(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-08
(45)【発行日】2024-05-16
(54)【発明の名称】フライバッター用粉末油脂およびフライ食品
(51)【国際特許分類】
A23D 9/00 20060101AFI20240509BHJP
A23L 35/00 20160101ALI20240509BHJP
A23L 5/10 20160101ALI20240509BHJP
A23L 7/157 20160101ALN20240509BHJP
【FI】
A23D9/00 518
A23L35/00
A23L5/10 E
A23L7/157
(21)【出願番号】P 2019176258
(22)【出願日】2019-09-26
【審査請求日】2022-07-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000004341
【氏名又は名称】日油株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002826
【氏名又は名称】弁理士法人雄渾
(72)【発明者】
【氏名】大橋 悠文
【審査官】関根 崇
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-093982(JP,A)
【文献】特開2018-148844(JP,A)
【文献】特開2002-291434(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23D
A23L
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
プロピレングリコール脂肪酸エステル(A)を1~20質量%、有機酸モノグリセリド(B)を1~10質量%、食用油脂(C)を20~80質量%、
麦芽糖、乳糖、デキストリン、シクロデキストリンから選ばれる少なくとも1種以上である粉末状の糖類(D)を10~70質量%、を含むフライバッター用粉末油脂。
【請求項2】
ジグリセリン飽和脂肪酸エステル(E)を0.1~5質量%含む、請求項1に記載のフライバッター用粉末油脂。
【請求項3】
請求項1に記載のフライバッター用粉末油脂を含有するフライバッター液。
【請求項4】
請求項1に記載のフライバッター用粉末油脂を含むフライ食品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フライバッター用粉末油脂およびフライ食品に関する。
【背景技術】
【0002】
コロッケ、とんかつ、メンチカツ、白身魚等のパン粉付けフライ食品は、通常これらの具材(食品素材)を小麦粉、水等を主原料とするフライバッター液に浸漬した後、パン粉を付着させて、フライして製造され、サクサクとした食感が求められる。また、天ぷら、唐揚げ、フリッター等のフライ食品は、具材を、ダシ汁や水に小麦を薄く溶いたフライバッター液に浸漬した後、そのままフライして製造され、サクサクとした食感が求められる。さらに春巻は、小麦粉を主原料とするフライバッター液をドラムや鉄板にて焼成し、得られた皮を包んだ後、フライして製造され、パリパリとした食感が求められる。
【0003】
一方、これらのフライ食品は弁当用やテイクアウト用として製造される場合は、喫食されるまでに長時間、例えば3~8時間経過する。フライ後時間が経過すると中種や空気中から衣へ経時的に水分が移行することにより、サクサクとした食感やパリパリとした食感が失われて曳きが出て歯切れの悪い食感になってしまうことが課題となっている。
【0004】
さらに近年、中食の発達が進み、店舗でフライされた食品を容器に入れて自宅等に持ち帰り喫食する機会が増加している。しかしながら、容器に入れて保管した場合、容器内に篭った水蒸気により衣の水分量が増加することで、サクサクとした軽い食感がより失われやすいことが課題となっている。したがって、フライ食品をフライ後時間が経過しても、また容器内に保存中にも食感を維持するようなフライバッターおよびフライバッター用改質剤の開発が望まれている。
【0005】
また、近年では業務の効率化、生産性の向上、エネルギーコストの低減などといった観点から、フライ食品を効率よく生産する技術が求められている。例えば、店舗で冷凍のフライ食品を提供する際には、フライ工程に一定の時間がかかることが作業のボトルネックとなっている。従って、フライ時間を短時間にできるようなフライバッターおよびフライバッター用改質剤の開発が望まれている。
【0006】
特許文献1には、冷めたフライを加温するためのレンジアップ後でも良好な食感を維持するフライ食品が開示されている。また、特許文献2には、フライ直後の衣の軽い食感を維持することができるフライバッター用油脂組成物が開示されている。しかし、これらの方法では、フライ食品を容器に保管した際の食感維持効果は得られにくく、また、フライ時間の短縮の効果は得られない。
一方、フライ時間を短縮する方法としては特許文献3が開示されているが、フライ食品保管時の食感維持効果は得られなく、フライ時間短縮の効果も十分ではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2002-291434号公報
【文献】特開2001-086930号公報
【文献】特開2014-050328号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、風味が良好で、フライ後に時間が経ってもサクサクとした軽い食感を維持することができ、フライ工程時のフライ時間を短縮することができるフライバッター用粉末油脂、およびフライ食品を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意研究した結果、食用油脂、糖質、および特定の乳化剤を含有するフライバッター用粉末油脂により上記課題を解決することの知見を見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、下記の〔1〕~〔4〕である。
〔1〕
プロピレングリコール脂肪酸エステル(A)を1~20質量%、有機酸モノグリセリド(B)を1~10質量%、食用油脂(C)を20~80質量%、糖質(D)を10~70質量%、を含むフライバッター用粉末油脂。
〔2〕
ジグリセリン飽和脂肪酸エステル(E)を0.1~5質量%含む、〔1〕に記載のフライバッター用粉末油脂。
〔3〕
〔1〕に記載のフライバッター用粉末油脂を含有するフライバッター液。
〔4〕
〔1〕に記載のフライバッター用粉末油脂を含むフライ食品。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、風味が良好で、フライ後に時間が経ってもサクサクとした軽い食感を維持することができ、フライ工程時のフライ時間を短縮することができるフライバッター用粉末油脂、およびフライ食品を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明のフライバッター用粉末油脂は、プロピレングリコール脂肪酸エステル(A)、有機酸モノグリセリド(B)、食用油脂(C)、糖質(D)を含有する。本発明のフライバッター用粉末油脂によれば、フライ品の風味に影響を与えない最小量の乳化剤でプロピレングリコール脂肪酸エステル(A)を含む油脂をフライバッター液に均一に分散させることで、フライ後のバッター層の吸水を抑制し、フライ後に容器で保存中に時間が経ってもサクサクとした軽い食感を維持することができる。また、フライ食品のフライ時間を短縮することができる。本発明の効果は、特に冷凍食品において顕著である。
以下、各成分等について詳述する。
【0012】
[プロピレングリコール脂肪酸エステル(A)]
本発明に使用するプロピレングリコール脂肪酸エステルは、特に制限されないが、好ましくは炭素数12~24の脂肪酸を結合したプロピレングリコール脂肪酸エステルを使用することができる。結合する脂肪酸としては、飽和脂肪酸又は不飽和脂肪酸のいずれでもよいが、澱粉に作用し食感を向上させるという点から、ステアリン酸、パルミチン酸などの飽和脂肪酸であることが好ましい。プロピレングリコール脂肪酸エステルとしては、リケマールPS-100(理研ビタミン(株):プロピレングリコールモノステアリン酸エステル)、リケマールPP-100(理研ビタミン(株):プロピレングリコールモノパルミチン酸エステル)、リケマールPB-100(理研ビタミン(株):プロピレングリコールモノベヘン酸エステル)などが挙げられる。
【0013】
フライ食品では、フライ中にフライバッター液に含まれる澱粉の糊化が進行すると、澱粉粒が崩壊し糊状となりフライ後のバッター層のキメが粗くなる。そして、フライ後のバッター層のキメが粗くなることにより、フライ直後のサクサクとした食感が失われてしまうと共に、フライ後に中種や大気中、容器内の水分を吸収し、経時的に更にサクサク感が低下する。本発明のフライバッター用粉末油脂は、プロピレングリコール脂肪酸エステルを含む食用油脂を含有しており、プロピレングリコール脂肪酸エステルを含む食用油脂がフライバッター液中の澱粉に作用することで、澱粉粒が崩壊せず保たれ、フライ後のバッター層を緻密にすることができる。そのため、フライ直後のサクサクとした食感が大きく向上し、さらには、水分の吸収も抑制されるため、フライ後に容器内に保存してもサクサクとした食感が維持される。
【0014】
なお、フライ食品の加工についてさらに検討すると、フライ食品をフライ前に冷凍保存した場合、フライバッター液中の水分が冷凍し氷結晶となることによって澱粉粒の崩壊の原因となり、フライ後のバッター層のキメが粗くなることが認められた。本発明のフライバッター用粉末油脂は、フライ前に冷凍保存した冷凍未フライ食品についても、サクサクとした食感について優れた効果が認められた。
【0015】
本発明のフライバッター用粉末油脂中、プロピレングリコール脂肪酸エステルの含有量は1~20質量%が好ましく、より好ましくは7~18質量%であり、さらに好ましくは8.5~16質量%である。1質量%未満であると、澱粉に作用する効果が低下することでフライ食品の食感に与える効果が低下する。また、20質量%を超えると乳化形態のバランスが崩れ、バッター液中での油滴の粒子径が粗大になり、プロピレングリコール脂肪酸エステル(A)や食用油脂(C)が効率的に作用できないため、フライ食品の食感、フライ時間に与える効果が低下する。
【0016】
[有機酸モノグリセリド(B)]
本発明に使用する有機酸モノグリセリドとしては、クエン酸モノグリセリド、ジアセチル酒石酸モノグリセリド、コハク酸モノグリセリド、乳酸モノグリセリド等が挙げられるが、中でもクエン酸モノグリセリド、ジアセチル酒石酸モノグリセリドが好ましい。有機酸モノグリセリドとしては、ポエムW-60(理研ビタミン(株):ジアセチル酒石酸モノグリセリド)、ポエムK-30(理研ビタミン(株):クエン酸モノグリセリド)、ポエムK-37V(理研ビタミン(株):クエン酸モノグリセリド)などが挙げられる。
【0017】
本発明において有機酸モノグリセリドは相乗的に多様な機能を有しており、フライバッター用粉末油脂の製造工程において、プロピレングリコール脂肪酸エステル(A)を含有した食用油脂(C)を微細に乳化する働きを有する。この働きにより、プロピレングリコール脂肪酸エステルを含む食用油脂がフライバッター液中の澱粉に作用し、フライ後のバッター層を緻密にするという効果を一層向上することができる。
また、フライ食品では、フライバッター液調整時に、フライバッター液に含まれるグルテンの形成が進行すると、歯切れの悪い食感となる。さらには、グルテンの形成が進行することでグルテンの保水性が増大するため、フライ後容器内に保管した際に中種や容器内の水分を吸収し、経時的にもサクサク感が低下する。本発明において有機酸モノグリセリドはフライバッター液中のグルテンに作用することで、グルテンの形成を抑制することができる。そのため、フライ直後のサクサクとした食感が大きく向上し、さらには、水分の吸収も抑制されるため、フライ後に容器内に保存してもサクサクとした食感が維持される。
また、グルテンの保水性が低下するため、フライ中にバッター層の水分が蒸発しやすくなり、糖質(D)によりフライ時間が短縮する効果を一層高める働きも有している。
【0018】
本発明のフライバッター用粉末油脂中、有機酸モノグリセリドの含有量は、1~10質量%が好ましく、より好ましくは2~8質量%であり、さらに好ましくは3~6質量%である。1質量%未満であると、乳化形態のバランスが崩れ、バッター液中での油滴の粒子径が粗大になり、プロピレングリコール脂肪酸エステル(A)や食用油脂(C)が効率的に作用できないため、フライ食品の食感、フライ時間に与える効果が低下する。また、10質量%を超えると乳化剤由来の風味によりフライ品の風味が著しく低下する。
【0019】
[食用油脂(C)]
本発明のフライバッター用粉末油脂に使用する食用油脂は食用に適したものであれば特に制限されないが、例えば、牛脂、豚脂、魚油、乳脂、パーム油、ナタネ油、大豆油、綿実油、コーン油、ヤシ油、パーム核油、等の天然の動物植物油脂が挙げられる。またそれら油脂の硬化油、分別油、エステル交換油等も使用できる。これらの油脂は目的に応じて適宜選択され、1種類または2種類以上を任意に組み合わせても良い。中でも、粉末の製造時の乳化安定性を考慮すると、融点が30~50℃の油脂が好ましい。
【0020】
本発明において食用油脂は相乗的に多様な機能を有しており、フライ後のバッター層に細かく分散して吸水を抑制するという働きや、プロピレングリコール脂肪酸エステル(A)を溶解・分散する溶媒として、その効果を一層高める働きにも寄与している。
【0021】
本発明のフライバッター用粉末油脂中、食用油脂の含有量は20~80質量%が好ましく、より好ましくは25~70%であり、さらに好ましくは30~70%である。20質量%未満であると、バッター層の吸水を抑制する効果が低下し、フライ食品の食感に与える効果が低下する。80質量%を超えると乳化が不安定になることでバッター液中での食用油脂の粒子径が粗大になり、プロピレングリコール脂肪酸エステル(A)や食用油脂(C)が効率的に作用できないため、フライ食品の食感、フライ時間に与える効果が低下する。
【0022】
本発明のフライバッター用粉末油脂における食用油脂(C)と有機酸モノグリセリド(B)の比率は、質量比でC/B=3~35が好ましい。この比率とすることにより、プロピレングリコール脂肪酸エステル(A)を含有した食用油脂(C)が一層微細化され、本発明の効果をより一層発揮する。
【0023】
[糖質(D)]
本発明に使用する糖質は食用に適したものであれば特に制限されない。例えば、糖類、糖アルコールが使用できる。
水分を吸収しにくく、フライ時間を短縮するという観点から、好ましくは糖類であり、より好ましくは麦芽糖(マルトース)、乳糖(ラクトース)、デキストリン、シクロデキストリンなどの粉末状の糖類である。最も好ましくは、DE値(デキストロース当量)30以下のデキストリンである。これらの糖類は目的に応じて適宜選択され、1種類または2種類以上を任意に組み合わせても良い。
糖質としてはマックス1000(松谷化学工業(株):デキストリン:DE値9)、パインデックス#2(松谷化学工業(株):デキストリン:DE値11)、パインデックス#3(松谷化学工業(株):デキストリン:DE値25)、サンマルトミドリ((株)林原:麦芽糖)、ラクトース(レプリノフーズ:乳糖)などが挙げられる。
【0024】
本発明において糖質は被覆材として機能することで、粉末化時にプロピレングリコール脂肪酸エステル(A)を含む食用油脂(C)を覆いカプセル化する働きがある。プロピレングリコール脂肪酸エステルを含む食用油脂が乳化液の状態であると、保存中に徐々に油滴が集合するため、プロピレングリコール脂肪酸エステルの作用効果が低下するおそれがあり、さらに製品としての保存安定性も劣る。しかし、本願のように糖質を被覆材としてプロピレングリコール脂肪酸エステル(A)を含む食用油脂(C)をカプセル化した粉末油脂であると、保存中の油滴の集合がないため、プロピレングリコール脂肪酸エステルの作用効果が低下することなく、さらに製品としての保存安定性も優れる。
さらには、糖質は、澱粉やタンパク質と異なり、フライ中にバッター層の水分を吸収して糊化またはゲル化する性質がないことから、被覆材として糖質を使用することにより、澱粉やタンパク質を被覆材に用いた場合と比べて、フライ中のバッター層の水分蒸発が早くなり、フライ時間の短縮に寄与することができる。
【0025】
本発明のフライバッター用粉末油脂中、糖質の含有量は10~70質量%が好ましく、より好ましくは20~60質量%である。10質量%未満であると、粉末油脂で油の染み出しが顕著となり、粉末油脂中の油の粒子が粗大化することで、バッター液中での食用油脂の粒子径が粗大になり、プロピレングリコール脂肪酸エステル(A)や食用油脂(C)が効率的に作用できないため、フライ食品の食感、フライ時間に与える効果が低下する。また、70質量%を超えると、プロピレングリコール脂肪酸エステル(A)や食用油脂(C)が効率的に作用できないため、フライ食品の食感、フライ時間に与える効果が低下する。
【0026】
本発明のフライバッター用粉末油脂における食用油脂(C)と糖質(D)の比率は、質量比でC/D=0.4~10が好ましい。この比率とすることにより、糖質(D)がプロピレングリコール脂肪酸エステル(A)を含む食用油脂(C)をカプセル化するという働きを高め、微細な油滴を長期的に維持する効果をより一層発揮する。
【0027】
[ジグリセリン飽和脂肪酸エステル(E)]
本発明に使用するジグリセリン飽和脂肪酸エステルは、特に制限されないが、好ましくは炭素数12~24の脂肪酸を結合したジグリセリン飽和脂肪酸エステルを使用することができる。ジグリセリン飽和脂肪酸エステルとしては、ポエムDS-100A(理研ビタミン(株):ジグリセリンモノステアリン酸エステル)、ポエムDM-100(理研ビタミン(株):ジグリセリンモノミリスチン酸エステル)、ポエムDP-95RF(理研ビタミン(株):ジグリセリンモノパルミチン酸エステルとソルビタン脂肪酸エステルの混合製剤)、などが挙げられる。
【0028】
本発明のフライバッター用粉末油脂は、ジグリセリン飽和脂肪酸エステルを含有することにより、フライバッター液中のグルテンに作用してグルテンの形成を抑制することができる。そのため、フライ直後のサクサクとした食感が大きく向上し、さらには、フライ品の衣への経時的な水分の吸収も抑制される。そのため、フライ品を容器内に保存してもサクサクとした食感を維持するといった本願の効果をさらに高めることができる。また、グルテンの保水性が低下するため、フライ中にバッター層の水分の蒸発を促し、フライ時間のさらなる短縮にも寄与することができる。
【0029】
ジグリセリン飽和脂肪酸エステルの含有量は、フライバッター用粉末油脂中0.1~5質量%であり、好ましくは0.2~4.5質量%であり、より好ましくは0.3~4質量%であり、更に好ましくは0.4~3質量%である。ジグリセリン飽和脂肪酸エステルの含有量がこの範囲であると、本願発明の効果をさらに高めることができる。
【0030】
[その他]
本発明には、上記成分のほかにその他の成分として保存料、pH調整剤、色素、フレーバー、乳化剤など、フライバッター液に用いる材料を含むことができる。
【0031】
[フライバッター用粉末油脂]
本発明のフライバッター用粉末油脂は、プロピレングリコール脂肪酸エステル(A)を含む食用油脂(C)の油滴の周囲に、糖質(D)が覆うことによりカプセル化したものである。なお、フライバッター用粉末油脂の一粒子中に含まれる油滴の数は、複数でも、単数でもよい。
【0032】
本発明におけるフライバッター用粉末油脂は、プロピレングリコール脂肪酸エステル(A)、有機酸モノグリセリド(B)、食用油脂(C)、糖質(D)、水および必要に応じてその他の成分を配合し、水中油型乳化物を調製後、乾燥工程により粉末化することにより製造することができる。
【0033】
より具体的には、以下の工程(P1)~工程(P4)を備えることを特徴とする。
工程(P1):プロピレングリコール脂肪酸エステル(A)、食用油脂(C)を混合して油相部を調製する工程。
工程(P2):有機酸モノグリセリド(B)、水を混合して水相部を調製する工程。
工程(P3):油相部と水相部を混合して水中油型乳化物を調製する工程。
工程(P4):水中油型乳化物を乾燥する工程。
【0034】
工程(P1)は、プロピレングリコール脂肪酸エステル(A)、食用油脂(C)を混合して油相部を調製する工程である。混合する手段は、特に制限されないが、プロペラ撹拌などの簡易的な撹拌機で撹拌することができる。また、温度条件は、特に制限されないが、例えば、10~90℃である。混合性が向上するという観点から、好ましくは40℃以上であり、より好ましくは50℃以上であり、更に好ましくは60℃以上である。
なお、工程(P1)において、油相部には、その他の油溶性の成分を適宜添加することができる。
【0035】
工程(P2)は、有機酸モノグリセリド(B)、糖質(D)、水を混合して水相部を調製する工程である。混合する手段は、特に制限されないが、プロペラ撹拌などの簡易的な撹拌機で撹拌することができる。また、温度条件は、特に制限されないが、例えば、10~90℃である。混合性が向上するという観点から、好ましくは40℃以上であり、より好ましくは50℃以上であり、更に好ましくは60℃以上である。
なお、工程(P2)において、水相部には、その他の水溶性の成分を適宜添加することができる。
【0036】
工程(P3)は、油相部と水相部を混合して水中油型乳化物を調製する工程である。例えば、水相部をプロペラ撹拌で撹拌しながら、油相部を添加することにより、水中油型乳化物を得ることができる。プロペラ撹拌により油相部と水相部を混合する際の温度は、特に制限されないが、好ましくは10~90℃である。混合性が向上するという観点から、好ましくは40℃以上であり、より好ましくは50℃以上であり、更に好ましくは60℃以上であり、特に好ましくは70℃以上である。また、上限値としては、好ましくは85℃以下であり、より好ましくは80℃以下である。
【0037】
油相部と水相部の質量の比は、特に制限されないが、例えば、油相部100質量部に対して、水相部30~300である。下限値として、好ましくは50以上であり、より好ましくは70以上であり、特に好ましくは90以上である。上限値として、好ましくは200以下であり、より好ましくは150以下であり、特に好ましくは110以下である。下限値を30以上とすることにより、良好な水中油型乳化物を得ることが可能となり、また、上限値を300以下とすることにより、乾燥のための時間を短縮化することができる。なお、使用する水の量は、フライバッター用粉末油脂の組成と、油相部と水相部の質量の比を勘案して、適宜決定すればよい。
【0038】
また、プロペラ撹拌により得られた水中油型乳化物を、更にホモジナイザーなどの乳化機により均質化することが好ましい。これにより、プロピレングリコール脂肪酸エステル(A)を含む食用油脂(C)の油滴が小さくなり、本発明の効果をより一層発揮することが可能となる。
【0039】
工程(P4)は、水中油型乳化物を乾燥する工程である。乾燥する方法としては、水分を除去できればどのような方法でもよく、例えば、噴霧乾燥法、真空凍結乾燥法などを用いることができる。
なお、真空凍結乾燥法により乾燥する場合には、得られた乾燥物を粉砕して粉末化することにより、本発明のフライバッター用粉末油脂を得ることができる。
粉末化する工程を省略できることや、粉末化の際に油滴を破壊するおそれなどを勘案すると、噴霧乾燥法により乾燥することが好ましい。
【0040】
噴霧乾燥法では、180~220℃程度の熱風下で、水中油型乳化物を噴霧して液滴とし、液滴が落下する間に、水分が除去されフライバッター用粉末油脂を得ることができる。
【0041】
[フライバッター液]
本発明におけるフライバッター液とは、本発明のフライバッター用粉末油脂を含有することを特徴とする。フライバッター液とは、小麦粉、水等を主原料とする液状物である。小麦粉は強力粉、準強力粉、中力粉、薄力粉、超薄力粉などを用いることができる。フライ食品の製造においては、フライバッター液は中種に付着させ、さらにその外側にパン粉を付着させて使用する、フライバッター液を最外部として使用する、あるいはフライバッター液を焼成したフライ食品用麺帯に使用する。
【0042】
フライバッター液における本発明のフライバッター用粉末油脂の含有量は、特に制限されないが、好ましくは1~40質量%であり、好ましくは3~7質量%である。1質量%以上の場合には本発明の効果をより発揮することができる。また、40質量%以下の場合には、バッター液の増粘を抑制し、フライ食品が硬い食感となることを抑制することができる。
【0043】
本発明のフライバッター用粉末油脂は、小麦粉100質量部に対して、1~20質量部含有することが好ましく、より好ましくは3~18質量部であり、更に好ましくは5~15質量部である。この範囲とすることにより、本発明の効果を十分に発揮できる。
【0044】
本発明のフライバッター液は、本発明のフライバッター用粉末油脂を含有すること以外は、常法により製造したものを用いることができる。
【0045】
[フライ食品]
本発明のフライ食品は、本発明のフライバッター用粉末油脂を含有することを特徴とする。本発明のフライバッター用粉末油脂を使用して製造するフライ食品としては特に限定されないが、例えば、コロッケ、とんかつ、メンチカツのようにフライバッター液の外側にパン粉を用いるもの、唐揚げ、天ぷらのようにフライバッター液が最外部となるもの、さらに春巻きのように、小麦粉を主原料とするフライバッター液をドラムや鉄板にて加熱して得られた皮で具材を包んだ後、油ちょう加熱するものが例示できる。
【0046】
本発明のフライ食品の製造方法は、具体的には、以下の工程(F1)~工程(F4)を備えることを特徴とする。
工程(F1):本発明のフライバッター用粉末油脂を準備する工程。
工程(F2):小麦粉、フライバッター用粉末油脂、水を混合してフライバッター液を得る工程。
工程(F3):中種の表面にフライバッター液を付着する、又は、フライバッター液を加熱して得られた皮で具材を包んで、未フライ食品を得る工程。
工程(F4):未フライ食品を油ちょう加熱する工程。
【0047】
工程(F1)は、本発明のフライバッター用粉末油脂を準備する工程である。本発明のフライバッター用粉末油脂については、上述したとおりであるため、説明を省略する。
【0048】
工程(F2)は、小麦粉、フライバッター用粉末油脂、水を混合してフライバッター液を得る工程である。混合方法は、一般的なフライバッター液を調製する方法により得ることができる。例えば、ホモミキサーやホバートミキサーにより小麦粉、フライバッター用粉末油脂、水を混合することができる。
なお、混合温度としては、30℃以下とすることが好ましい。
【0049】
工程(F3)は、中種の表面にフライバッター液を付着する、又は、フライバッター液を加熱して得られた皮で具材を包んで、未フライ食品を得る工程である。未フライ食品としては、例えば、コロッケ、とんかつ、メンチカツのようにフライバッター液の外側にパン粉を用いるもの、唐揚げ、天ぷらのようにフライバッター液が最外部となるもの、さらに春巻き、揚げ餃子、揚げしゅうまいのように、フライバッター液をドラムや鉄板にて加熱して得られた皮で具材を包むものなどが例示される。
【0050】
工程(F3)において、未フライ食品を冷凍する工程を備えていてもよい。本発明の未フライ食品は、本発明のフライバッター用粉末油脂を含有するため、フライバッター液を冷凍することにより生じるフライ食品の食感の低下を抑制することができる。
ここで、未フライ食品を冷凍する工程とは、未フライ食品を0℃以下の温度とすることである。例えば、-60~-40℃の急速冷凍庫にて0.5~2時間凍結することにより得られる。
未フライ食品を冷凍することにより得られた冷凍未フライ食品は、保存性に優れるという効果を奏する。
【0051】
工程(F4)は、未フライ食品を油ちょう加熱する工程である。油ちょう加熱の方法は、一般的なフライ食品の製造に利用する油ちょう加熱方法を使用することができる。冷凍未フライ食品を油ちょう加熱する場合には、冷凍状態のまま油ちょう加熱してもよいし、常温(0~30℃)に戻して解凍したのちに油ちょう加熱してもよい。
【実施例】
【0052】
以下に本発明の実施例を示し、本発明をより詳細に説明する。実施例中の配合量は質量基準である。
【0053】
[フライバッター用粉末油脂の製造]
(実施例1)
表1に示した配合にて、以下の方法により本発明のフライバッター用粉末油脂を製造した。すなわち、デキストリン(松谷化学工業(株)製:パインデックス#3)355.6g、ジアセチル酒石酸モノグリセリド(理研ビタミン(株)製:ポエムW-60)g、炭酸ナトリウム(ソーダアッシュジャパン(株)製:炭酸ナトリウム)4.4gを水1000gに配合し、70℃で加熱溶解して水相部を得た。さらにパーム油(日油(株)製:パーム油)500gにプロピレングリコールモノステアリン酸エステル(理研ビタミン(株)製:リケマールPS-100)100gを配合し、70℃で加熱溶解して油相部を得た。プロペラ攪拌をしながら水相部に油相部を投入し、乳化後、高圧ホモジナイザーを用いて均質化し、水中油型乳化物を得た。得られた水中油型乳化物をスプレードライヤー(L-8:大川原化工機株式会社)を用いて噴霧乾燥することで目的のフライバッター用粉末油脂を得た。
【0054】
(実施例2~12、比較例1~10)
実施例1に準じて、表1に示す配合で本発明のフライバッター用粉末油脂(実施例)を、比較例として表2に示す配合で本発明でないフライバッター用粉末油脂を得た。
【0055】
[フライバッター液の製造]
10℃の冷水63.8gに薄力粉33g、グアーガム0.2g、表1および表2に記載のフライバッター用粉末油脂(実施例1~12、比較例1~10)3gを配合し、ホモミキサーを用いて均一に混合し、バッター液とした。なおフライバッター液の製造においては、フライバッター液の温度が常に25℃未満になるように製造した。なお、参考例1はフライバッター用粉末油脂を配合しない点以外は同条件にてフライバッター液を製造した。
【0056】
実施例、比較例、および参考例においては、下記のように、とんかつを対象とし、フライ食品を製造し、食感及び風味の評価を行った。
【0057】
[フライ食品(とんかつ)の製造]
中種は市販の豚ロース肉を適当な大きさにカットしたものを使用した。パン粉は市販の生パン粉(8mm)を使用した。中種にフライバッター液を付け、パン粉をつけた後、180℃のフライ油で4分間フライした。フライした後、市販のフードパックにいれて密閉し、常温で5時間放置した。
【0058】
[冷凍未フライ食品(とんかつ)を用いたフライ食品の製造]
中種は市販の豚ロース肉を適当な大きさにカットしたものを使用した。パン粉は市販の生パン粉(8mm)を使用した。中種にフライバッター液を付け、パン粉をつけた後、急速冷凍(-40℃、2時間)して冷凍未フライ食品を得た。そして冷凍品(未フライ食品)を180℃のフライ油で5分間フライした。冷凍品をフライした後、市販のフードパックにいれて密閉し、常温で5時間放置した。
【0059】
[冷水への分散性の評価]
本発明のフライバッター用粉末油脂を用いたバッター液では、プロピレングリコール脂肪酸エステル(A)を含む食用油脂(C)をバッター液中に細かく均一に分散させることで本願の効果(フライ食品保管時の食感維持効果やフライ時間の短縮効果)が得られる。したがって、フライバッター用粉末油脂がバッター液に均一に分散されていないと、十分な効果が得られない。そこで、フライバッター用粉末油脂のバッター液への分散性を評価するため、フライバッター用粉末油脂を10℃の冷水に分散した際の油滴のメジアン径を下記の方法で評価した。
得られたフライバッター用粉末油脂を冷水に適当量分散し、レーザー回折散乱法(堀場製作所製 LA-950にて測定)によって冷水中の油滴の粒度分布を測定し、粒度分布からメジアン径を得た。
メジアン径を以下に示した×~◎で表し、その結果を表1、2の下部に記載する。
◎:0μm以上、3μm未満
○:3μm以上、10μm未満
△:10μm以上、30μm未満
×:30μm以上
【0060】
[食感の評価]
製造したフライ食品について、フライ直後及びフライ後フードパック(容器)内で5時間保管した後の食感を官能評価により評価した。官能評価は10名のパネラーにより行い、フライ食品の衣の部分のサクサク感、歯切れ感について以下に示した3点満点で評価を行い、10名の平均値を求めた。平均値を以下に示した×~◎で表し、その結果を表2、3の下部に記載する。
3点: サクサク感があり、歯切れ感が良好。
2点: サクサク感が弱く、歯切れ感が弱い。
1点: サクサク感がなくしんなりしていて、歯切れ感がなく後引き感がある。
<平均点>
◎:2.0以上、3.0以下
○:1.5以上、2.0未満
△:1.0より大きい、1.5未満
×:1.0
【0061】
[風味の評価]
本発明のフライバッター用粉末油脂で使用した乳化剤がフライ食品の風味に影響を与えているか、フライ直後の風味を官能評価により評価した。官能評価は10名のパネラーにより行い、フライ食品の衣の部分の風味について以下に示した3点満点で評価を行い、10名の平均値を求めた。平均値を以下に示した×~◎で表し、その結果を表1、2の下部に記載する。
3点: 乳化剤特有の苦みを感じず、良好な風味。
2点: 喉の奥でかすかに苦みを感じる。
1点: 苦みを感じる。
<平均点>
〇:2.5以上、3.0以下
△:1.5以上、2.5未満
×:1.5未満
【0062】
[フライ時間の評価]
本発明のフライバッター用粉末油脂がフライ時間に影響を与えているかを評価した。メンチカツの中心温度を測定し、中心温度が75℃に達した時間をフライ時間とした。
【0063】
【0064】
【0065】
表中に略記した原料の詳細は以下の通りである。
「薄力粉」(日清製粉(株)製:バイオレット)
「グアーガム」(三栄源エフ・エフ・アイ(株)製:ビストップD-20)
「ナタネ油」(日油(株)製:ナタネ油)
「パーム油」(日油(株)製:パーム油)
「デキストリン」(松谷化学工業(株)製:パインデックス#3)
「プロピレングリコールモノステアリン酸エステル」(理研ビタミン(株)製:リケマールPS-100)
「プロピレングリコールモノベヘン酸エステル」(理研ビタミン(株)製:リケマールPB-100)
「ジアセチル酒石酸モノグリセリド」(理研ビタミン(株)製:ポエムW-60)
「クエン酸モノグリセリド」(理研ビタミン(株)製:ポエムK-30)
「炭酸Na」(ソーダアッシュジャパン(株)製:炭酸ナトリウム)
「ジグリセリン飽和酸エステル」(理研ビタミン(株)製:ポエムDS-100A)
「モノグリセリン脂肪酸エステル」(理研ビタミン(株)製:エマルジーMS)
「カゼインNa」(フォンテラジャパン(株)製:SodiumCaseinate180)
【0066】
表1の実施例1~12から明らかなように、本発明におけるフライバッター用粉末油脂を使用することでフライ直後、フライ後容器内5時間後、冷凍品フライ直後、冷凍品フライ後容器内5時間後のいずれでも優れた効果を発揮した。また、フライバッター用粉末油脂を使用しない参考例1と比較して、実施例ではいずれもフライ時間が約1分短縮された。これに対して、比較例1ではプロピレングリコール脂肪酸エステルが配合されていないために、効果が得られなかった。比較例2ではプロピレングリコール脂肪酸エステルの配合量が20質量%よりも多いために、フライバッター用粉末油脂製造時の乳化が不安定となり、十分な分散性が得られず、効果が得られなかった。比較例3では、有機酸モノグリセリドが配合されていないために、フライバッター用粉末油脂製造時の乳化が不安定となり、十分な分散性が得られず、効果が得られなかった。比較例4では、有機酸モノグリセリドの配合量が10質量%よりも多いために、風味が著しく低下した。比較例5では、食用油脂の配合量が20質量%よりも少ないために、効果が得られなかった。比較例6では、食用油脂が80質量%よりも多いために、フライバッター用粉末油脂製造時の乳化が不安定となり、十分な分散性が得られず、効果が得られなかった。比較例7では、糖質が10質量%よりも少ないために、フライバッター用粉末油脂製造時の乳化が不安定となり、十分な分散性が得られず、効果が得られなかった。比較例8では、糖質が70質量%よりも多いために、他の成分が十分に配合できず、効果が得られなかった。比較例9では、プロピレングリコール脂肪酸エステルが配合されていないために、効果が得られなかった。比較例10では、糖質の代わりに乳たんぱくを用いたために、効果が得られなかった。参考例1では、フライバッター用粉末油脂を使用していないために、効果が得られなかった。