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特許7484012画像表示システム、画像表示方法、画像表示プログラム、および画像表示装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-07
(45)【発行日】2024-05-15
(54)【発明の名称】画像表示システム、画像表示方法、画像表示プログラム、および画像表示装置
(51)【国際特許分類】
   G09G 5/02 20060101AFI20240508BHJP
   G09G 5/00 20060101ALI20240508BHJP
【FI】
G09G5/02 B
G09G5/00 X
G09G5/00 550D
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2023508179
(86)(22)【出願日】2021-03-22
(86)【国際出願番号】 JP2021011792
(87)【国際公開番号】W WO2022201259
(87)【国際公開日】2022-09-29
【審査請求日】2023-06-28
【早期審査対象出願】
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】391010116
【氏名又は名称】EIZO株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001139
【氏名又は名称】SK弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100130328
【弁理士】
【氏名又は名称】奥野 彰彦
(74)【代理人】
【識別番号】100130672
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 寛之
(72)【発明者】
【氏名】前川 孝雄
(72)【発明者】
【氏名】長嶋 健介
(72)【発明者】
【氏名】出山 敦祥
(72)【発明者】
【氏名】森 唯人
(72)【発明者】
【氏名】西村 純
【審査官】武田 悟
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-42119(JP,A)
【文献】特開2014-42118(JP,A)
【文献】特開2017-156506(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2020/0202809(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G09G 5/00 - 5/42
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
表示装置に画像を表示する画像表示システムであって、
複数の表示装置と、
分光データ取得部と、
等色関数候補取得部と、
仮想等色関数取得部と、
色差算出部と、
等色関数選択部を備え、
前記分光データ取得部は、前記複数の表示装置の分光データを取得し、
前記等色関数候補取得部は、前記等色関数選択部によって選択される等色関数の候補である選択候補等色関数を複数取得し、
前記仮想等色関数取得部は、複数の仮想の観測者に対応した複数の仮想等色関数を取得し、
前記色差算出部は、複数の前記選択候補等色関数それぞれについて、前記分光データごとに目標白色点を実現した場合の分光分布データを算出し、当該分光分布データについて前記複数の仮想等色関数における三刺激値を算出して、前記複数の仮想等色関数に対応して前記分光データごとに前記三刺激値の差分を算出することで前記複数の表示装置間での色差を算出し、
前記等色関数選択部は、前記複数の選択候補等色関数の中から、下記(1)~(3)のいずれかの手法により最適な等色関数を選択する、画像表示システム。
(1)前記複数の仮想等色関数に対応して算出された前記色差の平均値が最も小さい選択候補等色関数を最適な等色関数として選択する。
(2)前記複数の仮想等色関数ごとに最も小さい色差を選出し、選出された色差の個数が最も多い選択候補等色関数を最適な等色関数として選択する。
(3)前記色差についての閾値を設定し、前記複数の仮想等色関数ごとの前記色差について、前記閾値を下回る個数が最も多い選択候補等色関数を最適な等色関数として選択する。
【請求項2】
請求項1に記載の画像表示システムであって、
表示制御部をさらに備え、前記表示制御部は、前記等色関数選択部が選択した等色関数を用いて前記表示装置の表示を制御する、画像表示システム。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の画像表示システムであって、
前記分光データが記憶されている記憶部をさらに備える、画像表示システム。
【請求項4】
請求項1~請求項3のいずれか1項に記載の画像表示システムであって、
前記仮想等色関数が記憶されている記憶部をさらに備える、画像表示システム。
【請求項5】
コンピューターに、表示装置に画像を表示させる画像表示システムとして機能させる方法であって、
前記画像表示システムは、複数の表示装置を備え、
前記方法は、
分光データ取得ステップと、
等色関数候補取得ステップと、
仮想等色関数取得ステップと、
色差算出ステップと、
等色関数選択ステップを備え、
前記分光データ取得ステップでは、前記複数の表示装置の分光データを取得させ、
前記等色関数候補取得ステップでは、前記等色関数選択ステップにおいて選択される等色関数の候補である選択候補等色関数を複数取得させ、
前記仮想等色関数取得ステップでは、複数の仮想の観測者に対応した複数の仮想等色関数を取得し、
前記色差算出ステップでは、複数の前記選択候補等色関数それぞれについて、前記分光データごとに目標白色点を実現した場合の分光分布データを算出し、当該分光分布データについて前記複数の仮想等色関数における三刺激値を算出して、前記複数の仮想等色関数に対応して前記分光データごとに前記三刺激値の差分を算出することで前記複数の表示装置間での色差を算出させ、
前記等色関数選択ステップでは、前記複数の選択候補等色関数の中から、下記(1)~(3)のいずれかの手法により最適な等色関数を選択させる、方法。
(1)前記複数の仮想等色関数に対応して算出された前記色差の平均値が最も小さい選択候補等色関数を最適な等色関数として選択する。
(2)前記複数の仮想等色関数ごとに最も小さい色差を選出し、選出された色差の個数が最も多い選択候補等色関数を最適な等色関数として選択する。
(3)前記色差についての閾値を設定し、前記複数の仮想等色関数ごとの前記色差について、前記閾値を下回る個数が最も多い選択候補等色関数を最適な等色関数として選択する。
【請求項6】
コンピューターを、表示装置に画像を表示させる画像表示システムとして機能させるプログラムであって、
前記画像表示システムは、複数の表示装置を備え、
前記プログラムは、
分光データ取得ステップと、
等色関数候補取得ステップと、
仮想等色関数取得ステップと、
色差算出ステップと、
等色関数選択ステップを、前記コンピューターに実行させ、
前記分光データ取得ステップでは、前記複数の表示装置の分光データを取得させ、
前記等色関数候補取得ステップでは、前記等色関数選択ステップにおいて選択される等色関数の候補である選択候補等色関数を複数取得させ、
前記仮想等色関数取得ステップでは、複数の仮想の観測者に対応した複数の仮想等色関数を取得し、
前記色差算出ステップでは、複数の前記選択候補等色関数それぞれについて、前記分光データごとに目標白色点を実現した場合の分光分布データを算出し、当該分光分布データについて前記複数の仮想等色関数における三刺激値を算出して、前記複数の仮想等色関数に対応して前記分光データごとに前記三刺激値の差分を算出することで前記複数の表示装置間での色差を算出させ、
前記等色関数選択ステップでは、前記複数の選択候補等色関数の中から、下記(1)~(3)のいずれかの手法により最適な等色関数を選択させる、プログラム。
(1)前記複数の仮想等色関数に対応して算出された前記色差の平均値が最も小さい選択候補等色関数を最適な等色関数として選択させる。
(2)前記複数の仮想等色関数ごとに最も小さい色差を選出させ、選出された色差の個数が最も多い選択候補等色関数を最適な等色関数として選択させる。
(3)前記色差についての閾値を設定させ、前記複数の仮想等色関数ごとの前記色差について、前記閾値を下回る個数が最も多い選択候補等色関数を最適な等色関数として選択させる。
【請求項7】
画像を表示する表示装置であって、
分光データ取得部と、
等色関数候補取得部と、
仮想等色関数取得部と、
色差算出部と、
等色関数選択部を備え、
前記分光データ取得部は、前記表示装置及び他の表示装置の分光データを取得し、
前記等色関数候補取得部は、前記等色関数選択部によって選択される等色関数の候補である選択候補等色関数を複数取得し、
前記仮想等色関数取得部は、複数の仮想の観測者に対応した複数の仮想等色関数を取得し、
前記色差算出部は、複数の前記選択候補等色関数それぞれについて、前記分光データごとに目標白色点を実現した場合の分光分布データを算出し、当該分光分布データについて前記複数の仮想等色関数における三刺激値を算出して、前記複数の仮想等色関数に対応して前記分光データごとに前記三刺激値の差分を算出することで前記表示装置と前記他の表示装置との間での色差を算出し、
前記等色関数選択部は、前記複数の選択候補等色関数の中から、下記(1)~(3)のいずれかの手法により最適な等色関数を選択する、表示装置。
(1)前記複数の仮想等色関数に対応して算出された前記色差の平均値が最も小さい選択候補等色関数を最適な等色関数として選択する。
(2)前記複数の仮想等色関数ごとに最も小さい色差を選出し、選出された色差の個数が最も多い選択候補等色関数を最適な等色関数として選択する。
(3)前記色差についての閾値を設定し、前記複数の仮想等色関数ごとの前記色差について、前記閾値を下回る個数が最も多い選択候補等色関数を最適な等色関数として選択する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、画像表示システム、画像表示方法、画像表示プログラム、および画像表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、表示装置ごとの分光特性の違いを考慮した技術が開発されている。例えば、特許文献1には、等色関数のばらつきによる色の見えの変動を抑制するデータ処理装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2014-42119号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、ユーザーが同時に複数の表示装置を使用する場合が想定される。このような場合、測定器を用いて異なる2つの表示装置を同じ色度に調整した場合でも、観測者によっては見た目の色が一致しないことがある。これは、表示装置ごとに分光特性が異なっており、測色に用いた等色関数と観測者の等色関数とが異なる場合に発生する。
【0005】
本発明は、このような事情を鑑みてなされたものであり、本発明の目的は、複数の表示装置を使用する場合において、多くの人が表示装置間の色の違いを感じないような画像表示システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明によれば、表示装置に画像を表示する画像表示システムであって、複数の表示装置と、分光データ取得部と、等色関数候補取得部と、色差算出部と、等色関数選択部を備え、前記分光データ取得部は、前記複数の表示装置の分光データを取得し、前記等色関数候補取得部は、前記等色関数選択部によって選択される等色関数の候補である選択候補等色関数を複数取得し、前記色差算出部は、前記分光データを用いて、複数の前記選択候補等色関数それぞれについて、前記複数の表示装置間での色差を算出し、前記等色関数選択部は、前記色差の算出結果に基づいて、当該複数の選択候補等色関数の中から多数の観測者にとって見た目の色の違いが小さくなる等色関数を選択する、画像表示システムが提供される。
【0007】
このような構成とすることにより、多くの人にとって表示装置間の色の違いが感じられない最適な等色関数を選出することが可能となる。
【0008】
以下、本発明の種々の実施形態を例示する。以下に示す実施形態は、互いに組み合わせ可能である。また、各特徴が独立に発明を構成する。
【0009】
好ましくは、表示制御部をさらに備え、前記表示制御部は、前記等色関数選択部が選択した等色関数を用いて前記表示装置の表示を制御する。
好ましくは、仮想等色関数取得部をさらに備え、前記仮想等色関数取得部は、仮想の観測者に対応した複数の仮想等色関数を取得し、前記色差算出部は、前記分光データと前記仮想等色関数に基づく三刺激値を算出し、前記複数の表示装置間での色差を算出する。
好ましくは、前記色差算出部は、前記複数の表示装置間での色差を、取得した前記仮想等色関数の個数分算出し、前記等色関数選択部は、前記仮想等色関数の個数分算出された色差に基づいて、前記複数の選択候補等色関数の中から画像の表示に用いられる等色関数を選択する。
好ましくは、前記分光データが記憶されている記憶部をさらに備える。
好ましくは、前記仮想等色関数が記憶されている記憶部をさらに備える。
好ましくは、目標色受付部と、目標色変換部をさらに備え、前記目標色受付部は、前記複数の表示装置の内、基準となる表示装置での目標色の色値を受け付け、前記目標色変換部は、前記等色関数選択部が選択した等色関数で調整された色値となるように、前記目標色の色値を変換する。
本発明の他の態様によれば、コンピューターに、表示装置に画像を表示させる画像表示システムとして機能させる方法であって、前記画像表示システムは、複数の表示装置を備え、前記方法は、分光データ取得ステップと、等色関数候補取得ステップと、色差算出ステップと、等色関数選択ステップを備え、前記分光データ取得ステップでは、前記複数の表示装置の分光データを取得させ、前記等色関数候補取得ステップでは、前記等色関数選択ステップにおいて選択される等色関数の候補である選択候補等色関数を複数取得させ、前記色差算出ステップでは、前記分光データを用いて、複数の前記選択候補等色関数それぞれについて、前記複数の表示装置間での色差を算出させ、前記等色関数選択ステップでは、前記色差の算出結果に基づいて、当該複数の選択候補等色関数の中から多数の観測者にとって見た目の色の違いが小さくなる等色関数を選択させる、方法が提供される。
本発明の他の態様によれば、コンピューターを、表示装置に画像を表示させる画像表示システムとして機能させるプログラムであって、前記画像表示システムは、複数の表示装置を備え、前記プログラムは、分光データ取得ステップと、等色関数候補取得ステップと、色差算出ステップと、等色関数選択ステップを、前記コンピューターに実行させ、前記分光データ取得ステップでは、前記複数の表示装置の分光データを取得させ、前記等色関数候補取得ステップでは、前記等色関数選択ステップにおいて選択される等色関数の候補である選択候補等色関数を複数取得させ、前記色差算出ステップでは、前記分光データを用いて、複数の前記選択候補等色関数それぞれについて、前記複数の表示装置間での色差を算出させ、前記等色関数選択ステップでは、前記色差の算出結果に基づいて、当該複数の選択候補等色関数の中から等色関数を選択させる、プログラムが提供される。
本発明の他の態様によれば、画像を表示する表示装置であって、分光データ取得部と、等色関数候補取得部と、色差算出部と、等色関数選択部を備え、前記分光データ取得部は、前記複数の表示装置の分光データを取得し、前記等色関数候補取得部は、前記等色関数選択部によって選択される等色関数の候補である選択候補等色関数を複数取得し、前記色差算出部は、前記分光データを用いて、複数の前記選択候補等色関数それぞれについて、前記複数の表示装置間での色差を算出し、前記等色関数選択部は、前記色差の算出結果に基づいて、当該複数の選択候補等色関数の中から多数の観測者にとって見た目の色の違いが小さくなる等色関数を選択する、表示装置が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】表示装置間の分光特性と等色関数について説明する図である。
図2】第1実施形態に係る画像表示システム1のハードウェア構成を示す図である。
図3】第1実施形態に係る画像表示システム1の機能構成を示すブロック図である。
図4】画像処理装置2における処理の流れを説明する図である。
図5】色差算出部23が算出する三刺激値と色差を説明する図である。
図6】第1実施形態における等色関数の設定画面G1を表示する図である。
図7】第2実施形態に係る画像表示システム1の機能構成を示すブロック図である。
図8】第2実施形態における等色関数の設定画面G2を表示する図である。
図9】第2実施形態の変形例に係る画像表示システム1の機能構成を示すブロック図である。
図10】第2実施形態の変形例における等色関数の設定画面G3を表示する図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
<1.分光特性と等色関数>
図1を参照して、分光特性と等色関数について説明する。図1は、異なるモニターにおける分光特性の違いを説明する図である。
【0012】
図1Aに示すモニターA1の分光特性と、図1Bに示すモニターA2における分光特性を比較すると、特にR(赤)の分光分布に明確な違いが認められる。このように、モニターごとに各RGBの分光分布が異なる。
【0013】
異なるモニター間で測定器を用いて白色点を調整する場合、各RGBの光の強弱を調整するため、各RGBの分光分布の形状が維持されたまま、各RGBの強度が調整されることとなる。したがって、異なるモニターの白色点を同じXYZ値になるように調整しても、モニターごとの分光特性の違いは解消されない。
【0014】
ここで、観測者の等色関数が問題となる。等色関数とは、人のL錐体(赤錐体)、M錐体(緑錐体)、S錐体(青錐体)が、それぞれの波長の光にどの程度反応するかを表したものであり、人によって異なる。観測者の視覚が備える等色関数が測定器の想定する等色関数と一致していない場合、異なるモニターの白色点をその測定器を使って同じXYZ値になるように調整しても、当該観測者には異なる色として観測されてしまう。そこで、可能な限り多くの人が色の違いを感じないような最適な等色関数を選択することが必要となる。
【0015】
<2.第1実施形態>
(2.1.画像表示システム1のハードウェア構成)
図2を参照し、画像表示システム1のハードウェア構成を説明する。図2に示すように、画像表示システム1は、画像処理装置2と、第1モニター3と、第2モニター4を備える。画像表示システム1は、例えば病院内の診察室に設置される。または、写真スタジオや動画編集スタジオに設置されてもよい。
【0016】
画像処理装置2と、第1モニター3および第2モニター4とは、映像信号ケーブル11と制御信号ケーブル12によって互いに通信可能に構成されている。画像処理装置2からの画像データは、映像信号ケーブル11を通じて第1モニター3および第2モニター4に送信される。
【0017】
画像処理装置2から送信された画像データに基づく画像は、第1モニター3の表示画面3aおよび第2モニター4の表示画面4aに表示される。画像処理装置2と、第1モニター3および第2モニター4との間における制御信号やデータの授受は、制御信号ケーブル12を通じて行われる。
【0018】
(1.2.画像表示システム1の機能構成)
図3を参照し、画像表示システム1の機能構成を説明する。上述したように、画像表示システム1は、画像処理装置2と、第1モニター3と、第2モニター4を備える。画像処理装置2は、制御部20と、記憶部28を含む。制御部20は、分光データ取得部21と、等色関数候補取得部22と、色差算出部23と、仮想等色関数取得部24と、等色関数選択部25と、表示制御部26を含む。
【0019】
分光データ取得部21は、第1モニター3および第2モニター4から出力される出力光の分光データを取得する。等色関数候補取得部22は、等色関数選択部25によって選択される等色関数の候補である選択候補等色関数を複数取得する。
【0020】
色差算出部23は、第1モニター3および第2モニター4の分光データを用いて、複数の選択候補等色関数それぞれについて、モニター間での色差を算出する。等色関数選択部25は、色差の算出結果に基づいて、複数の選択候補等色関数の中から表示制御部26が用いる最適な等色関数を選択する。仮想等色関数取得部24は、仮想の観測者に対応した仮想等色関数を取得する。
【0021】
表示制御部26は、第1モニター3および第2モニター4に表示する画像データの出力を制御するとともに、等色関数選択部25が選択した等色関数を用いてモニターの表示を制御する。これら制御部20の処理の詳細は後述する。記憶部28は、複数の選択候補等色関数および仮想等色関数のデータを記憶する。
【0022】
第1モニター3および第2モニター4は、レントゲン画像などの読影画像データ、またはカルテなどのテキスト画像データ、写真やイラスト等の画像データを表示するモニターであり、たとえば、液晶ディスプレイ、有機ELディスプレイ、タッチパネルディスプレイ、電子ペーパーその他のディスプレイで構成される。
【0023】
上述した各構成要素は、ソフトウェアによって実現してもよく、ハードウェアによって実現してもよい。ソフトウェアによって実現する場合、CPUがプログラムを実行することによって各種機能を実現することができる。プログラムは、画像処理装置2が内蔵する記憶部(メモリ、HDDまたはSSDなど)に格納してもよく、コンピューターが読み取り可能な非一時的な記録媒体に格納してもよい。
【0024】
また、外部の記憶部に格納されたプログラムを読み出し、いわゆるクラウドコンピューティングにより実現してもよい。ハードウェアによって実現する場合、ASIC、FPGA、またはDRPなどの種々の回路によって実現することができる。
【0025】
(1.3.制御部20の処理)
図4を参照し、制御部20の処理について説明する。なお、以下の説明で示す制御部20の処理は一例であって、以下に述べる演算内容に限定されるものではない。
【0026】
ステップS110において、制御部20の分光データ取得部21は、第1モニター3からの出力光の分光データL1および第2モニター4からの出力光の分光データL2を取得する。本実施形態では、分光データL1およびL2は、予め分光測定器によって計測されており、第1モニター3および第2モニター4がそれぞれ備える記憶部に記憶されている。
【0027】
ステップS120において、等色関数候補取得部22は、等色関数選択部25によって選択される等色関数の候補である選択候補等色関数を、記憶部28から取得する。記憶部28には、規格化されている等色関数など、あらかじめ選出された複数の等色関数が選択候補として記録されている。一例として、以下の4つの等色関数C1~C4が選択候補として記憶されているものとして、以下の説明を行う。
C1:CIE1931CMF
C2:CIE1964CMF
C3:CIE2006_10deg_50age_CMF
C4:CIE2015CMF
【0028】
仮想等色関数取得部24は、仮想の多数の観測者に対応した等色関数(本開示において、仮想等色関数ともいう)を取得する。本実施形態では、一例として、ランダムな1000人分の仮想等色関数が作成されて、記憶部28に記憶されている。
【0029】
ステップS130において、色差算出部23は、分光データL1およびL2を用いて、複数の選択候補等色関数それぞれについて、モニター間での色差を算出する。ここで、色差とは、色の違いを三刺激値から算出して数値化したものである。また、三刺激値とは、ある波長における等色関数と光の強度との積を、可視光の波長で積分した値である。分光データLn(n=1、2)と等色関数Cm(m=1~4)について、R(赤)の三刺激値Xn、Yn、Znは以下の式(1)~(3)として求められる。
【0030】
【数1】
【0031】
【数2】
【0032】
【数3】
【0033】
ここで、kは最大視感効果度という定数であり、Ln(λ)は、分光データLnについての波長λにおけるR成分の分光分布であり、Cmp(p=X,Y,Z)は、等色関数CmのXYZ等色系におけるp成分である。同様に、G(緑色)の三刺激値Xnm、Ynm、ZnmおよびB(青色)の三刺激値Xnm、Ynm、Znmも求めることができる。
【0034】
次に、色差算出部23は、分光データLnについて、4つの選択候補の等色関数C1~C4を使って目標とする白色点(以下、目標白色点ともいう)を実現した場合の分光分布を算出する。目標白色点の三刺激値Xnm、Ynm、Znmは、以下の式(4)により表すことができる。
【0035】
【数4】
【0036】
ここで、Gnm、Gnm、Gnmは、RGBの強度(ゲインともいう)を表す。式(4)を変形して得られる以下の式(5)を解くことにより、分光データLnと等色関数CmについてのGnm、Gnm、Gnmを求めることができる
【0037】
【数5】
【0038】
ここで得られたGnm(w=R,G,B)と分光分布Lnを掛け合わせることにより、以下の式(6)のように、分光データLnと等色関数Cmにおける目標白色点調整後の分光分布データLnm'wを算出することができる。
【0039】
【数6】
【0040】
これにより、分光データLn(n=1、2)および選択候補の等色関数Cm(m=1~4)ごとに分光分布データLnm'w(λ)が算出されることとなる。
【0041】
次に、色差算出部23は、算出された目標白色点調整後の分光分布データLnm'w(λ)について、仮想等色関数取得部24が取得した1000人分の仮想等色関数Fi(i=1~1000)における三刺激値を、以下の式(7)~(9)で求める。
【0042】
【数7】
【0043】
【数8】
【0044】
【数9】
【0045】
ここで、Fpi(p=X、Y、Z)は、仮想等色関数FiのXYZ等色系におけるp成分である。このようにして、図5に示すように、分光データLn(n=1、2)および選択候補の等色関数Cm(m=1~4)ごとに1000人分の仮想等色関数を想定した三刺激値のセットSnm-iが算出される。色差算出部23は、選択候補の等色関数Cm(m=1~4)ごとに、分光データL1と分光データL2との間の色差Dmiとして、S1m-iとS2m-iの差分をi=1~1000まで算出する。
【0046】
ステップS140において、等色関数選択部25は、色差Dmiの算出結果に基づいて、当該複数の選択候補等色関数の中から表示制御部26が用いる等色関数を選択する。等色関数選択部25は、選択候補の等色関数Cm(m=1~4)の中で、色差Dmiを評価して可能な限り多くの人が色の違いを感じないような最適な等色関数を選択する。
【0047】
色差Dmiの評価方法としては様々な手法を採用することができる。例えば、表示制御部26は、算出された1000個分の色差Dmiの平均値を等色関数Cmごとに算出し、平均値がもっとも小さい等色関数Cmを最適な等色関数として選択してもよい。
【0048】
または、表示制御部26は、i(=1~1000)ごとに最も小さい色差Dmiを選出し、選出されたDmiの個数が最も多いCmを最適な等色関数として選択してもよい。
【0049】
または、表示制御部26は、色差についての閾値を設定し、Dmiが当該閾値を下回る個数が最も多いCmを最適な等色関数として選択してもよい。
【0050】
表示制御部26は、等色関数選択部25が選択した等色関数をモニターに表示することによってユーザーに提示する。表示制御部26は、ユーザーから提示された等色関数を適用する指示を受け付けると、当該等色関数を用いて第1モニターおよび第2モニターの表示を調整する調整処理を行う仕様としてもよい。
【0051】
なお、調整処理においてユーザーが使用する測定器が分光型ではなくフィルタ型の場合には、XYZ空間内での変換行列を作成して、選択された等色関数に相当する測定値に変換する処理を行ってもよい。このように、ユーザー側にある測定器が分光型でなくても画像表示システム1を利用することができる。
【0052】
(1.4.等色関数の設定画面)
図6は、本実施形態において等色関数を選択する設定画面G1の一例である。本実施形態では、ユーザーは、設定画面G1の設定メニューR1を選択する。そして、ユーザーが等色関数選択リストボックスR2のプルダウンを展開し、自動選択メニューR2aを選択すると、上記S110~S140の処理が実行され、等色関数C1~C4の中から最適な等色関数が選択される。そして、表示制御部26により、最適な等色関数を用いて第1モニターおよび第2モニターの調整が行われる。
【0053】
このようにして、本実施形態では、第1モニター3および第2モニター4に記憶されている分光データに基づいて、自動的に最適な等色関数が求められるため、ユーザーがモニターの分光分布を測定したり、等色関数の調整を行ったりすることなく、可能な限り多くの人が色の違いを感じないような最適な等色関数を選択することができる。また、各モニターは工場調整時もしくは開発時に分光分布を測定すればよいので、高精度の測定器で測定することが可能となる。
【0054】
<3.第2実施形態>
図7および図8を参照して、本願発明の第2実施形態について、上記実施形態との差異を中心に説明する。第2実施形態では、他の画像表示システムのモニターについて、分光データをユーザーが入力する点が第1実施形態と異なる。
【0055】
(3.1.機能説明)
図7に示すように、第2実施形態における画像処理装置2は、モニターBを備える他の画像表示システムAと通信可能に接続されている。分光データ取得部21は、モニターBと同時に使用されるさらに他のモニターについて、ユーザーが入力する分光データを取得する。ここでユーザーは、画像処理装置2にさらに他のモニターを接続して分光データを入力してもよいし、モニターのモデル名を選択することで代表値としての分光データを入力してもよい。または、モニターの分光特性ファイル(例えばcsv形式)を読み込ませることで、分光データを入力してもよい。
【0056】
図8は、第2実施形態において等色関数を選択する設定画面G2の一例である。ユーザーは、モニター追加画面R3を入力して追加ボタンR4を操作することにより、同時に使用する複数のモニターのグループを設定する。
【0057】
ユーザーが設定した複数のモニターは、グループ表示エリアR5に表示される。ユーザーが等色関数選択ボタンR6を操作すると、グループ表示エリアR5に表示された複数のモニターの分光特性に応じて最適な等色関数が選択され、等色関数提示エリアR7に提示される。
【0058】
このような態様とすることにより、既存の画像処理装置について上記機能を実装するためのプログラムをインストールすることにより、本願の技術的思想を適用することが可能となり、第1実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0059】
(3.2.変形例)
図9および図10を参照して、第2実施形態の変形例について説明する。変形例では、最適な等色関数で調整された色値となるように、モニターの目標値を変換する点が上記実施形態と異なる。
【0060】
図9に示すように、変形例では、等色関数選択部25は、目標色受付部31と目標色変換部32を備える。目標色受付部31および目標色変換部32の処理の詳細は後述する。
【0061】
図10は、変形例において等色関数を選択する設定画面G3の一例である。変形例では、ユーザーは複数のモニターによるグループをグループ表示エリアR5に追加した後、基準とするモニターを基準モニターリストR8で選択する。
【0062】
次に、ユーザーは、基準モニターの目標色の色値を目標色設定エリアR9に入力する。これにより、目標色受付部31は、基準モニターを所定の等色関数(例えばCIE1931)で調整した場合の目標色の色値を受け付ける。
【0063】
ユーザーが目標算出ボタンR10を操作すると、目標色変換部32は、所定の等色関数を用いて基準モニターを目標の色値に調整した場合の分光分布を計算し、当該計算結果を等色関数選択部25が選択した等色関数での色度値に変換する。次に、目標色変換部32は、グループ表示エリアR5内のモニターを、等色関数選択部25が選択した等色関数で、変換後の測定値に調整した場合の分光分布(以下、調整後の分光分布という)を計算する。さらに、目標色変換部32は、調整後の分光分布を所定の等色関数で測定した値に変換し、変換結果が目標値として目標値表示エリアR11に表示される。
【0064】
このような態様とすることにより、最適な等色関数で調整したのと同様の表示を当該モニターが備える等色関数で実現することが可能となる。
【0065】
<4.他の実施の形態>
本発明の適用は、上記実施形態に限定されない。たとえば、上記実施形態では、分光データ取得部21は、第1モニター3および第2モニター4に記憶されている分光データL1およびL2を取得しているが、この形態に限定されることはない。例えば、分光データ取得部21は、記憶部28に記憶された分光データL1およびL2、または、外付けハードディスクあるいはUSBメモリなどに記憶された分光データL1およびL2を取得してもよい。または、分光データ取得部21は、その場で分光測色系を用いて測定した分光データを直接取得してもよい。
【0066】
また、上記第1実施形態では、画像表示システム1は、第1モニター3と第2モニター4を備えているが、この態様に限定されることはなく、3つ以上のモニターを備えていてもよい。
【0067】
また、上記第2実施形態では、画像表示システム1の画像処理装置2と、他の画像表示システムAのモニターBとが接続されているが、この形態に限定されることはない。すなわち、ユーザーが分光データ取得部21に同時に使用される複数のモニターの分光データを入力することにより、それらのモニターの分光特性に応じた最適な等色関数が選択される仕様としてもよい。
【0068】
さらに、本発明は、コンピューターを上述の画像表示システムとして機能させるプログラムとして実現することもできる。
【0069】
さらに、本発明は、上述のプログラムを格納する、コンピューター読み取り可能な非一時的な記録媒体として実現することもできる。
【0070】
本発明に係る種々の実施形態を説明したが、これらは、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。当該新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。当該実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0071】
1:画像表示システム、2:画像処理装置、3:第1モニター、3a:表示画面、4:第2モニター、4a:表示画面、11:映像信号ケーブル、12:制御信号ケーブル、20:制御部、21:分光データ取得部、22:等色関数候補取得部、23:色差算出部、24:仮想等色関数取得部、25:等色関数選択部、26:表示制御部、28:記憶部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10