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特許7484094レーダ装置、存在判定方法、およびプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-08
(45)【発行日】2024-05-16
(54)【発明の名称】レーダ装置、存在判定方法、およびプログラム
(51)【国際特許分類】
   G01S 13/04 20060101AFI20240509BHJP
   G01S 7/292 20060101ALI20240509BHJP
   G01S 13/34 20060101ALN20240509BHJP
【FI】
G01S13/04
G01S7/292 202
G01S13/34
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019126449
(22)【出願日】2019-07-05
(65)【公開番号】P2021012105
(43)【公開日】2021-02-04
【審査請求日】2022-05-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000002945
【氏名又は名称】オムロン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101454
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 卓二
(74)【代理人】
【識別番号】100122286
【弁理士】
【氏名又は名称】仲倉 幸典
(74)【代理人】
【識別番号】100189555
【弁理士】
【氏名又は名称】徳山 英浩
(72)【発明者】
【氏名】三嶋 一馬
【審査官】梶田 真也
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-248053(JP,A)
【文献】特開2014-219298(JP,A)
【文献】特開昭51-053841(JP,A)
【文献】特開2011-191195(JP,A)
【文献】特開2019-048033(JP,A)
【文献】特開2010-014488(JP,A)
【文献】特開2005-227157(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 7/00 - 7/42
G01S 13/00 - 13/95
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
送受信部から電磁波を対象物へ向けて発射し、上記対象物による反射波を観測することにより、上記対象物についての情報を得るレーダ装置であって、
上記反射波に基づいて、上記送受信部から第の距離までの特定範囲について反射パワーを求める反射パワー算出部と、
上記反射パワーを積分して面積を算出する面積算出部と、
上記送受信部から予め定められた至近範囲に対象物が存在するか否かを判定する存在判定部とを備え、
前記至近範囲は、上記送受信部から10cmまでの範囲であり、
前記特定範囲は、前記至近範囲以下であり、
上記存在判定部は、
上記至近範囲に対象物が存在しないとき上記面積算出部によって上記特定範囲について算出された基準の面積に対して、上記面積算出部によって上記特定範囲について算出される現在の面積が大きい、という第1条件が満たされているとき、上記至近範囲に対象物が存在すると判定する第1判定部を含む
ことを特徴とするレーダ装置。
【請求項2】
請求項1に記載のレーダ装置において、
上記存在判定部は、
上記至近範囲に対象物が存在しないとき上記反射パワー算出部によって上記第1の距離で検出された基準の反射パワーに対して、上記反射パワー算出部によって上記第1の距離で検出される現在の反射パワーとの差が、予め定められた閾値よりも大きい、という第2条件が満たされているか否かを判定する第2判定部を含み、
上記第1条件に加えて、上記第2条件が満たされているときに限り、上記対象物が存在すると判定する
ことを特徴とするレーダ装置。
【請求項3】
送受信部から電磁波を対象物へ向けて発射し、上記対象物による反射波を観測することにより、上記対象物についての情報を得るレーダ装置のための存在判定方法であって、
上記レーダ装置は、
上記反射波に基づいて、上記送受信部から第の距離までの特定範囲について反射パワーを求める反射パワー算出部と、
上記反射パワーを積分して面積を算出する面積算出部と、を含み、
上記存在判定方法は、
上記送受信部から予め定められた至近範囲に対象物が存在しないとき、予め、上記反射パワー算出部によって、上記反射波に基づいて、上記特定範囲について反射パワーを求め、上記面積算出部によって上記反射パワーを積分して基準の面積を算出しておき、
上記反射パワー算出部によって、上記特定範囲について現在の反射パワーを求め、上記面積算出部によって上記現在の反射パワーを積分して現在の面積を算出し、
上記基準の面積に対して、上記面積算出部によって上記特定範囲について算出される現在の面積が大きい、という第1条件が満たされているとき、上記至近範囲に対象物が存在すると判定し、
前記至近範囲は、上記送受信部から10cmまでの範囲であり、
前記特定範囲は、前記至近範囲以下である、
ことを特徴とする存在判定方法。
【請求項4】
請求項3に記載の存在判定方法をコンピュータに実行させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明はレーダ装置に関し、より詳しくは、電磁波を対象物へ向けて発射し、上記対象物による反射波を観測することにより、上記対象物についての情報を得る装置に関する。また、この発明は、そのようなレーダ装置によって対象物が存在するか否かを判定する存在判定方法に関する。また、この発明は、そのような存在判定方法をコンピュータに実行させるためのプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種のレーダ装置としては、例えば特許文献1(特開2013-167554号公報)に開示されているように、レーダ波を発射し、該レーダ波の対象物による反射波を受信することによって該対象物の位置(レーダ装置から該対象物までの距離を含む)を特定するものが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2013-167554号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、市販のレーダ装置では、レーダ波を発射してから反射波を受信するまでの時間差が或る程度必要であることから、距離検出可能範囲に下限(例えば、10cm程度)が設けられている。一般的に、市販のレーダ装置は、距離検出可能範囲の下限以下の範囲(以下、「至近範囲」という。)に対象物が存在するか否かを検出できる仕様になっていない。このため、至近範囲に対象物が存在するか否かを検出しようとすると、至近範囲に特化した別型式のセンサを用いる必要があり、設備が複雑になり、コスト面でも不利になる。したがって、上記レーダ装置を使用して、至近範囲に対象物が存在するか否かを検出することは、有益である、と考えられる。
【0005】
そこで、この発明の課題は、電磁波を対象物へ向けて発射し、上記対象物による反射波を観測することにより、上記対象物についての情報を得るレーダ装置であって、至近範囲に対象物が存在するか否かを判定できるものを提供することにある。また、この発明の課題は、そのようなレーダ装置によって至近範囲に対象物が存在するか否かを判定できる存在判定方法を提供することにある。また、この発明の課題は、そのような存在判定方法をコンピュータに実行させるためのプログラムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、この開示のレーダ装置は、
送受信部から電磁波を対象物へ向けて発射し、上記対象物による反射波を観測することにより、上記対象物についての情報を得るレーダ装置であって、
上記反射波に基づいて、上記送受信部から距離に関する最小分解能分だけ離れた第1の距離から、上記第1の距離よりも大きい第2の距離までの特定範囲について反射パワーを求める反射パワー算出部と、
上記反射パワーを積分して面積を算出する面積算出部と、
上記送受信部から予め定められた至近範囲に対象物が存在するか否かを判定する存在判定部とを備え、
上記存在判定部は、
上記至近範囲に対象物が存在しないとき上記面積算出部によって上記特定範囲について算出された基準の面積に対して、上記面積算出部によって上記特定範囲について算出される現在の面積が大きい、という第1条件が満たされているとき、上記至近範囲に対象物が存在すると判定する第1判定部を含む
ことを特徴とする。
【0007】
本明細書で、「レーダ装置」とは、一般的に、電磁波を対象物へ向けて発射し、上記対象物による反射波を観測することにより、上記対象物までの距離や方向を測定する装置を意味する。本発明では、電磁波は、典型的にはミリ波ないしマイクロ波であるが、これに限られるものではなく、より長波長、または、より短波長(例えば光)であってもよい。
【0008】
また、「至近範囲」とは、例えば、上記送受信部から、この送受信部の距離検出可能範囲の下限までの範囲を指す。典型的には、「至近範囲」は、上記送受信部から10cmまでの範囲である。「特定範囲」を定める「第2の距離」は、「至近範囲」の上限(例えば、上記距離検出可能範囲の下限)と一致していてもよいし、一致していなくてもよい。
【0009】
この開示のレーダ装置では、送受信部は、電磁波を対象物へ向けて発射し、上記対象物による反射波を観測する。反射パワー算出部は、上記反射波に基づいて、上記送受信部から距離に関する最小分解能分だけ離れた第1の距離から、上記第1の距離よりも大きい第2の距離までの特定範囲について反射パワーを求める。面積算出部は、上記反射パワーを積分して面積を算出する。上記存在判定部に含まれた第1判定部は、上記至近範囲に対象物が存在しないとき上記面積算出部によって上記特定範囲について算出された基準の面積に対して、上記面積算出部によって上記特定範囲について算出される現在の面積が大きい、という第1条件が満たされているとき、上記至近範囲に対象物が存在すると判定する。このようにして、このレーダ装置によれば、至近範囲に対象物が存在するか否かを判定することが可能となる。
【0010】
一実施形態のレーダ装置では、
上記存在判定部は、
上記至近距離内に対象物が存在しないとき上記反射パワー算出部によって上記第1の距離で検出された基準の反射パワーに対して、上記反射パワー算出部によって上記第1の距離で検出される現在の反射パワーとの差が、予め定められた閾値よりも大きい、という第2条件が満たされているか否かを判定する第2判定部を含み、
上記第1条件に加えて、上記第2条件が満たされているときに限り、上記対象物が存在すると判定する
ことを特徴とする。
【0011】
この一実施形態のレーダ装置では、対象物が存在するか否かをより高精度で判定することが可能となる。
【0012】
別の局面では、この開示の存在判定方法は、
送受信部から電磁波を対象物へ向けて発射し、上記対象物による反射波を観測することにより、上記対象物についての情報を得るレーダ装置のための存在判定方法であって、
上記レーダ装置は、
上記反射波に基づいて、上記送受信部から距離に関する最小分解能分だけ離れた第1の距離から、上記第1の距離よりも大きい第2の距離までの特定範囲について反射パワーを求める反射パワー算出部と、
上記反射パワーを積分して面積を算出する面積算出部と、を含み、
上記存在判定方法は、
上記送受信部から予め定められた至近範囲に対象物が存在しないとき、予め、上記反射パワー算出部によって、上記反射波に基づいて、上記送受信部から距離に関する最小分解能分だけ離れた第1の距離から、上記第1の距離よりも大きい第2の距離までの特定範囲について反射パワーを求め、上記面積算出部によって上記反射パワーを積分して基準の面積を算出しておき、
上記反射パワー算出部によって、上記特定範囲について現在の反射パワーを求め、上記面積算出部によって上記現在の反射パワーを積分して現在の面積を算出し、
上記基準の面積に対して、上記面積算出部によって上記特定範囲について算出される現在の面積が大きい、という第1条件が満たされているとき、上記至近範囲に対象物が存在すると判定する
ことを特徴とする。
【0013】
この開示の存在判定方法では、上記送受信部から予め定められた至近範囲に対象物が存在しないとき、予め、上記反射パワー算出部によって、上記反射波に基づいて、上記送受信部から距離に関する最小分解能分だけ離れた第1の距離から、上記第1の距離よりも大きい第2の距離までの特定範囲について反射パワーを求め、上記面積算出部によって上記反射パワーを積分して基準の面積を算出しておく。次に、上記反射パワー算出部によって、上記特定範囲について現在の反射パワーを求め、上記面積算出部によって上記現在の反射パワーを積分して現在の面積を算出する。次に、上記基準の面積に対して、上記面積算出部によって上記特定範囲について算出される現在の面積が大きい、という第1条件が満たされているとき、上記至近範囲に対象物が存在すると判定する。これにより、この存在判定方法によれば、至近範囲に対象物が存在するか否かを判定することが可能となる。
【0014】
さらに別の局面では、この開示のプログラムは、上記存在判定方法をコンピュータに実行させるためのプログラムである。
【0015】
この開示のプログラムをコンピュータに実行させることによって、上記存在判定方法を実施することができる。
【発明の効果】
【0016】
以上より明らかなように、この開示のレーダ装置および存在判定方法は、至近範囲に対象物が存在するか否かを判定することが可能となる。また、この開示のプログラムをコンピュータに実行させることによって、上記存在判定方法を実施することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】この発明の一実施形態のレーダ装置のブロック構成を示す図である。
図2図2(A)、図2(B)は、上記レーダ装置がレーダ送受信部から対象物までの距離を測定する原理を説明する図である。図2(C)は、上記レーダ装置がレーダ送受信部に対する対象物の方向を測定する原理を説明する図である。
図3】上記レーダ装置によって対象物の存在を判定する、実験的な測定環境を示す図である。
図4図3の対象物が存在しない場合の、レーダ送受信部からの距離に応じて観測された反射パワー(角度方向に合算されたパワー)を示す図である。
図5図5(A)は、対象物が金属棒であり、距離0cmに存在する場合の、レーダ送受信部からの距離に応じて観測された反射パワー(角度方向に合算されたパワー)を示す図である。図5(B)は、対象物が金属棒であり、距離10cmに存在する場合の、レーダ送受信部からの距離に応じて観測された反射パワー(角度方向に合算されたパワー)を示す図である。
図6図6(A)は、対象物が人体モデルであり、距離0cmに存在する場合の、レーダ送受信部からの距離に応じて観測された反射パワー(角度方向に合算されたパワー)を示す図である。図6(B)は、対象物が人体モデルであり、距離10cmに存在する場合の、レーダ送受信部からの距離に応じて観測された反射パワー(角度方向に合算されたパワー)を示す図である。
図7図7(A)は、対象物がリフレクタであり、距離0cmに存在する場合の、レーダ送受信部からの距離に応じて観測された反射パワー(角度方向に合算されたパワー)を示す図である。図7(B)は、対象物がリフレクタであり、距離10cmに存在する場合の、レーダ送受信部からの距離に応じて観測された反射パワー(角度方向に合算されたパワー)を示す図である。
図8】上記レーダ装置の存在処理部によって実行される存在判定方法のフローを示す図である。
図9図9(A)は、対象物が存在しない場合の、レーダ送受信部からの距離に応じて観測された反射パワーを示す図である。図9(B)は、対象物が金属棒であり、距離0cmに存在する場合の、レーダ送受信部からの距離に応じて観測された反射パワー示す図である。
図10】対象物が存在しない場合の、レーダ送受信部からの距離に応じて観測された反射パワー(角度方向に合算されたパワー)を示す拡大図である。
図11A】対象物が金属棒であり、距離0cmに存在する場合の、レーダ送受信部からの距離に応じて観測された反射パワー(角度方向に合算されたパワー)を示す拡大図である。
図11B】対象物が金属棒であり、距離10cmに存在する場合の、レーダ送受信部からの距離に応じて観測された反射パワー(角度方向に合算されたパワー)を示す拡大図である。
図12A】対象物が人腕モデルであり、距離0cmに存在する場合の、レーダ送受信部からの距離に応じて観測された反射パワー(角度方向に合算されたパワー)を示す拡大図である。
図12B】対象物が人腕モデルであり、距離10cmに存在する場合の、レーダ送受信部からの距離に応じて観測された反射パワー(角度方向に合算されたパワー)を示す拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、この発明の実施の形態を、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0019】
(レーダ装置の構成)
図1は、この発明の一実施形態のレーダ装置(符号1で示す。)のブロック構成を示している。このレーダ装置1は、送受信部としてのレーダ送受信部10と、反射パワー算出部としてのレーダデータ処理部20と、面積算出部および存在判定部としての存在処理部30と、後段処理部40と、データ出力部50とを備えている。
【0020】
レーダ送受信部10は、チャープ信号(後述する)を生成するシンセサイザ11と、シンセサイザ11によって生成されたチャープ信号を電磁波EM1として対象物90へ向けて発射(送信)する送信アンテナ12と、対象物90による反射波EM2を受信する受信アンテナ13と、送信アンテナ12によって送信された送信信号EM1(理解の容易のため、送信される電磁波と同じ符号で表す。)と受信アンテナ13によって受信された受信信号EM2(理解の容易のため、反射波と同じ符号で表す。)とを混合して中間周波数の信号IFSを生成するミキサ14とを含んでいる。
【0021】
図2(A)に示すように、この例では、送信信号(チャープ信号)EM1は、或る持続時間Tc(この例では、Tc=40μs)の間、周波数fが単調に増加する信号である。受信信号EM2は、この例では、送信信号EM1の送信開始から遅延時間τだけ遅れて立ち上がっている。この遅延時間τは、レーダ送受信部10と対象物90との間の距離(dとする。)によって、τ=2d/cと表される。ここで、cは光の速さである。つまり、レーダ送受信部10と対象物90との間の距離dは、
d=τc/2 …(Eq.1)
として求められる。受信信号EM2の周波数fは、送信信号EM1の周波数fと同様に、増加する。送信信号EM1と受信信号EM2との間の周波数差Sτは、遅延時間τに比例した値となる。
【0022】
図2(B)に示すように、ミキサ14は、送信信号EM1と受信信号EM2とを混合して、中間周波数の信号IFSを生成する。信号IFSの周波数(中間周波数)は、送信信号EM1と受信信号EM2との間の周波数差Sτに相当し、したがって、遅延時間τに比例した値となっている。なお、信号IFSが得られる期間は、送信信号EM1と受信信号EM2とが重畳している期間(図2(B)では、2本の垂直破線の間にある期間)である。
【0023】
図1中に示す送信アンテナ12と受信アンテナ13は、レーダ送受信部10に対する対象物90の水平面内での方向を検出するために、この例では、それぞれ複数設けられている。簡単な例で説明すると、例えば図2(C)に示すように、1個の送信アンテナ12と、2個の受信アンテナ13(それぞれ符号13-1、13-2で示す。)とが、共通の基板2上に水平方向に関して互いに離間して配置されているものとする。2個の受信アンテナ13-1、13-2は、水平方向に関して距離Lだけ互いに離間している。対象物90と受信アンテナ13-1との距離はd、対象物90と受信アンテナ13-2との距離は(d+Δd)として、それぞれ表される。この距離の差Δdによって、受信アンテナ13-1によって得られる受信信号EM2-1と、受信アンテナ13-2によって得られる受信信号EM2-2との間に、位相差ΔΦが生ずる。受信信号EM2として平面の波面(波長λ)を想定すると、位相差ΔΦ=2πΔd/λと表される。レーダ送受信部10に対する対象物90の水平面内での方向(レーダ送受信部10の正面に対する角度)をθとすると、Δd=Lsin(θ)であることから、方向θは、
θ=sin-1(λΔΦ/2πL) …(Eq.2)
として求められる。
【0024】
この例では、実際には、基板2上に、水平方向に関して互いに離間して、送信アンテナ12が3個、受信アンテナ13が4個配置されている。これにより、レーダ送受信部10に対する対象物90の水平面内での方向θを、広い範囲(この例では、±90°の視野)で精度良く求めるようになっている。
【0025】
図1中に示すレーダデータ処理部20は、ミキサ14の出力から中間周波数の信号IFSを取り出すローパスフィルタ(図示せず)と、取り出された信号IFSをアナログ信号からデジタル信号へ変換するAD(アナログ・ツー・デジタル)変換部21と、フーリエ変換処理を行うFFT(高速フーリエ変換)処理部22とを含んでいる。レーダデータ処理部20は、レーダ送受信部10に対する対象物90の距離d、方向θ、および反射パワーPW、を求める。
【0026】
具体的には、ミキサ14の出力から取り出された信号IFSは、レーダ送受信部10の視野に複数の対象物90が存在すれば、レーダ送受信部10とそれらの対象物90との間の距離d毎に、互いに異なる周波数(周波数差Sτ。これを「トーン」と呼ぶ。)を示す。FFT処理部22は、それらの信号IFSをフーリエ変換して、異なるトーン毎に個別のピーク(反射パワー)をもつ周波数スペクトルを求める。各ピークは、そのピークが示す周波数に応じた距離dに対象物90が存在することを示す。したがって、レーダ送受信部10に対する対象物90の距離dが求められる。
【0027】
なお、上述のように、レーダデータ処理部20は、距離d、方向θおよび反射パワーPWを求めることができるが、距離dおよび方向θの検出可能範囲には仕様上下限が設けられている。この例では、10cmである。このため、検出可能範囲下限以下の範囲、すなわち、至近範囲に対象物が存在するか否かを検出する目的では、距離dおよび方向θの検出は用いられない。したがって、至近範囲に対象物が存在するか否かを検出するために、レーダ送受信部10に対する対象物90の反射パワーPWが用いられる。
【0028】
図1中に示す存在処理部30は、レーザデータ処理部20によって求められた反射パワーPWを積分して面積を算出し、算出された面積に基づいて、至近範囲に対象物が存在するか否かを判定する処理を行う。この存在処理部30の動作については、後に詳述する。
【0029】
図1中に示す後段処理部は、存在処理部30による処理後のデータを、後段に必要な情報へ変換する公知の処理を行う。例えば、後段処理部40は、対象物90を塊(クラスタ)としてまとめるクラスタリング処理、対象物90を追跡するトラッキング処理などを行う。
【0030】
データ出力部50は、後段処理部40による処理後のデータを外部の装置(例えば、表示装置、ロボット制御装置、AGV(無人搬送車)、警告装置など)へ出力する。
【0031】
なお、このレーダ装置1における、存在処理部30以外の要素、すなわち、レーダ送受信部10、レーダデータ処理部20、後段処理部40、およびデータ出力部50は、既知のミリ波センサデバイスにおいて実現されている。ミリ波センサデバイスの例では、レーダ送受信部10、レーダデータ処理部20、後段処理部40、およびデータ出力部50は、共通の基板2上に搭載されている。この例では、このレーダ装置1における、存在処理部30以外の要素については、ミリ波センサデバイスを用いている。存在処理部30は、この例では、ソフトウェア(コンピュータプログラム)に従って動作するマイクロプロセッサによって構成されている。
【0032】
(存在判定処理)
存在処理部30によって実行される存在判定処理方法を説明するために、図3は、レーダ装置1によって対象物90が存在すると判定する場合の、実験的な測定環境を示している。
【0033】
図3の例では、床面99上で、レーダ送受信部10を搭載した基板2が、手前に配置されている。基板2上のレーダ送受信部10から見て水平面内で奥行き方向をY方向、左右方向をX方向、鉛直方向をZ方向として、XYZ直交座標系が設定されている。レーダ送受信部10はXYZ直交座標系の原点Oに、+Y方向を正面として配置されている。また、基板2(レーダ送受信部10)の略正面(+Y方向)で距離dに相当する位置に、対象物90としての金属棒90Aが置かれている。なお、この例では、金属棒90Aは、発砲スチロール80上に置かれている。簡単のため、基板2(レーダ送受信部10)、金属棒90Aは、鉛直方向に関して略同一の高さレベルにあるものとする。
【0034】
この図3の測定環境では、金属棒90Aは、レーダ送受信部10から送信された電磁波EM1を反射して、レーダ送受信部10へ向かう反射波EM2を生ずる。
【0035】
図5(A)および図5(B)は、図3の測定環境の場合に、レーダデータ処理部20のFFT処理部22によって求められた周波数スペクトル、すなわち、レーダ送受信部10からの距離dに応じて観測された反射パワーPWのデータ(相対値で単位dB)を示している。図4は、レーダ送受信部10の前方で至近範囲に対象物90が存在しない場合の、FFT処理部22によって求められた周波数スペクトル、すなわち、レーダ送受信部10からの距離dに応じて観測された反射パワーPWのデータ(相対値で単位dB)を示している。より詳しくは、図5(A)は、金属棒90Aが、レーダ送受信部10からの距離d=0cmに存在する場合を示している。図5(B)は、金属棒90Aが、レーダ送受信部10からの距離d=10cmに存在する場合を示している。図5(A)および図5(B)によって分かるように、金属棒90Aが、レーダ送受信部10からの距離d=0cmに存在する場合、距離d=10cmに存在する場合のいずれも、対象物90が存在しない場合(図4)に比して、至近範囲での反射パワーPWが大きく上昇している。
【0036】
図6(A)および図6(B)は、金属棒90Aに換え、人体モデル90Bを用いて測定した場合を示している。この例では、人体モデル90Bは、水入りのPET(ポリエチレンテレフタレート)ボトルからなっている。図6(A)は、人体モデル90Bが、レーダ送受信部10からの距離d=0cmに存在する場合を示している。図6(B)は、人体モデル90Bが、レーダ送受信部10からの距離d=10cmに存在する場合を示している。図6(A)および図6(B)によって分かるように、いずれも、対象物90が存在しない場合(図4)に比して、至近範囲での反射パワーPWが大きく上昇している。
【0037】
図7(A)および図7(B)は、金属棒90Aに換え、リフレクタ90Cを用いて測定した場合を示している。この例では、リフレクタ90Cは、正四面体の3面をなす金属板からなり、残りの1面(レーダ送受信部10に対向する前面)が省略されて凹状に形成された標準品である。リフレクタ90Cの凹部がレーダ送受信部10に向けられている。図7(A)は、リフレクタ90Cが、レーダ送受信部10からの距離d=0cmに存在する場合を示している。図7(B)は、リフレクタ90Cが、レーダ送受信部10からの距離d=10cmに存在する場合を示している。図7(A)および図7(B)によって分かるように、いずれも、対象物90が存在しない場合(図4)に比して、至近範囲での反射パワーPWが大きく上昇している。
【0038】
図9(A)は、レーダ送受信部10の前方で至近範囲に対象物90が存在しない場合の反射パワーPWを示している。図9(B)は、金属棒90Aが、レーダ送受信部10からの距離d=0cmに存在する場合を示している。図9(A)および図9(B)によって分かるように、至近範囲に対象物が存在しない場合の基準(初期値)の反射パワーPWと、金属棒90Aが存在する場合に検出される反射パワーPWとの間に差Dが存在することが分かる。この例では、差Dを予め定められた閾値Thと比較することにより、対象物が存在するか否かを高精度で判定することが可能となる。
【0039】
このような状況を踏まえて、一実施形態の存在判定方法では、図8に示す存在判定処理方法のフローに示すように、レーダ送受信部10の前方で至近範囲に対象物90が存在しない場合の、反射パワーPW、および、その反射パワーPWを特定範囲にわたって積分して得られた面積に対して、現在の反射パワーPW、および、その反射パワーPWを特定範囲にわたって積分して得られた面積を比較することによって、現在、レーダ送受信部10の前方で至近範囲に対象物90が存在しているか否かを判定することとする。この例では、特定範囲は、レーダ送受信部10から10cmまでの範囲とする(すなわち、この例では、特定範囲は至近範囲と一致している。)。
【0040】
図8のステップS1に示すように、存在判定方法は、送受信部10から予め定められた至近範囲に対象物が存在しない場合について、予め、基準の反射パワーPWを算出する。この例では、図10は、レーダ送受信部10の前方に対象物90が存在しない場合の反射パワーPWを示している。図10中の個々のデータ点P1…P4(●印で示す)は、送受信部10から距離に関する最小分解能分だけ離れたP1の距離から、P1の距離よりも大きいP4までの特定範囲を示している。FFT処理部22は、予め、データ点P1…P4わたって反射パワーPWを算出する。
【0041】
さらに、存在処理部30は面積算出部として働いて、反射パワーPWを特定範囲にわたって積分して得られた基準の面積SRとして、データ点P1…P4の反射パワーPWの合計を算出する。図10の例では、基準の面積SRは、P1…P4の合計SR=233dBであった。
【0042】
次に、図8のステップS2で、存在処理部30は面積算出部として働いて、反射パワーPWを特定範囲わたって積分して現在の面積SCを算出した上、さらに、第1判定部として働いて、至近範囲に対象物が存在しないとき面積算出部によって特定範囲わたって算出された基準の面積SRに対して、面積算出部によって特定範囲わたって算出される現在の面積SCが大きい、という第1条件が満たされているか否かを判定する。
【0043】
この例では、図11Aは、対象物が金属棒90Aであり、距離d=0cmに存在する場合の反射パワーPWを至近範囲で拡大して示している。図11Aの例では、現在の面積SCとしての現在のデータ点PA01…PA04の合計SCA0=252dBであった。図11Aの例では、現在の面積SCA0=252dBは、基準の面積SR=233dBより大きい。したがって、第1条件が満たされていると判定される(図8のステップS2でYES)。
【0044】
上記第1条件が満たされているとき、図8のステップS3で、存在判定部は第2判定部として働いて、至近距離内に対象物が存在しないときFFT処理部22によって第1の距離で検出された基準の反射パワーPWに対して、FFT処理部22によって第1の距離で検出される現在の反射パワーPWとの差が、予め定められた閾値Thよりも大きい、という第2条件(後掲の表1参照)が満たされているか否かを判定する。この例では、レーダ送受信部10から距離10cmの位置での反射パワーPW同士を比較するものとする。
【0045】
この例では、図10中、FFT処理部22によって距離10cmの位置でのデータ点P4で検出された基準の反射パワーPW=61dBに対して、図11A中、FFT処理部22によって距離10cmの位置でのデータ点PA04で検出される現在の反射パワーPW=70dBとの差が、予め定められた閾値Th=5dBよりも大きい。したがって、第2条件が満たされていると判定される(図8のステップS3でYES)。なお、予め、閾値Th=5dBに設定されているものとする。
【0046】
上記第1および第2条件が満たされているときに限り、図8のステップS4に示すように、存在処理部30は存在判定部として働いて、対象物が存在すると判定する。一方、上記第1および第2条件のいずれかが満たされていなければ、図8のステップS5に示すように、存在処理部30は、対象物が存在しないと判定する。
【0047】
図11Bは、図11Aの例に代えて、対象物が金属棒90Aであり、距離d=10cmに存在する例を示している。この場合、現在のデータ点PA101…PA104の合計SCA10=234dBは、基準の面積SR=233dBより大きい。よって、第1条件が満たされていると判定される。また、基準の反射パワーPW=61dBに対して、データ点PA104で検出される現在の反射パワーPW=70dBとの差が、予め定められた閾値Th=5dBよりも大きい、という第2条件が満たされていると判断される。したがって、対象物が存在すると判定される。
【0048】
図12Aは、図11A図11Bの例に代えて、対象物が人腕モデル90Hであり、距離d=0cmに存在する例を示している。人腕モデル90Hは、人体モデル90Bと同様に、水入りのPETボトルからなっている。この場合、現在のデータ点PH01…PH04の合計SCH0=272dBは、基準の面積SR=233dBより大きい。よって、第1条件が満たされていると判定される。また、基準の反射パワーPW=61dBに対して、データ点PH04で検出される現在の反射パワーPW=70dBとの差が、予め定められた閾値Th=5dBよりも大きい、という第2条件が満たされていると判断される。したがって、対象物が存在すると判定される。
【0049】
図12Bは、図11A図11B図12Aの例に代えて、対象物が人腕モデル90Hであり、距離d=10cmに存在する例を示している。この場合、現在のデータ点PH101…PH104の合計SCH10=244dBは、基準の面積SR=233dBより大きい。よって、第1条件が満たされていると判定される。また、基準の反射パワーPW=61dBに対して、データ点PH104で検出される現在の反射パワーPW=77dBとの差が、予め定められた閾値Th=5dBよりも大きい、という第2条件が満たされていると判断される。したがって、対象物が存在すると判定される。
【0050】
(表1)判定条件テーブル
【0051】
このようにして、このレーダ装置1によれば、至近範囲に対象物が存在するか否かを判定することが可能となる。
【0052】
なお、データ点の合計は、1回の検出結果に限られるものではない。複数回の検出結果に基づいて合計してもよい。この例では、面積はデータ点の合計により算出したが、これに限られるものではない。反射パワーPWの距離に対する関数式から積分の計算により算出してもよい。
【0053】
上の例では、存在処理部30が面積算出部として反射パワーPWを積分すべき特定範囲は至近範囲(レーダ送受信部10から距離d=10cmまでの範囲)と一致しているものとした。しかしながら、これに限られるものではなく、特定範囲は至近範囲よりも広くてもよいし、狭くてもよい。
【0054】
また、上の例では、存在判定部は第2判定部として働いて、レーダ送受信部10から距離10cmの位置での反射パワーPW同士を比較するものとした。しかしながら、これに限られるものではなく、他の位置、例えばレーダ送受信部10から距離5cmの位置での反射パワーPW同士を比較してもよい。
【0055】
上述の存在処理部30は、ソフトウェア(コンピュータプログラム)に従って動作するマイクロプロセッサによって構成された。しかしながら、これに限るものではなく、存在処理部30は、PLD(Programmable Logic Device)、FPGA(Field Programmable Gate Array)などの、論理回路(集積回路)によって構成されてもよい。また、存在処理部30は、例えば市販のミリ波センサデバイスに組み込まれてもよい。
【0056】
上述の存在判定方法(または存在処理方法)を、ソフトウェア(コンピュータプログラム)として、CD(コンパクトディスク)、DVD(デジタル万能ディスク)、フラッシュメモリなどの非一時的(non-transitory)にデータを記憶可能な記録媒体に記録してもよい。このような記録媒体に記録されたソフトウェアを、パーソナルコンピュータ、PDA(パーソナル・デジタル・アシスタンツ)、スマートフォンなどの実質的なコンピュータ装置にインストールすることによって、それらのコンピュータ装置に、上述の存在判定方法(または存在処理方法)を実行させることができる。
【0057】
以上の実施形態は例示であり、この発明の範囲から離れることなく様々な変形が可能である。上述した複数の実施の形態は、それぞれ単独で成立し得るものであるが、実施の形態同士の組みあわせも可能である。また、異なる実施の形態の中の種々の特徴も、それぞれ単独で成立し得るものであるが、異なる実施の形態の中の特徴同士の組みあわせも可能である。
【符号の説明】
【0058】
1 レーダ装置
10 レーダ送受信部
20 レーダデータ処理部
30 存在処理部
40 後段処理部
50 データ出力部
90 対象物
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11A
図11B
図12A
図12B