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特許7483866プロトン交換膜燃料電池のガス拡散層およびその作製方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-07
(45)【発行日】2024-05-15
(54)【発明の名称】プロトン交換膜燃料電池のガス拡散層およびその作製方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/96 20060101AFI20240508BHJP
   H01M 4/86 20060101ALI20240508BHJP
   H01M 4/88 20060101ALI20240508BHJP
   H01M 8/10 20160101ALN20240508BHJP
【FI】
H01M4/96 M
H01M4/96 B
H01M4/86 M
H01M4/86 B
H01M4/88 C
H01M8/10 101
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2022514776
(86)(22)【出願日】2019-09-06
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-11-11
(86)【国際出願番号】 CN2019104632
(87)【国際公開番号】W WO2021042352
(87)【国際公開日】2021-03-11
【審査請求日】2022-03-04
(73)【特許権者】
【識別番号】390023711
【氏名又は名称】ローベルト ボツシユ ゲゼルシヤフト ミツト ベシユレンクテル ハフツング
【氏名又は名称原語表記】ROBERT BOSCH GMBH
【住所又は居所原語表記】Stuttgart, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100134315
【弁理士】
【氏名又は名称】永島 秀郎
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】ビチョン チェン
【審査官】守安 太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-133271(JP,A)
【文献】特表2011-500488(JP,A)
【文献】国際公開第2013/089026(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第108878922(CN,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0279173(US,A1)
【文献】特表2014-518835(JP,A)
【文献】特開2003-238131(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/96
H01M 4/86
H01M 4/88
H01M 8/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
プロトン交換膜燃料電池のガス拡散層であって、前記ガス拡散層が、グラフェン膜であり、前記グラフェン膜の厚さ方向に沿った断面において、前記グラフェン膜中のグラフェンシート層の長さ方向と前記グラフェン膜の面方向または厚さ方向とがなす角が無秩序な角度で分布している、ガス拡散層。
【請求項2】
前記グラフェンシート層の厚さが、0.3550mである、請求項1記載のガス拡散層。
【請求項3】
プロトン交換膜燃料電池のガス拡散層の作製方法であって、前記方法が、
a)撹拌および/または超音波処理により、酸化グラフェン溶液を加熱して溶媒を除去し、酸化グラフェン膜を得るステップであって、前記酸化グラフェン膜中の酸化グラフェンシート層が、不規則に配列されている、ステップ、ならびに
b)900℃以上の温度で、前記酸化グラフェン膜を加熱還元して、グラフェン膜を得るステップであって、前記グラフェン膜中のグラフェンシート層の長さ方向と前記グラフェン膜の面方向または厚さ方向とがなす角が無秩序な角度で分布している、ステップ、を含む、方法。
【請求項4】
ステップa)において、前記酸化グラフェン溶液が、酸化グラフェンの水溶液である、請求項3記載の方法。
【請求項5】
ステップb)において、真空中または還元ガス雰囲気中で加熱還元を行う、請求項3または4記載の方法。
【請求項6】
プロトン交換膜燃料電池であって、請求項1もしくは2記載のガス拡散層を、カソードガス拡散層および/またはアノードガス拡散層として備える、プロトン交換膜燃料電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プロトン交換膜燃料電池のガス拡散層に関する。ガス拡散層は、グラフェン膜であり、グラフェン膜中のグラフェンシート層は、不規則に配列されている。本発明はさらに、ガス拡散層の作製方法、およびガス拡散層を備えたプロトン交換膜燃料電池に関する。
【0002】
背景技術
薄い固体高分子膜を電解質として使用することから、プロトン交換膜燃料電池は、たとえば、低温で高速起動でき、電解質の損失がなく、腐食性ではなく、寿命が長く、比エネルギーが高く、比出力が高く、設計が簡単で、製造が容易であるといったような、多くの利点を有する。そのため、近年では、プロトン交換膜燃料電池が広く注目を集めている。
【0003】
図1に示すように、プロトン交換膜燃料電池は通常、順次配置されたアノード板(60)と、アノードガス拡散層(40)と、アノード触媒層(20)と、プロトン交換膜(10)と、カソード触媒層(30)と、カソードガス拡散層(50)と、カソード板(70)と、を含む。
【0004】
カソードおよびアノードにおいて、ガス拡散層はいずれも触媒層を支持する作用を果たし、また電気化学反応のための電子チャネル、ガスチャネル、および排水チャネルを提供する。ガス拡散層の一般的な作製方法は、以下のとおりである。まず、疎水化処理を行う。多孔質のカーボンペーパー(またはカーボンクロス)をポリテトラフルオロエチレン(PTFE)に数回浸してから、PTFEを含浸させたカーボンペーパーを加熱してPTFEを焼結させる。次いで、カーボンブラックとPTFEのエマルジョンをスラリー状に調製し、このスラリーを、スクリーン印刷またはスプレーなどの方法により、疎水化処理を経たカーボンペーパーに塗布して、ガス拡散層を作製する。作製されたガス拡散層中のカーボンペーパーの大きな孔は、PTFEで覆われて疎水性の孔として使用され、反応ガスの拡散チャネルとして機能する。カーボンペーパーのPTFEで覆われていない小さな孔は、親水性の孔として使用され、生成物の水の排水チャネルとして機能する。しかし、PTFE塗膜自体は導電性ではなく、疎水性材料のPTFEを導入すると、カーボンペーパーの導電性が低下してしまう。また、プロトン交換膜燃料電池の充放電サイクルを行うときに、PTFE塗膜は、高温(約80℃)高湿度環境では剥離しやすく、ガス拡散層の疎水性が低下し、その結果、電池性能(たとえば、電気化学性能および放電安定性)が低下する。
【0005】
このため、プロトン交換膜燃料電池のガス拡散層を改善し、これにより、プロトン交換膜電池の電池性能(たとえば、電気化学性能および放電安定性)を向上させることが求められている。
【0006】
発明の概要
したがって、本発明は、プロトン交換膜燃料電池のガス拡散層を提供し、ガス拡散層が、グラフェン膜であり、グラフェン膜中のグラフェンシート層が、不規則に配列されている。これにより、高疎水性、高導電性、および高熱伝導性を低コストで実現することができ、プロトン交換膜燃料電池の電気化学性能および放電安定性を向上させることができる。
【0007】
本発明は、プロトン交換膜燃料電池のガス拡散層の作製方法をさらに提供する。方法は、
a)撹拌および/または超音波処理により、酸化グラフェン溶液を加熱して溶媒を除去し、酸化グラフェン膜を得るステップであって、酸化グラフェン膜中の酸化グラフェンシート層が不規則に配列されている、ステップ、ならびに
b)900℃以上の温度で、酸化グラフェン膜を加熱還元し、グラフェン膜を得るステップであって、グラフェン膜中のグラフェンシート層が不規則に配列されている、ステップを含む。本発明のグラフェン膜を作製する方法は、操作が簡単で、制御性に優れ、かつコストが節約される。
【0008】
本発明は、プロトン交換膜燃料電池をさらに提供する。プロトン交換膜燃料電池は、上述したようなガス拡散層、または上述したような方法に従って作製されたガス拡散層を、カソードガス拡散層および/またはアノードガス拡散層として備える。
【0009】
本発明によるプロトン交換膜燃料電池は、エネルギー貯蔵システム(たとえば、分散型燃料電池発電所)、電気自動車、およびポータブル機器に使用され得る。
【0010】
以下の添付図面を参照すると、本発明の様々な他の特徴、側面、および利点は、より明らかになるであろう。これらの添付図面は縮尺どおりに描かれておらず、様々な構造および位置関係を概略的に説明することを意図しており、限定するものとして解釈されるべきではない。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】従来技術によるプロトン交換膜燃料電池セルの部品の分解図である。
図2】グラフェンの構造の概略図である。
図3】従来の方法に従って作製された酸化グラフェン膜およびグラフェン膜の膜の厚さ方向に沿った断面の概略図である。
図4】本発明の酸化グラフェン膜およびグラフェン膜の膜の厚さ方向に沿った断面の概略図である。
【0012】
発明を実施するための形態
特段に定義されていない限り、本明細書で使用されるすべての技術用語および科学用語はいずれも、当業者によって通常理解される意味を有する。矛盾した箇所が存在する場合、本出願で与えられる定義が優先される。
【0013】
特段に指示されていない限り、本明細書に列挙されている数値範囲は、範囲の端点と、範囲およびそのすべての部分範囲の中に含まれるすべての数値と、を含むことが意図されている。
【0014】
本明細書中の材料、含有量、方法、装置、添付図面、および実施例は、すべて例示的なものであり、特段の説明がない限り、限定するものとして理解すべきではない。
【0015】
本明細書で使用される「含む」、「備える」、および「有する」という用語はいずれも、最終的な効果に影響を及ぼさない他の構成要素または他のステップが含まれ得ることを意味する。これらの用語は、「……から構成される」および「実質的に……から構成される」の意味をカバーしている。本発明による製品および方法は、本開示に記載されている必須の技術的特徴、ならびに追加としておよび/または任意選択で存在する構成要素、要素、ステップ、または本明細書に記載されている他の限定的特徴を含むかまたは備えてもよく、あるいは、本開示に記載されている必須の技術的特徴、ならびに追加としておよび/または任意選択で存在する構成要素、要素、ステップ、または本明細書に記載されている他の限定的特徴から構成されてもよく、あるいは、実質的に、本開示に記載されている必須の技術的特徴、ならびに追加としておよび/または任意選択で存在する構成要素、要素、ステップ、または本明細書に記載されている他の限定的特徴から構成される。
【0016】
特段に明記されていない限り、本開示で使用されるすべての材料および試薬はいずれも市販されている。
【0017】
特段に指示されていないかまたは明らかに矛盾していない限り、本明細書で行う操作はすべて、室温および常圧下で行うことができる。
【0018】
特段に指示されていないかまたは明らかに矛盾していない限り、本開示の方法ステップは、任意の適切な順序で行うことができる。
【0019】
本開示の実施例を以下に詳しく説明する。
【0020】
ガス拡散層
上述したように、カソードおよびアノードにおいて、ガス拡散層はいずれも触媒層を支持する作用を果たし、また電気化学反応のための電子チャネル、ガスチャネル、および排水チャネルを提供する。本発明によれば、プロトン交換膜燃料電池のガス拡散層は、グラフェン膜であり、グラフェン膜中のグラフェンシート層は、不規則に配列されている。
【0021】
図2は、グラフェンの構造の概略図を示している。炭素原子は6個の電子を有し、そのうち4個が価電子である。グラフェン中の炭素原子の3個の価電子がspによって混成されて、σ結合で接続されて六角形のハニカム層構造を形成している。残りの1個の結合していない価電子は、ハニカム状の平面に垂直なpz軌道上に位置し、大きなπ結合を形成しており、π電子は自由に移動でき、グラフェンに優れた導電性を与えている。
【0022】
本発明によれば、グラフェンシート層の形状、厚さ、および面積はいずれも、本発明の目的を実現できる限り具体的に制限されない。いくつかの実施例では、グラフェンシート層は、単層グラフェンまたは多層グラフェンとすることができる。たとえば、グラフェンシート層は、1~約100層のグラフェンを含むことができ、好ましくは、5~約15層、たとえば、約5層、約6層、約7層、約8層、約9層、約10層、約11層、約12層、約13層、約14層、または約15層のグラフェンを含むことができる。単層グラフェンの理想的な厚さは、約0.35nmである。グラフェンシート層が多層グラフェンを含む場合、グラフェンシート層は多層グラフェンの積層であり、グラフェンシート層の厚さは、各層グラフェンの厚さと層間の隙間との合計である。いくつかの実施例では、グラフェンシート層の厚さは、約0.35~約50nm、好ましくは、約0.35~約5nmである。
【0023】
グラフェンシート層の形状は、規則的であってもよく、また、不規則、たとえば、長方形または多角形であってもよい。図3および図4に示すように、グラフェン膜(100または200)中、グラフェンシート層(101または201)の形状は長方形であり、図中の複数の黒色の長方形はいずれも、グラフェンシート層を表している。グラフェンシート層の等価直径または横方向距離は、約0.1~約80μm、好ましくは、約0.5~約50μm、さらに好ましくは、約1~約2μmである。ここで、等価直径または横方向距離は、グラフェンシート層の長さを指す。グラフェンシート層が長方形または略長方形である場合、等価直径または横方向距離は長方形の長辺に相当する。グラフェンシート層が多角形である場合、多角形は円形に相当し、等価直径または横方向距離は円の直径に相当する。
【0024】
図4に示すように、本発明のグラフェン膜(200)中のグラフェンシート層(201)は無秩序に分布しており、各グラフェンシート層(201)間の隙間は、水分子を通過させ、本発明のグラフェン膜に疎水性を与えている。したがって、本発明のガス拡散層は追加の疎水化処理を必要としないため、低コストで高い疎水性を実現することができ、またPTFEの使用に起因するプロトン交換膜燃料電池の電気化学性能および放電安定性の低下を回避することができる。
【0025】
グラフェン膜の従来の作製方法は、酸化グラフェン溶液をろ過した後、還元することであり得る。図3は、従来の方法に従って作製された酸化グラフェン膜およびグラフェン膜の膜の厚さ方向に沿った断面の概略図を示している。従来の方法で作製された酸化グラフェン膜およびグラフェン膜中のグラフェンシート層の配列または分布は類似しており、したがって、図3は、グラフェン膜(100)の膜の厚さ方向に沿った断面の概略図を示すことができ、また酸化グラフェン膜(100)の膜の厚さ方向に沿った断面の概略図も示すことができる。具体的には、添付図面の記号100が酸化グラフェン膜を示している場合、添付図面の記号101は、酸化グラフェンシート層を示している。添付図面の記号100がグラフェン膜を示している場合、添付図面の記号101は、グラフェンシート層を示している。ろ過後に得られた中間生成物である酸化グラフェン膜(100)中の酸化グラフェンシート層(101)は、高配向性液晶相を呈しており、面内で平行に配列され、何層にも積層されている。還元して得られたグラフェン膜(100)中のグラフェンシート層(101)もまた、高配向性液晶相を呈しており、面内で平行に配列されて何層にも積層されている。本明細書では、面内とは、酸化グラフェン膜またはグラフェン膜の平面内を指す。グラフェン膜(100)の場合、高い熱伝導性を実現するためには、グラフェンシート層(101)の面内の配列が整然としているほど良好であることは、当業者には知られている。このようなグラフェン膜(100)は異方性性能を呈しており、たとえば、面内方向の熱伝導率および/または導電率は、面内方向に垂直な(すなわち、グラフェン膜の厚さ方向の)熱伝導率および/または導電率と大きく異なり、たとえば、前者は後者の数十倍、たとえば、およそ50倍以上、たとえば、約70~約80倍、または約100倍以上である。しかし、面内に整然と配列され、何層にも積層されたグラフェンシート層(101)で構成されたグラフェン膜(100)は、緻密で、ガスおよび水を通過させず、このため従来の方法で作製されたグラフェン膜(100)をガス拡散層として使用することができない。
【0026】
図4は、本発明の酸化グラフェン膜およびグラフェン膜の膜の厚さ方向に沿った断面の概略図を示している。本発明による酸化グラフェン膜およびグラフェン膜中のグラフェンシート層の配列または分布は類似しており、したがって、図4は、グラフェン膜(200)の膜の厚さ方向に沿った断面の概略図を示すことができ、また酸化グラフェン膜(200)の膜の厚さ方向に沿った断面の概略図も示すことができる。具体的には、添付図面の記号200が酸化グラフェン膜を示している場合、添付図面の記号201は、酸化グラフェンシート層を示している。添付図面の記号200がグラフェン膜を示している場合、添付図面の記号201は、グラフェンシート層を示している。従来の方法で作製されたグラフェン膜(100)とは対照的に、本発明に従って作製されたグラフェン膜(200)中のグラフェンシート層(201)は、不規則に配列されている。本明細書では、不規則な配列はまた、無秩序な分布とも呼ばれることもあり、グラフェン膜(200)中のグラフェンシート層(201)が、全体として積層構造ではなく、面内で一定方向に配列されていないことを意味する。言い換えると、本発明のグラフェン膜(200)は、上述した異方性のグラフェン膜(100)に比べて面内の性能は低くなり、厚さ方向の性能は向上し、このため面内の性能と厚さ方向の性能との差は小さくなる。いくつかの実施例では、グラフェン膜(200)は、等方性熱伝導性および等方性導電性を有する。理想的には、グラフェン膜(200)の面内の導電率および熱伝導率は、厚さ方向の導電率および熱伝導率に等しいかまたは近い。いくつかの実施例では、本発明のグラフェン膜(200)の面内の導電率および熱伝導率は、厚さ方向の導電率および熱伝導率の約1倍~約20倍、好ましくは、約1倍~約15倍、さらに好ましくは、約1倍~約10倍、たとえば、約1倍~約5倍、または約1倍~約2倍である。異方性のグラフェン膜(100)と比べても、従来のガス拡散層(たとえば、疎水化処理を経たカーボンペーパーまたはカーボンクロス)と比べても、本発明のグラフェン膜(200)の面内の導電率(または熱伝導率)と、厚さ方向の導電率(または熱伝導率)との比は、少なくとも10倍低くなり、たとえば約20倍~約50倍低くなり、ガス拡散層の導電性は大幅に改善される。
【0027】
これにより、本発明のガス拡散層は、高疎水性、高導電性、および高熱伝導性を低コストで実現することができ、プロトン交換膜燃料電池の電気化学性能および放電安定性を向上させることができる。
【0028】
ガス拡散層の作製方法
本発明のガス拡散層を作製する方法は、:a)撹拌および/または超音波処理により、酸化グラフェン溶液を加熱して溶媒を除去し、中間体として酸化グラフェン膜を得るステップであって、酸化グラフェン膜中の酸化グラフェンシート層が不規則に配列されている、ステップ、ならびにb)900℃以上の温度で、酸化グラフェン膜を加熱還元し、グラフェン膜を得るステップであって、グラフェン膜中のグラフェンシート層が不規則に配列されている、ステップを含む。
【0029】
撹拌および/または超音波処理を行うことにより、酸化グラフェンシート層が高配向性液晶相を呈しないようにし、その結果、還元して得られたグラフェンシート層も不規則な配列を呈するようになり、面内の性能と厚さ方向の性能との間の差が小さくなり、特に、厚さ方向の熱伝導率および導電率が大幅に向上する。さらに、本発明のグラフェン膜を作製する方法は、操作が簡単で、制御性に優れ、かつコストが節約される。
【0030】
ステップa)において、撹拌もしくは超音波処理を使用することができ、または撹拌も行って超音波処理も行うことができる。撹拌を行うかまたは超音波処理を行う場合、撹拌および超音波処理は、任意の順序で同時にまたは連続して行うことができる。実際の必要に応じて、撹拌または超音波処理を1回行ってもよく、数回行ってもよい。
【0031】
ステップa)において、酸化グラフェン溶液中の溶媒は、本発明の目的を実現する限り具体的に制限されない。たとえば、溶媒は、水、非水系溶媒、または水と非水系溶媒との混合物であってもよい。非水系溶媒はアルコール、たとえば、Cl-C4アルコール、たとえば、メタノール、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノール、n-ブタノール、イソブタノール、tert-ブタノールなどであってもよい。いくつかの実施例では、酸化グラフェン溶液は、酸化グラフェンの水溶液である。水を溶媒として使用し、原料が入手しやすく、環境にも優しい。
【0032】
ステップb)において、真空中または還元ガス雰囲気中で熱酸化処理を行い、還元ガスは、好ましくは、水素または一酸化炭素である。
【0033】
ステップb)において、加熱温度は、酸化グラフェンに還元反応が生じるように、900℃以上とする。加熱温度の上限が具体的に制限されてない場合、当業者であれば、実際の必要性に応じて、たとえば、還元反応の速度、変換率、およびコストなど勘案することができ、たとえば、加熱温度は、約900℃、l000℃、1200℃、1500℃、2000℃、または3000℃などとすることができる。
【0034】
プロトン交換膜燃料電池
本発明によれば、プロトン交換膜燃料電池は、単一のプロトン交換膜燃料電池セルであってもよく、2つ以上のプロトン交換膜燃料電池セルを、並列および/または直列に接続することにより得られたプロトン交換膜燃料電池の積みであってもよい。
【0035】
プロトン交換膜燃料電池は、本発明によるガス拡散層または本発明の方法に従って作製されたガス拡散層をカソードガス拡散層および/またはアノードガス拡散層として備え得る。
【0036】
好ましくは、プロトン交換膜燃料電池のカソードガス拡散層およびアノードガス拡散層はいずれも、本発明のガス拡散層または本発明の方法に従って作製されたガス拡散層である。
【0037】
図1を参照すると、本発明によるプロトン交換膜燃料電池セルは、順次配置されたアノード板(60)と、アノードガス拡散層(40)と、アノード触媒層(20)と、プロトン交換膜(10)と、カソード触媒層(30)と、カソードガス拡散層(50)と、カソード板(70)と、を含み得る。
【0038】
アノードガス拡散層(40)およびカソードガス拡散層(50)のうちの少なくとも1つ、好ましくは2つは、本発明によるガス拡散層または本発明の方法に従って作製されたガス拡散層である。
【0039】
アノード燃料は、水素である。カソード燃料は、酸素、または空気などの酸素含有ガスである。
【0040】
プロトン交換膜は、プロトンの移動のためのチャネルを提供するとともに、電子をカソードおよびアノードの反応ガスから隔離する隔壁としても機能する。いくつかの実施例では、プロトン交換膜はペルフルオロスルホン酸膜である。プロトン交換膜の市販品の例としては、たとえば、米国デュポン社製のNafion膜、たとえば、Nafion115、Nafion112、Nafion117、またはNafion1035などが挙げられる。
【0041】
アノード触媒は、水素の酸化を触媒するために使用される。カソード触媒は、酸素の還元を触媒するために使用される。カソード触媒およびアノード触媒は、同じであっても異なっていてもよく、貴金属触媒、たとえば、白金または白金合金から選択することができる。
【0042】
バイポーラプレートは、カソードプレートとアノードプレートとを含む。バイポーラプレートは、電流の収集および伝導、燃料(たとえば、水素および酸素)の遮断および輸送、ならびに熱伝導などに使用される。たとえば、バイポーラプレートは、グラファイトまたは金属(たとえば、チタン、ステンレス、ニッケル合金など)で製造され得る。
図1
図2
図3
図4