(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-07
(45)【発行日】2024-05-15
(54)【発明の名称】電子写真感光体、プロセスカートリッジ、及び電子写真装置
(51)【国際特許分類】
G03G 5/10 20060101AFI20240508BHJP
G03G 5/14 20060101ALI20240508BHJP
【FI】
G03G5/10 B
G03G5/14 101B
(21)【出願番号】P 2023052154
(22)【出願日】2023-03-28
【審査請求日】2023-05-23
(31)【優先権主張番号】P 2022075291
(32)【優先日】2022-04-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094112
【氏名又は名称】岡部 讓
(74)【代理人】
【識別番号】100101498
【氏名又は名称】越智 隆夫
(74)【代理人】
【識別番号】100106183
【氏名又は名称】吉澤 弘司
(74)【代理人】
【識別番号】100136799
【氏名又は名称】本田 亜希
(72)【発明者】
【氏名】山田 基也
(72)【発明者】
【氏名】篠塚 正之
(72)【発明者】
【氏名】高橋 孝治
(72)【発明者】
【氏名】小島 康夫
【審査官】中澤 俊彦
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-47413(JP,A)
【文献】特開平10-301312(JP,A)
【文献】特開平9-80785(JP,A)
【文献】特開2014-125676(JP,A)
【文献】特開2003-171726(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03G 5/10
G03G 5/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
円筒状の支持体及び感光層を有する電子写真感光体であって、
該支持体の表面が、Al及び/又はAl合金で形成されており、
該支持体の表面は、
(α){001}方位-15°以上+15°未満の面
(β){101}方位-15°以上+15°未満の面
(γ){111}方位-15°以上+15°未満の面
を有するAlの結晶粒からなり、
該支持体の表面の全面積に対して該(β)を有するAlの結晶粒が占める面積の割合が10%以下であり、且つ
該支持体の表面の全面積に対して該(γ)を有するAlの結晶粒が占める面積の割合が10%を超える、
ことを特徴とする電子写真感光体。
【請求項2】
前記支持体の表面の全面積に対して前記(γ)を有するAlの結晶粒が占める面積の割合が11%以上である、請求項1に記載の電子写真感光体。
【請求項3】
前記支持体の表面の全面積に対して前記(γ)を有するAlの結晶粒が占める面積の割合が50%以上である、請求項1に記載の電子写真感光体。
【請求項4】
前記支持体の表面の全面積に対して前記(γ)を有するAlの結晶粒が占める面積の割合が75%以上である、請求項1に記載の電子写真感光体。
【請求項5】
前記Al合金が、0.2質量%以上0.6質量%以下のSi及び0.45質量%以上0.9質量%以下のMgを含む、請求項1に記載の電子写真感光体。
【請求項6】
前記支持体の表面の全面積に対して前記(β)を有するAlの結晶粒が占める面積の割合が5%以下である、請求項1~5のいずれか1項に記載の電子写真感光体。
【請求項7】
請求項1~5のいずれか1項に記載の電子写真感光体と、帯電手段、現像手段、及びクリーニング手段からなる群より選択される少なくとも1つの手段と、を一体に支持し、電子写真装置の本体に着脱自在であるプロセスカートリッジ。
【請求項8】
請求項1~5のいずれか1項に記載の電子写真感光体、並びに、帯電手段、露光手段、現像手段、及び転写手段を有する電子写真装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電子写真感光体、該電子写真感光体を有するプロセスカートリッジ、及び該電子写真感光体を有する電子写真装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子写真装置ユーザーの多様化が進み、出力される画像には従来よりも高画質であることのニーズが高まっている。
特許文献1には、画質向上に関する技術として、導電性支持体の内部の応力値を-30MPa以上5MPa以下の範囲とする技術が記載されている。
特許文献2には、精度の観点から画質を向上させる技術として、切削加工の前にアルミニウム合金製素管を190℃以上550℃以下の温度で加熱する技術が記載されている。
また、特許文献3には、特定の組成を有するAl合金の結晶粒の平均面積を3μm2以上100μm2以下とする技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開第2019/077705号
【文献】特開2009-150958号公報
【文献】特開2017-111409号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明者らの検討によると、特許文献1~3に記載の電子写真感光体では、高温高湿環境下で繰り返し画像形成を行ったときに、出力した画像に欠陥が生じる場合があった。
【0005】
したがって、本発明の目的は、高温高湿環境下で繰り返し画像形成を行ったときに、出力した画像に欠陥が生じることを抑制した電子写真感光体を提供することにある。
【0006】
上記の目的は以下の本発明によって達成される。すなわち、本発明の一態様に係る電子写真感光体は、円筒状の支持体及び感光層を有する電子写真感光体であって、
該支持体の表面が、Al及び/又はAl合金で形成されており、
該支持体の表面は、
(α){001}方位-15°以上+15°未満の面
(β){101}方位-15°以上+15°未満の面
(γ){111}方位-15°以上+15°未満の面
を有するAlの結晶粒からなり、
該支持体の表面の全面積に対して該(β)を有するAlの結晶粒が占める面積の割合が10%以下であり、且つ
該支持体の表面の全面積に対して該(γ)を有するAlの結晶粒が占める面積の割合が10%を超える、ことを特徴とする。
【0007】
また、本発明の別の態様に係るプロセスカートリッジは、上記電子写真感光体と、帯電手段、現像手段、及びクリーニング手段からなる群より選択される少なくとも1つの手段と、を一体に支持し、電子写真装置の本体に着脱自在であることを特徴とする。
【0008】
また、本発明のさらに別の態様に係る電子写真装置は、上記電子写真感光体、並びに、帯電手段、露光手段、現像手段、及び転写手段を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、高温高湿環境下で繰り返し画像形成を行ったときに、出力した画像に欠陥が生じることを抑制した電子写真感光体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図3】電子写真感光体を備えたプロセスカートリッジを有する電子写真装置の概略構成の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、好適な実施の形態を挙げて、本発明を詳細に説明する。
本発明者らが検討したところ、特許文献1~3に記載の技術では、高温高湿環境下で繰り返し画像形成を行ったときに、支持体のAl又はAl合金の結晶が持つ特性により支持体が腐食する場合があり、これにより出力した画像に欠陥が生じることがわかった。
【0012】
従来技術で発生していた上記技術課題を解決するために、本発明者らはアルミニウム製支持体の表面の結晶方位について検討を行った。
【0013】
上記検討の結果、以下の本発明に係る電子写真感光体を用いることで、上記技術課題を解決することができることを見出した。
すなわち、本発明に係る電子写真感光体は、円筒状の支持体及び感光層を有する電子写真感光体であって、
該支持体の表面が、Al及び/又はAl合金で形成されており、
該支持体の表面は、
(α){001}方位-15°以上+15°未満の面
(β){101}方位-15°以上+15°未満の面
(γ){111}方位-15°以上+15°未満の面
を有するAlの結晶粒からなり、
該支持体の表面の全面積に対して該(β)を有するAlの結晶粒が占める面積の割合が10%以下であり、且つ
該支持体の表面の全面積に対して該(γ)を有するAlの結晶粒が占める面積の割合が10%を超える、ことを特徴とする。
【0014】
なお、本発明において、例えば{111}方位-15°以上+15°未満の面とは、アルミニウムの結晶における{111}面から-15°以上+15°未満の面のばらつきを持った結晶面のことを指す。
【0015】
本発明の構成により、従来技術における上記技術課題を解決することができるメカニズムについて、本発明者らは以下のように考えている。
【0016】
アルミニウムの結晶方位は大きく分けて{101}方位、{001}方位、及び{111}方位の3つが存在する。「こべるにくす([No.28]Vol.14 2005.OCT)」に記載があるように、通常、例えば
図1(a)に示すように、それぞれの結晶方位を有する結晶粒はランダムに分布している。
【0017】
本発明者らは、結晶方位によって結晶粒の腐食のしやすさが異なると推測している。具体的には、(γ){111}方位-15°以上+15°未満の結晶粒及び(α){001}方位-15°以上+15°未満の結晶粒は、(β){101}方位-15°以上+15°未満の面の結晶粒と比較して腐食しにくいと本発明者らは推測している。
【0018】
従来技術におけるアルミニウム製支持体では、3種類の結晶方位の結晶粒がランダムに存在するため、(β)を有する結晶粒の寄与により腐食がしやすい傾向にあったと考えられる。
【0019】
一般に、表面がAl及び/又はAl合金で形成された電子写真感光体用の支持体は、通常、表面に酸化被膜を有しているため耐食性は良好である。しかし、何らかの要因で酸化被膜が十分でないと、支持体表面で局部的に腐食が発生し、画像欠陥、所謂ポチの原因となる場合がある。
【0020】
そこで、本発明においては、アルミニウム製支持体の表面において、例えば
図1(b)及び
図1(c)に示すように、腐食しやすいと推測している(β)を有する結晶粒の割合を減らし、腐食しにくいと推測している(γ)を有する結晶粒の割合を高くした状態で形成する。これにより、アルミニウム製支持体の表面が腐食することを抑制でき、その結果、出力した画像の欠陥を抑制できると考えられる。
【0021】
結晶方位によって結晶粒の腐食のしやすさが異なる理由については以下のように考えている。
アルミニウムの結晶は、その方位によって表面自由エネルギーが異なる。表面自由エネルギーが大きい順に、(β)を有する結晶粒、(α)を有する結晶粒、(γ)を有する結晶粒の順となる。この表面自由エネルギーの違いにより、腐食のしやすさが異なると考えている。よって、表面自由エネルギーの大きさからもっとも腐食に弱いのは(β)を有する結晶粒であり、最も腐食に強いのは(γ)を有する結晶粒であると予想できる。
【0022】
このような思想から、上記技術課題は、次のようにして解決できることを本発明者らは見出した。すなわち、アルミニウム製支持体の表面において、表面自由エネルギーが大きく、もっとも腐食に弱い(β)を有する結晶粒の割合を減らし、表面自由エネルギーが小さく、もっとも腐食に強い(γ)を有する結晶粒の割合を高くする。
【0023】
以下、本発明に係る電子写真感光体の構成について、さらに具体的に説明する。
[電子写真感光体]
本発明に係る電子写真感光体は、円筒状の支持体及び感光層を有する。
本発明に係る電子写真感光体を製造する方法としては、後述する各層の塗布液を調製し、所望の層の順番に塗布して、乾燥させる方法が挙げられる。このとき、塗布液の塗布方法としては、浸漬塗布、スプレー塗布、インクジェット塗布、ロール塗布、ダイ塗布、ブレード塗布、カーテン塗布、ワイヤーバー塗布、及びリング塗布などが挙げられる。これらの中でも、効率性及び生産性の観点から、浸漬塗布が好ましい。
以下、支持体及び各層について説明する。
【0024】
<支持体>
本発明に係る電子写真感光体は、円筒状の支持体を有し、支持体の表面は、Al及びAl合金から選ばれる少なくともいずれか1つで形成されている。また、支持体の表面は、温水処理や、ブラスト処理、切削処理などが施されていてもよい。
【0025】
(1)結晶方位
本発明における支持体表面の表面方向におけるAlの結晶方位の表記、例えば、{001}方位の面とは、Alの結晶面をミラー指数で示したものである。すなわち{001}方位の面は、結晶格子面の(001)、(010)、(100)、(00-1)、(0-10)、(-100)のいずれかを示すミラー指数の包括表現である。
【0026】
本発明において、該支持体の表面は、
(α){001}方位-15°以上+15°未満の面
(β){101}方位-15°以上+15°未満の面
(γ){111}方位-15°以上+15°未満の面
を有するAlの結晶粒からなる。
また、該支持体の表面の全面積に対して該(β)を有するAlの結晶粒が占める面積の割合が10%以下であり、且つ、該支持体の表面の全面積に対して該(γ)を有するAlの結晶粒が占める面積の割合が10%を超える。
【0027】
耐腐食性を高める観点から、支持体の表面の全面積に対して(γ)を有するAlの結晶粒が占める面積の割合は、11%以上であることが好ましく、50%以上であることがより好ましく、75%以上であることがさらに好ましい。
【0028】
また、腐食しやすい面を減らすという観点から、支持体の表面の全面積に対して(β)を有するAlの結晶粒が占める面積の割合が5%以下であることが好ましい。
【0029】
(支持体の表面のAlの結晶粒が有する結晶方位の測定方法)
本発明において、支持体の表面のAlの結晶粒が有する結晶方位の測定は、例えば以下のように行うことができる。
まず、支持体の表面をバフ研磨及び水酸化ナトリウム水溶液などにより処理し、処理前の支持体の表面から20μm以内の点について、Alの結晶粒が有する結晶方位の測定を行う。結晶方位の測定はSEM-EBSP法によって行なうことが好ましい。
SEM-EBSP法による測定には、EBSP(電子後方散乱パターン:Electron Back Scatter diffraction Pattern)検出器を備えたFE-SEM(電界放射型 走査型電子顕微鏡:Field Emission-Scanning Electron Microscope)を用いる。ここで、SEM-EBSP法とは、試験片表面に電子線を入射させたときに発生する反射電子から得られた菊池パターンを解析することにより、電子線入射位置の結晶方位を決定することができる方法のことである。また、菊池パターンとは、結晶に当たった電子線が散乱して回折された際に、白黒一対の平行線や帯状若しくはアレイ状に電子回折像の背後に現れるパターンのことを指す。
EBSP検出器を備えたFE-SEMとしては、例えば、電界放出型走査電子顕微鏡(商品名:JSM-6500F、日本電子社製)を用いることができる。
【0030】
(2)支持体の表面におけるAlの結晶粒の面積
本発明において、該支持体の表面は、
(α){001}方位-15°以上+15°未満の面
(β){101}方位-15°以上+15°未満の面
(γ){111}方位-15°以上+15°未満の面
を有するAlの結晶粒からなる。また、該支持体の表面の全面積に対して該(β)を有するAlの結晶粒が占める面積の割合が10%以下であり、且つ、該支持体の表面の全面積に対して該(γ)を有するAlの結晶粒が占める面積の割合が10%を超える。
【0031】
上記の各結晶方位を有するAlの結晶粒が占める面積の割合は、以下のようにして決定することができる。
図2に示すように、まず支持体のどちらか一方の端から軸方向に全長の1/8、2/8、3/8、4/8、5/8、6/8、7/8にあたる位置を決める。さらにそれぞれの位置において周方向に90°ずつ4分割する。軸方向の分割線と周方向の分割線が交わる28点それぞれにおいて、軸方向の分割線と周方向の分割線の交点が中心になるように100μm四方の領域を設定し、上記のSEM-EBSP法によって結晶方位の測定を行う。続いて、(α)(β)(γ)の結晶方位を有するAlの結晶粒について、それぞれの方位が占める面積を算出し、得られた値を10000μm
2で除することにより、各領域における各結晶方位を有するAlの結晶粒が占める面積の割合を決定する。最後に、28の領域から得られたそれぞれの値の平均値を支持体の(α)(β)(γ)が占める面積の割合として決定する。
【0032】
各結晶方位を有するAlの結晶粒が占める面積の算出には付属のソフトを使用しても構わない。また、例えば、次のようにして算出しても構わない。まず、測定により得られた結晶方位を、HSV色空間の色相hを用いて(α)の範囲を0≦h<60及び300≦h<360、(β)の範囲を60≦h<180、(γ)の範囲を180≦h<300と定める。続いて、各結晶方位を有するAlの結晶粒の領域の色相マッピングを行う。
【0033】
(3)支持体として用いるためのAl合金
支持体の表面を形成するAl合金は、結晶方位をコントロールする観点から、0.2質量%以上0.6質量%以下のSi及び0.45質量%以上0.9質量%以下のMgを含むことが好ましい。このようなAl合金としては、6000系Al合金、例えばJIS呼称A6063合金を用いることが好ましい。JIS呼称A6063合金は、具体的には0.2質量%以上0.6質量%以下のSi、0.35質量%以下のFe、0.1質量%以下のCu、0.1質量%以下のMn、0.45質量%以上0.9質量%以下のMg、0.1質量%以下のCr、0.1質量%以下のZn、及び0.1質量%以下のTiを含むAl合金である。
【0034】
支持体の表面を形成するAl合金は、結晶方位をコントロールする観点から、0.05質量%以上0.2質量%以下のCu及び1.0質量%以上1.5質量%以下のMnを含むAl合金であってもよい。このようなAl合金としては、3000系Al合金、例えばJIS呼称A3003合金などが挙げられる。JIS呼称A3003合金は、具体的には0.6質量%以下のSi、0.7質量%以下のFe、0.05質量%以上0.2質量%以下のCu、1.0質量%以上1.5質量%以下のMn、及び0.1質量%以下のZnを含むAl合金である。
【0035】
(4)支持体の製造方法
支持体の製造方法は、本発明の要件を満たす支持体を製造することができる方法であれば、特に限定されるものではない。
【0036】
支持体を製造する方法としては、例えば、以下の4つの工程を含む方法が挙げられる。
・特定のAl合金を準備する工程と、熱間押し出し加工を行って成型体を得る第一の工程
・第一の工程で得た成型体に、冷間引き抜きを施す第二の工程
・第二の工程後に焼鈍しを行う第三の工程
・焼鈍しを行った後に表面を切削する第四の工程
【0037】
焼鈍しによって結晶方位をコントロールする場合、昇温時間、焼鈍し温度、維持時間、及び冷却速度を調整することによって結晶方位をコントロールすることが可能である。
特に焼鈍しの温度を405℃以上450℃以下とし、冷却速度を8℃/min以上とすることで支持体の表面において、(β)を有する結晶粒が占める面積の割合が減少し、且つ(γ)を有する結晶粒が占める面積の割合が増加する。
【0038】
さらに、昇温速度及び維持時間によっても各結晶粒の割合を制御することができ、昇温速度を10℃/min以下、維持時間を2.5時間以下とすることが好ましい。
【0039】
また、結晶方位をコントロールするにあたり、熱履歴は重要であるため、上記の熱間押し出し加工を施す第一の工程及び冷間引き抜きを施す第二の工程を経たAl合金を焼鈍しして使用することが好ましい。
【0040】
<導電層>
本発明において、支持体の上に、導電層を設けてもよい。導電層を設けることで、支持体表面の傷や凹凸を隠蔽することや、支持体表面における光の反射を制御することができる。
導電層は、導電性粒子と、樹脂と、を含有することが好ましい。
【0041】
導電性粒子の材質としては、金属酸化物、金属、カーボンブラックなどが挙げられる。
金属酸化物としては、酸化亜鉛、酸化アルミニウム、酸化インジウム、酸化ケイ素、酸化ジルコニウム、酸化スズ、酸化チタン、酸化マグネシウム、酸化アンチモン、酸化ビスマスなどが挙げられる。金属としては、アルミニウム、ニッケル、鉄、ニクロム、銅、亜鉛、銀などが挙げられる。
これらの中でも、導電性粒子として、金属酸化物を用いることが好ましく、特に、酸化チタン、酸化スズ、酸化亜鉛を用いることがより好ましい。
導電性粒子として金属酸化物を用いる場合、金属酸化物の表面をシランカップリング剤などで処理したり、金属酸化物にリンやアルミニウムなど元素やその酸化物をドーピングしたりしてもよい。
また、導電性粒子は、芯材粒子と、その粒子を被覆する被覆層とを有する積層構成としてもよい。芯材粒子としては、酸化チタン、硫酸バリウム、酸化亜鉛などが挙げられる。被覆層としては、酸化スズなどの金属酸化物が挙げられる。
また、導電性粒子として金属酸化物を用いる場合、その体積平均粒径が、1nm以上500nm以下であることが好ましく、3nm以上400nm以下であることがより好ましい。
【0042】
樹脂としては、ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリビニルアセタール樹脂、アクリル樹脂、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、ポリウレタン樹脂、フェノール樹脂、アルキッド樹脂などが挙げられる。
【0043】
また、導電層は、シリコーンオイル、樹脂粒子、酸化チタンなどの隠蔽剤などをさらに含有してもよい。
【0044】
導電層の膜厚は、1μm以上50μm以下であることが好ましく、3μm以上40μm以下であることが特に好ましい。
【0045】
導電層は、上述の各材料及び溶剤を含有する導電層用塗布液を調製し、この塗膜を形成し、乾燥させることで形成することができる。塗布液に用いる溶剤としては、アルコール系溶剤、スルホキシド系溶剤、ケトン系溶剤、エーテル系溶剤、エステル系溶剤、芳香族炭化水素系溶剤などが挙げられる。導電層用塗布液中で導電性粒子を分散させるための分散方法としては、ペイントシェーカー、サンドミル、ボールミル、液衝突型高速分散機を用いた方法が挙げられる。
【0046】
<下引き層>
本発明において、支持体又は導電層の上に、下引き層を設けてもよい。下引き層を設けることで、層間の接着機能が高まり、電荷注入阻止機能を付与することができる。
【0047】
下引き層は、樹脂を含有することが好ましい。また、重合性官能基を有するモノマーを含有する組成物を重合することで硬化膜として下引き層を形成してもよい。
【0048】
樹脂としては、ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリビニルアセタール樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、ポリウレタン樹脂、フェノール樹脂、ポリビニルフェノール樹脂、アルキッド樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、ポリエチレンオキシド樹脂、ポリプロピレンオキシド樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアミド酸樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、セルロース樹脂などが挙げられる。
【0049】
重合性官能基を有するモノマーが有する重合性官能基としては、イソシアネート基、ブロックイソシアネート基、メチロール基、アルキル化メチロール基、エポキシ基、金属アルコキシド基、ヒドロキシル基、アミノ基、カルボキシル基、チオール基、カルボン酸無水物基、炭素-炭素二重結合基などが挙げられる。
【0050】
また、下引き層は、電気特性を高める目的で、電子輸送物質、金属酸化物、金属、導電性高分子などをさらに含有してもよい。これらの中でも、電子輸送物質、金属酸化物を用いることが好ましい。
電子輸送物質としては、キノン化合物、イミド化合物、ベンズイミダゾール化合物、シクロペンタジエニリデン化合物、フルオレノン化合物、キサントン化合物、ベンゾフェノン化合物、シアノビニル化合物、ハロゲン化アリール化合物、シロール化合物、含ホウ素化合物などが挙げられる。電子輸送物質として、重合性官能基を有する電子輸送物質を用い、上述の重合性官能基を有するモノマーと共重合させることで、硬化膜として下引き層を形成してもよい。
金属酸化物としては、酸化インジウムスズ、酸化スズ、酸化インジウム、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化アルミニウム、二酸化ケイ素などが挙げられる。金属としては、金、銀、アルミニウムなどが挙げられる。
また、下引き層は、添加剤をさらに含有してもよい。
【0051】
下引き層の膜厚は、0.1μm以上50μm以下であることが好ましく、0.2μm以上40μm以下であることがより好ましく、0.3μm以上30μm以下であることが特に好ましい。
【0052】
下引き層は、上述の各材料及び溶剤を含有する下引き層用塗布液を調製し、この塗膜を形成し、乾燥及び/又は硬化させることで形成することができる。塗布液に用いる溶剤としては、アルコール系溶剤、ケトン系溶剤、エーテル系溶剤、エステル系溶剤、芳香族炭化水素系溶剤などが挙げられる。
【0053】
<感光層>
電子写真感光体の感光層は、主に、(1)積層型感光層と、(2)単層型感光層とに分類される。(1)積層型感光層は、電荷発生物質を含有する電荷発生層と、電荷輸送物質を含有する電荷輸送層と、を有する。(2)単層型感光層は、電荷発生物質と電荷輸送物質を共に含有する感光層を有する。
【0054】
(1)積層型感光層
積層型感光層は、電荷発生層と、電荷輸送層と、を有する。
【0055】
(1-1)電荷発生層
電荷発生層は、電荷発生物質と、樹脂と、を含有することが好ましい。
【0056】
電荷発生物質としては、アゾ顔料、ペリレン顔料、多環キノン顔料、インジゴ顔料、フタロシアニン顔料などが挙げられる。これらの中でも、アゾ顔料、フタロシアニン顔料が好ましい。フタロシアニン顔料の中でも、オキシチタニウムフタロシアニン顔料、クロロガリウムフタロシアニン顔料、ヒドロキシガリウムフタロシアニン顔料が好ましい。
電荷発生層中の電荷発生物質の含有量は、電荷発生層の全質量に対して、40質量%以上85質量%以下であることが好ましく、60質量%以上80質量%以下であることがより好ましい。
【0057】
樹脂としては、ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリビニルアセタール樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、アクリル樹脂、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、ポリウレタン樹脂、フェノール樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、セルロース樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリ酢酸ビニル樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂などが挙げられる。これらの中でも、ポリビニルブチラール樹脂がより好ましい。
【0058】
また、電荷発生層は、酸化防止剤、紫外線吸収剤などの添加剤をさらに含有してもよい。具体的には、ヒンダードフェノール化合物、ヒンダードアミン化合物、硫黄化合物、リン化合物、ベンゾフェノン化合物、などが挙げられる。
【0059】
電荷発生層の膜厚は、0.1μm以上1μm以下であることが好ましく、0.15μm以上0.4μm以下であることがより好ましい。
【0060】
電荷発生層は、上述の各材料及び溶剤を含有する電荷発生層用塗布液を調製し、この塗膜を形成し、乾燥させることで形成することができる。塗布液に用いる溶剤としては、アルコール系溶剤、スルホキシド系溶剤、ケトン系溶剤、エーテル系溶剤、エステル系溶剤、芳香族炭化水素系溶剤などが挙げられる。
【0061】
(1-2)電荷輸送層
電荷輸送層は、電荷輸送物質と、樹脂と、を含有することが好ましい。
【0062】
電荷輸送物質としては、例えば、多環芳香族化合物、複素環化合物、ヒドラゾン化合物、スチリル化合物、エナミン化合物、ベンジジン化合物、トリアリールアミン化合物や、これらの物質から誘導される基を有する樹脂などが挙げられる。これらの中でも、トリアリールアミン化合物、ベンジジン化合物が好ましい。
電荷輸送層中の電荷輸送物質の含有量は、電荷輸送層の全質量に対して、25質量%以上70質量%以下であることが好ましく、30質量%以上55質量%以下であることがより好ましい。
【0063】
樹脂としては、ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、アクリル樹脂、ポリスチレン樹脂などが挙げられる。これらの中でも、ポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂が好ましい。ポリエステル樹脂としては、特にポリアリレート樹脂が好ましい。
電荷輸送物質と樹脂との含有量比(質量比)は、4:10~20:10が好ましく、5:10~12:10がより好ましい。
【0064】
また、電荷輸送層は、酸化防止剤、紫外線吸収剤、可塑剤、レベリング剤、滑り性付与剤、耐摩耗性向上剤などの添加剤を含有してもよい。具体的には、ヒンダードフェノール化合物、ヒンダードアミン化合物、硫黄化合物、リン化合物、ベンゾフェノン化合物、シロキサン変性樹脂、シリコーンオイル、フッ素樹脂粒子、ポリスチレン樹脂粒子、ポリエチレン樹脂粒子、シリカ粒子、アルミナ粒子、窒化ホウ素粒子などが挙げられる。
【0065】
電荷輸送層の膜厚は、5μm以上50μm以下であることが好ましく、8μm以上40μm以下であることがより好ましく、10μm以上30μm以下であることが特に好ましい。
【0066】
電荷輸送層は、上述の各材料及び溶剤を含有する電荷輸送層用塗布液を調製し、この塗膜を形成し、乾燥させることで形成することができる。塗布液に用いる溶剤としては、アルコール系溶剤、ケトン系溶剤、エーテル系溶剤、エステル系溶剤、芳香族炭化水素系溶剤が挙げられる。これらの溶剤の中でも、エーテル系溶剤又は芳香族炭化水素系溶剤が好ましい。
【0067】
(2)単層型感光層
単層型感光層は、電荷発生物質、電荷輸送物質、樹脂及び溶剤を含有する感光層用塗布液を調製し、この塗膜を形成し、乾燥させることで形成することができる。電荷発生物質、電荷輸送物質、樹脂としては、上記「(1)積層型感光層」における材料の例示と同様である。
【0068】
<保護層>
本発明において、感光層の上に、保護層を設けてもよい。保護層を設けることで、耐久性を向上することができる。
【0069】
保護層は、導電性粒子及び/又は電荷輸送物質と、樹脂とを含有することが好ましい。
導電性粒子としては、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化スズ、酸化インジウムなどの金属酸化物の粒子が挙げられる。
電荷輸送物質としては、多環芳香族化合物、複素環化合物、ヒドラゾン化合物、スチリル化合物、エナミン化合物、ベンジジン化合物、トリアリールアミン化合物や、これらの物質から誘導される基を有する樹脂などが挙げられる。これらの中でも、トリアリールアミン化合物、ベンジジン化合物が好ましい。
樹脂としては、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、フェノキシ樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリスチレン樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、エポキシ樹脂などが挙げられる。中でも、ポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂が好ましい。
【0070】
また、保護層は、重合性官能基を有するモノマーを含有する組成物を重合することで硬化膜として形成してもよい。その際の反応としては、熱重合反応、光重合反応、放射線重合反応などが挙げられる。重合性官能基を有するモノマーが有する重合性官能基としては、アクリロイル基、メタクリロイル基などが挙げられる。重合性官能基を有するモノマーとして、電荷輸送能を有する材料を用いてもよい。
【0071】
保護層は、酸化防止剤、紫外線吸収剤、可塑剤、レベリング剤、滑り性付与剤、耐摩耗性向上剤、などの添加剤を含有してもよい。具体的には、ヒンダードフェノール化合物、ヒンダードアミン化合物、硫黄化合物、リン化合物、ベンゾフェノン化合物、シロキサン変性樹脂、シリコーンオイル、フッ素樹脂粒子、ポリスチレン樹脂粒子、ポリエチレン樹脂粒子、シリカ粒子、アルミナ粒子、窒化ホウ素粒子などが挙げられる。
【0072】
保護層の膜厚は、0.5μm以上10μm以下であることが好ましく、1μm以上7μm以下であることが好ましい。
【0073】
保護層は、上述の各材料及び溶剤を含有する保護層用塗布液を調製し、この塗膜を形成し、乾燥及び/又は硬化させることで形成することができる。塗布液に用いる溶剤としては、アルコール系溶剤、ケトン系溶剤、エーテル系溶剤、スルホキシド系溶剤、エステル系溶剤、芳香族炭化水素系溶剤が挙げられる。
【0074】
[プロセスカートリッジ、電子写真装置]
本発明に係るプロセスカートリッジは、これまで述べてきた電子写真感光体と、帯電手段、現像手段、及びクリーニング手段からなる群より選択される少なくとも1つの手段とを一体に支持し、電子写真装置本体に着脱自在であることを特徴とする。
【0075】
また、本発明に係る電子写真装置は、これまで述べてきた電子写真感光体、並びに、帯電手段、露光手段、現像手段、及び転写手段を有することを特徴とする。
【0076】
図3に、電子写真感光体を備えたプロセスカートリッジを有する電子写真装置の概略構成の一例を示す。
【0077】
円筒状の電子写真感光体1は、軸2を中心に矢印方向に所定の周速度で回転駆動される。電子写真感光体1の表面は、帯電手段3により、正又は負の所定電位に帯電される。
なお、図においては、ローラー型帯電部材によるローラー帯電方式を示しているが、コロナ帯電方式、近接帯電方式、注入帯電方式などの帯電方式を採用してもよい。
【0078】
帯電された電子写真感光体1の表面には、露光手段(不図示)から露光光4が照射され、目的の画像情報に対応した静電潜像が形成される。電子写真感光体1の表面に形成された静電潜像は、現像手段5内に収容されたトナーで現像され、電子写真感光体1の表面にはトナー像が形成される。電子写真感光体1の表面に形成されたトナー像は、転写手段6により、転写材7に転写される。トナー像が転写された転写材7は、定着手段8へ搬送され、トナー像の定着処理を受け、電子写真装置の外へプリントアウトされる。
【0079】
電子写真装置は、転写後の電子写真感光体1の表面に残ったトナーなどの付着物を除去するための、クリーニング手段9を有していてもよい。また、クリーニング手段9を別途設けず、上記付着物を現像手段5などで除去する、所謂、クリーナーレスシステムを用いてもよい。
【0080】
電子写真装置は、電子写真感光体1の表面を、前露光手段(不図示)からの前露光光10により除電処理する除電機構を有していてもよい。また、本発明に係るプロセスカートリッジ11を電子写真装置本体に着脱するために、レールなどの案内手段12を設けてもよい。
【0081】
本発明に係る電子写真感光体は、レーザービームプリンター、LEDプリンター、複写機、ファクシミリ、及び、これらの複合機などに用いることができる。
【実施例】
【0082】
以下、実施例及び比較例を用いて本発明をさらに詳細に説明する。本発明は、その要旨を超えない限り、下記の実施例によって何ら限定されるものではない。なお、以下の実施例の記載において、「部」とあるのは特に断りのない限り質量基準である。
【0083】
[支持体の製造]
以下の方法で、支持体の製造を行った。
【0084】
(支持体A-1の製造例)
JIS呼称A6063合金からなる熱間押出形成された押出し管を、冷間引き抜き加工して、外径30.8mm、内径28.5mm、長さ370mmの引き抜き管を得た。
次に、引き抜き管を電気炉に入れ、昇温速度5℃/minで昇温後、425℃で1時間維持し、続いて引き抜き管が150℃になるまで25℃/minで冷却し、24時間後に電気炉から取り出した。
焼鈍し後に表面の鏡面切削加工を行うことにより、外径30.5mm、内径28.5mm、長さ370mmの「支持体A-1」を得た。支持体A-1の製造条件を表1に示す。
用いた引き抜き管の元素分析を行ったところ、0.4質量%のSi、0.3質量%のFe、0.06質量%のCu、0.08質量%以下のMn、0.65質量%のMg、0.05質量%のCr、0.07質量%のZn、及び0.06質量%のTiを含むAl合金であった。
【0085】
(支持体A-2~A-15の製造例)
支持体A-1の製造例において、同様の引き抜き管を用い、表1に示すように焼鈍しの条件を変更した以外は、支持体A-1の製造例と同様にして支持体を製造した。得られた支持体を「支持体A-2~支持体A-15」とする。支持体A-2~A-15の製造条件を表1に示す。
【0086】
(支持体A-16の製造例)
JIS呼称A3003合金からなる熱間押出形成された押出し管を、冷間引き抜き加工して、外径30.8mm、内径28.5mm、長さ370mmの引き抜き管を得た。
次に、引き抜き管を電気炉に入れ、昇温速度5℃/minで昇温後、405℃で1時間維持し、続いて引き抜き管が150℃になるまで30℃/minで冷却し、24時間後に電気炉から取り出した。
焼鈍し後に表面の鏡面切削加工を行うことにより、外径30.5mm、内径28.5mm、長さ370mmの「支持体A-16」を得た。支持体A-16の製造条件を表1に示す。
用いた引き抜き管の元素分析を行ったところ、0.2質量%のSi、0.3質量%のFe、0.09質量%のCu、1.3質量%のMn、及び0.02質量%のZn、を含むAl合金であった。
【0087】
(支持体B-1の製造例)
JIS呼称A6063合金からなる熱間押出形成された押出し管を、冷間引き抜き加工して、外径30.8mm、内径28.5mm、長さ370mmの引き抜き管を得た。
次に、引き抜き管を電気炉に入れ、昇温速度5℃/minで昇温後、430℃で1.5時間維持し、続いて引き抜き管が150℃になるまで6℃/minで冷却し、24時間後に電気炉から取り出した。
焼鈍し後に表面の鏡面切削加工を行うことにより、外径30.5mm、内径28.5mm、長さ370mmの「支持体B-1」を得た。支持体B-1の製造条件を表1に示す。
用いた引き抜き管の元素分析を行うと、0.5質量%のSi、0.2質量%のFe、0.07質量%のCu、0.06質量%以下のMn、0.7質量%のMg、0.04質量%のCr、0.06質量%以下のZn、及び0.07質量%のTiを含むAl合金であった。
【0088】
(支持体B-2~B-12の製造例)
支持体B-1の製造例において、同様の引き抜き管を用い、表1に示すように焼鈍しの条件を変更した以外は、支持体B-1の製造例と同様にして支持体を製造した。得られた支持体を「支持体B-2~支持体B-12」とする。支持体B-2~支持体B-12の製造条件を表1に示す。
【0089】
(支持体B-13及び支持体B-14の製造例)
マグネシウムを2.5質量%の割合で含有したAl-Mg合金からなる外径30.8mm、内径28.5mm、長さ370mmの引き抜き管を用い、表1に示す条件で焼鈍しを行った。焼鈍し後に表面の鏡面切削加工を行うことにより、外径30.5mm、内径28.5mm、長さ370mmの「支持体B-13及び支持体B-14」を得た。支持体B-13及び支持体B-14の製造条件を表1に示す。
【0090】
【0091】
<電子写真感光体の製造>
(感光体A-1の製造例)
支持体A-1を支持体として用いた。
次に、金属酸化物として酸化亜鉛粒子(比表面積:19m2/g、粉体抵抗:3.6×106Ω・cm)100部をトルエン500部と撹拌混合し、これにシランカップリング剤0.8部を添加し、6時間攪拌した。用いたシランカップリング剤は、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン(商品名:KBM602、信越化学工業製)である。その後、トルエンを減圧留去して、130℃で6時間加熱乾燥し、表面処理された酸化亜鉛粒子を得た。
【0092】
次に、以下の材料を用意した。
・ポリオール樹脂としてブチラール樹脂(商品名:BM-1、積水化学工業(株)製)15部
・ブロック化イソシアネート(商品名:スミジュール3175、住化バイエルウレタン社製)15部
これらをメチルエチルケトン73.5部と1-ブタノール73.5部の混合溶液に溶解させた。この溶液に上記表面処理された酸化亜鉛粒子80.8部、2,3,4-トリヒドロキシベンゾフェノン0.8部(東京化成工業(株)製)を加え、これを直径0.8mmのガラスビーズを用いたサンドミル装置で23±3℃雰囲気下で3時間分散した。
【0093】
次に、以下の材料を用意した。
・シリコーンオイル(商品名:SH28PA、東レダウコーニングシリコーン社製)0.01部
・架橋ポリメタクリル酸メチル(PMMA)粒子(商品名:TECHPOLYMER SSX-102、積水化成品工業(株)製、平均一次粒径2.5μm)5.6部
これらを、上記の分散後の溶液に加えて攪拌し、下引き層用塗布液を調製した。
この下引き層用塗布液を上記支持体上に浸漬塗布し、得られた塗膜を40分間160℃で乾燥させて、膜厚が18μmの下引き層を形成した。
【0094】
次に、以下の材料を用意した。
・CuKα特性X線回折におけるブラッグ角2θ±0.2°の7.4°及び28.2°にピークを有する結晶形のヒドロキシガリウムフタロシアニン結晶(電荷発生物質)20部
・下記式(A)で示されるカリックスアレーン化合物0.2部、
【化1】
・ポリビニルブチラール(商品名:エスレックBX-1、積水化学工業(株)製)10部
・シクロヘキサノン600部
これらを、直径1mmガラスビーズを用いたサンドミルに入れ、4時間分散処理した。その後、酢酸エチル700部を加えることによって、電荷発生層用塗布液を調製した。この電荷発生層用塗布液を下引き層上に浸漬塗布し、得られた塗膜を15分間80℃で乾燥させることによって、膜厚0.17μmの電荷発生層を形成した。
【0095】
次に、以下の材料を用意した。
・下記式(B)で示される化合物30部(電荷輸送物質)
・下記式(C)で示される化合物60部(電荷輸送物質)
・下記式(D)で示される化合物10部(電荷輸送物質)
【化2】
・ポリカーボネート樹脂(商品名:ユーピロンZ400、三菱エンジニアリングプラスチックス(株)製、ビスフェノールZ型のポリカーボネート)100部
・下記式(E-1)と下記式(E-2)との共重合ユニットを有するポリカーボネート樹脂(x/y=0.95/0.05:粘度平均分子量Mv:20000)0.02部
【化3】
【化4】
これらを、混合キシレン600部及びジメトキシメタン200部の混合溶剤に溶解させることによって、電荷輸送層用塗布液を調製した。この電荷輸送層用塗布液を上記電荷発生層上に浸漬塗布して塗膜を形成し、得られた塗膜を30分間100℃で乾燥させることによって、膜厚18μmの電荷輸送層を形成した。
【0096】
次に、1,1,2,2,3,3,4-ヘプタフルオロシクロペンタン(商品名:ゼオローラH、日本ゼオン(株)製)20部/1-プロパノール20部の混合溶剤を、ポリフロンフィルター(商品名:PF-040、アドバンテック東洋(株)製)で濾過した。
また、以下の材料を用意した。
・下記式(F)で示される正孔輸送性化合物90部
【化5】
・1,1,2,2,3,3,4-ヘプタフルオロシクロペンタン70部
・1-プロパノール70部
これらを上記混合溶剤に加えた。これをポリフロンフィルター(商品名:PF-020、アドバンテック東洋製)で濾過することによって、第二電荷輸送層(保護層)用塗布液を調製した。この第二電荷輸送層用塗布液を電荷輸送層上に浸漬塗布し、得られた塗膜を大気中において6分間50℃で乾燥させた。その後、窒素中において、支持体(被照射体)を200rpmで回転させながら、加速電圧70kV、吸収線量8000Gyの条件で1.6秒間、電子線を塗膜に照射した。引き続いて、窒素中において25℃から125℃まで30秒かけて昇温させ、塗膜の加熱を行った。電子線照射及びその後の加熱時の雰囲気の酸素濃度は15ppmであった。次に、大気中において30分間100℃で加熱処理を行うことによって、電子線により硬化された膜厚5μmの第二電荷輸送層(保護層)を形成した。
【0097】
次に、研磨シート(商品名:GC3000、理研コランダム製)を用いて保護層の表面に線状溝を形成した。研磨シートの送りスピードは40mm/分とし、被加工物の回転数は240rpmとし、被加工物に対する研磨シート押し当て圧は7.5N/m2とした。研磨シートの送り方向と被加工物の回転方向は同方向とした。また、外径40cm、アスカーC硬度40のバックアップローラーを用いた。これらの条件で、10秒間かけて、被加工物の周面に線状溝を形成した。
このようにして、感光体A-1を製造した。
【0098】
(感光体A-2~感光体A-16、感光体B-1~感光体B-14の製造例)
表2に示す支持体を用いた以外はすべて感光体A-1と同様にして電子写真感光体を製造した。得られた電子写真感光体を「感光体A-2~感光体A-16、感光体B-1~感光体B-14」とした。
【0099】
【0100】
〔腐食評価〕
各支持体を用いて、腐食評価を行った。
まず、55℃/95%RH環境下で14日間支持体を保管し、その後腐食の有無を目視で確認した。目視により確認された腐食は、測定顕微鏡(商品名:STM-6、オリンパス(株)製)を用いてその大きさを測定した。なお、腐食の大きさは腐食箇所の最大長さとした。
腐食の大きさ及び個数に応じて、表3に示す基準に従って評価ランクを決定した。結果を表5に示す。
【0101】
【0102】
〔画像評価〕
実施例及び比較例で製造した各電子写真感光体を用いて画像評価を行った。
まず、評価装置である電子写真装置(複写機)(商品名:imagePRESS C910、キヤノン(株)製)のシアンステーションに電子写真感光体を装着し、自動階調補正を実施した。その後、以下のように画像評価を行った。画像評価は23℃/50%RH環境下で行った。
【0103】
A4サイズの紙GFC-081(81.0g/m2、キヤノンマーケティングジャパン株式会社)を用い、ベタ白の画像及びベタ黒の画像を出力して、出力画像の電子写真感光体1周分の面積に含まれる画像欠陥、すなわち黒ポチ及び白ポチの数を目視にて評価した。目視により確認された黒ポチ及び白ポチは測定顕微鏡(商品名:STM-6、オリンパス(株)製)を用いてその大きさ測定した、なお、黒ポチ及び白ポチの大きさは各ポチの最大長さとした。黒ポチ及び白ポチは、直径0.1mm以上であるものの数を評価した。なお、電子写真感光体1周分の面積とは、縦がA4用紙の長辺長である297mmであり、横が電子写真感光体の1周分である96.1mmとする長方形の領域である。これを初期の黒ポチ及び白ポチとする。
【0104】
次に、初期の黒ポチ及び白ポチを評価した電子写真感光体を、55℃/95%RH環境下で14日間保管し、上記同様の画像評価を行った。これを過酷保管後の黒ポチ及び白ポチとする。
【0105】
最後に過酷保管後の黒ポチ及び白ポチの数から初期の黒ポチ及び白ポチの数を差し引いた変動分を算出した。これを変動分の黒ポチ及び白ポチとする。
【0106】
直径0.1mm以上の変動分の黒ポチ及び白ポチの大きさ及び個数に応じて、表4に示す基準に従って評価ランクを決定した。結果を表5に示す。なお、表4及び5に示すポチの数は、黒ポチの数と白ポチの数とを合わせた合計の数である。
【0107】
【0108】
[結晶方位評価]
実施例及び比較例で製造した各電子写真感光体を用いて、次のようにして結晶方位の評価を行った。
まず、支持体のどちらか一方の端から軸方向に全長の1/8、2/8、3/8、4/8、5/8、6/8、7/8にあたる位置を決める。さらにそれぞれの位置において周方向に90°ずつ4分割する。軸方向の分割線と周方向の分割線が交わる28点それぞれにおいて、軸方向の分割線と周方向の分割線の交点が中心になるように10mm四方の断片を切り出す。研磨シートで保護層を除去した後、メチルエチルケトンを用いて感光層を除去した。その後、バフ研磨によって支持体表面の露出、鏡面仕上げを行った。次に水酸化ナトリウム水溶液に1分浸漬させて処理して結晶方位観察用のサンプルを得た。
得られたサンプルの表面の中央つまり、前記した支持体の軸方向の分割線と周方向の分割線の交点が中心になるようにした100μm四方の領域について、SEM-EBSP法により観察した。観察結果より、各結晶方位を有するAlの結晶粒が占める面積の割合及びAlの結晶粒の平均面積を算出した。結果を表5に示す。
【0109】
【0110】
本発明に係る実施形態についての開示は以下の構成を含む。
(構成1)
円筒状の支持体及び感光層を有する電子写真感光体であって、
該支持体の表面が、Al及び/又はAl合金で形成されており、
該支持体の表面は、
(α){001}方位-15°以上+15°未満の面
(β){101}方位-15°以上+15°未満の面
(γ){111}方位-15°以上+15°未満の面
を有するAlの結晶粒からなり、
該支持体の表面の全面積に対して該(β)を有するAlの結晶粒が占める面積の割合が10%以下であり、且つ
該支持体の表面の全面積に対して該(γ)を有するAlの結晶粒が占める面積の割合が10%を超える、
ことを特徴とする電子写真感光体。
(構成2)
前記支持体の表面の全面積に対して前記(γ)を有するAlの結晶粒が占める面積の割合が11%以上である、構成1に記載の電子写真感光体。
(構成3)
前記支持体の表面の全面積に対して前記(γ)を有するAlの結晶粒が占める面積の割合が50%以上である、構成1に記載の電子写真感光体。
(構成4)
前記支持体の表面の全面積に対して前記(γ)を有するAlの結晶粒が占める面積の割合が75%以上である、構成1に記載の電子写真感光体。
(構成5)
前記Al合金が、0.2質量%以上0.6質量%以下のSi及び0.45質量%以上0.9質量%以下のMgを含む、構成1~4のいずれか1つの構成に記載の電子写真感光体。
(構成6)
前記支持体の表面の全面積に対して前記(β)を有するAlの結晶粒が占める面積の割合が5%以下である、構成1~5のいずれか1つの構成に記載の電子写真感光体
(構成7)
構成1~6のいずれか1つの構成に記載の電子写真感光体と、帯電手段、現像手段、及びクリーニング手段からなる群より選択される少なくとも1つの手段と、を一体に支持し、電子写真装置の本体に着脱自在であるプロセスカートリッジ。
(構成8)
構成1~6のいずれか1つの構成に記載の電子写真感光体、並びに、帯電手段、露光手段、現像手段、及び転写手段を有する電子写真装置。
【符号の説明】
【0111】
1 電子写真感光体
2 軸
3 帯電手段
4 露光光
5 現像手段
6 転写手段
7 転写材
8 定着手段
9 クリーニング手段
10 前露光光
11 プロセスカートリッジ
12 案内手段