(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-08
(45)【発行日】2024-05-16
(54)【発明の名称】フィルタおよびマルチプレクサ
(51)【国際特許分類】
H03H 9/145 20060101AFI20240509BHJP
H03H 9/64 20060101ALI20240509BHJP
【FI】
H03H9/145 Z
H03H9/64 Z
(21)【出願番号】P 2019014848
(22)【出願日】2019-01-30
【審査請求日】2022-01-13
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000204284
【氏名又は名称】太陽誘電株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087480
【氏名又は名称】片山 修平
(72)【発明者】
【氏名】下村 輝
【審査官】及川 尚人
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/149878(WO,A1)
【文献】特開2012-138964(JP,A)
【文献】特開2019-004364(JP,A)
【文献】特表2004-523179(JP,A)
【文献】特開2018-137517(JP,A)
【文献】特開平11-220353(JP,A)
【文献】特開平04-132409(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H03H 9/145-9/76
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧電基板と、
前記圧電基板上に設けられ、一対の第1反射器と、前記一対の第1反射器の間に設けられた第1中央領域と、前記第1中央領域の両側に設けられ電極指のピッチが前記第1中央領域の電極指のピッチの平均値より小さく最も前記第1反射器に近い電極指と次に前記第1反射器に近い電極指とのピッチである第1ピッチが前記電極指のピッチのうち最も小さい一対の第1エッジ領域と、を有する一対の第1櫛型電極と、を有する第1弾性波共振器と、
前記第1弾性波共振器と直列接続または並列接続され、前記圧電基板上に設けられ、一対の第2反射器と、前記一対の第2反射器の間に設けられた第2中央領域と、前記第2中央領域の両側に設けられ電極指のピッチが前記第2中央領域の電極指のピッチの平均値より小さく最も前記第2反射器に近い電極指と次に前記第2反射器に近い電極指とのピッチである第2ピッチが前記電極指のピッチのうち最も小さくかつピッチの値が前記第1ピッチと異なる一対の第2エッジ領域と、を有する一対の第2櫛型電極と、を備える第2弾性波共振器と、
を備え、
前記第1エッジ領域の電極指の本数は2本以上であり、前記第2エッジ領域の電極指の本数は2本以上であり、
前記第1エッジ領域の電極指の本数と前記第2エッジ領域の電極指の本数は等しく、
前記一対の第1エッジ領域における電極指のピッチは前記第1反射器に向かって小さくなり、前記一対の第2エッジ領域における電極指のピッチは前記第2反射器に向かって小さくなり、
前記第1中央領域の電極指のピッチの平均値をD1とし、前記第1ピッチと前記第1中央領域の電極指のピッチの平均値との差をΔD1とし、前記第2中央領域の電極指のピッチの平均値をD2とし、前記第2ピッチと前記第2中央領域の電極指のピッチの平均値との差をΔD2としたとき、ΔD1/D1とΔD2/D2との差は0.001以上であり、
前記第1中央領域における前記電極指のピッチの最大値と前記電極指のピッチの最小値との差は、ΔD1の1/10以下であり、
前記第2中央領域における前記電極指のピッチの最大値と前記電極指のピッチの最小値との差は、ΔD2の1/10以下であり、
前記第1中央領域における前記電極指のピッチの平均値と前記第2中央領域における前記電極指のピッチの平均値との差はD1+D2の0.005倍以下であるフィルタ。
【請求項2】
前記第1エッジ領域の電極指の本数をN1としたとき、N1×ΔD1/D1は0.6以下であり、
前記第2エッジ領域の電極指の本数をN2としたとき、N2×ΔD2/D2は0.6以下である請求項
1に記載のフィルタ。
【請求項3】
前記第1弾性波共振器の共振周波数と前記第2弾性波共振器の共振周波数は等しい請求項1
または2に記載のフィルタ。
【請求項4】
前記第1弾性波共振器と前記第2弾性波共振器とは直列接続されている請求項1から
3のいずれか一項に記載のフィルタ。
【請求項5】
前記第1弾性波共振器と前記第2弾性波共振器とは並列接続されている請求項1から
3のいずれか一項に記載のフィルタ。
【請求項6】
入力端子と出力端子との間に直列に接続された1または複数の直列共振器と、
前記入力端子と前記出力端子との間に並列に接続された1または複数の並列共振器と、
を備え、
前記1または複数の直列共振器および前記1または複数の並列共振器の少なくとも1つは前記第1弾性波共振器および前記第2弾性波共振器を含む請求項1から
5のいずれか一項に記載のフィルタ。
【請求項7】
請求項1から
6のいずれか一項に記載のフィルタを含むマルチプレクサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フィルタおよびマルチプレクサに関し、例えば櫛型電極を有するフィルタおよびマルチプレクサに関する。
【背景技術】
【0002】
弾性表面波共振器では、圧電基板上に複数の電極指を有するIDT(Interdigital Transducer)および反射器が設けられている。反射器はIDTが励振する弾性波を反射しIDT内に閉じ込める。IDTの中央部に電極指のピッチが一定の等ピッチ領域を設け、IDTの両端部に電極指のピッチが徐々に小さくなるグラデーション領域を設けることが知られている(例えば特許文献1)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1によれば、スプリアスを抑制することができる。しかしながら、特許文献1の方法を用いたスプリアスの抑制は十分ではない。
【0005】
本発明は、上記課題に鑑みなされたものであり、スプリアスを抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、圧電基板と、前記圧電基板上に設けられ、一対の第1反射器と、前記一対の第1反射器の間に設けられた第1中央領域と、前記第1中央領域の両側に設けられ電極指のピッチが前記第1中央領域の電極指のピッチの平均値より小さく最も前記第1反射器に近い電極指と次に前記第1反射器に近い電極指とのピッチである第1ピッチが前記電極指のピッチのうち最も小さい一対の第1エッジ領域と、を有する一対の第1櫛型電極と、を有する第1弾性波共振器と、前記第1弾性波共振器と直列接続または並列接続され、前記圧電基板上に設けられ、一対の第2反射器と、前記一対の第2反射器の間に設けられた第2中央領域と、前記第2中央領域の両側に設けられ電極指のピッチが前記第2中央領域の電極指のピッチの平均値より小さく最も前記第2反射器に近い電極指と次に前記第2反射器に近い電極指とのピッチである第2ピッチが前記電極指のピッチのうち最も小さくかつピッチの値が前記第1ピッチと異なる一対の第2エッジ領域と、を有する一対の第2櫛型電極と、を備える第2弾性波共振器と、を備え、前記第1エッジ領域の電極指の本数は2本以上であり、前記第2エッジ領域の電極指の本数は2本以上であり、前記第1エッジ領域の電極指の本数と前記第2エッジ領域の電極指の本数は等しく、前記一対の第1エッジ領域における電極指のピッチは前記第1反射器に向かって小さくなり、前記一対の第2エッジ領域における電極指のピッチは前記第2反射器に向かって小さくなり、前記第1中央領域の電極指のピッチの平均値をD1とし、前記第1ピッチと前記第1中央領域の電極指のピッチの平均値との差をΔD1とし、前記第2中央領域の電極指のピッチの平均値をD2とし、前記第2ピッチと前記第2中央領域の電極指のピッチの平均値との差をΔD2としたとき、ΔD1/D1とΔD2/D2との差は0.001以上であり、前記第1中央領域における前記電極指のピッチの最大値と前記電極指のピッチの最小値との差は、ΔD1の1/10以下であり、前記第2中央領域における前記電極指のピッチの最大値と前記電極指のピッチの最小値との差は、ΔD2の1/10以下であり、前記第1中央領域における前記電極指のピッチの平均値と前記第2中央領域における前記電極指のピッチの平均値との差はD1+D2の0.005倍以下であるフィルタである。
【0010】
上記構成において、N1×ΔD1/D1は0.6以下であり、N2×ΔD2/D2は0.6以下である構成とすることができる。
【0011】
上記構成において、前記第1弾性波共振器の共振周波数と前記第2弾性波共振器の共振周波数は略等しい構成とすることができる。
【0012】
上記構成において、前記第1弾性波共振器と前記第2弾性波共振器とは直列接続されている構成とすることができる。
【0013】
上記構成において、前記第1弾性波共振器と前記第2弾性波共振器とは並列接続されている構成とすることができる。
【0014】
上記構成において、入力端子と出力端子との間に直列に接続された1または複数の直列共振器と、前記入力端子と前記出力端子との間に並列に接続された1または複数の並列共振器と、を備え、前記1または複数の直列共振器および前記1または複数の並列共振器の少なくとも1つは前記第1弾性波共振器および前記第2弾性波共振器を含む構成とすることができる。
【0015】
本発明は、上記フィルタを含むマルチプレクサである。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、スプリアスを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】
図1(a)は、比較例および実施例における弾性波共振器の平面図、
図1(b)は、
図1(a)のA-A断面図である。
【
図2】
図2(a)および
図2(b)は、実施例1に係るフィルタの回路図である。
【
図3】
図3は、実施例1における弾性波共振器のX方向に対するピッチを示す図である。
【
図4】
図4は、実施例1および比較例1におけるフィルタの通過特性を示す図である。
【
図5】
図5は、実施例1および比較例1から3におけるフィルタのスプリアスのピークの減衰量を示す図である。
【
図6】
図6(a)から
図6(c)は、実施例1の変形例1から3における弾性波共振器のX方向に対するピッチを示す図である。
【
図7】
図7(a)から
図7(d)は、実施例2およびその変形例1から3に係るラダー型フィルタの回路図である。
【
図8】
図8(a)は、実施例2の変形例4に係るフィルタの回路図、
図8(b)は、実施例2の変形例5に係るデュプレクサの回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下図面を参照し実施例について説明する。
【実施例1】
【0019】
図1(a)は、比較例および実施例における弾性波共振器の平面図、
図1(b)は、
図1(a)のA-A断面図である。電極指の配列方向をX方向、電極指の延伸方向をY方向、圧電基板の法線方向をZ方向とする。X方向、Y方向およびZ方向は圧電基板の結晶方位とは限らないが、圧電基板が回転YカットX伝搬基板のときにはX方向が結晶方位のX軸方位となる。
【0020】
図1(a)および
図1(b)に示すように、1ポート弾性波共振器26では、圧電基板10上にIDT24および反射器20が形成されている。IDT24および反射器20は、圧電基板10上に形成された金属膜12により形成される。一対の反射器20は、IDT24のX方向の両側に設けられている。
【0021】
IDT24は、対向する一対の櫛型電極18を備える。櫛型電極18は、複数の電極指14と、複数の電極指14が接続されたバスバー15と、を備える。一対の櫛型電極18は、少なくとも一部において一方の櫛型電極18の電極指14と他方の櫛型電極18の電極指14とが互い違いとなるように、対向して設けられている。反射器20は、複数の格子電極16と、複数の格子電極16が接続されたバスバー17と、を備える。
【0022】
一対の櫛型電極18の電極指14が励振する弾性波は、主にX方向に伝搬する。一対の櫛型電極18のうち一方の櫛型電極18の電極指14のピッチがほぼ弾性波の波長λとなる。反射器20は、弾性波を反射する。これにより弾性波のエネルギーがIDT24内に閉じ込められる。
【0023】
圧電基板10は、例えばタンタル酸リチウム基板、ニオブ酸リチウム基板または水晶基板であり、例えば回転YカットX伝搬タンタル酸リチウム基板またはニオブ酸リチウム基板である。圧電基板10は、例えば、単結晶サファイア基板、アルミナ基板、スピネル基板、水晶基板またはシリコン基板等の支持基板上に接合されていてもよい。圧電基板10と支持基板との間に酸化シリコン膜または窒化アルミニウム膜等の絶縁膜が設けられていてもよい。
【0024】
金属膜12は、例えばアルミニウム膜、銅膜またはモリブデン膜である。アルミニウム膜、銅膜またはモリブデン膜と圧電基板10との間にチタン膜またはクロム膜等の金属膜が設けられていてもよい。波長λは例えば500nmから2500nm、電極指14および格子電極16のX方向の幅は例えば200nmから1500nm、金属膜12の膜厚は例えば50nmから500nm、弾性波共振器26の静電容量は例えば0.1pFから10pFである。圧電基板10上に金属膜12を覆うように保護膜または温度補償膜として機能する絶縁膜が設けられていてもよい。
【0025】
図2(a)および
図2(b)は、実施例1に係るフィルタの回路図である。
図2(a)に示すように、端子T1とT2との間に弾性波共振器R1およびR2が直列に接続されている。
図2(b)に示すように、端子T1とT2との間に弾性波共振器R1およびR2が並列に接続されている。
【0026】
図3は、実施例1における弾性波共振器のX方向に対するピッチを示す図である。
図3内の上図は、弾性波共振器の平面図を示し、下図はX方向に対する電極指14のピッチを示す。
図3に示すように、ピッチは隣接する電極指14のX方向の中心間の距離である。IDT24はX方向の中央に位置する中央領域24aと、中央領域24aのX方向の両側に設けられた一対のエッジ領域24bと、を有している。
【0027】
弾性波共振器R1の中央領域24aにおける電極指14のピッチは、略一定であり、ピッチD1である。弾性波共振器R2の中央領域24aにおける電極指14のピッチは、略一定であり、ピッチD2である。ピッチD1とD2とは略等しい。これにより、弾性波共振器R1とR2との共振周波数は略等しく、弾性波共振器R1とR2との反共振周波数は略等しい。エッジ領域24bにおける電極指14のピッチは反射器20に向かうにしたがい小さくなる。電極指14aは電極指14のうち最も反射器20に近い電極指であり、電極指14bは次に反射器20に近い電極指14である。弾性波共振器R1における電極指14aと14bとのピッチD1aと弾性波共振器R2における電極指14aと14bとのピッチD2aは異なる。D2aはD1aより大きい。
【0028】
[シミュレーション]
図2(a)のように、弾性波共振器R1とR2とを直列に接続した実施例1および比較例に係るフィルタのシミュレーションを行った。シュミュレーション条件は以下である。
圧電基板10:42°YカットX伝搬タンタル酸リチウム基板
金属膜12:圧電基板10側から膜厚が50nmのチタン膜、膜厚が166nmのアルミニウム膜
中央領域24aのピッチ 2×P0:2.0μm
中央領域24aの対数:55対
エッジ領域24bの対数:12.5対
反射器20のピッチ:2.215μm
反射器20の対数:15対
IDT24、反射器20のデュティ比:50%
IDT24の開口長:30μm
IDT24および反射器20の対数は、電極指14および格子電極16が2本を1対としたときの対の数である。IDT24および反射器20のデュティ比は、電極指14および格子電極16の太さ/ピッチである。IDT24の開口長はY方向において電極指14の重なる交差領域の長さである。
【0029】
実施例1および比較例1から3において、ΔD1=D1-D1aおよびΔD2=D2-D2aとしたとき、ピッチの変化率ΔD1/D1およびΔD2/D2を%で表すと以下である。
実施例1:ΔD1/D1=0.9%、ΔD2/D2=0.7%
比較例1:ΔD1/D1=ΔD2/D2=0.7%
比較例2:ΔD1/D1=ΔD2/D2=0.8%
比較例3:ΔD1/D1=ΔD2/D2=0.9%
【0030】
図4は、実施例1および比較例1におけるフィルタの通過特性を示す図である。
図4に示すように、共振周波数frより低い周波数の領域にスプリアスA1からA6が生成されている。実施例1のスプリアスの大きさは比較例1より小さい。
【0031】
図5は、実施例1および比較例1から3におけるフィルタのスプリアスのピークの減衰量を示す図である。
図5に示すように、実施例1のスプリアスのピークの減衰量は比較例1から3のいずれよりも小さい。
【0032】
実施例1において、スプリアスが小さくなる理由は、弾性波共振器R1とR2とでスプリアスの生成される周波数がずれるため、と考えられる。このため、
図2(b)のように弾性波共振器R1とR2が並列に接続されている場合においてもスプリアスが抑制される。
【0033】
図6(a)から
図6(c)は、実施例1の変形例1から3における弾性波共振器のX方向に対するピッチを示す図である。
図6(a)に示すように、実施例1の変形例1では、エッジ領域24bにおいて反射器20に向かうにしたがいピッチの変化率が大きくなる。その他の構成は実施例1と同じであり説明を省略する。
図6(b)に示すように、実施例1の変形例2では、エッジ領域24bにおいて反射器20に向かうにしたがいピッチの変化率が小さくなる。その他の構成は実施例1と同じであり説明を省略する。
【0034】
実施例1のように、エッジ領域24bにおけるピッチの変化率はXに対し一定でもよい。実施例1の変形例1および2のように、エッジ領域24bにおけるピッチの変化率はXに対し変化してもよい。実施例1のように、エッジ領域24b内の電極指14のピッチを一定の傾きで変化させる場合、一対の電極指14の範囲内では電極指14の幅および電極指14間のギャップの幅を一定としてもよい。また、1対の電極指14の範囲内で電極指14の幅および電極指14間のギャップの幅を一定の傾きで変えてもよい。上記シミュレーションは後者である。
【0035】
図6(c)に示すように、実施例1の変形例3では、エッジ領域24bはピッチが一定な領域24cおよび24dに分かれている。領域24dよりIDT24に近い領域24cのピッチは領域24dのピッチより小さい。その他の構成は実施例1と同じであり説明を省略する。実施例1の変形例3のように、エッジ領域24bはピッチが一定の1または複数の領域を有してもよい。
【0036】
弾性波共振器R1におけるエッジ領域24bのピッチのXに対するプロファイルは
図3、
図6(a)から
図6(c)のいずれか1つであり、弾性波共振器R2のピッチのXに対するプロファイルは
図3、
図6(a)から
図6(c)のうち弾性波共振器R1と異なるプロファイルでもよい。弾性波共振器R1およびR2の少なくとも一方の弾性波共振器において一対のエッジ領域24bのピッチのXに対するプロファイルは異なっていてもよい。
【0037】
実施例1によれば、弾性波共振器R1(第1弾性波共振器)において、一対の櫛型電極18(第1櫛型電極)の中央領域24a(第1中央領域)の電極指14のピッチは略一定である。中央領域24aの両側に設けられた一対のエッジ領域24b(第1エッジ領域)では電極指14のピッチは中央領域24aの電極指14の平均のピッチD1(すなわちピッチの平均値)より小さい。最も反射器20(第1反射器)に近い電極指14aと次に反射器20に近い電極指14bとのピッチD1a(第1ピッチ)はエッジ領域24bの電極指14のピッチのうち最も小さい。
【0038】
弾性波共振器R2(第2弾性波共振器)において、一対の櫛型電極18(第2櫛型電極)の中央領域24a(第2中央領域)の電極指14のピッチは略一定である。エッジ領域24b(第2エッジ領域)では電極指14のピッチは中央領域24aの電極指14の平均のピッチD2(すなわちピッチの平均値)より小さい。最も反射器20(第2反射器)に近い電極指14aと次に反射器20に近い電極指14bとのピッチD2a(第2ピッチ)はエッジ領域24bの電極指14のピッチのうち最も小さい。
【0039】
これにより、弾性波共振器R1およびR2のスプリアスが抑制される。しかしながら、ピッチD1aとD2aが同じ場合スプリアスの抑制は十分ではない。
【0040】
そこで、エッジ領域24bにおけるピッチD1aとD2aを異ならせる。これにより、スプリアスをより抑制できる。
【0041】
なお、弾性波共振器R1およびR2の共振周波数が異なるとスプリアス以外の通過特性が異なってしまう。そこで、中央領域24aの平均のピッチD1とD2を略等しくする。これにより、弾性波共振器R1およびR2の共振周波数を略等しくできる。また、弾性波共振器R1およびR2の反共振周波数を略等しくすることが好ましい。
【0042】
中央領域24aにおける電極指14のピッチが略一定とは、スプリアスの抑制する効果を奏する程度に略一定との意味である。例えば、中央領域24a内の電極指14のピッチの最大値と最小値の差がD1-D1aおよびD2-D2aに比べ十分小さいことである。例えば、中央領域24a内の電極指14のピッチの最大値と最小値の差は、(D1-D1a)/2以下および(D2-D2a)/2以下であり、(D1-D1a)/10以下および(D2-D2a)/10以下である。
【0043】
中央領域24aの平均のピッチD1とD2とが略等しいとは、スプリアスの抑制する効果を奏する程度の略等しいとの意味である。例えば、|D1の平均値-D2|≦0.005(D1+D2)である。
【0044】
弾性波共振器R1とR2の共振周波数が略等しいとは、スプリアスの抑制する効果を奏する程度に略等しいとの意味である。例えば、弾性波共振器R1とR2の共振周波数の差は弾性波共振器R1とR2の共振周波数の平均の1%以内の範囲であることが好ましい。弾性波共振器R1とR2の反共振周波数の差は弾性波共振器R1とR2の反共振周波数の平均の1%以内の範囲であることが好ましい。
【0045】
エッジ領域24bの電極指14の本数は弾性波共振器R1とR2とで略等しいことが好ましい。これにより、弾性波共振器R1とR2とでスプリアスをより抑制できる。弾性波共振器R1とR2とのエッジ領域24bの電極指14の本数が略等しいとは、スプリアスの抑制する効果を奏する程度で略等しいとの意味である。例えば弾性波共振器R1とR2とのエッジ領域24bの電極指14の本数は±10%程度の範囲で等しい。
【0046】
同様に、同じ弾性波共振器内の一対のエッジ領域24bの電極指14の本数は略等しいことが好ましい。これにより、弾性波共振器におけるスプリアスをより抑制できる。一対のエッジ領域24b間の電極指14の本数が略等しいとは、スプリアスの抑制する効果を奏する程度の略等しいとの意味である。例えば弾性波共振器R1とR2とのエッジ領域24bの電極指14の本数は±10%程度の範囲で等しい。
【0047】
中央領域24aの電極指14の本数は弾性波共振器R1とR2とで略等しいことが好ましい。これにより、弾性波共振器R1とR2とでスプリアスをより抑制できる。弾性波共振器R1とR2との中央領域24aの電極指14の本数が略等しいとは、スプリアスの抑制する効果を奏する程度で略等しいとの意味である。例えば弾性波共振器R1とR2との中央領域24aの電極指14の本数は±10%程度の範囲で等しい。
【0048】
実施例1およびその変形例1および2のように、弾性波共振器R1およびR2のエッジ領域24bにおける電極指14のピッチは反射器20に向かって小さくなる。このように、エッジ領域24bの電極指14のピッチを徐々に変化させる。これにより、エッジ領域24bにおける弾性波の損失が小さくなる。
【0049】
弾性波共振器R1およびR2のエッジ領域24bの電極指14の本数をそれぞれN1およびN2とする。N1、N2、ΔD1/D1およびΔD2/D2が大きいと、弾性波共振器R1およびR2の共振器特性に影響してしまう。そこで、N1×ΔD1/D1≦0.6およびN2×ΔD2/D2≦0.6が好ましい。N1×ΔD1/D1≦0.4およびN2×ΔD2/D2≦0.4がより好ましく、N1×ΔD1/D1≦0.2およびN2×ΔD2/D2≦0.2がさらに好ましい。N1およびN2は80本以下が好ましく、40本以下がより好ましい。ΔD1/D1およびΔD2/D2は0.1以下が好ましく、0.05以下がより好ましく、0.02以下がさらに好ましい。
【0050】
N1、N2、ΔD1/D1およびΔD2/D2が小さいと、弾性波共振器R1およびR2のスプリアスを抑制する効果が小さくなる。そこで、0.001≦N1×ΔD1/D1および0.001≦N2×ΔD2/D2が好ましく、0.01≦N1×ΔD1/D1および0.01≦N2×ΔD2/D2がより好ましい。N1およびN2は2本以上が好ましく、4本以上がより好ましい。ΔD1/D1およびΔD2/D2は0.001以上が好ましく、0.005以上がより好ましい。
【0051】
ΔD1/D1とΔD2/D2との差は0.001以上が好ましく、0.005以上がより好ましく、0.01以上がさらに好ましい。これにより、スプリアスを抑制できる。
【0052】
弾性波共振器R1およびR2のエッジ領域24bの電極指14の本数は、中央領域24aの電極指14の本数より小さいことが好ましく、中央領域24aの電極指14の本数の1/2以下が好ましい。これにより、弾性波共振器R1およびR2の特性劣化を抑制できる。
【実施例2】
【0053】
実施例2はラダー型フィルタの例である。
図7(a)から
図7(d)は、実施例2およびその変形例1から3に係るラダー型フィルタの回路図である。
図7(a)から
図7(d)に示すように、入力端子T1と出力端子T2との間に、直列に1または複数の直列共振器S1からS4が接続され、並列に1または複数の並列共振器P1からP4が接続されている。直列共振器および並列共振器の個数は適宜選択できる。
【0054】
図7(a)のように、実施例2では、少なくとも1つの直列共振器S1おいて複数の直列共振器S1aおよびS1bが直列に接続されている。直列共振器S1aおよびS1bをそれぞれ弾性波共振器R1およびR2とする。これにより、スプリアスを抑制できる。
【0055】
図7(b)のように、実施例2の変形例1では、少なくとも1つの直列共振器S1おいて複数の直列共振器S1aおよびS1bが並列に接続されている。直列共振器S1aおよびS1bをそれぞれ弾性波共振器R1およびR2とする。これにより、スプリアスを抑制できる。
【0056】
図7(c)のように、実施例2の変形例2では、少なくとも1つの並列共振器P1おいて複数の並列共振器P1aおよびP1bが直列に接続されている。並列共振器P1aおよびP1bをそれぞれ弾性波共振器R1およびR2とする。これにより、スプリアスを抑制できる。
【0057】
図7(d)のように、実施例2の変形例3では、少なくとも1つの並列共振器P1おいて複数の並列共振器P1aおよびP1bが並列に接続されている。並列共振器P1aおよびP1bをそれぞれ弾性波共振器R1およびR2とする。これにより、スプリアスを抑制できる。
【0058】
実施例2およびその変形例では、直列共振器S1からS4および並列共振器P1からP4のうち1つの共振器を複数の直列接続または並列接続された弾性波共振器R1およびR2で構成したが、直列共振器S1からS4および並列共振器P1からP4のうち少なくとも1つの共振器を複数の直列接続または並列接続された弾性波共振器R1およびR2で構成すればよい。
【0059】
図8(a)は、実施例2の変形例4に係るフィルタの回路図である。
図8(a)に示すように、1または複数の直列共振器S1からS4のうち2つの直列共振器が直列に接続された第1弾性波共振器R1および第2弾性波共振器R2でもよい。1または複数の並列共振器P1からP4のうち2つの並列共振器が並列に接続された第1弾性波共振器R1および第2弾性波共振器R2でもよい。これにより、スプリアスを抑制できる。
【0060】
図8(b)は、実施例2の変形例5に係るデュプレクサの回路図である。
図8(b)に示すように、共通端子Antと送信端子Txとの間に送信フィルタ40が接続されている。共通端子Antと受信端子Rxとの間に受信フィルタ42が接続されている。送信フィルタ40は、送信端子Txから入力された信号のうち送信帯域の信号を送信信号として共通端子Antに通過させ、他の周波数の信号を抑圧する。受信フィルタ42は、共通端子Antから入力された信号のうち受信帯域の信号を受信信号として受信端子Rxに通過させ、他の周波数の信号を抑圧する。送信フィルタ40および受信フィルタ42の少なくとも一方を実施例2のフィルタとすることができる。送信フィルタ40には大電力の高周波信号が印加される。そこで、送信フィルタ40に実施例2のフィルタを用いることが好ましい。
【0061】
マルチプレクサとしてデュプレクサを例に説明したがトリプレクサまたはクワッドプレクサでもよい。
【0062】
以上、本発明の実施例について詳述したが、本発明はかかる特定の実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【符号の説明】
【0063】
10 圧電基板
12 金属膜
14、14a 電極指
18 櫛型電極
20 反射器
24 IDT
24a 中央領域
24b エッジ領域
40 送信フィルタ
42 受信フィルタ