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特許7484028ASMタンパク質に特異的に結合する抗体を有効成分として含む脳疾患治療用医薬組成物
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-07
(45)【発行日】2024-05-15
(54)【発明の名称】ASMタンパク質に特異的に結合する抗体を有効成分として含む脳疾患治療用医薬組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 39/395 20060101AFI20240508BHJP
   A61P 25/28 20060101ALI20240508BHJP
   C07K 16/40 20060101ALI20240508BHJP
   A23L 35/00 20160101ALI20240508BHJP
【FI】
A61K39/395 P
A61P25/28
C07K16/40 ZNA
A23L35/00
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2023572865
(86)(22)【出願日】2022-05-26
(86)【国際出願番号】 KR2022007485
(87)【国際公開番号】W WO2022250470
(87)【国際公開日】2022-12-01
【審査請求日】2023-12-19
(31)【優先権主張番号】10-2021-0068628
(32)【優先日】2021-05-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(31)【優先権主張番号】10-2022-0057049
(32)【優先日】2022-05-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】518148227
【氏名又は名称】アイエスユー アブクシス カンパニー,リミティッド
(73)【特許権者】
【識別番号】521026585
【氏名又は名称】キョンブク ナショナル ユニヴァーシティ インダストリー-アカデミック コオペレーション ファウンデーション
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】弁理士法人ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ホン、スン ボム
(72)【発明者】
【氏名】ペ、ジェ ソン
(72)【発明者】
【氏名】チン、ヒ ギョン
【審査官】藤山 純
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2020/0255839(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2016/0101070(US,A1)
【文献】PARK, M. H. et al.,Potential therapeutic target for aging and age-related neurodegenerative disease: the role of acid sphingomyelinase,Exp Mol Med,52,2020年03月13日,pp.380-389
【文献】ROUSSON, R et al.,Preparation of an anti-acid sphingomyelinase monoclonal antibody for the the quantitative determination and polypeptide analysis of lysosomal sphingomyelinase in fibroblasts from normal and Niemann-Pick type A patients,J Immunol Methods,160(2),1993年04月02日,pp.199-206
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 39/395
A61P 25/28
C07K 16/40
A23L 35/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
UniProt/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ASM(acid sphingomyelinase)タンパク質に特異的に結合する抗体又はその抗原結合断片を有効成分として含み、
前記抗体または前記抗原結合断片が、
配列番号31、32、及び33でそれぞれ示されるアミノ酸配列からなる重鎖CDR1、CDR2、及びCDR3を含む重鎖可変領域、並びに、
それぞれ配列番号49、50、及び51でそれぞれ示されるアミノ酸配列からなる軽鎖CDR1、CDR2、及びCDR3を含む軽鎖可変領域、
を含む、アルツハイマー病の予防又は治療用の医薬組成物。
【請求項2】
前記ASMタンパク質は、哺乳動物に由来するものである、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
前記ASMタンパク質は、配列番号66又は67で示されるアミノ酸配列で構成される
ポリペプチドである、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項4】
ASMタンパク質に特異的に結合する抗体又はその抗原結合断片を有効成分として含
前記抗体または前記抗原結合断片が、
それぞれ配列番号31、32、及び33でそれぞれ示されるアミノ酸配列で構成される重鎖CDR1、CDR2、及びCDR3を含む重鎖可変領域、並びに、
それぞれ配列番号49、50、及び51でそれぞれ示されるアミノ酸配列で構成される軽鎖CDR1、CDR2、及びCDR3を含む軽鎖可変領域、
を含む、アルツハイマー病の予防又は改善用の保健機能食品。
【請求項5】
脳疾患を治療するための医薬組成物の製造に使用するためのASMタンパク質に特異的に結合する抗体またはその抗原結合断片であって、
前記抗体またはその抗原結合断片が、
それぞれ配列番号31、32、及び33でそれぞれ示されるアミノ酸配列で構成される重鎖CDR1、CDR2、及びCDR3を含む重鎖可変領域、並びに、
それぞれ配列番号49、50、及び51でそれぞれ示されるアミノ酸配列で構成される軽鎖CDR1、CDR2、及びCDR3を含む軽鎖可変領域、を含み、
前記脳疾患が、アルツハイマー病である、
抗体又はその抗原結合断片。
【請求項6】
脳疾患を改善するための保健機能食品の製造に使用するためのASMタンパク質に特異的に結合する抗体またはその抗原結合断片であって、
抗体または抗原結合断片が、
それぞれ配列番号31、32、及び33でそれぞれ示されるアミノ酸配列で構成される重鎖CDR1、CDR2、及びCDR3を含む重鎖可変領域、並びに、
それぞれ配列番号49、50、及び51でそれぞれ示されるアミノ酸配列で構成される軽鎖CDR1、CDR2、及びCDR3を含む軽鎖可変領域、を含み、
前記脳疾患が、アルツハイマー病である、
抗体又はその抗原結合断片。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ASM(acid sphingomyelinase)タンパク質に特異的に結合する抗体の用途に関する。
【背景技術】
【0002】
スフィンゴ脂質代謝は、正常な細胞のシグナル伝達を調節し、スフィンゴ脂質代謝の異常な変化は、アルツハイマー病を含む種々の神経変性疾患に影響を及ぼす。スフィンゴ脂質代謝を調節する酵素であるASM(acid sphingomyelinase)タンパク質は、ほぼ全種類の細胞で発現されるタンパク質であり、スフィンゴ脂質代謝及び細胞膜のターンオーバー(turnover)に重要な役割をする。
【0003】
アルツハイマー病のような神経変性疾患者の脳では、健常者に比べてASMタンパク質の活性が著しく増加されている。これと関連して、韓国特許登録第10-1521117号には、過剰発現したASMタンパク質の活性を阻害したり、ASMタンパク質への発現を抑制することで、βアミロイドの蓄積が抑制され、学習能力や記憶力が改善され、神経変性疾患を治療できることが開示されている。また、近年、うつ病のような神経疾患においてもASMタンパク質の活性が増加されており、上記ASMタンパク質の発現又は活性を抑制することでうつ病を改善する効果があることが知られている。
【0004】
しかし、ASMタンパク質の発現又は活性を直接抑制する物質は開発されておらず、但し、ASMタンパク質の発現を間接的に抑制する数種類の抑制剤が同定されている。例えば、うつ病の治療に使用されている三環系抗うつ剤(tricyclic antidepressant)があり、これには、アミトリプチリン(amitriptyline)、デシプラミン(desipramine)、ミプラミン(mipramine)などが含まれている。このような三環系抗うつ剤は、ASMタンパク質阻害剤として開発されたものではないが、種々の研究の結果から、ASMタンパク質阻害の効果を示すことが証明されている。三環系抗うつ剤の主な薬理機転は、神経細胞における神経伝達物質の再吸収を抑制し、これらの活性を増加させることであり、ASM抑制剤としての作用は付随的な作用であると確認されている。しかし、三環系抗うつ剤は、神経系及び神経細胞に作用してカスミ目、光感受性増加、嘔吐などの副作用を誘発することがある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、ASMタンパク質に特異的に結合する抗体の用途を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記のような目的を達成するため、本発明は、ASM(acid sphingomyelinase)タンパク質に特異的に結合する抗体又はその抗原結合断片を有効成分として含む、脳疾患の予防又は治療用の医薬組成物を提供する。
【0007】
また、本発明は、ASMタンパク質に特異的に結合する抗体又はその抗原結合断片を有効成分として含む、脳疾患の予防又は改善用の保健機能食品を提供する。
【0008】
また、本発明は、ASMタンパク質に特異的に結合する抗体又はその抗原結合断片を個体に投与するステップを含む、脳疾患の予防、改善又は治療方法を提供する。
【0009】
さらに、本発明は、脳疾患の予防、改善又は治療のための薬剤の製造に使用するためのASMタンパク質に特異的に結合する抗体又はその抗原結合断片の用途を提供する。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る抗体又はその抗原結合断片は、ASMタンパク質に特異的に高結合力で結合し、細胞膜に存在するASMタンパク質の活性を有意に抑制することで、アルツハイマー病の動物モデルにおいて、毒性を示さず、かつ認知記憶力改善効果、ASMタンパク質活性抑制効果、アミロイドβ及びタウタンパク質蓄積抑制効果、及び神経炎症抑制効果を奏し、脳疾患の治療に有用に使用できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の一実施例で製造された抗体の重鎖及び軽鎖可変領域のアミノ酸配列を示す模式図である。
図2】本発明の一実施例で製造された抗体のASMタンパク質との結合をELISA分析方法で確認した結果を示すグラフである。
図3】本発明の一実施例で製造された抗体が結合する抗原結合部位をASMタンパク質構造のモデルに表示した模式図である。
図4】本発明の一実施例で製造された抗体によるASMタンパク質サポシン(saposin)ドメインにおける重水素置換のヒートマップの結果を示す図である。
図5】本発明の一実施例で製造された抗体の、アルツハイマー病患者の細胞膜に位置するASMタンパク質の活性抑制を確認した結果を示すグラフである。
図6】本発明の一実施例で製造された抗体がアルツハイマー病患者の細胞膜に位置するASMタンパク質の活性を濃度依存的に抑制することを確認した結果を示すグラフである。
図7】本発明の一実施例で製造された抗体の、アルツハイマー病患者の細胞膜でのスフィンゴミエリン代謝の変化を確認した結果を示すグラフである。
図8】本発明の一実施例で製造された抗体をアルツハイマー病の動物モデルに投与することを示す模式図である。
図9】本発明の一実施例で製造された抗体を投与したアルツハイマー病の動物モデルの水迷路実験を行った結果を示すグラフである。
図10】本発明の一実施例で製造された抗体を投与したアルツハイマー病の動物モデルの水泳経路を確認した結果を示す図である。
図11】本発明の一実施例で製造された抗体を投与したアルツハイマー病の動物モデルが標的(A0)又は非標的(A1、A2、A3)の四分面上に留まる時間を確認した結果を示すグラフである。
図12】本発明の一実施例で製造された抗体を投与したアルツハイマー病の動物モデルの水泳距離(A)、水泳速度(B)及びプラットフォームがあった位置を通る回数(C)を確認した結果を示すグラフである。
図13】本発明の一実施例で製造された抗体を投与したアルツハイマー病の動物モデルの文脈(A)又は雰囲気(B)による恐怖条件付けテストを行った結果を示すグラフである。
図14】本発明の一実施例で製造された抗体を投与したアルツハイマー病の動物モデルの血液プラズマにおけるASMの活性抑制を確認した結果を示すグラフである。
図15】本発明の一実施例で製造された抗体を投与したアルツハイマー病の動物モデルの血液プラズマにおけるASMタンパク質のレベルを確認した結果を示すグラフである。
図16】本発明の一実施例で製造された抗体を投与したアルツハイマー病の動物モデルの脳皮質又は海馬において高密度(dense-core)アミロイドβプラークの発現を確認した結果を示す図である。
図17】本発明の一実施例で製造された抗体を投与したアルツハイマー病の動物モデルの脳皮質又は海馬において高密度及び拡散型(diffuse)アミロイドβプラークの発現を確認した結果を示す図である。
図18】本発明の一実施例で製造された抗体を投与したアルツハイマー病の動物モデルの脳皮質又は海馬においてアミロイドβ40又はアミロイドβ42の発現を確認した結果を示すグラフである。
図19】本発明の一実施例で製造された抗体を投与したアルツハイマー病の動物モデルの脳皮質又は海馬においてタウタンパク質の発現を確認した結果を示す図である。
図20】本発明の一実施例で製造された抗体を投与したアルツハイマー病の動物モデルの脳皮質又は海馬においてlba-1タンパク質の発現を確認した結果を示す図である。
図21】本発明の一実施例で製造された抗体を投与したアルツハイマー病の動物モデルの脳皮質又は海馬においてGFAPタンパク質の発現を確認した結果を示す図である。
図22】本発明の一実施例で製造された抗体を投与したアルツハイマー病の動物モデルの生存率(A)及び体重変化(B)を確認した結果を示すグラフである。
図23】本発明の一実施例で製造された抗体を投与したアルツハイマー病の動物モデルの臓器の毒性を確認した結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明について詳述する。
【0013】
本発明は、ASM(acid sphingomyelinase)タンパク質に特異的に結合する抗体又はその抗原結合断片を有効成分として含む、脳疾患の予防又は治療用の医薬組成物を提供する。
【0014】
本明細書中の用語「ASM(acid sphingomyelinase)タンパク質」とは、スフィンゴ脂質代謝を調節するSMase(sphingomyelinase)ファミリー中の一つである酵素を意味する。 上記ASMタンパク質は、スフィンゴミエリン(sphingomyelin)をセラミド(ceramide)及びホスホリルコリン(phosphorylcholine)に分解する過程を触媒し、最適な酵素活性を示すpHによって、アルカリ性、中性又は酸性に区分することができる。
【0015】
上記ASMタンパク質は、当該技術分野で周知のあらゆる種類のASMタンパク質を含むことができる。具体的には、上記ASMタンパク質は、哺乳動物に由来するものであり、より具体的には、人間、猿、ラット又はマウスに由来するものであり得る。また、上記ASMタンパク質は、当該技術分野においてASMタンパク質として知られた全てのアミノ酸配列を含むことができる。一例として、上記ASMタンパク質は、配列番号66及び67でそれぞれ示されるアミノ酸配列で構成されるポリペプチド、又はこれを暗号化する核酸であり得る。
【0016】
上記ASMタンパク質は、これと同一又は相応する生物学的活性を維持する限り、配列番号66又は67で示されるアミノ酸配列から一つ又はそれ以上のアミノ酸が付加、欠失又は置換されたものであってもよい。なお、アミノ酸の置換は、全タンパク質の電荷、即ち、極性又は疎水性への影響がないか影響が少ない範囲内で行われる保存的置換であってもよい。また、上記ASMタンパク質は、配列番号66及び67でそれぞれ示されるアミノ酸配列と、80%以上、90%以上、95%以上、97%以上又は99%以上の相同性を有することができる。また、上記ASMタンパク質は、これと同一又は相応する生物学的活性を維持する限り、ASMタンパク質の一部のみが含まれてもよい。
【0017】
本明細書中の用語「抗体(antibody)」とは、抗原と結合して抗原の作用を阻害したり抗原を除去したりする免疫タンパク質を意味する。上記抗体は、当該技術分野におけるあらゆる種類の抗体を含むことができる。具体的には、上記抗体は、IgM、IgD、IgG、IgA、及びIgEを含むことができ、これらは、それぞれ、重鎖定常領域を暗号化する遺伝子である、μ、δ、γ、α、及びεからなる重鎖を含むことができる。抗体技術では、通常、主にIgGが使用されるが、これは、また、IgG1、IgG2、IgG3又はIgG4の同種(isotype)から構成され、これらのそれぞれの構造及び機能的特性は相違し得る。上記抗体は、非ヒト抗体に由来する最小の配列を含むヒト化抗体、ヒトに由来する配列で構成されたヒト抗体、又は異種由来の配列が混合されたキメラ抗体を全て含むことができる。
【0018】
上記IgGは、約50kDaの重鎖(heavy chain)タンパク質2個と、約25kDaの軽鎖(light chain)タンパク質2個とからなるY字状の非常に安定した構造(約159kDa)を形成することができる。抗体を構成する軽鎖及び重鎖は、抗体間でアミノ酸配列が異なる可変領域(variable region)、及びアミノ酸配列が同一である定常領域(constant region)に分けられる。このとき、重鎖定常領域は、CH1、ヒンジ(hinge、H)、CH2、及びCH3ドメインを含み、各ドメインは、二つのβシート(β-sheet)で構成され、分子内のジスルフィド結合(disulfide bond)で連結され得る。また、軽鎖定常領域は、CLドメインを含むことができる。なお、重鎖及び経鎖可変領域2つが合わさって抗原結合部位(antigen binding site)が形成され、上記抗原結合部位は、Y字型の2つの腕にそれぞれ1つずつ存在することができる。全長抗体において、抗原と結合できる領域をFab(antibody binding fragment)と、抗原と結合できない領域をFc(crystallizable fragment)と呼び、Fab及びFcは、ヒンジを介して連結され得る。本発明の一実施例において、上記IgGは、マウス由来のIgGであり、具体的には、配列番号74で示されるアミノ酸配列で構成されるマウスのIgG重鎖定常領域、及び配列番号76で示されるアミノ酸配列で構成されるマウスの軽鎖λ定常領域を含むことができる。また、上記マウス由来のIgGは、配列番号75で示される塩基配列で構成されるマウスのIgG重鎖定常領域、及び配列番号77で示される塩基配列で構成されるマウスの軽鎖λ定常領域を含むことができる。
【0019】
本発明に係る抗体は、全長抗体だけでなく、その抗原結合断片を含むことができる。具体的には、上記抗原結合断片は、抗原との結合刺激を細胞や補体などに伝達する機能をするFcを除いた部分を意味することができる。一例として、抗体の抗原結合断片は、Fab、scFv、F(ab)及びFvを含み、シングルドメイン抗体(single domain antibody)やミニボディー(minibody)などのような第3世代の抗体切片を含んでもよい。
【0020】
本発明の一側面において、上記抗体又は抗原結合断片は、ASMタンパク質のN末端から53~72番目のアミノ酸断片、101~123番目のアミノ酸断片、135~159番目のアミノ酸断片、135~155番目のアミノ酸断片、218~228番目のアミノ酸断片、及び259~269番目のアミノ酸断片からなる群から選択されるいずれか一つ以上のエピトープに結合することができる。このとき、上記ASMタンパク質は、上述のような特徴を有することができる。 本発明の一実施例において、上記ASMタンパク質のN末端から53~72番目のアミノ酸断片は、配列番号68(TAINLGLKKEPNVARVGSVA)で示されるアミノ酸配列で構成されるポリペプチドであり、101~123番目のアミノ酸断片は、配列番号69(VWRRSVLSPSEACGLLLGSTCGH)で示されるアミノ酸配列で構成されるポリペプチドであり、135~159番目のアミノ酸断片は、配列番号70(PTVPKPPPKPPSPPAPGAPVSRILF)で示されるアミノ酸配列で構成されるポリペプチドであり、135~155番目のアミノ酸断片は、配列番号71(PTVPKPPPKPPSPPAPGAPVS)で示されるポリペプチドであり、218~228番目のアミノ酸断片は、配列番号72(SGLGPAGPFDM)で示されるアミノ酸配列で構成されるポリペプチドであり、259~269番目のアミノ酸断片は、配列番号73(VRKFLGPVPVY)で示されるアミノ酸配列で構成されるポリペプチドであり得る。即ち、本発明の他の側面において、上記抗体又は抗原結合断片は、配列番号68~73でそれぞれ示されるポリペプチドからなる群から選択されるいずれか一つ以上のエピトープに結合することができる。
上記「エピトープ(epitope)」とは、抗体が識別し得る抗原の特定部位のことであり、抗体が特異的に結合できる抗原決定基を意味する。上記エピトープは、抗原決定部位(determinant、antigenic determinant)と同じ意味で通用されている。上記エピトープは、化学的に活性を持つ表面分子群、例えば、アミノ酸又は糖側鎖で構成され、一般的に、特定の3次元の構造的特徴だけでなく、特定の電荷特性を有している。
【0021】
本発明の一側面において、上記抗体又はその抗原結合断片は、配列番号61で示されるアミノ酸配列で構成される重鎖CDR1(XYXMS)、配列番号62で示されるアミノ酸配列で構成される重鎖CDR2(XIX10YYADSVKG)、及び配列番号27、30、33、36、39及び42でそれぞれ示されるアミノ酸配列からなる群から選択される重鎖CDR3を含む重鎖可変領域、並びに配列番号63で示されるアミノ酸配列で構成される軽鎖CDR1(X11GSSSNIGX12NX13VX14)、配列番号64で示されるアミノ酸配列で構成される軽鎖CDR2(X15161718RPS)、及び配列番号65で示されるアミノ酸配列で構成される軽鎖CDR3(X1920WDX21SLX2223YV)を含む軽鎖可変領域を含むことができる。
【0022】
上記「CDR(complementarity determining region)」とは、抗体の重鎖及び軽鎖可変領域内に抗体ごとに異なるアミノ酸配列を有する部位である超可変領域(hypervariable region)であり、実際に抗原と結合する部位を意味する。抗体の立体構造において、CDRは、環状(loop)で抗体の表面に位置し、環の下にはこれを構造的に支持するFR(framework region)が存在することができる。重鎖及び軽鎖は、それぞれ3つずつ環構造が存在し、これら6つの環構造が合わさって抗原に直接接触することができる。 上記6つの環構造を有する抗原結合部位であるCDRを、それぞれ、便宜上、重鎖CDR1、重鎖CDR2、重鎖CDR3、軽鎖CDR1、軽鎖CDR2、軽鎖CDR3と指称する。
【0023】
一例として、上記配列番号61で示されるアミノ酸配列で構成される重鎖CDR1(XYXMS)中、X及びXは、それぞれ、酸性及び中性アミノ酸から選択され得る。具体的には、上記Xは、酸性又は中性アミノ酸であり、Xは、中性アミノ酸であり得る。 例えば、上記X及びXは、それぞれ、アスパラギン(asparagine、Asn)、グリシン(glycine、Gly)、セリン(serine、Ser)、アスパラギン酸(aspartic acd、Asp)、アラニン(alanine、Ala)、及びチロシン(tyrosine、Tyr)からなる群から選択され得る。具体的には、上記Xは、アスパラギン、グリシン、セリン又はアスパラギン酸であり、Xは、アラニン又はチロシンであり得る。本発明の一実施例において、上記重鎖CDR1は、配列番号25、28、31、34、37又は40で示されるアミノ酸配列で構成され得る。
【0024】
また、上記配列番号62で示されるアミノ酸配列で構成される重鎖CDR2(XIX10YYADSVKG)中、X~X10は、それぞれ中性及び塩基性アミノ酸から選択され得る。具体的には、上記X及びX~Xは、それぞれ中性アミノ酸であり、X10は、中性又は塩基性アミノ酸であり得る。例えば、上記X~X10は、それぞれ、グリシン、ロイシン(leucine、Leu)、アラニン、セリン、チロシン、プロリン(proline、Pro)、アスパラギン、リシン(lysine、Lys)及びイソロイシン(isoleucine、Ile)からなる群から選択され得る。具体的には、上記Xは、グリシン、ロイシン、アラニン又はセリンであり、Xは、チロシン又はセリンであり、Xは、プロリン又はチロシンであり、Xは、アスパラギン又はグリシンであり、X及びXは、それぞれ、グリシン又はセリンであり、Xは、アスパラギン又はセリンであり、X10は、リシン又はイソロイシンであり得る。本発明の一実施例において、上記重鎖CDR2は、配列番号26、29、32、35、38又は41で示されるアミノ酸配列で構成され得る。
【0025】
また、上記配列番号63で示されるアミノ酸配列で構成される軽鎖CDR1(X11GSSSNIGX12NX13VX14)中、X11~X14は、それぞれ、中性アミノ酸から選択され得る。例えば、上記X11~X14は、それぞれ、トレオニン(threonine、Thr)、セリン、アスパラギン、アラニン、プロリン、及びチロシンからなる群から選択され得る。具体的には、上記X11は、トレオニン又はセリンであり、X12は、アスパラギン又はセリンであり、X13は、アラニン、プロリン、トレオニン又はチロシンであり、X14は、アスパラギン、チロシン又はセリンであり得る。 本発明の一実施例において、上記軽鎖CDR1は、配列番号43、46、49、52、55又は58で示されるアミノ酸配列で構成され得る。
【0026】
また、上記配列番号64で示されるアミノ酸配列で構成される軽鎖CDR2(X15161718RPS)中、X15~X18は、それぞれ、酸性、塩基性及び中性アミノ酸から選択され得る。具体的には、上記X15及びX16は、それぞれ、酸性又は中性アミノ酸であり、X17は、中性アミノ酸であり、X18は、塩基性又は中性アミノ酸であり得る。例えば、上記X15~X18は、それぞれ、チロシン、アラニン、アスパラギン酸、セリン、アスパラギン、ヒスチジン(histidine、His)、グルタミン(glutamine、Gln)、及びリシンからなる群から選択され得る。具体的には、X15は、チロシン、アラニン、アスパラギン酸又はセリンであり、X16は、アスパラギン酸又はアスパラギンであり、X17は、セリン又はアスパラギンであり、X18は、ヒスチジン、グルタミン又はリシンであり得る。本発明の一実施例において、上記軽鎖CDR2は、配列番号44、47、50,53、56又は59で示されるアミノ酸配列で構成され得る。
【0027】
また、上記配列番号65で示されるアミノ酸配列で構成される軽鎖CDR3(X1920WDX21SLX2223YV)中、X19~X23は、それぞれ、中性アミノ酸から選択され得る。例えば、上記X19~X23は、グリシン、アラニン、セリン、トレオニン、チロシン、アスパラギン酸及びアスパラギンからなる群から選択され得る。具体的には、X19は、グリシン又はアラニンであり、X20は、アラニン、セリン又はトレオニンであり、X21は、チロシン、セリン、アラニン又はアスパラギン酸であり、X22は、セリン又はアスパラギンであり、X23は、アラニン又はグリシンであり得る。本発明の一実施例において、上記軽鎖CDR3は、配列番号45、48、51,54、57又は60で示されるアミノ酸配列で構成され得る。
【0028】
本発明の他の側面において、上記抗体又はその抗原結合断片は、配列番号25、28、31、34、37及び40で示されるアミノ酸配列からなる群から選択される重鎖CDR1、配列番号26、29、32、35、38及び41でそれぞれ示されるアミノ酸配列からなる群から選択される重鎖CDR2、及び、配列番号27、30、33、36、39及び42でそれぞれ示されるアミノ酸配列からなる群から選択される重鎖CDR3を含む重鎖可変領域、並びに、配列番号43、46、49、52、55及び58でそれぞれ示されるアミノ酸配列からなる群から選択される軽鎖CDR1、配列番号44、47、50、53、56及び59でそれぞれ示されるアミノ酸配列からなる群から選択される軽鎖CDR2、及び、配列番号45、48、51、54、57及び60でそれぞれ示されるアミノ酸配列からなる群から選択される軽鎖CDR3を含む軽鎖可変領域を含むことができる。
【0029】
また、上記抗体又はその抗原結合断片は、配列番号25、26及び27でそれぞれ示されるアミノ酸配列で構成される重鎖CDR1、CDR2及びCDR3を含む重鎖可変領域、配列番号28、29及び30でそれぞれ示されるアミノ酸配列で構成される重鎖CDR1、CDR2及びCDR3を含む重鎖可変領域、配列番号31、32及び33でそれぞれ示されるアミノ酸配列で構成される重鎖CDR1、CDR2及びCDR3を含む重鎖可変領域、配列番号34、35及び36でそれぞれ示されるアミノ酸配列で構成される重鎖CDR1、CDR2及びCDR3を含む重鎖可変領域、配列番号37、38及び39でそれぞれ示されるアミノ酸配列で構成される重鎖CDR1、CDR2及びCDR3を含む重鎖可変領域、及び、配列番号40、41及び42でそれぞれ示されるアミノ酸配列で構成される重鎖CDR1、CDR2及びCDR3を含む重鎖可変領域からなる群から選択される重鎖可変領域、並びに、配列番号43、44、及び45でそれぞれ示されるアミノ酸配列で構成される軽鎖CDR1、CDR2及びCDR3を含む軽鎖可変領域、配列番号46、47及び48でそれぞれ示されるアミノ酸配列で構成される軽鎖CDR1、CDR2及びCDR3を含む軽鎖可変領域、配列番号49、50及び51でそれぞれ示されるアミノ酸配列で構成される軽鎖CDR1、CDR2及びCDR3を含む軽鎖可変領域、配列番号52、53及び54でそれぞれ示されるアミノ酸配列で構成される軽鎖CDR1、CDR2及びCDR3を含む軽鎖可変領域、配列番号55、56及び57でそれぞれ示されるアミノ酸配列で構成される軽鎖CDR1、CDR2及びCDR3を含む軽鎖可変領域、及び、配列番号58、59及び60でそれぞれ示されるアミノ酸配列で構成される軽鎖CDR1、CDR2及びCDR3を含む軽鎖可変領域からなる群から選択される軽鎖可変領域を含むことができる。
【0030】
さらに、上記抗体又はその抗原結合断片は、配列番号25、26及び27でそれぞれ示されるアミノ酸配列で構成される重鎖CDR1、CDR2及びCDR3を含む重鎖可変領域、並びに、配列番号43、44及び45でそれぞれ示されるアミノ酸配列で構成される軽鎖CDR1、CDR2及びCDR3を含む軽鎖可変領域;配列番号28、29及び30でそれぞれ示されるアミノ酸配列で構成される重鎖CDR1、CDR2及びCDR3を含む重鎖可変領域、並びに、配列番号46、47及び48でそれぞれ示されるアミノ酸配列で構成される軽鎖CDR1、CDR2及びCDR3を含む軽鎖可変領域;配列番号31、32及び33でそれぞれ示されるアミノ酸配列で構成される重鎖CDR1、CDR2及びCDR3を含む重鎖可変領域、並びに、配列番号49、50及び51でそれぞれ示されるアミノ酸配列で構成される軽鎖CDR1、CDR2及びCDR3を含む軽鎖可変領域; 配列番号34、35及び36でそれぞれ示されるアミノ酸配列で構成される重鎖CDR1、CDR2及びCDR3を含む重鎖可変領域、並びに、配列番号52、53及び54でそれぞれ示されるアミノ酸配列で構成される軽鎖CDR1、CDR2及びCDR3を含む軽鎖可変領域;配列番号37、38及び39でそれぞれ示されるアミノ酸配列で構成される重鎖CDR1、CDR2及びCDR3を含む重鎖可変領域、並びに、配列番号55、56及び57でそれぞれ示されるアミノ酸配列で構成される軽鎖CDR1、CDR2及びCDR3を含む軽鎖可変領域;又は、配列番号40、41及び42でそれぞれ示されるアミノ酸配列で構成される重鎖CDR1、CDR2及びCDR3を含む重鎖可変領域、並びに、配列番号58、59及び60でそれぞれ示されるアミノ酸配列で構成される軽鎖CDR1、CDR2及びCDR3を含む軽鎖可変領域;を含むことができる。
【0031】
一例として、上記重鎖可変領域は、配列番号1、3、5、7、9又は11で示されるアミノ酸配列で構成されるポリペプチドであり、上記軽鎖可変領域は、配列番号13、15、17、19、21又は23で示されるアミノ酸配列で構成されるポリペプチドであり得る。
【0032】
また、本発明に係る抗体又はその抗原結合断片は、必要に応じて変形したものであり得る。具体的には、上記抗体又はその抗原結合断片は、接合(conjugation)、糖化(glycosylation)、標識付け又はこれらの組み合わせで変形してもよい。具体的には、上記抗体又はその抗原結合断片は、HRP(horseradish peroxidase)、アルカリフォスファターゼ、ハプテン(hapten)、ビオチン、ストレプトアビジン、蛍光物質、放射性物質、量子ドット、PEG(polyethylene glycol)、ヒスチジン標識などに変形し得る。さらに、上記抗体又はその抗原結合断片は、必要に応じて他の薬物が接合されてもよい。
【0033】
上記抗体又はその抗原結合断片は、当該技術分野で周知の単一クローン抗体の製造方法により製造することができ、上記製造方法は、当業者によって適宜変形可能である。一例として、上記抗体は、抗原で免疫化された動物から得られたBリンパ球を用いてハイブリドーマを製造することで、又は、ファージディスプレイ法を用いて製造することで得ることができる。
【0034】
本発明の他の側面において、本発明に係る医薬組成物に含まれる抗体又はその抗原結合断片は、上記抗体又はその抗原結合断片を暗号化する核酸を含むことができる。上記抗体又はその抗原結合断片を構成するアミノ酸配列は公知であるところ、これを暗号化する核酸配列は、当業者にとって自明である。また、上記核酸配列は、これから翻訳される抗体又はその抗原結合断片の活性を維持する限り、1つまたはそれ以上の塩基が付加、欠失又は置換されたものであり得る。
【0035】
本発明のまた他の側面において、本発明に係る医薬組成物は、上記抗体又はその抗原結合断片を暗号化する核酸を含む発現ベクターを含むことができる。上記「発現ベクター(expression vector)」は、宿主細胞で目的遺伝子を発現させるための手段であって、プラスミドベクター、コスミドベクター、バクテリオファージベクター、ウイルスベクターなどが挙げられる。上記発現ベクターは、これに含まれる核酸からペプチドを生成するために必要な要素を含むことができる。具体的には、上記発現ベクターは、シグナル配列、複製起点、マーカー遺伝子、プロモーター、転写終結配列などを含むことができる。このとき、本発明に係る抗体又はその抗原結合断片を暗号化した核酸は、プロモーターと作動可能に連結され得る。
【0036】
一例として、原核細胞用発現ベクターは、転写を行うプロモーター、解毒の開始のためのリボソーム結合位置、及び転写と解毒の終結配列を含むことができる。なお、真核細胞用発現ベクターは、哺乳動物又は哺乳動物ウイルスに由来するプロモーター、及びポリアデニル化配列を含むことができる。
【0037】
また、上記発現ベクターに含まれるマーカー遺伝子としては、当該技術分野で公知のものであれば、いずれも使用可能であり、具体的には、抗生物質耐性遺伝子が挙げられる。具体的に、上記抗生物質耐性遺伝子は、アンピシリン、ゲンタマイシン、カベニシリン、クロラムフェニコール、ストレプトマイシン、カナマイシン、ネオマイシン、テトラサイクリンなどのような、抗生物質に対して耐性を示す遺伝子であり得る。
【0038】
本発明のまた他の側面において、本発明に係る医薬組成物は、上述のような核酸又は発現ベクターを含む宿主細胞を有効成分として含むことができる。上記宿主細胞としては、当該技術分野において抗体又はその抗原結合断片を生産するために使用可能なものとして知られたあらゆる種類の細胞を使用することができる。具体的には、上記宿主細胞は、原核細胞、酵母又は真核細胞であり得る。上記原核細胞としては、大腸菌(E.coli)、バチルス属菌株、ストレプトマイセス属菌株、シュードモナス属菌株、スタフィロコッカス属菌株などが挙げられ、上記酵母としては、サッカロマイセス・セレビシエなどが挙げられる。なお、上記真核細胞としては、COS-7、BHK、CHO、CHOK1、DXB-11、DG-44、CHO/-DHFR、CV1、HEK293、TM4、VERO、HELA、MDCK、BRL 3A、W138、Hep G2、SK-Hep、MMT、TRI、MRC 5、FS4、3T3、RIN、A549、PC12、K562、PERC6、SP2/0、NS-0、U20S、及びHT1080などが挙げられる。
【0039】
また、上記宿主細胞は、当該技術分野における常法に従って上述のような核酸又は発現ベクターが形質注入されたものであり得る。具体的には、上記形質注入は、一過性トランスフェクション(transient transfection)、微細針、形質導入(transduction)、細胞融合、リン酸カルシウム沈殿法、リポソーム仲介性トランスフェクション(liposome-mediated transfection)、DEAEデキストラン仲介性トランスフェクション(DEAE dextran-mediated trasfection)、ポリブレン仲介性トランスフェクション(polybrene-mediated trasfection)、電気穿孔法、遺伝子銃(gene gun)などの方法で行うことができる。なお、上記のような方法は、当業者によって適宜変形可能である。
【0040】
上記脳疾患としては、当該技術分野で周知のあらゆる種類の脳疾患が挙げられ、具体的には、上記脳疾患は、退行性脳障害であり得る。一例として、上記退行性脳障害は、アミロイドβの発現又は凝集のレベルが正常より高いか、高くなる危険がある疾患であり得る。例えば、上記退行性脳障害は、認知症、アルツハイマー病、パーキンソン病、ハンチントン病、軽度認知障害、大脳アミロイド血管症、ダウン症候群、アミロイド性脳卒中、全身性アミロイド病、Dutch型アミロイド症、ニーマン・ピック病、老人性認知症、筋萎縮性側索硬化症(amyotrophic lateral sclerosis)、脊髄小脳性運動失調症(spinocerebellar atrophy)、トゥレット症候群(Tourette’s syndrome)、フリードリヒ運動失調症(Friedrich’s Ataxia)、マシャド・ジョセフ病(Machado-Joseph’s disease)、レビー小体型認知症、筋緊張異常(dystonia)、進行性核上性麻痺(progressive supranuclear palsy)又は前頭側頭葉認知症が挙げられる。
【0041】
本発明に係る医薬組成物は、組成物の全重量に対して、有効成分であるASMタンパク質に特異的に結合する抗体又はその抗原結合断片を、10~95重量%で含むことができる。また、本発明の医薬組成物は、上述した有効成分の他に、同一又は類似の機能を示す有効成分を1種以上さらに含んでもよい。
【0042】
本発明の医薬組成物は、生物学的製剤に通常使用される担体、希釈剤、賦形剤又はその混合物を含むことができる。薬学的に許容可能な担体としては、組成物を生体内に伝達するのに適したものであれば、いずれも使用可能である。具体的には、上記担体は、Merek Index、13th ed.、Merek&Co.Inc.に記載の化合物、食塩水、滅菌水、点滴液、デキストロース溶液、マルトデキストリン溶液、グリセロール、エタノール又はその混合物であり得る。また、必要に応じて、抗酸化剤、緩衝液、静菌剤などのような通常の添加剤を添加してもよい。
【0043】
上記組成物を製剤化する場合、通常使用される充填剤、増量剤、結合剤、湿潤剤、崩壊剤、界面活性剤などの希釈剤又は賦形剤を添加してもよい。
【0044】
本発明の組成物は、経口用製剤又は非経口用製剤として製剤化することができる。経口用製剤としては、固形製剤及び液状製剤が挙げられる。上記固形製剤は、錠剤、環剤、散剤、顆粒剤、カプセル剤又はトローチ剤であってもよく、このような固形製剤は、上記組成物に少なくとも一つ以上の賦形剤を添加して調製することができる。上記賦形剤は、デンプン、炭酸カルシウム、スクロース、ラクトース、ゼラチン又はその混合物であり得る。また、上記固形製剤は、潤滑剤を含んでもよく、例えば、ステアリン酸マグネシウム、タルクなどが挙げられる。また、上記液状製剤は、懸濁剤、内用液剤、乳剤又はシロップ剤であってもよい。なお、上記液状製剤には、湿潤剤、甘味剤、芳香剤、保存剤などの賦形剤が含まれてもよい。
【0045】
上記非経口用製剤としては、注射剤、座剤、呼吸器吸入用粉末、スプレー用エアロゾル剤、パウダー及びクリームなどが挙げられる。上記注射剤には、滅菌された水溶液、非水性溶剤、懸濁溶剤、乳剤などが含まれてもよい。このとき、非水性溶剤又は懸濁溶剤としては、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、オリーブオイルのような植物性油や、オレイン酸エチルのように注射可能なエステルなどを使用することができる。
【0046】
また、本発明は、ASMタンパク質に特異的に結合する抗体又はその抗原結合断片を有効成分として含む脳疾患の予防又は改善用の保健機能食品を提供する。
【0047】
本発明に係る保健機能食品に有効成分として含まれるASMタンパク質に特異的に結合する抗体又はその抗原結合断片は、上述のような特徴を有することができる。
【0048】
本発明のASMタンパク質に特異的に結合する抗体又はその抗原結合断片は、食品にそのまま添加したり、他の食品又は食品成分と共に使用することができる。このとき、添加される有効成分の含有量は、目的によって異なるが、一般的には、食品の全重量の0.01~90重量部であり得る。
【0049】
保健機能食品の形態及び種類は、特に制限されない。具体的には、上記保健機能食品は、錠剤、カプセル、粉末、顆粒、液状、及び丸剤の形態であってもよい。上記保健機能食品は、追加成分として様々な香味剤、甘味剤又は天然炭水化物を含んでもよい。上記甘味剤は、天然又は合成の甘味剤であり、天然甘味剤としては、例えば、タウマチン、ステビア抽出物などが挙げられる。また、合成甘味剤としては、例えば、サッカリン、アスパルタムなどが挙げられる。また、上記天然炭水化物としては、モノサッカライド、ジサッカライド、ポリサッカライド、オリゴ糖、及び糖アルコールなどが挙げられる。
【0050】
本発明の保健機能食品は、上述した追加成分の他に、栄養剤、ビタミン、電解質、風味剤、着色剤、ペクチン酸及びその塩、アルギン酸及びその塩、有機酸,保護コロイド増粘剤、pH調節剤、安定化剤、防腐剤、グリセリン、アルコールなどをさらに含んでもよい。これらの成分は、単独で又は組み合わせて使用してもよい。上記添加剤の割合は、本発明による組成物の100重量部当たり0.01~0.1重量部の範囲で使用することができる。
【0051】
また、本発明は、ASMタンパク質に特異的に結合する抗体又はその抗原結合断片を個体に投与するステップを含む脳疾患の予防、改善又は治療方法を提供する。
【0052】
本発明に係る脳疾患の予防、改善又は治療方法に使用されるASMタンパク質に特異的に結合する抗体又はその抗原結合断片は、上述のような特徴を有することができる。
【0053】
上記個体は、哺乳動物であり、具体的には、ヒトであり得る。
【0054】
上記投与は、目的の方法によって、経口又は非経口投与することができる。非経口投与は、腹腔内、直腸内、皮下、静脈、筋肉内、又は胸部内注射の方式で行うことができる。
【0055】
また、上記投与は、薬学的に有効な量で投与することができる。これは、疾患の種類、重症度、薬物の活性、薬物に対する患者の敏感度、投与時間、投与経路、治療期間、同時に使用される薬物などによって変化する。なお、目的の効果を得るためには、本発明に係る医薬組成物に含まれる有効成分の含有量は、0.0001~1,000mg/kg、具体的には、0.001~500mg/kgの範囲であり得る。上記投与は、一日一回、又は数回に分けて行うことができる。
【0056】
上記投与は、単独又は他の治療剤と併用して投与することができる。併用投与は、順次又は同時投与してもよい。
【0057】
さらに、本発明は、脳疾患の予防、改善又は治療のための薬剤の製造に使用するためのASMタンパク質に特異的に結合する抗体又はその抗原結合断片の用途を提供する。
【0058】
本発明に係る脳疾患の予防、改善又は治療のための薬剤の製造に使用されるASMタンパク質に特異的に結合する抗体又はその抗原結合断片は、上述のような特徴を有することができる。
【実施例
【0059】
[発明の実施のための形態]
以下、本発明を後述の実施例に基づいて詳述する。但し、後述の実施例は、本発明の例示に過ぎず、本発明は、これらの実施例によって制限されない。本発明の特許請求の範囲に記載の技術的思想と実質的に同様な構成を有し、同様な作用効果を示すものであれば、いずれも本発明の技術的範囲に含まれる。
【0060】
[実施例1:ASM(acid sphingomyelinase)タンパク質に特異的に結合する抗体の作製]
ヒトASMタンパク質(配列番号66)及びマウスASMタンパク質(配列番号67)に特異的に結合する抗体を、次のような方法で製造した。
【0061】
具体的には、組換えヒト及びマウスASMタンパク質、及びヒト合成scFVファージライブラリを用いて常法に従ってパンニング(panning)を行い、ヒトASMタンパク質又はマウスASMタンパク質に特異的に結合するscFvを有するファージを選別した。選別されたscFvを暗号化する核酸配列を分析し、これから生成されるアミノ酸配列を確認した。確認されたscFv配列の重鎖可変領域及び軽鎖可変領域のそれぞれのカルボキシ末端(carboxy terminus)に、配列番号75及び77でそれぞれ示される塩基配列で構成されるマウス重鎖定常領域(constant region)及びマウス軽鎖λ定常領域が連結された形態で発現されるように発現ベクターを製造した。このとき、製造された発現ベクターに含まれたscFvを構成する重鎖可変領域のアミノ酸配列及び核酸配列を下記表1に、軽鎖可変領域のアミノ酸配列及び核酸配列を下記表2に示す。
【0062】
【表1】
【0063】
【表2】
【0064】
このとき、発現ベクターとしては、哺乳類発現ベクター(mammalian expression vector)を使用した。製造された発現ベクターをCHO又はHEK293細胞株に形質転換させてヒトASMタンパク質に結合し、又はヒト及びマウスのASMタンパク質に全て結合する全長の抗体を製造した。
【0065】
[実施例2:相補性決定領域(complementarity determining region、CDR)の決定]
上記で製造されたscFVにおいて相補性決定領域を常法に従って確認し、その結果を、重鎖可変領域のCDR配列を表3に、軽鎖可変領域のCDR配列を表4に示す。
【0066】
【表3】
【0067】
【表4】
【0068】
(実験例1:ASMタンパク質との結合の確認)
上記で製造されたASMタンパク質に特異的に結合する抗体のASMタンパク質との結合をELISA分析方法で確認した。
【0069】
まず、マルチアレイ96ウェルプレート(Thermoscientific)に、1μg/mlの組換えヒトASMタンパク質(R&D systems)を100μl添加し、4℃で16時間放置し、プレートをコーティングした。コーティングされたプレートに、5%BSAが含まれた200μlのPBSを添加し、37℃で2時間反応させて前処理した後、0.05%のツイーン20(Tween20)が含まれたPBSでこれを3回洗浄した。ここに、0.0001、0.001、0.01、0.1、1、10又は100nMの抗ASM抗体を処理し、37℃で1時間反応させた。反応後、プレートを0.05%のツイーンが含まれたPBSで3回洗浄し、二次抗体として100μlのヤギ抗マウスIgG-HRP(Jackson Immunoresearch)抗体を添加した。これを37℃でさらに1時間反応させ、0.05%のツイーンが含まれたPBSで3回洗浄した。ここに、100μlのTMB基質(tetramethylbenzidine)を添加し、さらに常温で5分間反応させた後、100μlの2N硫酸溶液で反応を停止し、450nmの波長で吸光度を測定した。その結果を、測定された吸光度を図2に、吸光度値から計算された抗体のEC50値を表5に示す。
【0070】
【表5】
【0071】
図2に示されるように、上記で製造された5種類の抗体が全て濃度依存的にASMタンパク質に結合している。特に、表5に示されるように、#9101抗体が最も低いEC50値を示し、ASMタンパク質に対する結合力が最も高かった。
【0072】
(実験例2:ASMタンパク質との結合親和性の確認)
上記で製造されたASMタンパク質に特異的に結合する抗体のASMタンパク質との結合親和性及び相互作用動力学を、Octet(商標)QK384システム(Pall Life Sciences)を用いて測定した。
【0073】
まず、AR2Gセンサー(ForteBio)に、20mMの1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(EDC)及び40nMのN-ヒドロキシスルホスクシンイミド(スルホ-NHS)溶液を処理してカルボキシ基を活性化させた。なお、10μg/mlの組換えヒトASMタンパク質又は2.5μg/mlの組換えマウスASMタンパク質は、10nMのナトリウムアセテート(pH5.0)(ForteBio)溶液に希釈して準備した。上記ASMタンパク質が希釈された溶液を、カルボキシ基が活性化されたAR2Gセンサーに加え、組換えヒト又はマウスASMタンパク質が固定されたAR2Gセンサーを得た。得られたASMタンパク質が固定されたセンサーに、1Mのエタノールアミン(ForteBio)を添加し、未反応の残存カルボキシ基を不活性化させた。ここに、0.4、2又は10nM濃度の実施例1で製造された抗体を添加し、約900秒間反応物の結合相を観察した。次に、1×動力学緩衝液(kinetics buffer)(ForteBio)を添加し、約1,200秒間反応物の分離相を観察した。Octet(商標)分析ソフトウェア(Pall Life Sciences)を用いて、各抗体に対する結合定数(association constant:Kon)、解離定数(dissociation constant:Kdis)及び平衡解離定数(equilibrium dissociation constant:KD)を決定した。その結果を、組換えヒトASMタンパク質に対する分析結果を表6に、組換えマウスASMタンパク質に対する分析結果を表7に示す。
【0074】
【表6】
【0075】
【表7】
【0076】
表6に示されるように、実施例1で製造された5種類の抗体が、10-10~10-9Mレベルの結合力でヒトASMタンパク質に結合している。なお、表7に示されるように、マウスASMタンパク質に対しては、#9102、#9104又は#9108の抗体だけが、10-10~10-9Mレベルの結合力を示している。
【0077】
(実験例3:ASMタンパク質の抗原決定部位の確認)
本発明に係る抗体がASMタンパク質に結合する部位である抗原決定部位をHDX-MS(hydrogen deuterium exchange mass spectrometry)方法で確認した。
【0078】
まず、1,000μg/mlのASMタンパク質、1,000μg/mlの#9101mIgG1,1,250μg/mlの#9102mIgG2、1,000μg/mlの#9104mIgG4、1,000μg/mlの#9108mIgG1、3,300μg/mlの#9113mIgG1、又は2,932μg/mlの#9123mIgG1抗体を連続して2倍数ずつ希釈し、128倍の希釈液まで準備した。準備された希釈液を1μlずつ取り、同量の10mg/mlのシナピン酸マトリックス(K200 MALDI kit、CovalX)と混合し、上記混合物の1μlをSCOUT384 MALDIプレートに分注し、常温で結晶化させた。次に、上記結晶を、MALDI質量分析器(mass spectrometer)を用いて測定した。一方、非共有結合相互作用の分析のためのクロスリンク(cross-link)データのため、1μlの128倍希釈液を、同量の2mg/mlのK200安定化溶液(K200 stabilizer reagent、K200 MALDI Kit、CovalX)と混合し、これを3時間常温で反応させた。反応終了後、1μlの混合液を用いて、上記と同様にMALDI質量分析器で測定し、測定結果は、ハイマスMALDI MS(high-mass MALDI MS)モードで分析した。その結果を、ASMタンパク質内重水素挿入による顕著な差が確認された部位のアミノ酸配列を下記表8に、ヒトASMタンパク質構造モデルに各抗体の結合位置を表示した結果を図3に示す。また、ASMタンパク質のうちサポシン(saposin)ドメインにおける各抗体の重水素置換率のヒートマップを図4に示す。
【0079】
【表8】
【0080】
表8及び図3に示されるように、本発明による抗体は、ASMタンパク質のN末端から53~72番目のアミノ酸断片(配列番号68:TAINLGLKKEPNVARVGSVA)、101~123番目のアミノ酸断片(配列番号69:VWRRSVLSPSEACGLLLGSTCGH)、135~159番目のアミノ酸断片(配列番号70:PTVPKPPPKPPSPPAPGAPVSRILF)、135~155番目のアミノ酸断片(配列番号71:PTVPKPPPKPPSPPAPGAPVS)、218~228番目のアミノ酸断片(配列番号72:SGLGPAGPFDM)又は259~269番目のアミノ酸断片(配列番号73:VRKFLGPVPVY)に結合している。特に、図4に示されるように、本発明による抗体は、サポシンドメインにおけるαヘリックス1及びαヘリックス2の部位に主に結合している。
【0081】
(実験例4:ASMタンパク質活性抑制の確認)
4-1:ASMタンパク質活性抑制の確認
上記で製造されたASMタンパク質に特異的に結合する抗体が、細胞膜に位置するASMタンパク質の活性を抑制するかを確認した。
【0082】
まず、アルツハイマー病患者の線維芽細胞(coriell institue)に、実施例1で製造された抗体を3μg/mlの濃度で処理し、37℃で24時間反応させた。次に、細胞を集めてMem-PERTMプラスメンブレンタンパク質抽出キット(Mem-PERTMPlus Membrane Protein Extraction Kit、Thermo)を用いて、メーカーのプロトコルに従って細胞膜を分離し、タンパク質を抽出した。抽出されたタンパク質を試料として使用してUPLC用注入口(insert)に入れ、常法に従ってUPLC分析(Waters、186004800)を行い、その結果を図5に示す。このとき、対照群としては、ASMタンパク質に結合していないものと確認された#9105抗体を使用した。
【0083】
図5に示されるように、実施例1で製造された6種類の抗体のうち、#9104抗体が、アルツハイマー病患者の細胞膜で増加したASMタンパク質の活性を有意に抑制している。
【0084】
4-2:抗ASM抗体の処理濃度によるASMタンパク質活性抑制の確認
実施例1で製造された#9104抗体を、0.03、0.3、3、30、300、又は3,000ng/mlの濃度で処理した以外は、上記実験例4-1と同様にして細胞膜に位置するASMタンパク質の活性変化を確認した。その結果、分析されたASMタンパク質の活性抑制率(%)を図6及び表9に示す。このとき、対照群としては、#9105抗体を使用した。
【0085】
【表9】
【0086】
図6及び表9に示されるように、本発明による#9104抗体は、処理濃度依存的に細胞膜に位置するASMタンパク質の活性を有意に抑制している。これに対し、対照群として使用された#9105抗体は、3,000ng/ml以上の濃度で処理した場合においてのみ、細胞膜に位置するASMタンパク質の活性をやや抑制している。
【0087】
(実験例5:スフィンゴ脂質代謝変化の確認)
実験例4-1に示されたように、3μg/mlの#9104抗体が処理された細胞の細胞膜におけるスフィンゴ脂質代謝の変化を、スフィンゴミエリン(sphingomyelin)及びセラミド(ceramide)の含有量変化に基づいて確認した。実験は、常法に従って行われ、測定されたスフィンゴミエリン及びセラミドの含有量を図7に示す。
【0088】
図7に示されるように、#9104抗体の処理により、アルツハイマー病患者の線維芽細胞膜に存在するセラミドの含有量が有意に減少しているが、スフィンゴミエリンの含有量には大きな変化がなかった。
【0089】
従って、上記のような点から、本発明に係る抗体が、ASMタンパク質によるスフィンゴミエリンの分解を抑制することが分かった。
【0090】
(実験例6:認知記憶力改善の確認)
アルツハイマー病の動物モデルであるAPP/PS1マウスに、#9104抗体を投与し、上記マウスの認知記憶力の変化を確認した。
【0091】
6-1:抗ASM抗体の投与
7ヶ月齢のAPP/PS1マウスに、50mg/kgの投与量で、324μlの#9104抗体を8週間腹腔投与した。投与は、1週間に2回(3日おきに)行われ、#9104抗体は、計16回投与された(図8)。このとき、C57BL/6マウス及びAPP/PS1マウスの交配で産まれた子孫に何も処理しなかったものを無処理対照群とし、APP/PS1マウスに324μlのPBS処理を施したものを陰性対照群とした。
【0092】
6-2:認知記憶力改善の確認-(1)
#9104抗体の投与41日目から最終日まで行為機能検査を行い、抗体の投与による認知記憶力の変化を確認した。
【0093】
まず、投与41日目から5分間、全てのマウスの尻尾を握って試験者の腕及び手の甲に乗せるのを繰り返すことで試験者に対するマウスの抵抗感をなくし、次に、30分間、水に適応させて水に対する抵抗感をなくした後、実験に供した。一方、水槽は、4面上に手がかり(cue)を取り除いた状態でプラットフォーム(platform)を設置し、これを中心に三角形状の小さな水槽を配設した。上記マウスを水槽に入れ、水泳訓練及びプラットホームに上がる訓練を10回実施した。このとき、水泳訓練後、10秒後、プラットフォームに上がる度に10秒ずつ留まることができるようにし、10秒後、マウスを水に再び入れるようにした。これを10回繰り返し、繰り返す間にプラットフォームに対して接近方向を変化させ、様々な方向からプラットフォームに上がることができるように教育した。翌日の投与42日目から51日まで水迷路実験(morris water maze test)を行った。具体的には、水槽の4面上に手がかりを設け、毎日同じ時間に各マウス当たり4回実験を行い(1回当たり60秒間に時間制限)、これを計10回繰り返してプラットフォームに上がるまでかかる時間を記録した。また、投与から52日目にはプローブテスト(probe test)を行い、プラットフォームを取り除いた水槽において、プラットフォームがあった位置及び他の四分面上を通って水泳する距離及び速度などを記録した。その結果を、水迷路実験結果を図9に、プローブテスト結果を図10~12に示す。
【0094】
図9に示されるように、試験を繰り返すにつれて#9104抗体を投与したマウスは、エスケープ待ち時間(escape latency time)が有意に減少している。一方、陰性対照群のマウスは、平均して30秒間のエスケープ待ち時間がかかり、認知機能が低下しており、無処理対照群のマウスは、試験が繰り返されるにつれてエスケープ待ち時間が減少している。具体的には、#9104抗体を投与した群では、陰性対照群のマウスと比べて、エスケープ待ち時間が、9回目に31.5%、及び10回目に30.8%減少している。
【0095】
また、図10及び11に示されるように、#9104抗体を投与したマウスは、標的四分面に留まる時間が、非標的四分面に留まる時間に比べて有意に増加している。これは、無処理対照群と類似しており、標的四分面及び非標的四分面に留まる時間の差が殆どなかった陰性対照群とは差があった。
【0096】
なお、図12Cに示されるように、プラットフォームがあった位置を通る回数(crossing platform)については、#9104抗体を投与した群では有意に増加しているが、これに対し、陰性対照群では、減少することが確認された。一方、図12A及び12Bに示されるように、全てのマウス群において、水泳距離及び速度は類似していることが確認され、#9140抗体の投与が運動力には影響を与えないことが分かった。
【0097】
6-3:.認知記憶力改善の確認-(2)
アルツハイマー病の動物モデルであるAPP/PS1マウスに、#9104抗体を50mg/kgの投与量で投与し、上記マウスの認知記憶力の変化を確認した。実験は、上記実験例6-1と同様にして#9104抗体を投与し、常法に従って文脈及び手がかり恐怖条件付けテスト(contextual and cued fear conditioning test)を行った後、その結果を図13に示す。
【0098】
図13に示されるように、#9104抗体を投与したマウスは、文脈(contextual)や雰囲気(tone)によってフリージング(freezing)が有意に増加しているが、これに対し、陰性対照群のマウスは、フリージング程度が減少している。
【0099】
従って、上記のような結果から、本発明に係る抗体が、アルツハイマー病の動物モデルの認知記憶力を有意に改善させることが確認された。
【0100】
(実験例7:ASMタンパク質活性の確認)
7-1:ASMタンパク質活性の確認
上記実験例6において認知記憶力の改善が確認された動物モデルの血液及び脳組織に存在するASMタンパク質の活性を確認した。具体的には、実験は、マウスの血液プラズマ(plasma)からタンパク質を常法に従って取得し、得られたタンパク質を試料として実験例4-1と同様にしてUPLCを行った。陰性対照群マウスのASMタンパク質活性を基準にして、無処理対照群マウス及び#9104を投与したマウス群のASM活性(%)を計算した結果を図14に示す。
【0101】
図14に示されるように、#9104抗体の投与により、血液プラズマに存在するASMタンパク質の活性が、約64%抑制されている。
【0102】
7-2:ASMタンパク質濃度の確認
実験例7-1において確認されたASMタンパク質の活性抑制が、タンパク質の発現レベルの低下によるものかどうかを確認するため、ELISA分析を行った。実験は、実験例7-1で得られた血液プラズマ組織を試料として使用し、マウスASMのELISAキット(Mybiosource)を用いて、メーカーのプロトコルに従って分析を行った後、その結果を図15に示す。
【0103】
図15に示されるように、#9104抗体を投与したマウスにおいて、無処理対照群又は陰性対照群よりASMタンパク質の濃度が有意に増加している。
【0104】
従って、上記のような結果から、本発明による抗体は、ASMタンパク質の濃度には影響を及ぼさず、その活性を有意に抑制していることが分かった。
【0105】
(実験例8:アミロイドβ(Aβ)蓄積抑制の確認)
上記実験例6において認知記憶力の改善が確認された動物モデルの脳組織に存在するアミロイドβの蓄積を、チオフラビン-S(tioflavin-S)染色及び6E10抗体を用いたウエスタンブロッティングとELISA分析方法により、次のように確認した。
【0106】
8-1:Aβ蓄積抑制の確認-(1)
実験例6の動物モデルを、2.5%アバチン(avertin)で麻酔し、胸腔を開腹し、1cc注射器を用いて心臓から血液を得た。血液を得た後、20mlのPBSで灌流(perfusion)を行い、さらに20~30mlの4%PFA(パラホルムアルデヒド)で灌流を行った。上記マウスの脳を摘出し、4%PFA溶液に入れて一晩放置し、ビブラトーム(vibratome)を用いて、上記組織を30μmの厚さに切片化した。得られた脳組織切片を、12ウェルプレートに入れた後、1mlのPBS溶液を添加し、室温で33rpmの条件で5分間撹拌した。PBS溶液を除去し、エタノールに希釈された500μlの0.5%チオフラビン-S試薬処理を行い、Aβのプラーク(plaque)を10分間染色した。次に、上記切片を、50%エタノールで2回洗浄し、1mlのPBS溶液で1回洗浄した。ここに、DAPIが含まれたマウント培地を添加し、マウンティングした。
【0107】
なお、あらゆる形態のAβタンパク質を染色するために上記脳組織切片を12ウェルプレートに入れた後、1mlのPBS溶液を添加し、室温で33rpmの条件で5分間撹拌し、PBS溶液を除去した。ここに、1mlの0.2%のトリトンX-100が含まれたPBS溶液を添加し、33rpmの条件で1時間撹拌した。撹拌後、トリトンX-100が含まれたPBS溶液を除去し、0.05%のトリトンX-100が含まれたPBS溶液で1時間前処理した。前処理された脳組織切片に、6E10抗体(Biolegend)を0.05%のトリトンX-100が含まれたPBS溶液と1:1の体積比で混合し、500μlの量で添加した。これを4℃で一晩撹拌しながら反応させ、トリトンX-100が含まれたPBS溶液で3回洗浄した。ここに、マウス488の二次抗体を処理し、室温で2時間反応させた後、さらにトリトンX-100が含まれたPBS溶液で3回洗浄した。ここに、DAPIが含まれたマウント培地を添加し、マウンティングした。
【0108】
染色された脳組織切断は、共焦点レーザー走査型顕微鏡(FV3000、Olympus)を用いて20倍の倍率で撮影し、メタモルフソフトウェア(MetaMorph software、Molecular Devices)を用いて染色面積を分析し、分析結果を図16及び17に示す。
【0109】
図16及び17に示されるように、脳の皮質及び海馬に存在する高密度(dense-core)及び拡散型(diffuse)アミロイドβプラークが、#9104抗体の処理により有意に減少している。
【0110】
8-2:Aβ蓄積抑制の確認-(2)
上記で得られた脳組織を皮質及び海馬に分離し、100mM PMSF及び1%プロテアーゼ阻害剤が含まれたRIPA緩衝液を添加し、組織を均質化させた。均質化された組織を4℃及び13,000rpmの条件下で10分間遠心分離し、上層液を取得した。得られた上層液を同一の条件で30分間さらに遠心分離して上層液を取得し、これを試料としてアミロイドβ40ELISAキット(KHB3481、invitrogen)及びアミロイドβ42ELISAキット(KHB3441、Invitrogen)でAβのレベルを測定した。得られた結果を図18に示す。
【0111】
図18に示されるように、脳の皮質及び海馬に存在するAβ40は、#9104抗体によりそれぞれ30.9%及び30.9%に減少し、陰性対照群と比較して有意に減少している。Aβ42においても、陰性対照群と比較して#91044抗体の投与により有意に減少している。
【0112】
(実験例9:タウ(tau)蓄積の確認)
上記実験例8で得られた脳組織切片を用いて、タウ蓄積の変化をタウタンパク質を染色して確認した。具体的には、実験は、一次抗体として抗AT8抗体(サーモフィッシャーサイエンティフィック、MN1020)を使用した以外は、実験例8-1と同様にして実施し、分析結果を図19に示す。
【0113】
図19に示されるように、脳の皮質及び海馬に存在するタウタンパク質が、#9104抗体の処理により有意に減少している。
【0114】
(実験例10:神経炎症改善の確認)
上記実験例6において認知記憶力の改善が確認された動物モデルの脳組織において、#9104抗体による神経炎症改善効果を、小膠細胞(microglia)及び星状膠細胞(astrocyte)活性化によって確認した。実験は、一次抗体として抗lba-1抗体(Wako、019-19941)又は抗GFAP抗体(Dako、N1506)を使用し、二次抗体としてウサギ488の二次抗体を使用した以外は、実験例8-1と同様にして実施し、分析結果を図20及び21に示す。
【0115】
図20及び21に示されるように、脳の皮質及び海馬に存在するlba-1及びGFAPタンパク質の発現が有意に減少することで、#9104抗体により、脳組織内の小膠細胞及び星状膠細胞の活性が抑制されていることが確認された。
【0116】
従って、上記のような結果から、本発明による抗体は、脳神経炎症を改善する効果があることが分かった。
【0117】
(実験例11:毒性の確認)
#9104抗体の毒性を次のような方法で確認した。
【0118】
実験は、上記実験例6において#9104抗体を投与しながら実施した。具体的には、毎週2回マウスの動き及び異常症状を肉眼で観察して生存率を評価し、毎週1回同じ曜日及び時間に、マウスの体重を測定した。また、投与済みのマウスを常法に従って解剖して臓器を観察することで、#9104抗体による臓器の毒性が示されるかどうかを確認した。その結果を、マウスの生存率及び体重変化を図22に、臓器の毒性の確認結果を図23に示す。
【0119】
図22及び23に示されるように、#9104抗体の処理により生存率及び体重は有意に変化せず、臓器も正常な状態であることが確認された。
【0120】
従って、上記のような結果から、本発明による抗体は、毒性がなく、アルツハイマー病のような脳障害の治療に有意に使用できることが分かった。
【要約】
本発明は、ASM(acid sphingomyelinase)タンパク質に特異的に結合する抗体の用途に関する。具体的には、本発明に係る抗体又はその抗原結合断片は、ASMタンパク質に特異的に高結合力で結合し、細胞膜に存在するASMタンパク質の活性を有意に抑制し、アルツハイマー病の動物モデルにおいて、毒性を示ず、かつ認知記憶力改善効果、ASMタンパク質活性抑制効果、アミロイドβ及びタウタンパク質蓄積抑制効果、及び神経炎症抑制効果を示し、脳疾患の治療に有用に使用できる。
【選択図】図1
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
【配列表】
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