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特許7483853hnRNPA2B1の抗感染作用及びその応用
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-07
(45)【発行日】2024-05-15
(54)【発明の名称】hnRNPA2B1の抗感染作用及びその応用
(51)【国際特許分類】
   A61K 38/17 20060101AFI20240508BHJP
   A61P 31/20 20060101ALI20240508BHJP
   A61K 31/7088 20060101ALI20240508BHJP
   A61K 9/127 20060101ALI20240508BHJP
   A61P 1/04 20060101ALI20240508BHJP
   A61P 31/10 20060101ALI20240508BHJP
   A61P 31/12 20060101ALI20240508BHJP
   A61P 31/22 20060101ALI20240508BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20240508BHJP
   A61P 31/06 20060101ALI20240508BHJP
   A61P 37/02 20060101ALI20240508BHJP
   C12Q 1/02 20060101ALI20240508BHJP
   C12N 15/63 20060101ALI20240508BHJP
【FI】
A61K38/17 ZNA
A61P31/20
A61K31/7088
A61K9/127
A61P1/04
A61P31/10
A61P31/12
A61P31/22
A61P29/00
A61P31/06
A61P37/02
C12Q1/02
C12N15/63 Z
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2022502388
(86)(22)【出願日】2019-07-17
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-09-21
(86)【国際出願番号】 CN2019096303
(87)【国際公開番号】W WO2021007800
(87)【国際公開日】2021-01-21
【審査請求日】2022-03-11
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】506032129
【氏名又は名称】中国医学科学院基礎医学研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100229448
【弁理士】
【氏名又は名称】中槇 利明
(72)【発明者】
【氏名】曹 雪涛
(72)【発明者】
【氏名】王 蕾
(72)【発明者】
【氏名】温 明岳
【審査官】渡邉 潤也
(56)【参考文献】
【文献】Journal of Virology,2011年,85(21),pp.10976-10988
【文献】PLoS One,2017年,12(11),e0188214, pp.1-15
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K
C12N
C07K
C12Q
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
DNAウイルスの感染性疾患及び/又はDNAウイルスの感染に関与する疾患及び/又は症状を予防及び/又は治療するための医薬品組成物又はキットの調製における異種核リボ核タンパク質A2B1(hnRNPA2B1)、当該タンパク質をコードする核酸分子、及び/又は当該タンパク質及び当該核酸分子の促進剤の使用であり、
上記の促進剤は、hnRNPA2B1又はhnRNPA2B1をコードする配列の過剰発現ベクター;外来hnRNPA2B1;hnRNPA2B1をコードする配列の裸のDNA;hnRNPA2B1をコードする配列のリポソームに封入されたDNA;インビボでhnRNPA2B1に変換することができるhnRNPA2B1前駆体タンパク質又はコンジュゲート又はコンプレックスから選択される、使用。
【請求項2】
上記のhnRNPA2B1は、以下から選択される:
(a)SEQ ID NO:2又はSEQ ID NO:4に示されたアミノ酸配列を有するポリペプチド;又は
(b)SEQ ID NO:2又はSEQ ID NO:4に示されたアミノ酸配列であるか、又は前記アミノ酸配列に対し80%以上の配列同一性を有し、かつDNAウイルスの感染を抑制する活性を有するタンパク質又はポリペプチド;及び/又は
上記の核酸分子は、以下から選択される:
(i)SEQ ID NO:1又はSEQ ID NO:3に示されたヌクレオチド配列を有する核酸分子;又は
(iii)SEQ ID NO:1又はSEQ ID NO:3に示されたヌクレオチド配列であるか、又は前記ヌクレオチド配列に対し80%以上の配列同一性を有し、かつDNAウイルスの感染性疾患及び/又はDNAウイルスの感染に関与する疾患及び/又は症状を予防及び/又は治療する活性を有するタンパク質又はポリペプチドをコードする核酸分子;ことを特徴とする請求項1に記載された使用。
【請求項3】
上記のDNAウイルスの感染は、単純ヘルペスウイルス、B型肝炎ウイルス、アデノウイルス、ポックスウイルス、小DNAウイルス、アデノ随伴ウイルスの一種類又は複数種類のウイルスによる感染から選択される感染であることを特徴とする請求項1に記載された使用。
【請求項4】
上記の感染に関与する疾患及び/又は症状は、感染による病理学的損傷;感染後のサイトカイン(例えばインターフェロン)の不十分または過剰な産生;内毒素性ショックまたは死;臓器への炎症性損傷;多臓器不全、例えば、上記の臓器は、肝臓、脾臓、脳、腎臓、心臓、肺、胃、腸から選択される;ウイルス感染による慢性炎症性疾患(例えば、炎症性腸疾患、関節リウマチ、全身性エリテマトーデス、慢性腎炎、結核、慢性胃腸疾患などの自己免疫疾患)から選択される一つ又は複数であることを特徴とする請求項1に記載された使用。
【請求項5】
上記の医薬品組成物又はキット、その形式は、注射(例えば裸のDNAまたはタンパク質の直接注入、リポソームに封入されたDNA又はタンパク質の注入)、金でコーティングされた遺伝子銃の爆撃、プラスミドDNAを運ぶ生殖欠損菌、標的DNAを運ぶ複製欠損アデノウイルス、又は目的遺伝子がコードするタンパク質、エレクトロポレーション、経鼻投与、肺投与、経皮投与、腫瘍内投与から選択される医薬品組成物又はキットによる投与に適した形式形態であることを特徴とする請求項1に記載された使用。
【請求項6】
上記の医薬品組成物又はキットは、さらに、感染性疾患及び/又は感染に関与する疾患及び/又は症状を予防及び/又は治療するための他の物質を含み、他の活性物質は、例えば、β-ラクタム系抗生物質(ペニシリンとセファロスポリン)、アミノグリコシド系抗生物質、テトラサイクリン系抗生物質、クロラムフェニコール系抗生物質、マクロライド系抗生物質、抗真菌性抗生物質、抗結核系抗生物質など、臨床用抗生物質;臨床抗ウイルス薬(三環式アミン、ピロリン酸塩、プロテアーゼ阻害剤、ヌクレオシド薬とインターフェロン、アンチセンスオリゴヌクレオチドなど);臨床免疫抑制剤(グルココルチコイド、シクロホスファミド、クロロキン、シクロスポリンA、トリプテリギウムウィルフォルディ、漢方薬、抗TNFモノクローナル抗体を含む)から選択される一つ又は複数を含むことを特徴とする請求項1に記載された使用。
【請求項7】
(A)治療又は予防有効量のhnRNPA2B1、当該タンパク質をコードする核酸分子、及び/又は前記タンパク質又は前記核酸分子の促進剤、ただし、上記の促進剤は、hnRNPA2B1又はhnRNPA2B1をコードする配列の過剰発現ベクター;外来hnRNPA2B1;hnRNPA2B1をコードする配列の裸のDNA;hnRNPA2B1をコードする配列のリポソームに封入されたDNA;インビボでhnRNPA2B1に変換することができるhnRNPA2B1前駆体タンパク質又はコンジュゲート又はコンプレックスから選択され
(B)薬学的または免疫学的に許容できるキャリア又は賦形剤;及び
(C)任意的に、感染性疾患及び関連する疾患及び/又は症状を予防又は治療する一つ又は複数の他の活性物質;を含む、DNAウイルスの感染性疾患及び/又はDNAウイルスの感染に関与する疾患及び/又は症状を予防及び/又は治療するための医薬品組成物又はキット。
【請求項8】
(A)DNAウイルスに感染された細胞、組織または人間以外の動物を候補物質によって処理すること;
(B)上記の細胞、組織または人間以外の動物中のhnRNPA2B1または当該タンパク質をコードする核酸分子のレベルを検出すること;及び
(C)hnRNPA2B1又は当該タンパク質をコードする核酸分子の上記レベルが、候補物質によって処理される前のレベル、又は正常な対照中のレベルより高い場合に、上記の候補物質がhnRNPA2B1を促進することで感染に抵抗する作用を有することを判明すること;を含む、hnRNPA2B1を促進することでDNAウイルスの感染性疾患及び/又はDNAウイルスの感染に関与する疾患及び/又は症状を予防及び/又は治療するための医薬品をスクリーニングする方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、生物技術と医学分野に関する。具体的に、本開示は、感染に関与する疾患又は症状の予防又は治療、感染による損傷の制御における核タンパク質hnRNPA2B1(即ち、異種核リボ核タンパク質A2B1、heterogeneous nuclear ribonucleoprotein A2B1)の効果、作用機構、実施方法と用途に関する。
【背景技術】
【0002】
感染、特にウイルス感染は、大きな害を伴うよくある臨床疾患である。当初、ウイルス感染に対する身体の抵抗性の分子メカニズムは、完全には理解されなかったが、サイトカインクラスであるインターフェロンの発見により、ウイルス感染に反応して体が産生する自然免疫細胞と、二次獲得免疫細胞と、それらの機能の分子生物学的基礎は、徐々に認識されてきた。
【0003】
インターフェロン(interferon、IFN)は、強力な抗ウイルス機能を持つサイトカインファミリーの総称である。1957年、Alick Isaacs教授とJean Lindenmann教授は、ニワトリ胚のインフルエンザウイルス感染を研究する過程である成分を発見し、この成分は、インフルエンザウイルスの増殖を大幅に防ぐことができ、インターフェロンと名付けた(Isaacs,A.ら、Proc R Soc Lond B Biol Sci. 1957;927:258-267.)。それ以来、インターフェロンファミリーのサイトカインは、非常に広範囲で効果的な抗ウイルス効果を有することが連続的に見出されてきた。現在、インターフェロンは、臨床にウイルス感染に対する防御と、ウイルス感染による様々な疾患の治療に広く利用される。
【0004】
体に感染するさまざまな病原体は、一般に、類似の構造的または分子的特徴を有し、こんな特徴は、ウイルスの比較的保存された配列特徴や、病原性微生物によって共有される構成的発現分子などを含む。これらの類似した構造や特徴は、まとめて、病原体関連分子パターン(Pathogen associated molecular patterns、PAMPs)と呼ばれるが、それと相互に認識する細胞表面受容体はパターン認識受容体(Pattern recognition receptors、PRRs)と呼ばれる。例えば、RNAウイルスを特異的に認識するPPRには、主に、細胞に感染するRNAウイルスのATエレメントが豊富な部分を認識するRNAヘリカーゼレチノイン酸誘導遺伝子I(RNA helicases retinoic acid-inducible gene I、RIG-I、DDX58とも言う)とメラノーマ分化関連遺伝子5(melanoma differentiation-associated gene 5、MDA5、IFIH1とも言う)などがある。
【0005】
通常、DNAウイルスが、宿主細胞に侵入すると、宿主細胞の核内でゲノムDNAを放出して複製する。ただし、核内の病原体由来DNAの認識メカニズムは不明である。現在まで、1つのタンパク質であるγ-インターフェロン誘導性タンパク質16(gamma-interferon-inducible protein 16、IFI16)のみが、核内のウイルスDNAを認識し、IFN-I産生および炎症反応を活性化することができると考えられた。
【0006】
RNAポリメラーゼIII、IFI16、DAI、LRRFIP1、LSm14A、MRE11、DNA-PK、HMGBs、DDX41とサイクリックGMP-AMP(cGAMP)シンターゼ(cGAS)などのウイルスDNAを認識し、IFN-α/β産生を誘導する多数のタンパク質が同定されてきた(Goubau,D.ら;Immunity,2013;38, 855-869.)。これらのPPRがウイルスを認識した後、宿主の免疫応答シグナル伝達経路を刺激することにより、大量のI型インターフェロンの産生を誘導し、それによって感染に対する体の最初の防御線を迅速に確立し、病原体感染に抵抗する。しかし、マウスでのin vivo実験では、細胞質内のcGASとDNA-PKのみがDNA認識受容体として確認される。いくつかのタンパク質(AIM2、IFI16、Rad50とSox2を含む)もDNAウイルス誘導性の炎症反応に関与する。したがって、DNAウイルスに対する自然免疫応答を完全かつ明確に理解するために、特に核内の外来DNAの認識と核外の自然免疫シグナル伝達の活性化を結びつけるメカニズムを探すために、核内のDNA認識に関するさらなる研究が緊急に必要とされる。
【0007】
異種核リボ核タンパク質A2B1(heterogeneous nuclear ribonucleoprotein A2B1、hnRNP-A2B1)は、hnRNPファミリーに属し、少なくとも20種類の豊富に発現するタンパク質と、その他のあまり豊富でないタンパク質を含み、RNA結合タンパク質(RNA-binding proteins、RBP)でもある。 これらの分子は、mRNAのスプライシング、輸送、その他のmRNAおよびmiRNA関連のプロセスに関与する。 hnRNP-A2B1は、N末端に2つのタンデムRNA/DNA認識モチーフ(RNA/DNA-recognition motifs、RRM)を含み、そのDNA結合能力を示す。現在の研究では、多くの生命活動におけるhnRNPA2B1の重要な機能が発見される。たとえば、hnRNPA2B1は、miRNAプライマリボディ(pri-miRNA)と直接結合し、miRNAマイクロプロセッシングタンパク質複合体の1つであるDGCR8と一緒に、pri-miRNA成熟ボディのプロセシングを促進することができる。さらに、hnRNPA2B1は、肺がん(Fielding P.ら、Clin Cancer Res. 1999 Dec;5(12):4048-52)、乳がん(Cui H.ら、Breast Cancer Res Treat. 2001 Apr;66(3):217-24.)、肝細胞がん(Zhou J.ら、BMC Cancer. 2010 Jul 6;10:356.)など、さまざまな腫瘍の疾患進行に関連する。ただし、これまでのところ、免疫応答と抗ウイルス感染におけるhnRNPA2B1タンパク質の役割は不明である。
【0008】
つまり、当技術分野において、核内のウイルスDNAを認識でき、インターフェロンの産生を開始し、抗ウイルス効果を向上し、ウイルス感染に効果的に抵抗し、ウイルス感染による損傷を制御する免疫学的に活性な物質を開発することが緊急に必要とされる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本開示の主な目的の一つは、抗感染におけるhnRNPA2B1、当該タンパク質をコードする核酸分子、その促進剤又はその阻害剤の用途を提供し、かつさらに、感染性疾患及び関連する疾患又は症状の治療又は予防におけるそれらの用途も提供する。本開示の医薬品、医薬品組成物又はキットは、感染を効果的に抵抗し、感染性疾患の発生を制御することに用いられる。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本開示のいくつかの態様において、感染性疾患及び/又は感染に関与する疾患及び/又は症状を予防及び/又は治療する製品の調製における異種核リボ核タンパク質A2B1 (hnRNPA2B1)、当該タンパク質をコードする核酸分子、その促進剤又はその阻害剤の用途を提供する。
【0011】
本開示のいくつかの態様において、さらに、感染性疾患及び/又は感染に関与する疾患及び/又は症状を予防及び/又は治療する方法も提供し、上記の方法は、必要が有る対象に、予防及び/又は治療有効量の異種核リボ核タンパク質A2B1 (hnRNPA2B1)、当該タンパク質をコードする核酸分子、その促進剤又はその阻害剤を投与することを含む。
【0012】
本開示のいくつかの態様において、感染性疾患及び/又は感染に関与する疾患及び/又は症状を予防及び/又は治療することに用いられる異種核リボ核タンパク質A2B1 (hnRNPA2B1)、当該タンパク質をコードする核酸分子、その促進剤又はその阻害剤を提供する。
【0013】
本開示のいくつかの態様において、インターフェロン(例えばI型インターフェロン、例えばIFN-α及び/又はIFN-β)レベルの向上における異種核リボ核タンパク質A2B1 (hnRNPA2B1)、当該タンパク質をコードする核酸分子、その促進剤の用途を提供する。一部の実施形態において、hnRNPA2B1、当該タンパク質をコードする核酸分子又はその促進剤は、感染を予防及び/又は治療するために、免疫反応を促進することに用いられる。
【0014】
本開示のいくつかの態様において、インターフェロン(例えばI型インターフェロン、例えばIFN-α及び/又はIFN-β)レベルの低下における異種核リボ核タンパク質A2B1 (hnRNPA2B1)の阻害剤又は当該タンパク質をコードする核酸分子の阻害剤の用途を提供する。本開示のいくつかの態様において、hnRNPA2B1の阻害剤又はhnRNPA2B1タンパク質をコードする核酸分子の阻害剤は、過剰な免疫反応を抑制することに用いられる。本開示のいくつかの態様において、hnRNPA2B1又はhnRNPA2B1コード配列の阻害剤が、ウイルス感染に抵抗する細胞の能力を抑制し、細胞内でのウイルス複製を促進する。
【0015】
一部の実施形態において、上記のhnRNPA2B1は、以下から選べられる:
(a)SEQ ID NO:2又はSEQ ID NO:4に示されたアミノ酸配列を有するポリペプチド;又は
(b)SEQ ID NO:2又はSEQ ID NO:4に示されたアミノ酸配列と相同であるか、又は配列同一性を有し(例えば80%以上の相同性、又は80%以上の配列同一性を有し、例えば80%、85%、90%、95%、98%、99%であり)、かつ感染を抑制する活性を有するタンパク質又はポリペプチド;又は
(c)(a)又は(b)のアミノ酸配列に、一つ又は複数のアミノ酸が置換、欠失又は付加されており、かつ感染性疾患及び/又は感染に関与する疾患及び/又は症状を予防及び/又は治療する活性を有する、(a)又は(b)から誘導されるタンパク質又はポリペプチド。
【0016】
一部の実施形態において、hnRNPA2B1は、自然に精製されたタンパク質、化学的に合成された産物、又は組換え技術で原核又は真核宿主から生産されるものである。上記の宿主は、バクテリア、酵母、高等動物および哺乳類細胞から選べられる。好ましくは、ヒトhnRNPA2B1である。
【0017】
一部の実施形態において、hnRNPA2B1は、SEQ ID NO:2又はSEQ ID NO:4に示されたアミノ酸配列のポリペプチドである。
【0018】
一部の実施形態において、hnRNPA2B1をコードする核酸分子は、以下から選べられる:
(i)SEQ ID NO:1、SEQ ID NO: 3に示されたヌクレオチド配列を有する核酸分子;又は
(ii) ストリンジェントな条件下で、(i)に限定されるヌクレオチド配列とハイブリダイズする分子;
(iii)SEQ ID NO:1又はSEQ ID NO:3に示されたヌクレオチド配列と相同であるか、又は配列同一性を有し(例えば80%以上の相同性、又は80%以上の配列同一性を有し、例えば80%、85%、90%、95%、98%、99%であり)、かつ感染性疾患及び/又は感染に関与する疾患及び/又は症状を予防及び/又は治療する活性を有するタンパク質又はポリペプチドをコードする核酸分子;
(iv)(i)又は(ii)又は(iii)のヌクレオチド配列から、一つ又は複数のヌクレオチドが置換、欠失又は付加されており、かつ感染性疾患及び/又は感染に関与する疾患及び/又は症状を予防及び/又は治療する活性を有するタンパク質又はポリペプチドをコードする核酸分子。
【0019】
一部の実施形態において、hnRNPA2B1をコードする核酸分子のヌクレオチド配列は、SEQ ID NO:1又は3に示される。
【0020】
一部の実施形態において、促進剤は、hnRNPA2B1タンパク質レベルを向上又はhnRNPA2B1機能を促進する物質であり、例えばhnRNPA2B1又はhnRNPA2B1をコードする配列の過剰発現ベクター;外来hnRNPA2B1;hnRNPA2B1をコードする配列の裸のDNA;hnRNPA2B1をコードする配列のリポソームに封入されたDNA;インビボでhnRNPA2B1に変換することができるhnRNPA2B1前駆体タンパク質又はコンジュゲート又はコンプレックスから選べられる。
一部の実施形態において、阻害剤は、hnRNPA2B1又は当該タンパク質をコードする核酸分子に対する抗体、siRNA (例えば、配列は、SEQ ID NO:5-8のいずれか一つに示されたsiRNA)、miRNA、アンチセンスオリゴヌクレオチド、アンタゴニスト、ブロッカーから選べられる。
【0021】
一部の実施形態において、上記の感染は、DNAが関与及び/又は仲介する感染である。
【0022】
一部の実施形態において、上記の感染は、ウイルス感染又は、バクテリア、真菌などのDNAが関与する感染又はその組み合わせに引かられる感染、例えば、単純ヘルペスウイルス、B型肝炎ウイルス、アデノビルス、ポックスウイルス、小DNAウイルス、アデノ随伴ウイルスの一種類又は複数種類のウイルスに引かれる感染から選べられるDNAウイルス感染である。
【0023】
一部の実施形態において、上記の感染に関与する疾患及び/又は症状は、以下から選べられる一つ又は複数である:感染による病理学的損傷;感染後のインターフェロンなどのサイトカインの不十分または過剰な産生;内毒素性ショックまたは死;臓器への炎症性損傷;多臓器不全、例えば、上記の臓器は、肝臓、脾臓、脳、腎臓、心臓、肺、胃、腸から選べられる;ウイルス感染による慢性炎症性疾患(例えば、炎症性腸疾患、関節リウマチ、全身性エリテマトーデス、慢性腎炎、結核、慢性胃腸疾患などの自己免疫疾患)。好ましくは、上記のウイルス感染による慢性炎症性疾患及び/又はその症状は、炎症性腸疾患、関節リウマチ、全身性エリテマトーデス、慢性腎炎、結核、慢性胃腸疾患などの自己免疫疾患を含む。
【0024】
一部の実施形態において、上記の製品は、医薬品組成物又はキットであり、例えば、その形式は、以下から選べられる医薬品組成物又はキットによる投与に適した形式形態である:経口、注射(例えば裸のDNAまたはタンパク質の直接注入、リポソームに封入されたDNA又はタンパク質の注入)、金でコーティングされた遺伝子銃の爆撃、生殖欠損菌を含むプラスミドDNAの持ち、標的DNAを運ぶ複製欠損アデノウイルス、又は目的遺伝子がコードするタンパク質、エレクトロポレーション、経鼻投与、肺投与、経口投与、経皮投与、腫瘍内投与。
【0025】
一部の実施形態において、上記の製品は、さらに、感染性疾患及び/又は感染に関与する疾患及び/又は症状を予防及び/又は治療するための他の物質を含み、例えば臨床によく使われる抗生物質(β-ラクタム(ペニシリンとセファロスポリン)、アミノグリコシド、テトラサイクリン、クロラムフェニコール、マクロライド、抗真菌性抗生物質、抗結核性抗生物質を含む)の一つ又は複数。
【0026】
本開示のいくつかの態様において、以下を含む製品(例えば、医薬品組成物又はキット)を提供する:
(A)治療又は予防有効量の本開示のhnRNPA2B1、当該タンパク質をコードする核酸分子、その促進剤及び/又はその阻害剤;
(B)薬学的または免疫学的に許容できるキャリア又は賦形剤;
(C)任意的に、感染性疾患及び関連する疾患及び/又は症状を予防又は治療する一つ又は複数の他の活性物質。
【0027】
一部の実施形態において、上記の製品に、hnRNPA2B1又はhnRNPA2B1をコードする核酸分子、その促進剤又はその阻害剤は、上記の製品の総重量の0.001~99.9wt%に占める。
【0028】
一部の実施形態において、上記の製品に、hnRNPA2B1又はhnRNPA2B1をコードする核酸分子、その促進剤又はその阻害剤は、上記の製品の総重量の1~95wt%、好ましくは5~90wt%、より好ましくは10~80wt%に占める。残部は、薬学的に許容できるキャリア及びその添加剤などの物質である。
【0029】
一部の実施形態において、本開示の製品を投与する前、同時又は後に、抗ウイルス感染を調節する他の活性物質を投与する。上記の他の活性物質は、ウイルス感染に関与する疾患、感染による損傷、感染による慢性炎症性疾患及び/又はそれらの症状を予防又は治療する活性を有する。上記のウイルス感染は、単純ヘルペスウイルス、B型肝炎ウイルス、アデノウイルス、ポックスウイルスから選べられるの一つ又は2種以上である。
【0030】
一部の実施形態において、他の活性物質は、以下から選べられる一つ又は複数を含むが、それらに限定されない:β-ラクタム系抗生物質(ペニシリンとセファロスポリン)、アミノグリコシド系抗生物質、テトラサイクリン系抗生物質、クロラムフェニコール系抗生物質、マクロライド系抗生物質、抗真菌性抗生物質、抗結核系抗生物質など、一般的に使用される臨床用抗生物質;一般的に使用される臨床抗ウイルス薬(三環式アミン、ピロリン酸塩、プロテアーゼ阻害剤、ヌクレオシド薬とインターフェロン、アンチセンスオリゴヌクレオチドなど);一般的に使用される臨床免疫抑制剤(グルココルチコイド、シクロホスファミド、クロロキン、シクロスポリンA、トリプテリギウムウィルフォルディ、漢方薬、抗TNFモノクローナル抗体を含む)。
【0031】
本開示のいくつかの態様において、hnRNPA2B1を促進することで感染を抵抗する医薬品をスクリーニングする方法を提供し、当該方法は、以下を含む:
(A)感染された細胞、組織または動物を候補物質によって処理すること;
(B)上記の細胞、組織または動物中のhnRNPA2B1または当該タンパク質をコードする核酸分子のレベルを検出すること;及び
(C)hnRNPA2B1又は当該タンパク質をコードする核酸分子のレベルは、候補物質に処理された前のレベル、又は正常な対照中のレベルより高いと、上記の候補物質は、hnRNPA2B1を促進することで感染を抵抗する作用を有することを判明すること。
【0032】
当業者は、本開示の本発明の概念および保護範囲から逸脱することなく、前述の技術的解決策および技術的特徴を任意に組み合わせることができる。本開示の他の内容に基づき、当業者にとって、本発明の他の面は自明なものである。
【図面の簡単な説明】
【0033】
本開示は、添付の図面を参照して以下でさらに説明され、これらの表現は、本開示の実施形態を説明することのみを意図しており、本開示の範囲を限定することを意図しない。
図1】マウスの初代腹膜マクロファージをHSV-1で感染した後、hnRNPA2B1は、HSV-1 DNAを直接認識して結合した;図は、PCR後の核酸電気泳動によるHSV-1DNAの検出を示した。
図2】hnRNPA2B1に対する干渉RNA(siRNA)によるマウスマクロファージのトランスフェクションは、HSV-1感染後のI型インターフェロンの転写レベルを低下した。図は、蛍光定量PCRで検出されたIFN-α(Ifna4)とIFN-β(Ifnb1)のmRNAレベルを示した(***、P <0.001; **、P <0.01)。UI:感染していない;刺激されていないグループ。
図3】hnRNPA2B1に対する干渉RNA(siRNA)によるマウスマクロファージのトランスフェクションは、HSV-1感染後のIFN-βタンパク質の転写レベルを低下した。図は、ELISA分析を示した(***、P <0.001)。UI:感染していない;刺激されていないグループ。
図4】hnRNPA2B1に対する干渉RNA(siRNA)によるヒトTHP1細胞のトランスフェクションは、HSV-1感染後のI型インターフェロンの転写レベルを低下した。図は、蛍光定量PCRで検出されたIFN-α(Ifna4)とIFN-β(Ifnb1)のmRNAレベルを示した(***、P <0.001)。UI:感染していない;刺激されていないグループ。
図5】マウスマクロファージでのhnRNPA2B1の過剰発現は、HSV-1感染後のIFN-βタンパク質レベルの分泌を促進した。図は、ELISA分析を示した(***、P <0.001)。
図6】野生型マウスと骨髄性細胞特異的hnRNPA2B1ノックアウト(Hnrnpa2b1 cKO)マウスを、7×10プラーク形成単位(PFU)のHSV-1で腹腔内感染した;6時間後、ELISAにより血清IFN-βレベルを検出した結果は、hnRNP-A2B1ノックアウトマウスの血清IFN-βレベルは野生型マウスよりも有意に低かった(***、P <0.001)。
図7】野生型マウスと骨髄性細胞特異的hnRNPA2B1ノックアウト(Hnrnpa2b1 cKO)マウスを、7×10プラーク形成単位(PFU)のHSV-1で腹腔内感染した;4日後にプラークアッセイによって脳ウイルス力価を検出した結果は、hnRNP-A2B1ノックアウトマウスの脳ウイルス力価は、野生型マウスよりも有意に低かった(***、P <0.001)。
図8】野生型マウスと骨髄性細胞特異的hnRNPA2B1ノックアウト(Hnrnpa2b1 cKO)マウスを、7×10プラーク形成単位(PFU)のHSV-1で腹腔内感染した;hnRNP-A2B1ノックアウトマウスの生存率は有意に低下した(P <0.001)。
図9】hnRNPA2B1発現のノックダウンにより、AdV感染後のI型インターフェロンの転写レベルが低下した。図は、蛍光定量PCRで検出されたIFN-βのmRNAレベルを示した(**、P <0.01)。UI:感染していない;刺激されていないグループ。
【発明を実施するための形態】
【0034】
本願では、多数の研究と動物モデルのテストを通じて、感染性疾患において、hnRNPA2B1がウイルス感染を効果的に抑制し、臓器の機能状態を改善し、患者の生存率を改善できることがわかった。これに基づき、本開示を完成した。
【0035】
本開示は、抗感染における新規免疫調節分子hnRNPA2B1の機能および効果を研究し、感染した動物に対する当該分子の治療的および保護的効果を検証する。実験によると、1)hnRNPA2B1は、ウイルス感染後にウイルスDNAに結合できる;2)hnRNPA2B1の発現を妨害すると、ウイルス感染後のI型インターフェロンの産生を阻害する;3)hnRNPA2B1ノックアウトは、マウス脳のHSV-1感染を増加させ、死亡率を増加させる;4)hnRNPA2B1の過剰発現は、ウイルス感染後のI型インターフェロンの産生を促進できる;を証明した。これらの実験結果は、hnRNPA2B1が、DNAが関与及び/又は仲介する感染(例えば、HSV-1、AdV感染症などのウイルス感染性)の治療に応用できる可能性があることを示唆した。したがって、本開示は、感染の抑制に用いられる、または感染性疾患の予防と治療に(特にウイルス感染による肝障害などのウイルス感染の制御に)用いられる抗感染分子hnRNPA2B1の応用方法および応用戦略を提供する。
【0036】
ここで提供されるすべての数値範囲は、範囲の端点とその間の数値範囲の間にあるすべての数値を明示的に含むことを意図する。本開示で言及される特徴または実施例で言及される特徴は、組み合わせることができる。本明細書に開示されるすべての特徴は、任意の構成形態と組み合わせて使用することができ、明細書に開示されている各特徴は、同じ、等しい、または同様の目的を提供できる任意の代替機能に置き換えることができる。したがって、特に明記されていない限り、開示されている特徴は、同等または類似の機能の一般的な例にすぎない。
【0037】
本明細書で使用される場合、「含む」、「含有する」、「有する」という用語は、「含む」、「主に~構成する」、「基本的に~からなる」および「からなる」を含む;「主に~構成する」、「基本的に~からなる」および「からなる」は、「含む」、「含有する」、「有する」の従属概念である。
【0038】
[hnRNPA2B1タンパク質(ポリペプチド)]
本明細書で使用される場合、用語「hnRNPA2B1タンパク質(ポリペプチド)」、「hnRNPA2B1」は、互換可能に使用され、異種核リボ核タンパク質A2B1を指す。本開示のhnRNPA2B1タンパク質は、SEQ ID NO:1の配列(ヒトcDNA全長配列)又はSEQ ID NO: 3(マウスCDS配列)がコードするタンパク質、又はこれらのタンパク質のインターフェロンの発現を促進する作用を有する相同配列(例えば、本分野に既知されたデータベース又はアライメントソフトウェアで得られるhnRNPA2B1の相同配列)、変異体又は修飾形式であっても良い。例えば、上記のhnRNPA2B1タンパク質は、(a)SEQ ID NO:2又はSEQ ID NO: 4に示されたアミノ酸配列;又は(b)(a)のアミノ酸配列に、一つ又は複数のアミノ酸が置換、欠失又は付加されており、かつインターフェロンの発現を促進する活性を有する、(a)から誘導されるタンパク質又はポリペプチド;から選べられる。
【0039】
本開示のタンパク質またはポリペプチドは、自然に精製された産物、または化学的に合成された産物であり、或いは組換え技術で原核又は真核宿主(例えば、バクテリア、酵母、高等動物、昆虫と哺乳類細胞)から産生されるものである。本開示中のhnRNPA2B1タンパク質又はポリペプチドは、好ましくは、ヒトhnRNPA2B1遺伝子又はそれと相同する遺伝子又はファミリー遺伝子によってコードされる。
【0040】
本開示のタンパク質又はポリペプチドの変異形式は、一つ又は複数(一般的に、1-50個、好ましくは、1-30個、より好ましくは、1-20個、最も好ましくは、1-10個、例えば1、2、3、4、5、6、7、8、9又は10個)のアミノ酸的欠失、插入及び/又は置換、及びC末端及び/又はN末端における一つ又は複数(一般的に、20個以下、好ましくは、10個以下、より好ましくは、5個以下)のアミノ酸の付加を含むが、これらに限定されない。例えば、本分野中、類似の特性のアミノ酸による置換は、一般に、タンパク質またはポリペプチドの機能を変化させない。なお、C末端及び/又はN末端における一つ又は複数のアミノ酸の付加は、一般的に、タンパク質又はポリペプチドの機能を変化させなく、例えば、本開示のhnRNPA2B1タンパク質又はポリペプチドは、最初のメチオニン残基を含み得る場合も含まない場合もあり、それでも感染抑制活性を有する。
【0041】
ランダム突然変異誘発は、照射または突然変異誘発物質への曝露によって生成することができ、上記(b)のタンパク質またはポリペプチドは、部位特異的突然変異誘発法または他の既知の分子生物学技術によっても得られる。タンパク質またはポリペプチドをコードするコード配列を使用し、トランスジェニック動物を構築することができ、得られたタンパク質またはポリペプチドは、トランスジェニック動物がウイルス感染に耐性があるかどうか、またはウイルス耐性が改善されるかどうかを観察することによってスクリーニングおよび同定することができる。
【0042】
組換え生産プロトコルで使用される宿主に応じて、本開示のタンパク質またはポリペプチドは、グリコシル化され得るか、または非グリコシル化され得る。この用語には、hnRNPA2B1タンパク質の活性フラグメントおよび活性誘導体も含む。
【0043】
ポリペプチドの変異形式には、相同配列、保存的変異体、対立遺伝子変異体、天然突然変異体、誘発突然変異体、および高ストリンジェンシーまたは低ストリンジェンシー条件下でhnRNPA2B1タンパク質をコードする配列とハイブリダイズできる配列によってコードされるタンパク質、およびhnRNPA2B1タンパク質に対する抗血清を使用して得られたポリペプチドまたはタンパク質を含む。hnRNPA2B1タンパク質またはそのフラグメントを含む融合タンパク質などの他のポリペプチドもまた、本開示に使用され得る。ほぼ完全長のポリペプチドに加えて、本開示は、また、hnRNPA2B1タンパク質の可溶性フラグメントを含む。一般的に、当該フラグメントは、hnRNPA2B1タンパク質配列の少なくとも約10個の連続したアミノ酸、通常、少なくとも約30個の連続したアミノ酸、好ましくは少なくとも約50個の連続したアミノ酸、より好ましくは少なくとも約80個の連続したアミノ酸、最も好ましくは少なくとも約100個の連続したアミノ酸を有する。
【0044】
[hnRNPA2B1をコードする核酸分子]
本明細書で使用される場合、用語「hnRNPA2B1遺伝子」、「hnRNPA2B1コード遺伝子」、「hnRNPA2B1タンパク質コード遺伝子」又は「hnRNPA2B1をコードする核酸分子」は、互換可能に使用され、いずれも本開示に記載されたhnRNPA2B1タンパク質又はポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を指し、例えばSEQ ID NO:1 (ヒトCDS)配列、SEQ ID NO: 3 (マウスCDS)配列に示されたヌクレオチド配列、ストリンジェントな条件下でこれらの配列とハイブリダイズする分子、又は上記の分子と高度的に相同するファミリー遺伝子分子であり、上記の遺伝子の発現は、インターフェロンの産生と影響に一定の促進効果をもたらす。hnRNPA2B1遺伝子は、ヒトとマウスで高度に保存される。ヒトのGene IDは3181で、マウスのGene IDは53379である。
【0045】
本開示のhnRNPA2B1遺伝子は、(i)SEQ ID NO:1、SEQ ID NO:3;または(ii)ストリンジェントな条件下で(i)に限定された配列とハイブリダイズし、インターフェロン産生を促進する分子;から選べられる。
【0046】
本明細書で使用される場合、用語「ストリンジェントな条件」とは、(1)より低いイオン強度とより高い温度でのハイブリダイゼーションと溶出、例えば0.2×SSC、0.1%SDS、60℃;又は(2)ハイブリダイゼーション中に変性剤の添加、例えば50%(v/v)ホルムアミド、0.1%子牛血清/0.1%Ficoll、42℃など;又は(3)ハイブリダイゼーションは、2つの配列が少なくとも50%、好ましくは55%以上、60%以上、65%以上、70%以上、75%以上、80%以上、85%以上又は90%以上、より好ましくは95%同一である場合にのみ発生すること;を指す。例えば、上記の配列は、(a)で定義された配列の相補配列であっても良い。
【0047】
本開示のhnRNPA2B1遺伝子の全長ヌクレオチド配列またはそのフラグメントは、通常、PCR増幅法、組換え法または人工合成法によって得ることができる。PCR増幅法に対して、本文に開示されたヌクレオチド配列、特にオープンリーディングフレーム配列に従ってプライマーを設計し、市販のcDNAライブラリー又は本分野の当業者が既知の一般的な方法で作成するcDNAライブラリーをテンプレートとし、増幅で関連する配列を得られる。配列が長い場合、2回又は複数回のPCR増幅を実行し、増幅されたフラグメントを正しい順序でつなぎ合わせることがよくある。
【0048】
本開示のhnRNPA2B1遺伝子は、好ましくはヒトから得られるが、ヒトhnRNPA2B1遺伝子と高度に相同する(例えば、50%以上、好ましくは55%以上、60%以上、65%以上、70%以上、75%以上、80%以上、より好ましくは85%以上、例えば85%、90%、95%、98%、ひいては99%以上の配列同一性) 他の動物から得られる他の遺伝子も本開示によって好ましくは企図される同等性の範囲内であることが理解されるべきである。配列同一性をアラインメントさせるための方法およびツール(BLASTなど)もまた、当技術分野でよく知られている。
【0049】
[hnRNPA2B1又はhnRNPA2B1のコード配列の促進剤と阻害剤]
本開示には、さらにhnRNPA2B1又はhnRNPA2B1のコード配列の「促進剤」に関する。用語「促進剤」又は「hnRNPA2B1又はそのコード配列の促進剤」は、互換可能に使用され、hnRNPA2B1又はそれをコードする核酸分子のレベル又は活性を向上できる物質を指す。本開示に用いられる促進剤は、hnRNPA2B1発現ベクター、外来hnRNPA2B1、hnRNPA2B1又はそのコード配列の裸のDNA、hnRNPA2B1又はそれをコードする配列のリポソームに封入されたDNA、hnRNPA2B1タンパク質を含むが、これらに限定されない。
【0050】
本開示のhnRNPA2B1又はhnRNPA2B1コード配列又はその促進剤は、ウイルス感染を抑制でき、そして、さらに、ウイルス感染に関連する疾患、及び/又はウイルス感染による関連症状、及び感染による慢性炎症性疾患、及び/又はそれらの症状を予防又は治療することに用いられる。
【0051】
本開示には、さらにhnRNPA2B1又はhnRNPA2B1のコード配列の「阻害剤」に関する。用語「阻害剤」又は「hnRNPA2B1又はそれをコードする核酸分子の阻害剤」は、互換可能に使用され、hnRNPA2B1又はそれをコードする核酸分子のレベル又は活性を低下できる物質を指す。本開示に用いられる阻害剤は、hnRNPA2B1又は当該タンパク質をコードする核酸分子に対する抗体、siRNA (例えば、配列は、SEQ ID NO:5-8のいずれか一つに示されたsiRNA)、miRNA、アンチセンスオリゴヌクレオチド、アンタゴニスト、ブロッカーを含むが、これらに限定されない。
【0052】
本開示の阻害剤は、過剰な抗感染反応(例えば、インターフェロンの産生)を抑制でき、そして、さらに、感染に関連する疾患及び/又は関連症状、例えば感染による慢性炎症性疾患(例えば、炎症性腸疾患、関節リウマチ、全身性エリテマトーデス、慢性腎炎、結核、慢性胃腸疾患などの自己免疫疾患)を予防又は治療することに用いられる。
【0053】
[ベクター、宿主及びトランスジェニック動物]
本開示は、さらにhnRNPA2B1遺伝子を含むベクター、及び当該ベクターにより遺伝子工程で産生された宿主細胞、及びトランスジェニックで得られたhnRNPA2B1高発現トランスジェニック動物を含む。
【0054】
一般的な組換えDNA技術(Science、1984;224:1431)によって、本開示のコード配列は、組換えのhnRNPA2B1タンパク質の発現又は生産に用いられる。一般的に、以下のステップを含む:
(1)本開示のhnRNPA2B1タンパク質をコードするポリヌクレオチド(又は変異体)で、又は当該ポリヌクレオチドを含有する組え発現ベクターで、適当な宿主細胞を形質転換または形質導入する;
(2)適当な培地で宿主細胞を培養する;
(3)培地又は細胞からタンパク質又はポリペプチドを単離、精製する。
【0055】
本開示では、用語「ベクター」と「組換え発現ベクター」は、互換可能に使用され、本分野によく知られるバクテリアプラスミド、バクテリオファージ、酵母プラスミド、動物細胞ウイルス、哺乳動物細胞ウイルス又は他のベクターを指す。つまり、宿主内で複製可能で安定している限り、任意のプラスミドとベクターを使用することができる。発現ベクターの重要な特徴の一つは、通常に、複製起点、プロモーター、マーカー遺伝子、および翻訳制御要素を含むことである。
【0056】
当業者に周知の方法を使用し、hnRNPA2B1コード配列および適切な転写/翻訳制御シグナルを含む発現ベクターを構築することができる。これらの方法には、インビトロ組換えDNA技術、DNA合成技術、インビボ組換え技術などを含む。DNA配列は、発現ベクター内の適切なプロモーターに作動可能に連結して、mRNA合成を指導することができる。発現ベクターは、さらに、翻訳開始用のリボソーム結合部位と転写ターミネーターを含む。本開示では、pcDNA3.1ベクター発現システムを、好ましく使用する。
【0057】
また、発現ベクターは、好ましくは、形質転換された宿主細胞の選択のための表現型形質を提供するために、1つ以上の選択的なマーカー遺伝子を含み、例えば、真核細胞培養用のジヒドロ葉酸レダクターゼ、ネオマイシン耐性、緑色蛍光タンパク質(GFP)、または大腸菌用のテトラサイクリンまたはアンピシリン耐性などがある。
【0058】
上記の適切なDNA配列を適切なプロモーターまたは制御配列と共に含むベクターは、タンパク質またはポリペプチドを発現できるように適切な宿主細胞の形質転換に用いられる。宿主細胞は、細菌細胞のような原核細胞であっても良く、または酵母細胞のような下等真核細胞であっても良く、または動物細胞のような高等真核細胞であっても良い。代表的な例は、大腸菌、ストレプトマイセス、アグロバクテリウム、酵母などの真菌細胞、動物細胞などである。本開示には、好ましくは、大腸菌細菌細胞、ヒト肝細胞を宿主細胞として使用する。
【0059】
本開示のポリヌクレオチドが、高等真核細胞で発現される場合、エンハンサー配列がベクターに挿入されれば、転写が増強される。エンハンサーは、DNAのシス作用エレメントであり、通常に、長さが約10~300塩基対であり、プロモーターに作用して遺伝子の転写を増強する。当業者は、適切なベクター、プロモーター、エンハンサーおよび宿主細胞をどのように選択することを了解する。
【0060】
本開示において、「トランスジェニック動物」または「形質転換動物」という用語は、互換可能に使用され、本開示のhnRNPA2B1遺伝子が導入され、hnRNPA2B1タンパク質またはポリペプチドを高レベルで安定して発現する従来のトランスジェニック方法によって得られた細胞、臓器、組織または個体を指す。
【0061】
上記の方法における組換えポリペプチドは、細胞内または細胞膜上で発現されるか、または細胞外に分泌され得る。必要に応じて、その物理・化学・他の特性を利用し、様々な分離方法で、組換えタンパク質を分離や精製しても良い。それらの方法は、当業者がよく知られるものである。それらの方法の例は、通常のリフォールディング処理、タンパク質沈殿剤での処理(塩析方法)、遠心分離、浸透での細胞破壊、超音波処理、超遠心分離、モレキュラーシーブクロマトグラフィー(ゲル濾過)、吸着クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、高速液体クロマトグラフィーと他の各液体クロマトグラフィー技術及びそれらの方法の組み合わせを含むが、それらに限定されない。
【0062】
[製品]
本開示は、例えば医薬品、医薬品組成物又はキット/キットである製品、を提供し、ただし、有効量の本開示のhnRNPA2B1又はhnRNPA2B1をコードする核酸分子、その促進剤又はその阻害剤、及び薬学的または免疫学的に許容できるキャリアを含む。本明細書で使用される場合、「活性物質」又は「本開示の活性物質」という用語は、互換可能に使用され、hnRNPA2B1又はhnRNPA2B1コード配列、その促進剤又はその阻害剤を指す。
【0063】
好ましい実施方案において、上記の製品は、ウ居留守感染と関連する疾患、ウイルス感染による慢性炎症性疾患、及び/又はそれらの症状を予防又は治療することに用いられる;例えば、本開示の医薬品組成物は、先行技術に既知の治療又は予防可能なウイルス感染性疾患を予防又は治療することに用いられ、例えばウイルス感染に引かれる組織損傷;器官的炎性損傷;多器官機能衰竭。
【0064】
本明細書で使用されるように、用語「含む」または「有する」は、「含む」、「基本的に~からなる」および「からなる」を含む。本明細書で使用される場合、「薬学的に許容される」成分は、ヒト及び/又は動物に適用、過度の有害反応(例えば毒性、刺激とアレルギー反応)がないもので、すなわち合理な利益/リスク比がある物質である。本明細書で使用されるように、用語「有効量」とは、人及び/又は動物に、機能できる又は活性を有する、かつ人及び/又は動物に許容される量である。
【0065】
本明細書で使用される場合、上記の「薬学的に許容されるキャリア」という用語は、治療剤の投薬に用いられるキャリアを指し、各種な賦形剤と希釈剤を含む。当該用語が、それ自体が必須の有効成分ではないが、投与後に過度に毒性がないいくつかの医薬品キャリアを指す。適切なキャリアは当業者によく知られており、薬学的に許容される賦形剤の完全な議論は、《レミントン製薬科学》(Remington’s Pharmaceutical Sciences,Mack Pub. Co.,N.J. 1991)に見出すことができる。
【0066】
組成物には、薬学的に許容されるキャリアが、液体、例えば水、塩水、グリセロールとエタノールを含んでも良い。さらに、これらのキャリアはまた、補助物質、例えば充填剤、崩壊剤、潤滑剤、流動促進剤、沸騰剤、湿潤剤または乳化剤、香味料、pH緩衝物質などを含んでも良い。一般に、これらの物質は、非毒性で、不活性で、薬学的に許容される水性キャリア媒体中で、通常、約5~8のpH、好ましくは約6~8のpHで処方することができる。
【0067】
本開示の製品中の活性物質は、組成物の総重量の0.001~99.9重量%;好ましくは、組成物の総重量の1~95重量%、より好ましくは5~90重量%、さらに好ましくは10~80重量%を占める。残部は、薬学的に許容できるキャリア及びその添加剤などの物質である。
【0068】
本明細書で使用される場合、「単位剤形」という用語は、投与を容易にするために単回投与に必要な剤形への本開示の製品の調製を指し、さまざまな固体剤(錠剤など)、液体剤、カプセル剤、および徐放剤を含むが、これらに限定されない。
【0069】
本開示のもう一つの好ましい実施形態において、上記の製品は、単位剤形又は多剤形であり、かつその中の活性物質の含有量は、0.01~2000mg/剤、好ましくは0.1~1500mg/剤、より好ましくは1~1000mg/剤である。本開示の別の好ましい実施形態において、毎日、本開示の組成物を1~6剤、好ましくは1~3剤投与する;最も好ましくは、毎日投与される用量は、1剤である。
【0070】
使用されるhnRNPA2B1タンパク質またはそのコード配列などの活性物質の有効用量は、投与または治療される対象の重症度に応じて、変化し得ることが理解される。特定の状況は、熟練した医師の判断の範囲内である、対象の個々の状態(例えば、対象の体重、年齢、体調、および所望の効果)に従って決定される。
【0071】
本開示の製品は、固体(例えば、顆粒、錠剤、凍結乾燥粉末、坐剤、カプセル、舌下錠剤)または液体(例えば、経口液体)または他の適切な形状であっても良い。投与経路としては、以下を採用できる:(1)裸のDNAまたはタンパク質を直接注入する;(2)hnRNPA2B1のcDNA、mRNA、およびタンパク質を、トランスフェリン/ポリ-L-リジン複合体に結合して、その生物学的効果を高める;(3)cDNA、mRNA、およびタンパク質は、正に帯電した脂質と複合体を形成し、リン酸骨格の負の電荷による細胞膜の通過の困難を克服する;(4)cDNA、mRNA、およびタンパク質をリポソームで封入した後、それによって細胞への侵入を仲介することで、高分子のスムーズな侵入を促進するだけでなく、さまざまな細胞外酵素による加水分解を防ぐ;(5)cDNA、mRNA、およびタンパク質がコレステロールに結合し、その細胞質の保持時間が10倍に増加する;(6)免疫リポソームでcDNA、mRNA、およびタンパク質を送達することにより、標的組織および標的細胞への特異的な送達が可能になる;(7)トランスフェクトされた細胞(例えば線維芽細胞)へのcDNA、mRNA、およびタンパク質のインビトロトランスフェクションは、HNRNPA2B1関連薬物を標的細胞により良くロードすることもできる;(8)電流による標的細胞へのcDNA、mRNAおよびタンパク質の導入、すなわちエレクトロポレーション(electroporation)。
【0072】
なお、本開示の製品は、さらにウイルス感染性疾患を改善と治療することに用いられる他の活性物質を含有しても良く、上記の他の活性物質は、臨床によく使われる抗生物質(β-ラクタム(ペニシリンとセファロスポリン)、アミノグリコシド、テトラサイクリン、クロラムフェニコール、マクロライド、抗真菌性抗生物質、抗結核性抗生物質を含む)の一つ又は複数から選べられる。
【0073】
バクテリア性感染疾患の予防と治療のために、本開示のhnRNPA2B1関連ヌクレオチドとタンパク質医薬品は、相互に併用されてもよく、他の医薬品と治療手段と併用されてもよい。
【0074】
[実施例]
以下、具体的な実施例を参照して、本開示をさらに説明する。これらの実施例は、本開示の範囲を限定するものではなく、本開示の単なる例示であることが理解されるべく。当業者は、本開示に対して適切な修正および変形を行うことができ、これらの修正および変形はすべて、本開示の範囲内である。
【0075】
以下の例で特定の条件を指定しない実験方法については、例えば《分子クローニング実験ガイド》を(第3版、ニューヨーク、コールドスプリングハーバーラボラトリープレス、New York:Cold Spring Harbor Laboratory Press、1989)参照するか、供給業者が提案する条件に従うなど、現場での従来の方法を使用することができる。DNAシーケンス法は、当技術分野では一般的な方法であり、試験は商業会社によって提供することもできる。
【0076】
特に断らない限り、百分率および部は重量を指す。別途に定義しない限り、本明細書で使用される全ての専門的および科学的用語は当業者に公知された意味と一致する。さらに、記載された内容と類似または同等の任意の方法および材料を本開示の方法に適用することができる。本明細書に記載される好ましい実施の形態および材料は、例示のみのためである。
【0077】
実施例1:hnRNPA2B1は核内病原体由来のDNAを直接認識する
マウスの初代腹膜マクロファージの取得:C57BL/6マウス(6-8週齢、メス、上海必凱実験動物株式会社から購入)を採用し、3%チオグリコレート(Sigma-Aldrich会社から購入)溶液2mlを1回腹腔内注射し、3日後、マウスを頸椎脱臼により殺し、腹腔を無血清培地で洗浄し、吸引後の遠心分離により細胞を得た。
【0078】
初代腹膜マクロファージをDMEM培地で培養し、HSV-1(F株、ATCCから購入)で2時間感染した後に、核タンパク質を単離し、抗hnRNPA2B1抗体(Santa Cruzから購入)または対照抗体(IgG、Santa Cruzから購入)で免疫沈降し、HSV-1DNAをPCRで検出した。
【0079】
図1は、hnRNPA2B1のHSV-1DNAへの結合を示した。
【0080】
結果は、抗hnRNPA2B1抗体によって沈降したhnRNPA2B1タンパク質が、2時間感染した後に、HSV-1DNAに結合したことを示した。
【0081】
この結果は、感染期間に、hnRNPA2B1がHSV-1DNAに結合することを示唆した。
【0082】
実施例2:hnRNPA2B1の発現を妨害すると、HSV-1感染によって誘導されるI型インターフェロンに抑制効果がある
初代腹腔マクロファージを、DMEM培地で培養し、ヒトTHP1細胞(ATCCから購入)を、1640培地で培養した。細胞に、hnRNPA2B1に対する低分子干渉RNA(hnRNPA2B1 siRNA)およびモックコントロール(対照siRNA)をトランスフェクトした(トランスフェクション試薬INTERFERinは、Polyplus会社から購入した)。
【0083】
hnRNPA2B1に対する低分子干渉RNA(hnRNPA2B1 siRNA)およびモックコントロール(対照siRNA)は、Genephamaから購入した。マウスhnRNPA2B1 siRNAの配列は、SEQ ID NO:5とSEQ ID NO:6に示され、ヒトhnRNPA2B1 siRNAの配列は、SEQ ID NO:7とSEQ ID NO:8に示され、対照siRNAの配列は、SEQ ID NO:9とSEQ ID NO:10に示され、合成の際に、3′に2つのdTを増加することで配列をより安定化させた。具体的な配列は次のとおり:
hnRNPA2B1 siRNA配列:
マウスhnRNPAB1 siRNA:
5′-GAGGAAAUUAUGGAAGUGGTT-3′(センス、SEQ ID NO:5);
5′-CCACUUCCAUAAUUUCCUCCT-3′(アンチセンス、SEQ ID NO:6)。
【0084】
ヒトhnRNPAB1 siRNA:
5′-CUUUGGUGGUAGCAGGAACTT-3′(センス、SEQ ID NO:7);
5′-GUUCCUGCUACCACCAAAGTT-3′(アンチセンス、SEQ ID NO:8)。
【0085】
対照siRNA配列:
5′-UUCUCCGAACGUGUCACGUTT-3′(センス、SEQ ID NO:9);
5′-ACGUGACACGUUCGGAGAATT-3′(アンチセンス、SEQ ID NO:10)。
【0086】
トランスフェクションの48時間後、マウス腹腔マクロファージ(2×10細胞/ウェル)と、ヒトTHP1細胞(1×10細胞/ウェル)を、HSV-1(MOI、10)で刺激し、感染の7時間後に付着細胞を回収し、細胞から総RNAを抽出し、リアルタイム蛍光定量PCR法で、I型インターフェロン(IFN-α、IFN-β)の転写レベルを検出した;感染の18時間後に細胞培養上清を収集し、ELISAで、IFN-βタンパク質レベルを検出した。
【0087】
I型インターフェロン(IFN-α、IFN-β)の転写レベルを図2および図4に示し、IFN-βのタンパク質レベルを図3に示した。その中で、図2図3では、マウス細胞に対して、マウスhnRNPAB1 siRNAを使用した;図4では、ヒト細胞に対して、ヒトhnRNPAB1 siRNAを使用した。
【0088】
結果は、hnRNPA2B1に対する低分子干渉RNAによるマウスマクロファージのトランスフェクションが、HSV-1感染によって誘導されるI型インターフェロンの産生を有意に阻害することができることを示した。
【0089】
結果は、hnRNPA2B1の発現を妨害すると、HSV-1感染によって誘導されるI型インターフェロンが減少することを示し、hnRNPA2B1が抗感染に重要な役割を果たす可能性があることを示唆した。
【0090】
実施例3:hnRNPA2B1の過剰発現が、細胞のIFN-β分泌を抑制する
まず、従来の方法に従って、hnRNPA2B1のcDNA(NM_182650)を、真核生物の発現ベクターpcDNA3.1プラスミド(Addgeneから購入)に導入し、hnRNPA2B1発現ベクターを構築した。
【0091】
hnRNPA2B1発現ベクターを、1μg/mlの密度で、マウス腹腔マクロファージにトランスフェクトし、48時間後に新鮮なDMEM培地を交換した。
【0092】
4×10細胞/ml、HSV-1(MOI、10)で細胞を感染し、12時間後に、細胞培養上清を回収し、細胞培養上清中のIFN-βレベルをELISAキットで検出した。
IFN-βの分泌状況を図5に示した。
【0093】
結果は、hnRNPA2B1プラスミドでトランスフェクトされた細胞が、HSV-1によって誘導されたIFN-βの産生を促進できることを示した。
【0094】
結果は、hnRNPA2B1の過剰発現が、HSV-1感染によって誘導されたIFN-β産生を促進することを示し、hnRNPA2B1が抗感染に重要な役割を果たす可能性があることを示唆した。
【0095】
実施例4:hnRNPA2B1のノックダウンが、インビボでHSV-1感染によって誘導された血清IFN-βレベルを抑制する
hnRNPA2B1骨髄性細胞の条件付きノックアウトマウス(上海南方モデル生物テクノロジー株式会社から購入し、工法は、Jnyner AL. Gene Targeting, Oxford University Press.1994を参照)を構築し、CREエンドヌクレアーゼによって特異的に認識できるloxP配列を、Hnrnpa2b1遺伝子のエクソン2~6に付加した。Hnrnpa2b1fl/flマウスを、C57BL/6バックグラウンドに戻し交配し、次にLyz2-Creマウスと交雑し、骨髄性細胞にHnrnpa2b1遺伝子のエクソン2~6の特異的なノックアウトを達成した。Hnrnpa2b1fl/flLyz2-Cre+/-マウスとHnrnpa2b1fl/flLyz2-Cre-/-マウスの交配により、骨髄性細胞特異的なhnRNPA2B1ノックアウト(Hnrnpa2b1 cKO)マウスと同腹仔対照野生型マウスが得られ、これらのマウスは、特殊病原体フリー(SPF)環境で飼育された。
【0096】
野生型マウスと骨髄性細胞特異的なhnRNPA2B1ノックアウト(Hnrnpa2b1 cKO)マウスを、7×10プラーク形成単位(PFU)のHSV-1に腹腔内感染させ、6時間後に採血し、血清を分離し、ELISAで血清IFN-βレベルを検出した。検出結果は、図6に示された。
【0097】
結果は、hnRNP-A2B1ノックアウトマウスの血清IFN-βレベルが、野生型マウスよりも有意に低かった(***、P <0.001)ことを示した。
【0098】
結果は、hnRNPA2B1のノックアウトが、HSV-1ウイルス感染によって誘導されたIFN-β産生を抑制することを示し、hnRNPA2B1が抗感染に重要な役割を果たす可能性があることを示唆した。
【0099】
実施例5:hnRNPA2B1のノックアウトが、マウスの脳におけるHSV-1の複製を促進する
hnRNPA2B1骨髄性細胞の条件付きノックアウトマウスを構築した(実施例4と同じ)。野生型マウスと骨髄性細胞特異的なhnRNPA2B1ノックアウト(Hnrnpa2b1 cKO)マウスを、7×10プラーク形成単位(PFU)のHSV-1に腹腔内感染させ、4日後に、プラークアッセイで脳ウイルス力価を検出した。
【0100】
マウス脳におけるHSV-1複製の検出の結果を図7に示した。
【0101】
結果は、hnRNP-A2B1ノックアウトマウスの脳におけるウイルス力価が、野生型マウスよりも有意に高かった(***、P <0.001)ことを示した。
結果は、hnRNPA2B1のノックアウトが、インビボでHSV-1ウイルスの複製を促進することを示し、hnRNPA2B1が抗感染に重要な役割を果たす可能性があることを示唆した。
【0102】
実施例6:hnRNPA2Bのノックアウトは、ウイルス感染による死亡率を増加させる
hnRNPA2B1骨髄性細胞の条件付きノックアウトマウスを構築した(実施例3と同じ)。野生型マウスと骨髄性細胞特異的hnRNPA2B1ノックアウト(Hnrnpa2b1 cKO)マウスを、7×10プラーク形成単位(PFU)のHSV-1で腹腔内感染し、マウスの死亡を継続的に観察した。結果は、図8に示された。
【0103】
結果は、hnRNP-A2B1ノックアウトマウスの生存率が有意に低下した(***、P <0.001)ことを示した。
【0104】
結果は、hnRNPA2B1のノックアウトが、HSV-1ウイルス感染による死亡率を増加させたことを示し、hnRNPA2B1が抗感染に重要な役割を果たす可能性があることを示唆した。
【0105】
実施例7:hnRNPA2Bのノックアウトは、アデノウイルス(AdV)感染によって誘導されたI型インターフェロンを抑制する
hnRNPA2B1遺伝子エクソン2を、CRISPR/Cas9テクノロジーによって削除し、hnRNPA2B1をノックアウトしたRAW264.7細胞株を構築した。対照のRAW264.7細胞(ATCCから購入)と、hnRNPA2B1をノックアウトしたRAW264.7細胞とを、AdV(MOI、10;Ad5タイプ、漢恒バイオテクノロジー(上海)株式会社から購入)に感染させ、感染の7時間後に、付着細胞を回収し、細胞の総RNAを抽出し、リアルタイム蛍光定量PCRでIFN-βのmRNAの発現レベルを検出した。
【0106】
IFN-βmRNAの発現レベルを図9に示した。
【0107】
結果は、hnRNPA2B1のノックアウトが、AdV感染によって誘導されたIFN-βの産生を、有意に抑制できることを示した。
【0108】
結果は、hnRNPA2B1のノックアウトが、AdV感染によって誘導されたI型インターフェロンを減少させ、hnRNPA2B1が抗感染に重要な役割を果たす可能性があることを示唆した。
【0109】
本開示に言及されている全ての参考文献は、参照として単独に引用されるように、本出願に引用されて、参照になる。理解すべきなのは、本開示の上記の開示に基づき、当業者は、本開示を様々な変更または修正を行っても良い、これらの同等の形態も本出願に添付された請求の範囲に規定される範囲内に含まれる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
【配列表】
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