(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-07
(45)【発行日】2024-05-15
(54)【発明の名称】蓄電デバイス用セパレータの製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 50/40 20210101AFI20240508BHJP
H01M 50/443 20210101ALI20240508BHJP
H01M 50/451 20210101ALI20240508BHJP
H01M 50/434 20210101ALI20240508BHJP
H01M 50/457 20210101ALI20240508BHJP
H01M 50/437 20210101ALI20240508BHJP
G01N 21/892 20060101ALI20240508BHJP
H01M 50/42 20210101ALI20240508BHJP
【FI】
H01M50/40
H01M50/443 E
H01M50/451
H01M50/434
H01M50/457
H01M50/437
G01N21/892 A
H01M50/443 B
H01M50/443 M
H01M50/42
(21)【出願番号】P 2022521933
(86)(22)【出願日】2021-05-11
(86)【国際出願番号】 JP2021017923
(87)【国際公開番号】W WO2021230245
(87)【国際公開日】2021-11-18
【審査請求日】2022-07-19
(31)【優先権主張番号】P 2020083303
(32)【優先日】2020-05-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000033
【氏名又は名称】旭化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100108903
【氏名又は名称】中村 和広
(74)【代理人】
【識別番号】100142387
【氏名又は名称】齋藤 都子
(74)【代理人】
【識別番号】100135895
【氏名又は名称】三間 俊介
(72)【発明者】
【氏名】高森 仁
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 武史
【審査官】多田 達也
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-105706(JP,A)
【文献】国際公開第2017/086466(WO,A1)
【文献】特開2012-181176(JP,A)
【文献】特開2018-170281(JP,A)
【文献】特開平09-136323(JP,A)
【文献】国際公開第2013/047853(WO,A1)
【文献】国際公開第2009/069813(WO,A1)
【文献】特表2023-517563(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M50/40-50/497
G01N21/892
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性ポリマー層を有するセパレータの検査装置であり、
前記セパレータは、基材と、前記基材の片面または両面の一部に存在する前記熱可塑性ポリマー層とを含み、
前記検査装置は、前記セパレータの検査部分に対する入射角θが、前記セパレータの平面方向に垂直な方向を0度とした場合、60度以上、90度以下の角度で光を照射する
2つ以上の光源と、カメラとを有
し、
前記2つ以上の光源が、前記セパレータの検査部分を囲むように等間隔に配置されることを特徴とするセパレータの検査装置。
【請求項2】
熱可塑性ポリマー層を有するセパレータの検査装置であり、
前記セパレータは、基材と、前記基材の片面または両面の一部に存在する前記熱可塑性ポリマー層とを含み、
前記熱可塑性ポリマー層の厚さは、0.01μm以上10.0μm以下であり、
前記検査装置は、前記セパレータの検査部分に対する入射角θが、前記セパレータの平面方向に垂直な方向を0度とした場合、60度以上、90度以下の角度で光を照射する光源と、カメラとを有し、
前記セパレータの検査部分が、前記セパレータとロールが接触する部分であり、
前記セパレータの検査部分から前記カメラまでの距離が、10mm以上、1000mm以下であり、
前記カメラが、前記光源から前記セパレータの検査部分に入射する光の反射角に対し、マイナス5度以上、プラス5度以下の角度の範囲内に設置されていることを特徴とするセパレータの検査装置。
【請求項3】
前記カメラが、100万画素以上のカメラである、請求項1または2に記載のセパレータの検査装置。
【請求項4】
前記カメラを固定する架台を有し、かつ前記架台が、前記カメラを、前後、左右、上下の何れか又は2つ以上に移動可能にするステージを有する、請求項1~3のいずれか1項に記載のセパレータの検査装置。
【請求項5】
前記光源の大きさが、1mm以上、3000mm以下である、請求項1~4のいずれか1項に記載のセパレータの検査装置。
【請求項6】
熱可塑性ポリマー層を有するセパレータの製造方法であり、
前記セパレータは、基材と、前記基材の片面または両面の一部に存在する前記熱可塑性ポリマー層とを含み、
前記セパレータの表面を検査する工程を含み、前記セパレータの検査部分に対する入射角θが、前記セパレータの平面方向に垂直な方向を0度とした場合、60度以上、90度以下の角度で光を照射する
2つ以上の光源と、カメラとを有
し、前記2つ以上の光源が、前記セパレータの検査部分を囲むように等間隔に配置される検査装置を用いて前記セパレータの検査を行うことを特徴とするセパレータの製造方法。
【請求項7】
熱可塑性ポリマー層を有するセパレータの製造方法であり、
前記セパレータは、基材と、前記基材の片面または両面の一部に存在する前記熱可塑性ポリマー層とを含み、
前記熱可塑性ポリマー層の厚さは、0.01μm以上10.0μm以下であり、
前記セパレータの表面を検査する工程を含み、前記セパレータの検査部分に対する入射角θが、前記セパレータの平面方向に垂直な方向を0度とした場合、60度以上、90度以下の角度で光を照射する光源と、カメラとを有し、前記セパレータの検査部分が、前記セパレータとロールが接触する部分であり、前記セパレータの検査部分から前記カメラまでの距離が、10mm以上、1000mm以下であり、前記カメラが、前記光源から前記セパレータの検査部分に入射する光の反射角に対し、マイナス5度以上、プラス5度以下の角度の範囲内に設置されている検査装置を用いて前記セパレータの検査を行うことを特徴とするセパレータの製造方法。
【請求項8】
前記カメラが、100万画素以上のカメラである、請求項6または7に記載のセパレータの製造方法。
【請求項9】
前記熱可塑性ポリマー層が粒子状の高分子化合物を含む、請求項
6~8
のいずれか1項に記載のセパレータの製造方法。
【請求項10】
前記粒子状の高分子の平均粒径が50nm以上、10,000nm以下である、請求項9に記載のセパレータの製造方法。
【請求項11】
前記熱可塑性ポリマーの存在形態が、一定のパターンの繰り返しとなる単位パターンをもつ、請求項
6~10のいずれか1項に記載のセパレータの製造方法。
【請求項12】
前記基材の片面または両面に無機フィラー層が存在し、少なくとも無機フィラー層上の一部に前記熱可塑性ポリマー層が存在する、請求項
6~11のいずれか1項に記載のセパレータの製造方法。
【請求項13】
前記無機フィラー層に含まれる無機フィラーの体積平均粒子径が50nm以上2,000nm以下である、請求項12に記載のセパレータの製造方法。
【請求項14】
前記熱可塑性ポリマーの体積平均粒子径D1と前記無機フィラーの体積平均粒子径D2について、下記式:
D1/D2≦0.8、または、D1/D2≧1.2
を満たす請求項12または13に記載のセパレータの製造方法。
【請求項15】
前記検査工程では、前記カメラにより撮影された画像から、前記熱可塑性ポリマー層の形状及び/又は被覆率を検出する検出工程を備えることを特徴とする、請求項6~14のいずれか1項に記載のセパレータの製造方法。
【請求項16】
前記検査工程では、更に、前記検出工程で得られた形状及び/又は被覆率に基づいて前記セパレータの良否を判定する、請求項15に記載のセパレータの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蓄電デバイス用セパレータの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、リチウムイオン二次電池に代表される蓄電デバイスの開発が活発に行われている。通常、蓄電デバイスには、微多孔膜(セパレータ)が正極と負極との間に設けられている。セパレータは、正極と負極との直接的な接触を防ぎ、かつ微多孔中に保持した電解液を通じてイオンを透過させる機能を有する。
【0003】
セパレータには、異常加熱した場合に速やかに電池反応を停止させる特性(ヒューズ特性)、高温になっても形状を維持して正極と負極が直接反応する危険な事態を防止する性能(耐ショート特性)等の、安全性に関する性能が求められている。また、蓄電デバイスの高容量化を目的として、電極とセパレータとの積層体が捲回された、捲回体を熱プレスすることで、その捲回体の体積を小さくする技術が用いられている。プレス後に電極とセパレータとを固定させてプレス時の体積を維持させるため、所定の条件下で接着機能を発揮する熱可塑性ポリマー含有層をセパレータ上に配置して、セパレータと電極への接着性の向上を図る技術も用いられている。
【0004】
例えば、特許文献1には、電極への接着性に優れ、更にはハンドリング性にも優れることを目的としたセパレータが開示されている。かかるセパレータは、基材としてのポリオレフィン微多孔膜上に、熱可塑性ポリマーを含む部分と熱可塑性ポリマーを含まない部分とが存在する、熱可塑性ポリマー含有層を備えている。熱可塑性ポリマーは、ガラス転移温度を少なくとも2つ有しており、ガラス転移温度のうち少なくとも一つは20℃未満の領域、ガラス転移温度のうち少なくとも一つは20℃以上の領域に存在する。
【0005】
他方、セパレータ用ではないが、表面に複数のミクロンオーダーの凸部がミクロンオーダーの間隔で形成された金属シートに、同軸落射照明または斜方照明により、光軸に対して垂直な方向に幅を有する光を照射し、凸部が形成されていない欠損箇所を検出する金属シートの検査方法が開示されている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】国際公開第2014/017651号
【文献】特開2010-008266号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
近年、環境志向の高まりから、電動車両(EV)等の蓄電デバイスが近年一層注目されており、このような蓄電デバイスに搭載されるリチウムイオン二次電池には、電極とセパレータの積層工程の生産性を高めるため、電極との接着性を有するセパレータが使用されている。
【0008】
電極との接着性を有する接着セパレータには、セパレータ表面に接着層が付与されており、接着層の被覆面積が一定の割合である場合がある。接着層の被覆面積が所定の割合よりも少なすぎれば電極との十分な接着力を得ることができず、接着層の被覆面積が所定の割合よりも多すぎれば、電池の抵抗が大きくなり出力または寿命の点で劣ってしまう。
【0009】
そこで、接着セパレータの表面にある接着層の被覆面積が一定の割合であることを保証するために、接着層の被覆面積を測定する検査装置が望まれている。しかしながら、既存の検査装置では、セパレータの接着層の被覆面積を精度よく測定する技術が検討されていなかった。特に、接着層は有機成分である場合が多く、有機成分である基材表面と接着層の境界がわかり難い。さらには、セパレータ上に付与される接着層の厚みは0.1μm~数μmであり、高さの差異がほとんどなく接着層部分のみを検出するための難易度が非常に高い。したがって、面積を管理する方法としてはサンプル毎に走査型電子顕微鏡による抜き取り評価をする必要があり、管理に多くの工数と時間がかかってしまうという問題点があった。
【0010】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであり、接着層として熱可塑性ポリマー層をもつセパレータ表面の、熱可塑性ポリマー層の被覆面積を精度よく効率的に測定できる、セパレータの検査装置および製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記の課題を解決するため検討を行い、以下の構成を有する接着セパレータ用検査装置を用いることにより上記課題を解決できることを見出して、本発明を完成させた。すなわち、本発明は、以下のとおりである。
[1] 熱可塑性ポリマー層を有するセパレータの検査装置であり、
前記セパレータは、基材と、前記基材の片面または両面の一部に存在する前記熱可塑性ポリマー層とを含み、
前記検査装置は、前記セパレータの検査部分に対する入射角θが60度以上、90度以下の角度で光を照射する光源と、カメラとを有することを特徴とするセパレータの検査装置。
[2] 前記セパレータの表面から前記カメラまでの距離が、10mm以上、1000mm以下である、項目1に記載のセパレータの検査装置。
[3] 前記カメラが、前記光源から入射する光の反射角に対し、マイナス5度以上、プラス5度以下の角度の範囲内に設置されている、項目1または2に記載のセパレータの検査装置。
[4] 前記カメラを固定する架台を有し、かつ前記架台が、前記カメラを、前後、左右、上下の何れか又は2つ以上に移動可能にするステージを有する、項目1~3のいずれか1項に記載のセパレータの検査装置。
[5] 前記光源の大きさが、1mm以上、3000mm以下である、項目1~4のいずれか1項に記載のセパレータの検査装置。
[6] 2つ以上の前記光源にて、前記セパレータの検査部分に光を照射する、項目1~5のいずれか1項に記載のセパレータの検査装置。
[7] 前記2つ以上の光源が、前記セパレータの検査部分を囲むように等間隔に配置される、項目6に記載のセパレータの検査装置。
[8] 熱可塑性ポリマー層を有するセパレータの製造方法であり、
前記セパレータは、基材と、前記基材の片面または両面の一部に存在する前記熱可塑性ポリマー層とを含み、
前記セパレータの表面を検査する工程を含み、前記セパレータの検査部分に対する入射角θが60度以上、90度以下の角度で光を照射する光源と、カメラとを有する検査装置を用いて前記セパレータの検査を行うことを特徴とするセパレータの製造方法。
[9] 前記熱可塑性ポリマー層が粒子状の高分子化合物を含む、項目8に記載のセパレータの製造方法。
[10] 前記粒子状の高分子の平均粒径が50nm以上、10,000nm以下である、項目9に記載のセパレータの製造方法。
[11] 前記熱可塑性ポリマーの存在形態が、一定のパターンの繰り返しとなる単位パターンをもつ、項目8~10のいずれか1項に記載のセパレータの製造方法。
[12] 前記基材の片面または両面に無機フィラー層が存在し、少なくとも無機フィラー層上の一部に前記熱可塑性ポリマー層が存在する、項目8~11のいずれか1項に記載のセパレータの製造方法。
[13] 前記無機フィラー層に含まれる無機フィラーの体積平均粒子径が50nm以上2,000nm以下である、項目12に記載のセパレータの製造方法。
[14] 前記熱可塑性ポリマーの体積平均粒子径D1と前記無機フィラーの体積平均粒子径D2について、下記式:
D1/D2≦0.8、または、D1/D2≧1.2
を満たす項目12または13に記載のセパレータの製造方法。
[15] 熱可塑性ポリマー層を有するセパレータの製造方法であり、
前記セパレータは、基材と、前記基材の片面または両面の一部に存在する前記熱可塑性ポリマー層とを含み、
前記セパレータの表面に対する入射角θが60度以上、90度以下の角度で光を照射する光源と、カメラとを有する検査装置を用いて、前記セパレータの表面を検査する検査工程を備え、かつ
前記検査工程では、前記カメラにより撮影された画像から、前記熱可塑性ポリマー層の形状及び/又は被覆率を検出する検出工程を備えることを特徴とする、セパレータの製造方法。
[16] 前記検査工程では、更に、前記検出工程で得られた形状及び/又は被覆率に基づいて前記セパレータの良否を判定する、項目15に記載のセパレータの製造方法。
また、本発明の好ましい態様の一部を以下に例示する。
[17] 前記入射角θが75度以上、90度未満である、項目1~7のいずれか1項に記載のセパレータの検査装置。
[18] 前記単位パターンの大きさが10μm×10μm以上、10mm×10mm以下である、項目11に記載のセパレータの製造方法。
[19] 前記無機フィラー層に含まれるバインダの量が無機フィラー100質量部に対して0.5質量部以上20質量部以下である、項目12~14のいずれか1項に記載のセパレータの製造方法。
さらに、上記の項目9~14、18及び19のいずれ1項に記載の要件について検査装置の発明におけるセパレータの記載とすることができ、上記の項目2~7及び17のいずれか1項に記載の要件についてセパレータの製造方法の発明における検査装置の記載とすることができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、熱可塑性ポリマー層をもつセパレータ表面の熱可塑性ポリマー層の被覆面積を精度よく効率的に測定することができる。特に、熱可塑性ポリマー層の乾燥後に、熱可塑性ポリマー層の塗膜表面の画像を評価することによって、熱可塑性ポリマー層の被覆面積を評価する方法は、簡易的であり、また、セパレータを破壊することなく評価することが可能であるため、優れたセパレータの開発、製造工程の管理等に寄与するものであるといえる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図4】熱可塑性ポリマーの配置パターンの一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、必要に応じて図面を参照しつつ、本発明を実施するための形態(以下、単に「本実施形態」という。)について詳細に説明するが、本発明は下記実施形態に限定されない。本発明は、その要旨を逸脱しない範囲で様々な変形が可能である。
【0015】
本明細書における「上」、及び「面に形成」とは、各部材の位置関係が「直上」であることを限定する意味ではない。例えば、「基材の少なくとも片面上の少なくとも一部に形成され熱可塑性ポリマーを含有する熱可塑性ポリマー含有層」、「基材上に形成された熱可塑性ポリマー含有層」、及び「基材の表面に形成された熱可塑性ポリマー含有層」という表現は、基材と熱可塑性ポリマー含有層との間に、任意の層(耐熱機能を有する層、例えば無機フィラー多孔層)を含む態様を除外しない。
【0016】
本明細書における「接着」は、高温プレス時の接着(電極との接着を想定)、「ブロッキング」は、セパレータを常温で巻回した状態でのセパレータ同士の接着(セパレータ同士の張り付き、「べたつき」と同義)とする。また、「結着」は、基材とバインダの接着力を意味する。
【0017】
本明細書における「(メタ)アクリル」とは、「アクリル」、及びそれに対応する「メタクリル」を意味し、「(メタ)アクリレート」とは、「アクリレート」、及びそれに対応する「メタクリレート」を意味し、そして「(メタ)アクリロイル」とは、「アクリロイル」、及びそれに対応する「メタクリロイル」を意味する。
【0018】
なお、MD方向とは、例えばポリオレフィン微多孔膜を連続成形するときの機械方向を意味し、TD方向とは、MD方向を90°の角度で横切る方向を意味する。
【0019】
更に、本明細書における数値範囲中の「~」とは、特に断りがない場合、その前後に記載される数値を上限値、及び下限値として含む意味である。
【0020】
<セパレータの製造方法>
本発明の一態様は、セパレータの製造方法を提供する。
【0021】
第一の実施形態に係るセパレータの製造方法は、熱可塑性ポリマー層(熱可塑性ポリマー含有層)を有するセパレータの製造方法であり、セパレータは、基材と、基材の片面または両面の一部に存在する熱可塑性ポリマー層とを含み、セパレータの表面を検査する工程を含み、セパレータの検査部分に対する入射角θが60度(°)以上、90度以下の角度で光を照射する光源と、カメラとを有する検査装置を用いてセパレータの検査を行うことを特徴とする。
【0022】
第二の実施形態に係るセパレータの製造方法は、第一の実施形態と同様に検査装置を用いて、熱可塑性ポリマー層(熱可塑性ポリマー含有層)を有するセパレータの表面を検査する検査工程を含み、かつ検査工程では、検査装置のカメラにより撮影された画像から、熱可塑性ポリマー層の形状及び/又は被覆率を検出することを特徴とする。
【0023】
セパレータの製造方法に係る検査方法は、セパレータの表面(セパレータの検査部分)を検査する工程において、斜方照明を利用する検査方法であり、塗布、乾燥後のセパレータの熱可塑性ポリマー層(熱可塑性ポリマー含有層)のパターンの面積及び/又は形状を測定し、良否を判定する。具体的には、検査対象物の熱可塑性ポリマー含有層に、入射角θが60度以上、90度以下の角度で光を照射することで、熱可塑性ポリマー含有層のコントラストを際立たせてパターン塗工部を認識させることができ、セパレータ上に形成される熱可塑性ポリマー含有層のパターンの面積(例えば被覆率など)及び/又は形状を精度よく効率的に測定することができる。
【0024】
さらに後述するように、セパレータにおけるパラメータを適切に選択することで、光照射時に、熱可塑性ポリマー含有層のコントラストをより際立たせてパターン塗工部をより確実に認識させることができ、セパレータ上に形成される熱可塑性ポリマー含有層のパターンの面積または形状をさらに精度よく効率的に測定することができる。これにより、本発明では、信頼性の高いセパレータを効率よく製造することができる。
【0025】
[検査装置]
本発明の別の態様は、検査装置を提供する。
【0026】
第三の実施態様に係る検査装置は、熱可塑性ポリマー層を有するセパレータの検査装置であり、セパレータは、基材と、基材の片面、または両面の一部に存在する熱可塑性ポリマー層とを含み、検査装置は、セパレータの検査部分に対する入射角θが60度(°)以上、90度以下の角度で光を照射する光源と、カメラとを有することを特徴とする。
【0027】
図1~
図3は、本発明の製造方法において、セパレータの検査を行う検査装置の一構成例を示す図である。この検査装置は、光源1とカメラ2を有する。セパレータSの表面の撮影、検査は、製造ライン上で(オンライン)検査してもよく、製造ラインとは別に(オフライン)検査してもよい。
【0028】
光源1は、セパレータSの表面に光を照射する役割を果たす。光源1の種類は特に限定されず、蛍光灯、水銀ランプ、LED等を用いることができる。中でもLEDが光源の安定性の観点から好ましい。光源1にLEDを使用する場合、波長はいずれの波長も選択できるが、熱可塑性ポリマー層のパターンのコントラストを際立たせる観点から630nmの波長を使用することが好ましい。
【0029】
光源1からの光の、セパレータSの検査部分S1に対する入射角θは、セパレータSの平面方向に垂直な方向を0度とした場合、60度以上、90度以下であり、75度以上、90度未満であることが好ましく、80度以上、90度未満がより好ましい。光源1からの光の入射角θを上記範囲に設定することで、熱可塑性ポリマー層のパターンの凹凸を際立たせて、熱可塑性ポリマー層のパターンのコントラストをより鮮明に映し出すことができ、より確実な検査をすることができる。ロール上に配置されたセパレータについては、検査部分S1の接線に対して垂直方向を0度とする。
【0030】
これに対し、光源1からの光の、セパレータSの平面に対する入射角θが60度よりも小さいと、熱可塑性ポリマー層のパターンの凹凸がはっきりせず、熱可塑性ポリマー層のパターンのコントラストが鮮明に映し出せず、検査の精度が不十分なものとなってしまう。また、入射角θが90度よりも大きいと、検査部分S1に十分な光量を照射することができず鮮明な画像が得られなくなる。
【0031】
光源1からセパレータSの表面までの距離は、500mm以下であることが好ましく、より好ましくは300mm以下、さらに好ましくは100mm以下である。光源1からセパレータSまでの距離が近づくことで、熱可塑性ポリマー層のパターンを高分解能で撮像することができる。
【0032】
光源1の個数に特に限定はないが、2つ以上の光源1を用いて、セパレータSの検査部分S1に異なる向きから光を照射することが好ましい。具体的には、
図2の上面図に示すように、2つ以上の光源1は、セパレータSの検査部分S1(図中斜線で示す)を囲むように、等間隔に配置されることが好ましい。
図2では、8個の光源1を用いた例を示している。複数の光源1から均等に光を照射することで、熱可塑性ポリマー層のパターン部分の影が均一に広がるようにすることができ、熱可塑性ポリマー層のパターンのコントラストをより鮮明に映し出して、より確実な検査をすることができる。光源1の個数は、スペースの観点から50以下であることが好ましい。
【0033】
光源1の形状は、特に限定されず、例えば球状、棒状、円弧などを形成するようなフレキシブルな形状を取り得る。光源1の大きさは、特に限定されないが、1辺の長さまたは直径が1mm以上、3000mm以下であることが好ましい。また、光源1を2つ以上配置しない場合においては、1辺の長さまたは直径が100mm以上、3000mm以下の光源を使用することが好ましく、1辺の長さまたは直径が200mm以上、1500mm以下の光源を使用することがより好ましい。光源の1辺の長さまたは直径を100mm以上に調整することで、熱可塑性ポリマー層のパターン部分の影の影響を小さくでき、3000mm以下に調整することで、検査機を設置するスペースを小さくすることができる。
【0034】
カメラ2は特に限定されず、市販のカメラを使用できるが、CCDイメージセンサ、またはCMOSイメージセンサを使用することが好ましい。分解能の観点から、CMOSイメージセンサを使用することがより好ましい。カメラ2の解像度は、特に限定されないが、細かいパターンを観察するためには、100万画素以上のカメラであることが好ましい。
【0035】
カメラ2からセパレータSの表面(セパレータの検査部分)までの距離は、表面画像が検出される限り、任意の値を取り得る。その距離は、好ましくは、10mm以上、3000mm以下である。特にオンラインにて検査機を設置する際は、その距離を、250mm以上m2000mm以下に設定することが好ましく、500mm以上、1000mm以下に設定することがより好ましい。カメラからセパレータSの表面までの距離を250mm以上に設定することで、走行中にセパレータの位置がズレた際に、セパレータと接触し難くなる。また、前記距離を3000mm以下に設定することで、カメラの分解能に適した焦点距離に設定することができる。
【0036】
カメラ2の位置は、特に限定されないが、セパレータSの平面方向に垂直な方向を0度とした場合、0度以上(
図3(A))、及び/又は90度以下(
図3(B))の角度から撮影することが好ましい。より好ましい角度の上限値は75度以下、さらに好ましくは60度以下である。上記範囲となるようにカメラ2を設置することで、パターンの影部分による誤差を小さくすることができ、より確実な検査をすることができる。また、オンラインにて検査機を設置する際は、光源から検査されるセパレータ表面に対して入射角θ、反射角θにて光を照射するとき、前記カメラが、前記反射角に対し、マイナス5度(°)以上、プラス5度以下の角度の範囲内に設置されることが好ましい。この位置に設置されることで、カメラ2の感度を高めることができ、高速で搬送されるセパレータの検査に適応できる。
【0037】
カメラ2は専用の架台に固定されていることが好ましい。前記架台は、検査毎に適切な位置に調整することを可能とするために、前後、左右、上下のいずれか又は2つ以上に移動可能なステージを有することが好ましい。
【0038】
オンラインで検査する場合は、
図3(A)または
図3(B)に示すように、搬送されるセパレータSがロール11に接触する部分において撮影してもよく、ロール11に接触しない部分を撮影してもよいが、カメラ焦点のブレをなくすため、ロール11上で観察することが好ましい。ロール11上で観察する場合、ロール11の直径は10mm以上であることが好ましく、30mm以上であることがより好ましく、50mm以上であることがさらに好ましい。ロール11の直径が大きくなることでセパレータSの表面の検査部分S1の曲率が小さくなり、撮影した画像にブレが生じ難くなる。
【0039】
オフラインで撮影する場合は、ステージ10などにセパレータSを載せて撮影してもよく、ステージ10から浮かせた状態で撮影してもよいが、セパレータSを静止させる観点から、ステージ10上に載せて撮影する方法が好ましい。また、ステージ10上でセパレータSを検査する場合には、セパレータSを皺なく静置させる観点から、ガラス板をセパレータS上に載せて検査することが好ましい。
【0040】
また、ステージ10に吸引孔を設けるとともに、ステージ10の下側に吸引部を設け、空気を吸引することでセパレータSを吸着させる、吸着ステージを使用することが、検査部分S1の表面状態を一定に保つ観点から望ましい。
【0041】
上記カメラ2で撮影された画像は、画像処理ソフトにより画像処理されて、撮影されたパターンは256階調で二値化される。これにより、セパレータSの表面が、熱可塑性ポリマー層で被覆されている部分と、熱可塑性ポリマー層で被覆されていない部分とに判別される。さらに、分けられた部分について、面積、長さ(形状)などの計測を画像処理ソフト上で行う。
画像処理ソフトは市販のものを使用でき、例えば、ImageJ等のソフトを使用することができる。
【0042】
以上のようにして、セパレータ上の熱可塑性ポリマー層のパターンの面積及び/又は形状を測定し、所定の基準に従って良否を判定する。セパレータが不良と判定された場合には、熱可塑性ポリマー層の塗布条件、乾燥時間、温度等の製造条件を適切な範囲に再設定することが好ましい。なお、不良と判定されたセパレータは、マーク等を付けられ、良と判定されたセパレータとは区別され製造ラインから外される。
【0043】
第一または第二の実施形態では、塗工機等により、帯状のセパレータ上に熱可塑性ポリマー層が連続的に塗布される場合、所定の時間間隔毎に、乾燥後の熱可塑性ポリマー層の面積及び/又は形状を上記の条件で連続的に測定し、良否を判定することも可能である。
【0044】
例えば、セパレータ平面に対する入射角θがそれぞれ60度以上90度以下の範囲(好ましくは75度以上、90度未満)のときの、セパレータの熱可塑性ポリマー層のパターンの面積及び/又は形状を、所定の時間間隔毎に連続的に測定し、該連続的に測定されたパターンの面積及び/又は形状が全て基準を満たすセパレータを良として判定する。このように、第一または第二の実施形態では、連続塗工しながらオンラインで検査することが可能である。
【0045】
熱可塑性ポリマー層の面積及び/又は形状を測定して、熱可塑性ポリマー層がセパレータ表面にパターン通り好適に形成されているか否かを評価する第一または第二の実施形態に係る方法は、例えば、以下のような効果を奏する。(1)特殊な機器の使用を必要とせず簡易な方法であること、(2)セパレータを破壊することなく短時間で熱可塑性ポリマー層が好適に形成されているか否かを評価することができること、(3)短時間、簡易的方法、非破壊で評価できるため、セパレータの製造工程内で、オンラインで品質を確認することができること、(4)オンラインで品質確認が可能であるため、塗布条件、乾燥温度、乾燥時間等の製造条件へのフィードバックが可能である。
【0046】
セパレータの検査または製造は、検査された面積(例えば被覆率など)及び/又は形状の結果に対してセパレータの合否判定を行い、合否結果をフィードバックする工程を有することが好ましい。合否判定では、所定の基準を満たさない場合に、「否」として判定する。前記フィードバック工程を含むことで、AIによる自動判断を効率よく進めることが可能となる。
【0047】
上記検査工程後のセパレータは、必要に応じて所定の寸法に加工されてセパレータが製造される。
【0048】
以上のように、熱可塑性ポリマー層の塗布、乾燥後に、セパレータ表面の熱可塑性ポリマー層のパターンの面積及び/又は形状を測定することによって、熱可塑性ポリマー層の良否を評価する方法は、簡易的であり、また、セパレータを破壊することなく評価することが可能であるため、優れたセパレータの開発、製造工程の管理等に寄与するものであるといえる。
これにより、本発明では、信頼性の高いセパレータを効率よく製造することができる。
【0049】
<セパレータ>
上述したような検査方法によって検査されるセパレータは、蓄電デバイス用のセパレータであり、基材と、基材の少なくとも片面に形成された熱可塑性ポリマー層(熱可塑性ポリマー含有層)とを備える。セパレータの片面のみに熱可塑性ポリマー含有層が形成された態様と、セパレータの両面に熱可塑性ポリマー含有層が形成された態様とのいずれも、本発明の範囲に含まれる。また、第一または第二の実施形態に係るセパレータは、基材の片面または両面に無機フィラー層(無機フィラー多孔層)が存在していてもよく、その場合には、無機フィラー層の表面の一部が熱可塑性ポリマーにて被覆されている。
【0050】
特に、第一または第二の実施形態では、セパレータにおけるパラメータを適切に選択することで、上述したような検査方法において、パターン塗工部のコントラストを際立たせてパターンを認識させることができ、セパレータ上に形成される熱可塑性ポリマー含有層のパターンの面積及び/又は形状を精度よく効率的に測定することができる。
【0051】
以下、セパレータを構成することができる各部材の好ましい実施形態について、詳細に説明する。
【0052】
[基材]
基材は、それ自体が、従来セパレータとして用いられていたものでもよい。基材としては、多孔質膜が好ましく、加えて、電子伝導性がなくイオン伝導性があり、かつ有機溶媒の耐性が高い、孔径の微細な多孔質膜であるとより好ましい。そのような多孔質膜としては、例えば、ポリオレフィン系(例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、及びポリ塩化ビニル)、並びにそれらの混合物又はそれらの単量体の共重合体等の樹脂を主成分として含む微多孔膜;ポリエチレンテレフタレート、ポリシクロオレフィン、ポリエーテルスルホン、ポリアミド、ポリイミド、ポリイミドアミド、ポリアラミド、ポリシクロオレフィン、ナイロン、ポリテトラフルオロエチレン等の樹脂を主成分として含む微多孔膜;ポリオレフィン系の繊維を織ったもの(織布);ポリオレフィン系の繊維の不織布;紙;並びに絶縁性物質粒子の集合体等が挙げられる。これらは1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。
中でも、セパレータの膜厚をより薄くして、蓄電デバイス内の活物質比率を高め、ひいては体積当たりの容量を増大させる観点から、ポリオレフィン系の樹脂を主成分として含むポリオレフィン微多孔膜が好ましい。ポリオレフィン微多孔膜は、その膜上に塗布液を塗工する工程を経る場合、塗布液の塗工性に優れるので、セパレータの厚さをより薄くするのに有利である。
なお、ポリオレフィン系の樹脂を「主成分として含む」とは、基材の全質量に対して50質量%を超えて含むことを意味する。基材としてポリオレフィン微多孔膜を用いる場合、ポリオレフィン微多孔膜におけるポリオレフィン樹脂の含有量は特に限定されない。ただし、セパレータとして用いた場合のシャットダウン性能等の観点から、ポリオレフィン微多孔膜を構成する全成分の50質量%以上100質量%以下がポリオレフィン樹脂であると好ましい。ポリオレフィン樹脂の含有量は、好ましくはそのポリオレフィン微多孔膜を構成する全成分の、75質量%以上、より好ましくは85質量%以上、更に好ましくは90質量%以上、なおも更に好ましくは95質量%以上、特に好ましくは98質量%以上であり、100質量%であってもよい。
【0053】
ポリオレフィン樹脂としては、特に限定されないが、通常の押出、射出、インフレーション、及びブロー成形等に使用できるポリオレフィン樹脂であってもよい。ポリオレフィン樹脂としては、例えば、エチレン、プロピレン、1-ブテン、4-メチル-1-ペンテン、1-ヘキセン、及び1-オクテン等を単量体とするホモポリマー、並びにそれらの単量体2種以上のコポリマー、及び多段ポリマーが挙げられる。これらのホモポリマー、コポリマー、及び多段ポリマーは、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。
【0054】
ポリオレフィン樹脂の代表例としては、特に限定されないが、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、及びポリブテンが挙げられ、より詳細には、低密度ポリエチレン、線状低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、超高分子量ポリエチレン、アイソタクティックポリプロピレン、アタクティックポリプロピレン、エチレン-プロピレンランダムコポリマー、ポリブテン、及びエチレンプロピレンラバーが挙げられる。これらは1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。ポリオレフィン樹脂としては、孔が熱溶融により閉塞するシャットダウン特性の観点から、低密度ポリエチレン、線状低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、及び超高分子量ポリエチレンのようなポリエチレンが好ましい。特に、低融点であり、かつ高強度であることから、高密度ポリエチレンが好ましく、JIS K 7112に従って測定した密度が0.93g/cm3以上であるポリエチレンがより好ましい。これらのポリエチレンの製造のときに用いられる重合触媒は特に制限はなく、例えば、チーグラー・ナッタ系触媒、フィリップス系触媒、及びメタロセン系触媒が挙げられる。また、低融点、高強度、透過性、及び熱特性のバランスを制御する観点から、主成分をポリエチレンとすることが好ましい。
【0055】
基材の耐熱性を向上させるために、ポリオレフィン微多孔膜は、ポリプロピレンと、ポリプロピレン以外のポリオレフィン樹脂とを含むことがより好ましい。ここで、ポリプロピレンの立体構造は限定されず、アイソタクティックポリプロピレン、シンジオタクティックポリプロピレン、及びアタクティックポリプロピレンのいずれでもよい。また、ポリプロピレン以外のポリオレフィン樹脂としては、例えば、エチレン、1-ブテン、4-メチル-1-ペンテン、1-ヘキセン、及び1-オクテン等を単量体とするホモポリマー、並びにそれらの単量体2種以上のコポリマー、及び多段ポリマーが挙げられ、具体例としては、既に上記で説明したものが挙げられる。ポリプロピレンを製造するときに用いられる、重合触媒は特に制限はなく、例えば、チーグラー・ナッタ系触媒、及びメタロセン系触媒が挙げられる。
【0056】
ポリオレフィン微多孔膜中のポリオレフィンの総量に対するポリプロピレンの含有割合
(ポリプロピレン/ポリオレフィン)は、特に限定されないが、耐熱性と良好なシャットダウン機能の両立の観点から、1~35質量%であることが好ましく、より好ましくは3~20質量%、更に好ましくは4~10質量%である。同様の観点から、ポリオレフィン微多孔膜中のポリオレフィンの総量に対するポリプロピレン以外のオレフィン樹脂、例えばポリエチレンの含有割合(ポリプロピレン以外のオレフィン樹脂/ポリオレフィン)は、65~99質量%であることが好ましく、より好ましくは80~97質量%、更に好ましくは90~96質量%である。
ポリエチレン及びポリプロピレン以外のポリオレフィン樹脂としては、例えば、ポリブテン、及びエチレン-プロピレンランダムコポリマーが挙げられる。
【0057】
ポリオレフィン微多孔膜を構成するポリオレフィン樹脂の粘度平均分子量は、特に限定されないが、3万以上1200万以下であることが好ましく、より好ましくは5万以上200万未満、更に好ましくは10万以上100万未満である。粘度平均分子量が3万以上であると、溶融成形のときのメルトテンションが大きくなり成形性がより良好になると共に、ポリマー同士の絡み合いにより更に高強度となる傾向にあるため好ましい。一方、粘度平均分子量が1200万以下であると、均一に溶融混練をすることが容易となり、シートの成形性、特に厚み安定性に優れる傾向にあるため好ましい。更に、粘度平均分子量が100万未満であると、温度上昇時に孔を閉塞し易く、より良好なシャットダウン機能が得られる傾向にあるため好ましい。なお、粘度平均分子量(Mv)は、ASTM-D4020に基づき、溶剤としてデカリンを用い、測定温度135℃で測定された極限粘度[η]から、下記式により算出される。
ポリエチレン:[η]=6.77×10-4Mv0.67 (Chiangの式)
ポリプロピレン:[η]=1.10×10-4Mv0.80
【0058】
なお、例えば、粘度平均分子量100万未満のポリオレフィンを単独で用いる代わりに、粘度平均分子量200万のポリオレフィンと粘度平均分子量27万のポリオレフィンとの混合物であって、その粘度平均分子量が100万未満の混合物を用いてもよい。
【0059】
また、基材は、任意の添加剤を含有することができる。このような添加剤は、特に限定されず、例えば、ポリオレフィン以外のポリマー;無機粒子;フェノール系、リン系、及びイオウ系等の酸化防止剤;ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸亜鉛等の金属石鹸類;紫外線吸収剤;光安定剤;帯電防止剤;防曇剤;並びに着色顔料等が挙げられる。これらの添加剤の合計含有量は、ポリオレフィン微多孔膜中のポリオレフィン樹脂100質量部に対して、20質量部以下であることが好ましく、より好ましくは10質量部以下、更に好ましくは5質量部以下である。
【0060】
基材の気孔率は、特に限定されないが、好ましくは20%以上、より好ましくは30%以上であり、更に好ましくは35%より大きい。一方、その気孔率は、好ましくは80%以下、より好ましくは70%以下である。気孔率を20%以上とすることは、セパレータの透過性をより有効かつ確実に確保する観点から好ましい。一方、気孔率を80%以下とすることは、突刺強度をより有効かつ確実に確保する観点から好ましい。気孔率は、例えば、基材の試料の体積(cm3)、質量(g)、膜密度(g/cm3)から、下記式:
気孔率=(体積-質量/膜密度)/体積×100
により求めることができる。ここで、例えばポリエチレンから成るポリオレフィン微多孔膜の場合、膜密度を0.95(g/cm3)と仮定して計算することができる。気孔率は、ポリオレフィン微多孔膜の延伸倍率の変更等により調節可能である。特に、基材の気孔率が上記範囲内であることで、上述した検査方法によるセパレータ表面の検査時に、基材と熱可塑性ポリマー層のパターン部とのコントラストが良好になり、より確実な検査が可能となる。
【0061】
基材の透気度は、特に限定されないが、好ましくは10秒/100cm3以上、より好ましくは50秒/100cm3以上であり、好ましくは1000秒/100cm3以下、より好ましくは500秒/100cm3以下である。透気度を10秒/100cm3以上とすることは、蓄電デバイスの自己放電を抑制する観点から好ましい。一方、透気度を1000秒/100cm3以下とすることは、良好な充放電特性を得る観点から好ましい。透気度は、JIS P-8117に準拠して測定される透気抵抗度である。透気度は、基材の延伸温度、及び/又は延伸倍率の変更等により調節可能である。
【0062】
基材の平均孔径は、好ましくは0.15μm以下であり、より好ましくは0.1μm以下であり、好ましくは0.01μm以上である。平均孔径を0.15μm以下とすることは、蓄電デバイスの自己放電を抑制し、容量低下を抑制する観点から好適である。平均孔径は、基材を製造するときの延伸倍率の変更等により調節可能である。
【0063】
基材の突刺強度は、特に限定されないが、好ましくは200gf/20μm以上、より好ましくは300gf/20μm以上であり、更に好ましくは400gf/20μm以上であり、好ましくは2000gf/20μm以下、より好ましくは1000gf/20μm以下である。突刺強度が200gf/20μm以上であることは、セパレータを電極と共に捲回したときにおける、脱落した活物質等による破膜を抑制する観点、及び充放電に伴う電極の膨張収縮によって短絡する懸念を抑制する観点からも好ましい。一方、突刺強度が2000gf/20μm以下であることは、加熱時の配向緩和による幅収縮を低減できる観点から好ましい。突刺強度は、実施例に記載の方法に準じて測定される。突刺強度は、基材の延伸倍率、及び/又は延伸温度等を調整することにより調節可能である。
【0064】
基材の厚さは、特に限定されないが、好ましくは2μm以上、より好ましくは5μm以上であり、好ましくは100μm以下、より好ましくは60μm以下、更に好ましくは50μm以下である。膜厚を2μm以上とすることは、機械強度を向上させる観点から好ましい。一方、膜厚を100μm以下とすることは、蓄電デバイスにおけるセパレータの占有体積が減るため、蓄電デバイスの高容量化の点において有利となる傾向があるので好ましい。
【0065】
[熱可塑性ポリマー含有層]
熱可塑性ポリマー含有層は、熱可塑性ポリマーを含有する。熱可塑性ポリマー含有層は、基材の表面の、全部に配置されてもよいし、一部に配置されてもよい。得られる蓄電デバイスが高いイオン透過性を示すように、熱可塑性ポリマー含有層を、基材の面の一部にのみ配置することがより好ましい。
【0066】
熱可塑性ポリマー含有層は、電極と直接接着されることが予定されている。セパレータに備えられる少なくとも1つの熱可塑性ポリマー含有層は、電極と直接接着されるように、例えば、基材の少なくとも一部と電極とが熱可塑性ポリマー含有層を介して接着されるように配置されることが好ましい。
【0067】
熱可塑性ポリマー含有層の基材に対する塗工量、すなわち、基材の一つの面の面積当たりの熱可塑性ポリマー含有層の形成量(配置量)は、固形分で0.01g/m2以上であると好ましく、0.03g/m2以上であるとより好ましい。また、その塗工量は、2.0g/m2以下であると好ましく、1.5g/m2以下であると更に好ましい。その塗工量を0.01g/m2以上とすることは、得られるセパレータにおいて、熱可塑性ポリマー含有層と電極との接着力を向上させ、より均一な充放電を実現し、デバイス特性(例えば電池のサイクル特性)を向上させる点で好ましい。一方で、その塗工量を2.0g/m2以下とすることは、イオン透過性の低下を更に抑制する観点から好ましい。
【0068】
基材における、熱可塑性ポリマー含有層が配置される面の全面積に対する、熱可塑性ポリマー含有層がその上に存在する面の面積割合、すなわち熱可塑性ポリマー含有層の基材に対する被覆面積割合は、95%以下であることが好ましく、80%以下であると好ましく、50%以下であるとより好ましく、35%以下であると特に好ましい。また、この表面被覆率は、5%以上であると好ましく、10%以上であるとより好ましく、15%以上であると特に好ましい。この被覆面積割合を95%以下とすることは、イオン透過性を高め、レート特性を向上させる観点から好ましい。これにより出力を確保することができる。被覆面積割合を50%以下とすることは、セパレータのみを捲回したとき、基材の面の露出部分(熱可塑性ポリマー含有層が存在しない部分)と、別の基材又は別の熱可塑性ポリマー含有層との接触面積を大きくすることで耐ブロッキング性を確保する観点から好ましい。また、熱可塑性ポリマーによる基材の孔の閉塞を更に抑制し、セパレータの透過性を一層向上する観点からも好ましい。一方、被覆面積割合を5%以上とすることは、電極への接着性を一層向上する観点から好ましい。
【0069】
被覆面積割合は、例えば、後述のセパレータの製造方法において、基材の表面に塗布する塗布液中の熱可塑性ポリマーの種類又はその重合体の濃度、塗布液の塗布量、塗布方法、及び塗布条件を変更することにより調整することができる。ただし、塗工面積の調整方法は、それらに限定されない。
【0070】
熱可塑性ポリマー含有層を基材の面の一部にのみ配置する場合、熱可塑性ポリマーの存在形態(パターン)は特に限定されるものではないが、一定のパターン(単位パターン)がある頻度で周期的に(繰り返し)存在する状態が好ましい。熱可塑性ポリマーが一定のパターンがある頻度で周期的に存在する場合、その配置パターンとしては、例えば、
図4に示すように、(A)ドット状、(B)格子状、(C)ストライプ状、(D)縞状、(E)亀甲状等、及びこれらの組み合わせが挙げられる。これらの中では、電解液の注液性の観点、及び、生産性の観点から、ドット状が好ましい。
【0071】
熱可塑性ポリマーのパターンを構成する単位パターンの大きさは、10μm×10μm以上、10mm×10mm以下であることが好ましい。単位パターンの大きさが10μm以上であることで、上述した検査方法によるセパレータ表面の検査時に、低倍率で観察ができ十分な作業効率を確保できる。また、単位パターンの大きさが10mm以下であることで、代表値として誤差の少ない撮影ができる。
【0072】
例えば、単位パターンがドット状である場合、そのドット径は50μm以上であることが好ましく、100μm以上であることがより好ましく、200μm以上であることがより好ましい。また、そのドット径は、1mm以下であることが好ましく、500μm以下であることがより好ましい。ドット径が50μm以上であることで、電解液中のイオンの流れが更に良好となり透過性に一層優れる。ドット径が1mm以下であることで、セパレータを電極とより均一に接着させることができ、面内の電流密度を更に均一にすることができる。更に、ドット状の配置パターンの中に熱可塑性ポリマーが塗布されていない部分を設けることで、より一層面内の電流密度を均一にすることができる。
【0073】
熱可塑性ポリマー含有層を部分的に配置する場合、被覆面積割合が、ある一定の面積範囲において、均一であることが望ましい。具体的には、セパレータの表面をSEMにて観察した際の2mm×2mm以上の観察視野範囲において、下記式で表される被覆面積割合の変化率が±50%以内であることが好ましい。
(被覆面積割合の変化率(%))=(C1-C2)/C1×100
ここで、C1は任意の2mm×2mm以上の観察視野範囲における被覆面積割合を示し、C2はそれ以外の2mm×2mm以上の観察視野範囲における被覆面積割合を示す。例えば、熱可塑性ポリマー含有層が部分的に配置されているセパレータについて、2mm×2mmのある観察視野範囲における被覆面積割合の測定値が50%であった場合、そのセパレータの他のどの部分を観察しても、10mm×10mmの観察視野範囲における被覆面積割合が25%以上75%以下であることが好ましい。
【0074】
熱可塑性ポリマー含有層の厚さは、基材の一つの面当たり、0.01μm以上であることが好ましく、0.1μm以上であることがより好ましい。また、その厚さは、基材の一つの面当たり、10.0μm以下であることが好ましく、5.0μm以下であることがより好ましい。この厚さを0.01μm以上とすることは、電極と基材との間の接着力を均一に発現する点で好ましく、その結果、デバイス特性を向上させることができる。また、この厚さを10.0μm以下とすることはイオン透過性の低下を抑制する点で好ましい。熱可塑性ポリマー含有層の厚さは、例えば、基材に塗布する塗布液における熱可塑性ポリマーの種類又はその重合体の濃度、塗布液の塗布量、塗布方法、及び塗布条件などを変更することにより調整することができる。ただし、この厚さの調整方法は、それらに限定されない。熱可塑性ポリマー含有層の厚さは、実施例に記載の方法に準じて測定される。
【0075】
(粒子状重合体)
熱可塑性ポリマー含有層に含まれる熱可塑性ポリマーは、粒子状の高分子化合物(粒子状重合体)を含むことが好ましい。以下の説明において「エチレン性不飽和単量体」とは、分子内にエチレン性不飽和結合を1つ以上有する単量体を意味する。熱可塑性ポリマーが粒子状重合体を含むことにより、優れた電極への接着力とイオン透過性を両立することができる。
【0076】
特に、熱可塑性ポリマーが粒子状重合体を含むことで、上述した検査方法によるセパレータ表面の検査時に、熱可塑性ポリマー層に照射される光の散乱が促進され、基材または無機フィラー層と熱可塑性ポリマー層とのパターン部のコントラストが良好になり、より確実な検査が可能となる。
【0077】
粒子状重合体の具体例としては、アクリル系重合体、共役ジエン系重合体、アクリル系重合体、ポリビニルアルコール系樹脂、及び含フッ素樹脂が挙げられる。これらの中でも、ラテックス接着性と透過性の観点からアクリル系重合体が好ましい。また、耐電圧性の観点からアクリル系重合体、及び含フッ素樹脂も好ましく、電極とのなじみ易さの観点から共役ジエン系重合体も好ましい。更に、本発明による作用効果をより有効かつ確実に奏する観点から、粒子状重合体は粒子状の共重合体を含むと好ましい。粒子状重合体は1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。
【0078】
また、熱可塑性ポリマー含有層に含まれる熱可塑性ポリマーは、その全量に対して、好ましくは60質量%以上、より好ましくは90質量%以上、更に好ましくは95質量%以上、特に好ましくは98質量%以上、粒子状重合体を含む。なお、熱可塑性ポリマー含有層は、粒子状重合体以外の熱可塑性ポリマーを、本発明の効果を損なわない程度に含んでもよい。
【0079】
共役ジエン系重合体は、共役ジエン化合物を単量体単位として有する重合体である。共役ジエン化合物としては、例えば、1,3-ブタジエン、2-メチル-1,3-ブタジエン、2,3-ジメチル-1,3-ブタジエン、2-クロル-1,3-ブタジエン、置換直鎖共役ペンタジエン類、置換、及び側鎖共役ヘキサジエン類が挙げられ、これらは1種を単独で用いても2種以上を併用してもよい。これらの中でも、特に1,3-ブタジエンが好ましい。また、共役ジエン系重合体は、後述する(メタ)アクリル系化合物又は他の単量体を単量体単位として含んでいてもよい。そのような単量体としては、例えば、スチレン-ブタジエン共重合体、及びその水素化物、アクリロニトリル-ブタジエン共重合体、及びその水素化物、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体、及びその水素化物が挙げられる。
【0080】
ポリビニルアルコール系樹脂としては、例えば、ポリビニルアルコール、ポリ酢酸ビニル等が挙げられる。また、含フッ素樹脂としては、例えば、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、フッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体、フッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン-テトラフルオロエチレン共重合体、及びエチレン-テトラフルオロエチレン共重合体が挙げられる。
【0081】
アクリル系重合体は、(メタ)アクリル系化合物を単量体単位すなわち重合単位として有する重合体である。(メタ)アクリル系化合物とは、(メタ)アクリル酸、及び(メタ)アクリル酸エステルから成る群より選ばれる少なくとも1種を示す。このような化合物としては、例えば、下記式で表される化合物が挙げられる。
CH2=CRY1-COO-RY2
式中、RY1は水素原子又はメチル基を示し、RY2は水素原子又は1価の炭化水素基を示す。RY2が1価の炭化水素基の場合は、置換基を有していてもよくかつ鎖内にヘテロ原子を有していてもよい。1価の炭化水素基としては、例えば、直鎖であっても分岐していてもよい鎖状アルキル基、シクロアルキル基、及びアリール基が挙げられる。置換基としては、例えば、ヒドロキシル基、及びフェニル基が挙げられ、ヘテロ原子としては、例えばハロゲン原子、及び酸素原子が挙げられる。(メタ)アクリル系化合物は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。このような(メタ)アクリル系化合物としては、(メタ)アクリル酸、鎖状アルキル(メタ)アクリレート、シクロアルキル(メタ)アクリレート、ヒドロキシル基を有する(メタ)アクリレート、及びフェニル基含有(メタ)アクリレートが挙げられる。
【0082】
RY2の1種である鎖状アルキル基として、より具体的には、メチル基、エチル基、n-プロピル基、及びイソプロピル基のような炭素原子数が1~3の鎖状アルキル基;n-ブチル基、イソブチル基、t-ブチル基、n-ヘキシル基、2-エチルヘキシル基;並びにラウリル基のような炭素原子数が4以上の鎖状アルキル基等が挙げられる。また、RY2の1種であるアリール基としては、例えばフェニル基が挙げられる。そのようなRY2を有する(メタ)アクリル酸エステル単量体の具体例としては、例えば、メチルアクリレート、エチルアクリレート、プロピルアクリレート、イソプロピルアクリレート、ブチルアクリレート、イソブチルアクリレート、t-ブチルアクリレート、n-ヘキシルアクリレート、2-エチルヘキシルアクリレート、ラウリルアクリレート、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、プロピルメタクリレート、イソプロピルメタクリレート、ブチルメタクリレート、イソブチルメタクリレート、t-ブチルメタクリレート、n-ヘキシルメタクリレート、2-エチルヘキシルメタクリレート、及びラウリルメタクリレートのような鎖状アルキル基を有する(メタ)アクリレート;並びにフェニル(メタ)アクリレート、及びベンジル(メタ)アクリレートのような芳香環を有する(メタ)アクリレートが挙げられる。
【0083】
これらの中では、セパレータの電極(電極活物質)への接着性向上の観点から、炭素原子数が4以上の鎖状アルキル基を有する単量体、より具体的には、RY2が炭素原子数4以上の鎖状アルキル基である(メタ)アクリル酸エステル単量体が好ましい。より具体的には、ブチルアクリレート、ブチルメタクリレート、及び2-エチルヘキシルアクリレートから成る群より選択される少なくとも1種が好ましい。なお、炭素原子数が4以上の鎖状アルキル基における炭素原子数の上限は特に限定されず、例えば14であってもよいが、7が好ましい。これら(メタ)アクリル酸エステル単量体は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。
【0084】
(メタ)アクリル酸エステル単量体は、炭素原子数が4以上の鎖状アルキル基を有する単量体に代えて又はこれに加えて、RY2としてシクロアルキル基を有する単量体を含むことも好ましい。これによっても、セパレータは電極への接着性が更に向上する。そのようなシクロアルキル基を有する単量体としては、より具体的には、例えば、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、及びアダマンチル(メタ)アクリレートが挙げられる。シクロアルキル基の脂環を構成する炭素原子の数は、4~8が好ましく、6~7がより好ましく、6が特に好ましい。また、シクロアルキル基は置換基を有していても有していなくてもよい。置換基としては、例えば、メチル基、及びt-ブチル基が挙げられる。これらの中では、シクロヘキシルアクリレート、及びシクロヘキシルメタクリレートから成る群より選択される少なくとも1種が、アクリル系重合体調製時の重合安定性が良好である点で好ましい。これらは1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。
【0085】
アクリル系重合体は、(メタ)アクリル酸エステル単量体として、上記のものに代えて又は加えて、好ましくは上記のものに加えて、架橋性単量体を含むことが好ましい。架橋性単量体としては、特に限定されないが、例えば、ラジカル重合性の二重結合を2個以上有している単量体、重合中又は重合後に自己架橋構造を与える官能基を有する単量体等が挙げられる。これらは1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。
【0086】
ラジカル重合性の二重結合を2個以上有している単量体としては、例えば、ジビニルベンゼン、及び多官能(メタ)アクリレートが挙げられる。多官能(メタ)アクリレートは、2官能(メタ)アクリレート、3官能(メタ)アクリレート、及び4官能(メタ)アクリレートから成る群より選択される少なくとも1種であってもよい。具体的には、例えば、ポリオキシエチレンジアクリレート、ポリオキシエチレンジメタクリレート、ポリオキシプロピレンジアクリレート、ポリオキシプロピレンジメタクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジメタクリレート、ブタンジオールジアクリレート、ブタンジオールジメタクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、及びペンタエリスリトールテトラメタクリレートが挙げられる。これらは1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。中でも、上記と同様の観点から、トリメチロールプロパントリアクリレート又はトリメチロールプロパントリメタクリレートの少なくとも1種が好ましい。
【0087】
重合中又は重合後に自己架橋構造を与える官能基を有する単量体としては、例えば、エポキシ基を有する単量体、メチロール基を有する単量体、アルコキシメチル基を有する単量体、及び加水分解性シリル基を有する単量体が挙げられる。エポキシ基を有する単量体としては、アルコキシメチル基を有するエチレン性不飽和単量体が好ましく、具体的には例えば、グリシジル(メタ)アクリレート、2,3-エポキシシクロヘキシル(メタ)アクリレート、3,4-エポキシシクロヘキシル(メタ)アクリレート、及びアリルグリシジルエーテルが挙げられる。
【0088】
メチロール基を有する単量体としては、例えば、N-メチロールアクリルアミド、N-メチロールメタクリルアミド、ジメチロールアクリルアミド、及びジメチロールメタクリルアミドが挙げられる。アルコキシメチル基を有する単量体としては、アルコキシメチル基を有するエチレン性不飽和単量体が好ましく、具体的には例えば、N-メトキシメチルアクリルアミド、N-メトキシメチルメタクリルアミド、N-ブトキシメチルアクリルアミド、及びN-ブトキシメチルメタクリルアミドが挙げられる。加水分解性シリル基を有する単量体としては、例えば、ビニルシラン、γ-アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ-アクリロキシプロピルトリエトキシシラン、γ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、及びγ-メタクリロキシプロピルトリエトキシシランが挙げられる。これらは1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。
【0089】
また、上記アクリル系重合体は、様々な品質、及び物性を改良するために、上記以外の単量体を単量体単位として更に有してもよい。そのような単量体としては、例えば、カルボキシル基を有する単量体(ただし、(メタ)アクリル酸を除く。)、アミド基を有する単量体、シアノ基を有する単量体、ヒドロキシル基を有する単量体、及び芳香族ビニル単量体(ジビニルベンゼンを除く。)が挙げられる。更に、スルホン酸基又はリン酸基のような官能基を有する各種のビニル系単量体、及び酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、バーサチック酸ビニル、ビニルピロリドン、メチルビニルケトン、ブタジエン、エチレン、プロピレン、塩化ビニル、及び塩化ビニリデンも必要に応じて用いられる。これらは1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。また、このような他の単量体は、上記各単量体のうち2種以上に同時に属するものであってもよい。
【0090】
アミド基を有する単量体としては、例えば、(メタ)アクリルアミドが挙げられる。シアノ基を有する単量体としては、シアノ基を有するエチレン性不飽和単量体が好ましく、具体的には、例えば、(メタ)アクリロニトリルが挙げられる。ヒドロキシル基を有する単量体としては、例えば、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートが挙げられる。
【0091】
芳香族ビニル単量体としては、例えば、スチレン、ビニルトルエン、ジビニルベンゼン、及びα-メチルスチレンが挙げられる。好ましくはスチレンである。
【0092】
アクリル系重合体が(メタ)アクリル系化合物を単量体単位すなわち重合単位として有する割合は、アクリル系重合体100質量%に対して、好ましくは5質量%以上95質量%以下である。その下限値は、より好ましくは15質量%であり、更に好ましくは20質量%であり、特に好ましくは30質量%である。単量体単位の含有割合が5質量%以上であると、基材への結着性、及び耐酸化性の点で好ましい。一方、より好ましい上限値は92質量%であり、更に好ましい上限値は80質量%であり、特に好ましい上限値は60質量%である。単量体の含有割合が95質量%以下であると、基材への接着性が向上するため好ましい。
【0093】
アクリル系重合体が、鎖状アルキル(メタ)アクリレート又はシクロアルキル(メタ)アクリレートを単量体単位として有する場合、それらの含有割合の合計は、アクリル系重合体100質量%に対して、好ましくは、3質量%以上92質量%以下であり、より好ましくは10質量%以上90質量%以下であり、更に好ましくは15質量%以上75質量%以下であり、特に好ましくは25質量%以上55質量%以下である。これらの単量体の含有割合が3質量%以上であると耐酸化性の向上の点で好ましく、92質量%以下であると、基材との結着性が向上するため好ましい。
【0094】
アクリル系重合体が、(メタ)アクリル酸を単量体単位として有する場合、その含有割合は、アクリル系重合体100質量%に対して、好ましくは0.1質量%以上5質量%以下である。上記単量体の含有割合が、0.1質量%以上であると、セパレータは膨潤状態でのクッション性が向上する傾向にあり、5質量%以下であると、重合安定性が良好な傾向にある。
【0095】
アクリル系重合体が、架橋性単量体を単量体単位として有する場合、アクリル系重合体における架橋性単量体の含有割合は、アクリル系重合体100質量%に対して、好ましくは0.01質量%以上10質量%以下であり、より好ましくは0.1質量%以上5質量%以下であり、更に好ましくは0.1質量%以上3質量%以下である。上記単量体の含有割合が0.01質量%以上であると耐電解液性が更に向上し、10質量%以下であると膨潤状態でのクッション性の低下をより抑制することができる。
【0096】
アクリル系重合体としては、以下のいずれかの態様が好ましい。以下の共重合の含有割合は、いずれも、共重合体100質量%を基準とする値である。
(1)(メタ)アクリル酸エステルを単量体単位として有する共重合体(但し、下記の(2)の共重合体、及び(3)の共重合体を除く。)。好ましくは、(メタ)アクリル酸5質量%以下(より好ましくは0.1質量%以上5質量%以下)と、(メタ)アクリル酸エステル単量体3質量%以上92質量%以下(より好ましくは10質量%以上90質量%以下、更に好ましくは15質量%以上75質量%以下、特に好ましくは25質量%以上55質量%以下)と、アミド基を有する単量体、シアノ基を有する単量体、及びヒドロキシル基を有する単量体から成る群より選択される少なくとも1種15質量%以下(より好ましくは10質量%以下)と、架橋性単量体10質量%以下(より好ましくは0.01質量%以上5質量%以下、更に好ましくは0.1質量%以上3質量%以下)と、の共重合体;
(2)芳香族ビニル単量体と(メタ)アクリル酸エステル単量体とを単量体単位として有する共重合体。好ましくは、芳香族ビニル単量体5質量%以上95質量%以下(より好ましくは10質量%以上92質量%以下、更に好ましくは25質量%以上80質量%以下、特に好ましくは40質量%以上60質量%以下)と、(メタ)アクリル酸5質量%以下(より好ましくは0.1質量%以上5質量%以下)と、(メタ)アクリル酸エステル単量体5質量%以上95質量%以下(より好ましくは15質量%以上85質量%以下、更に好ましくは20質量%以上80質量%以下、特に好ましくは30質量%以上75質量%以下)と、アミド基を有する単量体、シアノ基を有する単量体、及びヒドロキシル基を有する単量体から成る群より選択される少なくとも1種10質量%以下(より好ましくは5質量%以下)と、架橋性単量体10質量%以下(より好ましくは0.01質量%以上5質量%以下、更に好ましくは0.1質量%以上3質量%以下)と、の共重合体;並びに
(3)シアノ基を有する単量体と(メタ)アクリル酸エステル単量体とを単量体単位として有する共重合体。好ましくは、シアノ基を有する単量体1質量%以上95質量%以下(より好ましくは5質量%以上90質量%以下、更に好ましくは50質量%以上85質量%以下)と、(メタ)アクリル酸5質量%以下(好ましくは0.1質量%以上5質量%以下)と、(メタ)アクリル酸エステル単量体1質量%以上95質量%以下(より好ましくは5質量%以上85質量%以下、更に好ましくは10質量%以上50質量%以下)と、アミド基を有する単量体、シアノ基を有する単量体、及びヒドロキシル基を有する単量体から成る群より選択される少なくとも1種10質量%以下(より好ましくは5質量%以下)と、架橋性単量体10質量%以下(より好ましくは0.01質量%以上5質量%以下、更に好ましくは0.1質量%以上3質量%以下)と、の共重合体。
【0097】
上記(2)の共重合体において、(メタ)アクリル酸エステル単量体として(メタ)アクリル酸の炭化水素エステルを有することが好ましい。この場合の(メタ)アクリル酸の炭化水素エステルの共重合割合は0.1質量%以上5質量%以下であることが好ましい。また、上記(2)の共重合体がアミド基を有する単量体を有する場合、その共重合割合は、0.1質量%以上5質量%以下であることが好ましい。更に、上記(2)の共重合体がヒドロキシル基を有する単量体を有する場合、その共重合割合は、0.1質量%以上5質量%以下であることが好ましい。
【0098】
上記(3)の共重合体において、(メタ)アクリル酸エステル単量体として、鎖状アルキル(メタ)アクリレート、及びシクロアルキル(メタ)アクリレートから成る群より選択される少なくとも1種を含むことが好ましい。上記鎖状アルキル(メタ)アクリレートとしては、炭素原子数が6以上の鎖状アルキル基を有する(メタ)アクリル酸エステルが好ましい。(3)の共重合体における鎖状アルキル(メタ)アクリレートの共重合割合は、1質量%以上95質量%以下であることが好ましく、3質量%以上90質量%以下であることがより好ましく、5質量%以上85質量%以下であることが更に好ましい。この共重合割合の上限値は、60質量%であってもよく、特に40質量%又は30質量%であってもよく、とりわけ好ましくは20質量%である。(3)の共重合体におけるシクロヘキシルアルキル(メタ)アクリレートの共重合割合は、1質量%以上95質量%以下であることが好ましく、3質量%以上90質量%以下であることがより好ましく、5質量%以上85質量%以下であることが更に好ましい。この共重合割合の上限値は、60質量%であってもよく、特に50質量%であってもよく、とりわけ好ましくは40質量%である。また、上記(3)の共重合体がアミド基を有する単量体を有する場合、その共重合割合は、0.1質量%以上10質量%以下であることが好ましく、2質量%以上10質量%以下であることがより好ましい。更に、上記(3)の共重合体がヒドロキシル基を有する単量体を有する場合、その共重合割合は、0.1質量%以上10質量%以下であることが好ましく、1質量%以上10質量%以下であることがより好ましい。
【0099】
例えば、水性媒体中で上述の単量体、界面活性剤、ラジカル重合開始剤、及び必要に応じて用いられる他の添加剤成分を基本組成成分とする分散系において、上記各単量体を含む単量体組成物を重合することによりアクリル系重合体が得られる。重合に際しては、供給する単量体組成物の組成を全重合過程で一定にする方法、重合過程で逐次又は連続的に変化させることによって生成する樹脂分散体の粒子の形態的な組成変化を与える方法等、必要に応じて様々な方法が利用できる。アクリル系重合体を乳化重合により得る場合、例えば、水と、その水中に分散した粒子状のアクリル系重合体とを含む水分散体(ラテックス)の形態であってもよい。
【0100】
界面活性剤は、一分子中に少なくとも1つ以上の親水基と1つ以上の親油基とを有する化合物である。界面活性剤については後述するので、ここでは説明を省略する。
また、ラジカル重合開始剤としては、熱又は還元性物質によりラジカル分解して単量体の付加重合を開始させるものである。ラジカル重合開始剤については後述するので、ここでは説明を省略する。
【0101】
熱可塑性ポリマーの形態の中でも、セパレータと電極との接着性、蓄電デバイスの高温保存特性、及びサイクル特性を向上させ、かつ電極とセパレータとの接着体の薄膜化を達成する観点から、単量体と、乳化剤と、開始剤と、水とを含むエマルションから形成されるアクリル系コポリマーラテックスが好ましい。
【0102】
粒子状重合体のガラス転移温度(Tg)は、電極への接着性、及びイオン透過性の観点から、-50℃以上であることが好ましく、-30℃以上であることがより好ましく、20℃以上であることが更に好ましく、また、ブロッキングの抑制の観点から、40℃以上であることがなおも更に好ましい。更に、常温で粒子状態を保つという観点から25℃以上であることが好ましい。また、粒子状重合体のガラス転移温度は、200℃以下であることが好ましい。ガラス転移温度は、JISK7121に記載の中間点ガラス転移温度のことを指し、示差走査熱量測定(DSC)で得られるDSC曲線から決定される。具体的には、DSC曲線における低温側のベースラインを高温側に延長した直線と、DSC曲線における高温側のベースラインを低温側に延長した直線から縦軸方向に等距離にある直線に対し、ガラス転移の段階上変化部分の曲線とが交わる点の温度をガラス転移温度として採用することができる。より詳細には、実施例に記載の方法に準じて決定すればよい。また、「ガラス転移」はDSCにおいて試験片であるポリマーの状態変化に伴う熱流量変化が吸熱側に生じたものを指す。このような熱流量変化はDSC曲線において階段状変化の形状として観測される。「階段状変化」とは、DSC曲線において、曲線がそれまでの低温側のベースラインから離れ新たな高温側のベースラインに移行するまでの部分を示す。なお、階段状変化とピークとが組み合わされたものも階段状変化に含まれることとする。また、階段状変化部分において、上側を発熱側とした場合に、上に凸の曲線が下に凸の曲線に変わる点と表現することもできる。「ピーク」とは、DSC曲線において、曲線が低温側のベースラインから離れてから再度同じベースラインに戻るまでの部分を示す。「ベースライン」とは、試験片に転移、及び反応を生じない温度領域のDSC曲線のことを示す。
【0103】
粒子状重合体のガラス転移温度Tgは、例えば、粒子状重合体を製造する際に用いる単量体の種類、及び粒子状重合体が共重合体である場合は各単量体の配合比を変更することにより、適宜調整できる。すなわち、粒子状重合体の製造に用いられる各単量体について、一般に示されているそのホモポリマーのTg(例えば、「ポリマーハンドブック」(A WILEY-INTERSCIENCE PUBLICATION)に記載)と、単量体の配合割合とから、ガラス転移温度の概略を推定することができる。例えば、約100℃のTgのホモポリマーを与えるメチルメタクリレ-ト、アクリルニトリル、及びメタクリル酸のような単量体を高い比率で共重合した共重合体のTgは高くなり、約-50℃のTgのホモポリマーを与えるn-ブチルアクリレ-ト、及び2-エチルヘキシルアクリレ-トのような単量体を高い比率で共重合した共重合体のTgは低くなる。
また、共重合体のTgは、下記数式(1)で表されるFOXの式によっても、概算することができる。
1/Tg=W1/Tg1+W2/Tg2+・・・+Wi/Tgi+・・・Wn/Tgn (1)
ここで、式中、Tg(K)は共重合体のTgであり、Tgi(K)は単量体iのホモポリマーのTgであり、Wiは各単量体の質量分率である。
ただし、好ましい実施形態における粒子状重合体のガラス転移温度Tgとしては、上記DSCを用いる方法により測定した値を採用する。
【0104】
基材への濡れ性、基材と熱可塑性ポリマー含有層との結着性、及び電極への接着性の観点から、熱可塑性ポリマー含有層には、ガラス転移温度が20℃未満のポリマーが含まれることが好ましい。ガラス転移温度が20℃未満のポリマーのガラス転移温度は、イオン透過性の観点から好ましくは-100℃以上、より好ましくは-50℃以上、更に好ましくは-40℃以上であり、ポリオレフィン微多孔膜と熱可塑性ポリマー含有層との結着性の観点から好ましくは20℃未満、より好ましくは15℃未満、更に好ましくは10℃未満である。
【0105】
製造時のハンドリング性を向上する観点から、粒子状重合体は、ガラス転移温度を少なくとも2つ有すると好ましい。つまり、熱可塑性ポリマー含有層が、互いに異なるガラス転移温度を有する2種類以上の熱可塑性ポリマーを含むことが好ましい。粒子状重合体がガラス転移温度を少なくとも2つ有するようにする方法としては、限定されるものではないが、2種類以上の粒子状重合体をブレンドする方法、及びコアシェル構造を備える粒子状重合体を用いる方法が挙げられる。コアシェル構造とは、中心部分とその中心部分を被覆する外殻部分とを有する構造であって、それぞれの部分を構成するポリマーの種類又は組成が互いに異なる、二重構造の形態をしたポリマーである。特に、ポリマーのブレンド、及びコアシェル構造において、ガラス転移温度の高いポリマーと低いポリマーとを組み合せることにより、粒子状重合体全体のガラス転移温度を制御できる。また、粒子状重合体全体に複数の機能を付与することができる。
【0106】
例えば、2種類以上の粒子状重合体をブレンドする場合、特にガラス転移温度が20℃以上の領域に存在する1種以上のポリマーと、ガラス転移温度が20℃未満の領域に存在する1種以上のポリマーとをブレンドすることにより、耐ベタツキ性と基材への塗れ性とを更に良好に両立することができる。ブレンドする場合のそれぞれのポリマーの混合比は、ガラス転移温度が20℃以上の領域に存在するポリマーと、ガラス転移温度が20℃未満の領域に存在するポリマーとの比として、0.1:99.9~99.9:0.1の範囲であることが好ましく、より好ましくは、5:95~95:5であり、更に好ましくは50:50~95:5であり、特に好ましくは60:40~90:10である。
【0107】
コアシェル構造を備える粒子状重合体を用いる場合、外殻部分のポリマーの種類を選択することにより、熱可塑性ポリマー含有層の他の部材(例えば基材等)に対する接着性、及び相溶性の調整ができる。また、中心部分のポリマーの種類を選択することにより、例えば熱プレス後の電極への接着性を高めることができる。あるいは、粘性の高いポリマーと弾性の高いポリマーとを組み合わせることにより、熱可塑性ポリマー含有層の粘弾性を制御することも可能である。
【0108】
なお、コアシェル構造を備える熱可塑性ポリマーの外殻部分(シェル)のガラス転移温度は、特に限定されないが、20℃以上であると好ましく、80℃以上であるとより好ましく、200℃以下であることが好ましく、130℃以下であることがより好ましい。また、コアシェル構造を備える熱可塑性ポリマーの中心部分(コア)のガラス転移温度は、特に限定されないが、20℃以上が好ましく、20℃以上200℃以下がより好ましく、40℃以上200℃以下が更に好ましい。
【0109】
粒子状重合体の算術平均粒径は、好ましくは50nm以上であり、より好ましくは150nm以上であり、更に好ましくは200nm以上である。また、粒子状重合体の算術平均粒径は、10,000nm以下であり、好ましくは1200nm以下であり、より好ましくは1000nm以下であり、更に好ましくは700nm以下である。この算術平均粒径を10nm以上とすることにより、セパレータのイオン透過性をより高く維持できる。したがって、この場合、電極とセパレータとの間の接着性、及び蓄電デバイスのサイクル特性、及びレート特性を向上させるという観点から好ましい。また、この算術平均粒径を10,000nm以下とすることは、粒子状重合体を含む熱可塑性ポリマー含有層を水分散体から形成する場合に、その分散安定性を確保する観点から好ましく、また、熱可塑性ポリマー含有層の厚さを柔軟に制御できる観点、及び、乾燥後のセパレータからの熱可塑性ポリマーの脱離を防止する観点から好ましい。
これらの観点から、粒子状重合体の算術平均粒径が50nm以上10,000nm以下であると特に好ましい。上記範囲であることで、上述した検査方法によるセパレータ表面の検査時に、基材または無機フィラー層と熱可塑性ポリマーのパターン部とのコントラストが良好になり、より確実な検査が可能となる。
粒子状重合体の算術平均粒径は、下記実施例に記載の方法に準じて測定される。
【0110】
それぞれ異なる算術平均粒径を有する2種類以上の粒子状重合体を、熱可塑性ポリマー含有層に含有させることもできる。例えば、10nm以上400nm以下の算術平均粒径を有する粒子状重合体(以下、「小粒径粒子」という)と、100nmを超え、かつ2000nm以下の算術平均粒径を有する粒子状重合体(以下、「大粒径粒子」という)との組み合わせを用いると好ましい。
【0111】
粒子状重合体の重合に使用する界面活性剤は、一分子中に少なくとも1つ以上の親水基と1つ以上の親油基とを有する化合物である。界面活性剤としては、例えば、ポリエーテル系界面活性剤;非反応性のアルキル硫酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステル塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩、アルキルスルホコハク酸塩、アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸塩、ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物、ポリオキシエチレン多環フェニルエーテル硫酸エステル塩、ポリオキシエチレンジスチレン化フェニルエーテル硫酸エステル塩、脂肪酸塩、アルキルリン酸塩、及びポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸エステル塩等のアニオン性界面活性剤;並びに非反応性のポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレン多環フェニルエーテル、ポリオキシエチレンジスチレン化フェニルエーテル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビトール脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルアミン、アルキルアルカノールアミド、及びポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル等のノニオン性界面活性剤が挙げられる。これらの他に、親水基と親油基とを有する界面活性剤の化学構造式の中にエチレン性二重結合を導入した、いわゆる反応性界面活性剤を用いてもよい。
【0112】
反応性界面活性剤の中のアニオン性界面活性剤としては、例えば、スルホン酸基、スルホネート基又は硫酸エステル基、及びこれらの塩を有するエチレン性不飽和単量体が挙げられ、スルホン酸基又はそのアンモニウム塩若しくはアルカリ金属塩である基(アンモニウムスルホネート基又はアルカリ金属スルホネート基)を有する化合物であることが好ましい。具体的には、例えば、アルキルアリルスルホコハク酸塩(例えば、三洋化成株式会社製エレミノール(商標)JS-20、花王株式会社製ラテムル(商標。以下同様。)S-120、S-180A、S-180が挙げられる。)、ポリオキシエチレンアルキルプロペニルフェニルエーテル硫酸エステル塩(例えば、第一工業製薬株式会社製アクアロン(商標。以下同様。)HS-10が挙げられる。)、α-〔1-〔(アリルオキシ)メチル〕-2-(ノニルフェノキシ)エチル〕-ω-ポリオキシエチレン硫酸エステル塩(例えば、株式会社ADEKA製アデカリアソープ(商標。以下同様。)SE-10Nが挙げられる。)、アンモニウム=α-スルホナト-ω-1-(アリルオキシメチル)アルキルオキシポリオキシエチレン(例えば、第一工業製薬株式会社製アクアロンKH-10が挙げられる。)、スチレンスルホン酸塩(例えば、東ソー有機化学株式会社製スピノマー(商標)NaSSが挙げられる。)、α-〔2-〔(アリルオキシ)-1-(アルキルオキシメチル)エチル〕-ω-ポリオキシエチレン硫酸エステル塩(例えば、株式会社ADEKA製アデカリアソープSR-10が挙げられる。)、及びポリオキシエチレンポリオキシブチレン(3-メチル-3-ブテニル)エーテルの硫酸エステル塩(例えば、花王株式会社製ラテムルPD-104が挙げられる。)が挙げられる。
【0113】
また、反応性界面活性剤の中のノニオン性界面活性剤としては、例えば、α-〔1-〔(アリルオキシ)メチル〕-2-(ノニルフェノキシ)エチル〕-ω-ヒドロキシポリオキシエチレン(例えば、株式会社ADEKA製アデカリアソープNE-20、NE-30、NE-40が挙げられる。)、ポリオキシエチレンアルキルプロペニルフェニルエーテル(例えば、第一工業製薬株式会社製アクアロンRN-10、RN-20、RN-30、RN-50が挙げられる。)、α-〔2-〔(アリルオキシ)-1-(アルキルオキシメチル)エチル〕-ω-ヒドロキシポリオキシエチレン(例えば、株式会社ADEKA製アデカリアソープER-10が挙げられる。)、及びポリオキシエチレンポリオキシブチレン(3-メチル-3-ブテニル)エーテル(例えば、花王株式会社製ラテムルPD-420が挙げられる。)が挙げられる。界面活性剤は、単量体組成物100質量部に対して0.1質量部以上5質量部以下用いることが好ましい。界面活性剤は1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。
【0114】
粒子状重合体の重合に使用するラジカル重合開始剤としては、熱又は還元性物質によりラジカル分解して単量体の付加重合を開始させるものであり、無機系開始剤、及び有機系開始剤のいずれも用いることができる。ラジカル重合開始剤としては、水溶性又は油溶性の重合開始剤を用いることができる。水溶性の重合開始剤としては、例えば、ペルオキソ二硫酸塩、過酸化物、水溶性のアゾビス化合物、及び過酸化物-還元剤のレドックス系が挙げられる。ペルオキソ二硫酸塩としては、例えば、ペルオキソ二硫酸カリウム(KPS)、ペルオキソ二硫酸ナトリウム(NPS)、及びペルオキソ二硫酸アンモニウム(APS)が挙げられ、過酸化物としては、例えば、過酸化水素、t-ブチルハイドロパーオキサイド、t―ブチルパーオキシマレイン酸、コハク酸パーオキシド、及び過酸化ベンゾイルが挙げられ、水溶性のアゾビス化合物としては、例えば、2,2-アゾビス(N-ヒドロキシエチルイソブチルアミド)、2、2-アゾビス(2-アミジノプロパン)二塩化水素、及び4,4-アゾビス(4-シアノペンタン酸)が挙げられ、過酸化物-還元剤のレドックス系としては、例えば、上記過酸化物にナトリウムスルホオキシレートホルムアルデヒド、亜硫酸水素ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム、ヒドロキシメタンスルフィン酸ナトリウム、L-アスコルビン酸、及びその塩、第一銅塩、並びに第一鉄塩等の還元剤の1種又は2種以上を組み合わせたものが挙げられる。
【0115】
ラジカル重合開始剤は、単量体組成物100質量部に対して、好ましくは0.05質量部以上2質量部以下用いることができる。ラジカル重合開始剤は1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。
【0116】
なお、ポリアルキレングリコール基を有するエチレン性不飽和単量体(P)と、シクロアルキル基を有するエチレン性不飽和単量体(A)と、その他の単量体(B)とを含む単量体組成物を乳化重合し、重合体粒子が溶媒(水)中に分散した分散体を形成する場合、得られた分散体の固形分としては、30質量%以上70質量%以下であることが好ましい。分散体は、長期の分散安定性を保つため、そのpHを5~12の範囲に調整されることが好ましい。pHの調整には、アンモニア、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、及びジメチルアミノエタノール等のアミン類を用いることが好ましく、アンモニア(水)又は水酸化ナトリウムによりpHを調整することがより好ましい。
【0117】
水分散体は、上記特定の単量体を含む単量体組成物を重合して得られる重合体を、水中に分散した粒子(重合体粒子)として含む。水分散体には、水、及び重合体以外に、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等の溶媒、または分散剤、滑剤、増粘剤、殺菌剤等が含まれていてもよい。熱可塑性ポリマー含有層を塗工によって容易に形成することができるので、乳化重合により粒子状重合体を形成し、それにより、得られた粒子状重合体エマルジョンを水系ラテックスとして使用することが好ましい。
【0118】
[任意の層]
基材と熱可塑性ポリマー含有層との間に、任意の層、例えば、無機フィラー層(無機フィラー多孔層)を含む態様も、本発明の範囲に含まれる。無機フィラー多孔層は、無機フィラーを含み、複数の孔を有する。
本欄では、少なくとも無機フィラー層上の一部に熱可塑性ポリマー層が存在する態様、言い換えると、基材と熱可塑性ポリマー含有層との間に無機フィラー多孔層を含む態様を仮定し、かかる無機フィラー多孔層について説明するが、本発明においては、無機フィラー多孔層のような任意の層を省略可能である。
【0119】
(無機フィラー)
無機フィラーとしては、特に限定されないが、200℃以上の融点を持ち、電気絶縁性が高く、かつリチウムイオン二次電池のような蓄電デバイスの使用範囲で電気化学的に安定であるものを用いることができる。
【0120】
無機フィラーとしては、特に限定されないが、例えば、アルミナ、シリカ、チタニア、ジルコニア、マグネシア、セリア、イットリア、酸化亜鉛、及び酸化鉄等の無機酸化物(酸化物系セラミックス);窒化ケイ素、窒化チタン、及び窒化ホウ素等の無機窒化物(窒化物系セラミックス);シリコンカーバイド、炭酸カルシウム、硫酸マグネシウム、硫酸アルミニウム、硫酸バリウム、水酸化アルミニウム、水酸化酸化アルミニウム、チタン酸カリウム、タルク、カオリナイト、ディカイト、ナクライト、ハロイサイト、パイロフィライト、モンモリロナイト、セリサイト、マイカ、アメサイト、ベントナイト、アスベスト、ゼオライト、ケイ酸カルシウム、ケイ酸マグネシウム、ケイ藻土、及びケイ砂等のセラミックス;並びにガラス繊維が挙げられる。これらは、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。
【0121】
無機フィラーの体積平均粒子径(D50)は、例えば、50nm以上、好ましくは250nm以上、更に好ましくは500nm以上である。また、平均粒子径は、例えば2,000nm以下、好ましくは950nm以下、更に好ましくは600nm未満である。
無機フィラーの平均粒子径が50nm以上であることで、良好な透過性が確保される。一方、平均粒子径が2,000nm以下であることで、良好な耐熱性が確保される。特に、平均粒子径が上記範囲であることで、上述した検査方法によるセパレータ表面の検査時に、無機フィラー層と熱可塑性ポリマー層のパターン部とのコントラストが良好になり、より確実な検査が可能となる。
【0122】
無機フィラーの粒径、及びその分布を調整する方法としては、例えば、ボールミル、ビーズミル、ジェットミル等の適宜の粉砕装置を用いて無機フィラーを粉砕して粒径を小さくする方法が挙げられる。
無機フィラーの粒度分布は、粒径に対する頻度のグラフにおいて、ピークが一つとなるようにすることができる。ただ、ピークが二つか、ピークをなさないような台形状のチャートとなるようにしてもよい。
【0123】
無機フィラーの形状としては、例えば、板状、鱗片状、針状、柱状、球状、多面体状、及び塊状(ブロック状)が挙げられる。これらの形状を有する無機フィラーの複数種を組み合わせて用いてもよい。
無機フィラーの無機フィラー多孔層中の含有割合は、無機フィラー多孔層の全量に対して、例えば、20質量%以上100質量%未満、30質量%以上80質量%以下、35質量%以上70質量%以下、更には40質量%以上60質量%以下である。
【0124】
熱可塑性ポリマーの体積平均粒子径をD1とし、無機フィラーの体積平均粒子径をD2としたとき、D1とD2は、下記式:
D1/D2≦0.8、または、D1/D2≧1.2
を満たすことが好ましい。また、D1とD2は、下記式:
0.025≦D1/D2≦0.8、または、200≧D1/D2≧1.2
を満たすことがより好ましく、下記式:
D1/D2≦0.5、または、D1/D2≧2.0
を満たすことが更に好ましく、下記式:
D1/D2≦0.3、または、D1/D2≧3.0
を満たすことが特に好ましい。
熱可塑性ポリマーと無機フィラーの体積平均粒子径の比D1/D2が上記範囲であることで、上述した検査方法によるセパレータ表面の検査時に、無機フィラー層と熱可塑性ポリマー層のパターン部とのコントラストが良好になり、より確実な検査が可能となる。
【0125】
(樹脂バインダ)
無機フィラー多孔層に含有される樹脂バインダの樹脂の種類としては、特に限定されないが、リチウムイオン二次電池のような蓄電デバイスの電解液に対して不溶であり、かつリチウムイオン二次電池のような蓄電デバイスの使用範囲において電気化学的に安定な樹脂を用いることができる。樹脂バインダの樹脂として、無機フィラー多孔層に含まれる樹脂バインダ(A)、及び熱可塑性ポリマー含有層に含まれる粒子状重合体(B)に加えて、熱可塑性ポリマー含有層に含まれ、粒子状重合体(B)を基材または無機フィラー多孔層に結着させる結着バインダ(C)が用いられてもよい。樹脂バインダ(A)、及び結着バインダ(C)はセパレータにおいて通常、粒子状になっていない。一方、粒子状重合体(B)はセパレータにおいて粒子状であり、粒子状重合体(B)は、樹脂バインダ(A)、及び結着バインダ(C)と異なる種類の樹脂を含むことができる。
【0126】
このような樹脂の具体例としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン;ポリフッ化ビニリデン、及びポリテトラフルオロエチレン等の含フッ素樹脂;フッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン-テトラフルオロエチレン共重合体、及びエチレン-テトラフルオロエチレン共重合体等の含フッ素ゴム;スチレン-ブタジエン共重合体及びその水素化物、アクリロニトリル-ブタジエン共重合体、及びその水素化物、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体、及びその水素化物、メタクリル酸エステル-アクリル酸エステル共重合体、スチレン-アクリル酸エステル共重合体、アクリロニトリル-アクリル酸エステル共重合体、エチレンプロピレンラバー、ポリビニルアルコール、ポリ酢酸ビニル等のゴム類;エチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース等のセルロース誘導体;並びにポリフェニレンエーテル、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンスルフィド、ポリエーテルイミド、ポリアミドイミド、ポリアミド、及びポリエステル等の、融点、及び/又はガラス転移温度が180℃以上の樹脂が挙げられる。これらは1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。
【0127】
樹脂バインダは、例えば、樹脂ラテックスバインダを含むことができる。樹脂ラテックスバインダとしては、例えば、不飽和カルボン酸単量体と、これらと共重合可能な他の単量体との共重合体を用いることができる。ここで、脂肪族共役ジエン系単量体としては、例えばブタジエン、及びイソプレンが挙げられ、不飽和カルボン酸単量体としては、例えば(メタ)アクリル酸が挙げられ、他の単量体としては、例えば、スチレンが挙げられる。このような共重合体の重合方法に特に制限はないが、乳化重合が好ましい。乳化重合の方法としては、特に制限はなく、既知の方法を用いることができる。単量体、及びその他の成分の添加方法については、特に制限されるものではなく、一括添加方法、分割添加方法、及び連続添加方法の何れも採用することができ、重合方法は、一段重合、二段重合、又は三段階以上の多段階重合のいずれも採用することができる。
【0128】
樹脂バインダの具体例としては、以下の1)~7)が挙げられる。
1)ポリオレフィン:例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレンプロピレンラバー、及びこれらの変性体;
2)共役ジエン系重合体:例えば、スチレン-ブタジエン共重合体、及びその水素化物、アクリロニトリル-ブタジエン共重合体、及びその水素化物、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体、及びその水素化物;
3)アクリル系重合体:例えば、メタクリル酸エステル-アクリル酸エステル共重合体、スチレン-アクリル酸エステル共重合体、及びアクリロニトリル-アクリル酸エステル共重合体;
4)ポリビニルアルコール系樹脂:例えば、ポリビニルアルコール、及びポリ酢酸ビニル;
5)含フッ素樹脂:例えば、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、フッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン-テトラフルオロエチレン共重合体、及びエチレン-テトラフルオロエチレン共重合体;
6)セルロース誘導体:例えば、エチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、及びカルボキシメチルセルロース;並びに
7)融点、及び/又はガラス転移温度が180℃以上の樹脂あるいは融点を有しないが分解温度が200℃以上のポリマー:例えば、ポリフェニレンエーテル、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンスルフィド、ポリエーテルイミド、ポリアミドイミド、ポリアミド、及びポリエステル。
【0129】
樹脂バインダが樹脂ラテックスバインダである場合のその平均粒径(D50)は、例えば、50~500nm、60~460nm、更には80~250nmである。樹脂バインダの平均粒径は、例えば、重合時間、重合温度、原料組成比、原料投入順序、及びpH等を調整することで制御することが可能である。
【0130】
樹脂バインダの無機フィラー層中の含有割合は、例えば、無機フィラー100質量部に対して、0.5質量部以上20質量部以下、1質量部以上15質量部以下、2質量部以上10質量部以下、更には3質量部以上5質量部以下である。
無機フィラー層中の樹脂バインダの割合が0.5質量部以上であることで良好な結着性が確保され、20質量部以下であることで、良好な透過性が確保される。特に、無機フィラー層中の樹脂バインダの割合が上記範囲であることで、上述した検査方法によるセパレータ表面の検査時に、無機フィラー層と熱可塑性ポリマー層のパターン部とのコントラストが良好になり、より確実な検査が可能となる。
【0131】
無機フィラー多孔層に含まれる粒子状重合体の含有量は、例えば、セパレータに含まれる粒子状重合体の含有量の、5体積%未満、3体積%未満、更には2体積%未満であるようにすることができる。
【0132】
無機フィラー多孔層の厚さは、例えば、10.0μm以下、更には6.0μm以下であるようにすることができる。また、無機フィラー多孔層の厚さは、例えば、0.5μm以上であるようにすることができる。無機フィラー多孔層の層密度は、例えば、0.5g/(m2・μm)以上3.0g/(m2・μm)以下、更には0.7~2.0cm3であるようにすることができる。
【0133】
(任意成分)
熱可塑性ポリマー含有層は、熱可塑性ポリマーのみを含有していてもよいし、熱可塑性ポリマーに加えて、これ以外の任意成分を含んでいてもよい。任意成分としては、例えば、無機フィラー多孔層を形成するために上記で説明された無機フィラーが挙げられる。熱可塑性ポリマー含有層における熱可塑性ポリマーの含有量は、その熱可塑性ポリマー含有層の全量に対して、好ましくは、60質量%以上、より好ましくは90質量%以上、更に好ましくは95質量%以上、特に好ましくは98質量%以上である。
【0134】
(セパレータに関する各種特性)
セパレータの透気度は、好ましくは40秒/100cm3以上500秒/100cm3以下であり、より好ましくは70秒/100cm3以上300秒/100cm3以下であり、更に好ましくは100秒/100cm3以上200秒/100cm3以下である。このことにより、そのセパレータを蓄電デバイスに適用したときに、よい高いイオン透過性を示すこととなる。この透気度は、ポリオレフィン多孔性基材の透気度と同じく、JIS P-8117に準拠して測定される透気抵抗度である。
セパレータの透気度が40秒/100cm3以上であることで自己放電が防止される。また、500秒/100cm3以下であることで良好な透過性が確保される。特に、セパレータの透気度が上記範囲内であることで、上述した検査方法によるセパレータ表面の検査時に、検査装置のステージにセパレータを吸着させる際に、空気の透過性が大きすぎないため、ステージに確実に吸着でき、より確実な検査が可能となる。
【0135】
セパレータの厚みばらつきは、層厚に対して好ましくは±10μm以下、より好ましくは±5μm以下、さらに好ましくは±2μm以下である。これにより基材の透過性、強度のばらつきを抑制することができる。特に、セパレータの厚みばらつきが上記範囲内であることで、上述した検査方法によるセパレータ表面の検査時に、焦点のずれが抑制され画像の鮮明さを確保でき、より確実な検査が可能となる。
【0136】
<セパレータの製造における具体的な方法>
[基材の製造方法]
基材を製造する方法は、特に限定されず、既知の製造方法を採用することができ、例えば、湿式多孔化法と乾式多孔化法とのいずれを採用してもよい。湿式多孔化法による例を挙げると、例えば、基材がポリオレフィン微多孔膜である場合、ポリオレフィン樹脂組成物と可塑剤とを溶融混練してシート状に成形後、場合により延伸した後、可塑剤を抽出することにより多孔化させる方法;ポリオレフィン系の樹脂を主成分として含むポリオレフィン樹脂組成物を溶融混練して高ドロー比で押出した後、熱処理と延伸によってポリオレフィン結晶界面を剥離させることにより多孔化させる方法;ポリオレフィン樹脂組成物と無機充填材とを溶融混練してシート上に成形後、延伸によってポリオレフィンと無機充填材との界面を剥離させることにより多孔化させる方法;及びポリオレフィン樹脂組成物を溶解後、ポリオレフィンに対する貧溶媒に浸漬させポリオレフィンを凝固させると同時に溶剤を除去することにより多孔化させる方法が挙げられる。
【0137】
また、基材としての不織布又は紙を作製する方法は、既知のものであってもよい。その作製方法としては、例えば、ウェブをバインダに浸漬、乾燥して繊維間結合させるケミカルボンド法;ウェブに熱溶融性繊維を混ぜ込み、その繊維を部分的に溶融し繊維間結合させるサーマルボンド法;ウェブに刺のあるニードルを繰り返し突き刺し、繊維を機械的に絡めるニードルパンチ法;及び高圧の水流をノズルからネット(スクリーン)を介してウェブに噴射し、繊維間を絡める水流交絡法が挙げられる。
【0138】
以下、ポリオレフィン微多孔膜を製造する方法の一例として、ポリオレフィン樹脂組成物と可塑剤とを溶融混練してシート状に成形後、可塑剤を抽出する方法について説明する。まず、ポリオレフィン樹脂組成物と可塑剤を溶融混練する。溶融混練方法としては、例えば、ポリオレフィン樹脂、及び必要によりその他の添加剤を、押出機、ニーダー、ラボプラストミル、混練ロール、及びバンバリーミキサー等の樹脂混練装置に投入し、樹脂成分を加熱溶融させながら任意の比率で可塑剤を導入して混練する方法が挙げられる。この際、ポリオレフィン樹脂、その他の添加剤、及び可塑剤を樹脂混練装置に投入する前に、予めヘンシェルミキサー等を用い所定の割合で事前混練しておくことが好ましい。より好ましくは、事前混練において可塑剤の一部のみを投入し、残りの可塑剤を樹脂混練装置サイドフィードしながら混練する。
【0139】
可塑剤としては、ポリオレフィンの融点以上において均一溶液を形成し得る不揮発性溶媒を用いることができる。このような不揮発性溶媒の具体例として、例えば、流動パラフィン、パラフィンワックス等の炭化水素類;フタル酸ジオクチル、フタル酸ジブチル等のエステル類;オレイルアルコール、及びステアリルアルコール等の高級アルコールが挙げられる。これらの中で、流動パラフィンが好ましい。
【0140】
ポリオレフィン樹脂組成物と可塑剤の比率は、これらを均一に溶融混練して、シート状に成形できる範囲であれば特に限定はない。例えば、ポリオレフィン樹脂組成物と可塑剤とから成る組成物中に占める可塑剤の質量分率は、好ましくは30質量%以上80質量%以下、より好ましくは40質量%以上70質量%以下である。可塑剤の質量分率をこの範囲とすることにより、溶融成形時のメルトテンションと、均一かつ微細な孔構造の形成性とが両立する観点で好ましい。
【0141】
次に、上記のようにして加熱溶融、及び混練して得られた溶融混練物をシート状に成形する。シート状成形体を製造する方法としては、例えば、溶融混練物を、Tダイ等を介してシート状に押し出し、熱伝導体に接触させて樹脂成分の結晶化温度より充分に低い温度まで冷却して固化する方法が挙げられる。冷却固化に用いられる熱伝導体としては、金属、水、空気、及び可塑剤自体が挙げられるが、金属製のロールが熱伝導の効率が高いため好ましい。この場合、金属製のロールに接触させる際に、ロール間で溶融混練物を挟み込むと、熱伝導の効率が更に高まると共に、シートが配向して膜強度が増し、シートの表面平滑性も向上するため、より好ましい。Tダイよりシート状に押し出す際のダイリップ間隔は400μm以上3000μm以下であることが好ましく、500μm以上2500μm以下であることが更に好ましい。
【0142】
このようにして得たシート状成形体を、次いで延伸することが好ましい。延伸処理としては、一軸延伸又は二軸延伸のいずれも好適に用いることができる。得られる微多孔膜の強度等の観点から二軸延伸が好ましい。シート状成形体を二軸方向に高倍率延伸すると、分子が面方向に配向し、最終的に得られる多孔性基材が裂け難くなり、高い突刺強度を有するものとなる。延伸方法としては、例えば、同時二軸延伸、逐次二軸延伸、多段延伸、及び多数回延伸等の方法を挙げることができる。突刺強度の向上、延伸の均一性、シャットダウン性の観点から同時二軸延伸が好ましい。
【0143】
延伸倍率は、面倍率で20倍以上100倍以下の範囲であることが好ましく、25倍以上50倍以下の範囲であることが更に好ましい。各軸方向の延伸倍率は、MD方向に4倍以上10倍以下、TD方向に4倍以上10倍以下の範囲であることが好ましく、MD方向に5倍以上8倍以下、TD方向に5倍以上8倍以下の範囲であることが更に好ましい。延伸倍率をこの範囲の倍率とすることにより、より十分な強度を付与することができると共に、延伸工程における膜破断を防ぎ、高い生産性が得られる点で好ましい。
【0144】
上記のようにして得られたシート状成形体を、更に圧延してもよい。圧延は、例えば、ダブルベルトプレス機等を使用したプレス法にて実施することができる。圧延により、特にシート状成形体の表層部分の配向を増大させることができる。圧延面倍率は1倍より大きく3倍以下であることが好ましく、1倍より大きく2倍以下であることがより好ましい。この範囲の圧延倍率とすることにより、最終的に得られる多孔性基材の膜強度が増加し、かつ、膜の厚さ方向により均一な多孔構造を形成することができる点で好ましい。
【0145】
次いで、シート状成形体から可塑剤を除去して多孔性基材を得る。可塑剤を除去する方法としては、例えば、抽出溶剤にシート状成形体を浸漬して可塑剤を抽出し、充分に乾燥させる方法が挙げられる。可塑剤を抽出する方法はバッチ式、連続式のいずれであってもよい。多孔性基材の収縮を抑えるために、浸漬、乾燥の一連の工程中にシート状成形体の端部を拘束することが好ましい。また、多孔性基材中の可塑剤の残存量は1質量%未満にすることが好ましい。
【0146】
抽出溶剤としては、ポリオレフィン樹脂に対して貧溶媒で、かつ可塑剤に対して良溶媒であり、沸点がポリオレフィン樹脂の融点より低いものを用いることが好ましい。このような抽出溶剤としては、例えば、n-ヘキサン、及びシクロヘキサン等の炭化水素類;塩化メチレン、及び1,1,1-トリクロロエタン等のハロゲン化炭化水素類;ハイドロフルオロエーテル、及びハイドロフルオロカーボン等の非塩素系ハロゲン化溶剤;エタノール、イソプロパノール等のアルコール類;ジエチルエーテル、及びテトラヒドロフラン等のエーテル類;並びにアセトン、及びメチルエチルケトン等のケトン類が挙げられる。なお、これらの抽出溶剤は、蒸留等の操作により回収して再利用してよい。
【0147】
多孔性基材の収縮を抑制するために、延伸工程後又は多孔性基材の形成後に、熱固定、熱緩和等の熱処理を行ってもよい。多孔性基材に、界面活性剤等による親水化処理、電離性放射線等による架橋処理等の後処理を行ってもよい。
【0148】
上記湿式多孔化法とは異なる、乾式多孔化法による例を挙げる。まず、溶剤を使わずに押出機内で溶融混練後に直接延伸配向させたフィルムを作製し、その後、アニーリング工程、冷延伸工程、及び熱延伸工程を順に経て微多孔膜を作製する。乾式多孔化法においては、押出機から溶融樹脂をTダイを経て延伸配向させる方法、インフレーション法等を利用することができ、特にその手法に限定はない。
【0149】
[熱可塑性ポリマー含有層の配置方法]
上記のようにして製造された基材の少なくとも片面に、熱可塑性ポリマー含有層を配置する。無機フィラー多孔層が基材の表面に配置されている場合は、その無機フィラー多孔層の表面の、全部又は一部に、熱可塑性ポリマー含有層を配置するか、又は、及び無機フィラー多孔層の形成されていない基材面に熱可塑性ポリマー含有層を配置する。熱可塑性ポリマー含有層を配置する方法としては、特に限定されず、例えば、粒子状重合体を含有する塗布液を無機フィラー多孔層又は基材に塗布する方法が挙げられる。
【0150】
塗布液としては、ポリマーを溶解しない溶媒中に粒子状重合体を分散させた、分散体を好ましく用いることができる。特に好ましくは、粒子状重合体を乳化重合によって合成し、その乳化重合によって得られるエマルジョンをそのまま塗布液として使用することができる。
【0151】
基材上に、粒子状重合体を含有する塗布液を塗布する方法については、所望の塗布パターン、塗布膜厚、及び塗布面積を実現できる方法であれば特に限定はない。例えば、グラビアコーター法、小径グラビアコーター法、リバースロールコーター法、トランスファロールコーター法、キスコーター法、ディップコーター法、ナイフコーター法、エアドクタコーター法、ブレードコーター法、ロッドコーター法、スクイズコーター法、キャストコーター法、ダイコーター法、スクリーン印刷法、スプレー塗布法、及びインクジェット塗布法等が挙げられる。これらのうち、粒子状重合体の塗工形状の自由度が高く、かつ好ましい面積割合を容易に得られるという観点から、グラビアコーター法又はスプレー塗布法が好ましい。
【0152】
塗布液の媒体としては、水又は水と水溶性有機媒体とから成る混合溶媒が好ましい。水溶性有機媒体としては、特に限定されないが、例えば、エタノール、メタノール等を挙げることができる。これらの中でもより水が好ましい。塗布液を基材に塗布する際に、塗布液が基材の内部にまで入り込んでしまうと、重合体を含む粒子状重合体が、基材の孔の表面、及び内部を閉塞し透過性が低下し易くなる。この点、塗布液の溶媒又は分散媒として水を用いる場合には、基材の内部に塗布液が入り込み難くなり、重合体を含む粒子状重合体は主に基材の外表面上に存在し易くなるため、透過性の低下をより効果的に抑制できるので好ましい。また、水と併用可能な溶媒又は分散媒としては、例えば、エタノール、及びメタノールを挙げることができる。
【0153】
塗布後に塗布膜から溶媒を除去する方法については、基材、及び熱可塑性ポリマー含有層に悪影響を及ぼさない方法であれば特に限定はない。例えば、基材を固定しながらその融点以下の温度にて乾燥する方法、低温で減圧乾燥する方法、粒子状重合体に対する貧溶媒に浸漬してその粒子状重合体を粒子状に凝固させると同時に溶媒を抽出する方法等が挙げられる。
【0154】
[無機フィラー多孔層の形成方法]
基材の少なくとも片面に無機フィラー多孔層を配置する場合、その無機フィラー多孔層を形成する方法としては、特に限定されず、既知の方法によって形成することができる。例えば、無機フィラーと必要に応じて樹脂バインダとを含有する塗布液を基材に塗布する方法が挙げられる。基材がポリオレフィン微多孔膜のように樹脂を含む場合、無機フィラーと樹脂バインダとを含む原料と、樹脂を含む基材の原料とを共押出法により積層して押し出してもよいし、基材と無機フィラー多孔層(膜)とを個別に作製した後にそれらを貼り合せてもよい。
【0155】
塗布液の溶媒としては、無機フィラーと必要に応じて樹脂バインダとを均一かつ安定に分散又は溶解できるものが好ましく、例えば、N-メチルピロリドン、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、水、エタノール、トルエン、熱キシレン、塩化メチレン、及びヘキサンが挙げられる。
【0156】
塗布液には、界面活性剤等の分散剤;増粘剤;湿潤剤;消泡剤;酸、アルカリを含むPH調製剤等の各種添加剤を加えてもよい。
【0157】
無機フィラーと必要に応じて樹脂バインダとを、塗布液の媒体に分散又は溶解させる方法としては、例えば、ボールミル、ビーズミル、遊星ボールミル、振動ボールミル、サンドミル、コロイドミル、アトライター、ロールミル、高速インペラー分散、ディスパーザー、ホモジナイザー、高速衝撃ミル、超音波分散、及び撹拌羽根等による機械撹拌が挙げられる。
【0158】
塗布液を基材に塗布する方法については、例えば、グラビアコーター法、小径グラビアコーター法、リバースロールコーター法、トランスファロールコーター法、キスコーター法、ディップコーター法、ナイフコーター法、エアドクタコーター法、ブレードコーター法、ロッドコーター法、スクイズコーター法、キャストコーター法、ダイコーター法、スクリーン印刷法、及びスプレー塗布法が挙げられる。
【0159】
塗布後に塗布膜から溶媒を除去する方法については、基材に悪影響を及ぼさない方法であれば特に限定はない。例えば、基材を固定しながら基材を構成する材料の融点以下の温度にて乾燥する方法、低温で減圧乾燥する方法、樹脂バインダに対する貧溶媒に浸漬して樹脂バインダを凝固させると同時に溶媒を抽出する方法が挙げられる。またデバイス特性に著しく影響を及ぼさない範囲においては溶媒を一部残存させてもよい。
【0160】
そして、以上のようにして製造されたセパレータに対して、上述した検査装置を用いて、セパレータ表面の熱可塑性ポリマー層のパターンの面積(例えば被覆率など)及び/又は形状を測定し、所定の基準に基づいて、熱可塑性ポリマー層の良否、または熱可塑性ポリマー層を含むセパレータの良否を評価する。具体的には、所定の基準を満たす場合には「良」として、所定の基準を満たさない場合には「否」として判定することができる。これにより、本発明では、信頼性の高いセパレータを効率よく製造することができる。
【0161】
上述のとおり、本発明は、一態様としてセパレータの製造方法を提供し、別の態様として、検査装置を提供する。本明細書におけるセパレータに関する記載は、検査装置の発明におけるセパレータの特徴とすることができ、本明細書における検査装置に関する記載は、セパレータの製造方法における検査装置の特徴とすることができる。具体的には、例えば、上記[課題を解決するための手段]の項目9~14、18及び19のいずれかに記載の要件について検査装置の発明におけるセパレータの記載とすることができ、項目2~7及び17のいずれかに記載の要件についてセパレータの製造方法の発明における検査装置の記載とすることができる。より詳細には、上記で説明された熱可塑性ポリマー層及び無機フィラー層から選択される好ましい要件については、検査装置の発明におけるセパレータの記載とすることができ、そして上記で説明されたセパレータ、カメラ、及び光源から成る群から選択される少なくとも1つの好ましい要件については、セパレータの製造方法の発明における検査装置の記載とすることができる。
【実施例】
【0162】
本実施例欄に記載の物性評価は、以下の方法に従って行った。
【0163】
(1)基材の厚さ(μm)
基材から、10cm×10cm角の試料を切り取り、格子状に9箇所(3点×3点)を選んで、微小測厚器(株式会社東洋精機製作所、タイプKBM)を用いて室温23±2℃で厚さを測定した。得られた9箇所の測定値の平均値を、基材の厚さとして算出した。また測定した9か所の厚みの最大値と最小値が平均からどれだけ差があるかを計算し、厚みばらつきとした。
【0164】
(2)気孔率(%)
基材から10cm×10cm角の試料を切り取り、その体積(cm3)、及び質量(g)を求めた。これらの値を用い、その基材の密度を0.95(g/cm3)として、気孔率を下記式から求めた。
気孔率(%)=(1-質量/体積/0.95)×100
【0165】
(3)透気度(秒/100cm3)
セパレータについて、JIS P-8117に準拠し、東洋精器(株)製のガーレー式透気度計G-B2(型式名)により測定した透気抵抗度を透気度とした。熱可塑性ポリマー含有層が基材の片面にしか存在しない場合は、熱可塑性ポリマー含有層が存在する面から針を突刺することができる。
【0166】
(4)粒子状重合体、無機フィラーの平均粒径(D50)
粒子状重合体、無機フィラーの平均粒径(D50)は、粒子径測定装置(日機装株式会社製、製品名「Microtrac UPA150」)を使用し、測定した。測定条件としては、ローディングインデックス=0.20、測定時間300秒とし、得られたデータにおける50%粒子径(D50)の数値を平均粒径として記載した。
【0167】
(5)SEMによる熱可塑性ポリマー含有層の被覆面積割合
熱可塑性ポリマー含有層の被覆面積割合は、走査型電子顕微鏡(SEM)(型式:S-4800、HITACHI社製)を用いて測定した。サンプルであるセパレータをオスミウム蒸着し、加速電圧1.0kV、50倍の条件にて観察し、下記式から表面被覆率を算出した。このときの視野の大きさは、2.54mm×1.58mmであった。なお、SEM画像にて基材表面の多孔構造が見えない領域、あるいは、任意の層の表面が見えない領域、具体的には無機フィラー多孔層表面の多孔構造が見えない領域を熱可塑性ポリマー含有層領域とした。
熱可塑性ポリマー含有層の被覆面積割合(%)=熱可塑性ポリマー含有層の面積÷(基材の孔部分を含む面積、あるいは任意の層の表面の面積)+熱可塑性ポリマー含有層の面積)×100
各サンプルにおける被覆面積割合は、上記測定を3回行い、その相加平均値とした。
【0168】
[製造例1-1]
(ポリオレフィン微多孔膜B1の製造)
Mvが70万であり、ホモポリマーの高密度ポリエチレン45質量部と、Mvが30万であり、ホモポリマーの高密度ポリエチレン45質量部と、Mvが40万であるホモポリマーのポリプロピレンとMvが15万であるホモポリマーのポリプロピレンとの混合物(質量比=4:3)10質量部とを、タンブラーブレンダーを用いてドライブレンドした。得られたポリオレフィン混合物99質量部に酸化防止剤としてテトラキス-[メチレン-(3’,5’-ジ-t-ブチル-4’-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタンを1質量部添加し、再度タンブラーブレンダーを用いてドライブレンドすることにより、混合物を得た。得られた混合物を、窒素雰囲気下で二軸押出機へフィーダーにより供給した。また、流動パラフィン(37.78℃における動粘度7.59×10-5m2/s)を押出機シリンダーにプランジャーポンプにより注入した。押し出される全混合物100質量部中に占める流動パラフィンの割合が65質量部となるように、すなわち、樹脂組成物の割合が35質量部となるように、フィーダー、及びポンプの運転条件を調整した。
【0169】
次いで、それらを二軸押出機内で230℃に加熱しながら溶融混練し、得られた溶融混練物を、T-ダイを経て表面温度80℃に制御された冷却ロール上に押し出し、その押出物を冷却ロールに接触させ成形(cast)して冷却固化することにより、シート状成形物を得た。このシートを同時二軸延伸機にて倍率7×6.4倍、温度112℃下で延伸した後、塩化メチレンに浸漬して、流動パラフィンを抽出除去後、乾燥し、テンター延伸機にて温度130℃、横方向に2倍延伸した。その後、この延伸シートを幅方向に約10%緩和して熱処理を行い、基材としてのポリオレフィン微多孔膜B1を得た。
【0170】
得られたポリオレフィン微多孔膜B1について、上記方法により物性を測定した。また得られたポリオレフィン微多孔膜をそのままセパレータとして、上記方法により評価した。得られた結果を表1に示す。
【0171】
[製造例1-2~1-4](ポリオレフィン微多孔膜B2~B4の製造)
延伸の際の温度と緩和率とを変更したこと以外は、製造例1-1と同様にして、基材としてのポリオレフィン微多孔膜B2、B3およびB4を得た。得られたポリオレフィン微多孔膜B2、B3およびB4を製造例1-1と同様にして評価した。得られた結果を表1に示す。
【0172】
【0173】
<粒子状重合体A1の合成>
撹拌機、還流冷却器、滴下槽、及び温度計を取り付けた反応容器に、イオン交換水70.4質量部と、「アクアロンKH1025」(登録商標、第一工業製薬株式会社製25%水溶液、表中「KH1025」と表記。以下同様。)0.5質量部と、「アデカリアソープSR1025」(登録商標、株式会社ADEKA製、25%水溶液、表中「SR1025」と表記。以下同様。)0.5質量部と、を投入し、反応容器内部温度を80℃に昇温した。その後、80℃の容器内部温度を保ったまま、過硫酸アンモニウム(2%水溶液)(表中「APS(aq)」と表記。以下同様。)を7.5質量部添加した。
【0174】
一方、メタクリル酸メチル38.5質量部、アクリル酸n-ブチル19.6質量部、アクリル酸2-エチルヘキシル31.9質量部、メタクリル酸0.1質量部、アクリル酸0.1質量部、メタクリル酸2-ヒドロキシエチル2質量部、アクリルアミド5質量部、メタクリル酸グリシジル2.8質量部、トリメチロールプロパントリアクリレート(新中村化学工業株式会社製)0.7質量部、γ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン0.3質量部、過硫酸アンモニウム(2%水溶液)7.5質量部、及びイオン交換水52質量部の混合物を、ホモミキサーにより5分間混合させて、乳化液を作製した。
得られた乳化液を滴下槽から上記反応容器に滴下した。滴下は反応容器に過硫酸アンモニウム水溶液を添加した5分後に開始し、150分かけて乳化液の全量を滴下した。乳化液の滴下中は、容器内部温度を80℃に維持した。
【0175】
乳化液の滴下終了後、反応容器内部温度を80℃に保ったまま90分間維持し、その後室温まで冷却し、エマルジョンを得た。得られたエマルジョンを、水酸化アンモニウム水溶液(25%水溶液)を用いてpH=9.0に調整し、濃度40質量%のアクリル系コポリマーラテックスを得た(原料ポリマーA1)。得られた原料ポリマー(水分散体)A1について、上記方法により評価した。得られた結果を表2に示す。
【0176】
<粒子状重合体A2の合成>
単量体、その他の原料の組成、及び重合条件を、表2に記載の通りに変更する以外は、原料ポリマー(水分散体)A1と同様にして、コポリマーラテックス(原料ポリマーA2)を得た。得られた原料ポリマー(水分散体)A2について、上記方法により評価した。得られた結果を表2に示す。
【0177】
【0178】
表2、及び後述する表3での原材料名の略称は、それぞれ、以下の意味である。
<乳化剤>
KH1025:「アクアロンKH1025」登録商標、第一工業製薬株式会社製、25%水溶液
SR1025:「アデカリアソープSR1025」登録商標、株式会社ADEKA製、25%水溶液
NaSS:p-スチレンスルホン酸ナトリウム
<開始剤>
APS:過硫酸アンモニウム(2%水溶液)
<単量体>
((メタ)アクリル酸モノマー)
MAA:メタクリル酸
AA:アクリル酸
((メタ)アクリル酸エステル)
MMA:メタクリル酸メチル
BA:アクリル酸n-ブチル
BMA:メタクリル酸n-ブチル
EHA:アクリル酸2-エチルヘキシル
CHMA:メタクリル酸シクロヘキシル
(芳香族ビニル単量体)
St:スチレン
(シアノ基含有単量体)
AN:アクリロニトリル
(その他の官能基含有単量体)
HEMA:メタクリル酸2-ヒドロキシエチル
AM:アクリルアミド
(架橋性単量体)
GMA:メタクリル酸グリシジル
A-TMPT:トリメチロールプロパントリアクリレート
AcSi:γ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン
【0179】
(製造例A3)
製造例A1で得た水分散体A1の一部をとり、これをシードポリマーとする多段重合を行うことにより、水分散体A3を合成した。具体的には、まず、撹拌機、還流冷却器、滴下槽、及び温度計を取り付けた反応容器に、水分散体A1を固形分換算で20質量部、及びイオン交換水70.4質量部の混合物を投入し、反応容器内部温度を80℃に昇温した。その後、80℃の容器内部温度を保ったまま、過硫酸アンモニウム(2%水溶液)を7.5質量部添加した。以上が初期仕込みである。
【0180】
一方、メタクリル酸メチル38.5質量部、アクリル酸n-ブチル19.6質量部、アクリル酸2-エチルヘキシル31.9質量部、メタクリル酸0.1質量部、アクリル酸0.1質量部、メタクリル酸2-ヒドロキシエチル2質量部、アクリルアミド5質量部、メタクリル酸グリシジル2.8質量部、トリメチロールプロパントリアクリレート(新中村化学工業株式会社製)0.7質量部、γ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン0.3質量部、過硫酸アンモニウム(2%水溶液)7.5質量部、及びイオン交換水52質量部の混合物を、ホモミキサーにより5分間混合させて、乳化液を作製した。得られた乳化液を滴下槽から上記反応容器に滴下した。滴下は反応容器に過硫酸アンモニウム水溶液を添加した5分後に開始し、150分かけて乳化液の全量を滴下した。乳化液の滴下中は、容器内部温度を80℃に維持した。
【0181】
乳化液の滴下終了後、反応容器内部温度を80℃に保ったまま攪拌しつつ90分間維持し、その後室温まで冷却し、エマルジョンを得た。得られたエマルジョンを、水酸化アンモニウム水溶液(25%水溶液)を用いてpH=9.0に調整し、濃度40質量%のアクリル系コポリマーラテックスを得た(原料ポリマーA3)。得られた原料ポリマーA3について、上記方法により評価した。得られた結果を表3に示す。
【0182】
(製造例A4)
シードポリマー、その他の原料の組成、及び重合条件を、表3に記載の通りに変更する以外は、原料ポリマーA3と同様にして、コポリマーラテックス(原料ポリマーA4)を得た。得られた原料ポリマーA4について、上記方法により評価した。得られた結果を表3に示す。
【0183】
【0184】
[実施例I-1]
原料ポリマーA1を20質量部、及び原料ポリマーA4を80質量部を混合し、均一に分散させて、熱可塑性ポリマーを含む塗布液(固形分30質量%)を調製した。このとき、増粘剤としてカルボキシメチルセルロースが塗布液に対して1質量%となるように添加し、塗布液の粘度を30mPa・sに調整した。その後、グラビアコーターを用い、ポリオレフィン微多孔膜B1の片面(面(A))に塗布液を厚み1μmに塗布した。このとき、熱可塑性ポリマー塗布液を
図4の(A)に示すようなドットパターン状に塗布した。ドットの大きさは200μmとし、隣り合うドットの中心間の距離がそれぞれ600μmとした。このとき、単位パターンの大きさは600μm × 600μmであった。熱可塑性ポリマーによるポリオレフィン微多孔膜に対する被覆面積割合は20%であった。その後、40℃にて塗布後の塗布液を乾燥して水を除去した。
【0185】
更に、ポリオレフィン微多孔膜B1の面(A)と反対側の面(面(B))にも同様に塗布液を塗布し、再度上記と同様にして乾燥させた。こうして、ポリオレフィン微多孔膜B1の両面に熱可塑性ポリマー含有層を形成したセパレータを得た。
【0186】
こうして、ポリオレフィン微多孔膜B1の両面に熱可塑性ポリマー含有層を形成したセパレータを得た。
【0187】
得られたセパレータについて、下記方法により熱可塑性ポリマー層の面積を測定した。
【0188】
図1に示した検査装置を用いて、熱可塑性ポリマー含有層のパターン被覆面積を求めた。
光源には、波長630nmの光源(球状、直径3mm、LED)を8個用い、セパレータの周囲を囲んで等間隔に配置した。光源からセパレータ表面までの距離は35mm、セパレータ平面に対する光の入射角θを85度、検査されるセパレータ表面からカメラまでの位置は200mm、カメラの位置は、検査されるセパレータの平面方向に垂直な方向上に設置した。
【0189】
カメラは、VHX-7020(キーエンス社製、CMOSイメージセンサ使用、319万画素)を用いた。20倍のレンズ倍率で、検査部分にピントが合った状態で画像を撮影した。得られた画像に対して、画像処理ソフト(ImageJ)を用いて2値化処理を行い、熱可塑性ポリマー含有層のパターン被覆面積を求めた。具体的には、得られた画像から、得られた観察視野を、画像解析処理ソフトImageJ(バージョン1.46)を用いて、視野に含まれる熱可塑性ポリマーの被覆面積を特定した。具体的には、撮影した画像ファイルを開き、評価エリアの選択を行うため「Rectangular selections」を用いて、視野全体を選択した。次に、熱可塑性ポリマーと熱可塑性ポリマー以外の部分が分かれるように2値化処理を行った。具体的には、「Threshold」を選択し、256階調のうち反転させる範囲を「0-100」として処理を行った。
【0190】
カメラに対してセパレータを静置させ、上記検査を行い、熱可塑性ポリマー含有層のパターン被覆面積を求めた。
【0191】
また、同じセパレータについて、SEMで観察することにより熱可塑性ポリマー含有層のパターン被覆面積を求め、両者の乖離度を求めた。
得られた結果を表4に示す。
【0192】
[実施例I-2~I-9、I-12~I-14]
検査機の構成、基材の種類、粒子状重合体の種類、熱可塑性ポリマーの形状、熱可塑性ポリマーの粒径を、それぞれ、表4、表5に記載の通りに変更した以外は、実施例1と同様にして検査を行い、SEMの観察結果との乖離度を求めた。なお、実施例I-5に用いたPVdF-HFPとしては、XPH-883(ソルベイ社)を使用した。また、実施例I-4の「等間隔でない」光源の配置とは、検査されるセパレータ表面と2つの光源とが、45度(°)を成すような配置であり、その配置で検査を行った。
【0193】
[実施例I-10]
無機フィラーとして水酸化酸化アルミニウム(平均粒径1000nm)を92.0質量部とアクリルラテックス懸濁液(固形分濃度40%、平均粒径150nm)8.0質量部、ポリカルボン酸アンモニウム水溶液(サンノプコ製SNディスパーサント5468)1.0重量部を100質量部の水に均一に分散させて塗布液を調製し、多孔性基材として上記ポリオレフィン微多孔膜B1の表面にマイクログラビアコーターを用いて塗布した。60℃にて乾燥して水を除去し、ポリオレフィン樹脂多孔膜上に厚さ4.0μmの無機フィラー層を形成した。
【0194】
無機フィラー層上に実施例I-1と同様にして熱可塑性ポリマー含有層を形成し、セパレータを得た。用いたセパレータ以外は、実施例I-1と同様に検査を行い、SEMの観察結果との乖離度を求めた。
【0195】
[実施例I-11]
無機フィラー粒径(nm)を、表5に記載の通りに変更した以外は、実施例I-8と同様にして、セパレータを得た。用いたセパレータ以外は、実施例I-1と同様に検査を行い、SEMの観察結果との乖離度を求めた。
【0196】
[比較例I-1]
検査機の構成を表5に記載の通りに変更した以外は、実施例I-1と同様にして、SEMの観察結果との乖離度を求めた。
【0197】
実施例I-1~I-14と比較例I-1について、検査機の構成、セパレータの条件、観察結果および剥離度を表4または表5に示す。
【0198】
【0199】
【0200】
[実施例II-1]
実施例I-1と同様に、ポリオレフィン微多孔膜B1の両面に熱可塑性ポリマー含有層を形成したセパレータを得た。
【0201】
得られたセパレータについて、下記方法により熱可塑性ポリマー層の面積を測定した。
【0202】
複数のロールを介してセパレータを搬送させる機構を持つ装置の一つのロールに対して、光源とカメラを設置した。波長630nmの光源(棒状、1000mm、LED)を、搬送されるセパレータの両脇に等間隔に設置した。光源からセパレータ表面までの距離は600mm、セパレータ平面に対する光の入射角θを85度、検査されるセパレータ表面からカメラまでの距離は600mm、カメラの位置は、光源から検査されるセパレータ表面の反射角に対し、0度の角度上になるようにカメラを設置した。
【0203】
CMOSイメージセンサを使用した319万画素のカメラを用い、セパレータを200m/min.、および20m/min.にて搬送しながら、表面画像を撮影した。得られた画像に対して、画像処理ソフト(ImageJ)を用いて2値化処理を行い、熱可塑性ポリマー含有層のパターン被覆面積を求めた。具体的には、得られた画像から、得られた観察視野を、画像解析処理ソフトImageJ(バージョン1.46)を用いて、視野に含まれる熱可塑性ポリマーの被覆面積を特定した。具体的には、撮影した画像ファイルを開き、評価エリアの選択を行うため「Rectangular selections」を用いて、視野全体を選択した。次に、熱可塑性ポリマーと熱可塑性ポリマー以外の部分が分かれるように2値化処理を行った。具体的には、「Threshold」を選択し、256階調のうち反転させる範囲を「0-100」として処理を行った。
【0204】
上記方法にて得られた熱可塑性ポリマー含有層のパターン被覆面積を、実施例I-1と同様に、SEM観察にて得られた被覆面積と比較し、乖離度を求めた。
得られた結果を表6に示す。
【0205】
[実施例II-2~II-5]
検査機の構成を、それぞれ、表6に記載の通りに変更した以外は、実施例II-1と同様にして検査を行い、SEMの観察結果との乖離度を求めた。
【0206】
[比較例II-1]
検査機の構成を、表6に記載の通りに変更した以外は、実施例II-1と同様にして検査を行い、SEMの観察結果との乖離度を求めた。
【0207】
【0208】
表4、表5、表6から明らかなように、セパレータ表面への光の入射角θを45度として設定した比較例に比べて、60度以上、90度以下として設定した実施例では、SEMによる測定値との乖離が小さく、熱可塑性ポリマー含有層のパターン被覆面積を、ほぼ正確に測定できていることが確認された。特に、光源を複数、等間隔に配置することで、より正確な測定ができたことが確認された。
【0209】
熱可塑性ポリマーの材料が異なる場合、または熱可塑性ポリマー含有層が無機フィラー上に形成されている場合でも、同様に好適な結果が得られた。
【0210】
また、セパレータのパラメータを最適化することで、特に良好な結果が得られることも確認された。
【産業上の利用可能性】
【0211】
本発明によれば、熱可塑性ポリマー層をもつセパレータ表面の熱可塑性ポリマー層の被覆面積を精度よく効率的に測定することができる。特に、熱可塑性ポリマー層の乾燥後に、熱可塑性ポリマー層の塗膜表面の画像を評価することによって、熱可塑性ポリマー層の被覆面積を評価する方法は、簡易的であり、また、セパレータを破壊することなく評価することが可能であるため、優れたセパレータの開発、製造工程の管理等に寄与するものであるといえる。
【符号の説明】
【0212】
1 光源
2 カメラ
10 ステージ
11 ロール
S セパレータ
S1 検査部分