(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-08
(45)【発行日】2024-05-16
(54)【発明の名称】金属封止用ガラス及びこれを用いた金属封止用材料
(51)【国際特許分類】
C03C 8/10 20060101AFI20240509BHJP
C03C 8/16 20060101ALI20240509BHJP
C03C 8/24 20060101ALI20240509BHJP
【FI】
C03C8/10
C03C8/16
C03C8/24
(21)【出願番号】P 2019191151
(22)【出願日】2019-10-18
【審査請求日】2022-09-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000232243
【氏名又は名称】日本電気硝子株式会社
(72)【発明者】
【氏名】北村 嘉朗
【審査官】末松 佳記
(56)【参考文献】
【文献】特開平06-345485(JP,A)
【文献】国際公開第2011/142215(WO,A1)
【文献】特開平06-279069(JP,A)
【文献】特開2001-080934(JP,A)
【文献】特開昭59-064544(JP,A)
【文献】特開昭58-161943(JP,A)
【文献】特公昭49-031006(JP,B1)
【文献】特開平05-105477(JP,A)
【文献】特開昭61-005406(JP,A)
【文献】特開平06-135736(JP,A)
【文献】特開昭63-206330(JP,A)
【文献】特開平05-017179(JP,A)
【文献】I. W. DONALD,“Preparation, properties and chemistry of glass- and glass-ceramic-to-metal seals and coatings”,Journal of Materials Science,1993年01月01日,Vol. 28, No. 11,p.2841-2886,DOI: 10.1007/BF00354689
【文献】TAKESHI TAKAMORI et al.,“Role of Copper Ions in Low‐Melting Solder Glasses”,Journal of the American Ceramic Society,1976年07月,Vol. 59, No. 7-8,p.312-316,DOI: 10.1111/J.1151-2916.1976.TB10972.X
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03C 1/00 - 14/00
INTERGLAD
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス組成として、質量%で、PbO 50~75%、B
2O
3 5~30%、CuO 1~8%、SiO
2 0~25%、ZnO 0.1~
3.0%、Bi
2O
3 0.1%以下を含有することを特徴とする金属封止用ガラス。
【請求項2】
質量比PbO/CuOが、8~50であることを特徴とする請求項1に記載の金属封止用ガラス。
【請求項3】
質量比CuO/(B
2O
3+SiO
2)が、0.05~1.5であることを特徴とする請求項1又は2に記載の金属封止用ガラス。
【請求項4】
粉末形状であることを特徴とする請求項1~3の何れかに記載の金属封止用ガラス。
【請求項5】
軟化点が550℃以下であることを特徴とする請求項1~4の何れかに記載の金属封止用ガラス。
【請求項6】
金属封止用ガラスの粉末 60~100質量%と、セラミックス粉末 0~40質量%と、を含有する金属封止用材料であって、
該金属封止用ガラスが、請求項1~5の何れかに記載の金属封止用ガラスであることを特徴とする金属封止用材料。
【請求項7】
少なくとも金属封止用材料、有機溶媒、樹脂を含む金属封止用ペーストであって、
該金属封止用材料が、請求項6に記載の金属封止用材料であることを特徴とする金属封止用ペースト。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属封止用ガラス及びこれを用いた金属封止用材料に関する。
【背景技術】
【0002】
金属と非金属を封止、或いは金属同士を封止する際(以下、まとめて金属封止)には、従来からガラスが用いられている。
【0003】
例えば、金属製シース管の端部を封止するには、シース管の端部の窪みに、中央部に貫通孔を有する円柱状のプレスフリット(粉末状のガラスを所望の形状に焼き固めた焼結体)を設置し、この孔に素線を挿入し、450℃から700℃で加熱することで、プレスフリットが軟化流動して素線とシース管が一体化し、端部の気密性が保たれる。
【0004】
しかし、金属封止を高温で行うと、金属の表面が酸化され、電気特性や外観等で問題が生じるため、可能な限り低温で封止する必要がある。その一方で、低温で封止すると、前述の金属表面の酸化を回避できるものの、封止対象物である金属に対するガラスの濡れ性が低下してしまい、所望の封止強度を確保し難くなる。
【0005】
そこで、軟化点が550℃以下となるPbO-B2O3系ガラスを用いれば、これらの問題を回避することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
低軟化点のPbO-B2O3系ガラスを用いる場合、封止工程で加熱する際に、ガラスが金属に高温で接することで、ガラス中のPbイオンが還元して、Pb金属として析出し、結果として、このPb金属が導電因子となって、絶縁性が損なわれる場合がある。
【0008】
更に、析出する金属Pbは、周辺のガラス質と熱膨張係数が異なる。この膨張係数差により、封止後のガラス内表面にクラックが生じ易く、封止部分の機械的強度が低下する。
【0009】
また、封止工程後に高温で連続的に使用すると、ガラスと金属の界面で酸化還元反応が生じるため、ガラス中のPbイオンが還元して、Pb金属として析出する虞もある。
【0010】
特許文献1には、Bi2O3を多量に含む低軟化点のPbO-B2O3系ガラスが開示されている。このガラスは、ガラス中のPbイオンの還元抑制に一定の効果があるものの、ガラス中のBiイオンも同様に還元し易く、金属Biが析出するという問題があった。
【0011】
また、Bi2O3の導入原料である酸化ビスマスは、希少であるため、バッチコストを高騰させる虞がある。
【0012】
以上から、本発明の目的は、PbO-B2O3系ガラスにおいて、Bi2O3を多量に導入しなくても、封止工程で、Pbイオンの還元を抑制し得る金属封止用ガラス及びこれを用いた金属封止用材料を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者は、鋭意努力の結果、下記のようにガラス組成範囲を規制すれば、Bi2O3を含有しなくてもガラス中のPbイオンの還元を抑制し、金属Pbが析出しないことを見出し、本発明として提案するものである。すなわち、本発明の金属封止用ガラスは、ガラス組成として、質量%で、PbO 50~80%、B2O3 5~30%、CuO 1~18%、SiO2 0~25%を含有することを特徴とする。
【0014】
上記ガラスにおいて、Pbイオンの還元を抑制できるメカニズムの詳細は明確ではなく、鋭意調査中であるが、現時点では、ガラス中のイオンの価数バランスにより、CuイオンにはPbイオンの還元を抑制する効果があると推定している。しかも、Cuイオンはガラス中に安定してイオンの状態で留まることができると推定している。
【0015】
本発明の金属封止用ガラスは、PbO-B2O3系ガラスのPbイオンの還元を抑制し、金属Pbの析出を防ぐため、CuOを含有させることを特徴とする。
【0016】
具体的に説明すると、本発明の金属封止用ガラスは、軟化点を下げる成分であるPbO、ガラスのネットワークを構成するB2O3と共に、CuOをガラス成分として必須とすることで、金属と接触する状態で加熱、封止しても、ガラス中のCuイオンのPbイオンの還元抑止効果により、ガラス中にPb金属が析出することなく、Pbイオンの状態のままで安定して存在させることができる。結果として、封止部分の絶縁性と機械的強度を顕著に高めることが可能になる。
【0017】
また、本発明の金属封止用ガラスの質量比PbO/CuOは、4~50であることが好ましい。このようにすれば、軟化点を低くしつつ、ガラス中のイオンの価数のバランスを維持できる。これにより、ガラス中のPbイオンの還元、更には金属Pbの析出をより一層抑制することができる。なお、「PbO/CuO」は、PbOの含有量をCuOの含有量で除した値を指す。
【0018】
また、本発明の金属封止用ガラスの質量比CuO/(B2O3+SiO2)は、0.05~2であることが好ましい。このようにすれば、軟化点の上昇を抑えつつ、Cuイオンはガラス中で安定してイオンの状態で留まることができる。なお、「CuO/(B2O3+SiO2)」は、CuOの含有量をB2O3とSiO2の合量で除した値を指す。
【0019】
また、本発明の金属封止用ガラスのZnO含有量は、0.1~10質量%であることが好ましい。これにより、ガラス中のイオンの価数状態を調整でき、ガラス中のPbイオンやCuイオンの価数を安定化し易くなる。
【0020】
また、本発明の金属封止用ガラスは、粉末形状であることが好ましい。これにより、封止対象物である金属の形状に合わせる加工が容易になる。
【0021】
また、本発明の金属封止用ガラスは、軟化点が550℃以下であることが好ましい。これにより、低温封止が可能になり、金属の酸化を抑制し易くなり、またガラスの濡れ性を確保し易くなる。
【0022】
また、本発明の金属封止用材料は、金属封止用ガラスを60~100質量%、セラミックス粉末を0~40質量%から構成される複合粉末であることが好ましい。これにより、熱膨張係数の調整が可能になり、また機械的強度を高めることができる。
【0023】
また、本発明の金属封止用ガラス及びこれを用いた金属封止用材料は、焼結体であることが好ましい。これにより、ハンドリング性が向上し、封止対象物を位置ずれすることなく封止可能になるだけではなく、封止対象物との気密性が向上する。
【0024】
また、本発明の金属封止用ガラス及びこれを用いた金属封止用材料は、ペーストであることが好ましい。これにより、ディスペンサーでの塗布やスクリーンでの印刷等が可能となるため、封止効率が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】ガラス表面に金属Pbが析出しなかった試料表面の走査型電子顕微鏡写真である。
【
図2】ガラス表面に金属Pbが析出した試料表面の走査型電子顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明の金属封止用ガラスは、ガラス組成として、質量%で、PbO 50~80%、B2O3 5~30%、CuO 1~18%、SiO2 0~25%を含有することを特徴とする。本発明の金属封止用ガラスのガラス組成範囲を上記のように限定した理由を述べる。なお、以下の%表示は、特に断りがない限り、質量%であることを意味する。
【0027】
PbOは、軟化点を低下させる成分である。PbOの含有量は、50~80%、好ましくは55~75%、より好ましくは58~72%、更に好ましくは60~70%、特に好ましくは62~68%である。PbOの含有量が多くなると、金属封止を行う際に、ガラス中のPbイオンが還元され金属Pbとして析出し易くなる。一方、PbOの含有量が少なくなると、軟化点が高くなり、封止に必要な焼成温度が高くなる。結果として、封止対象物である金属に過大な負担がかかり、金属の変形や酸化等の問題が生じる。
【0028】
B2O3は、ガラスの骨格を形成することでガラス化範囲を大幅に広げる成分である。B2O3の含有量は、5~30%、好ましくは6~25%、より好ましくは7~20%、更に好ましくは8~18%、特に好ましくは10~15%である。B2O3の含有量が多くなると、軟化点が高くなり、封止に必要な焼成温度が高くなる。結果として、封止対象物である金属に過大な負担がかかり、金属の変形や酸化等の問題が生じる。また、耐酸性や耐候性が悪化する。一方、B2O3の含有量が少なくなると、ガラス化範囲が狭くなるとともに、ガラス化した場合であっても、金属を封止する際に失透(例えば、B2O3とPbOから構成される結晶物)が析出し、封止材料として強度が低下する。
【0029】
CuOは、ガラス中のPbイオンの還元を抑制し、金属Pbの析出を抑制する成分である。CuOの含有量は、1~18%、好ましくは2~15%、より好ましくは3~12%、更に好ましくは4~10%、特に好ましくは5~8である。CuOの含有量が多くなると、ガラスが不安定になり、失透(例えば、CuOを主成分とする結晶物やPbOを主成分とする結晶物)が析出し易くなる。一方、CuOの含有量が少なくなると、Pbイオンの還元を抑制する効果を享受し難くなる。
【0030】
質量比PbO/CuOを好適な範囲に規制すれば、軟化点を低くしつつ、ガラス中のPbイオンの還元の抑制、更には金属Pbの析出を抑制することができる。質量比PbO/CuOの下限は、好ましくは4以上、より好ましくは5以上、更に好ましくは8以上、特に好ましくは10以上であり、質量比PbO/CuOの上限は、好ましくは50以下、より好ましくは40以下、更に好ましくは30以下、特に好ましくは25以下である。質量比PbO/CuOが小さ過ぎると、ガラスが不安定になり失透ブツが析出し易くなる。一方、質量比PbO/CuOが大き過ぎると、ガラス中のPbイオンが還元され易くなり、金属Pbとして析出し易くなる。
【0031】
SiO2は、ガラスの骨格を形成することで、ガラスの硬度や耐酸性、耐候性を顕著に向上させる成分である。しかし、SiO2の含有量が多くなると、軟化点を大幅に上昇し、焼成温度が高くなる。結果として、封止対象物である金属に過大な負担がかかり、金属の変形や酸化等の問題が生じる。従って、SiO2の含有量は、0~25%、好ましくは1~20%、より好ましくは2~15%、更に好ましくは3~12%、特に好ましくは5~10%である。
【0032】
質量比CuO/(B2O3+SiO2)を好適な範囲に規制すれば、軟化点の上昇を抑えつつ、ガラス中のPbイオンの還元の抑制の副作用として、ガラス中のCuイオンが還元することを抑制することができる。質量比CuO/(B2O3+SiO2)の下限は、好ましくは0.05以上、より好ましくは0.06以上、更に好ましくは0.07以上、特に好ましくは0.1以上であり、質量比CuO/(B2O3+SiO2)の上限は、好ましくは2以下、より好ましくは1.5以下、更に好ましくは1.0以下、特に好ましくは0.5以下である。質量比CuO/(B2O3+SiO2)が小さ過ぎると、安定したガラスを得られるものの、軟化点が高くなる。一方、質量比CuO/(B2O3+SiO2)が大き過ぎると、ガラスが不安定になることで失透が析出し易くなるとともに、ガラス中のCuイオンが還元され易くなり、金属Cuが析出する虞がある。なお、「B2O3+SiO2」とは、B2O3とSiO2の合量である。
【0033】
上記成分以外にも、例えば、以下の成分をガラス組成中に導入してもよい。
【0034】
ZnOは、ガラスの骨格を形成する成分である。また、ガラス中の価数状態を調整する成分であるため、ガラス中のPbイオンやCuイオンの価数を安定化させる成分である。ZnOの含有量は、好ましくは0~10%、より好ましくは0.1~8%、更に好ましくは1~6%、特に好ましくは2~5%である。ZnOの含有量が多くなると、ZnOに起因する失透ブツが析出し易くなり、これにより、液相温度が上昇することで溶融コストが上がる。
【0035】
Al2O3は、ガラスの骨格を形成することで、ガラスの硬度や耐酸性、耐候性を向上させるが、軟化点を上昇させる成分である。従って、Al2O3の含有量は、好ましくは0~5%、より好ましくは0.2~3%、更に好ましくは0.5~4%、特に好ましくは1~3%である。
【0036】
CaO、SrO及びBaOは、ガラス化範囲を広げる成分であるが、軟化点を上昇させ、封止可能な温度範囲を狭める成分である。従って、CaO+SrO+BaOの含有量は、好ましくは0~10%、より好ましくは0.1~8%、更に好ましく0.5~5%である、特に好ましくは1~3%である。なお、「CaO+SrO+BaO」は、CaO、SrO及びBaOの合量である。
【0037】
CaOは、ガラス化範囲を広げる成分であるが、軟化点を上昇させ、封止可能な温度範囲を狭める成分である。従って、CaOの含有量は、好ましくは0~10%、より好ましくは0.1~8%、更に好ましく0.5~5%である、特に好ましくは1~3%である。
【0038】
SrOは、ガラス化範囲を広げる成分であるが、軟化点を上昇させ、封止可能な温度範囲を狭める成分である。従って、SrOの含有量は、好ましくは0~10%、より好ましくは0.1~8%、更に好ましく0.5~5%である、特に好ましくは1~3%である。
【0039】
BaOは、ガラス化範囲を広げる成分であるが、軟化点を上昇させ、封止可能な温度範囲を狭める成分である。従って、BaOの含有量は、好ましくは0~10%、より好ましくは0.1~8%、更に好ましく0.5~5%である、特に好ましくは1~3%である。
【0040】
Li2O、Na2O及びK2Oは、軟化点を低下させ、封止可能な温度範囲を広げる成分である。Li2O+Na2O+K2Oの含有量は、好ましくは0~10%、より好ましくは0~5%、更に好ましく0.1~3%、特に好ましくは0.5~2%である。Li2O+Na2O+K2Oの含有量が多くなると、耐候性や耐酸性が悪化する。なお、「Li2O+Na2O+K2O」は、Li2O、Na2O及びK2Oの合量である。
【0041】
Li2Oは、熱膨張係数を上昇させずに、軟化点を低下させ、封止可能な温度範囲を広げる成分である。Li2Oの含有量は、好ましくは0~10%、より好ましくは0~5%、更に好ましくは0.1~3%、特に好ましくは0.5~2%である。Li2Oの含有量が多過ぎると、耐候性や耐酸性が低下する。
【0042】
Na2Oは、軟化点を低下させ、封止可能な温度範囲を広げる成分である。Na2Oの含有量は、好ましくは0~10%、より好ましくは0~5%、更に好ましくは0.1~3%、特に好ましくは0.5~2%である。Na2Oの含有量が多過ぎると、耐候性や耐酸性が低下する。
【0043】
K2Oは、軟化点を低下させ、封止可能な温度範囲を広げる成分である。K2Oの含有量は、好ましくは0~10%、より好ましくは0~5%、更に好ましくは0.1~3%、特に好ましくは0.5~2%である。K2Oの含有量が多過ぎると、耐候性や耐酸性が低下する。
【0044】
P2O5は、ガラスを安定化させる成分であるが、耐候性を低下させる成分である。従って、P2O5の含有量は、好ましくは0~5%、より好ましくは0.1~3%、更に好ましくは0.2~2%、特に好ましくは0.5~1%である。
【0045】
Bi2O3は、軟化点を低下させる成分であるが、封止工程で還元し易い成分である。Bi2O3の含有量は、好ましくは5%以下、より好ましくは3%以下、更に好ましくは1%以下、特に好ましくは0.1%以下である。
【0046】
上記成分以外にも、任意成分として、他の成分を導入してもよい。なお、上記成分以外の他の成分の含有量は、本発明の効果を的確に享受する観点から、合量で、好ましくは10%以下、より好ましくは5%以下、更に好ましくは3%以下、特に好ましくは1%以下である。
【0047】
本発明の金属封止用ガラスの形態は、粉末であることが好ましい。つまりガラス粉末であることが好ましい。粉末形状であれば、目的、用途に合わせて、所望の形状に再加工することが容易になる。粉末の平均粒粒子径D50は、好ましくは0.5~20μm、より好ましくは1~15μm以下である。ここで、「平均粒子径D50」は、レーザー回折法で測定した値である。
【0048】
ガラスを粉末に加工するには、バルク状やフィルム状のガラスを、アルミナボールとともにアルミナ容器に投入し、ボールミル粉砕を行うのが一般的である。ボールミル粉砕での粉砕効率を高めるために、投入ガラスに対し0.01~0.5質量%のエタノール等の粉砕助剤を添加することが一般的であるが、この際、粉砕されるガラスの解放表面にエタノールが吸着する。このエタノールに含まれるカーボンは、ガラスを金属に封止する際に、還元剤となってガラス中のPbイオンを還元させる虞があるが、本発明の金属封止用ガラスでは、ガラス中にCuOを含有していることにより、効果的にPbイオンの還元を抑制することが可能である。
【0049】
本発明の金属封止用材料は、ガラス粉末をそのまま使用してもよく、ガラス粉末とセラミックス粉末からなる粉末の複合材としてもよい。本発明の金属封止用材料は、金属封止用ガラスの粉末 60~100質量%と、セラミックス粉末 0~40質量%と、を含有する金属封止用材料であって、該金属封止用ガラスが、上記の金属封止用ガラスであることが好ましい。
【0050】
金属封止用材料に占める金属封止用ガラス粉末の含有量は、好ましくは60~100質量%、より好ましくは70~95質量%、更に好ましくは75~90質量%、特に好ましくは80~85質量%である。ガラス粉末の割合が高くなると、金属との濡れ性が良くなり、封止部分が剥がれ難くなる。その一方で、機械的特性、例えば、外的衝撃等に対する強度が低下する虞がある。
【0051】
金属封止用材料に占めるセラミックス粉末の含有量は、好ましくは0~40質量%、より好ましくは5~30質量%、更に好ましくは10~25質量%、特に好ましくは15~20質量%である。セラミックス粉末の割合が高くなると、強度や硬度等の機械的特性が向上する。その一方で、金属との濡れ性が低下して、封止部分が剥がれ易くなる。
【0052】
セラミックス粉末は、コーディエライト、ウイレマイト、アルミナ、リン酸ジルコニウム、ジルコン、ジルコニア、酸化スズから選ばれる一種又は二種以上であることが好ましい。これらのセラミックス粉末は、熱膨張係数が低いことに加えて、機械的強度が高く、しかもPbO-B2O3系ガラス粉末との適合性が良好である。更に、上記のセラミックス粉末以外にも、複合材料の熱膨張係数の調整、流動性の調整及び機械的強度の改善のために、石英ガラス、β-ユークリプタイト等を添加することができる。このような複合材料であれば、ガラス粉末とセラミックス粉末を一体化して焼結体とした時に、封止対象物である金属との熱膨張係数の整合が可能になり、両者の熱収縮の差を小さくすることができる。その結果、ガラスと金属の界面でクラックが発生する虞が小さくなる。また、セラミックスがクラックの進展を阻止することにより、焼結体の機械的強度の向上が可能になる。
【0053】
本発明の金属封止用材料の軟化点は、好ましくは550℃以下、より好ましくは530℃以下、更に好ましくは520℃以下、特に好ましくは500℃以下である。金属封止用材料の軟化点が高くなると、封止可能な温度が高くなる。その結果、封止対象物である金属に過大な負担がかかり、金属の変形や酸化等の問題が生じ易くなる。
【0054】
本発明の金属封止用材料は、焼結体(プレスフリット又はタブレットとも呼ばれる)であることが好ましい。具体的な形状としては、例えば、リング状、円柱状、円板状、円筒状及び楕円でこれらに相当する形状等が挙げられる。このようにすれば、ハンドリング性が向上し、的確な位置に封止用材料を配置し得ると共に、封止対象物との気密性が向上する。また焼結体は、予め脱バインダーされているため、封止工程でカーボン残差が生じ難く、ガラス中のPbイオンを還元させ難いという効果を有する。
【0055】
また、本発明の金属封止用材料は、ビークル(有機溶媒、樹脂等から構成)と混錬されるペーストであることが好ましい。本発明の金属封止用材料は、ガラス粉末中のPbイオンが還元され難いため、封止工程で樹脂が分解する際に生じるカーボンが残存しても、金属Pbの析出を抑制し得るという効果を有する。
【0056】
有機溶媒としては、N、N’-ジメチルホルムアミド(DMF)、α-ターピネオール、高級アルコール、γ-ブチルラクトン(γ-BL)、テトラリン、ブチルカルビトールアセテート、酢酸エチル、酢酸イソアミル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ベンジルアルコール、トルエン、3-メトキシ-3-メチルブタノール、水、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル、トリプロピレングリコールモノブチルエーテル、プロピレンカーボネート、ジメチルスルホキシド(DMSO)、N-メチル-2-ピロリドン等が使用可能である。特に、α-ターピネオールは、高粘性であり、樹脂等の溶解性も良好であるため、好ましい。
【0057】
樹脂としては、アクリル酸エステル(アクリル樹脂)、エチルセルロース、ポリエチレングリコール誘導体、ニトロセルロース、ポリメチルスチレン、ポリエチレンカーボネート、メタクリル酸エステル等が使用可能である。特に、アクリル酸エステル、ニトロセルロースは、熱分解性が良好であるため、封止工程でPbイオンの還元の原因となる残存カーボンの発生が少ないので好ましい。
【0058】
ペーストとしての具体的な形態としては、金属封止用材料/ビークルの質量比を0.5~5に調整することが好ましい。これにより、ディスペンサー法やスクリーン印刷法に適するようになる。この結果、所望の封止パターンを形成し得るだけではなく、封止効率が向上する。
【0059】
封止対象物である金属に特に制限はないが、例として、鉄と鉄合金、ニッケル合金、銅と銅合金、アルミニウム、アルミニウム合金等が挙げられる。
【0060】
封止工程における焼成雰囲気は、金属の酸化を防止するため、酸素の少ない雰囲気、例えば、真空、大気の一部を窒素に置換したもの、大気の一部を希ガスに置換したもの等が好ましい。
【実施例】
【0061】
以下、本発明を実施例に基づいて詳細に説明する。
【0062】
表1、2は、本発明の実施例(試料No.1~9)と比較例(試料No.10~13)をそれぞれ示している。
【0063】
【0064】
【0065】
表1、2中の各試料は、次のようにして調製した。
【0066】
まず表に示すガラス組成になるようにガラス原料を調合し、白金ルツボを用いて1000℃で2時間溶融した後、得られた融液を水冷ローラーに流し込むことでガラスフィルムを作製し、更にらいかい機で粉砕し、200メッシュの篩で分級して、各測定に適した粉末試料を作製した。
【0067】
得られた粉末試料について、軟化点、ガラスの失透及び金属Pbの析出を評価した。それらの結果を表1、2に示す。
【0068】
軟化点は、マクロ型DTA装置により求めた。測定は、大気中において、昇温速度10℃/分で行い、室温から測定を開始した。得られたDTA曲線の第四変曲点を軟化点とした。
【0069】
ガラスの失透性と金属Pbの析出の確認は、以下の要領で行った。まず各粉末試料の密度分に相当する粉末を秤量し、金型に入れた後、圧力を加えることで乾式ボタンを作製した。次に、この乾式ボタンを板状のステンレス鋼SUS304に載置し、大気中において630℃で10分間焼成した。このようにして得られた焼成後のボタン表面を光学顕微鏡で観察し、失透の有無を確認した。
【0070】
次に、ステンレス鋼板から焼成後のボタンを剥がし、ステンレス鋼板と接していたボタン表面を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察し、ガラスからの析出物の有無を確認した。析出物が確認された場合、エネルギー分散型X線分光法(SEM-EDX)により析出物の同定を行った。
【0071】
なお
図1は、ガラス表面に金属Pb等の析出物が発現しなかった試料表面のSEM写真である。
図2は、ガラス表面に析出物が発現した試料表面のSEM写真であり、SEM-EDXによる同定の結果、写真中で白く明るい斑点は金属Pbであった。
【0072】
表1、2から明らかなように、試料No.1~9は、軟化点が530℃以下と低かった。また、ガラスの失透は認められず、ガラスからの金属Pbの析出も認められなかった。
【0073】
これに対し、試料No.10は、ガラス組成中のCuOの含有量が少ないため、金属Pbの析出が認められた。
【0074】
また、試料No.11、13は、ガラス組成中のCuOの含有量が過剰であるため、失透の析出が認められた。
【0075】
更に、試料No.12は、ガラス組成中のSiO2の含有量が過剰であるため、軟化点が580℃であった。
【0076】
以上から明らかなように、本発明の試料No.1~9は、ガラス中にCuOを所定量含有しているため、ガラスの失透及び金属Pbの析出がなく、金属封止材料として好ましいものであることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0077】
本発明の金属封止用ガラス及びこれを用いた金属封止用材料は、各種温度センサー、赤外線ヒーター、金属製真空二重容器等の金属が用いられる部材の封止に好適である。