(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-08
(45)【発行日】2024-05-16
(54)【発明の名称】高濃度亜鉛溶解液の製造方法及び高濃度亜鉛溶解液
(51)【国際特許分類】
C01G 9/00 20060101AFI20240509BHJP
C01G 9/02 20060101ALI20240509BHJP
C22B 3/12 20060101ALI20240509BHJP
C22B 19/20 20060101ALI20240509BHJP
【FI】
C01G9/00 Z
C01G9/02 Z
C22B3/12
C22B19/20 102
(21)【出願番号】P 2019193943
(22)【出願日】2019-10-25
【審査請求日】2022-07-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000174541
【氏名又は名称】堺化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001531
【氏名又は名称】弁理士法人タス・マイスター
(72)【発明者】
【氏名】辻田 寛
(72)【発明者】
【氏名】緒方 宏宣
(72)【発明者】
【氏名】小玉 翔一
(72)【発明者】
【氏名】菅波 正希
【審査官】▲高▼橋 真由
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/151454(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01G 9/00,9/02
C22B 3/12
C22B 19/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水、
13.0~15.6M 相当量のアルカリ金
属の水酸化物、及び、
3.0~3.9M 相当量の
酸化亜鉛
を混合する工程(1)、
工程(1)によって得られた混合物を120℃以上に加熱する工程(2)並びに
冷却後、水を添加して、亜鉛量が1.13~2.36Mであり、アルカリ
金属量が合計で4.21~8.66Mになるように調整する工程(3)
を有することを特徴とする
Zn(OH)
4
2-
が溶解している高濃度亜鉛溶解水溶液の製造方法。
【請求項2】
亜鉛量が1.13~2.36Mであり、アルカリ
金属量が合計で4.21~8.66Mであり、かつ下記の関係式(1)
0.2X≦A≦0.2777X-0.0808 (1)
(式中、Xは、アルカリ金
属の濃度(単位:M)を表し、Aは、亜鉛量(単位:M)を表す。)
を満た
し、
Zn(OH)
4
2-
が溶解していることを特徴とする高濃度亜鉛溶解水溶液。
【請求項3】
アルカリ
金属は、カリウム及び/又はナトリウムである請求項2記載の高濃度亜鉛溶解水溶液。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高濃度亜鉛溶解液の製造方法及び高濃度亜鉛溶解液に関する。
【背景技術】
【0002】
亜鉛めっきは、その防食能の高さから建築材、自動車部品、電子機器材料などの多岐に亘る分野で使用されている。近年の環境意識の向上により、猛毒のシアン化合物を使用するシアン浴を敬遠する動きがあり、シアン浴に代わるアルカリ浴としてジンケート浴や酸性浴として塩化亜鉛浴など種々の浴種が開発されてきた。塩化亜鉛浴は発生するガスにより機械設備等に腐食を引き起こし、また、めっき液中に含有する窒素化合物が多い事での処理費の増大や環境規制に問題があることから、ジンケート浴に注目が集まってきている。
【0003】
アルカリジンケート浴はシアンを含まず環境負荷が低いものの、アルカリを含まない塩化亜鉛浴めっきに比べてめっき速度が遅い欠点があった。このめっき速度を高めるためには、亜鉛イオン濃度を高濃度化することも解決策の一つとして考えられる。更に、電池分野においても亜鉛溶解液が使用されることがある。このような用途においてもより亜鉛濃度が高い亜鉛溶液が要請されている。
【0004】
しかし、亜鉛溶液の調製に際しては、亜鉛化合物を水と混合する方法で高濃度化することは困難であった。
一方、亜鉛は、両性金属として知られており、酸性や塩基性において高い溶解性を示すものである。したがって強い塩基性の溶液中では高い溶解能を示すものである。しかし、各種用途においては、塩基性成分が高い割合で存在すると、取扱い性の悪化、使用時の強塩基による製造設備の腐食等の問題を生じるおそれがある。
【0005】
特許文献1においては、高濃度の塩基性溶液中に亜鉛を溶解することで、高濃度の亜鉛が溶解した溶液を調製し、これを希釈することで、高濃度亜鉛溶液を調製することが記載されている。しかし、特許文献1の方法では、高濃度の塩基性化合物を使用する必要があり、上述した問題を生じてしまう。
【0006】
特許文献2は、亜鉛のアルカリ電解質溶液からの亜鉛の電解採取について開示している。ここで、高濃度の亜鉛溶液について記載がされている。しかし、ここで記載された亜鉛濃度よりもさらに高濃度の亜鉛溶液が要望されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】米国特許出願公開第2003/0057105号明細書
【文献】国際公開第1998/22641号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記事情に鑑み、高濃度で亜鉛を溶解した水溶液の製造方法及び高濃度で亜鉛を溶解した水溶液に関するものである。より具体的には、このような高濃度で溶解している一方で、これを溶解させるためのアルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属水酸化物の溶解量を低減した溶液の製造方法及びこのような性質を有する水溶液を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、
水、
13.0~15.6M 相当量のアルカリ金属の水酸化物、及び、
3.0~3.9M 相当量の酸化亜鉛
を混合する工程(1)、
120℃以上に加熱する工程(2)並びに
冷却後、水を添加して、亜鉛量が1.13~2.36Mであり、アルカリ金属量が合計で4.21~8.66Mになるように調整する工程(3)
を有することを特徴とするZn(OH)
4
2-
が溶解している高濃度亜鉛溶解水溶液の製造方法。
【0010】
本発明は、亜鉛量が1.13~2.36Mであり、アルカリ金属量が合計で4.21~8.66Mであり、かつ下記の関係式(1)
0.2X≦A≦0.2777X-0.0808
を満たすことを特徴とする高濃度亜鉛溶解水溶液でもある。
【0011】
上記アルカリ金属は、カリウム及び/又はナトリウムであることが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によって、低い塩基性成分量であって亜鉛塩溶解量が高い水溶液を得ることができる。このように、低い塩基性成分量で亜鉛塩溶解量が高い亜鉛塩溶液を使用すると、めっき速度を高め、めっき処理時間の短縮による製造工程の短縮の点で優れる。更に、電池分野における電解質としても優れた性能を有することが期待される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の関係式(1)を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明について具体的に説明する。
【0016】
本発明は、以下に示す亜鉛溶解水溶液の製造方法である。本発明の方法によって得られた亜鉛溶解水溶液は、低い塩基性成分量において、亜鉛の溶解量が大きい組成物を、安定に保存することができる。またその他の方法では溶解することができないような多量の亜鉛を水中に溶解させることができる。
【0017】
本発明の製造方法においては、まず、最初に、水、亜鉛金属基準で3.0~3.9Mの濃度となる亜鉛化合物及び金属イオン基準で13.0~15.6Mの濃度となるアルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属水酸化物と混合する。
この最初の工程におけるこれら3成分の混合は、すべての成分が水相に均一に溶解したものではなくてもよい。すなわち、室温においては、亜鉛化合物も金属水酸化物も上述した濃度は飽和溶解度を越えた濃度のものであることから、一部が不溶物として存在することもある。このような状態で、工程の途中の段階において不溶物が存在する状態があっても差し支えない。なお、不溶物が発生した場合、必要に応じて工程中で濾過する工程等を行ってもよい。
【0018】
亜鉛化合物としては特に限定されず、塩化物、硝酸塩、硫酸塩等のような無機酸塩や、また、ギ酸亜鉛や酢酸亜鉛のような有機酸塩を使用することもできる。これらのうち、酸化亜鉛、水酸化亜鉛を使用すると、対イオンが不純物として最終生成物に残存することがない点で特に好ましい。
【0019】
上記亜鉛化合物の使用量は、亜鉛金属基準で3.0~3.9M(すべての成分が溶解した場合の溶液基準)の濃度となることが好ましい。亜鉛化合物の使用量がこの範囲であると、塩基性成分量に対する亜鉛化合物の溶解量が高くなる点で好ましい。
上記下限は、3.2Mであることが好ましく、3.4Mであることが更に好ましい。上記上限は、3.9Mであることが好ましい。
【0020】
アルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属の水酸化物としては特に限定されないが、具体的には、水酸化カリウム又は/及び水酸化ナトリウムであることが好ましい。これらの金属水酸化物は強塩基性を有し、亜鉛を溶解させる能力が高いためである。これらの2種以上を混合して使用することもできる。最も好ましくは、水酸化カリウムを使用することができる。水酸化カリウムを使用することで最も効率的に上述した高濃度の亜鉛溶液を得ることができる。
【0021】
上記アルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属の水酸化物の使用量は、13.0~15.6M相当量(すべての成分が溶解した場合の溶液基準)となる量である。このような量で高濃度の亜鉛を溶解させることができる点で好ましい。上記下限は、13.5Mであることが好ましく、14.0Mであることが更に好ましい。上記上限は、15.5Mであることが好ましく、15.0Mであることが更に好ましい。
【0022】
本発明において使用する水は、特に限定されず、イオン交換水、超純水、水道水等の任意の水であってよい。使用用途にもよるが、高度の管理が必要とされるような分野で使用する場合は、不純物の含有量が少ないイオン交換水、超純水等を使用することが好ましい。
【0023】
その後、当該混合物を加熱する。加熱は120℃以上の温度とすることが必要であり、より好ましくは、130℃、更に好ましくは140℃以上、最も好ましくは150℃以上とすることが好ましい。水は、通常、沸点が100℃であるが、上述した溶液においては、高濃度で亜鉛化合物及び金属水酸化物が存在しているため、沸点上昇により、このような高温とすることができる。そして、120℃以上の高温とすることで、100℃未満の加熱のときよりも、少ないアルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属の量でも高濃度で亜鉛を溶解させることができるようになる。このため、本発明の高濃度亜鉛溶解液を容易に製造することができるのである。
上記加熱は、140~180℃で行うことが特に好ましい。
【0024】
上記加熱における加熱条件、方法等は特に限定されず、このような均一溶液が得られるような条件に設定すればよい。具体的には、ヒーターによる加熱やマイクロ波加熱、ソルボサーマル等の公知の方法によって行うことができる。好ましくはマイクロ波加熱である。マイクロ波によって加熱することにより、外部加熱方式の熱伝導に比べ化合物自体が発熱する内部加熱であるため、短時間に均一に加熱され、溶解速度が速くなるなど、より効率よく高濃度の溶液を得ることができる。加熱に際しては、上述した加熱温度において、より好ましくは、10分以上、更に好ましくは20分以上とすることが好ましい。
なお、上記加熱温度における保持時間は、一度に行う必要はなく、一定時間加熱した後、所定温度以下として、その後再度所定温度以上とするものであってもよい。
【0025】
このようにして得られた均一溶液を冷却し、水を添加して希釈する。水を添加する際の温度は、100℃未満であることが好ましく、80℃以下であることがより好ましく、60℃以下であることが更に好ましい。
これによって、本発明の高濃度亜鉛溶解水溶液を得ることができる。すなわち、上述した工程によって、一旦過飽和状態の高濃度の高温亜鉛溶解水溶液を調製した後、これを希釈により緩和する手法をとることで、安定な高濃度亜鉛溶解水溶液を得ることができるものである。過飽和状態の高濃度亜鉛溶解水溶液は、不安定な状態であり、亜鉛化合物が析出しやすい状態である。希釈することなく保管した場合、析出した結晶が核となり、更に析出を促進させ、本発明程の高濃度の溶液は得られない。
水を添加する際の温度は、40℃以上であることがより好ましい。これによって、溶質の析出をよりいっそう抑制することができる。
【0026】
本発明の高濃度亜鉛溶解水溶液の製造方法は、リチウム化合物、ケイ素化合物を添加する工程を有するものであってもよい。これらの化合物を含有する高濃度亜鉛溶解水溶液とする場合は、任意の工程において行うことができるものである。すなわち、アルカリ金属及び/アルカリ土類金属の水酸化物と亜鉛化合物とを混合する工程(1)において添加するものであってもよいし、その後の工程(2)工程(3)で添加するものであってもよいし、本発明の製造方法によって高濃度亜鉛溶解水溶液を得た後で添加するものであっても差し支えない。
【0027】
リチウム化合物、ケイ素化合物を少量含有するものとすることで、組成物の安定性が高まる点で好ましい。すなわち、高濃度の亜鉛溶解水溶液は、長時間保管することで、亜鉛化合物の沈殿を生じる場合がある。リチウム化合物、ケイ素化合物を添加することで、このような沈殿の生成を抑制することができる点で好ましいものである。
【0028】
上記リチウム化合物として具体的には、炭酸リチウム、水酸化リチウム、硫酸リチウム等を挙げることができる。
また、リチウム化合物の配合量としては、例えば、水溶液全量に対して0.13~0.64重量%とすることができる。
【0029】
上記ケイ素化合物としては、特に限定されるものではないが、ケイ酸カリウム、ケイ酸ナトリウム、ヘキサフルオロケイ酸等のように、水に溶解させることができるケイ素化合物を好適に使用することができる。
また、ケイ素化合物の配合量としては、例えば、水溶液全量に対して0.70~3.5重量%とすることができる。
【0030】
上述した方法で得られた高濃度亜鉛溶解水溶液は、必要に応じてその他の成分を混合して、めっき溶液や電池用の電解質溶液等の用途において使用することができる。
【0031】
本発明は、亜鉛を1.13M以上という高い割合で溶解した亜鉛溶解水溶液でもある。
更に、ここでのアルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属の溶解量は、4.21~8.66Mの範囲内である。このように、比較的低いアルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属の溶解量であっても、充分に高濃度に亜鉛を溶解させた溶液である。このような溶液は、上述した本発明の方法によって初めて製造が可能となったものである。
【0032】
本発明は、亜鉛量が1.13~2.36Mであり、アルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属量が合計で4.21~8.66Mであり、かつ下記の関係式(1)
0.2X≦A≦0.2777X-0.0808 (1)
(式中、Xは、アルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属の濃度(単位:M)を表し、Aは、亜鉛量(単位:M)を表す。)
を満たすことを特徴とする高濃度亜鉛溶解水溶液でもある。
【0033】
なお、高濃度亜鉛溶解水溶液にかかる本発明は、「亜鉛」及び「アルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属」の2つの成分が水性媒体中に溶解した状態のものであり、固体状態の金属が水中に分散しているものや、沈殿を形成しているものは包含しない。更に、溶解しているか否かは、目視によって沈殿や液中の分散粒子が存在していないかを確認することによって行うことができる。
なお、一部に、沈殿や分散粒子を生じている場合であっても、これらを除去した後の溶液中の濃度が上述した範囲内に含まれるものは、本発明に包含される。
【0034】
本発明において、アルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属としては特に限定されるものではないが、具体的には、水酸化カリウム又は/及び水酸化ナトリウムであることが好ましい。更には、水酸化カリウムであることが最も好ましい。これらの金属水酸化物は強塩基性を有し、亜鉛を溶解させる能力が高いためである。これらの混合物を使用することもできる。
【0035】
本発明において、亜鉛量及びアルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属の溶液中の濃度は、ICPによって金属元素の含有量を測定することによって得ることができる。したがって、亜鉛金属が水溶液中でどのような形態で存在しているかは重要ではない。金属水酸化物についても、金属水酸化物中の金属の測定によって得られた値を金属水酸化物の溶解量とする。
【0036】
本発明の高濃度亜鉛溶解水溶液は、亜鉛量の下限が1.13Mであることがより好ましい。1.13M以上であると、従来よりもより高濃度な亜鉛量となり、例えばめっき溶液として使用する場合に有用となる。
又、亜鉛量の上限が2.36Mであることがより好ましい。
【0037】
本発明の高濃度亜鉛溶解水溶液は、アルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属量の下限が4.21Mであることがより好ましい。4.21M以上であると、亜鉛を溶解させる能力が十分となり、高濃度の亜鉛塩溶液を得ることが出来る。下限は、5.53Mであることが更に好ましい。又、アルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属量の上限が8.66Mであることがより好ましい。8.66M以下であると、取扱い性の悪化や、使用時の強塩基による製造設備の腐食等を十分に抑えることが出来る。上限は、8.04Mであることが更に好ましい。
【0038】
本発明の高濃度亜鉛溶解水溶液においては、
0.2X≦A≦0.2777X-0.0808 (1)
(式中、Xは、アルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属の濃度(単位:M)を表し、Aは、亜鉛量(単位:M)を表す。)
の関係式を満たすことが必要である。
このような関係を満たすことが好ましいことは、本発明者によって実験を繰り返すことによって明らかになったことである。
0.2X≦Aであれば、低濃度のアルカリ量で、従来よりも高濃度な亜鉛塩溶液となり、例えばめっき溶液として使用する場合に有用となる。
A>0.2777X-0.0808であれば、溶質の析出を十分に抑えることができ、低濃度のアルカリ量で、従来よりも高濃度な亜鉛塩溶液を、安定に得ることができる。
【0039】
なお、上記一般式で示されるAの範囲は、
0.2077X≦A≦0.2777X-0.0808 (1-1)
であることがより好ましく、
0.2154X≦A≦0.2777X-0.0808 (1-2)
であることがさらに好ましい。
【0040】
上記特許文献1においては、
0.0099X2+0.1033X+0.004≧A
との関係式が示されている。
本発明者らは、検討を行うことによって、当該一般式よりもより亜鉛濃度を高めることについて検討を行い、その結果、より高濃度で亜鉛を含有する溶液を得ることに成功した。
【0041】
本発明者らは、高濃度亜鉛溶解水溶液において、より亜鉛が高濃度となる
0.0099X2+0.1033X+0.004<A
を満たす領域での検討を行った結果、
A≦0.2777X-0.0808
の条件を満たす範囲で溶液を調製することで、安定的に高濃度亜鉛溶解水溶液を得ることができることによって、本発明を完成したものである。
【0042】
図1として、本発明者が行った実験の結果を示す。
図1において、関係式(1)における二つの式を示し、この間に挟まれた領域が関係式(1)を満たす領域であることを表している。
図1においては、以下で示す各実施例における高濃度亜鉛溶解水溶液を点で示している。このような観点から、本明細書の実施例が上述した関係式(1)を満たすものであることが明らかである。
【0043】
上述した関係式(1)を満たす高濃度亜鉛溶解水溶液は、上記本発明の高濃度亜鉛溶解水溶液の製造方法で好適に得ることができるものである。
【0044】
本発明において、高濃度亜鉛溶解水溶液は、特定のアルカリ金属イオン又はアルカリ土類金属濃度に換算した亜鉛濃度を亜鉛濃度の指標とすることができる。すなわち、これらの金属は、電気伝導率が極大を示す濃度が存在することが知られている(例えば、Kであれば、6.5M)。このような電気伝導率が極大を示す濃度に換算した亜鉛の濃度は、1.3M以上であることが好ましく、1.35M以上であることがより好ましく、1.4M以上であることが最も好ましい。これによって、Znの析出速度を上昇させる事ができるという点で好ましいものである。また、より低いアルカリ濃度で高いZn濃度の溶液を得られていることを示している。
【0045】
上記「電気伝導率が極大を示す濃度に換算した亜鉛の濃度」について、アルカリ金属イオン又はアルカリ土類金属がカリウムである場合について、以下更に詳述する。
【0046】
本発明の高濃度亜鉛溶解水溶液は、カリウム元素6.5M当たりの亜鉛の濃度(以下、K 6.5M換算 Znともいう。)が、1.3M以上であることが好ましく、1.35M以上であることがより好ましく、1.4M以上であることが最も好ましい。なお、当該値が大きいということは、Kに対してZnの溶解割合が大きいことを意味しており、これによって、Znの析出速度を上昇させる事ができるという点で好ましいものである。また、より低いアルカリ濃度で高いZn濃度の溶液を得られていることを示している。
【0047】
本発明の亜鉛溶解水溶液は、更に、リチウム化合物、ケイ素化合物を含有するものであってもよい。これらの化合物を少量含有するものとすることで、組成物の安定性が高まるものである。すなわち、高濃度の亜鉛溶解水溶液は、長時間保管することで、亜鉛化合物の沈殿を生じる場合がある。リチウム化合物、ケイ素化合物を添加することで、このような沈殿の生成を抑制することができる点で好ましいものである。
【0048】
上記リチウム化合物として具体的には、炭酸リチウム、水酸化リチウム、硫酸リチウム等を挙げることができる。
また、リチウム化合物の配合量としては、例えば、水溶液全量に対して0.13~0.64重量%とすることができる。
【0049】
上記ケイ素化合物としては、特に限定されるものではないが、ケイ酸カリウム、ケイ酸ナトリウム、ヘキサフルオロケイ酸等のように、水に溶解させることができるケイ素化合物を好適に使用することができる。
また、ケイ素化合物の配合量としては、例えば、水溶液全量に対して0.70~3.5重量%とすることができる。
【0050】
本発明の高濃度亜鉛溶解水溶液は、上述した本発明の高濃度亜鉛溶解水溶液の製造方法によって製造することができる。
【実施例】
【0051】
以下に、実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこれらの実施例によって何ら限定されるものではない。以下の記載において特に限定なく、「%」とある場合は「重量%」を表す。
【0052】
(実施例1)
48重量%水酸化カリウム水溶液(木曽興業(株)製)140.2g、85重量%水酸化カリウム水溶液(富士フイルム和光純薬製)16.1g、酸化亜鉛(堺化学製、2種)24.4gを内容積300mlのPTFEビーカー(アズワン製)に入れ、マイクロ波加熱装置(吉井電気製、アビテラックスARE-177)内にセットした。尚、51.8重量%水酸化カリウム水溶液の比重は1.536g/mLである。比重は、20℃においてJIS K 0061の比重瓶法で測定した値である。
2分間照射を15回繰り返し液温が140℃になるように加熱した。その後、放冷し液温が50℃以下になった時点で、純水を120mL添加し、フィルター(メルク製、ミリポア SJHVM4710)を用いてろ過精製し、高濃度亜鉛溶解液を得た。得られたサンプル1mLを100mLメスフラスコに取り、蒸留水でメスアップした。この希釈されたサンプル1mLを100mLメスフラスコに取り、蒸留水でメスアップし総量を100mLとしたものを測定試料液としてICP測定に供した。ICP分析値を表1に示す。
【0053】
(実施例2)
実施例1の酸化亜鉛を26.0gへ、液温を160℃に変えた以外は実施例1と同様に行った。結果を表1に示す。
【0054】
(実施例3)
実施例2の酸化亜鉛を27.7gに変えた以外は実施例2と同様に行った。結果を表1に示す。
【0055】
(実施例4)
実施例2の酸化亜鉛を29.3gに変えた以外は実施例2と同様に行った。結果を表1に示す。
【0056】
(実施例5)
実施例2の酸化亜鉛を30.9gに変えた以外は実施例2と同様に行った。結果を表1に示す。
【0057】
(実施例6)
実施例2の酸化亜鉛を32.6gに変えた以外は実施例2と同様に行った。結果を表1に示す。
【0058】
(実施例7)
実施例1の酸化亜鉛を30.9gへ、液温を180℃に変えた以外は実施例1と同様に行った。結果を表1に示す。
【0059】
(実施例8)
実施例2の酸化亜鉛を30.9gへ、48重量%水酸化カリウムを140.2g、85重量%水酸化カリウムを9.0g、に変えた以外は実施例2と同様に行った。結果を表1に示す。尚、50重量%水酸化カリウム水溶液の比重は1.515g/mLである。
【0060】
(実施例9)
実施例8の48重量%水酸化カリウムを138.0gへ、85重量%水酸化カリウムを22.1g、に変えた以外は実施例8と同様に行った。結果を表1に示す。尚、53重量%水酸化カリウム水溶液の比重は1.550g/mLである。
【0061】
(実施例10)
実施例8の48重量%水酸化カリウムを136.5gへ、85重量%水酸化カリウムを29.1g、に変えた以外は実施例8と同様に行った。結果を表1に示す。尚、55重量%水酸化カリウム水溶液の比重は1.550g/mLである。
【0062】
(比較例1)
実施例1のマイクロ波加熱から5時間80℃でのオイルバス加熱へと変えた以外は実施例1と同様に行った。結果を表1に示す。
【0063】
(比較例2)
実施例1のマイクロ波加熱から12時間100℃でのオイルバス加熱へと変えた以外は実施例1と同様に行った。結果を表1に示す。
【0064】
(比較例3)
実施例1のマイクロ波装置による加熱を、2分間照射を15回繰り返し液温が100℃になるように加熱することに変えた以外は実施例1と同様に行った。結果を表1に示す。
【0065】
[評価]
ICP分析
誘導結合プラズマ発光分光分析(ICP)による、亜鉛溶解液中に含まれる亜鉛とカリウムの定量には、SII社製SPS3500を使用し、検量線法を用いた。結果を表1,2に示す。
【0066】
【0067】
【0068】
表中、「K 6.5M換算 Zn」は、各溶液について、Kが6.5Mとなるように換算した際の亜鉛濃度を表す値である。
Kは、6.5Mにおいて電気伝導率が極大値を示すものであることから、めっき溶液とした場合のめっき効率が良好となるという観点から、このような値でのZn濃度が高くなることが好ましい。したがって、このような換算を行ったZn濃度を各実施例の評価の指標とした。
【0069】
上記表1,2の結果から、本発明の高濃度亜鉛溶解水溶液は、少ないカリウム金属量で高い亜鉛溶解能を得ることができた。また、各実施例の高濃度亜鉛溶解水溶液について、カリウム金属量及び亜鉛金属量をプロットした結果を
図1に示す。
図1より、各実施例の高濃度亜鉛溶解溶液は、関係式(1)、アルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属の水酸化物、及び、亜鉛化合物のそれぞれの範囲において所定の範囲のものであることが明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明の高濃度亜鉛溶解水溶液は、めっき溶液、電池用の溶液として好適に使用することができる。