(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-07
(45)【発行日】2024-05-15
(54)【発明の名称】SMAベースの離散アクチュエータ
(51)【国際特許分類】
F03G 7/06 20060101AFI20240508BHJP
【FI】
F03G7/06 D
(21)【出願番号】P 2022531556
(86)(22)【出願日】2020-12-18
(86)【国際出願番号】 EP2020087282
(87)【国際公開番号】W WO2021123353
(87)【国際公開日】2021-06-24
【審査請求日】2023-11-14
(31)【優先権主張番号】102019000025057
(32)【優先日】2019-12-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IT
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】517067202
【氏名又は名称】アクチュエーター・ソリュ―ションズ・ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】マルクス・ケプファー
(72)【発明者】
【氏名】マティーアス・ペーターラインス
(72)【発明者】
【氏名】マルクス・カーゲラー
【審査官】櫻田 正紀
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2005/0160858(US,A1)
【文献】国際公開第2019/097437(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2002/0069941(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2008/0307786(US,A1)
【文献】特開平09-133069(JP,A)
【文献】特開2007-064063(JP,A)
【文献】国際公開第1990/015928(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/208003(WO,A1)
【文献】特開2000-297566(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F03G 7/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定支持(11、41、51、91)と、
アクチュエータの離散ステップに対するステップ距離を規定する一定の歯ピッチPを有する可動歯付き要素(12、32、42、52)と、
歯と交互に係合する2つの
スライダフィンガ(131、132、331、332、431、432、531、532)を介して前記可動歯付き要素(12、32、42、52)を動かすためのスライダ(13、33、43、53、73、83、93)と、
前記2つのスライダフィンガ(131、132、331、332、431、432、531、532)のうちの
、前記可動歯付き要素(12、32、42、52)と係合していない一方を持ち上げるように構成された固定のフィンガリフタ(14、34、44、54)と、
拮抗的構成に接続された2つの形状記憶合金ワイヤ(15、15’、35、35’、45、45’、55、55’、75、75’、85、85’、95、95’)であって、それらの各々は、第1の端部における固定端子(150、150’、350、350’、450、450’、550、550’、750、750’、850、850’、950、950’)と第2の端部における前記スライダ(13、33、43、53、73、83、93)または前記スライダ(13、33、43、53、73、83、93)に接続された中間要素(78、88、89、96、97)との間に接続され、前記スライダ(13、33、43、53、73、83、93)を駆動する、2つの形状記憶合金ワイヤ(15、15’、35、35’、45、45’、55、55’、75、75’、85、85’、95、95’)とを備え、
前記固定支持(11、41、51、91)は、互いに前記ステップ距離Pにおいて配置された解除可能なロック構造(16、17、46、46’・・・46
n、56、57)によって前記可動歯付き要素(12、32、42、52)に結合され、
前記スライダ(13、33、43、53、73、83、93)は、前記可動歯付き要素(12、32、42、52)から離れる方にのみ動き、それに向かう方には動かないように変形することができるように構築され、
前記固定のフィンガリフタ(14、34、34’、44、54)によって実行される前記持ち上げは、前記2つの形状記憶合金ワイヤ(15、15’、35、35’、45、45’、55、55’、75、75’、85、85’、95、95’)のうちの1つの作動時に前記スライダ(13、33、43、53、73、83、93)の前記動きによって生じ、持ち上げられている前記スライダフィンガ(131、132、331、332、431、432、531、532)と移動方向に沿って前記スライダフィンガの上流の歯との間の、前記スライダ(13、33、43、53、73、83、93)の移
動方向に沿った隙間Gによって可能になり、それにより、前記スライダフィンガ(131、132、331、332、431、432、531、532)は前記可動歯付き要素(12、32、42、52)の前記歯に当たらずに通過することができ、
前記隙間は、G=n*P+T-Fとして計算され、ここで
nは、休止している前記スライダフィンガ(131、132、331、332、431、432、531、532)の間に含まれる歯の数であり、
Pは、前記歯のピッチ/ステップの距離であり、
Tは、2つの隣接する歯の間の前記距離であり、
Fは、休止している前記スライダフィンガ(131、132、331、332、431、432、531、532)の間の前記距離である、段階的離散アクチュエータ(10、30、40、50)。
【請求項2】
前記解除可能なロック構造(16、17、46、46’・・・
46
n
、56、57)は、対応するくぼみ(17、57)と係合するばね荷重ピン(16、46、46’・・・46
n、56)である、請求項1に記載の段階的離散アクチュエータ(10、30、40、50)。
【請求項3】
前記ばね荷重ピン(16、46、46’・・・46
n、56)は前記固定支持(11、41、51)上に固定され、前記くぼみ(17、57)は前記可動歯付き要素(12、32、42、52)内に形成される、請求項2に記載の段階的離散アクチュエータ(10、30、40、50)。
【請求項4】
前記可動歯付き要素(12、32)は直線ラックである、請求項1から3のいずれか一項に記載の段階的離散アクチュエータ(10、30)。
【請求項5】
前記可動歯付き要素(42、52)は歯付き車輪である、請求項1から3のいずれか一項に記載の段階的離散アクチュエータ(40、50)。
【請求項6】
前記形状記憶合金ワイヤ(75、75’、85、85’)は、ストローク逓倍器効果を与えるレバーである中間要素(78、88、89)に接続される、請求項1から5のいずれか一項に記載の段階的離散アクチュエータ(10、30、40、50)。
【請求項7】
前記形状記憶合金ワイヤ(65)の各々は、固定端子(650)に接続された先端と、前記スライダにまたは前記スライダを担持する要素に接続する接続要素(6500)に接続された中間部分とを有する、請求項1から5のいずれか一項に記載の段階的離散アクチュエータ。
【請求項8】
拮抗する形状記憶合金ワイヤの各々は、ストローク逓倍器構成に接続された一連の形状記憶合金ワイヤ(65a、65b、65c)で作られる、請求項1から5のいずれか一項に記載の段階的離散アクチュエータ。
【請求項9】
前記形状記憶合金ワイヤ(95、95’)は、弾性要素(962’、972’)を介して前記スライダ(93)に接続された中間の傾斜可能要素(96、97)に働き、前記弾性要素(962’、972’)は屈曲部またはコイルばねである、請求項1から4のいずれか一項に記載の段階的離散アクチュエータ。
【請求項10】
流量管理デバイスまたはアンテナの方向もしくは形態調整のためのデバイスにおける、請求項1から9のいずれか一項に記載の段階的離散アクチュエータ(10、30、40、50)の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも2つの形状記憶合金ワイヤが拮抗的構成において使用される、形状記憶合金(SMA)ベースの段階的離散アクチュエータに関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に言えば、形状記憶合金ワイヤに基づくアクチュエータは、低エンカンブランス(low encumbrance)、重量、電力消費、などの様々な利点を提示し、上記のすべては、高度の小型化および/またはより複雑なシステム/デバイスにおける一体化の容易さを達成する可能性につながる。
【0003】
最近のSMAワイヤベースのアクチュエータのいくつかの例が、特許文献1および特許文献2に示されている。これらの参考文献のすべては、個別に制御される機械的ロックの一種が必要であるという欠点を有する。
【0004】
拮抗的構成におけるSMAワイヤを使用するアクチュエータのいくつかの他の例は、特許文献3および特許文献4において与えられており、どちらの場合も、新しい位置にアクチュエータを保持するために電力が供給される必要がある。また、これらの解決策は、形状記憶合金ワイヤの長さに依存するので、ストローク/変位の総合的制限の影響を受ける。
【0005】
拮抗的構成におけるSMAワイヤを使用して自己ロックすることができる連続アクチュエータが、本出願者による特許文献5において記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】米国特許出願第2005/0160858号
【文献】米国特許第7364211号
【文献】米国特許出願第2019/0288391号
【文献】国際特許出願WO2019/119454
【文献】国際特許出願WO2020/183360
【文献】米国特許第9068561号
【文献】米国特許第6835083号
【文献】米国特許第8739525号
【非特許文献】
【0007】
【文献】2004年秋までさかのぼる「Shape Memory Alloy Shape Training Tutorial」、訓練セクション「ME559-Smart Materials and Structures」
【文献】2001年に発行された「Fundamental characteristics and design method for nickel-titanium shape memory」、PERIODICA POLYTECHNICA SER. MECH. ENG. VOL. 45, NO. 1、75~86ページ
【文献】第18回IFAC World Congress、ミラノ(イタリア)、2011年8月28日~9月2日のプレプリントで発行された「Design and Control of a Shape Memory Alloy Actuator for Flap Type Aerodynamic Surfaces」
【文献】SMST 2010 conferenceにおいて提示された、Dennis W. Norwichによる、「A Study of the Properties of a High Temperature Binary Nitinol Alloy Above and Below its Martensite to Austenite Transformation Temperature」
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、アクチュエータの状態変化の間にのみより高い電力供給を必要とするが、アクチュエータを新しい位置に保持するためにはずっと少ない電力しか必要とせず、いくつかの好ましい実施形態では電力を必要としない離散ステップにおいてある要素を動かすことができるアクチュエータを提供することであり、その第1の態様では段階的離散アクチュエータで構成され、段階的離散アクチュエータは、
固定支持と、
一定の歯ピッチがアクチュエータの離散ステップを規定する可動歯付き要素と、
可動歯付き要素を係合する2つのフィンガを介して可動歯付き要素を動かすための、一方向に屈曲可能なスライダと、
固定のフィンガリフタと、
スライダを駆動するための拮抗的構成における形状記憶合金ワイヤのカップルとを含み、
固定支持は、前記ステップ距離に等しい一定の間隔を有する解除可能なロック構造によって可動歯付き要素に結合され、休止しているスライダフィンガ間の距離は、フィンガリフタによってスライダフィンガを持ち上げることを可能にするために係合可能な歯の間の距離より十分に短い。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、以下の図によってさらに説明される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の第1の実施形態によるアクチュエータの概略断面図である。
【
図2A】異なる作動状態における、
図1に示すアクチュエータの概略断面図である。
【
図2B】異なる作動状態における、
図1に示すアクチュエータの概略断面図である。
【
図2C】異なる作動状態における、
図1に示すアクチュエータの概略断面図である。
【
図2D】異なる作動状態における、
図1に示すアクチュエータの概略断面図である。
【
図2E】異なる作動状態における、
図1に示すアクチュエータの概略断面図である。
【
図3A】異なる作動状態における、本発明の第2の実施形態によるアクチュエータの概略断面図である。
【
図3B】異なる作動状態における、本発明の第2の実施形態によるアクチュエータの概略断面図である。
【
図3C】異なる作動状態における、本発明の第2の実施形態によるアクチュエータの概略断面図である。
【
図4】本発明の第3の実施形態によるアクチュエータの概略断面図である。
【
図5A】本発明の第4の実施形態によるアクチュエータの概略断面図である。
【
図5B】本発明の第4の実施形態によるアクチュエータの概略断面図である。
【
図5C】本発明の第4の実施形態によるアクチュエータの上面図である。
【
図5D】本発明の第4の実施形態によるアクチュエータの上面図である。
【
図6A】本発明によるアクチュエータのための例示的な形状記憶合金ワイヤ構成を示す図である。
【
図6B】本発明によるアクチュエータのための例示的な形状記憶合金ワイヤ構成を示す図である。
【
図6C】本発明によるアクチュエータのための例示的な形状記憶合金ワイヤ構成を示す図である。
【
図6D】本発明によるアクチュエータのための例示的な形状記憶合金ワイヤ構成を示す図である。
【
図7A】形状記憶合金ワイヤとスライダとの間の第1の例示的な代替接続の概略図である。
【
図7B】形状記憶合金ワイヤとスライダとの間の第1の例示的な代替接続の概略図である。
【
図8A】形状記憶合金ワイヤとスライダとの間の第2の例示的な代替接続の概略図である。
【
図8B】形状記憶合金ワイヤとスライダとの間の第2の例示的な代替接続の概略図である。
【
図9A】形状記憶合金ワイヤとスライダとの間の第3の例示的な代替接続の概略図である。
【
図9B】形状記憶合金ワイヤとスライダとの間の第3の例示的な代替接続の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
図において、いくつかの場合において示す様々な要素のサイズおよび寸法比は、特にしかし非排他的にアクチュエータの他の要素に対するSMAワイヤの直径に関して、図の理解を助けるために変更されており、同じく、電流供給源、アクチュエータのケース/筺体など、本発明の理解に必要でないいくつかの付随する要素は、当技術分野で知られている通常の手段であるため、示されていない。
【0012】
本発明は、アクティブ要素として形状記憶合金ワイヤを使用し、この観点から、形状記憶合金は、2つの位相、すなわち、より低い温度において安定するいわゆるマルテンサイト相と、より高い温度において安定するいわゆるオーステナイト相との間の構造変態を特徴とすることが知られている。それゆえ、形状記憶合金は、4つの温度Mf、Ms、As、Afを特徴とし、Mfは、その温度以下で形状記憶合金は完全にマルテンサイト相にある、すなわちそれはマルテンサイト構造を有する温度であり、Afは、その温度以上で形状記憶合金は完全にオーステナイト相にある、すなわちそれはオーステナイト構造を有する温度であり、Msは、その温度以下で形状記憶合金はオーステナイトからマルテンサイトへの変態が始まる温度であり、Asは、その温度以上でマルテンサイトからオーステナイトへの変態が始まる温度である。形状記憶合金で作られたワイヤは、温度がMf以下からAs以上に変化するときにそれらの形状を変えるように訓練され得、その逆も真である。SMAワイヤの処理および訓練は、非特許文献1によって例示されるように、当技術分野で広く知られている処理である。
【0013】
本発明は、所望のスライダ変位を与えるために拮抗的構成における形状記憶合金ワイヤを使用し、この観点から、形状記憶合金ワイヤがマルテンサイト(低温度)に対してよりオーステナイト相(高温度)にあるほど、形状記憶合金ワイヤは、より高いけん引力を働かせる。形状記憶合金ワイヤの動作原理の詳細は、当業者には広く知られており、たとえば、非特許文献2を参照されたく、一方で、拮抗する形状記憶合金ワイヤの制御のさらなる詳細は、たとえば、非特許文献3の中に見出され得る。
【0014】
上記で説明したように、オーステナイト状態にもたらされた、すなわちAsとAfとの間に含まれる温度におけるワイヤは短縮され、その結果、収縮方向にスライダを引っ張る力をスライダに働かせる一方で、他方のSMAワイヤはマルテンサイト状態にあり、すなわちMsとMfとの間に含まれる温度にある。形状記憶合金ワイヤは、そのような作動温度に交互にもたらされ、最初に可動歯付き要素を押すようにスライダを駆動し、次いでスライダをその休止位置に戻す一方で、可動歯付き要素を新しい位置に残し、それにより、ひとたびスライダが中央/休止位置に戻ると、それらはともにマルテンサイト状態になる。
【0015】
本発明の第1の実施形態によるアクチュエータ10の概略断面図を、
図1に示す。
【0016】
アクチュエータ10は、可動歯付き要素、この場合は歯付きラック12に結合された固定支持11を含み、結合は、歯付きラック12上に形成されたくぼみ17によって表される解除可能なロック構造によって達成され、くぼみ17の中に固定支持11(2つだけ示す)上に固定されたばね荷重ピン16が係合して可動歯付きラック12を保持する。前記ロック構造16、17の一定間隔は、歯付きラック12の歯ピッチP、すなわちその歯121、122、123および124の中心の間の一定距離に等しい。
【0017】
スライダ13の2つの係合するフィンガ131、132は、歯付きラック12の2つの隣接する歯の間の間隔T内に配置される。スライダ13がフィンガ131、132を担持する部分は、一方向に(この場合は上方に)のみ屈曲可能なように構築され、曲がりは、前記フィンガ131、132のうちの1つによって、それが、拮抗的構成に配置された2つのSMAワイヤ15、15’によってスライダ13を動かすときに、固定のフィンガリフタ14と接触するときにもたらされる力によって生じる。より具体的には、スライダ13は、2つのSMAワイヤ15、15’の各々の第1の先端を固定しながら、第2の先端が、好適な150、150’を介してアクチュエータ10の別の固定要素(図示せず)に接続されるためのポール130をさらに含む。
【0018】
図1に示す可動歯付きラック12は、4つの歯121、122、123、124を有するが、本発明は、特定の数の歯に限定されず、そのような数は、3と30との間であることが好ましく、8と25との間に含まれることが最も有用である。
【0019】
本システムは、可動歯付きラックの各離散ステップに対して解除可能なロック構造を必要とすることに留意することが重要であるが、これは、固定支持11上に固定されたばね荷重ピン16と、歯に対応して可動歯付きラック12上に形成された係合くぼみ17(またはその反対)とを有することに限定されない。とはいえ、これは、直線的歯付きラックに対して好ましい。より具体的には、くぼみは、歯からオフセットされて、たとえば歯と歯の間に設置されてもよく、または異なるばね荷重ピンによって一度に1つずつ単一のくぼみが係合されてもよく、またはその反対に、単一のばね荷重ピンが一度に1つずつ異なるくぼみと係合してもよい(後者のタイプの結合の例が、後で提供される)。
【0020】
「固定の」という用語は、アクチュエータの文脈において他のデバイスの構成要素または部分組立品と解釈されるべきであり、そのために、それらは可動要素上に搭載されてよく、それにより、固定要素は、アクチュエータ、すなわちその可動部分およびそのアクティブ作動要素(形状記憶合金要素)の作用に対して固定された要素であることが強調されるべきである。最も一般的な構成では、固定要素はアクチュエータケースに埋め込まれるかまたはその一部である。
【0021】
本発明の文脈における「一方向に屈曲可能な」は、スライダ13のフィンガ担持部は、その部分が歯付きラック12から離れる方向に動くようにのみ変形することができ、その反対方向には変形できないように構築されることを意味する。
【0022】
【0023】
図2Aでは、アクチュエータ10は、開始状態において休止しており、2つの拮抗する形状記憶合金ワイヤ15、15’は等しい長さである。
【0024】
図2Bでは、形状記憶合金ワイヤ15は、より高い作動状態(すなわち、より高温)にあってより短くなり、スライダ13を左の方に引っ張り始め、その結果、左の係合フィンガ131が歯122を左の方に押し、同じく、ばね荷重ピン16とくぼみ17とをオフセットすることによってロック構造を解除させる。同時に、右の係合フィンガ132は、固定のフィンガリフタ14に衝突し、その支持の一方向に屈曲可能な特性によって歯123の上に持ち上げられ、それゆえ、歯付きラック12と干渉することなく、左の方へのフィンガの移動を可能にする。
【0025】
図2Cは、可動歯付きラック12が、新しい平衡位置に到達した状況を示す。この状況では、形状記憶合金ワイヤ15は、依然としてより高い温度にあり、ロック構造は係合され、ばね荷重ピン16は、可動歯付きラック12のくぼみ17と整列していることを意味する。
【0026】
図2Dは、アクチュエータシステムが、新しい変位を可動歯付きラック12に与えることができるように復帰し始めることを示しており、この中間状況では、左のフィンガ131がスライダ13の一方向への曲がりによって歯123によって持ち上げられる一方で、右のフィンガ132は依然として固定のフィンガリフタ14によって持ち上げられたままである。それゆえ、この状況では、スライダフィンガ131および132は、歯付きラック12の歯に対して大きい力を及ぼすことはなく、そのために、スライダ13は、歯付きラック12の変位を生じることなく、中央の方に戻ることができる。
【0027】
図2Eは、アクチュエータ10が、形状記憶合金ワイヤ15が加熱される場合に左の方に、または形状記憶合金ワイヤ15’が加熱される場合に右の方に、歯付きラック12の別の変異を引き起こす用意があることを示す。
【0028】
垂直の点線は、アクチュエータの中央の開始位置を表し、フィンガリフタ14の中央を横断する。
【0029】
図1~
図2Eに示すアクチュエータは、休止状態において、スライダフィンガ131と132との間に、可動歯付き要素12の歯と歯の間の距離Tより短い距離Fを有することを特徴とし、それにより、フィンガは、フィンガリフタ14によって持ち上げられたときに歯に当たらずに通過することができる。さらに、スライダフィンガの長さ、歯ピッチP、およびフィンガリフタの位置は、フィンガリフタの位置が常にフィンガの間に留まるように設計される。
【0030】
ばね荷重ピンおよび対応するくぼみは、解除可能なロック、より具体的には、設定された力が加えられるまで、すなわちSMA作動ワイヤが電流を供給されてそのAs温度を超えるまで、適所に可動歯付きラックを保持するロックに対する最も有用な構成である。解除可能なロック他の好適な例は、金属ノッチ、オーバーモールドノッチ、ゴムピン、ばね荷重鋼、セラミックボール、または固定支持上に固定された第1の極性の磁石と可動歯付きラック上に固定された反対の極性の磁石との磁石結合(またはその逆)を有する板ばねであり得る。固定支持または可動歯付きラックのうちの少なくとも一方において、磁石は1ステップの距離に存在し、好ましくは、それらの数はステップの数に等しく、それらは、固定支持と可動歯付きラックの両方の上で1ステップの距離に存在することが重要である。
【0031】
代替のしかしあまり好ましくはない実施形態では、SMAワイヤ、VCMまたはピエゾのいずれかで動かされるアクティブブロック要素が、解除可能なロックとして有用であり、これは、本発明の2つの技術的利点のうちの一方を取り除くとしても、他方は依然として存在し、平衡している間にSMAワイヤをマルテンサイト状態に保持するために必要な低い力につながる。
【0032】
図1~
図2Eの上記の説明は、「係合可能な歯」の概念を、アクチュエータの休止位置(
図1の中央にある構成)において形状記憶合金ワイヤを引っ張る収縮によって押され得るそれらの2つの歯として説明することを可能にする。システムは対称であるので、それは、スライダフィンガ131の左の歯122(SMAワイヤ15から引っ張る場合)またはスライダフィンガ132の右の歯123(SMAワイヤ15’から引っ張る場合)のいずれかであり得る。
【0033】
上記の説明は、同じく、係合可能な歯の距離Tとスライダフィンガの距離Fとの間に十分な差のないアクチュエータがなぜ作動することができないかを説明する。より具体的には、形状記憶合金ワイヤ15が短縮されるときにTがFと実質的に等しくなる場合、スライダ13が左の方に動く傾向があり、それゆえ、左のフィンガ131は歯122を押すが、同時に右のフィンガ132は、フィンガ132が固定要素14に衝突すると、歯123(すなわち、スライダ13の動きの方向においてフィンガ132から上流の歯)の動きをブロックする。
【0034】
本発明は、隙間がスライダの上昇を可能にする限り、その隙間G=T-Fの特定の値に限定されず、最小隙間Gは、製造工程の許容差を考慮に入れて、フィンガがフィンガリフタによって持ち上げられ得るように設計される。隙間Gに対する最も好適な値の決定は、簡単な三角法の評価によって当業者には容易に認識可能である。最も簡単な構成では、隙間Gは、(
図2Aにおけるように)「休止」位置における係合フィンガの先端が可動歯付きラックと接触していることを考慮すると、少なくとも可動ラックの歯の高さによって与えられるが、それらが接触しない場合は、隙間はそれに応じて低減されてもよい。
【0035】
異なる作動状態における本発明の第2の実施形態によるアクチュエータ30の概略図を
図3A~
図3Cに示し、最も重要な構造的変異のみを表す。
【0036】
より詳細には、
図3Aに示すように、アクチュエータ30は、係合フィンガ331、332および331’、332’の同一のカップルによってそれぞれ駆動される2つの同一の可動歯付きラック32、32’を含み、フィンガの両カップルは、同一のフィンガリフタ34、34’によって持ち上げられる同じスライダ33に接続される。スライダ33の動きは、端子350、350’を介して固定のアクチュエータ筐体(図示せず)に接続された拮抗的構成における形状記憶合金ワイヤ35、35’のカップルによって駆動される。すでに述べたように、2つの固定支持および対応する解除可能なロック構造など、本実施形態の動作を理解するために必要でない要素のいくつかは、示されていない。
【0037】
図3Bでは、左の形状記憶合金ワイヤ35は、右の形状記憶合金ワイヤ35’に対してより高い作動状態にあり、すなわちその温度はAsを超えて増加し、それにより、SMAワイヤ35はスライダ33を左に引っ張る。この動きの結果として、フィンガ331および331’は歯付きラック32および32’を左に動かす一方で、フィンガ332および332’は、スライダ33へのヒンジ接続によって固定のフィンガリフタ34、34’に衝突するので上昇する。
【0038】
図3Cは、形状記憶合金ワイヤ35’の引っ張りによって右に動くスライダ33による、可動歯付きラック32、32’の初期位置からの反対の動きを示す。
図3Bと
図3Cにおいて、形状記憶合金ワイヤ35、35’の作動状態(すなわち、より熱いワイヤ)は入れ替わる。
【0039】
図3の第2の実施形態は、(相対的な係合フィンガ331’および332’、固定のフィンガリフタ34’、固定支持および解除可能なロック構造とともに)対称的に配置された第2の可動ラック32’の追加による構造の複製に対してだけでなく、歯付きラックのピッチPより大きいフィンガ間の距離に対して、
図1~
図2Eの第1の実施形態と異なる。
【0040】
この構成では、歯321、321’、322、322’は、休止位置(中央にある構成)における可動歯付き要素32、32’の係合可能な歯であるが、他の4つの歯は、スライダフィンガの間に含まれる。それゆえ、この場合、必要な隙間Gは、単にT-Fに等しくはなくて4P+T-Fに等しく、したがって、一般式はG=n*P+T-Fであり、ここでnは、休止しているスライダフィンガ間に含まれる歯の数である。この式は、同じく、第1の実施形態の場合にn=0である(休止しているスライダフィンガの距離Fは歯付きラックのピッチPより小さい)ことを考慮して、第1の実施形態に適用可能である。
【0041】
本発明によるアクチュエータは、
図4の断面図における例に対して見られるように、直線構成に限定されない。この場合、アクチュエータ40は円筒対称性を有し、固定要素は、同心の可動歯付き車輪/歯車42に結合された固定の円筒形中心支持41である。結合は、
図4の休止状態において、すなわち2つの形状記憶合金ワイヤ45、45’がバランス状態(同じより低い温度)にあるときに、歯付き車輪42の歯421、422、...、42nに対応しているばね荷重ピン46、46’、...、46
nによって達成される。形状記憶合金ワイヤ45、45’は、各々がそれぞれ、スライダ43の片側と固定端子450、450’とに接続されている拮抗的構成にある。
【0042】
第1の実施形態と同様に、この第3の実施形態においても、2つの係合フィンガ431、432は、歯付き車輪の距離Tより小さい距離Fを有し、係合フィンガを持ち上げるための固定のフィンガリフタ44は歯付き車輪の歯を押さず、その作動原理は、直線配列から円筒配列に変換された
図2A~
図2Eの原理と厳密に同じである。この構成では、歯421および422は、可動歯付き要素42の係合可能な歯である。
【0043】
図4の実施形態の変異形態が、
図5A~
図5Dの第4の実施形態において示され、この場合も、アクチュエータ50は、可動歯付き要素として歯付き車輪52を含む。歯付き車輪52の中心に設置された枢動要素52’に接続されたスライダ53の位置は、各々が固定端子550、550’に接続され、スライダ53が枢動軸52’周りに回転することを可能にする逆V字形に配置された、2つの拮抗する形状記憶合金ワイヤ55、55’の作用によって制御される。
【0044】
図5Cおよび
図5Dの部分的上面図によく示されるように、スライダ53は、スライダ53に直角の軸58上に回転可能に搭載され、歯付き車輪52の上に延びる2つのフィンガ531、532を設けられ、それにより、第1のフィンガ531は近位部に設置され、第2のフィンガ532は遠位部に設置され、すなわち、それらは、軸58に直角の2つの異なる平行平面内で独立に回転することができる。固定のフィンガリフタ54は、スライダ53に対して歯付き車輪52の反対側に設置された固定支持51上に搭載され、それゆえ、
図5A、
図5Bの正面図において見えない。前記フィンガリフタ54は、平面図において実質的にS字形であり、固定支持51に接続するための支持部分543に加えて、歯付き車輪52と同じ幅の中央の広い部分と、前記幅の半分の幅を有し、右の方と左の方にそれぞれ延びる(
図5C、
図5Dに見られる)2つの狭い部分541、542とを有する。フィンガ531、532は、フィンガリフタ54のS字形のよりよい理解を可能にするために
図5Cおよび
図5Dにおいて半透明に描かれていること、およびシステムは、フィンガ531、532の位置を切り替えてフィンガリフタ54のS字形を入れ替えることによってミラーリング法で作られ得ることに留意されたい。
【0045】
より具体的には、
図5Aおよび
図5Bの正面図においてよりよく見られるように、2つのフィンガ531、532は、実質的にコンマ形であり、それらの凹面が互いに対面する対向配列でそれらのより大きい「ヘッド」において軸58上に搭載され、それらのより薄い「テール」は
図5Aの休止位置においてアーチ形のフィンガリフタ54の下に延び、それらはフィンガリフタ54の2つの狭い部分541、542の近位端に対してそれぞれ当接し、歯付き車輪52の係合可能な歯521、522の間に(明らかに上記で説明したように、十分な隙間Gを有して)配置される。スライダ53は、同じく、フィンガ531、532の上部で逆V字形配列に延び、中央が軸58と整列して搭載された2つの板ばね53’、53’’を設けられ、
図5Aにおける休止位置において、板ばね53’、53’’が、フィンガ531の反時計回り回転およびフィンガ532の時計回り回転に対して小さい付勢を与えながらフィンガ531、532にそれぞれ接触するように、前記板ばね53’、53’’の位置および勾配が決められる。それゆえ、フィンガ531、532の回転は、歯付き車輪52によって一方向に完全に制限され、弾性的に変形され得る板ばね53’、53’’によって他の方向に部分的に制限される。
【0046】
第1の形状記憶合金ワイヤ55が作動すると、
図5Bおよび
図5Dに示すように、スライダ53は左に引っ張られ、その結果、反時計回りに回転し、これは、第1のフィンガ531が歯521に衝突することを生じ、固定支持51上に搭載されたばね荷重ピン56(黒点)が歯付き車輪52の中の円に沿って配設されたくぼみ57のうちの1つから離脱することを介して歯付き車輪52のロック解除を生じる。ばね荷重ピン56は、(それがそれらの正しい位置においてフィンガリフタ54とピン56とを保持する限り)任意の形状を有しかつ歯付き車輪52に平行な平面内にある固定支持51と結合することを可能にする。
【0047】
スライダ53の左に動いている間、第2のフィンガ532は、固定のフィンガリフタ54の狭い部分542によって持ち上げられ、その結果、反時計回りに回転して板ばね53’’を変形させる。このようにして、フィンガ532はフィンガリフタ54の上部に設置され、歯付き車輪52の反時計回り回転干渉することはなく、それは、ばね荷重ピン56が次のくぼみ57を係合するまで継続する。
【0048】
図5Aの休止位置に復帰するための戻りストロークの間、フィンガ532は狭い部分542に沿ってスライドする一方で、フィンガ531は時計回りに回転することによって歯522の上に上昇し、板ばね53’を変形させる。システムの対称性によって、第2の形状記憶合金ワイヤ55’が歯付き車輪52の時計回り回転のために作動するとき、その動作は、単に逆の動き/回転と同じであり、すなわち、フィンガ532が歯522を係合し、フィンガ531が板ばね53’が変形することによって狭い部分541上に持ち上げられる。
【0049】
それゆえ、
図5の第4の実施形態は、
図4の第3の実施形態に対してこれらの大きい違いを有する。
- 固定要素上に搭載された単一のロックピンは、歯付き回転要素上で円形に配設された異なるくぼみと交互に係合する。
- 固定支持および歯付き回転要素は、異なる平面上にある。
- 2つのフィンガは、異なる平面上にある。
- スライダは、歯付き回転要素の枢動軸上に搭載される。
【0050】
本発明は、拮抗的構成における2つの直線的形状記憶合金ワイヤの使用に限定されない。なぜならば、それらのワイヤをスライダおよび固定面に接続するための複数の構成が可能であるからである。
【0051】
図6A~
図6Dの概略表現では、より有用な表現が示される。
-
図6A:端子650と、ワイヤをスライダ(図示せず)またはスライダを担持する要素に接続する要素6500との間の直線構成における単一の形状記憶合金ワイヤ65であり、これは最も単純な構成であって
図1~
図5に表されるアクチュエータの実施形態において示されるワイヤである。
-
図6B:「U字形」構成における単一の形状記憶合金ワイヤ65であり、その先端は端子650に接続され、その中央部分は接続要素6500周りに巻かれている。
-
図6C:接続要素6500の同じ点上に合流する2つの形状記憶合金ワイヤ65a、65bであり、代替的に、同じ図が、その部分65a、65bの各々が端子650と接続要素6500の同じ点とを接続する「V字形」構成における単一の形状記憶合金ワイヤを表してもよい。
-
図6D:米国特許第6574958号に記載されるようなストローク逓倍器構成における3つの形状記憶合金ワイヤ65a、65b、65cであり、第3のSMAワイヤ65cのみが、その先端のうちの1つを接続要素6500に接続される。
【0052】
本発明は、形状記憶合金ワイヤをスライダに接続するための特定の方法に限定されず、より具体的には、拮抗的構成における形状記憶合金ワイヤは、
図1~
図4の実施形態に示すようにスライダに直接接続されてもよく、またはそれらは、
図5に示すスライダに接続された要素に接続されてもよい。
【0053】
この中間接続の別の非限定的な例を、
図7Aおよび
図7Bに示す。この場合、拮抗する形状記憶合金ワイヤ75、75’は整列され、固定端子750、750’と回転アーム78との間で接続され、回転アーム78は、第1の枢動軸78’’を介して固定要素(図示せず)に接続される一方で、スライダ73は、第2の枢動軸78’’を介して回転アーム78に接続される。この配列を用いてストローク逓倍効果が達成される。なぜならば、SMAワイヤ75’の右への収縮の量s1が、スライダ73を、s2=s1*L2/L1で与えられる距離だけ左の方に変位させるからであり、ここでL1は第1の枢動軸78’と形状記憶合金ワイヤ75、75’の整列線との間の距離であり、L2は枢動軸78’と78’’との間の距離である。
【0054】
図7Aおよび
図7Bを参照しながら説明したものと同様の、ストローク逓倍効果を達成する中間接続の別の例が、
図8Aおよび
図8Bに示されており、そこにおいて、拮抗するワイヤ85、85’は、互いに平行であるが完全には整列されていない。第1の形状記憶合金ワイヤ85の先端は、固定端子850におよび第1の回転可能アーム88の上部に接続され、同様に、第2の形状記憶合金ワイヤ85’の先端は、固定端子850’におよび第2の回転可能アーム89の上部に接続される。各回転可能アーム88、89は、第1の枢動軸88’、89’を介して固定要素(図示せず)に、および第2の枢動軸88’’、89’’を介してスライダ83に接続され、スライダ83は、2つの下方に延びるフィンガ831、832を有するように成形され、それらをスライダに固定するのではない。
【0055】
図8Bは、形状記憶合金ワイヤ85のけん引作用を受け、それによりアーム88が枢動軸88’周りを時計回りに回転するシステムを示す。他方の形状記憶合金ワイヤ85’は、第2のアーム89に力を働かせず、それゆえ、それは、同じく、2つの第2の枢動軸88’および89’を介して伝達されるスライダ83の左への動きによって、枢動軸89’周りに時計回りに回される。
【0056】
中間接続の第3の例が
図9Aおよび
図9Bに示され、そこにおいて、スライダ93が、可動支持92に平行な固定要素91に対面する可動支持92の側面上で可動支持92に垂直方向に固定される。2つの傾斜可能構造96、97が、前記要素91と92との間でそれらの端部に近い位置において直角に配置され、それらは、傾斜可能構造96、97に平行な2つのそれぞれの屈曲部のペア961、961’および971、971’を介してそれらに接続される。傾斜可能構造96、97に直角の他の2つのそれぞれの屈曲部のペア962、962’および972、972’は、それらを固定要素91およびスライダ93のそれぞれに接続する。拮抗する形状記憶合金ワイヤのペア95、95’はそれぞれ、固定要素91上に搭載された端子950、950’と、それに隣接する傾斜可能構造96、97の先端との間に接続され、前記ワイヤ95、95’は、第2の屈曲部のペア962、962’および972、972’に平行に配置される。
【0057】
図9Aは、その「休止」位置にあるスライダ93を示す一方で、
図9Bは、形状記憶合金ワイヤ95の作動の下で、すなわちその短縮時に、スライダ案内システムがどのように変化するかを示す。この場合、傾斜可能要素96の近位の先端が、固定要素91の方に引っ張られ、それにより、すべての屈曲部が曲がって力を及ぼす。屈曲部の組み合わされた効果は、第1の傾斜可能要素96に実質的に平行な第2の傾斜可能要素97の傾きと、固定要素91に対する可動支持92の平行変位とをもたらす。
【0058】
図9Aは、拮抗的構成における形状記憶合金ワイヤと弾性要素との組合せ効果を介してスライダ93を駆動するための例示的な構成を示すにすぎないことを理解されたい。それゆえ、本発明は、弾性要素(屈曲部)のタイプまたはそれらの配置に限定されない。なぜならば、当業者は、この原理に基づいて代替駆動構成を、容易に、独創的な演習なしに直ちに考案することができるからである。たとえば、標準的なコイルバネが、屈曲部を置換してもよく、その配置は、
図9Aに示す正方形/平行から、1つの頂点が固定要素91上に、1つの頂点が可動支持92上にある、傾斜可能要素96および97の2つの頂点を有する傾斜/ひし形に変更され得る。
【0059】
本発明は、幾何学的観点から、25μmと500μmとの間に含まれる直径を有するSMAワイヤが有用に使用されるとしても、特定のタイプの形状記憶合金ワイヤに限定されない。この点において、形状記憶合金ワイヤは、円形断面が可能であることから離れて、実物体であるので、直径という用語は、最小の閉じた円の直径と見なされるべきである。
【0060】
本発明は、任意の特定の形状記憶合金に限定されないとしても、その処理に従って超弾性挙動または形状記憶合金挙動を交互に提示し得るニチノールなどのニッケル-チタンベース合金の使用が好ましい。ニチノールの特性およびそれらを達成することを可能にする方法は、当業者に広く知られて折り、たとえば、非特許文献4文を参照されたい。
【0061】
ニチノールは、そのようなものとして使用されてもよいが、変態温度に関するその特性は、Hf、Nb、Pt、Cuなどの元素を追加することによって調整されてもよい。材料合金およびその特性の適切な選択は、当技術分野で当業者に一般的に知られており、たとえば、http://memry.com/nitinol-iq/nitinol-fundamentals/transformation-temperaturesを参照されたい。
【0062】
同じく、形状記憶合金ワイヤは、「それ自体で」使用されてもよく、またはそれらの温度管理、すなわち作動後のそれらの冷却を改善するためにコーティング/シースとともに使用されてもよい。コーティングシースは、熱導体である電気絶縁コーティングを用いることによって余熱を管理する方法を教示する特許文献6に記載されるようにユニホームであり得るが、特許文献7は、各作動サイクルの後の冷却を改善することができる包囲シースを有する形状記憶合金ワイヤを記載している。同じく、特許文献8に記載されるように、相変態材料で作られるかまたはそれらを含むコーティングが、有利に使用され得る。
【0063】
本発明によるアクチュエータは、高速の応答が取り扱うべき問題点または重要な態様でない、強い力および限定された空間に対する調整を必要とする用途において最も有利に使用される。それらは、歯車箱が力の関係で(for force reasons)取り付けられるステップモータアクチュエータを置き換えることができるか、またはそれらは、温度制御用途に対して流体および空気流の管理において使用されてよく、別の興味ある使用分野は、ビームの方向および形を修正するためにアンテナの中の素子を動かすことである。上記にもかかわらず、デバイスのサイズは、微小規模または大規模に拡縮可能であるので、消費者用電子機器および医療産業における他の用途が実現可能である。
【符号の説明】
【0064】
10 アクチュエータ
11 固定支持
12 可動歯付きラック
13 スライダ
14 固定のフィンガリフタ
15 形状記憶合金(SMA)ワイヤ
15’ 形状記憶合金ワイヤ、SMAワイヤ
16 ばね荷重ピン、ロック構造
17 くぼみ、ロック構造
30 アクチュエータ
32,32’ 可動歯付きラック
33 スライダ
34,34’ 固定のフィンガリフタ
35,35’ 形状記憶合金ワイヤ
40 アクチュエータ
41 固定の円筒形中心支持
42 可動歯付き車輪/歯車
42n 歯
43 スライダ
44 固定のフィンガリフタ
45,45’ 形状記憶合金ワイヤ
46,46’,46n ばね荷重ピン
50 アクチュエータ
51 固定支持
52 歯付き車輪
52’ 枢動要素
53 スライダ
53’,53’’ 板ばね
54 フィンガリフタ
55,55’ 形状記憶合金ワイヤ
56 ばね荷重ピン
57 くぼみ
58 軸
65,65a,65b,65c 形状記憶合金ワイヤ
73 スライダ
75, 75’ 形状記憶合金ワイヤ
78 回転アーム
78’ 第1の枢動軸
78’’ 第2の枢動軸
83 スライダ
85,85’ 形状記憶合金ワイヤ
88 第1の回転可能アーム
88’ 第1の枢動軸
88’’ 第2の枢動軸
89 第2の回転可能アーム
89’ 第1の枢動軸
89’’ 第2の枢動軸
91 固定要素
92 可動支持
93 スライダ
95,95’ 形状記憶合金ワイヤ
96,97 傾斜可能構造
121,122,123,124 歯
130 ポール
131,132 フィンガ
150,150’ 端子
321,321’,322, 322’ 歯
331,331’,332,332’ フィンガ
350,350’ 端子
421,422 歯
431,432 フィンガ
450,450’ 端子
521,522 係合可能な歯
531,532 フィンガ
541,542 狭い部分
543 支持部分
550,550’,650 端子