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特許7484005多用途型の水性溶媒組成物及び塗り替え塗装方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-07
(45)【発行日】2024-05-15
(54)【発明の名称】多用途型の水性溶媒組成物及び塗り替え塗装方法
(51)【国際特許分類】
   C09D 201/00 20060101AFI20240508BHJP
   C09D 7/20 20180101ALI20240508BHJP
   C09D 7/63 20180101ALI20240508BHJP
   B05D 7/24 20060101ALI20240508BHJP
   B05D 3/10 20060101ALI20240508BHJP
   C11D 7/50 20060101ALI20240508BHJP
   C11D 7/32 20060101ALI20240508BHJP
【FI】
C09D201/00
C09D7/20
C09D7/63
B05D7/24 301C
B05D3/10 H
C11D7/50
C11D7/32
【請求項の数】 18
(21)【出願番号】P 2023202314
(22)【出願日】2023-11-30
【審査請求日】2023-11-30
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000001409
【氏名又は名称】関西ペイント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大森 弘勝
(72)【発明者】
【氏名】松田 英樹
【審査官】牟田 博一
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-83351(JP,A)
【文献】特開2005-272683(JP,A)
【文献】特開2005-279318(JP,A)
【文献】特開2013-208546(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D、B05D、C11D
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材上の旧塗膜面に水性樹脂を含有する常温乾燥型水性塗料を塗装して塗り替え塗装をするために使用され、旧塗膜に浸透性であって、かつ前記塗り替え塗装における旧塗膜処理工程、塗料調製工程及び洗浄工程のいずれか2種以上の工程で使用される兼用型の水性溶媒組成物であって、
アルコール系有機溶媒、エーテル系有機溶媒、ケトン系有機溶媒及びエステル系有機溶媒から成る群から選ばれる少なくとも1種の有機溶媒(A)、分子中に少なくとも1個のアミノ基を有するアミン化合物(B)及び水を含み、
水性溶媒組成物全量に対する、有機溶媒(A)の含有量が1~50質量%であり、かつアミン化合物(B)の含有量が0.05~10質量%であり、
前記水性溶媒組成物の固形分濃度が0質量%であるか、もしくは0.5質量%未満である、水性溶媒組成物。
【請求項2】
水性溶媒組成物全量に対する、水の含有量は40~98.95質量%である、請求項1記載の水性溶媒組成物。
【請求項3】
基材上の旧塗膜に、請求項記載の水性溶媒組成物を塗布し、旧塗膜に前記水性溶媒組成物を浸透させる旧塗膜処理工程を含む、塗り替え塗装方法。
【請求項4】
金属基材上の旧塗膜に、請求項記載の水性溶媒組成物を塗布し、旧塗膜に前記水性溶媒組成物を浸透させる旧塗膜処理工程を含む、塗り替え塗装方法。
【請求項5】
金属基材上の加熱硬化型塗料により形成された旧塗膜に、請求項記載の水性溶媒組成物を塗布し、旧塗膜に前記水性溶媒組成物を浸透させる旧塗膜処理工程を含む、塗り替え塗装方法。
【請求項6】
基材上の旧塗膜に、常温乾燥型水性塗料と請求項記載の水性溶媒組成物とを混合してなる希釈塗料を塗装する工程を含む、塗り替え塗装方法。
【請求項7】
基材上の旧塗膜に対する、請求項1記載の水性溶媒組成物及び常温乾燥型水性塗料を使用した単層仕上げの塗り替え塗装方法であって、
基材上の旧塗膜に、請求項1記載の水性溶媒組成物を塗布し、旧塗膜に前記水性溶媒組成物を浸透させること、及び
前記水性溶媒組成物を浸透させた旧塗膜に、常温乾燥型水性塗料を塗装することを含む、塗り替え塗装方法。
【請求項8】
基材上の旧塗膜に対する、請求項1記載の水性溶媒組成物及び常温乾燥型水性塗料を使用した単層仕上げの塗り替え塗装方法であって、
基材上の旧塗膜に、請求項1記載の水性溶媒組成物を塗布し、旧塗膜に前記水性溶媒組成物を浸透させること、及び
前記水性溶媒組成物を浸透させた旧塗膜に、常温乾燥型水性塗料と前記水性溶媒組成物とを混合してなる希釈塗料を塗装すること
を含む、塗り替え塗装方法。
【請求項9】
基材上の旧塗膜に対する、請求項1記載の水性溶媒組成物及び常温乾燥型水性塗料を使用した単層仕上げの塗り替え塗装方法であって、
基材上の旧塗膜に、請求項1記載の常温乾燥型水性塗料と水性溶媒組成物とを混合してなる希釈塗料を塗装することを含む、塗り替え塗装方法。
【請求項10】
基材上の旧塗膜に対する、請求項記載の水性溶媒組成物及び常温乾燥型水性塗料を使用した複層塗装仕上げの塗り替え塗装方法であって、前記常温乾燥型水性塗料は常温乾燥型水性下塗り塗料及び常温乾燥型水性上塗り塗料を含み、前記方法は、
基材上の旧塗膜に、請求項記載の水性溶媒組成物を塗布し、旧塗膜に請求項記載の水性溶媒組成物を浸透させること、
前記水性溶媒組成物を浸透させた旧塗膜に、常温乾燥型水性下塗り塗料を塗装し、下塗り塗膜を形成すること、及び
形成された下塗り塗膜上に、常温乾燥型水性上塗り塗料を塗装すること、
を含む、塗り替え塗装方法。
【請求項11】
基材上の旧塗膜に対する、請求項記載の水性溶媒組成物及び常温乾燥型水性塗料を使用した複層塗装仕上げの塗り替え塗装方法であって、前記常温乾燥型水性塗料は常温乾燥型水性下塗り塗料及び常温乾燥型水性上塗り塗料を含み、前記方法は、
基材上の旧塗膜に、請求項記載の水性溶媒組成物を塗布し、旧塗膜に請求項記載の水性溶媒組成物を浸透させること、
前記水性溶媒組成物を浸透させた旧塗膜に、常温乾燥型水性下塗り塗料を塗装し、下塗り塗膜を形成すること、及び
形成された下塗り塗膜上に、常温乾燥型水性上塗り塗料と請求項記載の水性溶媒組成物とを混合してなる希釈塗料を塗装すること、
を含む、塗り替え塗装方法。
【請求項12】
基材上の旧塗膜に対する、請求項記載の水性溶媒組成物及び常温乾燥型水性塗料を使用した複層塗装仕上げの塗り替え塗装方法であって、前記常温乾燥型水性塗料は常温乾燥型水性下塗り塗料及び常温乾燥型水性上塗り塗料を含み、前記方法は、
基材上の旧塗膜に、請求項記載の水性溶媒組成物を塗布し、旧塗膜に請求項記載の水性溶媒組成物を浸透させること、
前記水性溶媒組成物を浸透させた旧塗膜に、常温乾燥型水性下塗り塗料と請求項記載の水性溶媒組成物とを混合してなる希釈塗料を塗装し、下塗り塗膜を形成すること、及び
形成された下塗り塗膜上に、常温乾燥型水性上塗り塗料を塗装すること、
を含む、塗り替え塗装方法。
【請求項13】
基材上の旧塗膜に対する、請求項記載の水性溶媒組成物及び常温乾燥型水性塗料を使用した複層塗装仕上げの塗り替え塗装方法であって、前記常温乾燥型水性塗料は常温乾燥型水性下塗り塗料及び常温乾燥型水性上塗り塗料を含み、前記方法は、
基材上の旧塗膜に、請求項記載の水性溶媒組成物を塗布し、旧塗膜に請求項記載の水性溶媒組成物を浸透させること、
前記水性溶媒組成物を浸透させた旧塗膜に、常温乾燥型水性下塗り塗料と請求項記載の水性溶媒組成物とを混合してなる希釈塗料を塗装し、下塗り塗膜を形成すること、及び
形成された下塗り塗膜上に、常温乾燥型水性上塗り塗料と請求項記載の水性溶媒組成物とを混合してなる希釈塗料を塗装すること、
を含む、塗り替え塗装方法。
【請求項14】
基材上の旧塗膜に対する、請求項記載の水性溶媒組成物及び常温乾燥型水性塗料を使用した複層塗装仕上げの塗り替え塗装方法であって、前記常温乾燥型水性塗料は常温乾燥型水性下塗り塗料及び常温乾燥型水性上塗り塗料を含み、前記方法は、
基材上の旧塗膜に、常温乾燥型水性下塗り塗料と請求項記載の水性溶媒組成物とを混合してなる希釈塗料を塗装し、下塗り塗膜を形成すること、及び
形成された下塗り塗膜上に、常温乾燥型水性上塗り塗料を塗装すること、
を含む、塗り替え塗装方法。
【請求項15】
基材上の旧塗膜に対する、請求項記載の水性溶媒組成物及び常温乾燥型水性塗料を使用した複層塗装仕上げの塗り替え塗装方法であって、前記常温乾燥型水性塗料は常温乾燥型水性下塗り塗料及び常温乾燥型水性上塗り塗料を含み、前記方法は、
基材上の旧塗膜に、常温乾燥型水性下塗り塗料を塗装し、下塗り塗膜を形成すること、及び
形成された下塗り塗膜上に、常温乾燥型水性上塗り塗料と請求項記載の水性溶媒組成物とを混合してなる希釈塗料を塗装すること、
を含む、塗り替え塗装方法。
【請求項16】
基材上の旧塗膜に対する、請求項記載の水性溶媒組成物及び常温乾燥型水性塗料を使用した複層塗装仕上げの塗り替え塗装方法であって、前記常温乾燥型水性塗料は常温乾燥型水性下塗り塗料及び常温乾燥型水性上塗り塗料を含み、前記方法は、
基材上の旧塗膜に、常温乾燥型水性下塗り塗料と請求項記載の水性溶媒組成物とを混合してなる希釈塗料を塗装し、下塗り塗膜を形成すること、及び
形成された下塗り塗膜上に、常温乾燥型水性上塗り塗料と請求項記載の水性溶媒組成物とを混合してなる希釈塗料を塗装すること、
を含む、塗り替え塗装方法。
【請求項17】
基材上の旧塗膜面に常温乾燥型水性塗料を塗装器具で塗装して塗り替え塗装をした後、常温乾燥型水性塗料が付着した塗装器具を請求項記載の水性溶媒組成物を使用して洗浄することを含む洗浄方法。
【請求項18】
基材上の旧塗膜面に常温乾燥型水性塗料を塗装器具で塗装して塗り替え塗装をした後、常温乾燥型水性塗料が付着した塗装器具を請求項記載の水性溶媒組成物を使用して洗浄し、請求項記載の水性溶媒組成物中に浸漬する、塗装器具の保管方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、常温乾燥型水性塗料の塗り替え塗装作業を複数のステージでサポートすることができる、多用途型の水性溶媒組成物及び塗り替え塗装方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境保全の面から建築物の内外壁面や屋根等のメンテナンスが見直されており、劣化した旧塗膜面の強度を回復させる塗り替え塗装が注目されている。塗り替えの塗装現場では、高圧水洗による旧塗膜上のゴミの清掃、あるいは軽度のケレン作業を行った後の高圧水洗による清掃を行った後に塗り替え用の塗料を塗装する作業が行われる。
【0003】
従来、建築物において、劣化した旧塗膜の塗り替え塗装を行なう際には、溶剤系のシーラー組成物を用いて、劣化した旧塗膜面に塗装し浸透、固化させて補強し、その後上塗り塗料又は下地調整材と呼ばれる下塗り塗料の塗装を行っていた。
【0004】
有機溶剤を多量に含む溶剤系のシーラーは安全衛生面や臭気などの問題があるため、水系のシーラー組成物が望まれていたものの、旧塗膜に対する浸透性、施工後の耐剥離性、耐フクレ性の点で溶剤系のシーラーに及ばず、実用性が低かった。
【0005】
水性のシーラー組成物として例えば特許文献1には、(a)カルボニル基含有モノマ-30~95重量%、(b)イオン性基含有モノマ-0~25重量%、(c)アクリル酸又はメタクリル酸の炭素数12~30のアルキルエステル5~50重量%、及び(d)その他の共重合可能なモノマー0~65重量%含むモノマー混合物を共重合してなるカルボニル基含有共重合体の水溶液もしくは水分散液に、架橋剤として1分子中にヒドラジド基を2個以上含有するヒドラジド化合物を、カルボニル基1当量に対してヒドラジド基が0.05~2当量となるように添加することを特徴とする水性シーラー、及びこれを脆弱面や劣化面に塗布し浸透せしめて固化させてなる脆弱面や劣化面の強化方法が開示されている。
【0006】
また、建築物の塗り替え塗装現場では、塗装業者は、旧塗膜の処理が終了した後、塗り替え用に用意した塗料に希釈剤を混合して塗装に適した粘度に調整してから塗装を行う。
【0007】
水性塗料の場合、希釈剤には通常上水(水道水)が使用されるが、近年は希釈剤の開発も行われている。例えば、特許文献2では、6~9の範囲内のpH及び20~50質量%の範囲内の固形分を有し、且つ水溶性ないし水分散性の酸基含有樹脂、顔料及び水を含有する第一液と、0.5~10質量%の範囲内の固形分、70質量%以上の水含有率及び第一液より少なくとも0.5高いpHを有し、且つ中和剤、増粘剤及び水を含有する第二液とを有する多液型水性塗料が開示されている。
【0008】
また、建築物の塗り替え塗装現場では、塗装業者は、調整した塗料を塗装した後、塗装に使用したローラー、刷毛(ハケ)などの塗装器具を洗浄する。
【0009】
水性塗料用洗浄剤に関する技術として例えば特許文献3には、濃度0.21重量%以上1.4重量%以下の水酸化カリウムと、濃度12重量%以上49重量%以下のブチルセロソルブと、水とを含有してなることを特徴とする水性塗料洗浄剤が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特開平11-217559号公報
【文献】特開2012-158771号公報
【文献】特開2016-74815号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
屋外に建てられ、移動ができないこと、そして環境に対する配慮という観点から、すでに建てられた建築物の塗り替え塗装には常温乾燥型の水性塗料が多く用いられている。その一方で、外壁に使用される窯業系もしくは金属系サイディング、屋根に使用される金属材など、建てられる前の材料である「建材」は、工場等の場所で塗装され、加熱乾燥が可能であることから、加熱硬化型塗膜が形成されている場合がある。このように建築物の旧塗膜といっても、建材の種類などによって基材及び旧塗膜の材質は多種多様であり、塗料業者は基材及び旧塗膜の種類と状態に応じて塗装業者に塗装仕様を推奨する。また、夏場などは金属系基材上にある旧塗膜の表面温度が高くなるので、特許文献1で記載されているような水性シーラーで処理してから塗り替え用の水性塗料を塗装すると、異様に乾燥がはやい局面で水性塗料を施工することになり、仕上がり不良、剥離などの塗膜異常が発生する。そして、このような高温の旧塗膜に接触した刷毛やローラーには塗料が強く固着して洗浄が不十分となり、これら塗装器具を再利用できない不具合がある。
【0012】
本発明は、上記問題を鑑みてなされたものであり、常温乾燥型水性塗料を用いて塗り替え塗装を行うために、塗り替え用の常温乾燥型水性塗料の旧塗膜に対する付着性を良好なものとし、かつ塗り替え塗装に使用した塗装器具の洗浄性にも優れる多用途型の水性溶媒組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記特許文献1~3に記載されている各組成物は、それぞれの目的に応じて設計されているため別の用途で使用する着想はない。例えば、特許文献1に記載の水性シーラーは、常温乾燥型塗料による旧塗膜に対しては旧塗膜処理材として適用可能であるものの、塗り替え用塗料の希釈剤としての使用は想定していない。特許文献2に記載の希釈剤は、特許文献2に記載の特定の水性塗料に対しては希釈剤として適用可能であるものの、このものを塗装器具の洗浄剤として使用することは想定されていない。また、特許文献3に記載の洗浄剤は、塗装器具を洗浄する洗浄剤としては優れているものの、このものを旧塗膜に対して適用すること、もしくは希釈剤として使用することは想定されてはいない。
【0014】
本発明者らは、建築物の塗り替え塗装の各ステージにおいて生じる上記諸問題について検討した。その結果、
アルコール系有機溶媒、エーテル系有機溶媒、ケトン系有機溶媒及びエステル系有機溶媒から成る群から選ばれる少なくとも1種の有機溶媒(A)、アミン化合物(B)及び水を含み、水性溶媒組成物全量に対する、有機溶媒(A)の含有量が1~50質量%であり、かつアミン化合物(B)の含有量が0.05~10質量%であり、前記水性溶媒組成物の固形分濃度が0質量%であるか、もしくは0.5質量%未満である水性溶媒組成物が、塗り替え用の常温乾燥型水性塗料の旧塗膜に対する付着性を向上させるとともに、塗装器具等の洗浄性にも優れていることを見出した。
【0015】
すなわち本発明は、以下の実施形態を包含する。
項1.
基材上の旧塗膜面に常温乾燥型水性塗料を塗装して塗り替え塗装をするために使用する多用途型の水性溶媒組成物であって、
アルコール系有機溶媒、エーテル系有機溶媒、ケトン系有機溶媒及びエステル系有機溶媒から成る群から選ばれる少なくとも1種の有機溶媒(A)、アミン化合物(B)及び水を
含み、
水性溶媒組成物全量に対する、有機溶媒(A)の含有量が1~50質量%であり、かつアミン化合物(B)の含有量が0.05~10質量%であり、
前記水性溶媒組成物の固形分濃度が0質量%であるか、もしくは0.5質量%未満である、水性溶媒組成物。
項2.
前記塗り替え塗装における旧塗膜処理工程、塗料調製工程及び洗浄工程のいずれか2種以上の工程で使用できる兼用型である、項1記載の水性溶媒組成物。
項3.
基材上の旧塗膜に、項1又は2記載の水性溶媒組成物を塗布し、旧塗膜に前記水性溶媒組成物を浸透させる旧塗膜処理工程を含む、塗り替え塗装方法。
項4.
金属基材上の旧塗膜に、項1又は2記載の水性溶媒組成物を塗布し、旧塗膜に前記水性溶媒組成物を浸透させる旧塗膜処理工程を含む、塗り替え塗装方法。
項5.
金属基材上の加熱硬化型塗料により形成された旧塗膜に、項1又は2記載の水性溶媒組成物を塗布し、旧塗膜に前記水性溶媒組成物を浸透させる旧塗膜処理工程を含む、塗り替え塗装方法。
項6.
基材上の旧塗膜に、常温乾燥型水性塗料と項1又は2記載の水性溶媒組成物とを混合してなる希釈塗料を塗装する工程を含む、塗り替え塗装方法。
項7.
基材上の旧塗膜に対して水性溶媒組成物及び常温乾燥型水性塗料を使用する単層仕上げの塗り替え塗装方法であって、
基材上の旧塗膜に、水性溶媒組成物を塗布し、旧塗膜に前記水性溶媒組成物を浸透させること、及び
前記水性溶媒組成物を浸透させた旧塗膜に、常温乾燥型水性塗料を塗装することを含む、塗り替え塗装方法。
項8.
基材上の旧塗膜に対する、水性溶媒組成物及び常温乾燥型水性塗料を使用した単層仕上げの塗り替え塗装方法であって、
基材上の旧塗膜に、水性溶媒組成物を塗布し、旧塗膜に前記水性溶媒組成物を浸透させること、及び
前記水性溶媒組成物を浸透させた旧塗膜に、常温乾燥型水性塗料と前記本水性溶媒組成物とを混合してなる希釈塗料を塗装すること
を含む、塗り替え塗装方法。
項9.
に対する、水性溶媒組成物及び常温乾燥型水性塗料を使用した単層仕上げの塗り替え塗装方法であって、
基材上の旧塗膜に、常温乾燥型水性塗料と水性溶媒組成物とを混合してなる希釈塗料を塗装することを含む、塗り替え塗装方法。
項10.
基材上の旧塗膜に対する、項1又は2記載の水性溶媒組成物及び常温乾燥型水性塗料を使用した複層塗装仕上げの塗り替え塗装方法であって、前記常温乾燥型水性塗料は常温乾燥型水性下塗り塗料及び常温乾燥型水性上塗り塗料を含み、前記方法は、
基材上の旧塗膜に、項1又は2記載の水性溶媒組成物を塗布し、旧塗膜に項1又は2記載の水性溶媒組成物を浸透させること、
前記水性溶媒組成物を浸透させた旧塗膜に、常温乾燥型水性下塗り塗料を塗装し、下塗り塗膜を形成すること、及び
形成された下塗り塗膜上に、常温乾燥型水性上塗り塗料を塗装すること、
を含む、塗り替え塗装方法。
項11.
基材上の旧塗膜に対する、項1又は2記載の水性溶媒組成物及び常温乾燥型水性塗料を使用した複層塗装仕上げの塗り替え塗装方法であって、前記常温乾燥型水性塗料は常温乾燥型水性下塗り塗料及び常温乾燥型水性上塗り塗料を含み、前記方法は、
基材上の旧塗膜に、項1又は2記載の水性溶媒組成物を塗布し、旧塗膜に項1又は2記載の水性溶媒組成物を浸透させること、
前記水性溶媒組成物を浸透させた旧塗膜に、常温乾燥型水性下塗り塗料を塗装し、下塗り塗膜を形成すること、及び
形成された下塗り塗膜上に、常温乾燥型水性上塗り塗料と項1又は2記載の水性溶媒組成物とを混合してなる希釈塗料を塗装すること、
を含む、塗り替え塗装方法。
項12.
基材上の旧塗膜に対する、項1又は2記載の水性溶媒組成物及び常温乾燥型水性塗料を使用した複層塗装仕上げの塗り替え塗装方法であって、前記常温乾燥型水性塗料は常温乾燥型水性下塗り塗料及び常温乾燥型水性上塗り塗料を含み、前記方法は、
基材上の旧塗膜に、項1又は2記載の水性溶媒組成物を塗布し、旧塗膜に項1又は2記載の水性溶媒組成物を浸透させること、
前記水性溶媒組成物を浸透させた旧塗膜に、常温乾燥型水性下塗り塗料と項1又は2記載の水性溶媒組成物とを混合してなる希釈塗料を塗装し、下塗り塗膜を形成すること、及び
形成された下塗り塗膜上に、常温乾燥型水性上塗り塗料を塗装すること、
を含む、塗り替え塗装方法。
項13.
基材上の旧塗膜に対する、項1又は2記載の水性溶媒組成物及び常温乾燥型水性塗料を使用した複層塗装仕上げの塗り替え塗装方法であって、前記常温乾燥型水性塗料は常温乾燥型水性下塗り塗料及び常温乾燥型水性上塗り塗料を含み、前記方法は、
基材上の旧塗膜に、項1又は2記載の水性溶媒組成物を塗布し、旧塗膜に項1又は2記載の水性溶媒組成物を浸透させること、
前記水性溶媒組成物を浸透させた旧塗膜に、常温乾燥型水性下塗り塗料と項1又は2記載の水性溶媒組成物とを混合してなる希釈塗料を塗装し、下塗り塗膜を形成すること、及び
形成された下塗り塗膜上に、常温乾燥型水性上塗り塗料と項1又は2記載の水性溶媒組成物とを混合してなる希釈塗料を塗装すること、
を含む、塗り替え塗装方法。
項14.
基材上の旧塗膜に対する、項1又は2記載の水性溶媒組成物及び常温乾燥型水性塗料を使用した複層塗装仕上げの塗り替え塗装方法であって、前記常温乾燥型水性塗料は常温乾燥型水性下塗り塗料及び常温乾燥型水性上塗り塗料を含み、前記方法は、
基材上の旧塗膜に、常温乾燥型水性下塗り塗料と項1又は2記載の水性溶媒組成物とを混合してなる希釈塗料を塗装し、下塗り塗膜を形成すること、及び
形成された下塗り塗膜上に、常温乾燥型水性上塗り塗料を塗装すること、
を含む、塗り替え塗装方法。
項15.
基材上の旧塗膜に対する、項1又は2記載の水性溶媒組成物及び常温乾燥型水性塗料を使用した複層塗装仕上げの塗り替え塗装方法であって、前記常温乾燥型水性塗料は常温乾燥型水性下塗り塗料及び常温乾燥型水性上塗り塗料を含み、前記方法は、
基材上の旧塗膜に、常温乾燥型水性下塗り塗料を塗装し、下塗り塗膜を形成すること、及び
形成された下塗り塗膜上に、常温乾燥型水性上塗り塗料と項1又は2記載の水性溶媒組
成物とを混合してなる希釈塗料を塗装すること、
を含む、塗り替え塗装方法。
項16.
基材上の旧塗膜に対する、項1又は2記載の水性溶媒組成物及び常温乾燥型水性塗料を使用した複層塗装仕上げの塗り替え塗装方法であって、前記常温乾燥型水性塗料は常温乾燥型水性下塗り塗料及び常温乾燥型水性上塗り塗料を含み、前記方法は、
基材上の旧塗膜に、常温乾燥型水性下塗り塗料と項1又は2記載の水性溶媒組成物とを混合してなる希釈塗料を塗装し、下塗り塗膜を形成すること、及び
形成された下塗り塗膜上に、常温乾燥型水性上塗り塗料と項1又は2記載の水性溶媒組成物とを混合してなる希釈塗料を塗装すること、
を含む、塗り替え塗装方法。
項17.
基材上の旧塗膜面に常温乾燥型水性塗料を塗装器具で塗装して塗り替え塗装をした後、前記塗装器具に付着した常温乾燥型水性塗料を項1又は2記載の水性溶媒組成物を使用して除去することを含む洗浄方法。
項18.
基材上の旧塗膜面に常温乾燥型水性塗料を塗装器具で塗装して塗り替え塗装をした後、常温乾燥型水性塗料が付着した塗装器具を項1又は2に記載の水性溶媒組成物を使用して洗浄し、項1又は2記載の水性溶媒組成物中に浸漬する、塗装器具の保管方法。
【発明の効果】
【0016】
本発明の水性溶媒組成物は、塗り替え用の常温乾燥型水性塗料による塗膜と旧塗膜との付着性を向上させ、塗装器具の洗浄性にも優れている。その結果、本水性溶媒組成物を多用途で兼用して使用できるので、狭い塗装現場の省スペースに貢献でき、作業者に対して塗装作業しやすい環境を与えることができる。また、この水性溶媒組成物は水性組成物であるので、作業者の安全に対する配慮もなされている
【発明を実施するための形態】
【0017】
本実施形態は、基材上の旧塗膜面に、常温乾燥型水性塗料を塗装して塗り替え塗装をするために使用する多用途型の水性溶媒組成物である。
【0018】
基材
基材としては、建築物の構成部材であれば材質、形状に特に制限はなく、例えば、セメント、モルタル、コンクリート、スレート、石膏、ケイ酸カルシウム、ガラス、セラミック、瓦、大理石、人工大理石等の金属以外の無機質基材;木材等の木質基材;鉄鋼、亜鉛めっき鋼、錫めっき鋼、ステンレス鋼、マグネシウム合金、アルミニウム、アルミニウム合金、チタン、チタン合金、ブリキ、金属サイディング等の金属基材;アクリル板、ポリ塩化ビニル板、ポリカーボネート板、ABS板、ポリエチレンテレフタレート板、ポリオレフィン板などのプラスチック基材;これら基材を組み合わせた複合基材;等が挙げられる。複合基材としては、例えば、木繊維補強セメント板、繊維補強セメント板、繊維補強セメント・珪酸カルシウム板等の窯業系サイディング等が挙げられる。
【0019】
塗り替え対象となる基材としては、住宅、ビル、公共施設、商業施設、倉庫等の建築物の壁面、屋根面、床面、天井、柱、ドア、門等が挙げられる。
【0020】
旧塗膜
旧塗膜とは、塗り替え塗装を行う際に既に基材上に存在している塗膜を意味する。本実施形態では旧塗膜に制限はなく、従来公知の塗料から形成された塗膜が挙げられる。前記塗料は加熱硬化型塗料であっても常温乾燥型塗料であってもよく、水性塗料及び有機溶剤系塗料のいずれであってもよい。
【0021】
常温乾燥型水性塗料
常温乾燥型水性塗料とは、常温で乾燥させることにより塗膜を形成する塗料であって、水を主たる希釈媒体とする塗料をいう。常温とは、塗装が行なわれる環境の大気温度により大きく異なるが、強制的な加熱又は冷却などの温度操作を行なわない温度を指す。本実施形態の水性溶媒組成物は、特定の有機溶媒(A)、アミン化合物(B)及び水を特定量で含んでいるので、適度な親水性、疎水性、及び塩基性を有する。このため、多種多様な水性塗料に対して混和でき、そして多用途の効果を発揮できる。常温乾燥型水性塗料は、ラッカー塗料であっても反応硬化型であってもよく、1液型であっても2液型であってもよい。
【0022】
常温乾燥型水性塗料のバインダーとなる水性樹脂としては、水に溶解又は分散可能な樹脂が使用される。そのような樹脂としては、例えば、アクリル系樹脂、ビニル系樹脂、シリコーン系樹脂、フッ素系樹脂、ポリウレタン系樹脂、エポキシ系樹脂、アミノ基含有樹脂、フェノール系樹脂、ポリエステル系樹脂、アルキッド系樹脂、ポリカーボネート系樹脂等を挙げることができる。これらはそれぞれ単独で又は2種以上組み合わせて使用することができる。これら樹脂は、2種以上が変性あるいはグラフト重合されたものであってもよい。また、上記水性樹脂が分散粒子の形態である場合には、単層状又はコア・シェル型等の多層状のいずれであってもよい。
【0023】
常温乾燥型水性塗料は、前記水性樹脂と反応可能な架橋剤を必要に応じて含んでいてもよい。前記架橋剤としては、公知の架橋剤、具体的には、例えば、ポリヒドラジド化合物、ポリセミカルバジド化合物、カルボジイミド基含有化合物、オキサゾリン基含有化合物、エポキシ基含有樹脂、アミノ基含有樹脂等を挙げることができる。
【0024】
常温乾燥型水性塗料は、水性樹脂、水、及び必要に応じて配合される前記架橋剤以外に、着色顔料、体質顔料、防錆顔料等の顔料、分散剤、可塑剤、造膜助剤、増粘剤、消泡剤、難燃剤、中和剤等の塗料用添加剤を必要に応じて含む。
【0025】
また、本実施形態では、前記常温乾燥型水性塗料は、下塗り塗料及び上塗り塗料のいずれであってもよい。下塗り塗料である常温乾燥型水性塗料を常温乾燥型水性下塗り塗料とも称し、上塗り塗料である常温乾燥型水性塗料を常温乾燥型水性上塗り塗料とも称する。
【0026】
本明細書において、下塗り塗料とは、本発明の水性溶媒組成物で処理されていてもよい旧塗膜上に直接塗装し、その上に別の塗料を塗装する複層仕上げの下層に位置する塗料であり、一般的にプライマー、下地調整材、フィラー、サーフェーサーと呼ばれることがある。
【0027】
本明細書において、上塗り塗料とは、前記下塗り塗料よりも上に設けられる塗料であって、最上層もしくは中間層に位置する塗料であり、一般的に中塗り塗料、トップコート、複層仕上げ塗材と呼ばれることもある。
【0028】
水性溶媒組成物
次いで本発明の水性溶媒組成物について説明する
前記水性溶媒組成物は、アルコール系有機溶媒、エーテル系有機溶媒、ケトン系有機溶媒及びエステル系有機溶媒から成る群から選ばれる少なくとも1種の有機溶媒(A)及び水溶性アミン化合物(B)及び水を含み、
水性溶媒組成物全量に対する、有機溶媒(A)の含有量が1~50質量%であり、かつ水溶性アミン化合物(B)の含有量が0.05~10質量%であり、水性溶媒組成物の固形分濃度が0質量%であるかもしくは0.5質量%未満である。
【0029】

前記水性溶媒組成物は水を含む。水性溶媒組成物全量に対する水の含有量は40~98.95質量%であり、好ましくは50~98質量%、より好ましくは60~95質量%である。水性溶媒組成物全量に対する水の含有量が40質量%以上であると、塗り替え用水性塗料の塗装作業性、水性塗料の旧塗膜に対する付着性、及び塗装器具の洗浄性を良好にすることができる。水性溶媒組成物全量に対する水の含有量が99.85質量%以下であると、水性溶媒組成物中に水以外の成分を含むことができ、水性塗料の塗装作業性、水性塗料の旧塗膜に対する付着性、及び塗装器具の洗浄性を良好にすることができる。
【0030】
有機溶媒(A)
前記有機溶媒(A)としては、アルコール系有機溶媒、エーテル系有機溶媒、ケトン系有機溶媒及びエステル系有機溶媒から成る群から選ばれる少なくとも1種である。
【0031】
前記アルコール系有機溶媒としては、例えば、メチルアルコール、エチルアルコール、n-プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n-ブチルアルコール、イソブチル
アルコール、3-メトキシ-3-メチル-1-ブタノール等の一価アルコール;エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン、トリメチロールプロパン等の多価アルコールが挙げられる。
【0032】
前記エーテル系有機溶媒としては、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、エチレングリコールジプロピルエーテル、エチレングリコールジブチルエーテル、プロピレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールジエチルエーテル、プロピレングリコールジブチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールメチルエチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル;テトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン、アニソール等が挙げられる。
【0033】
前記ケトン系有機溶媒としては、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、メチル-n-アミルケトン等が挙げられる。
【0034】
前記エステル系有機溶媒としては、例えば、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル等が挙げられる。
【0035】
以上の有機溶媒は単独でもしくは複数組み合わせることができる。
【0036】
本実施形態において、塗り替え用の常温乾燥型水性塗料の旧塗膜に対する付着性及び塗装器具の洗浄性の観点から、水性溶媒組成物全量に対する有機溶媒(A)の含有量は1~50質量%であり、好ましくは10~40質量%である。水性溶媒組成物全量に対する有機溶媒(A)の含有量が1質量%未満であると、水性塗料の旧塗膜に対する付着性、及び塗装器具の洗浄性が低下する場合がある。水性溶媒組成物全量に対する有機溶媒(A)の含有量が50質量%を超えると、塗装器具の洗浄性が低下する場合がある。
【0037】
アミン化合物(B)
前記アミン化合物(B)は、分子中に少なくとも1個のアミノ基を有する化合物であれ
ば使用可能である。水性溶媒組成物がアミン化合物(B)を含むことによって、水性溶媒組成物で処理された旧塗膜に対する水性塗料の付着性が向上し、常温乾燥型水性塗料が付着した塗装器具を水性溶媒組成物を使用して良好に洗浄でき、塗装器具を長期間つけ置きした際の腐敗を防止又は抑制できるという効果がある。
【0038】
前記アミン化合物としては、例えば脂肪族系、脂環族系、芳香族系、複素環系などのアミン化合物、前記アミン化合物の脂肪酸変性物、エポキシ化合物とのアミンアダクト、マンニッヒ変性物、マイケル付加物、ケチミン、アルジミンもアミン化合物に包含され、市販されている水性アミン硬化剤も適用可能である。
【0039】
前記アミン化合物(B)は、水性溶媒組成物で処理された旧塗膜に対する水性塗料の付着性、水性溶媒組成物による水性塗料が付着した塗装器具の洗浄性が良好である観点から、ジメチルアミン、トリエチルアミン、ジエチルアミン、ジメチルアミノプロピルアミン、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、エタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、モルホリン、アミノプロパノール、2-アミノ-2-メチル-1-プロパノール、2-ジメチルアミノエタノール、ジメチルアミノプロピルアミン及びこれらの組み合わせから成る群から選ばれる少なくとも1種が好ましい。
【0040】
本実施形態において、塗り替え用の常温乾燥型水性塗料の旧塗膜に対する付着性を良好なものとし、使用した塗装器具の洗浄性にも優れる観点から、水性溶媒組成物全量に対するアミン化合物(B)の含有量は0.05~10質量%であり、好ましくは0.1~5質量%である。水性溶媒組成物全量に対するアミン化合物(B)の含有量が0.05質量%未満であると、水性塗料の旧塗膜に対する付着性、及び塗装器具の洗浄性が低下する場合がある。水性溶媒組成物全量に対するアミン化合物(B)の含有量が10質量%を超えると、水性塗料の旧塗膜に対する付着性が低下する場合がある。
【0041】
固形分濃度
本実施形態において、水性溶媒組成物は、固形分濃度が0質量%であるか、もしくは0.5質量%未満であり、好ましくは0を超え0.5質量%未満、より好ましくは0.3質量%未満、特に好ましくは0.1質量%未満である。固形分濃度が0.5質量%を超えると、塗り替え用の常温乾燥型水性塗料による塗膜と旧塗膜との付着性が不足するとともに、塗装器具の洗浄性の不足および塗装器具を長期間つけ置きした際の腐敗のうちの少なくとも一方が起こる場合があり、好ましくない。
【0042】
本明細書において、固形分とは、試料から、水、有機溶媒等の揮発する成分を除いた残渣を意味する。固形分濃度は、試料中に含まれる固形分(不揮発分)の質量割合であり、例えば、試料約3グラムを、アルミニウム製の皿に塗り広げ、105℃、3時間乾燥させた残渣の質量を、乾燥前の質量で除することにより求めることができる。
【0043】
本発明の水性溶媒組成物は、有機溶媒(A)、アミン化合物(B)及び水以外に、必要に応じて本発明範囲内で、有機溶媒(A)以外の有機溶媒、水性樹脂、分散剤、消泡剤、造膜助剤、レオロジーコントロール剤、防腐剤、凍結防止剤等の塗料用添加剤を含み得る。また、有機溶媒(A)及びアミン化合物(B)を工業的に入手した際に含まれる不可避的不純物も含み得る。
【0044】
多用途型
水性溶媒組成物は多用途型である。建築物の塗り替え塗装は、旧塗膜処理工程、塗料調製工程、塗装工程、乾燥工程、洗浄工程などの工程を含む複数のステージがあるが、本明細書において多用途型とはこれらのステージのうち複数のステージで水性溶媒組成物を適用できるという意味である。より具体的には、多用途型とは、旧塗膜処理工程、塗料調製
工程、及び洗浄工程のいずれか2種以上の工程で使用できる兼用型であることを指す。例えば、塗装現場で、ある作業者が金属製外壁の塗り替え塗装の旧塗膜処理工程に本水性溶媒組成物を使用し、別の作業者が無機質系外壁の塗り替え塗装に使用した刷毛を本水性溶媒組成物で洗浄するパターン、ある作業者が金属製外壁の塗り替え塗装の旧塗膜処理工程に本水性溶媒組成物を使用し、別の作業者が無機質系外壁の塗料調製工程に本水性溶媒組成物を使用するパターンなど、一体となった塗装工事現場において塗り替え塗装対象や塗装作業者が異なる場合も複数のステージで本水性溶媒組成物を使用しているので多用途型に該当する。
【0045】
以下、本発明の水性溶媒組成物を使用した塗り替え塗装方法の各工程について説明する。
【0046】
旧塗膜処理工程
いくつかの実施形態では、上記水性溶媒組成物は旧塗膜用処理剤として使用可能である。
【0047】
本実施形態の一部では、上記旧塗膜に、前記水性溶媒組成物を塗布し、旧塗膜に前記水性溶媒組成物を浸透させる。
【0048】
旧塗膜には劣化の状態によって必要に応じて高圧水洗及び/又はケレン作業を実施することが望ましい。
【0049】
旧塗膜に対して本水性溶媒組成物を塗布する方法としては特に制限されず、一般に塗料を塗布する際に適用されている方法を用いることができ、具体的には、エアスプレー塗装、エアレススプレー塗装、ローラー、刷毛、流し塗りを用いる塗装等が挙げられる。塗布後は通常は常温で放置して自然乾燥させるが必要に応じて強制乾燥を行ってもよい。放置時間は好ましくは1秒~3時間、さらに好ましくは10秒~2時間である。
【0050】
旧塗膜処理工程を有する実施形態では、基材が金属基材である場合にその効果をより発揮する。本実施形態では基材の種類に制限はないのは上述した通りであるが、基材が金属基材である場合、夏場など旧塗膜の表面温度が著しく高くなる。このような環境下において、常温乾燥型水性塗料による塗り替え塗装に先だって水性溶媒組成物を旧塗膜に塗装することによって、より安定した品質の塗り替え塗膜が形成される。これは水性溶媒組成物が旧塗膜に浸透して旧塗膜を軟質化又は一部溶解するとともに、旧塗膜に一部残存した水性溶媒組成物と塗り替え塗装用の常温乾燥型水性塗料が旧塗膜上で交じり合うことで、異様に乾燥が早い局面であっても塗膜形成における溶媒蒸発速度を緩和することができるものと推察される。
【0051】
また、本実施形態では、旧塗膜が加熱硬化型塗料により形成された旧塗膜である場合に、その効果をより発揮することができ、好ましい。
【0052】
本実施形態では旧塗膜の種類に制限はないのは上述した通りであるが、旧塗膜が加熱硬化型塗料により形成されたものである場合、塗膜の架橋度合い、材質などが常温乾燥型塗料とは大きく異なる点が多い。よって、加熱硬化型塗料による旧塗膜と常温乾燥型水性塗料による塗り替え塗膜の間で物理的、化学的性質が大きく異なることにより、それらの間で剥がれまたはフクレ等の塗膜欠陥が発生しやすいところ、水性溶媒組成物が旧塗膜に浸透することによって旧塗膜が一部軟質化又は一部溶解し、両者の間の付着性が向上するものと推察される。
【0053】
加熱硬化型塗料としては、強制的な加熱の実施により硬化する塗料であり、例えば、メ
ラミン系塗料、ブロックポリイソシアネート系塗料、粉体塗料等を挙げることができる。
【0054】
塗料調製工程
本実施形態の塗り替え塗装方法において使用される常温乾燥型水性塗料は、必要に応じて本水性溶媒組成物と混合され、希釈される。
【0055】
前記希釈塗料において、常温乾燥型水性塗料と前記水性溶媒組成物の使用割合としては、常温乾燥型水性塗料100質量部に対し、前記水性溶媒組成物が1~30質量部が好ましく、特に2~20質量部が適当である。塗料調製の際には水性溶媒組成物以外に、水、レオロジーコントロール剤等を添加してもよい。
【0056】
本実施形態では、基材上の旧塗膜に、常温乾燥型水性塗料と水性溶媒組成物とを混合してなる希釈塗料を塗装することによって、希釈塗料に含まれる本水性溶媒組成物が旧塗膜に浸透し、旧塗膜と常温乾燥型水性塗料により形成された塗膜との付着性が向上するとともに、希釈塗料の塗装作業性が向上し、好ましい。
【0057】
塗装工程
本実施形態では、本発明の範囲内にある限りにおいて、常温乾燥型水性塗料を、希釈せずに、本水性溶媒組成物で希釈して、もしくは水など水性溶媒組成物以外の公知の希釈剤で希釈して、塗装をしても差し支えない。
【0058】
前記旧塗膜に対して希釈されていてもよい常温乾燥型水性塗料を塗装する方法としては特に制限されず、一般に塗料を塗装する際に適用されている方法を用いることができる。具体的には、エアスプレー塗装、エアレススプレー塗装、ローラー、刷毛、流し塗りを用いる塗装等が挙げられる。特定の実施形態では、ローラー、刷毛などの塗装器具により塗装される。塗装後は通常は常温で放置して自然乾燥させるが必要に応じて強制乾燥を行ってもよい。常温とは、塗装が行なわれる環境の大気温度により大きく異なるが、強制的な加熱又は冷却などの温度操作を行なわない温度を指す。
【0059】
本実施形態の塗り替え塗装方法においては、常温乾燥型水性塗料を使用した単層仕上げを行ってもよいし、複層塗装仕上げを行ってもよい。単層仕上げとは、1種類の常温乾燥型水性塗料で塗り替え塗装を行うことを指す。複層仕上げとは、2種類以上の常温乾燥型水性塗料で塗り替え塗装を行うことを指す。
【0060】
単層仕上げの塗り替え塗装工程
本実施形態において、基材上の旧塗膜に対して水性溶媒組成物及び常温乾燥型水性塗料を使用した単層仕上げの塗り替え塗装をする場合、
水性溶媒組成物により処理されている旧塗膜(I)に対しては
水性溶媒組成物により希釈した水性塗料(1)又は本水性溶媒組成物により希釈していない水性塗料(2)を塗装するケースが挙げられ、
水性溶媒組成物により処理されていない旧塗膜(II)に対しては、
水性溶媒組成物により希釈した水性塗料(1)を塗装するケースが挙げられる。
【0061】
中でも、
基材上の旧塗膜に対する、水性溶媒組成物及び常温乾燥型水性塗料を使用した単層仕上げの塗り替え塗装方法であって、基材上の旧塗膜に、水性溶媒組成物を塗布し、旧塗膜に前記水性溶媒組成物を浸透させること、及び水性溶媒組成物を浸透させた旧塗膜に、常温乾燥型水性塗料を塗装すること、を含む塗り替え塗装方法;及び
基材上の旧塗膜に対する、水性溶媒組成物及び常温乾燥型水性塗料を使用した単層仕上げの塗り替え塗装方法であって、基材上の旧塗膜に、水性溶媒組成物を塗布し、旧塗膜に
前記水性溶媒組成物を浸透させること、及び水性溶媒組成物を浸透させた旧塗膜に、常温乾燥型水性塗料と水性溶媒組成物とを混合してなる希釈塗料を塗装すること、を含む塗り替え塗装方法;
は特に好ましい実施態様である。
また、
基材上の旧塗膜に対する、本水性溶媒組成物及び常温乾燥型水性塗料を使用した単層仕上げの塗り替え塗装方法であって、基材上の旧塗膜に、常温乾燥型水性塗料と水性溶媒組成物とを混合してなる希釈塗料を塗装することを含む、塗り替え塗装方法
も好ましい。
【0062】
複層塗装仕上げの塗り替え塗装工程
また、水性溶媒組成物は、複層塗装仕上げの塗り替え塗装に適用することも可能である。
【0063】
従って、基材上の旧塗膜に対して水性溶媒組成物、常温乾燥型水性下塗り塗料及び常温乾燥型水性上塗り塗料を使用した複層塗装仕上げの塗り替え塗装をする場合、
水性溶媒組成物により処理されている旧塗膜(I)に対しては、
水性溶媒組成物により希釈した下塗り塗料(1)及び水性溶媒組成物により希釈した上塗り塗料(3)、
水性溶媒組成物により希釈していない下塗り塗料(2)及び水性溶媒組成物により希釈した上塗り塗料(3)、
水性溶媒組成物により希釈した下塗り塗料(1)及び水性溶媒組成物により希釈していない上塗り塗料(4)、
水性溶媒組成物により希釈していない下塗り塗料(2)及び水性溶媒組成物により希釈していない上塗り塗料(4)
を塗装するケースが挙げられ、
水性溶媒組成物により処理されていない旧塗膜(II)に対しては、
本水性溶媒組成物により希釈した下塗り塗料(1)及び水性溶媒組成物により希釈した上塗り塗料(3)、
水性溶媒組成物により希釈していない下塗り塗料(2)及び水性溶媒組成物により希釈した上塗り塗料(3)、
水性溶媒組成物により希釈した下塗り塗料(1)及び水性溶媒組成物により希釈していない上塗り塗料(4)、
を塗装するケースが挙げられる。
【0064】
中でも、
基材上の旧塗膜に対する、水性溶媒組成物、常温乾燥型水性下塗り塗料及び常温乾燥型水性塗料を使用した複層塗装仕上げの塗り替え塗装方法であって、常温乾燥型水性塗料は常温乾燥型水性下塗り塗料及び常温乾燥型水性上塗り塗料を含み、上記方法は、基材上の旧塗膜に水性溶媒組成物を塗布し、旧塗膜に前記水性溶媒組成物を浸透させること、水性溶媒組成物を浸透させた旧塗膜に、常温乾燥型水性下塗り塗料を塗装し、下塗り塗膜を形成すること、及び形成された下塗り塗膜上に、常温乾燥型水性上塗り塗料を塗装すること、を含む塗り替え塗装方法;
基材上の旧塗膜に対する、水性溶媒組成物及び常温乾燥型水性塗料を使用した複層塗装仕上げの塗り替え塗装方法であって、常温乾燥型水性塗料は常温乾燥型水性下塗り塗料及び常温乾燥型水性上塗り塗料を含み、上記方法は、基材上の旧塗膜に、水性溶媒組成物を塗布し、旧塗膜に前記水性溶媒組成物を浸透させること、水性溶媒組成物を浸透させた旧塗膜に、常温乾燥型水性下塗り塗料を塗装し、下塗り塗膜を形成すること、及び形成された下塗り塗膜上に、常温乾燥型水性上塗り塗料と水性溶媒組成物とを混合してなる希釈塗料を塗装することを、含む塗り替え塗装方法;
基材上の旧塗膜に対する、水性溶媒組成物及び常温乾燥型水性塗料を使用した複層塗装仕上げの塗り替え塗装方法であって、常温乾燥型水性塗料は常温乾燥型水性下塗り塗料及び常温乾燥型水性上塗り塗料を含み、上記方法は、基材上の旧塗膜に、水性溶媒組成物を塗布し、旧塗膜に前記水性溶媒組成物を浸透させること、水性溶媒組成物を浸透させた旧塗膜に、常温乾燥型水性下塗り塗料と水性溶媒組成物とを混合してなる希釈塗料を塗装し、下塗り塗膜を形成すること、及び形成された下塗り塗膜上に、常温乾燥型水性上塗り塗料を塗装することを含む、塗り替え塗装方法;及び
基材上の旧塗膜に対する、水性溶媒組成物及び常温乾燥型水性塗料を使用した複層塗装仕上げの塗り替え塗装方法であって、常温乾燥型水性塗料は常温乾燥型水性下塗り塗料及び常温乾燥型水性上塗り塗料を含み、上記方法は、基材上の旧塗膜に、水性溶媒組成物を塗布し、旧塗膜に水性溶媒組成物を浸透させること、水性溶媒組成物を浸透させた旧塗膜に、常温乾燥型水性下塗り塗料と水性溶媒組成物とを混合してなる希釈塗料を塗装し、下塗り塗膜を形成すること、及び形成された下塗り塗膜上に、常温乾燥型水性上塗り塗料と水性溶媒組成物とを混合してなる希釈塗料を塗装すること、を含む塗り替え塗装方法;
は特に好ましい実施形態である。
また、
基材上の旧塗膜に対する、水性溶媒組成物及び常温乾燥型水性塗料を使用した複層塗装仕上げの塗り替え塗装方法であって、常温乾燥型水性塗料は常温乾燥型水性下塗り塗料及び常温乾燥型水性上塗り塗料を含み、上記方法は、基材上の旧塗膜に、常温乾燥型水性下塗り塗料と水性溶媒組成物とを混合してなる希釈塗料を塗装し、下塗り塗膜を形成すること、及び形成された下塗り塗膜上に、常温乾燥型水性上塗り塗料を塗装すること、を含む塗り替え塗装方法;
基材上の旧塗膜に対する、本水性溶媒組成物及び常温乾燥型水性塗料を使用した複層塗装仕上げの塗り替え塗装方法であって、常温乾燥型水性塗料は常温乾燥型水性下塗り塗料及び常温乾燥型水性上塗り塗料を含み、上記方法は、基材上の旧塗膜に、常温乾燥型水性下塗り塗料を塗装し、下塗り塗膜を形成すること、及び形成された下塗り塗膜上に、常温乾燥型水性上塗り塗料と水性溶媒組成物とを混合してなる希釈塗料を塗装すること、を含む塗り替え塗装方法;
基材上の旧塗膜に対する、水性溶媒組成物及び常温乾燥型水性塗料を使用した複層塗装仕上げの塗り替え塗装方法であって、常温乾燥型水性塗料は常温乾燥型水性下塗り塗料及び常温乾燥型水性上塗り塗料を含み、上記方法は、基材上の旧塗膜に、常温乾燥型水性下塗り塗料と水性溶媒組成物とを混合してなる希釈塗料を塗装し、下塗り塗膜を形成すること、及び形成された下塗り塗膜上に、常温乾燥型水性上塗り塗料と水性溶媒組成物とを混合してなる希釈塗料を塗装すること、を含む塗り替え塗装方法;
も好ましい。
【0065】
尚、前記下塗り塗膜は1種類の下塗り塗料により形成されるものであっても、種類の異なる2種類以上の下塗り塗料から形成されるものであってもよい。同様に、前記上塗り塗膜は1種類の上塗り塗料により形成されるものであっても、種類の異なる2種類以上の上塗り塗料から形成されるものであってもよい。例えば下塗り塗料を塗装後、その上に上塗り塗料を塗装し、その上に別の上塗り塗料を塗装する、3回以上の塗装工程である場合も本実施形態の一部である。
【0066】
前記2回以上の塗装工程からなる複層塗装仕上げを実施する場合、下塗り塗料塗装後次の塗料を塗装するインターバル時間は、好ましくは常温で1時間~10日間、好ましくは2時間~7日日間程度である。
【0067】
乾燥工程
乾燥工程は、塗装工程で塗装した各塗料を乾燥させ、対応する塗膜を形成する工程である。乾燥時間は目的とする乾燥塗膜の膜厚に応じて当業者が適宜設定することができる。
【0068】
洗浄工程
本実施形態では、前記水性溶媒組成物は、前記常温乾燥型水性塗料を除去するための洗浄剤として使用可能である。
【0069】
常温乾燥型水性塗料を除去する対象は主には塗装器具であるが、塗装作業時に塗料をこぼした箇所等任意の部材などにも水性溶媒組成物を使用可能である。
【0070】
いくつかの本実施形態は、基材上の旧塗膜面に常温乾燥型水性塗料を塗装器具で塗装して塗り替え塗装をした後、塗装器具に付着した常温乾燥型水性塗料が付着した塗装器具を、水性溶媒組成物を使用して洗浄することを含む洗浄方法である。
【0071】
洗浄方法は、特に限定されず、塗装器具の種類又は状態に応じて適当な手段で実施することができる。例えば、浸漬による洗浄、ふき取り洗浄、スプレー噴射による洗浄、超音波洗浄等の洗浄方法が挙げられる。なお、ふき取り洗浄とは、ウエス、スポンジ等の繊維に水性溶媒組成物をしみ込ませて、塗装器具の塗料が付着した箇所を拭く洗浄のことをいう。特に浸漬による洗浄が好ましい。浸漬によって洗浄する際には、水性溶媒組成物が収容された容器中で塗装器具を手で動かして付着した塗料を除去してもよい。
【0072】
洗浄時間としては、塗装器具の汚れ度合いによって異なるが、例えば30秒~10分間、好ましくは1分~5分間程度である。除去する際の水性溶媒組成物の温度は、通常、常温であるが必要に応じて加温して除去・洗浄を実施してもよい。
【0073】
また、水性溶媒組成物を用いた塗装器具の洗浄の前に予備洗浄を実施してもよい。予備洗浄は、例えば上水による洗浄など上記洗浄剤を用いない洗浄であり、例えば、浸漬による洗浄や、流水洗浄、スプレー噴射による洗浄、ふき取り洗浄、超音波洗浄等が挙げられる。
【0074】
いくつかの実施形態では水性溶媒組成物を使用して洗浄した塗装器具をそのまま水性溶媒組成物中に浸漬し、塗装器具を保管することが可能である。刷毛、ローラーなどの塗装器具は洗浄液に長期間つけ置きをすると、洗浄液が腐敗して取っ手又はローラーパイル部などが腐敗し廃棄せざるを得ないことがある。水性溶媒組成物は特定の有機溶剤(A)及びアミン化合物(B)を特定量含んでいるので、夏場でも腐敗しにくい性質を有する。このため、水性溶媒組成物は、塗装器具を浸漬したまま保管することが可能であるとともに、他の洗浄剤を使用したときと比べて塗装器具を長持ちさせることができるという点からも優れている。
【実施例
【0075】
本発明を、以下の実施例によりさらに具体的に説明をするが、本発明はこれら実施例のみに限定されるものではない。尚、下記例中の「部」及び「%」はそれぞれ「質量部」及び「質量%」を意味する。
【0076】
実施例で使用した試験用基材及び塗装器具の詳細は下記通りである。
試験用基材
大きさが300mm×450mm×0.5mmの鋼板に、アクリル/メラミン系の黒塗料を乾燥膜厚が15μmとなるようにバーコーターで塗装し、250℃で1分間加熱し、加熱硬化させて得た、表面に加熱硬化型塗料による焼付塗膜を旧塗膜として見立てた試験用基材。
塗装器具
刷毛:ひよこ(大塚刷毛製造株式会社製、刷毛先幅30~40mm 刷毛長さ38mm
木柄)。
【0077】
<水性溶媒組成物の製造>
実施例1~20及び比較例1~8
容器に、表1記載の各成分を配合し、攪拌混合することにより水性溶媒組成物(X-1)~(X-28)を得た。
【0078】
【表1】
【0079】
(注1)プライマルASE60:商品名、ダウ・ケミカル社製、ポリアクリル酸系増粘剤、固形分28%
(注2)ラポナイトRDS:商品名、BYK社製、層状ケイ酸塩レオロジ-添加剤、固形分10%
(注3)ディスパロンAQ600:商品名、楠本化成社製、ポリアマイド系水系増粘剤、
固形分20%。
【0080】
<応用例1-水性溶媒組成物を旧塗膜用処理剤、水性下塗り塗料用の希釈剤、及び希釈水性下塗り用の洗浄剤として使用した例>
実施例21
屋外外壁を想定し、上記で作成した試験用基材の表面側から、遠赤外線ヒーターを近づけて試験用基材の表面温度が50℃となるように維持した。その状態で、実施例1で得られた水性溶媒組成物(X-1)を、刷毛を使用して旧塗膜面全体に浸透するように塗布し、旧塗膜処理板を得た。本実施例では遠赤外線ヒーターを使用しているが、これは夏場の自然乾燥の状態を実験で再現するためであり、加熱硬化を意図するものではない。
【0081】
一方、水性下塗り塗料A(アレスダイナミックフィラー、関西ペイント社製商品名、アクリル樹脂エマルション系水性反応硬化型デュアルシステムフィラー JISA6909建築用仕上げ塗材 可とう型改修塗材E)100部に対し、水性溶媒組成物(X-1)を5部混合し、均一になるようにスパチュラを手で持って撹拌し、希釈水性下塗り塗料を作成した。
【0082】
試験用基材の温度50℃を維持したまま、水性溶媒組成物によって処理された旧塗膜面に対し、この希釈水性下塗り塗料を乾燥膜厚が30μmとなるように刷毛で塗布し、3時間保持した後に室温にて7日間乾燥させ、旧塗膜面上に希釈水性下塗り塗料が塗装された塗り替え塗装板を作成した。その後、塗装作業性評価試験、付着性試験、刷毛つけ置き腐敗性試験を実施した。刷毛洗浄性については、塗装後速やかに評価した。結果を表2に示す。
【0083】
実施例22~40及び比較例9~16
上記実施例21において、旧塗膜処理剤、希釈剤、及び洗浄剤として使用する水性溶媒組成物(X-1)を表2に記載の水性溶媒組成物(X-2)~(X-28)に置き換える以外は上記実施例21と同様の手順で、塗り替え塗装板を作成し、各評価試験を実施した。
【0084】
【表2】
【0085】
実施例41
上記実施例21において、水性下塗り塗料A(アレスダイナミックフィラー)100部に替えて、水性下塗り塗料B(ルビゴール、関西ペイント社製商品名、エポキシ樹脂エマ
ルション及びアミノ基含有樹脂エマルションを含む2液型水性下塗り塗料)100部を使用する以外は実施例21と同様にして、旧塗膜処理板、希釈水性下塗り塗料、及び塗り替え塗装板を作成し、各評価試験を実施した。
【0086】
実施例42~60及び比較例17~24
上記実施例21において、旧塗膜処理剤、希釈剤、及び洗浄剤として使用する水性溶媒組成物(X-1)を表3に記載の水性溶媒組成物(X-2)~(X-28)に置き換える以外は上記実施例21と同様の手順で、塗り替え塗装板を作成し、各評価試験を実施した。
【0087】
【表3】
【0088】
<応用例2-水性溶媒組成物を旧塗膜処理剤、水性下塗り塗料用の希釈剤、水性上塗り塗料用の希釈剤、及び希釈水性上塗り塗料用の洗浄剤として使用した例>
実施例61
水性上塗り塗料C(アレスシルクウォール、関西ペイント社製商品名、高耐候1液水性ア
クリルシリコン樹脂つや消し塗料、アクリル樹脂エマルション含有)100部に対し、水性溶媒組成物(X-1)を5部混合し、均一になるようにスパチュラを手で持って撹拌し、希釈水性上塗り塗料を作成した。
【0089】
別途、実施例1と同様の手順で塗り替え塗装板を作成し、試験用基材の温度が50℃の状態で、下塗り塗膜面に対して希釈水性上塗り塗料を乾燥膜厚が30μmとなるように刷毛で塗布し、3時間保持した後に室温にて7日間乾燥させ、水性溶媒組成物(X-1)で処理された旧塗膜処理板上に希釈水性下塗り塗料及び希釈水性上塗り塗料が順に塗装された塗り替え塗装板を作成した。その後、希釈水性上塗り塗料の塗装作業性の評価試験、付着性試験、希釈水性上塗り塗料が付着した刷毛の刷毛洗浄性、及び刷毛つけ置き腐敗性試験を実施した。
【0090】
実施例62~80及び比較例25~32
上記実施例61において、使用する水性溶媒組成物(X-1)を表4に記載の水性溶媒組成物(X-2)~(X-28)に置き換える以外は上記実施例61と同様の手順で、旧塗膜処理板、希釈水性塗料、希釈水性上塗り塗料、及び複層塗装板を作成し、各評価試験を実施した。
【0091】
【表4】
【0092】
実施例81
水性上塗り塗料D(アレスダイナミックTOP関西ペイント社製商品名、水性反応硬化形ハルスハイリッチアクリルシリコン樹脂塗料、アクリル樹脂エマルション含有)100部に対し、水性溶媒組成物(X-1)を5部混合し、均一になるようにスパチュラで手で撹拌し、希釈水性上塗り塗料を作成した。
【0093】
別途、実施例41と同様の手順で作成した水性溶媒組成物(X-1)で希釈された水性下塗り塗料B(ルビゴール)による下塗り塗膜板を作成し、試験用基材の温度が50℃の状態で、下塗り塗膜面に対してこの希釈水性上塗り塗料を乾燥膜厚が30μmとなるように刷毛で塗布し、3時間保持した後に室温にて7日間乾燥させ、水性溶媒組成物(X-1)で処理された旧塗膜処理板上に希釈水性下塗り塗料、希釈水性上塗り塗料が順に塗装された複層の塗り替え塗装板を作成した。その後、希釈水性上塗り塗料の塗装作業性、付着性試験、刷毛洗浄性及び刷毛つけ置き腐敗性試験を実施した。
【0094】
実施例82~100及び比較例33~40
上記実施例81において、使用する水性溶媒組成物(X-1)を表5に記載の水性溶媒組成物(X-2)~(X-28)に置き換える以外は上記実施例81と同様の手順で、旧塗膜処理板、希釈水性下塗り塗料、希釈水性上塗り塗料、及び複層の塗り替え塗装板を作成し、各評価試験を実施した。
【0095】
【表5】
【0096】
<応用例3-水性溶媒組成物を旧塗膜処理剤、水性下塗り塗料の希釈剤、及び水性上塗り塗料用の洗浄剤として使用した例>
実施例101~104
下記表6に記載の仕様にて複層の塗り替え塗装板を作成し、その後、各評価試験を実施した。旧塗膜処理、希釈方法、塗装方法などは実施例61又は81と同様の条件で行った。ただし、応用例3においては、水性上塗り塗料の希釈は行わなかった。
【0097】
【表6】
【0098】
<応用例4-水性溶媒組成物を旧塗膜用処理剤、及び水性上塗り塗料用の洗浄剤として使用した例>
実施例105~108
下記表7に記載の仕様にて複層の塗り替え塗装板を作成し、その後、各評価試験を実施した。旧塗膜処理、希釈方法、塗装方法などは実施例61又は81と同様の条件で行った。ただし、応用例4においては、水性上塗り塗料及び水性下塗り塗料の希釈は行わなかった。
【0099】
【表7】
【0100】
<応用例5-水性溶媒組成物を旧塗膜用処理剤、水性上塗り塗料の希釈剤、及び希釈水性上塗り塗料用の洗浄剤として使用した例>
実施例109~112
下記表8に記載の仕様にて複層の塗り替え塗装板を作成し、その後、各評価試験を実施した。旧塗膜処理、希釈方法、塗装方法などは実施例61又は81と同様の条件で行った。ただし、応用例5においては、水性下塗り塗料の希釈は行わなかった。
【0101】
【表8】
【0102】
<応用例6-水性溶媒組成物を旧塗膜処理剤として使用せず、水性下塗り及び/又は水性上塗の希釈剤として使用した例>
実施例113~114
下記表9に記載の仕様にて単層の塗り替え塗装板を作成し、その後、各評価試験を実施した。この実施例では旧塗膜の処理を行わず、希釈方法、塗装方法などは実施例21又は41と同様の条件で行った。
【0103】
【表9】
【0104】
実施例115~120
下記表10記載の仕様にて複層の塗り替え塗装板を作成し、その後、各評価試験を実施した。この実施例では旧塗膜の処理を行わず、希釈方法、塗装方法などは実施例61又は81と同様の条件で行った。
【0105】
【表10】
【0106】
<評価試験>
(1)塗装作業性
各水性下塗り又は水性上塗り塗料が塗装された塗り替え塗装板の外観を観察し、下記基準で評価した。
【0107】
(1-1)平滑感
◎:塗面全体的に平滑感があり、まだら状態が認められない
〇:塗面全体的に平滑感があるが、まだら状態が5%未満の面積割合で認められる
△:塗面に平滑感があるが、まだら状態が5%以上50%未満の面積割合で認められる
×:塗面に平滑感がない、もしくはまだら状態が50%以上の面積割合で認められる、もしくはブツが認められる
(1-2)刷毛跡
◎:刷毛跡がまったく認められない
〇:刷毛跡が5%未満の面積割合で認められる
△:刷毛跡が5%以上50%未満の面積割合で認められる、または刷毛跡の谷部に下層の透けがやや認められる
×:刷毛跡が50%以上の面積割合で認められる、または刷毛跡の谷部に下層の透けが明確に認められる。
【0108】
(2)付着性(水性下塗り塗料単層の場合)
各希釈水性下塗り塗料が塗装された塗装板に対してカッターで1mm幅、100マスの傷を入れ、碁盤目を付けた。続いて、試験片に粘着テープを貼り付けた後、基盤目に対して45度斜め上方の方向に引っ張って、残った下塗り塗膜の碁盤目の数を数え、この残存数を付着性の指標とした。
◎:碁盤目の残存数が100個
○:碁盤目の残存数が90以上99以下
△:碁盤目の残存数が80以上89以下。
×:碁盤目の残存数が79以下。
【0109】
(3)付着性(水性下塗り塗料及び水性上塗り塗料複層の場合)
各希釈水性下塗り塗料及び希釈水性上塗り塗料が塗装された塗装板に対してカッターで1mm幅、100マスの傷を入れ、碁盤目を付けた。続いて、試験片に粘着テープを貼り付けた後、基盤目に対して45度斜め上方の方向に引っ張って、残った上塗り塗膜の碁盤目の数を数え、この残存数を付着性の指標とした。
◎:碁盤目の残存数が100個
○:碁盤目の残存数が90以上99以下
△:碁盤目の残存数が80以上89以下。
×:碁盤目の残存数が79以下。
【0110】
(4)洗浄性
各水性溶媒組成物を洗浄液として容量が450mlのマヨネーズ瓶に200ml程度入れた。各塗装板作成後、刷毛の刷毛部分がすべて洗浄液に浸るように50回押し洗いをした後、刷毛を引き上げて刷毛部分を観察し、下記基準にて評価した。
◎:刷毛部分の表面及び内部に塗料が全く残存していない
〇:刷毛部分の表面に塗料は残存していないが、内部奥深くに塗料が極めてわずかに残存している
△:刷毛部分の表面及び内部に塗料がわずかに残存している。
×:刷毛部分の表面及び内部に塗料が顕著に残存している。
【0111】
(5)刷毛つけ置き腐敗性試験
上記洗浄性試験終了後、夏場を想定して、30℃雰囲気下で刷毛をそのまま2週間洗浄液中につけおき放置後、マヨネーズ瓶の中の洗浄液、刷毛の柄部分の状態を観察した。
◎:洗浄液及び刷毛の柄部分にカビが全く認められない
〇:洗浄液に若干カビが認められるが刷毛の柄部分にカビが認められない
△:洗浄液及び刷毛の柄部分にカビが若干認められる
×:洗浄液及び刷毛の柄部分にカビが顕著に認められる
【要約】
【課題】常温乾燥型水性塗料を用いて建築物の塗り替え塗装を行うために、塗り替え用の常温乾燥型水性塗料の旧塗膜に対する付着性を良好なものとし、かつ塗り替え塗装に使用した塗装器具の洗浄性にも優れる多用途型の水性溶媒組成物を提供する。
【解決手段】基材上の旧塗膜面に常温乾燥型水性塗料を塗装して塗り替え塗装をするための多用途型の水性溶媒組成物であって、アルコール系有機溶媒、エーテル系有機溶媒、ケトン系有機溶媒及びエステル系有機溶媒から成る群から選ばれる少なくとも1種の有機溶媒(A)、アミン化合物(B)及び水を含み、水性溶媒組成物全量に対する、有機溶媒(A)の含有量が1~50質量%であり、かつアミン化合物(B)の含有量が0.05~10質量%であり、前記水性溶媒組成物の固形分濃度が0質量%であるか、もしくは0.5質量%未満である、水性溶媒組成物。
【選択図】なし