(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-07
(45)【発行日】2024-05-15
(54)【発明の名称】4環性化合物の非晶質体
(51)【国際特許分類】
A61K 31/5377 20060101AFI20240508BHJP
A61K 47/32 20060101ALI20240508BHJP
A61K 47/38 20060101ALI20240508BHJP
A61K 9/14 20060101ALI20240508BHJP
A61K 9/16 20060101ALI20240508BHJP
A61K 9/20 20060101ALI20240508BHJP
A61K 9/48 20060101ALI20240508BHJP
A61P 25/24 20060101ALI20240508BHJP
A61P 25/28 20060101ALI20240508BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20240508BHJP
A61P 35/04 20060101ALI20240508BHJP
C07D 401/04 20060101ALN20240508BHJP
【FI】
A61K31/5377
A61K47/32
A61K47/38
A61K9/14
A61K9/16
A61K9/20
A61K9/48
A61P25/24
A61P25/28
A61P35/00
A61P35/04
C07D401/04
(21)【出願番号】P 2022121468
(22)【出願日】2022-07-29
(62)【分割の表示】P 2021079717の分割
【原出願日】2015-08-07
【審査請求日】2022-08-15
(31)【優先権主張番号】P 2014162899
(32)【優先日】2014-08-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003311
【氏名又は名称】中外製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100139310
【氏名又は名称】吉光 真紀
(72)【発明者】
【氏名】白木 広治
(72)【発明者】
【氏名】中山 忠宣
(72)【発明者】
【氏名】太田 智明
【審査官】春日 淳一
(56)【参考文献】
【文献】特許第4918630(JP,B1)
【文献】特開2004-067606(JP,A)
【文献】Netsu Sokutei,2011年,Vol.38, No.1,p.23-28
【文献】薬剤学,2012年,Vol.72, No.6,p.332-338
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K,A61P
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I):
で示される化合物、式(I)で表わされる化合物の塩、式(I)で表わされる化合物の溶媒和物、および式(I)で表わされる化合物の塩の溶媒和物からなる群から選択される物質の非晶質体および不活性な担体を含有し、前記不活性な担体がヒプロメロースフタレート、ヒプロメロースアセテートサクシネート、及びメタクリル酸コポリマーLから選択され
、前記物質と前記不活性な担体との質量比が、前記物質をフリー体に換算して、1:2~1:9である、医薬用固体分散体。
【請求項2】
前記式(I)で示される化合物
、式(I)で表わされる化合物の塩、式(I)で表わされる化合物の溶媒和物、および式(I)で表わされる化合物の塩の溶媒和物と前記不活性な担体との
質量比が、
前記式(I)で示される化合物、
式(I)で表わされる化合物の塩、式(I)で表わされる化合物の溶媒和物、および式(I)で表わされる化合物の塩の溶媒和物をフリー体に換算して、
1:2.17である、請求項1に記載の固体分散体。
【請求項3】
請求項1または2に記載の固体分散体を含む、散剤、細粒、顆粒、錠剤又はカプセル剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ALK阻害作用を有する4環性化合物の非晶質体及び当該非晶質体を含有す
る固体分散体に関する。
【背景技術】
【0002】
Anaplastic Lymphoma Kinase (ALK) はインスリン
受容体ファミリ-に属する受容体型チロシンキナーゼの一つであり(非特許文献1、非特
許文献2)、ALKの遺伝子異常は他の遺伝子と融合した異常キナーゼの生成を引き起こ
すことが報告されている。
ALKの異常を伴う疾患として、例えばがんおよびがん転移(非特許文献1、特許文献
1)、うつ、認知機能障害(非特許文献2)等が知られており、ALK阻害剤の提供はそ
れらの疾患の有効な治療および予防薬を提供する。
ALK阻害作用を有する化合物として、式(I)により表わされる化合物(化合物名:
9-エチル-6,6-ジメチル-8-(4-モルホリン-4-イル-ピペリジン-1-イ
ル)-11-オキソ-6,11-ジヒドロ-5H-ベンゾ[b]カルバゾール-3-カル
ボニトリル)等が知られている(特許文献2、特許文献3、特許文献4)。
上記化合物は、水難溶性ないし不溶性であるため、経口投与された場合、充分なバイオ
アベイラビリティが得られない可能性があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】JP2009100783(A)
【文献】特許4588121号
【文献】特許4918630号
【文献】特開2012-126711号
【非特許文献】
【0004】
【文献】Nature、第448巻、第561-566頁、2007年
【文献】Neuropsychopharmacology、第33巻、第685-700頁、2008年
【発明の概要】
【0005】
本発明者らは、上記課題に鑑み、鋭意検討した結果、下記式(I)で表わされる4環性
化合物の塩酸塩の非晶質体は、物理的安定性が非常に高く、優れた溶解性を有することを
見出した。さらに、本発明者らは、当該非晶質体を含有する固体分散体が優れた物理的安
定性及び化学的安定性を有し、式(I)で表わされる化合物、その塩、又はそれらの溶媒
和物の溶解性を向上させることを見出した。
【課題を解決するための手段】
【0006】
すなわち、本発明は、以下の通りである。
(1)式(I)で表わされる化合物、その塩、またはそれらの溶媒和物の非晶質体。
【化1】
(2)前記化合物の塩の非晶質体である、(1)に記載の非晶質体。
(3)塩が塩酸塩である、(1)または(2)に記載の非晶質体。
(4)塩が一塩酸塩である、(1)~(3)のいずれかに記載の非晶質体。
(5)示差走査熱量分析において、190±5℃から230±5℃に発熱ピークが検出さ
れる、(1)~(4)のいずれかに記載の非晶質体。
(6)ガラス転移温度が190±5℃~230±5℃である、(1)~(4)のいずれか
に記載の非晶質体。
(7)
図1に記載の粉末X線回折パターンを有する、(1)~(6)のいずれかに記載の
非晶質体。
(8)(i)式(I)で示される化合物、その塩、又はそれらの溶媒和物を溶媒に溶解し
、フィード液を調製する工程、(ii)工程(i)で得られたフィード液をスプレーする工
程、(iii)スプレーされたフィード液を乾燥し、式(I)で示される化合物、その塩、
又はそれらの溶媒和物の非晶質体を得る工程、を含む、式(I)で示される化合物、その
塩、又はそれらの溶媒和物の非晶質体の製造方法。
(9)工程(i)における式(I)で示される化合物、その塩、又はそれらの溶媒和物が結
晶体である、(8)に記載の製造方法。
(10)式(I)で示される化合物、その塩、又はそれらの溶媒和物が、式(I)で示さ
れる化合物の塩酸塩である、(9)に記載の製造方法。
(11)式(I)で示される化合物、その塩、又はそれらの溶媒和物が、式(I)で示さ
れる化合物の一塩酸塩である、(9)または(10)に記載の製造方法。
(12)工程(i)における式(I)で示される化合物の塩酸塩が、粉末X線回折パターン
において、8.4°±0.2°、14.0°±0.2°、16.7°±0.2°、18.
8°±0.2°、23.3°±0.2°の回折角(2θ)にピークを有する結晶体である
、(9)~(11)に記載の製造方法。
(13)溶媒がテトラヒドロフランである、(8)~(12)のいずれかに記載の製造方
法。
(14)テトラヒドロフランの濃度が65%~85%である、(13)に記載の製造方法
。
(15)(8)~(14)のいずれかに記載の製造方法により得られる、式(I)で示さ
れる化合物、その塩、又はそれらの溶媒和物の非晶質体。
(16)(8)~(14)のいずれかに記載の製造方法により得られる、式(I)で示さ
れる化合物の一塩酸塩の非晶質体。
(17)式(I)で示される化合物、その塩、又はそれらの溶媒和物の非晶質体と、その
結晶体とを含有する組成物。
(18)結晶体の含有量が10重量%以下である、(17)に記載の組成物。
(19)結晶体の含有量が3重量%以下である、(17)又は(18)に記載の組成物。
(20)結晶体の含有量が1重量%以下である、(17)~(19)のいずれかに記載の
組成物。
(21)式(I)で示される化合物又はその塩が、式(I)で示される化合物の塩酸塩で
ある、(17)~(20)のいずれかに記載の組成物。
(22)式(I)で示される化合物又はその塩が、式(I)で示される化合物の一塩酸塩
である、(17)~(21)のいずれかに記載の組成物。
(23)前記非晶質体が、示差走査熱量分析において、190±5℃から230±5℃に
発熱ピークが検出される、(17)~(22)のいずれかに記載の組成物。
(24)前記非晶質体のガラス転移温度が190±5℃~230±5℃付近である、(1
7)~(22)のいずれかに記載の組成物。
(25)前記非晶質体が
図1に記載の粉末X線回折パターンを有する、(17)~(24
)のいずれかに記載の組成物。
(26)式(I)で示される化合物、その塩またはそれらの溶媒和物の非晶質体および不
活性な担体を含有する、固体分散体。
(27)前記不活性な担体が固体高分子である、(26)に記載の固体分散体。
(28)前記固体高分子がセルロース類及びその誘導体、または水溶性合成高分子である
(27)に記載の固体分散体。
(29)前記固体高分子がヒプロメロース、ヒプロメロースアセテートサクシネート、ヒ
プロメロースフタレート、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルエチルセルロ
ース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキ
シエチルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、メチルセルロース、エチル
セルロース、酢酸フタル酸セルロース、ポリエチレングリコール、ポリビニルアルコール
、ポビドン、コポリビドン、ポリビニルアセテートフタレート、ポリビニルアセタールジ
エチルアミノアセテート、セルロースアセテートフタレート、ポリビニルカプロラクタム
-ポリビニル酢酸-ポリエチレングリコールグラフトコポリマー、アミノアルキルメタク
リレートコポリマーE、アミノアルキルメタクリルコポリマーRS、メタクリル酸コポリ
マーL、メタクリル酸コポリマーLD、メタクリル酸コポリマーS、カルボキシルビニル
ポリマーである、(28)に記載の固体分散体。
(30)前記固体高分子がポリビニルカプロラクタム-ポリビニル酢酸-ポリエチレング
リコールグラフトコポリマー、ヒプロメロースフタレート、ヒプロメロースアセテートサ
クシネート、及びメタクリル酸コポリマーLから選択される、(29)に記載の固体分散
体。
(31)式(I)で示される化合物、その塩又はそれらの溶媒和物と固体分散体との重量
比が、式(I)で示される化合物、その塩又はそれらの溶媒和物をフリー体に換算して、
9:1~1:9である、(27)~(30)のいずれかに記載の固体分散体。
(32)(26)~(31)の何れか一項に記載の固体分散体を含む、散剤、細粒、顆粒
、錠剤又はカプセル剤。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】本発明の非晶質体の粉末X線回折の測定結果のグラフである。
【
図2】I型結晶の粉末X線回折の測定結果のグラフである。
【
図3】II型結晶の粉末X線回折の測定結果のグラフである。
【
図4】III型結晶の粉末X線回折の測定結果のグラフである。
【
図5】本発明の非晶質体の示差走査熱量測定(DSC)の測定結果のグラフである。
【
図6】化合物Aを70%のTHFに完全溶解後(化合物Aの濃度:14mg/mL)乾燥した状態の偏光顕微鏡写真である。
【
図7】化合物Aを80%のTHFに完全溶解後(化合物Aの濃度:12mg/mL)乾燥した状態の偏光顕微鏡写真である。
【
図8】本発明の非晶質体および固体分散体の粉末X線回折の測定結果のグラフである。
【
図9】非晶質体および固体分散体を40℃及び75%RHの条件下で3ヶ月間保存した後の粉末X線回折の測定結果のグラフである。
【
図10】非晶質体および固体分散体を25℃で1年間保存した後の粉末X線回折の測定結果のグラフである。
【
図11】本発明の非晶質体および固体分散体の溶出試験結果のグラフである。
【
図12】本発明の非晶質体および固体分散体の溶出プロファイルを塩酸塩結晶製剤の溶出プロファイルと比較したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明における「非晶質体」とは、明確な結晶構造が認められない固体物質の状態を意
味する。結晶構造の有無は、下記の測定条件下で粉末X線回折(XRPD)を測定するこ
とより確認することができる。本発明における非晶質体は、下記の測定条件下で粉末X線
回折(XRPD)を測定した際に、広く弱いピーク(ハロー)を含む回折パターンを有す
る。当該回折パターンは、結晶体との比較においてより明確である。結晶構造を有さず、
非常に粘性の高い非結晶液に類似するガラス状物質も、本発明の非晶質体に含まれる。
測定条件:
測定装置:X’Pert-Pro MPD(PANalytical製)
対陰極:Cu
管電圧:45kV
管電流:40mA
ステップ幅:0.02°
走査軸:2θ
ステップあたりのサンプリング時間:43秒
走査範囲:3~40°
【0009】
本発明の非晶質体は、示差走査熱量測定(DSC)、固体NMR、(粉末)X線回折、
IR、NIR、Raman法などの周知技術を用いて、式(I)で示される化合物、その
塩又はそれらの溶媒和物の結晶体と混合している場合などは必要に応じて結晶体の物質と
対比することにより、その存在を確認することができる。
具体的には、例えば、式(I)で示される化合物の一塩酸塩の非晶質体の場合、該非晶
質体は、示差走査熱量分析において、約190℃付近から230℃付近に発熱ピークが検
出される。なお、ここで「約」は±5℃を意味する。好ましくは、±2℃である。または
、本発明の非晶質体は、ガラス転移温度が約190~230℃付近である。なお、ここで
「約」は±5℃を意味する。好ましくは、ガラス転移温度が約220~230℃付近であ
る。
粉末X線回折を用いる場合、結晶体がシャープなピークを含む回折パターンを示すのに
対し、非晶質体は、相対的に広く弱いピーク(「ハロー」)を含む回折パターンを示すた
め、容易に識別が可能となる。式(I)で表わされる化合物の一塩酸塩の非晶質体の粉末
X線回折の測定結果の一例を
図1に示す。
示差走査熱量測定を行う場合、示差走査熱量計、パージガスとしての窒素ガス、昇温速
度10℃/min、他の装置および条件などを含む種々のDSC温度記録図が利用可能で
ある。結晶体は、一般的に、シャープな融解吸熱/吸熱ピークで特徴付けられ、非晶質体
は結晶体に見られる特定の吸熱ピークを欠くことで識別可能であるが、当業者であれば、
結晶体と非晶質体のDSC温度記録図の比較から、非晶質体の存在を確認することが可能
である。
示差走査熱量測定の測定条件の一部を以下に示す。
装置名称:示差走査熱量計(DSC)
型式:Q200(TA Instruments製)
加熱速度:10℃/分若しくは20℃/分
測定温度範囲:25℃~350℃(ただし,試料中に残留溶媒を多く含む場合は,25
℃~125℃若しくは25℃~175℃の加熱による前処理が必要な場合がある)
雰囲気ガス:乾燥窒素
雰囲気ガスの流量:50mL/分
セル:アルミニウムパン(ピンホール)
試料量:5mg~10mg
基準:空容器
【0010】
本発明の非晶質体は1以上の結晶体と混合した組成物の状態であってもよい。該非晶質
体はあらゆる混合比、例えば、組成物全体に対し、約1%、2%、3%、5%、10%、
15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、
65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、97%、98%、99重量
%以下で結晶体と混合した組成物の状態であってもよい。
前記組成物に含まれる結晶体の含有量は粉末X線回折法等により算出することができる
。
一方、前記組成物に含まれる非晶質体の含有量は、DSC等により算出することができ
る。
式(I)で示される化合物又はその塩の結晶体として、例えば、式(I)で示される化
合物の一塩酸塩の結晶体(I型結晶、II型結晶及びIII型結晶)が挙げられる。
I型結晶は、粉末X線回折パターンにおいて、8.4°、14.0°、16.7°、1
8.8°、23.3°の回折角(2θ)にピークを有することを特徴とする。I型結晶の
粉末X線回折の測定結果の一例を
図2に示し、粉末X線回折パターンにおけるピークの一
例を表1に示す。I型結晶は、式(I)の化合物を含む溶液を、エタノールおよび塩酸の
混合液(式(I)の化合物に対し1モル当量以上の塩酸を含む)へ、混合液温度を約35
℃以上に保ちながら滴下することにより取得することができる。
【0011】
【表1】
II型結晶は、粉末X線回折パターンにおいて、9.2°、10.2°、16.2°、
20.5°および21.6°の回折角(2θ)に、より具体的には、9.2°、10.2
°、16.2°、17.5°、19.5°、20.5°、21.6°および22.8°の
回折角(2θ)にピークを有することを特徴とする。II型結晶の粉末X線回折の測定結
果の一例を
図3に示し、粉末X線回折パターンにおけるピークの一例を表2に示す。II
型結晶は、後述するIII型結晶を約40℃で減圧乾燥することにより取得することがで
きる。
【0012】
【0013】
本発明の1つの態様において、II型結晶は1水和物である。ここで、1水和物とは、
医薬品が通常保存・使用される環境下(温度、相対湿度など)で、安定して約1当量の水
分を保持する結晶であれば特に限定されない。
III型結晶は、式(I)の化合物を含む溶液を、エタノールおよび塩酸の混合液(式
(I)の化合物に対し1当量以上の塩酸を含む)へ、混合液温度を15℃付近に保ちなが
ら滴下することにより取得することができる。III型結晶は、粉末X線回折パターンに
おいて12.7°、14.3°、15.0°、18.5°および25.7°の回折角(2
θ)に、より具体的には、7.5°、12.7°、14.3°、15.0°、18.5°
、20.3°、21.0°および25.7°の回折角(2θ)にピークを有することを特
徴とする。III型結晶の粉末X線回折の測定結果の一例を
図4に示し、粉末X線回折パ
ターンにおけるピークの一例を表3に示す。
【0014】
【0015】
なお、粉末X線回折による結晶体の分析は、例えば、日本薬局方(第十六改正)に記載
されている「粉末X線回折測定法」などの常法に従って行うことができる。なお、同一結
晶形とは通例、回折角2θが±0.2度の範囲内で一致するものをいう。
粉末X線回折分析の測定条件の一例を以下に示す:
測定装置:X’Pert-Pro MPD(PANalytical製)
対陰極:Cu
管電圧:45kV
管電流:40mA
ステップ幅:0.02
走査軸:2θ
ステップあたりのサンプリング時間:43秒
走査範囲:3~40°
【0016】
結晶の水分量は常法により、例えば動的水分吸着当温装置、またはカールフィッシャー
法により測定することができる。
動的水分吸着当温装置の測定条件の一例を以下に示す:
動的水分吸着等温装置:DVS-1(Surface Mesurement Syste
ms)
温度:25℃付近の一定温度
雰囲気ガス:乾燥窒素
雰囲気ガスの流量:200sccm(mL/min)
最小待ち時間:10min
最大待ち時間:1200min
カールフィッシャー分析装置を用いた水分測定法の測定条件の一例を以下に示す:
分析法:電量滴定法、
KF分析装置:微量水分測定装置型式KF-100(三菱化学社製)
陽極液:アクアミクロンAX(三菱化学製)
陰極液:アクアミクロンCXU(三菱化学製)。
【0017】
本発明において、式(I)で表される化合物の塩としては、例えば、塩酸塩、臭化水素
酸塩、ヨウ化水素酸塩、リン酸塩、ホスホン酸塩、硫酸塩、メタンスルホン酸塩、p-ト
ルエンスルホン酸塩などのスルホン酸塩、酢酸塩、クエン酸塩、リンゴ酸塩、酒石酸塩、
コハク酸塩、サリチル酸塩などのカルボン酸塩、または、ナトリウム塩、カリウム塩など
のアルカリ金属塩;マグネシウム塩、カルシウム塩などのアルカリ土類金属塩;アンモニ
ウム塩、アルキルアンモニウム塩、ジアルキルアンモニウム塩、トリアルキルアンモニウ
ム塩、テトラアルキルアンモニウム塩などのアンモニウム塩などが含まれる。これらの塩
は、当該化合物と、医薬品の製造に使用可能である酸または塩基とを接触させることによ
り製造される。
【0018】
式(I)で表される化合物またはその塩の溶媒和物は、水和物、非水和物のいずれであっ
てもよい。式(I)で表わされる化合物またはその塩の非水和物としては、アルコール(
例えば、メタノール、エタノール、n-プロパノール)、ジメチルホルムアミドなどとの
溶媒和物が挙げられる。
【0019】
本発明の非晶質体は、非常に優れた溶解性を有し、従来の結晶体に比べ、良好な生体内
への吸収性、特に高い腸管吸収性を示すことが期待される。したがって、式(I)により
示される化合物又はその塩の結晶体に換えて本発明の非晶質体を用いることにより、一日
あたりの用量を減らすこともでき、薬剤・医薬、特に経口投与用製剤として有用である。
一般に、非晶質体は、結晶化が速く、安定性に問題がある場合もあるが、本発明の非晶
質体は、結晶化が起きにくく、安定な非晶質体である。このように安定性に優れた本発明
の非晶質体は、医薬として一定の品質を保持したものを製造・供給する上でも、使用する
上でも有利である。
【0020】
本発明の非晶質体は、噴霧乾燥法を用いて製造することができる。
「噴霧乾燥法」(スプレードライ法)とは、化合物を含む溶液・スラリー・エマルジョ
ン等(「フィード液」と称する)を微細な霧状にし、これを熱風中に噴出させるなどして
、粉状の乾燥化合物を得る方法である。霧状に噴霧することを「スプレー」するともいい
、その方法として、回転円盤による遠心噴霧と圧力ノズルによる加圧噴霧とがよく知られ
ている。
噴霧乾燥法は、常法に従い行うことができる。噴霧乾燥法を用いると、安定した均一の
非晶質体を再現性よく得ることができ、医薬として一定の品質を保持したものを製造・供
給する上で有利となる。
【0021】
上記の噴霧乾燥法の一例としては、一般式(I):
【化2】
で示される化合物、その塩、又はそれらの溶媒和物を、溶媒に溶解し、フィード液を調製
する工程、そのフィード液をスプレーする工程、およびスプレーされたフィード液を乾燥
し、その非晶質体を得る工程、を含む製造方法が挙げられる。
【0022】
上記フィード液を調製する工程の一つの態様として、式(I)で示される化合物の一塩
酸塩のI型結晶を溶媒に溶解し、フィード液を調製することが挙げられる。
噴霧乾燥法において用いられる溶媒としては、テトラヒドロフランが挙げられる。テト
ラヒドロフランの濃度は、例えば65%~85%であり、70%付近が好ましい。
式(I)で示される化合物、その塩、又はそれらの溶媒和物を溶媒に溶解する際の温度
は、50℃付近(±5℃)が好ましい。
噴霧乾燥時における温度は、120℃付近(±5℃)が好ましい。
なお、噴霧乾燥により得られた試料に残留溶媒が含まれる場合は、後処理として減圧乾
燥等の溶媒を除去する工程を含んでもよい。
【0023】
本発明はさらに、式(I)で示される化合物、その塩、又はそれらの溶媒和物の非晶質
体、及び不活性な担体を含有する、固体分散体に関する。固体分散体中では、式(I)で
示される化合物、その塩またはそれらの溶媒和物の非晶質体はさらに安定に存在するため
、保存性が向上し、実際の臨床使用上有用である。
本発明において「固体分散体」とは、不活性な担体又はそのマトリックス中に、1種類
またはそれ以上の活性成分が分散した、固体の組成物をいう。本発明において、固体分散
体は、好ましくは、不活性な担体又はそのマトリックス中に、活性成分が分子レベルで分
散している。
本発明において「不活性な担体」は、固体又は液体の賦形希釈剤を意味し、複数の物質
を含んでいてもよい。不活性な担体の好ましい例としては、固体高分子が挙げられる。固
体高分子は、製薬学的に許容されるものであって、活性成分の非晶質状態を保持できるも
のであれば、特に限定されることはなく、単独あるいは二種以上の混合物として用いられ
る。式(I)で示される化合物、その塩、またはそれらの溶媒和物の非晶質体に対する不
活性な担体との質量比は、式(I)で示される化合物のフリー体を基準として、例えば9
:1~1:9であり、2:1~1:9が好ましく、1:2~1:9がより好ましい。
本発明の好ましい態様として、式(I)で示される化合物、その塩、又はそれらの溶媒
和物の非晶質体が固体高分子中に分散した固体分散体が挙げられる。より好ましい態様と
して、前記非晶質体が分子レベルで固体高分子中に分散した固体分散体が挙げられる。
【0024】
前記固体高分子の例としては、セルロース類およびその誘導体、水溶性合成高分子など
が挙げられる。
セルロース類およびその誘導体としては、例えば、ヒプロメロース、ヒプロメロースア
セテートサクシネート、ヒプロメロースフタレート、カルボキシメチルセルロース、カル
ボキシメチルエチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ヒドロキシエ
チルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、
メチルセルロース、エチルセルロース、酢酸フタル酸セルロース等が挙げられ、上記固体
高分子中、好ましいものとしては、ヒプロメロースアセテートサクシネート、ヒプロメロ
ースフタレートが挙げられる。
水溶性合成高分子としては、ポリエチレングリコール、ポリビニルアルコール、ポビド
ン、コポリビドン、ポリビニルアセテートフタレート、ポリビニルアセタールジエチルア
ミノアセテート、セルロースアセテートフタレート、ポリビニルカプロラクタム-ポリビ
ニル酢酸-ポリエチレングリコールグラフトコポリマー(製品名:ソルプラス)、アミノ
アルキルメタクリレートコポリマーE、アミノアルキルメタクリルコポリマーRS、メタ
クリル酸コポリマーL、メタクリル酸コポリマーLD、メタクリル酸コポリマーS、カル
ボキシルビニルポリマー等が挙げられ、上記固体高分子中、好ましいものとしては、ポリ
ビニルカプロラクタム-ポリビニル酢酸-ポリエチレングリコールグラフトコポリマー、
メタクリル酸コポリマーLが挙げられる。
このような固体分散体は、好ましくは、噴霧乾燥法により得ることができる。具体的に
は、例えば、式(I)で示される化合物、その塩、またはそれらの溶媒和物と他の固体状
の物質(例えば固体高分子)を溶媒に溶解し、得られた溶液を約100℃にて噴霧乾燥し
、任意で後処理として減圧乾燥することにより、得ることができる。
ここで、式(I)で示される化合物、その塩、またはそれらの溶媒和物の非晶質体に対
する固体高分子の質量比は、式(I)で示される化合物のフリー体を基準として、例えば
9:1~1:9であり、2:1~1:9が好ましく、1:2~1:9がより好ましい。
【0025】
本発明の非晶質体は経口的又は非経口的に投与可能であり、経口投与の剤型としては、
散剤、細粒剤、顆粒、錠剤、カプセル剤が好適に用いられる。また、非経口投与の剤型と
しては坐剤等が好適に用いられる。本発明の非晶質体を固体分散体として使用する場合、
固体分散体自体を製剤として使用することもできるが、圧縮成型等の製剤化技術を施し、
散剤、細粒、顆粒、錠剤、又はカプセル剤等の製剤として使用することができる。本発明
の非晶質体、固体分散体および製剤は、製薬学的に許容可能な溶液中に予め分散させた液
剤として使用することもでき、この場合は、経口投与用のシロップ剤や非経口投与用の注
射剤(用時溶解して用いる注射用凍結乾燥剤を含む)として用いることができる。また、
リポソーム剤として調製することも可能である。
前記剤型の調製には、常用される着色剤、甘味剤、着香や、希釈剤、賦形剤、結合剤、
滑沢剤、崩壊剤、軟化剤、懸濁化剤、乳化剤、防腐剤、酸化防止剤、界面活性剤、安定化
剤、pH調整剤、及び分散剤を用いることができる。これらの各種剤型は、常法に従い調
製され、無菌的に調製されてもよい。
例えば、崩壊剤としては、例えばトウモロコシデンプン、バレイショデンプン、部分ア
ルファー化デンプン等のデンプン類、結晶セルロース、微結晶セルロース等のセルロース
類、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、クロスカルメロースナトリウム、クロスポ
ビドン、カルメロースカルシウム、カルメロースナトリウム、カルボキシメチルスターチ
ナトリウム等が挙げられる。
また、賦形剤としては、例えば乳糖、白糖、ブドウ糖、還元麦芽糖、マンニトール、ソ
ルビトール、エリスリトール等の糖類、トウモロコシデンプン、バレイショデンプン、ア
ルファー化デンプン、部分アルファー化デンプン、デキストリン、プルラン等のデンプン
類およびその誘導体、結晶セルロース、微結晶セルロース等のセルロース類、ケイ酸マグ
ネシウム、メタケイ酸アルミン酸マグネシウム、リン酸水素ナトリウム、リン酸水素カル
シウム、タルク等が挙げられる。
滑沢剤としては、例えばカルナウバロウ、硬化油、ステアリン酸、ステアリン酸マグネ
シウム、ステアリン酸カルシウム、タルク、フマル酸ステアリルナトリウム、ショ糖脂肪
酸エステル等が挙げられる。
また、本発明の固体分散体もしくは製剤は、式(I)で示される化合物、その塩、又は
それらの溶媒和物の結晶を一部に含んでいてもよい。固体分散体もしくは製剤中の式(I
)で示される化合物、その塩、又はそれらの溶媒和物の少なくとも75%が非晶質体で存
在することが好ましいが、これに限られない。さらに好ましくは、この量は少なくとも9
0%であり、さらにより好ましくは95%である。非晶質体の存在割合については、結晶
体、非晶質体との粉末X線回折のスペクトルの比較により求めることができる。
【0026】
式(I)で示される化合物の一塩酸塩のI型結晶を有効成分として含有する製剤の処方
の例として、表4に記載のものが挙げられる。これらの製剤は次の方法により製造するこ
とができる。
【0027】
顆粒処方成分を高速攪拌造粒機に仕込み予混合し、適切な量の精製水を噴霧して攪拌造
粒した後、真空乾燥し、乾燥末を得る。乾燥末を整粒機にて整粒し、得られた整粒末と後
末成分を混合機にて混合し、配合末を得る。この配合末をカプセルに充てんし、カプセル
剤を製造する。
該製剤は、該製剤に含まれる式(I)の化合物の一塩酸塩全体に対し、1%、2%、3
%、4%、5%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、
50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、
96%、97%、98%、99重量%以下の本発明の非晶質体を含み得る。
【0028】
【表4】
なお、本明細書において、以下の略号を用いることがある。
MeOH:メタノール
EtOH:エタノール
MeCN:アセトニトリル
THF:テトラフドロフラン
EtOAc:酢酸エチル
DMSO:ジメチルスルホキシド
tBuOH:tert-ブチルアルコール
【実施例】
【0029】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、これはそれぞれ一例であり、本発明
はこれらの限定されるものではない。
【0030】
[参考例1]
9-エチル-6,6-ジメチル-8-(4-モルホリン-4-イル-ピペリジン-1-イ
ル)-11-オキソ-6,11-ジヒドロ-5H-ベンゾ[b]カルバゾール-3-カル
ボニトリル一塩酸塩のI型結晶
9-エチル-6,6-ジメチル-8-(4-モルホリン-4-イル-ピペリジン-1-
イル)-11-オキソ-6,11-ジヒドロ-5H-ベンゾ[b]カルバゾール-3-カ
ルボニトリル400gをメチルエチルケトン4.8L、酢酸1.44Lおよび蒸留水1.
68Lの混合溶媒に室温にて溶解しこの溶液をエタノール12Lおよび2N塩酸0.8L
の混合物中に60℃で滴下した。析出した固体を濾取しエタノール2Lで洗浄乾燥し標題
の化合物の一塩酸塩のI型結晶357gを得た。
【0031】
[参考例2]
9-エチル-6,6-ジメチル-8-(4-モルホリン-4-イル-ピペリジン-1-イ
ル)-11-オキソ-6,11-ジヒドロ-5H-ベンゾ[b]カルバゾール-3-カル
ボニトリル一塩酸塩のIII型結晶
9-エチル-6,6-ジメチル-8-(4-モルホリン-4-イル-ピペリジン-1-
イル)-11-オキソ-6,11-ジヒドロ-5H-ベンゾ[b]カルバゾール-3-カ
ルボニトリル(9.00g)をメチルエチルケトン(90ml)、蒸留水(31.5ml
),および酢酸(27.0ml)の混合溶媒に溶解した。この溶液を、15℃にて撹拌し
たエタノール(90ml),および2N塩酸(18.00ml)の混合液へ、混合液温度
を15℃に保ちながら滴下した。つづいて、メチルエチルケトン(18.00ml)、蒸
留水(6.30ml)、および酢酸(5.40ml)の混合溶媒にて洗いこみをした後、
15℃にて攪拌した。析出した固体を濾取し,標題の化合物の一塩酸塩のIII型結晶を
得た。
【0032】
[参考例3]
9-エチル-6,6-ジメチル-8-(4-モルホリン-4-イル-ピペリジン-1-イ
ル)-11-オキソ-6,11-ジヒドロ-5H-ベンゾ[b]カルバゾール-3-カル
ボニトリル一塩酸塩のII型結晶
参考例2にて得られたIII型結晶を,エタノール(90ml)で洗浄した後に,40
℃で約16時間減圧乾燥し、標題の化合物の一塩酸塩のII型結晶を得た。
【0033】
[参考例4]
9-エチル-6,6-ジメチル-8-(4-モルホリン-4-イル-ピペリジン-1-イ
ル)-11-オキソ-6,11-ジヒドロ-5H-ベンゾ[b]カルバゾール-3-カル
ボニトリル一塩酸塩のII型結晶
9-エチル-6,6-ジメチル-8-(4-モルホリン-4-イル-ピペリジン-1-
イル)-11-オキソ-6,11-ジヒドロ-5H-ベンゾ[b]カルバゾール-3-カ
ルボニトリル(4.00g)をメチルエチルケトン(40ml)、蒸留水(14ml),
および酢酸(12ml)の混合溶媒に加え,35℃にて溶解した。この溶液を、エタノー
ル(40ml),および2N塩酸(8.00ml)の混合液(15℃にて撹拌)へ、混合
液温度を15℃に保ちながら滴下した。この混合液に、さらにメチルエチルケトン(8.
00ml)、蒸留水(2.80ml),および酢酸(2.40ml)の混合溶媒を,混合
液温度を15℃に保ちながら滴下した。つづいて,混合液を15℃にて攪拌した。析出し
た固体を濾取し,エタノール(40ml)で洗浄した後に,40℃で減圧乾燥し、標題の
化合物の一塩酸塩のII型結晶(2.4805g)を得た。
【0034】
[参考例5]
9-エチル-6,6-ジメチル-8-(4-モルホリン-4-イル-ピペリジン-1-イ
ル)-11-オキソ-6,11-ジヒドロ-5H-ベンゾ[b]カルバゾール-3-カル
ボニトリル一塩酸塩のIII型結晶
9-エチル-6,6-ジメチル-8-(4-モルホリン-4-イル-ピペリジン-1-
イル)-11-オキソ-6,11-ジヒドロ-5H-ベンゾ[b]カルバゾール-3-カ
ルボニトリル(4.00g)をメチルエチルケトン(40ml)、蒸留水(14ml),
および酢酸(12ml)の混合溶媒に加え,35℃にて溶解した。この溶液を、エタノー
ル(40ml),および2N塩酸(8.00ml)の混合液(15℃にて撹拌)へ、混合
液温度を15℃に保ちながら滴下した。メチルエチルケトン(8.00ml)、蒸留水(
2.80ml),および酢酸(2.40ml)の混合溶媒を,混合液温度を15℃に保ち
ながら滴下した。つづいて,混合液を15℃にて攪拌した。析出した固体を濾取し,標題
の化合物の一塩酸塩のIII型結晶(7.8435g)を得た。
【0035】
粉末X線回折分析
参考例1~5で得られた9-エチル-6,6-ジメチル-8-(4-モルホリン-4-
イル-ピペリジン-1-イル)-11-オキソ-6,11-ジヒドロ-5H-ベンゾ[b
]カルバゾール-3-カルボニトリル一塩酸塩のI型、II型、III型結晶について粉
末X線回折を以下の条件により測定した。II型結晶、III型結晶、I型結晶の測定結
果を
図2~4に示す。
測定装置:X’Pert-Pro MPD(PANalytical製)
対陰極:Cu
管電圧:45kV
管電流:40mA
ステップ幅:0.02
走査軸:2θ
ステップあたりのサンプリング時間:43秒
走査範囲:3~40°
【0036】
[実施例1]式(I)の化合物の塩酸塩の非晶質体の調製
9-エチル-6,6-ジメチル-8-(4-モルホリン-4-イル-ピペリジン-1-
イル)-11-オキソ-6,11-ジヒドロ-5H-ベンゾ[b]カルバゾール-3-カ
ルボニトリルの一塩酸塩のI型結晶(600mg)を含む容器に、テトラヒドロフラン(
140mL)と水(60mL)とを混合した溶媒(40mL)を加え、50℃の湯浴中で
温めた。その後、塩が溶解するまで混合物を攪拌した。得られた溶液を約120℃にて噴
霧乾燥し、後処理として減圧乾燥を行い、標題の化合物の一塩酸塩の非晶質体(530m
g)を得た。
噴霧乾燥時の条件は以下のとおりである。
噴霧圧力:20-30mbar
入口温度:120℃
【0037】
[試験例1]粉末X線回折分析
実施例1にて得られた9-エチル-6,6-ジメチル-8-(4-モルホリン-4-イ
ル-ピペリジン-1-イル)-11-オキソ-6,11-ジヒドロ-5H-ベンゾ[b]
カルバゾール-3-カルボニトリル一塩酸塩の非晶質体について、粉末X線回折を以下の
条件により測定した。測定結果を
図1に示す。
測定装置:X’Pert-Pro MPD(PANalytical製)
対陰極:Cu
管電圧:45kV
管電流:40mA
ステップ幅:0.02°
走査軸:2θ
ステップあたりのサンプリング時間:43秒
走査範囲:3~40°
実施例1にて得られた非晶質体のX線粉末回折パターンにはハローパターンが確認され
、非晶質体であることが示された。
【0038】
[試験例2]示差走査熱量測定(DSC)
実施例1と同様の方法により得られた9-エチル-6,6-ジメチル-8-(4-モル
ホリン-4-イル-ピペリジン-1-イル)-11-オキソ-6,11-ジヒドロ-5H
-ベンゾ[b]カルバゾール-3-カルボニトリル一塩酸塩の非晶質体について、示差走
査熱量測定を以下の条件により行った。結果を
図5に示す。2つの発熱ピーク(252.
86℃、269.29℃)が観察された。また、発熱変化後、300℃付近にて試料を取
り出し室温にて保管した後、粉末X線回折による測定を行った結果、非晶質体が結晶体へ
転移したことが確認された。ガラス転移温度は224.5℃付近に確認された。
装置名称:示差走査熱量計(DSC)
型式:Q200(TA Instruments製)
加熱速度:10℃/分
測定温度範囲:25℃~350℃
雰囲気ガス:乾燥窒素
雰囲気ガスの流量:50mL/分
セル:アルミニウムパン(ピンホール)
試料量:5mg~10mg
基準:空容器
【0039】
[実施例2]非晶質を取得するための溶媒の検討
9-エチル-6,6-ジメチル-8-(4-モルホリン-4-イル-ピペリジン-1-
イル)-11-オキソ-6,11-ジヒドロ-5H-ベンゾ[b]カルバゾール-3-カ
ルボニトリル一塩酸塩(以下化合物A)の各溶媒に対する溶解度を評価した。
表5に記載の各種溶媒(5mL)を化合物AのI型結晶(5mg)に加えた。未溶解の
結晶が確認された場合には、室温にて攪拌し、超音波で溶解した(工程1)。前記操作後
、未溶解の結晶が確認された場合には、更に約50℃の湯浴中で攪拌した(工程2)。
結晶が完全に溶解した場合には、更に化合物AのI型結晶を加えた(工程3)。
工程1~3の操作を繰り返した。
なお、CH2Cl2については工程2及びそれ以降の工程を室温で実施した。
THF以外の溶媒についての結果を表6に、THFについての結果を表7に示す。
【0040】
【0041】
【0042】
【0043】
[実施例3]偏光顕微鏡による確認
実施例2にて得られた溶液のうち、化合物AのI型結晶が溶解したことが確認された溶
液を、100℃以上に熱したホットプレートにのせたガラス皿上で乾燥させた。得られた
固体を、偏光顕微鏡を用いて確認した。結果を
図6および
図7に示す。70%のTHF(
化合物Aの濃度:14mg/mL)及び80%のTHF(化合物Aの濃度:12mg/m
L)を用いた場合に、非晶質体が得られることが確認された(
図6及び
図7)。
(参考)
なお、式(I)により示される化合物の一塩酸塩のI型結晶をジェットミルにより粉砕
することにより結晶中にごく少量の非晶質体が生じることが確認されたが、該非晶質体は
すぐに結晶化する傾向があった。
【0044】
[実施例4]安定性試験
9-エチル-6,6-ジメチル-8-(4-モルホリン-4-イル-ピペリジン-1-
イル)-11-オキソ-6,11-ジヒドロ-5H-ベンゾ[b]カルバゾール-3-カ
ルボニトリル一塩酸塩の非晶質体を一定の条件下で保存し,試験例1と同様に粉末X線回折
により,試験化合物非晶質体の状態変化を解析した。結果を表8に示した。その結果,密
閉状態で保存した場合、30℃及び75%RHの条件下12ヶ月間の長期安定性試験を行
った結果、及び40℃及び75%RHの条件下6ヶ月間の加速試験を行った結果において
、該非晶質体は結晶化し難く、物理的に安定であることを確認した。
【表8】
【0045】
[実施例5]
9-エチル-6,6-ジメチル-8-(4-モルホリン-4-イル-ピペリジン-1-
イル)-11-オキソ-6,11-ジヒドロ-5H-ベンゾ[b]カルバゾール-3-カ
ルボニトリル一塩酸塩の非晶質体およびその結晶体(I型結晶)を一定比率含む組成物に
ついて固有溶解速度測定試験(USPのchapter 1087 ”APPARENT INTRINSIC DISSOLUTION-D
ISSOLUTION TESTING PROCEDURES FOR ROTATING DISK AND STATIONARY DISK”に準ずる)
を行った。結果を表9に示す。非晶質の含有率が約15%以上の場合に溶解速度が高まる
ことを確認した。
【表9】
【0046】
[実施例6]
9-エチル-6,6-ジメチル-8-(4-モルホリン-4-イル-ピペリジン-1-
イル)-11-オキソ-6,11-ジヒドロ-5H-ベンゾ[b]カルバゾール-3-カ
ルボニトリル一塩酸塩の非晶質体とそのI型結晶の溶解度をシェイクフラスコ法(37℃
)により確認した。結果を表10に示す。非晶質体の溶解度はI型結晶の溶解度より大き
いことを確認した。
【表10】
【0047】
[実施例7]
(出発物質の製造)
9-エチル-6,6-ジメチル-8-(4-モルホリン-4-イル-ピペリジン-1-
イル)-11-オキソ-6,11-ジヒドロ-5H-ベンゾ[b]カルバゾール-3-カ
ルボニトリルの結晶を以下の方法(特許文献2の実施例805に記載の方法)と同様の方
法により得た。
6-シアノ-2-(2-(4-エチル-3-(4-モルホリン-4-イル-ピペリジン
-1-イル)フェニル)プロパン-2-イル)-1H-インドール-3-カルボン酸 5
00gを窒素気流下にDMA9.4L、無水酢酸270mL、DIPEA1170mLの
混合物に溶解し90℃で1時間攪拌した。室温冷却後、メタノール3.525Lついで蒸
留水5.875Lを加え析出した固体をろ集し、メタノール:水=3:5の混液1.41
Lで2回洗浄した後乾燥し表題化合物389.6g(85%)を得た。
(噴霧乾燥法による式(I)で表わされる化合物の固体分散体の調製)
得られた9-エチル-6,6-ジメチル-8-(4-モルホリン-4-イル-ピペリジ
ン-1-イル)-11-オキソ-6,11-ジヒドロ-5H-ベンゾ[b]カルバゾール
-3-カルボニトリルの結晶(2.58g)と表8に示した固体高分子(5.60g)を
含む容器に、表11に示した溶媒を加え、溶解するまで混合物を攪拌した。得られた溶液
を約100℃にて噴霧乾燥し、後処理として減圧乾燥を行い、式(I)で表わされる化合
物の非晶質状物質(実施例8)および固体分散体(実施例9~15)を得た。
噴霧乾燥時の条件は以下のとおりである。
噴霧圧力:25-50mbar
入口温度:100℃
【0048】
【0049】
[試験例3]粉末X線回折分析
実施例8~15にて得られた9-エチル-6,6-ジメチル-8-(4-モルホリン-
4-イル-ピペリジン-1-イル)-11-オキソ-6,11-ジヒドロ-5H-ベンゾ
[b]カルバゾール-3-カルボニトリルの非晶質状物質、固体分散体、及び出発物質の
結晶について、粉末X線回折を以下の条件により測定した。測定結果を
図8に示した。
測定装置:D8 discover with GADDS(Bruker製)
対陰極:Cu
管電圧:40kV
管電流:40mA
検出時間:100秒
検出角度:phi 0°、chi 90°
走査範囲:5~25.3°
【0050】
実施例9~15にて得られた固体分散体のX線粉末回折パターンにはいずれもハローパ
ターンが確認され、非晶質体であることが示された。
【0051】
[試験例4]加速試験
実施例8~15にて得られた9-エチル-6,6-ジメチル-8-(4-モルホリン-
4-イル-ピペリジン-1-イル)-11-オキソ-6,11-ジヒドロ-5H-ベンゾ
[b]カルバゾール-3-カルボニトリルの非晶質状物質及び固体分散体について、40
℃及び75%RHの条件下で3ヶ月間の加速試験を行い、粉末X線回折を以下の条件によ
り測定した。測定結果を
図9に示した。該固体分散体は結晶化し難く、物理的に安定であ
ることを確認した。
測定装置:X’Pert-Pro MPD(PANalytical製)
対陰極:Cu
管電圧:45kV
管電流:40mA
ステップ幅:0.02°
走査軸:2θ
ステップあたりのサンプリング時間:43秒
走査範囲:5~35°
【0052】
[試験例5]
実施例8~15にて得られた9-エチル-6,6-ジメチル-8-(4-モルホリン-
4-イル-ピペリジン-1-イル)-11-オキソ-6,11-ジヒドロ-5H-ベンゾ
[b]カルバゾール-3-カルボニトリルの非晶質状物質及び固体分散体について、i)
40℃に設定した恒温槽中で3ヶ月保管、およびii)40℃75%RHに設定した恒温
槽中で開封状態で3ヶ月保管の2つの条件で試験し、主薬の残存率を以下の高速液体クロ
マトグラフ条件により測定した。測定結果を表13に示したが、該非晶質状物質および固
体分散体は化学的に安定であることを確認した。
検出器:紫外吸光光度計(測定波長:230nm)
カラム:内径4.6mm、長さ15cmのステンレス管に3.5μmの液体クロマト
グラフィー用オクタデシルシリル化シリカゲルを充てんしたもの
カラム温度:35℃付近の一定温度
移動相A:アセトニトリル/トリフルオロ酢酸混液(2000:1)
移動相B:水/トリフルオロ酢酸混液(2000:1)
移動相の送液:移動相A及びBの混合比を次のように変えて濃度勾配制御
【表12】
【0053】
【0054】
[試験例6]保存安定性試験
実施例8~15にて得られた9-エチル-6,6-ジメチル-8-(4-モルホリン-
4-イル-ピペリジン-1-イル)-11-オキソ-6,11-ジヒドロ-5H-ベンゾ
[b]カルバゾール-3-カルボニトリルの非晶質状物質及び固体分散体について、25
℃で1年月間の保存安定性試験を行い、粉末X線回折を以下の条件により測定した。測定
結果を
図10に示したが、該固体分散体は結晶化し難く、物理的に安定であることを確認
した。
測定装置:X’Pert-Pro MPD(PANalytical製)
対陰極:Cu
管電圧:45kV
管電流:40mA
ステップ幅:0.02°
走査軸:2θ
ステップあたりのサンプリング時間:43秒
走査範囲:5~35°
【0055】
[試験例7]小スケール溶出試験(R.Takanoら,Pharm.Res.23:1
144-1156(2006))
小スケール溶出試験機(Vankel Technologies,Inc.)を用い
、37℃、パドル回転数50rpmの条件で、実施例8~15にて得られた9-エチル-
6,6-ジメチル-8-(4-モルホリン-4-イル-ピペリジン-1-イル)-11-
オキソ-6,11-ジヒドロ-5H-ベンゾ[b]カルバゾール-3-カルボニトリルの
非晶質状物質および固体分散体について、ヒト小腸模擬液(Fasted state s
imulated intestinal fluid、FaSSIF)中での溶解性を評
価した。各試験サンプルについて、5、10、15、20、25、30、45、60、1
20、240分経過後の試験液中の式(I)の化合物濃度を以下の高速液体クロマトグラ
フ条により測定した。測定結果を
図11に示した。
検出器:紫外吸光光度計(測定波長:337nm)
カラム:内径3.0mm、長さ5cmのステンレス管に3μmの液体クロマトグラフ
ィー用オクタデシルシリル化シリカゲルを充てんしたもの
カラム温度:40℃付近の一定温度
移動相A:水/トリフルオロ酢酸混液(1000:1)
移動相B:アセトニトリル/トリフルオロ酢酸混液(1000:1)
移動相の送液:移動相A及びBの混合比を次のように変えて濃度勾配制御
【表14】
【0056】
その結果、9-エチル-6,6-ジメチル-8-(4-モルホリン-4-イル-ピペリ
ジン-1-イル)-11-オキソ-6,11-ジヒドロ-5H-ベンゾ[b]カルバゾー
ル-3-カルボニトリルの非晶質状物質は高分子を処方することにより溶解性が向上する
ことが示され、その効果はソルプラス(ポリビニルカプロラクタム-ポリビニル酢酸-ポ
リエチレングリコールグラフトコポリマ-)が最も高く、ヒプロメロースアセテートサク
シネート、ヒプロメロースフタレート、メタクリル酸コポリマーLが次に高いことが明ら
かとなった。
【0057】
[実施例16]
表15に示す配合比率で9-エチル-6,6-ジメチル-8-(4-モルホリン-4-
イル-ピペリジン-1-イル)-11-オキソ-6,11-ジヒドロ-5H-ベンゾ[b
]カルバゾール-3-カルボニトリル一塩酸塩のI型結晶を含む全原料を秤量し、デンプ
ングリコール酸ナトリウムの一部とステアリン酸マグネシウムを除き高速攪拌造粒機に投
入し、混合後、精製水を添加しながら湿式造粒を行い、湿式整粒後に真空乾燥した後、乾
式整粒を行い、顆粒を得た。得られた造粒顆粒に、デンプングリコール酸ナトリウムの残
りとステアリン酸マグネシウムをV型混合機に投入して混合し、充填用顆粒を得た。
【0058】
【0059】
小スケール溶出試験機を用い、37℃、パドル回転数50rpmの条件で、実施例16
のFaSSIF中での溶解性を評価し、実施例8および10と比較した。その結果、
図1
2に示したとおり、高分子担体としてポリビニルカプロラクタム-ポリビニル酢酸-ポリ
エチレングリコールグラフトコポリマ-を使用した固体分散体は、塩酸塩結晶製剤より溶
解性が改善することが明らかとなった。
【0060】
[試験例8]血中濃度測定
Beijing Marshall Biotechnology Co.,Ltd.
より購入した雄性ビーグル犬を試験に供じた。薬物投与16.5時間前から絶水・絶食し
、投与2時間前に胃内pH調整のため、ファモチジンをIV投与した。実施例10および
16で得られた各調製物を、試験化合物として5mg/kgとなるようにゼラチンカプセ
ルに充填し経口投与した。これらの製剤を投与後15分から24時間まで経時的にヘパリ
ン処理したシリンジを用いて前腕橈側皮静脈から採血し、遠心分離して血漿を得、試験化
合物の血中濃度を調べた(表16)。
【0061】
【0062】
結晶体の製剤と比較して、固体分散体は高い試験化合物の血中濃度が観察され、腸管か
らの吸収性は血中濃度曲線下面積基準で約2.4倍向上していることが明らかとなった。
【0063】
上記検討の結果、本発明の非晶質体は、常温で長期間安定であり、溶解性を改善するも
のであった。また、本発明の固体分散体は、優れた物理的安定性及び化学的安定性を有し
、本発明の非晶質体の溶解性を更に向上させるものであった。したがって、本発明の非晶
質体及び固体分散体は、薬剤、特に経口投与用薬剤など生体内への吸収性の点で問題点を
生じやすい剤型に非常に有用である。