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  • 特許-ガス貯蔵放出材料 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-08
(45)【発行日】2024-05-16
(54)【発明の名称】ガス貯蔵放出材料
(51)【国際特許分類】
   B01J 20/26 20060101AFI20240509BHJP
   C08F 265/06 20060101ALI20240509BHJP
   B01J 20/28 20060101ALI20240509BHJP
   B01J 20/34 20060101ALI20240509BHJP
【FI】
B01J20/26 A
C08F265/06
B01J20/28 A
B01J20/34 E
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020141146
(22)【出願日】2020-08-24
(65)【公開番号】P2022036774
(43)【公開日】2022-03-08
【審査請求日】2023-02-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000206211
【氏名又は名称】大成建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100162396
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 泰之
(74)【代理人】
【識別番号】100122954
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷部 善太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100214363
【弁理士】
【氏名又は名称】安藤 達也
(72)【発明者】
【氏名】有村 智朗
【審査官】塩谷 領大
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-019188(JP,A)
【文献】特開2004-331776(JP,A)
【文献】国際公開第2019/059368(WO,A1)
【文献】特表2014-512442(JP,A)
【文献】特表2014-522298(JP,A)
【文献】特開2019-099698(JP,A)
【文献】特開平01-258740(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 20/00-20/28
B01J 20/30-20/34
C08F 265/06
B01D 53/14-53/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機重合体多孔質微粒子に、エチレン性不飽和モノマー単位を含む重合体がグラフトしたグラフト共重合体を含む、水素貯蔵放出材料。
【請求項2】
前記有機重合体多孔質微粒子が、(メタ)アクリル酸エステル系モノマー単位と、架橋性モノマー単位とを含む架橋(メタ)アクリル酸エステル系重合体多孔質微粒子を含む、請求項1に記載の水素貯蔵放出材料。
【請求項3】
前記エチレン性不飽和モノマー単位を含む重合体が、(メタ)アクリル酸エステル系モノマー単位を含む重合体を含む、請求項1又は2に記載の水素貯蔵放出材料。
【請求項4】
前記エチレン性不飽和モノマー単位を含む重合体が、(メタ)アクリル酸エステル系モノマー単位、芳香族ビニル系モノマー単位、及び、不飽和カルボン酸系モノマー単位を含む重合体を含む、請求項1~3のいずれかに記載の水素貯蔵放出材料。
【請求項5】
水素の貯蔵及び/又は放出が、加圧、減圧、昇温、降温、電位の印加及びエネルギー波の照射からなる群より選ばれる1つ以上の手段を含む方法により行われる、請求項1~4のいずれかに記載の水素貯蔵放出材料。
【請求項6】
水素貯蔵放出材料の形状が、粒子、繊維、フィルム、不織布、織布、多孔質体、成形体である、請求項1~5のいずれかに記載の水素貯蔵放出材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガスを貯蔵及び放出することができるガス貯蔵放出材料に関する。
【背景技術】
【0002】
地球温暖化のような環境問題を解決するために、これまでの化石燃料に代わる、クリーンなエネルギー源の開発が進められている。このうち、水素は、資源が多様かつ豊富であり、燃焼性能特性・発熱量が良好であり、燃料電池や内燃機関による発電時に二酸化炭素が排出されない低環境負荷であることから、エネルギー源として有望なものの一つとされている。
【0003】
水素をエネルギー源として用いるためには、変動する需要に柔軟に対応して供給を行うことができる、水素の貯蔵・放出システムの構築が必要である。しかし、水素は常温常圧で気体であるため、現在、タンクやボンベ等の容器を用い高圧水素ガスとして貯蔵されている。
これまで水素を利用する場合、高圧水素や液体水素をタンクローリーにより輸送する必要があった。また、水素貯蔵施設においても、高圧水素ガスタンクなどの大規模なインフラの整備が必要であった。
【0004】
容器を用いた高圧水素ガスの貯蔵・放出システムに代えて、オンサイトで水素を使用する場合、水素と材料間の相互作用により低圧で大量かつ安全に貯蔵・放出できる、水素貯蔵放出材料を用いた水素貯蔵・放出システムが検討されている。水素貯蔵放出材料は、水素を選択的かつ可逆的に貯蔵及び放出できる材料である。水素貯蔵放出材料としては、水素貯蔵合金が有望とされているが、水素貯蔵能力に問題がある。また、不純物ガスによる性能低下や、レアメタルや高純度金属を原材料として使用することに伴うコスト上昇等の点において、改善の余地がある。さらに、水素貯蔵合金は、加工性が悪く、鉄やマンガン等を構成成分とし比重が6~8程度と大きいため貯蔵体の重量が大きくなってしまう。しかも、水素貯蔵時には冷却が、水素放出時には加熱が必要であり、取り扱い性の点で問題がある。
【0005】
水素貯蔵合金に代わるガス貯蔵放出材料として、種々の有機系材料が研究開発されている。
特許文献1には、ポリアミック酸と反応触媒となるフェロセンとを混合し200℃以上の加熱によりポリイミドを生成し、さらに高温にて処理することにより六員環化合物が層状になった化合物を得て、得られた層の間に水素分子を貯蔵し得る水素貯蔵放出材料が記載されている。しかし、水素貯蔵放出材料を製造する際に高温処理が必要である。また、水素貯蔵を行う際には10MPaという高い圧力が必要であるにもかかわらず、水素貯蔵率が低い。
【0006】
特許文献2には、芳香族高分子を2000℃以上の高温下で処理してグラファイトシートを作製し、グラファイトシートの炭素-炭素結合からなる層状積層面間に水素分子を貯蔵し得る水素貯蔵放出材料が記載されている。しかし、水素貯蔵放出材料を製造する際に高温処理が必要である。また、水素貯蔵を行う際に12MPaという高い圧力が必要となる。
【0007】
特許文献3には、メラミンやポリビニルピロリドンの窒素部位に水素化アルミニウムを結合させた構造を有している水素貯蔵放出材料が記載されている。しかし、水素を放出する際の温度は100℃と高温であり、一度放出した水素が再び化合物中に取り込まれることは無い不可逆的なものであって、実用的ではない。
【0008】
特許文献4には、メタケイ酸アルミン酸マグネシウムなどの多孔質材料の表面に、ポリビニルアルコールをコーティングして得られる水素貯蔵放出材料が記載されている。しかし、この水素貯蔵放出材料は、水素貯蔵放出能力が低く実用的ではない。
【0009】
特許文献5には、水素を包摂するホスト化合物を含む水素貯蔵放出材料が記載されている。しかし、この水素貯蔵放出材料は、貯蔵放出処理を3回行う前処理操作が必要である。さらに、水素導入圧力は10MPaと高い圧力が必要であるにもかかわらず、水素貯蔵能力が低い。
【0010】
特許文献6には、大容量高分子ポリマー水素貯蔵材料が記載されている。しかし、主鎖となる線状高分子ポリマーにポリアミンを反応させた後に水素化ホウ素を反応させる必要があり、ポリマーの合成手順が煩雑なものであった。
【0011】
近年、金属と有機化合物が金属クラスターを形成した有機金属構造体(MOF)の研究が盛んである。MOFは、ゼオライト、アルミナ、シリカなどよりも遥かに大きい4000m/g以上の比表面積を有し、気体分子を封入させることができる。例えば、MOFとして市販されているBasolite-Z377(BASF社製有機金属構造体(MOF))は、水素ガスの場合、77Kで7.5W%の高い水素貯蔵能力を有するとされている。しかしながら、77Kという温度は、水素の輸送を考えた場合、冷却装置が大型化するとともに莫大な冷却エネルギーが必要であり、液体水素の温度(20K)と近いため、実用的なものではない。
以上のように、これまで、簡単な方法を用いて合成可能であり、常温(23℃)前後で水素貯蔵放出能力を有するガス貯蔵放出材料は知られていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【文献】特開2005-95795号公報
【文献】特開2005-67977号公報
【文献】特開2009-196960号公報
【文献】特開2010-89987号公報
【文献】特開2005-106113号公報
【文献】特表2015-531418号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明の解決しようとする課題は、新規なガス貯蔵放出材料を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意検討を行った。この結果、有機重合体多孔質微粒子に、エチレン性不飽和モノマー単位を含む重合体がグラフトしたグラフト共重合体を含むガス貯蔵放出材料が、各種のガス、特に水素の貯蔵・放出性に優れており、これを用いることにより上記課題が解決できることを見出した。
【0015】
すなわち、上記課題を解決する本発明には、以下の構成が主に含まれる。
[1]有機重合体多孔質微粒子に、エチレン性不飽和モノマー単位を含む重合体がグラフトしたグラフト共重合体を含む、ガス貯蔵放出材料。
[2]前記有機重合体多孔質微粒子が、(メタ)アクリル酸エステル系モノマー単位と、架橋性モノマー単位とを含む架橋(メタ)アクリル酸エステル系重合体多孔質微粒子を含む、[1]に記載のガス貯蔵放出材料。
[3]前記エチレン性不飽和モノマー単位を含む重合体が、(メタ)アクリル酸エステル系モノマー単位を含む重合体を含む、[1]又は[2]に記載のガス貯蔵放出材料。
[4]前記エチレン性不飽和モノマー単位を含む重合体が、(メタ)アクリル酸エステル系モノマー単位、芳香族ビニル系モノマー単位、及び、不飽和カルボン酸系モノマー単位を含む重合体を含む、[1]~[3]のいずれかに記載のガス貯蔵放出材料。
[5]ガスが、水素、二酸化炭素、窒素、希ガス、炭化水素ガスからなる群より選ばれる1種類以上である、[1]~[4]のいずれかに記載のガス貯蔵放出材料。
[6]ガスの貯蔵及び/又は放出が、加圧、減圧、昇温、降温、電位の印加及びエネルギー波の照射からなる群より選ばれる1つ以上の手段を含む方法により行われる、[1]~[5]のいずれかに記載のガス貯蔵放出材料。
[7]ガス貯蔵放出材料の形状が、粒子、繊維、フィルム、不織布、織布、多孔質体、成形体である、[1]~[6]のいずれかに記載のガス貯蔵放出材料。
【発明の効果】
【0016】
本発明により、水素貯蔵・放出性が非常に優れている、新規なガス貯蔵放出材料が提供される。特に、これまでに知られている水素貯蔵放出材料よりも水素を多量に貯蔵でき、水素貯蔵放出材料の単位体積当たりの重量が小さく、水素を貯蔵させる場合の冷却や放出させる際の加温のエネルギーが小さく、水素貯蔵・放出の制御が容易なガス貯蔵放出材料が提供される。
本発明のガス貯蔵放出材料は、容易に入手できる化合物を用い、簡便な合成方法により得られることから、安価で汎用性が高い。また、これまでガス貯蔵放出材料として知られている高分子材料よりも、ガス貯蔵放出能力が高く、さらに、水素貯蔵合金よりも軽量であることから、取扱性に優れ、効率の良い水素輸送が可能となる。そして、水素の貯蔵・放出時の、加熱冷却、加圧減圧等の条件を温和なものとすることができることから、低いエネルギー利用下にて使用できる。そのため、余剰電力から得られた水素を利用施設に輸送する水素サプライチェーンを、安全に安価で構築することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の気体貯蔵放出化合物を含むガス貯蔵放出材料と、水素貯蔵合金との水素貯蔵・放出性を示す図
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明に係る、有機重合体多孔質微粒子に、エチレン性不飽和モノマー単位を含む重合体がグラフトしたグラフト共重合体を含む、ガス貯蔵放出材料について説明する。
【0019】
[グラフト共重合体]
<有機重合体多孔質微粒子>
グラフト共重合体を構成する有機重合体多孔質微粒子は、微粒子表面に複数の孔(細孔)が形成されている多孔質のものであれば、特に限定されない。
【0020】
(細孔径及び細孔容積)
有機重合体多孔質微粒子の細孔径は、例えば、2.0~30.0nmの範囲内であり、4.0~20.0nmの範囲内であることが好ましい。細孔径が2.0nm未満のものは、製造が困難である場合があり、また、ガスの吸収性(貯蔵性)や放出性が十分でないおそれがある。細孔径が20.0nmを超えると、細孔内においてガスを確実に貯蔵することが困難になるおそれがある。
有機重合体多孔質微粒子の細孔容積は、例えば、0.1~1.0ml/gの範囲内であり、0.3~0.7ml/gの範囲内であることが好ましい。細孔容積が0.1ml/g未満のものは、ガスの吸収性(貯蔵性)が十分でないおそれがある。細孔容積が1.0ml/gを超えると、ガスの放出性が十分でないおそれがある。
【0021】
本発明において、有機重合体多孔質微粒子の細孔径(平均細孔径)および細孔容積(積算細孔容積)は、BJH法により求める。例えば、島津製作所社製の自動比表面積/細孔分布測定装置Tristar3000を用い、対象となる有機重合体多孔質微粒子の窒素脱着等温線を測定し、BJH法に基づいて、細孔径(平均細孔径)及び細孔容積(積算細孔容積)を算出する。窒素脱着等温線の測定は、吸着質として窒素を用い、例えば、吸着質断面積0.162nmの条件下で定容法を用いて行うことができる。
【0022】
(比表面積)
有機重合体多孔質微粒子の比表面積は、特に限定されないが、例えば、1~1000m/gの範囲内であり、5~700m/gの範囲内であることが好ましく、8~500m/gの範囲内であることがさらに好ましい。比表面積が1m/g未満のものは、入手が困難である場合があり、また、ガスの吸収性(貯蔵性)や放出性が十分でないおそれがある。比表面積が1000m/gを超えると、有機重合体多孔質微粒子が凝集しグラフト共重合体の形成反応に支障が生じるおそれがある。
【0023】
本発明において、有機重合体多孔質微粒子の比表面積は、単位重量あたりの表面積のことをいい、ISO 9277第1版 JIS Z 8830:2001記載のBET法(窒素吸着法)により測定されたものである。例えば、島津製作所社製の自動比表面積/細孔分布測定装置Tristar3000を用い、対象となる有機重合体多孔質微粒子のBET窒素吸着等温線を測定し、窒素吸着量からBET多点法を用いて比表面積を算出し、加熱ガスパージによる前処理を実施した後、吸着質として窒素を用い、吸着質断面積0.162nmの条件下で定容量法を用いて測定を行って得ることができる。なお、前処理は、有機重合体多孔質微粒子が入った容器を65℃で加熱しながら窒素パージを20分行い、室温放冷した後、その容器を65℃で加熱しながら容器内圧力が0.05mmHg以下になるまで真空脱気を行う方法があげられる。
【0024】
(体積平均粒子径及びCV値)
有機重合体多孔質微粒子の体積平均粒子径は、特に限定されないが、例えば、0.5~40.0μmの範囲内であり、4~20μmの範囲内であることが好ましい。これにより、十分な表面積を確保することができ、その結果、ガスの吸収性(貯蔵性)や放出性を確保することができ、さらに、グラフト化反応を適切に行うことができる。
有機重合体多孔質微粒子の粒子径の変動係数(CV値)は、特に限定されないが、例えば、50%以下の範囲内であり、40%以下の範囲内であることが好ましく、25%以下の範囲内であることがより好ましい。粒子径の変動係数が、前記範囲内にあると、グラフト化反応を適切に行うことができる。
【0025】
(吸油量)
有機重合体多孔質微粒子の吸油量は、特に限定されないが、例えば、50~700ml/100gの範囲内であり、100~400ml/100gの範囲内であることが好ましい。これにより、ガスの吸収性(貯蔵性)や放出性を確保することができ、さらに、グラフト化反応を適切に行うことができる。
有機重合体多孔質微粒子の吸油量は、JIS K 5101-13-2の測定方法をベースとして、精製アマニ油を使用し、終点の判断基準を変更した方法によって、以下の方法により測定することができる。
【0026】
(A)装置及び器具
測定板 :平滑なガラス板(300mm×400mm×5mm以上)を使用
ヘラ :鋼製又はステンレス製で柄つきのものを使用
計量器 :10mgオーダー測定可能なものを使用
ビュレット:JIS R 3505に規定する容量10mlのものを使用
(B)試薬
精製アマニ油:ISO 150に規定するもの(例えば、一級アマニ油(富士フイルム和光純薬工業社製)等)
(C)測定方法
(1)有機重合体多孔質微粒子1gを測定板上の中央部に取り、精製アマニ油をビュレットから一回に4~5滴、徐々に有機重合体多孔質微粒子の中央に滴下し、その都度、有機重合体多孔質微粒子及び精製アマニ油の全体をヘラで練り合わせる。
(2)滴下及び練り合わせを繰り返し、有機重合体多孔質微粒子及び精製アマニ油の全体が固いパテ状の塊になったら1滴ごとに練り合わせて、精製アマニ油の最後の1滴の滴下によりペースト(有機重合体多孔質微粒子及び精製アマニ油の混練物)が急激に軟らかくなり、流動を始める点を終点とする。
【0027】
(有機重合体)
有機重合体多孔質微粒子を構成する有機重合体は特に限定されない。例えば、(メタ)アクリル系重合体、ポリオレフィン系重合体、ビニルエステル系重合体、スチレン系重合体、塩化ビニル系重合体、コアシェル系重合体、ポリアミド系重合体、ポリエステル系重合体、ポリウレタン系重合体、ポリシロキサン系重合体等からなる群より選ばれる1種類以上があげられる。
本発明においては、(メタ)アクリル系重合体の1種類以上が好ましく、(メタ)アクリル酸エステル系重合体の1種類以上がより好ましい。なかでも、(メタ)アクリル酸エステル系モノマー単位と、架橋性モノマー単位とを含む架橋(メタ)アクリル酸エステル系重合体から構成される多孔質微粒子が最も好ましい。
【0028】
本明細書において、(メタ)アクリル系重合体は、アクリル系重合体及び/又はメタクリル系重合体を意味する。アクリル系重合体及びメタクリル系重合体は、それぞれ単独で用いてもよく、併用してもよい。また、アクリル系重合体は、その原料モノマーにアクリル系モノマーが使用されているものを意味し、メタクリル系重合体は、その原料モノマーにメタクリル系モノマーが使用されているものを意味する。したがって、アクリル系重合体及びメタクリル系重合体に原料モノマーとしてアクリル系モノマー及びメタクリル系モノマーの双方が使用されている場合、両者は相互に重複する概念を有する。
【0029】
本明細書において、(メタ)アクリル酸は、アクリル酸及び/又はメタクリル酸を意味する。同様に、(メタ)アクリル酸エステルは、アクリル酸エステル及び/又はメタクリル酸エステルを意味する。
本明細書において、(メタ)アクリレートは、アクリレート及び/又はメタクリレートを意味する。アクリレート及びメタクリレートは、それぞれ単独で用いてもよく、併用してもよい。
本明細書において、(メタ)アクリル系モノマーは、アクリル系モノマー及び/又はメタクリル系モノマーを意味する。アクリル系モノマー及びメタクリル系モノマーは、それぞれ単独で用いてもよく、併用してもよい。
【0030】
{有機重合体多孔質微粒子を構成する(メタ)アクリル酸エステル系モノマー}
(メタ)アクリル酸エステル系重合体を構成する(メタ)アクリル酸エステル系モノマーとしては、(メタ)アクリル酸残基とアルコール残基とで構成され、アクリロイル基又はメタクリロイル基を1つ有するエステルである。
(メタ)アクリル酸エステル系モノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸i-ブチル、(メタ)アクリル酸t-ブチル、(メタ)アクリル酸ペンチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸n-オクチル、(メタ)アクリル酸ドデシル、(メタ)アクリル酸ステアリル等の(メタ)アクリル酸アルキルエステル;(メタ)アクリル酸ベンジル等の(メタ)アクリル酸アリールエステル;(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシブチル、カプロラクトン変性(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシエチル等の(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルエステル;α-ヒドロキシメチルアクリル酸メチル、α-ヒドロキシメチルアクリル酸エチル、α-ヒドロキシメチルアクリル酸ブチル、α-ヒドロキシエチルアクリル酸メチル、α-ヒドロキシエチルアクリル酸エチル、α-ヒドロキシエチルアクリル酸ブチル等のα-ヒドロキシアルキルアクリル酸アルキルエステル;(メタ)アクリル酸メトキシエチル、(メタ)アクリル酸のエチレンオキサイド付加物等の(メタ)アクリル酸誘導体;(メタ)アクリル酸3,4-エポキシシクロヘキシル、(メタ)アクリル酸グリシジル、(メタ)アクリル酸β-メチルグリシジル、(メタ)アクリル酸オキセタニル等の環状エーテル基含有(メタ)アクリル酸エステル;メトキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、エトキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、イソオクチルオキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、フェノキシトリエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシトリエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート等のエチレングリコール(メタ)アクリレート系モノマー;(メタ)アクリル酸トリフルオロメチルメチル、(メタ)アクリル酸2-トリフルオロメチルエチル、(メタ)アクリル酸2-パーフルオロエチルエチル、(メタ)アクリル酸2-パーフルオロエチル-2-パーフルオロブチルエチル、(メタ)アクリル酸2-パーフルオロエチル、(メタ)アクリル酸パーフルオロメチル、(メタ)アクリル酸トリフルオロメチルメチル、(メタ)アクリル酸2-トリフルオロメチルエチル、(メタ)アクリル酸ジパーフルオロメチルメチル、(メタ)アクリル酸2-パーフルオロエチルエチル、(メタ)アクリル酸2-パーフルオロメチル-2-パーフルオロエチルメチル、(メタ)アクリル酸トリパーフルオロメチルメチル、(メタ)アクリル酸2-パーフルオロエチル-2-パーフルオロブチルエチル、(メタ)アクリル酸2-パーフルオロヘキシルエチル、(メタ)アクリル酸2-パーフルオロデシルエチル、(メタ)アクリル酸2-パーフルオロヘキサデシルエチル、パーフルオロエチレン等の(メタ)アクリル酸パーフルオロアルキルエステル;γ-(メタクリロイルオキシプロピル)トリメトキシシラン等のケイ素含有(メタ)アクリル酸エステル系モノマー等からなる群より選ばれる1種類以上があげられる。
【0031】
本発明においては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸i-ブチル、(メタ)アクリル酸t-ブチル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸n-オクチル、(メタ)アクリル酸ドデシル、(メタ)アクリル酸ステアリル等の(メタ)アクリル酸アルキルエステル;(メタ)アクリル酸ベンジル等の(メタ)アクリル酸アリールエステル;(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシプロピル等の(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルエステルからなる群より選ばれる1種類以上が好ましく、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸n-オクチル、(メタ)アクリル酸ドデシル、(メタ)アクリル酸ステアリル等の(メタ)アクリル酸アルキルエステル;(メタ)アクリル酸ベンジル等の(メタ)アクリル酸アリールエステルからなる群より選ばれる1種類以上がより好ましい。最も好ましくは、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル及び(メタ)アクリル酸ブチルからなる群より選ばれる1種類以上である。
【0032】
(メタ)アクリル酸エステル系モノマー単位は、有機重合体多孔質微粒子を構成する全モノマー単位を100質量%とした場合、例えば、50.0~99.9質量%の範囲内であり、60.0~99.5質量%の範囲内が好ましく、70.0~99質量%の範囲内がより好ましい。
【0033】
{有機重合体多孔質微粒子を構成する架橋性モノマー}
架橋(メタ)アクリル酸エステル系重合体を構成する架橋性モノマーとしては、例えば、エチレン性不飽和基を2個以上有する多官能(メタ)アクリル酸エステル系モノマー及び多官能芳香族系モノマー等からなる群より選ばれる1種類以上があげられる。
【0034】
多官能(メタ)アクリル酸エステル系モノマーとしては、例えば、アリル(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ノナエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラデカエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、デカエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ペンタデカエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,3-ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,4-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、グリセリンジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、フタル酸ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、カプロラクトン変性ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、カプロラクトン変性ヒドロキシピバリン酸エステルネオペンチルグリコールジアクリレート、ポリエステルアクリレート、ウレタンアクリレート等からなる群より選ばれる1種類以上があげられる。
【0035】
多官能芳香族系モノマーとしては、例えば、ジビニルベンゼン、ジビニルナフタレン、ジビニルトルエン及びこれらの化合物の芳香環に置換基が導入された誘導体からなる群より選ばれる1種類以上があげられる。
さらに、架橋性モノマーとしては、ジアリルフタレート及び/又はトリアリルイソシアヌレートがあげられる。
【0036】
中でも、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,3-ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,4-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ジビニルベンゼン等からなる群より選ばれる1種類以上のモノマーが好ましい。
架橋性モノマー単位は、有機重合体多孔質微粒子を構成する全モノマー単位を100質量%とした場合、例えば、0.1~50.0質量%の範囲内であり、0.5~40.0質量%の範囲内が好ましく、1.0~30.0質量%の範囲内がより好ましい。
【0037】
{有機重合体多孔質微粒子を構成するその他のモノマー}
架橋(メタ)アクリル酸エステル系重合体は、(メタ)アクリル酸エステル系モノマー単位及び架橋性モノマー単位以外の「その他のモノマー単位」を含んでいてもよい。このようなモノマー単位としては、例えば、スチレン、ビニルトルエン等の芳香族ビニル系モノマー単位、酢酸ビニル等のビニルエステル系モノマー単位、塩化ビニル等のハロゲン化ビニル系モノマー単位、(メタ)アクリル酸等の不飽和カルボン酸系モノマー単位、(メタ)アクリロニトリル、(メタ)アクリルアミド等のモノマー単位からなる群より選ばれる1種類以上があげられる。
(メタ)アクリル酸エステル系モノマー単位及び架橋性モノマー単位以外のモノマー単位は、有機重合体多孔質微粒子を構成する全モノマー単位を100質量%とした場合、例えば、0~50.0質量%の範囲内であり、0~30.0質量%の範囲内が好ましく、0~10.0質量%の範囲内がより好ましい。
【0038】
このような有機重合体多孔質微粒子としては、例えば、テクポリマーシリーズ(積水化成品工業社製;MBP-8、AQP-8C等)、Orgasolシリーズ(アルケマ社製)、Covabeadシリーズ(WAKER社製)、Jurymerシリーズ(東亜合成社製;MB-1P等)、マツモトマイクロスフェアーMシリーズ(松本油脂製薬社製)、MICROPEARL MシリーズまたはMICROPEARL M 100シリーズ(SEPPIC社製)、ガンツパールシリーズ(アイカ工業社製)等の市販品を使用することができる。
【0039】
<エチレン性不飽和モノマー単位を含む重合体>
有機重合体多孔質微粒子にグラフトし、グラフト鎖を形成するエチレン性不飽和モノマー単位を含む重合体は特に限定されず、エチレン性不飽和モノマーの単独重合体又は共重合体があげられる。
例えば、(メタ)アクリル系重合体、ポリオレフィン系重合体、ビニルエステル系重合体、スチレン系重合体、塩化ビニル系重合体、コアシェル系重合体等からなる群より選ばれる1種類以上があげられる。
【0040】
(エチレン性不飽和モノマー)
グラフト鎖を構成する重合体を構成するエチレン性不飽和モノマーは、ビニル基、アリル基、(メタ)アクリロイル基等のエチレン性不飽和基を1つ以上有する化合物である。
エチレン性不飽和モノマーとしては、例えば、オレフィン系モノマー、不飽和芳香族系モノマー、ハロゲン化ビニル系モノマー、ビニルエステル系モノマー、(メタ)アクリル酸エステル系モノマー、不飽和カルボン酸系モノマー、(メタ)アクリロニトリル系モノマー、(メタ)アクリルアミド系モノマー等があげられる。
【0041】
グラフト鎖を構成する重合体を構成するオレフィン系モノマーとしては、例えば、エチレン、プロピレン、1-ブテン、イソブチレン、1-ヘキセン等の炭素数2~10のアルケン等からなる群より選ばれる1種類以上があげられる。
【0042】
グラフト鎖を構成する重合体を構成する不飽和芳香族系モノマーとしては、例えば、スチレン、α-メチルスチレン、アルキルスチレン(o-、m-又はp-メチルスチレン、2,4-ジメチルスチレン、2,5-ジメチルスチレン、p-エチルスチレン、p-イソプロピルスチレン、p-ブチルスチレン、p-t-ブチルスチレン等)、ハロゲン化スチレン(o-、m-又はp-クロロスチレン、p-ブロモスチレン等)、スチレンスルホン酸又はそのアルカリ金属塩、これらのモノマーにおいて芳香環にメチル基、tert-ブチル基などのアルキル基、ニトロ基、ニトリル基、アルコキシル基、アシル基、スルホン基、ヒドロキシル基、ハロゲン原子等の官能基を有するモノマー等からなる群より選ばれる1種類以上があげられる。なかでも、スチレン、α-メチルスチレン、p-メチルスチレン、2,4-ジメチルスチレン等からなる群より選ばれる1種類以上が好ましい。
【0043】
グラフト鎖を構成する重合体を構成するハロゲン化ビニル系モノマーとしては、例えば、フッ化ビニル、塩化ビニル、臭化ビニル、フッ化ビニリデン、塩化ビニリデン、臭化ビニリデン等からなる群より選ばれる1種類以上があげられる。
【0044】
グラフト鎖を構成する重合体を構成するビニルエステル系モノマーとしては、例えば、ギ酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、ピバリン酸ビニル等の炭素数1~10のカルボン酸のビニルエステル等からなる群より選ばれる1種類以上があげられる。
【0045】
グラフト鎖を構成する重合体を構成する(メタ)アクリル酸エステル系モノマーとしては、例えば、前記有機重合体多孔質微粒子を構成する(メタ)アクリル酸エステル系モノマーとしてあげられた(メタ)アクリル酸エステル系モノマー群より選ばれる1種類以上があげられる。
【0046】
グラフト鎖を構成する重合体を構成する不飽和カルボン酸系モノマーとしては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、エンド-ビシクロ[2,2,1]-5-ヘプテン-2,3-ジカルボン酸、フマール酸、テトラヒドロフタル酸、イタコン酸、シトラコン酸、クロトン酸、イソクロトン酸、その無水物、その塩等からなる群より選ばれる1種類以上があげられる。なかでも、アクリル酸、メタクリル酸の1種類以上が好ましい。
【0047】
グラフト鎖を構成する重合体を構成する(メタ)アクリロニトリル系モノマーとしては、例えば、(メタ)アクリロニトリル等からなる群より選ばれる1種類以上があげられる。
【0048】
グラフト鎖を構成する重合体を構成する(メタ)アクリルアミド系モノマーとしては、例えば、(メタ)アクリルアミド、N-メチル(メタ)アクリルアミド、N-エチル(メタ)アクリルアミド、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジエチル(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリロイルモルホリン、N,N-ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、イソプロピル(メタ)アクリルアミド、N-メチロール(メタ)アクリルアミド、スルフォフェニル(メタ)アクリルアミド、2-(メタ)アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、2-(メタ)アクリルアミド-1-メチルスルホン酸、ジアセトン(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリルアミドアルキルトリアルキルアンモニウムクロライドなどのアクリルアミド等からなる群より選ばれる1種類以上があげられる。
【0049】
(グラフト鎖を構成する重合体)
本発明においては、グラフト鎖を構成する重合体として、分子内にC=O構造(カルボニル構造)や-NH-構造(アミン構造)及びπ共役結合(フェニル環)からなる群より選ばれる1種類以上の構造を有する重合体が、ガスの貯蔵(吸着)放出性の観点から好ましい。
このうち、(メタ)アクリル系重合体の1種類以上が好ましく、アクリル酸エステル系重合体の1種類以上がより好ましい。アクリル酸エステル系重合体としては、(メタ)アクリル酸エステル系モノマー単位を含む重合体が好ましく、なかでも、(メタ)アクリル酸エステル系モノマー単位、芳香族ビニル系モノマー単位、及び、不飽和カルボン酸系モノマー単位を含むアクリル酸エステル系共重合体がより好ましい。
【0050】
本発明において、グラフト鎖を構成する重合体として好ましいアクリル酸エステル系重合体は、好ましくは、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸n-オクチル、(メタ)アクリル酸ドデシル、(メタ)アクリル酸ステアリル等の(メタ)アクリル酸アルキルエステルからなる群より選ばれる1種類以上の(メタ)アクリル酸エステル系モノマー単位を含むものである。より好ましくは、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル及び(メタ)アクリル酸ブチルからなる群より選ばれる1種類以上のモノマー単位を含むものである。
(メタ)アクリル酸エステル系モノマー単位は、グラフト鎖を構成する重合体を構成する全モノマー単位を100質量%とした場合、例えば、2.0~60.0質量%の範囲内であり、15.0~50.0質量%の範囲内が好ましく、25.0~40.0質量%の範囲内がより好ましい。
【0051】
本発明において、グラフト鎖を構成する重合体として好ましいアクリル酸エステル系共重合体は、好ましくは、スチレン、α-メチルスチレン、p-メチルスチレン、tert-ブチルスチレン、クロロスチレン、2,4-ジメチルスチレン、これらのモノマーにおいて芳香環にメチル基、tert-ブチル基などのアルキル基、ニトロ基、ニトリル基、アルコキシル基、アシル基、スルホン基、ヒドロキシル基、ハロゲン原子等の官能基を有するモノマー等からなる群より選ばれる1種類以上の芳香族ビニル系モノマー単位を含むものである。より好ましくは、スチレン、α-メチルスチレン、p-メチルスチレン、ビニルトルエン等からなる群より選ばれる1種類以上のモノマー単位を含むものである。
芳香族ビニル系モノマー単位は、グラフト鎖を構成する重合体を構成する全モノマー単位を100質量%とした場合、例えば、20.0~80.0質量%の範囲内であり、30.0~60.0質量%の範囲内が好ましく、40.0~50.0質量%の範囲内がより好ましい。
【0052】
本発明において、グラフト鎖を構成する重合体として好ましいアクリル酸エステル系共重合体は、好ましくは、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、エンド-ビシクロ[2,2,1]-5-ヘプテン-2,3-ジカルボン酸、フマール酸、テトラヒドロフタル酸、イタコン酸、シトラコン酸、クロトン酸、イソクロトン酸、その無水物、その塩等からなる群より選ばれる1種類以上の不飽和カルボン酸系モノマー単位を含むものである。より好ましくは、アクリル酸、メタクリル酸の1種類以上のモノマー単位を含むものである。
不飽和カルボン酸系モノマー単位は、グラフト鎖を構成する重合体を構成する全モノマー単位を100質量%とした場合、例えば、10.0~70.0質量%の範囲内であり、20.0~60.0質量%の範囲内が好ましく、30.0~50.0質量%の範囲内がより好ましい。
【0053】
<グラフト共重合体の構成>
本発明のガス貯蔵放出材料に含まれるグラフト共重合体を構成する有機重合体多孔質微粒子中のグラフト鎖が結合しているモノマー単位の数は、100~3000である。このモノマー単位の数が100より小さい場合は、微粒子の化学結合による安定性が無くなり微粒子表面が劣化するおそれがある。また、このモノマー単位の数が3000より大きい場合は、微粒子の表面積が小さくなるので水素貯蔵放出能力が低下するおそれがある。
【0054】
本発明のガス貯蔵放出材料に含まれるグラフト共重合体を構成する有機重合体多孔質微粒子中のグラフト鎖が結合していない(メタ)アクリル酸エステル系モノマー単位の数は、100~1500である。このモノマー単位の数が100より小さい場合は、微粒子表面のグラフト鎖の密度が高くなりすぎ、また、微粒子表面のグラフト鎖が短くなることから、水素を細孔内部に送り込む力が弱くなって水素貯蔵能力が小さくなるおそれがある。一方、このモノマー単位の数が1500より大きい場合は、微粒子の酸化が起こり易く表面が劣化しやすくなるおそれがある。また、微粒子表面のグラフト鎖の密度が下がることから、水素貯蔵能力が小さくなるおそれがある。
【0055】
本発明のガス貯蔵放出材料に含まれるグラフト共重合体を構成するグラフト鎖中の(メタ)アクリル酸エステル系モノマー単位の数は、30~1300である。このモノマー単位の数が30より小さい場合は、グラフト鎖の柔軟性が無くなり、細孔内部に水素を捕捉させる効果が小さくなるおそれがあり、水素貯蔵能力が低下するおそれがある。また、このモノマー単位の数が1300より大きい場合は、グラフト鎖が長くなり過ぎ、加水分解を起こし易くなるおそれがある。
【0056】
本発明のガス貯蔵放出材料に含まれるグラフト共重合体を構成するグラフト鎖の芳香族ビニル系モノマー単位の数は、30~1800である。このモノマー単位の数が30より小さい場合は、グラフト鎖の紫外線分解が起こり易くなるおそれがある。また、このモノマー単位の数が1800より大きい場合は、グラフト共重合体が凝縮して2次粒子や3次粒子を形成するおそれがあり、水素貯蔵速度が長くなるおそれがある。
【0057】
本発明のガス貯蔵放出材料に含まれるグラフト共重合体を構成するグラフト鎖中の不飽和カルボン酸系モノマー単位の数は、40~300である。このモノマー単位の数が40より小さい場合は、グラフト鎖の紫外線分解が起こり易くなるおそれがある。また、このモノマー単位の数が300より大きい場合は、グラフト共重合体が凝縮して2次粒子や3次粒子を形成するおそれがあり、水素貯蔵速度が長くなるおそれがある。
【0058】
本発明のガス貯蔵放出材料に含まれる、有機重合体多孔質微粒子にエチレン性不飽和モノマー単位を含む重合体がグラフトしたグラフト共重合体は、有機重合体多孔質微粒子が有する細孔に加え、グラフト鎖から形成される構造が、ガスを保持する壁のような役割を果たすことにより、気体、例えば、水素分子(水素ガス)を貯蔵放出する機能が発現するのではないかと推測されるが、この推測により本発明は何ら限定されない。
【0059】
[グラフト共重合体の製造方法]
グラフト共重合体の製造方法は、特に限定されない。例えば、有機重合体多孔質微粒子、エチレン性不飽和モノマーを含むグラフト鎖形成用モノマー成分及び重合開始剤を重合容器に入れ、加熱、光照射、エネルギー線照射等により重合を開始することで製造することができる。
重合に際しては、必要に応じて、水や不活性有機溶媒等の溶媒、重合促進剤、分散剤、分散助剤等を用いることができる。重合方法としては、ラジカル重合、懸濁重合、乳化重合、溶液重合等のエチレン性不飽和モノマーの重合方法として公知の重合手段を用いることができる。
【0060】
重合開始剤は特に限定されないが、例えば、過酸化物系重合開始剤やアゾ系重合開始剤等から選ばれる1種類以上を用いることができる。過酸化物系重合開始剤としては、例えば、ラウリルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、t-ブチルパーオキシ(2-エチルヘキサエイト)等からなる群より選ばれる1種類以上があげられる。アゾ系重合開始剤としては、2,2’-アゾビスイソブチロニトリル、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)、2,2’-アゾビスイソラク酸アルキルエステル等からなる群より選ばれる1種類以上があげられる。
【0061】
<グラフト共重合体の含有量及びグラフト共重合体以外の成分>
本発明のガス貯蔵放出材料は、有機重合体多孔質微粒子にエチレン性不飽和モノマー単位を含む重合体がグラフトした前記グラフト共重合体の1種類以上を1~100質量%、好ましくは10~100質量%、より好ましくは50~100質量%含んでいる。前記グラフト共重合体の含有量が1質量%未満であると、ガス貯蔵特性を十分に発揮できない場合がある。
本発明のガス貯蔵放出材料に含まれていてもよい、前記グラフト共重合体以外の成分としては、例えば、前記グラフト共重合体以外の樹脂、充填剤、各種添加剤等をあげることができる。
【0062】
樹脂としては、特に限定されないが、例えば、ポリオレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂、アクリル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ウレタン系樹脂等があげられる。充填剤としては、特に限定されないが、例えば、シリカ、タルク、クレー、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、酸化チタン、ガラスフレーク、炭素繊維、ガラス繊維、金属繊維、有機繊維、有機ナノファイバー、無機ナノファイバー、金属ナノファイバー等があげられる。各種添加剤としては、特に限定されないが、例えば、有機顔料、無機顔料、染料等の着色剤、ゼオライトや活性炭等の吸着剤、可塑剤、抗菌剤、導電材等があげられる。
【0063】
<形状>
ガス貯蔵放出材料の形状は、任意の形状とすることができる。例えば、粒子、繊維、フィルム、不織布、織布、多孔質体、成形体等のいずれかとすることができる。
粒子である場合は、例えば、平均粒子径1.0μm~10.0mmの範囲で任意に調節することができる。
繊維である場合は、例えば、長さ1.0mm~10.0mm、直径0.1mm~5.0mmの範囲で任意に調節することができる。
フィルムである場合、例えば、厚さ10.0μm~10.0mmの範囲で任意に調整することができる。フィルムの幅及び長さは、任意の大きさとすることができる
不織布又は織布である場合は、例えば、目付20.0g/m~120.0g/mの範囲で任意に調整することができる。
多孔質体である場合は、例えば、見かけ密度0.3g/m~1.2g/m、空隙率
5~80vol%の範囲で任意に調整することができる。
成形体である場合は、例えば、押出成形、射出成形等の任意の成形手段を用い、任意の形状の成形体に調整することができる。
本発明のガス貯蔵放出材料は、粒子、多孔質体、不織布、フィルム、繊維の形状であることが、製造の容易性、水素等のガスと接触する面積の調整、取り扱い性の向上等の点から好ましい。
【0064】
[ガス]
本発明のガス貯蔵放出材料が貯蔵・放出するガスは、特に限定されない。例えば、水素、二酸化炭素、窒素、希ガス(ヘリウム、ネオン、アルゴン、クリプトン、ラドン)、炭化水素ガス(メタン、エタン、プロパン、ブタン、アセチレン等)、酸素、ハロゲンガス(フッ素、塩素)等からなる群より選ばれる1種類以上があげられる。好ましくは、水素、窒素、アルゴン、メタン、エタン、プロパン、アセチレンからなる群より選ばれる1種類以上であり、特に好ましくは水素である。
【0065】
[ガスの貯蔵・放出方法]
本発明において、ガス貯蔵放出材料におけるガスの貯蔵(会合)・放出(離脱)方法は、ガス貯蔵放出材料、特に、水素貯蔵放出材料において、水素を貯蔵・放出させる公知の方法を用いることができる。
例えば、加圧、減圧、昇温(加熱)、降温(冷却)、電位の印加、紫外線、赤外線などのエネルギー波の照射からなる群より選ばれる1つ以上の手段を含む方法があげられる。
【0066】
貯蔵手段として、好ましくは、加圧、減圧、昇温(加熱)、降温(冷却)、電位の印加からなる群より選ばれる1つ以上の手段を含む方法があげられ、より好ましくは、加圧、減圧、昇温(加熱)、降温(冷却)からなる群より選ばれる1つ以上の手段を含む方法があげられる。本発明において、特に好ましくは、加圧手段を含む方法が用いられる。
放出手段として、好ましくは、減圧、加圧、昇温(加熱)、降温(冷却)、電位の印加からなる群より選ばれる1つ以上の手段を含む方法があげられ、より好ましくは、減圧、加圧、昇温(加熱)、降温(冷却)からなる群より選ばれる1つ以上の手段を含む方法があげられる。本発明において、特に好ましくは、減圧手段を含む方法が用いられる。
【0067】
[ガス貯蔵放出材料の用途]
本発明のガス貯蔵放出材料は、ガス、特に水素を、常温(25℃±20℃)で大気圧下において安全に長期間貯蔵でき、貯蔵された水素を簡便な手段で放出させることができることから、水素貯蔵材料として有用である。
また、水素貯蔵合金が水素の貯蔵・放出性を示さない大気圧未満の低圧状態においても、水素の貯蔵・放出性に優れるものであるから、この点からも、水素貯蔵材料として有用である。
さらに、成形性に優れることから任意の形状に容易に加工することが可能であり、軽量であることから、運搬・保存を容易に行うことができる。
【0068】
例えば、風力発電所で発電した電気を使い、水電解水素製造装置で水素を製造し、車載コンテナに収納した本発明のガス貯蔵放出材料に水素を貯蔵する。水素を貯蔵したガス貯蔵放出材料が収納されたコンテナを車両に搭載し、水素貯蔵材料タンクと純水素型燃料電池とを設備として有する温浴施設に運び、ガス貯蔵放出材料からこれら設備に水素を移送する。
燃料電池で発生する電気と温水は温浴施設で使用するとともに、水素移送時に「熱のカスケード利用」を行い、水素を貯蔵する側で発生する熱を、放出する側の加熱に利用する。また、水素貯蔵材料タンクから水素を放出するために必要な熱は、建物からの低温排熱を利用しエネルギー効率を向上させることができる。
【実施例
【0069】
以下に実施例をあげて本発明をさらに詳細に説明する。なお、本発明は、実施例により何ら限定されるものではない。
【0070】
[実施例1]
<グラフト共重合体の調製>
200ml丸底フラスコに、架橋ポリメタクリル酸メチルの多孔質微粒子(積水化成品工業社製、MBP-8) 4.0g及びN,N-ジメチルホルムアミド 5mlを加えた。次いで、アクリル酸 0.16g、蒸留によって重合禁止剤を除去したメタクリル酸メチル 0.16g、及び、スチレン 0.18gを添加し、重合開始剤としてベンゾフェノン50mgを加え、マグネチックスターラーを用いて反応系を撹拌し、オイルバスによって反応系の温度を60℃とした。次いで、反応系に波長254nmの紫外線を5分間照射して反応を行った。反応終了後1時間撹拌し、反応溶液が25℃になった後、内容物をガラスフィルターG3によってろ過し、微粒子部と溶液部とを分離した。得られた微粒子は風乾後、真空乾燥を行ない、グラフト共重合体1を得た。
【0071】
<構造の分析>
得られたグラフト共重合体1について、Thermo Fisher Scientific社製Nicolet 6700FT-IR装置を用い、一回反射ATR法によりFT-IRを測定した。結果は以下のとおりとなった。
CO :1428cm-1、1676cm-1
CH :1473cm-1、2892cm-1、2987cm-1
COOCH:1740cm-1、1763cm-1
COOH :3125cm-1、3324cm-1
ベンゼン環 :3070cm-1
これより、得られたグラフト共重合体1は、架橋ポリメタクリル酸メチル多孔質微粒子に、メタクリル酸メチル単位、スチレン単位、及び、アクリル酸単位を含む重合体がグラフトしたものであることがわかった。
【0072】
<重量平均分子量>
得られたグラフト共重合体1の重量平均分子量の測定は、以下のように行った。
東ソー社製ゲルパーミュエーションクロマトグラフHLC-8321GPC/HTにTSKgel GMHHR-H(S)HT2カラムを装着し、グラフト共重合体1を溶解したo-ジクロロベンゼン溶液を注入し、カラム保持時間を測定した。得られたカラム保持時間から、予め分子量が判明しているポリスチレンを用いて作成した検量線と比較計算して、グラフト共重合体1のポリスチレン換算分子量を算出した結果、重量平均分子量は164000であり、原料に用いた多孔質架橋ポリメタクリル酸メチル系微粒子の重量平均分子量89000よりも大きいことが判明した。このことより、多孔質架橋ポリメタクリル酸メチル系微粒子に、メタクリル酸メチル単位、スチレン単位及びアクリル酸単位を含む共重合体がグラフト重合した微粒子であることがわかった。
【0073】
<水素貯蔵放出能力の評価>
水素貯蔵放出能力の評価は、PCT(Pressure Composition Temperature)法により行った。
微粒子サンプルをSUS製サンプル管に充填し、鈴木商館社製PCT特性評価装置を用いてPCT曲線を観察することで行った。PCT特性測定装置は、物質が水素を吸放出するときの特性(P:圧力、C:貯蔵量(貯蔵量)、T:温度)を測定する装置で、ジーベルツ装置とも呼ばれるものである。
圧力に対する、グラフト共重合体1(本発明のガス貯蔵放出材料)の水素の貯蔵量(Adsorption:質量%)及び放出量(Desorption:質量%)との関係は、図1のとおりとなった。なお、ここでいう貯蔵量及び放出量は、グラフト共重合体1の質量に対する水素の貯蔵量(吸収量)又は放出量を質量%として表したものである。
【0074】
[比較例1]
市販の水素貯蔵放出能力を有する有機系材料としてBasolite-Z377(BASF社製有機金属構造体(MOF))を用い、実施例1と同様に水素貯蔵放出能力を評価した。その結果、実施例1のガス貯蔵放出材料の方が高い水素貯蔵放出能力を示した。
【0075】
これらの結果より、本発明のガス貯蔵放出材料は、比較例1の水素貯蔵放出能力を有する有機系材料と比較して、気体貯蔵放出化合物の質量に対する水素の貯蔵量(吸収量)及び放出量の質量%が大きく、水素の貯蔵・放出能力が高いことが判明した。
これより、本発明のガス貯蔵放出材料は、ガス、特に水素を貯蔵・放出することができる材料として有用であることが確認された。
図1