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特許7484010固有粘度が0.75dl/g以上である高重合度のポリエチレンテレフタレートを用いたテレフタル酸の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-07
(45)【発行日】2024-05-15
(54)【発明の名称】固有粘度が0.75dl/g以上である高重合度のポリエチレンテレフタレートを用いたテレフタル酸の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07C 51/09 20060101AFI20240508BHJP
   C07C 63/26 20060101ALI20240508BHJP
   C08J 11/10 20060101ALI20240508BHJP
【FI】
C07C51/09
C07C63/26 Z
C08J11/10 ZAB
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2023501625
(86)(22)【出願日】2022-05-04
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-11-16
(86)【国際出願番号】 KR2022006376
(87)【国際公開番号】W WO2023054830
(87)【国際公開日】2023-04-06
【審査請求日】2023-03-08
(31)【優先権主張番号】10-2021-0127706
(32)【優先日】2021-09-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】523009816
【氏名又は名称】キム,ヨン-ボム
(74)【代理人】
【識別番号】100091683
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼川 俊雄
(74)【代理人】
【識別番号】100179316
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 寛奈
(72)【発明者】
【氏名】キム,ヨン-ボム
【審査官】阿久津 江梨子
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-151709(JP,A)
【文献】特開平9-077905(JP,A)
【文献】特表2007-519798(JP,A)
【文献】特開2006-282520(JP,A)
【文献】特開2003-119316(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C 51/09
C07C 63/26
C08J 11/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(i)固有粘度が0.75dl/g以上である高重合度のポリエチレンテレフタレート(PET)をエクストルーダー(Extruder)形態の連続式反応器(Continuous Reactor)に投入した後、加熱、加圧して流動性ポリエチレンテレフタレートを製造する工程;
(ii)流動性ポリエチレンテレフタレートが通過する前記連続式反応器の内部位置にアルカリ金属を含むアルカリ、前記アルカリ金属の弱酸塩及びエチレングリコールを混合して製造した混合スラリーを投入し、前記連続式反応器内で流動性ポリエチレンテレフタレートと混合スラリーとをニート(Neat)反応させてアルカリ金属テレフタレートを製造する工程;及び
(iii)前記アルカリ金属テレフタレートを水に溶かした後、ろ過及び遠心分離を通じて異物を除去し、水に溶けているアルカリ金属テレフタレートに酸を入れて反応させてテレフタル酸を製造する工程;を含むことを特徴とする、固有粘度が0.75dl/g以上である高重合度のポリエチレンテレフタレートを用いたテレフタル酸の製造方法。
【請求項2】
流動性ポリエチレンテレフタレートが通過する前記連続式反応器の相異なる位置で前記混合スラリーを1~5段階に分けて投入することを特徴とする請求項1に記載の固有粘度が0.75dl/g以上である高重合度のポリエチレンテレフタレートを用いたテレフタル酸の製造方法。
【請求項3】
固有粘度が0.75dl/g以上である高重合度のポリエチレンテレフタレートはホモポリマー(Homo polymer)及び共重合ポリマー(Copolymer:共重合体)の中から選択された1種であることを特徴とする請求項1に記載の固有粘度が0.75dl/g以上である高重合度のポリエチレンテレフタレートを用いたテレフタル酸の製造方法。
【請求項4】
固有粘度が0.75dl/g以上である高重合度のポリエチレンテレフタレートをエクストルーダー(Extruder)形態の連続式反応器に投入する際に、アルカリ金属を含むアルカリを共に投入することを特徴とする請求項1に記載の固有粘度が0.75dl/g以上である高重合度のポリエチレンテレフタレートを用いたテレフタル酸の製造方法。
【請求項5】
固有粘度が0.75dl/g以上である高重合度のポリエチレンテレフタレートと共に連続式反応器に投入されるアルカリ金属を含むアルカリ含量を前記ポリエチレンテレフタレートと重量比で5~10%となるように調節することを特徴とする請求項4に記載の固有粘度が0.75dl/g以上である高重合度のポリエチレンテレフタレートを用いたテレフタル酸の製造方法。
【請求項6】
前記アルカリ金属を含むアルカリ及びアルカリ金属の弱酸塩を構成するアルカリ金属はリチウム(Li)、ナトリウム(Na)及びカリウム(K)の中から選択された1種であることを特徴とする請求項1に記載の固有粘度が0.75dl/g以上である高重合度のポリエチレンテレフタレートを用いたテレフタル酸の製造方法。
【請求項7】
前記アルカリ金属の弱酸塩はアルカリ金属と炭酸(HCO)の反応で生成された塩、アルカリ金属とリン酸(HPO)の反応で生成された塩、アルカリ金属と酢酸の反応で生成された塩 、及びアルカリ金属とギ酸の反応で生成された塩の中から選択された1種であることを特徴とする請求項1に記載の固有粘度が0.75dl/g以上である高重合度のポリエチレンテレフタレートを用いたテレフタル酸の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は固有粘度が0.75dl/g以上である高重合度のポリエチレンテレフタレートを用いたテレフタル酸の製造方法に関するもので、より具体的には、有機溶媒の使用なしでも固有粘度が0.75dl/g以上である高重合度のポリエチレンテレフタレートを加水分解してテレフタル酸を高収率と良好な工程安定性で製造する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリエチレンテレフタレート(以下「PET」と略称する)の化学的リサイクルのためには、エチレングリコール(以下「EG」と称する)溶媒下で高温、高圧で分子鎖を切断する解重合を行ったり、酸とアルカリの存在下でアルコール類のような極性溶媒で加水分解行ったり、というような分子鎖の分解過程が必要である。
【0003】
【化1】
【0004】
この時、PETがIV=0.6dl/g以下であって重合度が高くない場合は、前記の化学式1に示す3つの方法が代表的に用いられる。
【0005】
第1方法としては化学式1の(a)のようなメタノール分解(Methanolysis)によりメチルアルコール溶媒下で分解してジメチルテレフタレート(DMT)を製造する方法があり、ジメチルスルホキシド(Dimethyl sulfoxide:DMSO)、ジクロロメタン(Dichloromethane)などの有機溶媒を一定量混ぜて与えてPETの膨潤(Swelling)を促進させることで、より弱い条件でも反応が行われるようにすることもある。
【0006】
第2方法としては化学式1の(b)のように極性有機溶媒でNaOHなどのアルカリにより加水分解(Hydrolysis)して比較的容易にジソジウムテレフタレート(Disodium terephthalate:TPA-Na)とエチレングリコール(EG)に分解され、ジソジウムテレフタレートは酸によって容易にテレフタル酸(TPA)に転換される方法がある。この工程はポリエチレンテレフタレート繊維廃棄物のリサイクル、PET布の減量加工などに広く既に活用されている。
【0007】
場合によっては、分子鎖膨潤用有機溶媒(例えば、DMSO)を添加することで、アルカリがアルコールに溶ける時に発生する熱のみでも相当なレベルの加水分解が行われると主張している(Loop Industries USP9,550,713B1)。しかし、この時もPETが重合度の低い繊維や包装材のような場合には、完全でなくてもしばらく加水分解が行われると見られるが、PET瓶のように固有粘度が0.75dl/g以上である高重合度のPETの場合には、DMSOの膨潤(Swelling)効果が弱いため、わずかなレベルの加水分解が行われると見られる。
【0008】
第3の方法は化学式1の(c)の方法であって、EGを溶媒として高温高圧でPETを糖分解(Glycolysis)してビス(2-ヒドロキシエチル)テレフタレート(BHET)とオリゴマー状態に分解するものであり、PETメーカーで古くから最も広く使用する廃PET(PET waste)の再使用方法である。これらの反応生成物は再び重合工程に混合させてPET重合に使用することができる。この場合は主にPET生産中に発生する汚染の少ない廃PETの再使用法として主に使用する。PET重合時には原料の高純度が維持されなければ重合度が上がらないため、高純度の原料のみを使用しなければならない。なぜなら、廃PET瓶などの再生PETを使用する時にはPETに付着された汚染物を完全に除去することが難しく、得られたオリゴマーを高純度に精製することが難しいからである。
【0009】
このように、これらの方法はいずれも有機溶媒中で反応を進行する方法であって、重合度が低く、分子鎖の状態が比較的緩い状態のPETには適用可能であるが、PET瓶のように固相重合と熱固定(Heat setting)処理などでIV=0.8dl/gを超えるほど重合度が高く、分子鎖が高密度にパッキング(Packing)された場合には、このような反応が容易に行われない。実際にPET瓶の混合粉砕物(ミネラルウォーター瓶、ジュース瓶などが混合粉砕されたもの)を重量比で固形分が30%程度になるようにし、アルコール溶媒下において高圧反応管でアルカリ加水分解を行う場合、3~5barの反応圧力とアルコールが沸騰する温度で還流(Reflux)させると共に、強く攪拌しながら1週間加水分解反応を行っても、加水分解されないPET残留物が20%以上残る。特にジュース飲料用耐熱PET瓶などの場合には一般ミネラルウォーター瓶が1ステージブルーイング(Stage blowing)工程で生産されるのに比べ、一般ウォーター瓶よりはるかに強い熱固定工程を含む2ステージブルーイング(Stage blowing)工程で生産される。そのため、分子量が高いと共に、結晶化度までもはるかに高く、分子鎖パッキング(Packing)も高密度である。よって、一般ミネラルウォーターPET瓶よりもアルカリ加水分解を行うことがはるかに難しい。これらはPET IV測定時に使用する溶媒であるヘキサフルオロイソプロパノール(Hexafluoroisopropanol:HFIP)(1)-トリフルオロ酢酸[(1)-Trifluoroacetic acid:TEA]のような強力な溶媒にも容易に溶けず、相当量の未溶解物が残る程度である。よって、一般加水分解の時により多くの未分解残留物が生じる。これらの残留物の表面は溶媒により膨潤されて、餅のように互いに固まって反応器の壁と攪拌機との間に絡み合う。その結果、反応器を可動不能にし、また反応器の吐出口を塞いで正常な吐出が不可能にすることもある。一般的な加水分解溶媒として使用するアルコール類はメタノール、エタノールのように溶媒極性の差があっても加水分解の結果は類似する。単に、単位%レベルで膨潤(Swelling)用有機溶媒(DMSO、CHCl)などを添加してもその結果は大幅に改善されなかった。
【0010】
繊維のようにIVが0.55dl/g程度である中、低重合度PETは極性有機溶媒で酸やアルカリによる加熱還流反応時、1時間以内に完全にモノマーに分解される。この場合でも速い加水分解のためには、有毒性と爆発性のある有機溶媒を反応溶媒として使用しなければならず、多量の強酸や強アルカリの使用が必要となる。
【0011】
固有粘度が0.75dl/g以上である高重合度PETの場合は前述したように、公知の方法による加水分解時に表面で一部分解が始まるが、重合度が高いためこれ以上内部に分解が進行せず、表面で膨潤(Swelling)現象のみが起こる。表面がゲル(Gel)のように変化しながら粘性を有するようになると、強く攪拌して与えてもPET片は互いに絡み合う。また、時間が経つにつれて反応器内壁と攪拌機などに絡み合って、その上に反応生成物まで絡み合って堅固な餅塊のようになる。その結果、酸やアルカリがそれ以上内部に浸透することが不可能になり、分解反応速度は大きく低下する。そのため、これ以上円滑な反応ができなくなる。それでも、このような現象を最大限に減らす方法はサンプルPETをできるだけ細かく粉砕することである。しかし、PETは非結晶性が高いため、常温では物理的粉砕が容易ではない。特に、PET瓶の場合は粉末状態に粉砕することが難しいため、できるだけ細かく破れて片に作って使用する。一般に、プラスチックは液体窒素超低温粉砕機(Liquid N2 freezer ball mill)やボールミル(Ball-mill)を用いて粉砕を行う。従って結晶性高分子や硬度の高い高分子は比較的よく粉砕されるが、PETは非結晶性が高いためよく粉砕されない。更に、固有粘度が0.75dl/g以上である高重合度PETの場合は、はるかに難しく経済性の側面においてこのような粉砕方法は全く意味がない。
【0012】
このような理由によって現在まで重合度の高いPET瓶は経済性のある化学的リサイクルがほとんど行われず、主に洗浄乾燥後に単純溶融紡糸を通じて充填用綿や単繊維(Staple fiber)のような低級繊維への形態に作るリサイクルが主に行われている。
【0013】
前述したようなPETの化学的分解においては、次のような重要な問題点がある。
【0014】
第一に、程度の差はあるが、従来の方法においては、毒性があり引火性が強い低沸点有機溶媒を反応溶媒として使用し、速い反応を進行するためには加熱、加圧反応を行わなければならない問題点がある。最も普遍的にアルカリ加水分解に使用する溶媒としては、エタノール、メタノールなどのようなアルコール類がある。しかし、程度の差はあるが、皮膚や目に毒性があり沸点が低く揮発性が強いため、容易に火がつき、蒸気は毒性も強いと共に、爆発の危険性が大きい。
【0015】
第二に、EG解重合の場合には人体に有害な環状オリゴマー、ブチル化ヒドロキシトルエン(BHT)を含んだ物質などが生じるため、ミネラルウォーター、食品容器用PETとして再重合する場合は、健康に脅威を与える恐れもある。
【0016】
ジメチルスルホサイド(DMSO)、ジクロロメタン(CHCl)などの膨潤(Swelling)用有機溶媒を添加した加水分解の場合、反応後にそれらを再び分離しなければならない。また副産物により高純度のモノマー生成物を得ることが難しくなると共に、高純度製品を得るためには高いレベルの精製設備が更に必要となる。なお、分解最終生成物はテレフタル酸(TPA)ではなくジメチルテレフタレート(Dimethylterephthalate:DMT)が得られる場合が多い。その場合にはテレフタル酸(TPA)を含んで更に多様なモノマー、オリゴマーが不純物として生成される。この場合は、精製自体がほとんど不可能であり、超高純度を必要とするPET重合の原料として使用することは更に困難である。
【0017】
第三に、より決定的な問題点としては固有粘度が0.75dl/g以上である高重合度PETの場合には前記反応式1の(a)、(b)、(c)のような分解が容易に行われない問題点がある。固有粘度が0.75dl/g以上である高重合度PETの最も代表的な製品がPETミネラルウォーター瓶であり、ジュース用PET耐熱瓶は結晶化度も高くなって分解が困難である。また、より強い機械的物性を必要とするPETタイヤコードのような高強度糸の場合には、IV=1.0~1.2dl/gまで上がることもある。
【0018】
PET瓶の場合は重合度も高いが、製造工程で高い伸び率と熱固定を行って、分子鎖が細かく積み重なるクロスパッキング(Cross-packing)状態となる。このため、分解反応時に反応溶媒やアルカリなどが分子と分子との間に浸透しにくくなり、表面から反応が内部に進行することが難しくなる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
本発明では有機溶媒の使用なしでも固有粘度が0.75dl/g以上である高重合度のポリエチレンテレフタレートを加水分解させて、テレフタル酸を高収率と良好な工程安定性で製造する方法を提供しようとする。
【0020】
具体的には、本発明の課題はPETの経済的な加水分解反応において、前述したような有機溶媒に対する安全性と低い反応性に関する問題点を解決し、特に反応自体が難しいPET瓶のような固有粘度が0.75dl/g以上である高重合度PETの低反応性などの問題点までも同時に解決しようとすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0021】
このような課題を達成するために、本発明では、(i)固有粘度が0.75dl/g以上である高重合度のポリエチレンテレフタレートを連続式反応器に投入した後、加熱、加圧して流動性ポリエチレンテレフタレートを製造した後、(ii)流動性ポリエチレンテレフタレートが通過する前記連続式反応器の内部位置にアルカリ金属を含むアルカリ、前記アルカリ金属の弱酸塩及びエチレングリコールを混合して製造した混合スラリーを投入し、前記連続式反応器内で流動性ポリエチレンテレフタレートと前記混合スラリーとをニート(Neat)反応させてアルカリ金属テレフタレートを製造した後、(iii)製造されたアルカリ金属テレフタレートを水に溶かした後、ろ過及び遠心分離を通じて異物を除去し、水に溶かしているアルカリ金属テレフタレートに酸を入れて反応させてテレフタル酸を製造する。
【0022】
【化2】
【0023】
具体的には、バッチ(Batch)反応器にエタノールやメタノールのような有機溶媒などを反応溶媒に入れて行う従来の分解反応とは異なり、エクストルーダー(Extruder)形態の連続式反応器を用いて別途の反応溶媒なしで溶融PET自体が反応物であり溶媒の役割まで果たすニート(Neat)反応で連続式分解反応を行う。連続式反応器内で反応温度と圧力を調節してPETを溶融させ、そこに触媒レベルのエチレングリコール(EG)及びアルカリ金属系のアルカリとそのアルカリ金属の弱酸塩とを混ぜた混合物を投入する。一つの実施形態としてNaOHをアルカリとして使用する場合には、NaOHと弱酸であるHCOの塩であるNaCOを入れる。これは前記の化学式2に示すようにPETが加水分解されると、ジソジウムテレフタレート(Disodium terephthalate:TPA-Na)とエチレングリコール(EG)が生じながらNa+濃度が徐々に減少して加水分解反応速度も徐々に低下する。しかし、この時、Na+の弱酸塩であるNaCOがあれば、これもやはり極性溶媒であるエチレングリコール(EG)に溶けて、より多くのNa+が生じる。よって、NaOHで生じるNa+の濃度と共に、Na+の濃度を更に高める役割を果たす。従って、より多くのNaO-C-ONaが生じるようになる。これはPETの加水分解反応でNa+の濃度が低くならないようにすることで、反応速度を速く維持させるようになる。
【0024】
その際、PETの加水分解が始まると、初期に発生するEGが溶媒の役割を果たすと同時に、加速触媒の役割を果たすようにしてより速く加水分解反応が進行する。
【0025】
速い反応速度を維持しながら反応速度を高めるためには、反応温度と圧力を適切に調節することが非常に重要である。全体反応期間において、反応温度はできるだけ低く維持することがよい。そうしてこそ副反応による不純物の発生が少なくなり、反応圧が低くなって反応を容易に調節できるからである。初期にPETを溶融させた後、溶融されたPETに前記化学式2のようにアルカリ及びそのアルカリの弱酸塩を混ぜると、加水分解反応が速く進行しながら分子量が急激に小さくなる。反応の結果、TPA-Na塩(Salt)とエチレングリコール(EG)が生成される。この時生成されるTPA-Na塩(Salt)は固体粉末であり、また他の生成物、エチレングリコール(EG)は液体である。TPA-Naは沸騰温度が1気圧で392.4℃であるので温度に非常に安定するが、エチレングリコール(EG)は1気圧で沸騰する温度が197℃であるため、できるだけ低い反応温度が好ましい。なぜなら、加水分解反応時に生成されたEGが気化せず液体状態に維持されなければ溶融PETと均一に混合して溶媒の役割を果たしながら、一部はNa-OCO-Naになって加水分解反応を更に促進できないからである。
【0026】
図20はEGの温度と蒸気圧との相関関係を示すグラフであり、EGが特定の温度で液体状態を維持するためには、当該蒸気圧より高い圧力をかけなければならない。例えば、1気圧でEGの沸騰温度は197℃であるが、この時蒸気圧は760mmHgである。PETの溶融温度である260℃では約4000mmHg(約5.3気圧)の蒸気圧を有するようになり、この温度でEGを液体状態に維持するためには、反応圧力を5.3気圧より高く維持しなければならない。
【0027】
実際の工程においてはPETの分解が起こり、EGが生じ始めるとPETの分子量が急激に低くなって260℃より20~30℃程度低い状態で反応温度を維持してもPETは溶融状態を維持する。この時のEG蒸気圧は2000mmHg以下であって、5.3気圧以上の高圧をかけずに2.5~3気圧程度の反応圧のみを維持してもEGは液体状態に維持できるので、速い加水分解反応速度を維持できるようになる。このように反応温度を低く維持し、混合効果を良くするためにアルカリを2回に分けて投入する方法を用いる。まず、PETを連続式反応器(エクストルーダー)に最初に供給(Feeding)する時に少量のアルカリ(例えば、NaOH)を混合して与えると、これによる一次加水分解でPETの平均分子量が減少して溶ける温度が低くなる。同時に少量発生したEGと混合されて粘度が低下する。これは反応条件をより滑らかにして分解反応の制御が容易になる。その後、本格的な分解反応のために二次に反応温度がずっと低い連続式反応器の混合ゾーンである反応ゾーン2にアルカリ金属を含むアルカリ、前記アルカリ金属の弱酸塩及びエチレングリコールの混合スラリーを反応に十分な量で投入する。この時投入量が多くても一次加水分解でPETの粘度が低くなったので、混合がはるかに容易に行われる。
【0028】
このような連続式反応器であるエクストルーダー(Extruder)を最も普遍的な反応器として使用する。その理由は、エクストルーダーの場合使用するスクリュー(Screw)を他の螺旋状のものに組み合わせることが可能であるからである。即ち、反応ゾーン(Zone)別に異なる温度、圧力などの反応条件に合わせて機器特性の設定が可能であり、連続式であるので小さい装置でも高い生産量を得ることができるからである。勿論、高効率のツインスクリューエクストルーダー(Twin screw extruder)を使用する場合には、より高い混合効率によってシングルスクリューエクストルーダー(Single screw extruder)を使用する場合よりもはるかに高速で、且つ高収率で反応させることが可能である。
【発明の効果】
【0029】
本発明は重合度が高いため、有機溶媒でも加水分解が難しい固有粘度が0.75dl/g以上である高重合度のポリエチレンテレフタレートから有機溶媒の使用なしでもテレフタル酸を高収率と良好な工程安全性で製造することができる。
【0030】
本発明によれば、従来には円滑な加水分解が困難であった固有粘度が0.75dl/g以上である高重合度PETを有毒性有機溶媒の使用なしにニート(Neat)反応を通じて速く加水分解することができる。また、反応温度もPETの溶融温度以下で短時間内に行われるので、熱分解による副反応物がほとんどない状態の純粋な加水分解物のみを得ることが可能である。何よりも有毒で火災の危険性が高い低沸点有機溶媒を使用しない点は工程の安全性を大きく向上させる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
図1】エクストルーダーに固有粘度が0.75dl/g以上である高重合度PETとNaOH、EG及びNaCOを投入してニート(Neat)反応させてアルカリ金属テレフタレートを製造する工程の概略図である。
図2図1のエクストルーダーを構成するスクリュー(Screw)の形態を例示的に示す断面図である。
図3】本発明の実施例に用いられる固有粘度が0.75dl/g以上である高重合度PETのラマン分光器ラマンスペクトルである。
図4】標準物であるテレフタル酸ナトリウム塩のラマン分光器ラマンスペクトルである。
図5】標準物であるテレフタル酸のラマン分光器ラマンスペクトルである。
図6】実施例1で製造したテレフタル酸ナトリウム塩のラマン分光器ラマンスペクトルである。
図7】実施例2で製造したテレフタル酸のラマン分光器ラマンスペクトルである。
図8】比較実施例1で製造したテレフタル酸ナトリウム塩のラマン分光器ラマンスペクトルである。
図9】比較実施例2で製造したテレフタル酸ナトリウム塩のラマン分光器ラマンスペクトルである。
図10】比較実施例3で製造したテレフタル酸ナトリウム塩のラマン分光器ラマンスペクトルである。
図11】比較実施例4で製造したテレフタル酸ナトリウム塩のラマン分光器ラマンスペクトルである。
図12】比較実施例5で製造したテレフタル酸のラマン分光器ラマンスペクトルである。
図13】比較実施例6で製造したテレフタル酸ナトリウム塩のラマン分光器ラマンスペクトルである。
図14】比較実施例7で製造したテレフタル酸ナトリウム塩のラマン分光器ラマンスペクトルである。
図15】比較実施例8で製造したテレフタル酸のラマン分光器ラマンスペクトルである。
図16】実施例3で製造したテレフタル酸カリウム塩のラマン分光器ラマンスペクトルである。
図17】実施例4で製造したテレフタル酸のラマン分光器ラマンスペクトルである。
図18】比較実施例9で得られた倍率500倍のNa SEM-EDS分布写真である。
図19】実施例5で得られた倍率500倍のNa SEM-EDS分布写真である。
図20】EGの温度と蒸気圧との相関関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、添付した図面などを参照して本発明を詳細に説明する。
【0033】
本発明は(i)固有粘度が0.75dl/g以上である高重合度のポリエチレンテレフタレート(PET)をエクストルーダー(Extruder)形態の連続式反応器(Continuous Reactor)に投入した後、加熱、加圧して流動性ポリエチレンテレフタレートを製造する工程;(ii)流動性ポリエチレンテレフタレートが通過する前記連続式反応器の内部位置にアルカリ金属を含むアルカリ、前記アルカリ金属の弱酸塩及びエチレングリコールを混合して製造した混合スラリーを投入し、前記連続式反応器内で流動性ポリエチレンテレフタレートと混合スラリーとをニート(Neat)反応させてアルカリ金属テレフタレートを製造する工程;及び(iii)前記アルカリ金属テレフタレートを水に溶かした後、ろ過及び遠心分離を通じて異物を除去し、水に溶けているアルカリ金属テレフタレートに酸を入れて反応させてテレフタル酸を製造する工程;を含むことを特徴とする。
【0034】
具体的には、本発明ではまず、固有粘度が0.75dl/g以上である高重合度のポリエチレンテレフタレート(PET)をエクストルーダー(Extruder)形態の連続式反応器(Continuous Reactor)に投入した後、加熱、加圧して流動性ポリエチレンテレフタレートを製造する。
【0035】
前記固有粘度が0.75dl/g以上である高重合度のポリエチレンテレフタレートはホモポリマー(Homo polymer)でもあり得、共重合ポリマー(共重合体:Copolymer)でもあり得る。
【0036】
本発明では固有粘度が0.75dl/g以上である高重合度のポリエチレンテレフタレートをエクストルーダー(Extruder)形態の連続式反応器に投入する際に、アルカリ金属を含むアルカリを共に投入することがより好ましい。
【0037】
固有粘度が0.75dl/g以上である高重合度のポリエチレンテレフタレートと共に連続式反応器に投入されるアルカリ金属を含むアルカリ含量を前記ポリエチレンテレフタレートと重量比で5~10%となるように調節しておく。
【0038】
次に、流動性ポリエチレンテレフタレートが通過する前記連続式反応器の内部位置にアルカリ金属を含むアルカリ、前記アルカリ金属の弱酸塩及びエチレングリコールを混合して製造した混合スラリーを投入し、前記連続式反応器内で流動性ポリエチレンテレフタレートと混合スラリーとをニート(Neat)反応させてアルカリ金属テレフタレートを製造する。
【0039】
この時、流動性ポリエチレンテレフタレートが通過する前記連続式反応器の相異なる位置で前記混合スラリーを1~5段階に分けて投入することが好ましい。
アルカリ金属を含むアルカリ及びアルカリ金属の弱酸塩を構成するアルカリ金属はリチウム(Li)、ナトリウム(Na)またはカリウム(K)などである。
【0040】
前記アルカリ金属の弱酸塩はアルカリ金属と炭酸(HCO)の反応で生成された塩、アルカリ金属とリン酸(HPO)の反応で生成された塩、アルカリ金属と酢酸の反応で生成された塩、またはアルカリ金属とギ酸の反応で生成された塩などである。
【0041】
次に、前記アルカリ金属テレフタレートを水に溶かした後、ろ過及び遠心分離を通じて異物を除去し、水に溶けているアルカリ金属テレフタレートに酸を入れて反応させてテレフタル酸を製造する。
【0042】
本発明の最大の特徴は分解反応に引火性が大きく人体に有害な有機溶媒を反応溶媒として使用せず、溶融されたPETやKOH、NaOHなどのように、アルカリ金属を有するアルカリが触媒レベルの該当アルカリ金属塩の存在下でニート(Neat)反応する点である。ニート(Neat)反応の利点としては反応に直接関係なく溶媒としてのみ作用する有害な化合物がないので、安全性側面と反応効率、速度側面で非常に優れる。
【0043】
反応性側面では反応溶媒による濃度希釈がないので、反応物間で直接反応が行われる(即ち、反応濃度が100%である)。そのため、溶媒使用時に反応速度がより速く副反応が少ないので、不純物の生成が著しく減少する。このようなニート(Neat)反応の場合、PETの溶融粘度が一般有機溶媒反応に比べて非常に高いため、バッチ式反応器(Batch reactor)では反応物を混合することが非常に難しいという問題が生じる。
【0044】
このような問題を解決する非常に有用な方法はエクストルーダーのような混合装置を反応器として使用することである。また、エクストルーダーを用いた反応において反応温度と溶融粘度を低くすることで、反応率を高めることができる点もまた非常に重要である。
【0045】
前記ニート(Neat)反応の過程を調べてみる。
【0046】
まず、図1に示すように複数の反応ゾーン(Zone)を有するエクストルーダーにPETを押し込んで流動化させる。この時、エクストルーダーのスクリュー(Screw)は全体が同じ形態のねじ構造ではなく、図2に示すように反応ゾーンごとに必要な特性に合った形態となる。
【0047】
各反応ゾーンの温度設定において最も大きく考慮すべき点はPETの熱的特性によりガラス転移点(Tg:70℃付近)、融点(Tm:通常250~260℃付近)、EGの沸点(b.p.:197℃、1気圧下)などである。一方、圧力がかかると、これらの温度は当然常圧とは異なるようになる。
【0048】
これを反応ゾーンごとにもっと詳しく調べてみると次の通りである。
【0049】
第1反応ゾーン1はPET供給及び流動化のためのゾーンであって、投入されたPET固体片はスクリュー(Screw)とブロック(Block)の熱と圧力により流動性物体になって押されて前進する。この時、PETのみを投入する場合、PETの流動化のためには、溶融温度まで上げなければならないが、この場合にも溶融粘度が高すぎる。円滑な供給及び流動化のために投入PETと重量比で5~10%程度のアルカリを混合し、PETの供給と同時に一次加水分解反応させると、融点と粘度が低下して供給が容易になる。
【0050】
また、エクストルーダースクリュー(Screw)の形状も重要である。一般的に投入原料の粒径が大きいほど大きなピッチのスクリューを使うが、PET瓶片の供給が良く行われるように、通常PETチップ(Chip)を使う時よりスクリューピッチが大きいものを使う。この時、PET供給ゾーンである反応ゾーン1の開始温度はPETのガラス転移点(Tg)から融点(Tm)間に維持して通常100~180℃程度になるようにすることで、PETが一次分解しながら溶融されるようにする。そうしてこそ、第2ミキシングゾーン(Mixing zone)である反応ゾーン2で2次投入アルカリとよく混ざるからである。
【0051】
【化3】
【0052】
第2反応ゾーン2はミキシングゾーン(Mixing zone)である。ここでは反応ゾーン1から押し出された流動性PETとアルカリを混ぜてミキシング(Mixing)効率を高めるようにスクリューを設計する。まず、少量のEGと当量比より若干過量のアルカリ(例えば、NaOH、KOH)及びアルカリ金属の弱酸塩(例えば、NaCO、KCO)とを混ぜて製造した混合スラリー(Mixing slurry)を作る。そうすると、前記化学式3のようにEGとアルカリMOH(M:アルカリ金属)が反応して金属グリコレートが作られる。また金属塩であるMCOは一部が解離されてMとCO -2イオンになることで、これらがすべて混ざっている状態となる。この時、Mイオンの量は当量比より10~20%程度過量になるようにする。
【0053】
前記混合スラリー(Mixing slurry)をギアポンプまたは第2フィーディングエクストルーダー(Second feeding extruder)を使用してメインエクストルーダー(Main extruder)のミキシングゾーン(Mixing zone)に定量的に押し込んで流動性PETとよく混ぜる。反応ゾーン2では温度をPET Tmより低く開始して次第に下がり、反応ゾーン2の端付近では200℃程度になるようにする。流動性PETは反応ゾーン1の端部を通過しながら反応ゾーン2に流入される際には一次分解によってPETのTmが低くなる。このような温度要因と一次加水分解による分子量減少によって粘度が低くなり、反応ゾーン2の温度を適切に調節してミキシング(Mixing)のためのシェア(Shear)を維持することで、PETと混合スラリー(Mixing slurry)がよく混ぜるようにする。反応ゾーン2でも2つの反応物が混ざりつつ一部反応が更に進行するが、反応の完結は第3反応ゾーン3及び第4反応ゾーン4で行われるようにすることで、ミキシング(Mixing)効率の向上に合わせてスクリュー(Screw)の構造を取る。
【0054】
反応ゾーン2の末端部では反応物の温度が150~200℃程度となって、次の反応ゾーン3に進むように温度を調節しておく。
【0055】
【化4】
【0056】
反応ゾーン3は一次反応が進行するゾーンであって、前記化学式4のようにPETと金属グリコレートが反応してPETのアルカリ加水分解反応の大部分が進行する。
【0057】
この時、スクリューは反応圧を維持しながら反応物を前方に連続的に押し出すために、ピッチ間隔を反応ゾーン1のスクリューピッチ間隔より狭い形態のものを用いる。
【0058】
このようなPETの分解反応はポリプロピレンやポリエチレンなどの他の種類のプラスチックが混ざっている場合にも妨げられずに反応し、異種プラスチック混合物は反応せずそのまま残って物理的に除去が可能である。
【0059】
最も一般的に使用されるアルカリであるNaOHを使用する場合生成物は、テレフタル酸ナトリウム(Disodium terephthalate)とEGが作られる。しかし、完全に加水分解されず、オリゴマー状態のPETが混ざっている混合物となる。
【0060】
反応ゾーン3の反応開始温度の場合、反応ゾーン2から来た反応物が150~200℃程度で反応を開始するようになり、温度を20~30℃程度高めて加水分解反応率を最大限に高める。温度を180~230℃に維持して反応によるPETの分子量減少によって低下した溶融粘度を維持させると共に、生成されたEGの蒸気圧を最大限に低く維持する。
【0061】
反応ゾーン4は二次反応が進行するゾーンであって、温度は180~230℃から始まり、180~200℃まで温度を下げながら長い滞留時間で反応率を最大限に高める。反応ゾーン4の端部では、反応結果大部分のPETはモノマー(Monomer)に転換され、残った少量のオリゴマーにより粘度が非常に低くなる。そのため、温度を調節して粘度と圧力が維持されるようにする。
【0062】
第5反応ゾーン5は吐出が進行するゾーンであって、温度を150~180℃程度に下げる。固体生成物としては主成分であるテレフタル酸(以下「TPA」と称する)のアルカリ金属塩、一部完全に分解されなかったPET、オリゴマーがあり、液体生成物としてはEGとアルカリ金属グリコレートがある。これらの生成物は混合スラリー状態で吐出される。この時、吐出温度を適切に調節して液体生成物質であるEGの蒸気圧を下げてEG蒸気圧による突沸現象(Bumping)が発生せずに安定的に吐出されるようにする。吐出物を冷却して固化した後、粉砕して粉末に作る。
【0063】
このような反応の各工程における生成物はラマン分光器で確認する。ラマン分光器は固体状態の試料を前処理過程なしにそのまま分子構造を測定することができるので、本発明の各生成物の反応程度を直接確認することができる。更に、PETの分子量変化をIVで測定し、エクストルーダーのミキシング(Mixing)性能を確認するためにSEM-EDXを用いてNaの分布程度を確認した。
【0064】
反応の過程はPET→TPA-Na→TPAの順に進行するようになり、最大の分子構造変化の特徴は次の通りである。
【0065】
PETはベンゼン環とエステルカルボニルC=Oが最も代表的な構造であり、図3に示すように1601cm-1位置のベンゼン環ピークと1714cm-1位置にエステルの大きなピークが出る。このピークはPETのエステル結合がTPA-Naに転換されるにつれてサイズが減少し、それを用いてPETがどの程度分解されたかを知ることができる。
【0066】
テレフタル酸ナトリウム(TPA-Na)はエステル構造が分解されてカルボン酸ナトリウムC-O-Naに変換されたものである。このように変換されることにつれて、図4に示すようにベンゼン環ピークは同じ位置にあるが、1714cm-1のエステルピークは徐々になくなり、1123cm-1の位置にカルボン酸ナトリウムのピークは徐々に大きくなる。
【0067】
TPAはテレフタル酸ナトリウム(TPA-Na)に酸を入れてNaが落下しHが付いて末端基がカルボン酸-COOHになったものである。その結果、図5に示すように1123cm-1のカルボン酸ナトリウムのピークがなくなり、823cm-1に新たなカルボン酸のピークが生じ、ベンゼン環ピークも少しシフトされて1617cm-1の位置から出ることが特徴である。
【0068】
このような基本ラマンスペクトルに基づいて実験過程で得られた化合物を比較確認するようになる。
【0069】
以下の実施例を通じて本発明をより具体的に調べてみる。しかしながら、本発明が以下の実施例に限定されるわけではない。
【実施例
【0070】
実施例1:テレフタル酸ナトリウム塩の製造
5つの反応ゾーン(温度調節ゾーン)を有するツインエクストルーダーを使用して、IV=0.83dl/gであるPET瓶片と重量比で5%のNaOHをよく混ぜて投入した後、セコンドエクストルーダー(Second extruder)を用いて30%のNaOH、5%のNaCOを15%のEGに混ぜた混合スラリーを製造した。その後、これをエクストルーダーの反応ゾーン2に投入してテレフタル酸ナトリウム塩を製造した。
ツインエクストルーダー(Twin extruder)は電気ヒーターと水冷で温度調節を行い、真空で発生するガスを除去することも可能である。スクリューの長さ対直径の比は40対1であった。
この時、反応ゾーン1、反応ゾーン2、反応ゾーン3、反応ゾーン4及び反応ゾーン5の温度はそれぞれ160℃、180℃、220℃、200℃及び170℃に設定した。
PETのエクストルーダー内滞留時間は10分程度になるようにスクリューの回転数を調整した。
反応が完了したテレフタル酸ナトリウム塩を冷却した。
図6は反応が完了したテレフタル酸ナトリウム塩を撮ったラマン分光器ラマンスペクトルであって、非常に大きなピークが1123cm-1位置から出ており、1714cm-1位置のPETエステルピークは非常に小さくなって痕跡が見えるレベルである。
【0071】
実施例2:テレフタル酸の製造
実施例1で得られたテレフタル酸ナトリウム塩100gを純水1Lに攪拌しながらよく溶かした。約10分後、この水溶液をろ紙でろ過した。ろ紙でろ過した固体を再び1Lの純水に入れて再び攪拌しながらよく溶かした。10分後に再びろ紙でろ過し、ろ過された未溶解分の固体は乾燥させた後に重量を計った。結果値は2gであったし、これはPET→TPA-Naの転換反応率が98%程度であることを意味する。二次ろ液1Lを一次ろ液1Lと合わせた。このろ液2Lに塩酸を少量ずつ混ぜてよく撹拌した後、酸性度(pH)を計った。溶液の酸性度が弱酸性(pH=4,5程度)になるまで塩酸を入れた。そうすると、白色沈殿物が析出し、これをろ紙でろ過して集め、純水で更に2回洗浄した後に乾燥させてテレフタル酸を製造した。
製造したテレフタル酸のラマン分光器ラマンスペクトルを測定した結果は図7に示したようである。
【0072】
実施例3:テレフタル酸カリウム塩の製造
ツインエクストルーダーにIV=0.83dl/gであるPET瓶片と重量比で5%のKOHをよく混ぜて一次投入した後、セコンドエクストルーダー(Second extruder)を使用して35%のKOH、5%のKCOを15%のEGに混ぜた混合スラリーを二次投入したことを除いては、実施例1と同じ条件でテレフタル酸カリウム塩を製造した。
製造したテレフタル酸カリウム塩のラマン分光器ラマンスペクトルは図16に示したようである。図16はテレフタル酸ナトリウム塩のラマン分光器ラマンスペクトルとほぼ類似しているが、ピーク強度比などで多少の差が見られることがわかる。
【0073】
実施例4:テレフタル酸の製造
実施例3で得られたテレフタル酸カリウム塩100gを純水1Lに攪拌しながらよく溶かした。約10分後、この水溶液をろ紙でろ過した。ろ紙でろ過した固体を再び1Lの純水に入れて再び攪拌しながらよく溶かした。10分後に再びろ紙でろ過し、ろ過された未溶解分の固体は乾燥させた後に重量を計った。結果値は約4gであったし、これはPET→TPA-K2の転換反応率が96%程度であることを意味する。二次ろ液1Lを一次ろ液1Lと合わせた。このろ液2Lに塩酸を少量ずつ混ぜてよく撹拌した後、酸性度(pH)を計った。溶液の酸性度が弱酸性(pH=4,5程度)になるまで塩酸を入れた。そうすると、白色沈殿物が析出するが、これをろ紙でろ過して集め、純水で更に2回洗浄した後乾燥させてテレフタル酸を製造した。製造されたテレフタル酸のラマン分光器ラマンスペクトルの測定結果は図17に示したようである。図5の標準物TPAのラマン分光器ラマンスペクトルと比較した結果から、乾燥させた白色の固体沈殿物質がTPAであることがわかる。
【0074】
実施例5:NaClを用いたアルカリ粉末ミキシング(Mixing)の程度確認実験2
実施例1と同じ試験条件でNaCl粉末を重量比で10%をPETに混ぜて更に投入した。吐出物を常温冷却して固めた後、500倍でSEM-EDSを測定した。その結果、図19に示すようにNa(空色)がPET由来のC(赤色)元素と大きな塊なしで細かくよく混ざった写真を得た。これはNaClの粉末が均一に広がっていることを意味する。これは投入総量NaOHをPET投入時に1次に先ず少量を混ぜた後、2次に分けて投入することが漸進的な分解反応でPET粘度を緩やかに低下させて、混合がはるかに均一になることを示す。これはNaOHを一度に投入することより分けて投入することの方がはるかに反応が均一でよく行われる理由を説明するものである。
【0075】
比較実施例1:テレフタル酸ナトリウム塩の製造
5つの反応ゾーン(温度調節ゾーン)を有するツインエクストルーダー(Twin extruder)を用いてIV=0.83dl/gであるPET瓶片とNaOHを反応させてテレフタル酸ナトリウム塩(TPA-Na2)を製造した。ツインエクストルーダー(Twin extruder)は電気ヒーターと水冷で温度調節を行い、真空で発生するガスを除去することも可能である。スクリューの長さ対直径の比は40対1であった。
PET片にNaOHを重量比で5%になるように均一に混ぜてエクストルーダーに投入した。この時、反応ゾーン1、反応ゾーン2、反応ゾーン3、反応ゾーン4及び反応ゾーン5の温度はそれぞれ160℃、180℃、220℃、200℃及び170℃に設定した。
PETのエクストルーダー内滞留時間は10分程度になるようにスクリューの回転数を調整した。
反応が完了したテレフタル酸ナトリウム塩を冷却した。製造されたテレフタル酸ナトリウム塩のIVは測定結果0.51dl/gであったし、ラマン分光器ラマンスペクトルは図8に示したようである。IVが0.83→0.51dl/gに低下したことは分解反応が一定レベルであったことを意味する。
また、図8のラマン分光器ラマンスペクトルから見ると、1123cm-1位置に小さなピークが生じ、これはPETが一部分解されてテレフタル酸ナトリウム塩(TPA-Na2)が生成されたことを示す。
【0076】
比較実施例2:テレフタル酸ナトリウム塩の製造
ツインエクストルーダーにIV=0.83dl/gであるPET瓶片と重量比で15%のNaOHを混ぜて投入したことを除いては、比較実施例1と同じ条件でテレフタル酸ナトリウム塩を製造した。反応が完了したテレフタル酸ナトリウムのラマン分光器ラマンスペクトルは図9に示したようである。図9では非常に大きなピークが1123cm-1位置から出て、1714cm-1位置のPETエステルピークはほぼ半分に減少して1123cm-1より小さくなった。なお、両方のピークの強さ(Intensity)はテレフタル酸ナトリウム(TPA-Na)の量を意味する1123cm-1のピークが約1.2倍程度大きいことが分かる。
【0077】
比較実施例3:テレフタル酸ナトリウム塩の製造
ツインエクストルーダーにIV=0.83dl/gであるPET瓶片と重量比で30%のNaOHを混ぜて投入したことを除いては、比較実施例1と同じ条件でテレフタル酸ナトリウム塩を製造した。反応が完了したテレフタル酸ナトリウムのラマン分光器ラマンスペクトルは図10に示したようである。図10では非常に大きなピークが1123cm-1位置から出て、1714cm-1位置のPETエステルピークは非常に小さくなって強さ(Intensity)が1123cm-1ピークに比べて約1/16レベルに減ったことが分かる。
【0078】
比較実施例4:テレフタル酸ナトリウム塩の製造
ツインエクストルーダーにIV=0.83dl/gであるPET瓶片と重量比で5%のNaOHをよく混ぜて一次投入した後、セコンドエクストルーダー(Second extruder)を使用して30%のNaOHを15%のEGに混ぜた混合スラリーを二次投入したことを除いては、比較実施例1と同じ条件でテレフタル酸ナトリウム塩を製造した。反応が完了したテレフタル酸ナトリウムのラマン分光器ラマンスペクトルは図11に示したようである。図11では非常に大きなピークが1123cm-1位置から出て、1714cm-1位置のPETエステルピークは非常に小さくなって強さ(Intensity)が1123cm-1ピークに比べて約1/18レベルに減少したが、まだ分解されていないPETがあることが分かる。
【0079】
比較実施例5:テレフタル酸の製造
比較実施例4で得られたテレフタル酸ナトリウム100gを純水1Lに攪拌しながらよく溶かした。約10分後、この水溶液をろ紙でろ過した。ろ紙でろ過した固体を再び1Lの純水に入れて再び攪拌しながらよく溶かした。10分後に再びろ紙でろ過し、ろ過された未溶解分の固体は乾燥させた後に重量を計った。結果値は13gであったし、これはPET→TPA-Naの転換反応率が約87%程度であることを意味する。二次ろ液1Lを一次ろ液1Lと合わせた。このろ液2Lに塩酸を少量ずつ混ぜてよく撹拌した後、酸性度(pH)を計った。溶液の酸性度が弱酸性(pH=4,5程度)になるまで塩酸を入れた。そうすると、白色沈殿物が析出し、これをろ紙でろ過して集め、純水で更に2回洗浄した後、乾燥させてテレフタル酸を製造した。製造されたテレフタル酸のラマン分光器ラマンスペクトルを測定した結果は図12に示したようである。図5の標準物TPAのラマン分光器ラマンスペクトルと比較した結果から、製造した白色固体物質がTPAであることがわかる。
【0080】
比較実施例6:エタノールを溶媒としたテレフタル酸ナトリウム塩の製造
1リットル4口丸底フラスコに攪拌機、温度計、及び還流冷却器を設置してヒーティングマントルに取り付けた。これにIV=0.83dl/gであるPET瓶片100グラム、エチレングリコールナトリウム塩30ミリリットル、水酸化ナトリウム40グラム、及びエタノール600mlを入れた。ヒーティングマントルの温度をエタノールが沸騰するまで上げ、攪拌機を回転させて還流しながら、約10時間程度反応させた。反応後に反応液を100メッシュ(mesh)篩でろ過し、未反応残留物であるPET瓶片をろ過した後、純粋なエタノール100mlで拭いた。ろ過された未反応物を乾燥させた後に重量を計った。結果値は23gであったし、これは固有粘度が0.75dl/g以上である高重合度PETは分解反応率が約77%程度であることを示す。
未反応のPET片を除去した白色沈殿物があるエマルジョン反応液を紙フィルターを用いてろ過することで、白色沈殿物を得た。得られた白色沈殿物をメタノールで3回洗浄した後乾燥させてテレフタル酸ナトリウム塩を製造した。
得られたテレフタル酸ナトリウム塩は水によく溶け、ラマン分光器でラマンスペクトルを測定して図13に示したような結果が得られた。これを図4の標準物であるテレフタル酸ナトリウム塩のラマン分光器ラマンスペクトルと比較した結果、成分がテレフタル酸ナトリウム塩であることを確認した。
【0081】
比較実施例7:エタノールを溶媒としたテレフタル酸ナトリウム塩の製造
1リットル4口丸底フラスコに攪拌機、温度計、及び還流冷却器を設置してヒーティングマントルに取り付けた。これにIV=0.55dl/gの細かく切ったブライト(bright)PET布片100グラム、エチレングリコールナトリウム塩30ミリリットル、水酸化ナトリウム40グラム、及びエタノール600mlを入れた。ヒーティングマントルの温度をエタノールが沸騰するまで上げ、攪拌機を回転させて還流しながら約1時間程度反応させた。反応後に反応液を100メッシュ篩でろ過し、未反応のPET瓶片をろ過した後、純粋なエタノール100mlで拭いた。ろ過された未反応物は全くなかった。これは中、低重合度PETは分解反応率がほぼ100%に良く行われることを意味する。
未反応物を除去した白色沈殿物があるエマルジョンろ液を紙フィルターを用いてろ過することで、白色沈殿物を得た。得られた白色沈殿物をメタノールで3回洗浄した後乾燥させてテレフタル酸ナトリウム塩を製造した。
得られたテレフタル酸ナトリウム塩は水によく溶け、ラマン分光器でラマンスペクトルを測定して図14に示したような結果が得られた。これを図4の標準物であるテレフタル酸ナトリウム塩のラマン分光器ラマンスペクトルと比較した結果、成分がテレフタル酸ナトリウム塩であることを確認した。
【0082】
比較実施例8:テレフタル酸の製造
比較実施例7で得られたテレフタル酸ナトリウム100gを2リットル容量のビーカーに入れ、蒸留水1.5リットルを入れて攪拌して完全に溶かした。その後、塩酸を少しずつ入れながらよく撹拌し、溶液が弱酸性(約pH=4,5程度)になるようにした。そうすると、白色沈殿が析出した。これをろ紙でろ過した後、乾燥させてテレフタル酸を製造した。
製造したテレフタル酸のラマン分光器ラマンスペクトルは図15に示したようである。図5の標準物のラマン分光器ラマンスペクトルと比較した結果、テレフタル酸であることが確認できる。
【0083】
比較実施例9:NaClを用いたアルカリ粉末混合(Mixing)程度の確認実験
比較実施例3と同じ反応条件でNaCl粉末を重量比で10%程度をPETに混ぜて更に投入した。吐出物を常温冷却して固めた後、500倍でSEM-EDSを測定した。その結果、図18に示すようにNaClから由来したNa(緑色)がPETから由来したC(赤色)元素とよく混ざらないため、大きな塊が多いある状態の写真が得られた。これは一度に多くのNaOHを投入したため、分解反応が急激に起こることで、位置別PET粘度差が大きくなり、変化が不均一になって、NaClの粉末が不均一に広がっていることが原因であると確認できる。これは実験に使用するツインエクストルーダーの運営条件でNaOHを一度に投入した場合、ミキシング(Mixing)過程でよくミキシングされないことを示すものである。
【産業上の利用可能性】
【0084】
本発明は重合度が高いため有機溶媒でも加水分解が難しい固有粘度が0.75dl/g以上である高重合度のポリエチレンテレフタレートから有機溶媒の使用なしでもテレフタル酸を高収率と良好な工程安全性で製造することができる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
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図17
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