(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-08
(45)【発行日】2024-05-16
(54)【発明の名称】重合体の製造方法
(51)【国際特許分類】
C08F 2/01 20060101AFI20240509BHJP
C08F 20/58 20060101ALI20240509BHJP
【FI】
C08F2/01
C08F20/58
(21)【出願番号】P 2019175704
(22)【出願日】2019-09-26
【審査請求日】2022-08-03
(31)【優先権主張番号】P 2018187676
(32)【優先日】2018-10-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003034
【氏名又は名称】東亞合成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000110
【氏名又は名称】弁理士法人 快友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山内 涼輔
(72)【発明者】
【氏名】後藤 彰宏
(72)【発明者】
【氏名】中野 駿
【審査官】今井 督
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2009/119806(WO,A1)
【文献】特開2013-082904(JP,A)
【文献】特開平07-196596(JP,A)
【文献】特開昭61-127705(JP,A)
【文献】特開2005-133000(JP,A)
【文献】特開平06-242294(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
重合体の製造方法であって、
前記重合体を製造するための1種又は2種以上の単量体を準備する単量体準備工程と、
前記1種又は2種以上の単量体を重合する重合工程と、
前記重合工程によって得られる前記重合体を保存する保存工程であって、前記重合体と接液する1種又は2種以上の接液要素から前記重合体への金属成分の混入を抑制して保存する工程と、
を備え、
前記重合工程の少なくとも一部に供される液体である1種又は2種以上の工程液が接液する1種又は2種以上の接液要素から前記工程液への金属成分の混入を抑制することを特徴とし、
前記1種又は2種以上の単量体は、スルホン酸基含有単量体又はその塩を含み、
前記1種又は2種以上の接液要素は、
(a)接液面に耐金属成分溶出性材料を備える金属製部材、又は
(b)前記耐金属成分溶出性材料を主体とする部材、
であり、
前記耐金属成分溶出性材料は、フッ素樹脂及び/又はポリオレフィン樹脂であり、濃度5g/Lの希硫酸80gを、接触面積200cm
2で接触させた状態で、80℃で1時間加熱したとき、希硫酸中のNa、Al、K及びCaからなる群から選択される少なくともNaを含む1種又は2種以上の金属成分の増量が1ppm以下である、
製造方法。
【請求項2】
重合体の製造方法であって、
前記重合体を製造するための1種又は2種以上の単量体を準備する単量体準備工程と、
前記1種又は2種以上の単量体を重合する重合工程と、
を備え、
前記重合工程の少なくとも一部に供される液体である1種又は2種以上の工程液が接液する1種又は2種以上の接液要素から前記工程液への金属成分の混入を抑制することを特徴とし、
前記1種又は2種以上の単量体は、スルホン酸基含有単量体又はその塩を含み、
前記1種又は2種以上の接液要素は、
(a)接液面に耐金属成分溶出性材料を備える金属製部材、又は
(b)前記耐金属成分溶出性材料を主体とする部材、
であり、
前記耐金属成分溶出性材料は、フッ素樹脂及び/又はポリオレフィン樹脂であり、濃度5g/Lの希硫酸80gを、接触面積200cm
2で接触させた状態で、80℃で1時間加熱したとき、希硫酸中のNa、Al、K及びCaからなる群から選択される少なくともNaを含む1種又は2種以上の金属成分の増量が1ppm以下であり、
前記重合工程は、前記スルホン酸基含有単量体を90モル%以上中和して用いる、
製造方法。
【請求項3】
前記金属成分は、Na、Al、K、Ca及びFeからなる群から選択される少なくともNaを含む1種又は2種以上の金属元素又はイオンであり、前記重合体を含む前記工程液中における前記1種又は2種以上の金属成分の濃度は、前記重合体に対し3ppm以下である、請求項1又は2に記載の
製造方法。
【請求項4】
前記スルホン酸基含有単量体又はその塩は、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸又はその塩を含む、請求項1~3のいずれかに記載の
製造方法。
【請求項5】
前記重合工程は、重合開始剤として過硫酸アンモニウム、過酸化物及びアゾ化合物からなる群から選択される1種又は2種以上を用いる、請求項1~4のいずれかに記載の
製造方法。
【請求項6】
前記重合工程は、前記スルホン酸基含有単量体を90モル%以上中和して用いる、請求項1に記載の
製造方法。
【請求項7】
1種又は2種以上の重合体を保存する保存工程を備え、
前記保存工程の少なくとも一部に供される液体である1種又は2種以上の工程液が接液する1種又は2種以上の接液要素から前記工程液への金属成分の混入を抑制することを特徴とし、
前記1種又は2種以上の重合体は、スルホン酸基含有単量体又はその塩を含む1種又は2種以上の単量体の重合体であり、
前記1種又は2種以上の接液要素は、
(a)接液面に耐金属成分溶出性材料を備える金属製部材、又は
(b)前記耐金属成分溶出性材料を主体とする部材、
であり、
前記耐金属成分溶出性材料は、フッ素樹脂及び/又はポリオレフィン樹脂であり、濃度5g/Lの希硫酸80gを、接触面積200cm
2で接触させた状態で、80℃で1時間加熱したとき、希硫酸中のNa、Al、K、Ca及びFeからなる群から選択される少なくともNaを含む1種又は2種以上の金属成分の増量が1ppm以下である、保存方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書は、重合体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
スルホン酸基又はその塩を有する重合体(以下、スルホン酸系重合体ともいう。)は、抄紙用分散剤、凝集剤、増粘剤及び洗浄剤などの広い分野で工業的に使用されている。多くの分野では、使用用途における製造上あるいは着色抑制等の観点から金属不純物の含有量の少ない重合体が求められている。特に半導体分野では、デバイスに混入する金属不純物低減に関する要求レベルは高く、例えば研磨剤組成物や洗浄剤等、デバイス製造工程で用いられる薬剤に対しても、高純度のものが要求されている。
【0003】
例えば、鉄の含有量の少ない硫酸または発煙硫酸を用いて得られた2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸(以下、ATBSともいう。)及び該ATBS及びアクリルアミドから得られた共重合体が開示されている(特許文献1)。また、金属不純物の少ないスルホン酸系重合体を得る方法として、ナトリウム等の金属不純物の含有量が低いビニルスルホン酸の単独重合体又は共重合体の製造方法が知られており、重合体に含まれる金属含有量をさらに低減するため、溶媒再沈法やイオン交換法等による精製を行ってもよい旨が示されている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平7-196596号公報
【文献】国際公開第2009/119806号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、より高品質な製品を得る観点からは、より高度に金属元素又は当該金属元素のイオンを含む金属成分が低減されたスルホン酸系重合体が求められている。特許文献1では、鉄含有量の低いATBSが得られているが、中和剤若しくは開始剤等の他の原料に由来する金属成分の持ち込み、又は、製造プロセスにおける金属成分の混入等については何ら記載されていない。また、特許文献2に記載のように、重合体の製造後に金属を除去するように精製する場合、溶媒再沈法では得られる重合体の歩留まりが悪く生産性の点で課題があるほか、多量の溶剤を使用するためコスト高となる問題がある。また、イオン交換法の場合、重合体とイオン交換樹脂は、概してともにスルホン酸基を含む重合体であるため金属分を効率的に除去することが難しいという問題もある。また、イオン交換樹脂を再生するために使用する薬液や使用後のイオン交換樹脂の廃棄等、環境負荷の面でも課題がある。
【0006】
一方、これまで、スルホン酸系重合体の製造プロセスで用いる装置等に重合反応液等が接触することによる金属成分の溶出程度やその影響はほとんど知られていない。さらに、スルホン酸系重合体の重合プロセス中で金属不純物が混入した場合、単量体組成物が不安定化し、意図しない重合反応等が起こる場合もある。
【0007】
本明細書は、一層高度に金属成分の含有量が低減された高純度なスルホン系重合体を含む重合体を製造する技術を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、実際の製造スケールにおける重合体中の金属成分量について種々検討した。その結果、原料においては、本来的に十分に金属成分の混入の抑制が考慮されているにもかかわらず、意外にも製造プロセスに由来する金属成分によって金属成分量が増大しているという知見を得た。本明細書は、かかる知見に基づき、以下の手段を提供する。
【0009】
(1)重合体の製造方法であって、
前記重合体を製造するための1種又は2種以上の単量体を準備する単量体準備工程と、
前記1種又は2種以上の単量体を重合する重合工程と、
を備え、
これらの工程の少なくとも一部に供される液体である1種又は2種以上の工程液が接液する1種又は2種以上の接液要素から前記工程液への金属成分の混入を抑制する、製造方法。
(2)前記1種又は2種以上の接液要素は、
(a)接液面に耐金属成分溶出性材料を備える金属製部材、又は
(b)前記耐金属成分溶出性材料を主体とする部材、
である、(1)に記載の方法。
(3)前記耐金属成分溶出性材料は、濃度5g/Lの希硫酸80gを、接触面積200cm2で接触させた状態で、80℃で1時間加熱したとき、希硫酸中のNa、Al、K、Ca及びFeからなる群から選択される1種又は2種以上の金属成分の増量が1ppm以下である、(2)に記載の方法。
(4) 前記金属成分は、Na、Al、K、Ca及びFeからなる群より選ばれる1種又は2種以上の金属元素又はイオンであり、前記重合体を含む前記工程液中における前記1種又は2種以上の金属成分の濃度は、前記重合体に対し3ppm以下である、(1)~(3)のいずれかに記載の方法。
(5)前記1種又は2種以上の単量体は、スルホン酸基含有単量体又はその塩を含む、(1)~(4)のいずれかに記載の方法。
(6)前記スルホン酸基含有単量体又はその塩は、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸又はその塩を含む、(5)に記載の方法。
(7)前記重合工程は、前記スルホン酸基含有単量体を90モル%以上中和して用いる、(5)又は(6)に記載の方法。
(8)さらに、前記重合工程によって得られる前記重合体を保存する保存工程であって、前記重合体と接液する1種又は2種以上の接液要素から前記重合体への金属成分の混入を抑制して保存する工程を備える、(1)~(7)のいずれかに記載の方法。
(9)重合体を製造するための1種又は2種以上の単量体を保存する保存工程を備え、
前記保存工程の少なくとも一部に供される液体である1種又は2種以上の工程液が接液する1種又は2種以上の接液要素から前記工程液への金属成分の混入を抑制する、保存方法。
(10)1種又は2種以上の重合体を保存する工程を備え、
前記保存工程の少なくとも一部に供される液体である1種又は2種以上の工程液が接液する1種又は2種以上の接液要素から前記工程液への金属成分の混入を抑制する、保存方法。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本明細書は、重合体の製造方法等を提供する。本明細書に開示される重合体の製造方法(以下、単に、本製造方法ともいう。)は、単量体準備工程又は重合工程に供される液体である1種又は2種以上の工程液が接液する1種又は2種以上の接液要素から前記工程液への金属成分の混入を抑制することで、重合体中の金属成分含有量を効果的に低減できる。
【0011】
すなわち、本製造方法によれば、例えばイオン交換などの特別な操作を要することなく簡易に、金属成分の含有量が抑制された重合体を安定に製造し保存することができる。
【0012】
これまで、重合体中の金属成分の低下の要請に対して、原料の観点及び製造後の重合体の精製の観点から対策が講じられてきていた。これに対して本開示によれば、単量体準備工程及び重合工程の少なくとも一部に供される液体である1種又は2種以上の工程液が接液する接液要素に着目したところ、接液要素からの金属成分の混入量が予想を超えて大きく、重合体の品質に大きく影響することがあることがわかった。以上のことから、本開示の製造方法によれば、不純物としての金属成分の濃度が十分に抑制された重合体を得ることができる。
【0013】
また、本発明者らの知見によれば、接液要素からの金属成分の混入は、単量体の保存時においても生じており、意図しない金属成分の増大やラジカル重合の促進は、接液要素によるものであることが初めて判明した。また、接液要素からの金属成分の混入は、重合体の保存時においても生じており、意図しない金属成分の増大による使用時における悪影響が発生する可能性があることも判明した。以上のことから、本開示の保存方法によれば、単量体及び重合体中の不純物としての金属成分の濃度を十分に抑制して単量体のその後の使用や重合体の用途における品質を確保することができる。
【0014】
本明細書において、「(メタ)アクリル」とは、アクリル及び/又はメタクリルを意味し、「(メタ)アクリレート」とは、アクリレート及び/又はメタクリレートを意味し、(メタ)アクリルアミドは、アクリルアミド及び/又はメタクリルアミドを意味し、「(メタ)アリル」とは、アリル及び/又はメタリルを意味する。
【0015】
本明細書において、「重合体」とは、1種又は2種以上の単量体を重合することにより得られる重合体を意味している。例えば、「重合体」は、重合体を含有する種々の液体、例えば、重合を終了した重合反応液、重合反応液を含んで保存を目的とした重合体溶液又は重合体溶液として販売される製品形態において存在する形態を採ることができる。なお、こうした重合体を含有する種々の液体は、「重合体」を含み、その重合反応液を含み、場合により、未反応単量体、開始剤などの反応のための残余成分を含みうる。
【0016】
本明細書において、「工程液」とは、重合体の製造から終了までのいずれかの工程において供される液体をいう。「工程液」は、例えば、単量体の合成、一時的保存、重合体の合成及び一時保存などのために用いられる液体であり、単量体原料、単量体の合成のための触媒、単量体、重合のための重合開始剤や触媒などの添加剤、重合体などの溶質を含んだ液体であってもよいし、当該溶質を含んでいない液体であってもよい。
【0017】
また、本明細書において、「接液要素」とは、液体によって接触される要素であればよく、その形状や用途が限定されるものではない。「接液要素」は、例えば、液体を収容したり反応を実施するキャビティを有する容器状の要素及びリッド状の要素であり、また例えば、液体が通過することによって液体によって接触される表面を有する管状又はチャネル状の要素であり、また例えば、液体に浸漬されて接触される要素であってもよい。
【0018】
以下、本製造方法等の実施態様について詳細に説明する。
【0019】
<重合体の製造方法>
本明細書に開示される重合体の製造方法は、前記重合体を製造するための1種又は2種以上の単量体を準備する単量体準備工程と、前記1種又は2種以上の単量体を重合する重合工程と、を備え、これらの工程の少なくとも一部に供される液体である1種又は2種以上の工程液が接液する1種又は2種以上の接液要素から前記工程液への金属成分の混入を抑制する。以下、金属成分、重合体及び重合体を得るための1種又は2種以上の単量体について説明し、その後、単量体準備工程及び重合工程について説明する。
【0020】
(金属成分)
本明細書において、抑制対象とすべき金属成分は、重合体の種類によっても異なる。例えば、半導体分野では、金属元素として、Na、Al、K、Ca、Fe、Mg、Ti、Cr、Mn、Co、Ni、Sn、Cu、Zn、Zr、Ag、W及びPb等が挙げられる。これらの金属元素は、重合反応において、又は重合体の用途によっては、不都合が生じる場合がある。金属元素としては、また例えば、Na、Al、K、Ca及びFeである。また、重合安定性の観点からは、抑制対象とすべき金属元素は、例えば、Feが挙げられる。金属元素としては、これらのうち1種又は2種以上とすることができる。本明細書において、金属成分は、金属元素又はそのイオンである、金属成分は、概して、金属元素に由来して、金属元素のほか、例えば、塩、水酸化物,キレートなどの形態を採って、イオンの形態で存在するものと考えられる。
【0021】
(重合体及び重合体を得るための1種又は2種以上の単量体)
本製造方法が適用される重合体(以下、単に、本重合体ともいう。)は、その構造単位の種類や組成、共重合体の場合におけるランダムコポリマー、種々のブロックコポリマーなどのポリマー形態を特に限定するものではないほか、その分子量や分布等についても特に限定するものではない。
【0022】
本重合体は、例えば、非酸化性(酸化力の弱い)の酸基又はその塩である単量体に由来する構造単位を有する(共)重合体を含有することができる。こうした酸又はその塩は、ステンレスなど、化学合成分野で汎用されているステンレスにおいて不動態被膜を形成し難くステンレスを腐食するからである。
【0023】
こうした酸基としては、スルホン酸基、カルボキシ基、リン酸基などの有機酸基が挙げられる。本重合体は、こうした非酸化性の酸基又はその塩から選択される1種又は2種以上を含む1種又は2種以上の構造単位を有する重合体を含むことができる。なかでも、スルホン酸基は、ステンレスを腐食しやすく、金属イオンが溶出されやすくなることから、本重合体は、少なくともスルホン酸基を含む構造単位を有する重合体を含むことが好ましい。
【0024】
本重合体は、特に限定するものではないが、例えば、スルホン酸(塩)基を含む単量体及びカルボン酸(塩)基を含む単量体からなる群から選択される少なくとも1種の単量体を含む重合体又は共重合体とすることができる。
【0025】
スルホン酸(塩)基含有単量体としては、スルホン酸(塩)基を有し、さらに重合可能なビニル基などの不飽和基を有する不飽和単量体が挙げられる。かかる単量体としては、例えば、イソプレンスルホン酸、(メタ)アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、スチレンスルホン酸、α―メチルスチレンスルホン酸、(メタ)アリルスルホン酸、ビニルスルホン酸、イソアミレンスルホン酸、例えば、2-ヒドロキシ-3-(メタ)アリルオキシ-1-プロパンスルホン酸、などの不飽和(メタ)アリルエーテル系単量体、スルホエチル(メタ)アクリレート、例えば、2-メチル-1,3-ブタジエン-1-スルホン酸などの共役ジエンスルホン酸、2-ヒドロキシ-3-アクリルアミドプロパンスルホン酸及びこれらの塩などが挙げられる。
【0026】
スルホン酸(塩)基含有単量体としては、これらの1種又は2種以上を組み合わせて用いることができる。なかでも、重合性に優れるなどの観点から、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸などの(メタ)アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸(ATBS)又はその塩が挙げられる。また、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸又はその塩は、水溶性であって、水又は水とモノマーとの混液などの水/モノマー液に容易に溶解するという溶解性のほか、当該化合物が酸性であることから酸性液中で安定であることから優れた重合性に貢献しているという利点がある。
【0027】
スルホン酸(塩)基含有単量体における塩としては、特に限定するものではなく、一般的には、カリウム等によるアルカリ金属塩;カルシウム、マグネシウム等によるアルカリ土類金属塩;アンモニア;水酸化テトラメチルアンモニウム、水酸化テトラエチルアンモニウム、水酸化テトラブチルアンモニウムなどの4級水酸化アンモニウムなどのアンモニウム塩;メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、ブチルアミン、ジブチルアミン、トリブチルアミンなどのアルキルアミン;モノエタノールアミン、トリエタノールアミン、ジイソプロパノールアミンなどのアルコールアミン;エチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、トリエチルペンタミン、テトラエチルペンタミンなどのポリアミン、モルホリン、ピペリジン等の有機アミン塩が挙げられるが、本明細書において金属成分含有量を制限する観点からは、制御すべき対象となる金属成分以外の金属塩又は非金属塩であることが好ましい。より好ましくは、アンモニア、アンモニウム塩や各種の有機アミン塩が挙げられる。
【0028】
カルボキシ(塩)基を有する単量体としては、カルボキシ(塩)基を有し、さらに重合可能なビニル基などの不飽和基を有する不飽和単量体が挙げられる。かかる単量体としては、例えば、(メタ)アクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、クロトン酸、(メタ)アクリル酸2-カルボキシエチル等のカルボキシ基含有ビニル化合物;無水マレイン酸、無水イタコン酸、無水シトラコン酸等の不飽和酸無水物;前記不飽和酸無水物とアルキルアルコールとのハーフエステル化合物;並びに、これらの塩等が挙げられ、これらの内の1種又は2種以上を使用することができる。上記のうちでも、重合性が良好であり、得られる重合体に十分な親水性を付与することができる点で、(メタ)アクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸が好ましく、中でもアクリル酸がより好ましい。
【0029】
本重合体を得るための1種又は2種以上の単量体(以下、総括して、単量体組成物ともいう。)としては、スルホン酸(塩)基含有単量体及びカルボン酸(塩)基含有単量体の総質量が単量体組成物の総質量の、例えば50質量%以上であり、また例えば、60質量%以上であり、また例えば、70質量%以上であり、また例えば、80質量%以上であり、また例えば、90質量%以上であり、また例えば、95質量%以上であり、また例えば、97質量%以上であり、また例えば、98質量%以上であり、また例えば、99質量%以上であり、また例えば100質量%であってもよい。また、これらの総質量は、例えば、99質量%以下であり、また例えば、98質量%以下であり、また例えば、97質量%以下であり、また例えば、96質量%以下であり、また例えば、95質量%以下であり、また例えば、90質量%以下であり、また例えば、85質量%以下であり、また例えば、80質量%以下であり、また例えば、75質量%以下であり、また例えば、70質量%以下である。例えば、これらの総質量の下限及び上限は、例えば、水への溶解性等を考慮して設定される。
【0030】
なお、本明細書において、1種の重合体を得るための単量体組成物の総質量に対するある種の単量体の質量%を規定するとき、当該質量%は、かかる単量体組成物を重合して得られる重合体における当該ある種の単量体に由来する構造単位の質量%を規定するものとする。同様に、単量体組成物において特定の単量体の総質量に対する他の特定の単量体の質量%を規定するとき、当該質量%は、かかる単量体組成物を重合して得られる重合体における特定の単量体由来の構造単位の総質量に対する他の特定の単量体に由来する構造単位の質量%を規定するものとする。
【0031】
また、スルホン酸(塩)基含有単量体及びカルボキシ(塩)基含有単量体におけるスルホン酸(塩)基含有単量体の割合は、これらの単量体の総質量に対して、例えば、50質量%以上であり、また例えば、60質量%以上であり、また例えば、70質量%以上であり、また例えば、80質量%以上であり、また例えば、90質量%以上であり、また例えば、95質量%以上であり、また例えば、97質量%以上であり、また例えば、98質量%以上であり、また例えば、99質量%以上であり、また例えば100質量%であってもよい。また、スルホン酸(塩)基含有単量体の割合は、例えば、99質量%以下であり、また例えば、98質量%以下であり、また例えば、97質量%以下であり、また例えば、96質量%以下であり、また例えば、95質量%以下であり、また例えば、90質量%以下であり、また例えば、85質量%以下であり、また例えば、80質量%以下であり、また例えば、75質量%以下であり、また例えば、70質量%以下である。例えば、これらの総質量の下限及び上限は、本重合体の用途等を考慮して設定される。
【0032】
本重合体は、その効果を損なわない範囲において、上記した単量体のほか、これらの単量体と共重合可能な単量体に由来する構造単位を有することができる。かかる単量体としては、特に限定するものではないが、例えば、アミド基含有ビニル単量体、N-ビニルラクタム単量体、水酸基含有ビニル単量体、(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体、芳香族ビニル単量体、アミノ基含有ビニル単量体、ポリオキシアルキレン基含有ビニル単量体、アルコキシ基含有ビニル単量体、シアノ基含有ビニル単量体、ビニルエーテル単量体、ビニルエステル単量体、共役ジエン等が挙げられる。これらは、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0033】
アミド基含有ビニル単量体としては、例えば、(メタ)アクリルアミド;N-メチル(メタ)アクリルアミド、N-エチル(メタ)アクリルアミド、N-プロピル(メタ)アクリルアミド、N-イソプロピル(メタ)アクリルアミド、N-ブチル(メタ)アクリルアミド、N-イソブチル(メタ)アクリルアミド、N-tert-ブチル(メタ)アクリルアミド、N-ヘキシル(メタ)アクリルアミド、N-ヘプチル(メタ)アクリルアミド、N-オクチル(メタ)アクリルアミド、N-tert-オクチル(メタ)アクリルアミド、N-ドデシル(メタ)アクリルアミド、N-オクタデシル(メタ)アクリルアミド等のN-モノアルキル(メタ)アクリルアミド;N-メチロール(メタ)アクリルアミド、N-エチロール(メタ)アクリルアミド、N-プロピロール(メタ)アクリルアミド等のN-モノアルキロール(メタ)アクリルアミド;N,N-ジメチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジエチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジプロピル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジイソプロピル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジブチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジイソブチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジ-tert-ブチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジヘプチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジオクチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジ-tert-オクチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジドデシル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジオクタデシル(メタ)アクリルアミド等のN,N-ジアルキル(メタ)アクリルアミド;N,N-ジメチルアミノエチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジエチルアミノエチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジエチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド等のN,N-ジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリルアミド;N-(メタ)アクリロイルモルホリン、N-(メタ)アクリロイルチオモルホリン、N-(メタ)アクリロイルピペリジン、N-(メタ)アクリロイルピロリジン等のN-(メタ)アクリロイル環状アミド化合物;N-ビニルアセトアミド、N-ビニルプロピオン酸アミド、N-ビニル酪酸アミド等が挙げられ、これらの内の1種又は2種以上を使用することができる。
【0034】
N-ビニルラクタム単量体としては、例えば、N-ビニルピロリドン、N-ビニルピペリドン、N-ビニルモルホリノン、N-ビニルカプロラクタム、N-ビニル-1,3-オキサジン-2-オン、N-ビニル-3,5-モルホリンジオン等が挙げられ、これらの内の1種又は2種以上を使用することができる。
【0035】
水酸基含有ビニル単量体としては、例えば、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸4-ヒドロキシブチル、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、N-メチロール(メタ)アクリルアミド等が挙げられ、これらの内の1種又は2種以上を使用することができる。
【0036】
(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体としては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n-プロピル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸sec-ブチル、(メタ)アクリル酸tert-ブチル、(メタ)アクリル酸n-ペンチル、(メタ)アクリル酸イソアミル、(メタ)アクリル酸n-ヘキシル、(メタ)アクリル酸2-メチルペンチル、(メタ)アクリル酸n-オクチル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸n-デシル、(メタ)アクリル酸n-ドデシル、(メタ)アクリル酸n-オクタデシル等が挙げられる。これらは、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0037】
芳香族ビニル単量体としては、スチレン、2-メチルスチレン、3-メチルスチレン、4-メチルスチレン、α-メチルスチレン、2,4-ジメチルスチレン、2,4-ジイソプロピルスチレン、4-tert-ブチルスチレン、tert-ブトキシスチレン、ビニルトルエン、ビニルナフタレン、ハロゲン化スチレン等が挙げられる。これらは、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0038】
アミノ基含有ビニル単量体としては、(メタ)アクリル酸ジメチルアミノメチル、(メタ)アクリル酸ジエチルアミノメチル、(メタ)アクリル酸2-ジメチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸2-ジエチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸2-(ジ-n-プロピルアミノ)エチル、(メタ)アクリル酸2-ジメチルアミノプロピル、(メタ)アクリル酸2-ジエチルアミノプロピル、(メタ)アクリル酸2-(ジ-n-プロピルアミノ)プロピル、(メタ)アクリル酸3-ジメチルアミノプロピル、(メタ)アクリル酸3-ジエチルアミノプロピル、(メタ)アクリル酸3-(ジ-n-プロピルアミノ)プロピル等が挙げられる。これらは、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0039】
ポリオキシアルキレン基含有ビニル単量体としては、ポリオキシエチレン基、及び/又は、ポリオキシプロピレン基を有するアルコールの(メタ)アクリル酸エステル等が挙げられる。これらは、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0040】
アルコキシ基含有ビニル単量体としては、(メタ)アクリル酸2-メトキシエチル、(メタ)アクリル酸2-エトキシエチル、(メタ)アクリル酸2-(n-プロポキシ)エチル、(メタ)アクリル酸2-(n-ブトキシ)エチル、(メタ)アクリル酸3-メトキシプロピル、(メタ)アクリル酸3-エトキシプロピル、(メタ)アクリル酸2-(n-プロポキシ)プロピル、(メタ)アクリル酸2-(n-ブトキシ)プロピル等が挙げられる。これらは、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0041】
シアノ基含有ビニル単量体としては、(メタ)アクリル酸シアノメチル、(メタ)アクリル酸1-シアノエチル、(メタ)アクリル酸2-シアノエチル、(メタ)アクリル酸1-シアノプロピル、(メタ)アクリル酸2-シアノプロピル、(メタ)アクリル酸3-シアノプロピル、(メタ)アクリル酸4-シアノブチル、(メタ)アクリル酸6-シアノヘキシル、(メタ)アクリル酸2-エチル-6-シアノヘキシル、(メタ)アクリル酸8-シアノオクチル、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、エタクリロニトリル等が挙げられる。これらは、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0042】
ビニルエーテル単量体としては、ビニルメチルエーテル、ビニルエチルエーテル、ビニル-n-ブチルエーテル、ビニルフェニルエーテル、ビニルシクロヘキシルエーテル、2-ヒドロキシエチルビニルエーテル、4-ヒドロキシブチルビニルエーテル等が挙げられる。これらは、単独で用いてよいし2つ以上を組み合わせて用いてもよい。
【0043】
ビニルエステル単量体としては、ギ酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等が挙げられる。これらは、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる
【0044】
共役ジエンとしては、1,3-ブタジエン、イソプレン、2,3-ジメチル-1,3-ブタジエン、1,3-ペンタジエン、2-メチル-1,3-ペンタジエン、1,3-ヘキサジエン、4,5-ジエチル-1,3-オクタジエン、3-ブチル-1,3-オクタジエン、クロロプレン等が挙げられる。これらは、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0045】
その他、マレイミド、N-メチルマレイミド、N-ブチルマレイミド、N-フェニルマレイミド、N-シクロヘキシルマレイミド等のマレイミド系化合物;マレイン酸エステル化合物;イタコン酸エステル化合物;ビニルピリジン等のN-ビニル複素環化合物等が挙げられる。
【0046】
上記したその他の単量体の使用量は、特に限定するものではないが、本重合体に用いる1種の重合体のために用いる単量体組成物の総質量に対して、0質量%以上50質量%以下であり、また例えば、0質量%以上40質量%以下であり、また例えば、0質量%以上30質量%以下である。
【0047】
本重合体の重量平均分子量(Mw)は、特に限定するものではないが、製造安定性の観点から、例えば、1000~1000000であり、また例えば、2000~500000であり、また例えば、3000~100000である。また、半導体用洗浄剤として使用した場合、洗浄性能の観点から、例えば、1000~1000000であり、また例えば、2000~100000であり、また例えば、5000~50000である。重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により、ポリアクリル酸ナトリウム等の標準物質を用いて測定することができる。
【0048】
(単量体準備工程)
本製造方法は、本重合体を製造するための1種又は2種以上の単量体(塩)を準備し、必要に応じて当該単量体(塩)を配合等する単量体準備工程を備えることができる。単量体準備工程は、例えば、1種又は2種以上の単量体(塩)を合成する工程のほか、合成又は商業的に入手した前記単量体を、後段の重合工程に先だって保存する工程を含むことができる。
【0049】
(重合工程)
本製造方法は、既述したとおりの1種又は2種以上の単量体(塩)を重合する重合工程を備えることができる。重合工程は、例えば、1種又は2種以上の単量体(塩)を、重合開始剤の存在下、反応温度を、通常、20~200℃、好ましくは40~150℃で、0.1~20時間、好ましくは1~15時間にわたり重合反応させ、(共)重合体(塩)を製造することができる。例えば、一つの処方として、重合に使用する単量体(塩)を逐次添加し重合を行うことができる。ここで、逐次重合とは、単位時間あたり一定量で、あるいは添加量を変量させて単量体成分を重合系に所定時間内に投入することである。
【0050】
重合工程における重合方法は特に制限されるものではないが、溶液重合法が好ましい。溶液重合によれば、均一な溶液として本発明の重合体を得ることができる。
【0051】
溶液重合の際の重合溶媒には、例えば、水、または水と混合可能な有機溶剤と水との混合物などを用いることができる。この有機溶剤の具体例としては、水と混合可能であれば特に限定されないが、例えば、テトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン、ジメチルホルムアミド、アルコール類などが挙げられる。
【0052】
重合工程においては、公知の重合開始剤を使用出来るが、特にラジカル重合開始剤が好ましく用いられる。ラジカル重合開始剤としては、例えば、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム及び過硫酸アンモニウム等の過硫酸塩類、t-ブチルハイドロパーオキサイド等のハイドロパーオキサイド類、過酸化水素等の水溶性過酸化物、メチルエチルケトンパーオキサイド、シクロヘキサノンパーオキサイド等のケトンパーオキサイド類、ジ-t-ブチルパーオキサイド、t-ブチルクミルパーオキサイド等のジアルキルパーオキサイド類、t-ブチルパーオキシピバレート、t-ヘキシルパーオキシピバレート等のパーオキシエステル類等の油溶性の過酸化物、2,2’-アゾビスイソブチロニトリル、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)、2,2’-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)、2,2’-アゾビス[2-メチル-N-(2-ヒドロキシエチル)プロピオンアミド]、2,2’-アゾビス[2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]ジサルフェイトジハイドレート、2,2’-アゾビス[N-(2-カルボキシエチル)-2-メチルプロピオンアミジン]テトラハイドレート等のアゾ化合物等が挙げられる。ラジカル重合開始剤は1種類のみ使用しても又は2種以上を併用してもよい。
【0053】
重合工程においては、金属成分の抑制の観点から、金属成分を本来的に含まないか又はその量が抑制されているものを好ましく用いることができる。例えば、かかる観点からは、過硫酸アンモニウム、過酸化物及びアゾ化合物が挙げられる。ラジカル重合開始剤の使用割合は特に制限されないが、水溶性高分子全体を構成する全単量体の合計重量に基づいて、0.01~10質量%の割合で使用することが好ましく、0.02~7質量%の割合がより好ましく、0.05~4質量%の割合がさらに好ましい。
【0054】
重合工程においては、必要に応じて、分子量を調整するために、連鎖移動剤を重合系に適宜添加してもよい。連鎖移動剤としては、例えば、メルカプト酢酸、メルカプトプロピオン酸、2-プロパンチオール、2-メルカプトエタノール、3-メルカプト-1,2-プロパンジオール等が挙げられる。
【0055】
重合工程としては、必要に応じて、リビング重合、例えば、可逆的付加開裂連鎖移動(RAFT)法またはニトロキシド媒介重合(NMP)法、原子移動ラジカル重合(ATRP)法、有機テルル媒介リビングラジカル重合(TERP)法を採用できる。中でも、金属成分低減の観点から、RAFT法、NMP法が好ましい。また、既述のATBSは、水等への溶解性、自身酸性であることからこれらのRAFT法やNMP法における単量体としても有利である。
【0056】
RAFT法では、特定の重合制御剤(RAFT剤)及び一般的なフリーラジカル重合開始剤の存在下、可逆的な連鎖移動反応を介して制御された重合が進行し、一般的にはポリマーの分子量は単量体とRAFT剤の仕込み比により調整することが可能である。上記RAFT剤は、特に限定はないが、例えば、ジチオエステル化合物、ザンテート化合物、トリチオカーボネート化合物及びジチオカーバメート化合物等、公知の各種RAFT剤を使用することができる。金属成分低減観点からは、例えば、3-((((1-カルボキシエチル)チオ)カルボノチオイル)チオ)プロパン酸などの金属成分を含まないRAFT剤が好適である。
【0057】
RAFT剤の使用割合は、用いる単量体及びRAFT剤の種類等により適宜調整されるものであるが、水溶性重合体全体を構成する全単量体の合計重量に基づいて、0.01~5.0質量%の割合で使用することが好ましく、0.05~3.0質量%の割合がより好ましく、0.1~2.0質量%の割合がさらに好ましい
【0058】
NMP法では、ニトロキシドを有する特定のアルコキシアミン化合物等をリビングラジカル重合開始剤として用い、これに由来するニトロキシドラジカルを介して重合が進行する。本発明では、用いるニトロキシドラジカルの種類に特に制限はないが、アクリレート及びアクリルアミドを含むアクリルアミド誘導体等の単量体を重合する際の重合制御性の観点から、ニトロキシド化合物として一般式(1)で表される化合物を用いることが好ましい。
【0059】
【化1】
{式中、R
1は炭素数1~2のアルキル基又は水素原子であり、R
2は炭素数1~2のアルキル基又はニトリル基であり、R
3は-(CH
2)m-、mは0~2であり、R
4、R
5は炭素数1~4のアルキル基である}
【0060】
(単量体及び重合体における酸基の中和度)
単量体準備工程及び重合工程における非酸化性の酸基などの酸基を有する単量体及び当該単量体に由来する構造単位を有する重合体の酸は塩の形態であってもよいし、遊離の酸の形態であってもよい。塩とする場合には、既に記載した塩とする。重合工程で遊離酸の単量体を用いる場合には、重合工程の一部として、重合工程後に、塩基を加えて重合体(塩)とすることができる。なお、イオン交換により塩の種類を交換することもできる。
【0061】
酸基を有する単量体又は当該単量体に由来する構造単位を有する重合体を塩とする際、酸基の中和度としては、特に限定するものではないが、接液要素からの金属成分の溶出等を抑制する観点からは、非酸化性の酸基などの単量体や重合体の酸基を十分に中和して、工程液のpHが下がりすぎないようにすることが好ましい。例えば、反応容器などの接液要素がステンレスなどの場合、例えばpHが1超、また例えば、同2以上、また例えば、同3以上、また例えば同4以上、また例えば同5以上であるようにすることが好ましい。したがって、最終的なpHを考慮して、中和度は、例えば、90モル%以上150モル%以下とすることができ、また例えば、90モル%以上140モル%以下であり、また例えば、90モル%以上130モル%以下、また例えば、90モル%以上120モル%以下とすることができる。
【0062】
(接液要素)
本製造方法においては、単量体準備工程及び重合工程の少なくとも一部に供される液体である1種又は2種以上の工程液が接液する1種又は2種以上の接液要素から前記工程液への金属成分の混入を抑制することが好ましい。
【0063】
単量体準備工程における工程液としては、例えば、単量体を合成するための溶剤、単量体合成反応中の反応液、単量体の合成反応終了後の反応液、保存又は流通等のために合成した単量体を含む液体が挙げられる。また、重合工程における工程液としては、例えば、重合体のために用いられる溶剤及び単量体のほか重合開始剤や触媒等の添加剤を含む反応媒体、重合反応中の反応液、重合反応終了後の反応液等が挙げられる。
【0064】
また、接液要素は、単量体の準備工程においては、上記した単量体準備工程における工程液及び当該工程液が気化した蒸気によって接触される部分を有する反応容器、管路部材、撹拌部材、加熱部材、濾過部材、保存容器,計測器等が挙げられる。また、重合工程においては、上記した重合工程における工程液及び当該工程液が気化した蒸気によって接触される部分を有する反応容器、管路部材、送液部材、撹拌部材、加熱部材、濾過部材、保存容器、計測器等が挙げられる。
【0065】
本製造方法においては、こうした接液要素から工程液への金属成分の混入を抑制する。かかる抑制のためには、以下の態様を採ることができる。
【0066】
例えば、接液要素は、(a)接液面に耐金属成分溶出性材料を備える金属製部材、又は(b)前記耐金属成分溶出性材料を主体とする部材とすることができる。(a)の態様としては、特に限定するものではないが、例えば、接液要素の工程液と接する表面にコーティング又はライニングとして耐金属成分溶出性材料を備える態様が挙げられる。また、(b)の態様としては、例えば、接液要素の一部又は全体が、耐金属成分溶出性材料を主体として構成されている態様が挙げられる。
【0067】
なお、耐金属成分溶出性材料を主体とする、とは、当該材料を、好ましくは全材料の50質量%以上、より好ましくは同60質量%以上、より好ましくは同70質量%以上、さらに好ましくは同80質量%以上、なお好ましくは同90質量%以上、一層好ましくは同95質量%以上、より一層好ましくは同99質量%以上、さらに一層好ましくは同100質量%であることを包含している。
【0068】
ここで、耐金属成分溶出性材料としては、例えば、以下の条件;濃度5g/Lの希硫酸80gを、接触面積200cm2で接触させた状態で、80℃で1時間加熱したとき、希硫酸中のNa、Al、K、Ca及びFeからなる群から選択される1種又は2種以上の金属成分の増量が1ppm以下であることを充足する材料が挙げられる。また例えば、これらの全ての金属成分それぞれの増量が1ppm以下である、ことを充足する材料が挙げられる。希硫酸は、非酸化性の酸であり、80℃で1時間の条件で、上記金属成分の増量が1ppm以下であれば、本重合体の製造工程において、金属成分の溶出を十分抑制できると考えられる。
【0069】
なお、希硫酸中の金属金属成分の濃度は、ICP発光分光分析法(高周波誘導結合プラズマ発光分光分析法)又はICP質量分析法(高周波誘導結合プラズマ質量分析法)により測定することができる。典型的な測定条件としては、本実施例に開示している。
【0070】
また、耐金属成分溶出性材料は、水素よりもイオン化傾向の大きい金属(例えば、K、Ca、Na、Mg、Al、Zn、Fe、Ni、Sn、Pb)を本来的に含んでいないか、あるいは含んでいても、個々の金属成分として10質量%以下程度であることが好ましい。上記金属成分は、より好ましくは1.0質量%以下であり、さらに好ましくは0.1質量%以下であり、一層好ましくは0.01質量%以下である。非酸化性の酸は、水素よりもイオン化傾向が大きい金属を酸化する傾向があるため、接液要素はこうした金属を含んでいると、これら金属が溶出する可能性があるからである。
【0071】
かかる条件を充足する耐金属成分溶出性材料としては、フッ素樹脂(ポリテトラフルオロエチレン:PTFE、パーフルオロアルコキシアルカン:PFA、パーフルオロエチレンプロペンコポリマー:FEP、エチレンテトラフルオロエチレンコポリマー:ETFE、ポリフッ化ビニリデン:PVDF、ポリフッ化ビニル:PVF、エチレンークロロトリフルオロエチレンコポリマー:ECTFE等)、ポリオレフィン樹脂(ポリエチレン等)、タンタルなどが挙げられる。
【0072】
また、耐金属成分溶出性材料としては、上記した材料であるかどうかにかかわらず、例えば、繰り返し使用や洗浄等により金属溶出量が低減された材料や接液部に工程液等との接触により不動態が形成されるようになった材料が挙げられる。
【0073】
本製造方法においては、Na、Al、K、Ca及びFeからなる群より選ばれる少なくとも1種の金属成分の量が、例えば、重合体を含む工程液中、当該重合体に対し3ppm以下である。すなわち、これらの各金属成分の含有量が、上記濃度以下であれば、種々の用途において当該金属イオン等の存在による悪影響を抑制できる。重合体を含む工程液としては、例えば、重合反応終了後の反応液が挙げられる。
【0074】
上記金属元素成分の含有量は、また例えば、同2.5ppm以下であり、また例えば、同2ppm以下であり、また例えば、同1.5ppm以下であり、また例えば、同1ppm以下であり、また例えば、同0.5ppm以下であり、また例えば、同0.3ppmであり、また例えば、同0.2ppm以下であり、また例えば、同0.1ppm以下であり、また例えば、同0.05ppm以下である。
【0075】
Naについての上記含有量は、さらに例えば、2ppm以下、また例えば、1.5ppm以下、また例えば、1ppm以下、また例えば、0.5ppm以下、また例えば、0.2ppm以下、また例えば、0.1ppm以下である。Alについての上記含有量は、さらに例えば、1ppm以下、また例えば、0.5ppm以下、また例えば、0.2ppm以下、また例えば、0.1ppm以下、また例えば、0.05ppm以下である。Kについての上記含有量は、さらに例えば、1ppm以下、また例えば、0.5ppm以下、また例えば、0.2ppm以下、また例えば、0.1ppm以下、また例えば、0.05ppm以下である。Caについての上記含有量は、さらに例えば、2ppm以下、また例えば、1.5ppm以下、また例えば、1ppm以下、また例えば、0.5ppm以下、また例えば、0.4ppm以下、また例えば、0.3ppm以下、また例えば、0.2ppm以下、また例えば、0.1ppm以下である。Feについての上記含有量は、さらに例えば、2ppm以下、また例えば、1.5ppm以下、また例えば、1ppm以下、また例えば、0.5ppm以下、また例えば、0.2ppm以下、また例えば、0.1ppm以下である。
【0076】
なお、工程液における金属成分の測定は、希硫酸中の金属元素等の測定方法を適用することができる。
【0077】
(保存工程)
既に説明したように、本製造方法は、重合体を製造するための1種若しくは2種以上の単量体を保存する保存工程、又は、前記重合工程によって得られる前記重合体を保存する保存工程であって、前記単量体若しくは重合体と接液する1種若しくは2種以上の接液要素から前記重合体への金属成分の混入を抑制して保存する工程を備えることができる。かかる保存工程は、例えば、重合体を保存又は流通等のために保存する工程が挙げられる。かかる保存工程を備えることで、重合体が使用に供されるまで、金属成分の増大が抑制され優れた品質の重合体を提供できる。
【0078】
保存工程における工程液は、重合体を保存又は流通等のために重合体を溶解又は分散する液体が挙げられる。また、接液要素としては、かかる工程液が収容される保存容器のほか、送液部材、管路部材、濾過部材等が挙げられる。
【0079】
保存工程において、接液要素から工程液への金属成分の混入を抑制するには、既述の各種態様を採ることができる。
【0080】
<単量体の保存方法>
本明細書に開示される上記保存方法は、重合体を製造するための1種又は2種以上の単量体を保存する保存工程を備え、前記保存工程の少なくとも一部に供される液体である1種又は2種以上の工程液が接液する1種又は2種以上の接液要素から前記工程液への金属成分の混入を抑制する、方法である。この保存方法によれば、単量体を使用するまでの間、接液要素からの金属成分の混入を抑制して、金属成分の増大が抑制された重合体を得ることができる。なお、接液要素については、既に説明した態様が適用される。
【0081】
この単量体の保存方法によれば、金属成分の混入が抑制されることから、単量体が保存環境に由来するラジカル等によって重合が促進されてしまうことを予想外に抑制できる。すなわち、重合阻害剤を用いることなく安定的に単量体を保存することができる。
【0082】
<重合体の保存方法>
本明細書に開示される上記保存方法は、1種又は2種以上の重合体を保存する工程を備え、前記保存工程の少なくとも一部に供される液体である1種又は2種以上の工程液が接液する1種又は2種以上の接液要素から前記工程液への金属成分の混入を抑制する、方法である。この保存方法によれば、重合体を使用するまでの間、接液要素からの金属成分の混入を抑制して、金属成分の増大が抑制された重合体を得ることができる。なお、接液要素については、既に説明した態様が適用される。
【0083】
以上のことから、本明細書には、以下の態様が包含される。
(1)重合体の製造方法であって、
前記重合体を製造するための1種又は2種以上の単量体を準備する単量体準備工程と、
前記1種又は2種以上の単量体を重合する重合工程と、
を備え、
これらの工程の少なくとも一部に供される液体である1種又は2種以上の工程液が接液する1種又は2種以上の接液要素から前記工程液への金属成分の混入を抑制する、製造方法。
(2)前記1種又は2種以上の接液要素は、
(a)接液面に耐金属成分溶出性材料を備える金属製部材、又は
(b)前記耐金属成分溶出性材料を主体とする部材、
である、(1)に記載の方法。
(3)前記耐金属成分溶出性材料は、濃度5g/Lの希硫酸80gを、接触面積200cm2で接触させた状態で、80℃で1時間加熱したとき、希硫酸中のNa、Al、K、Ca及びFeからなる群から選択される各金属元素の増量が1ppm以下である、(2)に記載の方法。
(4)前記金属成分は、Na、Al、K、Ca及びFeからなる群より選ばれる少なくとも1種の金属元素又はイオンであり、前記各金属成分の濃度は、前記重合体を含む前記工程液中、当該重合体に対し3ppm以下である、(1)~(3)のいずれかに記載の方法。
(5)前記1種又は2種以上の単量体は、スルホン酸基含有単量体又はその塩を含む、(1)~(4)のいずれかに記載の方法。
(6)前記スルホン酸基含有単量体又はその塩は、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸又はその塩を含む、(5)に記載の方法。
(7)前記重合工程は、前記スルホン酸基含有単量体を90モル%以上中和して用いる、(5)又は(6)に記載の方法。
(8)さらに、前記重合工程によって得られる前記重合体を保存する保存工程であって、前記重合体と接液する1種又は2種以上の接液要素から前記重合体への金属成分の混入を抑制して保存する工程を備える、(1)~(7)のいずれかに記載の方法。
(9)重合体を製造するための1種又は2種以上の単量体を保存する保存工程を備え、
前記保存工程の少なくとも一部に供される液体である1種又は2種以上の工程液が接液する1種又は2種以上の接液要素から前記工程液への金属成分の混入を抑制する、保存方法。
(10)1種又は2種以上の重合体を保存する工程を備え、
前記保存工程の少なくとも一部に供される液体である1種又は2種以上の工程液が接液する1種又は2種以上の接液要素から前記工程液への金属成分の混入を抑制する、保存方法。
【実施例】
【0084】
以下、実施例に基づいて本発明を具体的に説明する。尚、本発明は、これらの実施例に
より限定されるものではない。尚、以下において「部」及び「%」は、特に断らない限り
質量部及び質量%を意味する。
【実施例1】
【0085】
<ATBS水溶液の保存安定性試験>
本実施例では、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸(ATBS)単量体のポリエチレン容器中での保存安定性を試験した。
【0086】
ATBSは、スルホン酸基含有重合体の製造に用いる単量体である。ポリエチレン容器に、イオン交換水18g、ATBS10gを投入し、撹拌して溶解させた試料を2つ用意した。このうち、一方には、SUS304のテストピース(横15mm×縦70mm×厚さ2mm)を入れ(サンプルNo.A)、他方にはSUS304のテストピースを入れずに(サンプルNo.B)25℃でそれぞれ保存し、保存安定性を評価した。評価の基準は、保存期間終了時において、保存開始時と同様の流動性を有している場合には○、保存開始時の流動性がもはや失われていた場合には×とした。結果を表1に示す。
【0087】
【0088】
表1に示すように、ATBS水溶液がSUS304と接触することによって、ATBS水溶液の安定性が著しく悪化することがわかった。流動性の低下は、SUS304の存在に基づくものであり、SUS304から溶出した金属元素又はイオンによって、ATBSの重合が促進されたためと推測される。
【0089】
以上の結果から、金属含有量の少ないスルホン酸基含有重合体を安定に製造する上で、当該重合体に用いる単量体の調製又は単量体の保存において、調製液又は保存液が接触する容器や攪拌部材等の接液要素は、工程液との接触により金属元素ないし金属イオンが溶出しない材料で構成されていることが好適であることがわかった。また、重合阻害剤などを使用することなく、簡易にかつ効果的に、金属の影響を抑制して安定して単量体を保存できることがわかった。
【0090】
なお、ATBS水溶液をSUS304に接触させたとしても、金属イオンが溶出してしまうことはあったとしてもごく微量であると考えられていた。また、金属イオンが溶出したとしても、それがATBSの重合を開始させ、流動性が低下するほどのATBSの変性ないし劣化を促進することは知られていなかった。
【実施例2】
【0091】
<スルホン酸基含有構造単位を有する重合体溶液の製造>
本実施例では、スルホン酸基含有構造単位を有する共重合体の製造工程における工程液が接触する接液要素の種類、開始剤、中和の有無によって工程液中に含まれることになる金属成分量(金属元素又はイオンである。以下同じ。)を測定した。なお、金属成分量は、ICP発光分光分析装置及びICP質量分析装置により測定した。具体的には以下の測定条件で測定し、重合体に対する金属成分量に換算した。
(1)測定対象である工程液1gを超純水20gで希釈した後、硝酸(関東化学社製、超高純度試薬ultrapur-100)1mlを加えて測定試料とした。
(2)上記測定試料の金属成分量を、ICP発光分光分析装置(SPECTRO ARCOS SOP)及びICP質量分析装置(Agilent7700s)により測定した。
(3)ICP発光分光分析による金属成分量測定値が1ppm以上であった金属元素については、当該測定値を採用した。一方、測定値が1ppm未満の金属成分については、ICP質量分析による測定結果を採用した。
【0092】
なお、本実施例で用いるATBS、アクリル酸(以下、GAAともいう)、過硫酸アンモニウム(以下、APSともいう)及びイオン交換水についての、金属分析結果を表2に示す。
【0093】
【0094】
(試験例1)
高純度ポリエチレン容器に、イオン交換水180gと、スルホン酸基含有共重合体の製造に用いるための単量体としてATBS99gとGAA1gと(ATBS:GAAの質量比99:1)を投入して、室温で攪拌して溶解させて試験例1の試料(以下、試験例1の単量体溶液ともいう。)を調製した。その後、直ちに、この単量体溶液中の金属成分を測定した。なお、高純度ポリエチレン容器とは、後述する金属溶出性評価方法で評価したとき、耐金属成分溶出性材料であると肯定できたポリエチレン容器である。
【0095】
(試験例2)
以下の金属溶出性評価方法で評価したとき、耐金属成分溶出性材料であると肯定できたガラス製反応容器(内部にタンタルの熱電対を設置)を用いて、イオン交換水180gを投入後、80℃に加熱し、80℃に維持しつつ、試験例1の単量体溶液280gと、過硫酸アンモニウム溶液(過硫酸アンモニウム(APS)2gをイオン交換水30gに溶解したもの)を4時間かけて定量ポンプを用いて投入して重合反応を実施した。重合反応後の重合体溶液を、直ちに高純度ポリエチレン容器に保存し、金属元素を測定した。結果を表3に示す。
【0096】
(接液要素の金属溶出性評価方法)
濃度5g/Lの希硫酸80gを、接触面積200cm2で接液要素に接触させた状態で、80℃で1時間加熱したとき、希硫酸中のNa、Al、K、Ca及びFeからなる群から選択される各金属元素の増量が1ppm以下であるとき、その容器等を耐金属成分溶出性であるとし、1ppmを超えるとき、金属成分溶出性であるとする。なお、希硫酸中の金属成分の濃度は、ICP発光分光分析装置及びICP質量分析装置により測定した。
【0097】
(試験例3~7及び比較例1~3)
これらの例についても、以下のように操作した。結果を表3に示す。
【0098】
(試験例3)
反応容器をPFA樹脂製(タンタルの熱電対は設置せず)とした以外は、試験例2と同様に操作した。
【0099】
(試験例4)
反応容器をETFE樹脂で表面をコートしたSUS304製容器(タンタル熱電対は設置せず)とした以外は、試験例2と同様に重合反応を実施した。
【0100】
(試験例5)
試験例1で調製した単量体溶液をアンモニア水(ATBSに対して120mol%)で中和後、SUS304容器(タンタル熱電対は設置せず)で重合した以外は試験例2と同様に操作した。
【0101】
(試験例6)
イオン交換水180gをPFA樹脂製の反応容器(タンタル熱電対は設置せず)に入れて70℃に加熱し、試験例1で調製した単量体溶液280gと2,2’-アゾビス[2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]ジサルフェイトジハイドレート(VA-046B)の水溶液(VA-046B 4gをイオン交換水30gに溶解したもの)を4時間かけて定量ポンプで投入して重合反応を実施し、その他は試験例2と同様に操作した。
【0102】
(試験例7)
イオン交換水425gをETFE樹脂で表面をコートしたSUS304容器(タンタル熱電対は設置せず)に入れて90℃に加熱し、その後、90℃を維持しつつ、直ちにイオン交換水425gにASTB70g及びGAA30gを溶解させた単量体溶液と過硫酸アンモニウム溶液(過硫酸アンモニウム3.5gをイオン交換水30gに溶解したもの)を4時間かけて定量ポンプで投入して重合反応を実施し、その後は、試験例2と同様に操作した。
【0103】
(試験例8)
イオン交換水405gにATBS70g及びGAA30gを溶解させた単量体溶液と過硫酸アンモニウム0.1g及び3-((((1-カルボキシエチル)チオ)カルボノチオイル)チオ)プロパン酸2.0g(CESPA、RAFT剤)をETFE樹脂で表面をコートしたSUS304容器(タンタル熱電対は設置せず)に投入した後、70℃に加熱し、4時間70℃を維持して重合反応を実施し、その後は試験例2と同様に操作した。
【0104】
(比較例1)
イオン交換水180gを、ほう硅酸ガラス容器(内部にSUS304の熱電対と邪魔板を設置したもの)を用いた以外は、試験例2と同様に操作した。
【0105】
(比較例2)
重合開始剤を過硫酸ナトリウム2gとした以外は、比較例1と同様に操作した。
【0106】
【0107】
表3に示すように、Na、Mg、Al、K、Ca、Cr、Fe、Ni、Zn及びTaの含有量が一定以下であるスルホン酸基含有構造単位を有する共重合体を得るためには、反応容器などの接液要素は、耐金属成分溶出性材料により形成されていることが重要であることがわかった。また、重合のための開始剤には金属成分を極力含まないことが重要であることもわかった。さらに、スルホン酸基の中和度を120モル%とすることで、ステンレスからの金属成分の溶出が抑制されていることがわかった。
【参考例】
【0108】
<スルホン酸基含有構造単位を有する重合体溶液の保存安定性試験>
本参考例では、スルホン酸基含有構造単位を有する共重合体の保存工程における工程液が接触する接液要素の種類によって工程液中に含まれることになる金属成分量を測定した。なお、金属成分量は、実施例2と同様の方法により測定し、重合体に対する金属成分量に換算した。
【0109】
(参考例1)
試験例4で得られた重合反応液を高純度ポリエチレン容器に充填し、25℃で48時間保存後に金属成分含有量を測定した。結果を表4に示す。
【0110】
(参考例2)
重合後に汎用ポリエチレン容器に充填した以外は試験例4と同様に操作した(25℃で48時間保存後に金属成分含有量を測定した)。結果を表4に示す。なお、汎用ポリエチレン容器とは、既述の金属溶出性評価方法において耐金属溶出性が肯定できないポリエチレン容器である。
【0111】
【0112】
表4に示すように、金属成分含有量の低減された重合体を得るためには、保管容器が耐金属成分溶出性材料により形成されていることが重要であることもわかった。
【0113】
以上のように、反応液などの工程液が接液する接液要素から工程液への金属成分の溶出が抑制された材料を用いることで、重合体を含有する工程液中の金属成分濃度を効果的にかつ簡易に低減できることがわかった。
【実施例3】
【0114】
<イオン交換樹脂による金属成分低減効果の評価>
(比較例3)
本実施例では、実施例2における試験例3において、重合後に汎用ポリエチレン容器内に充填し、25℃で48時間保存後に、実施例2と同様に金属元素分析を実施した。結果を表5に示す。
【0115】
(比較例4)
比較例3において、汎用ポリエチレン容器内で充填から24時間保管後10gの反応液を、高純度ポリエチレン容器に移し替え、そこに1gの市販の強酸性陽イオン交換樹脂(SO3H型)を添加し、2時間ミックスローターで攪拌した。その後、上澄み液を高純度ポリエチレン容器に採取し、25℃でさらに24時間保存し、その後に、実施例2と同様に金属元素分析を実施した。強酸性陽イオン交換樹脂は、100gの強酸性陽イオン交換樹脂に対して500gの1N-HClを添加して2時間ミックスローターで攪拌したものを使用した。結果を表5に示す。
【0116】
【0117】
表5に示すように、スルホン酸基含有構造単位を有する重合体から金属成分を除去することは、イオン交換樹脂の添加では容易でないばかりか、逆にイオン交換樹脂が重合体溶液を汚染する元素もある結果となった。強酸性陽イオン交換樹脂は、その樹脂製造工程で金属化合物を用いるため、使用条件によっては金属成分が極微量混入する場合がある。また、イオン交換樹脂を再生するために使用する薬液や使用後のイオン交換樹脂の廃棄等、環境負荷の面でも課題がある。加えて、重合体とイオン交換樹脂は、ともにスルホン酸基を含む重合体であるため金属成分を効率的に除去することが難しかった。