(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-07
(45)【発行日】2024-05-15
(54)【発明の名称】アキュムレータおよびアキュムレータを備える車両制動システム
(51)【国際特許分類】
B60T 17/00 20060101AFI20240508BHJP
F15B 1/24 20060101ALI20240508BHJP
【FI】
B60T17/00 D
F15B1/24
(21)【出願番号】P 2022567437
(86)(22)【出願日】2021-05-07
(86)【国際出願番号】 EP2021062109
(87)【国際公開番号】W WO2021224448
(87)【国際公開日】2021-11-11
【審査請求日】2022-11-04
(31)【優先権主張番号】202020730995.8
(32)【優先日】2020-05-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】390023711
【氏名又は名称】ローベルト ボツシユ ゲゼルシヤフト ミツト ベシユレンクテル ハフツング
【氏名又は名称原語表記】ROBERT BOSCH GMBH
【住所又は居所原語表記】Stuttgart, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100134315
【氏名又は名称】永島 秀郎
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】ハイ ジャン
(72)【発明者】
【氏名】ウェンイン シオン
【審査官】山田 康孝
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-052519(JP,A)
【文献】特開2000-177565(JP,A)
【文献】米国特許第06322160(US,B1)
【文献】特開2013-107540(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0062934(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60T 15/00-17/22
F15B 1/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両制動システムに使用可能なアキュムレータであって、
シリンダ(10)であって、内部空間を規定する内面、前記内部空間の軸線方向(A)において前記シリンダ(10)の一方の端部に配置された液体入口(11)および液体出口(12)、ならびに前記シリンダ(10)の他方の端部に配置された端部キャップ(13)を有するシリンダ(10)と、
前記軸線方向(A)に往復運動可能に前記シリンダ(10)の前記内部空間に収容されたピストン(20)であって、前記シリンダ(10)の前記内面に対向する外面、前記シリンダ(10)の前記液体入口(11)および前記液体出口(12)に近い方の側の第1の端部(201)、ならびに前記第1の端部(201)と反対側で前記シリンダの前記端部キャップ(13)に面している第2の端部(202)を有するピストン(20)と、
前記ピストン(20)の半径方向において前記ピストン(20)の前記外面と前記シリンダ(10)の前記内面との間に配置された封止部材(30)であって、前記ピストン(20)の全軸線方向ストロークの過程で前記シリンダ(10)の前記内面の第1の軸線方向領域を通過し、前記シリンダ(10)の前記内面に封止接触している封止部材(30)と、
前記ピストン(20)と前記端部キャップ(13)との間に配置された、少なくとも1つの皿ばね(41)を備える皿ばね装置(40)であって、前記軸線方向(A)において、前記皿ばね装置(40)の一方の側は、前記ピストン(20)の前記第2の端部(202)に当接しており、他方の側は、前記端部キャップ(13)に当接しており、前記皿ばね装置(40)の外側の端縁部は、前記皿ばね装置の周方向において、前記シリンダ(10)の前記内面に対して遊び嵌めされており、好ましくは、前記軸線方向(A)において、前記皿ばね装置(40)の一方の側の端縁部は、前記ピストン(20)の前記第2の端部(202)に当接しており、他方の側の端縁部は、前記端部キャップ(13)に当接している、皿ばね装置(40)と、
を備え
、
前記皿ばね装置(40)は、実質的に同軸に配置された複数の皿ばね(41)を備え、2つの隣接した前記皿ばね(41)は、前記軸線方向(A)において互いに平行にかつ/または互いに対称的に配置されていることを特徴とする、アキュムレータ。
【請求項2】
前記皿ばね装置(40)は、前記ピストン(20)の全軸線方向ストロークの過程で前記シリンダ(10)の前記内面の第2の軸線方向領域を通過し、前記第1の軸線方向領域と前記第2の軸線方向領域とを前記軸線方向(A)において離間させる距離の最小値は、ゼロであることを特徴とする、請求項1記載のアキュムレータ。
【請求項3】
車両制動システムに使用可能なアキュムレータであって、
シリンダ(10)であって、内部空間を規定する内面、前記内部空間の軸線方向(A)において前記シリンダ(10)の一方の端部に配置された液体入口(11)および液体出口(12)、ならびに前記シリンダ(10)の他方の端部に配置された端部キャップ(13)を有するシリンダ(10)と、
前記軸線方向(A)に往復運動可能に前記シリンダ(10)の前記内部空間に収容されたピストン(20)であって、前記シリンダ(10)の前記内面に対向する外面、前記シリンダ(10)の前記液体入口(11)および前記液体出口(12)に近い方の側の第1の端部(201)、ならびに前記第1の端部(201)と反対側で前記シリンダの前記端部キャップ(13)に面している第2の端部(202)を有するピストン(20)と、
前記ピストン(20)の半径方向において前記ピストン(20)の前記外面と前記シリンダ(10)の前記内面との間に配置された封止部材(30)であって、前記ピストン(20)の全軸線方向ストロークの過程で前記シリンダ(10)の前記内面の第1の軸線方向領域を通過し、前記シリンダ(10)の前記内面に封止接触している封止部材(30)と、
前記ピストン(20)と前記端部キャップ(13)との間に配置された、少なくとも1つの皿ばね(41)を備える皿ばね装置(40)であって、前記軸線方向(A)において、前記皿ばね装置(40)の一方の側は、前記ピストン(20)の前記第2の端部(202)に当接しており、他方の側は、前記端部キャップ(13)に当接しており、前記皿ばね装置(40)の外側の端縁部は、前記皿ばね装置の周方向において、前記シリンダ(10)の前記内面に対して遊び嵌めされており、好ましくは、前記軸線方向(A)において、前記皿ばね装置(40)の一方の側の端縁部は、前記ピストン(20)の前記第2の端部(202)に当接しており、他方の側の端縁部は、前記端部キャップ(13)に当接している、皿ばね装置(40)と、
を備え、
前記ピストン(20)は、前記軸線方向(A)において順番に配置された液体支持部分(21)と、接続部分(22)と、押圧部分(23)とを備え、前記接続部分(22)の2つの端部は、それぞれ前記液体支持部分(21)および前記押圧部分(23)に接続されており、それにより、前記液体支持部分(21)および前記押圧部分(23)の2つの端面の間に間隙が存在しており、前記2つの端面は、前記軸線方向(A)において互いに向かい合っており、前記皿ばね装置(40)の一方の側は、前記端部キャップ(13)に面する前記押圧部分(23)の端面に当接しており、前記封止部材(30)は、前記ピストン(20)の半径方向において、前記液体支持部分(21)の外面と前記シリンダ(10)の前記内面との間に配置されていることを特徴とする
、アキュムレータ。
【請求項4】
前記端部キャップ(13)に面する前記液体支持部分(21)の端部に、前記端部キャップ(13)に面する受入れ空間(211)が設けられており、前記接続部分(22)の一方の端部は、前記受入れ空間(211)の内面に対して可動に前記受入れ空間(211)に受け入れられていることを特徴とする、請求項
3記載のアキュムレータ。
【請求項5】
前記受入れ空間(211)に受け入れられた前記接続部分(22)の前記端部は、球面状の端面を有し、前記受入れ空間(211)は、前記端部キャップ(13)に面する開口を有する円錐形の内面を有し、前記接続部分(22)の前記球面状の端面は、前記受入れ空間(211)の前記円錐形の内面に線接触していることを特徴とする、請求項
4記載のアキュムレータ。
【請求項6】
前記受入れ空間(211)は、前記端部キャップ(13)に面する開口を有する円錐形の内面と、前記円錐形の内面の前記開口の縁部から前記端部キャップ(13)に向かって延在した真っ直ぐな管状の内面とを有し、前記接続部分(22)の球面状の端面は、前記受入れ空間(211)の前記円錐形の内面に線接触しており、前記接続部分(22)の一部が、前記受入れ空間(211)に受け入れられていることを特徴とする、請求項
4記載のアキュムレータ。
【請求項7】
前記アキュムレータは、前記シリンダ(10)の前記内部空間を通気するための通気手段を有し、前記通気手段は、前記端部キャップ(13)に貫通するように形成された通気穴(51)と、圧力平衡要素(52)とを有し、前記ピストン(20)に面する前記端部キャップ(13)の側面に、中空体の形態を取りかつ前記ピストン(20)に向かって開口した受入れ手段(131)が設けられており、前記圧力平衡要素(52)は、前記受入れ手段(131)に受け入れられており、前記通気穴(51)は、前記受入れ手段(131)の底部に設けられており、前記圧力平衡要素(52)は、前記通気穴(51)の貫通穴横断面を覆っており、気体および/または液体の媒体が、前記圧力平衡要素(52)を前記軸線方向(A)に通過することができ、前記ピストン(20)に面する前記受入れ手段(131)の端部と、前記端部キャップ(13)に面する前記押圧部分(23)の前記端面との間の距離は、前記第1の軸線方向領域の長さよりも大きいかまたはそれに等しく、前記皿ばね装置(40)は、前記受入れ手段(131)に対して軸線方向に可動に前記受入れ手段(131)の周囲を取り囲んで装着されていて、前記端部キャップ(13)に支持されていることを特徴とする、請求項
3記載のアキュムレータ。
【請求項8】
車両制動システムに使用可能なアキュムレータであって、
シリンダ(1)であって、内部空間を規定する内面、前記内部空間の軸線方向(A’)において前記シリンダ(1)の一方の端部に配置された液体入口(101)および液体出口(102)、ならびに前記シリンダ(1)の他方の端部に配置された端部キャップ(103)を有するシリンダ(1)と、
前記軸線方向(A’)に往復運動可能に前記シリンダ(1)の前記内部空間に収容されたピストン(2)であって、前記シリンダ(1)の前記内面に対向する外面、前記シリンダの前記液体入口(101)および前記液体出口(102)に近い方の側の第1の端部(25)、ならびに前記第1の端部(25)と反対側で前記シリンダの前記端部キャップ(103)に面している第2の端部(26)を有し、前記第2の端部(26)に、前記端部キャップ(103)に向かって開口した押込み空間(27)が設けられている、ピストン(2)と、
前記ピストン(2)の半径方向において前記ピストン(2)の前記外面と前記シリンダ(1)の前記内面との間に配置された封止部材(3)であって、前記ピストン(2)の全軸線方向ストロークの過程で前記シリンダ(1)の前記内面の第3の軸線方向領域を通過し、前記シリンダ(1)の前記内面に封止接触している封止部材(3)と、
前記ピストン(2)と前記端部キャップ(103)との間に配置された、少なくとも1つの皿ばね(401)を備える皿ばね装置(4)であって、前記軸線方向(A’)において、前記皿ばね装置(4)の一方の側は、前記端部キャップ(103)に当接している、皿ばね装置(4)と、
前記押込み空間(27)に対応したガイド手段(104)であって、前記ピストン(2)に面する前記端部キャップ(103)の側面に、突出するように設けられており、前記皿ばね装置(4)は、前記ガイド手段(104)に対して軸線方向に可動に前記ガイド手段(104)の周囲を取り囲んで装着されており、前記皿ばね装置(4)の内側の端縁部は、前記皿ばね装置の周方向において、前記ガイド手段(104)の周面に対して遊び嵌めされており、前記ピストン(2)により前記皿ばね装置(4)が圧縮されていない状態では、前記ピストン(2)に面する前記ガイド手段(104)の端部と、前記押込み空間(27)の閉じた内側の端部との間の距離は、前記第3の軸線方向領域の長さよりも大きいかまたはそれに等しく、前記ピストン(2)に面する前記皿ばね装置(4)の側と、前記ピストン(2)の前記第2の端部(26)との間の最短距離は、前記第3の軸線方向領域の長さよりも小さい、ガイド手段(104)と、
を備えることを特徴とする、アキュムレータ。
【請求項9】
車両制動システムにおいて、
請求項1から
8までのいずれか1項記載のアキュムレータを備えることを特徴とする、車両制動システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、車両制動の分野に関し、詳細には、車両制動システム用のアキュムレータと、このアキュムレータを備える車両制動システムとに関する。
【0002】
背景技術
車両制動システムは、概して、車両に組み込まれて、車両の安全な制動を提供する。車両制動システムは、主にマスターシリンダと制動回路とを備えている。マスターシリンダは、制動流体リザーバから制動流体を受け入れ、その制動流体を制動回路に供給し、この制動回路が、車両のブレーキペダルの操作により生じて、ブースタにより増幅された制動力を受け入れることにより、制動圧を生じさせる。制動回路は、前輪および後輪の液圧ブレーキに伝達される制動圧を達成および制御するための液圧要素、たとえば電磁制御弁、アキュムレータおよびポンプを含んでいる。アキュムレータは、制動回路におけるエネルギー蓄積装置であり、必要に応じて、制動流体で満たされて制動システムにエネルギーを蓄積するか、または制動流体を放出してエネルギーを解放する。
【0003】
先行技術の解決手段におけるアキュムレータは、シリンダと、シリンダ内で軸線方向に往復運動するピストンと、ピストンとシリンダ端部キャップとの間に配置されたコイルばねとを備えている。ピストンの軸線方向運動をガイドする2つのガイドリングが、ピストンの2つの端部の近くに埋め込まれてピストンに固定されており、この2つのガイドリングの間に封止部材が、ピストンの周りに嵌まるように設けられている。ピストンがシリンダ内で軸線方向に移動し、コイルばねを圧縮するとき、ガイドリングおよび封止部材はすべて、シリンダの内面に当接した状態で往復運動して摺動し、ガイドリングに擦り接触するシリンダ内面の領域は、封止部材に擦り接触するシリンダ内面の領域と重なる。
【0004】
往復運動中、硬質材料であるガイドリングは、擦り接触したシリンダの内面の領域において、引掻きまたは他の摩擦による欠陥を生じさせるか、またはシリンダ内面の金属を露出させることさえあり、露出した部分は、制動流体に接触すると電気化学的な腐食を容易に生じさせることになる。それと同時に、弾性材料である封止部材は、移動して引掻き領域に接触したとき容易に損傷し、シリンダの内面に対してピストンの外面を効果的に封止することがもはやできなくなるおそれがあり、その結果、シリンダ内のピストンの一方の端部において制動流体が漏れてピストンの他方の端部に向かい、ピストンの移動に影響を及ぼし、ひいては、低圧アキュムレータの性能に影響を及ぼすことがある。
【0005】
したがって、先行技術における技術的な問題を克服するための改善された技術的な解決手段を提供する必要がある。
【0006】
発明の概要
本発明の目的は、アキュムレータの封止部材と、ガイドリングによって引っ掻かれたシリンダ内面との間で封止が不十分になるという問題を解決することである。
【0007】
この目的のために、本発明の第1の態様によれば、車両制動システム用のアキュムレータであって、
シリンダであって、内部空間を規定する内面、内部空間の軸線方向においてシリンダの一方の端部に配置された液体入口および液体出口、ならびにシリンダの他方の端部に配置された端部キャップを有するシリンダと、
軸線方向に往復運動可能にシリンダの内部空間に収容されたピストンであって、シリンダの内面に対向する外面、シリンダの液体入口および液体出口に近い方の側の第1の端部、ならびに第1の端部と反対側でシリンダの端部キャップに面している第2の端部を有するピストンと、
ピストンの半径方向においてピストンの外面とシリンダ(10)の内面との間に配置された封止部材であって、ピストンの全軸線方向ストロークの過程でシリンダの内面の第1の軸線方向領域を通過し、シリンダの内面に封止接触している封止部材と、
ピストンと端部キャップとの間に配置された、少なくとも1つの皿ばねを備える皿ばね装置であって、軸線方向において、皿ばね装置の一方の側は、ピストンの第2の端部に当接しており、他方の側は、端部キャップに当接しており、皿ばね装置の外側の端縁部は、皿ばね装置の周方向において、シリンダの内面に対して遊び嵌めされている、皿ばね装置と
を備える、アキュムレータが提供される。
【0008】
また、本願は、車両制動システムに使用することができる別のアキュムレータであって、
シリンダであって、内部空間を規定する内面、内部空間の軸線方向においてシリンダの一方の端部に配置された液体入口および液体出口、ならびにシリンダの他方の端部に配置された端部キャップを有するシリンダと、
軸線方向に往復運動可能にシリンダの内部空間に収容されたピストンであって、シリンダの内面に対向する外面、シリンダの液体入口および液体出口に近い方の側の第1の端部、ならびに第1の端部と反対側でシリンダの端部キャップに面している第2の端部を有し、第2の端部に、端部キャップに向かって開口した押込み空間が設けられている、ピストンと、
ピストンの半径方向においてピストンの外面とシリンダ(10)の内面との間に配置された封止部材であって、ピストンの全軸線方向ストロークの過程でシリンダの内面の第3の軸線方向領域を通過し、シリンダの内面に封止接触している封止部材と、
ピストンと端部キャップとの間に配置された少なくとも1つの皿ばねであって、軸線方向において、皿ばね装置の一方の側は、端部キャップに当接している、皿ばねと、
押込み空間に対応したガイド手段であって、ピストンに面する端部キャップの側面に、突出するように設けられており、皿ばね装置は、ガイド手段に対して軸線方向に可動に、ガイド手段の周囲を取り囲んで装着されていて、ガイド手段によって半径方向で位置決めされており、ピストンにより皿ばね装置が圧縮されていない状態では、ピストンに面するガイド手段の端部と、押込み空間の閉じた内側の端部との間の距離は、第1の軸線方向領域の長さよりも大きいかまたはそれに等しく、ピストンに面する皿ばね装置の側と、ピストンの第2の端部との間の最短距離は、第3の軸線方向領域の長さよりも小さい、ガイド手段と
を備える、アキュムレータも提供する。
【0009】
本願の第2の態様は、上で説明したアキュムレータのいずれか1つを備える車両制動システムを提供する。
【0010】
本願によれば、先行技術のアキュムレータのコイルばねが皿ばね装置に置き換えられ、ガイドリングが省かれ、したがって、ガイドリングがシリンダ内面に擦り接触して内面を損傷するという先行技術における問題が解決され、ひいては、上述した封止の問題が解決される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
本発明の上記した特徴およびその他の特徴は、図面を参照する実施形態の以下の詳細な説明からより良好に理解される。図面は原寸に比例しておらず、本発明の原理の説明だけを意図している。
【
図1】本願の実施形態における車両制動システム用のアキュムレータの一部を示す断面図である。
【
図2】本願の別の実施形態における車両制動システム用のアキュムレータの一部を示す断面図である。
【
図3】本願の別の実施形態により配置された皿ばね装置を示す断面図である。
【0012】
発明の詳細な説明
図1は、本願の実現可能な実施形態を示しており、本発明の原理をこの実施形態を参照しながら以下に説明する。
【0013】
図1は、車両制動システム用のアキュムレータ100の一部の断面図を示している。具体的には、図面は、シリンダ10であって、内部空間を規定する内面、内部空間の軸線方向Aにおいてシリンダ10の一方の端部に配置された液体入口11および液体出口12、ならびにシリンダ10の他方の端部に配置された端部キャップ13を有するシリンダ10と、軸線方向Aに往復運動可能にシリンダ10の内部空間に収容されたピストン20であって、シリンダ10の内面に対向する外面、シリンダ10の液体入口11および液体出口12に近い方の側の第1の端部201、ならびに第1の端部201と反対側でシリンダ端部キャップ13に面している第2の端部202を有するピストン20と、ピストン20の半径方向においてピストン20の外面とシリンダ10の内面との間に配置された封止部材30であって、封止部材30が、ピストン20の全軸線方向ストロークの過程でシリンダ10の内面の第1の軸線方向領域を通過し、シリンダ10の内面と封止接触している、封止部材30と、ピストン20と端部キャップ13との間に配置された、少なくとも1つの皿ばね41を備える皿ばね装置40とを示しており、軸線方向Aにおいて、皿ばね装置40の一方の側は、ピストン20の第2の端部に当接しており、他方の側は、端部キャップ13に当接しており、皿ばね装置40の外側の端縁部は、皿ばね装置の周方向において、シリンダ10の内面に対して遊び嵌めされている。上で言及した皿ばね装置40の「一方の側」および「他方の側」とは、向きに応じて、軸線方向Aにおいて、皿ばね装置40が、ピストン20に面する一方の側と、端部キャップ13に面する他方の側とに分けられることを意味している。
【0014】
当然ながら、図示していない実施形態においては、皿ばね装置40の他方の側は、ピストン20と端部キャップ13との間に固定された支持プレートに当接してもよく、支持プレートは、端部キャップ13の一部とみなされることが可能であり、やはり本願の保護範囲内に含まれる。また、当然ながら、軸線方向Aにおいて、皿ばね装置40は2つの端縁部を有しており、同時にこれらの端縁部は、皿ばね装置40の半径方向におけるその内側の端縁部と外側の端縁部とであってもよい。1つの可能な状況において、皿ばね装置40は、ピストン20に面しかつピストン20の端面に最も近い一方の側における端縁部と、端部キャップ13に面しかつ端部キャップ13に最も近い他方の側における端縁部とを有しており、したがって、皿ばね装置40は、上でそれぞれ述べた2つの側の端縁部を介して、ピストン20と端部キャップ13との端面間に当接している。代替的に、ピストン20および/または端部キャップ13の特定の設計による別の可能な状況において、皿ばね装置40は、皿ばね装置の2つの端縁部間に位置していて、これらの端縁部のうちの一方に近い部位(すなわち、当接部位)を介して、ピストン20または端部キャップ13に当接しており、この場合、さらに当然ながら、皿ばね装置40の当接部位は、ピストン20または端部キャップ13の当接部位の形状に応じて、それに対応するように設計されて、表面接触による当接を可能な限り実現し、当接部位における応力集中の問題を回避することが可能である。皿ばね装置40は、シリンダ10の内面に対して遊び嵌めされており、このシリンダ10の内面により、皿ばね装置40を半径方向で位置決めし、軸線方向Aで変形ガイドすることができる。皿ばね装置40の変形は、実質的に軸線方向Aに限定されており、それにより、シリンダ10内でのピストン20のストロークも実質的に軸線方向Aに限定され、これにより、ピストン20をガイドする効果が実現される。ガイドリングを追加して設ける必要がないことから、ガイドリングによるシリンダ10の内面の引掻きが回避され、封止部材30が損傷する確率が低下する。それと同時に、アキュムレータ内の構成要素の個数が減少し、工程が単純化され、コストが低下する。皿ばねは、剛性が高く、減衰および振動吸収の能力が高いという特性を有しており、少ない程度の変形で高負荷に耐えることができ、従来のアキュムレータにおけるコイルばねに比べて、ピストン20および封止部材30の軸線方向ストロークの長さを短縮することができ、それにより、皿ばね装置40の外側の端縁部によって引っ掻かれた可能性のあるシリンダ10の内面を封止部材30が通過する確率がさらに低下する。
【0015】
単一プレートの皿ばねは、円錐ディスクの形態を取るが、本願の一実施形態によれば、皿ばね装置40は、実質的に同軸に配置された複数の皿ばね41を備えており、2つの隣接した前記皿ばね41は、軸線方向Aにおいて互いに平行にかつ/または互いに対称的に配置されている。これにより、生じるばね硬さまたはばね特性曲線を調整することが可能になり、ひいては、皿ばね装置40の軸線方向変形の程度を調整することにより、ピストン20の全軸線方向ストロークの長さをさらに制御することが可能になる。
図1は、隣接する2つの前記皿ばね41が、軸線方向Aにおいて互いに対称的に配置された状況を示している。
図3は、隣接する2つの前記皿ばね41が、軸線方向Aにおいて互いに平行に配置された状況を示している。当然ながら、皿ばね装置40が3つまたはそれ以上の皿ばね41を備えるとき、隣接する皿ばね41の各対は、互いに対称的にまたは平行に混成されて配置されてもよい。
【0016】
ピストン20の全軸線方向ストロークの過程で、封止部材30は、シリンダ10の内面の第1の軸線方向領域を通過し、皿ばね装置40は、シリンダ10の内面の第2の軸線方向領域を通過する。なお、軸線方向において第1の軸線方向領域と第2の軸線方向領域とを離間させる距離の最小値は、ゼロである。まず、2つの領域は軸線方向Aにおいて離間させられているので、封止部材30は、皿ばね装置40によって引っ掻かれた可能性のあるシリンダ10の内面に接触することはなく、それにより、封止部材30の損傷が回避される。軸線方向において第1の軸線方向領域と第2の軸線方向領域とを離間させる距離がゼロのとき、ピストン20の必要な長さは最短であり、したがって、軸線方向のストロークの過程でピストン20が引っ掛かる可能性がある程度低減され、材料も節減される。
【0017】
図1に示してあるように、ピストン20は、液体支持部分21と、接続部分22と、押圧部分23とを備えていてもよく、これらは軸線方向Aにおいて順番に配置されている。接続部分22の2つの端部は、それぞれ液体支持部分21および押圧部分24に接続されており、それにより、液体支持部分21および押圧部分23の2つの端面の間に間隙が存在しており、前記2つの端面は、軸線方向Aにおいて互いに向かい合っている。皿ばね装置40の一方の側の端縁部は、端部キャップ13に面する押圧部分23の端面に当接しており、封止部材30は、ピストン20の半径方向において、液体支持部分21の外面とシリンダ10の内面との間に配置されている。接続部分22および押圧部分23は、シリンダ10の内面に必ずしも接触せず、ピストン20のガイドは、単に液体支持部分21をガイドすることによって達成可能である。したがって、軸線方向における液体支持部分21の長さを、さらに合理的に短縮することが可能であり、したがって、軸線方向のストロークの過程で液体支持部分21が引っ掛かる可能性が低減され、それと同時に、接続部分22および押圧部分23の寸法について精度要件が緩和され、したがって、工程の難度が低下する。さらに、液体支持部分21および押圧部分23の互いに向かい合った2つの端面間の間隙によって、封止部材30と皿ばね装置40との間の距離がさらに広げられ、封止部材30が通過するシリンダ10の内面の第1の軸線方向領域と、皿ばね装置40が通過するシリンダ10の内面の第2の軸線方向領域との間の間隙が客観的に増大させられ、ひいては、封止部材30の損傷が回避される。
【0018】
当然ながら、
図1に示してある実施形態において、押圧部分23のサイズは、皿ばね装置40を支持しかつ押圧するのに十分なサイズであることが望ましく、たとえば端部キャップ13に面する押圧部分23の端面は円形で、皿ばね装置40の内側の端縁部(または中空部分)の直径より大きい直径を有していてもよい。
【0019】
再び
図1を参照すると、端部キャップ13に面する液体支持部分21の端部に、端部キャップ13に面する受入れ空間211が設けられており、接続部分22の一方の端部が、受入れ空間211の内面に対して可動に受入れ空間211に受け入れられている。選択的に、受入れ空間211に受け入れられる接続部分22の端部は、球面状の端面を有しており、受入れ空間211は、端部キャップ13に面する開口を有する円錐形の内面を有していて、接続部分22の球面状の端面は、受入れ空間211の円錐形の内面に線接触する。ピストン20の軸線方向ストロークの範囲内で、シリンダ10の内面により液体支持部分21が引っ掛かったとき、接続部分22は受入れ空間211の内面に対して可動であることから、接続部分22の押圧方向を調整することにより、液体支持部分21の押込み方向の自己調整を達成して、引っ掛かりをなくし、故障を回避することができる。
【0020】
図1に示してあるように、受入れ空間211は、端部キャップ13に面する開口を有する円錐形の内面と、この円錐形の内面の開口の縁部から端部キャップ13に向かって延在した真っ直ぐな管状の内面とを有するように構成されていてもよい。接続部分22の球面状の端面は、受入れ空間211の円錐形の内面に線接触しており、接続部分22の一部が、受入れ空間に受け入れられている。受入れ空間211の真っ直ぐな管状の内面によって規定された空間は、一定の直径を有しており、客観的に、接続部分22の押圧方向が軸線方向Aから逸れることが可能な限り少なくなり、自己調整の工程における過剰な調整が回避される。
【0021】
また、アキュムレータ100は、シリンダ10の内部空間を通気するための通気手段も有している。通気手段は、端部キャップ13に貫通するように形成された通気穴51と、圧力平衡要素52とを有している。ピストン20に面する端部キャップ13の側面に、中空体の形態を取りかつピストン20に向かって開口した受入れ手段131が設けられている。圧力平衡要素52は、受入れ手段131に受け入れられ、通気穴51は、受入れ手段131の底部に設けられており、圧力平衡要素52は、通気穴51の貫通穴横断面を覆っていて、気体および/または液体の媒体は、圧力平衡要素52を軸線方向Aに通過することができる。ピストン20に面する受入れ手段131の端部と、端部キャップ13に面する押圧部分23の端面との間の距離は、第1の軸線方向領域の長さよりも大きいかまたはそれに等しい。皿ばね装置40は、受入れ手段131に対して軸線方向に可動に、受入れ手段131の周囲を取り囲んで装着されていて、端部キャップ13に支持されている。通気手段は、シリンダ10の内部空間とシリンダ10の外部の環境との間で双方向の通気を可能にし、それにより、シリンダ10の内部空間は、実用的な圧力を維持し、それにより、ピストン20と端部キャップ13との間でシリンダ内部空間における圧力変動をなくし、それと同時に、封止部材30の封止効果も改善および強化する。それと同時に、受入れ手段131の端部と押圧部分23との間の距離が、第1の軸線方向領域よりも大きいかまたはそれに等しいことにより、ピストン20の軸線方向ストロークが受入れ手段131と干渉しないことが確保される。
【0022】
圧力平衡要素52は、好ましくは発泡材料および/または焼結材料から製造された多孔質のフィルタ本体であってもよく、たとえばプラスチック材料、金属材料および/またはセラミック材料から低コストで製造されてもよい。選択的に、通気穴51は、受入れ手段131の底部に設けられ、通気穴51と圧力平衡要素52との間に軸線方向Aで間隙が形成される。受入れ手段131および/または間隙は緩衝空間を提供し、この緩衝体積により、通気穴51に流入した気体および/または液体の媒体が、圧力平衡要素52に直接負荷をかけることが防止される。緩衝空間に位置する気体および/または液体の媒体は、通気穴51を通ってシリンダの外側に徐々に流出することができ、それにより、緩衝空間内に可能な限り圧力媒体が存在しなくなる。
【0023】
図2に示してあるように、本願はさらに、車両制動システムのための別のアキュムレータ200の一部の断面図を提供する。具体的には、この図面は、シリンダ1であって、内部空間を規定する内面、内部空間の軸線方向A’においてシリンダ1の一方の端部に配置された液体入口101および液体出口102、ならびにシリンダ1の他方の端部に配置された端部キャップ103を有するシリンダ1と、軸線方向A’に往復運動可能にシリンダ1の内部空間に収容されたピストン2であって、シリンダ1の内面に対向する外面、シリンダの液体入口101および液体出口102に近い方の側の第1の端部25、ならびに第1の端部25と反対側でシリンダ端部キャップ103に面している第2の端部26を有しており、第2の端部26に、端部キャップ103に向かって開口した押込み空間27が設けられている、ピストン2と、ピストン2の半径方向においてピストン2の外面とシリンダ1の内面との間に配置された封止部材3であって、封止部材3が、ピストン2の全軸線方向ストロークの過程でシリンダ1の内面の第3の軸線方向領域を通過し、シリンダ1の内面に封止接触している、封止部材3と、ピストン2と端部キャップ103との間に配置された、少なくとも1つの皿ばね401を備える皿ばね装置4であって、軸線方向A’において、皿ばね装置4の一方の側が端部キャップ103に当接している、皿ばね装置4とを示している。押込み空間27に対応したガイド手段104が、ピストン2に面する端部キャップ103の側面に、突出するように設けられており、皿ばね装置4は、ガイド手段104に対して軸線方向に可動に、ガイド手段104の周囲を取り囲んで装着されており、皿ばね装置4の内側の端縁部は、皿ばね装置の周方向において、ガイド手段104の周面に対して遊び嵌めされており、それにより、皿ばね装置4は、軸線方向に圧縮される一方で、ガイド手段104によって半径方向に位置決めされることが可能である。
【0024】
ピストン2によって皿ばね装置4が圧縮されていない状態では、ピストン2に面するガイド手段104の端部と、押込み空間27の閉じた内側の端部との間の距離は、第3の軸線方向領域の長さよりも大きいかまたはそれに等しく、したがって、ピストン2の軸線方向ストロークがガイド手段104と干渉しないことが確保される。ピストン2に面する皿ばね装置4の側と、ピストン2の第2の端部26との間の最短距離は、第3の軸線方向領域の長さよりも小さく、したがって、ピストン2が皿ばね装置4を効果的に圧縮して、アキュムレータの機能を達成することができることが確保される。
【0025】
上で説明したのと同様に、
図2に示してある実施形態において、皿ばね装置4は、端部キャップ103に面するその一方の側の端縁部を介して、端部キャップ103に当接していてもよい。代替的に、特定の設計に応じて、皿ばね装置4は、端縁部に近い部位(当接部位)を介して端部キャップ103に当接することも可能である。なお、当接部位の構造は、表面接触により端部キャップ103に当接するように適宜設計されてもよい。同様に、皿ばね装置4が圧縮される工程において、ピストン2に面する皿ばね装置4の側は、上で説明したのと同様に当接してもよく、これについては再度説明しない。
【0026】
図1に示してあるアキュムレータの実施形態における、シリンダの内面と皿ばね装置の外部縁部との間の遊び嵌めによる皿ばね装置の「外側からのガイド」とは対照的に、
図2に示してあるアキュムレータ200の実施形態においては、皿ばね装置4は、皿ばね装置4の中空領域にガイド手段104を通すことにより「内側からガイド」され、この場合、皿ばね装置4の外縁部は、シリンダ1の内面に必ずしも接触しない。このことは、シリンダ1の内面が引っ掻かれて、場合により封止部材3が損傷することを防止するのみならず、より小さいサイズの皿ばねの使用も可能にし、したがって、コストを低減する。さらに、この実施形態において、ガイド手段104の周面は平滑化処理に供されてもよく、それにより、ガイド手段104の周面を取り囲んで装着された皿ばね装置4が、軸線方向においてもより滑らかなストロークを有するようになる。
【0027】
当然ながら、通気により圧力の平衡を保つ機能を実現するという目的のために、
図2に示してある実施形態におけるアキュムレータ200の端部キャップ103にも通気穴が設けられている。選択的に、ガイド手段104は、端部キャップ103の底部から所定の軸線方向距離だけ離れた分離プレートによって、端部キャップ103に固定されてもよく、端部キャップ103の底部および分離プレートに通気穴が設けられて通気が実現されるか、または選択的に、ガイド手段104は、端部キャップ103の底部に直接固定され、通気路が、端部キャップ103の底部およびガイド手段104を貫通していて、シリンダ1の内側の空間と外側の空間との間で通気が実現され、それにより、圧力の平衡が保たれる。
【0028】
本願は、上で説明したアキュムレータを備える車両制動システムも提供する。
【0029】
本発明の複数の実施形態を図面を参照しながら上で説明してきた。本願の保護範囲は、上で説明しかつ図面に示した実施形態に限定されず、反対に、異なる実施形態において開示された特徴が、再び組み合わされて、本願の基本原理から逸脱することなく新規の実施形態が形成されてもよいことを当業者は理解するであろう。本願の保護範囲は、特許請求の範囲によってのみ規定される。