遺伝子の突然変異または欠失によって引き起こされる常染色体劣性障害である。機能するSMN1遺伝子の提供は表現型を救済することが示された。例えば、Tanguy et al,Systemic AAVrh10 provides higher transgene expression than AAV9 in the brain and
the spinal cord of neonatal mice,Frontiers in Molecular Neuroscience,8(36)(July
2015)を参照されたい。
【0002】
国際SMA協会分類は、SMA表現型の重症度のいくつかの度合いを発症年齢及び運動発達マイルストーンに応じて定義している。SMA0は、出生前発症及び重度関節拘縮、両側顔面神経麻痺ならびに呼吸不全を表すために提案される呼称である。1型(またはI型)SMAであるウェルドニッヒ・ホフマンI病は、出生から6ヶ月以内に発症する最重度の生後形態である。患者は、起き上がることができず、重篤な呼吸不全を有する。2型(またはII型)SMAは、最初の2年以内に発症する中間形態であり、子供は起き上がることはできるが歩行はできない。臨床経過は変化しやすい。3型(またはIII型)(クーゲルベルグ・ウェランダー病とも呼ぶ)は2歳よりも後に始まり、大抵は慢性的発展をする。子供は少なくとも幼年期には支援なしで起立及び歩行ができる。成人形態(4型またはIV型)は最軽度であり、30歳よりも後に発症し、症例が報告されたことはほとんどなく、その有病率は正確には知られていない。
【0003】
多くの遺伝性及び後天性神経筋疾患には下位運動ニューロンの変性が伴う。最も一般的及び破壊的な例の1つは脊髄性筋萎縮症(SMA)であり、これは、下位運動ニューロンの選択的死、進行性の虚弱、及び幼児期に多い死亡によって特徴付けられる、運動神経細胞生存(SMN)タンパク質の遺伝性の欠損症である。原因は明らかではないがSMN欠損症は下位運動ニューロンに対する選択的毒性を生じさせ、結果として進行性のニューロン喪失及び筋力低下を招く。疾患の重症度は、ほんの少量の完全長SMN転写産物の産生をもたらすスプライス部位突然変異を有する相同遺伝子(SMN2)のセントロメア重複のコピー数によって調整される。1~2コピーのSMN2を有する患者は、生後の最初の数ヶ月で発症し急速に呼吸不全に進展することによって特徴付けられるSMAの重度形態を示す。3コピーのSMN2を有する患者は一般に、6ヶ月より後の年齢で現れることが典型的である疾患の減弱化形態を呈する。多くの者は歩行能力を獲得することがないものの、呼吸不全に進展することは稀であり、成人期に入っても生存していることが多い。SMN2コピーを4つ有する患者は、成人期までは存在しない場合があり、徐々に筋力低下を発症する。現在、SMAに対する緩和ケア以外の処置はない。
【0004】
SMN発現と疾患重症度との間に明らかな相関があり、罹患細胞の数が比較的少ないことから、SMAは遺伝子療法の極めて良い対象になる。以前の研究では、遺伝子導入マウスモデルにおいて、血液脳関門を通過する能力を有するAAVベクター血清型の全身注射を用いてSMA表現型を救済することができることが実証された。例えば、Tanguy
et al,Systemic AAVrh10 provides higher transgene expression than AAV9 in the brain and the spinal cord of neonatal mice
,Frontiers in Molecular Neuroscience,8(36)(July 2015)を参照されたい。Passini et al,HGT,2014は、SMNΔ7マウスにおいてscAAV9.GusB.SMN1ベクターを使用して生存期間が用量依存的に200日まで増加することを報告した。Meyer et al,Molecular Therapy,2014は、scAAV9.CBA.SMN1ベクターを2.7×10~3.3×1010GC/仔の用量で使用して生存期間が用量依存的に450日まで増加することを報告した。しかしながら、より低い用量はごくわずかな改善を示した。Passini et al,JCI,2010、及びPassini et al,Sci Trans Med,2011も参照されたい。参照によりこれらの文献の各々を本明細書に援用する。
SMAに対する効果的な処置はなおも必要とされている。
【発明の概要】
【0005】
一態様では、AAVhu68カプシドと少なくとも1つの発現カセットとを含む組換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)ベクターが提供され、ここで、当該少なくとも1つの発現カセットは、機能性SMNタンパク質をコードする核酸配列、及び宿主細胞におけるSMN配列の発現を促す発現制御配列を含むものであり、当該AAVhu68カプシドは、配列番号7によってコードされ産生されるタンパク質から独立して選択されるアミノ酸配列、または配列番号8のアミノ酸配列を有するAAVhu68 vp1カプシドタンパク質の集団を含む。特定の実施形態では、AAVhu68カプシドはvp1タンパク質の異種集団を有する。特定の実施形態では、AAVhu68カプシドはvp2タンパク質の異種集団を有する。特定の実施形態では、AAVhu68カプシドはvp3タンパク質の異種集団を有する。一実施形態において、AAVhu68カプシドタンパク質コード配列は配列番号7の配列を有する。一実施形態において、SMAコード配列は配列番号1の配列を有する。
【0006】
さらに、AAV 5’ITR、CB7プロモーター、イントロン、配列番号1の核酸配列、ポリA及びAAV 3’末端逆位反復配列を含む核酸分子が中にパッケージングされているAAVhu68カプシドを含むrAAVベクターを提供し、ここで、AAVhu68カプシドは、vp1タンパク質の集団、vp2の集団、及びvp3タンパク質の集団を含み、AAVhu68カプシドタンパク質は、配列番号7によって産生されるタンパク質、配列番号8のvp1、vp2及び/またはvp3のアミノ酸配列を有するカプシドタンパク質から独立して選択される、アミノ酸配列を有する。特定の実施形態では、AAVhu68カプシドは、vp1タンパク質の異種集団を有する。特定の実施形態では、AAVhu68カプシドは、vp2タンパク質の異種集団を有する。特定の実施形態では、AAVhu68カプシドは、vp3タンパク質の異種集団を有する。
【0007】
上に記載したようなAAVhu68ベクターを含有する医薬組成物を提供する。組成物は少なくとも1つのベクター材料の他に、薬学的に許容できる担体、賦形剤及び/または保存剤のうちの少なくとも1つをさらに含有する。
【0008】
さらに、rAAVhu68.SMAベクターまたは本明細書に提供する操作型hSMNのための別の送達ビヒクルを使用して脊髄性筋萎縮症の治療をそれを必要とする対象に施す方法を提供する。特定の実施形態では、本明細書に提供する組成物はクモ膜下腔内に投与され得る。
【0009】
特定の実施形態では、本明細書に記載のrAAVhu68.SMN1または、場合によって共療法で患者の脊髄性筋萎縮症の治療に使用するための組成物が提供される。特定の実施形態では、患者は3型SMAを有する。特定の実施形態では、組成物はクモ膜下腔内送達のために製剤化される。
【0010】
SMAを有する患者を治療するための、本明細書に記載のrAAVhu68.SMAまたはそれを含有する組成物の使用が、場合によって共治療計画において提供される。そのような組成物はクモ膜下腔内送達のために製剤化され得る。
【0011】
本発明の他の態様及び利点は本発明の以下の詳細な説明からすぐに分かるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】Aは、AAVhu68.CB7.CI.hSMN1co.RBGベクターゲノムの模式図である。ITRはAAV2末端逆位反復配列を表す。CB7は、サイトメガロウイルスエンハンサーを有するニワトリベータアクチンプロモーターを表す。RBGポリAは、ウサギベータグロビンポリアデニル化シグナルを表す。B~Cは、天然hSMN1の変異型D(受託番号NM_000344.3)(配列番号3)と本明細書に記載のコドン最適化配列(配列番号1)とのアラインメントである。
図2】免疫組織化学(IHC)及びin situハイブリダイゼーション(ISH)による、脳及び脊髄における形質導入の評価である。SMN1の免疫組織化学を皮質、小脳及び脊髄切片に対して実施し、代表的な画像を上側3つのパネルに示す。コドン最適化hSMN1リボ核酸(RNA)に対するISHを皮質切片で行い、代表的な結果を下側のパネルに示す。試料は、仔1匹あたり3×1010GCのAAVhu68.CB7.CI.hSMN1.RBGによる処置を行った、または行わなかったSMNΔ7(KO)マウスから採集した。野生型(WT)及びヘテロ接合体(Het)同腹仔を陽性対照として役立てた。
図3】Aは、3×1010または8.76×1010GC/仔のAAVhu68.CB7.CI.hSMN1.RBGによる処置を行った、または行わなかったSMNΔ7(KO)マウスの生存曲線である。野生型(WT)/ヘテロ接合体(Het)同腹仔及びPBS注射マウスを対照として役立てた。Bは、Aに描写される生存曲線の統計解析の表である。生存期間中央値を算出及び列挙した。
図4】Aは、3×1010または8.76×1010GC/仔のAAVhu68.CB7.CI.hSMN1.RBGベクターで処置したSMNΔ7(KO)マウスの体重の線グラフである。野生型(WT)/ヘテロ接合体(Het)同腹仔及びPBS注射マウスを対照として役立てた。Bは、3×1010または8.76×1010GC/仔のAAVhu68.CB7.CI.hSMN1.RBGで処置したSMNΔ7(KO)マウスの生後日数15日目の体重のグラフである。野生型(WT)/ヘテロ接合体(Het)同腹仔及びPBS注射マウスを対照として役立てた。Cは、3×1010または8.76×1010GC/仔のAAVhu68.CB7.CI.hSMN1.RBGで処置したSMNΔ7(KO)マウスの生後日数30日目の体重のグラフである。野生型(WT)/ヘテロ接合体(Het)同腹仔を対照として役立てた。D~Jは、性別によって正規化した後の体重の線グラフである。実験は、仔1匹あたり3×1010または8.76×1010GCのAAVhu68.CB7.CI.hSMN1.RBGで処置したSMNΔ7(KO)マウスに対して生後日数3日目から13または15日目まで2日ごとに実施した。野生型/ヘテロ接合体同腹仔(WT)及びPBS注射マウスを対照として役立てた。P値を統計解析によって算出し、図中に示した。
図5】Aは、後肢懸垂試験で利用した採点方式の図である。Bは、仔1匹あたり3×1010または8.76×1010GCのAAVhu68.CB7.CI.hSMN1.RBGで処置したSMNΔ7(KO)マウスにおいて生後日数3日目から13日目まで2日ごとに記録した後肢スコアのグラフを含む。野生型(WT)/ヘテロ接合体(Het)同腹仔及びPBS注射マウスを対照として役立てた。
図6】A~Cは、立直り反射試験において動物がその正常位置に戻るまでに要した時間を示すグラフを含む。実験は、仔1匹あたり3×1010または8.76×1010GCのAAVhu68.CB7.CI.hSMN1.RBGで処置したSMNΔ7(KO)マウスに対して生後日数7日目から17日目まで2日ごとに実施した。野生型(WT)/ヘテロ接合体(Het)同腹仔及びPBS注射マウスを対照として役立てた。D~Jは、性別によって正規化した後の、立直り反射試験において動物がその正常位置に戻るまでに要した時間を示すグラフである。実験は、仔1匹あたり3×1010または8.76×1010GCのAAVhu68.CB7.CI.hSMN1.RBGで処置したSMNΔ7(KO)マウスに対して生後日数7日目から17日目まで2日ごとに実施した。野生型/ヘテロ接合体同腹仔(WT)及びPBS注射マウスを対照として役立てた。P値を統計解析によって算出し、図中に示した。
図7】10ccベクターシリンジ、10cc充填済み洗浄シリンジ、T字形コネクタ延長セット、22G×5インチ脊椎穿刺針、任意選択の18G×3.5インチ誘導針を備えた、共軸挿入法のための任意選択の誘導針を含む脳槽内送達用の機器の画像である。
図8】Aは、B~Dの核酸配列によってコードされるvp1カプシド配列のアミノ酸配列を示したアラインメントを示す。アラインメントには、AAVhu68[配列番号8]のvp1タンパク質がAAV9[配列番号16]、AAVhu31(アラインメント中でhu.31と標記した)[配列番号18]及びAAVhu32(アラインメント中でhu.32と標記した)[配列番号19]と共に含まれている。AAV9、AAVhu31及びAAVhu32に比べてAAVhu68では2つの突然変異(A67E及びA157V)が必須であることが見出され、図中で丸で囲まれている。B~Dは、AAV9[配列番号22]、AAVhu31[配列番号20]及びAAVhu32[配列番号21]と共に、AAVhu68[配列番号7]のvp1カプシドをコードする核酸配列のアラインメントを示す。
図9】A~Bは、様々な用量(1×10GC、WT,n=7、KO,n=1;3×10GC、WT,n=7、KO,n=1;1×1010GC、WT,n=3、KO,n=5;3×1010GC、WT,n=1、KO,n=1;または7×1010GC、WT,n=5、KO,n=3)のAAVhu68.CB7.CI.hSMN1.RBGでICV処置した成体野生型マウス(HET/WT、A)またはSMNΔ7マウス(KO、B)の体重追跡評価結果を示すグラフである。PBS注射動物(WT,n=3;KO,n=4)を対照として提供した。
図10】A~Bは、様々な用量(1×10GC、WT,n=7、KO,n=1;3×10GC、WT,n=7、KO,n=1;1×1010GC、WT,n=3、KO,n=5;3×1010GC、WT,n=1、KO,n=1;または7×1010GC、WT,n=5、KO,n=3)のAAVhu68.CB7.CI.hSMN1.RBGでICV処置した成体野生型マウス(HET/WT、A)またはSMNΔ7マウス(KO、B)の立直り反射結果を示すグラフである。PBS注射動物(WT,n=3;KO,n=5)を対照として提供した。
図11】A~Hは、実施例10に記載のとおりにAAVhu68.CB7.CI.hSMN1co.RBGでクモ膜下腔内に処置した成体アカゲザルの臨床病理学、CSF化学及びCSF細胞学を示すグラフである。
図12】A~Bは、実施例10に記載のとおりにAAVhu68.CB7.CI.hSMN1.RBGでクモ膜下腔内に処置した成体アカゲザルにおけるISH(A)及びIHC(B)による運動ニューロン形質導入の定量を示す。X線透視による誘導及び造影剤材料を使用して、針が大槽の中(大槽内、ICM)または腰椎槽(腰椎穿刺孔、LP)の中に配置されたことを確認した。総注射体積は、ICM群(n=3)では1.0mLであり、LP群では2.5mL(n=4)または5.0mL(n=4)であった。注射から1ヶ月後に動物を屠殺し、脊髄切片において導入遺伝子mRNAについてのin situハイブリダイゼーション(ISH)及びヒトSMNタンパク質についての免疫組織化学(IHC)によって運動ニューロン形質導入を定量した。
図13】実施例10に記載のとおりにAAVhu68.CB7.CI.hSMN1.RBGでクモ膜下腔内に処置した成体アカゲザルにおける生体内分布を示す。
図14】A~Bは、実施例9に記載のとおりにAAVhu68.CB7.CI.hSMN1co.RBGでICVに処置した成体C57BL/6Jマウスの体重追跡評価結果を示す。Aは、雌対象の体重追跡評価結果を示す。Bは、雄対象の体重追跡評価結果を示す。
図15】A~Bは、AAVhu68.SMNベクターの製造流れ図である。
図16】A~Eは、ヒトSMNを発現するAAVベクターを非ヒト霊長類に静脈内投与した後の急性トランスアミナーゼ上昇を示すグラフである。Aは、実施例14に記載の試験設計を示す。Bは、血清ALTのプロットである。Cは、血清ASTのプロットを示す。Dは、血清アルカリホスファターゼのプロットを示す。Eは、血清総ビリルビンのプロットを示す。安楽死を必要とする急性肝不全を動物16C176が発症した後の試験5日目に全動物に対して予定外の実験室評価を実施した。動物16C116及び16C215に対しては試験5日目にASTを実施しなかった。破線は実験室基準範囲を示す。
図17】A~Dは、動物16C176についての肝臓組織病理学的所見を示している代表的なIHC画像を示す。門脈における類洞フィブリン沈着(B、矢尻)及び急性フィブリン血栓(C)を伴う広範囲にわたる急性肝細胞壊死(A)(ヘマトキシリン及びエオジン;スケールバー=10μm(A及びC)、50μm(B))。フィブリノゲンについての免疫組織化学は顕著な門脈周囲性類洞フィブリン沈着(D)を描写している(フィブリノゲンIHC、スケールバーは100μmを表す(D))。
図18】A~Dは、注射後28日目にヒトSMNを発現しているAAVhu68で静脈内(IV)に処置した乳児NHPにおける代表的な神経系組織病理学的所見を示す。どちらの動物も脊髄の背側白質路の軸索変性症を有していた(A)。背側軸索変性症は典型的には両側性であり、骨髄マクロファージを有する及び有さない膨張した髄鞘によって特徴付けられ、軸索変性との一貫性を有していた。脊髄の後根神経節(B)は、神経細胞体を取り囲み侵襲する中心性色質融解、衛星病変及び単核細胞浸潤によって特徴付けられる最小限~軽度の神経細胞体変性(神経細胞侵食)を呈していた。同様の軸索変性症は後肢(坐骨神経、C)及び前肢(正中神経、D)の末梢神経に認められた。急性肝不全のために5日目に安楽死させた動物(16C176)では神経系に何ら所見はなかった(ヘマトキシリン及びエオジン染色;スケールバー=200μm(A)、100μm(B~D))。
図19】アカゲザルにおけるベクターの生体内分布を示す。肝不全及びショックを発症しベクター投与後5日目に安楽死させた動物16C176は除いて、静脈内へのAAVhu68発現ヒトSMNで処置したアカゲザルを注射後28日目に安楽死させた。定量的PCRによって組織DNA試料中にベクターゲノムが検出された。値は宿主二倍体ゲノム1つあたりのベクターゲノムコピー(GC)として表す。DRG=後根神経節。4つの肝葉(尾状葉、左葉、中葉及び右葉)についてデータを示す。
図20】A~Gは、アカゲザルにおけるSMN発現を示し、肝臓におけるISHによってヒトSMN RNAが検出された(A)。肝臓をアルブミン(B)及びGFP(C)に対する対照プローブで染色した。脊髄におけるISHによってSMN発現細胞が同定された(D)。運動ニューロンはChAT ISHによって同定した(E)。脳におけるSMN ISHによって、形質導入されたニューロンの稀な区画が検出された(F、DAPI核染色)。脊髄の各高度で形質導入されたChAT+の運動ニューロンの百分率を定量した(G)。エラーバー=SEM。
図21】A~Dは、7及び30日齢の時に静脈内へのAAVhu68発現ヒトSMNで処置した仔ブタの代表的な組織病理学的所見を示す。両群の全体にわたって脊髄の背側白質路の軸索変性症が認められた(A)。背側軸索変性症は両側性であり、骨髄マクロファージを有する及び有さない膨張した髄鞘によって特徴付けられ、軸索変性との一貫性を有していた。脊髄の後根神経節(B)は、神経細胞体を取り囲み侵襲する中心性色質融解、衛星病変及び単核細胞浸潤によって特徴付けられる様々な度合いの神経細胞体変性(神経細胞侵食)を呈していた。同様の軸索変性症は、大部分の仔ブタにおいて後肢(坐骨神経、C)及び前肢(正中神経、D)の末梢神経に様々な度合いで認められた。(ヘマトキシリン及びエオジン;スケールバー=200μm(A)、100μm(B~D))。
図22】仔ブタにおけるベクターの生体内分布を示す。静脈内へのAAVhu68発現ヒトSMNで処置した新生仔ブタを、注射後13~14日目に安楽死させた。定量的PCRによって組織DNA試料中にベクターゲノムが検出された。値は宿主二倍体ゲノム1つあたりのベクターゲノムコピー(GC)として表す。DRG=後根神経節。4つの肝葉(尾状葉、左葉、中葉及び右葉)についてデータを示す。
図23】A~Fは、子豚の脊髄におけるSMN発現を示している代表的画像を示す。ISHによって頚髄(A)、胸髄(B)及び腰髄(C)区域にヒトSMNのRNAが検出された。ChAT ISHによって、対応する区域で運動ニューロンが同定された(D~F)。代表的な画像を示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
AAVhu68カプシドと、それを必要とする患者における運動神経細胞生存(SMN)遺伝子の発現を促す調節配列の制御下にある当該遺伝子をコードする核酸とを有する、組換えAAVhu68ベクターを本明細書に提供する。rAAVhu68カプシドは、配列番号7から産生されるアミノ酸配列及び/または配列番号8のアミノ酸配列を独立して有するタンパク質を含有する。これらのベクターを含有する組成物、ならびにSMA患者の治療のための組成物中のこれらのベクターの用途を提供する。例はSMA3(クーゲルベルグ・ウェランダー病と呼ぶことがある)に焦点を当てているが、1、2または4型SMAにおいてこれらのrAAVベクターを単独で、または他の共療法と組み合わせて使用することは企図される。SMAは、5番染色体上のSMN1遺伝子の欠失突然変異に関する血液検査を用いて診断され得る。さらに筋電図または筋生検などの筋肉検査を用いて診断に役立ててもよい。
【0014】
I.AAV
本明細書中で使用する、AAVの群に関する「クレード」という用語は、AAV vp1アミノ酸配列のアラインメントに基づいて(少なくとも1000個の複製物の)少なくとも75%のブートストラップ値及び0.05以下のポアソン補正距離測定値による近接結合アルゴリズムを用いて判定した場合に系統学的に互いに関連し合っているAAVの群を指す。近接結合アルゴリズムは文献に記載されている。例えば、M.Nei and S.Kumar,Molecular Evolution and Phylogenetics(Oxford University Press,New York(2000)を参照されたい。このアルゴリズムを実行するために使用することができるコンピュータプログラムは入手可能である。例えば、MEGA v2.1プログラムは改変Nei-Gojobori法を実装している。これらの技術及びコンピュータプログラムならびにAAV vp1カプシドタンパク質の配列を用いて当業者は、選択されたAAVが本明細書で特定されるクレードの1つに含まれているか、別のクレードに含まれているか、またはこれらのクレードから外れるかについて容易に判定することができる。例えば、クレードA、B、C、D、E及びFを同定し新規AAV、GenBank受託番号AY530553~AY530629の核酸配列を提供しているG Gao,et al,J Virol,2004 Jun;78(10:6381-6388を参照されたい。また、WO2005/033321も参照されたい。
【0015】
本明細書中で使用する場合、「AAV9カプシド」は、複数のAAV9 vpタンパク質からなる自己組織化AAVカプシドである。AAV9 vpタンパク質は典型的には、配列番号22の核酸配列、またはそれに対して少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも97%、少なくとも99%であり配列番号16(GenBank受託:AAS99264)のvp1アミノ酸配列をコードする配列によってコードされる、代替スプライシング変異型として発現する。これらのスプライシング変異型は、配列番号16の様々な長さのタンパク質となる。特定の実施形態では、「AAV9カプシド」は、AAS99264と9
9%同一であるかまたは配列番号16と99%同一であるアミノ酸配列を有するAAVを含む。US7906111及びWO2005/033321も参照されたい。本明細書中で使用する「AAV9変異型」には、WO2016/049230、US8,927,514、US2015/0344911及びUS8,734,809に記載されているものが含まれる。
【0016】
rAAVhu68はAAVhu68カプシド及びベクターゲノムからなる。AAVhu68カプシドは、vp1の異種集団、vp2の異種集団及びvp3タンパク質の異種集団の集合体である。本明細書中で使用する「異種」という用語またはその任意の文法的変化形は、vpカプシドタンパク質に言及するために使用される場合、同じでない要素、例えば、異なる修飾アミノ酸配列を有するvp1、vp2またはvp3単量体(タンパク質)を有している要素からなる集団を指す。配列番号8は、コードされているAAVhu68
vp1タンパク質のアミノ酸配列を提供する。各々「Novel Adeno-Associated Virus(AAV)Clade F Vector and Uses Therefor」と題された米国仮特許出願第62/614,002号、第62/591,002号及び第62/464,748号も参照されたく、参照によりこれらの全体を本明細書に援用する。
【0017】
AAVhu68カプシドは、配列番号8の予測アミノ酸残基からの修飾を有するvp1タンパク質内、vp2タンパク質内及びvp3タンパク質内の亜集団を含有する。これらの亜集団は、最低でも、特定の脱アミド化アスパラギン(NまたはAsn)残基を含む。例えば、特定の亜集団は少なくとも1つ、2つ、3つまたは4つの高度に脱アミド化されたアスパラギン(N)位置を配列番号8のアスパラギン-グリシン対に含んでおり、場合によってはさらに他の脱アミド化アミノ酸を含んでおり、脱アミド化がアミノ酸変化及びその他の任意選択の修飾をもたらしている。配列番号26は改変型AAVhu68カプシドのアミノ酸配列を示し、脱アミド化あるいは修飾され得る残基位置を例示する。
【0018】
本明細書中で使用する場合、vpタンパク質の「亜集団」は、特に明記しない限り、共通して少なくとも1つの定義された特質を有しかつ、基準となる群の少なくとも1つの群メンバー~全メンバー未満からなる、vpタンパク質の群を指す。例えば、vp1タンパク質の「亜集団」は、特に明記しない限り、組織化AAVカプシド中の少なくとも1つのvp1タンパク質でありかつ全vp1タンパク質未満である。vp3タンパク質の「亜集団」は、特に明記しない限り、組織化AAVカプシド中の1つのvp3タンパク質~全vp3タンパク質未満であり得る。例えば、vp1タンパク質はvpタンパク質の亜集団であり得、vp2タンパク質はvpタンパク質の別の亜集団であり得、vp3は組織化AAVカプシド中のvpタンパク質のさらに別の亜集団である。別の例では、vp1、vp2及びvp3タンパク質は、異なる修飾、例えば、少なくとも1つ、2つ、3つまたは4つの高度に脱アミド化されたアスパラギン、例えばアスパラギン-グリシン対を有する亜集団を含有し得る。
【0019】
特に明記しない限り、高度に脱アミド化されているとは、基準アミノ酸位置の予測アミノ酸配列と比較して基準アミノ酸位置において少なくとも45%脱アミド化されていること、少なくとも50%脱アミド化されていること、少なくとも60%脱アミド化されていること、少なくとも65%脱アミド化されていること、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、97%、99%、約100%以下が脱アミド化されていることを指す(例えば、全vp1タンパク質を基準として配列番号8のアミノ酸57のアスパラギンの少なくとも80%が脱アミド化されていてもよいし、またはvp1、vp2及びvp3タンパク質の全てを基準として配列番号8のアミノ酸409のアスパラギンの20%が脱アミド化されていてもよい)。そのような百分率は、2Dゲル、質量分析技術または他の好適な技術を用いて決定
され得る。
【0020】
理論に拘泥することは望まないが、少なくとも、AAVhu68カプシド中のvpタンパク質中の高度に脱アミド化された残基の脱アミド化は、選択されたアスパラギン残基の脱アミド化及びより低い程度でのグルタミン残基の脱アミド化をするカプシドタンパク質中の官能基によって引き起こされるため、主として非酵素的な性質のものであると考えられる。大半の脱アミド化vp1タンパク質の効率的なカプシド組織化は、これらの事象がカプシド組織化の後に起こるか、または個々の単量体(vp1、vp2またはvp3)での脱アミド化が構造的に十分な耐性を有しかつ組織化動態に概して影響を及ぼさないかのどちらかであることを暗示する。細胞進入前には内部に位置していると一般に考えられているVP1固有(VP1-u)領域(約aa1~137)での広範囲に及ぶ脱アミド化は、VP脱アミド化がカプシド組織化に先立って起こっている可能性があることを示唆している。
【0021】
理論に拘泥することは望まないが、Nの脱アミド化は、そのC末端残基の主鎖窒素原子がAsnの側鎖アミド基炭素原子に求核攻撃を行うことによって起こり得る。中間体の閉環スクシンイミド残基が形成すると考えられている。スクシンイミド残基はその後、速い加水分解を行って最終生成物であるアスパラギン酸(Asp)またはイソアスパラギン酸(IsoAsp)をもたらす。したがって、特定の実施形態では、アスパラギン(NまたはAsn)の脱アミド化はAspまたはIsoAspをもたらすが、これらはスクシンイミド中間体を介して例えば以下に例示するように相互変換され得る。
【化1】
【0022】
本明細書中で提供する場合、配列番号8の各脱アミド化Nは、独立してアスパラギン酸(Asp)、イソアスパラギン酸(isoAsp)、アスパルテート及び/または、AspとisoAspとの相互変換ブレンド、またはそれらの組み合わせであり得る。α-及びイソアスパラギン酸がいかなる好適な比で存在していてもよい。例えば、特定の実施形態では、比は10:1~1:10のアスパラギン酸対イソアスパラギン酸、約50:50のアスパラギン酸:イソアスパラギン酸、または約1:3のアスパラギン酸:イソアスパラギン酸、または別の選択された比であり得る。
【0023】
特定の実施形態では、配列番号8中の1つ以上のグルタミン(Q)は脱アミド化してグルタミン酸(Glu)、すなわち、α-グルタミン酸、γ-グルタミン酸(Glu)または、共通のグルタルイミド(glutarinimide)中間体を介して相互変換され得るα-及びγ-グルタミン酸のブレンドとなる。α-及びγ-グルタミン酸はいかなる好適な比で存在していてもよい。例えば、特定の実施形態では、比は10:1~1:10
のα対γ、約50:50のα:γ、または約1:3のα:γ、または別の選択された比であり得る。
【化2】
【0024】
したがって、rAAVhu68は、脱アミド化アミノ酸を有するvp1、vp2及び/またはvp3タンパク質の、rAAVhu68カプシドの中の亜集団を含み、これは、最低でも、少なくとも1つの高度に脱アミド化されたアスパラギンを含んでいる少なくとも1つの亜集団を含む。加えて、他の修飾は異性化を含み得、詳しくは、選択されたアスパラギン酸(DまたはAsp)残基位置に含み得る。さらに他の実施形態では、修飾はAsp位置でのアミド化を含み得る。
【0025】
特定の実施形態では、AAVhu68カプシドは、少なくとも4個~少なくとも約25個の脱アミド化アミノ酸残基位置を有するvp1、vp2及びvp3の亜集団を含有しているが、このうちの少なくとも1~10%が、コードされる配列番号8のアミノ酸配列と比較して脱アミド化されている。これらの大部分はN残基であり得る。しかしながら、Q残基も脱アミド化されていることがある。
【0026】
特定の実施形態では、AAV68カプシドは、下記のうちの1つ以上によってさらに特徴付けられる。AAVhu68カプシドタンパク質は、配列番号8の1~736の予測アミノ酸配列をコードする核酸配列からの発現によって産生されるAAVhu68 vp1タンパク質、配列番号7から産生されるvp1タンパク質、もしくは配列番号8の1~736の予測アミノ酸配列をコードし配列番号7と少なくとも70%同一である核酸配列から産生されるvp1タンパク質;配列番号8の少なくとも約アミノ酸138~736の予測アミノ酸配列をコードする核酸配列からの発現によって産生されるAAVhu68 vp2タンパク質、配列番号7の少なくともヌクレオチド412~2211を含む配列から産生されるvp2タンパク質、もしくは配列番号8の少なくとも約アミノ酸138~736の予測アミノ酸配列をコードし配列番号7の少なくともヌクレオチド412~2211と少なくとも70%同一である核酸配列から産生されるvp2タンパク質、及び/または、配列番号8の少なくとも約アミノ酸203~736の予測アミノ酸配列をコードする核酸配列からの発現によって産生されるAAVhu68 vp3タンパク質、配列番号7の少なくともヌクレオチド607~2211を含む配列から産生されるvp3タンパク質、もしくは配列番号8の少なくとも約アミノ酸203~736の予測アミノ酸配列をコード
し配列番号7の少なくともヌクレオチド607~2211と少なくとも70%同一である核酸配列から産生されるvp3タンパク質を含む。
【0027】
さらに、またはあるいは、vp1タンパク質の異種集団、位置157にバリンを場合によって含んでいるvp2タンパク質の異種集団、及びvp3タンパク質の異種集団を含み、少なくともvp1及びvp2タンパク質の亜集団が、配列番号8のvp1カプシドの付番に基づく位置157にバリンを含むものでありかつ場合によってはさらに位置67にグルタミン酸を含むものである、AAVカプシドを提供する。さらに、またはあるいは、配列番号8のアミノ酸配列をコードする核酸配列の産物であるvp1タンパク質の異種集団、配列番号8の少なくとも約アミノ酸138~736のアミノ酸配列をコードする核酸配列の産物であるvp2タンパク質の異種集団、及び配列番号8の少なくともアミノ酸203~736をコードする核酸配列の産物であるvp3タンパク質の異種集団を含み、vp1、vp2及びvp3タンパク質が、アミノ酸修飾を有する亜集団を含有するものである、AAVhu68カプシドを提供する。
【0028】
AAVhu68 vp1、vp2及びvp3タンパク質は典型的には、配列番号8の完全長vp1アミノ酸配列(アミノ酸1~736)をコードする同じ核酸配列によってコードされる代替スプライシング変異型として発現する。場合によってvp1コード配列は、vp1、vp2及びvp3タンパク質を発現すべく単独で使用される。あるいは、この配列と、vp1固有領域(約aa1~約aa137)及び/またはvp2固有領域(約aa1~約aa202)を含まずに配列番号8のAAVhu68 vp3アミノ酸配列(約aa203~736)をコードする核酸配列もしくはそれに相補的な鎖、対応するmRNAもしくはtRNA(配列番号7の約nt607~約nt2211)、または配列番号8のaa203~736をコードし配列番号7と少なくとも70%~少なくとも99%(例えば、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも97%、少なくとも98%、または少なくとも99%)同一である配列のうちの1つ以上とを共発現させてもよい。さらに、またはあるいは、vp1コード及び/またはvp2コード配列と、vp1固有領域(約aa1~約aa137)を含まずに配列番号8のAAVhu68 vp2アミノ酸配列(約aa138~736)をコードする核酸配列もしくはそれに相補的な鎖、対応するmRNAもしくはtRNA(配列番号7のnt412~2211)、または配列番号8の約aa138~736をコードし配列番号7と少なくとも70%~少なくとも99%(例えば、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも97%、少なくとも98%、または少なくとも99%)同一である配列とを共発現させてもよい。
【0029】
本明細書中に記載するように、rAAVhu68は、配列番号8のvp1アミノ酸配列をコードするAAVhu68核酸から、及び場合によっては例えばvp1及び/またはvp2固有領域を含まずにvp3タンパク質をコードする追加の核酸配列からカプシドを発現する産生システムで産生される、rAAVhu68カプシドを有する。単一の核酸配列vp1を使用した産生の結果として得られるrAAVhu68は、vp1タンパク質、vp2タンパク質及びvp3タンパク質の異種集団を産生する。より詳しくは、AAVhu68カプシドは、配列番号8の予測アミノ酸残基からの修飾を有するvp1タンパク質内、vp2タンパク質内及びvp3タンパク質内の亜集団を含有する。これらの亜集団は最低でも脱アミド化アスパラギン(NまたはAsn)残基を含む。例えば、アスパラギン-グリシン対のアスパラギンが高度に脱アミド化されている。
【0030】
一実施形態において、AAVhu68 vp1核酸配列は、配列番号7の配列またはそれに相補的な鎖、例えば対応するmRNAまたはtRNAを有する。さらに、またはあるいは、特定の実施形態ではvp2及び/またはvp3タンパク質をvp1とは異なる核酸配列から発現させて例えば選択された発現系におけるvpタンパク質の比を変化させても
よい。特定の実施形態ではさらに、vp1固有領域(約aa1~約aa137)及び/またはvp2固有領域(約aa1~約aa202)を含まずに配列番号8のAAVhu68
vp3アミノ酸配列(約aa203~736)をコードする核酸配列またはそれに相補的な鎖、対応するmRNAまたはtRNA(配列番号7の約nt607~約nt2211)も提供される。特定の実施形態ではさらに、vp1固有領域(約aa1~約aa137)を含まずに配列番号8のAAVhu68 vp2アミノ酸配列(約aa138~736)をコードする核酸配列またはそれに相補的な鎖、対応するmRNAまたはtRNA(配列番号7のnt412~2211)も提供される。
【0031】
しかしながら、配列番号8のアミノ酸配列をコードする他の核酸配列を、rAAVhu68カプシドの生産に使用するために選択してもよい。特定の実施形態では、核酸配列は、配列番号7の核酸配列、または配列番号8をコードする配列番号7と少なくとも70%~99%同一である、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも97%、少なくとも99%同一である配列を有する。特定の実施形態では、核酸配列は、配列番号7の約nt412~約nt2211の核酸配列、または配列番号8のvp2カプシドタンパク質(約aa138~736)をコードする配列番号7の約nt412~約nt2211と少なくとも70%~99%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも97%、少なくとも99%同一である配列を有する。特定の実施形態では、核酸配列は、配列番号7の約nt607~約nt2211の核酸配列、または配列番号8のvp3カプシドタンパク質(約aa203~736)をコードする配列番号7の約nt607~約nt2211と少なくとも70%~99%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも97%、少なくとも99%同一である配列を有する。
【0032】
このAAVhu68カプシドをコードするDNA(ゲノムまたはcDNA)またはRNA(例えばmRNA)を含めた核酸配列を設計することは当技術分野における技量の範囲内である。特定の実施形態では、AAVhu68 vp1カプシドタンパク質をコードする核酸配列は配列番号7に示される。図8B~Dも参照されたい。他の実施形態では、AAVhu68カプシドタンパク質を発現させるために配列番号7との70~99.9%の同一性を有する核酸配列が選択され得る。他の特定の実施形態では、核酸配列は配列番号7と少なくとも約75%同一、少なくとも80%同一、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも97%同一、または少なくとも99%~99.9%同一である。そのような核酸配列は、選択されたシステム(例えば細胞種)における発現のためにコドン最適化されてもよく、様々な方法によって設計され得る。この最適化は、オンライン入手可能な方法(例えばGeneArt)、公開されている方法、またはコドン最適化サービスを提供する会社、例えばDNA2.0(Menlo Park,CA)を用いて実施され得る。1つのコドン最適化方法は例えば米国の国際特許公開第WO2015/012924号に記載されており、参照によりこの全体を本明細書に援用する。また、例えば米国特許公開第2014/0032186号及び米国特許公開第2006/0136184号も参照されたい。産物のためのオープンリーディングフレーム(ORF)の完全長を改変することが好適である。しかしながら、いくつかの実施形態ではORFの一部のみが変更されていてもよい。これらの方法のうちの1つを用いることによって、頻度を任意の所与のポリペプチド配列に適用することができ、ポリペプチドをコードするコドン最適化コード領域の核酸断片を産生させることができる。コドンに対する実際の変更を実施するためまたは本明細書に記載されているとおりに設計されたコドン最適化コード領域を合成するために、多くの選択肢が利用可能である。そのような改変または合成は、当業者によく知られている標準的及び慣例的な分子生物学的操作を用いて実施され得る。1つの手法では、長さが各々80~90ヌクレオチドであり所望の配列の長さにまたがる一連の相補的オリゴヌクレオチド対は、標準的な方法によって合成される。これらのオリ
ゴヌクレオチド対は、それらがアニーリング時に付着末端を含有する80~90塩基対の二本鎖断片を形成するように合成され、例えば、対の各オリゴヌクレオチドは、対のもう一方のオリゴヌクレオチドに相補的な領域を越えて3、4、5、6、7、8、9、10個またはそれより多い塩基を延出させるように合成される。各対のオリゴヌクレオチドの一本鎖端部は、別の対のオリゴヌクレオチドの一本鎖端部とアニーリングするように設計される。オリゴヌクレオチド対をアニーリングさせ、その後、これらの二本鎖断片のおよそ5~6個を付着一本鎖端部を介してアニーリングさせ、その後、それらをライゲートし合わせ、標準的な細菌クローニングベクター、例えば、Invitrogen Corporation,Carlsbad,Califから入手することができるTOPO(登録商標)ベクターにクローニングする。その後、構築物の配列決定を標準的な方法で行う。ライゲートされ合った5~6断片の80~90塩基対断片、すなわち約500塩基対の断片からなるこれらの構築物のいくつかは、所望の配列の全体が一連のプラスミド構築物として表されるように作製される。その後、これらのプラスミドのインサートを適切な制限酵素で切断し、ライゲートし合わせて最終構築物を形成する。その後、最終構築物を標準的な細菌クローニングベクターにクローニングし、配列決定する。さらなる方法は当業者であればすぐに分かるであろう。加えて、遺伝子合成は商業的に容易に入手することができる。
【0033】
特定の実施形態では、AAVhu68 vp1、vp2及びvp3タンパク質中のN-G対のアスパラギン(N)が高度に脱アミド化されている。特定の実施形態では、AAVhu68カプシドは、AAVhu68カプシドタンパク質中の高度に脱アミド化された少なくとも4つのアスパラギン(N)位置を有するAAV vp1、vp2及び/またはvp3カプシドタンパク質の亜集団を含有する。特定の実施形態では、N-N対(N-N-N三つ組を除く)の約20~50%は脱アミド化を示す。特定の実施形態では、最初のNが脱アミド化されている。特定の実施形態では、2つ目のNが脱アミド化されている。特定の実施形態では、脱アミド化は約15%~約25%の脱アミド化である。配列番号8の位置259にあるQにおける脱アミド化は、AAVhu68タンパク質のAAVhu68
vp1、vp2及びvp3カプシドタンパク質の約8%~約42%である。
【0034】
特定の実施形態では、rAAVhu68カプシドは、vp1、vp2及びvp3タンパク質のD297におけるアミド化によってさらに特徴付けられる。特定の実施形態では、配列番号8の付番に基づいて、AAVhu68カプシド中のvp1、vp2及び/またはvp3タンパク質の位置297にあるDの約70%~約75%がアミド化されている。
【0035】
特定の実施形態では、カプシドのvp1、vp2及び/またはvp3において少なくとも1つのAspがD-Aspに異性化している。そのような異性体は通常、配列番号8の付番に基づく残基位置97、107、384のうちの1つ以上にあるAspの約1%未満の量で存在する。
【0036】
特定の実施形態では、rAAVhu68は、以下の表に示す位置にある2つ、3つ、4つまたはそれ以上の脱アミド化残基の組み合わせを含む亜集団を有するvp1、vp2及びvp3タンパク質を有しているAAVhu68カプシドを有する。rAAVにおける脱アミド化は、2Dゲル電気泳動及び/または質量分析及び/またはタンパク質モデリング技術を用いて決定され得る。Acclaim PepMapカラム、及びNanoFlexソースを備えたQ Exactive HF(Thermo Fisher Scientific)と連結したThermo UltiMate3000RSLCシステム(Thermo Fisher Scientific)を用いてオンラインクロマトグラフィーを実施してもよい。MSデータは、検査スキャン(200~2000m/z)から最も豊富な配列未決定の前駆体イオンを動的に選択する、Q Exactive HFのためのデータ依存的上位20位法を用いて取得される。配列決定は、予測自動ゲイン制御
を用いて決定される目標値を1e5イオンとする高エネルギー衝突解離フラグメンテーションによって実施し、前駆体の単離は余裕枠を4m/zとして実施した。検査スキャンは、m/z200で120,000の分解能で取得した。HCDスペクトルの分解能は、最大イオン注入時間を50msとし正規化衝突エネルギーを30としてm/z200で30,000に設定され得る。S-レンズRFレベルは、消化物からのペプチドが占有するm/z領域の透過を最適化するために50に設定され得る。前駆体イオンは、単一の未帰属の、または6つ以上の荷電状態によってフラグメンテーション選択から除外され得る。取得したデータの解析のためにBiioPharma Finder 1.0ソフトウェア(Thermo Fischer Scientific)が使用され得る。ペプチドマッピングのためには単一入力タンパク質FASTAデータベースを使用し、カルバミドメチル化を固定の修飾に設定し、酸化、脱アミド化及びリン酸化を可変の修飾に設定し、質量精度を10ppmとし、高いプロテアーゼ特異性とし、信頼度レベルをMS/MSスペクトルのために0.8として、検索を実施する。好適なプロテアーゼの例には、例えばトリプシンまたはキモトリプシンが含まれ得る。脱アミド化は未処理の分子の質量に+0.984Da(-OH基と-NH基との質量差)だけ足すので、質量分析による脱アミド化ペプチドの同定は比較的平易である。特定のペプチドの脱アミド化パーセントは、脱アミド化ペプチドの決定された質量面積を脱アミド化ペプチドと元のペプチドとの合計面積で割ったものである。脱アミド化可能な部位の数を考える場合、異なる部位で脱アミド化されている同重体種同士は、寄り合って1本のピークとなり得る。結果として、複数の潜在的脱アミド化部位を有するペプチドから発生するフラグメントイオンを用いて脱アミド化の複数の部位を突き止める、または区別することができる。これらの場合には、観察された同位体パターンの相対強度を用いて種々の脱アミド化ペプチド異性体の相対存在量を具体的に決定することができる。この方法は、全ての異性体種についてフラグメンテーション効率が同じであり脱アミド化の部位に無関係であることを仮定している。当業者であれば、これらの例示的方法に対する多くの変更を用いることができることを理解するであろう。例えば、好適な質量分析装置としては、Waters XevoもしくはAgilent 6530などの四重極型飛行時間質量分析装置(QTOF)または、Orbitrap FusionもしくはOrbitrap Velos(Thermo Fisher)などのオービトラップ型装置が挙げられ得る。好適な液体クロマトグラフィーシステムとしては、例えば、WatersからのAcquity UPLCシステム、またはAgilentシステム(シリーズ1100または1200)が挙げられる。好適なデータ解析ソフトウェアは、例えば、MassLynx(Waters)、Pinpoint
and Pepfinder(Thermo Fischer Scientific)、Mascot(Matrix Science)、Peaks DB(Bioinformatics Solutions)を含み得る。さらに他の技術は、例えば、2017年6月16日にオンライン公開されたX.Jin et al,Hu Gene Therapy Methods,Vol.28,No.5,pp.255-267に記載されている可能性がある。
【表1-1】
【表1-2】
【0037】
特定の実施形態では、AAVhu68カプシドは、配列番号8のアミノ酸配列の付番に基づく位置N57、N329、N452及び/またはN512のうちの少なくとも1つにおいてN残基の少なくとも45%が脱アミド化されているカプシドタンパク質を有することによって特徴付けられる。特定の実施形態では、これらのN-G位置(すなわち、配列番号8のアミノ酸配列の付番に基づいてN57、N329、N452及び/またはN512)のうちの1つ以上にあるN残基の少なくとも約60%、少なくとも約70%、少なくとも約80%または少なくとも90%が脱アミド化されている。これら及びその他の実施形態では、AAVhu68カプシドは、配列番号8のアミノ酸配列の付番に基づく位置N94、N253、N270、N304、N409、N477及び/またはQ599のうちの1つ以上においてN残基の約1%~約20%が脱アミド化を有しているタンパク質の集団を有することによってさらに特徴付けられる。特定の実施形態では、AAVhu68は少なくとも、配列番号8のアミノ酸配列の付番に基づく位置N35、N57、N66、N94、N113、N252、N253、Q259、N270、N303、N304、N305、N319、N328、N329、N336、N409、N410、N452、N477、N515、N598、Q599、N628、N651、N663、N709、N735のうちの1つ以上またはその組み合わせにおいて脱アミド化されているvp1、vp2及び/またはvp3タンパク質の亜集団を含む。特定の実施形態では、カプシドタンパク質は1つ以上のアミド化アミノ酸を有し得る。
【0038】
さらに他の修飾が認められるが、そのほとんどは、あるアミノ酸から別のアミノ酸残基への変換をもたらさない。場合によってはカプシドのvp1、vp2及びvp3の少なくとも1つのLysがアセチル化されている。場合によってはカプシドのvp1、vp2及び/またはvp3の少なくとも1つのAspがD-Aspに異性化している。場合によってはカプシドのvp1、vp2及び/またはvp3の少なくとも1つのS(Ser、セリン)がリン酸化されている。場合によってはカプシドのvp1、vp2及び/またはvp3の少なくとも1つのT(Thr、スレオニン)がリン酸化されている。場合によってはカプシドのvp1、vp2及び/またはvp3の少なくとも1つのW(trp、トリプトファン)が酸化されている。場合によってはカプシドのvp1、vp2及び/またはvp3の少なくとも1つのM(Met、メチオニン)が酸化されている。特定の実施形態では、カプシドタンパク質は1つ以上のリン酸化を有する。例えば、特定のvp1カプシドタ
ンパク質が位置149においてリン酸化されている場合がある。
【0039】
特定の実施形態では、AAVhu68カプシドは、配列番号8のアミノ酸配列をコードする核酸配列の産物であるvp1タンパク質であって位置67のグルタミン酸(Glu)及び/または位置157のバリン(Val)を含んでいる当該vp1タンパク質の異種集団;位置157に場合によってバリン(Val)を含んでいるvp2タンパク質の異種集団;ならびにvp3タンパク質の異種集団を含む。AAVhu68カプシドは、配列番号8のアミノ酸配列の残基付番に基づいてvp1タンパク質の位置57に位置するアスパラギン-グリシン対のアスパラギン(N)の少なくとも65%、ならびにvp1、v2及びvp3タンパク質の位置329、452及び/または512にあるアスパラギン-グリシン対のアスパラギン(N)の少なくとも70%が脱アミド化されており、脱アミド化がアミノ酸変化をもたらしている、少なくとも1つの亜集団を含有する。本明細書中でより詳しく述べるように、脱アミド化アスパラギンは、脱アミド化されてアスパラギン酸、イソアスパラギン酸、相互変換されるアスパラギン酸/イソアスパラギン酸対、またはそれらの組み合わせとなったものであり得る。特定の実施形態では、rAAVhu68は、(a)vp2タンパク質の各々が独立して、少なくとも配列番号8のvp2タンパク質をコードする核酸配列の産物であること;(b)vp3タンパク質の各々が独立して、少なくとも配列番号8のvp3タンパク質をコードする核酸配列の産物であること;(c)vp1タンパク質をコードする核酸配列が配列番号7、または配列番号8のアミノ酸配列をコードし配列番号7と少なくとも70%~少なくとも99%(例えば、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも97%、少なくとも98%または少なくとも99%)同一である配列であることのうちの1つ以上によってさらに特徴付けられる。場合によってはその配列を単独で使用してvp1、vp2及びvp3タンパク質を発現させる。あるいは、この配列と、vp1固有領域(約aa1~約aa137)及び/またはvp2固有領域(約aa1~約aa202)を含まずに配列番号8のAAVhu68 vp3アミノ酸配列(約aa203~736)をコードする核酸配列もしくはそれに相補的な鎖、対応するmRNAもしくはtRNA(配列番号7の約nt607~約nt2211)、または配列番号8のaa203~736をコードし配列番号7と少なくとも70%~少なくとも99%(例えば、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも97%、少なくとも98%、または少なくとも99%)同一である配列のうちの1つ以上とを共発現させてもよい。さらに、またはあるいは、vp1コード及び/またはvp2コード配列と、vp1固有領域(約aa1~約aa137)を含まずに配列番号8のAAVhu68 vp2アミノ酸配列(約aa138~736)をコードする核酸配列もしくはそれに相補的な鎖、対応するmRNAもしくはtRNA(配列番号7のnt412~2211)、または配列番号8の約aa138~736をコードし配列番号7と少なくとも70%~少なくとも99%(例えば、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも97%、少なくとも98%、または少なくとも99%)同一である配列とを共発現させてもよい。
【0040】
さらに、またはあるいは、rAAVhu68カプシドは少なくとも、配列番号8の付番に基づく位置N57、N66、N94、N113、N252、N253、Q259、N270、N303、N304、N305、N319、N328、N329、N336、N409、N410、N452、N477、N512、N515、N598、Q599、N628、N651、N663、N709のうちの1つ以上またはその組み合わせにおいて脱アミド化されているvp1、vp2及び/またはvp3タンパク質の亜集団を含む;(e)rAAVhu68カプシドは、配列番号8の付番に基づく位置N66、N94、N113、N252、N253、Q259、N270、N303、N304、N305、N319、N328、N336、N409、N410、N477、N515、N598、Q599、N628、N651、N663、N709のうちの1つ以上またはその組み合わせにおいて1~20%の脱アミド化を含むvp1、vp2及び/またはvp3タンパク質の亜
集団を含む;(f)rAAVhu68カプシドは、配列番号8の付番に基づいてvp1タンパク質の位置57にあるNの65~100%が脱アミド化されているvp1の亜集団を含む;(g)rAAVhu68カプシドは、vp1タンパク質の位置57にあるNの75~100%が脱アミド化されているvp1タンパク質の亜集団を含む;(h)rAAVhu68カプシドは、配列番号8の付番に基づく位置329にあるNの80~100%が脱アミド化されているvp1タンパク質、vp2タンパク質及び/またはvp3タンパク質の亜集団を含む;(i)rAAVhu68カプシドは、配列番号8の付番に基づく位置452にあるNの80~100%が脱アミド化されているvp1タンパク質、vp2タンパク質及び/またはvp3タンパク質の亜集団を含む;(j)rAAVhu68カプシドは、配列番号8の付番に基づく位置512にあるNの80~100%が脱アミド化されているvp1タンパク質、vp2タンパク質及び/またはvp3タンパク質の亜集団を含む;(k)rAAVは、合計約60個のカプシドタンパク質をvp1対vp2対vp3タンパク質の約1対約1~1.5対3~10の比で含む;(l)rAAVは、合計約60個のカプシドタンパク質をvp1対vp2対vp3タンパク質の約1対約1対3~9の比で含む。
【0041】
特定の実施形態では、AAVhu68は、脱アミド化を減少させるべくアスパラギン-グリシン対のグリシンを変化させるように改変される。他の実施形態では、アスパラギンを、より遅い速度で脱アミド化される別のアミノ酸、例えばグルタミン;またはアミド基(例えば、グルタミン及びアスパラギンはアミド基を含有する)を欠くアミノ酸;及び/またはアミン基(例えば、リジン、アルギニン及びヒスチジンはアミド基を含有する)を欠くアミノ酸に変化させる。本明細書中で使用する場合、アミドまたはアミン側基を欠くアミノ酸は、例えば、グリシン、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、セリン、スレオニン、シスチン、フェニルアラニン、チロシンまたはトリプトファン及び/またはプロリンを指す。記載しているような改変は、コードされるAAVhu68アミノ酸配列にみられるアスパラギン-グリシン対のうちの1つ、2つまたは3つにおいてなされ得る。特定の実施形態では、4つ全てのアスパラギン-グリシン対においてそのような改変がなされるわけではない。このように、脱アミド化速度がより低い、AAVhu68及び/または操作型AAVhu68変異型の脱アミド化を減少させる方法。さらに、またはあるいは、他の1つ以上のアミドアミノ酸を非アミドアミノ酸に変えてAAVhu68の脱アミド化を減少させてもよい。
【0042】
これらのアミノ酸修飾は従来の遺伝子操作技術によってなされ得る。例えば、配列番号8の位置58、330、453及び/または513においてグリシン(アルギニン-グリシン対)をコードするコドンの1つ~3つが改変されてグリシン以外のアミノ酸をコードしている改変されたAAVhu68 vpコドンを含有する核酸配列が生み出され得る。特定の実施形態では、改変されたアルギニンコドンを含有する核酸配列は、配列番号8の位置57、329、452及び/または512に位置するアルギニン-グリシン対の1つ~3つにおいて、改変されたコドンがアルギニン以外のアミノ酸をコードするように操作されていてもよい。改変された各コドンは、異なるアミノ酸をコードしていてもよい。あるいは、変更したコドンの1つ以上が同じアミノ酸をコードしていてもよい。特定の実施形態では、これらの改変型AAVhu68核酸配列は、天然hu68カプシドよりも低い脱アミド化を有するカプシドを有している突然変異rAAVhu68を生み出すために使用され得る。そのような突然変異rAAVhu68は、低減された免疫原性を有し得、及び/または貯蔵時、特に懸濁液形態での貯蔵時の安定性を向上させ得る。本明細書中で使用する場合、「コドン」は、配列中のアミノ酸をコードする3つのヌクレオチドを指す。
【0043】
一実施形態では、(A)(1)配列番号8の1~736の予測アミノ酸配列をコードする核酸配列からの発現によって産生されるAAVhu68 vp1タンパク質、配列番号7から産生されるvp1タンパク質、または配列番号8の1~736の予測アミノ酸配列
をコードし配列番号7と少なくとも70%同一である核酸配列から産生されるvp1タンパク質、配列番号8の少なくとも約アミノ酸138~736の予測アミノ酸配列をコードする核酸配列からの発現によって産生されるAAVhu68 vp2タンパク質、配列番号7の少なくともヌクレオチド412~2211を含む配列から産生されるvp2タンパク質、または配列番号8の少なくとも約アミノ酸138~736の予測アミノ酸配列をコードし配列番号7の少なくともヌクレオチド412~2211と少なくとも70%同一である核酸配列から産生されるvp2タンパク質、配列番号8の少なくとも約アミノ酸203~736の予測アミノ酸配列をコードする核酸配列からの発現によって産生されるAAVhu68 vp3タンパク質、配列番号7の少なくともヌクレオチド607~2211を含む配列から産生されるvp3タンパク質、または配列番号8の少なくとも約アミノ酸203~736の予測アミノ酸配列をコードし配列番号7の少なくともヌクレオチド607~2211と少なくとも70%同一である核酸配列から産生されるvp3タンパク質を含む、AAVhu68カプシドタンパク質;及び/または(2)位置157のバリン及び/または位置67のグルタミン酸を場合によって含んでいるvp1タンパク質の異種集団、位置157に場合によってバリンを含んでいるvp2タンパク質の異種集団、及びvp3タンパク質の異種集団を含み、少なくともvp1及びvp2タンパク質の亜集団が、配列番号8のvp1カプシドの付番に基づく位置157にバリンを含むものでありかつ場合によってはさらに位置67にグルタミン酸(glutamic)を含むものである、AAVカプシドタンパク質;及び/または(3)配列番号8のアミノ酸配列をコードする核酸配列の産物であるvp1タンパク質の異種集団、配列番号8の少なくとも約アミノ酸138~736のアミノ酸配列をコードする核酸配列の産物であるvp2タンパク質の異種集団、及び配列番号8の少なくともアミノ酸203~736をコードする核酸配列の産物であるvp3タンパク質の異種集団のうちの、1つ以上を含み、vp1、vp2及びvp3タンパク質が、配列番号8のアスパラギン-グリシン対において少なくとも2つの高度に脱アミド化されたアスパラギン(N)を含むアミノ酸修飾を有する亜集団を含有するものでありかつ場合によっては他の脱アミド化アミノ酸を含む亜集団をさらに含むものであり、脱アミド化がアミノ酸変化をもたらしている、AAV68カプシド;ならびに(B)AAVhu68カプシド内のベクターゲノムであって、AAV末端逆位反復配列と、宿主における産物の発現を促す配列に機能可能に繋げられた産物をコードする非AAV核酸配列とを含む核酸分子を含んでいる当該ベクターゲノムを含む、組換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)が提供される。例えば、4つの残基(N57、N329、N452、N512)は通例、高レベルの脱アミド化を呈する。さらなる残基(N94、N253、N270、N304、N409、N477及びQ599)も様々なロットにわたって約20%以下の脱アミド化レベルを呈する。
【0044】
特定の実施形態では、脱アミド化アスパラギンは、脱アミド化されてアスパラギン酸、イソアスパラギン酸、相互変換されるアスパラギン酸/イソアスパラギン酸対、またはそれらの組み合わせとなっている。特定の実施形態では、脱アミド化グルタミン(複数可)は、脱アミド化されて(α)-グルタミン酸、γ-グルタミン酸、相互変換される(α)-グルタミン酸/γ-グルタミン酸対、またはそれらの組み合わせになっている。
【0045】
特定の実施形態では、AAVhu68カプシドは、(a)配列番号8の付番に基づいてvp1タンパク質の位置57に位置するアスパラギン-グリシン対のアスパラギン(N)の少なくとも65%が脱アミド化されていること;(b)配列番号8のアミノ酸配列の残基付番に基づいてvp1、v2及びvp3タンパク質の位置329にあるアスパラギン-グリシン対のNの少なくとも75%が脱アミド化されていること;(c)配列番号8のアミノ酸配列の残基付番に基づいてvp1、v2及びvp3タンパク質の位置452にあるアスパラギン-グリシン対のNの少なくとも50%が脱アミド化されていること;及び/または(d)配列番号8のアミノ酸配列の残基付番に基づいてvp1、v2及びvp3タンパク質の位置512にあるアスパラギン-グリシン対のNの少なくとも75%が脱アミ
ド化されていることのうちの1つ以上を有する亜集団を含む。特定の実施形態では、hu68カプシドは、質量分析を用いて決定した場合にvp1タンパク質の位置57にあるNの75~100%が脱アミド化されているvp1の亜集団を含む。特定の実施形態では、AAVhu68カプシドは、質量分析を用いて決定した場合に配列番号8の付番に基づく位置329にあるNの75~100%が脱アミド化されているvp1タンパク質、vp2タンパク質及び/またはvp3タンパク質の亜集団を含む。特定の実施形態では、hu68カプシドは、質量分析を用いて決定した場合に配列番号8の付番に基づく位置452にあるNの75~100%が脱アミド化されているvp1タンパク質、vp2タンパク質及び/またはvp3タンパク質の亜集団を含む。特定の実施形態では、hu68カプシドは、配列番号8の付番に基づく位置512にあるNの75~100%が脱アミド化されているvp1タンパク質、vp2タンパク質及び/またはvp3タンパク質の亜集団を含む。特定の実施形態では、タンパク質をコードする核酸配列は、配列番号7、または配列番号8のアミノ酸配列をコードし配列番号7と少なくとも80%~少なくとも99%同一である配列である。特定の実施形態では、配列は配列番号7と少なくとも80%~97%同一である。特定の実施形態では、rAAVhu68カプシドは少なくとも、N57、329、452、512またはそれらの組み合わせのうちの1つ以上から選択される少なくとも4つの位置における少なくとも約50~100%の脱アミド化を含む配列番号8からのアミノ酸修飾を有しているvp1、vp2及び/またはvp3タンパク質の亜集団をさらに含む。特定の実施形態では、AAVhu68カプシドは、位置N94、N113、N252、N253、Q259、N270、N303、N304、N305、N319、N328、N336、N409、N410、N477、N515、N598、Q599、N628、N651、N663、N709またはそれらの組み合わせのうちの少なくとも1つ以上における1%~約40%の脱アミド化をさらに含むvp1、vp2及び/またはvp3タンパク質の亜集団を含む。特定の実施形態では、hu68カプシドは、以下のうちの1つ以上における1つ以上の修飾から選択される1つ以上の修飾をさらに含むvp1、vp2及び/またはvp3タンパク質の亜集団を含む:アセチル化リジン、リン酸化セリン及び/またはスレオニン、異性化アスパラギン酸、酸化トリプトファン及び/またはメチオニン、またはアミド化アミノ酸。特定の実施形態では、rAAVhu68は、合計約60個のカプシドタンパク質をvp1対vp2対vp3タンパク質の約1対約1~1.5対3~10の比で含む。特定の実施形態では、AAVhu68カプシドは、合計約60個のカプシドタンパク質のvp1対vp2対vp3タンパク質の比が約1対約1対3~9である。特定の実施形態では、ベクターゲノムは、AAVhu68以外のAAV源からのAAV
ITR配列を含む。
【0046】
特定の実施形態では、組換えアデノ随伴ウイルスhu68(rAAVhu68)の混合集団を含む組成物が提供され、当該rAAVhu68の各々は独立して、本明細書に記載のrAAVhu68から選択されるものである。特定の実施形態では、平均的なAAVhu68カプシドは、合計約60個のカプシドタンパク質をvp1対vp2対vp3タンパク質の約1対約1~1.5対3~10の比で含む。特定の実施形態では、平均的なAAVhu68カプシドは、合計約60個のカプシドタンパク質をvp1対vp2対vp3タンパク質の約1対約1対3~6の比で含む。特定の実施形態では、組成物は静脈内送達のために製剤化される。特定の実施形態では、組成物は鼻腔内または筋肉内送達のために製剤化される。特定の実施形態では、組成物は少なくとも、rAAVhu68ベクター材料ならびに、任意選択の担体、賦形剤及び/または保存剤を含む。
【0047】
組換えAAVhu68を産生させるために有用となるいかなる好適なrAAV産生システムを使用してもよい。例えば、そのような産生システムは、(a)配列番号8のアミノ酸配列をコードするAAVhu68カプシド核酸配列;(b)AAVhu68カプシド内へのパッケージングに適した核酸分子であって、少なくとも1つのAAV末端逆位反復配列(ITR)と、宿主細胞における産物の発現を促す配列に機能可能に繋げられた遺伝子
産物をコードする非AAV核酸配列とを含む当該核酸分子;ならびに(c)組換えAAVhu68カプシド内への核酸分子のパッケージングを可能にするに足るAAV rep機能及びヘルパー機能を含み得る。特定の実施形態では、(a)の核酸配列は少なくとも、配列番号7、または配列番号8のアミノ酸配列をコードし配列番号7と少なくとも70%~少なくとも99%同一である配列を含む。特定の実施形態では、システムは場合によってさらに、配列番号8の約aa203~約アミノ酸736のAAVhu68 vp3をコードする配列番号7の約nt607~約nt2211の核酸配列を含む。特定の実施形態では、システムは、ヒト胚性腎臓293細胞またはバキュロウイルスシステムを含む。
【0048】
特定の実施形態では、AAVhu68カプシドの脱アミド化を減少させる方法が提供される。方法は、改変されたAAVhu68 vpコドンを含有する核酸配列からAAVhu68カプシドを産生させることを含み、当該核酸配列は、配列番号8の位置58、330、453及び/または513に位置するアルギニン-グリシン対の1つ~3つにおいて独立して、グリシン以外のアミノ酸をコードするような改変されたグリシンコドンを含むものである。特定の実施形態では、方法は、改変されたAAVhu68 vpコドンを含有する核酸配列からAAVhu68カプシドを産生させることを含み、当該核酸配列は、配列番号8の位置57、329、452及び/または512に位置するアルギニン-グリシン対の1つ~3つにおいて独立して、グリシン以外のアミノ酸をコードするような改変されたアルギニンコドンを含むものである。特定の実施形態では、改変された各コドンは異なるアミノ酸をコードする。特定の実施形態では、改変された2つ以上のコドンが同じアミノ酸をコードする。特定の実施形態では、本明細書に記載の突然変異AAVhu68カプシドは、アルギニン-グリシン対において、グリシンがアラニンまたはセリンに変化しているような突然変異を含有する。突然変異AAVhu68カプシドは、基準AAVhu68が本来4つのNG対を含有するものである場合、1つ、2つまたは3つの突然変異体を含有し得る。特定の実施形態では、突然変異AAVhu68カプシドは、NG対における突然変異をたった1つだけ含有する。特定の実施形態では、突然変異AAVhu68カプシドは、2つの異なるNG対において突然変異を含有する。特定の実施形態では、突然変異AAVhu68カプシドは、AAVhu68カプシド中の構造的に離れた場所に位置する2つの異なるNG対において突然変異を含有する。特定の実施形態では、突然変異はVP1固有領域の中にはない。特定の実施形態では、突然変異の1つがVP1固有領域の中にある。場合によって、突然変異AAVhu68カプシドは、NG対には修飾を含有していないが、NG対の外側に位置する1つ以上のアスパラギンまたはグルタミンにおいて脱アミド化を最小限にするかまたはなくす突然変異を含有している。
【0049】
本明細書中で使用する場合、「コードされるアミノ酸配列」とは、アミノ酸に翻訳される基準核酸配列の既知DNAコドンの翻訳に基づいて予測されるアミノ酸を指す。以下の表はDNAコドン及び20個の一般的なアミノ酸を示し、一文字コード(SLC)及び三文字コード(3LC)を両方とも示す。
【表2】
【0050】
カプシドを生み出す方法、そのためのコード配列、及びrAAVウイルスベクターを生産する方法については教示がなされている。例えば、Gao,et al,Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.100(10),6081-6086(2003)及びUS2013/0045186A1を参照されたい。その他のカプシド、例えば、WO2003/042397、WO2005/033321、WO2006/110689、US7588772B2に記載されているもの(参照によりこれらを本明細書に援用する)をヒト対象に使用してもよい。一実施形態において、本発明は、AAVhu68
vp1コード配列とAAVhu68 repコード配列との間にスペーサー配列を含む操作された分子を提供する。
【0051】
上に示したとおり、AAVhu68配列及びタンパク質は、rAAVの生産に有用である。以下の例は、AAVhu68を有するrAAVベクターまたはAAV9ベクターの生産について記載している。しかしながら、他の実施形態では別のAAVカプシドが選択される。組織特異性はカプシドの種類によって決まる。例えば、AAVhu68を有するウイルスベクターは、鼻腔上皮細胞に形質導入するために有用であることが以下の例で示される。AAVhu68の配列は本明細書に記載されている。さらに、AAV9カプシドを
有するベクター、及びAAV9に由来するキメラカプシドを生み出す方法については教示がなされている。例えばUS7,906,111(参照によりこれを本明細書に援用する)を参照されたい。鼻腔細胞または別の好適な標的(例えば筋肉または肺)に形質導入する他のAAV血清型、例えば、AAV1、AAV2、AAV3、AAV4、AAV5、AAV6、AAV6.2、AAV7、AAV8、AAV9、rh10、AAVrh64R1、AAVrh64R2、rh8(例えば、米国公開特許出願第2007-0036760-A1号、米国公開特許出願第2009-0197338-A1号及びEP1310571を参照のこと)をAAVウイルスベクター(DNアーゼ耐性ウイルス粒子)のカプシドの供給源として選択してもよい。また、WO2003/042397(AAV7及び他のサルAAV)、米国特許第7790449号及び米国特許第7282199号(AAV8)、WO2005/033321(AAV9)及びWO2006/110689も参照されたく、または未だ発見されていないかもしくはそれに基づく組換えAAVをAAVカプシドの供給源として使用してもよい。これらの文献は、AAVを生み出すために選択され得る他のAAVも教示しており、参照により援用される。いくつかの実施形態では、ウイルスベクターに使用するためのAAVカプシド(cap)を上記AAV capまたはそのコード核酸の1つの突然変異誘発によって(つまり、挿入、欠失または置換によって)生み出すことができる。いくつかの実施形態では、AAVカプシドは、上記AAVカプシドタンパク質のうちの2つまたは3つまたは4つまたはそれ以上からのドメインを含むキメラである。いくつかの実施形態では、AAVカプシドは、2つまたは3つの異なるAAVまたは組換えAAVからのvp1、vp2及びvp3単量体のモザイクである。いくつかの実施形態では、rAAV組成物は上記capを1つより多く含む。
【0052】
AAVhu68カプシドは特定の実施形態に有用であり得る。例えば、そのようなカプシドは、モノクローナル抗体を生成する際、及び/または遺伝子療法患者のAAVhu68濃度レベルを追跡評価するためのアッセイにおいて有用となる試薬を生成する際に使用され得る。有用な抗AAVhu68抗体を生み出す技術、そのような抗体または空のカプシドの標識付け、及び好適なアッセイ構成は当業者に知られている。
【0053】
より典型的には、本明細書に提供するAAVhu68カプシドは、AAVhu68カプシド内に操作型核酸配列がパッケージングされている組換えAAVベクターを生み出すのに有用である。「rAAVhu68」または「rAAVhu68ベクター」と呼称するこれらの組換えAAVベクター、及びそれらの用途については本願の別の節でより詳しく述べる。これらのrAAVhu68ベクターは、良好な収率及び/またはパッケージング効率をもたらす組換えAAV(rAAV)ベクターを生み出すためならびに多様な細胞種及び組織種に形質導入するのに有用なrAAVベクターを提供するために有用である。そのような細胞種及び組織種としては、限定されないが、肺、心臓、筋肉、肝臓、膵臓、腎臓、脳、海馬、運動野、小脳、鼻腔上皮細胞、心臓筋肉細胞すなわち心筋細胞、肝細胞、肺内皮細胞、筋細胞、肺上皮細胞、膵島細胞、腺房細胞、腎細胞及び/または運動ニューロンが挙げられる。
【0054】
特定の実施形態では、AAVhu68カプシドを有するベクターは、AAV9に基づくベクターと比較して、パッケージングされたベクターの収率の少なくとも15%の増加をもたらす。AAVhu68とAAVrh10とを比較した場合、脳室内投与後に低用量(例えば約1×10)でAAVhu68はAAVrh10よりも良好な形質導入効率をもたらすことが見出された。さらにAAVhu68とAAV9とを比較した場合、脳室内投与後に小脳、運動野及び脳の海馬において(例えば約1×1011GCで)AAVhu68はAAV9よりも良好な形質導入効率をもたらすことが見出された。
【0055】
「組換えAAV」または「rAAV」は、AAVカプシドと、AAVカプシド内にパッケージングされた非AAVコード配列を少なくとも含有するベクターゲノムとの2つの要
素を含有するDNアーゼ耐性ウイルス粒子である。特定の実施形態では、カプシドは、vp1タンパク質、vp2タンパク質及びvp3タンパク質からなる約60個のタンパク質を含有するが、これらは自己組織化してカプシドを形成するものである。特に明記しない限り、「組換えAAV」または「rAAV」は、「rAAVベクター」という語句と交換可能に使用され得る。rAAVは、いかなる機能性AAV rep遺伝子または機能性AAV cap遺伝子も欠き、子孫を生み出すことができないことから、「増殖能欠損型ウイルス」または「ウイルスベクター」である。特定の実施形態では、AAV末端逆位反復配列(ITR)が唯一のAAV配列であり、これは、ITR間に位置する遺伝子及び調節配列をAAVカプシド内にパッケージングするのを可能にするためにベクターゲノムの最遠の5’及び3’端部に位置していることが典型的である。
【0056】
一般に、「ヌクレアーゼ耐性」という用語は、AAVカプシドが、遺伝子を宿主細胞に送達するように設計された発現カセットの周囲で組織化し、生産プロセスゆえに存在する可能性がある汚染核酸を除去することを意図したヌクレアーゼインキュベーションステップの間これらのパッケージングされたゲノム配列を分解(消化)から保護する、ということを示す。
【0057】
特定の実施形態では、rAAVの製造に使用する非ウイルス性の遺伝要素をベクター(例えば生産ベクター)と呼ぶことにする。特定の実施形態ではこれらのベクターがプラスミドであるが、他の好適な遺伝要素の使用は企図される。そのような生産プラスミドは、rAAVの中にパッケージングされないrAAV生産中に発現する配列、例えばrAAVの生産に必要とされるAAVカプシドまたはrepタンパク質をコードし得る。あるいは、rAAVの中にパッケージングされるベクターゲノムをそのような生産プラスミドが保有していてもよい。
【0058】
本明細書中で使用する場合、「ベクターゲノム」は、ウイルス粒子を形成するrAAVカプシドの内部にパッケージングされる核酸配列を指す。そのような核酸配列は、AAV末端逆位反復配列(ITR)を含有する。本明細書中の例では、ベクターゲノムは、5’から3’へと、最低でもAAV 5’ITR、コード配列(複数可)及びAAV 3’ITRを含有する。カプシドとは異なるAAV源であるAAV2からのITRを選択してもよいし、または完全長ITR以外のITRを選択してもよい。特定の実施形態では、ITRは、生産中にrep機能を提供するAAVまたは相互補完的なAAVと同じAAV源からのものである。さらに、他のITRを使用してもよい。さらに、ベクターゲノムは、遺伝子産物の発現を促す調節配列を含有する。ベクターゲノムの好適な構成要素については本明細書中でより詳しく述べる。
【0059】
特定の実施形態では、「発現カセット」という用語は、hSMN配列及びそのための調節配列(例えば、プロモーター、エンハンサー、ポリA)を含む核酸分子を指し、当該カセットは、ウイルスベクター(例えばウイルス粒子)のカプシドの中にパッケージングされ得るものである。典型的には、ウイルスベクターを生み出すためのそのような発現カセットは、本明細書に記載のhSMN配列を、ウイルスゲノムのパッケージングシグナル及びその他の発現制御配列、例えば本明細書に記載されているものに隣接した状態で含有する。例えば、AAVウイルスベクターの場合、パッケージングシグナルは5’末端逆位反復配列(ITR)及び3’ITRである。特定の実施形態では、「導入遺伝子」という用語は、「発現カセット」と交換可能に使用され得る。他の実施形態では、「導入遺伝子」という用語は、選択された遺伝子、例えば「hSMN1」のためのコード配列だけを指す。
【0060】
本明細書中で使用する場合、「SMN」という用語には、本明細書中に提供されている組成物または方法を送達した場合に所望の機能を回復させるか症候を軽減するかまたは別
の生理学的転帰をもたらす、SMNの任意のアイソフォームが含まれる。本明細書中に提供されている例は、最長のアイソフォームであるアイソフォームDを利用するが、これは、SMN欠乏症または欠損症に罹患していない患者の遺伝子によって産生される主たる転写産物であると考えられている。アイソフォームDは294アミノ酸のタンパク質をもたらし[例えば、NCBI受託NM_000334/NP_000335、ENSEMBL
ID ENST00000380707を参照のこと]、タンパク質配列は配列番号2で再現され、コード配列は配列番号3で再現される。しかしながら、別のアイソフォームを選択してもよい。例えば、アイソフォームBは、3’コード配列中に代替インフレームエクソンを有し、その結果、長さがアイソフォームDよりも短い(262アミノ酸)がそのアイソフォームと同じN末端及びC末端を有しているタンパク質をもたらす。NCBI受託番号NM_022874/NP_075012、ENSEMBL ID ENST00000503079を参照されたい。アイソフォームBのコード配列及びタンパク質配列はそれぞれ配列番号11及び配列番号12で再現される。アイソフォームAは、アイソフォームDと比較して、代替翻訳終止コドンとなる最後から2番目のエクソンを欠く。このため、アイソフォームDに比べてアイソフォームAはより短く(282アミノ酸)、異なるC末端を有する。NCBI受託番号NM_001297715/NP_001284644、ENSEMBL ID ENSTL00000506163を参照されたい。アイソフォームAのコード配列及びタンパク質配列はそれぞれ配列番号13及び配列番号14で再現される。
【0061】
特定の実施形態では、操作型ヒト(h)運動神経細胞生存(SMN)cDNAを本明細書に提供するが、これは、天然hSMN配列(配列番号3)に比べて翻訳を最大限にするように設計されたものである。mRNAの5’キャップ形成及び安定性を改善するためにコード配列の上流にイントロンが組み込まれ得る。例えば配列番号15及び配列番号25を参照されたい。これらの構成物は、脊髄性筋萎縮症を治療する方法に使用され得る。比較目的のために天然ヒトSMNコード配列と操作型cDNAとのアラインメントを図1B~Cに示す。
【0062】
本明細書に記載のhSMN cDNA配列は、試験管内で、または合成で、または当技術分野でよく知られている技術を用いる他の任意の好適な方法で生み出され得る。例えば、Xiong et al,PCR-based accurate synthesis of long DNA sequences,Nature Protocols
1,791-797(2006)で記載されている、長鎖DNA配列のPCRに基づく精密合成(PAS)の方法を利用してもよい。二重非対称PCR法とオーバーラップ伸張PCR法とを組み合わせた方法はYoung and Dong,Two-step total gene synthesis method,Nucleic Acids
Res.2004;32(7):e59に記載されている。また、Gordeeva et al,J Microbiol Methods.Improved PCR-based gene synthesis method and its application to the Citrobacter freundii phytase gene codon modification.2010 May;81(2):147-52.Epub 2010 Mar 10も参照されたく、また、オリゴヌクレオチド合成及び遺伝子合成についての以下の特許、Gene Seq.2012 Apr;6(1):10-21、US8008005、及びUS7985565も参照されたい。参照によりこれらの文献の各々を本明細書に援用する。さらに、PCRによってDNAを生成するためのキット及びプロトコールは市販されている。これらは、ポリメラーゼ、例えば、限定されないが、Taqポリメラーゼ、One Taq(登録商標)(New England Biolabs)、Q5(登録商標)高忠実度DNAポリメラーゼ(New England Biolabs)、及びGoTaq(登録商標)G2ポリメラーゼ(Promega)を使用することを含む。本明細書に記載のhOTC配列を含有
するプラスミドをトランスフェクトした細胞からDNAを生成することもできる。キット及びプロトコールは既知であり、市販されており、これには、限定されないがQIAGENプラスミドキット、Chargeswitch(登録商標)Pro Filterプラスミドキット(Invitrogen)、及びGenElute(商標)プラスミドキット(Sigma Aldrich)が含まれる。本発明に有用な他の技術としては、熱サイクルの必要性をなくす配列特異的等温増幅法が挙げられる。熱の代わりに、これらの方法は、Bst DNAポリメラーゼ,Large Fragment(New England Biolabs)のような鎖置換型DNAポリメラーゼを採用して二本鎖DNAを分離させることが典型的である。また、RNA依存性DNAポリメラーゼである逆転写酵素(RT)の使用による増幅によってRNA分子からDNAを生成してもよい。RTは、cDNAと呼称され元のRNA鋳型に相補的なDNAの鎖の重合を行う。その後、上に概説したPCRまたは等温法によってこのcDNAをさらに増幅することができる。限定されないがGenScript、GENEWIZ(登録商標)、GeneArt(登録商標)(Life Technologies)及びIntegrated DNA Technologiesを含めた会社から商業的にあつらえのDNAを生成することもできる。
【0063】
本明細書ではさらに、操作型hSMN配列を含むウイルスベクターを提供する。一実施形態において、rAAVhu68.SMNは、外部の構成要素と内部のDNAゲノムとからなるウイルスベクターである。外部ベクター構成要素は、本明細書において明示されるAAVhu68カプシドである。カプシド内には、2つのAAV末端逆位反復配列(ITR)に挟まれたヒト運動神経細胞生存(hSMN)導入遺伝子からなる一本鎖DNAゲノムがパッケージングされている。エンハンサー、プロモーター、イントロン、hSMN1コード配列及び(ポリA)シグナルがhSMN導入遺伝子を構成している。ITRは、ベクター生産中にゲノムの複製及びパッケージングを担う遺伝要素であり、rAAVを生成するのに必要とされる唯一のウイルスシスエレメントである。hSMNコード配列の発現は、サイトメガロウイルス(CMV)即時早期エンハンサー(C4)とニワトリベータアクチンプロモーターとのハイブリッドであるCB7プロモーターによって促される。このプロモーターからの転写はCIの存在によって増進される。ヒトhSMN mRNA転写産物の終結を媒介するためにrBGポリAシグナルが含められる。特定の実施形態では、「hSMN」はhSMN1である。
【0064】
一態様では、機能性SMNタンパク質をコードするコード配列が提供される。「機能性hSMN」は、元の運動神経細胞生存タンパク質または疾患に関連しないその天然の変異型もしくは多型の生物学的活性レベルを少なくとも約50%、少なくとも約75%、少なくとも約80%、少なくとも約90%、または100%近く示す、もしくは100%より高く示すSMNタンパク質をコードする遺伝子を意味する。加えて、SMN1相同体であるSMN2もSMNタンパク質をコードするが、より低い効率で機能性タンパク質をプロセシングする。機能性hSMN遺伝子を欠く対象は、SMN2の複製数に基づいて様々な度合いでSMAを示す。このため、ある対象にとってはSMNタンパク質が天然SMNタンパク質の生物学的活性の100%未満を示すことが望ましい場合がある。特定の実施形態では、「hSMN1」、「hSMN」及び「機能性hSMN」という用語は交換可能に使用される。
【0065】
SMNの発現及び活性レベルを試験管内で測定するための様々なアッセイが存在する。例えば、上に引用したTanguy et al,2015を参照されたい。本明細書に記載の方法はSMAまたはその症候を治療するための他の任意の療法と組み合わせることができる。特定の実施形態では、FDA及びEMAによって承認された、SMN2伝令リボ核酸(mRNA)前駆体を標的とするアンチセンスオリゴヌクレオチド(ASO)であるヌシネルセン[スピンラザ(商標)、Biogen]が標準的医療に含まれ得る。例え
ば、米国特許第6,166,197号、US6,210,892、US7,101,993、US7,838,657、US8,110,560、US8,361,977、US8,980,853を参照されたい。これは、クモ膜下腔内に投与されSMN2を指向するアンチセンスオリゴヌクレオチドである。推奨用量は12mg(投与1回あたり5mL)である。処置は4負荷用量から開始するが、最初の3負荷用量は14日間隔で投与し、第4負荷用量は第3用量の30日後に投与し、さらにその後には維持用量を4ヶ月に1回投与する。
【0066】
一実施形態において、機能性SMNのアミノ酸配列は、配列番号2のアミノ酸配列、またはそれとの95%の同一性を共有している配列である。一実施形態では改変型hSMNコード配列が提供される。好ましくは、改変型hSMNコード配列は、完全長の天然hSMNコード配列との約80%未満の同一性、好ましくは約75%以下の同一性を有する(図1B~C、配列番号3)。一実施形態において、改変型hSMNコード配列は、AAV(例えばrAAV)によって媒介される送達に続く翻訳の速度が天然hSMNに比べて改善されていることによって特徴付けられる。一実施形態において、改変型hSMNコード配列は、完全長の天然hSMNコード配列との約80%、79%、78%、77%、76%、75%、74%、73%、72%、71%、70%、69%、68%、67%、66%、65%、64%、63%、62%、61%またはそれ未満よりも低い同一性を共有している。一実施形態において、改変型hSMNコード配列は、配列番号1または、配列番号1との70%、75%、80%、85%、90%、95%もしくはそれ以上の同一性を共有する配列である。他の実施形態では、異なるSMNコード配列が選択される。
【0067】
さらに他の実施形態では、アイソフォームD以外のSMNアイソフォームのコード配列が選択される。さらに、またはあるいは、本明細書において提供される構成物または治療計画は、アイソフォームDのSMNタンパク質をコードするAAVhu68.SMN材料と、異なるSMNタンパク質をコードするベクター材料とを組み合わせて使用する処置を組み合わせてもよい。このベクター材料はAAVhu68カプシドを有していてもよいし、または異なるカプシドを有していてもよい。
【0068】
核酸配列に関する「同一性パーセント(%)」、「配列同一性」、「配列同一性パーセント」または「パーセント同一」という用語は、対応させるためにアラインメントしたときに同一である、2つの配列の中の残基を指す。配列同一性比較の長さは、ゲノムの完全長、遺伝子コード配列の完全長に及び得、または少なくとも約500~5000ヌクレオチドの断片が望まれる。しかしながら、より小さい、例えば少なくとも約9ヌクレオチド、通常少なくとも約20~24ヌクレオチド、少なくとも約28~32ヌクレオチド、少なくとも約36またはそれより多いヌクレオチドの断片の同一性が望まれることもある。
【0069】
アミノ酸配列の同一性パーセントは、タンパク質の完全長、ポリペプチド、約32アミノ酸、約330アミノ酸、またはそのペプチド断片、または対応する核酸配列コード配列にわたって容易に決定され得る。好適なアミノ酸断片は長さが少なくとも約8アミノ酸であり得、約700アミノ酸以下であり得る。一般に、2つの異なる配列同士の「同一性」、「相同性」または「類似性」に言及する場合、「同一性」、「相同性」または「類似性」は、「アラインメントされた」配列に関して決定される。「アラインメントされた」配列、または「アラインメント」とは、基準配列に比べて欠落しているかまたは追加されている塩基またはアミノ酸の補正をしばしば含有する複数の核酸配列またはタンパク質(アミノ酸)配列を指す。
【0070】
同一性は、配列のアラインメントを用意することによって、ならびに当技術分野で知られているかまたは市販されている様々なアルゴリズム及び/またはコンピュータプログラム[例えば、BLAST、ExPASy、ClustalO、FASTA;例えば、Ne
edleman-Wunschアルゴリズム、Smith-Watermanアルゴリズムを使用]の使用によって、決定され得る。アラインメントは、公的または商業的に入手することができる様々な多重配列アラインメントプログラムのいずれかを使用して実施される。配列アラインメントプログラム、例えば、「Clustal Omega」、「Clustal X」、「MAP」、「PIMA」、「MSA」、「BLOCKMAKER」、「MEME」及び「Match-Box」プログラムがアミノ酸配列に対して利用可能である。一般的にはこれらのプログラムのいずれかをデフォルト設定で使用するが、当業者であればこれらの設定を必要に応じて変更することができる。あるいは、当業者であれば、もたらされる同一性またはアラインメントのレベルが基準アルゴリズム及びプログラムによってもたらされるそのレベルと少なくとも同程度である別のアルゴリズムまたはコンピュータプログラムを利用することができる。例えば、J.D.Thomson et al,Nucl.Acids.Res.,“A comprehensive comparison of multiple sequence alignments”,27(13):2682-2690(1999)を参照されたい。
【0071】
多重配列アラインメントプログラムは核酸配列に対しても利用可能である。そのようなプログラムの例としては、「Clustal Omega」、「Clustal W」、「CAP Sequence Assembly」、「BLAST」、「MAP」及び「MEME」が挙げられ、これらはインターネット上のウェブサービスを通じて入手可能である。そのようなプログラムの他の提供元は当業者に知られている。あるいは、ベクターNTIユーティリティーも使用される。また、上記プログラムの中に含まれているものを含めて、ヌクレオチド配列同一性を測定するために使用することができる当技術分野で知られている多くのアルゴリズムが存在する。別の例として、GCG バージョン6.1の中のプログラムであるFasta(商標)を使用してポリヌクレオチド配列を比較することができる。Fasta(商標)は、クエリー配列と検索配列との間で最もよく重複している領域のアラインメント及び配列同一性パーセントを提供する。例えば、参照により本明細書に援用するGCG バージョン6.1において提供されるようなデフォルトパラメータ(6のワードサイズ、スコア行列のためのNOPAM係数)でFasta(商標)を使用して核酸配列同士の配列同一性パーセントを決定することができる。
【0072】
II.発現カセット及びベクター
一実施形態では、ウイルスベクターの生成及び/または宿主細胞への送達のために有用であり搭載hSMN1配列を移入させる好適な遺伝要素(ベクター)、例えば、裸のDNA、ファージ、トランスポゾン、コスミド、エピソームなどの中に本明細書に記載のhSMN遺伝子を組み込む操作をする。選択したベクターをいかなる好適な方法で送達してもよく、当該方法には、トランスフェクション、電気穿孔、リポソーム送達、膜融合技術、高速DNA被覆ペレット、ウイルス感染、及びプロトプラスト融合が含まれる。そのような構築物を作るために用いられる方法は、核酸操作の技量を有する者に知られており、遺伝子操作、組換操作、及び合成技術を含む。例えば、Sambrook et al,Molecular Cloning: A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor Press,Cold Spring Harbor,NYを参照されたい。一態様では、hSMN核酸配列を含む発現カセットが提供される。
【0073】
このように、一態様では、AAVカプシドと少なくとも1つの発現カセットとを含むアデノ随伴ウイルスベクターが提供され、当該少なくとも1つの発現カセットは、SMN及び宿主細胞におけるSMN配列の発現を促す発現制御配列をコードする核酸配列を含むものである。AAVベクターはさらに、AAV ITR配列も含む。一実施形態において、ITRは、カプシドを供給しているものとは異なったAAVからのものである。好ましい実施形態では、簡便さのため及び規制上の承認を促進するためにAAV2からのITR配
列、またはその欠失形態(ΔITR)が使用され得る。しかしながら、他のAAV源からのITRを選択してもよい。ITRの供給源がAAV2でありAAVカプシドが別のAAV源からのものである場合、結果として得られるベクターは偽型と呼ばれ得る。典型的にはAAVベクターゲノムは、AAV5’ITR、hSMNコード配列及び任意の調節配列、ならびにAAV3’ITRを含む。しかしながら、これらの要素のその他の構成が適することもある。D配列及び末端分解部位(trs)を欠失させたΔITRと呼ばれる5’ITRの短縮形態について教示がなされている。他の実施形態では、完全長AAV5’及び3’ITRが使用される。
【0074】
一態様では、ウイルスベクターを生み出すために有用な、DNA分子(例えばプラスミド)である構築物が提供される。発現カセットは典型的には、例えば選択された5’ITR配列とhSMNコード配列との間に位置する発現制御配列の一部としてプロモーター配列を含有する。本明細書に記載の例示的なプラスミド及びベクターは、遍在的ニワトリβ-アクチンプロモーター(CB)をCMV即時早期エンハンサー(CMV IE)と共に使用する。あるいは、神経特異的プロモーターを使用してもよい[例えば、chinook.uoregon.edu/promoters.htmlでアクセスされるLockery Lab neuron-specific promoters databaseを参照のこと]。そのような神経特異的プロモーターとしては、限定されないが例えば、シナプシンI(SYN)、カルシウム/カルモジュリン依存性タンパク質キナーゼII、チューブリンアルファI、神経特異エノラーゼ、及び血小板由来増殖因子ベータ鎖プロモーターが挙げられる。参照により本明細書に援用されるHioki et al,Gene Therapy,June 2007,14(11):872-82を参照されたい。他の神経特異的プロモーターとしては、67kDaのグルタミン酸脱炭酸酵素(GAD67)、ホメオボックスDlx5/6、グルタメート受容体1(GluR1)、プレプロタキキニン1(Tac1)プロモーター、神経特異エノラーゼ(NSE)及びドパミン作用性受容体1(Drd1a)プロモーターが挙げられる。例えば、Delzor et al,Human Gene Therapy Methods.August 2012,23(4):242-254を参照されたい。別の実施形態では、プロモーターはGUSbプロモーター www.jci.org/articles/view/41615#B30である。
【0075】
他のプロモーター、例えば、恒常的プロモーター、調節可能なプロモーター[例えば、WO2011/126808及びWO2013/04943を参照のこと]、または生理学的合図に応答するプロモーターを本明細書に記載のベクターに使用、利用してもよい。プロモーター(複数可)は種々の供給源、例えば、ヒトサイトメガロウイルス(CMV)即時早期エンハンサー/プロモーター、SV40早期エンハンサー/プロモーター、JCポリオーマウイルス(polymovirus)プロモーター、ミエリン塩基性タンパク質(MBP)またはグリア線維酸性タンパク質(GFAP)プロモーター、単純ヘルペスウイルス(HSV-1)潜伏関連プロモーター(LAP)、ラウス肉腫ウイルス(RSV)長鎖末端反復配列(LTR)プロモーター、神経特異的プロモーター(NSE)、血小板由来増殖因子(PDGF)プロモーター、hSYN、メラニン凝集ホルモン(MCH)プロモーター、CBA、マトリックスメタロプロテインプロモーター(MPP)及びニワトリβ-アクチンプロモーターから選択することができる。
【0076】
プロモーターに加えて、発現カセット及び/またはベクターは、1つ以上の他の適切な転写開始、転写終結、エンハンサー配列、効率的RNAプロセシングシグナル、例えば、スプライシング及びポリアデニル化(ポリA)シグナル;細胞質mRNAを安定化させる配列、例えばWPRE;翻訳効率を向上させる配列(すなわち、コザック共通配列);タンパク質安定性を向上させる配列;ならびに、所望により、コード配列の分泌を増進する配列を含有していてもよい。好適なポリA配列の例としては、例えば、SV40、SV5
0、ウシ成長ホルモン(bGH)、ヒト成長ホルモン、及び合成ポリAが挙げられる。好適なエンハンサーの一例はCMVエンハンサーである。その他の好適なエンハンサーには、CNS症状に適するものが含まれる。一実施形態では、発現カセットは1つ以上の発現エンハンサーを含む。一実施形態では、発現カセットは2つ以上の発現エンハンサーを含む。これらのエンハンサーは、同じであってもよいし、または互いに異なっていてもよい。例えば、エンハンサーはCMV即時早期エンハンサーを含み得る。このエンハンサーは、互いに隣接して位置する2コピーとして存在していてもよい。あるいは、エンハンサーの二重コピーは1つ以上の配列によって互いに隔てられていてもよい。さらに別の実施形態では、発現カセットはさらにイントロン、例えばニワトリベータアクチンイントロンを含有する。他の好適なイントロンとしては、当技術分野で知られているもの、例えば、WO2011/126808に記載されているものなどが挙げられる。場合によって、mRNAを安定化させるために1つ以上の配列を選択してもよい。そのような配列の一例は改変型WPRE配列であるが、これは、ポリA配列の上流及びコード配列の下流において操作されたものであり得る[例えば、MA Zanta-Boussif,et al,Gene Therapy(2009)16:605-619を参照のこと]。
【0077】
これらの制御配列はhSMN遺伝子配列に「機能可能に繋げられている」。本明細書中で使用する場合、「機能可能に繋げられている」という用語は、関心対象の遺伝子と連続している発現制御配列を指すだけでなく、トランスで、または遠くで作用して関心対象の遺伝子を制御する発現制御配列も指す。
【0078】
一実施形態では、自己相補性AAVが提供される。これに関して「sc」という略語は自己相補性を指す。「自己相補性AAV」は、組換えAAV核酸配列が有するコード領域が分子内二本鎖DNA鋳型を形成するように設計されている構築物を指す。感染時には、第2の鎖の細胞媒介合成を待つことなくscAAVの相補的な両半分が会合して、即時複製及び転写の準備が整った1つの二本鎖DNA(dsDNA)単位を形成することになる。例えば、D M McCarty et al,“Self-complementary recombinant adeno-associated virus(scAAV)vectors promote efficient transduction independently of DNA synthesis”,Gene Therapy,(August 2001),Vol 8,Number 16,Pages 1248-1254を参照されたい。自己相補性AAVは、例えば、米国特許第6,596,535号、第7,125,717号及び第7,456,683号に記載されており、参照によりこれらの各々の全体を本明細書に援用する。
【0079】
対象への送達に適するAAVウイルスベクターを生成及び単離する方法は当技術分野で知られている。例えば、米国公開特許出願第2007/0036760号(2007年2月15日)、米国特許第7790449号、米国特許第7282199号、WO2003/042397、WO2005/033321、WO2006/110689、及びUS7588772B2]を参照されたい。あるシステムにおいて、ITRに挟まれた導入遺伝子をコードする構築物ならびに、rep及びcapをコードする構築物(複数可)を生産装置細胞株に一過的にトランスフェクトする。別のシステムにおいて、rep及びcapを安定供給するパッケージング細胞株に、ITRに挟まれた導入遺伝子をコードする構築物をトランスフェクトする。これらのシステムの各々において、AAVビリオンはヘルパーアデノウイルスまたはヘルペスウイルスへの感染に応答して産生され、結果としてrAAVを汚染ウイルスから分離することが必要となる。より最近では、AAVを回収するのにヘルパーウイルスへの感染を必要としないシステムが開発された-必要とされるトランスのヘルパー機能(すなわち、アデノウイルスE1
E2a、VA及びE4、またはヘルペスウイルスUL5、UL8、UL52及びUL29、及びヘルペスウイルスポリメラーゼ)もトランスでシステムによって供給される。これ
らのより新しいシステムでは、必要とされるヘルパー機能をコードする構築物による細胞の一過的トランスフェクションによってヘルパー機能を供給することができ、または、転写もしくは転写後レベルで発現を制御されることができるヘルパー機能をコードする遺伝子を安定的に含有するように細胞を操作することができる。さらに別のシステムでは、バキュロウイルス系ベクターへの感染によって、ITRに挟まれた導入遺伝子、及びrep/cap遺伝子を昆虫細胞内に導入する。これらの産生システムに関する総説については、例えば、Zhang et al.,2009,“Adenovirus-adeno-associated virus hybrid for large-scale
recombinant adeno-associated virus production,”Human Gene Therapy 20:922-929を全体的に参照されたく、参照によりこれらの各々の内容全体を本明細書に援用する。これら及びその他のAAV産生システムは以下の米国特許にも記載されており、参照によりこれらの各々の内容全体を本明細書に援用する:第5,139,941号、第5,741,683号、第6,057,152号、第6,204,059号、第6,268,213号、第6,491,907号、第6,660,514号、第6,951,753号、第7,094,604号、第7,172,893号、第7,201,898号、第7,229,823号及び第7,439,065号。
【0080】
場合によって、本明細書に記載のhSMN遺伝子を、rAAV以外のウイルスベクターを含めた他の送達システムの中に組み込む操作をしてもよい。そのような他のウイルスベクターには、用いられ得る遺伝子療法に適した任意のウイルス、例えば、限定しないが、アデノウイルス、ヘルペスウイルス、レンチウイルス、レトロウイルス、ボカウイルスなどが含まれ得る。これら他ベクターのうちの1つを生み出す場合、増殖能欠損型ウイルスベクターとしてそれを生産することが好適である。
【0081】
特定の実施形態では、操作型AAVhu68.SMNベクターが提供される。一実施形態において、rAAVhu68SMNのベクターゲノムは配列番号15の配列を有する。別の実施形態では、rAAVhu68SMNのベクターゲノムは配列番号25の配列を有する。特定の実施形態では、「rAAVhu68.SMN1」及び「rAAVhu68.SMN」という用語は交換可能に使用される。
【0082】
III.組成物及び用途
本明細書ではさらに医薬組成物も提供する。本明細書に記載の医薬組成物は、それを必要とする対象への任意の好適な経路または異なる経路の併用による送達のために設計される。
【0083】
これらの送達手段は、本明細書に記載のAAV構成物(複数可)を含有する懸濁液の直接的な全身送達を回避するように設計される。好適なこととして、これは、全身投与に比べて用量を低減する、毒性を低減する及び/または、AAV及び/または導入遺伝子産物に対する望ましくない免疫応答を軽減する利点を有し得る。
【0084】
あるいは、他の投与経路(例えば、経口、吸入、鼻腔内、気管内、動脈内、眼内、静脈内、筋肉内及び他の非経口経路)を選択してもよい。
【0085】
場合によって、必要のある対象に免疫抑制共療法を用いてもよい。そのような共療法のための免疫抑制剤としては、限定されないが、グルココルチコイド、ステロイド、代謝拮抗薬、T細胞抑制薬、マクロライド(例えば、ラパマイシンまたはラパログ)、及び細胞増殖抑制剤、例えば、アルキル化剤、代謝拮抗薬、細胞毒性抗生物質、抗体、またはイムノフィリンへの活性を有する薬剤が挙げられる。免疫抑制剤は、ナイトロジェンマスタード、ニトロソウレア、白金化合物、メトトレキサート、アザチオプリン、メルカプトプリ
ン、フルオロウラシル、ダクチノマイシン、アントラサイクリン、マイトマイシンC、ブレオマイシン、ミトラマイシン、IL-2受容体指向性(CD25指向性)もしくはCD3指向性抗体、抗IL-2抗体、シクロスポリン、タクロリムス、シロリムス、IFN-β、IFN-γ、オピオイド、またはTNF-α(腫瘍壊死因子-アルファ)結合剤を含むこともある。特定の実施形態では、免疫抑制療法は、遺伝子療法施与よりも0、1、2、3、4、5、6、7日またはそれより多い日数分だけ前または後に開始され得る。そのような免疫抑制療法は、1つ、2つまたはそれより多い薬物(例えば、グルココルチコイド、プレドニゾロン(prednelisone)、ミコフェノール酸モフェチル(MMF)及び/またはシロリムス(すなわちラパマイシン))の投与を伴い得る。そのような免疫抑制剤は、必要のある対象に1回、2回またはより多い回数が同じ用量または調節された用量で投与され得る。そのような療法は、2つ以上の薬物(例えば、プレドニゾロン(prednelisone)、ミコフェノール酸モフェチル(MMF)及び/またはシロリムス(すなわちラパマイシン))を同じ日に共投与することを伴い得る。これらの薬物のうちの1つ以上は同じ用量または調節された用量で遺伝子療法施与後も継続され得る。そのような療法は必要に応じて約1週間(7日間)、約60日間、またはそれより長く行われ得る。特定の実施形態では、タクロリムスを含まない投薬計画を選択する。
【0086】
本明細書に記載のrAAVhu68.hSMNベクターは、単一の組成物または複数の組成物の中に入った状態で投薬され得る。場合によっては2つ以上の異なるrAAVが送達され得る[例えば、WO2011/126808及びWO2013/049493を参照のこと]。別の実施形態では、そのような複数のウイルスは異なる増殖能欠損型ウイルス(例えば、AAV、アデノウイルス及び/またはレンチウイルス)を含有し得る。あるいは、送達は、例えばミセル、リポソーム、カチオン性脂質-核酸構成物、ポリグリカン構成物及びその他のポリマー、脂質系及び/またはコレステロール系核酸複合体、ならびに本明細書中に記載されているような他の構築物を含めた様々な送達構成物及び粒子に連結された非ウイルス構築物、例えば「裸のDNA」、「裸のプラスミドDNA」、RNA及びmRNAによって媒介され得る。例えば、X.Su et al,Mol.Pharmaceutics,2011,8(3),pp774-787;ウェブ公開:2011年3月21日、WO2013/182683、WO2010/053572、及びWO2012/170930を参照されたく、参照によりこれらのどれもが本明細書に援用される。そのような非ウイルス性のhSMN送達構築物は、先に記載した経路によって投与され得る。ウイルスベクター、または非ウイルス性のDNAもしくはRNA移入部分を、遺伝子移入及び遺伝子療法の用途に使用するための生理学的に許容できる担体と共に製剤化することができる。
【0087】
特定の実施形態では、保存及び/または対象への送達のための製剤化に先立ってrAAVhu68.SMAを、生産に関係したいかなる汚染物質からも精製する。多くの好適な精製方法が選択され得る。好適な精製方法の例は、例えば、2016年12月9日に出願された国際特許出願第PCT/US2016/065970号ならびにその優先権書類である2016年4月13日に出願された米国特許出願第62/322,071号及び「Scalable Purification Method for AAV9」と題して2015年12月11日に出願された米国特許出願第62/226,357号に記載されており、参照によりこれを本明細書に援用する。AAV8の精製方法については、2016年12月9日に出願された国際特許出願第PCT/US2016/065976号ならびにその優先権書類である2016年4月13日に出願された米国特許出願第62/322,098号及び2015年12月11日に出願された米国特許出願第62/266,341号に記載されており、rh10については、2016年12月9日に出願された国際特許出願第PCT/US16/66013号ならびにその優先権書類である2016年4月13日に出願された米国特許出願第62/322,055号及び「Scalable
Purification Method for AAVrh10」と題しさらに2
015年12月11日に出願された米国特許出願第62/266,347号に記載されており、AAV1については、2016年12月9日に出願された国際特許出願第PCT/US2016/065974号ならびにその優先権書類である2016年4月13日に出願された米国特許出願第62/322,083号及び2015年12月11日に出願された「Scalable Purification Method for AAV1」の米国特許出願第62/26,351号に記載されており、参照により全てを本明細書に援用する。
【0088】
本明細書に記載のrAAVhu68.SMN1ベクターについては、製剤中に含まれている用量の測定単位としてゲノムコピー(「GC」)の定量が用いられ得る。当技術分野で知られている任意の方法を用いて本発明の増殖能欠損型ウイルス構成物のゲノムコピー(GC)数を決定することができる。AAV GC数力価測定を実施する1つの方法は、以下のとおりである:精製AAVベクター試料をまずDNアーゼで処理して汚染宿主DNAを生産プロセスから除去する。その後、DNアーゼ耐性粒子を熱処理に供してゲノムをカプシドから放出させる。その後、放出されたゲノムを、ウイルスゲノムの特異的領域(例えばポリAシグナル)を指向するプライマー/プローブセットを使用するリアルタイムPCRによって定量する。ゲノムコピーを決定するための別の好適な方法は、定量的PCR(qPCR)、詳しくは、最適化qPCRまたは液滴デジタルPCR[編集前に2013年12月13日にオンライン公開されたLock Martin,et al,Human Gene Therapy Methods.April 2014,25(2):115-125.doi:10.1089/hgtb.2013.131]である。あるいは、ViroCyt3100を粒子定量またはフローサイトメトリーのために使用することができる。
【0089】
rAAVhu68.SMN1構成物は、(例えば約2.5kg~約70kgの体重を基準として)約1.0×10GC~約9×1015GCの範囲内のあらゆる整数または分数量を含めて当該範囲内に入る量、好ましくは1.0×1012~1.0×1014GCの範囲内に入る量のrAAVを含有する投薬量単位でヒト患者のために製剤化され得る。一実施形態では、構成物は、範囲内のあらゆる整数または分数量を含めて少なくとも1×10、2×10、3×10、4×10、5×10、6×10、7×10、8×10または9×10GCを1用量あたりに含有するように製剤化される。別の実施形態では、構成物は、範囲内のあらゆる整数または分数量を含めて少なくとも1×1010、2×1010、3×1010、4×1010、5×1010、6×1010、7×1010、8×1010または9×1010GCを1用量あたりに含有するように製剤化される。別の実施形態では、構成物は、範囲内のあらゆる整数または分数量を含めて少なくとも1×1011、2×1011、3×1011、4×1011、5×1011、6×1011、7×1011、8×1011または9×1011GCを1用量あたりに含有するように製剤化される。別の実施形態では、構成物は、範囲内のあらゆる整数または分数量を含めて少なくとも1×1012、2×1012、3×1012、4×1012、5×1012、6×1012、7×1012、8×1012または9×1012GCを1用量あたりに含有するように製剤化される。別の実施形態では、構成物は、範囲内のあらゆる整数または分数量を含めて少なくとも1×1013、2×1013、3×1013、4×1013、5×1013、6×1013、7×1013、8×1013または9×1013GCを1用量あたりに含有するように製剤化される。別の実施形態では、構成物は、範囲内のあらゆる整数または分数量を含めて少なくとも1×1014、2×1014、3×1014、4×1014、5×1014、6×1014、7×1014、8×1014または9×1014GCを1用量あたりに含有するように製剤化される。別の実施形態では、構成物は、範囲内のあらゆる整数または分数量を含めて少なくとも1×1015、2×1015、3×1015、4×1015、5×1015、6×1015、7×1015、8×1015または9×1015GCを1用量あたりに含有するように製剤化される。一
実施形態において、ヒトに適用する場合、用量の範囲は、範囲内のあらゆる整数または分数量を含めて1×1010~約1×1015GCであり得る。
【0090】
特定の実施形態では、用量は約1×10GC/g脳質量~約1×1012GC/g脳質量の範囲内であり得る。特定の実施形態では、用量は約3×1010GC/g脳質量~約3×1011GC/g脳質量の範囲内であり得る。特定の実施形態では、用量は約5×1010GC/g脳質量~約1.85×1011GC/g脳質量の範囲内であり得る。
【0091】
一実施形態では、rAAVhu68.SMN1は、少なくとも約1×10GC~約1×1015、または約1×1011~5×1013GCの用量で送達され得る。これらの用量及び濃度を送達するのに適する体積は当業者によって決定され得る。例えば、約1μL~150mLの体積が選択され得、成人に対しては高い方の体積が選択される。典型的には、新生児に適する体積は約0.5mL~約10mLであり、より高い年齢の乳児に対しては約0.5mL~約15mLが選択され得る。幼児に対しては約0.5mL~約20mLの体積が選択され得る。子供に対しては約30mL以下の体積が選択され得る。プレティーン及びティーンエイジャーに対しては約50mL以下の体積が選択され得る。さらに他の実施形態では、患者のクモ膜下腔内に約5mL~約15mL、または約7.5mL~約10mLの体積の投与が与えられ得る。その他の好適な体積及び投薬量を決めてもよい。投薬量は、治療的利益と任意の副作用との釣り合いをとるように調節されることになり、そのような投薬量は、組換えベクターを採用する治療用途によって様々であり得る。
【0092】
上記rAAVhu68.SMN1は、公開されている方法に従って宿主細胞に送達され得る。特定の実施形態では、ヒト患者への投与のために、生理食塩水、界面活性剤、及び生理学的に適合する塩または塩の混合物を含有する水溶液の中にrAAVを懸濁させることが好適である。製剤は、生理学的に許容できるpH、例えばpH6~9またはpH6.5~7.5、pH7.0~7.7またはpH7.2~7.8の範囲に調節されていることが好適である。脳脊髄液のpHは約7.28~約7.32であることから、クモ膜下腔内送達のためにはこの範囲に入るpHが望まれ得る一方、静脈内送達のためには6.8~約7.2のpHが望まれ得る。しかしながら、最も広い範囲及びこれらの小範囲の中に入る他のpHを他の送達経路のために選択してもよい。
【0093】
好適な界面活性剤または界面活性剤の組み合わせは非毒性の非イオン性界面活性剤の中から選択され得る。一実施形態では、第一級ヒドロキシル基で終結している二官能性ブロックコポリマー界面活性剤、例えば、中性pHを有しており平均分子量が8400であるポロキサマー188としても知られるプルロニック(登録商標)F68[BASF]などが選択される。他の界面活性剤及び他のポロキサマー、すなわち、2つのポリオキシエチレン(ポリ(エチレンオキシド))の親水性鎖に挟まれた中央のポリオキシプロピレン(ポリ(プロピレンオキシド))の疎水性鎖からなる非イオン性トリブロックコポリマー、SOLUTOL HS 15(Macrogol-15ヒドロキシステアレート)、LABRASOL(ポリオキシカプリル酸グリセリド)、ポリオキシ10オレイルエーテル、TWEEN(ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル)、エタノール及びポリエチレングリコールを選択してもよい。一実施形態では、製剤はポロキサマーを含有する。これらのコポリマーには共通して(ポロキサマーの)「P」の文字とそれに続く3つの数字で名前が付けられ、最初の2つの数字に100を掛けるとポリオキシプロピレンコアのおおよその分子量が得られ、最後の数字に10を掛けると百分率で表したポリオキシエチレン含有量が得られる。一実施形態ではポロキサマー188が選択される。界面活性剤は最大で懸濁液の約0.0005%~約0.001%の量で存在し得る。
【0094】
一例において、製剤は、例えば、塩化ナトリウム、重炭酸ナトリウム、デキストロース、硫酸マグネシウム(例えば、硫酸マグネシウム・7HO)、塩化カリウム、塩化カル
シウム(例えば、塩化カルシウム・2HO)、二塩基性リン酸ナトリウム及びそれらの混合物のうちの1つ以上を水中に含む緩衝生理食塩水溶液を含有し得る。クモ膜下腔内送達のためには浸透圧が、脳脊髄液に適合する範囲に入っていることが好適であり(例えば約275~約290)、例えば、emedicine.medscape.com/-article/2093316-overviewを参照されたい。場合によっては、クモ膜下腔内送達のために市販の希釈剤を懸濁化剤として、または別の懸濁化剤及びその他の任意選択の賦形剤と組み合わせて使用してもよい。例えば、エリオットB(登録商標)溶液[Lukare Medical]を参照されたい。各10mLのエリオットB溶液は、
塩化ナトリウム,USP 73mg
重炭酸ナトリウム,USP 19mg
デキストロース,USP 8mg
硫酸マグネシウム・7H2O,USP 3mg
塩化カリウム,USP 3mg
塩化カルシウム・2H2O,USP 2mg
リン酸ナトリウム二塩基性・7H2O,USP 2mg
注射用水,USP 適量10mL
を含有する。
電解質の濃度は、
ナトリウム 149mEq/リットル 重炭酸塩 22.6mEq/リットル
カリウム 4.0mEq/リットル 塩化物 132mEq/リットル
カルシウム 2.7mEq/リットル 硫酸塩 2.4mEq/リットル
マグネシウム 2.4mEq/リットル リン酸塩 1.5mEq/リットル
である。
原料の式及び分子量は次のとおりである。
【表3】
【0095】
エリオットB溶液のpHは6~7.5であり、浸透圧は1リットルあたり288mOsmol(計算値)である。特定の実施形態では、rAAVhu68.SMN1遺伝子を含有する組成物を6.8~8、または7.2~7.8、または7.5~8の範囲のpHで送達する。クモ膜下腔内送達のためには、7.5より高いpH、例えば、7.5~8、または7.8が望まれ得る。
【0096】
特定の実施形態では、製剤は、重炭酸ナトリウムを含んでいない緩衝生理食塩水溶液を含有し得る。そのような製剤は、リン酸ナトリウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム及びそれらの混合物のうちの1つ以上を水中に含む緩衝
生理食塩水溶液、例えばハーバード緩衝液(Harvard’s buffer)を含有し得る。水溶液はさらに、BASFから市販されており以前にLutrol(登録商標)F68の商標名で販売されていたポロキサマーであるKolliphor(登録商標)P188を含有し得る。水溶液のpHは7.2であり得る。
【0097】
別の実施形態では、製剤は、1mMのリン酸ナトリウム(NaPO)、150mMの塩化ナトリウム(NaCl)、3mMの塩化カリウム(KCl)、1.4mMの塩化カルシウム(CaCl)、0.8mMの塩化マグネシウム(MgCl)及び0.001%のKolliphor(登録商標)188を含む緩衝生理食塩水溶液を含有し得る。例えば、harvardapparatus.com/harvard-apparatus-perfusion-fluid.htmlを参照されたい。特定の実施形態では、ハーバード緩衝液についてより良好なpH安定性が認められることからハーバード緩衝液が好ましい。以下の表は、ハーバード緩衝液とエリオットB緩衝液との比較を示す。
【表4】
【0098】
他の実施形態では、製剤は、1つ以上の浸透促進剤を含有し得る。好適な浸透促進剤の例には、例えば、マンニトール、グリココール酸ナトリウム、タウロコール酸ナトリウム、デオキシコール酸ナトリウム、サリチル酸ナトリウム、カプリル酸ナトリウム、カプリン酸ナトリウム、ラウリル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレン-9-ラウリルエーテル
、またはEDTAが含まれ得る。
【0099】
別の実施形態では、組成物は担体、希釈剤、賦形剤及び/または佐剤を含む。当業者であれば、移入ウイルスが対象としている適応症を考慮して好適な担体を容易に選択し得る。例えば、ある好適な担体は生理食塩水を含み、これは様々な緩衝溶液(例えばリン酸緩衝生理食塩水)と共に製剤化され得る。他の例示的な担体としては、無菌生理食塩水、ラクトース、スクロース、リン酸カルシウム、ゼラチン、デキストラン、寒天、ペクチン、ピーナッツ油、ゴマ油及び水が挙げられる。緩衝液/担体は、rAAVが輸注管類に付着するのを防止するが生体内でのrAAV結合活性を妨害しない成分を含むべきである。
【0100】
場合によって本発明の組成物は、rAAV及び担体(複数可)以外にも他の一般的な医薬原料、例えば保存剤または化学安定剤を含有し得る。好適な保存剤の例としては、クロロブタノール、ソルビン酸カリウム、ソルビン酸、二酸化硫黄、没食子酸プロピル、パラベン、エチルバニリン、グリセリン、フェノール及びパラクロロフェノールが挙げられる。好適な化学安定剤としてはゼラチン及びアルブミンが挙げられる。
【0101】
本発明に係る組成物は、上に定義したものなどの薬学的に許容できる担体を含み得る。本明細書に記載の組成物は、薬学的に適する担体の中に懸濁させた、及び/または注射、浸透ポンプ、クモ膜下腔内カテーテルによる対象への送達のためまたは別の装置もしくは経路による送達のために設計された好適な賦形剤と混合した、1つ以上のAAVを有効量含むことが好適である。一例において、組成物は、クモ膜下腔内送達のために製剤化される。一実施形態において、クモ膜下腔内送達は、脊柱管内、例えばクモ膜下腔内への注射を包含する。
【0102】
本明細書に記載のウイルスベクターは、hSMNをそれを必要とする対象(例えばヒト患者)に送達するための、機能性SMNを対象に供給するための、及び/または脊髄性筋萎縮症を治療するための医薬を調製する際に使用され得る。処置過程には同じウイルスベクター(例えばAAVhu68ベクター)または異なるウイルスベクター(例えばAAVhu68とAAVrh10)の反復投与を伴うことが場合によってある。本明細書に記載のウイルスベクター及び非ウイルス性送達システムを使用するさらに他の組み合わせを選択してもよい。
【0103】
本明細書中で使用する場合、「クモ膜下腔内送達」または「クモ膜下腔内投与」という用語は、薬物が脳脊髄液(CSF)に到達するようにそれを脊柱管内、より具体的にはクモ膜下腔内への注射によって投与する経路を指す。クモ膜下腔内送達は腰椎穿刺、脳室内(intraventricular)(脳室内(intracerebroventricular)(ICV)を含む)、後頭下/脳槽内、及び/またはC1-2穿刺を含み得る。例えば、材料を腰椎穿刺によってクモ膜下腔全体にわたる拡散のために導入してもよい。別の例では大槽内に注射を行ってもよい。
【0104】
本明細書中で使用する場合、「大槽内送達」または「大槽内投与」という用語は、大槽小脳延髄槽の脳脊髄液の中に、より具体的には後頭下穿刺によって、または大槽内への直接注射によって、または永久配置された管を介して、薬物を直接投与する経路を指す。
【0105】
一実施形態では、送達は、本明細書に記載の装置を使用して実施され得る。
【0106】
IV.脳脊髄液中への医薬組成物の送達のための機器及び方法
一態様において、本明細書に提供するベクターは、この節において提供され実施例及び図7においてさらに説明される方法及び/または装置によってクモ膜下腔内に投与され得る。あるいは、他の装置及び方法を選択してもよい。方法は、患者の大槽の中へと脊椎穿
刺針を前進させるステップと、ある長さの可撓性管類を脊椎穿刺針の近位ハブに連結し、可撓性管類の近位端に弁の排出ポートを連結するステップと、上記前進及び連結ステップの後であって管類を患者の脳脊髄液で初回自給させた後に、ある量の等張溶液が入った第1容器を弁の洗浄入口ポートに連結し、その後、ある量の医薬組成物が入った第2容器を弁のベクター入口ポートに連結するステップとを含む。第1及び第2容器を弁に連結した後、ベクター入口ポートと弁の出口ポートとの間の流体流路を開き、医薬組成物を脊椎穿刺針に通して患者の中へと注入し、医薬組成物の注入後、洗浄入口ポートと弁の出口ポートとを通る流体流路を開き、等張溶液を脊椎穿刺針内へ注入して医薬組成物を患者の中に流し込む。
【0107】
別の態様では、医薬組成物の脳槽内送達のための装置が提供される。装置は、ある量の医薬組成物が入った第1容器、等張溶液が入った第2容器及び、装置から患者の大槽内の脳脊髄液中へと直接吐出され得る医薬組成物が通る脊椎穿刺針を含む。装置はさらに、第1容器に相互連結された第1入口ポートと、第2容器に相互連結された第2入口ポートと、脊椎穿刺針に相互連結された出口ポートと、脊髄穿刺針を通る医薬組成物及び等張溶液の流れを制御するためのルアーロックとを有する弁を含む。
【0108】
本明細書中で使用する場合、コンピュータ断層撮影(CT)という用語は、軸に沿って作られた一連の平面断面画像からコンピュータによって身体構造の三次元画像を構築するX線撮影を指す。
【0109】
図7に示す機器または医療装置10は、弁16を介して相互連結した1つ以上の容器12及び14を備える。容器12及び14はそれぞれ、医薬組成物、薬物、ベクターまたは類似する物質の新鮮な供給源、及び生理食塩水などの等張溶液の新鮮な供給源を提供する。容器12及び14は、患者の中への流体の注入を可能にするいかなる形態であってもよい。
【0110】
例として、各容器12及び14は、シリンジ、カニューレまたは類似するものの形態で提供され得る。例えば、図示されている実施形態において容器12は、ある量の医薬組成物が入った別個のシリンジとして提供されており、本明細書中では「ベクターシリンジ」と呼ばれる。単に例示のために記すが、容器12には、医薬組成物または類似するものが約10cc収容され得る。
【0111】
同様に、容器14は、ある量の生理食塩水溶液が入った別個のシリンジ、カニューレまたは類似するものの形態で提供され得、「洗浄シリンジ」と呼ばれ得る。単に例示のために記すが、容器14には約10ccの生理食塩水溶液が収容され得る。
【0112】
代わりに、容器12及び14をシリンジ以外の形態で提供してもよく、単一の装置の中に組み込んでもよく、例えば一体化医療用注射装置は一対の別々になったチャンバを有し、1つは医薬組成物のためのものであり、1つは生理食塩水溶液のためのものである。さらに、チャンバまたは容器の大きさは、流体の所望の量を収容する必要に応じて提供され得る。
【0113】
図示されている実施形態において、弁16は、スイベル式オスルアーロック18を有する四方活栓として提供されている。弁16は、容器12と容器14と(すなわち、図示されている実施形態のベクターシリンジと洗浄シリンジと)を相互連結させ、スイベル式オスルアーロックは弁16の中を通る通路を容器12及び14の各々に対して開閉することを可能にする。このようにして、弁16の中を通る通路をベクターシリンジ及び洗浄シリンジに対して閉じてもよいし、またはベクターシリンジ及び洗浄シリンジのうち選択された1つに対して開いてもよい。四方活栓の代わりに弁は三方活栓であってもよいし、また
は流体制御装置であってもよい。
【0114】
図示されている実施形態において、弁16は、延長管類20または類似する流体用導管の長さの一端に連結されている。管類20は、所望の長さまたは内部容積に基づいて選択され得る。単に例として記すが、管類の長さは約6~7インチであり得る。
【0115】
図示されている実施形態において、管類12の反対側の端部22はT字形コネクタ延長セット24に連結されており、これが今度は脊髄穿刺針26に連結されている。例として、針26は、5インチ、22または25ゲージの脊椎穿刺針であり得る。さらに、任意選択で、脊椎穿刺針26を誘導針28、例えば3.5インチ、18ゲージの誘導針に連結してもよい。
【0116】
使用時、脊椎穿刺針26及び/または任意選択の誘導針28を患者の中へ大槽に向かって前進させ得る。針を前進させた後、針26及び/または28ならびに関係する軟組織(例えば、傍脊柱筋、骨、脳幹及び脊髄)の可視化を可能にするコンピュータ断層撮影(CT)画像が取得され得る。針の正確な配置は針ハブ内の脳脊髄液(CSF)の観察及び大槽内の針先端部の可視化によって確認される。その後、挿入された脊椎穿刺針26に比較的短い延長管類20が取り付けられ得、その後、管類20の反対側の端部に四方活栓が取り付けられ得る。
【0117】
上記組立体を患者のCSFで「初回自給」させる。その後、充填済み生理食塩水洗浄シリンジ14を四方活栓16の洗浄入口ポートに取り付け、その後、医薬組成物が入ったベクターシリンジ12を四方活栓16のベクター入口ポートに取り付ける。その後、活栓16の排出ポートをベクターシリンジ12に対して開き、ベクターシリンジの内容物は、弁16及び組立済み機器を通り抜けて患者の中へとある期間を掛けてゆっくりと注入され得る。単に例示のために記すが、この期間はおよそ1~2分及び/またはその他の任意の所望の時間であり得る。
【0118】
ベクターシリンジ12の内容物を注入した後、取り付けられている充填済み洗浄シリンジ14を使用して活栓16及び針組立体を所望の量の生理食塩水で洗浄することができるように活栓16上のスイベル式ロック18を第2位置まで回す。単なる例を記せば1~2ccの生理食塩水が使用され得るが、より多いまたはより少ない量を必要に応じて用いてもよい。生理食塩水は、医薬組成物の全てまたはほとんどが組立済み装置を通り抜けて患者の中へと注入されるように促されその結果として医薬組成物が組立済み装置内にほとんどまたは全く残らないことを確保する。
【0119】
組立済み装置に生理食塩水を流した後、組立済み装置は針(複数可)、延長管類、活栓及びシリンジを含むその全体がゆっくりと対象から取り外されてバイオハザード廃棄物用の入れ物または(例えば針(複数可)のための)硬質容器の中への破棄のために外科用トレイ上に置かれる。
【0120】
最終的に脳槽内(IC)手技に至り得るスクリーニングプロセスは、研究責任者によって引き受けられ得る。研究責任者は、対象(または指名された介護人)に十分な情報を与えるべくプロセス、手技、投与手順自体、及び起こり得るあらゆる安全性リスクについて説明し得る。医療歴、併用薬、身体検査、バイタルサイン、心電図(ECG)、及び実験室検査結果が得られ、または実施され、そしてIC手技のための対象の適格性のスクリーニング評価のために神経放射線科医、神経外科医及び麻酔専門医に提供される。
【0121】
適格性を再検討する十分な時間を可能にするために、第1スクリーニング訪問から試験訪問の1週間前までの任意の時に以下の手順が実施され得る。例えば、「0日目」には、
ガドリニウム(すなわち、eGFR>30mL/分/1/73m2)を伴うかまたは伴わずに頭部/頚部磁気共鳴画像(MRI)が取得され得る。頭部/頚部MRIに加えて研究者は屈曲/伸張試験によって頚部に関する将来の何らかの評価の必要性を判断し得る。MRIプロトコールは、T1、T2、DTI、FLAIR及びCINEプロトコール画像を含み得る。
【0122】
さらに、CSF流の十分な評価、及びあり得るCSF空間同士の連通の遮断または欠如の同定を可能にする頭部/頚部MRA/ MRVが、施設プロトコールに従って取得され得る(つまり、硬膜内/経硬膜手術歴を有する対象は除外され得るかまたはさらなる検査(例えば放射性ヌクレオチド脳槽造影)が必要とされ得る)。
【0123】
神経放射線科医、神経外科医及び麻酔専門医は、利用可能なあらゆる情報(スキャン、医療歴、身体検査、研究など)に基づいてIC手技に対する各対象の適格性を最終的に議論及び判断する。MPS対象の特別な生理学的必要性を念頭に置いて、「-28日目」~「1日目」まで、気道、(短い/厚い)頚部、及び頭部可動域(頚部屈曲の度合い)の詳細な評価を提供する麻酔の術前評価も取得され得る。
【0124】
IC手技に先立って、CT室に以下の装備及び医薬が存在することを確認することになる:別個の薬事マニュアルに従って作製されCT/手術室(OR)に搬入される、成人用腰椎穿刺(LP)キット(施設によって供給される);BD(Becton Dickinson)22または25ゲージ×3~7インチ脊椎穿刺針(Quincke bevel);介入施与者の裁量で(脊椎穿刺針の導入のために)使用される共軸誘導針;スイベル(スピン)式オスルアーロックを備えた四方小孔活栓;メスルアーロックアダプタを備えた長さおよそ6.7インチのT字形コネクタ延長セット(管類);クモ膜下腔内投与のためのOmnipaque180;静脈内(IV)投与のためのヨウ素化造影剤;(成人用LPキットに備わっていない場合の)注射用1%リドカイン溶液;充填済み10cc生理食塩水(無菌)洗浄シリンジ;放射線不透過性マーカー(複数可);外科準備用装備/剃毛用カミソリ;挿管される対象の適切な配置を可能にする枕/支持台;気管内挿管用装備、全身麻酔機及び機械式人工呼吸器;術中神経生理学的モニタリング(IONM)装備(及び必要な人員);ならびにベクター入り10ccシリンジ。
【0125】
手技のためのインフォームドコンセントを確認し、医療記録及び/または研究ファイルに載録する。放射線科及び麻酔学従事者による手技についての別個の同意を施設の要件に従って取得する。対象は、施設ガイドラインに従って適切な病院介護室内で静脈内へのアクセスが配備される(例えば、2つのIVアクセス部位)。静脈内用流体は麻酔専門医の裁量で投与される。麻酔専門医の裁量で、及び施設ガイドラインに従って、適切な患者介護室、待機場または外科/CT手技室の中で一般的な麻酔の施与と共に気管内挿管が対象に導入及び施与され得る。
【0126】
腰椎穿刺を実施して、まず5ccの脳脊髄液(CSF)を除去し、次いで、大槽の可視化に役立つ造影剤(Omnipaque 180)をクモ膜下腔内に注射する。大槽内への造影剤の拡散を促進するために適切な対象配置操作が実施され得る。
【0127】
術中神経生理学的モニタリング(IONM)装備を対象に取り付ける。対象をCTスキャナ台上に腹臥位または側臥位で配置する。搬送中及び配置中の対象の安全性を保障するためには適任の従事者が存在していなければならない。適切とみなされる場合には対象を、配置後に正常な神経モニタリング信号が記録され術前評価中に安全であると判断される程度に頚部屈曲をもたらすように配置してもよい。
【0128】
以下の従事者の存在が確認され得、現場で識別され得る:手技を実施する介入施与者/
神経外科医;麻酔専門医及び呼吸器専門技術者(複数可);看護師及び医師助手;CT(またはOR)技術者;神経生理学専門技術者;及び現場取りまとめ役。正確な対象、手順、部位、配置、及び室内で必要となる全ての装備の存在を確認するための「タイムアウト」が合同審査会/院内プロトコールに従って完遂され得る。その後、先導現場研究者は従事者と共に、彼/彼女が対象の準備を進めてもよいことを確認し得る。
【0129】
対象の頭蓋骨より下の皮膚を適切に剃毛する。標的位置を突き止め脈管構造を撮像する必要があると介入施与者によってみなされる場合には、CTスカウト像を実施し、続いて、IV用造影剤によるCTを計画する前手順を実施する。標的部位(大槽)が特定され針軌道が計画された後、施設ガイドラインに従って無菌技術を用いて皮膚の準備を整え覆布を掛ける。介入施与者が指示するとおりに放射線不透過性マーカーを標的皮膚位置に配置する。マーカーの下の皮膚に、1%リドカインの浸潤によって麻酔を掛ける。その後、共軸誘導針を場合によって使用して22Gまたは25Gの脊椎穿刺針を大槽に向かって前進させる。
【0130】
針前進後、施設装備を使用して実現可能な最も薄いCTスライス厚み(理想的には2.5mm以下)を用いてCT画像を取得する。針及び関係する軟組織(例えば、傍脊柱筋、骨、脳幹及び脊髄)の十分な可視化の余地がある可能な最低放射線線量を用いて連続CT画像を取得する。針の正確な配置は、針ハブ内のCSFの観察及び大槽内の針先端部の可視化によって確認される。
【0131】
介入施与者は、ベクターシリンジが無菌場の近くにではあるがその外側に配置されていることを確認する。ベクターシリンジ内の医薬組成物の取扱いまたは投与に先立ってグローブ、マスク及び目保護が無菌場内での手技を手伝う従事者によってなされる。
【0132】
挿入された脊椎穿刺針に延長管類を取り付け、次いでそれに四方活栓を取り付ける。機器が対象のCSFで「初回自給」された時点で10cc予備充填生理食塩水洗浄シリンジを四方活栓の洗浄入口ポートに取り付ける。その後、ベクターシリンジが介入施与者に提供され、四方活栓のベクター入口ポートに取り付けられる。
【0133】
活栓のスイベル式ロックを第1位置に配置することによって活栓の出口ポートをベクターシリンジに対して開いた後、注入中にシリンジのプランジャに過度の力が印加されないように配慮しながらベクターシリンジの内容物をゆっくりと(およそ1~2分掛けて)注入する。ベクターシリンジの内容物が注入された後、取り付けられている充填済み洗浄シリンジを使用して1~2ccの生理食塩水で活栓及び針組立体を洗浄することができるように活栓のスイベル式ロックを第2位置まで回す。
【0134】
準備が整うと介入施与者は次に従事者に彼/彼女が機器を対象から除去することを通告する。1回の動作で針、延長管類、活栓及びシリンジを対象からゆっくりと取り外し、バイオハザード廃棄物用の入れ物または(例えば針(複数可)のための)硬質容器の中への破棄のために外科用トレイ上に置く。
【0135】
針挿入部位に出血またはCSF漏出の兆候がないかを調べ、研究者に指示されたとおりに処置する。ガーゼ、外科用テープ及び/またはテガダーム被覆材を指示されるとおりに使用して部位を保護する。その後、対象をCTスキャナから移動させて担架に載せる。搬送中及び配置中の対象の安全性を保障するために適任の従事者が存在する。
【0136】
麻酔を中止し、対象を麻酔後介護についての以下の施設ガイドラインのために介護する。神経監視装置を対象から取り外す。回復の間、対象が横たわっている担架の頭側はわずかに(おおよそ30度)高くするべきである。施設ガイドラインに従って対象を好適な麻
酔後介護室へ搬送する。対象は、意識が十分に回復して安定な状態になった後、プロトコールが定める評価のための適切な階/部屋に受け入れられることになる。神経学的評価はプロトコールに従って見守られることになり、主任研究者は病院及び研究の従事者と協力して対象の介護を監督する。
【0137】
一実施形態では、本明細書において提供される組成物を送達する方法は、患者の大槽の中へと脊椎穿刺針を前進させるステップと、ある長さの可撓性管類を脊椎穿刺針の近位ハブに連結し、可撓性管類の近位端に弁の排出ポートを連結するステップと、上記前進及び連結ステップの後であって管類を患者の脳脊髄液で初回自給させた後に、ある量の等張溶液が入った第1容器を弁の洗浄入口ポートに連結し、その後、ある量の医薬組成物が入った第2容器を弁のベクター入口ポートに連結するステップと、上記第1及び第2容器を弁に連結した後、ベクター入口ポートと弁の出口ポートとの間の流体流路を開き、医薬組成物を脊椎穿刺針に通して患者の中へと注入するステップと、医薬組成物の注入後、洗浄入口ポートと弁の出口ポートとを通る流体流路を開き、等張溶液を脊椎穿刺針内へ注入して医薬組成物を患者の中に流し込むステップとを含む。特定の実施形態では、方法はさらに、管類及び弁を脊椎穿刺針のハブに連結する前に脊椎穿刺針の遠位先端部の大槽内での適切な配置を確認することを含む。特定の実施形態では、確認ステップは、コンピュータ断層撮影(CT)を行うことによって大槽内の脊椎穿刺針の遠位先端部を可視化することを含む。特定の実施形態では、確認ステップは、脊椎穿刺針のハブ内での患者の脳脊髄液の存在を観察することを含む。
【0138】
上記方法において、弁は、スイベルで第1位置まで回転してベクター入口ポートから出口ポートへの流れを可能にすると同時に洗浄入口ポートを通る流れを遮断すること、及びスイベルで第2位置まで回転して洗浄入口ポートから出口ポートへの流れを可能にすると同時にベクター入口ポートを通る流れを遮断することに適合したスイベル式ルアーロックを備えた活栓であり得、スイベル式ルアーロックは、上記医薬組成物を患者に注射するときには上記第1位置に配置され、上記医薬組成物を等張溶液で上記患者の中に流し込んでいるときには上記第2位置に配置される。特定の実施形態では、等張溶液を脊椎穿刺針の中に注入して医薬組成物を患者の中に流し込んだ後、脊椎穿刺針をそれが組立体として管類、弁ならびに第1及び第2容器に連結されている状態で患者から引き抜く。特定の実施形態では、弁は、スイベル式オスルアーロックを備えた四方活栓である。特定の実施形態では、第1及び第2容器は別個のシリンジである。特定の実施形態では、T字形コネクタは、脊椎穿刺針のハブに配置され、管類と脊椎穿刺針とを相互連結させる。場合によって脊椎穿刺針は脊椎穿刺針の遠位端に誘導針を含む。脊椎穿刺針は5インチ、22または24ゲージの脊椎穿刺針であり得る。特定の実施形態では、誘導針は3.5インチ、18ゲージの誘導針である。
【0139】
特定の態様では、方法は、最低でも、ある量の医薬組成物を収容するための第1容器;等張溶液を収容するための第2容器;医薬組成物が装置から直接患者の大槽内の脳脊髄液中へと吐出され得るときに通る脊椎穿刺針;ならびに第1容器に相互連結された第1入口ポートと、第2容器に相互連結された第2入口ポートと、脊椎穿刺針に相互連結された出口ポートと、脊髄穿刺針を通る医薬組成物及び等張溶液の流れを制御するためのルアーロックとを有する弁からなる装置を利用する。特定の実施形態では、弁は、スイベルで第1位置まで回転して第1入口ポートから出口ポートへの流れを可能にすると同時に第2入口ポートを通る流れを遮断すること、及びスイベルで第2位置まで回転して第2入口ポートから出口ポートへの流れを可能にすると同時に第1入口ポートを通る流れを遮断することに適合したスイベル式ルアーロックを備えた活栓である。場合によって、弁は、スイベル式オスルアーロックを備えた四方活栓である。特定の実施形態では、第1及び第2容器は別個のシリンジである。特定の実施形態では、脊椎穿刺針は、ある長さの可撓性管類を介して弁に相互連結される。T字形コネクタは管類と脊椎穿刺針とを相互連結させ得る。特
定の実施形態では、脊椎穿刺針は5インチ、22または24ゲージの脊椎穿刺針であり得る。特定の実施形態では、装置はさらに、脊椎穿刺針の遠位端に連結された誘導針を含む。場合によって誘導針は3.5インチ、18ゲージの誘導針である。
【0140】
この方法及びこの装置は各々場合によって、本明細書において提供される組成物のクモ膜下腔内送達のために用いられ得る。あるいは、他の方法及び装置をそのようなクモ膜下腔内送達のために用いてもよい。
【0141】
一実施形態では、本明細書において提供されるAAVhu68.SMAの単回用量を、遺伝学的に確認される5qSMA及び/または3型SMAの臨床履歴を有する成人(少なくとも18歳(18歳以上)の年齢)に投与する。他の実施形態では、患者がより若くてもよい(例えば、12~18歳、6~12歳、3~6歳、18ヶ月~3歳、6ヶ月~18ヶ月、新生児)。患者は歩行不可能であってもよいし、または歩行可能であってもよい。投薬はICM(大槽内)注射による単回用量のベクターによって行われ得る。一実施形態において、用量は、約3×1013GCから高用量の1×1014GCまでの範囲である。但し、他の好適な範囲は本明細書において提供されている。有効性評価は、運動神経評価、例えば、6分間歩行試験(6MWT)、10メートル歩行時間、RULMスコア、4段階段昇り、ナインホールペグテスト;肺機能試験、例えば、努力性肺活量(FVC)、最大呼気圧(MEP)及び最大吸気圧(MIP);呼吸機能の測定量、PedsQL(倦怠感尺度)、SMA-FRS(機能評価尺度)、電気生理学、例えば、神経伝導検査、CMAP(例えば、尺骨及び腓骨のCMAP振幅)、及び知覚検査のうちの1つ以上を含み得、CSF中のSMNタンパク質の濃度及び他の診査上のバイオマーカーが評価されることになる。
【0142】
一実施形態では、適切な濃度のベクターが入ったシリンジを使用する。ベクター投与前に腰椎穿刺を実施して所定体積のCSFを抜き取り、その後、大槽の関連解剖学的構造の可視化に役立てるためにヨウ素化造影剤をクモ膜下腔内(IC)に注射する。クモ膜下腔内用造影剤の代わりに静脈内(IV)用造影剤を針の挿入前または挿入中に投与してもよい。IV用造影剤を使用するのかIC用造影剤を使用するのかについての判断は介入施与者の裁量に委ねられる。患者は麻酔を掛けられ、挿管され、手技台上に配置される。術中神経生理学的モニタリング(IONM)装備を参加者に取り付ける。無菌技術を用いて注射部位の準備を整え覆布を掛ける。脊椎穿刺針(22~25G)をX線透視による誘導の下で大槽内へと前進させる。針配置を支援するためにより大きい誘導針を使用する。針配置の確認の後、脊椎穿刺針に延長セットを取り付け、患者のCSFで満たされるようにする。介入施与者の裁量により、造影剤材料が入ったシリンジが延長セットに連結され得、大槽内における針の配置を確認するために少量が注入され得る。CT誘導による+/-造影剤注入によって針配置を確認した後、ベクターが入ったシリンジ(例えば5.6mL)を延長セットに連結する。シリンジ内容物を1~2分掛けてゆっくりと注入して約5mLの体積を送達する。針を患者からゆっくりと取り出す。
【0143】
本明細書中で使用する場合、「対象」は、哺乳動物、例えば、ヒト、マウス、ラット、モルモット、イヌ、ネコ、ウマ、ウシ、ブタまたは非ヒト霊長類、例えば、サル、チンパンジー、ヒヒもしくはゴリラである。一実施形態において、対象は、SMAを有するヒト患者である。
【0144】
国際SMA協会分類は、SMA表現型の重症度のいくつかの度合いを発症年齢及び運動発達マイルストーンに応じて定義している。SMA0は、出生前発症及び重度関節拘縮、両側顔面神経麻痺ならびに呼吸不全を表すために提案される呼称である。I型SMAであるウェルドニッヒ・ホフマンI病は、出生から6ヶ月以内に発症する最重度の生後形態である。患者は、起立することができず、重篤な呼吸不全を有する。II型SMAは、最初
の2年以内に発症する中間形態であり、子供は起立はできるが歩行はできない。臨床経過は変化しやすい。III型(クーゲルベルグ・ウェランダー病とも呼ぶ)は2歳よりも後に始まり、大抵は慢性的発展をする。子供は少なくとも幼年期には介護なしで起立及び歩行ができる。成人形態(IV型)は最軽度であり、30歳よりも後に発症し、症例が報告されたことはほとんどなく、その有病率は正確には知られていない。
【0145】
ある場合においては、SMAは妊娠30~36週目あたりの胎児において検出される。この状況では、分娩後に新生児を可能な限り早く治療することが望ましい。子宮内で胎児を治療することが望ましいこともある。かくして、SMAを有する新生仔対象を救済及び/または治療する方法であって、hSNM1遺伝子を新生対象(例えば、ヒト患者)の神経細胞に送達するステップを含む、当該方法が提供される。SMAを有する胎仔を救済及び/または治療する方法であって、hSMN遺伝子を子宮内で胎仔の神経細胞に送達するステップを含む、当該方法が提供される。一実施形態において、遺伝子は、本明細書に記載の組成物の中に入った状態でクモ膜下腔内注射によって送達される。この方法は、本明細書に記載のコドン最適化hSMNであろうと、天然hSMNであろうと、「野生型」タンパク質に比べて増強された活性を有するhSMN対立遺伝子であろうと、またはそれらの組み合わせであろうと、機能性hSMNタンパク質をコードするいかなる核酸配列を利用するものであってもよい。一実施形態では、子宮内での処置は、胎仔におけるSMAを検出した後に本明細書に記載のhSMN構築物を投与することとして定義される。例えば、David et al,Recombinant adeno-associated virus-mediated in utero gene transfer gives therapeutic transgene expression in the sheep,Hum Gene Ther.2011 Apr;22(4):419-26.doi:10.1089/hum.2010.007.Epub 2011 Feb 2を参照されたく、参照によりこれを本明細書に援用する。
【0146】
一実施形態において、新生仔治療は、分娩から8時間以内、最初の12時間以内、最初の24時間以内または最初の48時間以内に本明細書に記載のhSMN構築物が投与されることとして定義される。別の実施形態では、とりわけ霊長類(ヒトまたは非ヒト)において、新生仔への送達は約12時間~約1週間、2週間、3週間もしくは約1ヶ月の期間以内、または約24時間後~約48時間後である。別の実施形態では、遅発型SMAの場合、症候の発症後に組成物を送達する。一実施形態において、患者の処置(例えば、最初の注射)は、1歳になる前に開始される。特定の実施形態では、例えば乳児に関して、構築物は例えば1歳になった後に再投与される。場合によっては1回より多い再投与が許容される。そのような再投与は、同じタイプのベクター、異なるウイルスベクター、または本明細書に記載の非ウイルス送達を使用して行われ得る。別の実施形態では、処置を最初の1歳になった後または2~3歳になった後、5歳になった後、11歳になった後、またはより高い年齢の時に開始する。
【0147】
本発明によれば、本明細書に記載のAAV.hSMNの「治療有効量」は、所望の転帰、すなわちSMAまたはその1つ以上の症候の治療をもたらすために送達される。他の望まれる転帰としては、筋力低下の軽減、筋力及び筋緊張の増加、側弯症の防止もしくは軽減、または呼吸器健康の維持もしくは増進、または振戦もしくは単収縮の軽減が挙げられる。他の望まれる評価項目は医師によって決定され得る。
【0148】
特定の実施形態では、本明細書において提供されるAAV.hSMNを含有する組成物の治療有効性は、以下のパラメータの1つ以上によって評価され得る。そのようなスコアは、52週目、またはより長いもしくはより短い間隔、例えば8週、12週、36週、48週もしくはそれらの間の時間でのものであり得る。投薬から所定時間後におけるRULMスコアをベースラインスコアと比較する。運動機能は、歩行可能な対象における6MW
T試験及び10メートル歩行時間によって測定され得る。運動機能をナインホールペグテスト(歩行可能及び歩行不可能な場合)及び4段階段昇り試験(歩行可能な場合のみ)によって測定してもよい。肺機能は、努力性肺活量(FVC)、最大呼気圧(MEP)、最大吸気圧(MIP)によって測定され得る。尺骨及び腓骨のCMAP振幅のベースラインからの変化を評価してもよい。PedQL Version3.0 多次元倦怠感尺度,成人用レポートモジュールを評価してもよい。SMA-FRS(機能評価尺度)を評価してもよい。DNA中のベクター及び他のAAVに基づく薬物成分のCSF、血清及び尿における薬理動態を測定してもよい。
【0149】
本明細書中で使用する場合、6MWTとは、歩行可能な対象が6MWTにおいて踏破した可能な距離の測定量のことである。6MWTは、屋内に配設された長く人通りの少ない真っ直ぐな廊下で実施されることになる。30メートルの距離は両端が橙色のコーンで標示されることになる。開始線は明るい色のテープで標示されることになる。
【0150】
RULM:上肢モジュール改訂版は、対象によって選択される片方の上肢で実施される20種の運動課題からなる。各課題における成績は評価者によって0~2の等級で評価される。
【0151】
ナインホールペグテスト:9-HPTは、上肢機能に関する手短で標準化された定量的試験である。利き手及び利き手でない方の両方の手を2回試験する。対象は、9本のピンが入った小さい浅型容器と、9つの穴が空いた木製またはプラスチック製の角材とを備えたテーブルの席に着く。ストップウォッチを開始する時の開始の命令で対象は可能な限り速く9本のピンを1本ずつ拾ってそれらを9つの穴に入れ、一旦それらが穴に入ったならばそれらを再び可能な限り速く1本ずつ取り除いてそれらを浅型容器の中へ戻す。課題を完遂するまでの合計時間を記録する。利き手による2回の連続試行に続いてすぐに、利き手でない方の手による2回の連続試行を行う。9-HPTのスコアは4回の試行の平均である。各手での2回の試行を平均し、各手についての平均時間の逆数に変換し、その後、2つの逆数を平均する。
【0152】
10メートル歩行時間:10メートル歩行時間は、10メートルを歩行するのに要する時間の測定量である。試験は、屋内に配設された長く人通りの少ない真っ直ぐな廊下で実施されることになる。10メートルの距離は両端が橙色のコーンで標示されることになる。開始線は明るい色のテープで標示されることになる。
【0153】
4段階段昇り:4段階段昇り試験評価は、対象が階段を4段昇降するのに要する時間を評価する。課題は、対象が安全に課題を完遂することができることを確保する訓練された評価者によって実施されることになる。階段は16~20cmの蹴上げ、及び手摺りを有していなければならない。対象は、可能な限り速く安全に昇降するように指示される。課題を完遂するのに要した時間と、手摺りを使用する必要との両方が記録されることになる。
【0154】
電気生理学試験は運動単位の機能を評価するために実施する。CMAP:尺骨神経の運動神経状態試験は右腕に対して優先的に実施することになるが、但し、この肢の試験を回避すべきやむを得ない理由(例えば、病前の神経損傷の重なり)がある場合は別である。これには、神経に電流を供給すること及び筋肉の運動応答を記録することを伴う。この応答は、複合筋活動電位と呼ばれる。CMAPの高さ及び面積(振幅及びAUC)が両方とも測定され得る。
【0155】
機能及び倦怠感評価尺度は次のとおりである:
PedsQL倦怠感尺度,成人用レポート:PedsQL多次元倦怠感尺度は、全身
倦怠感(6項目)、睡眠及び休息(6項目)ならびに認知的倦怠感(6項目)を評価する18項目の質問票である。
SMA-FRS:SMA-FRSは、日常生活の約10個の活動態様に基づいて簡単に実施される序数的評価尺度である。対象または介護士は最高スコアを50として各サブセットを0(完全に依存的)から5(完全に非依存的)まで採点する。
【0156】
一実施形態において、患者に対する一連の評価は以下の順序で実施される:PedsQL(倦怠感尺度)、SMA-FRS(機能評価尺度)、6MWT、15分休憩(最小)、RULM、ナインホールペグテスト、10メートル歩行、15分休憩(最小)、4段階段昇り、PFT、ならびに尺骨及び腓骨のCMAPは任意の順序で実施され得る。患者が安全に実施することができない試験は省略されることになる。
【0157】
治療前にSMA患者は、hSMN-1遺伝子を送達するために使用するrAAVベクターのカプシドに対する中和抗体(Nab)について評価され得る。そのようなNabは形質導入効率に干渉し得、治療有効性を低下させ得る。ベースライン血清Nab力価が≦1:5~≦1:20または≦1:2.5~≦1:10であるSMA患者はrAAV.hSMN1遺伝子療法プロトコールによる治療の良好な候補者である。血清Nabの力価が>1:5であるSMA患者の治療は、併用療法、例えば、rAAV.hSMNベクター送達による処置の前及び/または間での免疫抑制剤による一時的共処置を必要とする場合がある。場合によっては、AAVベクターカプシド及び/または製剤のその他の成分に対する中和抗体の評価を伴わずして免疫抑制共療法を予防手段として用いてもよい。特定の実施形態では、予備免疫抑制療法は、特にSMN活性レベルを事実上有さず導入遺伝子産物が「異物」とみなされ得る患者において、hSMN導入遺伝子産物に対する潜在的な有害免疫反応を防止する上で望ましい場合がある。
【0158】
そのような共療法のための免疫抑制剤としては、限定されないが、グルココルチコイド、ステロイド、代謝拮抗薬、T細胞阻害薬、マクロライド(例えばラパマイシンまたはラパログ)、及び細胞増殖抑制剤、例えば、アルキル化剤、代謝拮抗薬、細胞毒性抗生物質、抗体、またはイムノフィリンへの活性を有する薬剤が挙げられる。免疫抑制剤は、ナイトロジェンマスタード、ニトロソウレア、白金化合物、メトトレキサート、アザチオプリン、メルカプトプリン、フルオロウラシル、ダクチノマイシン、アントラサイクリン、マイトマイシンC、ブレオマイシン、ミトラマイシン、IL-2受容体指向性(CD25指向性)もしくはCD3指向性抗体、抗IL-2抗体、シクロスポリン、タクロリムス、シロリムス、IFN-β、IFN-γ、オピオイド、またはTNF-α(腫瘍壊死因子-アルファ)結合剤を含むこともある。特定の実施形態では、免疫抑制療法は、遺伝子療法施与よりも前に開始され得る。そのような療法は、同じ日に2つまたはそれより多い薬物(例えば、プレドニゾロン(prednelisone)、ミコフェノール酸モフェチル(MMF)及び/またはシロリムス(すなわちラパマイシン))を共投与することを伴い得る。これらの薬物のうちの1つ以上は同じ用量または調節された用量で遺伝子療法施与後も継続され得る。そのような療法は必要に応じて約1週間、約15日間、約30日間、約45日間、60日間、またはそれより長く行われ得る。特定の実施形態では、本明細書に記載のrAAVhu68.SMA遺伝子療法を受けている患者は、ヌシネルセンによる前処置を受けた者である。他の実施形態では、患者は、ヌシネルセンによる継続的処置を受け、遺伝子療法後にそのようなヌシネルセン処置の必要性の低下または消失について追跡評価される。rAAVhu68.SMAを受けている患者は、他の療法、限定されないが例えば、ピリドスチグミン[UMC Ultrecht]、RO7034067[Hoffman-LaRoche]、セレコキシブ、CK-2127107[Astellas
Pharma]を受けてもよい。特定の実施形態では、rAAVhu68.SMAの有効性をそのような共療法の頻度及び/または用量の減少によって測定する。特定の実施形態では、AAVhu68-SMN1療法は、長持ちはするものの、選択された患者に望ま
れる程高い矯正をもたらさないことがあり、それゆえ早くもAAVhu68-SMN1処置の6ヶ月後にヌシネルセン(スピンラザ(商標))への転換が望まれることがあることから、患者へのヌシネルセン(スピンラザ(商標))の投与を2つの薬剤の共投与とみなすことができよう。SMAに対する現在の標準的医療についての議論を提供しているWang et al,Consensus Statement for Standard of Care in Spinal Muscular Atropy、及びwww.ncbi.nlm.nih.gov/books/NBK1352/も参照されたい。
【0159】
例えば、SMAにおいて栄養が懸念事項である場合、胃瘻チューブを設置することが適切である。呼吸機能が悪化するときは気管切開または非侵襲的呼吸支援が提案される。睡眠を障害する呼吸は、夜間に持続的気道陽圧を用いることによって処置され得る。SMA
II及びSMA IIIを有する個人の側弯症のための手術は、努力性肺活量が30%~40%より大きい場合に安全に行われ得る。電動車椅子及びその他の装備は生活の質を向上させ得る。米国特許第8211631号も参照されたく、参照によりこれを本明細書に援用する。
【0160】
「a」または「an」という用語が1つ以上を指すことに留意されたい。したがって、「a」(または「an」)、「1つ以上」及び「少なくとも1つ」という用語は本明細書中で交換可能に使用される。
【0161】
「含む(comprise)」、「含む(comprises)」及び「含んでいる」という語は、排他的にではなく包括的に解釈されるべきである。「からなる」、「からなっている」という語及びその変化形は、包括的にではなく排他的に解釈されるべきである。明細書中の様々な実施形態が「含んでいる」表現を用いて表されているが、他の状況の下では関係する実施形態が「からなる」または「から本質的になる」表現を用いて解釈及び説明されることも意図される。
【0162】
本明細書中で使用する場合、「約」という用語は、特に指定がない限り、所与の基準からの10%(±10%)の変動を意味する。
【0163】
本明細書中で使用する場合、「疾患」、「障害」及び「症状」は、対象の異常な状態を指して交換可能に使用される。
【0164】
「発現」という用語は、本明細書中ではその最も広い意味で使用され、RNAの産生、またはRNAとタンパク質との産生を含む。RNAに関して「発現」または「翻訳」という用語は、詳しくは、ペプチドまたはタンパク質の産生に関する。発現は一過的である場合もあるし、または安定的である場合もある。
【0165】
「翻訳」という用語は、mRNA鎖がアミノ酸配列の組立を制御してタンパク質またはペプチドを生成する、リボソームにおけるプロセスに関する。
【0166】
本明細書中で特に定義していない限り、本明細書中で使用する科学技術用語は、当業者によって、及び本願で使用する用語の多くに対する一般的手引きを当業者に提供するものである公開文を参照することによって通常理解されるのと同じ意味を有する。
【0167】
以下の実施例は例示に過ぎず、本発明を限定することは意図されない。
【実施例
【0168】
実施例1-新規クレードF AAV - AAVhu68
以下の改変を伴ってQIAampカラム(Qiagen)を製造者の推奨に従って使用してヒト組織試料からPCR鋳型としての組織DNAを抽出した。Gao,et al[Proc Natl Acad Sci USA,2002 Sep 3,99(18):11854-11859(電子公開2002年8月21日)]によって記載されているようにQ5DNAポリメラーゼ(Q5(登録商標)Hot Start High-Fidelity 2X Master Mix,NEB)を、試料中の潜在的AAVの完全長VP1遺伝子を回収するその高い忠実度及び堅牢な効率ゆえに選択し、以下のとおりに改変されたプライマー組を使用した:AV1NSの代わりにプライマーprm504[GCTGCGTCAACTGGACCAATGAGAAC、配列番号23]を使用し、逆方向プライマーAV2CASの代わりにprm505[CGCAGAGACCAAAGTTCAACTGAAACGA、配列番号24]を使用した。PCR条件を以下のとおりに改変した。
【表5】
PCRプログラム
【表6】
【0169】
PCRからの約3kbのバンドをゲルから切り出し、QIAquickゲル抽出キット(Qiagen)を使用してDNAを抽出し、Zero Blunt(登録商標)TOPO(登録商標)PCRクローニングキット(Thermo Fisher Scientific)にクローニングした。プラスミドを配列決定してAAV VP1遺伝子の完全長を得た。試料の大部分について少なくとも3つのプラスミドが完全に配列決定され、その試料の最終AAV配列としての共通配列が導き出された。
【0170】
取得した、AAVhu68のvp1カプシドタンパク質をコードする核酸配列を配列番号7に示す。図8B~Dも参照されたい。AAVhu68のvp1アミノ酸配列を図8A及び配列番号8に示す。AAV9、AAVhu31及びAAVhu32と比較してAAVhu68では2つの突然変異(A67E及びA157V)が必須であると同定された(図8A中に丸で囲って示す)。
【0171】
その後、パッケージング効率、収率及び形質導入特性を評価するために、pAAV2/9主鎖のAAV9 VP1遺伝子の場所にhu68のVP1遺伝子を搭載することによってpAAV2/hu68トランスプラスミドを作った。pAAV2/9プラスミドは、カプシド遺伝子を挟んでAAV2の5’及び3’ITRを含有し、Penn Vector
Core[University of Pennsylvania,Phila,P
A US,pennvectorcore.med.upenn.edu]から入手することができる。
【0172】
実施例2-AAVhu68ベクター
GFP及びLacZなどの様々なタグを保有しているAAVhu68及びAAV9ベクターを生成及び評価した。Gao et al[Gao,Guang-Ping,et al.“Novel adeno-associated viruses from rhesus monkeys as vectors for human gene
therapy.”Proceedings of the National Academy of Sciences 99.18(2002):11854-11859]によって記載されているように293細胞において三重トランスフェクション技術を用いてベクターの各々を生成した。
【0173】
1.pAAVhu68トランスプラスミドの生産
vp1カプシドタンパク質をコードする核酸配列を配列番号7に示す。
【0174】
パッケージング効率、収率及び形質導入特性を評価するために、pAAV2/9主鎖のAAV9 VP1遺伝子の場所にhu68のVP1遺伝子を搭載することによってpAAV2/hu68トランスプラスミドを作った。pAAV2/9プラスミドは、カプシド遺伝子を挟んでAAV2の5’及び3’ITRを含有し、Penn Vector Core[University of Pennsylvania,Phila,PA US,pennvectorcore.med.upenn.edu]から入手することができる。
【0175】
2.AAVhu68ベクターの収率
10%のウシ胎仔血清を補充し4.5g/Lのグルコース、L-グルタミン及びピルビン酸ナトリウムを含む1XのDMEM(ダルベッコ改変イーグル培地)中で293細胞を5%のCOの雰囲気下、37℃で培養及び維持した。トランスフェクションは、ベクタープラスミドをpAAV2/hu68またはpAAV2/9で置き換えてGao et al[Gao,Guang-Ping,et al.“Novel adeno-associated viruses from rhesus monkeys as vectors for human gene therapy.”Proceedings of the National Academy of Sciences 99.18(2002):11854-11859]によって記載されているように実施された。利用した導入遺伝子カセットはCB7.CI.ffLuciferase.RBGであった。トランスフェクトした細胞をさらに6ウェルプレートで培養した。Gao et al[Gao,Guangping,et al.“Purification of recombinant adeno-associated virus vectors by column chromatography and its performance in vivo.”Human gene therapy 11.15(2000):2079-2091.]に記載されているように導入遺伝子カセットのウサギベータ-グロビンポリA領域を標的とするプローブ及びプライマーを使用することによるTaqMan(Applied Biosystems)分析によってウイルス定量を行うために、細胞の全溶解物及び上清を回収した。上清の力価と全溶解物の力価との両方に関して6つのpAAV2/9プラスミド及び6つのpAAV2/hu.68プラスミドの収率を6ウェルプレートで直接比較した。各プラスミドは個々の細菌コロニーから得たものであった。
【0176】
全溶解物に関してAAVhu68の収率は、AAV9のそれと類似していることが分かった。しかしながら、上清ではAAVhu68の収率がAAV9のそれよりも有意に高か
った。したがって、生産の観点からAAVhu68はAAV9に比べてより良好なベクターであることが実証された、というのも、大規模ウイルス生産には上清が好まれるからである。
【0177】
3.AAVhu68.LacZの生体内形質導入
導入遺伝子として核局在性細菌β-ガラクトシダーゼ(nLacZ)をコードする配列を挿入することによってAAVhu68.CB7.nLacZ(AAVhu68.LacZとも呼ぶ)を生成し、その後、上記のように生産した。パッケージング効率、収率、形質導入特性、形質導入効率、及びAAVhu68の生体内での向性を評価するために、様々な投与方法、例えば、静脈内、筋肉内及び鼻腔内投与によってマウスに5×1011ゲノムコピーのAAVhu68.LacZベクターを注入した。ベクター投与から2週間後にマウスを屠殺した後、筋肉、肺、肝臓及び心臓を採取した。各臓器の凍結切片を作製し、加工し、LacZ遺伝子発現を検出する従来のプロトコールとして分析した[Bell,Peter,et al.“An optimized protocol for detection of E.coli β-galactosidase in lung tissue following gene transfer.”Histochemistry and cell biology 124.1(2005):77-85.]。これらの結果から、AAVhu68が高い形質導入効率及び広い組織/臓器向性を実証したことが明らかになった。
【0178】
4.AAV9.GFPと比較されるAAVhu68.GFPの生体内形質導入
導入遺伝子として緑色蛍光タンパク質(GFP)をコードする遺伝子を挿入することによってAAVhu68.GFP及びAAV9.GFPを生成し、その後、上記のように生産した。パッケージング効率、収率、形質導入特性、形質導入効率、及びAAVhu68及びAAV9の生体内での向性を評価するために、マウスに1×1010GCまたは1×1011GCの用量でAAVhu68.GFPまたはAAV9.GFPを投与した。ベクターを脳室内に投与されたマウスの様々な脳領域(海馬、運動野及び小脳)からの切片を調査した。1×1010GCのAAV9.GFPを注射されたマウスからのものを除いて、試験した全ての海馬試料においてAAVベクターの形質導入が認められた。運動野では、AAVhu68.GFPの形質導入がAAV9のそれよりも良好であることが認められた。さらに、小脳におけるAAVhu68.GFPの形質導入は、マウスに1×1011GCのベクターを注射した場合にのみ認められた。これらのマウスでは、AAVhu68はAAV9に比べてより高い形質導入効率及びより広い向性を脳において呈した。
【0179】
さらなる実験では、AAVhu68.GFPを静脈内に投与されたマウスからの様々な臓器、例えば、肝臓、腎臓、心臓及び膵臓を準備し、Wang et al[Wang L,Calcedo R,Bell P,Lin J,Grant RL,Siegel
DL,Wilson JM,Hum Gene Ther.2011 Nov;22(11):1389-401、Wang L,Calcedo R,Wang H,Bell P,Grant R,Vandenberghe LH,Sanmiguel J,Morizono H,Batshaw ML,Wilson JM,Mol Ther.2010 Jan;18(1):126-34]によって記載されているように加工した。肝臓では強い陽性信号が観察されたが、腎臓、心臓及び膵臓はベクターの形質導入も示し、AAVhu68ベクターの広い組織/臓器向性が示された。
【0180】
実施例3-hSMNを含有するAAVベクター
AAVhu68.CB7.CI.hSMN1co.RBGは外部の構成要素と内部のDNAゲノムとからなる。外部ベクター構成要素は、およそ1:1:8~10の比でVP1とVP2とVP3との3つのAAVウイルスタンパク質の60コピーからなる血清型hu68、T=1の二十面体カプシドである。カプシドは、2つのAAV末端逆位反復配列(
ITR)に挟まれたヒト運動神経細胞生存1(hSMN1)導入遺伝子からなる一本鎖DNAゲノムを含有する。エンハンサー、プロモーター、イントロン、hSMN1コード配列及びポリアデニル化(ポリA)シグナルがヒトSMN1導入遺伝子を構成している。ITRは、ベクター生産中にゲノムの複製及びパッケージングを担う遺伝要素であり、rAAVを生成するのに必要とされる唯一のウイルスシスエレメントである。hSMNコード配列の発現は、サイトメガロウイルス(CMV)即時早期エンハンサー(C4)とニワトリベータアクチンプロモーターとのハイブリッドであるCB7プロモーターによって促される。このプロモーターからの転写はニワトリベータアクチンイントロン(CI)の存在によって増進される。hSMN1 mRNA転写産物の終結を媒介するためにウサギベータグロビンポリAシグナルが含められる。AAVhu68.CB7.CI.hSMN1co.RBGベクターゲノムの模式図を図1Aに示す。
【0181】
配列エレメントの説明:
1.末端逆位反復配列(ITR):AAV ITR(GenBank#NC001401)は、両端が同一であるが反対向きになっている配列である。AAV及びアデノウイルスヘルパー機能がトランスで提供されるのに対し、AAV2 ITR配列はベクターDNA複製起点としてもベクターゲノムのパッケージングシグナルとしても機能する。このように、ITR配列はベクターゲノムの複製及びパッケージングに必要とされる唯一のシス配列に相当する。
2.CMV即時早期エンハンサー(382bp、GenBank#K03104.1)。
3.ニワトリβ-アクチンプロモーター(282bp、GenBank#X00182.1)は、プロモーターであり、高レベルのヒト運動神経細胞生存1(hSMN1)発現を促すために使用される。
4.ニワトリβ-アクチンイントロン:ニワトリβ-アクチン遺伝子(GenBank#X00182.1)からの973bpのイントロンはベクター発現カセット内に存在する。イントロンは転写されるが、スプライシングによって成熟mRNAから除去され、結果としてその両側にある配列がまとめ合わされる。発現カセットにおけるイントロンの存在は、核から細胞質へのmRNAの輸送を容易にしてそれゆえに翻訳のためのmRNAの定常レベルの蓄積を増進することが示された。これは、遺伝子発現のレベルを向上させるために意図される遺伝子ベクターの一般的特徴である。
5.コード配列:ヒトSMN1配列(www.ncbi.nlm.nih.gov/nuccore/NM_000344.3)はコドン最適化及び合成された(UPenn)。脊髄性筋萎縮症(SMA)は、テロメア側にある遺伝子である運動神経細胞生存1(SMN1)における突然変異によって引き起こされる。SMN1における突然変異は下位運動ニューロンに対する選択的毒性を生じさせ、結果として進行性のニューロン喪失及び関連する筋肉の筋力低下及び変性を招く。本発明者らが使用する導入遺伝子はSMN1のアイソフォームDである。アイソフォームDは最長のアイソフォームをコードし、この変異型は、CNSにおいてだけでなく遍在的にもSMN1によって産生する主たる転写産物/アイソフォームであると考えられる。
6.ポリアデニル化シグナル:127bpのウサギβ-グロビンポリアデニル化シグナル(GenBank#V00882.1)は、抗体mRNAの効率的なポリアデニル化のためのシス配列を提供する。このエレメントは、転写終結、新生転写産物の3’端部における特異的切断事象、及び長鎖ポリアデニル尾部の追加のためのシグナルとして機能する。
【0182】
[Mizukami,Hiroaki,et al.A Protocol for AAV vector production and purification.Diss.Division of Genetic Therapeutics,Center for MolecularMedicine,1998.]に記載されている
ように293細胞において従来の三重トランスフェクション技術を用いてベクターを作製した。全てのベクターは、以前に教示されているようにペンシルバニア大学のVector Coreによって生産された[Lock,M.,et al,Hum Gene Ther,21:1259-1271(2010)]。
【0183】
AAVベクターのゲノムコピー(GC)力価を決定するために、以前(Lock,Martin,et al.“Absolute determination of single-stranded and self-complementary adeno-associated viral vector genome titers
by droplet digital PCR.”Human gene therapy methods 25.2(2013):115-125)に教示されているようにデジタル液滴ポリメラーゼ連鎖反応(ddPCR)に基づく技術を実施した。方法は実用的であり、qPCRと同等またはそれより良好な力価を報告し、プラスミド標準曲線を必要としない。利用したアッセイは、DNアーゼIによる消化と、それに続くカプセル化ベクターゲノムコピーを測定するためのデジタルPCR分析とを含むものであった。DNA検出は、ポリA領域を標的とする配列特異的なプライマー、及びこれと同じ領域にハイブリダイズする蛍光標識プローブを併用して成し遂げられた。
【0184】
実施例4-SMAのモデルの中のAAVhu68.CB7.CI.hSMN.RBG
全ての動物について手順はペンシルバニア大学の動物実験委員会(IACUC)によって承認されたプロトコールに従って実施した。全てのマウスはペンシルバニア大学のトランスレーショナル研究所の動物施設で飼った。
【0185】
マウスの中にはヒトSMN1(hSMN1)と等価な1つのSMN遺伝子が存在している。この遺伝子の完全喪失は胚致死的な表現型をもたらす(Monani UR,Sendtner M,Coovert DD et al)。ヒトのセントロメア側にある運動神経細胞生存遺伝子(SMN2)は、Smn(-/-)マウスの胚致死性を救済し、脊髄性筋萎縮症を有するマウスをもたらす。Hum Mol Genet 2000;9:333-9、Schrank B,Gotz R,Gunnersen JM et al.Inactivation of the survival motor neuron gene,a candidate gene for human spinal muscular atrophy,leads to massive cell death in early mouse embryos.Proc Natl
Acad Sci USA 1997;94:9920-5)。治療薬を評価するために最も一般的に使用されるSMAの前臨床モデルの1つは、SMNΔ7マウスモデルである。SMNΔ7マウスモデルは、FVB背景において開発され、2コピーのヒトSMN2(hSMN2)と、エクソン7を除去された2コピーのhSMN2とを有する遺伝子導入マウス(SMNΔ7)である。野生型(WT)SMNΔ7マウスは2コピーのマウスSMN(mSMN)を内包し、ヘテロ接合体(HET)マウスは1コピーのmSMNを有し、ノックアウト(KO)SMNΔ7マウスにはmSMNがない。KO SMNΔ7マウスは平均寿命が13~15日であり、脊髄における運動ニューロン数の減少、筋線維径の減少、体重減少、立直り及び歩行の悪化、ならびに神経分布が部分的であるかまたは全くない筋接合部の数の増加を呈する。SMNΔ7マウスモデルの主要な利点は、治療介入が疾患減弱に影響を与えているか否かを速やかに判別するのに十分な重度の表現型を呈しながらも、およそ5日の平均寿命を有する重度SMAモデルに比べて治療機会が増加することである。Le TT,Pham LT,Butchbach ME et al.SMNDelta7,the major product of the centromeric survival motor neuron(SMN2) gene,extends survival in mice with spinal muscular atrophy and associates with full-lengt
h SMN.Hum Mol Genet 2005;14:845-57を参照されたい。
【0186】
実施例4では、mSMN-/-hSMN2+/+SMNΔ7+/+(KO SMNΔ7、以下の実施例ではSMNΔ7とも記される)マウスを利用した。SMNについての免疫組織化学によって、SMNΔ7仔が皮質、小脳及び脊髄においてSMN1の発現を呈しなかったことが実証された(図2)。SMNΔ7仔、野生型及びヘテロ接合体の同腹仔は出生時の3×1010GCのAAVhu68.CB7.CI.hSMN1.RBGベクターの注射から23日後にSMNの発現の増加が認められた。投与は左側脳室内への脳室内注射によって実施した。
【0187】
試験ベクターのウイルス形質導入をさらに、AAVhu68.CB7.CI.hSMN1co.RBG処置動物の皮質の中のコドン最適化hSMN1リボ核酸(RNA)のin-situハイブリダイゼーション(ISH)によって評価した。野生型及びSMNΔ7動物を対照として提供した。図2の下パネルに示す結果は、試験用量での高い形質導入率を実証している。
【0188】
免疫組織化学によって運動ニューロン形質導入の百分率を決定する分析を実施する。脳及び脊髄の両方からのホモジネートのSMN発現を検出するためにウェスタンブロットによるさらなる分析を実施する。
【0189】
実施例5-AAVhu68.CB7.CI.hSMN1.RBGはSMAの齧歯動物モデルの生存率を向上させる
新生mSMN1-/-hSMN2+/+SMNΔ7+/+(SMNΔ7)、ヘテロ接合体同腹仔(HET)及び野生型C57BL/6J(WT)仔においてAAVhu68.CB7.CI.hSMN1.RBGの脳室内注射の有効性を評価した。試験マウスの左側脳室の中に3×1010GCか8.76×1010GCかのどちらかのAAVhu68.CB7.CI.hSMN1co.RBGの単回の脳室内(ICV)注射を生後24時間以内にリン酸緩衝生理食塩水(PBS)と共に与えた。PBSを注射した仔を対照として役立てた(図3A)。マウスを毎日監視した。安楽死基準(前回の体重測定からの20%の体重減少、または指の壊死)を満たすかまたは離乳前の死亡が認められたいかなるマウスについても遺伝子型判定を行い、また、離乳まで生存した全てのマウスについて遺伝子型判定を行った。
【0190】
2ヶ月の観察期間中、PBSを注射した野生型、ヘテロ接合体仔と、ベクターを注射したヘテロ接合体仔とでは生存率が類似しており、ベクターまたは投与経路に関して毒性がないことが示された(図3A)。PBS処置WT動物と、3×1010GCか約9×1010GCかのどちらかのAAVhu68.CB7.CI.hSMN1co.RBGで処置したWTマウスとの間に立直り反射の有意差は認められなかった(図3A)。PBSのみを注射したSMNΔ7仔(n=8)の生存期間中央値は15日であった。他方、低い方の用量のベクター(3×1010GC/1.5g仔)で処置したところ、生存期間中央値は有意に37日にまで増加した(n=7)。ベクターの用量を仔1匹あたり8.76×1010GCに上げた場合(n=10)生存期間中央値は23日であった(図3B)。この結果は、出生時におけるどちらの用量のAAVhu68.CB7.CI.hSMN1.RBGの脳室内注射も毒性の検出が最小限でありながらSMNΔ7仔の生存期間を好結果に改善したことを示した。
【0191】
実施例6-AAVhu68.CB7.CI.hSMN1.RBGはSMAの齧歯動物モデルの成長を促進する
生後日数(PND)3日目から開始してマウスが安楽死基準を満たすかまたは死亡が認
められるまでマウスの体重測定を2日ごとに行い、結果を図4Aにプロットした。全ての時間点にわたる変数の全体的変化をどの2群間においても比較した。
【0192】
低用量及び高用量の両方のPBSまたはベクターで処置した野生型及びヘテロ接合体仔は類似した成長曲線を示し、ベクターまたは投与経路に関して毒性がないことが示された。PBSで処置したSMNΔ7仔は進行性の体重減少及び15日の生存期間中央値を呈した。他方、AAVhu68.CB7.CI.hSMN1co.RBGベクターを注射した場合、仔の体重は生後ゆっくりではあるが着実に増加した。生後日数15日目(P15)では、3つ全ての群からの野生型仔は体重が同程度であったが、ベクターで救済したSMNΔ7仔はPBSのみの群よりも有意に重かった(図4B)。生後日数30日目(P30)では、SMNΔ7仔及び野生型/ヘテロ接合体同腹仔はどちらも、ベクター処置の高用量と低用量との間には体重の差異がないことを実証した(図4C)。
【0193】
「nlme」パッケージ内の機能「lme」を使用するRプログラム(バージョン3.3.1、cran.r-project.org)内の線形混合効果モデリングを用いてさらなる比較を行った。性別は共変量として解析に含めた。線形混合効果モデルは、異なる時間点にわたって観察結果の依存関係を説明するものであり、経時的データの解析にとって好ましい方法である。PBS処置WT動物と、3×1010GCか約9×1010GCかのどちらかのAAVhu68.CB7.CI.hSMN1co.RBGで処置したWTマウスとの間に体重の有意差は認められず(図4D及び図4E)、ベクターまたは投与経路に関して毒性がないことが示された。健常同腹仔と比較してSMNΔ7仔は体重の増加速度がより遅いことを実証したが(図4F)、SMNΔ7仔における3×1010GC/仔または8.76×1010GC/仔のAAVhu68.CB7.CI.hSMN1co.RBGによる処置は体重増加を有意に増進した(図4I及び図4J)。
【0194】
これらの結果は、AAVhu68.CB7.CI.hSMN1co.RBGが体重によって示されるSMNΔ7仔の成長を改善したことを示唆した。
【0195】
実施例7-機能評価はSMAの齧歯動物モデルにおけるAAVhu68.CB7.CI.hSMN1.RBGの望ましい効果を明らかにする
後肢懸垂試験と立直り反射試験との2つの機能評価を実施して、本明細書に記載のベクターの処置に関するSMAの発展及び進行を評価した。
【0196】
SMAの新生仔マウスモデルにおいて近位後肢筋力及び疲労を評価するために、後肢懸垂試験のプロトコールを採用し、Behavior Phenotype for neonates:Hind Limb Suspension Test(a.k.a.Tube Test),SOP#SMA_M.2.2.001 from TREAT-NMD(El-Khodor et al.)から最適化した。後肢筋力及び疲労を測定するパラメータとして後肢懸垂(HLS)スコア及び垂下時間(TSH)を含めた。試験は生後2日ごとに2連続試行で実施した。各試行を続けるのは最長60秒までとした。HLS及びTSHの両方を同じ試行で測定した。最初の15秒はHLSスコアを決定するために使用した。TSHについては、動物が落下するまで計り続けた時間か、60秒に達した時間かのどちらか早い方とした。さらに、栄養摂取競争による偏りを避けるために、動物が10匹よりも多い同腹仔はこの試験から除外した。仔が5匹未満である同腹仔はこの試験から除外した、というのも、母性的養育の増加はより軽度の表現型をもたらし得、試験の偏りを招くからである。
【0197】
PBSまたはベクターで処置した野生型またはヘテロ接合体仔では成長によってHLSスコアの上昇が観察された代わりに、PBSを注射したSMNΔ7仔は、後肢筋力の低下を示唆してHLSスコアの低下を呈した(図5B)。しかしながら、仔1匹あたり3×1
10GCのAAVhu68.CB7.CI.hSMN1.RBGを単回注射した場合、HLSスコアはSMNΔ7仔の発育の間安定したままであった。さらに、用量を仔1匹あたり8.76×1010GCに増やすと、時間どおりにHLSスコアのわずかな上昇が認められた。それらの結果は、AAVhu68.CB7.CI.hSMN1co.RBGベクターがSMNΔ7仔の機能発達を改善したことを示す。
【0198】
垂下時間(TSH)を上記のとおりに記録し、落下までの潜時の指標として役立てたが、SMNΔ7仔とその健常同腹仔とで差異は認められなかった。この結果は、TSHがSMNΔ7モデルにおいて筋機能の低下を明らかにすることができなかったことを示唆しており、このためさらなる評価からは除外した。
【0199】
SMAの新生仔マウスモデルにおいて移動能力を試験し筋力を評価するために、立直り反射試験のプロトコールを採用し、Behavior Phenotype for neonates:Righting Reflex,SOP#MD_M.2.2.002
from TREAT-NMD(Didonato et al.)から最適化した。それは、筋力低下及び/または全身的不健康によって影響を受け得る全身体力を、マウスがその正常な立ち位置から外された時に体を向きを正す能力を測定することによって検査するものであった。個々の動物をその飼育カゴから取り出し、4本の手足が全て上を向くように仰向け位置に配置した。反転位置にある動物を安定化させるために指を胸の上に配置した。その後、指を除けてタイマーを開始した。動物が腹這いに向き直ってそれが立っている面に4本の手足を全て置いた時点でタイマーを止めた。各試行の後に動物をその飼育カゴへ戻し、5分間休憩させた。
【0200】
SMNΔ7仔を生後日数7日目から生後日数17日目まで2日ごとに試験した。各試行は最長で60秒とした。この期間内で動物が正常な位置に戻るのに要した時間を用いて筋力を定量した。動物が所与時間以内に立ち直ることができなかった場合には試行を終了し、立直りまでの時間を60秒として記録した。
【0201】
さらに、栄養摂取競争による偏りを避けるために、動物が10匹より多い同腹仔はこの試験から除外した。仔が5匹未満である同腹仔はこの試験から除外した、というのも、母性的養育の増加はより軽度の表現型をもたらし得、試験の偏りを招くからである。立直り反射試験を後肢懸垂試験と一緒に同じ日に用いたときは、動物の筋肉が疲弊するのを防ぐためにそれを常に最初に行った。
【0202】
群間の詳細な比較を提供するため及び性別を原因とする変動を減らすために、さらなる解析を実施した。全時間点にわたる変数の全体的変化をどの2群間においても比較した。比較は「nlme」パッケージ内の機能「lme」を使用するRプログラム(バージョン3.3.1、cran.r-project.org)内の線形混合効果モデリングを用いて行った。性別は共変量として解析に含めた。動物が直立位置に戻るのに要した記録時間を性別ごとに正規化し、データを図6D~Jにプロットした。PBS処置WT動物と、3×1010GCか約9×1010GCかのどちらかのAAVhu68.CB7.CI.hSMN1co.RBGで処置したWTマウスとの間に立直り反射の有意差は認められなかった(図6D及び図6E)。
【0203】
結果は、野生型またはヘテロ接合体仔が直立位置に戻るのに有限時間を要し、この期間が成長によって減少した一方、SMNΔ7仔は所与時間の間にその向きを正すことができなかった、ということを実証した(図6)。出生時に仔1匹あたり3×1010GCまたは仔1匹あたり8.76×1010GCのAAVhu68.CB7.CI.hSMN1.RBGを注射することによって、SMNΔ7仔において位置を正すために費やされた時間は有意に減少し、生後日数17日目には野生型及びヘテロ接合体仔が示す正常レベルに戻
り、SMAの齧歯動物モデルにおいてAAVhu68.CB7.CI.hSMN1.RBGが機能発達を好結果に改善したことが示された。
【0204】
興味深いことに、KOでは、生存期間及び体重増加の中央値が用量依存的に改善されなかったが、立直り反射は用量依存的に改善された。これらのデータに基づけば、SMNΔ7 KOにおいて3×1010GC及び約9×1010GCのAAVhu68.CB7.CI.hSMN1co.RBGは最小有効用量(MED)を上回っていると結論付けられる。
【0205】
結論を述べると、AAVhu68.CB7.CI.hSMN1.RBGの単回脳室内注射は、新生SMNΔ7マウスのクモ膜下腔内(脳室内)に投与された場合に実質的な運動ニューロン形質導入及びそれに付随する機能矯正をもたらした。
【0206】
実施例8-組織学的分析はSMAの齧歯動物モデルにおけるAAVhu68.CB7.CI.hSMN1.RBGの望ましい効果を明らかにする
SMAモデルにおける筋線維の組織学的及び形態学的弱化、ならびにAAVhu68.CB7.CI.hSMN1.RBGの注射による回復を評価するためにさらなる試験を実施する。ヘマトキシリン及びエオジン染色ならびにα-ジストロフィンに対する免疫組織化学染色によって前脛骨筋中、大腿四頭筋中、横隔膜中、肋間筋中、頭最長筋中及び舌中の筋線維を見えるようにする。断面積(CSA)、線維径及び中心核形成線維(CNF)の百分率をパラメータとして利用する。CSA決定には、円形または多角形の線維のみを考慮に入れた。
【0207】
実施例9-野生型及びSMNΔ7マウスでのAAVhu68.CB7.CI.hSMN1.RBGの用量範囲及び形質導入効率
最高用量の潜在的毒性、AAVhu68.CB7.CI.hSMN1co.RBGの用量依存的発現を決定するため、及びSMNΔ7マウスでのAAVhu68.CB7.CI.hSMN1co.RBGの最小有効用量(MED)を決定するために、HET/HET交配から生産された同腹仔全体に左側脳室の中(脳室内)(ICV)へのリン酸緩衝生理食塩水(PBS)、マウス1匹あたり1×10GC、3×10GC、1×1010GC、3×1010GCまたは7×1010GCのAAVhu68.CB7.CI.hSMN1co.RBGの注射を生後24時間以内に施した。マウスは試験全体にわたって毎日監視した。安楽死基準(前回の体重測定からの15%の体重減少、または哺乳不能)を満たすいかなるマウスも安楽死させた。死亡が認められたかまたは試験13日目より前に安楽死させたマウスは剖検しなかった。
【0208】
試験の3、5、7、9、11及び13日目にマウスの体重を測った。試験3日目にマウスに入れ墨し、遺伝子型判定を行った。試験7日目及び13日目にマウスを3回の立直り反射検査に供した。均一な同腹仔サイズを維持するために試験9日目に同腹仔を間引いた。同腹仔サイズが動物4匹に等しくなるように全てのKOならびに対応する数のHET及びWTを含むように同腹仔を間引いた。運動ニューロン形質導入及び筋線維径の分析のために試験13日目に動物を安楽死させ剖検した。
【0209】
AAVhu68.CB7.CI.hSMN1co.RBGのどの用量も、HET/WT及びKO SMNΔ7マウスの両方において十分に忍容された。図9A中及び図9B中のデータは1用量あたりたったの2リットルしか表していないことから、1×10GCで処置したHET/WT動物において有意に減少した体重は、母親及び同腹仔サイズの変動性が原因であると考えられた(図9B)。さらに、1×10GC群内の1匹のKOは15%より大きく体重が減少したために試験9日目に安楽死せねばならなかった。より高い用量のAAVhu68.CB7.CI.hSMN1co.RBGは、HET/WT動物の
体重を変化させず、PBS処置KO対照に比べてKO動物の体重増加を増進した(図9A及び図9B)。これらのデータに基づけば、SMNΔ7マウスにおいて1×1010GCはAAVhu68.CB7.CI.hSMN1co.RBGのMEDを表すと結論付けられる。
【0210】
立直り反射については、試験7日目において様々な用量群のHET/WT動物間にかなりの変動があった(図10A)。しかし、試験13日目までに全ての用量群のHET/WT動物は平均立直り時間がおよそ1秒となった(図10A)。この試験7日目での変動は、母親及び同腹仔サイズの変動性が原因であると考えられた。体重追跡評価データに類似して1×1010GC以上の用量では、AAVhu68.CB7.CI.hSMN1co.RBGを処置されたKOは試験13日目においてPBS処置KO対照に比べて立直り時間の有意な改善を呈した(図10B)。
【0211】
したがって、生存中における体重追跡評価と立直り反射との測定に基づけば、SMNΔ7マウスにおけるAAVhu68.CB7.CI.hSMN1co.RBGの現行のMEDは1×1010GCであると結論付けられた。
【0212】
運動ニューロン形質導入及び筋線維径の組織学的測定結果を評価する。追加の同腹仔を上の実施例9で記載される実験に参加させる。
【0213】
さらに、参加させた同腹仔ではベクターのどの用量に関しても急性毒性の兆候は観察されず、13日間の試験期間にわたってベクターに関係する毒性の兆候がなかった。
【0214】
ICV投与後の成体マウスにおけるAAVhu68.CB7.CI.hSMN1co.RBGの潜在的毒性及び忍容性をさらに評価するために、雄及び雌の成体C57BL/6Jのクモ膜下腔内にAAVhu68.CB7.CI.hSMN1co.RBGを注射した。この試験で用いた総用量は上記新生仔実験で用いたものと同等であったが、脳1グラムあたりの用量は、新生マウスの推定脳質量が0.2gであるのに比べて成体マウスの推定脳質量が0.4gであることため、2倍異なっていた。試験14日目の時点では全ての用量を含めたが、試験28日目の時点ではビヒクル及び7×1010GCのみを反復試行した。
【0215】
適用可能な場合での試験0日目、7日目、14日目、21日目及び28日目に体重を追跡評価した。剖検で採取した血清に対して臨床化学を実施する(適用可能な場合での試験14日目または試験28日目)。脳、脊髄、心臓、肺、肝臓、脾臓、腎臓、坐骨神経及び大腿四頭筋を微細組織病理学的評価のために採取した。全てのパラメータをビヒクル処置動物と比較した。
【0216】
試験14日目を経ると罹患または死亡はどの群にもなかった。性別一致ビヒクル処置対照と比較して、AAVhu68.CB7.CI.hSMN1co.RBGのどの用量も体重軌跡に影響を与えなかった(図14A~B)。
【0217】
上記実施例9でのモデルにおける筋線維の組織学的及び形態学的弱化、ならびにAAVhu68.CB7.CI.hSMN1.RBGの注射による回復を評価するためにさらなる試験を実施する。ヘマトキシリン及びエオジン染色ならびにα-ジストロフィンに対する免疫組織化学染色によって前脛骨筋中、大腿四頭筋中、横隔膜中、肋間筋中、頭最長筋中及び舌中の筋線維を見えるようにする。断面積(CSA)、線維径及び中心核形成線維(CNF)の百分率をパラメータとして利用する。CSA決定には、円形または多角形の線維のみを考慮に入れた。
【0218】
実施例10-アカゲザル中のhSMN1含有AAVベクター
この試験の目的は、アカゲザルにおいて種々のクモ膜下腔内経路での投与を評価してどの経路が最も堅牢な脊髄運動ニューロン形質導入をもたらすかを判定すること、及びアカゲザルにおけるAAVhu68.CB7.CI.hSMN1co.RBGの薬理動態プロファイル及び安全性を評価することであった。アカゲザルは、その大きさ及び中枢神経系解剖学的構造がヒトの近似としてマウスよりもはるかに良好に役立つためにこの試験に使用された。
【0219】
X線透視による誘導及び造影剤材料を使用して、針が大槽の中(大槽内)(ICM)、または腰椎槽(腰椎穿刺孔)(LP)の中のL4とL5との間の椎間空間内に配置されたことを確認した。群は、1.0mLのICM(n=3)では、2.5mLのLP(n=4)、及び5.0mLのLP(n=4)であった。各群は、AAV9に対する中和抗体(NAb)力価を検出不可能から1:20超までの範囲で有する動物を含有していた。全ての群は3.3×1011GC/g脳(合計3×1013GC)のAAVhu68.CB7.CI.hSMN1co.RBGを受けた。この試験にはビヒクル対照群を含めなかった。
【0220】
試験中、専門員は毎日動物に異常行動及び苦痛の兆候がないかどうか観察した。ベースラインのAAVhu68.CB7.CI.hSMN1co.RBG投与日(試験0日目)、試験3日目、試験7日目に、及びそれ以降毎週、臨床病理学を試験終了まで実施した。試験0日目、試験7日目に、及びそれ以降毎週、CSF化学及び細胞学を試験終了まで実施した。脊髄における運動ニューロン形質導入、生体内分布の組織学的評価、及び予備的な組織病理学的評価のために試験28日目に動物を安楽死させ剖検した。
【0221】
試験の過程全体を通して、異常行動または苦痛の兆候を呈した動物はいなかった。1匹の動物(RA1871)は試験0日目から試験21日目までの間にALTレベルが55U/Lから80U/Lまで上昇したが、これはいかなる臨床兆候にも対応していなかった(図11B)。AAVhu68.CB7.CI.hSMN1co.RBG投与の後にALT(図11B)、AST(図11A)、リンパ球(図11C)または単球(図11D)の上昇の傾向を呈した動物は他にはいなかった。
【0222】
試験全体を通して、どの動物にもCSFタンパク質またはグルコースの変化の傾向は見受けられなかった(図11E~H)。1匹の動物(RA1327)においては試験28日目にCSF中で17白血球/μLであった(図11E)。巨視的に見て当該CSFは血液汚染があるとは見受けられなかったが、250赤血球/μLを含有していた。これが真の細胞増多であるのかまたは不浄なCSF排出であるのかは不明である。先のクモ膜下腔内試験からのCSF細胞学は数週間の間に一桁から二桁へとCSF白血球数の漸増を示し(データ示さず)、この(試験21日目の0白血球/μLからの)試験28日目の17白血球/μLの単発の原因は真の細胞増多ではなく不浄なCSF排出である可能性があるという結論に至った。
【0223】
剖検に際して各脊髄を頚部、胸部及び腰部切片に分割した。続いて、各脊髄高度を4片に分割した。1片は生体内分布のために瞬間冷凍し、1片は組織病理学的評価のためにホルマリン中に入れ、残りの2片は運動ニューロン形質導入の評価のためにホルマリン中に入れた。
【0224】
運動ニューロン形質導入はコドン最適化hSMN1リボ核酸(RNA)についてのISH(6スライド/脊髄高度/動物に等しい3スライド/脊髄高度片/動物)、及びhSMN1タンパク質についてのIHC(4スライド/脊髄高度/動物に等しい2スライド/脊髄高度片/動物)によって測定した。運動ニューロンをNissl染色剤で標識して、形質導入された運動ニューロンのパーセントを決定した。全ての脊髄高度において、ISH
及びIHCの両方によって測定した運動ニューロン形質導入は、AAVhu68.CB7.CI.hSMN1co.RBGのICM投与の方がAAVhu68.CB7.CI.hSMN1co.RBGのLP投与よりも有意に高くなった(図12A及び図12B)。各群内でISHとIHCとは形質導入効率が一致していたが、形質導入された運動ニューロンのパーセントはIHCによって測定したときの方が高かった(図12A及び図12B)。抗体とアカゲザルSMNタンパク質との交差反応性が生じる可能性はあるが、ISHのために使用したRNAプローブは、AAVhu68.CB7.CI.hSMN1co.RBGからのコドン最適化hSMN1 RNAに対して特異的であり、アカゲザルSMN RNAとの交差反応性の可能性が排除されていた。公開データと一致して、形質導入された運動ニューロンのパーセントはどの群においても尾側及び吻側(頚部及び腰部)のパターンで増加した(Hinderer C,Bell P,Vite CH et al.Widespread gene transfer in the central nervous system of cynomolgus macaques following delivery of AAV9 into the cisterna magna.Molecular therapy Methods &clinical development 2014;1:14051)(図12A及び図12B)。
【0225】
クモ膜下腔内へのAAV送達はCSFアクセスのための様々な経路を用いて実施することができる。腰椎穿刺はCSFを評価するための最も一般的な方法であり、それゆえ非ヒト霊長類におけるAAV投与のための経路として評価された。注目すべきことに、腰椎穿刺によるCSF内へのAAV9ベクターの送達は、より高い大槽の高度でのベクターの注射に比べて脳及び脊髄の細胞への形質導入効率が多くても10分の1であることが見出された[Hinderer C,et al.(2014)Widespread gene transfer in the central nervous system
of cynomolgus macaques following delivery of AAV9 into the cisterna magna.Mol Ther Methods Clin Dev 1:14051]。この知見は、AAVhu68-SMN1ベクターを使用してNHP試験において確認された。大槽内への後頭下穿刺によって臨床候補ベクターを注射した成体アカゲザル(n=3)は、導入遺伝子mRNAについてのin situハイブリダイゼーション(ISH)及びヒトSMNタンパク質についての免疫組織化学染色(IHC)によって示されるとおり脊髄のどの高度においても運動ニューロン形質導入を呈した。対照的に、腰椎穿刺によってベクター注射を受けている動物は、吻側分布を促進するために注射体積を5mL-動物のCSF体積のおよそ40%-に増やした場合でさえ、脊髄のどの高度においてもよりかなり低い形質導入を示した。この試験は、大槽の高度でベクターを送達する必要性を例証し、臨床投与経路としての後頭下穿刺の選択を支持した。
【0226】
種々のクモ膜下腔内経路での投与の後の形質導入を判定する試験からの選定組織に対して生体内分布を実施した。先の試験におけるベクターのICM及びLP投与後に脳と脊髄とで形質導入にかなり差があるのは、LPのために利用する体積が小さいからである可能性がある(Hinderer C,Bell P,Vite CH et al.Widespread gene transfer in the central nervous system of cynomolgus macaques following delivery of AAV9 into the cisterna magna.Molecular therapy Methods &clinical development 2014;1:14051)。本試験では、AAVhu68.CB7.CI.hSMN1co.RBGのICM及びLP投与後に脳と脊髄とで形質導入が同等であった(図13)。
【0227】
興味深いことに、NAbは末梢器官の形質導入に影響を及ぼすことが見受けられた。各群においてNAbを1:20より多く有する動物は心臓、肝臓及び脾臓における形質導入が最も少なかった(図13)。
【0228】
予備的な組織病理学的評価を脳、脊髄、後根神経節(DRG)、坐骨神経及び肝臓に対して実施した。脳での主要な所見は最小限~軽度の単核球浸潤及びグリオーシスであった。これらの所見は全ての群内で等しく分布していた。脊髄では、主としてICM群に所見が存在しており、腰髄で所見の頻度が増加した。最も一般的な所見は後索における最小限~軽度の軸索変性及び最小限~軽度の単核球及び組織球浸潤であった。頚部、胸部及び腰部のDRGでの主要な所見は最小限~軽度の単核球浸潤、最小限~軽度の神経細胞空胞化、及び最小限~軽度の軸索変性であった。これらの所見は、両LP群に比べてICM群においてより高い有病率で存在していた。坐骨神経では、最小限~軽度の軸索変性、及び最小限のマクロファージ浸潤があった。これらの所見は主としてICM群に存在していた。肝臓では、全ての群において最小限~軽度の単核球浸潤、及び最小限の小肉芽腫があった。
【0229】
さらに、副腎、上行大動脈、骨髄、脳、盲腸、頚部 副睾丸、食道、眼、胆嚢、心臓、腎臓、大腸、肺、涙腺、リンパ節、筋肉、卵巣、膵臓、前立腺、直腸、唾液腺、精嚢、皮膚、小腸、脊髄、脾臓、胃、精巣、膀胱、子宮、脳下垂体、胸腺、甲状腺、気管、膣、及び(あれば)肉眼的病変を組織病理学的分析のために採取した。組織をヘマトキシリン及びエオジン(H&E)及び/またはその他の免疫組織化学染色によって染色して組織学的特徴部を同定/明瞭化する。
【0230】
実施例11-hSMN1を含有するAAVベクターのアカゲザルにおける毒性及び生体内分布試験
ICM後のAAVhu68.CB7.CI.hSMN1co.RBGの薬理学及び毒性学を研究するためにアカゲザルで180日GLP試験を行う。アカゲザルに1.85×1010GC/g脳、5.56×1010GC/g脳もしくは1.85×1011GC/g脳の3つの用量のうちの1つ(n=3/群/時点-両方の性別)、またはビヒクル(エリオット製剤化用緩衝液、EFB)(n=1/群/時点-一方の性別)を与える。ベースライン臨床病理学(鑑別を伴う細胞数算定、臨床化学、及び凝固パネル)、CSF化学及びCSF細胞学を実施する。AAVhu68.CB7.CI.hSMN1co.RBGまたはビヒクルの投与後、動物を苦痛の兆候及び異常行動について毎日追跡評価する。AAVhu68.CB7.CI.hSMN1co.RBGまたはビヒクルを投与した後、臨床病理学を週ベースで実施する。AAVhu68.CB7.CI.hSMN1co.RBGまたはビヒクルを投与した後、最初の30日間は週ベース、それ以降は月ベースでCSF化学及び細胞学を実施する。ベースライン及びそれ以降の月ベースで、AAVhu68に対する中和抗体、ならびにAAVhu68及びhSMN1導入遺伝子に対する細胞傷害性Tリンパ球(CTL)応答をIFN-γELISPOTアッセイによって評価する。
【0231】
AAVhu68.CB7.CI.hSMN1co.RBGまたはビヒクルの投与から14日後、90日後及び180日後に動物を安楽死させ、総合的な微細組織病理学的検査のために組織を採取する。組織病理学的検査はとりわけ中枢神経系組織(脳、脊髄及び後根神経節)に焦点を当てる、というのもそれらはAAVhu68.CB7.CI.hSMN1co.RBGのクモ膜下腔内投与後に最も強く形質導入されるからである。さらに、剖検時にリンパ球を肝臓、脾臓及び骨髄から採集してこれらの臓器におけるCTLの存在を調べる。
【0232】
30頭の非ヒト霊長類においてAAVhu68.CB7.CI.hSMN1co.RBGのICM投与を用いて実施したGLP毒性学試験によって、ベクター投与後の1/30
頭の動物に一過的な神経障害が同定されたが、これは、手技中に麻酔下の動物の自発的移動によって引き起こされた脳幹の直接穿刺を原因とするものであった。この試験では180日の追跡期間にわたって他に臨床的有害事象はなく、試験全体を通して実施された標準化神経学的試験では異常は同定されなかった。組織病理学からは、臨床的続発症と関連がない用量依存的な知覚ニューロン軸索変性が明らかになった。脊髄運動ニューロン形質導入の定量は、SMNΔ7マウスモデルの運動機能の改善に関連する形質導入レベルであるX%の脊髄運動ニューロンの形質導入がXGCの用量によって達成されたことを指し示した。したがって、この用量をMEDとして選択した(最終的な毒性結果によって更新する)。
【0233】
若年アカゲザルの非臨床試験では、極端に高い用量(2×1014GC/kg)でのAAVhu68.CB7.CI.hSMN1co.RBGの静脈内投与は3/3頭の動物に急性肝毒性を招き、1頭の動物はベクター投与から5日後に安楽死を必要とした。類似した毒性は、クモ膜下腔内注射による処置をこの投与経路を用いて評価された最高用量である3×1013GC以下の用量で施した9頭の成体及び5頭の若年のアカゲザル、またはGLP毒性学試験においてICM注射によってAAVhu68.CB7.CI.hSMN1co.RBGで処置した27頭の成体アカゲザルには認められなかった。
【0234】
実施例12-臨床試験
A.新生児
ヒトでは合計約5×1013GCに換算され、実施例11に示す毒性学試験で提案される低用量よりも3倍高いがなおも高用量の3分の1未満である5×1010GC/g脳質量のMED用量に対応して、初のヒトにおける試験を開始する(Dekaban AS.Changes in brain weights during the span
of human life:relation of brain weights
to body heights and body weights.Ann Neurol 1978;4:345-56)。初のヒトにおける試験で投与する最大用量は、実施例11に記載する毒性学試験での最高用量であり合計1.85×1014GCに対応する1.85×1011GC/g脳に等しいであろう。
【0235】
DNAによって証明された脊髄性筋萎縮症(SMA)を有する参加者におけるAAVhu68.CB7.CI.hSMN1co.RBGの2つの用量の安全性を判定するために、薬学的に好適な担体/溶液の中の上記AAVベクターの2つの異なる単回用量の投与を調査した。
【0236】
後の開発には、拡大した集団群、及び効果的な用量を確立する用量が含まれる。
【0237】
第一の目的は、任意の試験関連等級III以上の処置関連毒性の評価である。
【0238】
第二の目的には、
・有害事象(AE)及び/または重篤な有害事象(SAE)の発生率
・ハマースミス乳児神経学的検査(HINE)運動発達マイルストーンの達成の評価
・フィラデルフィア小児病院乳児神経筋疾患検査(CHOP-INTEND)の運動機能尺度のベースラインからの変化
・臨床的に顕在化した脊髄性筋萎縮症を発症している参加者の百分率
・記された時点において生存している参加者の百分率
・身体測定結果:
年齢/身長に対する体重;頭囲、胸囲及び腕囲、頭囲対胸囲比率
のベースラインからの変化
・安静時バイタルサイン:
脈拍、血圧、呼吸、体温、パルスオキシメトリー及び経皮二酸化炭素
のベースラインからの変化
・以下の実験室試験によって評価される臨床実験室パラメータ:
血液学:赤血球、ヘモグロビン、ヘマトクリット、血小板、白血球、白血球鑑別、血液化学:総タンパク質、アルブミン、クレアチニン、シスタチンC、クレアチンホスホキナーゼ、血中尿素窒素、総ビリルビン(直接及び間接)、アルカリホスファターゼ、アラニンアミノトランスフェラーゼ、アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ、グルコース、カルシウム、リン、塩化物、ナトリウム、カリウム。尿検査:比重、pH、タンパク質、グルコース、ケトン、ビリルビン、赤血球、白血球、上皮細胞、細菌、円柱細胞、結晶
のベースラインからの変化
・尺骨の複合筋活動電位(CMAP)のベースラインの変化
・脳脊髄液(CSF)及び血清中SMNタンパク質濃度
が含まれる。
【0239】
対象となる集団は、発症前でありSMA及び2コピーの運動神経細胞生存2(SMN2)遺伝子が遺伝学的に証明されている6週齢未満の乳児である。
包含基準を以下に列挙する。
1.生後週齢が6週間未満、一人っ子誕生の在胎期間が37~42週間、双子の在胎期間が34~42週間である。
2.発症前SMAであり、5q脊髄運動神経細胞1(SMN1)ホモ接合型遺伝子欠失または突然変異または複合ヘテロ接合型突然変異が遺伝学的に証明されている。
3.遺伝学的に2コピーの運動神経細胞生存2(SMN2)が証明されている。
4.SMA試験経験を有する神経学者による術後追跡。
除外基準を以下に列挙する。
1.SMAのために与えられた何らかの市販薬もしくは治験薬、バイオ薬剤または装置による処置、例えば、遺伝子療法、以前のアンチセンスオリゴヌクレオチド(ASO)処置または細胞移植の履歴
2.研究者の意見によればSMAが強く示唆される、スクリーニング時または初回投薬(1日目)の直前における何らかの臨床兆候または症候
3.臨床的に有意であるとみなされる異常な実験室値(GGT>3XULN、ビリルビン≧[X]mg/dL、クレアチニン≧[Y]mg/dL、Hgb<[Z]または[A]g/Dl;WBC>1cmmあたりの[B])
4.重大な内科的疾患
5.研究者の意見によれば遺伝子移入にとって不要なリスクを生む併発疾患
6.家族が掛かり付け医及びその他の医療提供者と共に患者の試験参加を開示したがらない
【0240】
2つの用量のAAVベクターを試験することとし、各投薬コホートは6名の参加者を含むこととする。
・コホート1:低用量:3×1013GC
・コホート2:高用量:1×1014GC
【0241】
6名の参加者を低用量コホート(3×1013GC)に登録する。参加者投薬は各参加者の登録間に4週間の安全性観察期間を設けながら連続的に行う。安全性は国内の安全委員会(ISC)によって評価された。安全性再検討誘因(SRT)がないと認められる場合には低用量コホート内の6人目の参加者への投薬から4週間後、高用量コホート2の登録へと進む前に全ての利用可能な安全性データが独立データモニタリング委員会(IDMC)によって評価される。
【0242】
一実施形態では、5.6mLの適切な濃度のベクターが入ったシリンジを手技室へ送る
ことになる。試験薬投与のために以下の人員が存在している:手技を実施する介入施与者;麻酔専門医及び呼吸器専門技術者(複数可);看護師及び医師助手;CT(または手術室)技術者;神経生理学専門技術者;現場試験取りまとめ役。
【0243】
試験薬投与前に腰椎穿刺を実施して所定体積のCSFを抜き取り、その後、大槽の関連解剖学的構造の可視化に役立てるためにヨウ素化造影剤をクモ膜下腔内(IC)に注射する。クモ膜下腔内用造影剤の代わりに静脈内(IV)用造影剤を針の挿入前または挿入中に投与してもよい。IV用造影剤を使用するのかIC用造影剤を使用するのかについての判断は介入施与者の裁量に委ねられる。患者は麻酔を掛けられ、挿管され、手技台上に配置される。術中神経生理学的モニタリング(IONM)装備を参加者に取り付ける。無菌技術を用いて注射部位の準備を整え覆布を掛ける。脊椎穿刺針(22~25G)をX線透視による誘導の下で大槽内へと前進させる。針配置を支援するためにより大きい誘導針を使用してもよい。針配置の確認の後、脊椎穿刺針に延長セットを取り付け、患者のCSFで満たされるようにする。介入施与者の裁量により、造影剤材料が入ったシリンジが延長セットに連結され得、大槽内における針の配置を確認するために少量が注入され得る。CT誘導による+/-造影剤注入によって針配置を確認した後、5.6mLのGTP-201が入ったシリンジを延長セットに連結する。シリンジ内容物を1~2分掛けてゆっくりと注入して5.0mLの体積を送達する。針を患者からゆっくりと取り出す。
【0244】
試験薬投与後、施設ガイドラインに従って参加者を好適な麻酔後介護室へ搬送する。参加者は、意識が十分に回復して安定な状態になった後、プロトコールが定める臨床追跡評価のための適切な部屋に受け入れられることになる。手技直後から3時間にわたる15分ごとの評価及びその後の24時間にわたる1時間ごとの評価を含めてバイタルサイン及び神経学的機能が頻繁に追跡評価される。手技後期間の最初の24時間の後は評価を2日間にわたって毎日実施し、その後、参加者は退院し、4週間にわたって毎週戻り、その後4週間ごとにさらに2回訪問し、続いて24週目に主要評価項目の評価のために訪問する。
【0245】
安全性検査のために血液を抜き取り、参加者を臨床的に評価する。炎症の兆候について追跡評価するためならびに4、12及び24週目の投薬時にバイオマーカーを測定するために、参加者を胸椎穿刺に供してCSFを採取する。追跡期間の間、参加者は手技から1年後まで3ヶ月ごとに評価される。参加者は全体で5年間にわたって毎年の訪問を続ける。ベクター投与から3ヶ月後及び6ヶ月後に参加者を再度のMRI及びCSF採取に供する。
【0246】
有核細胞数算定及び鑑別ならびに総タンパク質を含めてAAVベクター投与後のCNS炎症の証拠をCSF試料で標準的技術を用いて評価する。処置関連炎症の診査手段としては、炎症マーカーについてのCSFの多重サイトカイン分析が挙げられる。
【0247】
CSFのSMNタンパク質レベルがAAVhSMN1ベクターの形質導入の成功のバイオマーカーとして妥当であることを立証すべく、提案される第1/2相介入試験のためのアッセイが開発中である。
【0248】
複合筋活動電位(CMAP)は、末梢神経の最大上刺激後の筋肉からの電気生理学的出力を表し、運動ニューロンの健康の客観的な高感度指標として役立つ(Garcia A,Calleja J,Antolin FM,Berciano J.Peripheral motor and sensory nerve conduction studies in normal infants and children.Clin Neurophysiol 2000;111:513-20)。詳しくは、I型SMAを有する患者における自然歴研究は、CMAP振幅が異常に低く、症候発症後に改善しないことを示している(Finkel RS,McDermott MP,Kauf
mann P et al.Observational study of spinal muscular atrophy type I and implications for clinical trials.Neurology 2014;83:810-7、Swoboda KJ,Prior TW,Scott CB et al.Natural history of denervation in SMA:relation to age,SMN2 copy number,and function.Ann Neurol 2005;57:704-12、及びFinkel RS.Electrophysiological and motor function scale association in a pre-symptomatic infant with spinal muscular atrophy type I.Neuromuscul Disord 2013;23:112-5)。さらに、SMA患者に類似する電気生理学的所見を呈するブタノックアウトモデルでのSMAの研究は、発症前動物におけるSMNの早期回復がCMAP矯正をもたらしたことを示した(Duque SI,Arnold WD,Odermatt P et al.A large animal model of spinal muscular
atrophy and correction of phenotype.Ann
Neurol 2015;77:399-414)。上記理由から、CMAPを診査上のバイオマーカーとして調査する。
【0249】
試験中止基準に対して適格となる事象には、
・治験薬との関係が可能性としてある、まず確実である、または明らかである任意の死亡
・肝機能検査の上昇
・基準範囲上限よりも3倍高いALTまたはAST
・(この試験のための年齢群での)レベルとして定義される関連する総血清ビリルビンの上昇
・治験薬または注射手技との関係が可能性としてある、まず確実である、または明らかである等級3以上のAEを、1名より多い参加者が被っている
・治験薬または注射手技との関係が可能性としてある、まず確実である、または明らかであるCNS出血、発作または急性麻痺
が含まれる。
【0250】
肝機能異常は、基準範囲上限(ULN)よりも3倍高いアラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)またはアスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(AST)の任意の増加として定義される。並行する所見は、単回採血、または互いに8日以内である別個の採血に由来するものである。治験現場による追跡研究及び質問をすぐさま開始して、所見に再現性があるか否か及び/または、疾患(例えば、胆石症、及び胆嚢膨張による胆管閉塞)または治験薬以外の薬剤との因果関係を明確に支持する客観的証拠があるか否かを判定する。
【0251】
B.成人
この非盲検第1/2相用量漸増臨床試験は、遺伝学的に確認される5qSMAを有する、及び3型SMAの臨床履歴を有する成人におけるAAVhu68.SMAの単回投与の安全性を評価する。この試験には歩行不可能患者も歩行可能患者も登録する。対象に単回用量のAAVhu68.SMAをICM(大槽内)注射によって与える。コホート1(n=3、低用量、3×1013GC)またはコホート2(n=6、高用量、1×1014GC)。この試験で評価した2つの用量は非臨床的な薬理学及び毒性学試験に基づいて選択した。この試験で評価するどちらの用量も、非ヒト霊長類では良好に忍容され、マウス疾患モデルにおいて運動欠陥を改善するのに十分な脊髄運動ニューロンSMN発現のレベルを実現し、したがって、ヒトにおいて安全であることが予期される。加えて、用量は試験
参加者に利益を提供する可能性を有する。最初の3名の適格な対象はコホート1に登録されることになる。各対象の投薬の後には、次の対象への投薬に先立って国内の安全委員会が安全性データを再検討する4週間の観察期間がある。コホート1内の3人目の参加者について4週間の観察期間内に安全性再検討誘因(SRT)がないと認められる場合、コホート2の登録へと進む前に全ての利用可能な安全性データがデータ安全性モニタリング委員会(DSMB)によって評価される。安全性SRTがないと認められる場合には、コホート2内の3人目の参加者への投薬から4週間後、コホート2の残りの3名の患者の登録へと進む前に全ての利用可能な安全性データがDSMBによって評価される。
【0252】
対象を投薬前の-35日目から-1日目までスクリーニングする。選抜基準を満たす者を注射日(1日目)に病院に受け入れる。AAVhu68.CB7.CI.hSMN1co.rBGのICM注射を与えた後に対象を2日間にわたって入院患者として追跡評価する。一箇所の外来患者の追跡及び電話評価は、52週の一次評価期間の残りの指定の時点で起こる。
【0253】
AAVhu68.CB7.CI.hSMN1co.rBGの安全性及び忍容性をAE及びSAEの発生率、臨床及び実験室評価、身体測定ならびにバイタルサインに基づいて評価する。ベクター及び導入遺伝子産物の免疫原性についても評価する。
【0254】
有効性評価は6MWT、10メートル歩行時間、RULMスコア、4段階段昇り、ナインホールペグテスト、肺機能の測定量、PedsQL(倦怠感尺度)、SMA-FRS(機能評価尺度)、ならびに尺骨及び腓骨のCMAP振幅を含む。CSF中のSMNタンパク質濃度及び他の診査上のバイオマーカーが評価される。
【0255】
包含基準
・18歳以上の男性または女性である。
・スクリーニング時に5qSMAホモ接合型遺伝子欠失または突然変異または複合ヘテロ接合型突然変異、及び少なくとも2コピーのSMN2が遺伝学的に証明されている。
・3型SMAの臨床履歴。
・書面で署名したインフォームドコンセントを提供することを望んでおり、かつそれが可能である
・対象の解剖学的及び身体的状態が治験薬の投与を妨げないであろうという、神経学介入施与者及び現場主任研究者の国内チームによる評価。
歩行不可能な対象
・支援なしで15フィート以上歩くことができない。
・スクリーニング時にRULMスコアが5~30である。
歩行可能な対象
・歩行可能(支援なしで15フィート以上歩くことができる)。
・530m以下の6MW距離の6MWTを安全に実施することができる。
除外基準
・ICM注射に対して禁忌がある。
・腰椎穿刺に対して何らかの禁忌がある。
・遺伝子療法の履歴、以前のASO処置、または他の任意の治験薬もしくは療法の試験での細胞移植(OR)参加を含めて、SMAに対する何らかの市販薬もしくは治験薬またはバイオ薬剤による処置をスクリーニング前3ヶ月以内に受けたことがある。
・スクリーニング時の24時間の期間の間、8時間超にわたる侵襲性または非侵襲性の換気の医学的必要性によって定義される、呼吸不全。
・研究者によれば試験の実行及び評価に干渉するかまたは遺伝子移入にとって不必要なリスクを生むであろう合併性の疾患。
・異常な凝固状態(プロトロンビン時間(PT)>1.5×正常値、部分トロンボプラ
スチン時間(aPTT)>1.5×正常値)がある。
・血小板減少症(例えば血小板計数<150)を有する。
・肝臓異常(ビリルビン>1.5×ULN、ALT、AST、及びアルカリホスファターゼ>2.0×ULN)を有する。
・コントロール不良の高血圧(収縮期血圧[SBP]>180mmHg、拡張期血圧[DBP]>100mmHg)を有する。
・研究者の意見によれば対象の安全性を損なうであろう臨床的に重大なECG異常を有する。
・固形臓器移植または長期免疫抑制の履歴。
・研究者の意見によれば対象の安全性または試験での好結果な参加または試験結果の解釈を危うくするあろう重篤な、または不安定な医学的または生理学的症状を有する。
・スクリーニング前30日以内での、リルゾール、バルプロ酸、ヒドロキシ尿素、フェニル酪酸ナトリウム、酪酸誘導体、クレアチン、カルニチン、成長ホルモン、蛋白同化ステロイド、プロベネシドを含めたSMAの処置を意図した医薬の使用、登録時のコルチコステロイド、筋力を増加または減少させることが予測される薬剤、またはヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)阻害が既知であるかまたは予想される薬剤の経口的または非経口的使用。ステロイドのネブライザーまたは吸入器を使用する対象は試験に受け入れるが、ステロイドの経口的使用は禁止する。サルブタモールの経口的使用は下記制限付きで許容される:対象は治験に組み込まれる前の少なくとも6ヶ月間サルブタモールを良好な忍容性で使用していなければならない。治験の継続期間中、サルブタモールの用量は一定であり続けなければならない。吸入用ベータ作動薬の(例えば喘息発作の処置のための)使用は許可する。
【0256】
主要試験評価項目
この試験の主要評価項目は52週にわたるAAVhu68.CB7.CI.hSMN1co.rBG安全性及び忍容性である。これらの評価項目は、試験薬投与後52週にわたって、AE及びSAEの頻度ならびに、バイタルサインの何らかの変化、身体測定または臨床的に重要とみなされる臨床的実験室評価に基づいて評価されることになる。
【0257】
副次試験評価項目
・歩行不可能対象のRULMによって測定される運動機能に対してAAVhu68.CB7.CI.hSMN1co.rBGが及ぼす影響を評価すること
・RULMスコアは試験薬投与後52週にわたってベースラインスコアと比較されることになる。
・歩行可能対象において6MWT試験及び10メートル歩行時間によって測定される運動機能に対してAAVhu68.CB7.CI.hSMN1co.rBGが及ぼす影響を評価すること
・6MWT及び10メートル歩行時間は試験薬投与後52週にわたってベースラインスコアと比較されることになる。
【0258】
診査上の評価項目
・ナインホールペグテスト(歩行可能者及び歩行不可能者)及び4段階段昇り試験(歩行可能者のみ)によって測定される運動機能に対してAAVhu68.CB7.CI.hSMN1co.rBGが及ぼす影響を評価すること
・ナインホールペグテスト及び4段階段昇り試験のスコアは試験薬投与後52週にわたってベースラインスコアと比較されることになる。
・努力性肺活量(FVC)、最大呼気圧(MEP)、最大吸気圧(MIP)によって測定される肺機能に製品が及ぼす影響を評価すること
・尺骨及び腓骨のCMAP振幅のベースラインからの変化
・PedQL バージョン3.0 多次元倦怠感尺度,成人用レポートモジュール
・SMA-FRS(機能評価尺度)
・DNA中のベクター及びその他のAAV系薬物成分のCSF、血清及び尿における薬理動態
【0259】
実施例13-製造
AAVhu68.SMNベクターは、1)ベクターゲノムプラスミド、2)AAV rep2及びcap hu68野生型(WT)遺伝子を含有するpAAVhu68.KanRと呼称されるAAVヘルパープラスミド、及び3)pAdΔF6(Kan)と呼称されるヘルパーアデノウイルスプラスミドを使用してヒトHEK293細胞の三重プラスミドトランスフェクションによって生産される。AAVhu68.CB7.CI.hSMN1co.rBGによってパッケージングされたベクターゲノムの大きさは3257bpである。
【0260】
1.AAVベクターゲノムプラスミド:pENN.AAV.CB7.CI.hSMNco.rBG.KanR(p4342)
AAV-hSMN1ベクターゲノムプラスミドpENN.AAV.CB7.CI.hSMN1co.rBG(p3246)は大きさが6077bpである。このプラスミドに由来するベクターゲノムは、AAV由来ITRがhSMN1発現カセットの両側を挟んでいる一本鎖DNAゲノムである。導入遺伝子カセットからの発現は、CMV即時早期エンハンサー(C4)とニワトリベータアクチンプロモーターとのハイブリッドであるCB7プロモーターによって促される一方、このプロモーターからの転写はCIの存在によって増進される。発現カセットのためのポリAシグナルはrBGポリAである。プラスミドは、hSMN1配列をコドン最適化及び合成すること(GeneArt)によって構築され、結果として得た構築物を、CB7、CI及びrBG発現エレメントを含有しAAV2 ITRで両側を挟まれた発現カセットであるプラスミドpENN.AAV.CB7.CI.rBG(p1044)にクローニングしてpAAV.CB7.CI.hSMN1co.rBG.(p3246)を得た。KanRプラスミドはpENN.AAV.CB7.CI.hSMN1co.rBG.KanR(p4342)である。p4342は、2つのPacI部位においてpAAV.CB7.CI.hSMN1co.rBG.(p3246)中のアンピシリン耐性主鎖をpENN.AAV.TBG.PI.hLDLr.rBG.KanR(p2017)からのカナマイシン耐性主鎖で交換することによって構築された。
【0261】
配列エレメントの説明:
・ITR:AAV ITR(GenBank#NC001401)は、両端が同一であるが反対向きになっている配列である。AAV及びアデノウイルスヘルパー機能がトランスで提供されるのに対し、AAV2 ITR配列はベクターDNA複製起点としてもベクターゲノムのパッケージングシグナルとしても機能する。このように、ITR配列はベクターゲノムの複製及びパッケージングに必要とされる唯一のシス配列に相当する。
・CMV即時早期エンハンサー(382bp、GenBank#K03104.1)。
・ニワトリβ-アクチンプロモーター(282bp、GenBank#X00182.1)は、高レベルのhSMN1発現を促すために使用される。
・ニワトリβ-アクチンイントロン:ニワトリβ-アクチン遺伝子(GenBank#X00182.1)からの973bpのイントロンはベクター発現カセット内に存在する。イントロンは転写されるが、スプライシングによって成熟mRNAから除去され、結果としてその両側にある配列がまとめ合わされる。発現カセットにおけるイントロンの存在は、核から細胞質へのmRNAの輸送を容易にしてそれゆえに翻訳のためのmRNAの定常レベルの蓄積を増進することが示された。
・コード配列:hSMN1配列:
(www.ncbi.nlm.nih.gov/nuccore/NM_000344.3)はコドン最適化及び合成された。SMAは、テロメア側にある遺伝子であるSMN1
における突然変異によって引き起こされる。SMN1における突然変異は下位運動ニューロンに対する選択的毒性を生じさせ、結果として進行性のニューロン喪失及び関連する筋肉の筋力低下及び変性を招く。導入遺伝子はSMN1のアイソフォームDである。アイソフォームDは最長のアイソフォームをコードし、この変異型は、CNSにおいてだけでなく遍在的にもSMN1によって産生する主たる転写産物/アイソフォームであると考えられる。
・ポリアデニル化シグナル:127bpのウサギβ-グロビンポリアデニル化シグナル(GenBank#V00882.1)は、抗体mRNAの効率的なポリアデニル化のためのシス配列を提供する。このエレメントは、転写終結、新生転写産物の3’端部における特異的切断事象、及び長鎖ポリアデニル尾部の追加のためのシグナルとして機能する。
【0262】
2.AAVhu68ヘルパープラスミド:pAAV2/hu68n.KanR(p0068)
AAV2/hu68ヘルパープラスミドpAAV2/hu.68(ロット#p0065;7329bp)は、AAV血清型hu68からの4つのWT AAV2 repタンパク質及び3つのWT AAV VPカプシドタンパク質をコードするAAVヘルパープラスミドである。ヒト心臓組織DNAから新規AAV配列が得られ、AAV血清型hu68と名付けた。キメラパッケージング構築物を作出するために、野生型AAV2rep及びAAV9 cap遺伝子を含有する、プラスミドpAAV2/9n(p0061-2)由来のAAV2 cap遺伝子を除去し、AAVhu68 cap遺伝子プラスミドpAAV2/hu68(p0065)の断片で置き換えた。通常はrep発現を促すものであるAAV p5プロモーターをこの構築物内でrepの5’端部からcapの3’端部へと移動させる。この配置は、プロモーターとrep遺伝子(すなわちプラスミド主鎖)との間にスペーサーを導入すること、repの発現を下方制御すること、及びベクター産生を支援する能力を高めることのために役立つ。pAAV2/9nのプラスミド主鎖はpBluescript KSからのものである。プラスミドの全ての構成部分は直接配列決定によって証明された。その後、アンピシリン耐性遺伝子をカナマイシン耐性遺伝子で置き換えてpAAV2/hu68n.KanR(p0068)を得た。
【0263】
3.pAdDeltaF6(Kan)アデノウイルスヘルパープラスミド
プラスミドpAdDeltaF6(Kan)は大きさが15,774bpである。当該プラスミドは、AAV複製にとって重要なアデノウイルスゲノムの領域、すなわちE2A、E4及びVA RNA(アデノウイルスE1の機能は293細胞によって提供される)を含有するが、その他のアデノウイルス複製または構造遺伝子を含有しない。プラスミドは、複製に必須なシスエレメント、例えばアデノウイルス末端逆位反復配列を含有せず、したがって、感染性アデノウイルスは生成しないと推測される。それはAd5のE1、E3を欠失させた分子クローン(pBR322系プラスミドであるpBHG10)から得られた。欠失は、不必要なアデノウイルス遺伝子の発現を除去するため及びアデノウイルスDNAの量を32Kbから12kbに減らすためにAd5 DNA中に導入された。最後に、アンピシリン耐性遺伝子をカナマイシン耐性遺伝子で置き換えてpAdeltaF6(Kan)を得た。このプラスミドの中に残っているE2、E4及びVAIアデノウイルス遺伝子は、HEK293細胞内に存在するE1と共に、AAVベクター産生のために必要なものである。
【0264】
4.マスターセルバンク
HEK293細胞は元来、[Graham FL,et al,(1977)Characteristics of a human cell line transformed by DNA from human adenovirus type 5.J Gen Virol 36(1):59-74]によって記載されているように共通のアデノウイルス5型DNAでHEK細胞を形質転換することによって生成された。当
該細胞は、高力価rAAV産生のために必要とされるE1A及びE1B遺伝子産物を発現する。HEK293細胞は付着性でありトランスフェクト能が高く、DNAプラスミドトランスフェクションによって高力価のrAAVを産する。細菌マスターセルバンク(BMCB)グリセロール原液は、プラスミドDNA増幅のために使用する終夜細胞培養物1Lのうちの1mLを等体積の無菌50%グリセロールと混合することによって作られる。混合物から構築物1つにつきBMCBグリセロール原液の2つの0.5mLアリコートを調製し、Nalgene冷凍用バイアルの中で-80℃で保存する。BMCBグリセロール原液の検証を行うために増幅プラスミドDNAを、制限酵素消化に続くゲル電気泳動を含む社内での構造解析、及びQiagenでのサンガー配列決定による完全プラスミド配列解析に供する。プラスミドDNA製造者(Puresyn Inc.)へ出荷するための細菌ワーキングセルバンク(BWCB)グリセロール原液アリコートを調製するために、BMCBグリセロール原液からの3mLの培養物を接種し、一晩生育させる。終夜培養物1mLを使用して上記のようなBWCBグリセロール原液アリコートを調製する。
【0265】
5.製造プロセスの概説
AAVhu68.CB7.CI.hSMN1co.rBGベクター生産プロセスを図15A~Bの製造プロセスフロー図に示す。生成物の配合物の中に入れる主な試薬を図の左側に示し、工程内品質評価を図の右側に描写する。各生産及び精製ステップの描写も提供されている。製品製造は直線的ユニット操作フローに従って行い、特に指定しない限り使い捨てのバイオ処理閉鎖系を利用する。細胞播種から上清採集までの細胞培養を伴う生産プロセスの全ステップは、滅菌された単回使用管類及びバッグ組立体を使用して無菌的に実施される。Corning 10層型CellSTACK(登録商標)(CS-10)及びHS-36において全て開放型操作で細胞を培養する。精製プロセスは可能な場合には閉鎖系で実施するが、カラムクロマトグラフィー操作は衛生的操作であると考えられ、完全に閉鎖系であるとはみなされない。
【0266】
6.製造プロセスの説明
a.細胞播種
適格なHEK293細胞株を生産プロセスに使用する。WCBは、Charles River研究所にて5.2.6に記載のMCB-2から生産されたものであり、IND申請において特徴付けられることになる。ベクター生産のために用いる細胞培養を、一度解凍したWCBバイアルから開始し、マスターバッチレコード書類(MBR)に従って増殖させることになる。Corning T-フラスコ及びCS-10を使用して、細胞を5×10~5×1010細胞にまで増殖させるが、これは、BSDバッチ1回あたりベクター生産のために48HS-36まで播種するのに十分な細胞量を生成することを可能にする。ガンマ線照射され米国またはニュージーランドから提供される10%のウシ胎仔血清(FBS)を補充したダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)からなる培地中で細胞を培養する。細胞は固定化依存性であり、細胞解離は、動物産物を含まない細胞解離用試薬であるTrypLE(商標)Selectを使用して成し遂げられることになる。細胞播種は、無菌の単回使用バイオ処理バッグ及び管類のセットを使用して成し遂げられることになる。細胞は5%(±0.5%)CO雰囲気下で37℃(±2℃)で維持されることになる。
【0267】
b.一過的トランスフェクション
およそ3日間の増殖(DMEM培地+10%FBS)の後、HS-36細胞培養培地を新鮮な無血清DMEM培地で交換し、トランスフェクション方法に基づいて最適化ポリエチレンイミン(PEI)を使用して3つの生産プラスミドをトランスフェクトすることになる。BSCにおいて十分なプラスミドDNAトランスフェクション複合体を作製して(BDSバッチ1回あたり)48HS-36にトランスフェクトすることになる。まず、シス(ベクターゲノム)プラスミド、トランス(カプシド及びrep遺伝子)プラスミド及
びヘルパー(Ad)プラスミドを0.1:1:2の比で含有しGMPグレードのPEI(PEIPro、PolyPlus Transfection SA)を含有するDNA/PEI混合物を調製することになる。このプラスミド比は、小規模最適化試験においてAAV産生にとって最適となるように決定されたものである。ウェルを混合した後、溶液を室温で25分間静置し、その後、反応を停止させるために無血清培地に加え、最後にHS-36に加えることになる。トランスフェクション混合物はHS-36の36層全てにおいて等しくされることになり、細胞は5%(±0.5%)CO雰囲気下で5日間37℃(±2℃)でインキュベートされることになる。
【0268】
c.細胞培地採集
培地をユニットから無菌的に排出させることによって、使い捨てバイオ処理バッグを使用して各HS-36からトランスフェクトした細胞及び培地を採集することになる。培地採集後、およそ200リットルの体積にMgCl(ベンゾナーゼの補助因子)を2mMの終濃度になるまで補充し、ベンゾナーゼヌクレアーゼを25ユニット/mLの終濃度になるまで添加することになる。インキュベータ内で(使い捨てバイオ処理バッグに入った)産物を37℃で2時間インキュベートして、トランスフェクション手順の結果としての採集物の中に残存する細胞DNA及びプラスミドDNAの酵素的消化のために十分な時間を提供することになる。このステップは、最終ベクターDPの中に残存するDNAの量を最小限に抑えるために実施される。インキュベート後、濾過及び下流でのタンジェンシャルフロー濾過の間の産物回収に役立てるためにNaClを500mMの終濃度になるまで添加することになる。
【0269】
d.清澄化
細胞及び細胞残屑は、蠕動ポンプによって駆動される無菌閉鎖型管類及びバッグのセットとして直列で連結されたデプスフィルターカプセル(1.2/0.22μm)を使用して産物から除去されることになる。清澄化は、下流のフィルター及びクロマトグラフィーカラムが汚染から保護されることを保障し、生物汚染軽減濾過は、上流での生産プロセスの間に取り込まれたいかなる生物汚染も下流での精製よりも前の一連の濾過の最後に除去されていることを保障する。採集材料はSartorius Sartoguard PESカプセルフィルター(1.2/0.22μm)(Sartorius Stedim
Biotech Inc.)に通されることになる。
【0270】
e.大規模タンジェンシャルフロー濾過
清澄化した生成物の体積の低減(10分の1)は、あつらえの無菌閉鎖型バイオ処理管類、バッグ及び膜のセットを使用してタンジェンシャルフロー濾過(TFF)によって実現されることになる。TFFの原理は、圧力下で溶液を好適な多孔度の膜(100kDa)に平行に流すことである。圧力差分は、膜孔よりも大きい分子を保持しつつ、より小さい径の分子を膜中へ、そして効果的に排液流中へと送り込む。溶液を再循環させることによって、平行流は膜表面をかっさらい、膜孔の詰まり、及び膜への結合による生成物の逸失を防止する。適切な膜孔径及び表面積を選択することによって、液体試料の体積が急速に低減され得る一方で所望の分子が保持及び濃縮され得る。TFF用途における透析濾過には、液体が膜を通り抜けて排流へと流れるのと同じ速度で再循環している試料に新鮮な緩衝液を添加することを伴う。透析濾過の体積が増加するにつれて、ますます多くの量の小分子が再循環試料から除去される。これによって清澄化生成物は適度に精製されるだけでなく、次の親和性カラムクロマトグラフィーステップに適合する緩衝液交換も成し遂げられる。したがって、本発明者らは、濃縮のために100kDaのPES膜を利用し、そうしてpH7.5の20mMのトリスと400mMのNaClとからなる最低4ダイア容積の緩衝液で透析濾過する。透析濾過生成物は、4℃で一晩保存され、その後、いかなる析出物質も除去すべく1.2/0.22μmデプスフィルターカプセルでさらに清澄化されることになる。
【0271】
f.親和性クロマトグラフィー
AAVhu68血清型を効率的に捕捉するPoros TM Capture SelectTM AAV9親和性樹脂(Life Technologies)に対して透析濾過生成物を使用することになる。これらのイオン性条件下では、残存する細胞DNA及びタンパク質はかなりの割合でカラムを通り抜けて流れる一方、AAV粒子は効率的に捕捉される。使用後、カラムを5体積の低塩ベンゾナーゼ溶液(2500U/mLのベンゾナーゼ、pH7.5の20mMのトリス、及び40mMのNaCl、1.5mMのMgCl)で処理して、残存するいかなる宿主細胞及びプラスミド核酸も除去する。カラムを洗浄して追加給液不純物を除去し、続いて、1/10の体積の中和用緩衝液(pH10.2の200mMのビストリスプロパン)中への回収によって速やかに中和される低pHステップ溶離(400mMのNaCl、pH2.5の20mMのクエン酸ナトリウム)を行う。
【0272】
g.アニオン交換クロマトグラフィー
空のAAV粒子を含めた工程内不純物のさらなる低減を実現するために、Poros-AAV9溶離プールを50倍に希釈(20mMのビストリスプロパン、pH10.2の0.001%のプルロニックF68)してイオン強度を下げ、CIMultus(商標)QAモノリスマトリックス(BIA Separations)への結合を可能にする。低塩洗浄に続いて、60カラム容積(CV)のNaCl線形塩勾配(10~180mMのNaCl)を用いてベクター産物を溶離させる。この緩やかな塩勾配は、ベクターゲノムを含有する粒子(充満粒子)から、ベクターゲノムを有さないカプシド粒子(空の粒子)を効果的に分離し、完全カプシドが濃縮された配合物をもたらす。画分は、1/100の体積の0.1%プルロニックF68及び1/27の体積のビストリスpH6.3がそれぞれチューブとの非特異的結合及び高pHへの長い曝露を最小限に抑えるために入っているチューブの中へと回収されることになる。プールした充満粒子ピーク画分を20mMのビストリスプロパン、pH10.2の0.001%のプルロニックF68で20倍に希釈し、洗浄して準備しておいた同じカラムに対して再び使用する。10~180mMのNaCl塩勾配を再び用い、適切な充満粒子ピーク画分が回収されることになる。ピーク面積を評価し、適切なベクター収率の決定のために以前のデータと比較する。
【0273】
h.最終製剤、及びBDSを得るための生物汚染軽減濾過
プールしたアニオン交換(AEX)画分に対してTFFを用いて100kDaの膜によって最終製剤を得る。これは最終製剤用緩衝液の透析濾過によって成し遂げられることになり、濃縮されて所望の目標濃度のBDSを産することになる。BDS検査(以下の節で説明する)のために試料を抜き取ることになる。BDSを無菌濾過(0.22μm)し、無菌ポリプロピレンチューブの中に保存し、最終充填のための取出し時まで、隔離された場所に-60℃以下で冷凍する。
【0274】
i.最終充填
凍結BDSを解凍し、プールし、最終製剤用緩衝液を使用して目標濃度に調節(TFFによる希釈または濃縮ステップ)することになる。その後、最終的に生成物を0.22μmフィルターに通し、無菌のWest Pharmaceutical’s Crystal Zenith(ポリマー製)バイアルに充填し、決定される全体容積のところにかしめシール付き栓をすることになる。個々のバイアルに、以下の規格に従ったラベルを付けることになる。ラベルを付けたバイアルは-60℃以下で保管する。
j.ベクターゲノム同定:DNA及びNGS配列決定
ウイルスベクターゲノムDNAを単離し、プライマーウォーキングを用いて2倍配列決定対象範囲によって配列決定する。配列アラインメントを実施し、予測配列と比較する。特定の実施形態では、例えばIllumina(登録商標)機械を使用して、次世代配列
決定(高処理量配列決定としても知られる)を実施する。
【0275】
k.ベクターカプシド同定:VP1のAAVカプシド質量分析
ベクターのAAVhu68血清型の確認は、AAVカプシドタンパク質のペプチドの分析に基づいて開発されたアッセイによって成し遂げられる。方法は、VPのトリプシン消化、及びそれに続くカプシドタンパク質ペプチドを配列決定するためのQ-Exactive Orbitrap質量分析計でのタンデム質量分析による特性評価を含む。配列決定されたタンデム質量分析スペクトルからスペクトルライブラリー、及び指向的質量分析法を用いて、特定のAAVウイルス粒子血清型を独自に同定することができるシグネチャペプチドについてアッセイする。8つのAAV(AAVhu68、AAV1、AAV2、AAV6、AAV8、AAV9、AAVrh10、AAVhu37)に特有のシグネチャペプチドのバンクを、試験物品の消化によって得られるタンデム質量分析スペクトルに照らしてスクリーニングする。明確な同定のために、単一の血清型のみからのシグネチャペプチド(複数可)が検出されることになる。
【0276】
1.遺伝子コピー力価
AAVベクターのGC力価を決定するための、デジタル液滴ポリメラーゼ連鎖反応(ddPCR)に基づく技術が近年開発された[Lock M,Alvira MR,Chen SJ,&Wilson JM(2014) Absolute determination of single-stranded and self-complementary adeno-associated viral vector genome titers by droplet digital PCR.Hum Gene Ther Methods 25(2):115-125]。方法は実用的であり、qPCRと同等またはそれより良好な力価を報告し、プラスミド標準曲線を必要としない。利用したアッセイは、DNアーゼIによる消化と、それに続くカプセル化ベクターゲノムコピーを測定するためのデジタルPCR分析とを含むものであった。DNA検出は、ポリA領域を標的とする配列特異的なプライマー、及びこれと同じ領域にハイブリダイズする蛍光標識プローブを併用して成し遂げられた。多くの標準、検証用試料及び(バックグラウンド及びDNA汚染のための)対照をアッセイに取り入れた。
【0277】
m.感染単位力価
感染単位(IU)アッセイを用いて、RC32細胞(rep2発現HeLa細胞)におけるrAAVの生産的取込み及び複製を決定する。以前に公開されているものに類似する96ウェルエンドポイントフォーマットを採用した。手短に述べると、rAAVの希釈ごとに複製を12回とするrAAV BDSの段階希釈液及びAd5の均一希釈液にRC32細胞を共感染させる。感染から72時間後に細胞を溶解させ、qPCRを実施して投入量を上回るrAAVベクター増幅を検出する。エンドポイント希釈物の50%組織培養感染量(TCID50)計算(Spearman-Karber)を実施して、IU/mLとして表される複製力価を決定する。「感染性」の値は、粒子の細胞との接触、受容体結合、内在化、核への輸送、及びゲノム複製に依存するため、アッセイ構成、ならびに使用細胞株における適切な受容体及び結合後経路の存在によって影響を受ける。受容体及び結合後経路は通常、固定化細胞株の中に維持されておらず、したがって感染性アッセイ力価は、存在している「感染性」粒子の数の絶対的尺度ではない。それにもかかわらず、「感染単位」に対するカプシド化GCの比率(GC/IU比率として表される)はロット間の製品一貫性の尺度として用いられ得る。
【0278】
n.充満粒子に対する空粒子の比率
分析的超遠心分離機(AUC)で測定される沈降速度は、凝集物、その他の少量成分を検出することができるだけでなく、異なる粒子種の相対量の良好な定量をそれらの異なる沈降係数に基づいて提供することもできる。これは、長さ及び時間の基本的単位に基づく
絶対的方法であり、基準としての標準分子を必要としない。12mmの光路長を有する2流路型charcoal-epon centerpieceを備えたセルの中にベクター試料を装填する。供給される希釈用緩衝液を各セルの基準流路内に装填する。その後、装填されたセルをAN-60Ti分析ローター内に配置し、吸光度及びRIの両方の検出器を備えたBeckman-Coulter ProteomeLab XL-I分析的超遠心分離機内に入れる。温度が完全に20℃の平衡に達した後、ローターを12,000rpmの最終回転速度にする。280nmでの吸光度のスキャンをおよそ5.5時間にわたっておよそ3分ごとに記録する(試料1つにつき合計110回のスキャン)。解析プログラムSEDFIT内に実装されているc(s)法を使用して生データを解析する。結果として得られる粒径分布をグラフ化し、ピークを積分する。各ピークに関連する百分率値は全ピーク下の総面積に占めるピーク面積の分率を表し、280nmで生成された生データに基づく。多くの実験室はこれらの値を使用して空粒子:充満粒子の比を算出する。しかしながら、空粒子及び充満粒子はこの波長において異なる消光係数を有するため、生データは適宜調節され得る。消光係数調節の前と後との両方における空粒子と充満単量体ピーク値との比を使用して空-充満粒子比率を決定し、両比率を解析の証明書に記録する。
【0279】
o.宿主細胞DNA
qPCRアッセイを用いて残存ヒト293DNAを検出する。「非関連DNA」をスパイクした後、全ての(非関連の、ベクターの、及び残存ゲノムの)DNAをおよそ1mLの生成物から抽出する。18S rDNA遺伝子を標的とするqPCRを用いて宿主細胞DNAを定量する。検出されたDNAの量を、スパイクした非関連DNAの回収に基づいて正規化する。3つの異なるアンプリコンサイズを試験して残存宿主細胞DNAのサイズ範囲を確立する。
【0280】
p.宿主細胞タンパク質
ELISAを実施して汚染宿主HEK293細胞タンパク質のレベルを測定する。Cygnus Technologies HEK293宿主細胞タンパク質第2世代ELISAキットを販売者によって提供される指示に従って使用する。
【0281】
q.複製可能AAVアッセイ
生産プロセス中に潜在的に生じ得る複製可能AAV/hu68(rcAAV)が存在しているかどうか試料を分析する。細胞に基づく増幅及び継代ならびにそれに続くリアルタイムqPCRによるrcAAV DNA(caphu68標的)の検出からなる3回継代アッセイを開発した。細胞に基づく構成部分は、HEK293細胞(P1)の単層を試験試料の希釈物及びWTヒトアデノウイルス5型(Ad5)と共に接種することからなる。試験する産物は最大量を1×1010GCのベクター産物とすることになる。アデノウイルスが存在するためにrcAAVは細胞培養中に増幅することになる。2日後に細胞溶解物を生成し、Ad5を加熱によって失活させる。その後、清澄化した溶解物を(再びAd5の存在下で)2回目の細胞で継代(P2)して感度を増強させる。2日後、細胞溶解物を生成し、Ad5を加熱によって失活させる。その後、清澄化した溶解物を(再びAd5の存在下で)3回目の細胞で継代(P3)して感度を最大にする。2日後、細胞を溶解させてDNAを遊離させ、次いでこれをqPCRに供してAAVhu68 cap配列を検出する。Ad5依存的な方法でのAAVu68 cap配列の増幅はrcAAVの存在を示唆する。AAV2 rep及びAAVhu68 cap遺伝子を含有するAAV2/hu68代用陽性対照の使用は、アッセイの検出限界(LOD)(0.1、1、10及び100IU)を決定することを可能にし、rAAV(1×1010、1×10、1×10、及び1×10GC)の段階希釈を用いて、試験試料中に存在するrcAAVのおよそのレベルを定量することができる。
【0282】
r.試験管内での有効性
qPCRでのGC力価を遺伝子発現と関連付けるために、試験管内でのバイオアッセイを実施する。手短に述べると、細胞を96ウェルプレートのウェルごとに播種し、37℃/5%COで一晩インキュベートする。翌日、細胞を段階希釈AAVベクターに感染させ、37℃/5%COで2日間インキュベートする。その後、細胞を4%のパラホルムアルデヒドで固定し、続いて0.1%のTriton-100を含有するPBSで洗浄し、その後、ブロッキング用緩衝液と共にインキュベートする。ブロッキング後、細胞を一次抗体(GenTex モノクローナルα-Smn1、カタログ番号GTX60451)の1:200希釈液と共にインキュベートし、洗浄し、1:500のα-マウス-488(Thermo Fisher)と共にインキュベートする。撮像前に、DAPIを含有するPBSで細胞を処理して核を可視化する。Cell Insight Cx5 high content撮像装置(Thermo Fisher)を使用してプレートを撮像する。データキャプチャのための現在の方法は、ウェル1つあたり2,500個の物体(例えば細胞)をスクリーニングすること、及び改変型SpotIDプロトコールを使用して核1つあたりのカハール体の対の数を数えることである。核におけるカハール体の対の形成は機能性Smn1タンパク質に依存する。y軸上の計器読み値に対してLogベクターMOIをx軸上にプロットする。アッセイの最適化は現在進行中である。
【0283】
s.総タンパク質、カプシドタンパク質、タンパク質純度、及びカプシドタンパク質比率
まず、ビシンコニン酸(BCA)アッセイを用いてウシ血清アルブミン(BSA)タンパク質標準曲線に照らしてベクター試料の総タンパク質を定量する。決定は、試料とキット内に提供されているMicro-BCA試薬とを等しい部で混合することによって行う。同じ手順をBSA標準の希釈に適用する。混合物を60℃でインキュベートし、562nmでの吸光度を測定する。4係数近似を用いて既知濃度の標準吸光度から標準曲線を生成する。未知試料を4係数回帰によって定量する。rAAV純度の半定量的決定をもたらすために、試料をゲノム力価に対して正規化し、ドデシル硫酸ナトリウムポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS-PAGE)ゲル上で5×10GCを還元条件下で分離するすることになる。その後、ゲルをSYPRO Ruby色素で染色する。いかなる不純物バンドも濃度測定によって定量する。3つのAAV特有のタンパク質VP1、VP2及びVP3の他に現れる染色バンドはタンパク質不純物であると考えられる。不純物の質量パーセント及び汚染バンドのおよその分子量を報告する。SDS-PAGEゲルは、VP1、VP2及びVP3タンパク質を定量しそれらの比率を決定するためにも用いられる。
【0284】
t.BSAタンパク質
このアッセイは、Bethyl Laboratoriesから得られるウシアルブミンELISAキットを使用してアッセイキット共に提供されるプロトコールに従って実施される。
【0285】
u.ベンゾナーゼエンドヌクレアーゼ
プロセス不純物に相当する核酸を分解してベクター精製を容易にするために、生産プロセスにおいてベンゾナーゼを使用する。商用ELISA(Millipore)を使用して残存ベンゾナーゼの濃度を測定する。ベンゾナーゼの量はあるとすれば痕跡量である可能性があるため、1ng/mL未満の濃度を含む様々な標準を使用してELISAを実施する必要がある。
【0286】
v.IUに対するGCの比率
GC/IU比率は製品一貫性の尺度である。ddPCR力価(GC/mL)を「感染単位(IU/mL)」で割って算出されたGC/IU比率が得られる。
【0287】
w.浸透圧、pH及び外観検査
浸透圧及びpHをそれぞれUSP<785>及びUSP<791>に従って決定する。製品の外観を目視点検によって透明性、色、及び異物粒子の非存在/存在について判定する。白色及び黒色の背景に対して製品を点検する。
【0288】
実施例14-ヒトSMNを発現するAAVベクターの高用量静脈内投与後の非ヒト霊長類及び仔ブタにおける重度の毒性
向神経性AAV血清型、例えばAAV9は、高用量で静脈内投与された場合に脊髄アルファ運動ニューロンに形質導入することが実証されている。この観察結果は、下位運動ニューロンの選択的な死によって特徴付けられる運動神経細胞生存(SMN)タンパク質の遺伝性欠乏症である脊髄性筋萎縮症を有する乳児の治療への近年における静脈内AAV9送達の応用の成功につながった。
【0289】
この手法を用いる運動ニューロン形質導入の効率を評価するために、ヒトSMN発現カセットを保有しAAV血清型9との密接な関連があるヒトSMN導入遺伝子を保有するAAVベクター(AAVhu68)をSMA臨床試験で採用したのと同様の用量で静脈内注射することによって3頭の若年非ヒト霊長類(NHP、13~14月齢)及び3匹の新生仔ブタ(7~30日齢)を処置した。動物を脊髄運動ニューロンの形質導入及び毒性の証拠について評価した。体重1キログラムあたり2×1014ゲノムコピーの投与の結果、どちらの種においても脊髄運動ニューロンが広範に形質導入された。しかしながら、NHP及び仔ブタの両方に重度の毒性が生じた。3頭全てのNHPが顕著なトランスアミナーゼ上昇を呈し、1頭の動物は急性肝不全及びショックの臨床的及び組織学的兆候のために注射後5日目に安楽死させた。後根神経節(DRG)知覚ニューロンの変性も観察され、しかしながらNHPは臨床的に明らかな感覚障害を呈しなかった。NHPにおいて、臨床所見と、ベクターカプシドまたは導入遺伝子産物に対するT細胞応答との間に相関はなかった。仔ブタは、肝臓毒性の証拠を示さなかったものの、ベクター注射後14日以内に3匹全ての動物が、歩行能を大いに低下させ安楽死を必要にする自己受容器感覚障害及び運動失調を呈した。これらの臨床所見は、NHPで認められたものよりも高い重度のDRG感覚ニューロン病変と相関していた。これらの種における肝臓及び感覚ニューロンの所見はカプシドまたは導入遺伝子産物に対する免疫応答とは無関係なAAV形質導入の直接的転帰であると見受けられる。AAVベクターへの高い全身曝露を伴う前臨床及び臨床試験は、類似する毒性に対する慎重な監視を含むべきである。
【0290】
A.結果:
1.非ヒト霊長類試験:
ニワトリベータアクチンプロモーター及びサイトメガロウイルス即時早期エンハンサーの制御下でヒトSMNを発現するAAVhu68ベクターの2×1014GC/kgの静脈内(IV)用量を3頭の13~14月齢アカゲザルに投与した(表1)。
【表7】
【0291】
全ての動物は、ベクター点滴中に安定した生命徴候を呈し、麻酔から問題なく回復した。試験5日目に動物16C176は急性的に非応答になった。身体検査から、蒼白粘膜、ベクター投与時からの15%の体重減少、肝腫大、及び触知できる腹水波動が明らかになった。血液検査における異常は、22%の血球容積、20mg/dL未満のグルコース、75mg/dLのBUN、及び2mg/dLのクレアチニンを含んでいた。この動物の容態は急速に悪化し、後にそれを安楽死させた。全面的な剖検を実施した。
【0292】
安楽死の時に血液を採取し、全血清化学パネルを実施した。注目すべき所見には、低タンパク血症、目立って高い肝臓酵素(AST、ALT、GGTP、ALP)、高ビリルビン血症、血中尿素窒素(BUN)の増加、BUN/クレアチニン比率の上昇、高リン血症、低血糖症、低カルシウム血症、低塩素血症、低コレステロール血症、高トリグリセライド血症、及びクレアチニンホスホキナーゼ(CPK)の上昇が含まれた(図16A~E)。これらの所見は、おそらく低灌流による二次性の腎不全を伴った肝不全を示唆していた。剖検に際して採取された試料は溶血が甚だしく、このため全血球計算(CBC)及び凝固パネルの報告はなされなかった。
【0293】
剖検時、腹腔はおよそ44mLの赤色の漿液性流体を含有していた。腹水の細胞学的評価は、急性出血による滲出物との一貫性を有していた。肝臓は散在拡大して硬く黄褐色~赤色のまだらになっていたが、これは組織学的には肝実質の約95%に対して及ぼしている大量の肝細胞壊死及び変性に対応し、比較的正常な肝細胞の塊がごく稀に残っていた(図17A~D)。小葉中心領域~中間帯領域は肝細胞喪失、変性及び壊死によって激しく充血していた。さらに、類洞内に栓子を頻繁に形成し門脈の管腔に充満しているフィブリンの小さい病変部があった(フィブリン血栓)。
【0294】
フィブリノゲンの免疫組織化学(IHC)から、類洞フィブリン栓子の存在が確認された。フィブリノゲン染色は門脈周辺~中間帯領域内で陽性が強かったが、これは、残存する肝実質内の急性肝細胞壊死の領域であった。フィブリノゲン染色はこれらの領域では類洞を強調することが多かった。壊死肝細胞及び関連残屑も陽性が強かった。
【0295】
脾臓は散在拡大して硬く充血していた。充血は組織学的に確認され、白脾髄内の胚細胞中心はリンパ球が枯渇しており広範囲にわたる細胞残屑(リンパ球溶解)があり、顕著で時折ヒアリン化している高内皮静脈(HEV)を有していた。同様に、胸腺の皮質は軽度のリンパ球溶解を呈し、可染体マクロファージが目立っていた。
【0296】
巨視的に見て、腸間膜リンパ節は散在拡大し充血していた。組織学的には濾胞はリンパ球溶解による胚細胞中心枯渇を呈していた。同様の組織学的所見が、他の(顎下、直腸)リンパ節、肺の気管支関連リンパ組織(BALT)ならびに結腸及び盲腸の腸関連リンパ組織(GALT)を含めた他のリンパ組織に認められた。直腸に関連するリンパ節は、想定上の腸管リンパ節であるが、被膜下及び髄洞赤血球増加を有し、赤血球の排出との一貫性を有していた。リンパ嚢胞内の組織学的所見は、重度の全身性ストレスを示唆していた。
【0297】
組織学的に、急性出血及び浮腫は肺、胆嚢の外膜、心臓、直腸周囲脂肪組織及び乳腺付近の皮下組織において明らかであった。小腸、盲腸及び直腸の表層粘膜は、時節発生する出血、及び血鉄素を含むマクロファージの表在凝固物のために充血していた。肺、消化管及び肝臓における出血及び浮腫の存在は、これらが非ヒト霊長類の既知のショック臓器であることからショックを示唆している。膵臓における腺房細胞変性が認められたが、これも非ヒト霊長類におけるショックの事例で報告されている(Khan,N.A.,et al.Mitigation of septic shock in mice and rhesus monkeys by human chorionic gonadotrophin-related oligopeptides.Clinical
and Experimental Immunology 160,466-478(2010))。最小限の副腎皮質単細胞変性及び壊死が副腎の束状帯に存在しており、これも全身性疾患、例えば、全身性ストレス、虚血、出血及び炎症の原因である可能性があった。組織学的所見はこの動物の脳、脊髄、脳神経及び末梢神経には認められなかった。腎臓には重要な所見が認められなかった。
【0298】
残り2頭の霊長類(16C116及び16C215)は試験全体を通して臨床的に正常であり、28日目に計画通りに剖検した。試験全体を通して指定の時点に実施した血液検査から、5日目の劇的なトランスアミナーゼ上昇が明らかになり、これは7日目には低下して14日目には正常になった(図16A~E)。残り2頭の霊長類のうちの1頭は5日目に一過性の血小板減少症(血小板数24,000/μL)を呈した。血小板は、他の動物では凝集のために定量することができなかったが、末梢血スメアでは数が正常であると見受けられた。血液検査はそれ以外では試験全体を通して目立ったところはなかった。剖検時、1頭の動物(16C116)の肝臓は小葉の模様を際立たせて黄褐色~赤色のまだらになっていた。これら2頭の霊長類のどちらにおいても他に異常は認められなかった。
【0299】
組織学的には、両方の霊長類の肝臓は最小限の多巣性単肝細胞壊死を呈し、これは門脈周囲領域において最も顕著であった(図17A~D)。加えて、動物16C215は、細胞質性好塩基球増加症によって不規則に並んだ肝細胞の多巣性凝固物、胞状の核、及び再生を指し示す有糸分裂像を有していた。これらの肝細胞の塊は、散在する単核細胞浸潤物及び増殖している線維芽細胞と共に大抵門脈領域を囲んでいた(線維増殖症)。
【0300】
2頭の最後に剖検した霊長類(16C215及び16C116)における組織学的所見は、神経系、主に脊髄、三叉神経節及び後根神経節、ならびに末梢神経、例えば正中神経、橈骨神経、坐骨神経、脛骨神経及び腓骨神経において認められた(図18A~D、表2~4)。中枢神経系及び末梢神経系の組織学的病変部は変化しやすく同じセグメント内の組織切片同士ならびに同じ動物の脊髄及び末梢神経のセグメント同士で重症度が異なっていることが多い。後根神経節(DRG)は、中心性色質融解、及び神経細胞体を囲んでいる(衛星病変)及びそれに浸潤している(神経細胞侵食)単核細胞浸潤物によって特徴付けられる、最小限~軽度の神経細胞体変性を呈した。免疫組織化学(IHC)に基づくと単核細胞浸潤物はCD3陽性T細胞とわずかなCD20陽性B細胞とからなっていた。どちらの霊長類においても頚髄、胸髄及び腰髄の背側白質路は、骨髄マクロファージを有する及び有さない膨張した髄鞘によって特徴付けられる両側性の最小限~軽度の軸索変性症
を呈し、軸索変性症を示唆していた。神経後根に最小限~顕著な軸索変性症が時折認められた。末梢神経(正中、橈骨、坐骨、腓骨及び脛骨)は、変化しやすい単核細胞浸潤物及び軸索周囲線維症と共に、軽度から顕著な程度までに及ぶ同様の軸索変性症を呈した。末梢軸索変性症は両側性であることが認められたが、重症度は切片同士で、さらにはいくつかの神経切片内において、様々であった。
【表8】
【表9】
【表10】
【0301】
ベクターの生体分布の分析は、脳及び脊髄を含めた全ての評価組織への遺伝子移入を実
証した(図19)。注目すべきことに、多くの試料において後根神経節(DRG)に対して強く指向され、細胞1個あたりベクター10個であった。極めて高い肝臓形質導入も明らかになり、細胞1個あたり1000ベクターゲノムコピー(GC)であった。5日目に剖検した動物では、28日目に剖検した動物に比べてベクターゲノムコピーがより高いレベルで検出され、注射後すぐに組織で検出されたベクターゲノムのいくつかは安定した形質導入を表さないことが示唆された。
【0302】
SMN発現をin-situハイブリダイゼーションによって評価した(図20A~G)。5日目に剖検した動物の肝臓にはヒトSMN mRNAが際立って発現していたが、脊髄または脳では検出可能な発現はなかった。ベクター注射後28日目に剖検した2頭の動物は脊髄運動ニューロンにおける堅牢なSMN発現を呈し、評価した脊髄の各高度において平均で細胞のおよそ30~90%が形質導入された。脳には、形質導入されたニューロン及び上衣細胞の散在区画もあった。
【0303】
ベクターカプシド及びヒトSMN導入遺伝子産物に対するT細胞応答をインターフェロンガンマELISPOTによって評価した(表5)。3頭全ての動物について、ベクター投与前、及び剖検時に末梢血単核細胞をELISPOT分析のために採取した。剖検時に肝臓からも単核細胞を採取した。PHA刺激に対して何ら応答を呈さず後の分析から除外された動物16C215から採取された肝臓リンパ球を除いて、全ての試料はPHAによる陽性対照刺激に対する堅牢なインターフェロンガンマ応答を呈した。動物16C176または16C215について、どの時点においても、AAVhu68カプシドまたはhSMNに対するT細胞応答は検出可能でなかった。動物16C116は、どの時点においてもPBMCにおいてT細胞応答を呈しなかったが、ベクターカプシド及び導入遺伝子産物の両方に対するインターフェロンガンマ応答が剖検時に検出可能であった。
【表11】
【0304】
2.仔ブタ試験
3匹のユカタンマイクロ仔ブタに2×1014GC/kgのAAVhu68.hSMNの静脈内用量を7日齢(n=1、仔ブタA)または30日齢(n=2、仔ブタB及びC)の時に投与した(表6)。全ての動物はベクター投与後に問題なく回復した。ベクター投与後の試験14日目に仔ブタAは後肢運動失調を発症した。運動失調は、間欠性ナックリング及び後肢の交差を伴う酩酊歩行を特徴としていた。後肢をその背面を下にして置いた場合、仔ブタは蹄を配置し直すことができず(配置試験)、自己受容器感覚の意識に障害があることが示唆された。この運動失調は6時間の間に前肢にまで発展した。この仔ブタは呼吸困難も発症したが、全ての肺野の聴診は正常な限界内であった。臨床兆候の進行を考慮して仔ブタをベクター投与後14日目に安楽死させて全体的な剖検を実施した。
【表12】
【0305】
ベクター投与後13日目に、30日齢で注射した仔ブタはより低い重症度ながら同様の神経学的兆候を発症した。これらの動物では呼吸困難は認められなかった。仔ブタを安楽死させ、全体的な剖検を実施した。
【0306】
どちらの年齢群の仔ブタでも、目立った巨視的異常は認められなかった。7日齢で注射した仔ブタは剖検時に栄養状態が中程度~不良であり、試験7日目に下痢の臨床歴を有していたがこれは筋肉内(IM)セフチオフルによる処置の後の試験9日目に消散した。30日齢で注射した仔ブタは十分な栄養状態にあった。7日齢で注射した仔ブタ(仔ブタA)において安楽死前に採取した血液からの全血球計算(CBC)から、顕著な好中球増加(22,468個/μL、基準範囲:2,300~11,900個/μl)が明らかになった。血液検査において他に目立った異常は認められなかった。好中球増加は細菌性気管支肺炎の組織学的証拠に対応している可能性があった。30日齢で注射した仔ブタでは血液検査において異常は認められなかった。
【0307】
全ての動物からの頚部、胸部及び腰部背根神経節(DRG)は、単核細胞浸潤物を伴って中程度~顕著な神経細胞体変性を呈した(図21A~D、表2~4)。神経変性の組織学的病変部は、明るい好酸性細胞質小球を伴う細胞質性好酸球増加及び中心性色質融解から、浸潤性単核細胞を伴う完全消滅(神経細胞侵食)までに及んでいた。重症度はより低いが類似している病変部は全動物の三叉神経節にも認められ、最小限から軽度までに及んでいた。全ての仔ブタにおいて頚髄、胸髄及び腰髄の背側白質路は、骨髄マクロファージを有する及び有さない膨張した髄鞘によって特徴付けられる最小限~軽度の軸索変性症を呈し、軸索変性との一貫性を有していた。これらの病変部の発生率は全ての動物にわたって同じであったが、重症度は30日齢で注射した仔ブタ(仔ブタC)の1匹ではわずかに低下していた。
【0308】
7日齢で注射した仔ブタ(仔ブタA)では、末梢神経(正中、橈骨、坐骨、腓骨及び脛骨)は脊髄に類似する軽度~重度の両側性の軸索変性症を含んでいた。興味深いことに、後肢の末梢神経における軸索変性症(軽度~顕著)は前肢(軽度)よりも重症であった。30日齢で注射した仔ブタでは、たった1匹の動物(仔ブタB)だけが、腓骨神経を除く大半の神経において最小限の末梢軸索変性症を有していた。他の30日齢で注射した仔ブタ(仔ブタC)の末梢神経は組織学的に目立ったところがなかった。中枢系及び末梢神経系内の組織学的病変部は変化しやすいことが多く、重症度は組織切片同士及び同じ動物の組織切片内、ならびに脊髄の異なるセグメント同士で異なっていることが多かった。脳または肝臓では組織学的異常は認められなかった。
【0309】
概して、末梢神経病変部の発生率及び重症度は、30日齢で注射した仔ブタでは7日齢で注射した仔ブタに比べて低下し、これは、より高齢の動物に認められる生前兆候のより
低い重症度と合致していた。加えて、脊髄病変部の重症度及び末梢神経病変部の発生率は30日齢で注射した仔ブタ(仔ブタC)の1匹において最も低く、これはまた、両方の日齢群において仔ブタの神経学的兆候の重症度が最も低かった。
【0310】
脳及び脊髄を含めて分析した全ての組織においてベクターゲノムは検出可能であった(図22)。DRGへ遺伝子移入は脊髄へのそれに比べて概してより多く、しばしば宿主二倍体ゲノム(dg)1つあたり1ベクターGCよりも多かった。最も高いベクターゲノムコピー数は肝臓において見出され、3匹全ての動物からの肝臓試料においておよそ200GC/dgであった。評価組織への遺伝子移入効率の注射時日齢による明らかな影響はなかった。
【0311】
3匹全ての動物の脊髄全体にわたって運動ニューロンにおけるヒトSMN mRNAの発現をISHによって検出した(図23A図23)。全ての動物において、大部分の運動ニューロンは形質導入されたようであり、7日齢の仔ブタと30日齢の仔ブタとの間に形質導入の明らかな差異はなかった。
【0312】
B.考察:
この実施例では、ヒトSMNを発現するAAVベクターの高用量での静脈内投与は仔ブタ及び若年NHPに予想外の毒性を招いた。肝臓毒性はNHPに限られていたが、知覚神経変性はどちらの種においても生じた。同じベクター用量で処置された仔ブタにおける肝臓へのおよそ5分の1未満の遺伝子移入は、この種におけるAAVの肝臓へのより低い向性を示唆しており、NHPに認められた肝臓毒性の欠如の説明となり得る。3頭全てのNHPはベクター投与後に肝臓酵素及びビリルビンの急速な上昇に発展した。トランスアミナーゼ上昇が最も顕著であった動物は、凝固障害の証拠も肝臓における広範なフィブリン沈着、広域にわたる出血、及び明白な自発的腹腔内出血と共に呈したが、剖検時に凝固試験を実施することができなかったためこれらの所見の解釈には限界がある。広域にわたる出血と関連付けられる肝臓におけるフィブリン沈着の存在は播種性血管内凝固(DIC)を示唆していた。但し、フィブリン沈着は肝臓の外側では認められず、真のDICとの一貫性がなかった。所見は、アセトアミノフェン毒性を原因とする急性肝不全において記述されている所見に類似していると見受けられるが、これは、急性肝細胞変性、及び肝臓内凝固を招く肝臓での組織因子提示によって特徴付けられるものである。例えば、Ganey,P.E.,et al.Role of the coagulation system in acetaminophen-induced hepatotoxicity in mice.Hepatology 46,1177-1186(2007)、Kerr,R.New insights into haemostasis in liver failure.Blood coagulation &fibrinolysis:an international journal in haemostasis and thrombosis 14 Suppl 1,S43-45(2003)、Payen,C.,Dachraoui,A.,Pulce,C.&Descotes,J.Prothrombin time prolongation in paracetamol poisoning:a relevant marker of hepatic failure? Human &experimental toxicology 22,617-621(2003)、及びJames,L.P.,Wells,E.,Beard,R.H.&Farrar,H.C.Predictors of outcome after acetaminophen poisoning in children and adolescents.The Journal of pediatrics 140,522-526(2002)を参照されたい。これは、肝臓内凝固を原因とする凝固因子消費、肝不全による凝固因子合成の減少またはこれらの組み合わせに関係し得るものである凝固障害との関連を有していることが多い。上に引用したGaney et al,2007、及びKerr,2003を
参照されたい。5日目の1匹の動物における一過性の血小板減少症も肝臓内凝固に関係している可能性がある。別の可能な説明として、高用量AAVによる全身性炎症応答の活性化ならびに副次的転帰としての血小板活性化、血管内凝固、ショック及び肝機能不全の可能性がある。後者ではないが前者の症例ではAAVベクターの肝臓向性を低減する試みが有益となり得ることから、肝臓損傷がこのカスケードの最初の原因であるのかまたは副次的転帰であるのかを判定する研究を実施した。これらの可能性を区別するために利用することができるこの実施例からのデータは不十分であり、AAVベクターへの高い全身曝露の後の肝臓毒性の病態生理学を完全に解明するための追加試験は研究中である。
【0313】
AAV投与後のDRG変性は報告されたことがないが、DRGへの強い向性はいくつかの試験において記されている。例えば、Gray,S.J.,Kalburgi,S.N.,McCown,T.J.&Samulski,R.J.Global CNS gene delivery and evasion of anti-AAV-neutralizing antibodies by intrathecal AAV administration in non-human primates.Gene
therapy 20,450-459(2013)を参照されたい。本実施例において認められた病変部は、DRG知覚ニューロン細胞体ならびにそれらの中枢性及び末梢性の軸索の変性からなっていた。これらの病変部は遺伝子導入後5日目よりも後に現れる可能性がある、というのも、処置後5日目に屠殺したNHPにはそれが存在しておらず仔ブタではベクター投与から13~14日後に最初に臨床兆候が現れたからである。DRG病変部はNHPよりも仔ブタの方がわずかに重症であったが、NHPに比べて仔ブタでは脊髄及び末梢神経における知覚軸索の変性が類似していたかまたはよりいっそう軽度であり、これは、ブタの剖検時点が早めであり、死滅しつつある細胞に関連する全ての軸索に変性の余裕がなかった可能性があることによって説明され得る所見であった。知覚障害はブタにおいて明らかであったが、NHPでは明らかでなく、NHPにおいてDRG病変部の程度が臨床兆候出現の閾値未満であったことを示唆していた。影響を受けた知覚線維のタイプはどちらの種においても特徴付けられなかった。自己受容器感覚は仔ブタに認められた障害に基づいて影響を受けているようであった。他の知覚線維に対する影響は不明であり、後の試験においてさらに特徴付けられる。
【0314】
新生抗原に対するT細胞応答は、動物モデルへの異種ヒト導入遺伝子の送達を評価するいかなる試験においても、または劣性遺伝病に対する遺伝子療法の臨床試験において、毒性の理論上の原因である。加えて、形質導入細胞によってMHCクラスI上に交差提示されたカプシド由来ペプチドは、AAVによって媒介される遺伝子移入の後の細胞傷害性T細胞応答の潜在的標的として同定されている。例えば、Manno,C.S.,et al.Successful transduction of liver in hemophilia by AAV-Factor IX and limitations imposed by the host immune response.Nat Med 12,342-347(2006)、及びMartino,A.T.,et
al.Engineered AAV vector minimizes in vivo targeting of transduced hepatocytes by capsid-specific CD8+ T cells.Blood 121,2224-2233(2013)を参照されたい。この後者の機序は、全身AAV送達のいくつかの臨床試験において認められたトランスアミナーゼ上昇の原因であると提唱されており、このリスクを緩和するためにT細胞応答を抑制するグルココルチコイドの投与が採用されている。例えば、上に引用したManno et al,2006、及びGeorge,L.A.,et al.Hemophilia B Gene Therapy with a High-Specific-Activity Factor IX Variant.New England Journal of Medicine 377,2215-2227(2017)を参照されたい。この実施例では、NH
Pにおけるトランスアミナーゼ上昇はカプシドまたは導入遺伝子産物に対するT細胞応答との相関を有していないと見受けられた。ベクターカプシド及び導入遺伝子産物に対するT細胞応答は、肝臓から採取したリンパ球において検出されたが、1匹の動物の末梢血には検出されず、両方の抗原に対して応答が生じ得ること、及び末梢血において測定された応答が必ずしも標的臓器内で生じている応答を反映していない場合があることを実証していた。しかしながら、毒性が最も重症であった動物は末梢血においても肝臓リンパ球においても検出可能なT細胞応答を有しておらず、顕著なトランスアミナーゼ上昇を呈している別の動物は末梢血においてT細胞応答を呈しなかった。しかも、肝臓毒性の急速な(5日未満での)発症は、ナイーブ宿主におけるT細胞応答との一貫性を有していない。T細胞応答の非存在下での肝臓毒性の所見は、肝臓損傷の原因が別の機序であることを示唆している。可能性には、エンドソーム経路内でのベクターカプシドの大量蓄積を原因とする毒性、大量のベクターゲノムの送達によるDNA損傷応答の誘発、極めて高いレベルで発現する導入遺伝子産物の毒性、または高レベルの導入遺伝子発現による宿主遺伝子の正常な転写及び翻訳の減少が含まれ得る。この毒性がSMN導入遺伝子に特有のものであるか否かは前臨床試験で容易に試験することができるが、他の可能性の評価にはより大がかりな研究が必要である。緑色蛍光タンパク質導入遺伝子を保有する異なるAAV血清型の同じ用量で処置した成体NHPにおいて重度の肝臓毒性、凝固異常、血小板減少症及びショックが認められ、これらの所見がAAVhu68ベクター固有のものでもSMN導入遺伝子固有のものでもないことが実証された(データ示さず)。重要なこととして、ヒトにおいて生じる肝臓毒性の非免疫媒介性の機序があるならば、臨床試験に現在取り入れられているグルココルチコイド投与プロトコールはこのリスクを緩和するのに有効でない可能性がある。
【0315】
AAV遺伝子療法の分野に対する重要な疑問は、この試験で認められる毒性がヒトに通じるのか、そしてもしそうならばどの動物モデルが毒性を十分に予測して有益な前臨床安全性試験を可能にするか、ということである。密接に関連するAAV9ベクターを同程度の用量で処置されたSMA患者は顕著な肝臓毒性を呈さなかったことから、本試験における肝臓所見がヒトに適用可能となり得ること、及びサルが予測モデルになり得ることが示唆された。本実施例で認められたDRG毒性がヒトに通じるものであるか否かを判定することはより困難である。SMA臨床試験において知覚症候は報告されたことがないが、NHPの場合と類似する前臨床病変部は慣習的な評価において記されない可能性がある。
【0316】
本所見は、極めて高い用量でのAAVベクターの全身投与の安全性に関する重要な疑問を生む。本実施例で示された結果は、下位運動ニューロンなどの重要な標的細胞を効果的に形質導入する高用量AAVの潜在能力を支持するが、必要とされる用量が重大な毒性に関連している可能性があることを実証する。AAV9ベクターの用量が10分の1である成体NHPの処置が以前になされたが、著しい運動ニューロン形質導入も毒性も認められず、運動ニューロンを指向する全身的AAVの治療指数が極めて狭い可能性があることが実証された。例えば、Hinderer,C.,et al.Widespread gene transfer in the central nervous system of cynomolgus macaques following delivery of AAV9 into the cisterna magna.Molecular therapy.Methods &clinical development 1,14051(2014)を参照されたい。SMA臨床試験において報告されたトランスアミナーゼ上昇に類似して、本試験において同じベクター用量で処置したNHPは、肝臓毒性の重症度の対象間変動を呈し、2/3のNHPは、実験上の非症候的異常があるだけで遺伝子移入が効果的であったことを実証した。これは、高用量の全身的AAVが何名かの患者において安全かつ有効であり得ることを示唆しているが、狭い治療指数、及びそこから外れたときの所見の重症度は、より多い数の患者を処置するときに毒性が重症な事例が出現することを意味している可能性がある。
【0317】
試験は本実施例で認められた肝臓及び知覚ニューロンにおける毒性の機序ならびに各々とヒトとの関連性を理解すべく研究中である。現在のところ、非ヒト霊長類での実験は、高用量全身的AAV投与に関連する肝臓毒性及び神経学的毒性を評価する上で誘掖であり得、これらの試験は臨床へと進む前に実施されなければならない。臨床試験では、肝臓毒性は知覚神経症の症候と同じく慎重に評価されなければならない。体性感覚誘発電位及び神経伝導試験を含めた知覚ニューロンに対する毒性の客観的評価も価値があり得る。AAV臨床試験においてトランスアミナーゼ上昇またはその他の毒性兆候に遭遇するときには研究者は、免疫機序及び非免疫機序の両方が原因となっている可能性があるため広く様々な診断を維持するべきである。
【0318】
C.材料及び方法:
動物に対する手技:全ての動物に対する手技は、ペンシルバニア大学の動物実験委員会によって承認された。静脈内ベクター投与のために、ベクターを無菌リン酸緩衝生理食塩水で希釈し、伏在静脈を介して(NHP)または耳静脈(仔ブタ)を介して10分掛けて点滴した。安楽死はペントバルビタール過剰投薬によって実施した。
【0319】
組織学:組織は従来のプロトコールに従ってホルマリンに固定し、パラフィン包埋し、切断し、ヘマトキシリン及びエオジンで染色した。フィブリノゲンIHCも従来の方法に従って実施した。
【0320】
in situハイブリダイゼーション(ISH)はViewRNA ISH組織アッセイキット(Thermo Fisher)を使用して製造者のプロトコールに従って24時間の固定時間を超えることなくホルマリン固定パラフィン包埋組織に対して実施した。Z字形プローブ対からなるプローブはキット製造者によって合成された。コドン最適化ヒトSMNに対して特異的なプローブを単独で、あるいは運動ニューロンのマーカーとしてのアカゲザルもしくはブタCHATのプローブと組み合わせて使用した。結合したSMNプローブを、ローダミンフィルターセットで造影されるFast Red沈殿の形成によって検出した。CHATプローブを、キット製造者の仕様書に従って作ったカスタムフィルターセット(AVR Optics,Rochester,NY)によって造影されるFast Blue沈殿物によって検出した。核を示すためにDAPIで切片を対比染色した。
【0321】
ベクター生産:付着性HEK293細胞の三重トランスフェクションによってAAVhu68ベクターを生産した。POROS(商標)CaptureSelect(商標)AAV9樹脂を使用する親和性クロマトグラフィー及びそれに続くアニオン交換クロマトグラフィーによってベクターを細胞上清から精製して空のカプシド及びその他の不純物を除去した。
【0322】
ベクター生体内分布:剖検時にベクター生体分布分析のために組織をドライアイス上で凍結させた。DNAを抽出し、以前に教示されているようにTaqMan PCRによってベクターゲノムを定量した。Wang,L.,et al.Impact of pre-existing immunity on gene transfer to nonhuman primate liver with adeno-associated virus 8 vectors.Human gene therapy 22,1389-1401(2011)を参照されたい。
【0323】
ELISPOT:以前に教示されているようにインターフェロンガンマELISPOTを実施した。Brantly,M.L.,et al.Sustained transgene expression despite T lymphocyte res
ponses in a clinical trial of rAAV1-AAT gene therapy.Proceedings of the National
Academy of Sciences of the United States of America 106,16363-16368(2009)を参照されたい。ヒトSMN及びAAVhu68 VP1ペプチドライブラリーは、2つの(SMN)プールまたは3つの(AAVhu68)プールに分かれた、5アミノ酸分だけ重複する15merペプチドからなっていた
【0324】
本明細書中で引用する全ての公開文書、ならびに2018年1月17日に出願された米国仮特許出願第62/618,437号、2017年6月6日に出願された米国仮特許出願第62/515,902号、及び2017年2月28日に出願された米国仮特許出願第62/464,756号を参照により本明細書に援用する。同様に、本明細書中で言及し別記の配列表(ファイル名は17-7988PCT_ST25.txt)の中に現れる配列番号を参照により援用する。本発明を特定の実施形態に関して記載してきたが、本発明の趣旨から逸脱することなく改変を行うことができることは明らかであろう。そのような改変は別記の請求項の範囲に入ることが意図される。
【0325】
(配列表フリーテキスト)
以下の情報は多くの識別子<223>の下でフリーテキストを含んでいる配列のために提供される。
【表13-1】
【表13-2】
【表13-3】
【表13-4】
【表13-5】
【表13-6】
【表13-7】
【表13-8】
【表13-9】
【表13-10】
【表13-11】
【表13-12】
図1-1】
図1-2】
図2
図3
図4-1】
図4-2】
図4-3】
図4-4】
図4-5】
図5
図6-1】
図6-2】
図6-3】
図7
図8A
図8B
図8C
図8D
図9
図10
図11-1】
図11-2】
図12
図13
図14
図15A
図15B
図16-1】
図16-2】
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
【配列表】
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