(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-07
(45)【発行日】2024-05-15
(54)【発明の名称】T細胞受容体の定常ドメインを含むタンパク質
(51)【国際特許分類】
C07K 14/725 20060101AFI20240508BHJP
C07K 19/00 20060101ALI20240508BHJP
C07K 16/28 20060101ALI20240508BHJP
C12N 15/13 20060101ALI20240508BHJP
C12N 15/62 20060101ALI20240508BHJP
C12N 15/63 20060101ALI20240508BHJP
C12N 1/15 20060101ALI20240508BHJP
C12N 1/19 20060101ALI20240508BHJP
C12N 1/21 20060101ALI20240508BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20240508BHJP
【FI】
C07K14/725 ZNA
C07K19/00
C07K16/28
C12N15/13
C12N15/62 Z
C12N15/63 Z
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
(21)【出願番号】P 2022514718
(86)(22)【出願日】2020-09-02
(86)【国際出願番号】 US2020048979
(87)【国際公開番号】W WO2021046072
(87)【国際公開日】2021-03-11
【審査請求日】2022-03-04
(32)【優先日】2019-09-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】594197872
【氏名又は名称】イーライ リリー アンド カンパニー
(73)【特許権者】
【識別番号】501345323
【氏名又は名称】ザ ユニバーシティ オブ ノース カロライナ アット チャペル ヒル
【氏名又は名称原語表記】THE UNIVERSITY OF NORTH CAROLINA AT CHAPEL HILL
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100095360
【氏名又は名称】片山 英二
(74)【代理人】
【識別番号】100120134
【氏名又は名称】大森 規雄
(74)【代理人】
【識別番号】100196966
【氏名又は名称】植田 渉
(72)【発明者】
【氏名】デマレスト,スティーブン ジェイ.
(72)【発明者】
【氏名】フロニング,カレン ジーン
(72)【発明者】
【氏名】クールマン,ブライアン アーサー
(72)【発明者】
【氏名】マグワイア,ジャック バートン
【審査官】太田 雄三
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/067805(WO,A1)
【文献】Nature Communications,2020年05月11日,11:2330,p. 1-14,doi:10.1038/s41467-020-16231-7
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07K 14/725
C12N 15/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
タンパク質であって、
以下の残基:139位のフェニルアラニン、150位のイソロイシン、190位のスレオニン(Kabat番号付けに従って番号付けされた残基)のうちの少なくとも1つを含むT細胞受容体(TCR)アルファ定常ドメイン(Cα)を含む第1のポリペプチド、および/または
以下の残基:139位のアルギニン、155位のプロリン、170位のアスパラギン酸もしくはグルタミン酸(Kabat番号付けに従って番号付けされた残基)のうちの少なくとも1つを含むTCRベータ定常ドメイン(Cβ)を含む第2のポリペプチドを含み、
前記タンパク質は、参照
ペプチドと比較して、より高いアンフォールディング温度(Tm)を有し、前記参照
ペプチドは、
前記Cαドメインが139位のセリン、150位のスレオニン、および190位のアラニン(Kabat番号付けに従って番号付けされた残基)を含むこと、および/または
前記Cβドメインが134位のグルタミン酸、139位のヒスチジン、155位のアスパラギン酸、および170位のセリン(Kabat番号付けに従って番号付けされた残基)を含むこと
以外は前記タンパク質と同じアミノ酸配列を含む、タンパク質。
【請求項2】
前記第1のポリペプチドが、以下の残基:139位のフェニルアラニン、150位のイソロイシン、190位のスレオニン(Kabat番号付けに従って番号付けされた残基)のうちの少なくとも1つを含むCαを含み、
前記第2のポリペプチドが、以下の残基:134位のリジン、139位のアルギニン、155位のプロリン、170位のアスパラギン酸またはグルタミン酸(Kabat番号付けに従って番号付けされた残基)のうちの少なくとも1つを含むCβを含む、請求項1に記載のタンパク質。
【請求項3】
前記第1のポリペプチドが、以下の残基:139位のフェニルアラニン、150位のイソロイシン、190位のスレオニン(Kabat番号付けに従って番号付けされた残基)を含むCαドメインを含み、
前記第2のポリペプチドが、以下の残基:134位のリジン、139位のアルギニン、155位のプロリン、170位のアスパラギン酸(Kabat番号付けに従って番号付けされた残基)を含むCβドメインを含む、請求項2に記載のタンパク質。
【請求項4】
前記第1のポリペプチドが、以下の残基:139位のフェニルアラニンおよび190位のスレオニン(Kabat番号付けに従って番号付けされた残基)を含むCαドメインを含み、
前記第2のポリペプチドが、以下の残基:134位のリジン、139位のアルギニン、155位のプロリン、170位のアスパラギン酸(Kabat番号付けに従って番号付けされた残基)を含むCβドメインを含む、請求項2に記載のタンパク質。
【請求項5】
前記第1のポリペプチドが、鎖間ジスルフィド結合によって前記第2のポリペプチドに連結されている、請求項1~4のいずれか一項に記載のタンパク質。
【請求項6】
前記Cαドメインが、166位のシステイン残基(Kabat番号付けに従って番号付けされた残基)をさらに含み、
前記Cβドメインが、173位のシステイン残基(Kabat番号付けに従って番号付けされた残基)をさらに含み、
前記第1のポリペプチドおよび前記第2のポリペプチドが、Cαの前記166位のシステイン残基とCβの前記173位のシステイン残基との間の鎖間ジスルフィド結合によって連結されている、請求項1~5のいずれか一項に記載のタンパク質。
【請求項7】
前記Cαドメインが、配列番号5を含み、
前記Cβドメインが、配列番号7を含む、請求項2~5のいずれか一項に記載のタンパク質。
【請求項8】
前記Cαドメインが、配列番号5からなり、
前記Cβドメインが、配列番号7からなる、請求項2~5のいずれか一項に記載のタンパク質。
【請求項9】
前記Cαドメインが、配列番号6を含み、
前記Cβドメインが、配列番号8を含む、請求項2~6のいずれか一項に記載のタンパク質。
【請求項10】
前記Cαドメインが、配列番号6からなり、
前記Cβドメインが、配列番号8からなる、請求項2~6のいずれか一項に記載のタンパク質。
【請求項11】
前記第1のポリペプチドが、TCRアルファ可変ドメイン(Vα)をさらに含み、
前記第2のポリペプチドが、TCRベータ可変ドメイン(Vβ)をさらに含み、
前記VαおよびVβが、抗原に結合する抗原結合ドメインを形成する、請求項1~10のいずれか一項に記載のタンパク質。
【請求項12】
前記Vαが、CαのN末端に融合しており、
前記Vβが、CβのN末端に融合している、請求項11に記載のタンパク質。
【請求項13】
前記抗原が、腫瘍抗原またはウイルス抗原である、請求項11に記載のタンパク質。
【請求項14】
前記タンパク質が、第2の抗原結合ドメインをさらに含む、請求項1~13のいずれか一項に記載のタンパク質。
【請求項15】
前記第2の抗原結合ドメインが、T細胞表面上の抗原に結合する、請求項14に記載のタンパク質。
【請求項16】
前記第2の抗原結合ドメインが、CD3に結合する、請求項14に記載のタンパク質。
【請求項17】
前記第2の抗原結合ドメインが、scFv、Fab、Fab’、(Fab’)
2、単一ドメイン抗体、またはラクダVHHドメインである、請求項14~16のいずれか一項に記載のタンパク質。
【請求項18】
前記第2の抗原結合ドメインが、Fabである、請求項14~17のいずれか一項に記載のタンパク質。
【請求項19】
前記Fabが、重鎖可変ドメイン(VH)およびヒトIgG CH1ドメインを含むFab重鎖、ならびに軽鎖可変ドメイン(VL)およびヒト軽鎖定常ドメイン(CL)を含むFab軽鎖を含み、前記VHおよびVLが、CD3に結合する前記第2の抗原結合ドメインを形成する、請求項18に記載のタンパク質。
【請求項20】
前記タンパク質が、以下の3つのポリペプチド:
Vα-Cα-リンカー-VH-CH1を含む第1のポリペプチド、
Vβ-Cβを含む第2のポリペプチド、および
VL-CLを含む第3のポリペプチドを含み、
前記第2および第3のポリペプチドが、鎖間ジスルフィド結合によって前記第1のポリペプチドに連結されている、請求項18または19に記載のタンパク質。
【請求項21】
前記タンパク質が、ヒトIgG Fc領域(Fc)をさらに含む、請求項1~20のいずれか一項に記載のタンパク質。
【請求項22】
前記ヒトIgG Fc領域が、対応する野生型ヒトIgG Fc領域と比較してエフェクター機能が低下した改変ヒトIgG Fc領域である、請求項21に記載のタンパク質。
【請求項23】
前記タンパク質が、以下の4つのポリペプチド:
Vα-Cα-ヒンジ-第1のFc領域を含む第1のポリペプチド、
Vβ-Cβを含む第2のポリペプチド、
VL-CLを含む第3のポリペプチド、および
VH-CH1-ヒンジ-第2のFc領域を含む第4のポリペプチドを含み、
前記第2および第4のポリペプチドが、鎖間ジスルフィド結合によって前記第1のポリペプチドに連結されており、前記第3のポリペプチドが、鎖間ジスルフィド結合によって前記第4のポリペプチドに連結されている、請求項1~19、21または22のいずれか一項に記載のタンパク質。
【請求項24】
前記タンパク質が、以下の4つのポリペプチド:
Vα-Cα-リンカー-VH-CH1-ヒンジ-第1のFc領域を含む第1のポリペプチド、
Vβ-Cβを含む第2のポリペプチド、
VL-CLを含む第3のポリペプチド、
第2のFc領域を含む第4のポリペプチドを含み、
前記第2、第3、および第4のポリペプチドが、鎖間ジスルフィド結合によって前記第1のポリペプチドに連結されている、請求項21または22に記載のタンパク質。
【請求項25】
前記リンカーが、配列番号41~46のいずれか1つから選択されるアミノ酸配列を含む、請求項20または24に記載のタンパク質。
【請求項26】
前記ヒンジ領域が配列番号47を含み、前記第1および第2のFc領域が配列番号48を含む、請求項23または24に記載のタンパク質。
【請求項27】
前記ヒンジ領域が配列番号49を含み、前記第1および第2のFc領域が配列番号50を含む、請求項23または24に記載のタンパク質。
【請求項28】
前記第1および第2のFc領域が、CH3ヘテロ二量体化変異のセットを含む、請求項23または24に記載のタンパク質。
【請求項29】
前記第1または第2のFc領域のうちの一方が、残基407のアラニン、残基399のメチオニン、および残基360のアスパラギン酸を含むCH3ドメインを含み、前記第1または第2のFc領域の他方が、残基366のバリン、残基409のバリン、ならびに残基345および347のアルギニン(EUインデックス番号付けに従って番号付けされた残基)を含むCH3ドメインを含む、請求項28に記載のタンパク質。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、1つ以上の安定化変異を有するT細胞受容体(TCR)の定常ドメインを含むタンパク質、そのようなタンパク質をコードする核酸、ならびにそのようなタンパク質を作製および使用する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
T細胞受容体(TCR)は、「非自己」細胞内抗原を認識して排除するための適応免疫システムのツールである。これらの非自己抗原は、ウイルス感染または遺伝的変化から出現する可能性がある。遺伝的変化は異常な細胞機能の鍵であり、がんなどの疾患をもたらす可能性がある。TCRはα/βおよびγ/δの形態で存在し、これらは構造的には類似しているが、異なるT細胞で発現する。α/β TCRはCD8+エフェクターT細胞とCD4+ヘルパーT細胞の両方で発現し、HLA/MHCと複合体を形成する際に、感染/がん性細胞表面に表示されるプロテオソーム分解外来抗原を認識する(Davis,et al.,Nature,1988.334(6181):395-402、Heemels,et al.,Annu Rev Biochem,1995.64:463-91)。CD8+Tエフェクター細胞上で発現すると、α/β TCRはI型MHC/ペプチド複合体と特異的に相互作用し、この相互作用はT細胞の活性化および認識可能な非自己抗原を示す細胞の排除を誘導する。
【0003】
構造的に、ネイティブα/β TCRの細胞外部分は、2つのポリペプチド、α鎖およびβ鎖からなり、それぞれが膜近位の定常ドメイン(CαまたはCβドメイン)および膜遠位の可変ドメイン(VαまたはVβ)を有する。定常ドメインおよび可変ドメインの各々は、鎖内ジスルフィド結合を含む。可変ドメインは、抗体の相補性決定領域(CDR)に類似した非常に可変的なループを含有する。TCRのCDR3は、MHC(主要組織適合遺伝子複合体)によって提示されるペプチドと相互作用し、CDR1およびCDR2は、ペプチドおよびMHCと相互作用する。TCR配列の多様性は、連結される可変(V)、多様性(D)、結合(J)、および定常(C)遺伝子の体細胞組換えによって生成され、そのような再配列は信じられないほどの多様性を生み出し、これはTCRがMHCによって表示される多様なペプチド抗原を認識することを可能にする。
【0004】
治療用途のためにα/β TCRの絶妙な非自己認識特性を利用するために多くのアプローチが開発されてきた。組換えα/β TCRは、これらのT細胞が腫瘍関連抗原を標的とするように再方向付けする手段として、バルクナイーブT細胞に形質導入/トランスフェクトされている(Riley,et al.,Nat Rev Drug Discov,2019.18(3):175-196、Parkhurst,et al.,Clin Cancer Res,2017。23(10):2491-2505)。あるいは、活性化T細胞受容体(通常はCD3ε)に結合するscFvに融合したTCRの可溶性細胞外領域の使用が、内因性T細胞を標的腫瘍細胞に再方向付けするために使用されている(Liddy、et al.,Nat Med,2012.18(6):980-7)。細胞表面で過剰発現した抗原の直接認識に依存する典型的なBiTE様二重特異性抗体とは異なり(Baeuerle,et al.,Cancer Res,2009.69(12):4941-4)、TCRまたはTCR模倣二重特異性抗体は、細胞内および異常な腫瘍またはウイルス抗原のはるかに大きなサブセットを認識できるため、より広い潜在的な適用性を有する(Liddy,et al.,Nat Med,2012.18(6):980-7)。
【0005】
しかしながら、TCRの組み立ておよび発現は困難である(Wilson,et al.,Curr Opin Struct Biol,1997.7(6):839-48)。研究および治療の両方の目的のために、可溶性α/β TCR産生の一般的な方法は、Escherichia coli(E.coli)における封入体としての発現と、それに続く再可溶化、再フォールディング/アセンブリ/酸化、最終的には比較的低収率での精製を通してのものであった(van Boxel,et al.,J Immunol Methods,2009.350(1-2):14-21)。アセンブリピースを単純化するために、一部の研究者は、特定のHLA/ペプチド複合体を標的とするために、抗体単鎖Fv(scFv)のような単鎖フォーマットまたはscTvにおけるTCRの可変ドメイン領域のみを使用することを試みてきた(Stone,et al.,Methods Enzymol,2012.503:189-222)。scFvは不安定性、凝集、および低溶解性の傾向を示すが、scTCR可変ドメインは一般的に発現および安定性の問題が悪化している。治療および診断の用途のために、scVα/Vβタンパク質を安定化するために多大な努力が払われてきた(Stone,et al.,Methods Enzymol,2012.503:189-222)。残念ながら、Vα/Vβ生殖細胞系列の高い多様性(抗体のVH/VL生殖細胞系列よりもはるかに高い)は、scVα/Vβ内の安定化変異の各セットが、個々のVα/Vβサブユニットに固有であり、複数のTCRにわたる一般的な使用を見つける可能性を少なくする。
【0006】
ほとんどの細胞外タンパク質が複雑なジスルフィド対合で本質的にグリコシル化されていることを考えると、哺乳動物発現が可溶性TCRを生成するために使用される。工業用抗体の生産は、主に哺乳動物の発現システムに移行している(Shukla,et al.,Bioeng Transl Med,2017.2(1):58-69)。しかしながら、α/β TCRは、一般的に利用されているチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞系で発現した場合、抗体よりも信頼性の低いアセンブリを伴い、発現が不十分である。可溶性α/β TCR二重特異性に関連するものを含む多くの新規二重特異性抗体フォーマットは、適切な分子アセンブリのために抗体様レベルで発現するTCRを必要とする場合があり、これはそれらの産生の障害である。可溶性TCRを抗体scFvに組換え融合する二重特異性ImmTac部分は、通常、細菌に不溶性の封入体として発現され、可溶化され、再フォールディングされ、低収率で組み立てられる(Liddy,et al.,Nat Med,2012.18(6):980-7)。さらに、これらの部分は、リサイクルメカニズムを欠いているため、本質的に迅速な血清クリアランスを有する。
【0007】
様々なTCRにわたって一般的な使用に適しており、良好な発現および/またはアセンブリレベルを備えた、TCR安定化操作についての必要性が存在している。
【発明の概要】
【0008】
本明細書で提供されるのは、TCR定常ドメインのアンフォールディング温度を上昇させ、TCRの発現および/またはアセンブリを改善する、TCR定常ドメイン(Cα/Cβドメイン)における1つ以上の安定化変異を含むタンパク質である。本明細書で提供されるのは、139位のフェニルアラニン、150位のイソロイシン、190位のスレオニンの残基(Kabat番号付けに従って番号付けされた残基)のうちの少なくとも1つを含むT細胞受容体(TCR)アルファ定常ドメイン(Cα)を含む第1のポリペプチド、または134位のリジン、139位のアルギニン、155位のプロリン、170位のアスパラギン酸もしくはグルタミン酸の残基(Kabat番号付けに従って番号付けされた残基)のうちの少なくとも1つを含むTCRベータ定常ドメイン(Cβ)を含む第2のポリペプチドを含むタンパク質である。
【0009】
本明細書で使用されるTCR CαおよびCβドメインのアミノ酸残基の番号付けは、
図2に図示するように、Kabat番号付けシステムに従う(Kabat,et al.Sequences of Immunological Interest Vol.1 Fifth Edition 1991 US Department of Health and Human Services,Public Health Service,NIH)。Kabat番号付けに基づいて上記に列挙されたTCR Cα残基は、配列番号5または6(Cα)の以下の残基に対応し、Kabat番号付けの139位は、配列番号5または6の22位に対応し、Kabat番号付けの150位は、配列番号5または6の33位に対応し、Kabat番号付けの190位は、配列番号5または6の73位に対応する。Kabat番号付けに基づいて上記に列挙されたTCR Cβ残基は、配列番号7または8(Cβ)の以下の残基に対応し、Kabat番号付けの134位は、配列番号7または8の18位に対応し、Kabat番号付けの139位は配列番号7または8の23位に対応し、Kabat番号付けの155位は配列番号7または8の39位に対応し、Kabat番号付けの170位は、配列番号7または8の54位に対応する。
【0010】
一態様では、本明細書で提供されるのは、139位のフェニルアラニン、150位のイソロイシン、190位のスレオニンの残基(Kabat番号付けに従って番号付けされた残基)のうちの少なくとも1つを含むTCR Cαを含む第1のポリペプチド、および/または134位のリジン、139位のアルギニン、155位のプロリン、170位のアスパラギン酸もしくはグルタミン酸の残基(Kabat番号付けに従って番号付けされた残基)のうちの少なくとも1つを含むTCR Cβを含む第2のポリペプチドを含むタンパク質である。
【0011】
別の態様において、本明細書に提供されるのは、第1のポリペプチドおよび第2のポリペプチドを含むタンパク質であり、第1のポリペプチドは、139位のフェニルアラニン、150位のイソロイシン、190位のスレオニンの残基(Kabat番号付けに従って番号付けされた残基)のうちの少なくとも1つ(例えば、1つ、2つ、または3つ)を含むTCR Cαを含み、かつ/または第2のポリペプチドは、134位のリジン、139位のアルギニン、155位のプロリン、170位のアスパラギン酸もしくはグルタミン酸の残基(Kabat番号付けに従って番号付けされた残基)のうちの少なくとも1つ(例えば、1つ、2つ、3つ、または4つ)を含むTCR Cβを含む。いくつかの実施形態において、タンパク質は、上記の7つの残基のうちの任意の1つを含む。いくつかの実施形態において、タンパク質は、上記の7つの残基のうちの任意の2つを含む。いくつかの実施形態において、タンパク質は、上記の7つの残基のうちの任意の3つを含む。いくつかの実施形態において、タンパク質は、上記の7つの残基のうちの任意の4つを含む。いくつかの実施形態において、タンパク質は、上記の7つの残基のうちの任意の5つを含む。いくつかの実施形態において、タンパク質は、上記の7つの残基のうちの任意の6つを含む。いくつかの実施形態において、タンパク質は、上記の7つの残基すべてを含む。
【0012】
いくつかの実施形態において、本明細書に記載のタンパク質は、可溶性タンパク質である。いくつかの実施形態において、本明細書に記載のタンパク質は、139位のセリン、150位のスレオニン、および190位のアラニン(Kabat番号付けに従って番号付けされた残基)を含むCαドメイン、ならびに134位のグルタミン酸、139位のヒスチジン、155位のアスパラギン酸、および170位のセリン(Kabat番号付けに従って番号付けされた残基)を含むCβドメインを除いて同じアミノ酸配列を含むタンパク質と比較した場合に、1つ以上の優れた特性、例えば、より高いアンフォールディング温度(Tm)、安定性の増加、同じ条件下で発現された場合の発現レベルの増加、または低下したグリコシル化レベルを有する。
【0013】
いくつかの実施形態において、第1のポリペプチドは、139位のフェニルアラニン(Kabat番号付け)を含むCαドメインを含む。いくつかの実施形態において、第1のポリペプチドは、190位のスレオニン(Kabat番号付け)を含むCαドメインを含む。いくつかの実施形態において、第1のポリペプチドは、150位のイソロイシン(Kabat番号付け)を含むCαドメインを含む。いくつかの実施形態において、第2のポリペプチドは、155位のプロリン(Kabat番号付け)を含むCβドメインを含む。いくつかの実施形態において、第2のポリペプチドは、170位のアスパラギン酸またはグルタミン酸(Kabat番号付け)を含むCβドメインを含む。いくつかの実施形態において、第2のポリペプチドは、134位のリジン(Kabat番号付け)を含むCβドメインを含む。いくつかの実施形態において、第2のポリペプチドは、139位のアルギニン(Kabat番号付け)を含むCβドメインを含む。
【0014】
いくつかの実施形態において、本明細書に提供されるのは、第1のポリペプチドおよび第2のポリペプチドを含むタンパク質であり、第1のポリペプチドは、139位のフェニルアラニン、150位のイソロイシン、190位のスレオニンの残基(Kabat番号付けに従って番号付けされた残基)を含むTCR Cαドメインを含み、第2のポリペプチドは、134位のリジン、139位のアルギニン、155位のプロリン、170位のアスパラギン酸の残基(Kabat番号付けに従って番号付けされた残基)を含むTCR Cβドメインを含む。
【0015】
いくつかの実施形態において、本明細書に提供されるのは、第1のポリペプチドおよび第2のポリペプチドを含むタンパク質であり、第1のポリペプチドは、139位のフェニルアラニンおよび190位のスレオニンの残基(Kabat番号付けに従って番号付けされた残基)を含むTCR Cαドメインを含み、第2のポリペプチドは、134位のリジン、139位のアルギニン、155位のプロリン、170位のアスパラギン酸の残基(Kabat番号付けに従って番号付けされた残基)を含むTCR Cβドメインを含む。
【0016】
いくつかの実施形態において、TCR Cαドメインは、配列番号5を含む。TCR Cβドメインは、配列番号7を含む。したがって、本明細書で提供されるのは、配列番号5を含むCαドメインを含む第1のポリペプチド、および配列番号7を含むCβドメインを含む第2のポリペプチドを含むタンパク質である。いくつかの実施形態において、Cαドメインは、配列番号5からなり、Cβドメインは配列番号7からなる。したがって、本明細書で提供されるのは、配列番号5からなるCαドメインを含む第1のポリペプチド、および配列番号7からなるCβドメインを含む第2のポリペプチドを含むタンパク質である。
【0017】
いくつかの実施形態において、第1のポリペプチドは、1つ以上の鎖間ジスルフィド結合によって第2のポリペプチドに連結されている。ジスルフィド結合は、TCRα鎖およびβ鎖の操作されたシステイン残基の対によって形成することができ、そのようなジスルフィド結合は、TCRα鎖およびβ鎖を一緒に連結する(WO03/020763、WO2004/033685、WO2004/074322、Li,et al.,Nat.Biotechnol.2005,23(3):349-354、Boulter,et al.,Protein Eng.2003,16(9):707-11を参照)。例えば、ジスルフィド結合は、TCRα鎖およびβ鎖の指定された残基にある次の操作されたシステインの対間で形成することができる:Thr48Cys(α鎖)およびSer57Cys(β鎖)、Thr45Cys(α鎖)およびSer77Cys(β鎖)、Tyr10Cys(α鎖)およびSer17Cys(β鎖)、Thr45Cys(α鎖)およびAsp59Cys(β鎖)、ならびにSer15Cys(α鎖)およびGlu15Cys(β鎖)(WO03/020763を参照)。
【0018】
いくつかの実施形態において、Cαドメインは、166位のシステイン残基(Kabat番号付けに従って番号付けされた残基)をさらに含み、Cβドメインは、173位のシステイン残基(Kabat番号付けに従って番号付けされた残基)をさらに含み、ここで、第1のポリペプチドおよび第2のポリペプチドは、Cαの166位のシステイン残基とCβの173位のシステイン残基との間の鎖間ジスルフィド結合によって連結されている。
【0019】
いくつかの実施形態において、TCR Cαドメインは配列番号6を含む。TCR Cβドメインは配列番号8を含む。したがって、本明細書で提供されるのは、配列番号6を含むCαドメインを含む第1のポリペプチド、および配列番号8を含むCβドメインを含む第2のポリペプチドを含むタンパク質である。いくつかの実施形態において、Cαドメインは、配列番号6からなり、Cβドメインは配列番号8からなる。したがって、本明細書で提供されるのは、配列番号6からなるCαドメインを含む第1のポリペプチド、および配列番号8からなるCβドメインを含む第2のポリペプチドを含むタンパク質である。
【0020】
いくつかの実施形態において、第1のポリペプチドは、TCRα鎖可変ドメイン(Vα)をさらに含み、第2のポリペプチドは、TCRβ鎖可変ドメイン(Vβ)をさらに含み、ここで、VαおよびVβは、抗原、例えば、腫瘍抗原またはウイルス抗原に結合する抗原結合ドメインを形成する。いくつかの実施形態において、VαはCαのN末端に融合され、Vα-Cαドメインを形成し、VβはCβのN末端に融合され、Vβ-Cβドメインを形成する。
【0021】
TCR可変領域(Vα/Vβ)は、ウイルス抗原、ネオ抗原(がん細胞でのみ発現され、正常細胞では発現されない抗原)、腫瘍関連抗原(正常細胞では低レベルで発現しているが、がん細胞では過剰発現しているタンパク質の処理された断片)、またはがん/精巣(CT)抗原(通常は生殖組織、例えば、精巣(testes)、胎児卵巣、胎盤によってのみ発現されるタンパク質に由来し、他のすべての成人組織では発現が制限されているか/発現していない)を含むが、これらに限定されない任意の腫瘍またはウイルス抗原に結合することができる(Pritchard,et al.,BioDrugs,2018,32:99-109を参照)。
【0022】
いくつかの実施形態において、TCR可変領域(Vα/Vβ)は、以下のうちのいずれか1つから選択される抗原に結合する:ERBB2、CD19、NY-ESO-1、MAGE(例えば、MAGE-A1、A2、A3、A4、A6、A10、A12)、gp100、MART-1/Melan-A、gp75/TRP-1、TRP-2、チロシナーゼ、BAGE、CAMEL、SSX-2、β-カテニン、カスパーゼ-8、CDK4、MUM-2(TRAPPC1)、MUM-3、MART-2、OS-9、p14ARF(CDKN2A)、GAS7、GAPDH、SIRT2、GPNMB、SNRP116、RBAF600、SNRPD1、PRDX5、CLPP、PPP1R3B、EF2(Pritchard,et al.,BioDrugs,2018,32:99-109、およびWang,et al.,Cell Research,2017,27:11-37を参照)。
【0023】
いくつかの実施形態において、本明細書に記載のタンパク質は、第2の抗原結合ドメインをさらに含む。そのような第2の抗原結合ドメインは、T細胞表面上の抗原、例えば、CD3、CD4、CD8に結合することができる。いくつかの実施形態において、第2の抗原結合ドメインは、CD3に結合する。
【0024】
いくつかの実施形態において、第2の抗原結合ドメインは、抗体または抗体断片、例えば、scFv、Fab、Fab’、(Fab’)2、単一ドメイン抗体、またはラクダVHHドメインである。いくつかの実施形態において、第2の抗原結合ドメインはFabである。いくつかの実施形態において、Fabは、重鎖可変ドメイン(VH)およびヒトIgG CH1ドメインを含むFab重鎖、ならびに軽鎖可変ドメイン(VL)およびヒト軽鎖定常ドメイン(CL)を含むFab軽鎖を含み、ここで、VHドメインおよびVLドメインは、T細胞表面上の抗原、例えば、CD3、CD4、CD8に結合する第2の抗原結合ドメインを形成する。
【0025】
いくつかの実施形態において、本明細書に記載のタンパク質は、3つのポリペプチド、Vα-Cα-リンカー-VH-CH1を含む第1のポリペプチド、Vβ-Cβを含む第2のポリペプチド、およびVL-CLを含む第3のポリペプチドを含み、ここで、第2および第3のポリペプチドは、鎖間ジスルフィド結合によって第1のポリペプチドに連結されている。いくつかの実施形態において、本明細書に記載のタンパク質は、TCR-CD3 Fabフォーマットを有する。
【0026】
いくつかの実施形態において、本明細書に記載のタンパク質は、4つのポリペプチド、Vα-Cα-ヒンジ-第1のFc領域を含む第1のポリペプチド、Vβ-Cβを含む第2のポリペプチド、VL-CLを含む第3のポリペプチド、およびVH-CH1-ヒンジ-第2のFc領域を含む第4のポリペプチドを含み、ここで、第2および第4のポリペプチドは、鎖間ジスルフィド結合によって第1のポリペプチドに連結されており、第3のポリペプチドは、鎖間ジスルフィド結合によって第4のポリペプチドに連結されている。いくつかの実施形態において、本明細書に記載のタンパク質は、IgG様フォーマットまたはTCR-CD3 Fab-Fc IgGフォーマットを有する。
【0027】
いくつかの実施形態において、本明細書に記載のタンパク質は、4つのポリペプチド、Vα-Cα-リンカーVH-CH1-ヒンジ-第1のFc領域を含む第1のポリペプチド、Vβ-Cβを含む第2のポリペプチド、VL-CLを含む第3のポリペプチド、第2のFc領域を含む第4のポリペプチドを含み、ここで、第2、第3、および第4のポリペプチドは、鎖間ジスルフィド結合によって第1のポリペプチドに連結されている。いくつかの実施形態において、本明細書に記載のタンパク質は、TCR-CD3 Fab-Fcタンデムフォーマットを有する。
【0028】
いくつかの実施形態において、本明細書に記載のタンパク質は、ヒト血清アルブミン(HSA)に結合するVHHドメインを含む。いくつかの実施形態において、本明細書に記載のタンパク質は、3つのポリペプチド、Vα-Cα-リンカー-VH-CH1-VHHを含む第1のポリペプチド、Vβ-Cβを含む第2のポリペプチド、およびVL-CLを含む第3のポリペプチドを含み、ここで、第2および第3のポリペプチドは、鎖間ジスルフィド結合によって第1のポリペプチドに連結されている。いくつかの実施形態において、本明細書に記載のタンパク質は、TCR-CD3 Fab-VHHフォーマットを有する。
【0029】
いくつかの実施形態において、本明細書に記載のタンパク質は、2つのTCR Vα-Cαドメインおよび2つのTCR Vβ-Cβドメインを含む。いくつかの実施形態において、本明細書に記載のタンパク質は、2xTCR-CD3 Fab-Fcフォーマットを有する。
【0030】
いくつかの実施形態において、本明細書に記載のタンパク質は、配列番号41~46のいずれか1つから選択されるアミノ酸配列を含むリンカーを含む。
【0031】
いくつかの実施形態において、本明細書に記載のタンパク質は、Fc領域、例えば、ヒトIgG Fc領域、例えば、ヒトIgG1、IgG2、IgG3、またはIgG4 Fc領域を含む。いくつかの実施形態において、Fc領域は、対応する野生型ヒトIgG Fc領域と比較してエフェクター機能が低下した改変ヒトIgG Fc領域である。
【0032】
いくつかの実施形態において、Fc領域は、改変ヒトIgG1 Fc領域である。IgG1は、Fcガンマ受容体ファミリー(FcγR)、ならびにC1qのタンパク質に結合することが周知である。これらの受容体との相互作用は、抗体依存性細胞傷害(ADCC)および補体依存性細胞傷害(CDC)を誘導し得る。したがって、免疫エフェクター機能を除去するために、特定のアミノ酸置換がヒトIgG1 Fc領域に導入される。いくつかの実施形態において、Fc領域は、以下の変異のうちの1つ以上を含む改変ヒトIgG1 Fc領域である:N297A、N297Q、D265A、L234A、L235A、C226S、C229S、P238S、E233P、L234V、P238A、A327Q、A327G、P329A、K322A、L234F、L235E、P331S、T394D、A330L、M252Y、S254T、T256E(EUインデックス番号付けに従って番号付けされた残基)。いくつかの実施形態において、Fc領域は、以下の変異を含む改変ヒトIgG1 Fc領域である:L234A、L235AおよびN297Q(EUインデックス番号付けに従って番号付けされた残基)。いくつかの実施形態において、Fc領域は、配列番号48を含む改変ヒトIgG1 Fc領域である。いくつかの実施形態において、本明細書に記載のタンパク質は、改変ヒトIgG1 Fc領域のN末端に、ヒトIgG1ヒンジ領域(例えば、配列番号47)をさらに含む。
【0033】
いくつかの実施形態において、Fc領域は、以下の変異のうちの1つ以上を含む改変ヒトIgG4 Fc領域である:E233P、F234V、F234A、L235A、G237A、E318A、S228P、L236E、S241P、L248E、T394D、M252Y、S254T、T256E、N297A、N297Q(EUインデックス番号付けに従って番号付けされた残基)。いくつかの実施形態において、Fc領域は、以下の変異を含む改変ヒトIgG4 Fc領域である:F234AおよびL235A(EUインデックス番号付けに従って番号付けされた残基)。いくつかの実施形態において、Fc領域は、配列番号50を含む改変ヒトIgG4 Fc領域である。いくつかの実施形態において、本明細書に記載のタンパク質は、改変ヒトIgG4 Fc領域のN末端に、S228P変異(EUインデックス番号付けによる、例えば、配列番号49)を含む改変ヒトIgG4ヒンジ領域をさらに含む。このような改変ヒトIgG4ヒンジ領域は、インビボでのIgG4 Fabアーム交換を低下させる(Labrijn,et al.,Nat Biotechnol 2009,27(8):767を参照)。
【0034】
いくつかの実施形態において、本明細書に記載のタンパク質は、配列番号47または49を含むヒンジ領域を含む。いくつかの実施形態において、本明細書に記載のタンパク質は、配列番号48または50を含むFc領域を含む。いくつかの実施形態において、本明細書に記載のタンパク質は、配列番号47を含むヒンジ領域、ならびに配列番号48を含む第1および第2のFc領域を含む。いくつかの実施形態において、本明細書に記載のタンパク質は、配列番号49を含むヒンジ領域、ならびに配列番号50を含む第1および第2のFc領域を含む。
【0035】
いくつかの実施形態において、第1および第2のFc領域は、一組のヘテロ二量体化変異、例えば、一組のCH2および/またはCH3ヘテロ二量体化変異を含む。いくつかの実施形態において、第1および第2のFc領域は、一組のCH3ヘテロ二量体化変異、例えば、ノブインホール(Ridgway,et al.,Protein Eng.1996、9:617-621)、静電変異、およびVerdino,et al.,Current Opinion in Chemical Engineering 2018,19:107-123、WO2016/118742、米国特許第9605084号、同第9701759号、同第10106624号、米国特許出願第2018/0362668号に記載されている、他のCH3二量体化変異を含む。
【0036】
いくつかの実施形態において、第1または第2のFc領域のうちの1つは、残基407にアラニンを含むCH3ドメインを含み、第1または第2のFc領域の他方は、残基366にバリンまたはメチオニンを含み、残基409にバリン(EUインデックス番号付けに従って番号付けされた残基)を含むCH3ドメインを含む。いくつかの実施形態において、第1または第2のFc領域のうちの1つは、残基407にアラニン、残基399にメチオニン、および残基360にアスパラギン酸を含むCH3ドメインを含み、上記第1または第2のFc領域の他方は、残基366のバリン、残基409のバリン、ならびに残基345および347のアルギニン(EUインデックス番号付けに従って番号付けされた残基)を含むCH3ドメインを含む。
【0037】
いくつかの実施形態において、本明細書に記載のタンパク質は、検出可能な標識に連結されている。いくつかの実施形態において、そのような検出可能な標識は、蛍光標識、放射性標識、化学発光標識、生物発光標識、常磁性標識、MRI造影剤、有機色素、または量子ドットであり得る。
【0038】
いくつかの実施形態において、本明細書に記載のタンパク質は、治療薬、例えば、細胞毒性剤、抗炎症剤、または免疫刺激剤に連結されている。
【0039】
いくつかの実施形態において、本明細書に記載のタンパク質は、可溶性タンパク質である。いくつかの実施形態において、本明細書に記載のタンパク質は、膜貫通タンパク質である。
【0040】
いくつかの実施形態において、タンパク質の第1のポリペプチドは、TCRα鎖の膜貫通ドメインおよび細胞内ドメインをさらに含み、第2のポリペプチドは、TCRβ鎖の膜貫通ドメインおよび細胞内ドメインをさらに含む。
【0041】
以下の残基のうちの少なくとも1つ(例えば、1つ、2つ、または3つ):139位のフェニルアラニン、150位のイソロイシン、190位のスレオニン(Kabat番号付けに従って番号付けされた残基)を含むCαドメイン、および/または以下の残基のうちの少なくとも1つ(例えば、1つ、2つ、3つ、または4つ):134位のリジン、139位のアルギニン、155位のプロリン、170位のアスパラギン酸もしくはグルタミン酸(Kabat番号付けに従って番号付けされた残基)を含むCβドメイン、を含むTCRを含むT細胞も本明細書で提供される。そのようなTCRはまた、抗原結合ドメイン、例えば、抗体断片またはTCR Vα/Vβドメインを含み得る。
【0042】
別の態様において、本明細書に提供されるのは、本明細書に記載のタンパク質のポリペプチドをコードする核酸である。そのような核酸は、以下の残基のうちの少なくとも1つ(例えば、1つ、2つ、または3つ)を含むTCR Cαドメインを含むポリペプチドをコードし得る:139位のフェニルアラニン、150位のイソロイシン、190位のスレオニン(Kabat番号付けに従って番号付けされた残基)。そのような核酸は、以下の残基のうちの少なくとも1つ(例えば、1つ、2つ、3つ、または4つ)を含むTCR Cβドメインを含むポリペプチドをコードし得る:134位のリジン、139位のアルギニン、155位のプロリン、170位のアスパラギン酸またはグルタミン酸(Kabat番号付けに従って番号付けされた残基)。いくつかの実施形態において、本明細書に提供されるのは、配列番号5または7を含むポリペプチドをコードする核酸である。いくつかの実施形態において、本明細書に提供されるのは、配列番号6または8を含むポリペプチドをコードする核酸である。
【0043】
別の態様において、本明細書で提供されるのは、本明細書に記載のタンパク質のポリペプチドをコードする核酸を含むベクターである。そのようなベクターは、本明細書に記載のタンパク質のポリペプチドをコードする核酸に作動可能に連結されている発現制御配列をさらに含み得る。作動可能に連結されている遺伝子の発現を方向付けることができる発現ベクターは、当該技術分野において周知である。発現ベクターは、宿主細胞からのポリペプチドの分泌を促進するシグナルペプチドをコードし得る。シグナルペプチドは、免疫グロブリンシグナルペプチドまたは異種性シグナルペプチドであり得る。発現ベクターは、典型的には、エピソーム、または宿主染色体DNAの一体化した部分のいずれかとして、宿主生物中で複製可能である。一般的に、発現ベクターは、所望のDNA配列で形質転換されたそれらの細胞の検出を可能にするために、選択マーカー、例えば、テトラサイクリン、ネオマイシン、およびジヒドロ葉酸レダクターゼを含有し得る。目的のポリヌクレオチド配列を含有するベクターは、細胞宿主のタイプに応じて変化する、周知の方法(例えば、安定的または一過性のトランスフェクション、形質転換、形質導入または感染)によって宿主細胞中に移入することができる。いくつかの実施形態において、本明細書に提供されるのは、配列番号5を含むポリペプチドをコードする核酸および配列番号6を含むポリペプチドをコードする核酸を含むベクターである。いくつかの実施形態において、本明細書に提供されるのは、配列番号7を含むポリペプチドをコードする核酸および配列番号8を含むポリペプチドをコードする核酸を含むベクターである。
【0044】
本明細書に提供されるのはまた、本明細書に記載の核酸またはベクターを含む宿主細胞、例えば哺乳動物細胞であり、そのような宿主細胞は、本明細書に記載のタンパク質を発現することができる。機能性タンパク質を発現することができることが知られている哺乳動物宿主細胞には、CHO細胞、HEK293細胞、COS細胞、およびNSO細胞が含まれる。本開示はさらに、タンパク質が発現されるような条件下で上記の宿主細胞を培養し、発現されたタンパク質を回収することによって、本明細書に記載のタンパク質を産生するためのプロセスを提供する。
【0045】
別の態様において、本明細書で提供されるのは、本明細書に記載のタンパク質、核酸、ベクター、または細胞を含む医薬組成物である。そのような医薬組成物はまた、1つ以上の医薬的に許容される担体、希釈剤、または賦形剤を含み得る。
【0046】
別の態様において、本明細書に提供されるのは、本明細書に記載のタンパク質、核酸、ベクター、細胞、または医薬組成物の治療有効量を対象に投与することによって、それを必要とする対象におけるがんまたは感染症を治療する方法である。
【0047】
療法における使用のための、本明細書に記載のタンパク質、核酸、ベクター、細胞、および医薬組成物も提供される。さらに、本開示はまた、がんまたは感染症の治療における使用のための、本明細書に記載のタンパク質、核酸、ベクター、細胞、または医薬組成物を提供する。さらに、本開示は、がんまたは感染症の治療のための薬剤の製造における本明細書に記載のタンパク質、核酸、ベクター、細胞、または医薬組成物の使用を提供する。
【0048】
本明細書で使用される場合、本発明の文脈で(特に特許請求の範囲の文脈で)使用される「a」、「an」、「the」という用語および同様の用語は、別段の定めがない限り、または文脈によって明らかに矛盾していない限り、単数形および複数形の両方をカバーすると解釈されるべきである。
【0049】
本明細書で使用される「抗体」という用語は、ジスルフィド結合によって相互接続された4つのポリペプチド鎖、2つの重(H)鎖および2つの軽(L)鎖を含むモノクローナル免疫グロブリン分子を指す。各重鎖は、重鎖可変領域(VH)および重鎖定常領域(CH)を含む。重鎖定常領域は、CH1、CH2、およびCH3の3つのドメインを含む。各軽鎖は、軽鎖可変領域(VL)および軽鎖定常領域(CL)から構成される。VH領域およびVL領域は、フレームワーク領域(FR)と呼ばれるより保存されている領域が散在する、相補性決定領域(CDR)と呼ばれる超可変領域にさらに細分され得る。各VHおよびVLは、3つのCDRおよび4つのFRから構成されており、FR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3、FR4の順序でアミノ末端からカルボキシ末端へと配置される。VHのCDR領域は、HCDRl、HCDR2、およびHCDR3と呼ばれる。VLのCDR領域は、LCDRl、LCDR2、およびLCDR3と呼ばれる。CDRは、抗原との特異的相互作用を形成する残基の大部分を含有する。残基を様々なCDRに割り当てることは、Kabat、Chothia、またはNorthなどのアルゴリズムによって行うことができる。KabatのCDR定義(Kabat et al.,“Sequences of Proteins of Immunological Interest,”National Institutes of Health,Bethesda,Md.(1991))は、抗体配列変異性に基づく。ChothiaのCDRの定義(Chothia et al.,“Canonical structures for the hypervariable regions of immunoglobulins”,Journal of Molecular Biology,196,901-917(1987)、Al-Lazikani et al.,“Standard conformations for the canonical structures of immunoglobulins”,Journal of Molecular Biology,273,927-948(1997))は、抗体の3次元構造およびCDRループのトポロジーに基づく。NorthのCDRの定義(North et al.,“A New Clustering of Antibody CDR Loop Conformations”,Journal of Molecular Biology,406,228-256(2011))は、多数の結晶構造を有する親和性伝搬クラスター化(affinity propagation clustering)に基づいている。
【0050】
「抗原結合ドメイン」または「抗体断片」という用語は、抗原のエピトープと特異的に相互作用する(例えば、結合、立体障害、安定化/不安定化、空間分布によって)能力を保持する抗体の部分を指す。抗体断片の例には、Fab、Fab’、F(ab’)2、Fv断片、scFv抗体断片、ジスルフィド結合Fvs(sdFv)、VHおよびCH1ドメインからなるFd断片、線形抗体(linear antibodies)、sdAb(VLまたはVHのいずれか)などの単一ドメイン抗体、ラクダVHHドメイン、ヒンジ領域でジスルフィド架橋によって連結された2つのFab断片を含む二価断片などの抗体断片から形成された多重特異性抗体、および単離されたCDRまたは抗体の他のエピトープ結合断片が含まれるが、これらに限定されない。
【0051】
本明細書で使用される「結合する」という用語は、ある種の化学結合または別のタンパク質もしくは分子との引力相互作用を形成するタンパク質または分子の能力を意味し、当該分野において知られている一般的な方法によって決定されるように、2つのタンパク質または分子の密接な近接をもたらす。
【0052】
本明細書で使用される「Fc領域」という用語は、免疫グロブリン、例えば、IgG1、IgG2、IgG3、またはIgG4の定常領域のCH2ドメインおよびCH3ドメインを含むポリペプチドを指す。任意選択により、Fc領域は、免疫グロブリン、例えば、IgG1、IgG2、IgG3、またはIgG4のヒンジ領域の一部またはヒンジ領域全体を含み得る。いくつかの実施形態において、Fc領域は、ヒトIgG Fc領域、例えば、ヒトIgG1 Fc領域、IgG2 Fc領域、IgG3 Fc領域またはIgG4 Fc領域である。いくつかの実施形態において、Fc領域は、対応する野生型IgG Fc領域と比較してエフェクター機能が低下した改変IgG Fc領域である。Fc領域の残基の番号付けは、Kabatと同様にEUインデックスに基づく。Kabat et al,Sequences of Proteins of Immunological Interest,5th edition,Bethesda,MD:U.S.Dept.of Health and Human Services,Public Health Service,National Institutes of Health(1991)。免疫グロブリン重鎖のFc領域の境界は変化する可能性があり、ヒトIgG重鎖Fc領域は通常、231位のアミノ酸残基(EUインデックスによる)から、免疫グロブリンのカルボキシル末端までのストレッチとして定義される。
【0053】
本明細書で使用される「ポリペプチド分子」という用語は、アミノ酸残基のポリマーを指す。この用語は、天然に存在するアミノ酸を含むポリマー、および1つ以上の非天然に存在するアミノ酸を含むポリマーに適用される。
【0054】
本明細書で使用される「治療有効量」という用語は、例えば、酵素もしくはタンパク質の活性の低下もしくは阻害、または症状を改善し、状態を緩和し、疾患の進行を減速もしくは遅延し、または疾患を予防するなど、対象の生物学的または医学的応答を誘発する、本発明のタンパク質または核酸またはベクターまたは細胞または組成物の量を指す。1つの非限定的な実施形態において、「治療有効量」という用語は、対象に投与されたときに、状態、または障害または疾患を少なくとも部分的に緩和、阻害、予防および/または改善するために有効である、本発明のタンパク質または核酸またはベクターまたは細胞または組成物の量を指す。
【0055】
本明細書で使用される場合、「治療」または「治療すること」は、本明細書に開示の障害の進行の減速、制御、遅延、または停止し得るすべてのプロセスを指すが、必ずしもすべての障害の症状の完全な消失を示すわけではない。治療は、患者、特にヒトの疾患または状態の治療のための本発明のタンパク質または核酸またはベクターまたは細胞または組成物の投与を含む。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【
図1A】
図1A-Dは、TCR断片および安定化変異の特徴を示す。TCR断片および安定化変異の特徴を示す。
図1Aは、組換えTCR(1G4_122、▲)、α42/β110操作ジスルフィド(dsFvにおけるVH44/VL100ジスルフィドと相同)を有する同じTCRからのVα/Vβ断片
【数1】
、ならびに標準のストークジスルフィドおよび安定化α166/β173ジスルフィドの両方を有するCα/Cβ断片(●)を用いるDSF変性曲線を示す。
【
図1B】
図1Bは、「野生型」(WT)Cα/CβサブユニットおよびCα/Cβサブユニットの熱アンフォールディングの中点(T
m)を示す棒グラフであり、個々の安定化変異が示されている。
【数2】
または7(■)の安定化変異を伴うCα/CβのDSF曲線を示す。
【
図1D】
図1Dは、野生型Cα/Cβ(左レーン)および4(中央レーン)または7(左レーン)の安定化変異を伴うCα/CβのSDS-PAGE特性評価を示す。
【
図2】2つの異なるTCRに基づくTCR CβおよびCαドメインのKabat番号付けシステムを示す。上部のCβおよびCα配列は、Kabatらの最初のヒトTリンパ球受容体ヒトHPB-MLT配列に由来し(Sequences of Immunological Interest Vol.1 Fifth Edition 1991 US Department of Health and Human Services、Public Health Service,NIH,1004ページおよび1005ページ)(ヒトHPB-MLT Cβ、配列番号51、ヒトHPB-MLT Cα、配列番号52)、下部の1G4_122_NYESO1CβおよびCα配列(1G4_122_NYESO1Cβ、配列番号4、1G4_122_NYESO1Cα、配列番号3)は、2F53 pdb結晶構造に由来した(Dunn,et al.,Protein Sci 2006.15:710-21)。ボックスを付した四角は、2F53の定常ドメインとHPB-MLTネイティブ配列との間の違いを示す。2F53配列のCβ_S173CおよびCα_T166Sは、安定化ジスルフィド結合を形成するシステインである(Boulter,et al.,Protein Eng.2003.16:707-11)。アラインメントの下の影付きの残基は、Cα/Cβサブユニットを劇的に安定化する本明細書に記載の安定化変異、および安定化Cα/Cβサブユニットを有する様々な全長TCRである。
【
図3A】極性アミノ酸が関与する変異の構造的特徴を示す。各行は単一の変異を特徴としている。第1の(左)列は、Cα/Cβバックボーン構造の拡大された概略リボン図と、安定化変異を有するモデルの構造図を重ね合わせた、変異した元の残基のスティック描写である。第2(中央)の列は、同じ変異の結晶構造図に重ね合わせたCα/Cβモデル図内の安定化変異の重ね合わせを示す。第3(右)の列は、それを安定させるその変異の特徴を強調している。
【
図3B】疎水性アミノ酸を含む変異の構造的特徴を示す。各行は単一の変異を特徴としている。第1(左)の列は、Cα/Cβバックボーン構造の拡大された概略リボン図と、安定化変異を有するモデルの構造図を重ね合わせた、変異した元の残基のスティック描写である。第2(中央)の列は、同じ変異の結晶構造図に重ね合わせたCα/Cβモデル図内の安定化変異の重ね合わせを示す。第3(右)の列は、それを安定させるその変異の特徴を強調している。第1の行の第3の列は、暗いボックスで表されたCβ155のアスパラギン酸のラマチャンドランプロットに重ね合わせたプロリンのラマチャンドランプロットを示す。プロットは、Cβ D155がプロリンに対して好ましいバックボーンファイ/プサイ二面角を自然に採用することを示す。次の2行の第3の列は、変異が周囲の残基とどの程度良好に充填されているかを示す。Cα T150Iは少し暗く、見やすくなっている。
【
図3C】7変異型TCRの結晶構造と、7変異型Cα/Cβ構造の骨格座標を与えられたアミノ酸側鎖のコンフォメーションを予測するために使用される場合のロゼッタの出力との比較を示す。
【
図4A】
図4A-4Gは、安定化Cα/Cβサブユニットがある場合およびない場合の4つの多様な組換えα/β TCRの特性評価を示す。
図4Aは、α166/β173安定化ジスルフィドの非存在下でのゼロ(WT、点線)または7つ(実線)の安定化Cα/Cβ変異を伴う1G4_122 TCRのDSC曲線を示す。
【
図4B】
図4Bは、すべてα166/β173ジスルフィドの存在下でのゼロ(WT、点線)または7つ(実線)の安定化変異を伴う4つの多様なTCRのDSC曲線を示す。
【
図4C】
図4Cは、すべてα166/β173ジスルフィドの存在下で、ゼロ(WT、点線)または7(実線)の安定化変異を伴う4つの多様なTCRの非還元SDS-PAGEを示す。
【
図4D】
図4Dは、すべてα166/β173ジスルフィドの存在下でゼロ(WT、点線)または7つ(実線)の安定化変異を伴う4つの多様なTCRの分析SECを示す。
【
図4E】
図4Eは、重水素交換からのバックボーン保護の唯一の重要な領域がCαに存在したことを示す。各ペプチド領域の下のヒートマップは、10秒、30秒、2分、10分、1時間、および4時間で観察された保護のレベルを示す。ヒートマップの欠如は、この領域内で観察された重水素交換に有意差がないことを示す。
【
図4F】
図4Fは、野生型CE10 TCR(黒い四角)および安定化CE10 TCR(灰色の円)からのペプチドの代表的な重水素取り込みプロットを示す。
【
図4G】
図4Gは、Vα_N67N-結合型グリコシル化部位を含むペプチドの抽出イオンクロマトグラムを示す。18.6分のペプチドはグリコシル化されていなかったが、19.9分のピークは酵素的脱グリコシル化/Aspへの変換後に現れる。野生型TCRのペプチドは点線で、安定化TCRのペプチドは実線である。
【
図5A-C】
図5A-5Eは安定化Cα/Cβサブユニットがある場合およびない場合の1G4_122 TCR内の安定化変異体および不安定化Vα/Vβ変異体の両方の特性を示す。
図5Aは、ラベンダーで示される様々なVα/Vβ変異を伴う1G4_122(pdb 2F53)の図案描写を示す。様々なVα/Vβ変異体の組み合わせの存在下、ならびに安定化Cα/Cβサブユニットの非存在下(
図5B)および存在下(
図5C)での1G4_122 TCRのDSF曲線。安定化Cα/Cβサブユニットの非存在下(●)および存在下
【数3】
での異なる可変ドメイン変異を伴う1G4_122 TCRの正規化された発現レベル(
図5D)および最低Tm(
図5E)。
【
図6A】
図6A-Eは、IgG様およびタンデムFab様TCR/CD3タンパク質の特性を示す。
図6Aは、TCR/CD3 IgG様およびタンデムFab様の二重特異性分子の概略図である。
【
図6B】
図6Bは、TCR/CD3 IgG様およびタンデムFab様二重特異性タンパク質の非還元および還元SDS-PAGEを示す。
【
図6C】
図6Cは、野生型NY-ESO-1 TCRおよび安定化NY-ESO-1 TCRを使用するTCR/CD3 IgG様BsAb、ならびに安定化NY-ESO-1のみを使用するタンデムFab BsAbの分析的SEC特性評価を示す。
【
図6D】
図6Dは、NY-ESO-1ペプチドでパルスされたSaos-2(上)および624.38(中央)HLA-A2+腫瘍細胞ならびにJurkat(下)CD3+細胞に対するBsAb分子のフローサイトメトリー細胞結合滴定を示す。
【
図6E】
図6Eは、NY-ESO-1ペプチドでパルスされたSaos-2腫瘍細胞のT細胞再方向付け殺傷を示す。
【
図7A】
図7A-Bは、IgG様TCR/CD3 BsAbの追加のTCR/CD3二機能性およびマウス薬物動態を示す。
図7Aは、異なる親和性を有するか、または標準的なN結合型グリコシル化部位の変異によって脱グリコシル化されたCαを有するIgG様TCR/CD3 BsAbの還元および非還元SDS-PAGEを示す。
【
図7B】
図7Bは、Balb-cマウスにおける5mg/kgの単回静脈内注射した後の、CαにおけるN-結合型グリコシル化がある場合またはない場合の、1G4_122/SP34 IgG様BsAbの血清濃度を示す。
【実施例】
【0057】
組換えTCRを使用して、ナイーブT細胞を再方向付けし、ウイルス感染細胞またはがん性細胞を排除することができるが、しかしながら、これらは、安定性の低さおよび不均一な表現に悩まされている。分子モデリングを使用して、TCR定常ドメイン(Cα/Cβサブユニット)の変異を特定し、Cα/Cβの安定性を改善し、Cα/Cβの発現を増加させ、Cα/Cβのアンフォールディング温度を上昇させる。これらの変異のうち7つをまとめてCα/Cβサブユニットに加えると、熱アンフォールディングの中点が20℃上昇することが観察される。安定化Cα/Cβサブユニットを追加することにより、4つの別々のα/β TCRの発現およびアセンブリが3~10倍改善される。さらに、変異は、可変ドメインの不安定化変異を伴うTCRの発現をレスキューした。興味深いことに、TCRの安定性およびフォールディングの改善は、グリコシル化の低下をもたらした。Cα/Cβバリアントは抗体のような発現を可能にし、抗CD3抗体と安定化TCRを組み合わせた新しいクラスの二重特異性分子の開発を可能にした。これらのTCR/CD3二重特異性タンパク質は、HLA/ペプチド抗原を発現している腫瘍細胞を殺傷するためにT細胞を再方向付けすることができる。
【0058】
Cα/Cβサブユニットの一般的な安定化は、α/β TCRの全体的な安定性およびフォールディングを改善する可能性がある。最近の研究では、α/β TCRのサブユニット間に強力な熱力学的協同性が存在することが示されている。Cαは、抗体CH1/Cκサブユニットについて観察されたものと同様に、フォールディングのためにER中でCβと対合する必要がある(Feige,et al.,Mol Cell,2009.34(5):569-79、Toughiri,et al.,MAbs,2016.8(7):1276-1285)。さらに、多くのVα/Vβサブユニットは本質的に単独でアンフォールドされ、適切なフォールディングのためにCα/Cβサブユニットを必要とする(Feige,M.J.,et al.,J Biol Chem,2015.290(44):p.26821-31)。仮説を支持するために、Cα/Cβドメイン間にジスルフィドを追加すると、多くのα/β TCRにプラスの影響を与えることが示されている(Boulter,J.M.,et al.,Protein Eng,2003.16(9):p.707-11)。したがって、より堅牢なCα/Cβサブユニットは、適切に組み立てられる抗体のようなレベルでTCRを生成することを目的として、一般的なTCR安定化のために操作されている。安定化TCRは、薬物動態特性を強化するための抗体-Fc部分を含むものを含む、様々な形状の抗体への組換え融合のためのより適したビルディングブロックであるべきである。
【0059】
分子モデリングソフトウェアロゼッタ(Rosetta)を用いてタンパク質シミュレーションを実行し、CαドメインおよびCβドメインを安定化する変異を特定した(Leaver-Fay,et al.,Methods Enzymol,2011.487:545-74)。タンパク質を安定化させる変異を見つけるための代替戦略は、タンパク質ファミリーのマルチプル配列アラインメント(MSA)を組み立てて、目的のタンパク質に保存されていない高度に保存されたアミノ酸を検索することである(Magliery,et al.,Curr Opin Struct Biol,2015.33:161-8)。ここでは、ロゼッタの計算に基づいて変異を試験し、保存分析を使用してシミュレーションの結果をフィルタリングした。
【0060】
結果
Cα/Cβ TCRサブユニットの安定化
最初に、α/β TCRの熱力学的特性を、可溶型のα/β TCR、1G4_122、ならびにそのVα/VβおよびCα/Cβサブユニットを生成することによって調べ、1G4_122はNY-ESO-1抗原に結合する(Li、Y.,et al.,Nat Biotechnol,2005.23(3):349-54)。哺乳動物の発現系を使用して、VαをVβに、またはCαをCβに連結するフレキシブル(Gly4Ser)4リンカー(配列番号43)の存在下または非存在下で、Vα/VβおよびCα/Cβサブユニットの両方を生成した。サブユニットの発現およびアセンブリは、ドメイン間ジスルフィドの安定化のある場合とない場合とで試験された。単鎖バリアントを含め、ほとんどのVα/VβおよびCα/Cβ構築物は発現に失敗したか、組み立てに失敗した。最良のVα/Vβサブユニット発現は、抗体可変ドメイン断片またはFvを安定化するために使用されるV
H44/V
L100ジスルフィドに相同なVα44/Vβ110ジスルフィドを加えることによって得られ(Brinkmann,et al.,Proc Natl Acad Sci USA,1993.90(16):7538-42)、一方、ドメインのC末端のネイティブCα/Cβジスルフィド(Cα213/Cβ247)の上に既知の安定化ジスルフィド(Cα166/Cβ173)を使用すると、最良のCα/Cβ発現が得られた(Boulter,et al.,Protein Eng,2003.16(9):707-11)。示差走査熱量測定(DSC)実験は、(Cα166/Cβ173)ジスルフィドが全長TCR(両方のサブユニット)の熱アンフォールディングの中点(T
m)を8℃増加させることを示した。Vα/VβおよびCα/Cβサブユニットのアンフォールディングを無傷の細胞外TCRドメインのアンフォールディングと比較すると、個々のサブユニットは互いに存在しない場合に明らかに両方とも不安定化され(
図1A)、以前に観察された熱力学的協同性と一致する(Feige,et al.,J Biol Chem,2015.290(44):26821-31)。
【0061】
分子モデリングシミュレーションは、定常ドメインを安定させる変異を特定するためにも使用された。各シミュレーションについて、TCRは空間に固定され、変異に近接する残基のみが変異に対応するために小さな動き(「弛緩」)を行うことを許容された。これらの局所的な弛緩は、いかなる変異も伴わないネイティブ配列を使用して反復された。エネルギーの変化は、変異のロゼッタスコアをネイティブ配列のロゼッタスコアと比較することによって決定された。変異は2つのリスト、TCRのマルチプル配列アラインメント(MSA)で観察される変異のリスト、およびMSAに存在しない変異のリストに分けられた。両方のリストから最も良好に予測されたエネルギーを有する変異が、実験的スクリーニングのために選定された。
【0062】
Cα166/Cβ173ジスルフィド結合を含む単離されたCα/Cβ断片(
図1A)を使用して、コンピュータで選択された単一の変異体のライブラリーが生成され、2つの別々のブロックで発現された。増加した発現レベルを盲目的に使用して、スケールアップ、精製、および示差走査熱量測定による特性評価のための変異体を選択した(DSF、表1)。発現の増加はタンパク質の安定性とよく相関していた。発現に基づいてさらに評価するために選択された単一変異体の約半分は、野生型(ネイティブ)Cα/Cβタンパク質よりも安定性の有意な増加を示した(表1)。特定された7つの安定化変異体のT
mは、
図1Bに示され、野生型Cα/Cβよりも+1~+7℃の範囲である。これらの変異のうち5つは、TCRのマルチプル配列アラインメントで観察される置換であったが、T
mで最大の増加を生じた2つの変異、D155P(+7.1℃)およびS139F(+4.4℃)は、マルチプル配列アラインメントでは観察されなかった。
【0063】
次に、安定化変異は、4つの変異を有するバリアント、および7つすべての変異を含むバリアントに組み合わせられた。モデリングの結果は、各変異が互いに互換性がある可能性が高いことを示唆していた(すなわち、互いに干渉する可能性は低い)。7つの安定化変異すべてを含めると、Cα166/Cβ173ジスルフィド(「野生型」と表示)のみを有するCα/Cβサブユニットよりも発現が7倍に増加し、T
mが20℃増加した(表2、
図1C)。野生型および変異型Cα/Cβサブユニットのアセンブリを非還元SDS-PAGEゲルで調べた。ジスルフィドラダーの欠如から明らかなように、7つの変異を有するCα/Cβバリアントは、より効率的に組み立てられ、より離散的にフォールディングされかつコンパクトな構造の維持を介して、おそらく疑似グリコシル化が少ないために(以下で詳細に説明する)、より小さく/よりコンパクトであった(
図1D)。安定化バリアントについてさえ、SDS-PAGEゲル(
図1D)上で複数のバンドが明確であり、これは、Cαの3つのN-結合型グリコシル化部位とCβの単一のN-結合型グリコシル化部位の部分的なグリカン占有を反映している可能性がある。
【0064】
各変異の正確な位置は、Kabat表記による適切な番号付けの一次配列の描写とともに(Kabat、et al.Sequences of Immunological Interest Vol.1 Fifth Edition 1991 US Department of Health and Human Services,Public Health Service,NIH)
図2に示す。
【表1-1】
【表1-2】
【0065】
最後に、TCRタンパク質の潜在的な免疫原性に対する変異の影響を評価した。EpiVaxサーバーを使用して、MHC-ペプチド複合体の増加が各変異で起こりそうかどうかを調べた(De Groot,et al.,Clin Immunol,2009。131(2):189-201)。全体として、EpiMatrixスコアのわずかな増加がCαおよびCβの両方で観察された。増加が観察された場合、これらはベースラインスコアのわずかな増加である傾向があり、Epibarによって説明されているように有意なMHC結合を誘発すると予測されるレベルに達していなかった。Epibarがネイティブ配列で観察された場合、スコアに微妙な増加が見られたが、Epibarがより高いリスクカテゴリーに移行する原因となったものはほとんどなかった。懸念される外れ値には、Cα_T150Iバリアントが含まれ、このバリアントのEpiMatrixスコアは1つの9-merで大幅に上昇し、変異体にも存在する野生型Cαタンパク質の第2のペプチドにおいて強力な既存のEpiMatrixクラスターがある。野生型ペプチドを認識するTCRは、免疫の発達と耐性との間に排除される可能性がある。この変異は、安定性への最小の寄与を提供する。Cβ_E134K_H139R変異体は複数の単一ペプチドで一緒に見出され、これら2つの残基についてEpiMatrixスコアのわずかな増加が存在している。この二重変異体のために導入されたEpibarは、主に低リスクのカテゴリーにあり、高リスクのカテゴリーへの増加はない。興味深いことに、T
mの観点から最も影響力のある2つの変異体であるCβ_D155PおよびCβ_S170Dバリアントは、野生型Cα/Cβに対して、全体的なEpiMatrixスコアを低下させる。
【表2】
【0066】
7つの安定化Cα/Cβ変異の構造的特徴。
次に、Cα/Cβサブユニットの野生型および安定化型の両方を結晶化する試みが実行された。タンパク質は、結晶化の前に酵素的に脱グリコシル化された。タンパク質を用いたSDS-PAGEゲルの結果(
図1D)と一致して、安定化バージョンのみがタンパク質結晶を生成した。安定化Cα/Cβサブユニットの1.76Åの結晶構造が観察された。7つの変異体すべての側鎖が構造内で分解され、変異がタンパク質をどのように安定化させているかを示す(
図3Aおよび
図3B)。
【0067】
結晶構造およびロゼッタモデルにおいて、フェニルアラニン139(Cα S139F)が構造の部分的に埋め込まれた裂け目を埋め、Cα 129Qの側鎖と緊密な充填相互作用を形成する。特に、相互作用の配向は、水と水素結合を形成するために、グルタミンの極性基が開いたままにする。溶媒にさらされているにもかかわらず、Cβ D155Pは7つの変異の中でタンパク質の安定性に最大の影響を及ぼす。残基はプロリンの閉環と互換性のあるバックボーンねじれ角(φ=-73.4°、ψ=52.3°)を有しているため、ロゼッタエネルギー計算はプロリンに好ましい。
図3Bは、アスパラギン酸およびプロリンの両方の重複するラマチャンドランプロットを示し、Cβ 155が両方のアミノ酸の許容領域にあることを強調している。しかしながら、プロリンに変異することの1つの利点は、ラマチャンドラン空間ではプロリンはアスパラギン酸よりも制限が強いため、タンパク質がフォールディングされたときに失われるエントロピーが少なくなることである。イソロイシン150(Cα T150I)は周囲の残基と密に詰まっており、スレオニンの除去は、水素結合パートナーを伴わない、いかなる埋もれた極性基も残さない。
【0068】
Cα A190Tは、溶媒にさらされたループのターンの開始点にある。ロゼッタは、表面の溶解度を高めることに加えて、このスレオニンが、Cα 129Qへの安定化水素結合を形成すると予測した。代わりに、結晶構造は、スレオニンが異なる回転異性体を採用して、ループのターンのもう一方の端にあるバックボーン(Cα 193Nのバックボーン窒素)と水素結合を形成していることを示す。ロゼッタは、Cβ S170Dが、Cα 171Rの側鎖との界面を横切って二座水素結合を形成すると予測した。結晶構造は、Cα 171Rの主鎖窒素原子(これは以前には水素結合に関与していなかった)とのCβ S170D水素結合を示し、これは、アルギニンの側鎖がより多くの溶媒にさらされるようになることを許容する。Cβ H139Rは、Cα 124Dとの界面にまたがる水素結合を作製する。ロゼッタは、アルギニンおよびアスパラギン酸をモデル化して二座水素結合を形成したが、しかしながら、結晶構造は、アルギニンが隣接する残基とより良好に充填できるように、それらが1つの水素結合のみを形成することを示す。β鎖の残基134にある新しいリジン(Cβ E134K)は、b因子が高く、近くのいくつかの負に帯電したアミノ酸と相互作用している可能性がある。
【0069】
ロゼッタが観察された側鎖コンフォメーションを予測しなかった理由を確認するために調査を行った。1つの可能性は、ロゼッタの側鎖およびバックボーンサンプリングプロトコルが、これらのコンフォメーションをサンプリングできなかったことである。あるいは、ロゼッタはそれらをサンプリングしたが、それらはエネルギーがより高いと予測した可能性がある。これらの仮説を試験するために、安定化変異体の結晶構造からのバックボーン座標を、固定バックボーン側鎖予測シミュレーションの開始点として使用した。新しい結晶構造のバックボーンコンフォメーションは、野生型タンパク質の結晶構造に似ているが、側鎖の配置および水素結合を形成する能力に影響を与える可能性のある小さな偏差がある。これは観察されたものであり、結晶構造のバックボーンが与えられると、ロゼッタは変異体のほとんどの側鎖コンフォメーションを正しく予測した(
図3C)。この結果は、ロゼッタが結晶構造で観察された小さなバックボーン摂動をサンプリングまたは支持しなかったため、元のモデルでこれらの変異の側鎖コンフォメーションを正しく予測しなかったことを示唆している。
【0070】
全長TCRに対するCα/Cβ変異の影響。
無関係の全長の可溶性TCRの発現および安定性に対するCα/Cβ変異の影響を評価するために、1G4_122抗NY-ESO-1 TCRを新規Cα/Cβ変異がある場合とない場合とで生成した。ジスルフィドがない場合、1G4_122 TCRは哺乳動物細胞で非常に不十分に発現したが、Cα/Cβ変異があると、発現は10倍を超えて増加し、DSCで測定したT
mは8℃高くなった(表2、
図4A)。安定化Cα/Cβ変異はまた、MAGE_A3(pdb 5BRZ、NCBI:α=ABY74337.1/β=ACZ48691.1、HIV(pdb 3VXT、NCBI:α=ABB89050.1/β=ACY74607.1)、およびWT-1抗原を標的とする追加のTCRを含む4つの無関係な(および配列が多様な)α/β TCRにおけるCαT166C/CβS173Cジスルフィドの存在下でも評価された(Raman,et al.,Sci Rep,2016.6:18851、Shimizu,et al.,Sci Rep,2013.3:3097、Richman,S.A.,et al.,Mol Immunol,2009.46(5):902-16)。CαT166C/CβS173Cジスルフィドの存在下でさえ、安定化Cα/Cβサブユニットの存在下で、各TCRは力価の約3倍の増加およびDSCによる熱安定性の増加が見られた(表2、
図4B)。興味深いことに、SDS-PAGE分析および分析サイズ排除クロマトグラフィー(SEC、
図4C~4D)によって評価されるように、4つのTCRすべてがよりコンパクトであった。
【0071】
Cα/Cβ変異の存在下でのTCRのよりコンパクトな性質をさらに調査するために、水素重水素交換(HDX)分析およびグリカン占有率研究の両方を、安定化Cα/Cβ変異がある場合とない場合とで、WT-1 TCR(CE10)を有するペプチド質量マッピングを使用して実行した。Cα/Cβ変異がある場合およびない場合のCE10 TCRのHDXパターンは、Cα鎖の重要な領域を除いてほぼ同一であった(
図4E)。安定化時のCαドメインの存在下でのHDX保護は、変異の部位に局在していなかったが、C末端での保護を含め、Cαフォールドの様々な領域にさらに全体的に局在していた。野生型および安定化CE10 TCRは、酵素によるN-結合型およびO-結合型脱グリコシル化の前後のN-結合型グリカンの存在/占有についてもまた評価した。単一のN-結合型グリコシル化モチーフがVαドメインに存在し、3つがCαドメインに、1つがCβドメインに存在する。Cα/Cβの安定化は、Vα内を含むCE10 TCR内のN-結合型グリコシル化の有意な減少をもたらし、安定化Cα/Cβ変異がVα/Vβドメインも安定化することを示唆している(表3、
図4F)。安定化変異を欠くTCRにおいてはC末端ペプチドを分解できなかったため、CαのC末端でO-結合型グリコシル化が起こった可能性があった。この問題は、十分に分解されたC末端ペプチドを用いて、Cα/Cβ変異の存在下で解消された。CαのC末端領域は、様々なTCR結晶構造において様々に存在し、使用されているNY-ESO-1構造には存在しない。興味深いことに、Cβ H139R変異は、電荷-電荷相互作用、ならびにCα C末端のコンフォメーションを安定化/ロックダウンする可能性のある潜在的なπスタッキング相互作用を形成し、これはまた、HDXからの保護の増強も示す。したがって、SDS-PAGEおよびSECによってすべての安定化TCRについて観察された流体力学的半径の普遍的な減少は、グリコシル化の低下として確認された。
【0072】
次に、TCRが可変ドメイン変異に耐えることを可能にするCα/Cβ変異の能力を評価した。ロゼッタを使用して、VαドメインおよびVβドメインの両方において限られた数の変異を選択した。最終的に、1つ(βN66E)は安定であり、複数の変異は中性であり、1つは野生型1G4_122抗NY-ESO-1 TCR内で有意に不安定(βS49A)であった(
図5A)。VαおよびVβ変異が組み合わされ、TCRバリアントのこの小さなライブラリーは、Cα/Cβ安定化変異の非存在下および存在下で発現した。Cα/Cβ変異の非存在下での1G4_122 TCRについてのDSFにより、広範囲のT
mが観察されたが、Cα/Cβ変異が存在する場合、1G4_122バリアントの安定性は実質的に一定であった(
図5B~5C)。上記のTCRで観察されたように、1G4_122バリアントのライブラリー全体が、存在するCα/Cβ変異に伴って約3倍の力価の増加を達成した(
図5D)。興味深いことに、1G4_122バリアントのT
mは49~65℃の範囲であったが、Cα/Cβ安定化ライブラリーはすべてT
mが62℃付近に高度にクラスター化しており(
図5E)、可変ドメインの不安定性に影響されなかった。これらの結果は、Cα/Cβ変異が、低い固有の安定性を有するTCRの発現および安定性をレスキューする可能性があることを示唆している。
【表3】
【0073】
T細胞を標的腫瘍細胞に再方向付けするための、十分に組み立てられた可溶性TCR/CD3二重特異性の産生におけるCα/Cβ変異の有用性。
α/β TCRを安定化することの主な利点は、可能にすることができる新しい形態の二重特異性である。第一世代のTCR二重特異性は、可溶性α/β TCRの特異性をImmTacフォーマットの抗CD3 scFvと組み合わせる(Liddy,et al.,Nat Med,2012。18(6):980-7)。このフォーマットは、絶妙な再方向付けされた溶解効力を可能にするが、しかしながら、低収量の細菌発現および再フォールディング、ならびにこのフォーマットの迅速な血清クリアランスは、インビボ投与を困難にする。Cα/Cβ変異によってもたらされる哺乳動物細胞におけるα/β TCRの発現の有意な増加および適切なフォールディングによって、薬物動態(PK)が強化された部分、ならびに腫瘍細胞への結合力を含む新しい二重特異性フォーマットがアクセス可能であるはずである。
【0074】
IgG様およびタンデムFab様二重特異性抗体(BsAb)が生成された(
図6A)。BsAbは、HLA-A2/NY-ESO-1ペプチド複合体に結合する1G4_122α/β TCRを利用し、高親和性(1nM)で結合するように操作されている(Li,Y.,et al.,Nat Biotechnol,2005.23(3):349-54)。IgG様フォーマットでは、適切な重鎖アセンブリを達成するために一組の抗体Fcヘテロ二量体化変異を必要とする2本の重鎖の発現が必要である。以前に公開された7.8.60ヘテロダイマー変異が選択された(Leaver-Fay,et al.,Structure,2016.24(4):641-651)。TCR/CD3 IgG様BsAbは、Cα/Cβ変異のある場合とない場合とで発現させた。可溶性TCRを用いて観察されたように、安定化Cα/Cβ変異を含むTCR/CD3 IgG様BsAbは、Cα/Cβ変異を欠く構築物よりも2倍を超えて高く発現した。安定化変異を欠くIgG様BsAbタンパク質はまた、TCR/CD3 BsAbおよび抗CD3半抗体の混合物であることも見出された。抗CD3半抗体は、IgG-Fc親和性精製後の分析SECにより、低分子量(LMW)ピークとして観察された(
図6B~6C)。安定化Cα/Cβ変異を有するIgG様BsAbおよびタンデムFab様BsAbは、単一の親和性クロマトグラフィーステップ後のプロファイルに基づいて、細胞培養から直接得られる>90%の単分散(すなわち純粋)タンパク質として分泌された(
図6B~6C)。
【0075】
次に、TCR/CD3 IgG様BsAbの薬物動態(PK)特性をマウスで評価した(タンデムFab様BsAbは試験しなかった)。残留グリコシル化は、アシアログリカン受容体に結合することにより、TCR/CD3部分の全身(特に肝臓)への取り込みをもたらす可能性がある(Sethuraman,et al.,Curr Opin Biotechnol,2006.17(4):341-6、Lepenies,et al.,Adv Drug Deliv Rev,2013.65(9):1271-81)。以前は、安定化されていないCα/Cβを含む同様の構築物が実質的なα相クリアランスを示した。これは、アシアログリカン受容体の取り込みが原因である可能性がある(Wu,et al.,MAbs,2015.7(2):p.364-376)。本明細書に記載のCα/Cβ変異は、可溶性TCRのグリコシル化レベルを大幅に低下させるため、変異がPK特性の改善をもたらす可能性がある。対照として、Cαドメイン内のN-結合型グリコシル化部位が以前に記載されたように変異した第2のIgG BsAbが生成された(Wu,et al.,MAbs,2015.7(2):p.364-76)。興味深いことに、安定化されていないCα/Cβサブユニット内でN-結合型グリコシル化部位が排除された場合、発現は1桁より多く減少した(Wu,et al.,MAbs,2015.7(2):p.364-76)。安定化Cα/Cβ構築物のN-結合型グリコシル化部位のノックアウトは、発現に影響を与えなかった(
図7A)。安定化および安定化/アグリコシルTCR/CD3 IgG様BsAbの両方を、BALB/cマウスへの静脈内注射によってそれらのPKについて評価した(
図7B)。IgG様BsAbは、フィットに含まれる時点に応じて、約3~8日のβ半減期を有するBalb-cマウスにおいてほぼ同一のPKを示した。Fc-部分(moeity)は明らかに長い抗体様血清半減期をもたらし、残留TCRグリコシル化の存在は、クリアランスに何ら大きな影響を与えない。このPKは、ImmTacで予想されるよりもはるかに良好である。1週間の時点で、TCR/CD3 IgG様BsAbの両方の分子濃度の非線形低下が観察された。濃度の低下は10日でより劇的になり、14日までにBsAbレベルは検出レベルを大幅に下回った(
図7B)。血清はマウス抗薬物抗体(ADA)の存在について試験され、7日目で低レベルが観察され、これは10日目および14日目で大幅に増加し、おそらく7日で始まるクリアランスの加速を説明している。早期発症ADAの背後にある理由は明らかではない。
【0076】
次に、TCR/CD3 BsAbは、それらの機能について評価した。フローサイトメトリーは、CD3結合を評価するためにJurkat細胞を使用して実行され、HLA-A2/ペプチド結合を評価するために624.38およびSaos-2腫瘍細胞を使用して実行された。IgG様およびタンデムFab様BsAbの両方が、CD3およびHLA-A2/ペプチド細胞抗原の両方に結合することができた(
図6D)。両方のBsAbは、結合力の喪失により、二価の抗CD3抗体と比較してJurkat細胞への結合力の10~30分の1の減少を示した。タンデムFab様BsAbは、IgG様BsAbと比較して、2つの別々のHLA-A2+腫瘍細胞にわずかに良好に結合するように見えた。IgG様BsAbで観察された腫瘍細胞への結合が弱いことを考えると、IgG BsAbの2つのより高い効力のTCR(Li,et al.,Nat.Biotechnol,2005,23(3):349-54)バージョンが生成されて、効力の喪失を相殺した(
図7A)。1G4_107 TCRバリアントは、フローサイトメトリーにより、1G4_122バリアントよりも腫瘍細胞への結合力の改善を示した(
図6D)。
【0077】
次に、BsAbは、刺激されていない初代T細胞の存在下でペプチド標識腫瘍細胞に滴定された。腫瘍細胞の再方向付けされた弱いT細胞がIgG BsAbのSaos-2細胞株(
図6E)で観察された。HLA/ペプチド複合体に対する効力を増加させても、弱い活性は改善されなかった(
図6E)。タンデムFab BsAbは、T細胞を強力に再方向付けしてSaos-2細胞を殺傷した。
【0078】
本明細書に提示されたデータに基づくと、新規のCα/Cβ変異は、安定性の低い可変ドメインを有するものを含む、ほとんどの組換えTCRの発現および安定性を改善する可能性がある。封入体での従来の細菌生産方法と比較して、可溶化、再フォールディング、および精製が続き(Wilson,Curr Opin Struct Biol,1997.7(6):839-48)、本明細書に記載の完全に組み立てられた/酸化されたTCRの哺乳動物の発現/分泌は、それらの生産の容易さを劇的に増加させるはずである。安定化変異は、安定化ジスルフィド結合の有無にかかわらず、抗体のような発現レベルをもたらし(Boulter,et al.,Protein Eng.,2003.16(9):p.707-11)、-単独ではジスルフィド結合によって提供されない成果であった。この発現の増加は、様々なTCR/抗体二機能性分子の強力な生産を可能にする。興味深い可能性のある応用は、初代T細胞内でトランスジェニックに誘導された全長TCR内に安定化変異を含めることである。鎖の会合および発現の困難さは、ジスルフィド結合の導入、α/β鎖の発現の順序、または膜貫通領域での疎水性物質の導入によってわずかな改善が見られた(Jin,et al.,JCI Insight,2018.3(8)、Scholten,et al.,Cell Oncol,2010.32(1-2):43-56)。本明細書に記載のCα/Cβ変異が一般的に細胞ベースの治療アプローチの細胞表面TCR発現を改善するかどうかを理解することは興味深い。
【0079】
安定化TCRはまた、安定化されていない対応物と比較して、全体的なグリコシル化(可変ドメインおよび定常ドメインの両方)の低下も示した。グリコシル化は、抗体Fc、および特定の場合には抗体Fab部分を含む多くの異なるタンパク質を自然に安定化および可溶化することができる(Zhou,J Pharm Sci,2019.108(4):1366-1377)。糖鎖工学は、タンパク質を安定化させたり、凝集/誤ったフォールディングの傾向を減らしたり、または溶解性を改善したりするためのアプローチとしても使用されている(Zhou,J Pharm Sci,2019).108(4):1366-1377)。Cαのグリコシル化が失われると、Cα/Cβサブユニットを含むIgG様タンパク質の発現が劇的に減少することが示された(Wu,et al.,MAbs,2015.7(2):364-76)。したがって、安定化変異がTCR全体を通して部位あたり約50%N-結合型グリコシル化を有意に減少させたことを見出すことは驚くべきことである。CαのC末端での推定上のO-結合型グリコシル化も、安定化形では存在しなかった。相互作用を安定化すると、フォールディング/フォールディングタンパク質内のこれらの部位のコンフォメーション変動が減少し、標準的なN結合型モチーフおよびO結合型部位を装飾する酵素のアクセスが減少すると仮定される。これには、Vα内のN結合型部位が含まれ、Cα/Cβ変異が一般にTCR全体を安定化させるというさらなる証拠を提供する。さらに、変異を介したCα上のN-結合型グリカンの完全な除去は、安定化構築物内のタンパク質発現に影響を与えなかった。
【0080】
T細胞を腫瘍細胞を溶解するように再方向付けするTCR/CD3 BsAbの能力には、明確な幾何学的制約が存在する。このような制約は、二重特異性抗体の再方向付けについて以前に実証されている(Bluemel,et al.,Cancer Immunol Immunother,2010.59(8):1197-209、 Wu,et al.,MAbs,2015.7(2):364-76、Li,et al.,Cancer Cell,2017.31(3):383-395)。TCRベースの治療法について同様のデータは何ら示されていない。可溶性TCRおよび抗CD3 Fabサブユニットのフレキシビリティーおよび間隔は、同一の可溶性TCRおよび抗CD3アームを含むIgG様およびタンデムFab様BsAb間の全体的な活性および効力の実質的な違いを考慮すると、高い再方向付け溶解効力を達成するために重要であるようである。抗原および/または二重特異性構築物のサイズおよび免疫シナプス内に適合するそれらの能力に関する多くの議論が提起されている(Davis et al.,Nat.Immunol,2006,7(8):803-9)。しかしながら、T細胞の非存在下では、IgG様およびタンデムFab様のBsAbフォーマット間で腫瘍細胞への結合に違いが観察され、サイズ/免疫シナプスの解釈が複雑になる。これらのBsAbの場合、各細胞型への個々の結合特性がより大きな役割を果たす可能性がある。全体として、安定化Cα/Cβ変異によってもたらされる重要な利点は、可溶性TCRベースの治療だけでなく、細胞ベースの治療の一部としてTCRを使用するシステムを含む細胞システムにおける組換えα/β TCR発現を改善するためにも価値がある可能性がある。
【0081】
材料および方法
分子生物学
NY-ESO-1 1G4_122可溶性TCR、および個々のNY-ESO-1Vα/VβおよびCα/Cβサブユニットは、もともとgBlocks(Integrated DNA Technologies,IDT)を使用して生成され、リコンビナーゼクローニングを使用して(In-Fusion,Clontech)、哺乳動物発現ベクター(Lonza)にサブクローニングした。1G4_122、107、および113の配列は、2F53結晶構造を使用して導出した(Dunn,et al.,Protein Sci,2006.15(4):710-21)および他の場所で説明されているCDR(Li,et al.,Nat Biotechnol,2005.23(3):349-54)。マウスカッパ軽鎖リーダー配列を使用して各タンパク質の分泌を促進し、8xHisタグをα鎖のN末端に組換え的に添加した。DNA配列は、IDTに最適化されたコドンアルゴリズムを使用して導出した。
【0082】
単一変異体ライブラリーは、部位特異的変異誘発プロトコルを使用して作成した。簡単に説明すると、このプロトコルでは、スーパーコイル状の二本鎖DNAベクターと、所望の変異を含む2つの合成オリゴヌクレオチドプライマー(IDTで生成)を使用する。ベクターの反対側の鎖にそれぞれ相補的なオリゴヌクレオチドプライマーは、DNAポリメラーゼ(HotStar HiFidelity Kit,Qiagen)によって熱サイクリング中に伸長され、まったく新しい変異プラスミドを生成する。温度サイクル後、生成物をDpn I酵素で処理して、E.coli(New England BioLabs)を使用して調製したメチル化された非変異プラスミドを除去する。次に、新しく生成された各変異プラスミドは、トップ10のE.coliコンピテントセル(Life Technologies)に形質転換される。コロニーを選定し、培養し、ミニプレップし(Qiagen)、配列を確認した。変異体の組み合わせは、一般的にgBlockとして合成した。
【0083】
TCR/CD3構築物は、各断片のオーバーラップPCRおよびリコンビナーゼクローニングを使用して作成された。キメラSP-34抗CD3重鎖および軽鎖配列は以前に公開されていた(Wu,et al.,MAbs,2015.7(2):364-76)。
【0084】
タンパク質の発現および精製
以前に記載されているように、24ウェルプレート(1mLスケール)または個々のフラスコ(100~200mLスケール)のいずれかで一過性発現のためにα/β構築物をコトランスフェクトした(Rajendra,et al.,Biotechnol Prog,2017.33(2):469-477)。以前に記載されたように、精製のために上清を回収した(Lewis,et al.,Nat Biotechnol,2014.32(2):191-8、Froning、et al.,Protein Sci,2017.26(10):2021-2038)。TCRおよびTCR断片の小規模発現は、Octet RED384システム上でのNi2+-NTAチップ(Pall Forte Bio)の読み取りを使用して定量化された。TCR/TCR断片Hisタグタンパク質は、Ni2+固定化レジン(cOmplete(商標)His-Tag,Millipore Sigma)およびAKTA Pureシステム(GE Healthcare)を使用して精製した。カラムは、少なくとも5カラム容量の結合バッファー(20mM Tris-HCl pH8.0、0.5M NaCl)を用いて、1mLカラムの場合は1mL/分、5mLカラムの場合は5mL/分の流速でそれぞれ平衡化した。CHO発現上清をカラムに通してHisタグ化TCRまたはTCR断片を捕捉した後、TCRタンパク質を10カラム容量の溶出バッファー(20mM Tris-HCl pH8.0、0.5M NaCl、250mMイミダゾール)を用いて溶出した。イミダゾールは、タンパク質を分取サイズ排除カラム(SRT-10C SEC300)に通すか、10,000MWカットオフのVIVASPIN6濃縮器を使用してpH7.2~7.4のリン酸緩衝生理食塩水(PBS)に対して透析することにより除去された。IgG-Fc含有タンパク質は、mAbSureレジン(GE Healthcare)および分取サイズ排除を使用して精製した。ドデシル硫酸ナトリウムポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS-PAGE)は、製造元(Life Technologies)に従って4~12%のBis Trisゲルを使用して実施した。還元およびアルキル化は、1mM ジチオスレイトール(DTT)および1mM N-エチルマレイミド(NEM)を使用して実行した。
【0085】
示差走査熱量測定および熱量測定(DSFおよびDSC)。
タンパク質のアンフォールディングは、SYPRO Orange色素(Invitrogen,S6651)を使用してLightcycler 480II RT PCRマシン(Roche)上でモニターした。励起フィルターおよび発光フィルターは、それぞれ465nmおよび580nmに設定した。温度は1℃/sの速度で25℃から95℃まで上昇した。タンパク質のストック溶液をランニングバッファー中(1×PBS pH7.4)に保存した。
【0086】
最終的なアッセイ条件は、0.2mg/mLのタンパク質およびランニングバッファー中500倍のSypro希釈であった。実験は、タンパク質を0.4mg/mlに希釈すること、Syproを250倍に希釈すること、次いで96ウェルプレートで希釈したタンパク質とSyproを等量部で組み合わせることによって行った(最終容量:ウェルあたり30μL)。サンプルは、384マルチウェルアッセイプレート(Roche、04-729-749-001)上、6μLのトリプリケートに分割された。
【0087】
各タンパク質の熱アンフォールディング(Tm)中点の決定は、一次導関数を使用してLightCycler Thermal Shift Analysis Software(Roche)で実行された。分析ソフトウェアは生の蛍光データを平滑化し、Tmは、蛍光の上昇勾配が温度に対して最も急になる温度(すなわち、融解曲線の一次導関数が最大になる温度)を決定することによって収集した。
【0088】
DSCデータは、以前に記載されたように収集および分析された(Dong et al.,J Biol Chem,2011.286(6):4703-17)。
【0089】
ロゼッタエネルギー予測。
PDBコード2F53のTCR結晶構造を使用して、A-C鎖を除去して、アルファ鎖およびベータ鎖のみを残した。残りの構造は、ロゼッタのFastRelaxプロトコルを使用して、すべての残基のCA原子に座標制約(バックボーン原子が開始位置から外れると成長するエネルギーペナルティ)を使用して緩和された(Conway et al.,Protein Sci,2014.23(1):47-55)。FastRelaxプロトコルを使用して、考えられるすべての変異(システインへの変異を除く)もシミュレートした。FastRelaxは、2つのサブプロトコルで構成されている。(1)固定バックボーン回転異性体置換(すなわち、側鎖コンフォメーションサンプリング)および(2)バックボーンおよび側鎖ねじれ角の全原子最小化である。最初のサブプロトコルは、残基位置ごとに回転異性体ライブラリーを生成し、ユーザーが許可した位置で回転異性体を確率的にサンプリングする。このサンプリングが何度も繰り返された後(数十万)、回転子の最低エネルギーの組み合わせがタンパク質に割り当てられる。第2のサブプロトコルは、勾配ベースのねじれ角の最小化を使用して、構造をロゼッタエネルギー地形の極小値に緩和する。この研究では、エネルギー関数REF2015を使用した(Park,J Chem Theory Comput,2016、12(12):6201-6212、O’Meara、et al.,J Chem Theory Comput,2015.11(2):609-22)。ロゼッタエネルギー予測でノイズを防ぐために、特定の考慮事項が作成された。FastRelaxの最初のサブプロトコルでは、変異から10Å以内の残基のみを使用して、代替の側鎖コンフォメーションをサンプリングした。バックボーンが開始構造から大きく変化するのを防ぐために、第2のサブプロトコルのすべての残基位置に座標制約が追加された。FastRelaxが完了した後、座標制約なしで全原子最小化の最後の実行が1回実行され、タンパク質がその局所的な、制約のないエネルギー最小値にリラックスできるようにする。可能性があるすべての変異に対して10個の独立した軌道が実行され、その変異の代表的なスコアとして、スコアが最も低い3つの軌道の平均スコアが使用された。ロゼッタバージョンのバージョン識別子(git sha1)は、2017年6月4日にリリースされた360d0b3a2bc3d9e08489bb9c292d85681bbc0cbdであった。
【0090】
マルチプル配列アラインメント。
39のCA配列および53のCB配列のリストは、様々な生物からのTCR配列のマルチプル配列アラインメント(MSA)を手動で監督することによって評価された。非冗長タンパク質配列のNCBIデータベース(データベース内の169,859,411配列)を使用して、2F53構造のCA鎖およびCB鎖の配列をBLASTに渡すことにより、TCR類似配列の2つのリストを作成した。両方のリストは、TCRであるとは思われない配列を手動で削除した。ロゼッタによって安定化すると見なされた変異のリストは、2つのリストに分割された:(1)MSAに存在する変異と(2)MSAに存在しない変異である。実験的試験のために、リスト1から30の変異が選択され、リスト2から25の変異が選択された。選考の決定は主にロゼッタスコアによって行われたが、多様性を高めるために一部の候補者は削除された。変異を2つのリストに分割することにより、ロゼッタによって下位層と見なされた変異は、T細胞受容体構造と互換性があることが示されている場合に促進できる。
【0091】
Cα/Cβ変異体の組み合わせのモデリング。
最高のパフォーマンスの点変異が実験的に決定された後、ロゼッタシミュレーションを実行して、各変異が他のすべての変異と互換性があることを確認した。各変異は、事前に緩和された2F53構造に別々に適用され、固定バックボーン側鎖の再充填を実行した。同じシミュレーションが変異のすべての対で実施され、ペアのロゼッタエネルギーが個々の変異のエネルギーの合計と異ならないことを確認した。
【0092】
タンパク質の結晶化。
精製されたタンパク質は、シッティングドロップ蒸気拡散法を使用して8℃で結晶化された。結晶は、15mg/mLの1部のタンパク質溶液(10mM Tris-HCl pH7.5、および150mM 塩化ナトリウム)を、23%PEG 4K、300mM 硫酸マグネシウム、および10%グリセロールを含む1部のリザーバー溶液と混合することによって得られた。液滴に、15% PEG3350および100mM ギ酸マグネシウムから成長した粉砕結晶を播種した。1週間以内に単一の板状結晶が観察された。これらを15%グリセロールを含む一滴のリザーバー溶液に収集し、液体窒素で瞬間冷凍した。
【0093】
X線データ収集および構造決定。
シンクロトロンX線回折データは、Advanced Photon Source on beamline 31-ID-D(LRL-CAT)の単結晶で収集された。得られたデータは、autoPROCを使用して統合され(Vonrhein,et al.,Acta Crystallogr D Biol Crystallogr,2011.67(Pt 4):293-302)、SCALAとマージおよびスケーリングされた(Evans,Acta Crystallogr D Biol Crystallogr,2011.67(Pt 4):282-92)。この構造は、Phaserによる分子置換によって分解され(McCoy,et al.,J Appl Crystallogr,2007.40(Pt 4):658-674)、以前に分解されたTCR-pMHC複合体(Protein Databankアクセッションコード2F53)のTCR定常ドメインを検索モデルとして使用する(Dunn,et al.,Protein Sci,2006.15(4):710-21)。COOT(Emsley,et al.,Acta Crystallogr D Biol Crystallogr,2010. 66(Pt 4):486-501)およびREFMAC5(Murshudov,et al.,Acta Crystallogr D Biol Crystallogr,2011.67(Pt 4):p.355-67)を使用して、CCP4ソフトウェアパッケージに実装されているように(Winn,et al.,Acta Crystallogr D Biol Crystallogr,2011.67(Pt 4):235-42)、モデルの構築および改良を数回実施した。最終モデルはMolProbityを用いて検証された(Williams,et al.,Protein Sci,2018.27(1):293-315)。追加のデータ収集および改良の詳細は、表4および表5に記載されている。
【表4】
【表5】
【0094】
ペプチドマッピング。
野生型および安定化CE10 TCRは、分析のために変性、還元、システインアルキル化、および消化された。簡単に説明すると、100μgのTCRバリアントを6Mグアニジンで変性させた後、10mM ジチオスレイトールで37℃にて30分間還元した。次に、15mM ヨードアセトアミドを添加し、暗所で45分間反応を進行させた。次に、スピンフィルターを使用して、各サンプルを10mM TRIS、pH7.5にバッファー交換した。5μgのトリプシンを還元/アルキル化サンプルに添加し、37℃にて4時間インキュベートした。トリプシン処理したサンプルを2つの等量部に分けた。最初のサンプルは、1μLのPNGaseF(ProZyme)および5uLの10x消化バッファーを加えること、および室温で一晩インキュベートすることにより脱グリコシル化され、一方第2のサンプルは未処理のままにされた。
【0095】
グリカンの占有率を決定するために、PNGase Fで処理したトリプシン消化物および未処理のトリプシン消化物のアリコートを、ペプチドマッピングおよび質量アラインメントのためにAgilent 5210 QTOF質量分析計に接続したAgilent 1290 UPLCに注入した。簡単に説明すると、5μgのTCR消化物をWaters 150mm×2.1mm 1.7μm C18 CSH UPLCカラムに注入し、2%B(アセトニトリル中の0.1%ギ酸)から35%Bまで30分かけてグラジエント分離した。溶出ペプチドは、質量分析のために質量分析計に注入され、スキャン範囲は200~2000m/z、ソース温度は350℃、キャピラリー電圧は4kV、フラグメンターは250V、キャピラリー出口は75V、ソースガス40はPSI、およびコーンガスは12PSIであった。ペプチドの質量スペクトルは、Mass Hunter/Bioconfirm 7.0ソフトウェアによって5ppmの質量精度でタンパク質配列にアラインメントされ、90%を超える配列カバレッジが得られた。グリカンの占有率を測定するために、変数の改変としてAsnの脱アミド化を追加し、5ppmの質量精度で抽出イオンクロマトグラム(EIC)によって、予測される各グリカンを手動でチェックした。Asn対Aspの比率は、EICを使用して計算され、グリカン占有パーセントとして報告されたが、酵素的脱グリコシル化はAsnをAspに変換するため、Asnは占有されておらず、Aspは占有されている。
【0096】
質量分析(HDX-MS)と組み合わせた水素/重水素交換。
HDX-MS実験は、HDXテクノロジーを用いるWaters nanoACQUITYシステム上で実行され(Wales,et al.,Anal Chem,2008.80(17):6815-20)、これはLEAP HDXロボット液体処理システムを含む。重水素交換実験は、0.1×PBSを含む55μLのD2Oバッファーを5μlの各タンパク質(濃度は25μM)に15℃で様々な時間(0秒、10秒、1分、10分、60分、および240分)加えることによって開始した。等量の0.32M TCEP、0.1Mリン酸塩pH2.5を使用して、1℃で2分間反応を停止させた。移動相として水中0.2%のギ酸を使用して、100μL/分の流速で4分間、14℃で50μLのクエンチした反応物をオンラインペプシンカラム(Waters BEH Enzymate)に注入した。次いで、得られた消化性ペプチドを、50μL/分の流速で10分間にわたって、3~85%のアセトニトリル(0.2%のギ酸を含有する)勾配を使用して、Vanguardトラップカラムを備えるC18カラム(Waters,Acquity UPLC BEH C18,1.7μm,1.0mm×50mm)で分離する。分離されたペプチドは、Waters Xevo G2飛行時間型(qTOF)質量分析計に送られる。質量分析計は、m/z 255.00~1950.00の質量取得範囲において、スキャン時間0.5秒で、MSE、ESI+モードでデータを収集するように設定されている。Xevo G2は、使用前にGlu-フィブリノペプチドで較正されている。すべての取得データは、50% ACN、50% H2O、および0.1% FA中のLeuEnkの2μg/ml溶液を使用して、30秒ごとに5μl/分の流量で質量補正される(m/zは556.2771)。ペプチドは最初に、Waters Protein Lynx Global Server 3.02によって同定される。処理パラメータは、100.0カウントの低エネルギー閾値、50.0カウントの高エネルギー閾値、および1500.0カウントの強度閾値に設定されている。得られたペプチドのリストは、Waters DynamX 3.0ソフトウェアにインポートされ、閾値は5ppmの質量誤差であり、ペプチド長に基づくペプチドあたりの断片イオンは20%であった。各ペプチドの相対的な重水素取り込みは、DynamX3.0(Waters Corporation)の非重水素化対照とともに重水素化サンプルのMSデータを処理することによって決定される。
【0097】
薬物動態測定。
TCR/CD3 IgG様BsAbsの薬物動態測定は、以前に記載されたように実行された(Lewis,et al.,Nat Biotechnol,2014.32(2):191-8)。BsAbに対する抗薬物抗体がマウスにおいて生成されているかどうかを評価するために、50mM 炭酸ナトリウム、pH9.3中の2μg/mL BsAbで4℃にて一晩、High Bind Uウェル96ウェルプレート(Greiner Microlon)をコーティングすることによりELISAを実施した。プレートをPBS+0.1% Tween20(PBST)で洗浄し、室温(RT)でPBS(Thermo Scientific)中のBlocker(商標)カゼインで1時間ブロックし、PBSTで洗浄した。PBS中のBlocker(商標)カゼインの1:3段階希釈で1:50から開始するマウス血漿希釈液を、室温で1時間プレートに添加した。プレートをPBSTで洗浄し、1:1000ヤギ抗マウスカッパ-APポリクローナル(Southern Biotech Cat#1050-04):Blocker(商標)カゼイン一次抗体を添加し、1時間インキュベートした。検出試薬を洗い流した後、PNPP基質(Thermo Scientific)を添加した。比色読み取りは、SpectraMax190プレートリーダーで450nmの吸光度を読み取ることによって実行した。
【0098】
T細胞再方向付け溶解アッセイ。
Saos-2細胞はATCCからのものであり、624.38細胞はNCI/NIH DTP、DCTD腫瘍リポジトリからのものであり、両方ともComplete Media(RPMI 1640、Corning)中で培養された。初代ナイーブT細胞は、ALLCELLSからのものであった。アッセイでは、Accutaseを使用して腫瘍細胞を培養フラスコから取り出し、1200RPMで10分間スピンダウンした。腫瘍細胞をComplete Mediaに再懸濁し、96ウェルの黒色の透明なボトムプレート(Perkin Elmer)に5000細胞/ウェルで播種し、5%CO2インキュベーター中で16~24時間インキュベートした。次に、細胞に6μg/mLのSLLMWITQC(NY-ESO-1)ペプチド(CPC Scientificによって合成)、総量50μLを3時間パルスした。次に、TCR/CD3二官能性物質を、100nMで開始し、0.001nMで終了する10倍希釈液を3回(50μL/サンプル)で30分間使用して、細胞に滴定した。この期間中、初代T細胞を解凍し、完全培地およびゲンタマイシンで2回洗浄した。次に、T細胞(100μL)を50K細胞/ウェル(総量200mL)で添加した。細胞を5% CO2および37℃で48時間インキュベートした。48時間後、プレートを無血清RPMI 1640で穏やかに(2回)洗浄した。次に、100μLのRPMI 1640および100μLのCell Titer Glo試薬(Promega)を添加し、シェーカーで2分間混合し(ゆっくりと)、暗所で10分間インキュベートした。最後に、発光をEnVision2130マルチラベルリーダーで読み取った。
【0099】
フローサイトメトリー。
上記のように細胞培養を行った。フローサイトメトリーを実行する前日に、T25フラスコにJurkat、Saos-2、または624.38細胞を増殖バッファー(RPMI/10%ウシ胎児血清(FBS)/ゲンタマイシン-Gibco)に播種した。腫瘍細胞については、翌朝、細胞を増殖バッファーで1回洗浄した。ペプチドを腫瘍細胞に(すなわち陰性対照としてではなく)6μg/mLで37℃、5% CO2で3時間添加した。次に、過剰なペプチドを吸引除去し、細胞をPBSバッファーで3回洗浄した。その後のすべてのステップは氷上で実行した。Accutase(Innovative Technologies)を使用して、腫瘍細胞をT25フラスコから持ち上げた。ジャーカット細胞は浮遊状態で増殖する。細胞を遠心分離管に移し、1200RPMで7分間の遠心分離によりペレット化した。以降、「洗浄バッファー」はPBS/2%FBS/0.05%NaN3であった。「ブロッキングバッファー」は、10%正常ヤギ血清/10%FBS/ヒトBD Fcブロック(BD)を添加した洗浄バッファーであった。細胞をブロックバッファーに15分間再懸濁し、ペレット化し、3回洗浄し、ブロックバッファーに再懸濁してから、50μLの細胞(0.2×106)を96ウェルプレート(Corning 3799)に添加した。TCR/CD3二官能性および対照mAbを30、3、0.3、および0.03μg/mLでウェルに添加し、45分間インキュベートした。細胞をペレット化し、洗浄し、上清を再度吸引した後、100μLの希釈R-フィコエリトリン結合AffiniPureヤギ抗ヒトIgG-Fc(ジャクソン)または抗ヒトラムダLC(ジャクソン)をブロックバッファー中で45分間添加した。細胞をペレット化し、再度洗浄した。最後に、細胞を1:1000 PI(Molecular Probes)を含むブロックバッファーに再懸濁し、ホイルで覆った。次に、Divaソフトウェア(BD)で取得したFortessa H647780000006フローサイトメーターで細胞を選別し、FloJoバージョン10.0.08を使用してデータを分析した。
【0100】
データの可用性
TCR定常ドメイン構造の座標、および対応する構造因子は、アクセッションコード6U07でProtein Data Bank(http://www.rcsb.org)に寄託されている。
本発明の様々な実施形態を以下に示す。
1.タンパク質であって、
以下の残基:139位のフェニルアラニン、150位のイソロイシン、190位のスレオニン(Kabat番号付けに従って番号付けされた残基)のうちの少なくとも1つを含むT細胞受容体(TCR)アルファ定常ドメイン(Cα)を含む第1のポリペプチド、および/または
以下の残基:134位のリジン、139位のアルギニン、155位のプロリン、170位のアスパラギン酸もしくはグルタミン酸(Kabat番号付けに従って番号付けされた残基)のうちの少なくとも1つを含むTCRベータ定常ドメイン(Cβ)を含む第2のポリペプチドを含む、タンパク質。
2.前記第1のポリペプチドが、以下の残基:139位のフェニルアラニン、150位のイソロイシン、190位のスレオニン(Kabat番号付けに従って番号付けされた残基)のうちの少なくとも1つを含むCαを含み、
前記第2のポリペプチドが、以下の残基:134位のリジン、139位のアルギニン、155位のプロリン、170位のアスパラギン酸またはグルタミン酸(Kabat番号付けに従って番号付けされた残基)のうちの少なくとも1つを含むCβを含む、上記1に記載のタンパク質。
3.前記第1のポリペプチドが、以下の残基:139位のフェニルアラニン、150位のイソロイシン、190位のスレオニン(Kabat番号付けに従って番号付けされた残基)を含むCαドメインを含み、
前記第2のポリペプチドが、以下の残基:134位のリジン、139位のアルギニン、155位のプロリン、170位のアスパラギン酸(Kabat番号付けに従って番号付けされた残基)を含むCβドメインを含む、上記1または2に記載のタンパク質。
4.前記第1のポリペプチドが、以下の残基:139位のフェニルアラニンおよび190位のスレオニン(Kabat番号付けに従って番号付けされた残基)を含むCαドメインを含み、
前記第2のポリペプチドが、以下の残基:134位のリジン、139位のアルギニン、155位のプロリン、170位のアスパラギン酸(Kabat番号付けに従って番号付けされた残基)を含むCβドメインを含む、上記1または2に記載のタンパク質。
5.前記第1のポリペプチドが、鎖間ジスルフィド結合によって前記第2のポリペプチドに連結されている、上記1~4のいずれかに記載のタンパク質。
6.前記Cαドメインが、166位のシステイン残基(Kabat番号付けに従って番号付けされた残基)をさらに含み、
前記Cβドメインが、173位のシステイン残基(Kabat番号付けに従って番号付けされた残基)をさらに含み、
前記第1のポリペプチドおよび前記第2のポリペプチドが、Cαの前記166位のシステイン残基とCβの前記173位のシステイン残基との間の鎖間ジスルフィド結合によって連結されている、上記1~5のいずれかに記載のタンパク質。
7.前記Cαドメインが、配列番号5を含み、
前記Cβドメインが、配列番号7を含む、上記1~5のいずれかに記載のタンパク質。
8.前記Cαドメインが、配列番号5からなり、
前記Cβドメインが、配列番号7からなる、上記1~5のいずれかに記載のタンパク質。
9.前記Cαドメインが、配列番号6を含み、
前記Cβドメインが、配列番号8を含む、上記1~6のいずれかに記載のタンパク質。
10.前記Cαドメインが、配列番号6からなり、
前記Cβドメインが、配列番号8からなる、上記1~6のいずれかに記載のタンパク質。
11.前記第1のポリペプチドが、TCRアルファ可変ドメイン(Vα)をさらに含み、
前記第2のポリペプチドが、TCRベータ可変ドメイン(Vβ)をさらに含み、
前記VαおよびVβが、抗原に結合する抗原結合ドメインを形成する、上記1~10のいずれかに記載のタンパク質。
12.前記Vαが、CαのN末端に融合しており、
前記Vβが、CβのN末端に融合している、上記11に記載のタンパク質。
13.前記抗原が、腫瘍抗原またはウイルス抗原である、上記11に記載のタンパク質。
14.前記タンパク質が、第2の抗原結合ドメインをさらに含む、上記1~13のいずれかに記載のタンパク質。
15.前記第2の抗原結合ドメインが、T細胞表面上の抗原に結合する、上記14に記載のタンパク質。
16.前記第2の抗原結合ドメインが、CD3に結合する、上記14に記載のタンパク質。
17.前記第2の抗原結合ドメインが、scFv、Fab、Fab’、(Fab’)
2
、単一ドメイン抗体、またはラクダVHHドメインである、上記14~16のいずれかに記載のタンパク質。
18.前記第2の抗原結合ドメインが、Fabである、上記14~17のいずれかに記載のタンパク質。
19.前記Fabが、重鎖可変ドメイン(VH)およびヒトIgG CH1ドメインを含むFab重鎖、ならびに軽鎖可変ドメイン(VL)およびヒト軽鎖定常ドメイン(CL)を含むFab軽鎖を含み、前記VHおよびVLが、CD3に結合する前記第2の抗原結合ドメインを形成する、上記18に記載のタンパク質。
20.前記タンパク質が、以下の3つのポリペプチド:
Vα-Cα-リンカー-VH-CH1を含む第1のポリペプチド、
Vβ-Cβを含む第2のポリペプチド、および
VL-CLを含む第3のポリペプチドを含み、
前記第2および第3のポリペプチドが、鎖間ジスルフィド結合によって前記第1のポリペプチドに連結されている、上記18または19に記載のタンパク質。
21.前記タンパク質が、ヒトIgG Fc領域(Fc)をさらに含む、上記1~20のいずれかに記載のタンパク質。
22.前記ヒトIgG Fc領域が、対応する野生型ヒトIgG Fc領域と比較してエフェクター機能が低下した改変ヒトIgG Fc領域である、上記21に記載のタンパク質。
23.前記タンパク質が、以下の4つのポリペプチド:
Vα-Cα-ヒンジ-第1のFc領域を含む第1のポリペプチド、
Vβ-Cβを含む第2のポリペプチド、
VL-CLを含む第3のポリペプチド、および
VH-CH1-ヒンジ-第2のFc領域を含む第4のポリペプチドを含み、
前記第2および第4のポリペプチドが、鎖間ジスルフィド結合によって前記第1のポリペプチドに連結されており、前記第3のポリペプチドが、鎖間ジスルフィド結合によって前記第4のポリペプチドに連結されている、上記1~19、21または22のいずれかに記載のタンパク質。
24.前記タンパク質が、以下の4つのポリペプチド:
Vα-Cα-リンカー-VH-CH1-ヒンジ-第1のFc領域を含む第1のポリペプチド、
Vβ-Cβを含む第2のポリペプチド、
VL-CLを含む第3のポリペプチド、
第2のFc領域を含む第4のポリペプチドを含み、
前記第2、第3、および第4のポリペプチドが、鎖間ジスルフィド結合によって前記第1のポリペプチドに連結されている、上記21または22に記載のタンパク質。
25.前記リンカーが、配列番号41~46のいずれか1つから選択されるアミノ酸配列を含む、上記20または24に記載のタンパク質。
26.前記ヒンジ領域が配列番号47を含み、前記第1および第2のFc領域が配列番号48を含む、上記23または24に記載のタンパク質。
27.前記ヒンジ領域が配列番号49を含み、前記第1および第2のFc領域が配列番号50を含む、上記23または24に記載のタンパク質。
28.前記第1および第2のFc領域が、CH3ヘテロ二量体化変異のセットを含む、上記23または24に記載のタンパク質。
29.前記第1または第2のFc領域のうちの一方が、残基407のアラニン、残基399のメチオニン、および残基360のアスパラギン酸を含むCH3ドメインを含み、前記第1または第2のFc領域の他方が、残基366のバリン、残基409のバリン、ならびに残基345および347のアルギニン(EUインデックス番号付けに従って番号付けされた残基)を含むCH3ドメインを含む、上記28に記載のタンパク質。
30.前記タンパク質が、可溶性タンパク質である、上記1~29のいずれかに記載のタンパク質。
31.前記タンパク質が、
前記Cαドメインが139位のセリン、150位のスレオニン、および190位のアラニン(Kabat番号付けに従って番号付けされた残基)を含むこと、ならびに
前記Cβドメインが134位のグルタミン酸、139位のヒスチジン、155位のアスパラギン酸、および170位のセリン(Kabat番号付けに従って番号付けされた残基)を含むこと以外は同じアミノ酸配列を含むタンパク質と比較して、より高いアンフォールディング温度(Tm)を有する、上記1~30のいずれかに記載のタンパク質。
32.前記タンパク質が、
前記Cαドメインが139位のセリン、150位のスレオニン、および190位のアラニン(Kabat番号付けに従って番号付けされた残基)を含むこと、ならびに
前記Cβドメインが134位のグルタミン酸、139位のヒスチジン、155位のアスパラギン酸、および170位のセリン(Kabat番号付けに従って番号付けされた残基)を含むこと以外は同じアミノ酸配列を含むタンパク質と比較して、増加した安定性を有する、上記1~30のいずれかに記載のタンパク質。
33.前記タンパク質が、同じ条件下で発現される場合、
前記Cαドメインが139位のセリン、150位のスレオニン、および190位のアラニン(Kabat番号付けに従って番号付けされた残基)を含むこと、ならびに
前記Cβドメインが134位のグルタミン酸、139位のヒスチジン、155位のアスパラギン酸、および170位のセリン(Kabat番号付けに従って番号付けされた残基)を含むこと以外は同じアミノ酸配列を含むタンパク質と比較して、増加した発現レベルを有する、上記1~30のいずれかに記載のタンパク質。
34.前記タンパク質が、
前記Cαドメインが139位のセリン、150位のスレオニン、および190位のアラニン(Kabat番号付けに従って番号付けされた残基)を含むこと、ならびに
前記Cβドメインが134位のグルタミン酸、139位のヒスチジン、155位のアスパラギン酸、および170位のセリン(Kabat番号付けに従って番号付けされた残基)を含むこと以外は同じアミノ酸配列を含むタンパク質と比較して、低下したグリコシル化レベルを有する、上記1~30のいずれかに記載のタンパク質。
35.(a)前記第1のポリペプチドが、TCRアルファ鎖の膜貫通ドメインおよび細胞内ドメインをさらに含み、
(b)前記第2のポリペプチドが、TCRベータ鎖の膜貫通ドメインおよび細胞内ドメインをさらに含む、上記1~13のいずれかに記載のタンパク質。
36.前記タンパク質が、検出可能な標識に連結されている、上記1~35のいずれかに記載のタンパク質。
37.前記タンパク質が、治療剤に連結されている、上記1~36のいずれかに記載のタンパク質。
38.前記治療剤が、細胞毒性剤、抗炎症剤、または免疫刺激剤である、上記37に記載のタンパク質。
39.上記1~38のいずれかに記載のタンパク質のポリペプチドをコードする核酸。
40.上記39に記載の核酸を含む、ベクター。
41.上記39に記載の核酸または上記40に記載のベクターを含む、細胞。
42.上記1~38のいずれかに記載のタンパク質、上記39に記載の核酸、上記40に記載のベクター、または上記41に記載の細胞を含む、医薬組成物。
43.がんまたは感染症の治療を必要とする対象においてそれを行う方法であって、上記1~38のいずれかに記載のタンパク質、上記39に記載の核酸、上記40に記載のベクター、上記41に記載の細胞、または上記42に記載の医薬組成物の治療有効量を、前記対象に投与することを含む、方法。
44.がんまたは感染症の治療に使用するための、上記1~38のいずれかに記載のタンパク質、上記39に記載の核酸、上記40に記載のベクター、上記41に記載の細胞、または上記42に記載の医薬組成物。
【0101】
配列表
配列番号1 WT TCRα定常ドメイン(Cα)
[配列表1]
配列番号2 WT TCRβ定常ドメイン(Cβ)
[配列表2]
配列番号3 ジスルフィド変異を伴うWT TCRα定常ドメイン(Cα)
[配列表3]
配列番号4 ジスルフィド変異を伴うWT TCRβ定常ドメイン(Cβ)
[配列表4]
配列番号5 ジスルフィドを差し引いた3つの安定化変異を伴うTCRのCα
ジスルフィド_S139F_T150I_A190Tを差し引いたアルファ定常ドメイン
[配列表5]
配列番号6 ジスルフィド変異を伴う3つの安定化変異を伴うTCRのCα
ジスルフィド_S139F_T150I_A190Tを伴うアルファ定常ドメイン
[配列表6]
配列番号7 ジスルフィドを差し引いた4つの安定化変異を伴うTCRのCβ
ベータ定常E134K_H139R_D155P_S170D
[配列表7]
配列番号8 ジスルフィド変異を伴う4つの安定化変異を伴うTCRのCβ
ベータ定常E134K_H139R_D155P_S170D
[配列表8]
配列番号9 ジスルフィドを伴わないNY-ESO-1 Cα WT
[配列表9]
配列番号10 ジスルフィドを伴うNY-ESO-1 Cα WT
[配列表10]
配列番号11 ジスルフィド_S139F_T150I_A190Tを伴うNY-ESO-1 Cα
[配列表11]
配列番号12 ジスルフィド_S139F_T150I_A190Tを伴わないNY-ESO-1 Cα
[配列表12]
配列番号13 ジスルフィドを伴わないNY-ESO-1 Cβ WT
[配列表13]
配列番号14 ジスルフィドを伴うNY-ESO-1 Cβ WT
[配列表14]
配列番号15 ジスルフィド_E134K_H139R_D155P_S170Dを伴うNY-ESO-1 Cβ
[配列表15]
配列番号16 ジスルフィド_E134K_H139R_D155P_S170Dを伴わないNY-ESO-1 Cβ
[配列表16]
配列番号17 ジスルフィドを伴うCE10 Cα WT
[配列表17]
配列番号18 ジスルフィド_S139F_T150I_A190Tを伴うCE10 Cα
[配列表18]
配列番号19 ジスルフィドを伴うCE10 Cβ WT
[配列表19]
配列番号20 ジスルフィド_E134K_H139R_D155P_S170Dを伴うCE10 Cβ
[配列表20]
配列番号21 ジスルフィドを伴う抗NEF134-10 HIV TCR Cα WT
[配列表21]
配列番号22 ジスルフィド_S139F_T150I_A190Tを伴う抗NEF134-10 HIV TCR Cα
[配列表22]
配列番号23 ジスルフィドを伴う抗NEF134-10 HIV TCR Cβ WT
[配列表23]
配列番号24 ジスルフィド_E134K_H139R_D155P_S170Dを伴う抗NEF134-10 HIV TCR Cβ
[配列表24]
配列番号25 ジスルフィドを伴うMAGE-A3 Cα WT
[配列表25]
配列番号26 ジスルフィド_S139F_T150I_A190Tを伴うMAGE-A3 Cα
[配列表26]
配列番号27 ジスルフィドを伴うMAGE-A3 Cβ WT
[配列表27]
配列番号28 ジスルフィド_E134K_H139R_D155P_S170Dを伴うMAGE-A3 Cβ
[配列表28]
配列番号29 ジスルフィドFc7.8.60Aを伴うIgG1AA_N297Q NY-ESO-1WT Cα
[配列表29]
配列番号30 ジスルフィドおよびCH3 7.8.60Aヘテロダイマー変異を伴うIgG1AA_N297Q NY-ESO-1 Cα_S139F_T150I_A190T
[配列表30]
配列番号31 7.8.60Bヘテロダイマー変異を伴うIgG1AA_N297Q SP34 mVH
[配列表31]
配列番号32 Ch SP34 mVLラムダ
[配列表32]
配列番号33 ジスルフィド_(G4S)4リンカー_Ch SP34mVHタンデムFAbを伴うNY-ESO-1 Cα_S139F_T150I_A190T
[配列表33]
配列番号34 ジスルフィド7.8.60Aで脱グリコシル化されたIgG1AA_N297Q NY-ESO-1 Cα_S139F_T150I_A190T
[配列表34]
配列番号35 ジスルフィド7.8.60Aを伴うIgG1AA_N297Q NY-ESO-1#107 Cα_S139F_T150I_A190T
[配列表35]
配列番号36 ジスルフィド_E134K_H139R_D155P_S170Dを伴うNY-ESO-1#107 Cβ
[配列表36]
配列番号37 ジスルフィド7.8.60Aを伴うIgG1AA_N297Q NY-ESO-1#113 Cα_S139F_T150I_A190T
[配列表37]
配列番号38 とジスルフィド_E134K_H139R_D155P_S170Dを伴うNY-ESO-1#113 Cβ
[配列表38]
配列番号39 ジスルフィド_3XG4S_SP34mVH 7.8.60Bを伴うIgG1AA_N297Q NY-ESO-1 Cα_S139F_T150I_A190T
[配列表39]
配列番号40 ジスルフィド_5XG4S_Ch SP34 mVHタンデムFAbを伴うNY-ESO-1 Cα_S139F_T150I_A190T
[配列表40]
配列番号41 (G4S)
3リンカー
[配列表41]
配列番号42 (G4Q)
3リンカー
[配列表42]
配列番号43 (G4S)
4リンカー
[配列表43]
配列番号44 (G4S)
5リンカー
[配列表44]
配列番号45 (G4Q)
4リンカー
[配列表45]
配列番号46 (G4Q)
5リンカー
[配列表46]
配列番号47 IgG1ヒンジ領域
[配列表47]
配列番号48 L234A_L235A_N297Qを含むIgG1Fc領域
[配列表48]
配列番号49 IgG4(StoP)ヒンジ領域
[配列表49]
配列番号50 IgG4AA Fc領域
[配列表50]
配列番号51 ヒトHPB-MLT Cβ
[配列表51]
配列番号52 ヒトHPB-MLT Cα
[配列表52]
【配列表】