(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-07
(45)【発行日】2024-05-15
(54)【発明の名称】造形物製造方法
(51)【国際特許分類】
B29C 64/40 20170101AFI20240508BHJP
B29C 64/118 20170101ALI20240508BHJP
B29C 64/393 20170101ALI20240508BHJP
B33Y 10/00 20150101ALI20240508BHJP
B33Y 30/00 20150101ALI20240508BHJP
B33Y 50/02 20150101ALI20240508BHJP
【FI】
B29C64/40
B29C64/118
B29C64/393
B33Y10/00
B33Y30/00
B33Y50/02
(21)【出願番号】P 2023209969
(22)【出願日】2023-12-13
【審査請求日】2023-12-13
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000201582
【氏名又は名称】前澤化成工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100092565
【氏名又は名称】樺澤 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100112449
【氏名又は名称】山田 哲也
(72)【発明者】
【氏名】野口 大輝
【審査官】神田 和輝
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-082670(JP,A)
【文献】特開2020-131680(JP,A)
【文献】特開2016-198897(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第108724698(CN,A)
【文献】特開2021-037687(JP,A)
【文献】特開2018-114750(JP,A)
【文献】特開2015-009495(JP,A)
【文献】特開2016-193559(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 64/00-64/40
B33Y 10/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱で溶解した造形材料を吐出口から吐出するノズルを有する熱溶解積層方式の3Dプリンタを使用して、3次元の造形物を製造する造形物製造方法であって、
前記造形物となるモデルと、このモデルの支持必要部を支持するサポートとを有する粗造形物を造形する造形工程と、
前記造形工程後に前記モデルと前記サポートとを分離することにより、前記粗造形物から前記サポートを除去する除去工程とを備え、
前記造形工程において、
前記サポートの上面に接触する前記モデルの前記支持必要部を造形する際には、既に造形された造形中の前記モデルの上面に造形材料を吐出する時よりも前記ノズルの前記吐出口と前記サポートの上面との距離を所定の隙間だけ余分に形成し、吐出後に硬化する造形材料の自重による変形によって、前記サポートの上面と前記モデルの前記支持必要部の下面とを接触させて造形を行う
ことを特徴とする造形物製造方法。
【請求項2】
造形工程における所定の隙間の寸法をHとし、
熱溶解積層方式の3Dプリンタにおけるノズルの
吐出口の開口直径をφとした場合に、φ/2≦H≦φを満たす
ことを特徴とする請求項1記載の造形物製造方法。
【請求項3】
造形工程における粗造形物のサポートは、
筒状部と、
前記筒状部から放射状に延在する複数の延在部とを有する
ことを特徴とする請求項1又は2記載の造形物製造方法。
【請求項4】
造形工程における粗造形物のサポートは、
内側筒状部及び外側筒状部と、
前記内側筒状部と前記外側筒状部とを連結する連結部とを有する
ことを特徴とする請求項1又は2記載の造形物製造方法。
【請求項5】
造形工程における粗造形物のサポートは、筒状部よりも内側に位置する追加筒状部を有する
ことを特徴とする請求項3記載の造形物製造方法。
【請求項6】
筒状部は、閉曲線をなす
ことを特徴とする請求項3記載の造形物製造方法。
【請求項7】
造形工程における粗造形物のサポートは、板状の螺旋状部を有する
ことを特徴とする請求項1又は2記載の造形物製造方法。
【請求項8】
造形工程における粗造形物のサポートは、筒状部を有する
ことを特徴とする請求項1又は2記載の造形物製造方法。
【請求項9】
造形工程における粗造形物のサポートは、
底部と、
前記底部に立設された複数の筒状部とを有する
ことを特徴とする請求項1又は2記載の造形物製造方法。
【請求項10】
除去工程において除去されたサポートは、同じ造形物を製造する際に、モデルの支持必要部を支持する支持部材として再利用可能である
ことを特徴とする請求項1又は2記載の造形物製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、3次元の造形物を製造する造形物製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、3次元の造形物を製造するための造形物製造装置としては、例えば熱溶解積層方式の3Dプリンタが広く知られている(例えば特許文献1参照)。
【0003】
そして、その熱溶解積層方式の3Dプリンタを使用して、所望の形状をなす3次元の造形物を製造する場合、目的の造形物の形状によっては、その造形物となるモデルの支持必要部(オーバーハング部)を支持するサポート(サポート材)が必要となることがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、造形時にモデルの支持必要部を支持するサポートは、造形後には不要なものであるから、両者を分離してサポートを除去する必要があるが、その除去が困難であることが多い。
【0006】
そこで、本発明の課題の一つは、サポートを容易に除去できる造形物製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の実施形態に係る造形物製造方法は、造形物製造装置を使用して、3次元の造形物を製造する造形物製造方法であって、前記造形物となるモデルと、このモデルの支持必要部を支持するサポートとを有する粗造形物を造形する造形工程と、前記造形工程後に前記モデルと前記サポートとを分離することにより、前記粗造形物から前記サポートを除去する除去工程とを備え、前記造形工程において、前記サポートと前記モデルの前記支持必要部との間に所定の隙間を形成しながら、その支持必要部の造形を行うものである。
【0008】
上記造形物製造方法において、造形工程における所定の隙間の寸法をHとし、造形物製造装置におけるノズルの開口直径をφとした場合に、φ/2≦H≦φを満たすものでもよい。
【0009】
上記造形物製造方法において、造形工程における粗造形物のサポートは、筒状部と、前記筒状部から放射状に延在する複数の延在部とを有するものでもよい。
【0010】
上記造形物製造方法において、造形工程における粗造形物のサポートは、内側筒状部及び外側筒状部と、前記内側筒状部と前記外側筒状部とを連結する連結部とを有するものでもよい。
【0011】
上記造形物製造方法において、造形工程における粗造形物のサポートは、筒状部よりも内側に位置する追加筒状部を有するものでもよい。
【0012】
上記造形物製造方法において、筒状部は、閉曲線をなすものでもよい。
【0013】
上記造形物製造方法において、造形工程における粗造形物のサポートは、連続関数によって形成されるものである。
【0014】
上記造形物製造方法において、造形工程における粗造形物のサポートは、板状の螺旋状部を有するものでもよい。
【0015】
上記造形物製造方法において、造形工程における粗造形物のサポートは、筒状部を有するものでもよい。
【0016】
上記造形物製造方法において、造形工程における粗造形物のサポートは、底部と、前記底部に立設された複数の筒状部とを有するものでもよい。
【0017】
上記造形物製造方法において、除去工程において除去されたサポートは、同じ造形物を製造する際に、モデルの支持必要部を支持する支持部材として再利用可能であるものでもよい。
【0018】
上記造形物製造方法において、造形物製造装置は、熱溶解積層方式の3Dプリンタであるものでもよい。
【0019】
また、本発明の実施形態に係る造形物製造装置は、上記造形物製造方法に使用されるものである。
【発明の効果】
【0020】
本発明の実施形態によれば、サポートを容易に除去できる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】本発明の一の実施形態に係る造形物製造装置である熱溶解積層方式の3Dプリンタを概略的に示す図で、(a)は全体の正面図、(b)は造形ヘッドの拡大図である。
【
図2】同上3Dプリンタを使用して製造された一の造形物(モデル)を示す図で、(a)は斜視図、(b)は平面図、(c)はA-A断面図である。
【
図3】同上造形物を製造する造形物製造方法を概略的に示す図で、(a)ないし(c)は造形工程の図、(d)は除去工程の図である。
【
図4】(a)及び(b)は同上造形工程における所定の隙間に関する説明図である。
【
図5】同上造形工程において造形された粗造形物の断面図である。
【
図6】同上造形工程において造形された粗造形物の一部切欠き平面図である。
【
図7】同上造形工程において造形された粗造形物の一部切欠き斜視図である。
【
図8】(a)は同上除去工程において除去されたサポート(支持部材である置き駒)の斜視図、(b)はそのサポートを用いた造形工程の図である。
【
図9】(a)及び(b)は造形物の試作品(φ/2≦H≦φを満たすもの)の写真である。
【
図10】(a)ないし(c)は造形物の試作品(φ/2≦H≦φを満たさないもの)の写真である。
【
図11】同上3Dプリンタを使用して製造された他の造形物(モデル)を示す図で、(a)は斜視図、(b)は平面図、(c)はA-A断面図である。
【
図12】同上造形物を製造する造形物製造方法を概略的に示す図で、(a)ないし(e)は造形工程の図、(f)は除去工程の図である。
【
図13】同上造形工程において造形された粗造形物の断面図である。
【
図14】同上造形工程において造形された粗造形物の一部切欠き斜視図である。
【
図15】同上除去工程において除去されたサポート(支持部材である置き駒)の斜視図である。
【
図16】同上造形工程で製造される係るサポートの他の例を示す図で、(a)は平面図、(b)は斜視図である。
【
図17】モデル及びサポートの更に他の例を示す図で、(a)はモデルの底面図、(b)はモデルの斜視図、(c)はサポートの平面図、(d)はサポートの斜視図である。
【
図18】モデル及びサポートの更に他の例を示す図で、(a)はモデルの底面図、(b)はモデルの斜視図、(c)はサポートの平面図、(d)はサポートの斜視図である。
【
図19】モデル及びサポートの更に他の例を示す図で、(a)はモデルの底面図、(b)はモデルの斜視図、(c)はサポートの平面図、(d)はサポートの斜視図である。
【
図21】モデル及びサポートの更に他の例を示す図で、(a)はモデルの底面図、(b)はモデルの斜視図、(c)はサポートの平面図、(d)はサポートの斜視図である。
【
図23】モデル及びサポートの更に他の例を示す図で、(a)はモデルの底面図、(b)はモデルの斜視図、(c)はサポートの平面図、(d)はサポートの斜視図である。
【
図25】モデル及びサポートの更に他の例を示す図で、(a)はモデルの底面図、(b)はモデルの斜視図、(c)はサポートの平面図、(d)はサポートの斜視図である。
【
図27】(a)及び(b)はモデル及びサポートの更に他の例を示す図である。
【
図28】
図27に示すサポートの図で、(a)は平面図、(b)は斜視図、(c)は側面図、(d)は断面図、(e)は底面図である。
【
図29】モデル及びサポートの更に他の例を示す図で、(a)はモデルの平面図、(b)はモデルの斜視図、(c)はサポートの平面図、(d)及び(e)はサポートの斜視図である。
【
図31】
図29に示すモデル及びサポートからなる粗造形物を示す図で、(a)は一部切欠き平面図、(b)は一部切欠き斜視図、(c)は一部切欠き正面図、(d)は一部切欠き側面図である。
【
図32】モデル及びサポートの更に他の例を示す図で、当該モデル及びサポートからなる粗造形物の概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明の一の実施形態について図面を参照して説明する。
【0023】
図1において、1は造形物製造装置である熱溶解積層方式の3Dプリンタで、この熱溶解積層方式の3Dプリンタ(以下では単に「3Dプリンタ1」という場合がある)は、3D造形データに基づいて、熱で溶解(溶融)した造形材料である樹脂を1層ずつ順次積層して3次元の造形物Wを製造するための造形機である。
【0024】
なお、3Dプリンタ1に用いられる造形材料である樹脂は、例えば熱可塑性樹脂(フィラメント等)で、より具体的には、例えばPLA、植物繊維入りPLA、ABS、硝子繊維入りABS、炭素繊維入りABS、PP、硝子繊維入りPP、炭素繊維入りPP、PC、PC・ABS、ASA、TPE、TPU、酢酸セルロース、PA、PETG等である。また、3Dプリンタ1は、例えばシングルノズルヘッド仕様のもので、造形に用いる樹脂は1種類のみでよく、サポート専用の樹脂(水溶性の樹脂等)は不要である。
【0025】
3Dプリンタ1は、
図1(a)及び(b)に示すように、例えば造形室2を内部に有する箱状の本体3と、造形室2内でX軸方向(水平方向である左右方向)及びZ軸方向(上下方向である高さ方向)に移動可能な造形ヘッド4と、造形室2内でY軸方向(水平方向である前後方向)に移動可能な造形テーブル5とを備えている。
【0026】
なお、このように造形ヘッド4がX軸方向及びZ軸方向に移動可能でかつ造形テーブル5がY軸方向に移動可能であることから、造形ヘッド4は造形テーブル5に対して相対的に3次元に移動する(後述するが、3Dプリンタ1は、
図1に図示した構成には限定されず、造形ヘッド4が造形テーブル5に対して相対的に少なくとも3次元に移動する構成であればよい)。
【0027】
また、3Dプリンタ1は、造形ヘッド4を造形室2内でX軸方向及びZ軸方向に移動させる第1駆動部6と、造形テーブル5を造形室2内でY軸方向に移動させる第2駆動部7と、STLデータ等の3D造形データに基づいて両駆動部6,7等を制御する制御部8とを備えている。
【0028】
そして、その制御部8による制御に基づいて、造形ヘッド4が造形テーブル5に対して相対的に3次元に移動しながら、この移動中の造形ヘッド4のノズル11から樹脂(溶解樹脂)が吐出され、この吐出された樹脂が硬化して固まることで、造形テーブル5上に樹脂が積層状態となって所望形状の3次元造形物Wが造形される。
【0029】
しかし、目的の造形物Wの形状によっては、後述するように、最終的に目的の造形物WとなるモデルMの支持必要部(オーバーハング部)MOを支持するサポート(サポート材)Sが必要となる場合があり、この場合には、モデルMとサポートSとからなる粗造形物W1が造形される。
【0030】
つまり、サポートSを必要とする場合には、モデルMとサポートSとで構成される粗造形物W1を一旦造形した後、その粗造形物W1からサポートSを除去して、目的の造形物Wを得ることになる。
【0031】
ここで、シングルノズルヘッド仕様の熱溶解積層方式の3Dプリンタ1の造形ヘッド4は、例えば溶解樹脂押出方式のもので、当該造形ヘッド4内の加熱手段(図示せず)からの熱で溶解した樹脂を吐出口10から吐出する単一のノズル11を有している。
【0032】
すなわち、図示しないヒータ等の加熱手段で加熱されて溶けた樹脂は、造形ヘッド4内のギア等の押出手段(図示せず)にて押し出されるようにして、造形材料吐出用の1つのノズル11の吐出口10から下方に向かって吐出(排出)される。なお、加熱手段や押出手段は、造形ヘッド4内ではなく造形ヘッド4外に設けてもよい。
【0033】
そして、その下方に向かって開口した円形状をなす吐出口10の開口直径(ノズル11の開口直径)φは、例えば0.2mm~1.0mmであり、本実施形態では、例えば0.4mmである(φ=0.4mm)。
【0034】
次に、上述した熱溶解積層方式の3Dプリンタ1を使用して、例えば
図2に示す3次元の造形物Wを製造する造形物製造方法について説明する。
【0035】
図2に示す造形物Wは、例えばキャップ形状の蓋体で、円筒状部16と、この円筒状部16の上端部内周面に一体に設けられた円板状部17とを備えている。
【0036】
そして、造形物(モデルM)Wの一部を構成する円板状部17は、3Dプリンタ1による造形時(造形中)に自重で崩壊しないようにサポートSによる支持が必要な部分である支持必要部MO、すなわち、いわゆるオーバーハング部(モデルMのうち空中に浮く部分)である(
図3参照)。
【0037】
また、
図3は、
図2に示す造形物Wを製造する造形物製造方法(本実施形態に係る製造方法の一例)を概略的に示す図であって、(a)ないし(c)は造形工程の図であり、(d)は除去工程の図である。
【0038】
第1工程である造形工程は、
図3(a)ないし(c)に示すように、造形テーブル5に対して相対的に3次元に移動する造形ヘッド4のノズル11の吐出口10から樹脂(1種類の造形材料からなる溶解樹脂)を吐出しながら造形テーブル5上に積層することにより、最終的に目的の造形物WとなるモデルMと、造形中にそのモデルMの支持必要部MOを下方側から支持するサポートSとを有する3次元の粗造形物W1を造形テーブル5上に造形(形成)する工程である。
【0039】
第2工程である除去工程は、
図3(d)に示すように、造形工程後にモデルMとサポートSとを互いに分離することにより、粗造形物W1からサポートSを除去して目的の造形物Wを得る工程である。
【0040】
そして、本実施形態に係る造形物製造方法では、上述した造形工程において、サポートSとモデルMの支持必要部MOとの間に所定の隙間20を一時的に形成しながら(空けながら)、その支持必要部MOの造形を行う。
【0041】
より具体的には、
図4(a)に示すように、造形工程の途中で、既に造形されたサポートSの上面21と、造形中のモデルMの支持必要部MOの下面(水平移動中のノズル11の吐出口10から吐出された吐出直後の線状の溶解樹脂の下面)22との間に、高さ方向の所定の隙間(一定の隙間)20を一時的に形成しながら、その支持必要部MOの下面の層(円板状部17である支持必要部MOの下面となる1層分)の造形を行う。
【0042】
また、本実施形態に係る造形物製造方法は、造形工程における所定の隙間20の寸法(隙間高さ寸法)をHとし、熱溶解積層方式の3Dプリンタ1におけるノズル11の開口直径(ノズル径)をφとした場合に、φ/2≦H≦φを満たすものである。
【0043】
それゆえ、本実施形態の如く例えばφが0.4mmである場合、Hは0.2mm~0.4mmの範囲内の寸法である。換言すると、造形工程における所定の隙間20の寸法Hは、造形材料(溶解樹脂)を吐出するノズル11の開口直径φの半分以上でかつ当該開口直径φと同一以下の範囲内の寸法である。
【0044】
ここで、造形工程において一時的に形成された隙間20は、
図4(b)及び
図5に示すように、樹脂が自重で下方に向かって変形する(ダレる)ことから、その樹脂ダレによって略全体が埋まる。なお、
図3は樹脂ダレを省略した図である(
図12も同様)。
【0045】
つまり、水平方向に移動中のノズル11の吐出口10から吐出された溶解樹脂が吐出と同時に冷えて硬化すれば、ダレは生じないが、当該吐出された溶解樹脂が造形室2内の空気で冷やされて硬化するまで若干の時間を要するため、基本的には
図4(b)の如く自重でダレが生じる。
【0046】
その結果、水平方向に移動中のノズル11の吐出口10から出た樹脂は、隙間20の分だけ自重でダレてその下面22がサポートSの上面(硬化部分である硬化層の上面)21に接触して、当該上面21にて支持される。
【0047】
しかし、当該上面21にて支持された樹脂の接触部分(樹脂ダレの下面)は、硬化して固まっても、サポートSの上面21と強固に一体化(癒着)することがなく、そのため、造形工程後の除去工程におけるサポートSの除去が容易となる。
【0048】
つまり、この造形工程においては、造形完了時にモデルMと強固に一体化していない除去容易なサポートSが同一材料でモデルMと一緒に造形される。
【0049】
また、このようにモデルMとサポートSとを強固に一体化(癒着)させないための所定の隙間20の寸法Hは、ノズル11の開口直径φとの関係において、上述したように、φ/2≦H≦φを満たすことが好ましい。なぜなら、例えばHがφ/2よりも小さい場合には、モデルMとサポートSとが比較的強固に一体化してしまい、他方、例えばHがφよりも大きい場合には、サポートSが意味をなさず、モデルMの支持必要部MOのうち少なくとも一部が崩壊してしまうからである。
【0050】
要するに、φ/2≦H≦φの関係を満たす場合には、モデルMの崩壊を防止しつつ、樹脂ダレを最小限にでき、モデルMとサポートSとが強固に一体化(癒着)しない。
【0051】
それゆえ、除去工程におけるモデルMとサポートSとの分離が容易であり、例えば
図3(d)に示すように、造形テーブル5上において、何ら工具を用いることなく(工具レス)、作業者がモデルMを手で上方へ持ち上げるだけで、造形テーブル5上のサポート(造形テーブル5の上面に直接接触した状態で積層造形されたサポート)Sから、当該モデルMを容易に分離可能である。つまり、モデルMを持ち上げるだけのワンアクションでモデルMからサポートSを極めて簡単に取り外すことができ、粗造形物W1からのサポートSの除去が容易である。
【0052】
なお、上記した隙間20のほか、
図4や
図5にも示されるように、造形工程において、水平方向の所定の隙間(一定の隙間)25がサポートSの外周面(外側筒状部32の外周面)26とモデルMの内周面(円筒状部16の内周面)27との間に全周にわたって形成される。
【0053】
この隙間25の寸法Dは、例えばノズル11の開口直径φと同一で、例えば0.4mmである。ただし、必ずしもD=φである必要はなく、例えば隙間25の寸法Dは、例えば0.5mmでもよい。
【0054】
また、本実施形態に係る造形物製造方法では、
図6及び
図7に示すように、造形工程において造形された粗造形物W1のサポートSは、平面視環状、すなわち例えば平面視円環状の筒状部である内側筒状部31と、この内側筒状部31の外側方に当該内側筒状部31と所定距離離間して位置するとともにモデルMの内周面27と近接状に位置し、そのモデルMの内周面27に対応する形状をなす平面視環状、すなわち例えば内側筒状部31の中心点Pを中心とする平面視円環状の外側筒状部32と、内側筒状部31から外側へ放射状に延在するように内側筒状部31の中心点Pを中心として放射状に位置し、内側筒状部31と外側筒状部32とを一体に連結する平面視線状で板状の複数の延在部である連結部(連結板状部)33とを有している。
【0055】
また、このサポートSは、内側筒状部31よりも径小に形成され、内側筒状部31の内側方に位置する平面視環状、すなわち例えば内側筒状部31の中心点Pを中心とする平面視円環状の複数、例えば2つの追加筒状部である径小筒状部36,37を有している。すなわち、このサポートSの平面形状(サポートパターン)は一筆書きには制約されず、中央側の径小筒状部36,37は、内側筒状部31と連結されていない。
【0056】
そして、これら径小筒状部36,37、内側筒状部31及び外側筒状部32は、同心状のものであって、いずれも同じ中心点Pを通る上下方向(Z軸方向)に延びる中心軸線Lを中心とする円筒状(上下方向に軸方向を有する上下面開口状の筒形状)に形成されている(
図5参照)。
【0057】
また、上下面開口状で短い円筒状の各筒状部31,32,36,37は、いずれも平面視で閉曲線である単一閉鎖曲線をなすものである(後述する筒状部等も同様)。単一閉鎖曲線(ジョルダン閉曲線)は、自身と交わらない閉じた曲線である。さらに説明すると、起点と終点が一致し、起点から終点に至るまでに自身と接触及び交差しない曲線である。単一閉曲線には、円、楕円が含まれる。また、単一閉曲線には、例えば三角形、四角形等の多角形も含まれるほか、カージオイド(ハート形)等も含まれる。さらに、閉曲線は起点と終点が一致している曲線(例えばレムニスケート等)であり、レムニスケートは領域が3つに分けられてしまうため単一閉曲線ではない。
【0058】
なお、
図6に示されるように、周方向に互いに隣り合う両連結部(延在部)33同士がなす角度θは、例えば10°である。なお、角度θは、図示した例ではすべてが等しいが、必ずしもすべてが等しい必要はない。板状の連結部33の厚さ(板厚寸法)tは、ノズル11の開口直径φと同一で、例えば0.4mmである。両径小筒状部36,37間の間隔寸法は、径小筒状部36及び内側筒状部31間の間隔寸法と同一で、例えば0.8mmである。この図示した例では、内側筒状部31の内側方(内周側)に位置する径小筒状部36,37の数は2つであるが、例えば1つ或いは3つ以上でもよい。
【0059】
そして、除去工程において除去された除去後のサポートSは、
図8(a)に示すように、除去前と全く同じ形状をしたもので、内側筒状部31と、外側筒状部32と、連結部33と、径小筒状部36,37とを有している。
【0060】
それゆえ、除去後のサポートSは、当該サポートSをモデルMとともに造形した際の造形物Wと同じ造形物(同一形状の3次元造形物)Wを製造する際に、造形中にモデルMの支持必要部MOを支持する支持部材である置き駒(サポート部材)として再利用可能である。
【0061】
つまり、
図8(a)に示す除去後のサポートSを置き駒として再利用して、
図2に示す造形物(モデルM)Wを繰り返して製造(造形)する場合は、
図8(b)に示すように、モデルMの支持必要部MOが造形される直前に造形動作を一旦停止して、置き駒(支持必要部MOを支持する土台)としてのサポートSを造形テーブル5上に設置した後、造形動作を再開して、その置き駒上にモデルMの支持必要部MOを造形すればよい。
【0062】
そして、このようにサポートSを置き駒として再利用することでサポート造形は行わず、モデルMのみを造形するサポート再利用の造形工程においても、上記の造形工程と同様、除去後のサポート(置き駒)SとモデルMの支持必要部MOとの間に所定の隙間20を一時的に形成しながら、その支持必要部MOの造形を行う。
【0063】
これにより、この場合もモデルMとサポート(置き駒)Sとが強固に一体化(癒着)せず、そのため、サポートSを置き駒として再利用する場合も、除去工程におけるモデルMとサポート(置き駒)Sとの分離が容易となる。そして、その除去後のサポートSは、何度でも繰り返して使用できる。
【0064】
そして、上述した本実施形態に係る造形物製造方法によれば、造形物WとなるモデルMと、このモデルMの支持必要部MOを支持するサポートSとを有する粗造形物W1を造形する造形工程と、この造形工程後にモデルMとサポートSとを分離することにより、粗造形物W1からサポートSを除去する除去工程とを備え、造形工程において、サポートSとモデルMの支持必要部MOとの間に僅かな所定の隙間20を形成しながらその支持必要部MOの造形を行うため、除去工程におけるモデルMとサポート(サポート構造)Sとの分離が容易となり、粗造形物W1からサポートSを容易に除去でき、よって、造形物Wの製造性の向上を図ることができる。
【0065】
しかも、造形物(モデルM)Wの支持必要部MOにサポート痕が残りにくく、造形物Wの品質向上も図ることができる。
【0066】
また、造形工程における所定の隙間20の寸法をHとし、熱溶解積層方式の3Dプリンタ1におけるノズル11の開口直径をφとした場合に、φ/2≦H≦φを満たすようにすることで、造形工程でのモデルMの崩壊を適切に防止できるばかりでなく、除去工程におけるモデルMとサポートSとの分離が容易となり、粗造形物W1からサポートSを容易かつ適切に除去できる。
【0067】
さらに、造形工程における粗造形物W1のサポートSは、平面視円環状をなす円筒状の内側筒状部31と、この内側筒状部31の外側方に位置し、モデルMの円筒面状の内周面に対応する形状である平面視円環状をなす円筒状の外側筒状部32と、内側筒状部31から外側へ放射状に延在して内側筒状部31と外側筒状部32とを連結する平面視線状をなす平板状の複数の連結部(延在部)33とを有するため、除去工程におけるモデルMとサポートSとの分離がより一層容易となり、粗造形物W1からサポートSをより一層容易に除去できる。
【0068】
また、近年では造形ソフトウェアが進化しており、除去が比較的容易なサポート構造を選択可能な場合もあるが、除去し易い分、造形中にサポートが崩壊し易い等といった問題が生じるが、本実施形態の製造方法では所定形状のサポートSを用いることでそのような問題も生じない。
【0069】
さらに、本実施形態の製造方法では、造形ソフトウェアや造形機等に制限されることなく、除去工程において容易に除去可能なサポートSを得ることができる。すなわち例えば、サポート生成を造形ソフトウェアに依存せず、モデル形状(モデル材)に応じた所望のサポート形状(サポート材)をモデリングして3D造形データに埋め込むことができるため、熱溶解積層方式の造形機であればどれにでも適用できる。
【0070】
加えて、モデルMとサポートSは同一の造形材料で問題がないため、ノズル数にも制限がなく、シングルヘッド仕様の3Dプリンタ1で何ら問題がない。
【0071】
ここで、
図9(a)及び(b)は造形物Wの試作品(φ/2≦H≦φを満たすもの)の写真であり、
図10(a)ないし(c)は造形物Wの試作品(φ/2≦H≦φを満たさないもの)の写真である。
【0072】
なお、その造形物(モデルM)Wの蓋体は、直径53mm、高さ10mm、厚さ1.5mmである。また、3Dプリンタ1のノズル径φは0.4mmである。
【0073】
そして、
図9(a)に示す試作品は、H=0.2mm、D=0.4mmの場合である。この場合には、ほぼ抵抗なく、造形テーブル5上でモデルMを手で持ち上げるだけで、造形テーブル5上のサポートSからモデルMを容易に分離できた。また、モデルMの支持必要部MOには、サポート痕が若干見えるが、凸凹にはなっておらず、造形物Wの品質として問題はなく、積層異常(崩壊)もない。さらに、分離したサポートSは、置き駒として再利用可能である。
【0074】
また、
図9(b)に示す試作品は、H=0.4mm、D=0.4mmの場合である。この場合には、全く抵抗なく、造形テーブル5上でモデルMを手で持ち上げるだけで、造形テーブル5上のサポートSからモデルMを容易に分離できた。また、モデルMの支持必要部MOには、若干の樹脂ダレ兆候があるが、造形物Wの品質として問題はなく、積層異常(崩壊)もない。さらに、分離したサポートSは、置き駒として再利用可能である。
【0075】
他方、
図10(a)に示す試作品は、H=0.1mm、D=0.4mmの場合である。この場合には、モデルMを手で持ち上げるだけでは分離できず、造形テーブル5上から粗造形物W1を取り外した後、工具であるラジオペンチを用いてモデルMとサポートSとを分離したが、その際に多少の抵抗があった。また、サポートSにはラジオペンチで挟んだ際に変形した痕跡があり、このサポートSは置き駒として再利用できない。
【0076】
また、
図10(b)に示す試作品は、H=0.5mm、D=0.4mmの場合である。この場合には、全く抵抗なく、造形テーブル5上でモデルMを手で持ち上げるだけで、造形テーブル5上のサポートSからモデルMを容易に分離できた。しかし、モデルMの支持必要部MOには、部分的に積層異常(崩壊)が生じた。
【0077】
さらに、
図10(c)に示す試作品は、サポート無しの場合であるが、この場合には、モデルMの支持必要部MOに積層異常(崩壊)が生じた。
【0078】
よって、これら試作品により、φ/2≦H≦φを満たすことが好ましいことが確認できた。
【0079】
なお、上記実施形態では、
図2に示す造形物Wを製造する場合について説明したが、これには限定されず、例えば
図11に示す造形物Wも同様の方法で製造でき、この場合もサポートSを容易に除去できる等、同様の作用効果を奏し得る。
【0080】
すなわち、この
図11に示す造形物Wは、例えば段付きの斜めキャップ形状の蓋体で、下側円筒状部41と、この下側円筒状部41の上端部内周面に一体に設けられ、その下側円筒状部41よりも径小に形成された上側円筒状部42と、この上側円筒状部42の上端部内周面に一体に設けられた傾斜状の円板状部43とを備えている。
【0081】
そして、造形物(モデルM)Wの一部を構成する上側円筒状部42及び円板状部43は、3Dプリンタ1による造形時(造形中)に自重で崩壊しないようにサポートSによる支持が必要な支持必要部(オーバーハング部)MOである(
図12参照)。
【0082】
また、
図12は、
図11に示す造形物Wを製造する造形物製造方法(本実施形態に係る製造方法の一例)を概略的に示す図であって、(a)ないし(e)は造形工程の図であり、(f)は除去工程の図である。
【0083】
そして、上述した
図2に示す造形物Wを製造する場合と同様、
図12に示す造形工程においても、φ/2≦H≦φを満たすようにして、サポートSとモデルMの支持必要部MOとの間に所定の隙間20を一時的に形成しながら、その支持必要部MOの造形を行う。なお、所定の隙間20は、自重に基づく樹脂ダレによって略全体が埋まる(
図13参照)。
【0084】
また、
図12に示す造形工程で積層造形されたサポートSも、上述した
図2に示す造形物Wを製造する場合と同様、
図13ないし
図15に示すように、内側筒状部31と、外側筒状部32と、連結部33と、径小筒状部36,37とを有する。なお、モデルMの内周面27に対応する形状をなす外側筒状部32は、下側円筒状部41に対応する円筒状の下側筒状部分32aと、上側円筒状部42に対応する円筒状の上側筒状部分32bとで構成されている。
【0085】
さらに、
図15に示す除去後のサポート(置き駒)Sも、
図8に示すサポートSと同様、同じ造形物Wを製造する際に、モデルMの支持必要部MOを支持する置き駒として再利用可能である。
【0086】
なお、本実施形態に係るサポートSは、
図8や
図15に示すものには限定されず、例えば
図16に示すように、平面視螺旋状(例えばアルキメデスの螺旋状等)をなす板状の螺旋状部(螺旋板状部)51を有するものでもよい。
【0087】
すなわち、
図16に示すサポートSは、連続した1つの板状の螺旋状部51のみからなるもので、一筆書きが可能な図形からなる断面形状を有したものである。つまり、このサポートSは、曲線をなぞるシームレスなノズル動作(ノズル11の連続的な移動)によって形成されるものである(後述する螺旋状部等も同様)。なお、螺旋状部51の厚さ(板厚寸法)は、ノズル11の開口直径φと同一で、例えば0.4mmである。
【0088】
また、このような螺旋状(渦巻状)をなすサポート(サポートパターン)Sは、例えばアルキメデスの螺旋を応用して設計することが可能なもので、その設計の基本となる連続関数は媒介変数表示で下記になる。
【0089】
Xt=t・cos(t)
Yt=t・sin(t)
【0090】
そして、
図16に示すサポートSでも、
図2に示すようなキャップ形状の造形物Wを同様の方法で製造でき、この場合もサポートSを容易に除去できる等、同様の作用効果を奏し得る。
【0091】
加えて、このような螺旋状のサポートパターンは、連続関数による形状作成であるため、サポート設計が短時間で可能となり、また造形時におけるノズル11の動作がスムーズになり、造形時間の短縮化を図ることができる。
【0092】
なお、本実施形態に係る製造方法によるモデル(製品等の目的物である造形物)Mやサポート(再利用可能な支持部材である置き駒)Sは、上述した形状には限定されず、種々の形状が考えられ、例えば
図17ないし
図32に示すようなもの等でもよく、いずれの場合もサポートSを容易に除去できる等、同様の作用効果を奏し得る。
【0093】
まず、
図17(a)及び(b)に示すモデルMは、例えば楕円形状をなす蓋体で、楕円形状の円筒状部61と、この円筒状部61の上端部内周面に一体に設けられた楕円形状の円板状部62とを備えている。なお、このような楕円形状をなすモデルMを造形する場合におけるサポートSの設計の基本となる連続関数は、媒介変数表示で下記になる。ただし、下記においてa≠bである。
【0094】
Xt=at・cos(t)
Yt=bt・sin(t)
【0095】
そして、モデルMの一部を構成する円板状部(上板部)62は、3Dプリンタ1による造形時(造形中)に自重で崩壊しないように、
図17(c)及び(d)に示すサポートSによる支持が必要な支持必要部MOである。
【0096】
この
図17(c)及び(d)に示すサポートSは、上記
図16に示す真円形状をなす板状の螺旋状部51からなるものとは異なり、楕円形状をなす板状の螺旋状部63からなるものである。
【0097】
次に、
図18(a)及び(b)に示すモデルMは、例えば6角星形状(5角星形状や8角星形状等でもよい)をなす蓋体で、6角星形状の筒状部66と、この筒状部66の上端部内周面に一体に設けられた6角星形状の板状部67とを備えている。
【0098】
そして、このモデルMの一部を構成する板状部(上板部)67は、3Dプリンタ1による造形時(造形中)に自重で崩壊しないように、
図18(c)及び(d)に示すサポートSによる支持が必要な支持必要部MOである。
【0099】
この
図18(c)及び(d)に示すサポートSは、真円形状をなす板状の螺旋状部68と、この螺旋状部68の外周側に一体に設けられた6角星形状の外周板部69とを有し、この外周板部には3角形状の貫通孔70が上下面に貫通して形成されている。
【0100】
次に、
図19(a)及び(b)に示すモデルMは、例えば3次元的なアルキメデス螺旋形状を利用した構造体である蓋体で、円筒状部71と、この円筒状部71の内周側に一体に設けられ、下方に向かって開口する螺旋状の孔(螺旋孔)72が内側に形成された孔形成部73とを備えている。
【0101】
そして、このモデルMの一部を構成する孔形成部73は、3Dプリンタ1による造形時(造形中)に自重で崩壊しないように、
図19(c)及び(d)に示すサポートSによる支持が必要な支持必要部MOである。
【0102】
この
図19(c)及び(d)に示すサポートSは、幅寸法(上下方向寸法)が外周側から中心側に向かって徐々に増大するように変化する板状の螺旋状部75からなるものである。この螺旋状部75は、
図19(c)からみて明らかなように、平面視で真円形状をなすものであるが、これには限定されず、例えば楕円形状等、他の形状をなすものでもよい。
【0103】
なお、このようなサポート(サポートパターン)Sは、例えばアルキメデスの螺旋を応用して設計することが可能なもので、その設計の基本となる連続関数は媒介変数表示で下記になり、また、その具体的な設計方法は例えば
図20に示すとおりである。
【0104】
Xt=t・cos(t)
Yt=t・sin(t)
Zt=t
【0105】
次に、
図21(a)及び(b)に示すモデルMは、例えば真円形状をなす蓋体で、
図2に示すものと同様、円筒状部76と、この円筒状部81の上端部内周面に一体に設けられた円板状部77とを備えている。
【0106】
そして、このモデルMの一部を構成する円板状部77は、3Dプリンタ1による造形時(造形中)に自重で崩壊しないように、
図21(c)及び(d)並びに
図22に示すサポートSによる支持が必要な支持必要部MOである。
【0107】
この
図21(c)及び(d)並びに
図22に示すサポートSは、
図6等に示すものと同様、内側筒状部(筒状部)81と、最も外側に位置する外側筒状部82と、内側筒状部81から外側へ放射状に延在して両筒状部81,82を連結する板状の複数の連結部(延在部)83とを有している。
【0108】
また、このサポートSは、内側筒状部81よりも内側に位置する複数、例えば2つの追加筒状部である径小筒状部86,87を有し、これら筒状部86,87は平面視十字状をなす連結部88を介して内側筒状部81に連結されている。
【0109】
さらに、このサポートSは、各連結部83と交差するように内側筒状部81と外側筒状部82との間に位置する複数、例えば3つの中間筒状部91,92,93を有している。なお、このサポートSの各筒状部81,82,86,87,91,92,93は、いずれも円筒状であるが、当該筒状部は後述のとおり当該形状に限定されるものではない。
【0110】
次に、
図23(a)及び(b)に示すモデルMは、例えば正方形状をなす蓋体で、4角筒状の筒状部96と、この筒状部96の上端部内周面に一体に設けられた正方形状の板状部97とを備えている。
【0111】
そして、このモデルMの一部を構成する板状部97は、3Dプリンタ1による造形時(造形中)に自重で崩壊しないように、
図23(c)及び(d)並びに
図24に示すサポートSによる支持が必要な支持必要部MOである。
【0112】
この
図23(c)及び(d)並びに
図24に示すサポートSは、
図6等に示すものと同様、内側筒状部(筒状部)101と、最も外側に位置する外側筒状部102と、内側筒状部101から外側へ放射状に延在して両筒状部101,102を連結する板状の複数の連結部(延在部)103とを有している。
【0113】
また、このサポートSは、内側筒状部101よりも内側に位置する複数、すなわち例えば2つの追加筒状部104,105を有している。そして、追加筒状部104は、放射状に位置する複数の連結部108を介して内側筒状部101に連結されている。他方、追加筒状部105は、その追加筒状部104とは連結されておらず、その追加筒状部104の内側に別体として配置されている。
【0114】
さらに、このサポートSは、各連結部103と交差するように内側筒状部101と外側筒状部102との間に位置する複数、例えば2つの中間筒状部106,107を有している。なお、このサポートSでは、追加筒状部104,105が3角筒状で、内側筒状部101が円筒状で、外側筒状部102及び中間筒状部106,107が4角筒状であるが、ここでも当該図示した形状には限定されず筒形状であれば任意である。
【0115】
次に、
図25(a)及び(b)に示すモデルMは、例えば円形状をなす蓋体で、短い円柱状の柱状部111と、この柱状部111の上端部外周面に一体に設けられた円環状の板状部112とを備えている。
【0116】
そして、このモデルMの一部を構成する板状部(鍔部)112は、3Dプリンタ1による造形時(造形中)に自重で崩壊しないように、
図25(c)及び(d)並びに
図26に示すサポートSによる支持が必要な支持必要部MOである。
【0117】
この
図25(c)及び(d)並びに
図26に示すサポートSは、
図6等に示すものと同様、内側筒状部(筒状部)116と、最も外側に位置する外側筒状部117と、内側筒状部116から外側へ放射状に延在して両筒状部116,117を連結する板状の複数の連結部(延在部)118とを有している。
【0118】
また、このサポートSは、内側筒状部116よりも内側に位置する1つの追加筒状部119を有しているが、この追加筒状部119は、内側筒状部116に連結されておらず、当該内側筒状部116とは別体のものである。そして、この追加筒状部119の内周面は、モデルMの柱状部111の外周面に対応する形状に形成されている。
【0119】
さらに、このサポートSは、各連結部118と交差するように内側筒状部116と外側筒状部117との間に位置する1つの中間筒状部120を有している。なお、このサポートSでは、各筒状部116,117,119,120はいずれも円筒状である。
【0120】
次に、
図27(a)及び(b)に示すモデルMは、例えば上面開口状の箱形状をなすグリーストラップ本体で、4角形状の有底筒状の筒状部121と、この筒状部121の上端部外周面に一体に設けられた4角環状の板状部(鍔部)122とを備えている。また、筒状部121の底板123には、略十字状の膨出部124が上方に向かって膨出状に形成されており、この膨出部124には取付部材である油水分離部材125の下端部が嵌合により取り付けられる。
【0121】
そして、このモデルMの一部を構成する膨出部124及び板状部(鍔部)122は、3Dプリンタ1による造形時(造形中)に自重で崩壊しないように、
図27及び
図28に示す互いに別体の2つのサポートS(S1,S2)による支持が必要な支持必要部MOである。
【0122】
また、サポートS1は、モデルMの膨出部124に対応する形状をなす板状の底部(土台)126と、この底部126の上面に立設された複数(例えば10以上)の筒状部127とを有している。さらに、サポートS2は、モデルMの板状部(鍔部)122に対応する形状をなす4角環状で板状の底部(土台)128と、この底部128の上面に立設された複数(例えば5以上)の筒状部129とを有している。つまり、各サポートS1,S2は、いずれも筒状部から放射状に延在する放射状の要素(延在部)を有しないサポート形状をなすものである。
【0123】
次に、
図29(a)及び(b)に示すモデルMは、例えばあざらし等の動物を模した部材(置物、ペット用宅墓等)で、円筒状部131と、この円筒状部131の上端側に一体に設けられたドーム形状の板状部132とを備えている。
【0124】
そして、このモデルMの一部を構成する板状部132は、3Dプリンタ1による造形時(造形中)に自重で崩壊しないように、
図29(c)ないし(e)並びに
図30に示すサポートSによる支持が必要な支持必要部MOである。なお、
図31には、これらモデルM及びサポートSからなる粗造形物W1を示す。
【0125】
このサポートSは、
図6等に示すものと同様、内側筒状部(筒状部)136と、最も外側に位置する外側筒状部137と、内側筒状部136から外側へ放射状に延在して両筒状部136,137を連結する板状の複数の連結部(延在部)138とを有している。
【0126】
また、このサポートSは、内側筒状部136よりも内側に位置する追加筒状部139と、この追加筒状部139よりも内側に位置する丸棒状の中心軸部である棒状部(例えば円筒状や角筒状をなす筒状部等でもよい)140とを有している。なお、このサポートSでは、各筒状部136,137,139はいずれも円筒状である。また、このサポートSの上面部の形状は、モデルMの板状部132に対応したドーム形状である。
【0127】
次に、
図32に示すモデルMは、アンダーカット形状のもので、このモデルMの支持必要部MOがサポートSにて支持されて造形される。そして、このような場合も、本実施形態に係る造形物製造方法によれば、造形後に粗造形物W1からサポートSを容易に除去できるが、この除去の際にサポートSの一部を破壊する必要がある。それゆえ、その除去後のサポートSは、上述したものとは異なり、置き駒としての再利用ができない。
【0128】
なお、上述した種々の造形物(モデル)を製造(造形)するための造形物製造装置である熱溶解積層方式の3Dプリンタは、例えばノズル径φが10mm以上のペレット式の大型3Dプリンタでもよく、この大型3Dプリンタでは、専用のフィラメント樹脂ではなく、安価に取得可能な一般的なペレット状の熱可塑性樹脂(リサイクルペレット材等でもよい)を造形材料として利用することが可能である。
【0129】
また、造形物製造装置は、熱溶解積層方式の3Dプリンタには限定されず、例えば光造形方式(DLP方式やSLA方式)の3Dプリンタ等でもよい。
【0130】
さらに、造形物製造装置を使用して造形する3次元の造形物は、上述したものには限定されず、例えば筐体、継手、桝等でもよく、造形物の種類、形状や大きさ等は任意である。
【0131】
また、造形物製造装置は、造形材料を吐出するノズルを有する造形ヘッド(吐出手段)がX軸方向及びZ軸方向に移動可能でかつ造形テーブルがY軸方向に移動可能な構成には限定されず、造形ヘッドが造形テーブルに対して相対的に少なくとも3次元に移動可能な構成であればよく、例えば造形ヘッドがX軸方向及びY軸方向に移動可能でかつ造形テーブルがZ軸方向に移動可能な構成や、例えば造形ヘッドがロボットアーム(例えば6軸のロボットのロボットアームが好ましい)の先端部に設けられて、X軸方向、Y軸方向及びZ軸方向の3方向を含む任意の方向に移動可能な構成等でもよい。
【0132】
また、造形工程における所定の隙間の寸法は、自重に基づく樹脂ダレ(造形材料のダレ)が最小限で、かつ、モデルの支持必要部の下面と当該支持必要部を支持するサポートの上面とが互いに強固に一体化(癒着)しない程度のクリアランス(僅かな隙間高さ寸法)であればよい。
【0133】
さらに、造形工程における粗造形物のサポートは、例えば外側筒状部を有しない構成、追加筒状部を有しない構成、放射状の延在部を有しない構成等でもよい。
【0134】
また、サポートの内側筒状部よりも内側に位置する追加筒状部は、内側筒状部と連結した構成(一体の構成)及び連結しない構成(別体の構成)のいずれでもよく、また、その追加筒状部の数や形状等も任意である。
【符号の説明】
【0135】
1 造形物製造装置である熱溶解積層方式の3Dプリンタ
11 ノズル
20 所定の隙間
31,81,101,116,136 筒状部である内側筒状部
32,82,102,117,137 外側筒状部
33,83,103,118,138 延在部である連結部
36,37,86,87,104,105,119,139 追加筒状部
51,63,68,75 螺旋状部
126,128 底部
127,129 筒状部
H 所定の隙間の寸法(隙間高さ寸法)
φ ノズルの開口直径(ノズル径)
W 造形物
W1 粗造形物
M モデル
MO 支持必要部(オーバーハング部)
S サポート
【要約】
【課題】サポートを容易に除去できる造形物製造方法を提供する。
【解決手段】造形物製造方法は、造形工程及び除去工程を備える。造形工程は、造形物となるモデルMと、このモデルMの支持必要部MOを支持するサポートSとを有する粗造形物W1を造形する工程である。また、除去工程は、造形工程後にモデルMとサポートSとを分離することにより、粗造形物W1からサポートSを除去する工程である。そして、造形工程において、サポートSとモデルMの支持必要部MOとの間に所定の隙間20を形成しながら、その支持必要部MOの造形を行う。
【選択図】
図4